(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】統合失調症を評価するためのディジタル・バイオマーカ
(51)【国際特許分類】
G16H 50/30 20180101AFI20240412BHJP
【FI】
G16H50/30
(21)【出願番号】P 2021518709
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2019076972
(87)【国際公開番号】W WO2020070318
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-15
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【氏名又は名称】大房 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ゴッセンズ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】キルヒェンマン,ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】リンデマン,ミヒャエル
【審査官】森田 充功
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0377727(US,A1)
【文献】特表2018-512202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0075464(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0121559(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0114889(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0112899(US,A1)
【文献】特開2015-228202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者
の統合失調症を評価する
ためのコンピュータ実装方法であって、
a)
プロセッサによって、前記被験者によって移動体デバイスが使用されていた第1既定時間枠内における前記移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用行動パラメータを判定するステップと、
b)
前記プロセッサによって、前記判定した少なくとも1つの使用行動パラメータを基準と比較することによって、統合失調症を評価するステップと、
を含
み、
前記少なくとも1つの使用行動パラメータが、
(i)アプリ使用の記録、画面上の記録、および/または、Wi-FiおよびBluetoothの記録、
(ii)タッチ行動、
から成るリストから選択された記録変数であり、
統合失調症を評価する前記ステップが、統合失調症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善を判定するステップを含み、
前記少なくとも1つの使用行動パラメータが、以下
(i)アプリ使用:非ソーシャル・アプリおよび/またはゲームの時間ならびに頻度の減少、ソーシャル・アプリの頻度増加およびそれに費やす時間の増加、アプリ使用に費やす総時間量の減少、患者が電話機を使用する毎の制限解錠期間の減少、1日におけるネットワーク(Wi-Fi)およびデバイス(bluetooth)数の増加、最も使用するネットワーク(ホーム)への接続時間の減少、および/または最も使用するネットワークとは異なるネットワークへの接続時間の増加、
(ii)タッチ行動:非ソーシャル・アプリおよび/またはゲームにおける活動および対話処理の減少、ソーシャル・アプリとの対話処理の増加、スワイプ・ジェスチャによって測定した、アプリにおけるブラウズ行動の減少、タイプ入力行動量の増加、ソーシャル・アプリにおけるタイプ入力行動量の増加、特定の句読点の使用増加、タイプ入力行動の高速化、
のように改善した場合に、統合失調症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善が判定される、
方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記統合失調症を評価するステップが、非社会性、アロギー、無関心、無快感症、および注意力の低下から成る、統合失調症に伴う陰性症状の一群から選択された、少なくとも1つの陰性症状を評価するステップを含む、方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、前記統合失調症を評価するステップが、統合失調症に伴う前記少なくとも1つの陰性症状の改善を判定するステップを含む、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の方法において、移動体デバイスについての前記使用データが、電話機使用データ、アプリケーション(アプリ)使用データ、周囲ノイズ・データ、移動キャプチャ・データ、および位置キャプチャ・データから成る一群から選択されたデータを含む、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の方法において、前
