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特許7471136天井式クレーンの運転計画方法及び装置、並びに、天井式クレーンの制御方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】天井式クレーンの運転計画方法及び装置、並びに、天井式クレーンの制御方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/48 20060101AFI20240412BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B66C13/48 C
B66C13/22 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020076040
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021172472
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 卓也
(72)【発明者】
【氏名】戸田 郁人
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 薫
(72)【発明者】
【氏名】古賀 毅
(72)【発明者】
【氏名】前場 友秀
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-129707(JP,A)
【文献】特開昭58-139989(JP,A)
【文献】特開2012-193022(JP,A)
【文献】特開2004-284737(JP,A)
【文献】米国特許第05219420(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/48
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの運転計画方法であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを取得すること、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、及び、
前記バケットの前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記水平減速終了点の位置と、前記トロリの前記巻下げ開始点及び前記減速開始点の位置と、前記巻下げ速度スケジュールと、前記減速速度スケジュールとを含む運転計画を生成すること、を含む、
天井式クレーンの運転計画方法。
【請求項2】
前記横行装置及び前記走行装置による前記トロリの最大移動速度と、前記二次元経路を通る前記障害物の高さ情報とを取得すること、及び、
前記定格巻下げ速度と前記最大移動速度との比を傾きとし、前記二次元経路を通る前記障害物の垂直断面のプロファイルと接する直線と、前記終点を通る垂線との交点を求め、当該交点を前記水平減速終了点と規定することを、更に含む、
請求項1に記載の天井式クレーンの運転計画方法。
【請求項3】
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの制御方法であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを取得すること、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、
前記バケットが前記始点から前記最大高さまで上昇するように、前記ロープの巻上げを開始すること、
前記バケットが前記最大高さまで到達する前又は後に前記トロリの移動を開始すること、
前記トロリが前記減速開始点に到達すると、前記減速速度スケジュールに従って前記トロリの移動を減速させること、及び、
前記トロリが前記巻下げ開始点に到達すると、前記巻下げ速度スケジュールに従って前記ロープを巻下げること、を含む、
天井式クレーンの制御方法。
【請求項4】
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの運転計画を生成する天井式クレーンの運転計画装置であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを記憶した記憶装置と、
プログラムが記憶された少なくとも1つのメモリと、
前記記憶装置及び前記メモリとアクセス可能に接続され、前記プログラムを実行することにより、前記メモリ及び前記記憶装置に記憶された情報を利用して処理を行う少なくとも1つのプロセッサとを備え、
前記プロセッサが、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、及び、
前記バケットの前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記水平減速終了点の位置と、前記トロリの前記巻下げ開始点及び前記減速開始点の位置と、前記巻下げ速度スケジュールと、前記減速速度スケジュールとを含む運転計画を生成すること、を行う、
天井式クレーンの運転計画装置。
【請求項5】
前記記憶装置に、前記横行装置及び前記走行装置による前記トロリの最大移動速度と、前記二次元経路を通る前記障害物の高さ情報とが記憶されており、
前記プロセッサが、前記定格巻下げ速度と前記最大移動速度との比を傾きとし、前記二次元経路を通る前記障害物の垂直断面のプロファイルと接する直線と、前記終点を通る垂線との交点を求め、当該交点を前記水平減速終了点と規定することを行う、
請求項4に記載の天井式クレーンの運転計画装置。
【請求項6】
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの制御装置であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを記憶した記憶装置と、
前記トロリの位置を検出する位置検出器と、
前記バケットの高さを検出する高さ検出器と、
プログラムが記憶された少なくとも1つのメモリと、
前記記憶装置、前記位置検出器、前記高さ検出器、及び前記メモリとアクセス可能に接続され、前記プログラムを実行することにより、前記メモリ及び前記記憶装置に記憶された情報を利用して処理を行う少なくとも1つのプロセッサとを備え、
前記プロセッサが、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、
前記バケットが前記始点から前記最大高さまで上昇するように、前記巻上装置に前記ロープの巻上げを開始させること、
前記バケットが前記最大高さまで到達する前又は後に、前記横行装置及び前記走行装置に前記トロリの移動を開始させること、
前記トロリが前記減速開始点に到達すると、前記横行装置及び前記走行装置に前記減速速度スケジュールに従って前記トロリの移動を減速させること、及び、
前記トロリが前記巻下げ開始点に到達すると、前記巻上装置に前記巻下げ速度スケジュールに従って前記ロープを巻下げさせること、を行う、
