(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】シール構造及びシール方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
E21D11/00 B
(21)【出願番号】P 2020194445
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江嵜 智和
(72)【発明者】
【氏名】福田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝仁
(72)【発明者】
【氏名】山本 宙生
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-074318(JP,A)
【文献】特開平10-159489(JP,A)
【文献】特開平02-035194(JP,A)
【文献】特開平09-032485(JP,A)
【文献】特開平06-058093(JP,A)
【文献】米国特許第04139989(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルを掘進する掘進機の枠体と、前記枠体内で構築されるトンネル構造体と、の間、又はトンネルの坑口を形成する枠体と、前記枠体を通って地山内に推進されるトンネル構造体と、の間をシールするシール構造であって、
前記枠体に前記トンネルの軸方向に互いに間隔を空けて設けられ、前記枠体の内周面と前記トンネル構造体の外周面との間にシール室を形成する複数のブラシと、
前記シール室に充填され、前記枠体の内周面と前記トンネル構造体の外周面との間をシールするグリースと、
前記シール室に充填された前記グリースを冷却する冷却手段と、を備え
、
前記冷却手段は、前記グリースの温度を0℃以上100℃以下に制御する、
シール構造。
【請求項2】
前記冷却手段は、
前記枠体に前記トンネルの周方向に互いに間隔を空けて設けられる複数の通路と、
前記複数の通路に熱媒体を供給する熱媒体供給部と、
前記複数の通路毎に、前記熱媒体供給部から前記複数の通路への前記熱媒体の流量又は温度を制御する制御部と、を備える、
請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
トンネルを掘進する掘進機の枠体と、前記枠体内で構築されるトンネル構造体と、の間、又はトンネルの坑口を形成する枠体と、前記枠体を通って地山内に推進されるトンネル構造体と、の間をシールするシール方法であって、
前記枠体の内周面と前記トンネル構造体の外周面との間にシール室を形成する複数のブラシを前記枠体に前記トンネルの軸方向に互いに間隔を空けて設け、
前記枠体の内周面と前記トンネル構造体の外周面との間をシールするグリースを前記シール室に充填し、
前記シール室に充填された前記グリースを冷却
し、前記グリースの温度を0℃以上100℃以下に制御する、
シール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枠体とトンネル構造体との間をシールするシール構造及びシール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法又は推進工法を用いてトンネルを構築する場合には、シールド掘進機内又は坑口への地下水や土砂の流入を防止するシール構造が用いられる。特許文献1には、シールド掘進機内への地下水や土砂の流入を防止するシール構造が開示されている。特許文献1に開示されたシール構造は、シールド掘進機のテール部にシールド掘進機の前後方向に間隔を空けて複数列設けられるブラシを備える。ブラシは、テール部の内周に沿って構築されるセグメントリングの外周面に摺接し、テール部とセグメントリングとの間にシール室を区画する。シール室にはグリースが充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるシール構造では、例えば地下水や地山の温度が上昇することによりグリースが加温されることがある。グリースは油分を含んでいるため、グリースが加温されると、グリースの粘性が低下する。その結果、グリースがブラシから漏出し、テール部等の枠体と、セグメントリング等のトンネル構造体と、の間におけるシール性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、枠体とトンネル構造体との間におけるシール性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トンネルを掘進する掘進機の枠体と、枠体内で構築されるトンネル構造体と、の間、又はトンネルの坑口を形成する枠体と、枠体を通って地山内に推進されるトンネル構造体と、の間をシールするシール構造であって、枠体にトンネルの軸方向に互いに間隔を空けて設けられ、枠体の内周面とトンネル構造体の外周面との間にシール室を形成する複数のブラシと、シール室に充填され、枠体の内周面とトンネル構造体の外周面との間をシールするグリースと、シール室に充填されたグリースを冷却する冷却手段と、を備え、冷却手段は、グリースの温度を0℃以上100℃以下に制御する。
