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特許7471166覆工コンクリートの養生システム、覆工コンクリートの養生方法、および覆工コンクリートの養生台車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】覆工コンクリートの養生システム、覆工コンクリートの養生方法、および覆工コンクリートの養生台車
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
E21D11/10 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020121283
(22)【出願日】2020-07-15
(65)【公開番号】P2022018281
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 裕介
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087481(JP,A)
【文献】特開2012-126623(JP,A)
【文献】特開2020-051117(JP,A)
【文献】実開平06-034095(JP,U)
【文献】特開2011-252267(JP,A)
【文献】特開2013-087014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの延伸方向に移動可能な養生台車と、
前記養生台車に設けられ、前記トンネルを構成する覆工コンクリートを密閉空間内に密閉する封止部と、を有し、
前記養生台車は、
それぞれが前記覆工コンクリートに沿う形状を有し、かつ、前記トンネルの前記延伸方向に並ぶように配置された一対のフレームと、
前記一対のフレームの間において、前記覆工コンクリートに沿うように面状に構成される側面封止部と、
前記フレームのそれぞれにおいて前記フレームに沿って設けられ、前記覆工コンクリートに接するように構成される端面封止部と、
前記一対のフレームのそれぞれに設けられ、前記フレームと下端と前記覆工コンクリートとの隙間を防ぐように構成される一対のフラップを備え、
前記封止部は、前記側面封止部、前記端面封止部、および前記一対のフラップからなり、
前記密閉空間に二酸化炭素が供給される、覆工コンクリートの養生システム。
【請求項2】
前記密閉空間に配置されるように構成された、二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素濃度計をさらに有し、前記二酸化炭素濃度に基づいて前記密閉空間に対する二酸化炭素の供給量が調整される、請求項1に記載の覆工コンクリートの養生システム。
【請求項3】
前記密閉空間に配置されるように構成された、湿度を計測する湿度計をさらに有し、前記湿度に基づいて前記密閉空間に対する水の供給量が調整される、請求項に記載の覆工コンクリートの養生システム。
【請求項4】
トンネルの内壁を構成する覆工コンクリートを養生するためのシステムであり、前記システムは、
地面に対して垂直な方向に立てて設けられ、かつ、前記トンネルの延伸方向と垂直な方向に互いに平行に配置された一対のアーチ状フレームと、前記一対のアーチ状フレームのそれぞれに沿って設けられるアーチ状封止部材と、前記一対のアーチ状フレームが対向する方向に延伸し、かつ前記一対のアーチ状フレームを接続する複数の梁フレームと、前記一対のアーチ状封止部材の間において前記覆工コンクリートに沿って設けられる可撓性シートと、前記一対のアーチ状フレームの下端部に配置され、前記一対のアーチ状フレームの一方の側から他方の側へ延伸する一対の可動式フラップと、を備える養生台車、および
前記覆工コンクリートと前記可撓性シートの間の空間に二酸化炭素を供給するための二酸化炭素供給源を有し、
前記一対の可動式フラップはそれぞれ、前記複数の梁フレームに平行な軸を中心に回転するように構成され、
前記一対の可動式フラップの前記回転により、前記空間が前記アーチ状封止部材、前記可撓性シート、および前記可動式フラップによって密閉されるシステム。
【請求項5】
前記二酸化炭素供給源に接続される第1の配管を前記可撓性シート上にさらに有し、
前記第1の配管は、二酸化炭素を前記空間に拡散するための孔を有する、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記空間に水を供給するための水供給源をさらに有する、請求項に記載のシステム。
【請求項7】
前記二酸化炭素供給源は前記水供給源と接続され、
前記水供給源は、二酸化炭素を含む水を前記空間に供給するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記二酸化炭素供給源と前記水供給源は、それぞれ独立に二酸化炭素と水を前記空間に供給するように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記可撓性シート上に位置し、前記二酸化炭素供給源に接続される第1の配管、および
前記可撓性シート上に位置し、前記水供給源と接続される第2の配管をさらに有し、
前記第1の配管と前記第2の配管は、二酸化炭素と水をそれぞれ前記空間に拡散させるための孔を有する、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
前記アーチ状封止部材は、前記養生台車を上方向に移動させる時、前記覆工コンクリートの凹部に一部が挿入されるように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
第1方向に並んで配置され、かつ、それぞれがトンネルの内壁を構成する覆工コンクリートに沿う形状を有する一対のフレームと、
それぞれが前記フレームに沿って設けられる一対の封止部材と、
前記第1方向に延伸し、かつ、前記一対のフレームを互いに接続する梁フレームと、
前記覆工コンクリートに沿って、前記一対の封止部材の間に設けられる側面封止部と、
