(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】自動車用冷却システム用チューブおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20240412BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240412BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20240412BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240412BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20240412BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240412BHJP
B29C 48/09 20190101ALI20240412BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20240412BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
F16L11/04
C08L23/10
C08L23/16
C08K3/013
C08K5/13
C08K5/3492
B29C48/09
B29C48/00
C08J5/00 CES
(21)【出願番号】P 2020545822
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003333
(87)【国際公開番号】W WO2020195143
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019062278
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 依史
(72)【発明者】
【氏名】野田 将司
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-241546(JP,A)
【文献】特開平10-298417(JP,A)
【文献】特表2019-507227(JP,A)
【文献】特開2010-254994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/04
C08L 23/10
C08L 23/16
C08K 3/013
C08K 5/13
C08K 5/3492
B29C 48/09
B29C 48/00
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分を主成分とするとともに下記の(B)~(D)成分を含有し、
(C)成分の含有割合が、(A)成分100重量部に対して0.01~10重量部の範囲であり、かつ、(B)および(D)成分が(A)成分の海相内に偏在するアロイからなることを特徴とする自動車用冷却システム用チューブ。
(A)ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイ。
(B)グアナミン骨格を有する化合物。
(C)フェノール系酸化防止剤。
(D)無機フィラー。
【請求項2】
上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)が、下記の一般式(1)に示すメラミン化合物である、請求項1記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【化1】
【請求項3】
上記アロイ(A)におけるポリエチレン成分の割合が1~49重量%である、請求項1または2記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【請求項4】
上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)の含有割合が、上記アロイ(A)100重量部に対して0.01~10重量部の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【請求項5】
上記無機フィラー(D)の含有割合が、上記アロイ(A)100重量部に対して1~100重量部の範囲である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【請求項6】
上記無機フィラー(D)が、タルクである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の自動車用冷却システム用チューブの製造方法であって、下記の[I]~[III]に示す工程をこの順で備えていることを特徴とする自動車用冷却システム用チューブの製造方法。
[I]ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイ(A)、または上記アロイ(A)の構成材料であるポリプロピレンおよびエチレン系共重合体と、フェノール系酸化防止剤(C)とを、混練する工程。
[II]上記工程[I]で得られた混練物に対し、グアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)とを混練する工程。
[III]上記工程[II]で得られた混練物を、チューブ状に溶融押出成形する工程。
【請求項8】
上記工程[II]における、工程[I]で得られた混練物に対する、グアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)の混合を、同時に行う、請求項
7記載の自動車用冷却システム用チューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内の冷却システムの配管に用いられる、自動車用冷却システム用チューブおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガソリン車内の冷却システムの配管材料には、強度や耐熱性に優れることから、ポリアミド樹脂が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
また、電気自動車内の冷却システムの配管材料にも、従来、ガソリン車と同様のポリアミド樹脂が採用されている。
【0003】
しかしながら、ポリアミド樹脂からなるチューブは、価格の面で課題が残る。そのため、上記課題を解決するために廉価なポリプロピレン樹脂を用いたチューブの使用も検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-091730号公報
