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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/20 20060101AFI20240412BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C08L23/20
C08K5/13
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020054270
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155488
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 愛由
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】田中 正和
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/015121(WO,A1)
【文献】特開2010-222531(JP,A)
【文献】特開2013-249387(JP,A)
【文献】特開2014-189632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/20
C08K 5/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体と、該4-メチル-1-ペンテン(共)重合体100質量部に対して、融点が130~150℃の範囲にあり、且つ分子量が550~1200の範囲にある、フェノール系酸化防止剤0.9質量部以上、1.4質量部以下とを含有する樹脂組成物。
【請求項2】
硫黄、リンおよびカルシウムの含有量がそれぞれ10ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を含んでなる成形体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を含んでなるフィルム。
【請求項5】
コンデンサ用フィルムである、請求項に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
4-メチル-1-ペンテン共重合体は、ポリエチレンやポリプロピレンに比べて、耐熱性、透明性および電気特性等の特性に優れ、各種用途に広く使用されている。(例えば、特許文献1参照)。具体的には、4-メチル-1-ペンテン共重合体からなるコンデンサ用フィルムが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、ポリオレフィン樹脂に4-メチル-1-ペンテン共重合体を混合させたコンデンサ用フィルムが知られている(例えば、特許文献3参照)。
一般的にポリプロピレンフィルムには長期熱安定性を保持するために、一次酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤、二次酸化防止剤としてフォスファイト系酸化防止剤が組み合わせて使用されており、それら酸化防止剤を併用することでより効果を発揮することが可能である。(例えば、特許文献4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/050817号
【文献】特開2014-11182号公報
【文献】特開平9-270361号公報
【文献】特開2019-111826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、コンデンサに対して、高温、長期課電時における耐久性の更なる向上に関する要求が厳しくなってきている。本発明の課題は、過酷な高温雰囲気の環境で使用されても十分な品質を維持できる高い耐熱性を備えており、成形中の熱安定性(プロセス安定性)に優れ、かつ長期安定性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体と特定の安定剤とを含む樹脂組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0007】
本発明は、例えば下記[1]~[6]に関する。
[1] 4-メチル-1-ペンテン(共)重合体と、該4-メチル-1-ペンテン(共)重合体100質量部に対して、融点が75~150℃の範囲にあり、且つ分子量が550~1200の範囲にある安定剤0.9質量部以上、1.4質量部以下とを含有する樹脂組成物。
[2] 硫黄、リンおよびカルシウムの含有量がそれぞれ10ppm以下であることを特徴とする[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記安定剤は、フェノール系酸化防止剤であることを特徴とする[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物を含んでなる成形体。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物を含んでなるフィルム。
[6] コンデンサ用フィルムである、[5]に記載のフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温環境下で使用されても十分な品質を維持できる高い耐熱性を備え、かつ、成形中の熱安定性(プロセス安定性)および長期安定性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体と安定剤とを含有する。