前記一対のフレームに直接または間接的に接続され、前記一対のフレームの一方の側から他方の側へ延伸する一対の可動式フラップと、を備え、
前記一対の可動式フラップはそれぞれ、前記第1方向と平行な軸を中心に回転するように構成され、
前記一対の可動式フラップの前記回転により、前記覆工コンクリートの少なくとも一部が、前記封止部材、前記側面封止部、および前記可動式フラップによって密閉される、覆工コンクリートの養生台車。
【請求項12】
前記一対の可動式フラップは、それぞれが、前記一対のフレームのうち一方のフレームの下端部と他方のフレームの下端部とを接続するように配置されている、請求項11に記載の養生台車。
【請求項13】
前記側面封止部は、二酸化炭素を導入するための貫通孔を有する、請求項11に記載の養生台車。
【請求項14】
二酸化炭素を供給するための第1の配管を前記側面封止部上にさらに有し、
前記第1の配管は、前記覆工コンクリート、前記一対の封止部材、前記側面封止部、および前記可動式フラップによって密閉される空間に二酸化炭素または二酸化炭素を含む水を拡散させるための孔を有する、請求項11に記載の養生台車。
【請求項15】
二酸化炭素を供給するための第1の配管、および
水を供給するための第2の配管を前記側面封止部上にさらに有し、
前記第1の配管は、前記覆工コンクリート、前記一対の封止部材、前記側面封止部、および前記可動式フラップによって密閉される空間に二酸化炭素を拡散させるための孔を有し、
前記第2の配管は、前記空間に水を拡散させるための孔を有する、請求項11に記載の養生台車。
【請求項16】
トンネルの内壁を構成する覆工コンクリートの少なくとも一部を養生台車を用いて密封すること、および
密閉された前記覆工コンクリートと二酸化炭素を互いに接触させることを含
前記養生台車は、
前記トンネルの延伸方向に並んで配置され、かつ、それぞれが前記覆工コンクリートに沿う形状を有する一対のフレームと、
それぞれが前記フレームに沿って設けられる一対の封止部材と、
前記トンネルの延伸方向に延伸し、かつ、前記一対のフレームを接続する梁フレームと、
前記覆工コンクリートに沿って、前記一対の封止部材の間に設けられるシートと、
前記一対のフレームに直接または間接的に接続され、前記一対のフレームの一方の側から他方の側へ延伸する一対の可動式フラップと、を備え、
前記一対の可動式フラップはそれぞれ、前記トンネルの延伸方向と平行な軸を中心に回転するように構成され、
前記一対の可動式フラップの前記回転により、前記覆工コンクリートの少なくとも一部が前記養生台車によって密閉される、覆工コンクリートを養生する方法。
【請求項17】
記覆工コンクリートを水と接触させることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
記二酸化炭素濃度と湿度をモニターすること、および
前記二酸化炭素濃度と前記湿度に応じて前記二酸化炭素と前記水の供給量を調整することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、トンネル内壁を構成する覆工コンクリートを養生するためのシステムと方法、およびこれらのシステムや方法に用いることができる養生台車に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トンネルの内壁は、地盤や岩盤を掘削した後、掘削によって露出した壁面に覆工コンクリートを打設することで造られる。覆工コンクリートは、トンネルの壁面にコンクリートを吹き付けて一次覆工コンクリートを形成し、型枠を設け、一次覆工コンクリートと型枠の間に二次覆工コンクリートを打設することで形成される。型枠は一日ないし数日で撤去され、その後二次覆工コンクリートが養生される。養生の際、二次覆工コンクリート表面の湿度や温度を調節することで、二次覆工コンクリート表面のひび割れなどの不具合を防止できることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-252267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、トンネル内壁を構成する覆工コンクリートを養生するための新しいシステムと方法、およびこれらのシステムや方法に用いることができる養生台車を提供することを課題とする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、覆工コンクリートに二酸化炭素を効率よく固定化するためのシステムと方法、およびこれらのシステムや方法に用いることができる養生台車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、覆工コンクリートの養生システムである。このシステムは、トンネルの延伸方向に移動可能な養生台車と、養生台車に設けられ、トンネルを構成する覆工コンクリートを密閉空間内に密閉する封止部と、を有する。このシステムでは、密閉空間に二酸化炭素が供給される。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、トンネルの内壁を構成する覆工コンクリートを養生するためのシステムである。このシステムは、養生台車、および二酸化炭素供給源を有する。養生台車は、一対のアーチ状フレーム、アーチ状封止部材、複数の梁フレーム、可撓性シート、および一対の可動式フラップを備える。一対のアーチ状フレームは、地面に対して垂直な方向に立てて設けられ、かつ、トンネルの延伸方向と垂直な方向に互いに平行に配置される。アーチ状封止部材は、一対のアーチ状フレームのそれぞれに沿って設けられる。複数の梁フレームは、一対のアーチ状フレームが対向する方向に延伸し、かつ一対のフレームを接続する。可撓性シートは、一対のアーチ状封止部材の間において覆工コンクリートに沿って設けられる。一対の可動式フラップは、一対のアーチ状フレームの下端部に配置され、一対のアーチ状フレームの一方の側から他方の側へ延伸する。