天井式クレーンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井式クレーンの運転計画の生成技術及びこの運転計画を用いた天井式クレーンの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ごみ処理施設等において、ピットに貯蔵されたごみの移載や搬出には、「ごみクレーン」と称される天井式クレーンが用いられている。一般に、天井式クレーンは、走行軌道と、走行軌道を走行するガーダ(又は橋桁)と、ガーダに沿って横行するトロリと、トロリに搭載された巻上装置と、巻上装置のドラムに巻き掛けられたロープに吊るされたバケットとを備える。ごみクレーンにおいて、バケットは移送されるごみの態様に応じてグラブ型、フォーク型、ポリップ型などの複数の種類から適宜選択される。特許文献1,2は、この種のごみクレーンの制御技術を開示している。
【0003】
特許文献1のごみクレーンの制御方法では、ピット内の番地ごとのごみ高さ情報であるごみ高さマップに基づいて、バケットの横行範囲と走行範囲で囲まれた領域の中で一番高いごみ高さより所定の高さだけ加算した高さまでバケットを巻き上げてから、バケットの横行及び走行を行うようにごみクレーンが制御される。ピット内の番地ごとのごみ高さは、ピットのステレオ像の視差に基づいて計測される。
【0004】
特許文献2のごみクレーンの制御方法では、ロープの巻上げ動作とバケットの横行動作とが同時に進行可能であり、吊り荷を任意の移動軌跡に沿って移動させるにあたり、吊り荷が障害物(ごみ)と衝突しないように逐次移動軌跡が更新される。移動軌跡は、移動の始点の座標と、終点の座標と、始点から終点までの経路上に存在する障害物の座標と、吊り荷の重さに応じた巻上げ運転可能最大速度指令値及び横行運転可能最大速度指令値とを入力とし、吊り荷が通過する座標を算出することにより求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-27779号公報
【文献】特開2017-165539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天井式クレーンの稼働率を向上(低減)するためにはバケットの移動所要時間の短縮が不可欠である。バケットの移動所要時間を短縮するためには、バケットの走行速度・横行速度を増加させることが考えられる。しかし、バケットの走行・横行の加速度・減速度が大きくなるに伴ってバケットの振れが大きくなる。バケットは、振れていない状態で目的地に停止させなければならず、そのため、従来はバケットの振れが抑えられるような加速度・減速度でバケットを走行・横行させていた。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バケットが振れていない状態で目的地(終点)に停止させることと、バケットの移動所要時間の短縮とを両立する、天井式クレーンの制御技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る天井式クレーンの運転計画方法は、
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの運転計画方法であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを取得すること、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、及び、
前記バケットの前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記水平減速終了点の位置と、前記トロリの前記巻下げ開始点及び前記減速開始点の位置と、前記巻下げ速度スケジュールと、前記減速速度スケジュールとを含む運転計画を生成すること、を含むことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の一態様に係る天井式クレーンの制御方法は、
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの制御方法であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを取得すること、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、
前記バケットが前記始点から前記最大高さまで上昇するように、前記ロープの巻上げを開始すること、
前記バケットが前記最大高さまで到達する前又は後に前記トロリの移動を開始すること、前記トロリが前記減速開始点に到達すると、前記減速速度スケジュールに従って前記トロリの移動を減速させること、及び、
前記トロリが前記巻下げ開始点に到達すると、前記巻下げ速度スケジュールに従って前記ロープを巻下げること、を含むことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の一態様に係る天井式クレーンの運転計画装置は、
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの運転計画を生成する天井式クレーンの運転計画装置であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを記憶した記憶装置と、
プログラムが記憶された少なくとも1つのメモリと、
前記記憶装置及び前記メモリとアクセス可能に接続され、前記プログラムを実行することにより、前記メモリ及び前記記憶装置に記憶された情報を利用して処理を行う少なくとも1つのプロセッサとを備え、
前記プロセッサが、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、及び、
前記バケットの前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記水平減速終了点の位置と、前記トロリの前記巻下げ開始点及び前記減速開始点の位置と、前記巻下げ速度スケジュールと、前記減速速度スケジュールとを含む運転計画を生成すること、を行うことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の一態様に係る天井式クレーンの制御装置は、
バケットと、前記バケットを吊り下げているロープの巻上げ及び巻下げを行う巻上装置と、前記巻上装置を搭載したトロリと、前記トロリを水平な横行方向へ移動させる横行装置と、前記トロリを水平な走行方向へ移動させる走行装置とを備える天井式クレーンの制御装置であって、
前記バケットが始点から水平加速開始点まで上昇し、前記水平加速開始点から水平減速終了点まで水平方向へ移動するとともに前記水平加速開始点から所定の最大高さまで一旦上昇したのち前記水平減速終了点まで降下し、前記水平減速終了点から終点まで降下する一連の三次元経路について前記始点、前記終点、前記水平加速開始点、及び前記終点の直上に規定された前記水平減速終了点の位置と、前記始点から前記終点までの経路を鉛直上方から見た二次元経路上の障害物の高さよりも高い前記バケットの前記最大高さと、前記ロープの巻下げ加速度、定格巻下げ速度、及び巻下げ減速度とを記憶した記憶装置と、
