(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】スロットライナ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
H02K3/34 C
(21)【出願番号】P 2020034903
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】徳永 理子
(72)【発明者】
【氏名】木原 靖之
(72)【発明者】
【氏名】藤木 淳
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-129658(JP,A)
【文献】特開2014-168330(JP,A)
【文献】特開2019-071699(JP,A)
【文献】特開2019-140768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00- 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁シート体の表面に接着剤層が積層された積層シートで構成され、
回転電機のステータコアに設けられたスロット溝の内壁面と、該スロット溝に収容されているコイルとの間に介装されて用いられるスロットライナであって、
前記スロット溝の内壁面に当接される一方面と前記コイルに当接される他方面とのそれぞれに前記接着剤層が配されており、
前記積層シートが折り重ねられて折目が形成され、
前記スロット溝の一端縁側に第1折目を備え、前記スロット溝の他端縁側に第2折目を備えており、
前記第1折目から前記第2折目までを構成す
る第1領域と、前記第1折目を介して前記第1領域と隣り合
う第2領域と、前記第2折目を介して前記第1領域と隣り合う第3領域とを備え、
前記第1領域から前記第3領域までが重ね合わされた3重構造の重畳部を有し、
該重畳部が前記スロット溝の内壁面と前記コイルとの間に介装されるように配されている
スロットライナ。
【請求項2】
折り重ねる前の状態において、前記スロット溝の内壁面と前記コイルとの間に介装されたときに、前記スロット溝の両端よりも外側に突出するような長さを有する
請求項1に記載のスロットライナ。
【請求項3】
前記絶縁シート体の一方の表面のみに接着剤層が積層されている
請求項1または2に記載のスロットライナ。
【請求項4】
前記接着剤層は、樹脂と、該樹脂に分散された発泡剤とを含む
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスロットライナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットライナに関する。より詳しくは、本発明は、接着剤層を備えたスロットライナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータやジェネレータなどの回転電機は、エナメルワニスなどど呼ばれる樹脂組成物で細い銅線に絶縁被覆が施されたエナメル線(巻線)を長円形状に巻き束ねたコイルを有している。
そして、モータにおいては、前記コイルによって発生された磁界が回転動力とされ、また、ジェネレータにおいては、磁界の変化が前記コイルによって起電力へと変換されている。
【0003】
上記のような回転電機において、前記コイルは、例えば、互いに接続された複数のセグメント導体によって構成されており、通常、ステータコアやロータコアと呼ばれる磁性鋼板が積層されて形成された部材に装着されて用いられている。
【0004】
また、上記のような回転電機は、ステータコアやロータコアなどのコアが複数のスロット溝を有しており、前記複数のスロット溝それぞれには、前記コイルが収容されている。
この種の回転電機では、前記コイルと前記スロット溝の内壁面との間の絶縁性を確保するためのスロットライナが、前記コイルとともに前記スロット溝内のそれぞれに収容されている。より詳しくは、前記スロットライナは、前記コイルに周回された状態で前記スロット溝内に収容されている。
【0005】
このようなスロットライナとして、下記特許文献1には、基材の両面に接着剤層を備えたスロットライナが開示されている。特許文献1に記載のスロットライナの接着剤層は、熱硬化性樹脂と発泡剤とを含んでいる。
【0006】
特許文献1に記載のスロットライナでは、基材両面の接着剤層が上記のように構成されているので、例えば、ステータコアの誘導加熱やコイルを形成している導線(セグメント導体)への通電による温度上昇に伴って発泡剤が発泡することにより基材両面の接着剤層がそれぞれ膨張して、一方の接着剤層が前記スロット溝の内壁面(すなわち、コア)と当接し、他方の接着剤層が前記コイルと当接するようになる。その後、熱硬化性樹脂が硬化することにより、前記コイルは前記スロット溝内に固定されて収容される。