二酸化炭素供給源は、覆工コンクリートと可撓性シートの間の空間に二酸化炭素を供給するように構成される。一対の可動式フラップはそれぞれ、複数の梁フレームに平行な軸を中心に回転するように構成される。一対の可動式フラップの回転により、上記空間がアーチ状封止部材、可撓性シート、および可動式フラップによって密閉される。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、覆工コンクリートの養生台車である。この養生台車は、一対のフレーム、一対の封止部材、梁フレーム、側面封止部、および一対の可動式フラップを備える。一対のフレームは、第1方向に並んで配置され、かつ、それぞれがトンネルの内壁を構成する覆工コンクリートに沿う形状を有する。一対の封止部材は、それぞれがフレームに沿って設けられる。梁フレームは、第1延伸方向に延伸し、かつ、一対のフレームを互いに接続する。側面封止部は、トンネルの覆工コンクリートに沿って、一対の封止部材の間に設けられる。一対の可動式フラップは、一対のフレームに直接または間接的に接続され、一対のフレームの一方の側から他方の側へ延伸する。一対の可動式フラップはそれぞれ、第1方向と平行な軸を中心に回転するように構成される。一対の可動式フラップの回転により、覆工コンクリートの少なくとも一部が、封止部材、側面封止部、および可動式フラップによって密閉される。
【0008】
本発明の実施形態の一つは、覆工コンクリートを養生する方法である。この方法は、トンネルの内壁を構成する覆工コンクリートの少なくとも一部を密封する空間内に二酸化炭素を供給して覆工コンクリートと二酸化炭素を互いに接触させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの正面図。
図2】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの正面図。
図3】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの側面図。
図4】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの側面図。
図5】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの上面図。
図6】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの上面図。
図7】本発明の実施形態の一つである、養生台車の一部の正面図。
図8】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの正面図。
図9】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの側面図。
図10】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの正面図。
図11】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの上面図。
図12】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの正面図。
図13】本発明の実施形態の一つである、養生台車の一部の断面図。
図14】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの正面図。
図15】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生システムの正面図。
図16】本発明の実施形態の一つである、覆工コンクリートの養生方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。同一、あるいは類似する複数の構造を総じて表す際にはこの符号が用いられ、これらを個々に表す際には符号の後にハイフンと自然数が加えられる。
【0012】
以下、トンネルの内壁を構成する覆工コンクリートを養生するための養生システムと方法、およびこの養生システムと養生方法に適用可能な養生台車について説明する。
【0013】
1.養生システム
図1から図6に本発明の実施形態の一つに係る養生システムの模式図を示す。以下、便宜上、トンネルの延伸方向(長手方向)をx方向、地面に平行であり、x方向に垂直な方向をy方向、地面に垂直な方向をz方向とする。図1図2は、本養生システムのx方向における正面図、図3図4はy方向における側面図であり、図5図6はx方向から見た上面図である。図2図4、および図6はそれぞれ図1図3、および図5に対応し、図1図4、および図5から一部の構成を取り除いた状態を表している。
【0014】
トンネルの内壁は、一次覆工コンクリート200および二次覆工コンクリート202からなる。本養生システムは、トンネル内に形成される一次覆工コンクリート200の表面に打設される二次覆工コンクリート202の養生に適用することができる。より具体的には、トンネル内に打設された二次覆工コンクリート202に対して二酸化炭素を供給することで養生を行い、これによって二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化するとともに、二次覆工コンクリート202の強度を増大させることができる。本養生システムは、基本的な構成として、養生台車100と養生台車100に接続される二酸化炭素供給源150を備える。
【0015】
1-1.養生台車
(1)フレーム