前記トロリの位置を検出する位置検出器と、
前記バケットの高さを検出する高さ検出器と、
プログラムが記憶された少なくとも1つのメモリと、
前記記憶装置、前記位置検出器、前記高さ検出器、及び前記メモリとアクセス可能に接続され、前記プログラムを実行することにより、前記メモリ及び前記記憶装置に記憶された情報を利用して処理を行う少なくとも1つのプロセッサとを備え、
前記プロセッサが、
前記巻下げ加速度、前記定格巻下げ速度、前記巻下げ減速度、前記最大高さ、及び前記終点の高さに基づいて、巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達してから前記巻下げ減速度で0まで減速する、又は、前記巻下げ速度を0から前記巻下げ加速度で加速したのち前記定格巻下げ速度に到達せずに前記巻下げ減速度で0まで減速することにより、前記バケットが巻下げ開始時刻に前記最大高さから降下を開始し、水平減速終了時刻に前記水平減速終了点の高さを通過し、停止時刻に前記巻下げ速度0で前記終点の高さに到達するような前記ロープの巻下げ速度スケジュールを求めること、
前記巻下げ速度スケジュールに従って変化する前記ロープの長さを用いて、前記水平減速終了時刻に前記バケットの振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻を求めること、
前記トロリが前記水平減速開始時刻に所定の移動速度から減速を開始して、前記水平減速終了時刻に移動速度0となるような前記トロリの減速速度スケジュールを求めること、
前記減速速度スケジュールに基づいて、前記トロリが前記水平減速開始時刻に通過する減速開始点の位置と、前記トロリが前記巻下げ開始時刻に通過する巻下げ開始点の位置とを求めること、
前記バケットが前記始点から前記最大高さまで上昇するように、前記巻上装置に前記ロープの巻上げを開始させること、
前記バケットが前記最大高さまで到達する前又は後に、前記横行装置及び前記走行装置に前記トロリの移動を開始させること、
前記トロリが前記減速開始点に到達すると、前記横行装置及び前記走行装置に前記減速速度スケジュールに従って前記トロリの移動を減速させること、及び、
前記トロリが前記巻下げ開始点に到達すると、前記巻上装置に前記巻下げ速度スケジュールに従って前記ロープを巻下げさせること、を行うことを特徴としている。
【0012】
上記天井式クレーンの運転計画方法及び運転計画装置、並びに、天井式クレーンの制御方法及び制御装置によれば、生成された運転計画に従って天井式クレーンの運転が制御されることによって、トロリが水平減速終了点に到達したときのバケットの振れの位相は2πとなり、バケットがここから速やかに終点まで降下することで、終点に到達したバケットは振れていない又は振れが十分に小さい状態で停止する。つまり、ロープを巻下げながらトロリの移動を減速しても、バケットの振れ止めをすることができる。また、トロリの移動の減速とバケットの降下とが同時に行われることによって、トロリの移動の減速を終えてからバケットの降下が行われる場合と比較して、バケットの移動軌跡が短くなるので、バケットの移動所要時間の短縮を図ることができる。ひいては、天井式クレーンの稼働率を向上(低減)することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バケットを振れていない状態で目的地(終点)に停止させることと、バケットの移動所要時間の短縮とを両立することの可能な天井式クレーンの制御技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るごみクレーンが設置されたごみ処理施設の概略構成図である。
図2図2は、ピットの平面図である。
図3図3は、ごみクレーンの制御系統の構成を示すブロック図である。
図4図4は、制御装置の構成を示すブロック図である。
図5図5は、バケットの三次元経路を説明する図である。
図6図6は、運転計画生成処理の流れ図である。
図7図7は、運転計画部の情報の入力と出力とを説明する図である。
図8図8は、凸多角形を説明する図である。
図9図9は、マージンが考慮された凸多角形を説明する図である。
図10図10は、水平加速開始点の高さと水平減速終了点の高さの求め方を説明する図である。
図11図11は、巻下げ速度の時系列変化を表す図表である。
図12図12は、巻下げ速度の時系列変化を表す図表である。
図13図13は、ロープ長の時系列変化を表す図表である。
図14図14は、ロープの振れの位相の時系列変化を表す図表である。
図15図15は、再計算されたロープの振れの位相の時系列変化を表す図表である。
図16図16は、再計算されたロープの振れの位相の時系列変化を表す図表である。
図17図17は、減速時の移動速度を時間関数に変換する処理を説明する図である。
図18図18は、減速時のロープ長及び移動速度の時系列変化を表す図表である。
図19図19は、減速時のロープ長及び移動速度の時系列変化を表す図表である。
図20図20は、ごみクレーンの制御の流れ図である。
図21図21は、減速速度スケジュールの一例を示す図表である。
図22図22は、巻下げ速度スケジュールの一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下では、本発明を天井式クレーンの一例であるごみクレーンに適用して説明する。但し、本発明は、ごみクレーンに限定されず、広く天井式クレーンに適用することができる。
【0016】
〔ごみクレーン1の構成〕
図1は本発明の一実施形態に係るごみクレーン1が設置されたごみ処理施設10の概略構成図、図2はピット2の平面図、図3はごみクレーン1の制御系統の構成を示すブロック図である。
【0017】
先ず、ごみクレーン1が設置されたごみ処理施設10の概略構成について説明する。図1に示すごみ処理施設10には、ごみが貯溜されるピット2と、ピット2の上部に配置されたごみクレーン1とを備える。ごみクレーン1は、所謂、バケット式天井クレーンである。ごみクレーン1は、ピット2の上部に設けられた平行な一対の走行軌道21と、一対の走行軌道21に掛け渡されたガーダ22と、ガーダ22を横行するトロリ23と、トロリ23に搭載された巻上装置24と、巻上装置24によって巻上げ・巻下げされるロープ25に吊り下げられたバケット26と、ごみクレーン1の動作を司る制御装置8とを備える。
【0018】
図2に示すようにピット2には、直交する水平方向である「走行方向X」と「横行方向Y」とが規定される。走行方向Xは、一対の走行軌道21の延伸方向であって、ガーダ22の往復移動方向である。横行方向Yは、ガーダ22の延伸方向であって、トロリ23の往復移動方向である。ピット2内は、平面視において、走行方向X及び横行方向Yに所定ピッチで区画されて、各区画に固有の番地が付けられている。
【0019】
図1及び図3に示すように、ガーダ22は、ガーダ駆動装置32によって駆動されることにより、一対の走行軌道21上を走行する。ガーダ駆動装置32は、トロリ23を水平な走行方向Xへ移動させる「走行装置」に該当する。ガーダ駆動装置32は、例えば、制御装置8の制御を受けて動作するモータ、モータの出力トルクを増大させる減速機、及び、モータの出力軸の回転位置を検出する回転位置センサなどを含む。ガーダ22の走行方向Xの位置は、制御装置8によって制御される。
