(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20240412BHJP
B60N 2/30 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B60N2/58
B60N2/30
(21)【出願番号】P 2020089897
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 達哉
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081364(JP,A)
【文献】特開2019-202779(JP,A)
【文献】特開平08-119015(JP,A)
【文献】特開2018-058457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - B60N 2/90
A47C 7/00 - A47C 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
跳ね上げ動作をした際にシートクッションの下部の隙間が狭まる構造の車両用シートであって、
前記シートクッションの前部下方に設けられ、当該シートクッションを跳ね上げ可能に支持し、当該シートクッションの跳ね上げ動作時の支点となるレッグ部材と、
前記シートクッションの前部下方に設けられて前記シートクッション下部の隙間を隠すとともに、前記シートクッションの動きに追従して折れ曲がるカバー部材を備えたシートクッション前たれ部と、
前記カバー部材に、前記レッグ部材との干渉を回避するように形成された切り欠き部と、
前記カバー部材の下端部を、前記車両用シートの裏側にあって当該車両用シートを構成するクッションフレームに対して締結する、張力を有する弛み抑制部材と、
前記弛み抑制部材の端部に取り付けられた、前記車両用シートの裏側の一部に係止する係止部材と、
を備える、車両用シート。
【請求項2】
前記弛み抑制部材は、前記カバー部材の前記下端部のうち前記切り欠き部の両側の部分に取り付けられている、請求項
1に記載の
車両用シート。
【請求項3】
左右に配置された前記レッグ部材の間にこれらレッグ部材の一部に作用する外力に抗するためのワイヤー材が設置されてい
て、前記カバー部材が前記ワイヤー材と前記クッションフレームとの間を通過している、請求項
2に記載の
車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートとそのシートクッション前たれ部に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのシートクッションの前部下方に、シートクッション下部の隙間を隠すように覆い(「フロントカバー」、「前タレ」とも呼ばれるもので、本明細書ではこれをシートクッション前たれ部という)が設けられる場合がある(例えば特許文献1参照)。このようなシートクッション前たれ部としては、折れ曲がりやすく、尚かつ安価である例えばニードルパンチのような生地が使われることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のごとき従来のシートクッション前たれ部は、例えば車両の3列目シートに適用された場合において、当該車両用シートを折り畳み前方へ跳ね上げる動作をした際にシートクッション下部の隙間が狭まることがあるが、この際、弛(たる)んだ状態となってしまうことがあり、そうなると目隠しとしての機能が果たせなくなり、意匠の面で劣ることがある。また、シートクッション前たれ部が、指や衣服の裾が隙間に挟み込まれるのを抑制する機能をも担っている場合には、当該機能も損なわれる。
【0005】
そこで、本発明は、シートの跳ね上げ動作時などにシートクッション下部の隙間が狭まった場合にも所期の機能を発揮できるようにした構造の車両用シートとそのシートクッション前たれ部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、車両用シートのシートクッションの前部下方に設けられてシートクッション下部の隙間を隠すとともに、シートクッションの動きに追従して折れ曲がるカバー部材を備えたシートクッション前たれ部であって、
