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特許7471257超音波撮像装置、及び、カラードプラ画像の生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】超音波撮像装置、及び、カラードプラ画像の生成方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
A61B8/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021105174
(22)【出願日】2021-06-24
(65)【公開番号】P2023003852
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2023-10-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 智彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀樹
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0275914(US,A1)
【文献】特開昭63-059938(JP,A)
【文献】特表2004-520875(JP,A)
【文献】特開2018-075142(JP,A)
【文献】特開平05-023334(JP,A)
【文献】特開2008-154891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する送受信部と、送受信部が受信した超音波の受信信号からクラッタ信号を除去するクラッタ処理部と、クラッタ信号除去後の受信信号を用いてカラードプラ画像を作成するカラードプラ演算部とを備え、
前記クラッタ処理部は、受信信号の特徴量を検出する特徴量検出部と、特徴量に基づき、血流信号かクラッタ信号かを判別する判別部と、判別した結果に基づきクラッタ信号を抑制する抑制マップを生成する抑制マップ生成部と、抑制マップを受信信号に適用するクラッタ抑制部とを備え、
前記特徴量検出部は、前記受信信号を直交検波して得られるIQ信号の標準偏差を特徴量として検出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項2】
超音波を送受信する送受信部と、送受信部が受信した超音波の受信信号からクラッタ信号を除去するクラッタ処理部と、クラッタ信号除去後の受信信号を用いてカラードプラ画像を作成するカラードプラ演算部とを備え、
前記クラッタ処理部は、受信信号の特徴量を検出する特徴量検出部と、特徴量に基づき、血流信号かクラッタ信号かを判別する判別部と、判別した結果に基づきクラッタ信号を抑制する抑制マップを生成する抑制マップ生成部と、抑制マップを受信信号に適用するクラッタ抑制部とを備え、
前記特徴量検出部は、前記カラードプラ演算部が、クラッタ除去処理前のIQ信号を用いて算出した血流速度の分散を特徴量とすることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音波撮像装置であって、
前記特徴量検出部は、複数の特徴量を検出し、
前記抑制マップ生成部は、複数の特徴量に基づく判別結果を統合して前記抑制マップを生成することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項4】
超音波を送受信する送受信部と、送受信部が受信した超音波の受信信号からクラッタ信号を除去するクラッタ処理部と、クラッタ信号除去後の受信信号を用いてカラードプラ画像を作成するカラードプラ演算部とを備え、
前記クラッタ処理部は、受信信号の特徴量を検出する特徴量検出部と、特徴量に基づき、血流信号かクラッタ信号かを判別する判別部と、判別した結果に基づきクラッタ信号を抑制する抑制マップを生成する抑制マップ生成部と、抑制マップを受信信号に適用するクラッタ抑制部とを備え、
前記特徴量検出部は、前記受信信号を直交検波して得られるIQ信号の標準偏差、及び、クラッタ除去処理前の受信信号を用いて算出した血流速度の分散を含む複数の特徴量を検出し、
前記抑制マップ生成部は、複数の特徴量に基づく判別結果を統合して前記抑制マップを生成することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項1、2、4のいずれか一項に記載の超音波撮像装置であって、