図1から図6に示すように、養生台車100は、その基本骨格を構成する少なくとも一対のアーチ状フレーム102、および一対のアーチ状フレーム102を互いに接続する複数の梁フレーム104を備える。複数の梁フレーム104は、トンネルの延伸方向(x方向)と平行に延伸している。アーチ状フレーム102は、トンネルの断面(yz断面)のアーチ形状に沿うアーチ形状を有しており、その表面から二次覆工コンクリート202までの距離が5cm以上1m以下の範囲で維持されるような形状を有する。アーチ状フレーム102は、地面に対して垂直な方向に立てた状態で設けられている。そして、アーチ状フレーム102は、トンネルの頂点側(z方向において上側)に曲線部を有し、地面側(z方向において下側)が開放されるように配置される。また、アーチ状フレーム102は、地面側に2つの下端部を有するともいえる。なお、アーチ状フレーム102の形状は、曲線状のアーチ形状に限らず、多角形の一部分のように直線が組み合わされた形状でもよい。トンネルの断面(yz断面)の形状に沿った形状のアーチ状フレーム102を用いることで、二酸化炭素の濃度の偏りが少ない状態で、かつ、より効率的に、二次覆工コンクリート202に対して二酸化炭素を固定化することができる。一対のアーチ状フレーム102は、互いにx方向において対向するように配置されている。y方向からの平面視(すなわちx-z平面)において、一対のアーチ状フレーム102は互いに平行に配置されている。また、一対のアーチ状フレーム102どうしの距離は任意である。一般的に一次覆工コンクリート200や二次覆工コンクリート202は、x方向に沿って1スパン(10.5m)単位で順次打設されるため、例えば養生台車100の両端側に配置される一対のアーチ状フレーム102-1間の距離は、この長さ(1スパン)に相当する長さと同程度でよい。具体的には、10.5m±0.5mであってもよい。あるいは、2スパンまたは3スパンに相当する長さでもよく、この場合には、例えば21m±1m、31.5m±1.5mの範囲で一対のアーチ状フレーム102-1間の距離を調整すればよい。また、1スパンが9mの場合は、例えば養生台車100の両端側に配置される一対のアーチ状フレーム102-1間の距離は、9m±0.5mであってもよい。あるいは、2スパンまたは3スパンに相当する長さでもよく、この場合には、例えば18m±1m、27m±1.5mの範囲で一対のアーチ状フレーム102-1間の距離を調整すればよい。梁フレーム104は、養生台車100の形状を安定化するために設けられている。梁フレーム104は、x方向に延伸し、一対のアーチ状フレーム102を互いに接続する。
【0016】
アーチ状フレーム102の数や梁フレーム104の数に制約はなく、養生台車100の大きさや長さ、要求される強度に応じて3つ以上のアーチ状フレーム102や梁フレーム104を設ければよい。図1から図6に示す例では、養生台車100の両端側に配置される一対のアーチ状フレーム102-1と、x方向において一対のアーチ状フレーム102-1の内側に配置される二つのアーチ状フレーム102-2、およびこれらのアーチ状フレーム102に接続され、x方向に延伸する五つの梁フレーム104を含む養生台車100が示されている。アーチ状フレーム102や梁フレーム104は鉄を含むことができ、ステンレスなどの合金を含んでもよい。あるいは、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの樹脂を含んでもよく、樹脂はガラス繊維や炭素繊維などの繊維と複合化されていてもよい。
【0017】
図1図2に示すように、養生台車100は、任意の構成として、養生台車100の強度を確保するため、z方向に延伸する柱フレーム106、y方向に延伸する横梁フレーム108、柱フレーム106と横梁フレーム108をy-z平面においてy軸に対して斜め方向に接続する筋交フレーム110などの種々のフレームを有してもよい。これらのフレームの数や配置、組合せは任意であり、養生台車100の大きさや長さ、要求される強度に応じて適宜選択される。図示しないが、例えば一対のアーチ状フレーム102-1と接続されるような筋交フレームを設けてもよい。
【0018】
(2)封止部材
図1図3から図6に示すように、養生台車100はさらに、x方向において両端側に配置される一対のアーチ状フレーム102-1のそれぞれの上に位置するアーチ状の封止部材112を備える。封止部材112は、アーチ状フレーム102と直接的または間接的に接合されている。封止部材112の高さ(すなわち、アーチ状フレーム102-1に近い側の面から遠い方の面までの最短距離)は、3cm以上20cm以下の範囲で適宜設定される。封止部材112の断面形状(例えばxz平面の断面の形状)に制約はなく、円、楕円、四角形などの形状でもよい。
【0019】
封止部材112はアーチ状フレーム102-1のアーチ形状に沿うように配置され、弾性変形するように構成される。具体的には、封止部材112は、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムなどのジエン系ゴム、イソブチレン-イソプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどの非ジエン系ゴムなどの種々のゴムから選択される材料を含むことができる。詳細は後述するが、この一対の封止部材112が二次覆工コンクリート202と接するように養生台車100がトンネル内に配置され、これにより、トンネル内の一部が一対の封止部材112によって仕切られる。すなわち、封止部材112は、x方向において養生台車100の両端側に位置し、トンネル内の一部を仕切る端面封止部として用いられる。
【0020】
(3)フラップ
図2から図6に示すように、養生台車100はさらに一対の可動式のフラップ114を有する。フラップ114は、アーチ状フレーム102-1の下端と二次覆工コンクリート202との隙間を塞ぐように設けられる。フラップ114は、養生台車100の両端側に配置される一対のアーチ状フレーム102-1の一方から他方へ、梁フレーム104が延伸する方向に対して平行に延伸する。フラップ114は、一対のアーチ状フレーム102-1に対して直接、または梁フレーム104、横梁フレーム108、もしくは柱フレーム106を介して間接的に接続される。例えば図2に示すように、各フラップ114は、最も地面に近い梁フレーム104に接続されてもよい。フラップ114は、鉄などの金属、ステンレスなどの合金、樹脂、繊維を含む樹脂、または木材などを含むことができる。
