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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20240412BHJP
【FI】
C02F1/44 C
C02F1/44 D
C02F1/44 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020088295
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181074
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
(72)【発明者】
【氏名】福田 美弥
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158633(WO,A1)
【文献】特開2018-015679(JP,A)
【文献】特開2018-153749(JP,A)
【文献】特開2020-039993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が添加された被処理水について分離膜処理を行い透過水と濃縮水とを得る分離膜処理工程において、
「濃縮水中における薬剤濃度/被処理水中の薬剤濃度」が所定値以上になるように、前記分離膜処理の前段において前記薬剤を前記被処理水に添加し、
前記被処理水の流量をFf、前記濃縮水の流量をFc、前記透過水の流量をFp、前記被処理水中の前記薬剤の濃度をCf、前記濃縮水中の前記薬剤の濃度をCc、前記透過水中の前記薬剤の濃度をCpとしたときに、下記式で表される有効成分残留率Rが0.4以上であることを特徴とする水処理方法。
R=Cc/Cct
ここで、Cct=(Cf×Ff-Cp×Fp)/Fc
【請求項2】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記薬剤が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有することを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
薬剤が添加された被処理水について分離膜処理を行い透過水と濃縮水とを得る分離膜処理手段と、
「濃縮水中における薬剤濃度/被処理水中の薬剤濃度」が所定値以上になるように、前記分離膜処理の前段において前記薬剤を前記被処理水に添加するよう制御する制御手段と、
を備え
前記制御手段は、前記被処理水の流量をFf、前記濃縮水の流量をFc、前記透過水の流量をFp、前記被処理水中の前記薬剤の濃度をCf、前記濃縮水中の前記薬剤の濃度をCc、前記透過水中の前記薬剤の濃度をCpとしたときに、下記式で表される有効成分残留率Rが0.4以上となるように、前記分離膜処理の前段において前記薬剤を前記被処理水に添加するよう制御することを特徴とする水処理装置。
R=Cc/Cct
ここで、Cct=(Cf×Ff-Cp×Fp)/Fc
【請求項4】
請求項に記載の水処理装置であって、
前記薬剤が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有することを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いる水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜等の分離膜の運転において、バイオファウリングの抑制は大きな課題である。バイオファウリングの抑制には、殺菌剤の添加が有効である。ただし、殺菌剤の必要十分量を正確に把握することは困難であり、バイオファウリングを確実に抑制するためには、過剰に殺菌剤を添加しているのが一般的である。
【0003】
分離膜のバイオファウリング抑制に必要な殺菌剤を過不足なく添加し、過剰な殺菌剤の添加を抑制するために、濃縮水中の残留有効成分濃度が所定値を保つように殺菌剤の添加量を調整することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、逆浸透膜の濃縮水中の全塩素濃度が0.05mg/L以上10mg/L未満の範囲となるように、殺菌剤として安定化次亜臭素酸組成物を存在させることが提案されている。
【0005】
しかし、濃縮水中の残留有効成分濃度のみを観察していても、分離膜面でのバイオファウリングの増減を正しく検知することができず、適正な殺菌剤の添加量の調整を行うことができない場合がある。つまり、濃縮水の残留有効成分濃度が同じであったとしても、分離膜面のバイオファウリング状態が異なる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-015679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、分離膜を用いる水処理において、分離膜のバイオファウリングを効率的に抑制することができる水処理方法および水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、薬剤が添加された被処理水について分離膜処理を行い透過水と濃縮水とを得る分離膜処理工程において、「濃縮水中における薬剤濃度/被処理水中の薬剤濃度」が所定値以上になるように、前記分離膜処理の前段において前記薬剤を前記被処理水に添加し、前記被処理水の流量をFf、前記濃縮水の流量をFc、前記透過水の流量をFp、前記被処理水中の前記薬剤の濃度をCf、前記濃縮水中の前記薬剤の濃度をCc、前記透過水中の前記薬剤の濃度をCpとしたときに、下記式で表される有効成分残留率Rが0.4以上である、水処理方法である。