記タッチ行動
は、タッチ対話処理および/またはタイプ入力行動
のうちの少なくとも一方を含む、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において
、特定の句読点の使用増加
は、疑問符および感嘆符
のうちの少なくとも一方の使用増加
を含む、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載の方法において、前記基準が、前記第1既定時間枠に先立つ第2既定時間枠内において移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合において判定された少なくとも1つの使用行動パラメータである、方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記第2および第1時間枠の間に、前記被験者が、統合失調症の治療またはそれに伴う陰性症状の内少なくとも1つに対する治療を受けている、方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、前記治療が薬剤に基づく治療である、方法。
【請求項10】
請求項8または9記載の方法において、統合失調症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善が、治療成功を示す、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載の方法において、前記移動体デバイスが、スマート・フォン、スマートウォッチ、ウェアラブル・センサ、携帯用マルチメディア・デバイス、またはタブレット・コンピュータである、方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項記載の方法において、前記被験者が人間である、方法。
【請求項13】
移動体デバイスであって、プロセッサと、使用データを記録する少なくとも1つのセンサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれ、前記デバイス上で実行すると、請求項1から12のいずれか1項記載の方法を実行するソフトウェアとを備える、移動体デバイス。
【請求項14】
システムであって、使用データを記録する少なくとも1つのセンサを含む移動体デバイスと、プロセッサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれたソフトウェアであって、前記デバイス上で実行すると、請求項1から12のいずれか1項記載の方法を実行する、ソフトウェアとを含むリモート・デバイスとを備え、前記移動体デバイスおよび前記リモート・デバイスが互いに動作可能にリンクされる、システム。
【請求項15】
統合失調症または自閉スペクトラム症を評価し、前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を分析するための、請求項13記載の移動体デバイスまたは請求項14記載のシステムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統合失調症または自閉スペクトラム症の診断および疾患管理の分野に関する。具体的には、本発明は被験者における統合失調症または自閉スペクトラム症を評価する方法に関し、この方法は、被験者によって移動体デバイスが使用されていた第1既定時間枠内における前記移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用行動パラメータを判定するステップと、判定した少なくとも1つの使用行動パラメータを基準(reference)と比較することによって、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するステップとを含む。また、本発明は移動体デバイスに関し、この移動体デバイスは、プロセッサと、使用データを記録する少なくとも1つのセンサと、データベースと、前記デバイスに有形的に(tangibly)埋め込まれたソフトウェアであって、前記デバイス上で実行する(running)と、前述の方法を実行する(carry out)、ソフトウェアとを備えている。また、本発明によって、システムも意図され(comtemplate)、このシステムは、使用データを記録する少なくとも1つのセンサを含む移動体デバイスと、プロセッサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれたソフトウェアであって、前記デバイス上で実行すると、前述の方法を実行するソフトウェアとを含むリモート・デバイスとを備え、前記移動体デバイスおよび前記リモート・デバイスが、動作可能に互いにリンクされる。また、本発明は、統合失調症を評価し、データ集合を分析するための移動体デバイスまたはシステムの使用に関し、データ集合は、前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含む。