前記判別部は、前記特徴量のヒストグラム解析により求めた閾値をカットオフ値とするフィルタ関数を作成し、血流とクラッタとを判別することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項に記載の超音波撮像装置であって、
前記判別部は、前記フィルタ関数として特性の異なる複数のフィルタ関数を作成することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項7】
請求項に記載の超音波撮像装置であって、
前記フィルタ関数の特性の違いによって異なるクラッタ抑制処理の程度を、ユーザーに選択させる表示部をさらに備えることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項8】
請求項1、2、4のいずれか一項に記載の超音波撮像装置であって、
前記クラッタ処理部は、前記受信信号に対し低域除去フィルタを用いた処理を行うフィルタ部をさらに備えること特徴とする超音波撮像装置。
【請求項9】
請求項に記載の超音波撮像装置であって、
前記フィルタ部は、前記クラッタ抑制部によってクラッタが抑制された受信信号に対し、前記低域除去フィルタを用いた処理を行うことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項10】
請求項に記載の超音波撮像装置であって、
前記特徴量検出部は、前記フィルタ部による低域除去処理後の受信信号を用いて特徴量を検出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項11】
超音波撮像装置の超音波送受信部が受信した信号を用いて、カラードプラ画像を生成する方法であって、
受信信号からクラッタ信号を除去するクラッタ処理ステップと、クラッタ信号除去後の受信信号を用いてカラードプラ画像を生成するカラードプラ演算ステップとを含み、
前記クラッタ処理ステップは、前記受信信号を直交検波して得られるIQ信号の標準偏差を含む、受信信号の特徴量を検出する特徴量検出ステップと、特徴量に基づき、血流信号かクラッタ信号かを判別する判別ステップと、判別した結果に基づきクラッタ信号を抑制する抑制マップを生成する抑制マップ生成ステップと、抑制マップを受信信号に適用するクラッタ抑制ステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載のカラードプラ画像を生成する方法であって、
前記クラッタ抑制ステップで受信信号を処理した後に、処理後の受信信号に低域除去フィルタを適用するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11に記載のカラードプラ画像を生成する方法であって、
受信信号に低域除去フィルタを適用するステップをさらに含み、
前記特徴量検出ステップに先立って、前記受信信号に前記低域除去フィルタを適用することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波撮像装置に関し、特にカラードプラ画像において体動によるクラッタ成分を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カラードプラ撮像は、検査対象中に含まれる移動体(主に血液)から反射されてくる超音波のドプラ効果を利用して、心臓や血管内の血流速度の2次元分布を、組織断層画像と重ねてカラー表示する撮像手法であり、超音波診断における臓器の血流表示として広く適用されている。
【0003】
検査対象から反射されてくる超音波信号には、血流からの信号以外に、心臓壁の動きなど血流に比べて遅い速度で動く組織からの不要な反射信号も含まれる。このような不要な反射信号はクラッタと呼ばれ、クラッタ成分が混入することで血流視認性が阻害されることから、カラードプラ撮像では、受信した超音波信号からクラッタ成分を除去するために、ウォールフィルタ、MIT(Moving Target Indicator)、或いはクラッタ除去フィルタなどと呼ばれる低域除去フィルタが用いることが一般的である。
【0004】
従来の低域除去フィルタは、クラッタ成分が速度の遅い組織からの反射信号であるという事実に基づき、周波数解析によるドプラシフトを基本として設計されている。
【0005】