そのため、例えば、回転電機に振動が生じた場合でも、前記コイルが前記スロット溝から抜けることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、コイル形成前のセグメント導体は、スロット溝の内周面に沿った筒状となるようにスロット溝内にスロットライナを配した後、この筒状のスロットライナの内部に収容される。
そのため、筒状のスロットライナの内部へのセグメント導体の収容時に、スロットライナの内表面(すなわち、他方の接着剤層)とセグメント導体との間の引っ掛かりを抑制するために、スロットライナの内表面とセグメント導体との間にある程度の隙間を設けておく必要があり、筒状のスロットの内部に収容した後に上記のある程度の隙間を埋めるためには、接着剤層に含ませる発泡剤の量を多くして、接着剤層を大きく発泡させる必要がある。
【0009】
しかしながら、接着剤層を大きく発泡させると、接着剤層中に多くの空隙が形成されるようになるので、接着剤層のバルク強度が低下することにより、接着剤層の接着力が低下することが懸念される。
【0010】
そのため、接着剤層の接着力の低下を抑制することができるスロットライナが望まれている。
【0011】
そこで、本発明は、接着剤層の接着力の低下を抑制することができるスロットライナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るスロットライナは、
絶縁シート体の表面に接着剤層が積層された積層シートで構成され、
回転電機のステータコアに設けられたスロット溝の内壁面と、該スロット溝に収容されているコイルとの間に介装されて用いられるスロットライナであって、
前記スロット溝の内壁面に当接される一方面と前記コイルに当接される他方面とのそれぞれに前記接着剤層が配されており、
前記積層シートが折り重ねられて折目が形成され、該折目を介して隣り合う前記積層シートの第1領域と第2領域とが重ね合わされた重畳部を備えており、該重畳部が前記スロット溝の内壁面と前記コイルとの間に介装されるように配されている。
【0013】
斯かる構成によれば、前記積層シートが折り重ねられた状態で、前記スロット溝の内壁面と前記コイルとの間に介装されるので、前記スロット溝内において、前記積層シートには折り重ねられる前の状態に戻ろうとする力(折り重ね方向とは逆向きの力)が生じるようになる。すなわち、折り重ねられた前記積層シートにはスプリングバック機能が生じるようになる。
そのため、折り重ねられた状態の前記積層シートは、このスプリングバック機能によって折り重ね方向とは逆方向に膨らむようになるので、前記接着剤層が発泡剤を含まない場合であっても、折り重ね方向とは逆向きに膨らんだ一方面を前記スロット溝の内壁面(すなわち、コア)に当接させることができ、他方面を前記コイルに当接させることができる。
そして、前記接着剤層が発泡剤を含まない場合には、前記接着剤層を発泡させる必要がないため、バルク強度が低下することにより、接着剤層の接着力が低下することを抑制できる。
【0014】
前記スロットライナにおいては、
前記折目が前記スロット溝の外側に向くように配されていることが好ましい。
【0015】
斯かる構成によれば、前記スロット溝内に前記スロットライナを筒状に配した状態において、前記コイルを前記スロット溝内に挿入するときに、スプリングバック機能によって前記スロットライナの膨らんだ部分に前記コイルが引っ掛かって、前記コイルが挿入されにくくなることを抑制することができる。
【0016】
前記スロットライナにおいては、
折り重ねる前の状態において、前記スロット溝の内壁面と前記コイルとの間に介装されたときに、前記スロット溝の両端よりも外側に突出するような長さを有し、
前記スロット溝の一端縁側に第1折目を備え、前記スロット溝の他端縁側に第2折目を備えており、
前記第1折目から前記第2折目までを構成する前記第1領域と、前記第1折目を介して前記第1領域と隣り合う前記第2領域と、前記第2折目を介して前記第1領域と隣り合う第3領域とを備え、
前記第1領域と前記第2領域とが重ね合わされた第1重畳部と、前記第1領域と前記第3領域とが重ね合わされた第2重畳部とを有することが好ましい。
【0017】
斯かる構成によれば、前記第1領域と前記第2領域とが重ね合わされた第1重畳部、及び、前記第1領域と前記第2領域とが重ね合わされた第2重畳部が、折り重ねた状態の前記積層シートのより中央近くに位置するようになる。
