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▶ シュティッヒティング・サンコン・ブロードフォールジーニングの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】H因子増強抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240412BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240412BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240412BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240412BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240412BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240412BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240412BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240412BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240412BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240412BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240412BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240412BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/18
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 111
A61P13/12
A61P27/02
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K48/00
A61K35/12
A61P13/02
A61K31/7088
C12P21/08
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020538984
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 NL2019050018
(87)【国際公開番号】W WO2019139481
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】18151726.9
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511111046
【氏名又は名称】シュティッヒティング・サンコン・ブロードフォールジーニング
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】タコ・ヴィレム・カウペルス
(72)【発明者】
【氏名】ディアナ・ヴァウテルス
(72)【発明者】
【氏名】マリア・クラーラ・ブラウエル
(72)【発明者】
【氏名】リシャルト・ベンヤミン・パウ
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525362(JP,A)
【文献】特表2013-508287(JP,A)
【文献】特表2017-532952(JP,A)
【文献】特表2013-510164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的にH因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号36の配列を含む可変軽鎖、及び配列番号40の配列を含む可変重鎖を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記抗体又は断片はFHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、好ましくは、前記抗体又は断片はFHに対して0.6 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.6 x 10-11 M以下のKDの結合親和性を有する、請求項1に記載の抗体又は断片。
【請求項3】
特異的にFHのCCP18に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号20の配列を含む可変軽鎖、及び配列番号24の配列を含む可変重鎖を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体又は断片はFHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、好ましくは、前記抗体又は断片はFHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する、請求項3に記載の抗体又は断片。
【請求項5】
-インビトロにおいて、38 nM以下のIC50値、好ましくは、30 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の堆積を阻害し、並びに/又は
-インビトロにおいて、150 nM以下のIC50値、好ましくは、130 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害し、並びに/又は
-インビトロにおいて、最大で2 μMまで、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を増加させ、及び/若しくはインビトロにおいて、少なくとも3倍、C3bに対するFHの結合親和性を増加させる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の抗体又は断片。
【請求項6】
特異的にFHのCCP18に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号52の配列を含む可変軽鎖、及び配列番号56の配列を含む可変重鎖を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体はFHの活性を増強し、好ましくは、前記FHの活性が副経路補体活性化の阻害であり、より好ましくは、副経路補体活性化の阻害が:
-溶血性活性の阻害、
-補体成分3(C3)の堆積の阻害、並びに/又は
-FHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体又は断片。
【請求項8】
前記断片は免疫グロブリン重鎖可変領域及び免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、好ましくは、前記断片は免疫グロブリン重鎖定常領域及び免疫グロブリン軽鎖定常領域を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗体又は断片。
【請求項9】
前記断片は少なくともFab断片を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体又は断片。
【請求項10】
モノクローナル抗体又はその断片である、請求項1から9のいずれか一項に記載の抗体又は断片。
【請求項11】
ヒト軽鎖及び重鎖定常領域を含む、キメラ若しくはヒト化抗体又はその断片である、請求項1から10のいずれか一項に記載の抗体又は断片。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体又は断片をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項14】
請求項12に記載の核酸分子又は請求項13に記載のベクターを含む組み換え細胞。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体若しくは断片、請求項12に記載の核酸分子、請求項13に記載のベクター、又は請求項14に記載の組み換え細胞、並びに医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
治療における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体若しくは断片、又は請求項12に記載の核酸分子。
【請求項17】
副経路補体活性化の阻害における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体若しくは断片、又は請求項12に記載の核酸分子。
【請求項18】
副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体若しくは断片、又は請求項12に記載の核酸分子。
【請求項19】
前記障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性(AMD)、及び膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される、請求項18に記載の抗体若しくは断片又は核酸分子。
【請求項20】
副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための医薬の製造のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体若しくは断片、又は請求項12に記載の核酸分子、又は請求項13に記載のベクターの使用。
【請求項21】
前記障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性(AMD)、及び膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
副経路補体活性化と関連した障害を治療、緩和、又は予防するための医薬品であって、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体若しくは断片、又は請求項12に記載の核酸分子、又は請求項13に記載のベクターを含む、医薬品。
【請求項23】
前記障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性(AMD)、及び膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される、請求項22に記載の医薬品。
【請求項24】
副経路補体活性化を阻害するための医薬品であって、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体若しくは断片、又は請求項12に記載の核酸分子、又は請求項13に記載のベクターを含む、医薬品。
【請求項25】
請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体又は断片を製造するための方法であって、
請求項12に記載の核酸分子又は請求項13に記載のベクターを有する細胞を提供し、前記細胞に、前記核酸分子又はベクターによって含まれる核酸配列を翻訳させ、それによって請求項1から11のいずれか一項に記載の前記抗体又は断片を製造することを含む、方法。
【請求項26】
前記抗体又は断片を収集、精製、及び/又は単離することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学及び医学の分野に関する。特に、本発明は、H因子特異的抗体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
補体系は、侵入した病原体に対する哺乳類等の多くの生物の保護に寄与する、自然免疫の重要な要素である。補体系は、主に肝臓で合成される30を超える異なる成分からなる。補体系の活性化は、3つの異なる経路(古典経路、レクチン経路、及び副経路)によって、起きる。3つの経路は、C3転換酵素の形成において収束し、3つの経路は各経路に関して異なるが、類似した活性を有する。
【0003】
古典補体系では、C1q、C1r、及びC1sからなる、補体成分(C)1複合体の活性化は、抗体-抗原複合体に結合すると起きる。C1複合体は、C4及びC2を切断し、C4bC2aからなるC3転換酵素の形成をもたらす。C3転換酵素は、C3を活性成分C3a及びC3bに切断する。レクチン経路では、マンノース結合レクチンが、病原体表面上のマンノース残基に結合し、C4及びC2を切断することができるセリンタンパク質分解酵素MASP-1及びMASP-2を活性化する。古典経路でのように、これはC4bC2a C3転換酵素の形成をもたらす。このC3転換酵素はC3bに結合して、C5転換酵素を形成することができる。古典及びレクチン経路とは対照的に、血漿中における、C3のC3(H2O)への自発的な加水分解のため、副経路は低レベルの連続した活性を有する。このC3b様のC3(H2O)はB因子(FB)と結合することによって流体相C3転換酵素を形成することができ、続いてD因子によって活性化されてBbになる。同様に、C3bが表面に結合する際、FBに結合してC3bBを形成することができる。この複合体は、D因子によって切断されて、プロペルジン(P因子)によって安定化されてC3bBbPになることができる、副経路のC3転換酵素になる。このC3転換酵素は、C3をC3a及びC3bに切断することができる。この工程に加え、副経路は、古典及びレクチン活性化経路で生成されるC3bが副経路の起始点として働くことができるので、古典及びレクチン活性化経路の増幅ループとして働く。それによって、増幅ループは、古典及びレクチン経路の強化をもたらす。3つの活性化経路の1つにおいて形成されたC3転換酵素は、C3bに結合してC5転換酵素を形成することができる。3つ全ての補体経路のC5転換酵素は、C5を活性化して、補体系の最終経路を開始するC5a及びC5bにする。C5bは、C6、C7、C8、及びC9に結合して、膜透過チャネルを形成し細胞溶解を起こす、細胞膜障害複合体(MAC)を形成する。
【0004】
病原体の膜に孔を形成した次に、補体は、C3b分子を用いたオプソニン化によって病原体又は異常な自己細胞の排除、並びに免疫細胞を炎症部位に呼び寄せ活性化させるC3a及びC5a等の炎症促進性ペプチドの産生を助ける。補体の強い炎症促進性特性のため、宿主細胞は、いくつかの膜及び可溶性補体制御タンパク質によってよく保護されている。
【0005】
副経路は、総補体活性の80-90%に寄与している。それゆえ、この経路の制御はきわめて重要である。C3の自発的な加水分解によって形成されるC3(H2O)、及びC3bは、一般的に、病原体に結合されない場合、H因子(FH)、I因子(FI)、及び宿主細胞表面分子によって急速に不活性化され、それによってC3転換酵素の形成が阻害される。CD55(崩壊促進因子又はDAFとも呼ばれる)は、宿主細胞表面において、C3bに結合する。FIはC3bを切断して不活性化型にするが、FIは、細胞表面に発現している(CD46、MCP)か、又は血漿中に循環している(FH)、補因子に依存する。FHは、液中及び細胞表面上の両方において、副経路の補体の制御に不可欠な血漿糖タンパク質である。FHは、FBと同じ部位でC3bに結合し、それによって、C3転換酵素の形成を妨げる。FHはまた、崩壊促進活性を有し、すなわち、FHは、副経路のC3転換酵素が形成されると、副経路のC3転換酵素の解離を促進する。FHがC3bに結合するかどうかは、細胞表面に存在する糖によって決定される。宿主細胞表面に存在する、シアル酸、グリコサミノグリカン、及びヘパリンが、FHのC3bへの結合を促進するのに対し、病原体の表面に発現している分子へのC3bの結合は、FBの結合をもたらす。従って、FHに結合する細胞表面分子は宿主細胞上に発現するが、一般的に病原細胞上には発現していないので、FHは補体阻害活性を宿主細胞に対して発揮するが、病原細胞の表面には発揮しない。FHは、FHのN末端から1-20と番号付けられる、20個の補体制御タンパク質(CCP)ドメインを含む。CCPドメインは、ショートコンセンサスリピート(SCR)又はsushiドメインとも称される。CCP1から4は制御に関わるドメインであり、CCP19から20はC3bに結合することに関わり、CCP6、7、8、19、及び20は細胞の表面に発現するGAG及びシアル酸に結合する。CCP19及び/又はCCP20に結合する抗体は、FHの活性を阻害する。
【0006】
H因子関連タンパク質(CFHR)は、FHへの構造及び抗原性に関して関連する血漿糖タンパク質である。FHRタンパク質もCCPドメインを含み、これらはFHで見られるCCPドメインに対する様々な程度の相同性を有する。例えば、FHR1は、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19、及びCCP20に対応するドメインを含む。FHと対照的に、CFHRは強い補体阻害活性を有さない。CFHRの共通の特徴は、CFHRは補体のC3b成分に結合し、それによってC3bへの結合に関してFHと競合し、従って補体の副経路の正の調節因子と考えられている。
【0007】
変異による、宿主の表面のFHの欠損又は認識障害は、補体媒介性の組織損傷及び疾患と関連している。正常の止血の間の補体の活性化の制御の次に、FHは、病気の細胞及び組織の補体媒介性の損傷を制限することにおける重要な役割も担う。FH遺伝子における多数の変異は、FHタンパク質の機能の喪失につながる可能性があると言われてきた。FHのC末端領域は、疾患における変異のホットスポットである。ここは、FHの宿主細胞への結合に関して重要な領域である。この領域における疾患関連変異のほとんどが、FHの結合を妨げる。変異したFH遺伝子を有するほとんどの患者がヘテロ接合変異を有し、それは、循環しているFHのおよそ半分が正常の機能を有することを意味する。しかしながら、これは、補体が活性化された特定の状態では、明らかに、自己の表面を保護するには十分でない。FHの欠損は、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)及び非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)等の腎疾患をもたらす可能性がある。より最近では、FH変異及び加齢黄斑変性(AMD)の間の関係が述べられた。
【0008】
近年、aHUS等における、FHの欠損のための標準治療は、血漿補充又は血漿交換療法である。そのような治療を用いて、欠損した補体調節因子を補充する。加えて、血漿交換療法は、変異した補体因子及び/又は補体因子に対する自己抗体を除去する。しかしながら、血漿療法にはいくつかの制限もある。血漿交換療法がaHUSの治療において安全又は効果的であると示す前向き臨床研究はなく、血漿療法の効率は原因となっている変異に依存する可能性がある。新鮮凍結血漿に対してアナフィラキシー反応を発症する患者も存在し、あらゆる形態の血漿療法の中断を求められることがある。さらに、血漿交換は、血漿由来の活性な病原性の補体成分の投与によって、aHUSの臨床像を悪化させる可能性がある。
【0009】
近年、米国及び欧州の国のいくつかの国において、治療用モノクローナル抗体エクリズマブが、aHUS及び発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療に関して承認された。エクリズマブは、C5に特異的なヒト化マウスモノクローナル抗体であり、C5のC5a及びC5bへの切断を防ぐ。従って、上記抗体は最終経路の活性化を防ぎ、免疫細胞の流入を減らす。しかしながら、エクリズマブの使用は、不必要な副作用と関連する。エクリズマブは、最終経路の開始に重要な成分であるC5をブロックするので、エクリズマブで治療された患者は、排除がMAC形成にとても依存する被包性細菌(ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)等)に感染しやすくなる。そのため、エクリズマブを用いた治療を受ける前に患者は、髄膜炎菌に対するワクチン接種が必要とされる。さらに、エクリズマブはC3の下流に作用するので、C3の滞積(deposition)が維持され、不必要又は過剰な補体の活性化に関わるいくつかの障害において有害である。加えて、高い費用がエクリズマブ治療に関わり、上記抗体の可用性は制限されている。
