(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】基体、特に超伝導テープ導体をコーティングする装置、方法及びシステム並びにコーティングされた超伝導テープ導体
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240412BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C23C14/24 A
C23C14/24 L
C23C14/24 K
H01B12/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020140223
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2022-05-31
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503377939
【氏名又は名称】テバ ドュンシッヒトテヒニク ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】Rote-Kreuz-Str.8, 85737 Ismaning, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100113354
【氏名又は名称】石井 総
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】シグル, ジョージ
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508559(JP,A)
【文献】米国特許第04480677(US,A)
【文献】特開2009-102713(JP,A)
【文献】国際公開第2010/013305(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背景ガス圧が最大で1・10
-1パスカルである真空環境(1)において基体(4)を金属コーティングによりコーティングする方法であって、
ガス源(2)において気相金属材料(9)を生成するステップであって、前記ガス源(2)における前記気相金属材料(9)の蒸気圧が少なくとも1・10
1パスカルであるステップと、
前記気相金属材料(9)を膨張室(3)に供給するステップであって、該膨張室(3)がラバール・ノズルの発散部分の形状を有すると共に前記気相金属材料(9)が膨張し且つ前記基体(4)に向けられるようにするステップと、
前記気相金属材料(9)を前記基体(4)の表面の少なくとも一部上に堆積させるステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記膨張室(3)が前記基体(4)の方向において前記気相金属材料(9)の粒子の少なくとも横方向運動量成分を縦方向運動量成分に変換し、及び/又は
前記膨張室(3)が前記基体(4)の方向において前記気相金属材料(9)の超音速流を発生し、及び/又は
前記膨張室(3)が前記気相金属材料(9)の粒子を前記基体(4)上に向け、これら粒子が前記基体(4)の面法線に対して15°以下の角度で衝突するようにする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真空環境(1)における前記背景ガス圧が最大で1・10
-2パスカルであり、及び/又は
前記基体(4)が前記膨張室(3)の出口開口を超えて、移動される、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記気相金属材料(9)の粒子は前記ガス源から流れ出る際に1mm未満の平均自由行程長を有し、及び/又は
前記ガス源(2)における前記気相金属材料(9)の蒸気圧が少なくとも1・10
2パスカルである、
請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
背景ガス圧が最大で1・10
-1パスカルである真空環境(1)において基体(4)を金属コーティングによりコーティングする装置であって、
気相金属材料(9)を発生するガス源(2)であって、該ガス源(2)における前記気相金属材料(9)の蒸気圧が少なくとも1・10
1パスカルであるガス源(2)、
を有し、
前記ガス源(2)は前記気相金属材料(9)が膨張室(3)に流れ込む開口を有し、
前記膨張室(3)がラバール・ノズルの発散部分の形状を有すると共に、前記気相金属材料(9)が膨張し且つ前記基体(4)に向けられるように構成される、
装置。
【請求項6】
前記膨張室(3)が前記基体(4)の方向において前記気相金属材料(9)の粒子の少なくとも横方向運動量成分を縦方向運動量成分に変換し、及び/又は
前記膨張室(3)が前記基体(4)の方向において前記気相金属材料(9)の超音速流を発生し、及び/又は
前記膨張室(3)が前記気相金属材料(9)の粒子を前記基体(4)上に向け、これら粒子が前記基体(4)の面法線に対して15°以下の角度で衝突するようにする、
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記膨張室(3)を囲む周面を更に有し、
前記周面の少なくとも一部は付着防止コーティングを有し、及び/又は
前記周面の少なくとも一部は熱放射の吸収が増加されるように処理され、及び/又は
前記周面の少なくとも一部が能動的に冷却される、
請求項5又は請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記膨張室(3)は前記基体(4)に面する出口開口及び前記ガス源(2)に面する入口開口を有し、前記出口開口及び入口開口の直径の比は少なくとも1.5であり、及び/又は
前記入口開口と前記基体との間の距離及び前記入口開口と前記出口開口との間の距離の比は少なくとも1.0且つ最大で1.4であり、及び/又は
前記出口開口と前記入口開口との間の距離及び前記出口開口の直径の間の比が少なくとも1.5である、
請求項5から7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記膨張室(3)は前記ガス源(2)から前記基体(4)に向かって特に円錐又は釣鐘状に拡幅し、及び/又は