【0020】
トロリ23は、トロリ駆動装置33によって駆動されることにより、ガーダ22上を横行する。トロリ駆動装置33は、トロリ23を水平な横行方向Yへ移動させる「横行装置」に該当する。トロリ駆動装置33は、例えば、制御装置8の制御を受けて動作するモータ、モータの出力トルクを増大させる減速機、及び、モータの出力軸の回転位置を検出する回転位置センサなどを含む。トロリ23の横行方向Yの位置は、制御装置8によって制御される。ガーダ22の走行方向Xの位置とトロリ23の横行方向Yの位置とにより、巻上装置24(或いは、ロープ25の吊り下げ点)の二次元座標が決まる。
【0021】
巻上装置24はロープ25が巻き掛けられたドラムと、ドラムを正逆回転させるドラム駆動装置34とを備える。ドラム駆動装置34は、例えば、制御装置8の制御を受けて動作するモータ、モータの出力トルクを増大させる減速機、及び、モータの出力軸の回転位置を検出する回転位置センサなどを含む。巻上装置24のドラムが正逆回転することにより、ロープ25によるバケット26の吊り長さである「ロープ長」が変化する。ロープ長は、例えば、バケット26とロープ25との接続部から、巻上装置24によるロープ25の拘束部までの、ロープ25の長さである。巻上装置24には、ロープ長を検出するロープ長センサ(高さ検出器35の一例)が設けられている。ロープ長は、制御装置8によって制御される。制御装置8は、ロープ長が目標値となるように巻上装置24を動作させる。
【0022】
〔制御装置8の構成〕
制御装置8は、運転計画部91と制御部92との各機能部を有する。運転計画部91は、ごみクレーン1の運転計画を生成する。制御部92は、生成された運転計画に基づいてごみクレーン1を制御する。
【0023】
図4は、制御装置8の概略構成を示すブロック図である。制御装置8は、少なくとも1つのコンピュータ80を備える。コンピュータ80は、プロセッサ81、ROM及びRAMなどのメモリ82、入出力部83などを有する。メモリ82には、プロセッサ81が実行するプログラムが格納されている。プログラムには、オペレーティングプログラムやアプリケーションプログラムが含まれる。プロセッサ81がプログラムを読み出して実行することによって、制御装置8は当該プログラムに構成された機能を実現する。プロセッサ81は、入出力部83を介して入力装置86、出力装置87、記憶装置88、各種の計器やセンサ、及び制御対象と接続されている。本実施形態に係る制御対象にはガーダ駆動装置32、トロリ駆動装置33及びドラム駆動装置34が含まれる。入力装置86は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどの制御装置8への入力を受け付けるデバイスのうち少なくとも1つを含む。出力装置87は、例えば、ディスプレイ、スピーカなどの制御装置8からの情報を出力するデバイスのうち少なくとも1つを含む。記憶装置88には、制御装置8での処理で用いられる各種の情報が格納されている。
【0024】
記憶装置88には、ごみクレーン1の運転計画及び/又は運転計画を決定する計画要素、並びに、計画要素を求めるための各種情報が格納されている。運転計画及びその計画要素については、後ほど詳述する。
【0025】
また、記憶装置88には、ピット2のごみ高さマップが格納されている。ごみ高さマップは、ピット2の各番地のごみ高さ情報からなる。ごみ高さ情報に含まれるごみ高さの計測方法、即ち、ごみ高さの取得方法は特に限定されない。ごみ高さは、例えば、ピット2内を2台以上のカメラ(ステレオカメラ)で撮像し、複数の撮像画像の視差に基づいて計測されたものであってよい。或いは、ごみ高さは、バケット26が停止したときのロープ長(即ち、ロープ25の繰り出し量)に基づいて計測されたものであってよい。或いは、ごみ高さは、ピット2の上部に取り付けられた距離センサの検出に基づいて計測されたものであってもよい。制御装置8は、取得した又は求めたごみ高さを記憶装置88に随時格納することで、ごみ高さマップを最新に維持する。
【0026】
〔運転計画の生成方法〕
ここで、制御装置8の運転計画部91による運転計画生成処理について説明する。図5は、バケット26の三次元経路R3を説明する図である。
【0027】
図5には、バケット26の始点Aから終点Bまでの三次元経路R3が例示されている。始点A及び終点Bの座標(或いは番地)は制御装置8へ入力される。本実施形態では、始点Aの上方に水平加速開始点Cが存在し、終点Bの上方に水平減速終了点Fが存在する。但し、水平加速開始点Cの位置は始点Aの上方に限定されない。バケット26が水平加速開始点Cから水平減速終了点Fへ三次元経路R3に沿って移動する間に、トロリ23は巻下げ開始点Dと減速開始点Eとを通過する。
【0028】
運転計画部91は、先ず、ごみクレーン1の運転計画を決定する複数の計画要素を求める。これらの計画要素には、水平加速開始点Cの高さHc、水平減速終了点Fの高さHf、最大高さHmax、減速開始点Eと終点Bとの水平距離であるE-B間水平距離D1、巻下げ開始点Dと終点Bとの水平距離であるD-B間水平距離D2、減速開始点Eからのトロリ23の移動速度vs(減速速度スケジュール)、及び、巻下げ開始点Dからの巻下げ速度vz(巻下げ速度スケジュール)が含まれる。また、運転計画部91が求める計画要素には、トロリ23の加速速度スケジュール、及び巻上速度スケジュールが更に含まれてもよい。
【0029】
図6は、運転計画部91による運転計画生成処理の流れ図である。図6に示すように、運転計画部91は、計画要素の演算に必要な各種情報を取得する(ステップS01)。図7は、運転計画部91の情報の入力と出力とを説明する図である。運転計画部91が取得する情報には、始点Aの座標、終点Bの座標、各番地のごみ高さ(ごみ高さマップ)、定格走行速度、定格横行速度、定格巻上げ速度、定格巻下げ速度、巻下げ加速度、巻下げ減速度、及びバケット幅が含まれる。定格走行速度はガーダ22の定格移動速度であり、定格横行速度はトロリ23の定格移動速度である。バケット幅は、バケット26の進行方向と直交する水平な線に投影したバケット26の輪郭の幅である。定格走行速度、定格横行速度、定格巻上げ速度、定格巻下げ速度、巻下げ加速度、巻下げ減速度、及びバケット幅はごみクレーン1に固有の値(定数)である。これらの情報は、制御装置8に予め記憶されている、或いは、制御装置8に入力される。
【0030】
制御装置8は、始点Aから終点Bまでの二次元経路R2上の番地のごみ山の情報をごみ高さマップから抽出する(ステップS02)。バケット26の二次元経路R2とは、始点Aから終点Bまでの経路を鉛直上方から見たときの、始点Aから終点Bまでの直線状の経路である(図2、参照)。ここで、運転計画部91はごみ高さマップを読み出し、バケット26の二次元経路R2上の番地のごみ高さ情報を抽出する。
【0031】
続いて、運転計画部91は、取得したごみ高さ情報に基づいて、バケット26の最大高さHmaxを求める(ステップS03)。最大高さHmaxは、バケット26が上昇してから一定のロープ長で水平方向へ移動するときのバケット26の高さである。最大高さHmaxは、二次元経路R2上のごみ山の最大高さよりも高い。
