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  • 特許-医療用長尺体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】医療用長尺体
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/08 20060101AFI20240412BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
A61L29/08 100
A61L29/12 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020050915
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2020157062
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2019056766
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100186185
【弁理士】
【氏名又は名称】高階 勝也
(72)【発明者】
【氏名】當瀬 秀和
(72)【発明者】
【氏名】三浦 史之
(72)【発明者】
【氏名】朝本 康太
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-511144(JP,A)
【文献】特開2004-141630(JP,A)
【文献】特開2008-273913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、該芯材の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを備え、
該被覆層が、有機ポリシラザンを含む、
ガイドワイヤ
【請求項2】
前記被覆層の鉛筆硬度が6B未満である、請求項1に記載のガイドワイヤ
【請求項3】
前記被覆層の接触角が、100°~120°である、請求項1または2に記載のガイドワイヤ
【請求項4】
前記被覆層が形成された部分の長さが、400mm~2800mmである、請求項1から3のいずれかに記載のガイドワイヤ
【請求項5】
前記被覆層が形成された部分の長さが、前記芯材の長さに対して、8%~100%である、請求項1から4のいずれかに記載のガイドワイヤ
【請求項6】
前記芯材の一部に前記被覆層が形成され、該被覆層が形成されていない部分において、親水層が形成されている、請求項1から5のいずれかに記載のガイドワイヤ
【請求項7】
前記有機ポリシラザンが、一般式(1)で表される構成単位を含む、請求項1から6のいずれかに記載のガイドワイヤ
【化1】

式(1)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基を表し、R1、R2、R3のいずれか1つは水素原子以外であり、nは正の整数である。
【請求項8】
前記芯材が、ステンレス鋼から形成されている、請求項1から7のいずれかに記載のガイドワイヤ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用長尺体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤに代表される医療用長尺体は、体腔内に導入して用いられる。例えば、ガイドワイヤは、カテーテル等の医療用器具を人体の所定の目的部位を安全かつ確実に誘導するために、体腔内に導入して用いられる。このようにして用いられるガイドワイヤには、摺動性が求められ、また、体腔内の湾曲部の通過や手元操作のために折り曲げをさせるために、折曲性が求められる。従来のガイドワイヤにおいては、目的部位への体腔内への導入のために摺動性を確保する必要があるので、表面層としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)層が設けられることがある。しかしながら、PTFE層を備えるガイドワイヤは、摺動性が良好であるもののPTFE層の割れおよび脱離が生じやすいために、折曲性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2575238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、摺動性と折曲性とを有する医療用長尺体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の医療用長尺体は、芯材と、該芯材の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを備え、該被覆層が、有機ポリシラザンを含む。