(4-メチル-1-ペンテン(共)重合体)
本発明の樹脂組成物に含まれる4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を有していればよく、それ以外の制限は特にない。つまり、前記4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体であってもよく、4-メチル-1-ペンテンと他の単量体との共重合体であってもよい。
【0010】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率は、通常、85モル%以上であり、好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
【0011】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体における、4-メチル-1-ペンテンと共重合するモノマー(以下、コモノマーともいう)は、4-メチル-1-ペンテンと共重合することが可能なモノマーであれば特に制限はない。コモノマーは、入手の容易さや共重合特性などの観点から、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィンが好ましく例示される。
【0012】
前記炭素原子数3~20のα-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、プロセス安定性および長期安定性の観点から、炭素数8以上のα-オレフィンが好ましく、10以上のα-オレフィンがより好ましく、12以上のα-オレフィンがさらに好ましい。
【0013】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体におけるコモノマーから導かれる構成単位の含有率は、通常は15モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0014】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体の、荷重5kg、温度260℃の条件にてASTM D1238に準じて測定したメルトフローレート(MFR)は、特に制限はないが、通常1~400g/10分であり、好ましくは2~200g/10分であり、さらに好ましくは5~100g/10分の範囲である。4-メチル-1-ペンテン(共)重合体のメルトフローレートが上記範囲内にあると、樹脂組成物の成形性および樹脂組成物から得られる成形体の外観が良好となる。
【0015】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体の融点は、特に制限はないが、通常100~240℃であり、好ましくは150~240℃である。
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体のメソダイアッドアイソタクティシティー(メソダイアッド分率)は、特に制限はないが、通常85~100%、好ましくは90~100%、より好ましくは95~100%である。
【0016】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、従来公知の方法で製造することができ、例えば国際公開2006/054613号パンフレットの比較例9に開示された方法によって製造することができる。
【0017】
(安定剤)
本発明の樹脂組成物に含まれる安定剤は、樹脂組成物の劣化を抑制する成分である。本発明において安定剤とは、樹脂の自動酸化すなわちラジカル連鎖成長を停止する添加剤である。前記安定剤には、酸化防止剤、光安定剤などが包含される。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、下記の性質を有する安定剤を下記の比率で含むことにより、高温環境下で使用されても十分な品質を維持できる高い耐熱性を備え、かつ、成形中のプロセス安定性および長期安定性に優れた樹脂組成物となる。
【0019】
前記安定剤の融点は75~150℃である。好ましくは、90~145℃であり、さらに好ましくは100~140℃であり、特に好ましくは110~130℃である。融点が150℃より高いと、安定剤の樹脂への溶解度が低くなり、安定剤の効果が得られにくくなる。また融点が75℃より低いと、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体と安定剤との溶融混練時に酸化防止剤等の安定剤が樹脂より早く融解してしまうことで、混練中に安定剤が消費され、長期安定性に対する効果が低くなる。
【0020】
前記安定剤の分子量は550~1200である。好ましくは、600~1200であり、更に好ましくは700~1200である。分子量が上記の範囲にあると、樹脂組成物における安定剤の移行性が小さくなり、安定剤が長く樹脂内に滞在することが可能である。
【0021】
安定剤の種類としては酸化防止剤が好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が好ましく、例えば、テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(融点:130℃、分子量:1178)、3,9-ビス-〔2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(融点:120℃、分子量:741)、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](融点:108℃、分子量:639)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](融点:79℃、分子量:587)などを例示することができるが、中でもテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9-ビス-〔2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが挙げられる。上記の酸化防止剤を用いると、長期安定性の点から好ましい。