【0021】
フラップ114は、図2図7(A)に示すように、梁フレーム104が延伸する方向に平行な軸を中心として可逆的に回転するように、図示しないヒンジなどの回転機構を介してアーチ状フレーム102-1に直接または間接的に接続される。換言すると、フラップ114は、トンネルの延伸方向(x方向)に平行な軸を中心として可逆的に回転するように設けられているともいえる。フラップ114は、この軸を中心に回転することで二次覆工コンクリート202の表面に接するように設けられる。任意の構成として、養生台車100は、フラップ114上に封止部材(第2の封止部材)116をさらに備えてもよい(図7(B)参照)。封止部材116はフラップ114の一つの面の少なくとも一部を覆うように設けることができ、フラップ114の回転によって二次覆工コンクリート202の表面に接するようにフラップ114に固定される。アーチ状の封止部材112と同様、フラップ114も弾性変形が可能な材料を含む。図1図3から図6から理解されるように、フラップ114と封止部材116は、一対のアーチ状フレーム102-1に設けられる一対の封止部材112の間に挟まれるように配置されることが好ましい。また、フラップ114を回転させた際、フラップ114または封止部材116が封止部材112と接するようにフラップ114と封止部材116を構成することが好ましい。
【0022】
(4)可撓性シート
図2図3図5に示すように、養生台車100はさらに、一対の封止部材112の間に可撓性シート118を有する。可撓性シート118は、これらの図に示すようにアーチ状フレーム102や梁フレーム104の上に設けてもよく、図示しないがアーチ状フレーム102と梁フレーム104の下、またはアーチ状フレーム102と梁フレーム104の間に設けてもよい。可撓性シート118は、アーチ状フレーム102によって形成されるアーチ型の立体形状が反映されるように設けられる。すなわち、可撓性シート118は、トンネルの二次覆工コンクリート202に沿って面状に形成された側面封止部として設けられる。好ましくは、可撓性シート118は一対のアーチ状フレーム102-1と重なり、これらに直接的または間接的に接合された状態で固定される。このように可撓性シート118を配置することで、アーチ状フレーム102と梁フレーム104によって形成される格子の開口面が可撓性シート118によって目張りされる。
【0023】
可撓性シート118としては、例えばポリエステルやポリイミド、ポリオレフィンなどの高分子の繊維を含むことができ、可撓性シート118の厚さは例えば0.10mm以上0.50mm以下の範囲から選択すればよい。なお、可撓性シート118に替わり、側面封止部として、可撓性を持たない、または可撓性が小さいプレートを用いてもよい。プレートとしては、例えば鉄やアルミニウムなどの金属、ステンレスなどの合金、または木材を含む薄板が挙げられる。
【0024】
養生台車100には車輪130が設けられる。これにより、トンネル内においてx方向に延伸するように配置されたレール206上を養生台車100が移動することができるので、二次覆工コンクリート202の打設が完了した地点へ速やかに養生台車100を配置することができる。なお、図示しないが、本養生システムでは、レール206上において、x方向に複数の養生台車100を連結してもよい。これにより、広範囲にわたって二次覆工コンクリート202の養生を同時に行うことも可能となる。また、養生台車100を連結する台数に制限はなく、数十台の養生台車100を連結してもよい。
【0025】
上述したように、一対の封止部材112が二次覆工コンクリート202と接することでトンネル内の一部が仕切られ、これらの封止部材112の間には、アーチ状フレーム102と梁フレーム104によって形成される格子の開口面を目張りする可撓性シート118が設けられる。また、一対のアーチ状フレーム102-1の間にはフラップ114が設けられ、このフラップ114は二次覆工コンクリート202と接するように回転する。このため、一対の封止部材112およびフラップ114もしくはその上に設けられる封止部材116が二次覆工コンクリート202と接すると、二次覆工コンクリート202、封止部材112、可撓性シート118、およびフラップ114もしくは封止部材116によって密閉された空間204が形成される。詳細は後述するが、この空間204を利用して二次覆工コンクリート202が養生される。
【0026】
1-2.二酸化炭素供給源
二酸化炭素供給源150は、空間204に二酸化炭素を含むガスを供給する機能を有する。二酸化炭素を含むガスとしては、純粋な二酸化炭素(例えば純度99%以上)でもよく、二酸化炭素と他のガスとの混合ガスでもよい。混合ガスを用いる場合には、他のガスとして空気や酸素、窒素などが挙げられる。混合ガス中における二酸化炭素の濃度も任意に設定することができるが、効率よく二次覆工コンクリート202と二酸化炭素を接触させるため、例えば、大気中の二酸化炭素濃度(400ppm)よりも高く100体積%以下の任意の濃度から設定すればよい。
【0027】
二酸化炭素供給源150としては、例えば二酸化炭素を含むガスのボンベやタンクなどが挙げられる。二酸化炭素供給源150は図示しないレギュレータに接続され、二酸化炭素を含むガスが調圧される。あるいは、造設されるトンネル付近に二酸化炭素を大量に排出する施設(化学プラント、ゴミ焼却施設、火力発電所、その他各種工場など)が既設されている場合、これらの施設で排出されるガス、または排出ガスに対して脱塵、脱硫、脱硝などを行うことで得られる精製された二酸化炭素を利用してもよい。この場合、これらの施設が二酸化炭素供給源150として機能し、図示しない配管を用いて二酸化炭素が空間204に供給される。これにより、二酸化炭素を運搬するためのコストが削減され、運搬に伴う二酸化炭素の更なる排出が防止される。
【0028】