フィルタの適用に当たっては、血流からの反射信号を減損することなく、クラッタ成分を効果的に除去することが必要であり、低域除去フィルタについて種々の提案がされている。例えば、特許文献1には、信号の分散値に基づいて、フィルタ処理における周波数軸を動的にシフトさせることにより、フィルタのカットオフ特性をクラッタ成分に合わせる技術や、フィルタ処理前の信号に基づいてパワーを求め、パワーを考慮してフィルタの係数を決める指標を変化させることなどが記載されている。
【0006】
一方、受信される超音波信号には、クラッタ成分とは別のノイズ(電気ノイズ等)なども含まれることから、クラッタ除去フィルタによる処理後に作成したカラードプラ画像に対し、ノイズ等の特性に基づく処理を施す技術(前掲の特許文献1や特許文献2等)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-8076号公報
【文献】特開2012-110706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の低域除去フィルタによるクラッタ除去は、血流速度より遅い速度で動く組織クラッタについては効果的に除去することができるが、クラッタ除去フィルタの特性は、一定の周波数以上の成分は通過させるというものであり、例えば、撮像中の被検体の体動に起因する成分などを除去することはできない。このような体動成分が残留クラッタとして含まれる場合、血流信号との弁別が困難となり、フィルタ処理後の信号から生成したカラードプラ画像では、残留クラッタが顕在化し、血管視認性を阻害する。
【0009】
本発明は、従来のクラッタフィルタでは除去できない体動などの血流信号以外の信号を効果的に除去し、血管視認性の良好な画像を取得する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、受信信号の解析によって、血流とクラッタ(血流以外の信号)との差異を最大化するような特徴量を決定し、この特徴量もとにクラッタ推定値(クラッタと推定される程度を示す値)を設定し、推定値に基づいてクラッタ信号を抑制する抑制係数マップ(以下、単に抑制マップという)を作成する。この抑制マップを受信信号(直交検波後のIQ信号)に掛け合わせることでクラッタ信号を抑制する。
【0011】
即ち本発明の超音波撮像装置は、超音波を送受信する送受信部と、送受信部が受信した超音波の受信信号からクラッタ信号を除去するクラッタ処理部と、クラッタ信号除去後の受信信号を用いてカラードプラ画像を作成するカラードプラ演算部とを備える。クラッタ処理部は、受信信号の特徴量を検出する特徴量検出部と、特徴量に基づき、血流信号かクラッタ信号かを判別する判別部と、判別した結果に基づきクラッタ信号を抑制する抑制マップを生成する抑制マップ生成部と、抑制マップを受信信号に適用するクラッタ抑制部とを備える。クラッタ処理部は、さらにクラッタフィルタを備えることができる。
【0012】
また本発明のカラードプラ画像生成方法は、受信信号からクラッタ信号を除去するクラッタ処理ステップと、クラッタ信号除去後の受信信号を用いてカラードプラ画像を生成するカラードプラ演算ステップとを含み、クラッタ処理ステップは、受信信号の特徴量を検出する特徴量検出ステップと、特徴量に基づき、血流信号かクラッタ信号かを判別する判別ステップと、判別した結果に基づきクラッタ信号を抑制する抑制マップを生成する抑制マップ生成ステップと、抑制マップを受信信号に適用するクラッタ抑制ステップとを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クラッタフィルタを適用する前或いは後に、血流信号とクラッタ信号との差異を最大化する指標(特徴量)を用いて作成した抑制マップを受信信号に乗算することで、周波数解析を基本とするフィルタ機能を補い、組織クラッタ以外の体動を含むクラッタ信号を効果的に抑制することができ、血管視認性の良いカラードプラ画像を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の超音波撮像装置の一実施形態を示すブロック図
図2図1のクラッタ処理部の構成を示すブロック図
図3】実施形態の超音波撮像装置によるカラードプラ画像生成のフローを示す図
図4】実施形態1のクラッタ抑制部の処理のフローを示す図
図5】パラメータの一例としてヒストグラム解析によるカットオフ設定を説明する図
図6】ユーザー設定の画面例を示す図