一般に、折目を介して折り重ねられた部分では、前記折目から離れた位置ほど折り重ねられた部分同士の浮き上がりが大きくなるため、上記のように、前記第1重畳部及び前記第2重畳部が、折り重ねた状態の前記積層シートのより中央近くに位置する場合には、前記積層シートのより中央近くの位置において、前記積層シートの一方面と前記スロットライナの内壁面とをより十分に当接させて接着させることができ、前記積層シートの他方面と前記コイルとをより十分に当接させて接着させることができる。すなわち、前記スロット溝内のより中央に近い位置において、前記コイルを前記スロット溝内により十分に固定することができる。
【0018】
前記スロットライナにおいては、
折り重ねる前の状態において、前記スロット溝の内壁面と前記コイルとの間に介装されたときに、前記スロット溝の両端よりも外側に突出するような長さを有し、
前記スロット溝の一端縁側に第1折目を備え、前記スロット溝の他端縁側に第2折目を備えており、
前記第1折目から前記第2折目までを構成する前記第1領域と、前記第1折目を介して前記第1領域と隣り合う前記第2領域と、前記第2折目を介して前記第1領域と隣り合う第3領域とを備え、
前記第1領域から前記第3領域までが重ね合わされた3重構造の重畳部を有することが好ましい。
【0019】
斯かる構成によれば、前記第1折目を介して前記第1領域に前記第2領域を折り重ねた部分、及び、前記第2折目を介して前記第1領域に前記第3領域を折り重ねた部分、すなわち、2つの折り重ね部分によって前記3重構造の重畳部を形成することができるので、この3重構造の重畳部では、2つの折り重ね部分において生じるそれぞれのスプリングバック機能を利用することができる。これにより、スプリングバック機能をより十分に生じさせることができる。
【0020】
前記スロットライナにおいては、
前記絶縁シート体の一方の表面のみに接着剤層が積層されていることが好ましい。
【0021】
斯かる構成によれば、前記折目を介して前記積層シートを折り重ねたときに、前記絶縁シート体の両面に接着剤層が積層されている場合に比べて、前記接着剤層によってくっ付く部分を少なくすることができる。
これにより、スプリングバック機能をより十分に生じさせることができる。
また、巻き取った状態で保管するときに、前記接着剤層が形成されていない面を内側にすることができるので、使用する際に、巻き取った状態から使用に必要な長さ分だけ比較的容易に引き出すことができる。
【0022】
前記スロットライナにおいては、
前記接着剤層は、樹脂と、該樹脂に分散された発泡剤とを含むことが好ましい。
【0023】
斯かる構成によれば、接着剤層に分散されて含まれる発泡剤によって、接着剤層を発泡させることができるので、発泡剤を含まない接着剤層に比べて接着剤層の厚さを薄くすることができる。
また、折り重ねられた状態の前記積層シートがスプリングバック機能によって折り重ね方向とは逆方向に膨らむようになるので、接着剤中に含ませる発泡剤の量を比較的少なくすることができる。そのため、発泡剤を含んでいる場合であっても、接着剤層のバルク強度が低下することを抑制でき、その結果、接着剤層の接着力が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、接着剤層の接着力の低下を抑制することができるスロットライナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】HEVやEVの駆動用モータのステータの概略斜視図。
【
図5】スロットライナに重畳部を形成する一例、及び、スロットライナを介装する一例を示す図。(a)及び(b)はスロットライナに重畳部を形成する一例を示す図。(c)はスロットライナを介装する一例を示す図。
【
図6】スロットライナに重畳部を形成する他の例、及び、スロットライナを介装する他の例を示す図。(a)及び(b)はスロットライナに重畳部を形成する他の例を示す図。(c)はスロットライナを介装する他の例を示す図。
【
図7】スロットライナに重畳部を形成するさらに他の例、及び、スロットライナを介装するさらに他の例を示す図。(a)及び(b)はスロットライナに重畳部を形成するさらに他の例を示す図。(c)はスロットライナを介装するさらに他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
ここでは、回転電機がハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)などの駆動用モータである場合を例として説明する。
より詳しくは、ここでは、前記駆動用モータが、永久磁石を備えたロータと、コイルを備えたステータとを備え、かつ、セグメント導体(Segment Conductor)によって形成されたコイルを備えており、本発明に係るスロットライナがステータにおけるコイルとコアとの絶縁のために使用される場合を例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態に係る駆動用モータのステータ1の斜視図であり、図にも示されているようにステータ1は、ステータコア10とコイル20とを有している。