前記ガス源(2)の開口は、開放型隔膜を有し、及び/又は
前記ガス源(2)及び/又は前記開放型隔膜が、高融点の材料から形成される、
請求項5から8の何れか一項に記載の装置。
【請求項10】
真空環境(1)において基体(4)を金属コーティングによりコーティングするシステムであって、
気相金属材料(9)が前記基体(4)上に請求項5から9の何れか一項に記載の装置を用いて堆積される少なくとも1つのコーティングゾーン(5)であって、前記基体(4)が該少なくとも1つのコーティングゾーン(5)を少なくとも2回通過するコーティングゾーン、又は
前記気相金属材料(9)が前記基体(4)上に請求項5から9の何れか一項に記載の装置を用いて堆積される少なくとも2つのコーティングゾーン(5)であって、前記基体(4)が該少なくとも2つのコーティングゾーン(5)の各々を少なくとも1回通過するコーティングゾーン、
を有するシステム。
【請求項11】
前記基体(4)の向きを前記少なくとも1つのコーティングゾーン(5)の第1の通過後であって第2の通過前に又は第2コーティングゾーン(5)の通過前に変更する装置(6)、
前記基体(4)を前記少なくとも1つのコーティングゾーン(5)の第1の通過後であって第2の通過前に又は第2コーティングゾーン(5)の通過前に冷却する装置(8)、及び/又は
前記少なくとも1つのコーティングゾーン(5)内又は該ゾーンの周囲に配置される少なくとも1つのガス反射器(7a,7b)であって、前記気相金属材料(9)の粒子を前記基体(4)の方向に反射するガス反射器、
を更に有する請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つのガス反射器(7a,7b)の少なくとも一部は付着防止コーティングを有し、及び/又は
前記少なくとも1つのガス反射器(7a,7b)の少なくとも一部は熱放射の吸収を増加させるように処理され、及び/又は
前記ガス反射器(7a,7b)の少なくとも一部が能動的に冷却される、
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
コーティングされた超伝導テープ導体(300)であって、
少なくとも1つの超伝導層(310)と、
前記超伝導テープ導体(300)上に堆積された少なくとも1つの金属コーティング(320)と、
を有し、
前記金属コーティング(320)の厚さが少なくとも1μmであって、前記コーティングされた超伝導テープ導体(300)の幅にわたり10%以下しか変化しない、
コーティングされた超伝導テープ導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体、特には箔、電子機器のための帯体及び高温超伝導(HTS)テープ導体等の熱感受性薄肉基体を金属化(金属被覆)する方法及び装置に関するものである。特に、例えば金、銀、銅、錫及びこれらの合金(例えば、青銅)等の貴金属の密で高電導性の金属層が斯様な基体上に高被着率(堆積率)及び高材料歩留まりで被着されねばならない。
【背景技術】
【0002】
本出願は2019年8月30日付けでヨーロッパ特許庁に出願されたヨーロッパ特許出願第19194710.0号の優先権を主張するもので、該出願の開示内容は参照により本明細書に全体として組み込まれるものである。
【0003】
金属保護又は接触層を被着させるための多様な従来技術のプロセスが知られている。材料が基体表面上に選択的に堆積され、従って高材料歩留まりが保証されるので、金属基体のために電気メッキ法がしばしば用いられる。
【0004】
厚い金属層のためには、金属ナノ粒子による所謂プラズマ溶射又はスクリーン印刷ペーストもしばしば使用される。プラズマ溶射又は粒子噴霧は、通常、大気圧で行われる。整流効果を得るために、時にはノズルが使用される。冷たい粒子を噴霧する場合、国際特許出願公開第2008/074064号公報はプロセスガスにより運ばれる粉の粒子を基体上に高運動エネルギで指向させるためにノズルの使用を提案している。この用途は、プロセスガスが取り込まれた粉粒子を衝突により加速しなければならないため、プロセスガスの高いガス圧に限定される。
【0005】
スパッタリング又は加熱された容器若しくはルツボからの高真空蒸着等のPVD(物理蒸着)技術は、通常、薄膜のために使用される。この技術は、しばしば、極めて薄いものだけであるが非常に密で滑らかな層の生成を可能にする。
【0006】
十分な熱放散を保証するために、例えば膜状基体をコーティング領域において冷却されたローラ上を通過させることができ、熱を背後に放散させることができる。このような構成は、例えば、米国特許第7,871,667号に記載されている。しかしながら、この構成はコーティング領域において円形の弧により入射角が大きく変化し、このことが、コーティングの局部的陰効果及び柱状成長につながり得る。
【0007】
しかしながら、これら全てのプロセスは、特に当該基体が攻撃的化学物質及び/又は高い温度に敏感である場合に他の固有な欠点も有する。例えば、電気メッキ法においては、攻撃的電解質(強い酸性の又はシアン化物)が通常使用され、これが敏感な基体タイプ又はコーティングを攻撃し得る。更に、基体表面は、堆積が均一になるように、何処でも良好な導電性を有さなければならない。当該基体の角部及び縁部においては、電界集中により増肉、所謂ドッグボーン効果が殆ど不可避的に発生し、かくして、コーティングは特に薄い基体に対して縁部で不均一となる。従って、このように不均一にコーティングされた基体は、密集配置される磁気コイル等の用途には余り適し得ないものとなる。
【0008】
更に、水素も電気分解中に放出されて、当該金属に取り込まれ、このことは、材料(例えば、銅)の特性を変化させ得る(例えば、水素脆化により)。更に、特に既に他の機能層を担持する箔状又はテープ状基体(例えば、HTSテープ導体による場合にあり得るように)の場合、ポケット又はキャビティ内での流体保留の危険性が存在する。このことは、腐食又は半田付けの間における泡形成(所謂、膨れ)につながり得る。
【0009】
プラズマ溶射法は高い局部的入熱を生じ、非常に多孔性の層につながるため、敏感な基体に対しては禁止されている。スクリーン印刷ペースト又はインクも、有機溶剤を追い出すために塗布後に熱処理を受けねばならず、かくして、高い細孔密度を示す。従って、基体の共形(コンフォーマル)な又は均一なコーティングは達成することが困難であり、縁部における付着が問題となる。