【0032】
図8では、縦軸が高さを表し、横軸がバケット26の二次元経路R2上の位置を表し、二次元経路R2が通る各番地のごみ高さが柱の高さで表されている。バケット26の二次元経路R2は、始点Aから終点Bまでn個の番地を通過し、始点Aの座標は(s1,h1)で表され、終点Bの座標は(sn,hn)で表される。なお、skは番地、hkは番地skのごみ高さを表す(k=1~n)。
【0033】
運転計画部91は、最大高さHmaxを求めるにあたり、先ず、図9に示すように、二次元経路R2を通るごみ山の断面のプロファイルにおいて始点Aと終点Bとを結ぶ線よりも上にある全ての点を内包する凸多角形の構成点(S1,H1),・・・,(Sm,Hm)を求める(但し、n≧m)。凸多角形は、複数の凸多角形構成点(S1,H1),・・・,(Sm,Hm)を順次直線で繋いで形作られる。運転計画部91は、続いて、凸多角形構成点(S1,H1),・・・,(Sm,Hm)の各々について、マージンδを考慮した高さH1’,・・・,Hm’を求め、そのうち最大となるものを最大高さHmaxと決定する。
【0034】
図6に戻って、運転計画部91は、水平加速開始点Cの高さHcと水平減速終了点Fの高さHfとを求める(ステップS04)。これらの高さは何れも最大高さHmaxよりも低い。図10は、水平加速開始点Cの高さHcと水平減速終了点Fの高さHfの求め方を説明する図である。図10に示すように、運転計画部91は、巻上装置24の定格巻上げ速度とトロリ23の最大移動速度vactとの比を傾きβ1とし、マージンδを考慮した凸多角形(図9、参照)の折れ点と接する直線L1を求める。なお、トロリ23の最大移動速度vactとは、図2の始点Aから終点Bまでを直線状に移動するときの走行最大速度と横行最大速度の合成速度である。走行最大速度は定格走行速度とは限らず、定格走行速度より低い場合がある。同様に、横行最大速度は定格横行速度とは限らず、定格走行速度より低い場合がある。走行最大速度及び横行最大速度は、ごみ高さや始点Aと終点Bの位置関係に応じて決まる。運転計画部91は、始点Aを通る垂線と直線L1との交点を水平加速開始点Cとし、水平加速開始点Cの高さHcを求める。同様に、運転計画部91は、定格巻下げ速度と最大移動速度vactとの比を傾きβ2とし、二次元経路R2を通るマージンδを考慮した凸多角形の折れ点と接する直線L2を求める。運転計画部91は、終点Bを通る垂線と直線L2との交点を水平減速終了点Fとし、水平減速終了点Fの高さHfを求める。
【0035】
図6に戻って、運転計画部91は、巻下げ速度vz(t)を求める(ステップS05)。運転計画部91は、巻下げ速度vz(t)に基づいて、トロリ23が巻下げ開始点Dを通過する時刻からバケット26が終点Bに到達する時刻までの巻下げ速度スケジュールを生成する。
【0036】
運転計画部91は、(I)巻下げ速度vzの最大値が定格巻下げ速度に到達しない場合と、(II)巻下げ速度vzの最大値が定格巻下げ速度に到達する場合とに場合分けして、巻下げ速度vz(t)を求める。
【0037】
(I.巻下げ速度vzが定格巻下げ速度に到達しない場合)
図11は、巻下げ速度vzの時系列変化を表す図表である。図11に示される巻下げ速度スケジュールでは、巻下げ加速度αaccで巻下げ加速時間taccだけロープ25の巻下げが加速され、続いて、巻下げ減速度αdecで巻下げ減速時間tdecだけロープ25の巻下げが減速されるように、巻下げ速度vzが時系列変化する。巻下げ加速度αacc及び巻下げ減速度αdecは定数である。次式1が成立する場合、最大巻下げ速度αacc・taccは定格巻下げ速度vmaxに到達しない。なお、式1中のZ1は全巻下げ距離であり、ステップS03で求めた最大高さHmaxと終点Bの高さとの差である。
【0038】
【数1】
【0039】
最大巻下げ速度αacc・taccが定格巻下げ速度vmaxに到達しない場合に、巻下げ加速時間taccは式2を用いて求めることができ、巻下げ減速時間tdecは式3を用いて求めることができる。なお、式2、3中、Zlは、ロープ25の巻下げ距離を表す。
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
(II.巻下げ速度vzが定格巻下げ速度に到達する場合)
図12は、巻下げ速度vzの時系列変化を表す図表である。図12に示す巻下げ速度vz(t)は、巻下げ加速度αaccで巻下げ加速時間taccだけロープ25の巻下げを加速し、続いて、巻下げ定速時間tconstだけ定格巻下げ速度vmax(定速)でロープ25を巻下げたのち、巻下げ減速度αdecで巻下げ減速時間tdecだけロープ25の巻下げを減速するように時系列変化する。次式4が成立する場合、巻下げ速度vzの最大値は定格巻下げ速度vmaxに到達する。
【0043】
【数4】
【0044】
巻下げ速度vzの最大値が定格巻下げ速度vmaxに到達する場合に、巻下げ加速時間taccは式5を用いて求めることができ、巻下げ減速時間tdecは式6を用いて求めることができ、巻下げ定速時間tconstは式7を用いて求めることができる。
【0045】
【数5】
【0046】
【数6】
【0047】
【数7】
【0048】
運転計画部91は、巻下げ加速度αacc、定格巻下げ速度vmax、巻下げ減速度αdec、並びに、求めた巻下げ加速時間tacc、巻下げ減速時間tdec、及び/又は巻下げ定速時間tconstに基づいて、巻下げ速度スケジュールを生成する。
【0049】
図6に戻って、運転計画部91は、トロリ23の減速時の移動速度vs(t)を求める(ステップS06)。運転計画部91は、トロリ23の減速時の移動速度vs(t)に基づいて、トロリ23が減速開始点Eを通過する水平減速開始時刻からバケット26が水平減速終了点Fに到達する水平減速終了時刻までのトロリ23の減速速度スケジュールを生成する。同時に、運転計画部91は、減速開始点Eと終点Bとの間の水平距離であるE-B間水平距離D1を求める(ステップS07)。E-B間水平距離D1に基づいて、減速開始点Eの二次元位置を特定することができる。減速開始点Eは、終点Bから二次元経路R2に沿ってE-B間水平距離D1だけ後退した二次元位置に在る点と特定される。トロリ23が減速開始点Eにあるときのバケット26の高さは、水平減速終了点Fの高さHfより高く、且つ、最大高さHmax以下である。
【0050】
図13は、ロープ長の時系列変化を表す図表である。この図表では、ロープ長lを縦軸にとり、巻下げ時間を横軸にとり、ロープ長l(t)が時間関数として表されている。ロープ長は、巻下げが開始してからロープ25の巻下げ距離の増加に伴って増加する。運転計画部91は、ステップS05で求めた巻下げ速度スケジュールに基づいて、中間巻下げ距離Z2の巻下げに要する時間t1と、巻下げ速度スケジュールに対応したロープ長の時間変化とを求めることができる。中間巻下げ距離Z2は、ステップS03で求めた最大高さHmaxと、ステップS04で求めた水平減速終了点Fの高さHfとの差である。ロープ長l(t)の時間関数は、式8で表される。
【0051】
【数8】
【0052】
巻下げが開始してからロープ長が刻々と変化するため、バケット26の振れの周期も変化する。図14は、バケット26の振れの位相φの時系列変化を表す図表である。図14に示すように、時刻0から時刻t1までのバケット26の振れの位相φ(t)は、重力加速度をgとして、次の式9で表される。