【0010】
CCP18に結合するマウスモノクローナル抗体は、Chengらによって述べられている(Clinical Chemistry, 2005)。X52.1と呼ばれるこの抗体は、FHの二量化によって起きると考えられている、FHのC3b及びC3dへの結合を増加させると述べられている。X52.1によって誘導されたFHのC3b及びC3dへの増加した結合は、Coreyらによって示されるように、赤血球及びいくつかのタイプのがん細胞を含む、補体媒介性の細胞の溶解の増加をもたらす(J Biol Chem. 2000)。これは、抗体X52.1がFHの補体阻害活性を阻害することを実証している。実際に、Coreyらは、上記抗体は、がん細胞の補体媒介性の細胞の溶解を高めることによってがんの治療において使用することができると提言している。
【0011】
国際公開第2016/028150号では、C3bへのFHの結合の増加、媒介されたC3の滞積の阻害、及び溶血性活性の阻害によって示されるように、副経路の活性化を阻害する、FH.07と称されるアゴニスティックな抗FH抗体を述べている。上記抗体のFab’及びF(ab’)2断片は、同じ、H因子増強効果を有することが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2016/028150号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
不必要又は過剰な補体の活性化に関連した障害の治療において有益である薬剤等の、FHに結合する新規の、改良された治療薬に関する絶え間ない要求がある。
【0014】
FHに結合する新規の抗体を提供することが本発明の目的である。特に、FHの活性の増強をもたらすFHの結合におけるエピトープ、特にFHのドメインCCP18に位置するエピトープを認識する抗体を提供することが更なる目的である。FHに対して高い結合親和性を有する抗体を提供することが本発明の更なる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
それゆえ、本発明は、特異的にH因子(FH)に結合し、FHの活性を増強する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供し、上記抗体又は断片はFHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、好ましくは、上記抗体又は断片はFHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、より好ましくは、上記抗体又は断片はFHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。好ましい抗体又は断片は、好ましくは、FHに対して0.6 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.6 x 10-11 M以下のKDの結合親和性を有する。上記抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、38 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害し、及び/又はインビトロにおいて、150 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。上記抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、最大で2 μMまで、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を増加させ、及び/又はインビトロにおいて、少なくとも3倍、C3bに対するFHの結合親和性を増加させる。結合親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して決定される。
【0016】
更なる態様において、本発明は、特異的にH因子(FH)に結合し、FHの活性を増強する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供し、上記抗体又は断片は、インビトロにおいて、38 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害する。
【0017】
更なる態様において、本発明は、特異的にH因子(FH)に結合し、FHの活性を増強する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供し、上記抗体又は断片は、インビトロにおいて、最大で2 μMまで、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を増加させ、及び/又はインビトロにおいて、少なくとも3倍、C3bに対するFHの結合親和性を増加させる。
【0018】
更なる態様において、本発明は、特異的にH因子(FH)に結合し、FHの活性を増強する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供し、上記抗体又は断片は、インビトロにおいて、150 nM以下、好ましくは、130 nM以下、より好ましくは、115 nM以下、より好ましくは、105 nM以下、より好ましくは、100 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。
【0019】
本発明による抗体又は断片は、好ましくは、H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する。上記FHの活性は、好ましくは、副経路補体活性化の阻害である。副経路補体活性化の阻害は以下を含む:溶血性活性の阻害、細胞における補体成分3(C3)滞積の阻害、並びに/又はC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへのFHの結合の増加。
【0020】
更なる態様において、本発明は、以下を含む、特異的にH因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する:
-配列SSVXY(XはR、T、若しくはN)(配列番号91) 、又は配列QSLVHSNGNTY (配列番号49)を有する軽鎖CDR1配列、
-配列X1X2S(X1=A、K、又はY、及びX2=T又はL)(配列番号92)を有する軽鎖CDR2配列、
-QQWGTKPPT (配列番号19)、QQRSSSNPLT (配列番号35)、SQSTHVPFT (配列番号51)、及びQQFTSSPLT (配列番号67)からなる群から選択される配列を有する軽鎖CDR3、
-配列X1FSLTX2X3G(X1=D又はG、X2=N又はS、及びX3=S又はY)(配列番号93) を有する重鎖CDR1、
-配列IWSGGXT(x=T、N、又はS)(配列番号94)を有する重鎖CDR2、並びに
-配列ARNX1GNYX2X3DY(X1=F若しくはG、X2=A若しくはY、及びX3=V、M若しくはF)(配列番号95) 、又はAKNGDYGYTMDY (配列番号55)を有する重鎖CDR3配列。
【0021】
更なる態様において、本発明は、以下を含む、特異的にH因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する:
-配列SSVXY(XはR又はT)(配列番号96)を有する軽鎖CDR1配列、
-配列ATS (配列番号97)を有する軽鎖CDR2配列、
-QQWGTKPPT (配列番号19)、及びQQRSSSNPLT (配列番号35)からなる群から選択される配列を有する軽鎖CDR3、
-配列X1FSLTNX2G(X1=D又はG、及びX2=S又はY)(配列番号98)を有する重鎖CDR1、
-配列IWSGGTT (配列番号99)を有する重鎖CDR2、並びに
-配列ARNFGNYAXDY(X=V又はM)(配列番号100)を有する重鎖CDR3配列。
【0022】
更なる態様において、本発明は、配列 SSVRY (配列番号17)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQWGTKPPT (配列番号19)を有する軽鎖CDR3、配列 DFSLTNSG (配列番号21)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号22)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にH因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。抗体又は断片は、好ましくは、FHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、好ましくは、上記抗体又は断片は、FHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、38 nM以下のIC50値、好ましくは、30 nM以下のIC50値、より好ましくは、27 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害する。抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、150 nM以下のIC50値、好ましくは、130 nM以下のIC50値、より好ましくは、100 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、最大で2 μM、より好ましくは、1.8 μMまで、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を増加させ、及び/又はインビトロにおいて、少なくとも3倍、より好ましくは、3.5倍、C3bに対するFHの結合親和性を増加させる。
【0023】
更なる態様において、本発明は、配列 SSVTY (配列番号33)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号34)を有する軽鎖CDR2配列、及び 配列 QQRSSSNPLT (配列番号35)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号37)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号38)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAMDY 配列(配列番号39)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にH因子(FH)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。抗体又は断片は、好ましくは、FHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、好ましくは、上記抗体又は断片は、FHに対して0.6 x 10-8 M以下のKDの結合親和性を有し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.6 x 10-11 M以下のKDの結合親和性を有する。抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、最大で2 μM、より好ましくは、1.95 μMまで、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を増加させ、及び/又はインビトロにおいて、少なくとも3倍、より好ましくは、3.1倍、C3bに対するFHの結合親和性を増加させる。
【0024】
更なる態様において、本発明は、配列 QSLVHSNGNTY (配列番号49)を有する軽鎖CDR1配列、配列 KLS (配列番号50)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 SQSTHVPFT (配列番号51)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号53)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGNT (配列番号54)を有する重鎖CDR2、及び配列 AKNGDYGYTMDY (配列番号55)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にH因子(FH)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0025】
更なる態様において、本発明は、配列 SSVNY (配列番号65)を有する軽鎖CDR1配列、配列 YTS (配列番号66)を有する軽鎖CDR2配列、及びQQFTSSPLTの配列(配列番号67)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTSYG (配列番号69)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGST (配列番号70)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNGGNYYFDY (配列番号71)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にH因子(FH)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0026】
更なる態様において、本発明は、QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVRYMHWYQQKAGSSPTAWIFATSNLASGVPPRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWGTKPPTFGAGTKLELK (配列番号20)からなる群から選択される配列と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSDFSLTNSGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGTTEYNAAFMSRLTITKDNSKSQVFFKMNSLLVDDTGIYYCARNFGNYAVDYWGQGTSVTVSS (配列番号24)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む、特異的にH因子(FH)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0027】
更なる態様において、本発明は、配列QIVLSQSPTILSASPGEKVTMTCRASSSVTYMHWYQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQRSSSNPLTFGAGTKLELK (配列番号36)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列QVQLRQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVYWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGTTDYSAAFISRLSISKDNSKSQVFFKMNSLQADDTAIYYCARNFGNYAMDYWGQGTSVTVSS (配列番号40)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む、特異的にH因子(FH)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0028】
更なる態様において、本発明は、配列DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSNGNTYLHWYLQKPGQSPKLLIYKLSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQSTHVPFTFGSGTKLEIK (配列番号52)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQPPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNAAFISRLSISKDNSKSQVFFKMNSLQADDTAIYYCAKNGDYGYTMDYWGQGTSVTVSS (配列番号56)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む、特異的にH因子(FH)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0029】
更なる態様において、本発明は、配列ENVLTQSPAIMSASLGEKVTMSCRASSSVNYMYWYQQKSDASKLSWIYYTSNLAPGVPARFSGSGSGNSYSLTISSMEGEDAATYYCQQFTSSPLTFGAGTKLELK (配列番号68)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTSYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGSTDYNAAFISRLSISKDNSKSQVFFKMNSLQANDTAIYYCARNGGNYYFDYWGQGTTLTVSS (配列番号72)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む、特異的にH因子(FH)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0030】
本明細書で特定された軽鎖CDR1-3配列及び重鎖CDR1-3配列、又は本明細書で特定された可変軽鎖配列及び可変重鎖配列を含む、本発明による抗体又は断片は、好ましくは、FHの活性を増強する。上記FHの活性は、好ましくは、副経路補体活性化の阻害である。上記副経路補体活性化の阻害は、溶血性活性の阻害、補体成分3(C3)滞積の阻害、並びに/又はC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへのFHの結合の増加を含む。
【0031】
更なる態様において、本発明は、本発明による抗体又は断片をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子を提供する。
【0032】
更なる態様において、本発明は、本発明による核酸分子を含むベクターを提供する。
【0033】
更なる態様において、本発明は、本発明による核酸分子又はベクターを含む組み換え細胞を提供する。
【0034】
更なる態様において、本発明は、本発明による抗体又は断片並びに医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0035】
更なる態様において、本発明は、本発明による核酸分子並びに医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0036】
更なる態様において、本発明は、本発明によるベクター並びに医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0037】
更なる態様において、本発明は、治療における使用のための、本発明による抗体又は断片を提供する。
【0038】
更なる態様において、本発明は、治療における使用のための、本発明による核酸分子を提供する。
【0039】
更なる態様において、本発明は、治療における使用のための、本発明によるベクターを提供する。
【0040】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化の阻害における使用のための、本発明による抗体又は断片を提供する。