【0027】
図2は、このステータ1をロータ(図示せず)の回転軸方向(矢印AD)から見た平面図であり、
図3は、
図2に示したステータコア10のA部に複数のコイル20を収容させた様子を示した断面図である。
【0028】
これらの図にも示されているように、ステータ1では、円筒状のステータコア10の内周面側に複数条のスロット溝11が形成されている。
ステータ1は、ステータコア10と、ステータコア10に形成された複数条のスロット溝11に収容されている複数のコイル20とを有している。
複数条のスロット溝11は、各スロット溝11がステータコア10の回転軸方向(
図1のAD)に沿って延在し、かつ、ステータコア10の周方向(
図1のRD)において、互いに一定の間隔を保った状態でステータコア10に配されている。
スロット溝11は、ステータコア10の回転軸方向ADにおける全長にわたって形成されており、ステータコア10の一方の端面10a(
図1における上側、以下「上端面10a」ともいう)及び他方の端面10b(以下「下端面10b」ともいう)には、スロット溝11の断面形状と同形状の開口部11bが形成されている。
【0029】
ステータコア10では、上記のように複数条のスロット溝11が並行していることから、隣り合うスロット溝11の間が板状突起12となっている。
この板状突起12(以下「ティース12」ともいう)は、ステータコア10の径方向(
図1のDD)内側に向けて突出した状態で複数形成されている。
なお、
図2及び3に示したように、ティース12は、突出方向先端部にステータコア10の周方向RDに広がる広幅部12aを有しており、断面形状がT字状となっている。
そのため、ステータコア10の内周面側では、このスロット溝11の幅が狭くなっており、線状の開口部11aが僅かに形成されているのみとなっている。
【0030】
コイル20は、互いに接続された複数のセグメント導体21によって構成されている。
なお、コイル形成前のセグメント導体21は、
図1に示したように、U字状に折り曲げ加工された平角エナメル線であり、2本の脚部21bとこの2本の脚部21bどうしを繋ぐ頭部21aとを備えたものである。
【0031】
本実施形態に係るセグメント導体21は、頭部21aとは逆側の脚部21bの先端部21bxに、絶縁被膜が剥離された銅線露出部を有している。
本実施形態に係るコイル20は、ステータコア10の上端面10aにおけるスロット溝11の開口部11bからセグメント導体21の脚部21bを挿入し、かつ、その先端部21bxをステータコア10の下端面10bから露出させた後で、一つのセグメント導体21の脚部21bと別のセグメント導体21の脚部21bとを銅線露出部において電気的に接続して接続部21xを形成し、さらにこの接続部21xに絶縁処理を施して作製されたものである。
なお、一つのセグメント導体21の2本の脚部21bは、それぞれ別のスロット溝11内に挿入される。
【0032】
本実施形態に係るコイル20は上記のようにして作製されるので、本実施形態に係るステータ1は、ステータコア10の上端面10a側にセグメント導体21の頭部21aによって構成された上側コイルエンド部を有するとともに、下端面10b側に脚部21bどうしを接続して形成した接続部21xによって構成された下側コイルエンド部を有する。
【0033】
図3に示したように、ステータコア10のスロット溝11には、コイル20を形成しているセグメント導体21の脚部21bがそれぞれ4本ずつ収容されており(4個のセグメント導体21の一方の脚部21bがそれぞれ収容されており)、各スロット溝11には、内周面側から外周面側に向けて一列に並んだ状態で、計4本の脚部21bが収容されている。
【0034】
図3に示したように、本実施形態に係るスロットライナ40は、4本の脚部21bとスロット溝11の内壁面との間に介装されている。
また、
図4に示したように、本実施形態に係るスロットライナ40は、絶縁シート体41の表面に接着剤層42が積層された積層シート体、より詳しくは、絶縁シート体41の一方面に接着剤層42が積層された積層シート体として構成されている。
そのため、上記したように、4本の脚部21bとスロット溝11の内壁面との間に介装するに際しては、スロット溝11の内壁面に当接される一方面とコイルを形成する前の4本の脚部21bに当接される他方面とのそれぞれに接着剤層42が配されるように、本実施形態に係るスロットライナ40を折り重ねる。
【0035】
本実施形態に係るスロットライナ40を折り重ねる一例、及び、折り重ねた状態のスロットライナ40をスロット溝11内に介装する一例について、
