(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】密着剤パッケージ
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240412BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240412BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20240412BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240412BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/11
C08K5/09
G09F9/00 302
G09F9/00 342
(21)【出願番号】P 2020038666
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 千里
(72)【発明者】
【氏名】大竹 達也
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-137895(JP,A)
【文献】特開2014-006359(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086404(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122465(WO,A1)
【文献】特開2008-127517(JP,A)
【文献】特開2008-231247(JP,A)
【文献】特開平06-037213(JP,A)
【文献】特開2019-048646(JP,A)
【文献】特開2008-143980(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136245(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
G09F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接して形成された2つの密閉空間を有する容器と、
前記容器の一方の密閉空間に(A)成分が、前記容器の他方の密閉空間に(B)成分が、それぞれ収容されてなる、2成分付加型シリコーン組成物と、
を有し、
前記(A)成分は、(a1)少なくとも1分子中に1個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、23℃における粘度が5~500mPa・sであるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、(a2)白金又は白金系触媒を含有する付加反応触媒と、を含有し、
前記(B)成分は、(b1)少なくとも1分子中に1個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、23℃における粘度が5~500mPa・sであるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、(b2)少なくとも1分子中に1個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、を含有し、
前記2成分付加型シリコーン組成物において、前記(a1)成分と前記(b1)成分との合量に対する、酢酸及びギ酸の含有量は、100質量ppm以下である、
ことを特徴とする密着剤パッケージ。
【請求項2】
前記隣接して形成された2つの密閉空間の仕切り部が外力によって破壊可能であり、前記仕切り部が破壊されることで1つの密閉空間が形成できる、請求項
1に記載の密着剤パッケージ。
【請求項3】
前記容器が、柔軟性材料で形成されている請求項
1又は
2に記載の密着剤パッケージ。
【請求項4】
前記(a1)成分は、分子鎖両末端がビニル基で封鎖されているビニル基含有ポリオルガノシロキサンである請求項1
~3のいずれか1項に記載の
密着剤パッケージ。
【請求項5】
前記(b1)成分は、分子鎖両末端がビニル基で封鎖されているビニル基含有ポリオルガノシロキサンである請求項1
~4のいずれか1項に記載の
密着剤パッケージ。
【請求項6】
前記(a1)成分と前記(b1)成分が、同一のビニル基含有ポリオルガノシロキサンである請求項1~
5のいずれか1項に記載の
密着剤パッケージ。
【請求項7】
前記(a1)
成分と前記(b1)
成分との合量が、前記2成分付加型シリコーン組成物中における70質量以上であり、
前記(b2)
成分の含有割合は、前記(a1)
成分と前記(b1)
成分との有する合計アルケニル基量に対して、前記アルケニル基1個当たり、水素原子数が0.5~4個となる量
であり、
前記(a2)
成分の含有割合は、前記2成分付加型シリコーン組成物中に、白金元素に換算して0.5~10質量ppm
である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の
密着剤パッケージ。
【請求項8】
光学部品の密着に用いられる光学用密着剤である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の
密着剤パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2成分付加型シリコーン組成物、画像表示装置及び密着剤パッケージに係り、特に、2成分を混合したとき、気泡の発生を抑制できる2成分付加型シリコーン組成物並びにこのポリオルガノシロキサン組成物を用いる画像表示装置及び密着剤パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラウン管、液晶、プラズマ、有機EL等の画像表示装置は、一般に、偏光分離素子として、入射光束を回折及び分光し、その回折、分光させた各波長帯域の光を偏光変調素子上に形成されたR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各色画素に対応した位置へ選択的に集光させる偏光分離型回折光学素子(ホログラフィックカラーフィルタ)を用いて構成されている。中でも、パネル型の画像表示装置は、通常、少なくとも一方がガラス等の光透過性をもつ一対の基板の間にアクティブ素子を構成する半導体層や蛍光体層、あるいは発光層からなる多数の画素をマトリクス状に配置した表示領域(画像表示部)を有し、この表示領域(画像表示部)とガラスやアクリル樹脂のような光学用プラスチックで形成される保護部との間隙を密着剤で機密に封止して構成されている。