【文献】特開2006-194318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ポリプロピレン樹脂からなるチューブは、耐熱性・耐衝撃性に大きな課題が残るため、その改善が望まれている。
【0006】
また、ポリプロピレン樹脂からなるチューブは、フィラーの含有による高温強度の確保が従来から行われているが、劣化によるチューブ折れを生じやすいといった問題が残る。
上記のようなチューブ折れの要因は、例えば、フィラー中の微量金属元素に起因するポリプロピレン樹脂の劣化、チューブ材料を押出加工する際に生じたポリプロピレン樹脂の熱劣化、チューブが実車走行時の熱負荷を受けることにより生じる熱老化等が考えられる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低コストであり、耐熱老化性、耐衝撃性、高温強度等の改善を実現できる、自動車用冷却システム用チューブおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、自動車用冷却システム用チューブの形成材料において、低コスト材料であるポリプロピレンをポリマーの主原料としつつ、耐衝撃性を改善するために、ポリプロピレン成分の海相内に、柔軟成分であるポリエチレン成分の島相が分散されたアロイ(A)を、自動車用冷却システム用チューブ材料のポリマーとして用いることを想起した。そして、上記アロイ(A)に対し、高温強度を確保するために無機フィラー(D)を加えるとともに、フェノール系酸化防止剤(C)を加えることにより、上記無機フィラー(D)中の微量金属元素に起因するポリプロピレンの劣化を抑えることを検討した。
しかしながら、このようにしても、実際にはポリプロピレンの劣化を充分に抑えられなかったことから、本発明者らは、さらに実験を重ねた。その結果、自動車用冷却システム用チューブ材料中に、さらに、グアナミン骨格を有する化合物(B)を加え、かつ、上記化合物(B)および無機フィラー(D)を、上記アロイ(A)の海相内に偏在させるようにしたところ、所期の目的が達成できることを見いだした。
なお、上記のような結果が得られた理由は、上記化合物(B)が無機フィラー(D)の表面を適度にコートし、無機フィラー(D)表面へのフェノール系酸化防止剤(C)の吸着が抑えられたために、上記吸着によりフェノール系酸化防止剤(C)による酸化防止機能が失効されるのを防ぐことができたためと考えられる。また、このことに加え、上記化合物(B)自身によるポリプロピレンの熱劣化防止性能も有利に働いたと考えられる。なお、本発明では、上記化合物(B)および無機フィラー(D)を上記アロイ(A)の海相内に偏在させているが、仮に、上記アロイ(A)の柔軟成分である島相内に、無機フィラー(D)や上記化合物(B)が存在すると、チューブ全体の硬度が上がってしまい、耐衝撃性が損なわれる等の問題が生じると考えられ、所期の目的を達成し得なかったと考えられる。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を、その要旨とする。
[1]下記の(A)成分を主成分とするとともに下記の(B)~(D)成分を含有し、かつ、(B)および(D)成分が(A)成分の海相内に偏在するアロイからなることを特徴とする自動車用冷却システム用チューブ。
(A)ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイ。
(B)グアナミン骨格を有する化合物。
(C)フェノール系酸化防止剤。
(D)無機フィラー。
[2]上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)が、下記の一般式(1)に示すメラミン化合物である、[1]に記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【化1】
[3]上記アロイ(A)におけるポリエチレン成分の割合が1~49重量%である、[1]または[2]に記載の自動車用冷却システム用チューブ。
[4]上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)の含有割合が、上記アロイ(A)100重量部に対して0.01~10重量部の範囲である、[1]~[3]のいずれかに記載の自動車用冷却システム用チューブ。
[5]上記フェノール系酸化防止剤(C)の含有割合が、上記アロイ(A)100重量部に対して0.01~10重量部の範囲である、[1]~[4]のいずれかに記載の自動車用冷却システム用チューブ。
[6]上記無機フィラー(D)の含有割合が、上記アロイ(A)100重量部に対して1~100重量部の範囲である、[1]~[5]のいずれかに記載の自動車用冷却システム用チューブ。
[7]上記無機フィラー(D)が、タルクである、[1]~[6]のいずれかに記載の自動車用冷却システム用チューブ。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の自動車用冷却システム用チューブの製造方法であって、下記の[I]~[III]に示す工程をこの順で備えていることを特徴とする自動車用冷却システム用チューブの製造方法。
[I]ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイ(A)、または上記アロイ(A)の構成材料であるポリプロピレンおよびエチレン系共重合体と、フェノール系酸化防止剤(C)とを、混練する工程。
[II]上記工程[I]で得られた混練物に対し、グアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)とを混練する工程。
[III]上記工程[II]で得られた混練物を、チューブ状に溶融押出成形する工程。
[9]上記工程[II]における、工程[I]で得られた混練物に対する、グアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)の混合を、同時に行う、[8]に記載の自動車用冷却システム用チューブの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
以上のことから、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、低コスト化を図ることができ、かつ、耐熱老化性、耐衝撃性、高温強度等の改善を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る自動車用冷却システム用チューブの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0013】