【0007】
また、本発明は、トンネルを掘進する掘進機の枠体と、枠体内で構築されるトンネル構造体と、の間、又はトンネルの坑口を形成する枠体と、枠体を通って地山内に推進されるトンネル構造体と、の間をシールするシール方法であって、枠体の内周面とトンネル構造体の外周面との間にシール室を形成する複数のブラシを枠体にトンネルの軸方向に互いに間隔を空けて設け、枠体の内周面とトンネル構造体の外周面との間をシールするグリースをシール室に充填し、シール室に充填されたグリースを冷却し、グリースの温度を0℃以上100℃以下に制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、枠体とトンネル構造体との間におけるシール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るシール構造が用いられるシールド工法を説明するための断面図である。
【
図2】(a)は、本発明の第1実施形態に係るシール構造の周辺を示す拡大断面図であり、(b)は、
図2(a)に示すIIB-IIB線に沿う断面図であり、(c)は
図2(a)に示すIIC-IIC線に沿う断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るシール構造が用いられる推進工法を説明するための断面図である。
【
図6】(a)は、本発明の第2実施形態に係るシール構造の周辺を示す拡大断面図であり、(b)は、
図6(a)に示すVIB-VIB線に沿う断面図であり、(c)は
図6(a)に示すVIC-VIC線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るシール構造及びシール方法について、図面を参照して説明する。
【0011】
<第1実施形態>
まず、
図1から
図4を参照して、本発明の第1実施形態に係るシール構造100及びシール方法について説明する。シール構造100及びシール方法は、いわゆるシールド工法において用いられる。
【0012】
図1は、シールド工法の概略を説明するための図である。シールド工法では、
図1に示すシールド掘進機1を用いてシールドトンネルT1を構築する。
【0013】
シールド掘進機1は、地山の内壁W1を支持可能な中空の胴体(枠体)2と、胴体2に回転可能に装着されたカッタ3と、を備えている。胴体2の内部では、シールド掘進機1の前進に伴ってセグメントリング(トンネル構造体)4が順次構築される。
【0014】
胴体2には、ジャッキ5が固定される。ジャッキ5は、セグメントリング4から反力を得て胴体2をトンネルT1の軸方向に推進し、カッタ3を地山に軸方向に押付ける。胴体2が推進されてセグメントリング4が胴体2から出ると、セグメントリング4の外周面と地山の内壁W1との間に裏込め材(図示省略)が充填される。
【0015】
カッタ3は、モータ6の駆動により胴体2に対して回転する。カッタ3には、トンネルT1の軸方向に突出するカッタビット3aが複数設けられている。カッタ3が地山に押付けられた状態で回転すると、地山がカッタビット3aにより軸方向に掘削される。地山の掘削により生じる泥土は、胴体2内に形成されるチャンバ2aに取り込まれ、スクリュコンベア7を用いて排出される。
【0016】
シールド工法では、胴体2の内周面がセグメントリング4の外周面と間隔を空けて対向する。胴体2の内周面とセグメントリング4の外周面との間がシールされていないと、地山の地下水や土砂等が胴体2の内部に流入するおそれがある。シール構造100は、シールド掘進機1の後部(テール部)に設けられ、胴体2とセグメントリング4の間をシールするために用いられる。
図2を参照して、シール構造100について詳述する。
【0017】
図2(a)は、シール構造100の周辺を示す拡大断面図である。
図2(b)は、
図2(a)に示すIIB-IIB線に沿う断面図であり、
図2(c)は、
図2(a)に示すIIC-IIC線に沿う断面図である。
図2では、説明の便宜上、胴体2の厚さ、及び胴体2とセグメントリング4との間隔を誇張して描いている。
【0018】
図2(a)に示すように、シール構造100は、胴体2の内周面に軸方向に互いに間隔を空けて設けられる複数のブラシ10を備えている。ブラシ10は、環状に形成されており、セグメントリング4の外周面に摺接する。軸方向に間隔を空けて配置される2つのブラシ10によって、胴体2の内周面とセグメントリング4の外周面との間にシール室11が形成される。ブラシ10はワイヤ等が束ねられたものであってもよいし、ゴム製の部材からなるものであってもよい。