【0003】
ここで使用される密着剤としては、例えば、シリコーン組成物を硬化してなる、板状体である光学表示体用の透明衝撃緩和部材、電子デバイス、プリント回路板等のコーティングや封入材料に好適な、硬化後に強靱なゲルとエラストマーを形成する割合に低粘度の硬化性オルガノシロキサン組成物、電子部品への含浸作業性が優れ、この電子部品に優れた耐湿性を付与することができる電子部品含浸用オルガノポリシロキサン組成物、耐衝撃性を向上させ、画像表示部の変形に起因する表示不良を生じることなく、かつ、高輝度及び高コントラストな表示を可能とする熱硬化型ポリオルガノシロキサン組成物等の、種々のシリコーン組成物やポリオルガノシロキサン組成物が知られている(例えば、特許文献1~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-117831号公報
【文献】特開平7-188559号公報
【文献】特開平9-169908号公報
【文献】国際公開第2012/086404号
【文献】特開2012-144705号公報
【文献】特開2014-6359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、画像表示装置の1種として、スマートフォンやタブレット端末等の小型で携帯可能な画像表示装置もあり、このような画像表示装置においては、受付けた店舗において現場レベルで修理等が行われることも多い。この修理の際、画像表示部と保護部とは、一旦剥がして作業を行い、最後に画像表示部と保護部を再度貼り合わせる。その貼り合わせの際に用いる密着剤として、より簡易な操作により行うことができる密着材パッケージがあると便利で、迅速に作業ができ好ましい。
【0006】
そこで、2液型の付加型シリコーン組成物を用い、これを現場レベルで混合し、そのまま使用することができれば、簡易な操作で、迅速に密着でき好ましい。なお、一般に、2液型の付加型シリコーン組成物は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、付加反応触媒を含む(A)成分と、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む(B)成分との、2液からなる。
【0007】
本出願人は、このような用途に適すると考えられる、比較的低粘度の2成分付加型ポリオルガノシロキサンの(A)成分と(B)成分とを、それぞれ密閉可能な容器に封入しておき、これらを気密状態のまま現場で混合、塗布し、密着操作を行うことができる密着剤パッケージへの適用を検討した。
【0008】
しかしながら、(A)成分と(B)成分をそれぞれ密閉状態で混合してシリコーン組成物としたところ、その混合後に、発泡して、組成物中に気泡が混入する場合があることを発見した。従来は、シリコーン組成物を密閉状態で混合することがあまりなく、発泡が生じても開放状態で使用されるため、周囲の雰囲気中にすぐに抜けて、このような現象が特に問題にならなかったものと考えられる。
【0009】
上記のように、シリコーン組成物中に気泡が混入してしまうと、その使用時にも気泡が混在した状態となり、気泡が硬化物中に存在することとなってしまう。そのため、上記画像表示装置等に用いた場合、その気泡が光透過性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、密閉状態での混合においても気泡の発生を抑制できる2成分付加型シリコーン組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、2成分付加型シリコーン組成物において、所定の酸成分の含有量を低減させておくことで、上記問題が解消されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の2成分付加型シリコーン組成物は、以下の(A)成分及び(B)成分からなる2成分付加型シリコーン組成物であって、(a1)少なくとも1分子中に1個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、23℃における粘度が5~500mPa・sであるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、(a2)白金又は白金系触媒を含有する付加反応触媒と、を含有する(A)成分、(b1)少なくとも1分子中に1個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、23℃における粘度が5~500mPa・sであるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、(b2)少なくとも1分子中に1個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、を含有する(B)成分、前記(a1)成分と前記(b1)成分との合量に対する、酢酸及びギ酸の含有量が100質量ppm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の密着剤パッケージは、隣接して形成された2つの密閉空間を有する容器と、前記容器の一方の密閉空間に(A)成分が、前記容器の他方の密閉空間に(B)成分が、それぞれ収容されてなる、本発明の2成分付加型シリコーン組成物と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の画像表示装置は、画像の表示領域を有する画像表示部と、前記画像表示部の表面を覆う保護部と、前記画像表示部と前記保護部との間に介在して密着する本発明の2成分付加型シリコーン組成物の硬化物と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の2成分付加型シリコーン組成物及び密着剤パッケージによれば、使用時に、密閉状態で2液を混合しても、気泡の発生及びその硬化物の内部に気泡が混有することを抑制し、光学機能への悪影響を防止できる。
【0016】