本発明の自動車用冷却システム用チューブは、先に述べたように、下記の(A)成分を主成分とするとともに下記の(B)~(D)成分を含有し、かつ、(B)および(D)成分が(A)成分の海相内に偏在するアロイからなるものである。ここで、上記の「主成分」とは、本発明の自動車用冷却システム用チューブの特性に大きな影響を与える成分のことであり、通常は、自動車用冷却システム用チューブの形成材料である下記の(A)~(D)成分を含むポリプロピレン系樹脂組成物全体の50重量%以上が、下記の(A)成分であるものを示す。
(A)ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイ。
(B)グアナミン骨格を有する化合物。
(C)フェノール系酸化防止剤。
(D)無機フィラー。
【0014】
なお、本発明において、「(B)および(D)成分が(A)成分の海相内に偏在する」とは、本発明の自動車用冷却システム用チューブに含まれる(B)成分の70重量%以上および(D)成分の70重量%以上が、(A)成分の海相に含まれていることを意味し、好ましくは(B)成分の80重量%以上および(D)成分の80重量%以上が、より好ましくは(B)成分の95重量%以上および(D)成分の95重量%以上が、(A)成分の海相に含まれていることを意味する。そして、最も好ましいのは、本発明の自動車用冷却システム用チューブに含まれる(B)成分の全ておよび(D)成分の全てが、(A)成分の海相に含まれていることである。
【0015】
また、上記のような海-島構造の識別、および、偏在状況の識別は、例えば、上記自動車用冷却システム用チューブの断面(あるいは上記自動車用冷却システム用チューブ形成用のポリプロピレン系樹脂組成物の硬化体断面)に対し、切削ないし研磨して面出しし、染色した後、観察倍率5000倍で走査型電子顕微鏡による反射電子像観察を行うことによりなされる。
【0016】
そして、上記の観察結果より測定された島相の平均粒径は、耐衝撃性、耐熱老化性等の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、より好ましくは0.1~10μmの範囲である。
上記の観察結果より測定された樹脂部分(アロイ)全体に対する島相(ポリエチレン成分)の割合は、1~49重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2.5~20重量%の範囲である。
【0017】
本発明の自動車用冷却システム用チューブは、上記(A)~(D)成分を含有するアロイからなるものであり、通常、
図1に示すような単層構造であるが、必要に応じ、他の樹脂層や補強糸層をさらに積層し、上記アロイからなる層を備えた多層構造のチューブとしてもよい。
【0018】
つぎに、本発明の自動車用冷却システム用チューブの各材料について説明する。
【0019】
《アロイ(A)》
上記アロイ(A)としては、先に述べたように、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイが用いられる。
上記アロイの材料に用いられるポリプロピレン(オリゴマー)としては、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)の他、ブテン-1等のプロピレン以外のα-オレフィンとプロピレンとのブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等の共重合体、無水マレイン酸等の酸無水物で変性した変性ポリプロピレン等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、ポリエチレン成分と良好な海-島構造を形成することができ、さらに、溶融押出成形性等にも優れることから、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)が好ましい。
また、上記アロイの材料には、上記のようにポリエチレン成分の島相を形成するために、エチレン単独共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレンとα-オレフィンの共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体)等の、エチレン系共重合体が単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0020】
《グアナミン骨格を有する化合物(B)》
上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)とは、下記の一般式(1)に示すような化学構造の化合物のことをいう。
【0021】
【0022】
そして、上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)として、上記一般式(1)におけるXが、アミノ基、アリール基、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、またはこれらのいずれか一つを含む官能基である化合物(メラミン化合物)を用いることが、本発明の作用効果の観点から好ましい。
【0023】
上記一般式(1)に示す化合物としては、具体的には、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、よりフィラーへの吸着性に優れることから、メラミンが好ましい。
【0024】
上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)の含有割合は、前記アロイ(A)100重量部に対して、0.01~10重量部が好ましく、より好ましくは0.1~5重量部である。このような量で含有することにより、フェノール系酸化防止剤(C)による酸化防止機能等が良好に発現されるようになる。
【0025】
《フェノール系酸化防止剤(C)》