【0010】
厚い金属層を被着するためにも使用することができる湿式化学コーティングプロセス又はプラズマ若しくは粒子溶射プロセスは、存在する金属粒子が一緒に焼成されるので、一貫して高い多孔性及び表面粗さを持つ層を生成する。このように、粒径もギャップの大きさ及び表面品質を決定する。
【0011】
一方、PVDプロセスは数nm/sなる低堆積速度及び<100℃なる基体温度において非常に均一で滑らか且つ密な層を提供する。しかしながら、スパッタリングにおいては、基体がプラズマに非常に近く、高エネルギイオンが高い入熱につながる。スパッタリングの間に、金属原子及びイオン以外に金属断片のクラスタも放出され得る。結果として、金属層は、蒸着源(蒸発源)が基体から遠く離れており金属原子が基体に熱速度で衝突する蒸着におけるよりも著しく粗く成長する。
【0012】
しかしながら、低いコーデック速度においては、これらPVDプロセスは1μm~3μmより厚い金属層の生産にとっては一般的に経済的でない。
【0013】
真空PVD法は、一般的に薄い金属コーティングのために使用される。経済的な理由から高堆積速度が望ましいが、PVDコーティングによれば、高堆積速度及び冷基体支持は局所的陰効果により柱状成長が生じ易く、結果として粗く多孔質な層になる。
【0014】
この現象は文献によく記載されており(例えば、Donald M. Mattox, "Handbook of physical vapour deposition (PVD)
processing", ISBN: 0-8155-1422-0,1998, P. 498ff参照)、B.A. Movchan, A.V. Demchishin, Fiz. Met. Metalloved. 28 (1969) 653のゾーンモデルにより説明することができる。50nm/sより高い堆積速度による極端に高い速度範囲には、従来のPVD方法を用いる場合、良伝導金属ターゲットでさえもスパッタリングにより到達することはできない。
【0015】
ドイツ国特許出願公開第10 2009 019146号は、コーティングチャンバのチャンバ壁に向けられた金属蒸気をチャンバ内に戻すように散乱させ、これにより歩留まりを増加させるための手段を記載している。しかしながら、これと発生源からの蒸気の弾道的準備により、金属原子の大部分は基体テープに向けられずに且つ部分的に非常に平らな角度で当たる。高いコーティング速度における必要な低い基体温度及び該平らな衝突は、前述したように、必然的にコーティングの柱状成長につながる。その結果、層には深いギャップ及び細孔が散在し、その密封性(保護機能)及び導電性が著しく悪化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際特許出願公開第2008/074064号公報
【文献】米国特許第7,871,667号
【文献】ドイツ国特許出願公開第102009019146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、先行技術の記載された欠点の少なくともいくつかを克服し、かくして、均質で高密度の金属層を高い堆積速度及び改善された材料歩留まりで堆積させるための経済的な代替案を提供しようとするものである。特に、HTSテープ導体に、安定化金属層又はコーティングが低コストで設けられるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題は、本発明の独立請求項の主題により少なくとも部分的に解決される。例示的実施態様は、従属請求項の主題である。
【0019】
一実施形態において、本発明は、真空環境内で基体、特に超電導テープ導体をコーティングする方法を提供し、該方法(プロセス)は以下のステップ、即ち、金属材料を気相で生成するステップ;該気相(気体)金属材料を膨張室に供給するステップであって、該膨張室が前記気体金属材料を膨張させると共に前記基体に向けられるようにするよう構成されたステップ;及び前記金属材料を前記基体の表面の少なくとも一部に堆積させるステップを有する。
【0020】
特に、前記膨張室は、前記基体の方向において前記気体金属材料の粒子の少なくとも横方向運動量成分を長手方向(縦方向)運動量成分に変換するよう構成し、及び/又は前記金属材料を前記基体の表面の少なくとも一部に堆積させるように構成し、及び/又は前記基体の方向に前記気体金属材料の超音速流を発生するように構成し、及び/又は前記気体金属材料の粒子を、これら粒子が前記基体の面法線に対して15°以下、好ましくは10°以下、最も好ましくは5°以下の角度で衝突するように、前記基体に向けるように構成することができる。
【0021】
本発明は、例えば、基体表面をるつぼまたは蒸着セルからの金属の蒸発により高真空においてコーティングすることに適用することができる。蒸発源のるつぼ又はガス源は、抵抗加熱、誘導又は電子ビーム等の一般的な手段によって、蒸発されるべき金属が内部で融解し、気体金属材料がるつぼ内で生成される程度に加熱することができる。
【0022】
記載される方法は、非常に高い堆積速度及び材料歩留まりを特徴とし、このことは、高いスループット及び好ましい製造コストにつながる。当該プロセスは、高コーティング速度においてしばしば発生する柱状及び多孔性の層の成長も防止し、結果として、特に縁部で基体形状に良好に順応する密で滑らかで且つ均一に厚い金属層が得られ、かくして、基体の全周囲の均一なコーティングのために用いることもできる。
【0023】
上述したプロセスは、HTSテープ導体等の基体に非常に均一、高密度、密封性で且つ高伝導性金属コーティングを設けることを可能にする。1μmを超えるコーティング厚を、20nm/sより高い、50nm/sより高い及び80nm/sよりさえも高い堆積速度で達成することができる。
【0024】
加えて、記載されるプロセスは、50%より高い、70%より高い及び80%さえよりも高い、非常に高い材料歩留まり(即ち、蒸発された材料の量に対する基体上に堆積された材料の量の比)を達成することもできる。更に、生成されるコーティングが実質的に孔又は間隙(ギャップ)を有さないようにすることができる。
【0025】