【0041】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化の阻害における使用のための、本発明による核酸分子を提供する。
【0042】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化の阻害における使用のための、本発明によるベクターを提供する。
【0043】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防における使用のための、本発明による抗体又は断片を提供する。
【0044】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防における使用のための、本発明による核酸分子を提供する。
【0045】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防における使用のための、本発明によるベクターを提供する。
【0046】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための医薬品の製造のための、本発明による核酸分子の使用を提供する。
【0047】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための医薬品の製造のための、本発明によるベクターの使用を提供する。
【0048】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための医薬品の製造のための、本発明による抗体又は断片の使用を提供する。
【0049】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための方法であって、それを必要とする個体に、治療上有効量の本発明による抗体又は断片を投与することを含む方法を提供する。
【0050】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための方法であって、それを必要とする個体に、治療上有効量の本発明による核酸分子を投与することを含む方法を提供する。
【0051】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための方法であって、それを必要とする個体に、治療上有効量の本発明によるベクターを投与することを含む方法を提供する。
【0052】
更なる態様において、本発明は、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防のための方法であって、それを必要とする個体に、治療上有効量の本発明による医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0053】
更なる態様において、本発明は、個体に本発明による抗体又は断片を投与することを含む、副経路補体活性化の阻害のための方法を提供する。
【0054】
更なる態様において、本発明は、個体に本発明による核酸分子を投与することを含む、副経路補体活性化の阻害のための方法を提供する。
【0055】
更なる態様において、本発明は、個体に本発明によるベクターを投与することを含む、副経路補体活性化の阻害のための方法を提供する。
【0056】
更なる態様において、本発明は、本発明による抗体又は断片を製造するための方法であって、本発明による核酸分子又はベクターを有する細胞を提供し、上記細胞に、上記核酸分子又はベクターによって含まれる核酸配列を翻訳させ、それによって本発明による上記抗体又は断片を製造することを含む、方法を提供する。
【0057】
ある態様において、本発明は、アゴニスティック抗FH抗体及びその断片、すなわち、FHの活性を増強する抗体又は断片を提供する。ある態様において、これらの抗体は、FHのドメインCCP18中の同じエピトープへの結合に関して、抗体FH.07と競合する。抗FH増強抗体(Potentiating anti-FH antibody)は、副補体経路の活性化の有力な阻害剤であり、それゆえ補体系の副経路の不必要又は過剰な活性化と関連した障害の治療において有益である。FHは、特異的に、細胞表面におけるC3のC3bへの切断、及びそれに続くFBへのそれの結合、並びにC3転換酵素の形成が、更なるC3分子のC3bへの切断を促進する副経路の増幅ループを阻害する。本発明の抗体及び断片はC3のレベルにおいて補体の活性化を妨げるという事実の主な強みは、表面上のC3bの蓄積、及びC3aの放出が回避されることである。反対に、エクリズマブを用いた場合のように、C5のレベルにおいて補体の活性化が阻害される場合、C3bの蓄積、及びC3aの放出は阻害されない。C3bはオプソニンとして働き、C3aはアナフィラトキシンである。従って、C3bの蓄積及びC3aの形成の過程は、免疫細胞の引き寄せ、及び標的のオプソニン化貪食作用をもたらすので、C3bの蓄積及びC3aの形成は、好ましくは、防がれる。これは、例えば、C3bの蓄積は赤血球のオプソニン化をもたらし、その後赤血球は肝臓及び脾臓で取り除かれるので、エクリズマブを受けているPNH患者はまだ輸血を必要とするということを意味する。さらに、抗C5抗体を用いた治療は、そうでなければMACによって溶解される細胞上においてC3bの蓄積及びC3aの形成をもたらす。抗C5抗体の重要な弱みは、抗体が病原体によって誘導された補体の活性化も妨げるので、患者は感染症にかかりやすくなることである。宿主細胞を保護する補体系の調節因子を標的とすることによって、これは回避される。
【0058】
本明細書で使用される用語「抗体」は、標的エピトープに特異的で、軽鎖可変領域(VL)と対になっている、重鎖可変領域(VH)を少なくとも含む、免疫グロブリンタンパク質を指す。上記用語は、ポリクローナル及びモノクローナル抗体の両方を含む。それは、フルレングスの免疫グロブリンを含む、CCP18、好ましくは、FHのCCP18に特異的に結合する、任意の形態の抗体を指す。本発明による抗体又はその断片は、少なくとも抗原結合部位を含む。本明細書で使用される用語「抗原結合部位」は、少なくとも1つのCDR配列、好ましくは、少なくとも2つのCDR配列、より好ましくは、少なくとも3つのCDR配列を含む、抗体又はその断片の部位を指す。例えば、抗原結合部位は、軽鎖CDR1-3又は重鎖CDR1-3を含む。特に好ましい抗原結合部位は、軽鎖CDR1-3及び重鎖CDR1-3を含む。
【0059】
当業者によく知られているように、抗体は2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む。抗体の重鎖は、免疫グロブリン分子を構成する2つのタイプの鎖のより大きい方である。重鎖は定常ドメイン及び可変ドメインを含み、可変ドメインは抗原結合に関わる。抗体の軽鎖は、免疫グロブリン分子を構成する2つのタイプの鎖のより小さい方である。軽鎖は定常ドメイン及び可変ドメインを含む。軽鎖の可変ドメインは、いつもではないが頻繁に、抗原結合に関わる重鎖の可変ドメインと一緒になっている。相補性決定領域(CDR)は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインに存在する超可変領域である。フルレングスの抗体の場合、重鎖のCDR1-3及び連結された軽鎖のCDR1-3は一緒に抗原結合部位を形成する。
【0060】
「抗体の抗原結合断片」は、同じ程度までは必要ないが、抗体と同じ抗原(すなわち、FHのCCP18)に特異的に結合できる、抗体の一部として本明細書で定義されている。さらに、FHの活性増強抗体の断片も、同じ程度までは必要ないが、FHの活性を増強する。さらに、FHの活性阻害抗体の断片も、同じ程度までは必要ないが、FHの活性を阻害する。本発明による抗体断片は、好ましくは、抗体の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列、並びに上記抗体の軽鎖CDR1、CDR2、CDR3配列も含む。抗体の断片の非限定的な例は、シングルドメイン抗体、一本鎖抗体、ナノボディ、ユニボディ、一本鎖可変断片(scFv)、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、及びF(ab)2断片である。好ましい抗体の断片は、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。より好ましい断片は、少なくともFab断片を含む。同じエピトープへの結合に関して本発明の抗体と競合する、抗FH増強抗体FH.07のFab’断片は、FHの機能を増強する能力を保っていると実証された。特に好ましい本発明の抗体の断片は、それゆえ、本発明による抗体のFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、及びF(ab)2断片である。別の実施形態において、本発明による抗体の断片は、免疫グロブリン重鎖可変領域、免疫グロブリン重鎖定常領域、免疫グロブリン軽鎖可変領域、及び免疫グロブリン軽鎖定常領域を含む。
【0061】
本明細書で使用される用語「~に特異的」又は「特異的に結合する」又は「特異的に結合することができる」は、抗体及びそのエピトープの間の非共有結合性相互作用を指す。それは、抗体又は断片が、その他の結合部位又はその他の抗原を上回って、選択的に上記エピトープに結合することを示す。従って、抗体又は断片がその他の結合部位又は抗原に非特異的に結合することがあるかもしれないが、上記抗体又は断片の、そのエピトープに対する結合親和性は、上記抗体又は断片の、任意のその他の結合部位又は抗原に対する結合親和性より、有意に高い。
【0062】
アミノ酸配列若しくは核酸配列の同一性のパーセンテージ、又は用語「%の配列同一性」は、必要であれば、2つの配列をアラインメントし、ギャップを導入して、最大パーセント同一性を達成後に、基準のアミノ酸配列又は核酸配列の残基と同一である、アミノ酸配列又は核酸配列の全長の残基のパーセンテージとして本明細書で定義される。アラインメントのための方法及びコンピュータープログラムは、本分野においてよく知られており、例えば「Align 2」である。
【0063】
本明細書で表現されるアミノ酸配列において、アミノ酸は一文字表記で表される。これらの一文字表記及び三文字表記は当業者によく知られており、以下の意味を有する:A (Ala)はアラニン、C (Cys)はシステイン、D (Asp)はアスパラギン酸、E (Glu)はグルタミン酸、F (Phe)はフェニルアラニン、G (Gly)はグリシン、H (His)はヒスチジン、I (Ile)はイソロイシン、K (Lys)はリジン、L (Leu)はロイシン、M (Met)はメチオニン、N (Asn)はアスパラギン、P (Pro)はプロリン、Q (Gln)はグルタミン、R (Arg)はアルギニン、S (Ser)はセリン、T (Thr)スレオニン、V (Val)はバリン、W (Trp)はトリプトファン、Y (Tyr)はチロシン。
【0064】
本発明による好ましい抗体及び断片は、FH、好ましくはヒトのFHの活性を増強することができる。用語「FHの活性の増強」は、本発明による抗体又は断片がFHに結合した場合、FHの活性が増加することを意味する。本発明の抗体及び断片によって増強されるFHの活性は、好ましくは個体における、好ましくは、副経路補体活性化の阻害である。本明細書で使用される用語「副経路補体活性化」は、副経路を介した(すなわち、少なくとも副経路のC3転換酵素の形成(すなわち、C3bBb / C3bBbP)に関わる、又はこのC3転換酵素の形成の増加に関わる)、補体系の活性化を指す。副経路補体活性化はさらに、副経路のC3転換酵素によるC3のC3a及びC3bへの切断、副経路のC5転換酵素の形成(すなわち、C3bBbC3b / C3bBbC3b)、並びに/又はC5の切断及びその後のC6、C7、C8、及びC9の結合によるMACの形成に関わる可能性がある。副経路補体活性化はさらに、副経路増幅ループの増加を含む可能性がある。上記副経路補体活性化は、好ましくは、個体において阻害され、好ましくは、個体の体液、好ましくは、血液、間質液、又は脳脊髄液、より好ましくは、血液中において阻害される。本明細書で使用される「個体」は、免疫系の一部として補体系を含むヒト又は動物である。好ましくは、上記個体は哺乳類、より好ましくは、ヒトである。
【0065】
本明細書で使用される「副経路補体活性化の阻害」は、その阻害の結果を引き起こす、又はその阻害の結果である、副経路補体系の成分、因子、又は活性の量又は活性のあらゆる変化を含む。副経路補体活性化の阻害は、例えば、溶血性活性の阻害、上記個体の細胞における補体成分3(C3)の滞積の阻害、FHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加、副補体経路のC3転換酵素C3bBb / C3bBbPの形成の阻害、B因子のC3bへの結合の阻害、及び/若しくはC3b及びB因子の間の相互作用の阻害、副経路のC3転換酵素によるC3のC3a及びC3bへの切断の阻害、FHの、宿主細胞、特に宿主細胞上に発現するシアル酸、グリコサミノグリカン、及び/若しくはヘパリンへの結合の増加、副補体経路の増幅ループの阻害、及び副補体経路のC5転換酵素C3bBbC3bP / C3bBbC3bPの形成の阻害、副経路のC5転換酵素によるC5のC5a及びC5bへの切断の阻害、FHの崩壊促進活性(すなわち、一度形成した副経路のC3転換酵素の解離の促進)の増加、並びに/又はC3bの分解をもたらすFI補因子の活性の増加を含む。本発明の抗FH抗体及び断片によって増強される、FHによる副経路補体活性化の阻害は、好ましくは、溶血性活性の阻害、上記個体の細胞におけるC3の滞積の阻害、並びに/又はFHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加を含む。
【0066】
本明細書で使用される「阻害」は、好ましくは、示された活性が、少なくとも約25%、より好ましくは、少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約75%、より好ましくは、少なくとも約80%、より好ましくは、少なくとも約85%、より好ましくは、少なくとも約90%、最も好ましくは、少なくとも約95%、低下することを意味する。従って、「副経路補体活性化の阻害」は、好ましくは、副補体経路の活性が少なくとも約25%、より好ましくは、少なくとも約50%、75%、80%、85%、90%、又は95%、低下することを意味する。同様に、「溶血性活性の阻害」は、好ましくは、溶血性活性が、少なくとも約25%、より好ましくは、約50%、75%、80%、85%、90%、又は95%、低下することを意味する。
【0067】
本明細書で使用される「増加」は、好ましくは、示された活性が、少なくとも約25%、より好ましくは、少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約75%、より好ましくは、少なくとも約80%、より好ましくは、少なくとも約85%、より好ましくは、少なくとも約90%、最も好ましくは、少なくとも約95%、増加することを意味する。従って、「FHのC3bへの結合の増加」は、好ましくは、FHのC3bへの結合が、少なくとも約25%、より好ましくは、少なくとも約50%、75%、80%、85%、90%、又は95%、増加することを意味する。同様に、「FHの宿主細胞への結合の増加」は、好ましくは、FHの宿主細胞への結合が、少なくとも約25%、より好ましくは、約50%、75%、80%、85%、90%、又は95%、増加することを意味する。
【0068】
本明細書で使用される「溶血性活性」は、補体系の活性化によって誘導される、好ましくは、細胞表面におけるMACの形成の結果としての、赤血球の破裂、及びそれに続く細胞含有物の例えば血液循環への放出を指す。溶血性活性は、例えば、本明細書の実施例中に記載されるように、Sanchez-Corralら(2004)及びWoutersら(2008)によって記載された溶血アッセイを、場合によってはいくつかの変更とともに使用することによって、測定される。このアッセイにおいて、ヒツジ赤血球(SRBC)等の赤血球を、血清(例えば、ヒト血清)と、例えば37℃で1.25時間、振盪しながら、インキュベーションする。低レベルのFH又は機能障害性のFHを有する血清は、SRBCの溶解をもたらす。溶解は、20 mM EDTAを含むベロナール緩衝液を加え、その後2.5分間、予め冷却した遠心機(例えば、7℃)で遠心することで、止めることができる。赤血球の溶解のパーセンテージは、上清の412 nmにおける吸光度を測定することで決定される。血清は、例えば、健康なヒト個体、又はsHUS等の不必要若しくは過剰な副経路の補体の活性化と関連した障害を患うヒト個体に由来してもよい。溶血性活性を阻害する抗体又は断片の能力は、抗体又は断片の存在下で、赤血球を血清とインキュベーションすることで決定することができる。
【0069】
C3の滞積の阻害は、例えば、本明細書の実施例に記載される、C3滞積アッセイを使用して測定される。このアッセイは、マイクロタイタープレートをLPSでコーティングすることを含む。プレートは、その後、抗体又は断片の存在下又は非存在下で、血清(例えば、上記で示した健康なヒト個体、又は不必要若しくは過剰な副経路の補体の活性化と関連した障害を患うヒト個体由来)とインキュベーションされる。LPS上のC3の滞積は、抗C3抗体を用いて検出することができる。
【0070】
FHのC3bへの結合の増加は、例えば、本明細書の実施例に記載されるELISAを使用して測定される。このアッセイは、マイクロタイターELISAプレートのC3bを用いたコーティング、及び上記プレートの血清(例えば、上記で示した健康なヒト個体、又は不必要若しくは過剰な副経路の補体の活性化と関連した障害を患うヒト個体由来)を用いたインキュベーションを含む。結合したFHは、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗FH等の抗FHを用いて検出することができる。FHのC3bへの結合を高める抗体又は断片の能力は、コーティングされたC3bとのインキュベーションの前に、抗体又は断片の存在下で、血清をプレインキュベーションすることによって、決定することができる。その他の例として、FHのC3bへの結合は、例えば、本明細書の実施例に記載される、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、決定することができる。SPRは、標識なしの環境で、リアルタイムで、生体分子の相互作用を測定する技術である。相互作用物の1つ(例えば、C3b)をセンサー表面に固定し、もう一方(例えば、FH)は溶液中に自由にして、例えば、(異なる濃度の)本発明の抗体又は断片の存在又は非存在下で、上記表面を通過させる。本発明の好ましい抗体又はその断片は、インビトロにおいて、FHのC3bに対する結合親和性(KD)を最大で2 μM、より好ましくは、最大で1.95 μM、より好ましくは、最大で1.8 μM、より好ましくは、最大で1.7 μMまで増加させ、及び/又はインビトロにおいて、FHのC3bに対する結合親和性を少なくとも3倍、より好ましくは、少なくとも3.1倍、より好ましくは、少なくとも3.2倍、より好ましくは、少なくとも3.3倍、より好ましくは、少なくとも3.5倍、より好ましくは、少なくとも3.6倍に増加させる。
【0071】
本発明によって提供される好ましい抗体又はその断片は、1つ又は複数の機能アッセイにおける低いインビトロIC50値、より好ましくは、同じ機能アッセイについて抗体FH.07のインビトロIC50値より低いインビトロIC50値を有する。用語「IC50値」は本分野においてよく知られており、特定の機能活性を50%阻害又は減少させるのに必要な抗体又は断片の濃度を指す。抗体又は断片のIC50値が低いほど、抗体又は断片の阻害活性が強く、治療薬としての可能性が大きい。上記機能アッセイは、好ましくは、本明細書で上記されるC3b滞積アッセイ及び/又は溶血アッセイである。好ましい態様において、本発明による抗体及びその断片は、インビトロにおいて、38 nM以下、より好ましくは、35 nM以下、より好ましくは、32 nM以下、より好ましくは、30 nM以下、より好ましくは、28 nM以下、より好ましくは、27 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害する。更なる好ましい態様において、本発明による抗体又はその断片は、インビトロにおいて、150 nM以下、より好ましくは、130 nM以下、より好ましくは、115 nM以下、より好ましくは、105 nM以下、より好ましくは、100 nM以下、より好ましくは、95 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。