本発明の画像表示装置によれば、画像表示部と保護部とを密着する密着剤中への、気泡の混入を抑制でき、得られる画像表示装置の画像表示面における光学機能への悪影響を防止できる。
【0017】
なお、以下の記載においては、「ケイ素原子に結合したアルケニル基」を単に「アルケニル基」と示すことがある。また、「ケイ素原子に結合した水素原子」を、単に「水素原子」又は「Si-H」と示すことがある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本実施形態の2成分付加型シリコーン組成物は、基本的に、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと付加反応触媒を含む(A)成分と、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む(B)成分とからなり、所定の有機酸の含有量を極めて少なくしたものである。以下、各成分及び特徴について詳細に説明する。
【0019】
[(A)成分]
本実施形態の(A)成分に用いられる(a1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、少なくとも1分子中に1個以上のケイ素に結合したアルケニル基を含有するシロキサン骨格の直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン化合物であり、このポリオルガノシロキサン化合物として1種を単独で含有しても、2種以上を混合して含有していてもよい。
【0020】
そして、この(a1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、23℃における粘度が5~500mPa・sであり、10~300mPa・sが好ましい。なお、本明細書における粘度は、特に説明している場合を除き、スピンドル型回転粘度計を用い、No.2ローター、60rpm、23℃の条件で測定された値である。
【0021】
(a1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、本組成物においてベースポリマーとなる成分であり、アルケニル基は、付加反応によって重合体を形成する基である。このアルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していることが好ましく、分子鎖両末端のケイ素原子に結合していることがより好ましい。
【0022】
ここでアルケニル基としては、本分野において公知のアルケニル基であればよく、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基のような、炭素原子数が2~6の非置換のアルキル基が挙げられ、合成し易さの観点からビニル基が好ましい。
【0023】
(a1)成分としては、2個のアルケニル基を有し、かつ2個のアルケニル基が直鎖状の分子鎖の両末端のケイ素原子にそれぞれ1個ずつ結合しているものが好ましい。なお、2個のアルケニル基は、同じであってもよいし異なっていてもよいが、合成の容易さの観点から同じであることが好ましい。
【0024】
アルケニル基以外のケイ素原子に結合する置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、2-フェニルエチニル基、2-フェニルプロピル基などのアラルキル基、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などの置換炭化水素基等が例示される。これら置換基のうち、合成し易さの観点からアルキル基が好ましく、中でもメチル基がより好ましい。
【0025】
このアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、ケイ素原子に結合する全有機基のうち、0.01モル%以上がアルケニル基であることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態の(A)成分に用いられる(a2)白金系触媒を含有する付加反応触媒は、ヒドロシリル化反応触媒として機能するものであり、ここで用いられる白金系触媒としては白金又は白金系化合物が挙げられる。
【0027】
白金系触媒としては、公知のものを使用することができ、熱で活性化する白金系触媒(以下、熱白金系触媒ともいう。)と紫外線で活性化する白金系触媒(以下、UV白金系触媒ともいう。)がある。熱白金系触媒の具体例としては、白金ブラック;塩化白金酸;塩化白金酸等のアルコール変性物;塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニル基含有シロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体などが例示される。
【0028】
また、UV白金系触媒は、紫外線が照射されることにより触媒活性が表出されるように、白金系触媒を含む化合物として設計された紫外線活性の触媒である。UV白金系触媒としては、(η-ジオレフィン)-(σ-アリール)-白金錯体を含む光活性化可能触媒や、η5シクロペンタジエニル白金錯体化合物又はσ結合している配位子(好ましくは、σ結合しているアルキル又はアリール配位子)を有する任意選択で置換されていてもよいシクロペンタジエニル配位子を有する錯体が適している。使用されうる光活性化されることが可能な白金触媒として、さらにジケトンから選択される配位子を有するものがある。
【0029】
本実施形態における(a2)成分の配合量はその有効量でよく、所望の硬化速度に応じて適宜増減することができる。通常、組成物全体に対する含有割合が、白金元素に換算して0.5~10質量ppmとなる量が好ましく、1~8質量ppmがより好ましく、1~5質量ppmがさらに好ましい。白金系触媒の配合量が0.5質量ppm未満では、硬化性が低下するおそれがあり、10質量ppmを超える場合には、硬化物の黄変耐性が低下するおそれがある。白金系触媒の配合量が0.5~10質量ppmの範囲にある場合には、特性の良好な硬化物が得られ、また経済的にも有利である。
【0030】
また、(A)成分中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他、一般的に配合される公知の成分を配合できる。このような成分としては、例えば、密着付与材、ケイ素原子に結合した水素原子及びアルケニル基を含有しない非架橋性のポリオルガノシロキサン、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料、溶剤等が挙げられる。