更に、前記真空環境には最大で1・10-1パスカルの、好ましくは最大で1・10-2パスカルの、より好ましくは最大で1・10-3パスカルの背景ガス圧が存在し得る。
【0026】
このことは、前記コーティング材料及び/又は前記基体の望ましくない酸化を減少させる。更に、このことは前記基体及び/又はコーティングにおける水素析出も低減することができる。
【0027】
他の実施態様において、当該方法は適切な不活性ガス環境(例えば、Ar,N2等)において実行することもできる。
【0028】
更に、前記基体は前記膨張室の出口開口を超えて、好ましくは連続的に、移動させることができ、このことは、如何なる長さの箔又はテープ形態の基体のコーティングも可能にする。
【0029】
幾つかの実施態様において、前記気相金属材料の粒子は前記ガス源から流れ出る際に1mm未満、好ましくは0.1mm未満、より好ましくは0.05mm未満の平均自由行程長を有することができる。更に、前記ガス源における前記金属材料の蒸気圧は少なくとも101パスカル、好ましくは少なくとも102パスカル、より好ましくは少なくとも103パスカルとすることができる。
【0030】
このようなプロセスパラメータの結果、前記気相金属材料は互いに対する頻繁な衝突及び相互作用により、略、古典的気体集団のように振る舞うようになる。前記膨張室における気相金属材料の膨張は、熱エネルギを運動エネルギに変換し、必要なら、当該気体の方向に超音波流を発生することができる。当該金属粒子の横方向運動量成分は前方向成分に変換され、ガス流は当該基体に向かう膨張室の軸と平行に向けられる。
【0031】
他の実施態様において、本発明は基体、特に超伝導テープ導体をコーティングする装置を提供し、該装置は、気相の金属材料を発生するガス源を有し、該ガス源は前記気相金属材料が膨張室に流れ込む開口を有し、該膨張室は前記気相金属材料が膨張し且つ前記基体に向けられるように構成される。
【0032】
更に、前述したように、前記膨張室は、前記基体の方向において前記金属材料の粒子の少なくとも横方向運動量成分を縦方向運動量成分に変換するように構成され、及び/又は前記基体に向かって前記気相金属材料の超音速流を発生するように構成され、及び/又は前記気相金属材料の粒子を前記基体に向け、これら粒子が前記基体の面法線に対して15°以下、好ましくは10°以下、最も好ましくは5°以下の角度で衝突するように構成される。
【0033】
特に、当該装置は前記膨張室を囲む周面を有することができ、該周面の少なくとも一部は付着防止コーティング、好ましくはペルフルオロポリエーテル(PFPE)付着防止コーティングを有することができる。更に、前記周面の少なくとも一部は、熱放射の吸収が増加されるように処理することができる。更に、前記周面の少なくとも一部は能動的に冷却することができる。
【0034】
この結果、例えば、前記気相金属材料は前記膨張室の周面に堆積されないようになる。長鎖型ペルフルオロポリエーテル(PFPE)の好適な付着防止コーティングは、米国特許第4,022,928号から既知である。当該被覆された膨張室は2つの決め手となる利点を有する。当該金属蒸気流は平行化され、かくして、小型の層成長が高いコーティング速度及び低基体温度でも達成される。第2に、材料歩留まりが大幅に増加されるので、蒸発源と基体との間の距離が大きくても、蒸発された金属の50%より多く、70%より多く及び80%よりさえ多くが高真空内で基体上に堆積される。前記能動的冷却は、前記付着防止コーティングを過熱から保護し、前記熱放射の吸収の増加と相俟って、前記ガス源の熱放射による望ましくない入熱(幾つかの基体タイプ(例えば、HTSテープ導体)にとり望ましくない)を低減する。特に、非常に高い堆積速度においてさえ、熱に敏感な基体タイプが過熱することはなく、コーティングの間における基体温度は180℃より低く又は150℃よりさえ低く維持することができる。
【0035】
他の例として、余り温度に敏感でない基体タイプの場合、前記周面の少なくとも一部は前記金属材料の該周面上への堆積が低減されるような温度とすることもできる。
【0036】
更に、幾つかの実施態様において、前記膨張室は前記基体に面する出口開口及び前記ガス源に面する入口開口を有することができ、前記出口開口及び入口開口の直径の比は少なくとも1.5、好ましくは少なくとも1.75、より好ましくは少なくとも2.0であり、及び/又は前記入口開口と前記基体との間の距離及び前記入口開口と前記出口開口との間の距離の比は少なくとも1.0であって最大で1.4とすることができ、及び/又は前記出口開口と前記入口開口との間の距離及び前記出口開口の直径の間の比は少なくとも1.5とすることができる。
【0037】
これらの膨張室の幾何学構造特性は該膨張室の指向性に有益な効果を有し得ることが分かった。特に、高いコーティング速度においても、均一で密且つ無孔な層成長を保証することができる。
【0038】
更に、幾つかの実施態様において、前記膨張室は前記ガス源から前記基体に向かって特に円錐又は釣鐘状に拡幅することができる。特に、該膨張室はラバール・ノズル(Laval nozzle)の発散部分の形状を有し得る。
【0039】
このようなラバール・ノズル又は超音速ノズルは、高い圧力で自由空間へと膨張する指向性ガス流をロケットエンジン内で生成するためのロケット技術において用いられる。可能な最も高い指向性の前方推力を発生するために、膨張するガス流はラバール・ノズル内で平行化される。
【0040】
記載される実施態様は、この原理を、当該ガス圧はロケットエンジンにおけるものより大きさが何桁も小さいが、真空環境における使用に移転する。前述したように、超音速流を発生するためには、高速度処理において前記ガス源の出口における金属原子の蒸気のガス圧が102パスカルの範囲であり、従って、該金属蒸気における平均自由行程長がサブミリメートル範囲内であり、かくして、該金属蒸気が原子の頻繁な衝突及び相互作用により古典的ガス集団のように振る舞うだけで十分であり得る。ラバール・ノズルの発散部分における当該ガス(金属蒸気)の弛緩は、熱エネルギを運動エネルギに変換し、超音速流を形成する。当該金属原子の横方向運動量成分は前方向成分に変換され、ガス流はノズル軸に対して平行に整列される。膨張するガスにおける平均自由行程距離は、好ましくは、当該ラバール・ノズル幾何学的寸法より大幅に小さいものとする。この効果を効率的に用いるために、本発明の幾つかのバージョンでは、前記蒸発源と前記基体のコーティングレベルとの間の空間に、ラバール・ノズルの発散部分(膨張部分)に対応する膨張室が挿入される。円錐状又は釣鐘状の膨張室は、コーティング面の幾何学形状に適応させるために円形から僅かに楕円形の直径を有することができる。