1つの実施形態においては、上記有機ポリシラザンが、一般式(1)で表される構成単位を含む。
【化1】
式(1)中、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、または無置換若しくは置換基を有するアルケニル基を表し、R、R、Rのいずれか1つは水素原子以外であり、nは正の整数である。
1つの実施形態においては、上記芯材が、ステンレス鋼から形成されている。
1つの実施形態においては、上記被覆層が形成された部分の長さが、400mm~2800mmである。
1つの実施形態においては、上記被覆層の厚みが、2μm以下である。
1つの実施形態においては、上記芯材の一部に上記被覆層が形成され、該被覆層が形成されていない部分において、親水層が形成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有機ポリシラザンを含む被覆層を形成することにより、摺動性と折曲性とを併せもつ医療用長尺体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による医療用長尺体を説明する概略図である。
図2図2は、本発明の1つの実施形態による医療用長尺体の概略部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の1つの実施形態による医療用長尺体を説明する概略図である。図1においては、医療用長尺体の代表例としてガイドワイヤが示されている。また、図2は、本発明の1つの実施形態による医療用長尺体の概略部分縦断面図である。以下、ガイドワイヤを例に取り上げて、医療用長尺体について説明する。ガイドワイヤ100は、芯材10と、芯材10の表面の少なくとも一部を覆う被覆層20とを備える。被覆層20は、有機ポリシラザンを含む。
【0009】
1つの実施形態においては、芯材10は、基端(近位端)から先端(遠位端)に向けて細くなる形状であり得る。1つの実施形態においては、ガイドワイヤ100は、芯材10の先端に配置するコイル体30を備える。芯材10は、その先端においてコイル体30に内挿され得る。コイル体30を備えることにより、体腔内に押し込みやすく、また、座屈し難いガイドワイヤを得ることができる。なお、本明細書において、先端とは体腔内の治療領域に到達させる側の端部を意味し、基端とは先端とは反対側の端部を意味する。
【0010】
本発明のガイドワイヤは、本発明の効果が得られる限り図1に示す実施形態に限定されず、芯材の形状、コイル体の有無を含めた先端の形状等は、任意の適切な形状とすることができる。
【0011】
1つの実施形態においては、芯材10のコイル体30に内挿されていない部分において、芯材10の表面に被覆層20が形成されている。
【0012】
上記のようなガイドワイヤは、作業者が手元部(芯材の基端部近傍)を操作することで、体腔内に挿入される。挿入されたガイドワイヤは、カテーテル等の医療器具を体腔内所定位置に誘導するように機能する。本発明によるガイドワイヤは、特に、カテーテル等の医療器具に対する摺動性に優れ、当該ガイドワイヤを用いれば、作業性よく当該医療器具を誘導することができる。また、手元部に被覆層を形成する場合、挿入作業する者による取り扱い性が向上したガイドワイヤとすることができる。本発明の医療用長尺体は、上記のような構成のガイドワイヤに限ることなく、外周に摺動面を有する長尺体に好適に用いることができる。外周面が医療用器具や生体組織と摺動する際に、摩擦抵抗が少ないために本発明の医療用長尺体の操作をすることができる。上記被覆層は、少なくとも一部が最外層として形成され、外部に露出した状態として形成されている。
【0013】
さらに、本発明においては、上記被覆層が有機ポリシラザンから構成されていることにより、芯材の折曲性が低下し難く、折曲性に優れる医療用長尺体(例えば、ガイドワイヤ)を提供することができる。上記のガイドワイヤは、所望の経路(例えば、血管)に沿って、容易に挿入され得る。また、有機ポリシラザンから構成された被覆層は、芯材に対する密着性に優れ、脱離し難いという特徴を有する。本発明の医療用長尺体は、湾曲時においても被覆層が脱離し難いという点でも有利である。
【0014】
(芯材)
上記芯材の構成材料としては、金属材料が好ましく用いられる。芯材の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni-Ti系合金、Cu-Zn系合金、コバルト系合金等が挙げられる。なかでも好ましくは、ステンレス鋼である。芯材は、材料が異なる複数種の線材を連結して構成されていてもよい。
【0015】
