(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】露光装置および露光方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2020139243
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】伊達 寛一
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-316473(JP,A)
【文献】特表2007-501431(JP,A)
【文献】米国特許第05691541(US,A)
【文献】特開2016-009120(JP,A)
【文献】特開2005-338667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイと、
フォトレジスト層を表面に形成した露光対象物に対し、前記光変調素子アレイの露光エリアを、主走査方向に沿って
一定速度で相対移動させる走査部と、
前記光変調素子アレイおよび前記走査部を制御し、前記露光対象物に対して
、各光変調素子の微小露光エリアが互いにオーバラップするように所定の露光ピッチで多重露光する露光制御部とを備え、
前記露光制御部が、一度の走査で積算露光量が前記フォトレジスト層のフォトレジストの露光感度を超えない未達成露光を、所定の時間間隔を空けて複数回行うことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、同一のパターンで、未達多重露光を複数回行うことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、同一方向に走査させて、未達多重露光を複数回行うことを特徴とする請求項1または2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、同一の動作制御手順で複数の光変調素子を変調するように前記光変調素子アレイを制御して、各走査の未達多重露光を行うことを特徴とする請求項3に記載の露光装置。
【請求項5】
複数の光変調素子アレイを備え、
前記走査部が、各光変調素子アレイの露光エリアを、往路と復路で異なる走査バンドを通過させる往復走査を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の露光装置。
【請求項6】
前記露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、未達多重露光の1回の露光時間または走査速度を調整して、未達多重露光を、前記フォトレジストの露光感度を超える回数分だけ行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の露光装置。
【請求項7】
前記露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、未達多重露光の1回の露光時の照度を調整して、未達多重露光を、前記フォトレジストの露光感度を超える回数分だけ行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の露光装置。
【請求項8】
複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイと、
フォトレジスト層を表面に形成した露光対象部に対し、前記光変調素子アレイの露光エリアを、主走査方向に沿って
一定速度で相対移動させる走査部と、
前記光変調素子アレイおよび前記走査部を制御し、前記露光対象物に対して
、各光変調素子の微小露光エリアが互いにオーバラップするように所定の露光ピッチで多重露光する露光制御部とを備え、
前記露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、複数回の走査によって多重露光を複数回行うことを特徴とする露光装置。
【請求項9】
走査部によって、フォトレジスト層を表面に形成した露光対象物に対し、複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイの露光エリアを、主走査方向に沿って
一定速度で相対移動させ、
前記光変調素子アレイおよび前記走査部を制御し、前記露光対象物に対して
、各光変調素子の微小露光エリアが互いにオーバラップするように所定の露光ピッチで多重露光する露光方法であって、
所定の露光対象箇所に対し、一度の走査による多重露光を、所定時間間隔をおいて繰り替えし行うことを特徴とする露光方法。
【請求項10】