【背景技術】
【0002】
統合失調症は、適正に扱うためには多大な医療および財政的努力を必要とする精神疾病である。統合失調症に起因して、10年から25年の間の平均寿命の短縮が生ずる。この疾病およびその原因については、まだ理解が乏しく、具体的には、肥満、栄養失調、座りがちな生活、および喫煙というような原因について議論が進んでいる最中であり、精神病治療または薬物(大麻)の誤用も、危険性を増加させるおそれがある。統合失調症の危険因子には、性別、知能、およびうつ病のような他の精神疾患の存在が含まれる。
【0003】
統合失調症患者(people)の約75%には、再発による継続的な障害がある。更に、世界中で約1600万人の人々が、健康状態によって(from the condition)中程度の障害または厳しい障害を有することが疑われている。平均自殺率は、統合失調症患者の方が高い。人々の中には完全に回復する者や、少なくとも社会にうまく溶け込む者もいるが、失業が問題となっている。統合失調症患者の殆どは、共同体の支援によって独立して生活することができる。一般に、統合失調症に対する成果は、先進国において高いように思われる。
【0004】
従来の統合失調症の診断には、精神保険専門家による評価だけでなく、自己報告体験が含まれる。アメリカ精神医学会が発行したDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(精神障害の診断および統計の手引き)(DSM5)の第5版、または世界保健機構の疾病および関連する健康問題の国際的統計分類(ICD-10)によって、種々の基準(criteria)が確立されている。DSM5にしたがって統合失調症を診断するためには、少なくとも1か月の期間にわたって2つの基準を満たさなければならず、少なくとも6ヶ月にわたり社会的または職業的機能に重大な影響を及ぼす。人は、妄想、幻覚、解体した会話に苦しんでいなければならなかった。第2の兆候は、負の症状、あるいはひどく纏まりがない行動または緊張病性行動である可能性がある。ICD-10の基準は、いわゆるシュナイダー一級症状(Schneiderian first-rank symptom)を重視する。実際には、2つのシステム間の一致(agreement)は、しかしながら、高い。
【0005】
統合失調症には種々のサブタイプが存在し、妄想型、解体型、緊張型、未分化型、残存型、分裂病後抑うつ型、単純精神分裂病型、他の精神分裂病型がある(DSM5またはICD-10参照)。
【0006】
統合失調症の鑑別診断は、難しい場合もある。具体的には、様々な他の精神疾患、例えば、双極性障害、境界性パーソナリティ障害、薬物中毒、薬物誘発精神病、社交不安症、回避性パーソナリティ障害、および統合失調型パーソナリティ障害に、同様の症状が随伴する場合がある。更にまた、神経学的疾患または通常疾患から同様の症状が現れる場合がある。具体的には、代謝障害、全身感染、梅毒、エイズ痴呆症候群、てんかん、辺縁系脳炎、脳病変、脳卒中、多発性硬化症、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、ならびにアルツハイマー病、ハンチントン病、前頭側頭葉変性症、およびレビー小体型認知症のような認知症である。
【0007】
いわゆる陽性/陰性症状評価尺度(PANSS:Positive and Negative Syndrome Scale)は、統合失調症患者の症状の重症度を測定するために使用される医学的尺度である。代わりに、簡易陰性症状尺度(BNSS:Brief Negative Symptom Scale)を適用してもよい。双方の尺度は、精神健康専門家によって行われる問診に基づき、比較可能な評価を与えるためには、面談者の豊富な経験を必要とする。
【0008】
スマート・フォンを検出器として使用し、評価のためにリモート・データベース・システムを使用して、統合失調症を患う患者をディジタル的に表現し、彼らを監視するためのスマート・フォン・データの使用について、いくつかの報告がある(Torous 2016; Wang 2016)。
【0009】
自閉スペクトラム症は、古典的自閉症および関連する医学的状態を含む神経発達障害である。自閉スペクトラム症は、1,000人の内約6人の有病率を有すると考えられる。この比率は、異なる文化および民族背景間で一貫すると考えられる。しかしながら、男性の方が女性よりも多く罹るように思われる。典型的な症状には、社会的意思疎通および社会的交流における問題、ならびに行動、関心、または活動の限定された反復パターンが含まれる。症状は、大抵の場合、1歳および2歳の間に認識される。長期の問題には、関係の構築および維持、職業の継続、および日常作業の実行が難しいことが含まれるとして差し支えない。DSM5は、自閉症、アスペルガー症候群、特に指定がない広汎性発達障害(PDD-NOS)、および自閉スペクトラム症のグループに該当する障害として、小児期崩壊性障害を認識する。遺伝的理由および環境的影響が、潜在的な危険因子として論じられている。
【0010】