上記芯材の長さは、代表的には、1000mm~3000mmである。なお、1つの実施形態においては、芯材の長さは医療用長尺体の長さに相当し得る。
【0016】
上記芯材の直径は、代表的には0.1mm~1.5mmである。
【0017】
(被覆層)
上記のとおり、被覆層は、有機ポリシラザンから構成される。有機ポリシラザンとは、-Si-N-を基本構造単位として有し、かつ、当該構造単位中に有機基を有するポリマーである。
【0018】
有機ポリシラザンとしては、例えば、一般式(1)で表される構成単位を含むポリマーが挙げられる。
【化2】
式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、または無置換若しくは置換基を有するアルケニル基を表し、R、R、Rのいずれか一つは水素原子以外である。nは正の整数である。
【0019】
無置換若しくは置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等の炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。
【0020】
無置換若しくは置換基を有するアルケニル基のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基等の炭素数2~10のアルケニル基が挙げられる。
【0021】
アルキル基およびアルケニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、チオール基、エポキシ基、グリシドキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-クロロフェニル基等が挙げられる。
【0022】
1つの実施形態においては、有機ポリシラザンは、一般式(2-1)で表される構成単位、(2-2)で表される構成単位および(2-3)で表される構成単位を含む。
【化3】
式(2-1)中、R1-2は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基である。
式(2-2)中、R2-1およびR2-2はそれぞれ独立して、無置換若しくは置換基を有するアルキル基である。
式(2-3)中、R3-1は、水素原子または無置換若しくは置換基を有するアルキル基である。R3-2は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基である。R3-3は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基であり、良好な密着性を得るために、置換基として-Si(OR)で表されるアルコキシシリル基(Rは1~20)を含んでいてもよい。これらの官能基は、芯材を構成する金属材料に対応させて適宜選択することができる。
【0023】
式(2-1)~(2-3)中、x、yおよびzは正の整数である。x、yおよびzの比は、(5~90):(5~90):(5~90)である。
【0024】
上記有機ポリシラザンは、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0025】
有機ポリシラザンの数平均分子量は、好ましくは500~4500である。このような範囲であれば、摺動性および折曲性に優れる医療用長尺体を得ることができる。
【0026】
上記被覆層の厚みは、各種物性を満たすものであれば、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下とすることで折曲性に優れた医療用長尺体を得ることができる。上記被覆層の厚みは、公知の方法により層形成を行う場合には、例えば、好ましくは0.1μm~10μmであり、より好ましくは0.5μm~5μmであり、さらに好ましくは1μm~2μmである。このような範囲であれば、折曲性に優れる医療用長尺体を得ることができる。
【0027】
上記被覆層が形成された部分の長さは、好ましくは400mm~2800mmであり、より好ましくは1300mm~2000mmである。また、被覆層が形成された部分の長さは、芯材の長さに対して、好ましくは8%~100%であり、より好ましくは8%~60%であり、さらに好ましくは10%~50%であり、特に好ましくは15%~40%である。なお、被覆層が形成された部分においては、芯材の全周にわたり被覆層が形成されていることが好ましい。また、被覆層が形成されていない部分においては、芯材の表面に親水層が形成されていてもよい。親水層の詳細は後述する。
【0028】
上記被覆層は、任意の適切な方法により形成することができる。1つの実施形態においては、有機ポリシラザンを含む被覆層形成用組成物を、芯材の所定の領域に塗工することにより、被覆層が形成される。上記被覆層形成用組成物は、有機ポリシラザンを所定の溶媒に溶解して調製され得る。