図7】クラッタ抑制マップの一例を示す図
図8】実施形態の効果を説明する図
図9】実施形態1の変形例の処理のフローを示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の超音波撮像装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態の超音波撮像装置1は、図1に示すように、超音波探触子2が接続される超音波送受信部として、超音波信号発生器12及び超音波受信部13と、超音波受信部13が受信した超音波信号(受信信号)に対し種々の信号処理や演算を行う信号処理部20と、超音波送受信部及び信号処理部20の動作を制御する制御部10と、を備える。さらに信号処理部20の処理結果である超音波画像などを表示する表示部14及び制御部10に対し、信号処理や制御に必要な情報、条件、指令などを入力するための入力部11を備えることができる。
【0017】
超音波探触子2は、被検体3に押し当てて超音波の送受信を行う装置であり、撮像手法や撮像対象に応じて異なる種々のタイプの超音波探触子があり、特に限定されないが、多数の圧電素子を1次元或いは2次元方向に配列した一般的なアレイ型探触子を用いることができる。
【0018】
超音波送受信部の機能は、一般的な超音波撮像装置と同様であり、超音波信号発生器12は、所定の周波数(送信周波数)の超音波パルスを発生し、所定のタイミングで超音波探触子2の各素子に送る。超音波受信部13は、図示しない整相部やA/D変換回路や受信データメモリを備え、フレーム毎に整相しA/D変換後の受信信号を受信データメモリに格納し、信号処理部20に送る。
【0019】
信号処理部20は、断層像形成部21、ドプラ速度演算部22、表示画像形成部23、メモリ24、及び、受信信号に対しクラッタ抑制のための処理を行うクラッタ処理部25を備えている。断層像形成部21、ドプラ速度演算部(カラードプラ演算部)22、及び表示画像形成部23の機能は、一般的な超音波撮像装置と同様である。簡単に説明すると、断層像形成部21は、超音波受信部13の受信データメモリからフレーム毎の受信信号を受け取り、パケット信号として表示画像形成部23に送る。なおパケットとは、同一方向に複数回照射したデータの同一地点(同一深度)からの反射エンコー信号のデータ列である。表示画像形成部23は、デジタルスキャンコンバータ(DSC)を有し、断層像形成部21からのデジタル信号を用いて表示部14に表示する断層像(Bモード像)を生成する。
【0020】
ドプラ速度演算部22は、不図示の直交検波器、自己相関器などを備え、直交検波後のIQ信号(同相信号/直交位相信号)を用いてドプラシフト量、血流速度及び分散、血流振幅強度など、を算出し、またドプラシフト量から、探触子に対する血流速度と向き(近づく向きか遠ざかる向き)を判別し、その結果を表示画像形成部23に送る。表示画像形成部23は、ドプラ速度演算部22が算出した血流速度に関する情報を、Bモード断層像に重畳してカラードプラ画像を生成する。メモリ24は、断層像形成部21からの信号やそれから作成したフレーム毎の断層像を一時的に保存するために使われる。
【0021】
クラッタ処理部25は、信号処理部15に入力した直交検波後のIQ信号或いはドプラ速度演算部22の中間データを用いて、クラッタ成分の除去に必要な処理を行う。このため、クラッタ処理部25は、図2に示すように、受信信号の特徴量を検出する特徴量検出部251と、特徴量に基づき、血流信号かクラッタ信号かを判別する判別部252と、判別した結果に基づきクラッタ信号を抑制する抑制マップを生成する抑制マップ生成部253と、抑制マップを受信信号に適用するクラッタ抑制部254と、フィルタ部255とを備える。
【0022】
特徴量検出部251が抽出する特徴量とは、クラッタと血流との物理的な違いを表すパラメータであり、例えば、IQ信号のパケット方向の振幅や標準偏差(ある深度の時間方向の標準偏差)などパケット信号から直接算出される特徴量や、ドプラ速度演算部22が算出する血流速度の平均速度、速度分散などである。特徴量検出部251は、パケット信号の信号値、或いはドプラ速度演算部22が算出したドプラ速度などの中間データを解析し、クラッタと血流を識別可能な特徴量を算出する。
【0023】
判別部252は、特徴量検出部251が算出した特徴量について、処理対象である受信信号において、血流とクラッタ(血流以外の信号)との差異を最大化するような特徴量の閾値を決定する。