しなしながら、罹患患者(affected patients)において統合失調症および/または自閉スペクトラム症を評価するための信頼性の高い手段(measures)が求められている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の根底にある技術的課題は、以上で述べた要望に応じる手段および方法の提供において認めることができる。技術的課題は、特許請求の範囲において特徴化し、以下で本明細書において説明する実施形態によって解決する。
【0012】
本発明は、被験者において統合失調症または自閉スペクトラム症を評価する方法に関し、
a)被験者によって移動体デバイスが使用されていた第1既定時間枠内における前記移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用挙動パラメータを判定するステップと、
b)判定した少なくとも1つの使用挙動パラメータを基準と比較することによって、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するステップとを含む。
【0013】
通例、この方法は、更に、ステップ(b)において実行した比較に基づいて、被験者における統合失調症または自閉スペクトラム症に伴う陰性症状の改善、永続性、または悪化を判定するステップ(c)を含む。ある実施形態では、この方法は、ステップ(a)の前に、第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を、移動体デバイスを使用する被験者から入手するステップを含んでもよい。しかしながら、通例、この方法は、第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含む既存のデータ集合に対して実行される生体外方法であり、前記被験者との物理的な対話を全く必要としない。
【0014】
方法は、本発明にしたがって言及される場合、本質的に前述のステップから成る方法、または追加のステップを含んでもよい方法を含む。
以下で使用する場合、「有する」(have)、「備える」(comprise)、または「含む」(include)という用語、あるいはこれらの任意の文法的変形は、非排他的に使用されるものとする。つまり、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴の他に、このコンテキストで記述されるエンティティ内に他の特徴がない状況、および1つ以上の別の特徴がある状況の双方を指すことができる。一例として、「AはBを有する」、「AはBを備える」、および「AはBを含む」という表現は、B以外には、Aには他のエレメントがない(即ち、Aが排他的にBだけから成る)状況、ならびにB以外にも、エレメントC、エレメントCおよびD、または更に他のエレメントでさえ、というように、エンティティAには1つ以上の他のエレメントもある状況の双方を指すことができる。
【0015】
更に、注記すべきは、「少なくとも1つ」(at least one)、「1つ以上」(one or more)という用語、あるいは特徴またはエレメントが1回(once)もしくは1回よりも多く出てきてもよいことを示す同様の表現は、通例、それぞれの特徴またはエレメントを導入するときに1回だけ使用されるということである。以下では、殆どの場合、それぞれの特徴またはエレメントに言及するとき、それぞれの特徴またはエレメントが1回または1回よりも多く出てくるかもしれないという事実にも拘わらず、「少なくとも1つ」または「1つ以上」という表現は繰り返されない。
【0016】
更に、以下で使用する場合、「特に」(particularly)、「更に特定すれば」(more particularly)、「具体的には」(specifically)、「更に具体的には」(more specifically)、「通例」(typicaly)、「更に典型的には」(more typically)という用語、または同様の用語は、代わりの可能性を制限せずに、追加の/代わりの特徴と併せて使用される。つまり、これらの用語によって導入される特徴は、追加の/代わりの特徴であり、請求項の範囲を限定することは全く意図していない。当業者には認められるであろうが、本発明は、代わりの特徴を使用することによっても実行することができる。同様に、「本発明の実施形態における」(in an embodiment of the invention)または同様の表現によって導入される特徴は、追加の/代わりの特徴であることを意図しており、本発明の代替実施形態に関して全く限定せず、発明の範囲に関して全く限定せず、更に本発明の他の追加の/代わりの特徴または追加でない/代わりでない特徴と共にというようにして、導入される特徴を組み合わせる可能性に関して全く限定しない。
【0017】