カバー部材の下端部が、車両用シートの裏側にあって当該車両用シートを構成するクッションフレームに対し、張力を有する弛み抑制部材を介して締結される構造のシートクッション前たれ部である。
【0007】
上記のごとき態様においては、シートの跳ね上げ動作時などにシートクッションが動いてシートクッション下部の隙間が狭まり、当該シートクッションの動きに追従してシートクッション前たれ部が折れ曲がり弛むような状況になったとしても、弛み抑制部材が張力を作用させ続け、当該シートクッション前たれ部が弛むのを抑制する。
【0008】
上記のごとき態様のシートクッション前たれ部においては、弛み抑制部材の端部に、車両用シートの裏側の一部に係止する係止部材が取り付けられていてもよい。
【0009】
上記のごとき態様のシートクッション前たれ部において、係止部材が、クッションフレームの一部であるSばねに締結されていてもよい。
【0010】
上記のごとき態様のシートクッション前たれ部において、シートクッションの前部下方に当該シートクッションを跳ね上げ可能に支持するレッグ部材が設けられている場合に、カバー部材に、レッグ部材との干渉を回避する切り欠き部が形成されていてもよい。
【0011】
上記のごとき態様のシートクッション前たれ部において、弛み抑制部材は、カバー部材の下端部のうち切り欠き部の両側の部分に取り付けられていてもよい。
【0012】
上記のごとき態様のシートクッション前たれ部において、左右に配置されたレッグ部材の間にこれらレッグ部材の一部に作用する外力に抗するためのワイヤー材が設置されている場合に、カバー部材がワイヤー材とクッションフレームとの間を通過していてもよい。
【0013】
本発明の一態様である車両用シートは、上記のごときシートクッション前たれ部を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シートの跳ね上げ動作時などにシートクッション下部の隙間が狭まった場合にも所期の機能を発揮できるようにしうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車両用シートの構造の一例を、内部のフレーム等のみで表す斜視図である。
【
図2】
図1に示した車両用シートの左側面の構造を示す図である。
【
図3】「基準位置」にある車両用シートを示す側面図である。
【
図4】「基準位置」から「最前傾」の状態に変わる途中の車両用シートを示す側面図である。
【
図5】「最前傾」の状態にある車両用シートを示す側面図である。
【
図6】シートクッション前たれ部の構成例を示す車両用シートの底面の図である。
【
図7】
図6に示した構成例からシートクッション前たれ部を除いた状態を示す図である。
【
図8】シートクッション前たれ部の構成例を示す車両用シートの底面からみた画像である。
【
図9】シートクッション等が跳ね上げ動作した後の状態を模した車両用シートにおけるシートクッション前たれ部の状態を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下では、自動車の車両用シート1に設けられるシートクッション前たれ部70に本発明を適用した例を示す(
図1~
図9参照)。なお、図中において、車両(自動車)の前方(進行方向)を符号Fで表す。
【0017】
本実施形態における車両用シート1は、後述するレッグ部材22を支点として前方へ跳ね上げる動作が可能なシートであり、例えば、いわゆるミニバンと呼ばれる車両の3列目のシートとして適用される(
図5等参照)。3列目シートの乗員がいない場合、当該車両用シート1を折り畳み前方へ跳ね上げることで広い荷室スペースを確保することができる。
【0018】
車両用シート1は、車両のフロアパネル上に配置されるシートクッション(座)2と、シートクッション2に対してリクライニング可能なシートバック(背もたれ)3とを備える。シートクッション2およびシートバック3は、それぞれ、車両用シート1を構成するシート部材であり、例えば発泡体からなるクッション材を備えている。本実施形態の車両用シート1は、メインフレーム10、ベースフレーム90などを備える。
【0019】
車両用シート1のメインフレーム10は、クッションフレーム20、バックフレーム30などを含む。クッションフレーム20は車両用シート1のシートクッション2のフレームであり、バックフレーム30は車両用シート1のシートバック3のフレームである。
【0020】