【0031】
[(B)成分]
次に、本実施形態の(B)成分は、上記のように(b1)アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと(b2)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む。以下、これら成分について説明する。
【0032】
本実施形態の(B)成分に用いられる(b1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、少なくとも1分子中にケイ素原子に結合した1個以上のアルケニル基を含有するシロキサン骨格の直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン化合物であり、このポリオルガノシロキサン化合物として1種を単独で含有しても、2種以上を混合して含有していてもよい。そして、この(b1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、23℃における粘度が5~500mPa・sであり、10~300mPa・sが好ましい。
【0033】
(b1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、本組成物においてベースポリマーとなる成分であり、アルケニル基は、付加反応によって重合体を形成する基である。このアルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していることが好ましく、分子鎖両末端のケイ素原子に結合していることがより好ましい。
【0034】
この(b1)成分は、上記(a1)成分として説明したアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、同一の説明ができる。そのため、ここでの詳細な説明は省略する。また、(a1)成分と(b1)成分とは、粘度を含め全く同じものを使用しても、異種のもの(粘度や置換基の異なるもの)を使用してもよいが、同一のポリオルガノシロキサンを用いることが好ましい。
【0035】
本実施形態の(B)成分に用いられる(b2)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、少なくとも1分子中に1個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有するシロキサン骨格の直鎖状、分岐状又は環状のポリオルガノシロキサン化合物であり、このポリオルガノシロキサン化合物として1種を単独で含有しても、2種以上を混合して含有していてもよい。
【0036】
この(b2)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、(a1)成分や(b1)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとの付加反応により、これを架橋し組成物を硬化させるため、1分子当たり2個以上、好ましくは3個以上のケイ素原子に直接結合した水素原子を有する化合物が好ましい。
【0037】
水素原子以外のケイ素原子に結合する有機基は、例えば、アルキル基、フェニル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基からなる群から選ばれる基が挙げられ、合成がし易い観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基のような、炭素原子数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。このポリオルガノハイドロジェンシロキサンとしては、シロキサン骨格が直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。
【0038】
また、このようなSiH基は、ポリシロキサン鎖の末端にあってもよいし、途中にあってもよい。また、かかるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのアルケニル基1個当たり、水素原子数が0.1~4個となる量が好ましく、0.3~3個となる量がより好ましい。
【0039】
なお、(B)成分中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他、一般的に配合される公知の成分を配合できる。このような成分としては、例えば、反応抑制剤、密着付与材、ケイ素原子に結合した水素原子及びアルケニル基を含有しない非架橋性のポリオルガノシロキサン、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料、溶剤等が挙げられる。
【0040】
反応抑制剤としては、この種の組成物に配合される公知の反応抑制剤を用いることができ、例えば前記組成物の反応を抑制するための成分であって、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤、具体的には、1-エチニル-シクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、トリアリルイソシアヌレート、ビニル基含有テトラメチルシロキサン、ビス[(1,1-ジメチル-2-プロピニル)オキシ]ジメチルシラン等が挙げられる。
十分な混合時間を確保し、硬化物の架橋密度のばらつきを防止するなどの点からは、前記反応抑制剤を配合することが好ましい。
【0041】
なお、本実施形態における(A)成分中の(a1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、(B)成分中の(b1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとは、上記したように、共にベースポリマーとなる成分であって、これらの配合量は、2成分付加型シリコーン組成物中において、70質量%以上であり、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が特に好ましい。
【0042】