本方法は、一旦第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合が取得されたなら、被験者によって移動体デバイス上で実行することができる。通例、移動体デバイス、およびデータ集合を取得するデバイスは、物理的に同一デバイス、即ち、同じデバイスでよい。このような移動体デバイスは、通例、データ取得手段、即ち、物理パラメータを定量的または定性的に検出あるいは測定し、これらを電子信号に変換し、本発明による方法を実行するために使用される移動体デバイスにおける評価ユニットに送信する手段を備えるデータ取得ユニットを有する。データ取得ユニットは、データ取得手段を備え、即ち、物理パラメータを定量的または定性的に検出または測定し、これらを電子信号に変換し、移動体デバイスから離れており本発明による方法を実行するために使用されるデバイスに送信する手段を備える。通例、前記データ取得手段は、少なくとも1つのセンサを含む。尚、1つよりも多いセンサ、即ち、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、またはそれより多い異なるセンサを移動体デバイスにおいて使用できることは理解されよう。データ取得手段として使用される典型的なセンサは、ジャイロスコープ、磁力計、加速度計、近接センサ、温度計、歩数計、指紋検出器、タッチセンサ、ボイスレコーダ、光センサ、圧力センサ、位置データ検知器、カメラ、およびGPS等というようなセンサである。評価ユニットは、通例、プロセッサと、データベースと、ソフトウェアとを備える。ソフトウェアは、前記デバイスに有形的に埋め込まれ、前記デバイス上で動作すると、本発明の方法を実行する。更に典型的には、このような移動体デバイスは、評価ユニットによって実行された分析の結果をユーザに提示することを可能にする、画面のようなユーザ・インターフェースも備えることができる。
【0018】
あるいは、本方法は、前記データ集合を取得するために使用された移動体デバイスに関して離れているデバイス上で実行することもできる。この場合、移動体デバイスは、単に、データ取得手段、即ち、物理パラメータを定量的または定性的に検出あるいは測定し、これらを電子信号に変換し、この移動体デバイスから離れており本発明による方法を実行するために使用されるデバイスに送信する手段を備える。通例、前記データ取得手段は、少なくとも1つのセンサを備える。尚、移動体デバイスでは、1つより多いセンサ、すなわち、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、またはそれより多い異なるセンサを使用できることは理解されよう。データ取得手段として使用される典型的なセンサは、ジャイロスコープ、磁力計、加速度計、近接センサ、温度計、歩数計、指紋検出器、タッチセンサ、ボイスレコーダ、光センサ、圧力センサ、位置データ検知器、カメラ、およびGPS等というようなセンサである。つまり、移動体デバイスおよび本発明の方法を実行するために使用されるデバイスは、物理的に異なるデバイスであってもよい。この場合、移動体デバイスは、任意のデータ送信手段によって、本発明の方法を実行するために使用されるデバイスと対応することができる。このようなデータ送信は、同軸、ファイバ、光ファイバ、または撚り線対の10BASE-Tケーブルというような、永続的物理接続または一時的物理接続によって達成することができる。あるいは、例えば、Wi-Fi、LTE、LTE-Advanced、またはBluetoothのような無線波を使用する一時的ワイヤレス接続または永続的ワイヤレス接続によって達成することもできる。したがって、本発明の方法を実行するための唯一の要件は、移動体デバイスを使用する被験者から得られる、第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合の存在である。前記データ集合は、取得側移動体デバイスから永続的または一時的メモリ・デバイスに送信または格納することもでき、後にメモリ・デバイスを使用して、本発明の方法を実行するために使用されるデバイスにデータを転送することができる。この設定で本発明の方法を実行するリモート・デバイスは、通例、プロセッサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれ、前記デバイス上で動作しているときに、本発明の方法を実行するソフトウェアを備える。更に典型的には、前記デバイスは、画面のようなユーザ・インターフェースも備えることができ、評価ユニットによって実行された分析の結果をユーザに提示することを可能にする。
【0019】
本明細書において使用する場合、「評価する」(assessing)という用語は、被験者が統合失調症または自閉スペクトラム症を患っているか否か、および/またはそれに伴う1つ以上の陰性症状を呈するか否か判定すること、またはその診断を行うための補助を提供することを意味する。通例、本明細書において呼ばれる評価とは、前記陰性症状の改善、永続、または悪化を判定すること、更に典型的には、前記陰性症状の改善を判定することを含む。当業者には理解されるであろうが、このような評価は、検査対象の被験者の100%について正しいことが好ましいが、大抵の場合そうではないとして差し支えない。しかしながら、この用語では、統計的に有意な部分の被験者を正しく評価できなければならない。一部分が統計的に有意であるか否かは、例えば、信頼区間の特定、p値特定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定等の、様々な周知の統計的評価ツールを使用すれば、当業者がこれ以上面倒なことをする必要なく、判定することができる。