走査部によって、フォトレジスト層を表面に形成した露光対象物に対し、複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイの露光エリアを、主走査方向に沿って一定速度で相対移動させ、
前記光変調素子アレイおよび前記走査部を制御し、前記露光対象物に対して、各光変調素子の微小露光エリアが互いにオーバラップするように所定の露光ピッチで多重露光する露光方法であって、
一度の走査で積算露光量が前記フォトレジスト層のフォトレジストの露光感度を超えない未達成露光を、所定の時間間隔を空けて複数回行うことを特徴とす
る露光方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載された露光方法によって、
基板の表面上のフォトレジスト層にパターン
を形成
する基板
の製造方法であって、
パターン形成後の前記フォトレジスト層が、その断面において、表面に沿った方向に縞模様を形成していることを特徴とする基板
の製造方法。
【請求項12】
前記フォトレジスト層のフォトレジストの露光感度に応じた必要露光エネルギー量が、300mJ/cm
2以上であることを特徴とする請求項11に記載の基板
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子アレイなどを用いて、フォトレジスト層(感光材料)を表面に形成した基板に対してパターンを形成する露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスクレス露光装置では、基板が搭載されるステージを走査方向に沿って移動させながら、DMD(Digital Micro-mirror Device)などの光変調素子アレイによってパターン光を基板に投影する。そこでは、ステージの移動に伴って基板上を移動する投影エリア(以下、露光エリアという)の位置に応じたパターンデータに基づいて、マイクロミラーをON/OFF制御する。
【0003】
スループット、解像度等の向上の観点から、露光動作時のショット領域をオーバラップさせる多重露光動作が行われる(例えば、特許文献1、2参照)。そこでは、基板が一定速度で移動している間、露光動作時の各マイクロミラーの微小露光エリアが互いにオーバラップするように、パターン光を所定のピッチ間隔で投影する。
【0004】
露光エリアが通過していく過程で基板上での積算光量が増加し、基板上に形成された感光材料の膜の性質が急峻に変化する閾値を超えることで、パターンが形成される。また、DMDの配列方向を走査方向(ステージ移動方向)に対して微小傾斜させることによって、露光エリアにおける微小露光エリアの中心位置(露光点)の分布を分散させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-36544号公報
【文献】特開2012-49433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マスクレス露光装置の場合、スループット向上を図るため、一回の露光動作(ワンショット)における露光量(照度)は、コンタクト露光装置などと比べて高く設定されている。また、フォトレジストに関しても、高感度(閾値の低い)特性のフォトレジストがマスクレス露光装置に対して使用される。
【0007】
一方、近年のコスト低減要求、コンタクト露光装置からマスクレス露光装置への代替などの理由により、マスクレス露光装置においても、低感度の汎用フォトレジストが使用される。この場合、高照度、短期間の露光というマスクレス露光の特性が、低照度での長時間露光を前提とした低感度特性の汎用フォトレジストの反応速度と合わないため、断面プロファイルの形状不良、フォトレジスト表面部分の光沢差や硬化不足などの露光不良などが生じやすい。
【0008】
したがって、マスクレス露光装置において、低感度特性の汎用フォトレジストを使用した場合においても、適切にパターンを形成することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の露光装置は、複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイと、フォトレジストを表面に形成した露光対象物に対し、前記光変調素子アレイの露光エリアを、主走査方向に沿って相対移動させる走査部と、前記光変調素子アレイおよび前記走査部を制御し、前記露光対象物に対して主走査方向に所定の露光ピッチで多重露光する露光制御部とを備え、前記露光制御部が、一度の走査で積算露光量が前記フォトレジストの露光感度(閾値)を超えない多重露光(ここでは、未達多重露光という)を、所定の時間間隔を空けて複数回行う。