【0019】
シール室11には、胴体2の内周面とセグメントリング4の外周面との間をシールするグリース20が充填される。
【0020】
ここで、シール室11に充填されたグリース20は、例えば地下水や地山の温度が上昇することにより加温されることがある。グリース20には加温に伴って粘性が低下する性質がある。グリース20の粘性が低下すると、グリース20がブラシ10から漏出する。その結果、シール室11におけるグリース20が減少し、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性が低下するおそれがある。
【0021】
このようなグリース20の粘性の低下を防止するため、シール構造100は、シール室11に充填されたグリース20を冷却する冷却システム(冷却手段)30を備えている。冷却システム30によりグリース20を冷却しグリース20の温度上昇を抑制することで、グリース20の粘性を維持することが可能となる。これにより、ブラシ10からグリース20が漏出することを軽減することができ、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性を向上させることができる。
【0022】
冷却システム30は、熱媒体を循環させてグリース20を冷却する。具体的には、冷却システム30は、シールド掘進機1の胴体(スキンプレート)2に設けられた複数の通路31a~31hと、グリース20を冷却する熱媒体を通路31a~31hに供給する熱媒体ポンプ(熱媒体供給部)32と、熱媒体の温度を調節する温度調節器(制御部)33と、を備えている。
【0023】
熱媒体ポンプ32及び温度調節器33は、セグメントリング4の内部を移動可能な不図示の台車に設けられる。シールド掘進機1の前進に伴って、熱媒体ポンプ32及び温度調節器33は、セグメントリング4内をシールド掘進機1に追従して移動する。熱媒体ポンプ32及び温度調節器33は、胴体2に固定されていてもよい。
【0024】
温度調節器(制御部)33は、熱媒体を冷却して熱媒体の温度を制御する、具体的には熱媒体の温度を下げる。温度調節器33により冷却された熱媒体が熱媒体ポンプ32を用いて通路31a~31hに供給されると、シール室11に充填されたグリース20が冷却される。
【0025】
図2では、通路31a~31hは、胴体2の内部に配置された配管によって形成されているが、胴体2の内周面又は外周面に設けられた配管によって形成されてもよい。
【0026】
シール室11に供給されたグリース20は、トンネルT1の周方向全体ではなく、周方向の一部において局所的に加温されることがある。そのため、グリース20全体を均一に冷却すると、加温されていない部分のグリース20の温度が下がり過ぎ、粘性が高くなり過ぎることがある。粘性が高くなり過ぎたグリース20は、セグメントリング4の外周面に固着する。固着したグリース20は、胴体2が移動するときにブラシ10によって拭い取られずにセグメントリング4の外周面に付着したままシール室11から出てしまう。その結果、シール室11におけるグリース20が減少し、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性が低下するおそれがある。
【0027】
冷却システム30は、後述する構成により、グリース20を局所的に冷却可能である。そのため、シール室11に充填されたグリース20のうち、地下水や地山によって加温された部分のみを局所的に冷却することができる。したがって、グリース20における一部の温度が下がり過ぎて粘性が高くなり過ぎるのを防止することができ、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性をより向上させることができる。
【0028】
図2及び
図3を参照して、冷却システム30について詳述する。
図3は、冷却システム30の回路図である。
図3では、胴体2及びブラシ10を周方向に展開した状態を示している。
【0029】
図2及び
図3に示すように、通路31a~31hは、トンネルT1の周方向に互いに間隔を空けて設けられる。各通路31a~31hは、シール室11の外側をトンネルT1の軸方向に沿って延びており、胴体2の後端付近で折り返されている。
【0030】
冷却システム30は、通路31a~31hにそれぞれ設けられる制御弁(制御部)35a~35hを更に備えている。制御弁35a~35hは、別々に作動可能であり、閉弁状態では熱媒体ポンプ32から通路31a~31hへの熱媒体の供給をそれぞれ遮断し、開弁状態では熱媒体ポンプ32から通路31a~31hへの熱媒体の供給をそれぞれ許容する。制御弁35a~35hは、それぞれ熱媒体の流量を調整し制御可能である。
【0031】