詳細については、Dowdy and Wearden, Statistics for Research(研究のための統計学), John Wiley & Sons, New York 1983において見ることができる。通例見込まれる信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、および少なくとも95%である。p値は、通例では、0.2、0.1、0.05である。つまり、本発明の方法は、通例、第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を評価する手段を提供することによって、統合失調症または自閉スペクトラム症の評価を補助する。また、この用語は、統合失調症または自閉スペクトラム症のあらゆる種類の診断、監視、または経過観察(staging)も包含する。
【0020】
本発明の方法の実施形態では、前記統合失調症を評価するステップは、非社会性、アロギー、無関心、無快感症、および注意力の低下から成る、統合失調症に伴う陰性症状の一群から選択された、少なくとも1つの陰性症状を評価するステップを含む。通例、前記統合失調症を評価するステップは、統合失調症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善を判定するステップを含む。
【0021】
本発明の方法の他の実施形態では、前記自閉スペクトラム症を評価するステップは、 社会的意思疎通および社会的交流、ならびに行動、関心、または活動の限定された反復パターンから成る、自閉スペクトラム症に伴う陰性症状の一群から選択された、少なくとも1つの症状を評価するステップを含む。通例、前記自閉スペクトラム症を評価するステップは、自閉スペクトラム症に伴う少なくとも1つの症状の改善を判定するステップを含む。
【0022】
本明細書において使用する場合、「統合失調症」(schizophrenia)という用語は、異常行動および現実を理解する能力低下を特徴とする精神障害を指す。典型的な陰性症状には、非社会性、アロギー、無関心、無快感症、および注意力低下が含まれる。統合失調症を患う被験者は、心配、うつ、または薬物乱用障害というような付加的な精神的問題も有する場合がある。これらの症状は、通例、青年期に最初に現われ、長年にわたって徐々に悪化する。統合失調症の様々な原因には、薬物乱用、妊娠中の栄養摂取、または感染症のような環境的原因、あるいは遺伝的原因が含まれ、これらの原因について論じられている。この用語は、本明細書において使用する場合、統合失調症の全てのサブタイプ、即ち、妄想型、解体型、緊張型、未分化型、残存型、分裂病後抑うつ型、単純精神分裂病型、または他の精神分裂病型(DSM5またはICD-10参照)を包含する。
【0023】
統合失調症は、通例、精神健康専門家によって被験者に問診し、陽性/陰性症状評価尺度(PANSS)または 簡易陰性症状尺度(BNSS)を適用することによって診断することができる。
【0024】
統合失調症のための治療法(ttherapeutic measures)には、アリピプラゾール、アセナピン、ブレクスピプラゾール、カリプラジン、クロルプロマジン、フルフェナジン、イロペリドン、ロクサピン、ルラシドン、モリンドン、パリペリドン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、リスペリドン、トリフルオペラジン、アミスルプリド、オランザピン、クエチアピン、ハロペリドール、およびクロザピンというような抗精神病薬による処置、または理学療法が含まれる。更にまた、心理学的および/または社会的カウンセリングも適した方法である。
【0025】
本明細書において使用する場合、「自閉スペクトラム症」(autism spectrum disorder)という用語は、自閉症および関連する医学的状態を含む一群の神経発達障害を指す。典型的な症状には、社会的意思疎通および社会的交流における問題、ならびに行動、関心、または活動の限定された反復パターンが含まれる。症状は、大抵の場合、1歳および2歳の間に認識される。長期の問題には、関係の構築および維持、職業の継続、および日常作業の実行が難しいことが含まれるとして差し支えない。DSM5は、自閉症、アスペルガー症候群、特に指定がない広汎性発達障害(PDD-NOS)、および自閉スペクトラム症のグループに該当する障害として、小児期崩壊性障害を認識する。環境の影響だけでなく、遺伝的理由も、潜在的な危険因子として論じられている。
【0026】
自閉スペクトラム症の患者(patient)を治療するために使用することができる薬剤には、神経伝達物質再取り込み阻害剤(フルオキセチン)、三環系抗うつ薬(イミプラミン)、抗けいれん薬(ラモトリジン)、非定型抗精神病薬(クロザピン)、およびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(リバスチグミン)が含まれる。
【0027】