【0041】
特に、幾つかの実施態様において、前記膨張室は少なくとも1.2、好ましくは少なくとも1.5、より好ましくは少なくとも2.0、最もこのましくは少なくとも3.0のアスペクト比を持つ長方形又は楕円形断面を有することができる。
【0042】
このようにして、該膨張室から前記基体の方向に流れる気相金属材料の流れ断面を、箔又はテープ形状の基体の長尺形状に適合させることができ、かくして、該基体上の使用可能なコーティング面積を増加させることができる。
【0043】
更に、前記ガス源の開口は、好ましくは少なくとも1つのフィンを備える開放型隔膜を有することができる。更に、前記ガス源及び/又は前記開放型隔膜は、高融点の材料、好ましくはタングステン、タンタル、モリブデン、炭素及び/又は耐熱セラミックから形成することができる。
【0044】
このことは、前記ガス源内の蒸気圧の蓄積を増加させることができる。好ましくは層状の前記開放型隔膜は、過熱及び/又は乱流過程によって引き起こされ得る前記ガス源からの液体金属滴の飛散も低減する。
【0045】
更なる実施態様において、本発明は基体、特には超伝導テープ導体をコーティングするシステムを提供し、該システムは、前記基体上に金属材料が堆積される少なくとも1つのコーティングゾーンであって、前記基体が該少なくとも1つのコーティングゾーンを少なくとも2回通過するコーティングゾーン、又は前記金属材料が前記基体上に堆積される少なくとも2つのコーティングゾーンであって、前記基体が該少なくとも2つのコーティングゾーンを各々少なくとも1回通過するコーティングゾーンを有する。
【0046】
このようなシステムは、例えば、前記基体上に厚い層を単一過程で堆積することを可能にすることができる。
【0047】
特に、当該システムは、前記基体の向きを前記少なくとも1つのコーティングゾーンの第1の通過後であって第2の通過前に、又は第2コーティングゾーンの通過前に変更する装置を含むことができる。
【0048】
このようなシステムは、例えば、特に前述した装置の幾つかによるように、コーティング材料粒子の流れがコーティングされるべき基体に向けられる場合に、HTSテープ導体等のテープ状基体の両側が均一にコーティングされることを可能にすることができる。
【0049】
更なる実施態様において、本発明は基体、特には超伝導テープ導体をコーティングするシステムを提供し、該システムは、前記基体上に金属材料が堆積される少なくとも1つのコーティングゾーンであって、前記基体が該少なくとも1つのコーティングゾーンを少なくとも2回通過するコーティングゾーン、又は前記金属材料が前記基体上に堆積される少なくとも2つのコーティングゾーンであって、前記基体が該少なくとも2つのコーティングゾーンを各々少なくとも1回通過するコーティングゾーン、及び前記基体を前記少なくとも1つのコーティングゾーンの第1の通過後であって第2の通過前に若しくは第2コーティングゾーンの通過前に冷却する装置を有する。
【0050】
高速コーティングでは、基体への主な入熱は、膜形成中に放出される凝縮エネルギである。幾つかの実施形態における基体は、高真空内にもあり得るため、この入熱を固体又は気体の熱伝導を介して放出することができず、その熱容量に応じて加熱される。
この熱容量は、特に薄膜及びテープの場合は、非常に小さく、このことが、温度に敏感な基体の、少なくとも1つのコーティングゾーンを通過させる毎に堆積することができる最大膜厚を制限する。例えば、HTSテープ導体の場合、真空環境における最高温度は180℃より低く、好ましくは150℃より低く保つ必要がある。この温度を超えると、HTS層の特性、特に臨界電流容量の悪化が酸素の損失により発生し得るからである。
【0051】
記載された実施態様は、1μm厚を超える金属層を堆積することも、コーティングゾーンを介して当該基体を数回通過させると共に、その間に冷却装置より冷却することにより可能にする。
【0052】
特に、幾つかの実施形態では、基体がコーティングゾーン(又は複数のコーティングゾーン)を通過する速度を、当該コーティングゾーンが1回通過された際に温度が所望の閾値温度より低く留まるように選択することができる。該基体は、次いで、別の又は同じコーティングゾーンを繰り返して通過する前に、冷却装置を通過することができる。
このプロセスは、所望の総コーティング厚に達するまで、必要なだけ何度も続けることができる。当該中間冷却装置は、コーティングゾーン(又は複数のコーティングゾーン)の外側に配置することもでき、該コーティングゾーン(又は複数のコーティングゾーン)から効果的に切り離すことができる。そこでは、例えば、当該基体は、冷却されたローラ及び固体熱伝導によって、又は入口温度がコーティング中の温度上昇を補償するのに十分なほど低い程度に増加される熱伝導によって冷却することができる。
【0053】
更なる実施態様において、本発明は基体、特には超伝導テープ導体をコーティングするシステムを提供し、該システムは、前記基体上に金属材料が堆積される少なくとも1つのコーティングゾーンであって、前記基体が該少なくとも1つのコーティングゾーンを少なくとも2回通過するコーティングゾーン、又は前記金属材料が前記基体上に堆積される少なくとも2つのコーティングゾーンであって、前記基体が該少なくとも2つのコーティングゾーンを各々少なくとも1回通過するコーティングゾーン、及び前記少なくとも1つのコーティングゾーン内又は該ゾーンの周囲に配置される少なくとも1つのガス反射器であって、前記金属材料の粒子を前記基体の方向に反射するガス反射器を有する。
【0054】
特に、前記少なくとも1つのガス反射器の少なくとも一部は付着防止コーティングを有することができ、及び/又は前記少なくとも1つのガス反射器の少なくとも一部は熱放射の吸収が増加されるように処理することができ、及び/又は前記ガス反射器の少なくとも一部は能動的に冷却される。
【0055】
