(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】アバットメント締結用ネジ、及び歯科用インプラント
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
(21)【出願番号】P 2020027222
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】利根川 明宏
(72)【発明者】
【氏名】福永 聖子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 隆晴
(72)【発明者】
【氏名】高田 光明
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-148558(JP,A)
【文献】特開2017-056086(JP,A)
【文献】特開2012-016529(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2012-0007426(KR,U)
【文献】特開2017-047089(JP,A)
【文献】特表2019-520944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工歯根とアバットメントとを締結するアバットメント締結用ネジであって、
ネジ部、頭部、及び前記ネジ部と前記頭部とを連結するネジのない部位である胴部を有し、
前記胴部には、その外周を周方向に延び、前記ネジ部のネジの谷径よりも直径が
5%以上15%以下の範囲で大きい溝が形成されて
おり、
前記溝の底に形成される入隅部のそれぞれには、前記頭部に近い側で半径R
M
の丸み、前記ネジ部に近い側で半径R
B
の丸みが設けられており、前記R
B
が前記R
M
より大きい、
アバットメント締結用ネジ。
【請求項2】
前記溝のうち、
前記R
M
が、半径0.1mm以下、及び/又は、前記ネジ部の谷部における丸みよりも小さい、請求項1に記載のアバットメント締結用ネジ。
【請求項3】
内側にメネジが形成された筒状の人工歯根と、
一端が前記人工歯根の内側に挿入される筒状のアバットメントと、
前記アバットメントの内側を貫通して前記人工歯根の前記メネジに前記ネジ部が螺合する請求項1又は2に記載のアバットメント締結用ネジと、を備える、
歯科用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用インプラントを構成する一つの部材であるアバットメント締結用ネジ、及びこのネジを用いた歯科用インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年において歯を全顎的又は部分的に喪失した場合の治療手段として、機能性、審美性、操作性等の多くの点で利点を有する歯科用インプラント治療が広く普及している。
【0003】
図7に従来の歯科用インプラント100の図を表した。
図7(a)は外観正面図、
図7(b)は断面図である。
これら図からわかるように、歯科用インプラント100は、歯を喪失した部分の顎骨(歯槽骨)に埋入して該歯槽骨に結合する人工歯根101(フィクスチャー、インプラント体等と呼ばれることもある。)、人工歯根101の一端に取り付けられ、口腔内側に突出するアバットメント102(支台と呼ばれることもある。)、及びアバットメント102に取り付けて保持される歯牙を模擬した歯科補綴物(不図示)を備えている。すなわち、アバットメント102は人工歯根101と歯科補綴物とを連結する部材として機能する。そしてアバットメント102は
図7(b)に表れているように、人工歯根101に対して、アバットメント締結用ネジ103で連結されている。
【0004】
上記のように構成された歯科用インプラントは、例えば
図7(a)に矢印Fで示したように、歯科補綴物を介してアバットメント102に対して側方から咬合力が加わった時に、その力が人工歯根101やアバットメント締結用ネジ103に伝わる。すると、これら各部材には相当の負荷かかり、所定の部位に応力が集中することがある。特にアバットメント締結用ネジ103については、この応力集中により
図7(c)に示したように人工歯根101のネジ穴に挿入されているネジ部103aで、アバットメント締結用ネジ103が切断してしまうことがあった。この部位でアバットメント締結用ネジ103が切断してしまうと、人工歯根101内に残ってしまったネジ部分を取り出すために非常に大きな手間がかかる。
【0005】
これに対して特許文献1には、ネジ部、頭、及びネジ部と頭とを連結するネジのない部位である胴部を有し、胴部にその外周を周方向に延びるネジ部のネジ溝よりも深い溝が形成されている、アバットメント締結用ネジが開示されている。これによれば、例えば誤った力加減によりアバットメント締結用ネジが切断してしまった場合であっても、胴部分も人工歯根の中に残り、取り出しやすい構造であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような構成のアバットメント締結用ネジであっても、アバットメント締結用ネジ全体としての強さと、上記問題のようにネジ部で切断が発生してしまうことを抑制することと、のバランスが必ずしも十分とは言えなかった。
【0008】