【0029】
上記溶媒としては、有機ポリシラザンを溶解させ得る限り、任意の適切な溶媒が用いられる。当該溶媒としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、2-メチルブタン、ネオペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、イソオクタン、ノナン、イソノナン、デカン等が挙げられる。
【0030】
上記被覆層形成用組成物における有機ポリシラザンの濃度は、好ましくは5重量%~40重量%であり、このような範囲であれば、均一性よく好ましい厚さの被覆層を形成することができる。
【0031】
上記被覆層形成用組成物の粘度は、コーティング可能な粘度であれば特に限定されるものではない。被覆層形成用組成物の粘度を適切に調整することにより、良好な被覆層を形成することができる。
【0032】
上記被覆層形成用組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法が採用される。代表的には、ディップコート法、スプレーコート法や流し塗り法などが採用される。
【0033】
医療用長尺体は、好ましくは、被覆層形成用組成物を芯材に塗布した後、加熱処理が行われる。加熱処理により、溶剤が揮発し、また、塗布層が硬化して、芯材に密着した被覆層が形成される。
【0034】
上記のようにして形成される被覆層は、芯材のOH基と有機ポリシラザンのSiH基との脱水反応;芯材のOH基と有機ポリシラザンのNH基との脱アンモニア反応;または有機ポリシラザンのSiN基が加水分解(例えば、雰囲気中の水分による加水分解)した後、芯材のOH基と加水分解により生じたシラノール基との脱水反応;等の作用により、芯材に密着し得る。
【0035】
被覆層の形成に際しては、芯材に任意の適切な表面処理を行ってもよい。例えば、芯材をカップリング処理した後に、被覆層形成用組成物を該芯材に塗工してもよい。カップリング処理に用いられるカップリング剤としては、例えば、エポキシ末端カップリング剤、アミノ基含有カップリング剤、メタクリル基含有カップリング剤、チオール基含有カップリング剤等が挙げられる。
【0036】
上記被覆層形成用組成物をSUS304板に塗工して塗工層を形成した際の該塗工層の純水に対する接触角は、好ましくは100°~120°であり、より好ましくは105°~115°である。このような塗工層を形成し得る被覆層形成用組成物を用いて被覆層を形成すれば、摺動性に優れる医療用長尺体を得ることができる。
【0037】
上記被覆層形成用組成物をSUS304板に塗工して塗工層を形成した際の該塗工層の静摩擦係数は、好ましくは0.05~0.15である。このような塗工層を形成し得る被覆層形成用組成物を用いて被覆層を形成すれば、摺動性に優れる医療用長尺体を得ることができる。
【0038】
上記被覆層形成用組成物をSUS304板に塗工して塗工層を形成した際の該塗工層の動摩擦係数は、好ましくは0.01~0.12である。このような塗工層を形成し得る被覆層形成用組成物を用いて被覆層を形成すれば、摺動性に優れる医療用長尺体を得ることができる。
【0039】
上記被覆層形成用組成物をSUS304板に塗工して塗工層を形成した際の該塗工層の鉛筆硬度は、例えば、6B未満である。鉛筆硬度が良好であることにより、摺動性に優れる医療用長尺体を得ることができる。さらに、摺動性を維持しつつも、被覆層が脱離し難い医療用長尺体を得ることができる。
【0040】
(親水層)
1つの実施形態においては、上記のとおり、芯材の被覆層が形成されていない部分には、該芯材の表面に親水層が形成される。また、医療用長尺体(例えば、ガイドワイヤ)がコイル体を有する場合、コイル体の表面に親水層が形成されていてもよい。親水層を形成することにより、体腔内での摺動性(特に治療領域近傍での摺動性)に優れる医療用長尺体(例えば、ガイドワイヤ)を得ることができる。
【0041】
親水層は、任意の適切な親水性材料を芯材に塗工して形成することができる。親水性材料としては、例えば、セルロース系、ポリエチレンオキサイド系、無水マレイン酸系、アクリルアミド系等の高分子材料が挙げられる。
【0042】
上記親水層が形成された部分の長さは、好ましくは100mm~1000mmであり、より好ましくは200mm~600mmである。また、親水層が形成された部分の長さは、芯材の長さに対して、好ましくは40%~92%であり、より好ましくは50%~90%であり、さらに好ましくは60%~85%である。
【0043】
(コイル体)