このようなガス反射器は、当該システムの材料歩留まりを大幅に増加させ、結果として当該基体の全方向からの一層均一なコーティングをもたらし、及び/又は該基体への入熱を低減する。
【0056】
特に、幾つかの設計において、上述したシステムのコーティングゾーン(又は複数のコーティングゾーン)における金属材料の堆積は、前述した装置及び/又は方法の1つを用いて実行することができる。
【0057】
特に、上述したシステムは、当該コーティングシステムの適用の領域に依存して、上述した基体の向きの変更、中間冷却及び/又はガス反射器を共に使用することができるように互いに組み合わせることもできる。
【0058】
更なる実施態様において、本発明はコーティングされた超伝導テープ導体を提供し、該コーティングされた超伝導テープ導体は、少なくとも1つの超伝導層と、前記テープ導体上に堆積された少なくとも1つの金属コーティングとを有し、前記金属コーティングの厚さは少なくとも1μmであって、当該コーティングされたテープ導体の幅にわたり10%以下、好ましくは5%以下しか変化しない。
【0059】
このような超電導テープ導体は、幾つかのテープ導体が互いに積み重ねられる用途、又は、電磁コイルの場合におけるように、幾つかの巻線が互いに積み重ねられる場合に特に適している。当該テープ導体の少ない厚み変動は、個々の層/巻線間の空洞若しくは間隙空間及び/又は張力を減少させる。更に、1μmを超えるコーティングの厚さは、超電導層を密封し、良好な熱伝導冷却を可能にし、超電導の局所的崩壊(クエンチ)の場合に効果的な代替電流路を提供する。
【0060】
特に、当該テープ導体上の前記少なくとも1つの金属コーティングは、前述した方法、装置及び/又はシステムの1つにより生成されたものとすることができる。
【0061】
更に、幾つかの実施態様において、前記少なくとも1つの金属コーティングの体積は、5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満の空洞、間隙及び/又は孔しか有ないものとすることができる。
【0062】
更に、幾つかの実施態様において、前記金属コーティング内に埋め込まれ又は該金属コーティング上に堆積される少なくとも10μmの平均直径の金属粒子の面積密度は、5/cm2未満、好ましくは3/cm2未満、より好ましくは1/cm2未満、最も好ましくは0.1/cm2未満とすることができる。
【0063】
更に、前記金属コーティングは、金、銀、銅及び/又は錫、これらの合金、又はこれら金属の配列を有することができ、及び/又は前記テープ導体を完全に包むことができる。
【0064】
更に、前記少なくとも1つの金属コーティングの厚さは、少なくとも1μmで最大で30μm、好ましくは少なくとも1μmで最大で10μm、より好ましくは少なくとも3μmで最大で10μmとすることができる。
【0065】
本発明により達成可能なコーティングの均質性および純度は、当該コーティングの電気及び熱伝導率を増加させると共に、該コーティングの密封性及び機械的特性を改善する。例えば、均一で純粋なコーティングは、基体から剥離し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様による基体のPVD金属被覆のための装置の概略構造を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様による巻取装置を備えたテープ状基体のPVD金属被覆のための装置の概略構造を示す。
【
図3a】
図3aは、従来の直流電流的に銅メッキされたHTSテープ導体の断面プレパラートを示す。
【
図3b】
図3bは、本発明の一実施態様による周囲銅コーティングを備えるHTSテープ導体の縁部の断面プレパラートを示す。
【
図4a】
図4aは、従来の高速度PVDプロセスにより生成された12μm厚銀層の断面プレパラートを示す。
【
図4b】
図4bは、本発明の一実施態様による12μm厚銅層の断面プレパラートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、本発明の選択された態様を、添付図面を参照して説明する。
【0068】
本発明の第1の実施形態が
図1に示されている。真空システム/チャンバ1は、10
-2パスカル未満、好ましくは10
-3パスカル未満の残留ガス圧までポンプ引きされ、反応性金属(例えば、Al、Mg等)が蒸発中に酸化しないようにする。チャンバ1は、金属を無飛散で蒸発させるための蒸発源/ガス源2を収容する。これは、当該蒸発材料が融解し、当該蒸発源内で10
2パスカルを超えるオーダーの高蒸気圧に達するまで、電子ビーム、抵抗ヒータ又は誘導コイルによって加熱することができる蒸着セル又はるつぼとすることができる。好ましくは、この蒸発器2は、飛散を防止するために、W、Ta、Mo、C又はセラミック等の高融点材料から形成されたフィンを備えるカバー隔膜を有する。
【0069】
真空チャンバ1の上部領域において、コーティングされるべき基体4は、蒸発源2の上方の可撓性の薄いテープ又は箔の形態でコーティングゾーン5を経て連続的に移動される。該テープは、ドイツ国特許出願公開第10 2009 052 873号公報に記載されているように、当該真空チャンバ内の巻き戻し及び巻き取り装置から到来するか、又は当該真空チャンバ内に連続的に供給されるかの何れかとすることができる。
【0070】
金属蒸気9が基体4をコーティングゾーン5において基体法線に対し±15°の角度分布内で可能な限り垂直に衝突し、かくして、前述した柱状成長及び高い層多孔性を回避することを可能にするために、蒸発源2とコーティングゾーン5との間に膨張室3が配置される。
【0071】
ここに図示される実施態様において、この膨張室3は、航空工業において又は超音速流を発生及び束ねるためのタービンにおいて主に使用されるラバール・ノズルの発散膨張部分に機能が対応するものである。該膨張室又はラバール・ノズル3は、内側に凹むベル形状及び円から僅かに楕円の直径を有している。下側の入口開口(直径Oi)は、熱的に分離するために、蒸発源2の放出口より僅かに広い。上側の放出口(直径Oa)は、コーティングゾーン5の横方向寸法を実質的に決定する。
【0072】