図5を参照しつつ説明する。
なお、
図5(c)では、スロットライナ40は、既にスロット溝11内に収容された状態であるが、スロット溝11については省略している。
また、
図5(c)においては、スロット溝11内に収容されたスロットライナ40の内部を見易くするために、筒状の側面の一部を解放して示している。
なお、筒状の側面の一部が開放されていない状態は、
図3に示した通りである。
【0036】
まず、
図5(a)及び(b)に示したように、前記一方面と前記他方面とのそれぞれに接着剤層42が配されるように、すなわち、折り重ねた状態における外方側に接着剤層42が配されるように、一本の折目L1に沿って隣り合う積層シート体の第1領域R1と第2領域R2とを折り重ねて重畳部O1を形成する。本実施形態では、一本の折目L1に沿って隣り合う積層シート体の第1領域R1と第2領域R2とを折り重ねて、二重構造の重畳部O1を形成している。
【0037】
次に、
図5(c)に示したように、折り重ねたスロットライナ40を筒状に成形した状態で、スロット溝11内に収容する。そして、この筒状のスロットライナ40の内部に、4本の脚部21bを挿入する。これにより、二重構造の重畳部O1で4本の脚部21bを一括して束ねた状態で、スロット溝11の内壁面とコイルを形成する前の4本の脚部21bとの間に、スロットライナ40が介装される。
なお、本実施形態では、折り重ねたスロットライナ40は、折目L1がスロット溝11の外側を向くように、スロット溝11内に収容されている。第1領域R1と第2領域R2とが繋ぐ先端部分が外側を向くように、スロット溝11内に収容されている。より詳しくは、折り重ねたスロットライナ40は、折目L1が4本の脚部21bが挿入される側に配された状態でスロット溝11内に収容されている。そのため、4本の脚部21bを筒状のスロットライナ40の内部に挿入するときに、スプリングバック機能によってスロットライナ40の膨らんだ部分に、4本の脚部21bがスロットライナ40に引っ掛かることを抑制することができる。
【0038】
スロットライナ40は、上記のごとく二重楮の重畳部O1が形成された状態で、セグメント導体21の脚部21bの長手方向に沿って縦添えされて、4本の脚部21bの周りを一周以上周回する形でスロット溝11内に配されるともに、回転軸方向ADにおける両端部をステータコア10の上端面10a及び下端面10bから回転軸方向ADの外方に突出させてスロット溝11内に配されている。
なお、ステータコア10の上端面10a及び下端面10bから回転軸方向ADに突出させた部分は、スロット溝11の上端側及び下端側の少なくとも一方に引っ掛けられるように(係止されるように)、スロット溝11の外方に向かって折り曲げられていてもよい。
【0039】
スロットライナ40は、上記のように、4本の脚部21bの周りを一周以上周回する形でスロット溝11内に配されているため、この周回方向における両端部が重ね合わされてスロット溝11内に配されている。
すなわち、本実施形態に係るステータ1では、スロットライナ40どうしが重なり合った重複部40aがスロット溝11内に形成されている(
図3参照)。
そして、
図3に示したように、本実施形態に係るステータ1では、重複部40aは径方向DDの外側に位置している。
【0040】
本実施形態に係るスロットライナ40では、絶縁シート体41は、基材シート41aの両面に接着剤層41bを介して紙状シート41cが積層された構造を有しており、接着剤層42は、紙状シート41cの一方面に積層されている。
【0041】
本実施形態に係るスロットライナ40は、折り重ねられた状態においてスプリングバック機能を生じる必要があるため、適度な強さ(こわさ)を有している必要がある。
【0042】
強さは、以下の手順に従って評価することができる。
(1)平面寸法100mm×25mm(長さ100mm×幅25mm)のスロットライナ40を長さ方向の中心を基点として折り畳む。
(2)折り畳んだスロットライナ40を、ヒートプレス機を用いて、室温下にて、4MPaの圧力で1秒間プレスする。
(3)プレスしたスロットライナ40を3時間放置した後、スロットライナ40が折り畳まれた状態から広がった角度を測定する。詳しくは、折り畳まれたスロットライナ40の一方のシートと、他方のシートとの間の角度を測定する。
そして、スロットライナ40が適度な強さを有しているとは、スロットライナ40が折り畳まれた状態から広がった角度が30°以上であることを意味する。
スロットライナ40の強さは、絶縁シート体41を構成する材料の種類と絶縁シート体41の厚さとを適切に選ぶことにより調節することができる。
【0043】
特に、スロットライナ40において、上記のように絶縁シート体41が基材シート41aを備えている場合には、スロットライナ40の強さは、主に基材シート41aの強さの影響を受ける。