図5に示すように、可撓性シート118には少なくとも一つの開口118aが設けられ、二酸化炭素を含むガスは、二酸化炭素供給源150から二酸化炭素ライン152に導入され、開口118aを介して空間204に供給することができる。開口118aの位置は任意に決定することができ、図1図5に示されるように、開口118aはトンネルの天井付近(例えば最も高い位置にある梁フレーム104と重なる位置、または最も高い位置にある梁フレーム104とそれに隣接する梁フレーム104との間)に設けてもよく、トンネルの側面付近に設けてもよい。二酸化炭素は空気よりも比重が大きいため、トンネルの天井付近から二酸化炭素を含むガスを供給することで、空間204内の二酸化炭素濃度を比較的均一にすることができる。
【0029】
1-3.その他の構成
本養生システムとそれに含まれる養生台車100の構成は上述した構成に限られず、以下に述べる種々の構成を含むことができる。
【0030】
(1)配管
図8の正面図と図9の上面図に示すように、二酸化炭素を空間204内に均一に導入するための配管120を可撓性シート118上に設けてもよい。二酸化炭素を含むガスは、二酸化炭素ライン152から配管120に導入される。配管120の形状や配置は任意であり、図9に示すように格子状に形成してもよく、あるいは枝分かれのない配管を配管120として用いてもよい。配管120は銅やアルミニウム、鉄などの金属、真鍮やステンレスなどの合金を含んでもよく、あるいはポリエチレンや塩化ビニル、ポリウレタン、天然ゴム、シリコーン樹脂、フッ素含有樹脂などの高分子を含む可撓性の配管でもよい。二酸化炭素供給源150から供給される二酸化炭素を含むガスは配管120に供給される。配管120には複数の孔が設けられ、この孔を介して二酸化炭素を含むガスが空間204に拡散される。
【0031】
(2)ガス循環装置
図1図2に示すように、本養生システムは、空間204内のガスを循環させるためのガス循環装置170を備えてもよい。ガス循環装置170の数に制約はなく、複数のガス循環装置170を設けてもよい。ガス循環装置170の配置にも制約はなく、ガス循環装置170は空間204の外部に設置してもよい。この場合、ガス循環装置170は、フラップ114や封止部材116に設けられる開口117a(図3図4参照)を介して空間204内のガスを吸引し、再度開口117bを介して空間204内へ吸引したガスを排出するためのファンを有する。なお、開口117a、118aは可撓性シート118に設けてもよい。図示しないが、ガス循環装置170は、吸引後のガスをろ過するためのフィルターをさらに備えてもよい。
【0032】
あるいは、図8に示すように、ガス循環装置170は空間204内に設置してもよい。この場合には、例えばガス循環装置170はフラップ114または封止部材116上に設ければよく、ガス循環装置170はエアーサーキュレータのような比較的簡単な構造を有するファンでよい。
【0033】
上述したように、二次覆工コンクリート202の養生時において、空間204には二酸化炭素が供給され、二次覆工コンクリート202内に二酸化炭素が炭酸カルシウムとして固定化される。二酸化炭素は空気や窒素、酸素よりも比重が大きいため、空間204の下部に溜まりやすく、空間204内の二酸化炭素濃度が不均一となりやすい。しかしながら、ガス循環装置170を用いて空間204内のガスを強制的に対流させることで二酸化炭素濃度が空間204内で均一に拡散し、その結果、二次覆工コンクリート202中の炭酸カルシウム濃度が均一となり、強度分布の偏りが小さい二次覆工コンクリート202を形成することができる。
【0034】
(3)水供給源
任意の構成として、本システムは水供給源160と水供給源160に接続される配管122をさらに含んでもよい(図10図11)。水供給源160は、外部から供給された水を図示しないポンプを用いて水ライン162から配管122に供給する機能を有する。水供給源160は、図1に示すように梁フレーム104上に搭載してもよく、図示しないが横梁フレーム108上に搭載してもよい。あるいは、水供給源160は地面上に配置してもよい。水供給源160を地面上に配置する場合には、トンネル外に設けてもよい。水供給源160はさらに、供給される水の温度を制御するための加熱装置や冷却装置を備えていてもよい。
【0035】
配管122は可撓性シート118上に配置される。二酸化炭素を含むガスの供給に用いられる配管120と同様、配管122も図11に示すように格子状に形成してもよく、あるいは枝分かれのない配管であってもよい。配管122としては、ポリエチレンや塩化ビニル、ポリウレタン、天然ゴム、シリコーン、フッ素含有樹脂などの高分子を含む可撓性の配管が例示される。配管122も銅やアルミニウム、鉄などの金属、真鍮やステンレスなどの合金を含む配管でもよいが、水に腐食しにくいステンレスを用いることが好ましい。配管122にも複数の孔が設けられ、この孔を介して水が空間204に拡散される。複数の孔にノズルを設け、霧状の水を間204に供給してもよい。
【0036】
水供給源160を設けて水を空間204に拡散させることにより、空間204の湿度を制御することができる。その結果、二次覆工コンクリート202からの水の蒸発を防止し、セメントを十分に水和させるとともに、蒸発によってセメントの水和に必要な水が欠乏することに起因する二次覆工コンクリート202のひび割れを防止することができる。
【0037】
図示しないが、水供給源160は、二酸化炭素供給源150から二酸化炭素を含むガスがさらに供給されるように構成されていてもよい。この場合、水供給源160内で二酸化炭素と水が接触して二酸化炭素を含む水が生成し、この水が配管120を介して空間204内に拡散される。二酸化炭素供給源150に接続される配管120は設置しなくてもよい。
【0038】
(4)検知器
図8図9に示すように、本養生システムはさらに、空間204内の二酸化炭素濃度や湿度、温度を測定するための濃度計172や湿度計174、温度計176をそれぞれ一つまたは複数有してもよい。濃度計172、湿度計174、温度計176は、空間内204内の任意の場所に設置することができる。例えば可撓性シート118上、アーチ状フレーム102上、あるいは梁フレーム104上に設けることができる。濃度計172や湿度計174、温度計176は通信機能を備えてもよい。具体的には、それぞれバッテリを搭載し、定期的に二酸化炭素濃度や湿度、温度を測定し、その情報を後述する制御装置や通信端末へ無線または有線で送信するように構成されてもよい。