ベースフレーム90は、車室の床部に取り付けられ、その上にメインフレーム10が取り付けられるフレームである(
図2等参照)。本実施形態のベースフレーム90は、ライザー91、連結部材92,93などを備えている。
【0021】
ライザー91は、ベースフレーム90の両側のフレームを構成する左右一対の部材からなる。この一対のライザー91の後方連結点にはメインフレーム10(の一部を構成するクッションフレーム20)が長孔(図示省略)を介して前後方向へスライド可能に連結され、当該一対のライザー91の前方連結点にはフロントリンク40がピン結合されている。フロントリンク40の上端は、クッションフレーム20とピン結合されている(
図2等参照)。
【0022】
これらライザー91、クッションフレーム20、フロントリンク40、長孔は四節スライダー機構を構成しており、例えば車両用シート1の折り畳み動作に伴い以下のように連動する(
図3~
図5参照)。すなわち、車両用シート1の通常の使用時の状態である「基準位置」(
図3参照)から、シートバック3を前方に折り畳んだ状態である「最前傾」(
図5参照)までの間、フロントリンク40は後方に向け回動し、クッションフレーム20は前側の高さを下げながら後方に退避してほぼ水平な状態になる。
【0023】
上記のごとき構成の本実施形態の車両用シート1にはシートクッションサイドたれ部50とシートクッション前たれ部70とが設けられている。シートクッションサイドたれ部50は、シートクッション2の側部下方の隙間を隠すようにシートクッション2に設けられる覆い(「サイドカバー」、「タレ」とも呼ばれるもので、本明細書ではこれをシートクッションサイドたれ部という)からなる。なお、本明細書ではこのシートクッションサイドたれ部50については図示するのみで詳細な説明は省略する。以下では、シートクッション前たれ部70について説明する(
図6等参照)。
【0024】
シートクッション前たれ部70は、シートクッション前方下部の隙間(
図2において符号Tで示す)を隠すようにシートクッション2に設けられるカバー部材72からなる。カバー部材72の上端部はシートクッション2の例えばクッション材(図示省略)に取り付けられている。また、カバー部材72の下端部72Eは、シートクッション2の動作(例えば、上記のごとくシートバック3を前方に折り畳む際のシートクッション2の動作、あるいは折り畳んだ状態のシートバック3およびシートクッション2を前方に跳ね上げる動作)にカバー部材72の上端部に対して相対変位する部材、例えば本実施形態であれば車両用シート1の裏側の一部であるクッションフレーム20に対して間接的に取り付けられている(
図6等参照)。
【0025】
本実施形態のシートクッション前たれ部70は、カバー部材72と弛み抑制部材80とを含む(
図7等参照)。カバー部材72は、シートクッション2等の動きに追従して折れ曲がりやすく、より好ましくは尚かつ安価な材質で形成されている。一例として、本実施形態では、ニードルパンチで形成される不織布で形成されたカバー部材72を採用している。
【0026】
弛み抑制部材80は、シートクッション前たれ部70のカバー部材72が張るように張力を作用させ続ける部材である。シートクッション2等の動きに追従してシートクッション前たれ部70のカバー部材72が折れ曲がり弛むような状況になったとしても、弛み抑制部材80の張力により、カバー部材72が弛むことが抑制される。
【0027】
本実施形態の弛み抑制部材80は、複数の帯状のゴム材82で構成されている。ゴム材82の一端はカバー部材72の下端部Eに取り付けられている(
図6等参照)。ゴム材82の他端は、車両用シートの裏側の一部、例えばクッションフレーム20に取り付けられている。本実施形態では、クッションフレーム20を構成するSばね(ジグザグばね)20Sにゴム材82の他端を取り付けている(
図6等参照)。ゴム材82の長さや張力は、車両用シート1の折り畳みや跳ね上げのときを含めカバー部材72に常に適度な引張り力が作用するように調整されている。
【0028】
弛み抑制部材80の端部に、Sばね20Sへの着脱を容易にする係止部材が取り付けられていてもよい。係止部材としては、Sばね20Sの所望の箇所に係止させやすく取り外しも簡単であるフック84(詳細な図示は省略)などを適用することができる。もちろん、係止部材を適用せずゴム材82の端部を直接的にSバネ20Sに取り付けることとしてもよい。
【0029】