【0053】
【数9】
【0054】
時刻t1におけるバケット26の振れの位相φ(t1)は、(I)2π未満の場合[φ(t1)<2π]と、(II)2π以上の場合[φ(t1)≧2π]とに場合分けすることができる。
【0055】
(I.位相φ(t1)が2π未満の場合)
図15は、再計算されたバケット26の振れの位相φの時系列変化を表す図表である。バケット26が水平減速終了点Fに到達したときのバケット26の振れの位相φを2πとすることにより、終点Bに到達したときのバケット26の振れを抑えることができる。そこで、図15に示すように、バケット26の振れの位相φ(t1)が2π未満の場合、ロープ25の巻下げ開始時刻よりも水平減速開始時刻をndtだけ先にすることにより、水平減速終了点Fにおけるバケット26の振れの位相φを2πとすることができる。ndtは次式10で表される。
【0056】
【数10】
【0057】
ロープ25の巻下げ開始時刻よりも水平減速開始時刻をndtだけ先の時刻t0とすれば、時刻t0のバケット26の振れの位相φ(t0)と時刻t1のバケット26の振れの位相φ(t1)との差が2πとなる。運転計画部91は、式11と区間t0~t1と用いてバケット26の振れの位相φ(t)を再計算する。
【0058】
【数11】
【0059】
(II.位相φ(t1)が2π以上の場合)
図16は、再計算されたバケット26の振れの位相φの時系列変化を表す図表である。図16に示すように、バケット26の振れの位相φ(t1)が2π以上の場合、ロープ25の巻下げ開始時刻よりも水平減速開始の時刻t0を遅らせることにより、時刻t0のバケット26の振れの位相φ(t0)と時刻t1のバケット26の振れの位相φ(t1)との差が2πとなる。これにより、水平減速終了点Fにおけるバケット26の振れの位相を2πとすることができる。運転計画部91は、式11と区間t0~t1と用いてバケット26の振れの位相φ(t)を再計算する。
【0060】
図17は、トロリ23の減速時の移動速度を時間関数に変換する処理を説明する図である。図17に示すように、バケット26の振れの位相φが2πのときにトロリ23の水平方向への移動が減速停止するようなトロリ23の減速時の移動速度vs(t)は式13を用いて求めることができる。式13は、式12で表される移動速度vs(φ)に式11で表される位相φを代入したものである。運転計画部91は、水平減速開始時刻から水平減速終了時刻までの減速時の移動速度vs(t)を時間積分することにより、E-B間水平距離D1を求める。
【0061】
【数12】
【0062】
【数13】
【0063】
図6に戻って、運転計画部91は、ロープ25の巻下げ速度vz(t)と、トロリ23の減速時の移動速度vs(t)とを用いて、巻下げ開始点Dと終点Bとの間の水平距離であるD-B間水平距離D2を求める(ステップS08)。D-B間水平距離D2を用いて巻下げ開始点Dの座標を特定することができる。巻下げ開始点Dは、終点Bから二次元経路R2に沿ってD-B間水平距離D2だけ後退した二次元位置に在る点と特定される。
【0064】
D-B間水平距離D2の演算方法は、(I)水平減速開始時刻が巻下げ開始時刻よりも先である場合と、(II)水平減速開始時刻が巻下げ開始時刻と同時又はそれよりも後である場合とに、場合分けすることができる。
【0065】
(I.水平減速開始時刻が巻下げ開始時刻よりも先である場合)
図18は、減速時のロープ長及び移動速度の時系列変化を表す図表である。図18に示すように、水平減速開始時刻t2が巻下げ開始時刻t3よりも先である場合、運転計画部91は式14を用いてD-B間水平距離D2を求める。式14中、水平減速終了時刻t4は、トロリ23の移動速度が0となる時刻である。
【0066】
【数14】
【0067】
(II.水平減速開始時刻が巻下げ開始時刻と同時又はそれよりも後である場合)
図19は、減速時のロープ長及び移動速度の時系列変化を表す図表である。図19に示すように、水平減速開始時刻t2が巻下げ開始時刻t3と同時又はそれよりも後である場合、運転計画部91は式15を用いてD-B間水平距離D2を求める。
【0068】
【数15】
【0069】
特に詳細には説明しないが、運転計画部91は巻上げ速度スケジュール及び加速速度スケジュールを生成してもよい。但し、所与の巻上げ速度スケジュール及び加速速度スケジュールが予め記憶装置88に記憶されていてもよい。
【0070】
運転計画部91は、巻下げ速度スケジュールと同様に、始点Aからの巻上げ速度スケジュールを生成することができる。巻上げ速度スケジュールは、所定の巻上げ加速度で加速時間だけロープ25の巻上げが加速され、続いて、所定の巻上げ減速度で減速時間だけロープ25の巻上げが減速されるような、ロープ25の巻上げ速度のタイムスケジュールである。バケット26が始点Aから上昇を開始する時刻に、巻上げ速度スケジュールに従ってロープ25の巻上げ速度が制御されることによって、バケット26の高さが最大高さHmaxに到達したタイミングで巻上げ速度が0となる。
【0071】
運転計画部91は、バケット26が水平加速開始点Cに到達した時刻からのトロリ23の加速速度スケジュールを生成する。加速速度スケジュールは、所定の走行加速度及び横行加速度で加速時間だけトロリ23の移動が加速されるような、トロリ23の移動速度のタイムスケジュールである。
【0072】
運転計画部91は、以上のように求めた計画要素をメモリ82又は記憶装置88に記憶する。ごみクレーン1の運転計画は、三次元経路R3を特定する経由点の位置と、所定タイミングからの速度スケジュールとを含む。経由点には、バケット26の始点A、水平加速開始点C、水平減速終了点F、及び終点Bと、トロリ23の巻下げ開始点D及び減速開始点Eとが含まれ得る。なお、トロリ23の経由点は二次元位置で特定されてよい。また、速度スケジュールには、巻上げ速度スケジュール、加速速度スケジュール、巻下げ速度スケジュール、減速速度スケジュールが含まれ得る。各速度スケジュールには、加速時間及びその開始タイミングと、減速時間及びその開始タイミングとのうち少なくとも一方が含まれる。
【0073】
〔ごみクレーン1の制御方法〕
制御装置8の制御部92は、ごみクレーン1の運転計画に従って、ごみクレーン1の運転制御を行う。図20は、ごみクレーン1の制御の流れ図である。なお、制御部92は、バケット26の高さ検出器35で検出される情報に基づいてバケット26の高さを求め、バケット26の高さ位置を監視している。高さ検出器35は、特に限定されないが、ロープ長を検出するロープ長センサが用いられてよい。また、制御部92は、位置検出器20で検出される情報に基づいてトロリ23の位置を求め、トロリ23の位置を監視している。位置検出器20は、特に限定されないが、ガーダ駆動装置32及びトロリ駆動装置33のモータの回転位置センサが用いられてよい。この場合、制御部92は、検出された情報に基づいてガーダ22の走行位置及びトロリ23の横行位置に基づいてトロリ23の位置(二次元位置)を求める。
【0074】