幾つかの実施態様において、長さLの膨張室3はコーティングゾーン5の近くに達し、かくして、可能な限り少ない金属蒸気9しか膨張室3と基体4との間の間隙において横方向に失われないようにする。距離D-Lは、基体テープ4が僅かに撓んでも膨張室と接触することがなく、且つ、例えば抗接着性(付着防止)コーティングによっても汚染されないように寸法決めされる。典型的に、比D:L=1対1.4である。
【0073】
図示された膨張室又はラバール・ノズル3の幾何学寸法比は以下の通りである。即ち、該ノズルの出口及び入口開口の間の比Oa:Oiは、好ましくは1.5より大きく、特に好ましくは2より大きく、該ノズルの出口開口直径に対する長さの比は、L:Oa=1.5より大きい。このように、該ラバール・ノズルの効果は、平行ガス流9からの高い分離率及び非常に高い材料歩留まりにある。
【0074】
しかしながら、ここに記載する膨張室のノズル形状(例えば、ラバール・ノズル)は、膨張室によりもたらされる指向性を発生するための可能な1つの方法に過ぎない。膨張室の他の形状及び/又はタイプも考えられ、本発明の一部である。
【0075】
金属蒸気9が膨張室3の周面上において付着及び凝縮することを防止するために、後者には付着防止コーティングが施される。適したコーティングは、好ましくは長鎖PFPE化合物(商品名、例えばFomblin)からなる。PFPEコーティングの蒸気圧を低く保つと共に、ガス供給源2からの熱放射を消散させるために、膨張室3の周面は、例えば、水が流れる良好に熱結合されたパイプによって能動的に冷却される。膨張室3の周面がガス供給源2からの熱放射を熱に敏感な基体4上に反射するのを防止するために、前記付着防止コーティングを塗布する前に表面を黒くして、熱放射を吸収し、該熱放射を冷却水に放散するようにすることが賢明である。
【0076】
この構成によれば、基体4に対して極めて高いコーティング速度を達成することができる。経済的理由から、20nm/秒を超える、好ましくは50nm/秒を超える、特に好ましくは80nm/秒を超えるコーティング速度が目標とされる。後者は、コーティング材料として銅を用いても、本発明を用いて容易に達成することができる。他の重要な経済的側面は、材料歩留まり、即ち、蒸発された材料の量に対する基体4上に堆積された材料の量との比である。通常の無指向性真空蒸着、及び30cm~50cmの間の蒸発源2から基体4までの通常の距離Dによれば、材料の歩留まりは、通常、小さな2桁のパーセンテージの範囲である。本発明によれば、50%を超える、好ましくは70%を超える、特に好ましくは80%を超える材料歩留まりを、如何なる問題もなく達成することができる。
【0077】
薄膜又はテープに対する通常の真空又は高真空における高コーティング速度は、放出される凝縮熱により必然的に高エネルギ入力につながり、その結果、基体4は非常に急速に加熱され得る。プラスチック又はHTSテープ導体等の多くの基体材料は、温度に敏感であり、温度のしきい値を超えると、不可逆的に損傷され得る。したがって、一方においては最大許容温度、他方においては基体4の熱容量が、コーティングゾーン5を経る行程の間に、どれだけ多くの材料が堆積され得るかを決定する。
【0078】
このように、コーティング速度は、テープ基体4の移送速度を計算するために使用される。より厚い層が必要な場合、基体4は数回コーティングされねばならない。これは、幾つかの蒸発ユニットを連続して設置し、当該テープを全長に沿って当該システムを介して数回巻き取り、又は巻き取り装置6により当該テープを同じコーティングゾーン5を介して数回供給することによって実行することができる。後者は、コーティングゾーン5の幅よりも狭いテープに特に適している。勿論、3つの全ての方法を互いに組み合わせることもできる。更に、すべての複数回コーティングの場合、コーティングゾーン5を通過した後、中間冷却装置8が、細条基体から熱が除去され、新たなコーティングを行うことができる程度に温度が低下されることを保証することができる。
【0079】
図2は、基体、特にテープ導体をコーティングするシステムの設計を示す。以下の調査では、幅12mmのHTSテープ導体が銀及び銅により万遍なくコーティングされた。 HTSテープ導体は厚さ30~1000μmの薄い金属細条(例えば、Hastelloy C 276)からなり、該テープ導体上に金属酸化物緩衝層(例えば、MgO)及びHTS機能層、例えばGdBa
2Cu
3O
7等のRBa
2Cu
3O
7(R
= イットリウム又は希土類元素)の類からの銅酸化物が堆積された。当該金属被覆は、過負荷の場合に溶け落ちないように、当該テープ導体の接触、保護及び電気的安定化のために使用される。
【0080】
非常に良好な層厚の均一性を備えた、可能な限り緻密で滑らかで完全に包み込む金属化が望まれる。しかしながら、超伝導銅酸化物は、真空中で加熱されると拡散により酸素を失う傾向があり、このことは最も重要な機能である臨界電流容量(critical current carrying capacity)を悪化させる。
図2のコーティング装置は、例えば15トラック(
図2では概略的にのみ示されている)を有する巻き取り装置6によりコーティングゾーン5を介してHTSテープ導体4を数回案内する。
【0081】
コーティングゾーン5の外側において、各トラックは中間冷却装置8を通過する。このようにして、基体の温度を、コーティング期間全体にわたって、且つ、銅の30μmを超える層厚を伴って、高信頼度で180°の温度より低く、好ましくは150°よりも低く維持することができる。
【0082】
後部反射器7a、7bも巻き取り装置6に設置され、該反射器は上記トラックの間の間隙を通って後方に流れる材料を、7aにおいて基体後側へと戻し、又は7bにおいて前側へと戻すように散乱させる。これら後部反射器は、ラバール・ノズル3の周囲表面と同様の方法で水冷されると共に、付着防止コーティングを有する。その結果、材料の歩留まりは更に約10%増加され得る。
【0083】
この場合、HTSテープ導体4は、万遍なく銅でコーティングされた。この目的のために、当該テープは当該システムを介して巻き返す際に曲げられた、即ち、後側が前方向にされた。テープ4の2つの主表面及び縁部上の層厚は、通過の数、上部反射器7a、7bの位置、及び異なる巻付けトラックの間の間隙の幅により必要に応じて調整することができる。
【0084】