上記コイル体は、任意の適切な構造であり得る。コイル体は、例えば、任意の適切な線材を巻回して構成され得る。コイル体を構成する線材の材料は、特に限定されず、放射線造影材でもよく、放射線非造影材でもよい。放射線造影材としては、白金、白金合金(例えばPt/Ir=93/7)、金、金-銅合金、タングステン、タンタルなどのX線に対する造影性が良好な材料が挙げられる。放射線非造影材としては、ステンレス(例えばSUS316、SUS304)など等が挙げられる。コイル体には、親水処理が施されていてもよい。
【0044】
本発明の医療用長尺体は、金属表面を有する医療用具に用いることができ、特に、摺動性と折曲性とが要求されるガイドワイヤや穿刺針などの、湾曲が可能とされた体内挿入部または湾曲部を有する体内挿入部を有する医療用具に好適である。
【実施例
【0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。また、実施例において、特に明記しない限り、「部」および「%」は重量基準である。
【0046】
[実施例1]
SUS304から構成される線材を芯材として用い、下記構造式(3-1)~(3-3)で表される構造単位を有する有機ポリシラザンを含む炭化水素系溶剤に溶解して調製された被覆層形成用組成物A(有機ポリシラザン濃度:約20重量%)を該芯材に塗布し、約110~130℃で約2時間加熱して、芯材表面に厚さ1μmの被覆層を形成させてガイドワイヤを想定した評価サンプル(1)を作製した。評価サンプル(1)について、下記の評価方法により、防汚性、鉛筆硬度、および折曲性を評価した。結果を表1に示す。
【化4】
<防汚性>
塗工層に油性インク(ZEBRA社製、商品名「ハイマッキー赤」)を連続5回塗り込み、インクの弾き性を目視及びマイクロスコープで確認した。
また、上記塗り込み後1分間経過した後に、ワイパーにより、インクが拭き取り可能であるかを確認した。
弾き性については、連続5回の重ね塗り後のインクの塗り跡に、塗布位置よりもインキが収縮するなどの、インキの弾きが見られたものを○とし、インキの弾きがないものを×とした。
<鉛筆硬度>
JIS K 5400-5-4に準じて、塗工層の鉛筆硬度を測定した。鉛筆硬度が6B以下のものを○とし、鉛筆硬度が6Bより硬いものを×とした。
<折曲性>
評価サンプル(1)を任意の一か所から折り曲げて、二つ折り状となるように、約180°に1回折り曲げた。折り曲げた状態で放置後、折り曲げた部位の被膜状態を市販のマイクロスコープで拡大して、被膜の割れや剥離の有無を目視により観察した。
【0047】
また、実施例1で用いた被覆層形成用組成物AをSUS板(市販品)に塗布して、評価サンプル(1)と同様の被膜形成を行い、評価サンプル(2)を得た。得られた評価サンプル(2)について、下記の評価方法により、接触角(純水)と摩擦係数とを測定した。結果を表2に示す。
<接触角(純水)>
協和界面科学社製の商品名「DropMaster500」を用いて、純水(液量2μL)の接触角を測定した。
<摩擦係数>
新東化学株式会社製の「表面性測定機トライボステーション TYPE:32」を用い、下記の条件にて、塗工層の静摩擦係数および動摩擦係数を測定した。
(摩擦係数測定条件)
荷重:100g
圧子:平面圧子(10mm×10mm)
移動速度:30mm/min(静摩擦係数)、600mm/min(動摩擦係数)
【0048】
〔比較例〕
被覆層としてPTFE層を備える市販のガイドワイヤを入手し、評価サンプル(1)と同様に、防汚性、鉛筆硬度、および折曲性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
[結果]
実施例1で得られた評価サンプル(1)は、折り曲げ箇所を目視およびマイクロスコープにて観察したところ、被覆層の割れ、脱離は確認されず、被覆層は優れた密着性で形成されていることが分かった。また、評価サンプル(1)は、防汚性と鉛筆硬度も良好であった。これに対して、比較例1の市販品は、防汚性と鉛筆硬度が良好であったが、折り曲げ箇所の被覆層が剥がれてしまい、折曲性は不良であった。
実施例1の被覆層形成用組成物Aについては、評価サンプル(2)について、接触角(純水)も108°と優れた撥水性を有し、静摩擦係数が0.095、動摩擦係数0.057と優れた摺動性を有していた。つまり、実施例1の被覆層形成用組成物Aより得られた医療用長尺体は、体腔内での挿入性に優れていることがわかる。
このような被覆層形成用組成物により被覆層を形成すれば、防汚性および鉛筆硬度が優れ、更に折曲性にも優れた医療用長尺体を得ることができる。本発明の医療用長尺体は、PTFEにより被覆された医療用長尺体と同等あるいは同等以上の摺動性および防汚性を有しながら、実施例1で示すように、被覆層の割れ、脱離等なく折曲性に優れる点で有利である。
【符号の説明】
【0052】
10 芯材
20 被覆層
30 コイル体
100 医療用長尺体(ガイドワイヤ)
図1
図2