図5及び図20に示すように、制御部92は、バケット26が始点Aから最大高さHmaxまで上昇するように、巻上装置24にロープ25の巻上げを開始させる(ステップS201)。制御部92は、バケット26が水平加速開始点Cの高さHcに到達すると(ステップS202でYES)、トロリ23の移動を開始させる(ステップS203)。これにより、バケット26は、水平加速開始点Cを通過してから最大高さHmaxに到達するまで、上昇と水平方向への移動(走行及び/又は横行)とを同時に行う。但し、バケット26が始点Aから最大高さHmaxまで上昇した時刻又はその後で、トロリ23の移動が開始されてもよい。
【0075】
E-B間水平距離D1がD-B間水平距離D2以上の場合、即ち、水平減速開始が巻下げ開始と同時又はそれよりも先の場合には(ステップS204でYES)、制御部92は、トロリ23が減速開始点Eに到達すると(ステップS205でYES)、トロリ23の減速を開始させる(ステップS206)。ここで、制御部92は、減速速度スケジュールに従って、ガーダ22に走行速度指令を出し、トロリ23に横行速度指令を出す。
【0076】
続いて、制御部92は、トロリ23が巻下げ開始点Dに到達すると(ステップS207でYES)、巻上装置24に巻下げを開始させる(ステップS208)。ここで、制御部92は、巻下げ速度スケジュールに従って、巻上装置24へ巻下げ速度指令を出す。
【0077】
一方、ステップS204において、E-B間水平距離D1がD-B間水平距離D2より小さい場合、即ち、水平減速開始が巻下げ開始よりも後の場合には(ステップS204でNO)、制御部92は、トロリ23が巻下げ開始点Dに到達すると(ステップS211でYES)、巻上装置24に巻下げを開始させる(ステップS212)。ここで、制御部92は、巻下げ速度スケジュールに従って、巻上装置24へ巻下げ速度指令を出す。
【0078】
続いて、制御部92は、トロリ23が減速開始点Eに到達すると(ステップS213でYES)、トロリ23の減速を開始させる(ステップS214)。ここで、制御部92は、減速速度スケジュールに従って、ガーダ22に走行速度指令を出し、トロリ23に横行速度指令を出す。
【0079】
図21は、減速速度スケジュールの一例を示す図表である。図21に示す減速速度スケジュールは、トロリ23が減速開始点Eに到達した水平減速開始時刻tEからバケット26が水平減速終了点Fに到達する水平減速終了時刻tFまでの時間をかけてトロリ23の移動速度を0にまで漸次減速するようなトロリ23の移動速度の時間関数(移動速度vs(t))である。水平減速開始時刻tEから減速速度スケジュールに従ってトロリ23が減速することにより、減速の終了時(即ち、トロリ23の移動速度が0になったとき)にバケット26が水平減速終了点Fに到達する。水平減速終了点Fに到達したバケット26の振れの位相φは2πであり、バケット26が水平減速終了点Fから速やかに終点Bまで降下することで、終点Bに到達したバケット26は振れていない又は振れが十分に小さい状態にある。
【0080】
図22は、巻下げ速度スケジュールの一例を示す図表である。図22に示す巻下げ速度スケジュールは、トロリ23が巻下げ開始点Dに到達した巻下げ開始時刻tDからバケット26が終点Bに到達する停止時刻tBまでの時間をかけて、巻下げ速度を0から一旦加速したのち0まで減速するような巻下げ速度の時間関数(巻下げ速度vz(t))である。巻下げ開始時刻tDから巻下げ速度スケジュールに従って巻下げ速度が変化することにより、バケット26が水平減速終了点Fに到達した後もバケット26は連続的に降下し、巻下げ速度が0となったときにバケット26は終点Bに到達する。
【0081】
以上に説明したように、本実施形態に係る天井式クレーン(ごみクレーン1)の運転計画方法は、
バケット26と、バケット26を吊り下げているロープ25の巻上げ及び巻下げを行う巻上装置24と、巻上装置24を搭載したトロリ23と、トロリ23を水平な横行方向へ移動させる横行装置(トロリ駆動装置33)と、トロリ23を水平な走行方向へ移動させる走行装置(ガーダ駆動装置32)とを備える天井式クレーン(ごみクレーン1)の運転計画方法であって、
バケット26の始点A、終点B、水平加速開始点C、及び終点Bの上方に規定された水平減速終了点Fの位置と、始点Aから終点Bまでの経路を鉛直上方から見た二次元経路R2上の障害物(ごみ山)の高さよりも高いバケット26の最大高さHmaxと、ロープ25の巻下げ加速度αacc、定格巻下げ速度vmax、及び巻下げ減速度αdecとを取得すること、
巻下げ加速度αacc、定格巻下げ速度vmax、巻下げ減速度αdec、最大高さHmax、及び終点Bの高さに基づいて、バケット26が巻下げ開始時刻tDに最大高さHmaxから降下を開始し、水平減速終了時刻tFに水平減速終了点Fの高さHfを通過し、停止時刻tBに巻下げ速度0で終点Bの高さに到達するようなロープ25の巻下げ速度スケジュールを求めること、
巻下げ速度スケジュールに従って変化するロープ25の長さを用いて、水平減速終了時刻tFにバケット26の振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻tEを求めること、
トロリ23が水平減速開始時刻tEに所定の移動速度から減速を開始して、水平減速終了時刻tFに移動速度0となるような減速速度スケジュールを求めること、
減速速度スケジュールに基づいて、トロリ23が水平減速開始時刻tEに通過する減速開始点Eの位置と、トロリ23が巻下げ開始時刻tDに通過する巻下げ開始点Dの位置とを求めること、及び、
バケット26の始点A、終点B、水平加速開始点C、及び水平減速終了点Fの位置と、トロリ23の巻下げ開始点D及び減速開始点Eの位置と、巻下げ速度スケジュールと、減速速度スケジュールとを含む運転計画を生成すること、を含む。
【0082】
本実施形態においては、上記天井式クレーンの運転計画方法は、巻上装置24によるロープ25の定格巻下げ速度vmaxと、横行装置(トロリ駆動装置33)及び走行装置(ガーダ駆動装置32)によるトロリ23の最大移動速度vactと、二次元経路R2を通る障害物の高さ情報とを取得すること、及び、定格巻下げ速度vmaxと最大移動速度との比を傾きβ2とし、二次元経路R2を通る障害物(ごみ山)の垂直断面のプロファイルと接する直線L2と、終点Bを通る垂線との交点を水平減速終了点Fと規定することを、更に含む。
【0083】
また、本実施形態に係る天井式クレーンの制御方法は、
前記の天井式クレーンの運転計画方法に加えて、
バケット26が始点Aから最大高さHmaxまで上昇するように、ロープ25の巻上げを開始すること、
バケット26が最大高さHmaxまで到達する前又は後にトロリ23の移動を開始すること、
トロリ23が減速開始点Eに到達すると、減速速度スケジュールに従ってトロリ23の移動を減速させること、
トロリ23が巻下げ開始点Dに到達すると、巻下げ速度スケジュールに従ってロープ25を巻下げること、を含む。
【0084】
また、本実施形態に係る天井式クレーンの運転計画装置(制御装置8の運転計画部91)は、
バケット26の始点A、終点B、水平加速開始点C、及び終点Bの上方に規定された水平減速終了点Fの位置と、始点Aから終点Bまでの経路を鉛直上方から見た二次元経路R2上の障害物(ごみ山)の高さよりも高いバケット26の最大高さと、ロープ25の巻下げ加速度αacc、定格巻下げ速度vmax、及び巻下げ減速度αdecとを記憶した記憶装置88と、