【0072】
本発明の更なる好ましい抗体又は断片は、インビトロにおいて、本明細書の上記に記載される低いIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害し、インビトロにおいて、本明細書の上記に記載される低いIC50値で、溶血性活性を阻害する。従って、本発明による好ましい抗体又は断片は、インビトロにおいて、38 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害し、インビトロにおいて、150 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害し、より好ましくは、インビトロにおいて、30 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害し、インビトロにおいて、150 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害し、より好ましくは、インビトロにおいて、27 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害し、インビトロにおいて、100 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。インビトロにおけるLPS上のC3の滞積に対するIC50値は、好ましくは、本明細書の上記に記載されるC3滞積アッセイにおいて決定される。溶血性活性に対するIC50値は、好ましくは、本明細書の上記に記載される溶血アッセイにおいて決定される。
【0073】
「結合親和性」は、抗体の1つの結合部位又は機能性部分又は機能性同等物とその結合パートナー(例えば、抗原)の間の非共有結合性相互作用の合計の強さを指す。その他のものを指さない限り、本明細書で使用されるように、「結合親和性」は、一対の結合の間(本願における抗体と抗原)の1:1の相互作用を反映する本質的な結合親和性を指す。結合親和性は、本明細書では、kaのkdに対する比として計算される平衡解離定数(KD)によって表される(例えば、Chen, Y., et al., 1999を参照)。親和性は、例えば、BiaCore(GE Healthcare Life Sciences GE Healthcare Life Sciences)若しくはIBIS Technologies BVのIBIS-iSPR機器(Hengelo, the Netherlands) 等の表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、又はKinexa等の溶液相アッセイのような、本分野において知られた一般的な方法によって測定することができる。
【0074】
本発明によって提供される好ましい抗体又はその断片は、FH及び/又はドメインCCP18-20を含むFH断片に対する高い結合親和性、より好ましくは、抗体FH.07の結合親和性より高い結合親和性を有する。抗体又は断片のインビボにおける治療活性は、典型的には、例えば、抗体又は断片の、特異的なエピトープ又は抗原ではない結合部位及び/又は抗原に対する結合を最小限にし、並びにインビボにおいて投与するのに必要な抗体又は断片の量を最小限にする、高い結合親和性が求められる。従って、高い結合親和性を有する抗体が好ましい。抗体又はその断片は、好ましくは、FHに対して2.5 x 10-8 M以下の解離定数(KD)の結合親和性し、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。1つの実施形態において、それゆえ、本発明は、特異的にH因子(FH)に結合し、FHの活性を増強する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供し、上記抗体はFHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。好ましくは、本発明による抗体又は断片は、FHに対して2.25 x 10-8 M以下、より好ましくは、2 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.75 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.5 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.25 x 10-8 M以下、より好ましくは、1 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.9 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.8 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.7 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.6 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.09 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.08 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.07 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.06 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.05 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.04 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.03 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.02 x 10-9 M以下、より好ましくは、1 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.9 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.8 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.7 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.6 x 10-11 M以下のKDの結合親和性を有する。好ましい態様において、抗体又はその断片は、好ましくは、FHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。更なる好ましい態様において、抗体又はその断片は、好ましくは、FHに対して0.6 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.6 x 10-11 M以下のKDの結合親和性を有する。上記結合親和性は、好ましくは、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、より好ましくは、本明細書に記載されるアッセイにおける(例えば、結合親和性が、フルレングスのFH(FHに対する結合親和性に関して)又はドメイン18-20を含むFHの断片(CCP18-20に対する結合親和性に関して)のどちらかを表面上に流す前に、抗体又は断片を補足する、ProtA chip上のSPRによって決定される、アッセイにおいて)SPRを使用して、決定される。
【0075】
本発明による更なる好ましい抗体又は断片は、高い結合親和性を有し、インビトロにおいて低いIC50値でLPS上のC3の滞積を阻害し、及び/又はインビトロにおいて低いIC50値で溶血性活性を阻害する。従って、本発明による好ましい抗体又は断片は、FHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/若しくはCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、並びにインビトロにおいて38 nM以下のIC50値でLPS上のC3の滞積を阻害し、及び/又はインビトロにおいて150 nM以下のIC50値で溶血性活性を阻害する。より好ましい抗体又は断片は、FHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/若しくはCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、並びにインビトロにおいて30 nM以下のIC50値でLPS上のC3の滞積を阻害し、及びインビトロにおいて115 nM以下のIC50値で溶血性活性を阻害する。さらにより好ましくは、抗体又は断片は、FHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/若しくはCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、並びにインビトロにおいて27 nM以下のIC50値でLPS上のC3の滞積を阻害し、及びインビトロにおいて100 nM以下のIC50値で溶血性活性を阻害する。上記結合親和性は、好ましくは、本明細書に記載されるSPRによって決定される。インビトロにおけるLPS上のC3の滞積に対するIC50値は、好ましくは、本明細書に上記に記載されるC3滞積アッセイにおいて決定される。溶血性活性に対するIC50値は、好ましくは、本明細書に上記に記載される溶血アッセイにおいて決定される。
【0076】
本発明による特に好ましい抗体は、抗FHR-1.8E4抗体であり、その製造及び特定は実施例に記載されている。表1は、抗FHR-1.8E4抗体の、可変重鎖及び軽鎖配列、並びに個々のCDR配列の概要を提供する。抗FHR-1.8E4抗体の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、又は抗FHR-1.8E4抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片は、さらにより好ましい。本明細書で使用される用語「抗FHR-1.8E4」は、例えば、単離された及び/若しくは精製された抗体、又は組み換え製造された抗体等の、表1に記載される重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも有する、全ての抗体及び断片を包含する。抗FHR-1.8E4抗体は、抗体FH.07と同じFHのCCP18中のエピトープへの結合に関して競合する。抗FHR-1.8E4抗体は、26.3 nMのインビトロにおけるLPS上のC3の滞積の阻害に関する低いIC50値、及び94.0 nMのインビトロにおける溶血性活性の阻害に関する低いIC50値を有する。抗FHR-1.8E4抗体は、さらに、フルレングスFHに対して1.04 x 10-8のKDの高い結合親和性、及びCCP18-20を含むFHの断片に対して3.13 x 10-11のKDの高い結合親和性を有する。抗FHR-1.8E4抗体は、さらに、インビトロにおいて、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を6 μMから1.66 μM(すなわち、3.6倍)に増加させる。
【0077】
本発明によるさらに特に好ましい抗体は、抗FHR-1.3B4抗体であり、その製造及び特定は実施例に記載されている。表1は、抗FHR-1.3B4抗体の、可変重鎖及び軽鎖配列、並びに個々のCDR配列の概要を提供する。抗FHR-1.3B4抗体の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、又は抗FHR-1.3B4抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片は、さらにより好ましい。本明細書で使用される用語「抗FHR-1.3B4」は、例えば、単離された及び/若しくは精製された抗体、又は組み換え製造された抗体等の、表1に記載される重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも有する、全ての抗体及び断片を包含する。抗FHR-1.3B4抗体は、抗体FH.07と同じFHのCCP18中のエピトープへの結合に関して競合する。抗FHR-1.3B4抗体は、38.41 nMのインビトロにおけるLPS上のC3の滞積の阻害に関する低いIC50値、及び127.5 nMのインビトロにおける溶血性活性の阻害に関する低いIC50値を有する。抗FHR-1.3B4抗体は、さらに、フルレングスFHに対して0.58 x 10-8のKDの高い結合親和性、及びCCP18-20を含むFHの断片に対して5.44 x 10-12のKDの高い結合親和性を有する。抗FHR-1.3B4抗体は、さらに、インビトロにおいて、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を6 μMから1.9 μM(すなわち、3.2倍)に増加させる。
【0078】
本発明によるさらに特に好ましい抗体は、抗FHR-1.11E1抗体であり、その製造及び特定は実施例に記載されている。表1は、抗FHR-1.11E1抗体の、可変重鎖及び軽鎖配列、並びに個々のCDR配列の概要を提供する。抗FHR-1.11E1抗体の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、又は抗FHR-1.11E1抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片は、さらにより好ましい。本明細書で使用される用語「抗FHR-1.11E1」は、例えば、単離された及び/若しくは精製された抗体、又は組み換え製造された抗体等の、表1に記載される重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも有する、全ての抗体及び断片を包含する。抗FHR-1.11E1抗体は、抗体FH.07と同じFHのCCP18中のエピトープへの結合に関して競合する。抗FHR-1.11E1抗体は、25.04 nMのインビトロにおけるLPS上のC3の滞積の阻害に関する低いIC50値を有する。
【0079】
本発明によるさらに特に好ましい抗体は、抗FHR-1.12F4抗体であり、その製造及び特定は実施例に記載されている。表1は、抗FHR-1.12F4抗体の、可変重鎖及び軽鎖配列、並びに個々のCDR配列の概要を提供する。抗FHR-1.12F4抗体の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、又は抗FHR-1.12F4抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片は、さらにより好ましい。本明細書で使用される用語「抗FHR-1.12F4」は、例えば、単離された及び/若しくは精製された抗体、又は組み換え製造された抗体等の、表1に記載される重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも有する、全ての抗体及び断片を包含する。抗FHR-1.12F4抗体は、抗体FH.07と同じFHのCCP18中のエピトープへの結合に関して競合する。抗FHR-1.12F4抗体は、345.2 nMのインビトロにおけるLPS上のC3の滞積の阻害に関する低いIC50値を有する。
【0080】
それゆえ、以下を含む、特異的にH因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片が提供される:
-配列 SSVXY(Xは、R、T、若しくはN)(配列番号91)、又は配列 QSLVHSNGNTY (配列番号49)を有する軽鎖CDR1配列、
-配列 X1X2S(X1=A、K、又はY、及びX2=T又はL)(配列番号92)を有する軽鎖CDR2配列、
-QQWGTKPPT (配列番号19)、QQRSSSNPLT (配列番号35)、SQSTHVPFT (配列番号51)、及びQQFTSSPLT (配列番号67)からなる群から選択される配列を有する軽鎖CDR3、
-配列 X1FSLTX2X3G(X1=D又はG、X2=N又はS、及びX3=S又はY)(配列番号93)を有する重鎖CDR1、
-配列 IWSGGXT(x=T、N、又はS)(配列番号94)を有する重鎖CDR2、並びに
-配列 ARNX1GNYX2X3DY(X1=F若しくはG、X2=A若しくはY、及びX3=V、M、若しくはF)(配列番号95)、又はAKNGDYGYTMDY (配列番号55)を有する重鎖CDR3配列。
【0081】
好ましい実施形態において、上記抗体は以下を含む:
-配列 SSVXY(Xは、R又はT)(配列番号96)を有する軽鎖CDR1配列、
-配列 ATS (配列番号97)を有する軽鎖CDR2配列、
-QQWGTKPPT (配列番号19)、及びQQRSSSNPLT (配列番号35)からなる群から選択される配列を有する軽鎖CDR3、
-配列 X1FSLTNX2G(X1=D又はG、及びX2=S又はY)(配列番号98)を有する重鎖CDR1、
-配列 IWSGGTT (配列番号99)を有する重鎖CDR2、並びに
-配列 ARNFGNYAXDY(X=V又はM)(配列番号100)を有する重鎖CDR3配列。
【0082】
上記抗体又は断片は、好ましくは、FHの活性、好ましくは、溶血性活性の阻害、補体成分3(C3)の滞積の阻害、並びに/又はFHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加等の副経路補体活性化の阻害を増強する。上記断片は、好ましくは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。より好ましい断片は、少なくともFab断片を含む。
【0083】
上記抗体又は断片は、好ましくは、FHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有し、好ましくは、上記抗体又は断片はFHに対して1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.04 x 10-9 M以下の結合親和性を有する。
【0084】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、配列 SSVRY (配列番号17)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQWGTKPPT (配列番号19)を有する軽鎖CDR3、配列 DFSLTNSG (配列番号21)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号22)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にFHのCCP18に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。1つの実施形態において、上記抗体は、配列 QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVRYMHWYQQKAGSSPTAWIFATSNLASGVPPRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWGTKPPTFGAGTKLELK (配列番号20)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列 QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSDFSLTNSGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGTTEYNAAFMSRLTITKDNSKSQVFFKMNSLLVDDTGIYYCARNFGNYAVDYWGQGTSVTVSS (配列番号24)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。更なる実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号20の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号24の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号20の配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号24の配列を含む可変軽鎖配列を含む。上記抗体又は断片は、好ましくは、FHの活性、好ましくは、溶血性活性の阻害、補体成分3(C3)の滞積の阻害、並びに/又はFHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加等の副経路補体活性化の阻害を増強する。上記断片は、好ましくは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。より好ましい断片は、少なくともFab断片を含む。