また、本実施形態の車両用シート1においては、シートクッション2の前部下方に、当該シートクッション2等を跳ね上げ可能にするレッグ部材22が設けられている。レッグ部材22は連結部材92に取り付けられた例えば左右一対のヒンジ構造の部材22L、22Rからなり、当該部分を支点としてシートクッション2等を回動可能に支持している(
図1、
図6等参照)。
【0030】
左右のレッグ部材22(22L、22R)とクッションフレーム20との間には、ダンパー24(24L、24R)が設置されている(
図1、
図7等参照)。各ダンパー24(24L、24R)は例えば空気ばねからなり、跳ね上げられたシートクッション2等を元の位置に戻す際の緩衝材として機能する。これらダンパー24(24L、24R)は、シートクッション2等を常に跳ね上げ方向に付勢しており、シートクッション2等を跳ね上げる際の操作をアシストする助力手段としても機能する。
【0031】
これら左右のレッグ部材22L、22Rの間には、これらレッグ部材22L、22Rのそれぞれにダンパー24(24L、24R)から常に作用する付勢力に抗するためのワイヤー材26が設置されている(
図6等参照)。ワイヤー材26は左右のレッグ部材22L、22Rの一部を引っ張り付勢しており、レッグ部材22L、22Rの一部に作用する外力(ダンパー24から作用する付勢力によるトルク)によってレッグ部材22L、22Rが外側に開こうとするのを抑止する。
【0032】
本実施形態のカバー部材72には、上記のレッグ部材22(22L、22R)との干渉を回避するように切り欠き部74が形成されている(
図8等参照)。このような形状のカバー部材72に対し、ゴム材82は、当該カバー部材72の下端部72Eのうち切り欠き部74の両側の部分に取り付けられている(
図9等参照)。カバー部材72の隅部に引っ張り力を作用させることで、カバー部材72にできるだけ一様な張力を偏り少なく作用させることができ、これにより特に車両用シート1が動くときにカバー部材72の一部が弛むのを抑え、シートクッション前たれ部70の外観を意匠の面で安定させることができる。
【0033】
また、本実施形態のカバー部材72は、ワイヤー材26とクッションフレーム20との間の隙間を通過するように設置されている(
図6等参照)。例えばシートクッション2等の跳ね上げ動作の際、ワイヤー材26がクッションフレーム20の一部(例えばSばね20S)に接触しうる構造であるとしても、これらの間に不織布などの生地で構成されたカバー部材72が介在することで、当該接触の際に生じうる異音や擦れが抑止される。
【0034】
上記のごとき態様のシートクッション前たれ部70によれば、車両用シート1におけるリクライニング動作や跳ね上げ動作の際にカバー部材72が弛(たる)んだ状態となってしまうことがない(
図8、
図9等参照)。このため、シートクッション前たれ部70の目隠しとしての機能が損なわれることがなく、また、しわや撚(よ)れが生じることによって意匠面で劣ってしますようなこともない。また、シートクッション前たれ部70が、乗員らの指や衣服の裾が隙間に挟み込まれるのを抑制する機能をも担っている場合、上記のごとき態様であれば当該機能が損なわれることもない。上記のごとき態様のシートクッション前たれ部70は、造形の自由度が高い。
【0035】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車両用シートのシートクッションの前部下方に設けられてシートクッション下部の隙間を隠すとともに、シートクッションの動きに追従して折れ曲がるカバー部材を備えたシートクッション前たれ部に適用して好適である。
【符号の説明】
【0037】
1…車両用シート、2…シートクッション(座)、3…シートバック(背もたれ)、10…メインフレーム、20…クッションフレーム(車両用シートの裏側の一部)、20S…Sばね、22(22L、22R)…レッグ部材、24(24L、24R)…ダンパー、26…ワイヤー材、30…バックフレーム、40…フロントリンク、50…シートクッションサイドたれ部、70…シートクッション前たれ部、72…カバー部材、72E…下端部、74…切り欠き部、80…弛み抑制部材、82…ゴム材、84…フック(係止部材)、90…ベースフレーム(シートクッションの動作時に相対変位する部材)、91…ライザー、92,93…連結部材、T…シートクッション前方下部の隙間