このように、制御弁35a~35hは、通路31a~31h毎に、熱媒体ポンプ32から通路31a~31hへの熱媒体の流れ、すなわち流量を制御する。そのため、熱媒体は、通路31a~31hのうち、制御弁35a~35hによって熱媒体の流れが許容された通路にのみ熱媒体ポンプ32から供給される。したがって、シール室11に充填されたグリース20のうち、地下水や地山によって加温された部分のみを局所的に冷却することができる。
【0032】
制御弁35a~35hは、例えば作業員によって操作される。作業員は、ブラシ10からの漏水又はグリース20の温度上昇を確認したときに、制御弁35a~35hを開弁し、熱媒体を通路31a~31hに供給してグリース20を冷却する。ブラシ10からの漏水は、ブラシ10を監視するカメラ41を用いることにより確認可能である。グリース20の温度は、シール室11に設けられる温度計42を用いることにより確認可能である。
【0033】
カメラ41は、ブラシ10の全周を監視可能に構成されていることが好ましい。また、温度計42は、トンネルT1の周方向に複数の位置でグリース20の温度を測定可能に構成されていることが好ましい。温度計42として、例えば胴体2の内周に環状に設けられた温度測定用の光ファイバケーブルを用いることができる。
【0034】
制御弁35a~35hは、不図示のコントローラを用いて自動的に比例制御されてもよい。具体的には、制御弁35a~35hを開閉する駆動部(不図示)と、駆動部に制御信号を出力するコントローラ(不図示)と、を設ける。コントローラは、例えばブラシ10からの漏水をカメラ41に撮影された画像から画像処理により検出し、検出結果に基づいて駆動部に制御信号を出力し駆動部により制御弁35a~35hを開閉する。コントローラは、温度計42を用いて測定されたグリース20の温度に基づいて駆動部に制御信号を出力し駆動部により制御弁35a~35hを開閉してもよい。コントローラは、例えば制御プログラム等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)と、を備えるマイクロコンピュータである。コントローラは、1つのマイクロコンピュータによって構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータによって構成されていてもよい。
【0035】
また、冷却システム30は、グリース20を加温可能であってもよい。具体的には、温度調節器33が熱媒体を加熱し、加熱された熱媒体を熱媒体ポンプ32が通路31a~31hに送出することにより、シール室11に充填されたグリース20が加温される。冷却システム30によるグリース20の加温は、例えば地下水や地山の温度が低下することによりグリース20の温度が低下したときに有効である。すなわち、冷却システム30を用いてグリース20を加温することにより、グリース20の温度が低下するのを防止することができる。したがって、グリース20の粘性を維持することができ、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性を向上させることができる。
【0036】
通路31a~31hのうち一部の通路に冷却用の熱媒体が供給され、残りの通路に加温用の熱媒体が供給されるように冷却システム30が構成されていてもよい。具体的には、熱媒体ポンプ32及び温度調節器33を一対設け、一方の熱媒体ポンプ32及び温度調節器33を用いて通路31a~31hのうち一部の通路に冷却用の熱媒体を供給し他方の熱媒体ポンプ32及び温度調節器33を用いて通路31a~31hのうち残りの通路に加温用の熱媒体を供給してもよい。この場合には、トンネルT1の周方向全体に渡ってグリース20の温度を略均一にすることができる。したがって、グリース20の粘性を周方向全体に渡って維持することができ、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性をより向上させることができる。
【0037】
冷却システム30を用いてシール室11内のグリース20の温度を0℃以上100℃以下の範囲で制御することがより好ましい。この場合には、グリース20の粘性をシールに適した粘性に管理することができ、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性をより向上させることができる。
【0038】
図2(b)に示すように、シール構造100は、シール室11にグリース20を供給するグリース供給システム50を備えている。
図2及び
図4を参照して、グリース供給システム50について詳述する。
図4は、グリース供給システム50の回路図である。
図4では、
図3と同様に、胴体2及びブラシ10を周方向に展開した状態を示している。
【0039】
図2及び