【0085】
配列 SSVRY (配列番号17)を有する軽鎖CDR1 配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽鎖CDR2 配列、及び配列 QQWGTKPPT (配列番号19)を有する軽鎖CDR3、配列 DFSLTNSG (配列番号21)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号22)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)を有する重鎖 CDR3 配列を含む上記抗体又は断片は、好ましくは、FHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。好ましくは、上記抗体又は断片は、FHに対して2.25 x 10-8 M以下、より好ましくは、2 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.75 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.5 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.25 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.09 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.08 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.07 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.06 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.05 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.04 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。
【0086】
配列 SSVRY (配列番号17)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQWGTKPPT (配列番号19)を有する軽鎖CDR3、配列 DFSLTNSG (配列番号21)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号22)を有する重鎖CDR2、及び、配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)を有する重鎖CDR3配列を含む上記抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、38 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害する。好ましくは、上記抗体又は断片は、インビトロにおいて、35 nM以下、より好ましくは、32 nM以下、より好ましくは、30 nM以下、より好ましくは、28 nM以下、より好ましくは、27 nM以下のIC50値で、LPS上のC3の滞積を阻害する。
【0087】
配列 SSVRY (配列番号17)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQWGTKPPT (配列番号19)を有する軽鎖CDR3、配列 DFSLTNSG (配列番号21)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号22)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)重鎖CDR3配列を含む上記抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、150 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。好ましくは、上記抗体又は断片は、インビトロにおいて、115 nM以下、より好ましくは、105 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。
【0088】
配列 SSVRY (配列番号17)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽 CDR2配列、及び配列 QQWGTKPPT (配列番号19)を有する軽鎖CDR3、配列 DFSLTNSG (配列番号21)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号22)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)重鎖CDR3配列を含む上記抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、最大で2 μM、より好ましくは、1.8 μMまで、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を増加させ、及び/又は、インビトロにおいて、少なくとも3倍、より好ましくは、3.5倍、C3bに対するFHの結合親和性を増加させる。
【0089】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、配列 SSVTY (配列番号33)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号34)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQRSSSNPLT (配列番号35)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号37)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号38)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAMDY (配列番号39)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にFHのCCP18に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。1つの実施形態において、上記抗体は、配列 QIVLSQSPTILSASPGEKVTMTCRASSSVTYMHWYQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQRSSSNPLTFGAGTKLELK (配列番号36)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列 QVQLRQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVYWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGTTDYSAAFISRLSISKDNSKSQVFFKMNSLQADDTAIYYCARNFGNYAMDYWGQGTSVTVSS (配列番号40)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。更なる実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号36の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号40の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号36の配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号40の配列を含む可変軽鎖配列を含む。上記抗体又は断片は、好ましくは、FHの活性、好ましくは、溶血性活性の阻害、補体成分3(C3)の滞積の阻害、並びに/又はFHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加等の副経路補体活性化の阻害を増強する。上記断片は、好ましくは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。より好ましい断片は、少なくともFab断片を含む。
【0090】
配列 SSVTY (配列番号33)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号34)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQRSSSNPLT (配列番号35)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号37)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号38)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAMDY (配列番号39)を有する重鎖CDR3配列を含む上記抗体又は断片は、好ましくは、FHに対して2.5 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.1 x 10-9 M以下のKDの結合親和性を有する。好ましくは、上記抗体又は断片は、FHに対して2.25 x 10-8 M以下、より好ましくは、2 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.75 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.5 x 10-8 M以下、より好ましくは、1.25 x 10-8 M以下、より好ましくは、1 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.9 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.8 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.7 x 10-8 M以下、より好ましくは、0.6 x 10-8 M以下のKDの結合親和性、及び/又はCCP18-20を含むFH断片に対して0.09 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.08 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.07 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.06 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.05 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.04 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.03 x 10-9 M以下、より好ましくは、0.02 x 10-9 M以下、より好ましくは、1 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.9 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.8 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.7 x 10-11 M以下、より好ましくは、0.6 x 10-11 M以下のKDの結合親和性を有する。
【0091】
配列 SSVTY (配列番号33)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号34)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQRSSSNPLT (配列番号35)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号37)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号38)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAMDY (配列番号39)を有する重鎖CDR3配列を含む上記抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、150 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。好ましくは、上記抗体又は断片は、インビトロにおいて、105 nM以下のIC50値で、溶血性活性を阻害する。
【0092】
配列 SSVTY (配列番号33)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号34)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQRSSSNPLT (配列番号35)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号37)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号38)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAMDY (配列番号39)を有する重鎖CDR3配列を含む上記抗体又は断片は、好ましくは、インビトロにおいて、最大で2 μM、より好ましくは、1.95 μMまで、C3bに対するFHの結合親和性(KD)を増加させ、及び/又は、インビトロにおいて、少なくとも3倍、より好ましくは、3.1倍、C3bに対するFHの結合親和性を増加させる。
【0093】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、配列 QSLVHSNGNTY (配列番号49)を有する軽鎖CDR1配列、配列 KLS (配列番号50)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 SQSTHVPFT (配列番号51)を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号53)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGNT (配列番号54)を有する重鎖CDR2、及び配列 AKNGDYGYTMDY (配列番号55)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にFHのCCP18に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。1つの実施形態において、上記抗体は、配列 DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSNGNTYLHWYLQKPGQSPKLLIYKLSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQSTHVPFTFGSGTKLEIK (配列番号52)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列 QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQPPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNAAFISRLSISKDNSKSQVFFKMNSLQADDTAIYYCAKNGDYGYTMDYWGQGTSVTVSS (配列番号56)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。更なる実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号52の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号56の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号52の配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号56の配列を含む可変軽鎖配列を含む。上記抗体又は断片は、好ましくは、FHの活性、好ましくは、溶血性活性の阻害、補体成分3(C3)の滞積の阻害、並びに/又はFHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加等の副経路補体活性化の阻害を増強する。上記断片は、好ましくは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。より好ましい断片は、少なくともFab断片を含む。
【0094】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、配列 SSVNY (配列番号65)を有する軽鎖CDR1配列、配列 YTS (配列番号66)を有する軽鎖CDR2配列、 及びQQFTSSPLT (配列番号67)の配列を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTSYG (配列番号69)を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGST (配列番号70)を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNGGNYYFDY (配列番号71)を有する重鎖CDR3配列を含む、特異的にFHのCCP18に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその抗原結合断片を提供する。1つの実施形態において、上記抗体は、配列 ENVLTQSPAIMSASLGEKVTMSCRASSSVNYMYWYQQKSDASKLSWIYYTSNLAPGVPARFSGSGSGNSYSLTISSMEGEDAATYYCQQFTSSPLTFGAGTKLELK (配列番号68)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列 QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTSYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGSTDYNAAFISRLSISKDNSKSQVFFKMNSLQANDTAIYYCARNGGNYYFDYWGQGTTLTVSS (配列番号72)と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。更なる実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号68の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号72の上記配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、上記抗体又は断片は、配列番号68の配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号72の配列を含む可変軽鎖配列を含む。上記抗体又は断片は、好ましくは、FHの活性、好ましくは、溶血性活性の阻害、補体成分3(C3)の滞積の阻害、並びに/又はFHのC3b、iC3b、及び/若しくはC3dへの結合の増加等の副経路補体活性化の阻害を増強する。上記断片は、好ましくは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。より好ましい断片は、少なくともFab断片を含む。