そのため、このような場合には、基材シート41aは、上記の手順にしたがって評価したときに、折り畳まれた基材シート41aが折り畳まれた状態から広がった角度が30°以上となるような強さを有していることが好ましい。
基材シート41aの強さも、基材シート41aを構成する材料の種類と基材シート41aの厚さとを適切に選ぶことにより調節することができる。
【0044】
基材シート41aとしては、各種公知の樹脂フィルムを用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂製のフィルム(ポリエステル系樹脂フィルム)を用いることができる。
【0045】
基材シート41aは、絶縁シート体41に対して絶縁信頼性を付与する観点、延いては、スロットライナ40に絶縁信頼性を付与する観点から、常温(例えば、30℃)における体積固有抵抗率が1×1012Ω・cm以上(通常、1×1016Ω・cm以下)であることが好ましく、1×1013Ω・cm以上の体積抵抗率を有することが好ましい。
基材シート41aの厚さは、通常、5μm以上300μm以下である。基材シート41aの厚さは、25μm以上125μm以下であることが好ましい。
【0046】
絶縁シート体41の接着剤層41bとしては、基材シート41aと紙状シート41cとを接着可能なものであれば特に限定されず、一般的な感圧接着剤や反応硬化型の接着剤を用いて構成することができる。
前記感圧接着剤としては、例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系の接着剤が挙げられ、前記反応硬化型の接着剤としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系のものが挙げられる。
接着剤層41b厚さは、通常、1μm以上50μm以下である。接着剤層41bの厚さは、5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0047】
紙状シート41cとしては、ポリエステル系樹脂からなる繊維不織布(以下、ポリエステル系樹脂不織布ともいう)やアラミド繊維不織布などの繊維不織布を用いることができる。
ポリエステル系樹脂不織布としては、ポリエステル系樹脂繊維が結合剤を用いてシート化されたもの、または、結合剤を用いずにポリエステル系樹脂繊維が熱融着されるなどしてシート化されたものを用いることができる。
紙状シート41cの厚さは、5μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係るスロットライナ40の接着剤層42は、樹脂と発泡剤とを含む。前記発泡剤は、前記樹脂に分散されていることが好ましい。
接着剤層42は、発泡剤を10質量%以上含んでいることが好ましく、20質量%以上含んでいることがより好ましい。発泡剤を10質量%以上含んでいることにより、折り重ねた状態のスロットライナ40において両外面側に配されることとなる接着剤層42を、コイル20及びスロット溝11の内壁面のそれぞれに十分に当接させることができ、発泡剤を20質量%以上含んでいることにより、折り重ねた状態のスロットライナ40において両外面側に配されることとなる接着剤層42を、コイル20及びスロット溝11の内壁面のそれぞれにより一層十分に当接させることができる。
接着剤層42は、発泡剤を50質量%以下含んでいることが好ましく、40質量%以下含んでいることがより好ましい。発泡剤を50質量%以下含んでいることにより、発泡剤が発泡することにより接着剤層42中に形成される空隙を比較的少なくすることができ、接着剤層42を十分な接着性を有するものとすることができ、発泡剤を40質量%以下含んでいることにより、発泡剤が発泡することにより接着剤層42中に形成される空隙をより一層少なくすることができ、接着剤層42をより一層十分な接着性を有するものとすることができる。
【0049】
熱硬化性樹脂としては、各種公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、シアノアクリレート樹脂、変性アクリル樹脂、及び、ジアリルフタレート樹脂などを用いることができる。
【0050】
接着剤層42は、樹脂および発泡剤に加えて、希釈剤(有機溶剤)、着色剤、充填材(フィラー)、カップリング剤、消泡剤、及び難燃剤等を含んでいてもよく、樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、硬化剤や硬化促進剤等を含んでいてもよい。
【0051】