R=Cc/Cct
ここで、Cct=(Cf×Ff-Cp×Fp)/Fc
【0011】
前記水処理方法において、前記薬剤が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有することが好ましい。
【0012】
本発明は、薬剤が添加された被処理水について分離膜処理を行い透過水と濃縮水とを得る分離膜処理手段と、「濃縮水中における薬剤濃度/被処理水中の薬剤濃度」が所定値以上になるように、前記分離膜処理の前段において前記薬剤を前記被処理水に添加するよう制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記被処理水の流量をFf、前記濃縮水の流量をFc、前記透過水の流量をFp、前記被処理水中の前記薬剤の濃度をCf、前記濃縮水中の前記薬剤の濃度をCc、前記透過水中の前記薬剤の濃度をCpとしたときに、下記式で表される有効成分残留率Rが0.4以上となるように、前記分離膜処理の前段において前記薬剤を前記被処理水に添加するよう制御する、水処理装置である。
R=Cc/Cct
ここで、Cct=(Cf×Ff-Cp×Fp)/Fc
【0015】
前記水処理装置において、前記薬剤が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、分離膜を用いる水処理において、分離膜のバイオファウリングを効率的に抑制することができる水処理方法および水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0020】
水処理装置1は、薬剤が添加された被処理水について分離膜処理を行い透過水と濃縮水とを得る分離膜処理手段として、分離膜処理装置12と、分離膜処理装置12の前段において薬剤の被処理水への添加を制御する制御手段として、制御装置32と、を備える。水処理装置1は、被処理水を貯留するための被処理水槽10を備えてもよい。
【0021】
図1の水処理装置1において、被処理水槽10の被処理水入口には、被処理水配管22が接続されている。被処理水槽10の被処理水出口と、分離膜処理装置12の入口とは、ポンプ14を介して被処理水配管24により接続されている。分離膜処理装置12の透過水出口には、透過水配管26が接続され、濃縮水出口には、濃縮水配管28が接続されている。被処理水槽10の薬剤入口には、薬剤添加配管30が接続されている。被処理水配管24におけるポンプ14の上流側には、被処理水中の薬剤濃度を測定する被処理水薬剤濃度測定手段として、被処理水薬剤濃度測定装置16が設置されている。透過水配管26には、透過水中の薬剤濃度を測定する透過水薬剤濃度測定手段として、透過水薬剤濃度測定装置18が設置されている。濃縮水配管28には、濃縮水中の薬剤濃度を測定する濃縮水薬剤濃度測定手段として、濃縮水薬剤濃度測定装置20が設置されている。制御装置32は、被処理水薬剤濃度測定装置16、透過水薬剤濃度測定装置18、濃縮水薬剤濃度測定装置20、薬剤添加配管30に設置された薬剤の添加量を調整する薬剤添加量調整手段(図示せず)と、それぞれ電気的接続等により接続されている。
【0022】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
【0023】
被処理水は、被処理水配管22を通して必要に応じて被処理水槽10へ貯留される。被処理水槽10において、被処理水へ薬剤添加配管30を通して、薬剤が添加される(薬剤添加工程)。
【0024】
薬剤は分離膜処理装置12の前段において添加されればよく、被処理水配管22において添加されてもよいし、被処理水配管24において添加されてもよい。
【0025】
薬剤が添加された被処理水は、ポンプ14により被処理水配管24を通して分離膜処理装置12へ送液される。分離膜処理装置12において、薬剤が添加された被処理水について分離膜処理が行われ、透過水と濃縮水とが得られる(分離膜処理工程)。透過水は、透過水配管26を通して排出され、濃縮水は、濃縮水配管28を通して排出される。
【0026】
図2に示す水処理装置3のように、濃縮水配管28が分離膜処理装置12の前段、例えば、被処理水槽10に接続されて、濃縮水は、濃縮水配管28を通して、分離膜処理装置12の前段、例えば、被処理水槽10へ返送されてもよい(返送工程)。
【0027】
本発明者らは、分離膜処理の前段で薬剤を添加する水処理において、分離膜処理の分離膜面のバイオファウリングの増減を検知するには、分離膜を通過する間に薬剤の有効成分がどれだけ消費されたかを把握または検知し、その消費量を所定値以下に低減するように、薬剤を添加する、または薬剤の添加量を調整することが、バイオファウリングの抑制に効率的であるということを見出した。例えば、分離膜の前段において被処理水に添加する薬剤を、分離膜の通過する間の薬剤の消費度合に応じて、所定値以上に薬剤が残留するように添加制御することによって、必要最低限の薬剤添加量で、分離膜のバイオファウリングを効率的に抑制することができる。
【0028】