図4に示すように、グリース供給システム50は、胴体2に設けられた供給通路51a~51dと、グリース20を貯留するタンク52と、タンク52から供給通路51a~51dにグリース20を送出するグリースポンプ53と、を備えている。
【0040】
供給通路51a~51dは、胴体2の内周面に形成された供給口55a~55dを通じてシール室11に連通している。グリースポンプ53を用いて供給通路51a~51dに送出されたグリース20は、供給口55a~55dを通じてシール室11に供給される。
【0041】
供給口55a~55dは、トンネルT1の周方向に互いに間隔を空けて設けられる。グリース供給システム50は、グリースポンプ53から供給通路51a~51dへのグリース20の流れをそれぞれ制御する制御弁56a~56dを更に備えている。制御弁56a~56dは、別々に作動可能である。制御弁56a~56dは、作業員によって操作されてもよいし、不図示のコントローラを用いて自動的に制御されてもよい。
【0042】
グリース供給システム50は、タンク52に貯留されたグリース20を加温する加温器57を更に備えている。そのため、グリースポンプ53は、加温器57を用いて加温され粘性が低下したグリース20を供給通路51a~51dに送出する。したがって、シール室11にグリース20を容易に供給することができ、シール室11にグリース20を充填した状態を容易に維持することができる。これにより、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性をより向上させることができる。
【0043】
つまり、シール構造100では、シール室11に供給される前のグリース20を加温器57により加温することができ、シール室11に供給された後のグリース20を冷却システム30により冷却することができる。したがって、粘性が維持されたグリース20をシール室11に充填することができ、シール性をより向上させることができる。
【0044】
加温器57は、例えば電力の供給により発熱するヒータである。加温器57は、熱媒体を介してグリース20を加温するヒートポンプであってもよい。図示を省略するが、加温器57は、供給通路51a~51dの外周に配置され、供給通路51a~51dを流れるグリース20を加温可能に形成されていてもよい。
【0045】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0046】
本実施形態では、冷却システム30は、シール室11に充填されたグリース20を冷却する。そのため、グリース20の温度が上昇するのを冷却システム30により防止することができる。したがって、グリース20の粘性を維持することができる。これにより、ブラシ10からグリース20が漏出するのを軽減することができ、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性を向上させることができる。
【0047】
また、制御弁35a~35hは、通路31a~31h毎に、熱媒体ポンプ32から通路31a~31hへの熱媒体の流れを制御する。そのため、熱媒体は、通路31a~31hのうち、制御弁35a~35hによって熱媒体の流れが許容された通路にのみ熱媒体ポンプ32から供給される。したがって、シール室11に充填されたグリース20のうち、地下水や地山によって加温された部分のみを局所的に冷却することができる。これにより、グリース20における一部の温度が下がり過ぎて粘性が高くなり過ぎるのを防止することができ、胴体2とセグメントリング4との間におけるシール性をより向上させることができる。
【0048】
制御弁35a~35hを用いて通路31a~31hにおける熱媒体の流量を別々に制御するのに代えて、複数の熱媒体ポンプ32を通路31a~31hにそれぞれ接続し、複数の熱媒体ポンプ32の作動を別々に制御して通路31a~31hにおける熱媒体の流量を別々に制御してもよい。
【0049】
また、通路31a~31hにおける熱媒体の流量を別々に制御するのに代えて、複数の温度調節器33を通路31a~31hにそれぞれ接続し、複数の温度調節器33の作動を別々に制御して通路31a~31hにおける熱媒体の温度を別々に制御してもよい。つまり、複数の通路31a~31h毎に、熱媒体ポンプ32から複数の通路31a~31hへの熱媒体の温度を制御してもよい。
【0050】
<第2実施形態>
次に、
図5及び
図6を参照して、本発明の第2実施形態に係るシール構造200及びシール方法について説明する。シール構造200及びシール方法は、いわゆる推進工法において用いられる。
【0051】
図5は、推進工法の概略を説明するための図である。推進工法では、
図5に示す推進機201を用いてトンネルT2を立坑Hから掘進する。
【0052】