【0022】
また、酸化防止剤としてはリン、硫黄およびカルシウムが含まれないフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0023】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、安定剤の他、各種の添加剤を含有していてもよい。各種の添加剤の例には、可塑剤が含まれる。可塑剤の例には、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系等の鉱油類;α-オレフィン類のオリゴマ-、コオリゴマ-;エステル系可塑剤;各種植物油;動物油などが含まれる。さらに、本発明の樹脂組成物には、スリップ剤、核剤、顔料、染料などの、通常のポリオレフィンに添加して使用される各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加されうる。
【0024】
また、本発明の樹脂組成物は、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体に加えて、他の樹脂を含有していてもよい。他の樹脂の例には、ポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリエステル類などが含まれる。
【0025】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、前述のとおり、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体と安定剤とを含有し、さらにその他の成分を含有し得る。
【0026】
本発明の樹脂組成物において、安定剤の含有量は、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体100質量部に対して、0.9質量部以上、1.4質量部以下である。安定剤の含有量は前記範囲内であると、高い耐熱性を備え、かつ、プロセス安定性および長期安定性に優れた樹脂組成物を得ることができる。安定剤の含有量は、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体100質量部に対して、0.9質量部以上、1.3質量部以下であることが好ましく、0.9質量部以上、1.2質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、硫黄、リンおよびカルシウムの含有量がそれぞれ10ppm以下であることが好ましい。硫黄、リンおよびカルシウムの含有量がそれぞれ10ppm以下であるとコンデンサ用フィルムとして使用したとき導電性化合物の生成が抑制されて電気短絡が起こりにくくなり、自己回復性(セルフヒーリング特性)や絶縁破壊特性に優れた樹脂組成物を得られる。本発明の樹脂組成物において、硫黄、リンおよびカルシウムの含有量はそれぞれ7ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、前述のとおり、高温環境下で使用されても十分な品質を維持できる高い耐熱性を備え、かつ、プロセス安定性および長期安定性に優れる。プロセス安定性は、例えば、成形前後におけるメルトフローレートの変化により評価することができる。長期安定性は、例えば、保存前後におけるメルトフローレートの変化により評価することができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物の調製方法は、溶融法、溶液法等、特に限定されないが、実用的には溶融混練方法が好ましい。溶融混練方法としては、熱可塑性樹脂について一般に実用されている溶融混練方法が適用できる。例えば、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体および安定剤、さらに必要に応じてその他の成分を、一軸または多軸混練押出機、混練ロール、バッチ混練機、ニーダー、バンバリーミキサー等で混練することにより調製することができる。溶融混練温度(例えば、押出機ならシリンダー温度)は、通常220~320℃、好ましくは250~300℃である。
【0030】
本発明の樹脂組成物から、各種成形方法により、高い耐熱性を備え、かつ、プロセス安定性および長期安定性に優れた各種の成形体を製造することができる。成形方法としては特に限定されないが、例えば射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、カレンダー成形、発泡成形などの公知の成形方法を挙げることができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物から得られる好適な成形体としてフィルムが挙げられる。このフィルムは、例えばコンデンサ用フィルム等として好適に用いることができる。