【0039】
(5)封止部材
上述したように、養生台車100の封止部材112、可撓性シート118、およびフラップ114もしくは封止部材116によって空間204が密閉され、この空間内で二次覆工コンクリート202の養生が行われる。このため、封止部材112は二次覆工コンクリート202と接する。しかしながら、養生台車100の移動時にも封止部材112と二次覆工コンクリート202が接すると養生台車100の移動が制約され、封止部材112の破損が生じる可能性がある。このような不具合の発生を防止するため、移動時には養生台車100の封止部材112は二次覆工コンクリート202と接触せず、養生時に養生台車100をリフトアップすることで封止部材112が二次覆工コンクリート202と接触するように養生台車100を構成してもよい。
【0040】
具体的には、図12(A)に示すように、トンネル内で養生台車100をレール206に沿って移動させる際には、封止部材112が二次覆工コンクリート202と接触しないようにアーチ状フレーム102-1の形状と封止部材112の形状を調整して養生台車100を構成する。養生を行う際には、図12(B)に示すように、ジャッキ208を用いて養生台車100をz方向に持ち上げ(リフトアップ)、封止部材112と二次覆工コンクリート202との接触を許容する。通常、二次覆工コンクリート202のスパンの間には、図13に示すように凹部202aが形成されるので、リフトアップすることで封止部材112の一部がこの凹部202aに挿入されるよう、封止部材112を構成してもよい。例えば、封止部材112は、アーチ状フレーム102-1から遠い側の端部の幅(x方向における長さ)がアーチ状フレーム102-1に近い側の端部の幅よりも小さくなるよう、構成することができる。より具体的には、断面形状の少なくとも一部が台形となるように封止部材112を構成してもよい。このように封止部材112の形状を制御することで、封止部材112が二次覆工コンクリート202と噛み合わさり、空間204の気密性を向上させることができる。
【0041】
なお、トンネルの最大幅(y方向における最大長さ)がトンネル底部(すなわち地面)の幅(y方向における長さ)よりも大きい場合には、リフトアップした際に封止部材112が凹部202aに挿入されるようにアーチ状フレーム102-1や封止部材112の形状を調整しても、移動時に封止部材112と二次覆工コンクリート202の干渉が避けられない場合がある。この場合には、移動時には封止部材112を取り外し、リフトアップを行う際に封止部材112を取り付けてもよい。あるいはあらかじめ封止部材112を凹部202aに挿入しておき、その後リフトアップを行ってもよい。
【0042】
あるいは複数のパーツに分割できるように封止部材112を構成してもよい。例えば図14に示すように、封止部材112を三つのパーツに分割し、アーチ状フレーム102-1の上部を覆うパーツはアーチ状フレーム102上に定常的に固定する。一方、アーチ状フレーム102-1の両側(すなわち、より地面に近い側)の二つのパーツは移動時には搭載しない。養生台車100の移動が完了した後、両側の二つのパーツをアーチ状フレーム102-1上に配置し、養生台車100をリフトアップすることで、封止部材112を凹部202aに挿入することができる。あるいは、両側の二つのパーツを凹部202aに挿入した状態で養生台車100をリフトアップしてもよい。このように、封止部材112が分割可能なように構成することで、様々な形状のトンネルに適合する養生システムを構築することができる。
【0043】
2.養生方法
本発明の実施形態の一つに係る養生システムを利用する二次覆工コンクリート202の養生方法のフローチャートを図16に示す。
【0044】
まず、掘削作業によってトンネルが形成され、その後、トンネルの壁面に対して一次覆工コンクリート200を打設し、さらに二次覆工コンクリート202を打設する。これらのコンクリートの打設は公知の方法を採用することによって行えばよい。例えば、レディーミクストコンクリートを圧縮空気を用いてトンネルの壁面に塗布することで一次覆工コンクリート200を打設する。二次覆工コンクリート202は、一次覆工コンクリート200の打設後にアーチ状の型枠を形成し、型枠と一次覆工コンクリート200の間にレディーミクストコンクリートを流し込み、硬化させることで打設する。
【0045】
その後、二次覆工コンクリート202を養生する。まず、上述した養生台車100を配置する。養生台車100は、z方向において養生する二次覆工コンクリート202の下に配置する。封止部材112が二次覆工コンクリート202の表面と接触していない場合には、養生台車100をリフトアップする(図12(B)、図15)。その際、封止部材112が二次覆工コンクリート202に設けられる凹部202aに挿入されるようにリフトアップを行ってもよい(図13参照)。その後、フラップ114を回転させて空間204を密閉し(図2)、二次覆工コンクリート202の表面を空間204内に密封する。
【0046】
その後、二酸化炭素供給源150から二酸化炭素を含むガスを供給する。このガスの供給量は、養生対象である二次覆工コンクリート202の面積、空間204の体積、ガス中の二酸化炭素の濃度、養生時の温度、二次覆工コンクリート202の打設時に用いるレディーミクストコンクリートの特性などを考慮して適宜決定すればよい。空間204内の圧力は、大気圧と同一でもよく、大気圧よりも高い陽圧でもよい。例えば、空間204内の圧力が1気圧以上1.3気圧以下となるように二酸化炭素を含むガスを供給してもよい。養生の際、さらに水供給源160から水を供給してもよい。水の供給量も、上述したパラメータを考慮して決定される。養生期間は、供給する二酸化炭素濃度と固定化する二酸化炭素の量によって、例えば3時間から4週間程度の幅の中から適宜決定される。