【0010】
一度の走査における、多重露光動作の露光ピッチ、ワンショット露光時の照度(光強度)、多重露光回数、パターンなどは任意である。例えば、露光制御部は、所定の露光対象箇所に対し、未達多重露光の1回の露光時間または走査速度を調整して、未達多重露光を、フォトレジストの露光感度を超える回数分だけ行う。あるいは、露光制御部は、露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、未達多重露光の1回の露光時の照度を調整して、未達多重露光を、フォトレジストの露光感度を超える回数分だけ行う。
【0011】
露光制御部は、所定の露光対象箇所に対し、同一のパターンで、未達多重露光を複数回行うことが可能である。また、所定の露光対象箇所に対し、同一方向に走査させて、未達多重露光を複数回行うことができる。露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、同一の動作制御手順で複数の光変調素子を変調するように光変調素子アレイを制御して、各走査の未達多重露光を行えばよい。
【0012】
複数の光変調素子アレイを備える場合、走査部は、各光変調素子アレイの露光エリアを、往路と復路で異なる走査バンドを通過させる往復走査を行うことができる。各光変調素子アレイの走査バンドにおいて、同じ時間間隔で同一の露光対象箇所に対して複数回の多重露光動作を行うことができる。
【0013】
本発明の露光装置は、複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイと、フォトレジストを表面に形成した露光対象物に対し、光変調素子アレイの露光エリアを、主走査方向に沿って相対移動させる走査部と、光変調素子アレイおよび走査部を制御し、露光対象物に対して主走査方向に所定の露光ピッチで多重露光する露光制御部とを備え、露光制御部が、所定の露光対象箇所に対し、複数回の走査によって多重露光を複数回行う。例えば、上記露光感度に応じた閾値、あるいはそれを上回る閾値を超えるように、複数回走査による複数回の多重露光動作を行うことが可能である。
【0014】
本発明の一態様である露光方法は、フォトレジストを表面に形成した露光対象物に対し、複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイの露光エリアを、主走査方向に沿って相対移動させ、光変調素子アレイおよび走査部を制御し、露光対象物に対して主走査方向に所定の露光ピッチで多重露光する露光方法であって、所定の露光対象箇所に対し、一度の走査による多重露光を、所定時間間隔をおいて繰り替えし行う。例えば、一度の走査で積算露光量がフォトレジストの露光感度を超えない未達多重露光を、所定の時間間隔を空けて複数回行う。
【0015】
上記露光方法によって形成される本発明の基板では、フォトレジストが、その断面において、表面に沿った方向に縞模様を形成している。例えば、フォトレジストの露光感度に応じた必要露光エネルギー量が、300mJ/cm2以上である基板に対して、上記露光方法が適用され、基板にパターンが形成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マスクレス露光装置において、低感度特性の汎用フォトレジストを使用した場合においても、適切にパターンを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態である露光装置のブロック図である。
【
図2】多重露光動作のタイミングチャートを示した図である。
【
図3】複数の露光ヘッドによる走査経路を示した図である。
【
図4】現像したビア部付近の断面を概略的に示した図である。
【
図6】第2の実施形態における多重露光動作のタイミングチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1は、第1の実施形態である露光装置のブロック図である。
【0020】
露光装置100は、フォトレジストなどの感光材料の層を表面に形成した基板Wにパターンを形成するマスクレス(ダイレクト)露光装置であり、例えばソルダーレジストインクなどのネガ型フォトレジストが塗布される。露光装置100は、複数の放電ランプ(ここでは図示せず)から構成される光源部20と、基板Wにパターン光をそれぞれ投影する複数の露光ヘッド10を備えている。なお、ここでは一系統の光源部20と露光ヘッド10のみ図示している。
【0021】