【0095】
場合によっては、上記CDRの少なくとも1つの配列を最適化し、それによって、バリアント抗体又は断片を製造して、例えば、(さらに)結合親和性、選択性、FH増強能力、及び/又はインビボにおける若しくは保存における安定性を向上させる。好ましい実施形態において、本発明による抗体又は断片は、高い保存における安定性、特に、抗体FH.07と比べて向上した保存における安定性を有する。更なる好ましい実施形態において、本発明による抗体又は断片は、インビボにおける高い安定性、特に、抗体FH.07と比べて向上したインビボにおける安定性を有する。更なる好ましい実施形態において、本発明による抗体又は断片は、高い選択性、特に、抗体FH.07と比べて増加した選択性を有する。
【0096】
加えて、場合によっては、本発明の抗体又は断片のフレームワーク領域の少なくとも1つにおける少なくとも1つの配列を最適化して、例えば、抗体又は断片の結合効率若しくは安定性を向上させ、又はヒトへの投与後の非ヒト配列の副作用を減らす。これは、例えば、変異誘発方法(mutagenesis procedure)によって実施される。当業者は、少なくとも1つの変異したCDR又はフレームワーク配列を含むバリアント抗体を製造することができる。CDR及び/又はフレームワーク配列を、例えば、フレームワーク配列をコードする核酸分子を変異させることによって、最適化する。例えば、保存的アミノ酸置換を適用する。保存的アミノ酸置換の例は、イソロイシン、バリン、ロイシン、又はメチオニン等の1つの疎水性残基の別の疎水性残基への置換、及び1つの極性残基の別の極性残基への置換(例えば、アルギニンのリジンへの、グルタミン酸のアスパラギン酸への、又はグルタミンのアスパラギンへの置換)を含む。向上した抗体又は断片を選択するために、結果として生じるバリアント抗体又は断片の結合親和性、FH増強能力、及び/又は安定性を、例えば、本明細書に記載される試験を使用して、好ましくは、試験する。FHに対して、特にFHのCCP18に対して特異的な抗体又は断片が手に入ると、所期のその生物学的活性(すなわち、FHの活性を増強する能力)を当業者に知られたいくつかの方法によって試験することができる。本明細書に上記されるように、FHの活性を増強することは、好ましくは、溶血性活性の阻害、細胞上のC3の滞積の阻害、及び/又はFHのC3bに対する結合の増加を包含する。これらの活性を試験する機能アッセイは、本明細書に上記され、実施例に詳述される。典型的には、CDRを構成するアミノ酸の数に依存して、同じ特異性を保ちながら、CDR配列の最大3つのアミノ酸残基を変化させてもよい。従って、本発明による抗体又は断片は、好ましくは、表1の重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列と比べて最大で3、好ましくは最大で2、より好ましくは最大で1つの、各CDRのアミノ酸が変化している、重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む。抗体又は断片が、表1に記載されるのと同じ抗体の軽鎖CDR3及び重鎖CDR3、最大で1つのアミノ酸が変化した上記抗体の軽鎖CDR2、並びに最大で3つのアミノ酸が変化した軽鎖CDR1、重鎖CDR1、及び重鎖CDR2を含むことは、さらに好ましい。より好ましくは、抗体又は断片は、表1に記載されるのと同じ抗体の軽鎖CDR2及びCDR3及び重鎖CDR3、並びに最大で2つのアミノ酸、より好ましくは、最大で1つのアミノ酸が変化した軽鎖CDR1、重鎖CDR1、及び重鎖CDR2を含む。
【0097】
従って、本発明は、さらに、以下を含む、特異的にH因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその断片を提供する:
-配列 SSVRY (配列番号17)と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQWGTKPPT (配列番号19)と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR3、配列 DFSLTNSG (配列番号21)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号22)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR2及び配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR3配列、
-配列 SSVTY (配列番号33)と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号34)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 QQRSSSNPLT (配列番号35)と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号37)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGTT (配列番号38)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNFGNYAMDY (配列番号39)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR3配列、
-配列 QSLVHSNGNTY (配列番号49)と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR1配列、配列 KLS (配列番号50)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列 SQSTHVPFT (配列番号51)と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTNYG (配列番号53)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGNT (配列番号54)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR2、及び配列 AKNGDYGYTMDY (配列番号55)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR3配列、
-配列 SSVNY (配列番号65)と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR1配列、配列 YTS (配列番号66)を有する軽鎖CDR2配列、及びQQFTSSPLT (配列番号67)の配列と少なくとも80%同一な配列を有する軽鎖CDR3、配列 GFSLTSYG (配列番号69)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR1、配列 IWSGGST (配列番号70)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR2、及び配列 ARNGGNYYFDY (配列番号71)と少なくとも80%同一な配列を有する重鎖CDR3配列。
【0098】
上記抗体は、好ましくは、FHの活性を増強する。好ましくは、上記抗体又は断片は、示された配列と少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも86%、より好ましくは、少なくとも87%、より好ましくは、少なくとも88%、より好ましくは、少なくとも89%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも91%、より好ましくは、少なくとも92%、より好ましくは、少なくとも93%、より好ましくは、少なくとも94%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%同一である、重鎖CDR1、CDR2、及び/若しくはCDR3配列並びに/又は軽鎖CDR1、CDR2、及び/若しくはCDR3配列を含む。
【0099】
本発明は、さらに、以下を含む、特異的にH因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に結合する、単離された、合成の、又は組み換えの抗体又はその断片を提供する:
-場合によっては1アミノ酸置換を有する配列 SSVRY (配列番号17)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号18)を有する軽鎖CDR2配列、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 QQWGTKPPT (配列番号19)を有する軽鎖CDR3、場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 DFSLTNSG (配列番号21)を有する重鎖CDR1、場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 IWSGGTT (配列番号22)を有する重鎖CDR2、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 ARNFGNYAVDY (配列番号23)を有する重鎖CDR3、
-場合によっては1アミノ酸置換を有する配列 SSVTY (配列番号33)を有する軽鎖CDR1配列、配列 ATS (配列番号34)を有する軽鎖CDR2配列、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 QQRSSSNPLT (配列番号35)を有する軽鎖CDR3、場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 GFSLTNYG (配列番号37)を有する重鎖CDR1、場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 IWSGGTT (配列番号38)を有する重鎖CDR2、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 ARNFGNYAMDY (配列番号39)を有する重鎖CDR3、
-場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 QSLVHSNGNTY (配列番号49)を有する軽鎖CDR1配列、配列 KLS (配列番号50)を有する軽鎖CDR2、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 SQSTHVPFT (配列番号51)を有する軽鎖CDR3、場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 GFSLTNYG (配列番号53)を有する重鎖CDR1、 場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 IWSGGNT (配列番号54)を有する重鎖CDR2、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 AKNGDYGYTMDY (配列番号55)を有する重鎖CDR3、
-場合によっては1アミノ酸置換を有する配列 SSVNY (配列番号65)を有する軽鎖CDR1配列、配列 YTS (配列番号66)を有する軽鎖CDR2配列、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 QQFTSSPLT (配列番号67)を有する軽鎖CDR3、場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 GFSLTSYG (配列番号69)を有する重鎖CDR1、場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 IWSGGST (配列番号70)を有する重鎖CDR2、及び場合によっては2アミノ酸置換、好ましくは、1アミノ酸置換を有する配列 ARNGGNYYFDY (配列番号71)を有する重鎖CDR3配列。
【0100】
本発明による抗体又はその断片は、好ましくは、モノクローナル抗体又は断片である。モノクローナル抗体は、実質的に1つの分子種からなる抗体である。モノクローナル抗体は、一様な抗体の群から得られ、自然に起きた(例えば、製造中)、1つ又は複数の変異を有する、起こり得るバリアント抗体又は断片を除いて、同じ配列を有し、同じエピトープに結合する。抗血清中に存在するポリクローナルの量よりも有意に多い量の抗体を得ることができるように、モノクローナル抗体は、有利なことに、組み換え技術によって製造することができる。しかしながら、ポリクローナル抗体及び断片も、本発明によって、包含される。本発明による抗体又は断片は、さらに好ましくは、キメラ又はヒト化抗体である。従って、上記抗体又は断片は、好ましくは、少なくともヒト軽鎖及び重鎖定常領域を含む。より好ましくは、上記抗体又は断片は、重鎖及び軽鎖可変領域中のヒトフレームワーク領域も含む。完全にヒト配列からなる、ヒト抗体又は断片は、さらに好ましい。ヒトの疾患の治療に対する非ヒト抗体又は断片の使用は、多数の要因によって阻まれるので、非ヒト抗体の使用よりも、キメラ、ヒト化、又はヒト抗体の使用が好ましい。人体は非ヒト抗体を異物として認識することがあり、非ヒト抗体又は断片に対して免疫応答をもたらし、副作用及び/又は抗体又は断片の血液循環からの急速なクリアランスをもたらす。キメラ、ヒト化、又はヒト抗体がヒトに投与された場合、副作用の可能性は減少する。加えて、キメラ、ヒト化、又はヒト抗体が使用される場合、非ヒト抗体と比べて減弱したクリアランスのため、一般的に、血液循環における、より長い半減期が達成される。好ましくは、ヒト生殖細胞系配列は、本発明による抗体又は断片中のフレームワーク領域に関して使用される。ヒト生殖細胞系配列の使用は、上記抗体又は断片の免疫原性のリスクを最小化する。なぜならば、これらの配列は、フレームワーク領域が由来する個体に特有であり、別のヒト個体に投与した場合に免疫原性応答を起こす可能性がある体細胞変異を含む可能性がより低いからである。
【0101】
抗体のヒト化又はキメラ抗体の提供の方法は、本分野において、よく知られている。親の非ヒト抗体の特異性及び親和性を保ちながら、ヒト抗体中の似た部位と同じ所で起きる、抗体におけるアミノ酸残基の含有量を増加させることを目的とする、様々な、組み換えDNAに基づいた方法が確立されている。例えば、マウス抗体の可変領域のフレームワーク領域は、最も高い程度の相同性を有する、相当するヒトフレームワーク領域に置き換えられ、非ヒトCDRをそのまま残している。本発明による抗体のヒト化に適した更なる方法は、以下に限定はされないが、CDRの移植(Padlan, EA, et. al. 1991)、リサーフェイシング(Padlan, EA, et. al. 1991)、超ヒト化(superhumanization) (Tan, PDA, et.al. 2002)、ヒトストリング含有量の最適化(Lazar, G.A. et. al. 2007)、及びヒューマニアリング(Almagro, JC, et. al. 2008)を含む。
【0102】
1つの実施形態において、本発明による抗体又は断片は、二重特異性抗体等の多特異的抗体である。多特異的抗体は、少なくとも2つの異なる抗原及び/又はエピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。1つの実施形態において、二重特異性抗体は、FHに対して結合特異性を有し、好ましくは、本明細書に記載されるFHのCCP18に特異的に結合する1つの可変軽鎖及び1つの可変重鎖を含む。別の実施形態において、二重特異性抗体は、FHの2つの異なるエピトープに結合してもよい。
【0103】
本発明による抗体又は断片は、任意のクラスであってよい。抗体の「クラス」は、重鎖が有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。5つの主な抗体のクラス(IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)があり、そのうちのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4等のサブクラス又はアイソタイプにさらに分けることができる。好ましい実施形態において、本発明による抗体又は断片は、IgGクラスであり、好ましくはIgG1又はIgG3である。
【0104】
本発明による、FH等の、特定の抗原に対して特異的な抗体は、本分野において知られた様々な方法によって製造することができる。例えば、ヒトFHは、抗体を誘発させるための免疫原として使用することができる。別の例として、FH関連タンパク質のヒトFHのCCP18ドメインは、免疫原として使用することができる。そのような方法の1つの例は、実施例に記載される免疫及びハイブリドーマの作製によるものである。FHに対するマウスモノクローナル抗体は、例えば、腹腔内に、ヒトH因子又はFHR-1等のFH関連タンパク質を用いて、場合によっては、モンタナイド(montanide)等のアジュバントの存在下において、例えば、4週間毎に、マウス(例えば、BALB/cマウス)を免疫することによって作製される。4回目の免疫の数日後、脾臓細胞は、例えば、骨髄腫細胞株SP2/0と融合することができる。ハイブリドーマの上清中のH因子特異的抗体の存在は、ELISAによって試験することができる。例えば、マイクロタイタープレートはmoAb(例えば、ラット抗マウスカッパmoAb RM19)でコーティングされ、マウスIgG抗体を捕捉する。抗体の特異性は、ビオチン化されたH因子によって決定した。FH特異的抗体を提供する方法の別の例は、免疫グロブリン鎖をコードする組み換え核酸配列を発現するファージディスプレイライブラリーのスクリーニングによるものである。抗体ファージディスプレイのための方法は、本分野において使用され、広く記載されてきた。抗体に関するライブラリーのスクリーニングは、免疫のために使用した抗原と同じ抗原(例えば、ヒトFH、FH関連タンパク質、又はヒトFHのCCP18ドメイン)を用いて実施することができる。
【0105】