推進機201は、地山の内壁W2を支持可能な胴体202と、胴体202に回転可能に装着されたカッタ203と、を備えている。胴体202の内部には、カッタ203を回転させる不図示のモータが設けられる。カッタ203には、トンネルT2の軸方向に突出するカッタビット203aが複数設けられている。カッタ203が地山に押付けられた状態で回転すると、地山がカッタビット203aにより軸方向に掘削される。地山の掘削により生じる泥土は、胴体202の内部に設けられる不図示のスクリュコンベアを用いて排出される。
【0053】
立坑H(発進基地)には、ジャッキ205が設けられる。ジャッキ205は、立坑Hの内壁から反力を得て推進機201をトンネルT2の軸方向に推進する。推進機201の前進に伴って、推進機201とジャッキ205の間に推進管(トンネル構造体)204が順次、追加供給されて設けられる。推進機201とジャッキ205の間に推進管204が設けられた状態では、ジャッキ205の推進力は、推進管204を通じて推進機201に伝達され推進機201は前進する。推進管204に代えて、複数のセグメントが連結されて生成されたセグメントリングが用いられてもよい。
【0054】
トンネルT2の坑口P2は、地山を支持する支持管体(枠体)208によって形成される。推進管204は、トンネルT2の掘進に伴って、支持管体208を通って地山内にジャッキ205により推進される。枠体は、立坑Hを構成する壁体の開口に設置されてもよいし、立坑Hの壁体に設けられた開口であって、壁体の一部が枠体を構成してもよい。後述する通路231が設けられる枠体は立坑Hの開口部の付近に設けられていればよく、立坑Hの内側(地山側と反対側)に設けられていてもよい。したがって、枠体は地山を支持するものでなくてもよく、通路231を設けることができるものであればよい。
【0055】
推進工法では、支持管体208の内周面が推進管204の外周面と間隔を空けて対向する。支持管体208の内周面とセグメントリング4の外周面との間がシールされていないと、地山の地下水や土砂等が立坑Hに流入するおそれがある。シール構造200は、支持管体208と推進管204の間をシールするために用いられる。シール構造200について、
図6を参照して詳述する。
【0056】
図6(a)は、シール構造200の周辺を示す拡大断面図である。
図6(b)は、
図6(a)に示すVIB-VIB線に沿う断面図であり、
図6(c)は、
図6(a)に示すVIC-VIC線に沿う断面図である。
図6では、説明の便宜上、支持管体208の厚さ、及び支持管体208と推進管204との間隔を誇張して描いている。
【0057】
図6(a)に示すように、シール構造200は、支持管体208の内周に軸方向に互いに間隔を空けて設けられる複数のブラシ210を備えている。ブラシ210は、環状に形成されており、推進管204の外周面に摺接する。軸方向に間隔を空けて配置される2つのブラシ10によって、支持管体208の内周面と推進管204の外周面との間にシール室211が形成される。
【0058】
シール室211には、支持管体208の内周面と推進管204の外周面との間をシールするグリース20が充填される。
【0059】
シール構造200は、シール室211に充填されたグリース20を冷却する冷却システム(冷却手段)230を備えている。そのため、グリース20の温度が上昇するのを冷却システム230により防止することができる。したがって、グリース20の粘性を維持することができる。これにより、ブラシ210からグリース20が漏出するのを軽減することができ、支持管体208と推進管204との間におけるシール性を向上させることができる。
【0060】
図6(a)~(c)に示すように、冷却システム230は、支持管体208に設けられた複数の通路231と、グリース20を冷却する熱媒体を複数の通路231に供給する熱媒体ポンプ232と、熱媒体の温度を調節する温度調節器(制御部)233と、を備えている。熱媒体ポンプ232及び温度調節器233は、立坑H(
図5参照)又は地上に設けられる。冷却システム230の回路図は、
図3に示される冷却システム30の回路図とほぼ同じであるため、ここでは冷却システム230の回路図の図示を省略する。
【0061】
通路231は、トンネルT2の周方向に互いに間隔を空けて設けられる。各通路231は、シール室211の外側をトンネルT1の軸方向に沿って延びており、支持管体208の端部付近で折り返されている。
【0062】
冷却システム230は、第1実施形態における冷却システム30と同様に、複数の通路231にそれぞれ設けられる複数の制御弁(制御部)235を更に備えている。制御弁235は、複数の通路231毎に、熱媒体ポンプ232から通路231への熱媒体の流れ、すなわち流量を制御する。そのため、熱媒体は、複数の通路231のうち、制御弁235によって熱媒体の流れが許容された通路にのみ熱媒体ポンプ232から供給される。したがって、シール室211に充填されたグリース20のうち、地下水や地山によって加温された部分のみを局所的に冷却することができる。これにより、グリース20における一部の温度が下がり過ぎて粘性が高くなり過ぎるのを防止することができ、支持管体208と推進管204との間におけるシール性をより向上させることができる。