本明細書において使用する場合、「被験者」(subject)という用語は、通例、ほ乳類に関する。本発明による被験者は、通例、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っている、またはそれが疑われるのでもよい。即ち、前記疾患に伴う陰性症状の一部または全てを既に示すのでもよい。
【0028】
本発明の方法の実施形態では、前記被験者は人間である。
「少なくとも1つの使用行動パラメータ」(at least one usage behavior parameter)という用語は、本発明にしたがって、1つ以上の使用行動パラメータを判定できる、即ち、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、またはそれ以上の数の異なる行動パラメータ(performance parameter)を判定できることを意味する。つまり、本発明の方法にしたがって判定できる異なる使用行動パラメータの数には上限がない。しかしながら、判定される移動体デバイス使用データのデータ集合毎に、1つおよび12個の間の異なる使用行動パラメータがあるのが通例である。
【0029】
本明細書において使用する場合、「使用行動パラメータ」(usage behavior parameter)という用語は、移動体デバイスに関する被験者の使用行動を示すパラメータを指す。これは、通例、被験者がデバイスを身につけているときまたは携行しているときに測定される被験者の更に一般的な行動を含む。例えば、本発明による移動体デバイスは、スマート・フォンであってもよい。本発明にしたがって適用されるデータ集合は、既定の時間期間にわたって記録された前記スマート・フォンについての使用データを含む。前記データに基づいて、スマート・フォンに関する被験者の使用行動を反映するユーザ行動パラメータ、例えば、頻度、使用または不使用(受動的使用)の種類、あるいは使用強度(usage intensity)等を計算することができる。更に典型的には、使用行動パラメータ(1つまたは複数)は、統合失調症の場合には以下の表1および/または表2から選択された記録変数(recorded variable)であり、また自閉スペクトラム症の場合以下の表4および/または表5から選択された記録変数である。即ち、電話機およびアプリ使用パラメータ、具体的には、連絡先(ID数)、通話(頻度、時刻、通話時間(duration)、方向(即ち、着呼または発呼)、メッセージSMS(頻度、使用した文字数、使用期間(duration)、方向)、アプリケーション(アプリ)使用(アプリの名称、頻度、時刻、使用期間)、使用中の画面(頻度、時刻、使用期間)、WIFIおよび/またはbletoothの使用(可視WIFIおよび/またはbluetooth接続の数、使用した接続の数)、周囲音響パラメータ、具体的には、音量および調子(音量パワー、時刻)、音声分類(頻度、時刻、持続期間(duration))、メル周波数ケプストラム係数、移動パラメータ、具体的には、活動パラメータ(三軸加速(20Hz)、時刻)、位置(難読化GPS、即ち、進行の距離および方向)、ならびに光および近接パラメータ(経時的な周囲光の量、経時的な物体の近接)から成る一群から選択される。更にまた、タッチ行動パラメータも、本発明の方法による行動パラメータ(1つまたは複数)として使用することができる。通例、タッチ相互作用(touch interaction)、具体的には、タッチ・ダウン、スワイプおよびタッチ・アップ、タッチ移動の長さおよび方向(directionality)、タッチ・イベントのY座標のみ、タイム・スタンプ、キーボード上で行われたか否か、および/またはタイプ入力行動、具体的には、文字のタイプ入力(アルファベット、数値、句読点、編集文字、機能キー、絵文字)、句読点(例えば、完全停止、感嘆符)、編集文字(例えば、空白、削除、バックスペース)という文字種にのみ使用される実際の文字、タイム・スタンプを想像することができる。更に典型的には、使用行動パラメータ(1つまたは複数)は、したがって、統合失調症の場合には以下の表3から選択された記録変数、自閉スペクトラム症の場合には以下の表6から選択された記録変数である。
【0030】
更に典型的には、少なくとも1つの使用行動パラメータは、前述のパラメータの組み合わせであってもよい。例えば、以下の組み合わせを想像することができる。
電話機およびアプリ使用パラメータ、周囲音、移動パラメータ、ならびに光および近接パラメータ、
電話機およびアプリ使用パラメータ、移動パラメータ、ならびに光および近接パラメータ、
電話機およびアプリ使用パラメータ、周囲音、ならびに光および近接パラメータ、
電話機およびアプリ使用パラメータ、周囲音、移動パラメータ、
周囲音、移動パラメータ、ならびに光および近接パラメータ、
電話機およびアプリ使用パラメータ、ならびに周囲音、
電話機およびアプリ使用パラメータ、ならびに移動パラメータ、
電話機およびアプリ使用パラメータ、ならびに光および近接パラメータ、
周囲音、および移動パラメータ、
周囲音、ならびに光および近接パラメータ。
【0031】
実施形態では、少なくとも1つの行動パラメータは、以上で明記したようなタッチ行動パラメータと組み合わせた前述の組み合わせの内任意のものである。