【0024】
抑制マップ生成部253は、判別部252が決定した特徴量の閾値を用いて、クラッタ信号であると推定される割合としてクラッタ推定値を算出し、クラッタ推定値を係数とする抑制マップを決定する。このクラッタ推定値は、一つの特徴量だけを用いて決定してもよいが、複数の特徴量を組み合わせて算出することが好ましい。これにより、一つの特徴量を用いた場合よりも、抑制マップの精度すなわちクラッタと血流を識別の精度を向上することができる。
【0025】
生成される抑制マップは、Bモード画像の画像空間に対応する空間のマップとして決定される。クラッタ抑制部254は、パケット信号にこの抑制マップを乗算し、パケット信号のクラッタ成分を抑制する。
【0026】
フィルタ部255は、それを除くクラッタ処理部25の各部によるクラッタ抑制処理の精度が高い場合には、必須ではないが、クラッタ抑制部254の出力に対し適用される。フィルタ部255は、公知のウォールフィルタ、MITフィルタなどの低域除去フィルタを備え、クラッタ抑制部254による処理後のデータのクラッタを除去する。フィルタ部255による処理は、特徴量検出部251の前段にすることも可能である。
【0027】
上述した信号処理部20の機能の一部または全部は、メモリやCPU或いはGPUを備えた計算機で実現することができ、予め各部の機能を実現するように用意されたプログラムを計算機にアップロードすることで実行される。なお信号処理部20の一部の機能を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現することも可能である。またクラッタ処理部25は、学習済CNN(Convolutional Neural Network)などの学習モデルを含んでいてもよい。
【0028】
本実施形態の超音波撮像装置によるカラードプラ撮像時の動作の概要を図3に示す。
【0029】
まず超音波探触子2を被検体3の体表面に当てて、検査対象30である組織や臓器に対し所定の角度で超音波探触子2を走査しながら、パケット送受信を繰り返す。検査対象30からの反射波は、超音波探触子2で検出され、超音波受信部13で整相された後、フレーム毎に受信データメモリに収納された後、断層像形成部21、ドプラ速度演算部22及びクラッタ処理部25にそれぞれ送られる(S1)。
【0030】
断層像形成部21は、フレーム毎のデータを用いて断層像(Bモード像)を形成し、メモリ24に格納するともに、メモリ24を介して表示画像形成部23に送る(S2)。表示画像形成部23はメモリ24から受け取った断層像を、表示部14に表示される画像に変換する。これにより表示部14には、所定の時間分解能で検査対象30の映像が表示される。
【0031】
一方、ドプラ速度演算部22は、パケット信号を直交検波して、IQ信号に変換した後、パケット信号間の相関に基づき、位置毎に周波数解析を行い、速度を算出する(S3)。この速度演算は、フィルタ処理を行っていない信号に対しなされるため、この速度情報には、血流速度のみならず血管壁速度や体動に基づく速度などが混在している。このフィルタ処理前にドプラ速度演算部22が算出した速度情報を中間データと呼ぶ。但し、後述の特徴量の算出に速度情報を用いない場合には、この処理S3は不要である。
【0032】
クラッタ処理部25は、ドプラ速度演算部22から直交検波後のIQ信号や上述した中間データを入力し、まずクラッタ抑制処理を行う(S4)。
【0033】
クラッタ抑制処理は、図4に示すように、まず特徴量検出部251がこれら信号或いはデータから血流かクラッタかを判別可能な特徴量を抽出する(S41)。特徴量は、単一の特徴量でもよいし、複数の項目(例えば振幅、速度、分散、標準偏差など)についてそれぞれ抽出してもよい。判別部252は、1ないし複数の特徴量のそれぞれについて、クラッタか否かを判別し(S42)、抑制マップ生成部253は、各特徴量を組み合わせて、クラッタ判別結果に基づくクラッタ推定値のマップを作成する(S43)。マップは、パケット信号が得られた位置毎のクラッタの推定値を表すマップで、クラッタか否かを1か0の二値を取るものでもよいし、判別がグレーゾーンを含む判別の場合には、0と1との間の中間的な値を取るものであってもよい。
【0034】
クラッタ抑制部254は、受信データメモリから入力したデータ(パケットのIQ信号)に対し、クラッタ推定値マップを適用し、クラッタが抑制されたデータを得る(S44)。その後、フィルタ部255によりクラッタを除去する(S5)。