例えば、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1では、分離膜処理工程において、「濃縮水中における薬剤濃度/被処理水中の薬剤濃度」が所定値以上になるように、分離膜処理の前段において薬剤を被処理水に添加する。
【0029】
また、例えば、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1では、分離膜処理工程において、下記式で表される有効成分残留率Rが所定値以上である。例えば、分離膜処理工程において、下記式で表される有効成分残留率Rが所定値以上となるように、分離膜処理の前段において薬剤を被処理水に添加すればよい。
R=Cc/Cct
ここで、Cct=(Cf×Ff-Cp×Fp)/Fc
Ff:被処理水の流量
Fc:濃縮水の流量
Fp:透過水の流量
Cf:被処理水中の薬剤の濃度
Cc:濃縮水中の薬剤の濃度
Cp:透過水中の薬剤の濃度
【0030】
上記式で表される有効成分残留率Rは、0.4以上であることが好ましく、0.5以上0.9以下の範囲であることがより好ましい。また、上記式で表される有効成分残留率Rが0.4以上となるように、分離膜処理の前段において薬剤を被処理水に添加することが好ましく、有効成分残留率Rが0.5以上0.9以下の範囲となるように、分離膜処理の前段において薬剤を被処理水に添加することがより好ましい。有効成分残留率Rが0.4未満であると、分離膜のバイオファウリングを効率的に抑制することができない場合があり、0.9を超えると、透過水の水質を悪化させる場合がある。また、有効成分残留率Rが常時、所定値以上となるように、分離膜処理の前段において薬剤を被処理水に添加してもよいし、有効成分残留率Rが定期的に所定値以上となるように、分離膜処理の前段において薬剤を被処理水に添加してもよい。ここで、「定期的」とは、0.1時間~200時間間隔のことをいう。有効成分残留率Rは、制御装置32によって自動で制御してもよいし、手動で制御してもよい。
【0031】
<分離膜>
分離膜としては、特に制限はないが、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)等が挙げられる。これらのうち、特に分離膜として逆浸透膜(RO膜)を用いる場合に、本発明の実施形態に係る水処理方法を好適に適用することができる。また、逆浸透膜として昨今主流であるポリアミド系高分子膜を用いる場合に、本発明の実施形態に係る水処理方法を好適に適用することができる。
【0032】
<被処理水>
被処理水としては、特に制限はないが、有機物を含む有機物含有水、特に、有機物濃度が高い有機物含有水ではバイオファウリングが起こり易く、その結果、分離膜通過中の薬剤の消費量も多くなるため、本発明の実施形態に係る水処理方法を好適に適用することができる。具体的には有機物含有水のTOC濃度として、0.1mg/L以上が好ましく、1mg/L以上がさらに好ましい。
【0033】
被処理水のpHは、例えば、2~12の範囲であり、4~11の範囲であることが好ましい。被処理水のpHの下限は、5.5以上であることが好ましく、6.0以上であることがより好ましく、6.5以上であることがさらに好ましい。被処理水のpHの上限は、9.0以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましい。
【0034】
<添加する薬剤>
添加を制御する薬剤としては、特に制限はないが、殺菌剤(スライム抑制剤)、分散剤等が挙げられる。
【0035】
その中でも殺菌剤が好適であり、殺菌剤としては、DBNPA(2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド)等のハロシアノアセトアミド化合物、イソチアゾロン化合物、ブロノポール(2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール)等の有機臭素系化合物や、酸化剤等が挙げられ、分離膜通過中に有効成分が消費され易い、DBNPA(2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド)等のハロシアノアセトアミド化合物や酸化剤が好ましい。
【0036】
酸化剤としては、次亜塩素酸や次亜臭素酸等の遊離ハロゲン化合物、臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化組成物、クロラミン等の結合ハロゲン化合物等が挙げられる。
【0037】
この中でも、臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化組成物が好適である。
【0038】
「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化組成物」は、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよいし、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよい。「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化組成物」は、「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよいし、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよい。
【0039】
臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。次亜臭素酸は、臭化ナトリウム等の臭素化合物と次亜塩素酸等の塩素系酸化剤とを反応させて生成させたものであってもよい。臭素系酸化剤が、臭素である場合、塩素系酸化剤が存在しないため、逆浸透膜等の分離膜への劣化影響が著しく低い。
【0040】
塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0041】
臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化アンモニウムおよび臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製剤コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。
【0042】
スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
NSOH (1)
(式中、Rは独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基である。)
【0043】
スルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N-メチルスルファミン酸、N-エチルスルファミン酸、N-プロピルスルファミン酸、N-イソプロピルスルファミン酸、N-ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N-ジメチルスルファミン酸、N,N-ジエチルスルファミン酸、N,N-ジプロピルスルファミン酸、N,N-ジブチルスルファミン酸、N-メチル-N-エチルスルファミン酸、N-メチル-N-プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N-フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6~10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。
【0044】
安定化次亜臭素酸組成物は、さらにアルカリを含んでもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。低温の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用してもよい。また、アルカリは、固形でなく、水溶液として用いてもよい。
【0045】
分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ホスホン酸等が挙げられる。
【0046】
<残留薬剤の把握>
被処理水薬剤濃度測定装置16、透過水薬剤濃度測定装置18、濃縮水薬剤濃度測定装置20としては、薬剤の濃度を測定することができるものであればよく特に制限はない。
【0047】
ハロゲン系酸化剤の残留濃度の測定方法としては、DPD法やポーラログラフ法等が挙げられる。
【0048】
分離膜の透過水中の薬剤濃度は、透過水薬剤濃度測定装置18によって自動または手動で実測してもよく、または被処理水中の薬剤濃度と薬剤固有の膜透過率とから算出してもよい。透過水の流量は、透過水配管26に透過水流量測定装置を設置して、透過水流量測定装置によって自動または手動で実測すればよい。
【0049】
分離膜の濃縮水中の薬剤濃度は、濃縮水薬剤濃度測定装置20によって自動または手動で実測してもよく、または被処理水中の薬剤濃度と薬剤固有の膜透過率とから算出してもよい。濃縮水の流量は、濃縮水配管28に濃縮水流量測定装置を設置して、濃縮水流量測定装置によって自動または手動で実測すればよい。
【0050】
分離膜の被処理水中の薬剤濃度は、被処理水薬剤濃度測定装置16によって自動または手動で実測してもよく、または被処理水中に添加される薬剤量と被処理水量とから算出してもよい。被処理水の流量は、被処理水配管24に被処理水流量測定装置を設置して、被処理水流量測定装置によって自動または手動で実測すればよい。
【0051】
制御装置32は、例えば、プログラムを演算するCPU等の演算手段、プログラムや演算結果を記憶するROMおよびRAM等の記憶手段等を含んで構成されるマイクロコンピュータと電子回路等で構成され、被処理水薬剤濃度測定装置16、透過水薬剤濃度測定装置18、濃縮水薬剤濃度測定装置20により測定された被処理水薬剤濃度、透過水薬剤濃度、濃縮水薬剤濃度、またはこれらのうちの少なくとも1つの測定値に基づいて算出された被処理水薬剤濃度、透過水薬剤濃度、濃縮水薬剤濃度に基づいて、薬剤添加配管30に設置されたポンプの流量やバルブの開閉度等を調整して、被処理水への薬剤の添加量を制御する機能を有するものである。また、制御装置32は、被処理水薬剤濃度測定装置16、透過水薬剤濃度測定装置18、濃縮水薬剤濃度測定装置20により測定された被処理水薬剤濃度、透過水薬剤濃度、濃縮水薬剤濃度、またはこれらのうちの少なくとも1つの測定値に基づいて算出された被処理水薬剤濃度、透過水薬剤濃度、濃縮水薬剤濃度と、透過水流量測定装置、濃縮水流量測定装置、被処理水流量測定装置により測定された透過水流量、濃縮水流量、被処理水流量と、に基づいて、薬剤添加配管30に設置されたポンプの流量やバルブの開閉度等を調整して、被処理水への薬剤の添加量を制御する機能を有するものである。