本実施形態における2成分付加型シリコーン組成物の特徴は、上記構成からなり、(A)成分中の(a1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、(B)成分中の(b1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとを、合計した量に対して、所定の有機酸がごく少量含有していることを特徴とする。具体的には、(a1)成分と(b1)成分の合量に対して、酢酸及びギ酸の含有量が100質量ppm以下であることを特徴とする。なお、この含有量は、(a1)成分と(b1)成分の合量1g中、酢酸及びギ酸の含有量が0.1mg以下、ということもできる。
【0043】
酢酸やギ酸のような、低分子の有機酸は、原料化合物となる(a1)成分や(b1)成分のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを製造する際に、その製造過程において不可避的に生じてしまう化合物であり、その混入を完全に避けることは難しい。
【0044】
このような特定の有機酸に対して、本発明者らは、その存在量を有意に低減することで、本発明の課題ともしている、密閉状態で2成分付加型シリコーン組成物を混ぜ合わせたときに、気泡の発生を抑制でき、光学用途への適用についても問題が生じないことを確認した。
【0045】
このように酢酸及びギ酸の含有量を低減したアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、公知の製造方法の温度や真空度等の製造条件を管理することで得られるが、一旦、得られたアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンの有機酸量が高濃度であっても、上記有機酸を除去する操作を行えばよい。
【0046】
有機酸を除去する操作としては、例えば、(a1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンや(b1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを、吸着材と接触させることで、その中に含まれる有機酸を吸着により除去する方法が挙げられる。例えば、活性炭等が例示できる。また、この除去操作は、得られたアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと活性炭とを十分に接触させた後、ろ過によりアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと活性炭とを分離することで達成できる。
【0047】
本実施形態の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、上記した(A)成分と(B)成分の2成分を混合し、この混合物を対象部分に塗布して、付加反応を進行させることで硬化させる。このとき、2つの部材を貼り合わせることで密着剤として機能する。硬化にあたっては、常温で実施できるが、必要に応じて加熱してもよい。硬化条件は特に限定されるものではないが、通常40~200℃、好ましくは60~170℃の温度で、0.5分~10時間、好ましくは1分~6時間程度保持すればよい。
【0048】
なお、本実施形態の2成分付加型シリコーン組成物は、従来公知のものと同様に、上記した(A)成分と(B)成分の2成分を混合して、空気中で硬化させることができる。なお、本実施形態においては、密閉状態で混合させる態様がより好ましい。例えば、隣接して形成された2つの密閉空間を有する容器において、その容器の一方の密閉空間に(A)成分が、他方の密閉空間に(B)成分が、それぞれ収容されるようにして、2成分付加型シリコーン組成物を有する密着剤パッケージとできる。
【0049】
この密着剤パッケージにおいては、その隣接する密閉空間の間を仕切る仕切り部を有するが、この仕切り部は外力により容易に破壊できるようにしておくことが好ましい。このようにすることで、まずは仕切り部のみを破壊し、容器内で、密閉状態を保持したまま(A)成分と(B)成分とを混合することができる。
【0050】
このとき、この容器を柔軟性部材で形成しておくことで、人の手で揉んだりすることができ、内部の(A)成分と(B)成分の混合を促進することができる。ここで用いられる柔軟性部材としては、上記のように柔軟で、気密性のある透明材料であれば用いることができる。
【0051】
このような密着剤パッケージを用いることで、現場レベルで、その密着剤の使用時において、上記のように仕切り部を破壊して、密閉状態で(A)成分と(B)成分とを十分に混合でき、その後、密着対象物の所定の部分に混合したポリオルガノシロキサン組成物を塗布できる。そして、この塗布部分に、密着対象物を貼り合わせ、硬化させることによって、簡便な操作により密着を行うことができる。
【0052】
また、このとき、密着剤中において気泡の発生を抑制できるため、その硬化物においても気泡の混入が低減される。したがって、本実施形態のポリオルガノシロキサン組成物は、画像表示装置を形成する材料、具体的には、画像表示装置の画像表示部と保護部との間に介在し、両者を固着する密着剤、として好適に用いることができる。
【0053】
このような密着剤として用いた場合、画像の表示領域を有する画像表示部と、その画像表示部の表面を覆う保護部と、の間に介在し、これを硬化させることで、その画像表示部と保護部が固着される。このとき、このポリオルガノシロキサン組成物の硬化物には、気泡の発生が抑制されているため、光学機能を阻害しない、安定した画像表示装置が得られる。この画像表示装置としては、特に、小型で持ち運びに便利な、携帯端末装置が好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。部は質量部を示し、粘度は特に断らない限り23℃における値である。
【0055】
以下の実施例及び比較例に使用した各成分は次のものである。
[(a1)成分]
(a1-1):両末端がそれぞれジメチルビニルシロキサン単位で閉塞され、中間がジメチルシロキサン単位からなる直鎖状ポリメチルビニルシロキサン(両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン)(粘度100mPa・s)