本発明で用いられるフェノール系酸化防止剤(C)としては、例えば、テトラキス[3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、2,2'-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、N,N'-ビス3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン、2,4-ビス[(ドデシルチオ)メチル]-6-メチルフェノール、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、1,3,5-トリス[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4'-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2'-ジメチル-2,2'-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1'-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート]、2,4,6-トリス(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシベンジル)メシチレン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0026】
上記フェノール系酸化防止剤(C)の含有割合は、前記アロイ(A)100重量部に対して、0.01~10重量部が好ましく、より好ましくは0.01~9重量部、特に好ましくは0.1~5重量部の範囲である。このような量で含有することにより、上記フェノール系酸化防止剤(C)による酸化防止機能等が良好に発現されるようになる。
【0027】
《無機フィラー(D)》
本発明で用いられる無機フィラー(D)としては、例えば、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、アパタイト、雲母等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、押出加工性、補強性等の観点から、タルクが好ましい。
【0028】
上記無機フィラー(D)の含有割合は、前記アロイ(A)100重量部に対して、1~100重量部が好ましく、より好ましくは10~70重量部である。このような量で含有することにより、良好なチューブ強度が得られるようになる。
【0029】
なお、本発明の自動車用冷却システム用チューブの形成材料には、上記(A)~(D)の各成分に加えて、耐候安定剤、滑剤、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤などの各種添加剤を、必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0030】
そして、上記アロイ(A)を主成分とするとともに、上記の、グアナミン骨格を有する化合物(B)、フェノール系酸化防止剤(C)、無機フィラー(D)を含有し、かつ、上記化合物(B)および無機フィラー(D)が上記アロイ(A)の海相内に偏在するアロイからなる、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、下記の[I]~[III]に示す工程をこの順で行うことにより、良好に製造することができる。
[I]上記アロイ(A)、または上記アロイ(A)の構成材料であるポリプロピレンおよびエチレン系共重合体と、フェノール系酸化防止剤(C)とを、混練する工程。
[II]上記工程[I]で得られた混練物に対し、上記化合物(B)と無機フィラー(D)とを混練する工程。
[III]上記工程[II]で得られた混練物を、チューブ状に溶融押出成形する工程。
【0031】
上記工程[I]は、例えば、上記アロイ(A)と、フェノール系酸化防止剤(C)とを、二軸混練押出機等により160~230℃で0.01~10分間混練することにより行われる。
また、上記アロイ(A)に代えて、上記アロイ(A)の構成材料であるポリプロピレン(オリゴマー)と、上記エチレン系共重合体(オリゴマー)とを、所定の割合で配合し、そこにフェノール系酸化防止剤(C)を配合したうえで、二軸混練押出機等により160~230℃で混練し、上記ポリプロピレン(オリゴマー)とエチレン系共重合体(オリゴマー)の共重合と、フェノール系酸化防止剤(C)の混合を同時に行うようにしてもよい。
【0032】
上記工程[II]では、上記工程[I]で得られた混練物に対する、グアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)の混練が行われるが、グアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)を上記アロイ(A)の海相内に良好に偏在させるため、グアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)の混合を、同時に行うことが好ましい。そして、同様の観点から、予めグアナミン骨格を有する化合物(B)と無機フィラー(D)を混合しておいて、それを上記工程[I]で得られた混練物に混練することが、より好ましい。
そして、上記混練は、二軸混練押出機等により160~270℃で0.01~10分間混練することにより行われる。
なお、上記(A)~(D)成分以外の任意成分の混合時期については、上記工程[III]以前であれば特に限定されないが、上記工程[II]以降に混合することが好ましい。
【0033】
上記工程[III]では、上記工程[II]で得られた混練物が、円筒状ダイが装着された溶融押出成形機等により、160~270℃でチューブ状に溶融押出成形される。なお、上記混練物としては、ペレット化したものを用いることが、生産性の観点から好ましい。
【0034】
このようにして得られる本発明の自動車用冷却システム用チューブは、その用途上の観点から、内径が2.5~30mmの範囲であり、厚みが0.5~5.0mmの範囲であるものが好ましい。
【0035】
そして、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、自動車内における冷却水等の冷媒の配管に用いられるものであり、例えば、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに用いられる。
【実施例】
【0036】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0038】
〔ホモPP(ホモポリプロピレン)〕
HiZEX E-200GP、プライムポリマー社製
【0039】
〔エチレン-プロピレン共重合体(EP)〕
タフマーDF840、三井化学社製
【0040】
〔メラミン化合物(i)〕
メラミン、東京化成工業社製
【0041】
〔メラミン化合物(ii)〕
アセトグアナミン、三菱ケミカル社製
【0042】
〔メラミン化合物(iii)〕
ベンゾグアナミン、日本カーバイド工業社製
【0043】
〔メラミン化合物(iv)〕
前記一般式(1)においてXがヒドロキシ基を含む官能基であるメラミン化合物(VD-3、四国化成社製)
【0044】
〔メラミン化合物(v)〕