発泡剤としては、熱膨張成分がマイクロカプセル化された発泡剤、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウム、ジアゾアミノベンゼン、及び、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどを用いることができる。
接着剤層42が樹脂として熱硬化性樹脂を含む場合には、熱硬化性樹脂が硬化する温度で熱膨張する、熱膨張成分がマイクロカプセル化された発泡剤を用いることが好ましい。これにより、熱硬化性樹脂の硬化中に熱硬化性樹脂中において発泡剤を発泡させることができる。すなわち、熱硬化性樹脂を発泡させて接着剤層42を体積膨張させつつ、接着剤層42を硬化させて、スロット溝11の内壁面などと接着させることができる。
【0052】
熱膨張成分がマイクロカプセル化された発泡剤とは、いわゆるマイクロバルーン発泡剤である。このようなマイクロバルーン発泡剤は、熱可塑性または熱硬化性樹脂によって構成されているポリマー殻の内部に、固体、液体または気体からなる熱膨張成分を封入して構成されるものである。換言すれば、マイクロバルーン発泡剤は、マイクロオーダーの平均粒子径を有する中空状のポリマー殻と、該ポリマー殻の内部に封入されている熱膨張成分とを備えるものである。
前記ポリマー殻を構成する樹脂は熱可塑性樹脂であるアクリロニトリルコポリマーであってもよく、熱膨張成分は比較的低沸点の炭化水素であってもよい。比較的低沸点の炭化水素としては、ブタン、ペンタン、および、ヘキサンなどが挙げられる。
ここで、マイクロバルーン発泡剤は、加熱によって体積が40倍以上にも膨張し、独立気泡形式の発泡体を得ることができるものである。そのため、マイクロバルーン発泡体は、種々の発泡剤の中でも、発泡倍率を有意に大きくできるという特性を有する。
そのため、接着剤層42がマイクロバルーン発泡体を含む場合には、その含有量をより少なくすることができる(例えば、10質量%~30質量%)ので、発泡剤が原因となる接着剤層42中の空隙をより少なくすることができる。その結果、接着剤層42のバルク強度の低下を抑制することができるので、一方の接着剤層42にてコイル20を十分に接着し、他方の接着剤層42にてスロット溝11の内壁面(すなわち、コア)を十分に接着することができる。
【0053】
本実施形態に係るスロットライナ40では、一例として、一本の折目L1に沿って隣り合う積層シート体の第1領域R1と第2領域R2とを折り重ねて、1つの二重構造の重畳部O1を形成する例について説明したが、スロットライナ40に重畳部を形成する例はこれに限られない。
そこで、次に、本実施形態に係るスロットライナ40に重畳部を形成する他の例について、
図6及び7を参照しながら説明する。
【0054】
まず、
図6を参照しながら、本実施形態に係るスロットライナ40に重畳部を形成する他の一例について説明する。
【0055】
この例では、
図6(a)及び(b)に示したように、2本の折目である、第1折目L2及び第2折目L3に沿って、第1折目L2から第2折目L3までを構成する第1領域R1に向かって、第1折目L2を介して第1領域R1と隣り合う第2領域R2を折り曲げるとともに、第2折目L3を介して第1領域R1と隣り合う第3領域R3を折り曲げて、第1領域R1に第2領域R2及び第3領域R3をそれぞれ折り重ねて、第1重畳部O2及び第2重畳部O3を形成する。すなわち、2つの二重構造の重畳部を有するように、スロットライナ40を折り重ねる。
【0056】
このように折り重ねたスロットライナ40は、
図6(c)に示したように介装される。
すなわち、
図6(c)に示したように、この2つの重畳部(第1重畳部O2及び第2重畳部O3)が内側となるように、折り重ねたスロットライナ40を筒状に成形した状態で、スロット溝11内に収容する。そして、この筒状のスロットライナ40の内部に、4本の脚部21bを挿入する。これにより、第1重畳部O2及び第2重畳部O3で4本の脚部21bを一括して束ねた状態で、スロット溝11の内壁面とコイルを形成する前の4本の脚部21bとの間に、スロットライナ40が介装される。
本実施形態に係るスロットライナ40に、このように2つの二重構造の重畳部を形成しても、この2つの二重構造の重畳部に生じるそれぞれのスプリングバック機能を利用することができる。
【0057】
次に、
図7を参照しながら、本実施形態に係るスロットライナ40に重畳部を形成するさらに他の一例について説明する。
【0058】
この例では、
図7(a)及び(b)に示したように、2本の折目である、第1折目L2及び第2折目L3に沿って、第1折目L2から第2折目L3までを構成する第1領域R1に向かって、第1折目L2を介して第1領域R1と隣り合う第2領域R2を折り曲げて第1領域R1に第2領域R2を折り重ね、さらに、第2折目L3を介して第1領域R1と隣り合う第3領域R3を折り曲げて第2領域R2に第3領域R3を折り重ねて、第1領域R1から第3領域R3までが重ね合わされた、1つの三重構造の重畳部O4を形成する。すわなち、1つの三重構造の重畳部O4を有するように、スロットライナ40を折り重ねる。