露光ヘッド10は、照明光学系21、DMD22、結像光学系23とを備え、照明光学系21は、特定波長域の紫外線強度を低減する光学フィルタ25を設けている。光源部20は、紫外線を放射する放電ランプ(図示せず)などによって構成され、光源駆動部42によって駆動される。
【0022】
ベクタデータなどで構成されるCAD/CAMデータが露光装置100へ入力されると、ベクタデータが、ラスタ変換回路26においてラスタデータに変換される。生成されたラスタデータは、バッファメモリ(図示せず)に一時的に格納された後、DMD駆動回路24へ送られる。
【0023】
DMD22は、微小マイクロミラーを2次元配列させた光変調素子アレイであり、各マイクロミラーは、姿勢を変化させることによって光の反射方向を選択的に切り替え可能である。DMD駆動回路24は、各マイクロミラーをON/OFF制御する露光データを出力し、これによって、パターンに応じた光が結像光学系23を介して基板Wの表面に投影(結像)される。
【0024】
コントローラ(露光制御部)30は、光源駆動部42、フィルタ駆動部44、DMD駆動回路24、ステージ駆動機構29などを制御し、露光動作を実行する。また、コントローラ30は、メモリ32から露光に関連する情報を読み出す。ステージ駆動機構29は、コントローラ30からの制御信号に従い、基板Wを搭載した露光ステージ18を、露光ヘッド10に対して相対移動させる。位置検出部27は、ステージ駆動機構19から送られてくる信号に基づき、基板Wの表面の露光位置を算出する。なお、露光ステージ18の移動経路に沿った方向を主走査方向X、この移動経路に沿った方向と直交する方向を副走査方向Yとする。
【0025】
露光中、露光ステージ18は、主走査方向Xに沿って一定速度で移動する。DMD22全体による投影エリアである露光エリアは、基板Wの移動に伴って基板W上を主走査方向Xに沿って相対移動する。また、基板Wの移動方向は、DMDの配列方向、すなわち露光エリアの主走査方向Xに沿った端辺に対し微小傾斜している。なお、主走査方向Xに対して微小傾斜させなくてもよい。
【0026】
コントローラ30は、露光エリアの相対位置に応じてDMD22の各マイクロミラーを制御し、多重露光動作を実行する。すなわち、所定の露光ピッチに従って露光動作が行なわれ、各マイクロミラーの微小露光エリアの中心位置(露光点)の分布が略均一に分散し、パターン光がオーバラップして投影される。露光ヘッド10を含めた複数の露光ヘッドによって基板W全体に対し多重露光動作をすることで、基板W全体にパターンが形成される。
【0027】
本実施形態では、一度の走査、すなわち露光エリアが露光対象箇所を通過する間に、積算露光量が感光材料の閾値を超えない多重露光動作を行う。そして、この多重露光動作を複数回の走査に渡って繰り返し行う。以下、これについて詳述する。
【0028】
図2は、多重露光動作のタイミングチャートを示した図である。
図3は、複数の露光ヘッドによる走査経路を示した図である。ただし、
図3では、説明を容易にするため、2つの露光ヘッドによる露光エリアの移動経路を示している。また、露光エリアは、主走査方向Xに対して微小傾斜させていない。
【0029】
図2に示す多重露光動作ME1は、
図3に示す露光対象箇所SA1、SA2を通過する間、所定の露光ピッチで4回の露光動作を立て続けに行う多重露光動作のタイミングを示している。ただし、露光対象箇所SA1、SA2は任意の露光対象箇所である。
【0030】
1回の露光(ワンショット露光)における照射期間、すなわちマイクロミラーがOFFからONに切り替わって光を掃引する期間(光を露光面に照射したまま走査する期間)t、照度I1は、一度の走査で積算露光量がフォトレジストの露光感度、すなわちパターン形成に必要な露光量(以下、閾値ともいう)を超えないように定められている。以下では、1度の主走査方向Xに沿った走査で、フォトレジストのパターン形成に必要な感光が実現してしない不十分な多重露光を、「未達多重露光」と呼ぶ。
【0031】
図3に示すように、露光エリアEA1、EA2は、それぞれ、基板Wに対して隣接する走査バンドSB1、SB2と走査バンドSB3、SB4とを往復移動する。ステージ駆動部29は、露光エリアEA1、EA2が走査バンドSB1、SB3を移動終了すると、副走査方向Yに露光ステージ18を移動させ、露光エリアEA1、EA2をそれぞれ走査バンドSB2、SB4に沿って往路とは逆方向に移動させる。露光エリアEA1、EA2が往復移動すると、ステージ駆動部29は、露光エリアEA1、EA2を再び走査バンドSB1、SB3に沿って移動させる。
【0032】
再び、露光エリアEA1、EA2が走査バンドSB1、SB3の露光対象箇所SA1、SA2を通過するとき、2回目の未達多重露光動作ME2(