本発明の樹脂組成物から得られるフィルムは、膜厚を、例えば20~1000μm、好ましくは25~500μm、より好ましくは30~200μmとすることができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物から得られるフィルムは、所望の延伸倍率で延伸することができ、実用上多く用いられる1~250μm程度の厚みの延伸フィルムを得ることができる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法および同時二軸延伸法のいずれの方法であってもよいが、製膜安定性および厚み均一性の点から、逐次二軸延伸法が好ましい。延伸倍率は、フィルム長手方向とフィルム幅方向にそれぞれ独立に通常1.01~11.0倍、好ましくは1.4~9.5倍、より好ましくは2.0~9.0倍である。また、二軸延伸後、フィルムMDまたはフィルムTDに再延伸してもよい。また、二軸延伸後、アニール処理を行ってもよい。アニール温度は、通常は100~230℃、好ましくは130~220℃である。延伸倍率1.01~11倍の延伸フィルムは、その機械的諸特性や光学的諸特性を適切に制御されうる。
【0033】
前記フィルムは、任意の方法で製造することができ、製法に特に制限はない。例えば、本発明の樹脂組成物を、溶融押出や、溶融流延することによってフィルム成形することにより得ることできる 。
【0034】
なかでも好ましい製造方法として、以下の製法aおよび製法bを挙げることができる。
製法a: 下記工程(a1)~(a3)を有する製法。(a1)樹脂組成物をダイから溶融押出しする工程。(a2)前記工程により得られた被押出し体を5℃以上25℃以下の冷却ロールに静電密着法で固着する工程。(a3)前記被押出し体を前記冷却ロール上で冷却固化する工程。
【0035】
製法aによれば、被押出し体である樹脂フィルムが冷却ロール上で急冷されるので 、樹脂フィルム中の非晶化部の割合が向上する。非晶化部の割合の高い樹脂フィルムは、 更に容易な均一延伸が可能となる。製法aにより製造される樹脂フィルムの膜厚は20μ m以上100μm以下であることが好ましい。冷却ロールで効率的に樹脂フィルムを冷却するためである。
【0036】
また、製法aにおける、樹脂組成物には、静電密着時のイオン伝導性を付与するため、添加剤および/またはフィラーが添加されていることが好ましく、それにより300℃での溶融樹脂の交流体積抵抗率(20V100HZで、10℃/minで昇温し、4分後測定)を1×108~1×1012Ω・cmにすることが好ましい。静電密着法により、被押出し体である樹脂フィルムを、冷却ロールに密着性よく固着するためである。静電密着法とは、フィルムの片面に静電荷を付与し、この静電力でシートを冷却ロールに密着させる方法をいう。
【0037】
製法b: 下記工程(b1)~(b3)を有する製法。(b2)樹脂組成物をダイから溶融押出しする工程。(b2)前記工程により得られた被押出し体を、5℃以上30℃以下の対向する複数の冷却ロール間に進入させる工程。(b3)前記被押出し体を前記冷却ロール間で冷却固化する工程。
【0038】
製法bによれば、被押出し体である樹脂フィルムが、複数の冷却ロール間に狭圧された まま冷却されるので、比較的膜厚の大きな樹脂フィルムも冷却されやすく、非晶化部の割合が高まり、均一延伸しやすくなる。前記の通り、本発明の樹脂組成物から得られるフィルムの膜厚は、20μm以上1000μm以下であることが好ましいが、比較的膜厚の大きいフィルムを製造する場合には、製法bを採用することが好ましい。
【0039】
樹脂フィルムを狭圧する複数の冷却ロールのうち、キャストロールは金属キャストロー ルであることが好ましく、かつタッチロールは、可撓性を有する薄肉金属外筒を有するフ レキシブルロールまたはスリーブタッチロールであることが好ましい。
【0040】
前記フィルムを延伸して得られた延伸フィルムは、好適には、膜厚が1μm以上250μm以下である。
前記延伸フィルムは、その用途に応じて所望の膜厚に設定されうる。延伸フィルムの用途は特に限定されず、包装用、医療用、光学用、電気電子用などの各種用途に適用されうる。これらの用途に適用するには、通常、膜厚が1μm以上250μ m以下であることが好ましい。
【0041】
製法c: 下記工程(c1)および(c2)を有する製法。(c1)樹脂組成物から得られるフィルムを、160℃以上190℃以下の延伸温度において、1.01倍以上11倍以下の延伸倍率でフィルム長手方向またはフィルム幅方向に延伸する工程。(c2)前記工程 (c1)で得られた延伸フィルムをヒートセットする工程。
【0042】
製法cにおいて用いられる樹脂組成物から得られるフィルムは、前記製法aまたは製法bにより製造されたフィルムでありうる。
延伸温度が低すぎると、ネッキング延伸が発生することがあり;ネッキング延伸が発生 すると、延伸フィルムの膜厚が不均一となることがあり好ましくない。一方、延伸温度が高すぎると、所定の延伸倍率が得られなくなるだけでなく、膜厚分布が大きくなる恐れが あり、好ましくない。また、延伸倍率が低すぎると、横延伸樹脂フィルムのヘイズを低減したり、熱膨張率を低減したりすることができず、かつ機械特性も改善されにくいため好ましくない。
【実施例
【0043】
本発明の樹脂組成物について、下記の例により具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
製造例
4-メチル-1-ペンテン共重合体を、国際公開2006/054613号パンフレットの比較例9の方法に準じ、4-メチル-1-ペンテン(以下、「4MP1」とも記す)、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、水素の割合を変更することによって製造した。
【0044】
〈ペレット作製〉