【0035】
上述したクラッタ処理部25による処理後のデータは、ドプラ速度演算部22に渡され、ここでクラッタ信号抑制後のIQ信号の位相情報を用いた演算を行い、ドプラ速度やその分散等を算出する(S6)。算出された血流速度情報は、送信超音波信号の向きに対する角度によって異なるカラーを付与されたカラードプラ情報として、表示画像形成部23に入力され、表示画像形成部23において、断層像に重畳されたカラードプラ映像に変換され、表示部14に表示される(S7)。
【0036】
本実施形態の超音波撮像装置によれば、IQ信号やドプラ速度演算22における処理途中のデータ(速度情報)をもとにクラッタと血流とを識別し、クラッタのみを抑制するクラッタ抑制マップを作成し、もとの信号に適用することで、ドプラ周波数に基づく低域除去フィルタのみの処理に比べて、クラッタ除去の精度を高めることができ、体動や血流に紛れやすいクラッタ成分を抑制することができ、血流の視認性を大幅に向上することができる。
【0037】
次に、クラッタ処理部の処理を、特徴量の具体例を挙げて説明する。
【0038】
<実施形態1>
本実施形態では、クラッタと血流とを識別可能な特徴量として、血流速度の分散値及びIQ標準偏差を用いる場合を説明する。
【0039】
まず特徴量検出部251は、特徴量として、IQ信号の信号値(振幅)の標準偏差及び血流速度の分散値を算出する。IQ標準偏差値σは、クラッタ処理部25に入力されたIQ信号から算出する。速度分散値は、IQ信号から算出した血流速度(位置毎の速度)の分散値であり、ドプラ速度演算部22が、直交検波後のIQ信号から血流速度を算出する際に合わせて分散値を算出する。特徴量検出部251は、ドプラ速度演算部22がクラッタ処理前に算出した血流速度の分散値を中間データとして受け取り、これを特徴量とする。
【0040】
次に判別部252が、IQ標準偏差値σ及び速度分散値について、ヒストグラム解析を行い、検査対象である臓器実質(組織)と体動に起因するクラッタを弁別する閾値を判別分析法などの手法により設定する。図5(A)にヒストグラムの一例を示す。ここではIQ標準偏差値σ及び速度分散値を一般化して計測値xとしたときの計測値xのヒストグラムを示している。図5(A)に示すように、検査対象である臓器実質(組織)や血流の信号値は高頻度に現れるが、クラッタの信号は、低頻度領域に分散して現れる。判別部252は、体動信号を抑制するために、両者を弁別可能な値をカットオフ値とする抑制フィルタ500を作成する。抑制フィルタとしては、閾値を境に単調減少単調増加する関数を採用することができ、ここでは次式(1)で表されるシグモイド関数でモデル化している。図5(B)に、シグモイド関数を用いた抑制フィルタ500の一例を示す。
【0041】
【数1】
式中、xは計測値、xcはカットオフ値、xwは幅(体動とそれ以外の部分との重複を許容する幅)、aはオフセット(低頻度の組織及び血流信号を除去してしまわないためのオフセット)である。
【0042】
カットオフ値は、ヒストグラムから決定した閾値を用いることができる。幅xwやオフセットaは、経験値やファントムを用いたシミュレーション等をもとに予め所定の値に設定しておくことができる。但し、その設定の仕方によって、抑制フィルタ500の特性が異なってくるので、ユーザーが所望する特性に応じて設定するようにしてもよい。例えば幅xwやオフセットaを小さくすると、抑制の度合いは大きくなるが、本来抑制すべきではない信号を抑制してしまう可能性も高まる。一方、幅やオフセットを大きくすると、体動が十分に抑制されない可能性も生じる。この特性を幅xwやオフセットaの値に応じて、例えば「Low」、「Mid」、「High」などのように表し、表示部14を介してユーザーが所望する特性を選択するようにしてもよい。
【0043】
図6に表示の画面の一例を示す。この例では、例えば、フィルタ部255によるクラッタ除去処理後のカラードプラ像601を表示するとともに、クラッタ処理部25による処理の程度(「High」、「Low」)を示すブロック602を表示している。ユーザーはカラードプラ像601を確認して体動によって血流の視認性が阻害されている様子を確認して、体動抑制の程度を選択する。なお図6は、フィルタ部255による処理後のカラードプラ像を表示する例であるが、表示画像として、フィルタ部255による処理前のカラードプラ像、Bモード像、などを表示させてもよいし、単に、ブロック602の表示だけでもよい。