プログラムが記憶された少なくとも1つのメモリ82と、
記憶装置88及びメモリ82とアクセス可能に接続され、プログラムを実行することにより、メモリ82及び記憶装置88に記憶された情報を利用して処理を行う少なくとも1つのプロセッサ81とを備える。
そして、プロセッサは、
巻下げ加速度αacc、定格巻下げ速度vmax、巻下げ減速度αdec、最大高さHmax、及び終点Bの高さに基づいて、バケット26が巻下げ開始時刻tDに最大高さHmaxから降下を開始し、水平減速終了時刻tFに水平減速終了点Fの高さHfを通過し、停止時刻tBに巻下げ速度0で終点Bの高さに到達するようなロープ25の巻下げ速度スケジュールを求めること、
巻下げ速度スケジュールに従って変化するロープ25の長さを用いて、水平減速終了時刻tFにバケット26の振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻tEを求めること、
トロリ23が水平減速開始時刻tEに所定の移動速度から減速を開始して、水平減速終了時刻tFに移動速度0となるようなトロリ23の減速速度スケジュールを求めること、
減速速度スケジュールに基づいて、トロリ23が水平減速開始時刻tEに通過する減速開始点Eの位置と、トロリ23が巻下げ開始時刻tDに通過する巻下げ開始点Dの位置とを求めること、及び、
バケット26の始点A、終点B、水平加速開始点C、及び水平減速終了点Fの位置と、トロリ23の巻下げ開始点D及び減速開始点Eの位置と、巻下げ速度スケジュールと、減速速度スケジュールとを含む運転計画を生成すること、を行う。
【0085】
本実施形態では、記憶装置88に、巻上装置24によるロープ25の定格巻下げ速度vmaxと、横行装置(トロリ駆動装置33)及び走行装置(ガーダ駆動装置32)によるトロリ23の最大移動速度vactと、二次元経路R2を通る障害物(ごみ山)の高さ情報とが記憶されており、プロセッサ81が、定格巻下げ速度vmaxと最大移動速度との比を傾きβ2とし、二次元経路R2を通る障害物の垂直断面のプロファイルと接する直線L2と、終点Bを通る垂線との交点を求め、当該交点を水平減速終了点Fと規定することを更に行う。
【0086】
また、本実施形態に係るごみクレーン1の制御装置8は、
バケット26の始点A、終点B、水平加速開始点C、及び終点Bの上方に規定された水平減速終了点Fの位置と、始点Aから終点Bまでの経路を鉛直上方から見た二次元経路R2上の障害物(ごみ山)の高さよりも高いバケット26の最大高さと、ロープ25の巻下げ加速度αacc、定格巻下げ速度vmax、及び巻下げ減速度αdecとを記憶した記憶装置88と、
トロリ23の位置を検出する位置検出器20と、
バケット26の高さを検出する高さ検出器35と、
プログラムが記憶された少なくとも1つのメモリ82と、
記憶装置88、位置検出器20、高さ検出器35、及びメモリ82とアクセス可能に接続され、プログラムを実行することにより、メモリ82及び記憶装置88に記憶された情報を利用して処理を行う少なくとも1つのプロセッサ81とを備える。
そして、プロセッサ81は、
巻下げ加速度αacc、定格巻下げ速度vmax、巻下げ減速度αdec、最大高さHmax、及び終点Bの高さに基づいて、バケット26が巻下げ開始時刻tDに最大高さHmaxから降下を開始し、水平減速終了時刻tFに水平減速終了点Fの高さを通過し、停止時刻tBに巻下げ速度0で終点Bの高さに到達するようなロープ25の巻下げ速度スケジュールを求めること、
巻下げ速度スケジュールに従って変化するロープ25の長さを用いて、水平減速終了時刻tFにバケット26の振れの位相が2πとなるような水平減速開始時刻tEを求めること、
トロリ23が水平減速開始時刻tEに所定の移動速度から減速を開始して、水平減速終了時刻tFに移動速度0となるようなトロリ23の減速速度スケジュールを求めること、
減速速度スケジュールに基づいて、トロリ23が水平減速開始時刻tEに通過する減速開始点Eの位置と、トロリ23が巻下げ開始時刻tDに通過する巻下げ開始点Dの位置とを求めること、
バケット26が始点Aから最大高さHmaxまで上昇するように、巻上装置24にロープ25の巻上げを開始させること、
バケット26が最大高さHmaxまで到達する前又は後に、横行装置(トロリ駆動装置33)及び走行装置(ガーダ駆動装置32)にトロリ23の移動を開始させること、
トロリ23が減速開始点Eに到達すると、横行装置及び走行装置に減速速度スケジュールに従ってトロリ23の移動を減速させること、及び、
トロリ23が巻下げ開始点Dに到達すると、巻上装置24に巻下げ速度スケジュールに従ってロープ25を巻下げさせること、を行う。
【0087】
上記天井式クレーンの運転計画方法及び運転計画装置(運転計画部91)、並びに、天井式クレーンの制御方法及び制御装置8によれば、生成された運転計画に従って天井式クレーンの運転が制御されることによって、水平減速終了点Fに到達したバケット26の振れの位相φは2πとなり、バケット26が水平減速終了点Fから速やかに終点Bまで降下することで、終点Bに到達したバケット26は振れていない又は振れが十分に小さい状態で停止する。つまり、ロープ25を巻下げながらトロリ23の移動を減速しても、バケット26の振れ止めをすることができる。また、トロリ23の移動の減速とバケット26の降下とが同時に行われることによって、トロリ23の移動の減速を終えてからバケット26の降下が行われる場合と比較して、バケット26の移動軌跡が短くなるので、バケット26の移動所要時間の短縮を図ることができる。ひいては、天井式クレーンの稼働率(例えば、ごみの投入作業に対するごみクレーン1稼働率)を向上(低減)することができる。
【0088】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。
【0089】
例えば、上記実施形態において水平加速開始点C、水平減速終了点F、及び最大高さHmaxは、運転計画部91が始点A及び終点Bの座標とごみ山高さに基づいて求めたが、これらの計画要素はオペレータが入力装置86を介して制御装置8に入力されたのち記憶装置88に記憶されてもよい。
【0090】
例えば、上記実施形態においては制御装置8に運転計画部91が含まれているが、運転計画部91は制御装置8から独立した装置として構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 :ごみクレーン(天井式クレーンの一例)
2 :ピット
8 :制御装置
20 :位置検出器
21 :走行軌道
22 :ガーダ
23 :トロリ
24 :巻上装置
25 :ロープ
26 :バケット
32 :ガーダ駆動装置(走行装置)
33 :トロリ駆動装置(横行装置)
35 :高さ検出器
80 :コンピュータ
81 :プロセッサ
82 :メモリ
88 :記憶装置
91 :運転計画部(運転計画装置)
92 :制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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