前記製造例に示す4-メチル-1-ペンテン共重合体の製造を複数回実施して、ペレット作製に十分な量の共重合体を用意した。共重合体100質量部に対して、二次抗酸化剤としてトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.1質量部、耐熱安定剤としてn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-
ブチルフェニル) プロピネートを0.1質量部配合した。然る後に、(株)プラスチック工学研究所社製2軸押出機BT-30(スクリュー系30mmφ、L/D46)を用い、設定温度260℃ 、樹脂押出量60g/minおよび回転数200rpmの条件で共重合体を造粒して、評価用ペレットを作製した。
得られた評価用ペレットに対し、下記の物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[構成単位の含量]
4-メチル-1-ペンテン共重合体中の4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキサデセンおよび1-オクタデセンから導かれる構成単位の含量は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルによって算出した。
【0046】
ブルカー・バイオスピン製AVANCEIIIcryo-500型核磁気共鳴装置を用いて、溶媒はo-ジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1 v/v)混合溶媒、試料濃度は55mg/0.6mL、測定温度は120℃ 、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は5.0μ秒(45°パルス)、繰返し時間は5.5秒、積算回数は64回とし、ベンゼン-d6の128ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。主鎖メチンシグナルの積分値を用い、下記式によってコモノマー由来の構成単位の含量を算出した。
【0047】
コモノマー由来の構成単位の含量(%)=[P/(P+M)]×100
ここで、Pはコモノマー主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示し、Mは4-メチル-1-ペンテン主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示す。
【0048】
[メソダイアッド分率]
4-メチル-1-ペンテン共重合体のメソダイアッドアイソタクティシティー(メソダイアッド分率)は、ポリマー鎖中の任意の2個の頭尾結合した4-メチル-1-ペンテン単位連鎖を平面ジグザグ構造で表現した時、そのイソブチル分岐の方向が同一である割合と定義し、13C-NMRスペクトルから下記式により求めた。
【0049】
アイソダイアッドタクティシティー(%)=[m/(m+r)]×100
(式中、m、rは下記式で表される頭-尾で結合している4-メチル-1-ペンテン単位の主鎖メチレンに由来する吸収強度を示す。)
13C-NMRスペクトルは、バルカー・バイオスピン製AVANCEIIIcryo-500型核磁気共鳴装置を用いて、溶媒はo-ジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1v/v) 混合溶媒、試料濃度は60mg/0.6mL、測定温度は120℃ 、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は5.0μ秒(45°パルス)、繰返し時間は5.5秒とし、ベンゼン-d6の128ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。
【0050】
ピーク領域は、41.5~43.3ppmの領域をピークプロファイルの極小点で区切り、高磁場側を第1領域、低磁場側を第2領域に分類した。
第1領域では、4-メチル-1-ペンテン単位2連鎖中の主鎖メチレンが共鳴する。第1領域を4-メチル-1-ペンテン単独重合体とみなし、その積算値を「m」とした。第2領域では、4-メチル-1-ペンテン単位2連鎖中の主鎖メチレンが共鳴し、その積算値を「r」とした。なお、0.01%未満を検出限界以下とした。
【0051】
[ メルトフローレート(MFR)]
メルトフローレート(MFR)はASTM D1238に準拠して260℃ 、5kg荷重の条件で測定した。
[融点]
セイコーインスツル社製DSC測定装置(DSC220C)を用い、測定用アルミパンに約5mgの試料をつめて、10℃/minで280℃まで昇温した。280℃で5 分間保持した後、10℃/minで20℃まで降温させた。20℃で5分間保持した後、1 0℃/minで280℃まで昇温した。2回目の昇温時に観測された結晶溶融ピークの頂点が現れる温度を融点とした。
【0052】
【表1】
【0053】
下記実施例および比較例において用いた測定法および評価法について説明する。
〈メルトフローレート(MFR)〉
樹脂組成物のメルトフローレートは、ASTM D1238に準拠して荷重5kg、温度260℃の条件で、株式会社東洋精機製作所製メルトインデクサーG-01型を用いて測定した。
【0054】
〈プロセス安定性〉
溶融混練前の共重合体および溶融混練後のペレットに対してそれぞれのMFRの測定を行い、ΔMFRフ゜ロセス安定性を下記の式より求めた。
ΔMFRフ゜ロセス安定性=溶融混練後MFR-溶融混練前MFR [g/10min]
プロセス安定性評価は以下のように行った。
【0055】
◎:ΔMFRフ゜ロセス安定性が20 g/10min未満であった。
〇:ΔMFRフ゜ロセス安定性が20 g/10min以上30 g/10min未満であった。