本発明はさらに、本発明による抗体又はその断片をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子を提供する。好ましい核酸分子は、少なくとも、表1に記載される抗体FHR-1.8E4の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに/又は軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3をコードする。更なる好ましい核酸分子は、少なくとも、表1に記載される抗体FHR-1.3B4の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに/又は軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3をコードする。更なる好ましい核酸分子は、少なくとも、表1に記載される抗体FHR-1.11E1の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに/又は軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3をコードする。更なる好ましい核酸分子は、少なくとも、表1に記載される抗体FHR-1.12F4の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、並びに/又は軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3をコードする。好ましくは、本発明による核酸分子は、少なくとも30ヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも50ヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも 75 ヌクレオチドの長さを有する。好ましくは、本発明による核酸分子は、表1に記載される抗体FHR-1.8E4の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、並びに/又は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルのキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片をコードする。本発明による更なる好ましい核酸分子は、表1に記載される抗体FHR-1.3B4の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、並びに/又は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルのキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片をコードする。本発明による更なる好ましい核酸分子は、表1に記載される抗体FHR-1.11E1の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、並びに/又は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルのキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片をコードする。本発明による更なる好ましい核酸分子は、表1に記載される抗体FHR-1.12F4の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列、並びに/又は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、モノクローナルのキメラ若しくはヒト化抗体又はその断片をコードする。抗体FHR-1.8E4、FHR-1.3B4、FHR-1.11E1、及びFHR-1.12
F4の重鎖及び軽鎖CDRをコードする核酸配列が、表1に記載されている。しかしながら、表1に記載のCDR核酸配列とは異なる核酸配列を含むが、表1に記載の上記重鎖又は軽鎖CDR配列のアミノ酸配列をコードする核酸コドンを含む、本発明による抗体の重鎖又は軽鎖CDRをコードする核酸分子も、本発明に包含される。
【0106】
従って、少なくとも、配列番号17、18、19、21、22、及び23の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子が提供される。少なくとも、配列番号33、34、35、37、38、及び39の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子がさらに提供される。少なくとも、配列番号49、50、51、53、54、及び55の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子がさらに提供される。少なくとも、配列番号65、66、67、69、70、及び71の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子がさらに提供される。少なくとも、配列番号20及び24の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子がさらに提供される。少なくとも、配列番号36及び40の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子がさらに提供される。少なくとも、配列番号52及び56の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子がさらに提供される。少なくとも、配列番号68及び72の配列をコードする核酸配列を含む、単離された、合成の、又は組み換えの核酸分子がさらに提供される。重鎖及び/若しくは軽鎖CDR、又は例えば保存的アミノ酸置換によって修飾された抗体をコードする核酸分子も、本発明に包含される。
【0107】
本発明による核酸分子又は核酸配列は、好ましくは、ヌクレオチドの鎖、より好ましくは、DNA及び/又はRNAを含む。しかしながら、本発明の核酸分子又は核酸配列は、例えば、DNA/RNAヘリックス、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)、及び/又はリボザイム等のその他の種類の核酸構造を含んでいてもよい。そのようなその他の核酸構造は、核酸配列の機能的等価物と称され、本発明に包含される。用語「核酸配列の機能的等価物」は、天然ヌクレオチドと同じ機能を示す、非天然ヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド、及び/又は非ヌクレオチドビルディングブロック(building block)を含む、鎖も包含する。
【0108】
本発明は、本発明による核酸分子を含むベクターをさらに提供する。好ましいベクターは、プラスミドである。プラスミドは、環状で、好ましくは、二重鎖のDNA分子と、本明細書において定義する。本発明による核酸分子を含むベクターを製造する方法は、本分野において、よく知られている。本発明のベクターを作製するのに適したベクターの非限定的な例は、レトロウイルス及びレンチウイルスベクターである。本発明によるベクターは、様々な応用のために使用することができる。本発明によるベクターは、好ましくは、細胞における、本発明による核酸分子のインビトロにおける発現のために使用され、好ましくは、本発明による抗体又は断片の作製のために使用される。さらに、本発明による核酸分子を含む、本発明によるベクターは、治療のために使用することができる。そのようなベクターのそれを必要とする個体、好ましくは、ヒトへの投与は、インビボにおける、本発明による抗体又は断片の発現をもたらす。
【0109】
本発明による核酸分子又はベクターを含む、組み換え細胞がさらに提供される。細胞の核酸翻訳機構が、コードされた抗体又は断片を産生するように、そのような核酸分子又はベクターは、好ましくは、上記細胞に導入される。本発明による核酸分子又はベクターは、好ましくは、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、NSO(マウス骨髄腫)、又は293(T)細胞株等のいわゆる産生細胞に発現し、そのうちいくつかは商業的抗体製造に適合している。そのような産生細胞の増殖は、本発明による抗体又は断片を産生できる産生細胞株をもたらす。好ましくは、上記産生細胞株は、ヒトにおける使用のための抗体の製造に適している。従って、上記産生細胞株は、好ましくは、病原微生物等の病原体を有さない。
【0110】
本発明は、本発明による核酸分子又はベクターを有する細胞を提供し、上記細胞に上記核酸分子又はベクターに含まれる核酸配列を翻訳させることで、本発明の上記抗体又は断片を製造することを含む、本発明による抗体又は断片を製造するための方法をさらに提供する。本発明による方法は、好ましくは、上記抗体又は断片を収集、精製、及び/又は単離することをさらに含む。本発明による抗体又は断片を製造するための方法を用いて得られた抗体又は断片も提供される。
【0111】
本発明による抗体又は断片は、治療的適応において、有利に使用することができる。従って、本発明による抗体又は断片、並びに医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む医薬組成物が提供される。本発明による核酸分子又はベクター、並びに少なくとも、1つの医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む医薬組成物も提供される。適した担体の非限定的な例は、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン(例えば、BSA又はRSA)、及びオボアルブミンである。好ましい担体は、水溶液(例えば、生理食塩水)又は油分をベースとした溶液等の溶液である。錠剤、カプセル等に組み込むことができる賦形剤の非限定的な例は、バインダー(トラガカントガム、アラビアガム、コーンスターチ、又はゼラチン等)、賦形剤(微結晶セルロース等)、崩壊剤(コーンスターチ、アルファ化デンプン、及びアルギン酸等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム等)、甘味剤(スクロース、ラクトース、又はサッカリン等)並びに香味剤(ペパーミント、ウィンターグリーン油、又はチェリー)である。単位剤形がカプセルの場合、単位剤形は、好ましくは、上記の賦形剤の1つ又は複数に加えて、脂肪油等の液体の担体を含む。様々なその他の物質が、コーティングとして、又は投与単位の物理的形状を変更するために存在してもよい。例えば、錠剤は、セラック及び/若しくは砂糖、又はその両方でコーティングされていてもよい。本発明による医薬組成物は、好ましくは、ヒトの使用に適している。
【0112】
本明細書に記載される医薬組成物は、様々な異なる方法で投与することができる。例としては、本発明による抗体を含み、及び医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物の、経口、経鼻、経直腸、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下(subcutaneous)、皮下(subdermal)、経皮的、髄腔内、及び頭蓋内の方法を介した投与を含む。経口投与に関して、活性成分は、固体の剤形(カプセル、錠剤、及び粉末等)、又は液体の剤形(エリキシル、シロップ、及び懸濁液等)で投与することができる。注射のための無菌組成物は、本発明の抗体又は断片を、水又は天然の油分(ごま油、ココナッツオイル、ピーナッツオイル、綿実油等)又は合成脂肪性ビヒクル(オレイン酸エチル等)等の注射のためのビヒクル中に溶解又は懸濁することによる従来の医薬的慣行に従って、処方することができる。緩衝液、保存料、及び/又は抗酸化物質も組み込んでいてもよい。
【0113】
本発明は、治療における使用のための本発明による抗体又は断片をさらに提供する。治療における使用のための本発明による核酸分子がさらに提供される。上記治療は、治療のため又は予防のためであることができる。本発明による抗体又は断片は、特に、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防に適している。従って、副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防における使用のための本発明による抗体又は断片が提供される。副経路補体活性化と関連した障害の治療、緩和、又は予防における使用のための本発明による核酸分子も提供される。本明細書で使用される「副経路補体活性化と関連した障害」は、本明細書において、不必要及び/又は過剰な副経路補体活性化が細胞、組織、又は細胞外マトリックスの損傷をもたらす障害として定義される。不必要及び/又は過剰な副経路補体活性化によって損傷する可能性がある細胞は、血液と接触するあらゆる細胞(例えば、赤血球、上皮細胞、特に、肝臓及び/又は腎臓上皮細胞、血小板、白血球、内皮細胞)である。上記障害は、好ましくは、FHの機能障害又はFH欠損と関連した障害である。より好ましくは、上記障害は、FHの機能障害又はFHの欠損と関連するが、FHの非存在とは関連しない障害である。本発明の抗体又は断片は、FHの機能を増強するので、抗体及び断片は、特に、FHの機能障害又はFHの欠損の効果をブロック又は減らすことに適している。しかしながら、本発明の抗FH増強抗体は、FHが人為的にブロックされた健康な個体の血清とインキュベーションされた赤血球の溶解を阻害することもできる。従って、抗体及び断片は、FHの機能障害又はFHの欠損ではなく、その他の要因によって引き起こされた不必要及び/又は過剰な副経路補体活性化をブロック又は減らすために使用することもできる。治療することができる、そのような障害の非限定的な例は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)である。
【0114】
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)(補体関連HUSとも称される)は、溶血性貧血、血小板減少、全身性の血栓性微小血管症(TMA)、及び腎不全によって特徴付けられる。aHUSの発症は、典型的には、小児期においてであり、疾患の発症は、例えば、感染症、妊娠、その他の疾患、手術、又は外傷と関連する。60%を超えるaHUSの患者が、血漿交換又は血漿補充にも関わらず、死亡又は末期腎疾患(ESRD)に進展する。補体系の成分又は因子におけるいくつかの変異が、aHUSの患者において、確認されている。FH、FI、FB、膜補因子タンパク質(membrane cofactor protein; MCP)、トロンボモジュリン(THBD)、又はC3における変異が、FHの変異が最も頻度が高いaHUS患者(aHUS患者の約20-30%)における既知の変異の約50%を構成する。患者の大多数は変異に関してヘテロ接合性であるが、それにもかかわらず、病的なFHの欠損をもたらす。加えて、aHUS患者の約10%は、FHに対する自己抗体によって引き起こされ、機能性FHの減少ももたらす。近年、aHUSに対する標準治療は、血漿補充又は血漿交換療法である。加えて、エクリズマブが、aHUSの患者の治療に使用される。腎移植は、aHUSの原因である変異に依存した再発の高リスクと関連する。移植は、再発のリスクを増加させるため、FH、FB、FI、C3、又はTHBDに変異を有する子どもにおいては、禁忌である。好ましくは少なくともFab断片を含む、本発明による抗体又は断片は、特に、FHにおける変異、又は抗FH自己抗体の存在によって引き起こされるaHUSの治療、緩和、又は予防に適している。FHに対する効果の増強は、変異を有するFHのCCP18ドメインには依存しない。例えば、FHを増強する抗体又はその断片は、FHのCCP1、CCP6、CCP7、CCP14、CCP17、CCP18、CCP19、及びCCP20に変異を有するaHUS患者における副経路補体活性化を阻害することができる。しかしながら、本発明の抗体又は断片は、FHの機能障害又はFHの欠損がない場合に、FHの活性を増強することもできるため、任意の形態の補体に依存したaHUSを、本発明の抗体又は断片を用いて、有利に、治療、緩和、又は予防することができる。
【0115】
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、全能性造血幹細胞のX染色体における遺伝子変異によって引き起こされる。変異は、グリコシルホスファチジルイノシトール膜アンカー型タンパク質(GPI-AP)の合成に重要である、フォスファチジルイノシトールグリカンクラスAタンパク質の欠損をもたらす。宿主細胞表面においてC3bに結合し、それによってC3転換酵素の形成を阻害する、補体系の阻害物質CD55は、そのようなタンパク質の例である。従って、これらのタンパク質の欠損は、不必要又は過剰な補体活性化をもたらす。PNHの主な影響の1つは、補体系の過剰な活性の結果として、赤血球が溶解を受けることである。近年、エクリズマブが、いくつかの国において、PNHの治療に関して認可された。その他の治療は、輸血、赤血球刺激剤療法、コルチコステロイド及びアナボリックステロイドを用いた治療を含む。本発明の抗体又は断片は、FHのレベル又はFHの機能に依存しないFHの活性を増強することもでき、それによって、補体系の副経路の活性化を阻害するため、抗体及び断片は、PNH患者において、有利に、使用することができる。加えて、本発明の抗体及び断片は、活性化経路のより下流で作用するエクリズマブと対照的に、C3の滞積のレベルで作用するため、C3bによってオプソニン化される細胞がより少ないので、肝臓における細胞の喪失が減少する。
【0116】
加齢黄斑変性(AMD)は、通常、高齢の個体に影響を与える、網膜への損傷であり、視野の中心である黄斑における視力の喪失をもたらす。FHにおける変異及びSNP(一塩基変異多型)が、近年、AMD患者の約35%において、示された。SNPはFHのCCP7に位置し、FHのヘパリンへの結合に影響を与え、それによってFHの宿主細胞表面並びに細胞外マトリックスへ結合する能力を損なうことが実証された。好ましくは少なくともFab断片を含む、本発明による抗体又は断片は、特に、FHの機能の減少、好ましくは、FHをコードする遺伝子中のSNPによって特徴付けられる、AMDの治療、緩和、又は予防に適している。
【0117】
膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、主に子ども及び若年成人に起きる慢性腎炎の稀な原因である。膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、メサンギウム細胞及び内皮細胞の増殖、並びにメサンギウム基質の拡張、内皮下の免疫沈着物及び/又は膜内高密度沈着物による抹消毛細血管壁の肥大、並びに毛細血管壁へのメサンギウムの間入の結果として、糸球体傷害を起こす。MPGNは、しばしば、FHの完全欠損と関連する。本発明の抗体及び/又は断片を用いて治療できるMPGNは、好ましくは、FHの機能障害又はFHの欠損と関連するが、FHの非存在とは関連しない。
【0118】
従って、本発明は、副経路補体活性化と関連する障害であって、上記障害が、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される、障害の治療、緩和、又は予防における使用のための、本発明による抗体若しくは断片又は核酸分子を提供する。副経路補体活性化と関連する障害の治療、緩和、又は予防のための医薬の製造のための、本発明による抗体若しくは断片、核酸分子、又はベクターの使用も提供される。上記障害は、好ましくは、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される。本発明による医薬又は予防薬としての使用のための好ましい抗体は、表1に記載される抗体の重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む、抗体又はその断片、好ましくは、Fab、Fab’、又はF(ab)2又はF(ab’)2断片である。上記抗体又は断片は、好ましくは、モノクローナルのヒト化若しくはキメラ抗体又は断片である。
【0119】
本発明は、個体に、本発明による抗体若しくは断片、又は本発明による核酸分子若しくはベクターを投与することを含む、副経路補体活性化を阻害するための方法をさらに提供する。
【0120】
本発明は、それを必要とする個体に、治療的に有効な量の本発明による抗体又は断片を投与することを含む、副経路補体活性化と関連する障害を治療、緩和、又は予防するための方法をさらに提供する。また、本発明は、それを必要とする個体に、治療的に有効な量の本発明による核酸分子又はベクターを投与することを含む、副経路補体活性化と関連する障害を治療、緩和、又は予防するための方法も提供する。それを必要とする個体に、治療的に有効な量の本発明による医薬組成物を投与することを含む、副経路補体活性化と関連する障害を治療、緩和、又は予防するための方法をさらに提供する。上記障害は、好ましくは、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される。本明細書で使用される「個体」は、免疫系の一部として補体系を含むヒト又は動物であり、好ましくは、哺乳類である。特に好ましい実施形態において、個体はヒトである。本発明の方法における使用のための好ましい抗体は、表1に記載される、抗体FHR-1.8E4の重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む、抗体FHR-1.3B4の重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む、抗体FHR-1.11E1の重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む、又は抗体FHR-1.12F4の重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む、抗体又はその断片、好ましくは、Fab、Fab’、F(ab)2、又はF(ab’)2断片である。上記抗体又は断片は、好ましくは、モノクローナルのヒト化若しくはキメラ抗体又は断片である。