HTSテープ導体の製造においては、銀、銅、金及び錫の金属層、これらの合金又はこれら金属のシーケンスが好ましくは使用される。ここに説明されるプロセスは、これらの金属に限定されるものではないが、これらが当該アプリケーションの中心となる。したがって、HTSテープ導体が、本発明で使用されるプロセスを用いて及び用いないで銀及び銅でコーティングされ、詳細に検討された。これらは、これらを他の金属化プロセスでコーティングされたテープ導体から直接区別することができるような特徴的フィーチャを有する。
【0085】
例えば、テープ導体上の電気メッキされた金属層は、縁部で層厚の特徴的な増加を示し、これは、縁部での電界集中及び金属イオンが蓄積し得る大きな立体角により不可避である。
【0086】
図3aは、従来技術により、即ち直流電流的に公称20μm厚の銅層でコーティングされた、12mm幅及び約100μm厚のHTSテープ導体の縁部の断面プレパラートの例を示している。全ての示される断面プレパラート(
図3a、3b、4a、4b)は、層構造に対する機械的損傷の無い滑らかな切断エッジを保証するために、Arイオンを使用したイオンビームエッチングによって生成された。
【0087】
図3aにおける切断エッジの電子顕微鏡画像において、当該金属基体の前側の上部には緩衝及びHTS層が明るい帯として明確に見える。これら層の上及び周囲にあるものは、電気的に堆積された銅層である。この層は、当該テープ表面の殆どにわたり20μmの厚さで寸法的に安定しているが、該テープの縁部に向かって連続的に一層厚くなり、45μmにおいて縁部における高さの2倍よりも大きな値に達する。この所謂ドッグボーン効果は電解槽における陽極の適切な配置により低減することができるが、20nm/sより高い経済的に興味ある速度における堆積の間において決して完全に消えることはなく、したがって、層厚が縁部まで実質的に一定となるPVDコーティングに対して特徴的に目立つフィーチャである。
【0088】
最良のケースにおいて、電気メッキの場合は1.2~1.3の中心対縁部の厚さ比が観察される一方、ここで生成されるPVD金属層(
図3b参照)の場合、この比は1.1より小さく、好ましくは1.05よりさえも小さくなる。この寸法的安定性は磁石コイルの製造に対して主に望ましい。不均一な導体厚は巻線層の間の不必要な間隙につながるからである。
【0089】
比較すると、
図3bは本発明の高速PVDプロセスを用いて銅により全面的にコーティングされたテープ導体300の断面プレパラートを示す。当該金属基体の前側の上部において
図3bの切断エッジの電子顕微鏡画像に見えるものは、明るい帯としての緩衝及びHTS層310である。
図3bのテープ導体において、前及び後側は異なる厚さでコーティングされ、ここでは、前側では14μm及び後側では6μmである。層厚320の優れた均一性及び縁部被覆が明瞭に見られる。金属層の厚さ320の変動は、平均値の10%未満、好ましくは5%未満である。
【0090】
このように、本発明は、高コーティング速度及び大きな金属層厚の範囲においてもさえも高品質のPVD堆積金属層を実現することを可能にする。該プロセスは、1~300μmの間、好ましくは1~20μmの間及び特に好ましくは3~20μmの間の金属層厚が各面に被着される場合に、HTSテープ導体の金属被覆に特に適している。
【0091】
図4a及び4bは、従来の高速度蒸着(
図4a)及び本発明(
図4b)の結果の比較を12μm厚の金属層によりコーティングされた2つのHTSテープ導体を用いて示す。
【0092】
図4aは、>50nm/sなる高速度及び中間冷却においてであるが、本発明により提供される膨張室3を用いないで生成された銀層を断面で示す。蒸発源からの蒸気は、基体に衝突し、そこで当該金属層に組み込まれるまで、チャンバの側壁により該チャンバ内に反射して戻される。このことは、該蒸気を基体表面に対し、かすめ入射までもの空間内の全方向(即ち、無指向性)から進行させる。
【0093】
図4aにおいて、底部におけるHTSテープ導体は、当該HTS層に対する界面及び初期PVDコーティングの後に>300℃の温度において焼なまされた1.5μm厚の結晶性銀層のみを示す。この構成における高速銀層に明瞭に見えるものは、当該層における大きな孔及びギャップ440並びに特徴的な表面構造につながる柱状成長である。厚さ変動及び粗さは、数μmであり、従って平均層厚の20%より大きい。
【0094】
対照として、
図4bは本発明により同等のHTSテープ導体表面上に堆積された12μm厚の銅層320の断面を示す。より詳しく調べると、銅層320内に層構造が見られ、これはコーティングゾーンを経ての複数の行程の結果である。
図4aとは対照的に、この層は非常に緻密で滑らかである。
図4aにおけるような孔及びギャップ440は殆ど完全に存在しない。
【0095】
ここで適用されるイオンビームエッチングによる断面プレパラート及び基体表面に対して垂直な電子顕微鏡観察(倍率5000x)において、空洞又は孔440は金属層320の断面積の、従って体積の1%未満となる。イオンビームエッチングによる該断面プレパラート上で測定される金属層320の厚さ変動は、平均局部層厚の少なくとも10%未満、幾つかの実施態様では5%未満とさえなる。
【0096】
本発明の実施態様により生成されるHTSテープ導体300は、表面上の非常に低い面積密度の金属飛沫450も特徴とする。高速蒸発の間において、るつぼは、しばしば、溶融金属内の乱流過程及び強い加熱による飛散を生じる。結果的金属滴450は、>10μmの直径を有し、局部的過熱により衝突の際に当該基体を損傷させ得、又は当該基体がローラ上で案内される際に下にあるHTS層に圧入されて該基体を破損させ得る。飛沫は、W、Ta、Mo、C又はセラミック等の高融点材料から形成されるカバープレートを備える蒸発源を用いることにより効果的に防止することができる。したがって、ここで生成される金属層320は、<0.1/cm2という非常に低い表面密度の10μmを超える平均直径を持つ飛沫及び埋め込み粒子450も特徴とする。
【符号の説明】
【0097】
1 真空室/環境
2 蒸発源/ガス源
3 水冷膨張室/膨張ノズル
4 移動する基体テープ(箔)
5 コーティングゾーン
6 テープ巻き取り器/巻き取り装置
7a,7b 水冷後部反射器/ガス反射器
8 中間冷却装置
D 蒸発源と基体テープとの間の距離
L 膨張室/膨張ノズルの長さ
Oi 膨張室の入口直径
Oa 膨張室の出口直径