×:ΔMFRフ゜ロセス安定性が30 g/10min以上であった。
【0056】
〈長期安定性評価〉
溶融混練により得られたペレットを、空気雰囲気下160℃の乾燥機に投入し150時間加熱を行った。加熱前および加熱後のペレットに対してMFRの測定を行い、ΔMFR長期安定性を下記の式より求めた。
【0057】
ΔMFR長期安定性=加熱後MFR-加熱前MFR [g/10min]
長期安定性評価は以下のように行った。
〇:ΔMFR長期安定性が20 g/10min未満であった。
△:ΔMFR長期安定性が20 g/10min以上100g/10min未満であった。
×:加熱後MFRが高すぎてMFRは測定不能であった。
【0058】
〈ブリードアウト〉
フィルムを、空気雰囲気下160℃の乾燥機に投入し、1時間加熱を行った。加熱後のフィルムにより、ブリードアウトの評価を目視で以下のように行った。
ここではフィルムの白化が生じたとき、ブリードアウトしたと判断した。
〇:ブリードアウトなし
×:ブリードアウトあり
【0059】
〈ポリマー中の元素分析〉
溶融混練により得られたペレットに硫酸を添加して加熱しながら、徐々に酸を加えて湿式分解を行った。希釈液を添加しサーモフィッシャーサイエンティフィック製のICP-MS ELEMENT2を用いてリン、硫黄、カルシウムの定量分析を行った。検出下限は10ppmであった。
【0060】
実施例および比較例において用いた安定剤は以下のとおりである。
安定剤1: テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(BASF製、商品名:イルガノックス1010、ヒンダードフェノール系化合物、融点130℃、分子量1178)
安定剤2: 3,9-ビス-〔2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(ADEKA製、商品名:アデカスタブAO-80、融点120℃、分子量741)
安定剤3:2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレンADEKA製、商品名:アデカスタブAO-330、融点245℃、分子量775)
安定剤4:ジブチルヒドロキシトルエン(東京化成工業製、商品名:2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、融点72℃、分子量220)
【0061】
実施例1
4-メチル-1-ペンテン共重合体粉末100重量部に対して、安定剤1を0.9重量部混合して、二軸押出機(池貝鉄工(株)製、PCM43)で300℃溶融混練し、押出成形してペレット(樹脂組成物)を得た。
【0062】
次に上記にて得られたペレットを、株式会社田中鉄工所社製単軸シート成形機を用い、シリンダ温度280℃、ダイス温度280℃、ロール温度80℃および引取速度2.5m/minの条件で溶融キャスト成形して、厚さ30μmのフィルムを得た。
【0063】
上記測定の結果を表2に示す。表2からわかるように、実施例1では、長期安定性、ブリードアウトいずれにおいても優れた樹脂組成物及びフィルムを得ることができた。
【0064】
実施例2
安定剤1の添加量を1.0重量部とした以外は、実施例1と同様に樹脂組成物及びフィルムを作成し測定を行った。測定結果を表2に示す。
表2から明らかなように、実施例2では、長期安定性、ブリードアウトにおいて優れた樹脂組成物及びフィルムを得ることができた。
【0065】
実施例3
安定剤1の添加量を1.2重量部とした以外は、実施例1と同様に樹脂組成物及びフィルムを作成し測定を行った。測定結果を表2に示す。
表2から明らかなように、実施例3では、長期安定性、ブリードアウトにおいて優れた樹脂組成物及びフィルムを得ることができた。
【0066】
参考例4
4-メチル-1-ペンテン共重合体粉末100重量部に対して、安定剤1を安定剤2に変更し、添加量1.2重量部とした以外は、実施例1と同様に樹脂組成物及びフィルムを作成し測定を行った。測定結果を表2に示す。
表2から明らかなように、参考例4では、長期安定性、ブリードアウトにおいて優れた 樹脂組成物及びフィルムを得ることができた。
【0067】
比較例1
安定剤1の添加量を0.7重量部とした以外は、実施例1と同様に樹脂組成物及びフィルムを作成し測定を行った。測定結果を表2に示す。
表2から明らかなように、比較例1では、フィルムのブリードアウトは生じなかったものの、長期安定性が悪く、実用化可能な樹脂組成物が得られなかった。
【0068】
比較例2
安定剤1の添加量を1.5重量部とした以外は、実施例1と同様に樹脂組成物及びフィルムを作成し測定を行った。測定結果を表2に示す。
表2から明らかなように、比較例2では、長期安定性は優れていたものの、フィルムのブリードアウトが生じ、実用化可能な樹脂組成物が得られなかった。
【0069】
比較例3
4-メチル-1-ペンテン共重合体粉末100重量部に対して、安定剤1を安定剤3に変更し、添加量1.0重量部とした以外は、実施例1と同様に樹脂組成物及びフィルムを作成し測定を行った。測定結果を表2に示す。
表2から明らかなように、比較例3では、フィルムのブリードアウトは生じなかったものの、長期安定性が悪く、実用化可能な樹脂組成物が得られなかった。
【0070】
比較例4
4-メチル-1-ペンテン共重合体粉末100重量部に対して、安定剤1を安定剤4に変更し、添加量0.9重量部とした以外は、実施例1と同様に樹脂組成物及びフィルムを作成し測定を行った。測定結果を表2に示す。
表2から明らかなように、比較例4では、フィルムのブリードアウトは生じなかったものの、長期安定性が悪く、実用化可能な樹脂組成物が得られなかった。
【0071】
【表2】