【0052】
<薬剤の添加方法>
分離膜処理の前段において添加される薬剤は、連続的に添加されてもよいし、間欠的に添加されてもよい。
【0053】
<その他の構成>
分離膜処理の後段において、逆浸透膜処理装置、UV処理装置、または、イオン交換処理装置のうち少なくとも1つを備えてもよく、分離膜処理の透過水について逆浸透膜処理、UV処理、または、イオン交換処理のうち少なくとも1つの処理を行ってもよい。
【実施例
【0054】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[安定化次亜臭素酸組成物の調製]
窒素雰囲気下で、液体臭素:16.9重量%(wt%)、スルファミン酸:10.7重量%、水酸化ナトリウム:12.9重量%、水酸化カリウム:3.94重量%、水:残分を混合して、安定化次亜臭素酸組成物を調製した。安定化次亜臭素酸組成物のpHは14、全塩素濃度は7.5重量%であった。全塩素濃度は、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、全塩素測定法(DPD(ジエチル-p-フェニレンジアミン)法)により測定した値(mg-Cl/L)である。安定化次亜臭素酸組成物の詳細な調製方法は以下の通りである。
【0056】
反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つ口フラスコに1436gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0~15℃になるように冷却を維持しながら、473gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.9%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.04である、目的の安定化次亜臭素酸組成物を得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.9%であり、理論含有率(16.9%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO-02 LJDII」を用いて測定した。なお、臭素酸濃度は5mg/kg未満であった。
【0057】
なお、pHの測定は、以下の条件で行った。
電極タイプ:ガラス電極式
pH測定計:東亜ディーケーケー社製、IOL-30型
電極の校正:関東化学社製中性リン酸塩pH(6.86)標準液(第2種)、同社製ホウ酸塩pH(9.18)標準液(第2種)の2点校正で行った
測定温度:25℃
測定値:測定液に電極を浸漬し、安定後の値を測定値とし、3回測定の平均値
【0058】
<実施例1~5>
以下の実験条件で分離膜処理を行った。実施例1~5では、被処理水、透過水、濃縮水中の薬剤濃度を測定し、「濃縮水中における薬剤濃度/被処理水中の薬剤濃度」が所定値以上になるように、薬剤を被処理水に添加した。結果を表1に示す。
【0059】
(実験条件)
・試験水:模擬水(地下水+有機物(TOCとして10mg/L))
・分離膜:逆浸透膜(DOW BW30-XFR)
・流量:被処理水=840L/h、濃縮水=700L/h、透過水=140L/h
・分離膜処理における透過水回収率:17%
・薬剤:上記で調製した安定化次亜臭素酸組成物
・薬剤有効成分検出方法:DPD法(Hach社製 吸光光度計「DR-3900」)
【0060】
【表1】
【0061】
バイオファウリングが発生すると、逆浸透膜表面が閉塞し、膜の透水性(Flux)が低下する。ここで、Fluxとは逆浸透膜の透過水の透過流束のことを指し、所定条件下における膜の単位面積あたりの透過水量を示す。Fluxの低下率については、「直前7日間のRO膜の透過水Flux低下率(下式)」で評価した。実施例1~3では、R値を0.4以上に保持し、透過水Fluxの低下がほとんど確認されなかった。なお、濃度測定装置の計器の精度上、2%以下の変動は有意な差とは言えない。
「直前7日間のRO膜の透過水Flux低下率」=100-(測定時のFlux/測定時の7日前のFlux)×100
【0062】
一方、実施例4,5では、濃縮水中の薬剤の有効濃度は、実施例1~3と同レベルであるのにも関わらず、R値は0.4未満であったため、透過水Fluxにバイオファウリングによる低下がわずかに見られた。
【0063】
<実施例6,7>
実施例1~5と同様の実験条件でより長期間、分離膜処理を行った。実施例6,7では、被処理水、透過水、濃縮水中の薬剤濃度を測定し、「濃縮水中における薬剤濃度/被処理水中の薬剤濃度」が所定値以上になるように、薬剤を被処理水に添加した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
実施例6と実施例7の結果から、薬剤添加をR値で制御すると、より長期間にわたってバイオファウリングを抑制することができることがわかる。
【0066】
このように、実施例の方法によって、分離膜を用いる水処理において、分離膜のバイオファウリングを効率的に抑制することができた。
【符号の説明】
【0067】
1,3 水処理装置、10 被処理水槽、12 分離膜処理装置、14 ポンプ、16 被処理水薬剤濃度測定装置、18 透過水薬剤濃度測定装置、20 濃縮水薬剤濃度測定装置、22,24 被処理水配管、26 透過水配管、28 濃縮水配管、30 薬剤添加配管、32 制御装置。
図1
図2