図2参照)が実行される。このときのワンショット露光時間、照度、ワンショット露光回数は、1回目の未達多重露光動作ME1と同じであり、また、次のワンショット露光が実行されるまでの露光ピッチに応じた時間間隔、パターン光(パターンデータ)およびDMDのマイクロミラーの動作順序(ON/OFF制御シーケンス)も同一である。
【0033】
その後、露光エリアEA1は、走査バンドSB1、SB2を往復移動(周回移動)し、同時に露光エリアEA2は、走査バンドSB3、SB4を往復移動(周回移動)する。3回目の走査でそれぞれ露光対象箇所SA1、SA2を通過するとき、3回目の未達多重露光動作ME3が実行される。
【0034】
合計3回に渡って未達多重露光動作ME1、ME2、ME3が実行されると、露光対象箇所SA1、SB2に対する積算光量がフォトレジストの閾値を超える。その結果、フォトレジストにパターンが形成される。フォトレジストがネガタイプであるため、紫外線照射箇所が硬化する。
【0035】
照度I1、ワンショット露光時間t、ワンショット回数(ここでは4回)は、未達多重露光動作ME1、ME2、ME3によって積算光量がフォトレジストの閾値を超えるように定められている。本実施形態で使用されているフォトレジストは、コンタクト露光装置、プロキシミティ露光装置などに使用されることを前提とした感度特性を有するいわゆる汎用フォトレジストであり、パターン形成に必要な露光エネルギー(積算光量)は300~600mJ/cm2である。このフォトレジストは、マスクレス露光装置を対象として使用される高感度フォトレジストと比べ、感度が低い(閾値が高い)。
【0036】
図2では、コンタクト露光装置あるいはプロキシミティ露光装置などを使用した場合、フォトレジストの閾値を超えるのに必要となる積算光量の連続照射動作CE0を破線で示している。3回に渡って実行される未達多重露光動作ME1、ME2、ME3の積算光量は、破線で示す連続照射動作CE0の積算光量と略等しい。コンタクト露光装置あるいはプロキシミティ露光装置で連続的な露光により連続照射動作光量CE0による感光完了に到達する時間は、およそ数秒である。
【0037】
図2には、露光装置100において、一度の走査でフォトレジストの閾値を超える多重露光動作ME0も合わせて示している。未達多重露光動作の照度I1は、多重露光動作ME0の照度と同一であるが、未達多重露光動作のワンショット露光時間tは、多重露光動作ME0ワンショット露光時間t0よりも短い。なお、ワンショット露光時間tを短くする構成としては、マイクロミラーON時間を調整してもよく、あるいは走査速度を上げてワンショット露光時間tを短くするようにしてもよい。
【0038】
露光エリアEA1、EA2の走査速度は往路復路とも一定であり、副走査方向Yに沿った露光ステージ18の移動も一定速度で移動する。そのため、1回目の未達多重露光動作ME1から2回目の未達多重露光動作ME2までのインターバルT1と、2回目の未達多重露光動作ME1から3回目の未達多重露光動作ME2までのインターバルT2は、等しい。インターバルT1、T2は、ワンショット露光時間t(数ミリ秒)、露光ピッチに応じた時間間隔PT(数ミリ秒)と比べ、長い(数秒~数十秒)。
【0039】
露光対象箇所SA1、SA2は基板Wの任意箇所として設定されていることから、走査バンドSB1およびSB2と走査バンドSB3およびSB4いずれの露光対象箇所においても、ワンショット露光時間t、照度I1、ワンショット露光回数(4回)、露光ピッチに応じた時間間隔PTが同一で、同一パターン、同一DMD動作(マイクロミラー作動順が同一)による未達多重露光動作が、同じインターバルで3回行われる。このような多重走査による同一箇所への同一の未達多重露光動作を繰り返すことにより、良好なパターンを形成することができる。
【0040】
図4は、現像したビア部付近の断面を概略的に示した図である。
【0041】
ビア部VP1、VP2は、紫外線が照射されずに現像時に溶解除去された部分である。ビア部VPの周囲のフォトレジストFRは、紫外線が照射されて不溶化、硬化している。
図4(A)に示すビア部VP1は、
図2の多重露光動作ME0によって形成されたビア部であり、
図4(B)に示すビア部VP2は、未達多重露光動作ME1~ME3によって形成されたビア部である。
【0042】
図4(A)に示すように、1回の多重露光動作でビア部VP1を形成した場合、深度を増すごとに光重合反応の範囲が拡散していることなどに起因して、ビア壁面がテーパー状に形成されている。また、低感度特性を有するフォトレジストFRに対して比較的高い照度I1によるワンショット露光を行うため、表面硬化が不十分による光沢、発色の不良が生じ、表面部のみ露光過多となってクラック発生などが生じる。