(a1-2):両末端がそれぞれジメチルビニルシロキサン単位で閉塞され、中間がジメチルシロキサン単位からなる直鎖状ポリメチルビニルシロキサン(両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン)(粘度30mPa・s)
【0056】
[(a2)成分]
(a2-1):ジビニルテトラメチルジシロキサンを配位子に有する白金化合物
【0057】
[(b1)成分]
(b1-1):両末端がそれぞれジメチルビニルシロキサン単位で閉塞され、中間がジメチルシロキサン単位からなる直鎖状ポリメチルビニルシロキサン(両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン)(粘度100mPa・s)
(b1-2):両末端がそれぞれジメチルビニルシロキサン単位で閉塞され、中間がジメチルシロキサン単位からなる直鎖状ポリメチルビニルシロキサン(両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン)(粘度30mPa・s)
【0058】
[(b2)成分]
(b2-1):両末端がそれぞれ水素基で閉塞された直鎖状ポリジメチルハイドロジェンシロキサン(両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン)(粘度30mPa・s)
(b2-2):全シロキサンユニット中、側鎖部の17モル%がDHであるポリシロキサン
(b2-3):平均構造式 MH
8Q4のシロキサン
【0059】
[(b3)成分]
(b3-1):ビニル基含有テトラメチルシロキサン
(b3-2):ビス[(1,1-ジメチル-2-プロピニル)オキシ]ジメチルシラン
【0060】
なお、上記(a1-1)成分と(b1-1)成分、(a1-2)成分と(b1-2)成分の各成分は、それぞれ同一のものを使用した。ただし、(a1-1)成分と(b1-1)成分、(a1-2)成分と(b1-2)成分は、以下に示すように、活性炭と攪拌処理することによって各例における有機酸量が異なっている。
【0061】
(実施例1)
表1に示す各成分を、それぞれ同表に示す割合となるように配合し混練して、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。なお、表1における各成分の数値は、(A)成分、(B)成分、それぞれにおいて質量部で示した。
なお、(a1-1)成分と(b1-1)成分は、同一の原料であり、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサンの有機酸量は0.3ppmである。
【0062】
(実施例2~4)
(a1-1)成分と(b1-1)成分は、同一の原料であり、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサンの有機酸量は、14ppm(実施例2)、50ppm(実施例3)、80ppm(実施例4)である。
【0063】
(実施例5)
表1に示す各成分を、それぞれ同表に示す割合となるように配合し混練して、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
なお、(a1-2)成分と(b1-2)成分は、同一の原料であり、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサンの有機酸量は40ppmである。
【0064】
(実施例6)
(a1-2)成分と(b1-2)成分は、同一の原料であり、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサンの有機酸量は90ppmである。
【0065】
(比較例1,2)
表1に示す各成分を、それぞれ同表に示す割合となるように配合し混練して、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。なお、この比較例1,2に用いた両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサンの有機酸量は、130ppm(比較例1)、150ppm(比較例2)である。
【0066】
<有機酸量の算出>
上記実施例1~6及び比較例1~2で得られたポリオルガノシロキサン組成物において、(a1)成分と(b1)成分との合量に対する、酢酸及びギ酸の量は、各例で使用する(a1)成分と(b1)成分との量に合わせて混合し、得られた混合物に対して抽出水によるイオンクロマト分析により算出した。その結果を表1,2に合わせて示した。
【0067】
(試験例)
実施例1~6及び比較例1~2の各2成分付加型シリコーン組成物の(A)成分と(B)成分とを、隣接して形成された2つの空間を有する柔軟性容器のそれぞれに収容し、各空間を密閉して密着剤パッケージを製造した。ここで柔軟性容器としては、多液混合袋“ペアミックス”(登録商標)(株式会社悠心製)を用いた。
【0068】
得られた密着剤パッケージの2つの密閉空間の仕切り部を破壊し、1つの密閉空間とし、(A)成分と(B)成分を密閉状態で混合した。混合後、10分間放置し、気泡発生の有無を確認し、その後、密閉容器を破断し、混合した2成分付加型シリコーン組成物を用いて2つの透明部材を密着させたところ、十分に密着できていることを確認した。
【0069】
<気泡発生の有無>
上記試験例において、(A)成分と(B)成分の2液を混合した後、10分後の気泡の発生状態を目視観察し、気泡の発生が確認できたものを「有」、気泡の発生が確認できなかったものを「無」として判定した。その結果を表1,2に合わせて示した。
【0070】
【0071】
表1から、ベースポリマーの有機酸量を低減した両末端ジメチルビニルシロキサン基封鎖ポリジメチルシロキサンを用いた実施例1~6では、密閉状態での混合においても気泡が生じることなく、これを密着硬化に用いても、硬化物中に気泡の混入を抑制でき、光学部材の密着にも好適であることがわかった。
なお、比較例1,2においては、2成分を混合して、数分後には、多数の細かい気泡が確認でき、10分後には気泡が合体して比較的大きな気泡となって存在していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の2成分付加型シリコーン組成物は、光学部材の密着、特に画像表示装置の製造に好適に用いられるが、光学的な機能を有する部材に限らず、簡易な操作で密着を実施可能とするものであって、密着一般に幅広く用いることができる。