【0121】
本発明の抗体、断片、核酸分子を含む組成物は、予防のための及び治療のための処置用に投与することができる。治療的適応において、本発明による抗体、断片、核酸分子、又は組成物を、既に疾患を患っている、及び/又は既に疾患の症状を示している個体、好ましくは、ヒトに、疾患及び/又はその合併症の症状を弱めるのに十分な量で、投与する。予防的適応において、本発明による抗体、断片、核酸分子、又は組成物を、個体が障害の症状を示す前に、個体に投与して、これらの症状又はその合併症の進展を予防する。例えば、副経路補体活性化と関連する障害を起こす可能性がある又は起こす、遺伝子変異を有する個体は、予防的に、本発明による抗体、断片、核酸分子、又は組成物を用いて治療されることができる。抗体、断片、又は核酸分子は、典型的には、本発明による医薬組成物中に、補体系の副経路の不必要又は過剰な活性化と関連する障害を治療するのに十分な量である、治療的に有効な量で存在する。
【0122】
特徴は、明瞭さ及び簡潔な説明の目的のために、本発明の同じ又は別の態様又は実施形態の一部として、本明細書に記載されてもよい。当業者によって、本発明の範囲は、同じ又は別の実施形態の一部として本明細書に記載される特徴の全て又はいくつかの組合せを有する実施形態を含むとよく理解される。
【0123】
本発明は、以下の非限定的な例において、より詳細に説明される。
【0124】
【表1A】
【0125】
【表1B】
【0126】
【表1C】
【0127】
【表1D】
【0128】
【表1E】
【0129】
【表1F】
【図面の簡単な説明】
【0130】
図1-1】抗FHR-1抗体のエピトープ位置をマッピングするための競合アッセイ。A)非標識フルレングスFH又はFH断片の非存在下又は存在下における、各モノクローナル抗体によるビオチン化FH(FH-bt)の結合をELISAによって評価した。結合は、非標識コンペティターの追加なしで見られたFH-btの結合(100%に設定する、破線)の割合として表される。B)捕捉mAb(catching mAb)として抗FH及び抗FHR-1 mAb(X軸上に示される)、並びにコンペティターとして抗FH.07又は抗FH.16(コントロールとして)を使用した、FH-btを用いた競合ELISA。C)Bのように、FH-btを用いた競合ELISA(ただし、捕捉mAbとして抗FH.07、競合mAbとして抗FHR-1 mAb(X軸に示される)の使用のみ)。
図1-2】図1-1を参照。
図2-1】FHに対する親和性を決定するための抗FHR-1mAbのSPR解析。親和性はProtA又はProtGチップ上でSPRによって決定された。(A-B)フルレングスFH(A)又はドメイン18-20を含むFHの断片(B)のどちらかを表面上に流す前の指示されたモノクローナル抗体の捕捉のセンサーグラム(sensorgram)。フィットさせたプロット(黒い線)及び次の各グラフを示す対応する結果は、1:1結合モデルに従って得られた。(C-D)抗体FH.07、3B4、及び8E4に関して、フルレングス(C)又はCCP18-20(D)に対してProtA又はProtGのどちらかを使用して行われた、全ての親和性解析の概要。
図2-2】図2-1を参照。
図2-3】図2-1を参照。
図3-1】抗FHR-1mAbの機能的特性解析。A) 10% (v/v)正常ヒト血清を使用して、指示された抗体を追加して、ELISAによって決定された、LPS上のC3bの滞積。グラフは、多数の独立した実験(n=4)を表す。上のパネル:C3bの滞積の増強のIC50。下のパネル:FH.07、3B4、及び8E4の濃度の増加に対する、LPS上のC3bの滞積に関して表す図。いかなる抗体も追加しない、10% (v/v)正常ヒト血清における、C3bの滞積を100%に設定する。IgG1 ctrlは、ネガティブコントロール抗体である。B)ヒツジ赤血球(SRBC)及び10% (v/v)正常ヒト血清を使用した、溶血アッセイ。溶血は、抗FH.09を用いてFHを阻害することで誘導され(血清 + FH阻害物質)、89%の溶血をもたらした。FH及びFHR-1に対するモノクローナル抗体は、多数の実験から計算される溶血のIC50を示すように、加えた。n=2-4であり、統計学的解析は通常一元配置分散分析(ordinary one-way ANOVA)を使用して行った。*はp ≦ 0.05を指す。
図3-2】図3-1を参照。
図4-1】A.指示される抗FH.07、抗FHR-1 3B4、又は抗FHR-1 8E4 Fab’断片の追加のあり及びなしにおける、FHのC3bとの相互作用のSPR解析のセンサーグラム。Fab’断片の追加は、全ての表面上で、測定されるRUを、少なくとも2倍増加させ、FHの結合の増加を反映している。B. 相互作用の結合及び推定KDの平衡解析は、各Fab´に関して、それぞれ、2.7、3.2、及び3.6倍の親和性の増加を示す。
図4-2】図4-1を参照。
図4-3】図4-1を参照。
【実施例
【0131】
材料及び方法
試薬
ヒト精製H因子は、CompTech. (Tyler, Texas USA)から得た。ラット抗マウスカッパ(RM19)は、Sanquin (Business Unit reagents, Sanquin, Amsterdam, the Netherlands)から得た。High Performance ELISA buffer (HPE)は、Sanquinから得た。組み換えFH CCP (CCP 15-18、CCP 15-19、CCP 18-20、又はCCP 19-10)は、dr. Christoph Schmidtの親切な贈り物であり、以前に記載されるように製造した(Schmidt et al. 2008)。ヒトFHに対するマウスモノクローナル抗体(mAbs)は、以前に作った。抗FH.07(マウスIgG1)は、CCP18に対してであり、抗FH.09(マウスIgG1)は、CCP6に対してであり、及び抗FH.16(マウスIgG1)は、CCP16/17に対してである。抗IL-6.8は、無関係のアイソタイプコントロール(irrelevant isotype control)として使用され、Sanquinから得た。抗C3.19は、分子のC3d断片上のエピトープと反応し、以前に記載されている(Wolbink et al. 1993)。
【0132】
rhFHRタンパク質の発現
C末端6x-ヒスチジン(6xHis)タグを含む、組み換えヒトH因子関連(rhFHR)タンパク質は、以前に記載されるように、製造及び精製した(Pouw et al. 2015)。簡潔には、HEK293F細胞にpcDNA3.1発現ベクターの一過性トランスフェクションによってタンパク質を発現させ、その後、HisTrap(商標)High Performance 1 ml columns (GE Healthcare Life Sciences, Freiburg, Germany)を使用して、Ni2+親和性クロマトグラフィーによって、上清からタンパク質を精製した。Amicon(登録商標) Ultra Centrifugal Filter Devices (Merck Millipore, Darmstadt, Germany)を使用して、rFHRを濾過、濃縮した。
【0133】
免疫及びハイブリドーマ作製
BALB/cマウスを、腹腔内に、アジュバントとしてのモンタナイド中の25 μgのrhFHR-1を用いて、4週間毎に、免疫することで、FHR-1に対するマウスモノクローナル抗体を作製した。4回目の追加免疫(booster immunization)の3日後、脾臓細胞を骨髄腫細胞株SP2/0と融合した。ハイブリドーマの上清中のFHR-1特異的抗体の存在は、ELISAによって試験した。簡潔には、マイクロタイタープレートを、マウスIgG抗体を捕捉するラット抗マウスカッパmoAb (RM19)を用いてコーティングした。抗体の特異性は、ビオチン化rhFHR-1によって決定した。ビオチン化rhFHR-1の結合は、HRPとコンジュゲートされた0.1% (v/v)ストレプトアビジンと、HPE中で30分間、インキュベーションすることで決定した。0.003% (v/v) H2O2を含む0.1 M 酢酸ナトリウム(pH 5.5)中の100 μg/mLの3,5,3’,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を使用して、ELISAをさらに発色させた。100 μL H2SO4の添加によって基質変換を停止し、Synergy 2 Multi-Mode plate reader (BioTek Instruments, Winooski, VT, USA)を用いて、吸光度を450 nmにおいて測定し、540 nmにおける吸光度に対して補正した。全てのELISAの工程は、各ウェル100 μLの最終量で実施した。
【0134】
エピトープマッピングmAb及び競合アッセイ
抗FHR-1 mAbのエピトープの位置は、多数のCCPドメイン(15-18、15-19、18-20、又は19-20)を含む組み換えヒトFH断片を使用して、決定した。簡潔には、抗FHR-1 mAbは、RM-19でコーティングされたマイクロタイタープレート上に捕捉して、最適な結合立体配座を確かにする。次に、100倍高い濃度の指示された非標識組み換えFH断片と混合された、ビオチン化FHを、プレート上で1時間インキュベーションした。ビオチン化FHの結合は、poly-HRPとコンジュゲートされた0.01% (v/v)ストレプトアビジンと、HPE中で30分間、インキュベーションすることで決定した。ELISAは、上記に記載のように、さらに発色させた。抗FHR-1 mAbが、FHの結合に関して、抗FH.07と競合するかどうかを決定するために、類似の仕組みを使用した。簡潔には、mAbをプレートに直接コーティングし、10倍高い濃度の指示されたmAbの存在下又は非存在下における、ビオチン化FH(FH-bt)の結合を、上記に記載されるようにELISAによって評価した。
【0135】
LPS上のC3の滞積
Polysorp 96-wells microtiter plates (Nunc)を、PBS中のチフス菌(Salmonella typhosa) LPS(40 μg/mL, L-6386 Sigma-Aldrich)を用いて、室温で、一晩、コーティングした。LPSは、補体の副経路を活性化する。PBS + 0.1% (w/v) Tween-20を用いて洗浄後、10% (v/v) NHSを、指示される濃度の抗FH/抗FHR-1 mAb、アイソタイプコントロール、又はネガティブコントロールとしてのIL6-8 ABの存在下又は非存在下において、0.05% (w/v) ゼラチン、5 mM MgCl2、10 mM EGTA、及び0.1% (w/v) Tween-20を含むベロナール緩衝液(VB; 3 mM バルビタール、1.8 mM バルビタールナトリウム、145 mM NaCl, pH 7.4)中で、インキュベーションした。C3bの滞積は、ビオチン化mAb抗C3.19 (HPE中に0.55 μg/mL)、次いで、poly-HRPとコンジュゲートされた0.01% (v/v)ストレプトアビジンと、HPE中での30分間の、インキュベーションを用いて、検出される。ELISAは、上記に記載のように、さらに発色させた。
【0136】
SRBC溶血アッセイ
FHの機能性は、いくつかの調節をした、Sanchez-Corralら(2004)及びWoutersら(2008)によって以前に記載されている溶血アッセイを用いて決定した。20 μg/ml 抗FH.09を含む、事前に希釈されたヒト血清(20%、v/v)を、指定されたmAbを用いてプレインキュベーションし、ヒツジ赤血球(SRBC)を用いて1:1の比で混合して、終濃度10% (v/v)の血清、並びに5 mM MgCl2及び10 mM EGTAを有するVB中の1.05*108 cells/ml、又はブランクとしての10 mM EDTAを有するVBを得て、次いで、振盪しながら37℃で75分間インキュベーションした。溶解を、20 mM EDTAを有する、よく冷えたVB 100 μlを添加することで停止させ、次いで、遠心した(2.5分、1,800 RPM/471 RCF、7℃)。溶血は、412 nmにおける上清の吸光度として測定し、690 nmにおいて測定されたバックグラウンドの吸光度に対して補正され、100%溶血コントロール(0.6% (w/v) サポニンとインキュベーションされたSRBC)のパーセンテージとして表される。ネガティブコントロールとして、補体活性化を防ぐために、SRBCを、10 mM EDTAが補充されたVB中に希釈された血清とインキュベーションした。graphpad prism 7.04を使用して、溶血のEC50を、多数の実験から計算し、統計比較は通常一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定によって実施した。
【0137】
結合親和性の決定(SPR)
表面プラズモン共鳴(SPR)実験は、メーカーの説明に従って、BiaCore T200 (GE Healthcare)及びCM5 sensor chips (GE Healthcare)を使用して、実施した。簡潔には、親和性を決定するために、抗FH.07、抗FHR-1 3B4、又は抗FHR-1 8E4をチップと連結したProtA又はProtG上で捕捉し、フルレングスのFH又はドメイン18-20を含むFHの断片を、徐々に減少させた濃度で、捕捉したmoAB上に流した。
【0138】
H因子のC3bへの結合親和性
抗FH moAbの存在下におけるFHのC3bへの結合は、Biacore T200 instrument (GE Healthcare, Little Chalfont, UK)を使用して、表面プラズモン共鳴によって決定した。精製されたC3b(Complement Technologies)は、標準アミンカップリングを使用して、CM5 Biacore Sensor Chip (GE Healthcare)のフローセル上に固定した。残りのフローセルは、参照表面として使用し、あらゆるタンパク質を添加せずにカップリング反応を実施することで調製した。2000反応単位(RU)の反応が、C3bとのカップリング後に得られた。SPR実験は、10 μl/minの流量を使用して37℃で、及び0.01% (w/v) Tween-20 (Merck)が補充されたリン酸緩衝生理食塩水 pH 7.4 (PBS、Orphi Farma) (PBS-T)において、実施した。moAbを介した起こり得る架橋の妨害なしに、抗体の効果を決定するために、組み換え製造されたmoAbのFab’断片を使用した。Fab’断片を、血漿精製FH(pdFH)と混合した。FHを、抗FH.07、抗FHR-1 3B4、又は抗FHR-1 8E4 Fab’断片のどれかの非存在下又は10 μMの存在下(少なくとも、2倍のモル比の過剰)において、チップ上に、異なる濃度(FH単独に関して10 - 0,01953 μM及びmoAb Fab’断片との混合物に関して5 - 0,01953 μM)で、60秒間注入した。各Fab’断片を、FHの添加なしでも注入して、Fab’断片の表面とのあらゆる相互作用を決定した。pdFH注入に続いて、60秒の分離を行い、表面を、1 M NaCl (Merck)の単回注入によって、各サイクルの間に再生させた。データをScrubber 2 (Biologic Software)を使用して解析し、親和性を均衡分析によって決定した。
【0139】
結果
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体FHR-1.3B4、FHR-1.8E4、FHR-1.11E1、FHR-1.12F4、及びFHR-1.14C4が、組み換えヒトH因子関連タンパク質1(FHR-1)に対して生じた。
【0140】
結合部位のマッピング
モノクローナル抗体の結合部位をマッピングするために、moAbの反応性を様々なCCPドメイン(CCP 15-18、CCP 15-19、CCP 18-20、及びCCP 19-20)を含む組み換えFH断片、並びにフルレングスのヒトFHに対して試験した。図1Aに示すように、FHR-1.3B4、FHR-1.8E4、FHR-1.11E1、FHR-1.12F4、及びFHR-1.14C4は、組み換え断片CCP 15-18、CCP 15-19、及びCCP 18-20に様々な程度で結合するが、CCP 19-20には結合しない。これは、全ての抗体が、FHのCCP18に特異的であることを示している。
【0141】
エピトープマッピング
競合アッセイは、アゴニスティック抗FH抗体FH.07を用いて実施した。図1B及び1Cに示すように、FHbtの、コーティングされた抗FH.07、11E1、8E4、及び3B4への結合は、抗FH.07によって競合を受けるが、14C4又はアイソタイプコントロール抗FH.16によっては競合を受けない。これは、14C4はCCP18中の別の重複しないエピトープに結合するのに対して、抗FH.07、11E1、8E4、及び3B4はCCP18中の同一又は重複したエピトープに結合していることを示す。12F4の結合も、抗FH.07によって競合を受けるが、より小さい程度であり、このことは、この抗体は同じエピトープに結合するが、より低い親和性を有する可能性があることを示す。
【0142】
結合親和性
全ての抗体FH.07、8E4、及び3B4は、ナノモル又はナノモル以下の親和性で、ヒトFH及びFHのCCP18-20に結合する。抗体8E4及び3B4の両方は、フルレングスのFH及びCCP18-20の両方に対して、FH.07の親和性よりも高い結合親和性を有する(図2及び表2を参照)。
【0143】
【表2】
【0144】
LPS上のC3の滞積
FH.07、3B4、8E4、11E1、及び12F4は全て、LPS上のC3bの滞積を減少させる(FH.07、3B4、及び8E4に関して図3Aに示されている)。対照的に、14C4はLPS上のC3bの滞積を増加させた。図3Aは、徐々に増加するFH.07、3B4、及び8E4の濃度に対する、LPS上のC3の滞積を示す。8E4は、FH.07よりも大きい程度まで、C3の滞積を阻害することを示している。
【0145】
従って、抗FH.07と競合する全てのmAbも、FHの機能を増強し、補体活性化の減少をもたらす。意外なことに、CCP18に結合もするが、非競合mAb(14C4)は、FHの機能の阻害、従って、より多くのC3bの滞積という、反対の結果となった。表3に示すように、8E4のLPS滞積アッセイにおけるIC50は、FH.07のIC50よりも低い。
【0146】
SRBC溶血性活性
抗FH.07、3B4、8E4、及び11E1は、誘導されるSRBC溶血を減少させる。12F4は同じ効果を示すが、より小さい程度である。従って、抗FH.07と競合する全てのmAbは、SRBC表面上でFHの機能の増強もし、補体を介した溶血の減少をもたらす。3B4、8E4の両方は、このアッセイにおいて、より高い濃度で、FHの増強のより高い効果を有する。表3及び図3Bに示すように、8E4及び3B4の両方の溶血アッセイにおけるIC50は、FH.07のIC50より低い。
【0147】
【表3】
【0148】
H因子のC3bに対する結合親和性
通常の条件下において、FHは、6.0 μMの推定K-Dで、C3bとの相互作用を示す。しかしながら、抗FH/07、aFHR-1 3B4、又はaFHR-1 8E4のFab’断片の添加は、C3bでコーティングされた表面上での反応を増加させ(図4A)、それぞれ、2.20 μM、1.90 μM、及び1.66 μMの増加した推定親和性で表される(図4B)。
【0149】
[参考文献]
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
【配列表】
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