【0059】
このように折り重ねたスロットライナ40は、
図7(c)に示したように介装される。
すなわち、
図7(c)に示したように、折り重ねたスロットライナ40を筒状に成形した状態でスロット溝11内に収容する。そして、この筒状のスロットライナ40の内部に、4本の脚部21bを挿入する。これにより、1つの三重構造の重畳部O4で4本の脚部21bを一括して束ねた状態で、スロット溝11の内壁面とコイルを形成する前の4本の脚部21bとの間に、スロットライナ40が介装される。
本実施形態に係るスロットライナ40に、このように1つの三重構造の重畳部O4を形成しても、この1つの三重構造の重畳部O4に生じるスプリングバック機能を利用することができる。
【0060】
なお、本発明に係るスロットライナは、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係るスロットライナは、上記作用効果によって限定されるものでもない。本発明に係るスロットライナは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態では、絶縁シート体41の一方面のみに接着剤層42を形成する例について説明したが、接着剤層42は絶縁シート体41の一方面側に加えて他方面側(すなわち、絶縁シート体41の両面側)に形成されていてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、接着剤層42が発泡剤を含む例について説明したが、接着剤層42は発泡剤を含んでいなくてもよい。接着剤層42が発泡剤を含んでいない場合であっても、スロットライナ40を折り畳むことにより生じるスプリングバック機能により、折り畳んだ状態のスロットライナ40において両外面側に配されることとなる接着剤層42を、コイル20及びスロット溝11の内壁面にそれぞれ当接させて接着させることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、絶縁シート体41を、
図4に示したように、基材シート41aの両面に接着剤層41bを介して紙状シート41cが積層された構造、すなわち、5層構造とする例について説明したが、絶縁シート体41を構成する例はこれに限られるものではない。
例えば、絶縁シート体41を、接着剤層の両面に紙状シートが積層された構造、すなわち、3層構造としてもよいし、紙状シート41cのみの単層構造としてもよい。このような場合、3層構造の絶縁シート体41及び単層構造の絶縁シート体41は、上記した手順にしたがって評価したときに、折り畳まれた状態の絶縁シート体41が折り畳まれた状態から広がった角度が30°以上となるような強さを有していることが好ましい。
【0064】
また、基材シート41aに用いる各種公知の樹脂フィルムは、一軸延伸成形したものであってもよいし、二軸延伸成形したものであってもよい。前記樹脂フィルムが一軸延伸成形されたものである場合、スロットライナ40は、基材シート41aの一軸延伸方向と交差する方向に折り畳まれて、スロット溝11内に収容されることが好ましい。換言すれば、スロットライナ40は、基材シート41aの一軸延伸方向と交差するような折目を有して、スロット溝11内に収容されることが好ましい。
【0065】
上記実施形態では、例えば、
図5(c)に示したように、折目L1がスロット溝11の外側を向くように、折り重ねたスロットライナ40をスロット溝11内に収容する例について説明したが、スロット溝11内に収容するときの折目L1の位置は外側を向いていなくてもよい。
要すれば、スプリングバック機能を生じさせ得る態様であれば、折目L1をどのような位置として、折り重ねたスロットライナ40をスロット溝11内に収容してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 ステータ、10 ステータコア、11 スロット溝、12 板状突起(ティース)、20 コイル、21 セグメント導体、40 スロットライナ、41 絶縁シート体、42 接着剤層、
10a 上端面、10b 下端面、11a 線状の開口部、11b 開口部、12a 広幅部、21a 頭部、21b 脚部、21bx 先端部、21x 接続部、40a 重複部、41a 基材シート、41b 接着剤層、41c 紙状シート、
AD 回転軸方向、RD 周方向、DD 径方向、L1 折目、L2 第1折目、L3 第2折目、R1 第1領域、R2 第2領域、R3 第3領域、O1 二重構造の重畳部、O2 第1重畳部、O3 第2重畳部、O4 三重構造の重畳部。