【0047】
養生時には、上述した各種検知器を用い、養生環境をモニターしてもよい。例えば濃度計172や湿度計174を用い、空間204内の二酸化炭素濃度や湿度を定期的に測定する。測定結果は、濃度計172や湿度計174と有線または無線で接続される制御装置やスマートフォンもしくはタブレットなどの携帯通信端末などに送信してもよい。図示しないが、空間204内の温度も温度計176を用いて測定し、その結果を送信してもよい。
【0048】
二酸化炭素濃度が所定の範囲外であれば、二酸化炭素供給源150を操作して二酸化炭素の供給量を増減させる。この操作は手動で行ってもよく、自動で行ってもよい。また、二酸化炭素供給源150に通信機能を搭載し、二酸化炭素供給源150を遠隔的に操作しもよい。空間204における二酸化炭素の濃度は、例えば3体積%以上50%以下または5%以上20%以下の範囲内で維持すればよい。
【0049】
同様に、湿度が所定の範囲外であれば、水供給源160を操作して水の供給量を増減させる。図示しないが、空間204内の温度が所定の範囲外であれば、水供給源160を操作して水の供給量を増減させてもよい。空間204内の湿度は、例えば50%以上100%以下の範囲で維持すればよい。あるいは水供給源160に搭載された加熱装置または冷却装置を用いて水の温度を制御してもよい。これらの操作も手動で行ってもよく、自動で行ってもよい。また、水供給源160に通信機能を搭載し、水供給源160を遠隔的に操作してもよい。
【0050】
このように、各種検知器を用いて養生完了まで空間204内の状況をモニターすることにより、空間204を常に二次覆工コンクリート202の養生に適する環境下におくことができる。養生が完了した後、フラップ114を二次覆工コンクリート202から離隔させ、空間204内の二酸化炭素を含むガスをトンネル外に排気する。以上のステップによって養生が終了する。
【0051】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係る養生システムを利用することで、養生対象である二次覆工コンクリート202の表面を密閉された空間204内に密封することができる。特にフラップ114上に封止部材116を設けることで、封止部材116が二次覆工コンクリート202の表面の形状に合わせて変形して密着するため、空間204をより効果的に密閉することができる。さらに、アーチ状フレーム102-1上に設けられる封止部材112を二次覆工コンクリート202の凹部202aに挿入することにより、気密性を更に向上させることができる。このため、空間204に供給される二酸化炭素が効率よく二次覆工コンクリート202と接触するとともに、二酸化炭素のリークが防止され、養生作業において高い安全性を確保することができる。
【0052】
一次覆工コンクリート200や二次覆工コンクリート202の原料であるセメントは、その製造時に大量の二酸化炭素を放出する。しかしながら、本養生システムを用いることで、二次覆工コンクリート202は、セメントの水和で生成する水酸化カルシウムと二酸化炭素との反応が与える炭酸カルシウムを高い濃度で有することができるため、二次覆工コンクリート202は大量の二酸化炭素を固定することになる。したがって、本発明の実施形態に係る養生システムや養生方法は、大量の二酸化炭素を固定するために利用でき、二酸化炭素の削減と地球温暖化の抑制に寄与することができる。
【0053】
コンクリートに二酸化炭素を固定化する方法としては、二酸化炭素が充填された養生槽内に硬化したコンクリートを配置して接触させる方法や、硬化した多孔質コンクリート表面に二酸化炭素を接触させる方法が知られている。しかしながら、これら方法は大型の建造物に適応することが困難であり、建造物が建造される現場でコンクリートを打設する場合には採用することができない。また、既に硬化したコンクリートに対する処理であるため、二酸化炭素の固定量が小さい。
【0054】
これに対し、本実施形態の一つに係る養生方法では、完全に硬化する前のコンクリートと二酸化炭素を接触させることができ、また、現場で打設されるコンクリートに対して二酸化炭素固定を行うことができる。このため、大量の二酸化炭素を固定することができる。実際、発明者らは、予備的な実験により、本養生方法では使用されるセメントの約20%(60kg/m3)の二酸化炭素が固定することができ、その結果、コンクリートの圧縮強度が8%から10%程度増大することを確認している。また、この二酸化炭素の固定量を仮定した場合、普通ポルトランドセメントを用いて水/セメント比(W/C)を50%、単位セメント量を300kg/m3として長さ1kmのトンネルを造ると、約600トンもの大量の二酸化炭素を固定できることが試算されている。さらに、コンクリートの使用材料により異なるが、発明者らによる試算では、最大でコンクリート1立方メートルあたり120kgの二酸化炭素を固定できる。
【0055】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0056】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0057】
100:養生台車、102:アーチ状フレーム、102-1:アーチ状フレーム、102-2:アーチ状フレーム、104:梁フレーム、106:柱フレーム、108:横梁フレーム、110:筋交フレーム、112:封止部材、114:フラップ、116:封止部材、117a:開口、117b:再度開口、118:可撓性シート、118a:開口、120:配管、122:配管、130:車輪、150:二酸化炭素供給源、152:二酸化炭素ライン、160:水供給源、162:水ライン、170:ガス循環装置、172:濃度計、174:湿度計、176:温度計、200:一次覆工コンクリート、202:二次覆工コンクリート、202a:凹部、206:レール、208:ジャッキ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16