そこで本発明は、上記問題に鑑み、強度を確保しつつ、切断されてしまった場合であっても、切断された部分を容易に回収することができるアバットメント締結用ネジを提供することを課題とする。また、このネジを用いた歯科用インプラントを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの形態は、人工歯根とアバットメントとを締結するアバットメント締結用ネジであって、ネジ部、頭部、及びネジ部と頭部とを連結するネジのない部位である胴部を有し、胴部には、その外周を周方向に延び、ネジ部のネジの谷径よりも直径が大きい溝が形成されている、アバットメント締結用ネジである。
【0010】
溝のうち、頭部側の入隅の角における丸みが、半径0.1mm以下、及び/又は、ネジ部の谷部における丸みよりも小さくなるように構成してもよい。
【0011】
また、内側にメネジが形成された筒状の人工歯根と、一端が人工歯根の内側に挿入される筒状のアバットメントと、アバットメントの内側を貫通して人工歯根のメネジにネジ部が螺合する上記したアバットメント締結用ネジと、を備える、歯科用インプラントを提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アバットメント締結用ネジとして強度を確保しつつも、切断されてしまう場合にはネジ部でなく胴部に設けられた溝により切断が生じるため、人工歯根に残った部分を容易に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】歯科用インプラント10の分解斜視図である。
【
図3】アバットメント締結用ネジ13の正面図である。
【
図4】
図3のうち、アバットメント締結用ネジ13の溝13dの部分を拡大した図である。
【
図5】応力値を得るための方法を説明する図である。
【
図6】歯科用インプラント締結用ネジ13が切断した場面を説明する図である。
【
図7】
図7(a)は従来の歯科用インプラントの正面図、
図7(b)は従来の歯科用インプラントの断面図、
図7(c)は切断した状態を示す歯科用インプラントの断面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は1つの形態に係る歯科用インプラント10の分解斜視図、
図2は歯科用インプラント10の断面図である。
図2では見易さのため、アバットメント12のみ断面にハッチングを付して表した。
図1、
図2からわかるように歯科用インプラント10は、人工歯根11、アバットメント12、及び、アバットメント締結用ネジ13を備えている。さらにアバットメントには不図示の歯科補綴物が取り付けられている。歯科補綴物は、例えば人工歯冠のように歯列の欠損部を実質的に補う部材であり、歯牙を模した形状を有しており、歯牙の形状及び質感が再現されている。このような歯科補綴物には公知のものを用いることができる。
【0015】
人工歯根11は、フィクスチャー又はインプラント体とも呼ばれ、歯を喪失した部分の歯槽骨に埋入されて歯科用インプラント10の全体を口腔内に適切に固定するための基礎となる部材である。ここでは公知の人工歯根11を用いることができる。
図2からわかるように、人工歯根11は、筒状であり、その外側には顎骨に係合するための螺状溝11aが設けられている。一方、人工歯根11の筒状の内側には、アバットメント締結用ネジ13が螺合するメネジ11bが形成されている。
【0016】
アバットメント12は、その顎骨側(
図1、
図2では下端側)を人工歯根11の筒状の内側に配置され、その口腔内側(
図1、
図2では上端側)には人工歯冠等の歯科補綴物が取り付けられる。すなわち、アバットメント12は人工歯根11と歯科補綴物とを連結する部材として機能する。
【0017】
アバットメント12は円筒に近い筒状体であり、その内側にはアバットメント締結用ネジ13が挿入できるように構成されている。より詳しくは、アバットメント12のうち人工歯根11の内側に挿入される端部はその外形及び内形とも細くなるように挿入部12aが形成されている。そして挿入部12aには、
図1に表れているように、その外周部に、人工歯根11の内側の形態に係合してアバットメント12が軸線中心に回転することを防ぐ、回り止め12bが設けられている。
またアバットメント12の筒状の内側では挿入部12aにおいて狭くされており、ここはアバットメント締結用ネジ13のうちネジ部13a及び胴部13bは貫通することができるが、頭部13cは貫通することができない大きさとされている。これにより頭部13cがアバットメント12の内側に引っ掛かり、人工歯根11とアバットメント12とが強固に締結される。
【0018】
アバットメント締結用ネジ13は、
図2によく表れているように、人工歯根11とアバットメント12とを締結するネジである。
図3にアバットメント締結用ネジ13の正面図を表した。
図1乃至
図3よりわかるように、アバットメント締結用ネジ13は、ネジ部13a、胴部13b、及び頭部13cを有して構成されている。そして胴部13bには、その周方向に延びる溝13dが設けられている。ここで、当該溝13d以外の部位は、公知のアバットメント締結用ネジと同じ構成にすることができる。
【0019】
ネジ部13aは、人工歯根11の内側に形成されたメネジに螺合するオネジが形成された部位である。
胴部13bは、頭部13cとネジ部13aとを連結するネジのない部位で、円柱状であり、ネジ部13aの外径(ネジの山径)と概ね同じ直径である。
頭部13cは、ネジ部13a及び胴部13bよりも太く形成され、工具等によりアバットメント締結用ネジ13を軸線周りに回転させる操作部として機能する部位である。また、