【0044】
なお判別部252で採用する識別モデルは、式(1)で示すシグモイド関数に限らず、閾値を境に単調減少単調増加する関数であれば採用することができる。例えば、Step関数、Error関数などを用いることができる。
【0045】
次いで抑制マップ生成部253は、複数の特徴量、ここではIQ標準偏差及び速度分散値、について、それぞれ作成された抑制フィルタを用いて、最終的なクラッタ抑制マップを作成する。最終的なクラッタ抑制マップ700は、例えば、各位置で0から1までの係数を有し、図7に示すように、単に複数の抑制フィルタ700A、700Bを掛け合わせたものでもよいし、重みを加えてもよい。
【0046】
クラッタ抑制部254が、クラッタ抑制フィルタ700を、クラッタ処理部25に入力されたIQ信号に適用し、クラッタ抑制後のデータを得る。このデータに対しフィルタ部255が公知のウォールフィルタを適用することで、クラッタ処理部25による処理が完了する。
【0047】
<実施形態1の効果>
実施形態1のクラッタ抑制処理を肝臓撮像に適用した際の想定される効果を説明する。判別部252が作成した各特徴量の抑制フィルタのパラメータ(シグモイド関数を決定するためのパラメータ)、すなわちIQ信号の標準偏差のカットオフ値、幅は、IQ信号の感度レベルに応じた値を設定することができる。また、オフセット値は0~1の値を有する。ここではパラメータの値を異ならせて、「Low」と「High」の抑制フィルタを作成した。
【0048】
撮像により得られる画像を図8に模式的に示す。図8(A)は、クラッタ抑制を行わずに、通常のWF処理のみを行った場合(800)、図8(B)、(C)は、WF処理に先立って、本実施形態の処理に従い、クラッタ抑制処理を行った場合、(B)は「Low」の抑制フィルタとした場合(801)、(C)は「High」の抑制フィルタとした場合(802)である。
【0049】
図8に示す画像から、クラッタ抑制効果による血管視認性の向上を確認することで、本実施形態の抑制処理を行うことにより、血流信号を低減することなく、従来法では抑制不十分であった体動信号が抑制されていることが確認できる。
【0050】
以上の説明からも明らかなように、本実施形態によれば、ドプラ速度演算に用いるIQ信号自体の特性を分析し、血流信号と体動クラッタとを識別する特徴量を用いてIQ信号に含まれるクラッタ成分を抑制しておくことにより、ドプラ周波数を基本とするフィルタでは除去できないクラッタ成分についても、効果的に抑制することができる。またこのクラッタ抑制処理と公知のクラッタフィルタとを組み合わせることで、血流の視認性に優れたカラードプラ画像を表示することができる。
【0051】
また本実施形態によれば、複数の特徴量を組み合わせて作成した抑制マップを用いることで、強度や周波数が異なる種々の体動に対応した抑制処理を行うことができる。さらに本実施形態によれば、抑制の程度の選択画面を表示することによって、ユーザーが画像を見て抑制の程度を判断・選択できるので、検査対象や撮像条件の異なる画像についても、効果の高い抑制処理を行うことができる。
【0052】
<実施形態1の変形例>
実施形態1では、抑制マップを作成するために、IQ信号の標準偏差と速度分散の2つの特徴量を組み合わせて用いたが、一方のみを用いてもよい。一つの特徴量を用いる場合、IQ信号の標準偏差を用いることが好ましく、これにより振幅の大きな体動に対し高い抑制効果を得ることができる。この場合、図3に示す処理のうちS3で示す処理は省略できる。
【0053】
また実施形態1では、クラッタ抑制部254によるクラッタ抑制処理を、フィルタ部255による処理(図4:S44)に先立って行う場合を示したが、図9に示すように、フィルタ部255による低域除去後に、IQ信号や速度情報を用いた特徴量に基づくクラッタ抑制処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1:超音波撮像装置、10:制御部、11:入力部、12:超音波信号発生器、13:超音波受信回路、14:表示部、20:信号処理部、21:断層像形成部、22:ドプラ速度演算部、23:表示画像形成部、24:メモリ、25:クラッタ処理部、251:特徴量検出部、252:判別部、253:抑制マップ生成部、254:クラック抑制部、255:フィルタ部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9