【0063】
制御弁235は、例えば作業員によって操作される。作業員は、ブラシ210からの漏水又はグリース20の温度上昇を確認したときには、制御弁235を開き、熱媒体を通路231に供給してグリース20を冷却する。ブラシ210からの漏水は、ブラシ210を監視するカメラ241を用いることにより確認可能である。グリース20の温度上昇は、シール室211に設けられる温度計242を用いることにより確認可能である。
【0064】
制御弁235は、第1実施形態における制御弁35a~35hと同様に、不図示のコントローラを用いて自動的に制御されてもよい。
【0065】
冷却システム230は、第1実施形態における冷却システム30と同様に、グリース20を加温可能であってもよい。また、第1実施形態と同様に、複数の通路231のうち一部の通路に冷却用の熱媒体が供給され残りの通路に加温用の熱媒体が供給されるように冷却システム230が構成されていてもよい。
【0066】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、冷却システム30を用いてシール室211内のグリース20の温度を0℃以上100℃以下の範囲で制御することがより好ましい。
【0067】
図6(c)に示すように、シール構造200は、シール室211にグリース20を供給するグリース供給システム250を備えている。グリース供給システム250は、第1実施形態におけるグリース供給システム50の構造と略同じであるため、ここではその説明を省略する。また、グリース供給システム250の回路図は、
図4に示されるグリース供給システム50の回路図とほぼ同じであるため、ここではグリース供給システム250の回路図の図示を省略する。
【0068】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0069】
本実施形態では、冷却システム230は、シール室211に充填されたグリース20を冷却する。そのため、グリース20の温度が上昇するのを冷却システム230により防止することができる。したがって、グリース20の粘性を維持することができる。これにより、ブラシ210からグリース20が漏出するのを軽減することができ、支持管体208と推進管204との間におけるシール性を向上させることができる。
【0070】
また、複数の制御弁235は、複数の通路231毎に、熱媒体ポンプ232から複数の通路231への熱媒体の流れを制御する。そのため、熱媒体は、複数の通路231のうち、制御弁235によって熱媒体の流れが許容された通路にのみ熱媒体ポンプ232から供給される。したがって、シール室211に充填されたグリース20のうち、地下水や地山によって加温された部分のみを局所的に冷却することができる。これにより、グリース20における一部の温度が下がり過ぎて粘性が高くなり過ぎるのを防止することができ、支持管体208と推進管204との間におけるシール性をより向上させることができる。
【0071】
制御弁235を用いて通路231における熱媒体の流量を別々に制御するのに代えて、複数の熱媒体ポンプ232を通路231にそれぞれ接続し、複数の熱媒体ポンプ232の作動を別々に制御して通路231における熱媒体の流量を別々に制御してもよい。
【0072】
また、通路231における熱媒体の流量を別々に制御するのに代えて、複数の温度調節器233を通路231にそれぞれ接続し、複数の温度調節器233の作動を別々に制御して通路231における熱媒体の温度を別々に制御してもよい。つまり、複数の通路231毎に、熱媒体ポンプ232から複数の通路231への熱媒体の温度を制御してもよい。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0074】
第1実施形態において、胴体2は、断面が略円形状であるが、断面が略矩形状であってもよい。また、第2実施形態において、支持管体208は、断面が略矩形状であるが、断面が略円形状であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
100,200・・・シール構造
1・・・シールド掘進機(掘進機)
2・・・胴体(枠体)
4・・・セグメントリング(トンネル構造体)
10,210・・・ブラシ
11,211・・・シール室
20・・・グリース
30,230・・・冷却システム(冷却手段)
31a~31h,231・・・通路
32,232・・・熱媒体ポンプ(熱媒体供給部)
35a~35h,235・・・制御弁(制御部)
204・・・推進管(トンネル構造体)
208・・・支持管体(枠体)
P2・・・坑口
T1,T2・・・トンネル