図2からわかるように、頭部13cと胴部13bとの直径の差を利用してアバットメント12の挿入部12aに頭部13cを係止させることで、アバットメント12と人工歯根11とを締結している。
【0020】
溝13dは胴部13bに形成され、該胴部13bの外周を周方向に延びる溝である。当該溝13dは胴部13bの外周を周方向に一周することが好ましい。
【0021】
溝13dは次のように構成されていることが好ましい。
図4には、
図3のうち溝13d及びその周辺に注目して拡大した図を示した。
図3、
図4にD
Mで示した溝13dを有する部分の直径は、
図3にD
Tで示したネジ部13aの谷径よりも大きくなるように構成されている。すなわちD
M>D
Tである。その中でも、D
MはD
Tに対して5%以上15%以下の範囲で大きいことが好ましい。これによりさらに、アバットメント締結用ネジ13として強度(切断し難いこと)と、切断が生じる場合であっても溝13dがネジ部13aに先んじて切断されることと、をバランスよく実現することができる。
また、
図4にR
Mで示した、溝13dのうち頭部13c側における入隅部の角R(コーナーアール、まるみの半径)は、小さくすることが好ましく、具体的には
図3にR
Tで示したネジ部13aの谷部における角Rよりも小さい、又は、0mm以上0.1mm以下とすることが好ましい。
図4にAで示した溝13dの幅(アバットメント締結用ネジ13の軸線方向に平行な方向の大きさ)は0.3mm以上1.0mm以下が好ましい。
図4にR
Bで示した、溝13dのうちネジ部13a側の角RはR
Mよりも大きい、及び/又は、0.03mmより大きいことが好ましい。また、
図4にCで示した溝13dと頭部13cとの距離は0mm以上0.8mm以下であることが好ましい。
【0022】
以上のように構成されたアバットメント締結用ネジ13によれば、咬合等により負荷がかかった場合であっても、ネジ部13aの谷部に生じる応力集中による最大の応力値(引張応力)を、溝13dのうち頭部13c側における入隅部に生じる応力集中による応力値(引張応力)よりも小さくすることができ、ネジ部13aで切断が生じることを抑制することができる。
【0023】
また、このことは、アバットメント締結用ネジ13に生じる応力集中をネジ部13aと溝13dとに分散することができることを意味し、アバットメント締結用ネジ13の全体としての強度(切断に対して抵抗する力)を向上させることができる。かかる観点から、ネジ部13aの谷部における最大の応力値が、溝部における最大の応力値よりも小さいことに加え、溝部における最大の応力値が、ネジ部13aの谷部における最大の応力値に対して100%より大きく150%以下であることが好ましい。
【0024】
このような応力値の評価は公知の方法により行うことができる。例えば
図5に断面図で示したように、人工歯根11を土台にねじ込み、人工歯根11にアバットメント12をアバットメント締結用ネジ13で締結した状態で、アバットメント締結用ネジ13が斜めになるように配置し、直線矢印で示したようにアバットメント12の上端部を鉛直方向に押圧するように力を加えるモデルによる応力解析シミュレーションで評価することができる。
【0025】
また、上記のような咬合力を想定した側方からの力に対する強度の他、アバットメント締結用ネジ13の軸中心回転力に対する強度も向上させることができる。すなわち、アバットメント締結用ネジ13により人工歯根11とアバットメント12を連結するに際してアバットメント締結用ネジ13に対して軸を中心にした回転力を加えてねじ込むが、この回転力が大きい場合、アバットメント締結用ネジ13がねじ切れてしまう虞がある。これに対して本形態のアバットメント締結用ネジ13によれば、この回転力に対する強度も高めることができる。
【0026】
アバットメント締結用ネジ13を構成する材料は公知のものを用いることができる。典型的にはチタン、又は、その合金が挙げられる。
【0027】
以上のような歯科用インプラント10は、例えば次のように組み上げられる。
顎骨に埋設された人工歯根11に対して、
図2に表れているようにアバットメント12の挿入部12aを人工歯根11の内側に挿入する。そして、アバットメント締結用ネジ13をネジ部13aが人工歯根11側を向くようにしてアバットメント12に挿入し、工具で頭部13cを回転操作することにより人工歯根11の内側に形成されたメネジ11bにアバットメント締結用ネジ13のネジ部13aに形成されたオネジを螺合させる。このとき、アバットメント締結用ネジ13の頭部13cがアバットメント12の挿入部12aの段差に引っ掛かり、アバットメント12と人工歯根11とが締結される。
そして、アバットメント12のうち人工歯根11と締結された側とは反対側の端部に歯科補綴物を装着する。
【0028】
図2のように歯科用インプラント10が組み上げられ、口腔内に配置された後において、咬合力等による力がかかった場合に、当該咬合力によりアバットメント締結用ネジ13が切断されることがあっても、
図6のように切断されるため、残った部分の除去は比較的容易である。
またこれについても、本形態によれば、このような咬合力に対するアバットメント締結用ネジ13の強度も高めることができるため、このような切断が起こり難くなる。
【符号の説明】
【0029】
10 歯科用インプラント
11 人工歯根
12 アバットメント
13 アバットメント締結用ネジ
13a ネジ部
13b 胴部
13c 頭部
13d 溝