【0043】
一方、
図4(B)に示すように、未達多重露光動作ME1~ME3によって形成されるビア部VP2は、光重合反応が段階的に複数回(3回)に渡って生じ、1回の未達多重露光動作による光重合反応の拡散が抑えられる。その結果、ビア壁面はテーパー状にならずに垂直壁面となる。また、ワンショット露光時間が短いため、一度の未達多重露光動作による積算光量は抑えられるため、レジスト表面外観やパターン形状の不良などが発生しない。
【0044】
さらに、段階的に光重合反応が生じた履歴として、フォトレジスト断面には、横方向(表面方向)に沿って縞模様Mが形成されている。このような縞模様Mを基板全体に均一に生じさせるため、循環的な往復走査方式を採用し、未達多重露光動作を行う時間間隔を一定にしている。
【0045】
【0046】
露光装置100は、CAD/CAMデータと一緒に露光データなどの露光設定情報をコントローラ30にロードし、続いて搬送装置(
図1では不図示)が基板を露光ステージ18に載置する(S101、S102)。照度調整の後、露光装置100によって、アライメントマーク位置の計測が行われ、基板Wの位置、歪が計測される(S103、S104)。そして、コントローラ30は、アライメントマーク情報に基づいて露光データを補正し(S105)、ステージ駆動機構29に対する駆動制御によって多重走査を実行し、DMD駆動回路24の制御によって未達多重露光動作を繰り返す(S106)。基板W全体の描画が終了すると、次の基板に交換する(S107)。
【0047】
このように本実施形態によれば、露光装置100において、照度I1、ワンショット露光時間t、ワンショット回数(4回)、パターン光が同一である未達多重露光動作ME1、ME2、ME3を、3回の走査に渡って間欠的に実行し、また、同一箇所に対して同じインターバルで行う。
【0048】
コンタクト露光装置を前提とした低感度のフォトレジストに対応した多重露光動作を行うことによって、低感度のフォトレジストに対してもパターンを良好に形成することができる。また、走査速度を上げて多重走査を行うことで、同一箇所に対して複数回露光動作を行っても、スループット低下を抑えることができる。
【0049】
露光エリアを隣り合う走査バンドに沿って往復移動させる構成の代わりに、同一走査バンドを往復走査させてもよい。この場合、復路では露光動作を行わないことによって、同一インターバルによる未達多重露光動作を行うことができる。
【0050】
ワンショット露光時間、露光回数、照度、未達多重露光動作の回数などは、フォトレジストの感度特性などによって適宜定めればよい。また、ポジ型のフォトレジストも適用することができる。
【0051】
次に、
図6を用いて第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、ワンショット露光時の照度が抑えられる。
【0052】
図6は、第2の実施形態における多重露光動作のタイミングチャートを示した図である。
【0053】
未達多重露光動作ME1’~ME3’それぞれのワンショット露光回数は第1の実施形態と同じ回数(4回)であるが、第1の実施形態の照度I1よりも低い照度I2で露光が行われる。照度I2は、コンタクト露光装置、プロキシミティ露光装置などに設定される照度に相当している。その一方で、ワンショット露光時間t’は、第1の実施形態と比べて長い。未達多重露光動作ME1’~ME3’の行われるインターバルT1’、T2’は等しい。このように、一回の露光時の照度を抑えることによっても、フォトレジストに対して段階的な光重合反応を生じさせることができる。
【0054】
第1、第2の実施形態では、未達多重露光動作の回数は、積算露光量がフォトレジストの露光感度、すなわちパターンが現れるのに必要な露光量を超えるように定められている。しかしながら、ネガ型フォトレジストの場合、単に露光感度を超えるだけでなく、レジストが十分硬化するのに必要な積算露光量を与える多重露光動作が求められる場合もある。この場合、未達多重露光動作の回数を、閾値を上回る値に基づいてより多くの回数に設定してもよい。さらに、1回の多重露光動作で露光感度を超える場合でも、同一箇所に対する複数回の走査によって多重露光動作を繰り返し行うように構成することで、レジストの十分な硬化を図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
10 露光ヘッド
19 ステージ駆動機構(走査部)
22 DMD(光変調素子アレイ)
30 コントローラ(露光制御部、走査部)
100 露光装置