前記一般式(1)においてXがアルコキシ基であるメラミン化合物(VD-5、四国化成社製)
【0045】
〔メラミン+EP〕
メラミン(東京化成工業社製)とエチレン-プロピレン共重合体(タフマーDF840、三井化学社製)を、重量比で、メラミン:エチレン-プロピレン共重合体=100:5の割合となるよう混練した、練込品
【0046】
〔フェノール系酸化防止剤〕
テトラキス[3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール(IRGANOX 1010、BASF社製)
【0047】
〔タルク〕
FH108、富士タルク社製
【0048】
[実施例1~14、比較例1,2,4~7]
後記の表1および表2に示す重量割合および組合せで、ホモPP、EP、フェノール系酸化防止剤を、二軸混練押出機(TEM-18SS、東芝機械社製)により200℃で5分間混練した後、後記の表1および表2に示す重量割合および組合せで、メラミン化合物とタルクを同時に加え、さらに上記二軸混練押出機により200℃で5分間混練した。なお、後記の表に記載のない材料に関しては、当該材料を加えずに、上記混練を行った。
つぎに、上記混練物をペレット化し、そのペレットを、円筒状ダイが装着された溶融押出成形機(GT-40、プラスチック工学研究所社製)により、250℃でチューブ状に溶融押出成形することにより、内径18mm,外径20mmの樹脂チューブを得た。
【0049】
[比較例3]
後記の表2に示す重量割合および組合せで、ホモPP、メラミン+EP、フェノール系酸化防止剤、およびタルクを、同時に加え、二軸混練押出機(TEM-18SS、東芝機械社製)により200℃で5分間混練した。
つぎに、上記混練物をペレット化し、そのペレットを、円筒状ダイが装着された溶融押出成形機(GT-40、プラスチック工学研究所社製)により、250℃でチューブ状に溶融押出成形することにより、内径18mm,外径20mmの樹脂チューブを得た。
【0050】
このようにして得られた実施例および比較例の樹脂チューブに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0051】
≪耐熱老化性≫
樹脂チューブを半割し、幅10mm、長さ15cmの短冊状に打ち抜いた。このようにして得られた短冊状のサンプルに対し、熱老化処理(120℃×1000時間の熱処理)を実施した後、上記サンプルの破断時の伸び[Eb]を、JIS K 6251に準拠し、引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)により測定した。そして、上記サンプルの伸びが、サンプルの長さの50%以上であったものを「〇」、サンプルの長さの50%未満であったものを「×」と評価した。
【0052】
≪耐衝撃性≫
樹脂チューブを半割し、JIS K 7110に準拠した寸法形状のサンプルを打ち抜いた。そして、上記サンプルに対し、JIS K 7110に準拠し、23℃環境下で、アイゾット衝撃試験を行った。上記試験の結果、アイゾット衝撃値(J/m)が、45J/m未満であるものを「×」、45J/m以上のものを「〇」と評価した。
【0053】
≪高温強度≫
樹脂チューブを半割し、幅10mm、長さ15cmの短冊状に打ち抜いた。このようにして得られた短冊状のサンプルに対し、120℃雰囲気での降伏強度を、引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)により測定した。その結果、上記降伏強度が4MPa未満であるものを「×」、4MPa以上のものを「〇」と評価した。
【0054】
【0055】
【0056】
上記表1の結果より、実施例の樹脂チューブは、いずれも、耐熱老化性、耐衝撃性、高温強度の全てにおいて、優れるものであった。
【0057】
なお、実施例の樹脂チューブの断面に対し、切削ないし研磨して面出しし、染色した後、観察倍率5000倍で走査型電子顕微鏡による反射電子像観察を行ったところ、いずれの樹脂チューブにおいても、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイとなっていることが確認され、さらに、メラミン化合物およびタルクが、上記アロイの海相内に偏在していることが確認された。
【0058】
また、上記の、実施例の樹脂チューブの断面に認められる、樹脂部分(アロイ)全体に対する島相(ポリエチレン成分)の割合は、上記反射電子像をもとに測定した結果、いずれも、1~49重量%の範囲であった。
【0059】
これに対し、上記表2より、比較例1では、ポリマーにポリプロピレンを用いておらず、エチレン-プロピレン共重合体のみを使用しており、チューブ成形時に樹脂の溶けがみられる結果となった。比較例2では、ポリマーにエチレン-プロピレン共重合体を用いておらず、ポリプロピレンのみを使用しており、耐衝撃性に劣る結果となった。比較例3では、耐熱老化性に劣る結果となった。なお、比較例3では、メラミンとエチレン-プロピレン共重合体を予め練り込んだものを、ホモPP、フェノール系酸化防止剤、およびタルクと混練して樹脂チューブを製造していることから、上記観察条件に従い走査型電子顕微鏡による反射電子像観察を行っても、ポリプロピレン成分の海相内へのメラミンの偏在は認められなかった。比較例4では、フェノール系酸化防止剤を使用しておらず、耐熱老化性に劣る結果となった。比較例5では、タルクを使用しておらず、高温強度に劣る結果となった。比較例6では、チューブ成形時に樹脂の溶けがみられる結果となった。なお、比較例6では、ポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体の併用を行っているが、ポリプロピレンの割合が少なく、そのため、上記観察条件に従い走査型電子顕微鏡による反射電子像観察を行っても、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイは認められなかった。比較例7では、メラミン化合物を使用しておらず、耐熱老化性に劣る結果となった。
【0060】
なお、上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の自動車用冷却システム用チューブは、自動車内における冷却水等の冷媒の配管に用いられるものであり、例えば、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース、等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに用いられる。また、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)や自動販売機等の冷却用チューブとしても利用可能である。