本発明の方法の実施形態では、前記少なくとも1つの使用行動パラメータは、統合失調症の場合には以下の表1、表2、および/または表3による記録変数であり、自閉スペクトラム症の場合には表4、表5、および/または表6による記録変数である。
【0032】
「移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合」(dataset comprising usage data for a mobile device)という用語は、移動体デバイスによってまたは移動体デバイスを用いて実行された、異なる使用または作業を反映するもしくは示すデータのエンティティを指し、第1時間枠内において移動体デバイスによって記録されたもの、または移動体デバイスから取得されたものである。このコンテキストにおいて呼ばれる第1時間枠とは、被験者が移動体デバイスを使用するまたは使用することが疑われる既定時間枠であり、即ち、データ集合が記録または取得される時間期間である。使用データは、通例では、電話機使用データ、アプリケーション(アプリ)使用データ、周囲ノイズ・データ、移動キャプチャ・データ、および/または位置キャプチャ・データであってもよい。第1時間枠は、意味のある少なくとも1つの使用行動パラメータを導出するために使用することができるデータを記録するのに適した任意の長さでよい。例えば、通話時間を測定する場合、前記第1時間枠は少なくとも前記通話中は続かなければならない。通例、使用データは、標準化時間枠、例えば、1時間以上、1日以上、1週間以上、または1か月以上にわたって記録される。被験者および状況に応じて、移動体デバイスの使用データを含むデータ集合を記録または取得する目的で、適した第1時間枠をどのように定め直して選択するかについては、当業者にはよく分かっているであろう。
【0033】
本発明の方法の実施形態では、移動体デバイスについての前記使用データは、電話機使用データ、アプリケーション(アプリ)使用データ、周囲ノイズ・データ、移動キャプチャ・データ、および位置キャプチャ・データから成る一群から選択されたデータを含む。
【0034】
本明細書において使用する場合、「移動体デバイス」(mobile device)という用語は、少なくとも1つのセンサと、移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を取得するのに適したデータ記録機器とを備える任意の携帯用デバイスを指す。また、これは、データ・プロセッサおよび記憶ユニット、音声記録デバイス、スピーカ、ならびに移動体デバイス上で被験者から入力を受け取るディスプレイも必要となる場合がある。更にまた、被験者の活動から、データを記録および編集してデータ集合を得て、移動体デバイス自体または第2デバイスのいずれかにおいて、このデータ集合を本発明の方法によって評価する。考えられる具体的な設定に応じて、移動体デバイスが、取得したデータ集合を移動体デバイスから別のデバイスに転送するために、データ送信機器を備えることが必要となる場合もある。本発明による移動体デバイスとして特に相応しいのは、スマート・フォン、携帯用マルチメディア・デバイス、またはタブレット・コンピュータである。あるいは、データ記録および処理機器を有する携帯用センサを使用することもできる。
【0035】
本発明の方法の実施形態では、前記移動体デバイスは、スマート・フォン、スマートウォッチ、ウェアラブル・センサ、携帯用マルチメディア・デバイス、またはタブレット・コンピュータである。
【0036】
少なくとも1つの使用行動パラメータの判定は、前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から直接所望の測定値を導き出すことによって、達成することができる。あるいは、使用行動パラメータは、データ集合からの1つ以上の測定値を統合することもでき、つまり計算のような数学的演算によってデータ集合から導き出すことができる。通例、行動パラメータ(performance parameter)は、自動アルゴリズムによってデータ集合から導き出される。例えば、前記データ集合によってデータ処理デバイス・フィード上に有形的に埋め込まれたとき、データ集合から使用行動パラメータを自動的に導き出すコンピュータ・プログラムによって、データ集合から導き出される。
【0037】
本明細書において使用する場合、「基準」(reference)という用語は、統合失調症または自閉スペクトラム症、好ましくは、被験者に伴う陰性症状の改善を評価することを可能にする判別子(discriminator)を指す。このような判別子は、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っており、好ましくは、それに伴う陰性症状を呈する被験者を示す使用行動パラメータに対する値でもよく、あるいは統合失調症または自閉スペクトラム症を患っておらず、好ましくは、それに伴う陰性症状を呈しない被験者を示す使用行動パラメータに対する値でもよい。
【0038】
原則として、このような基準に対する値は、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っていることが分かっており、具体的には、それに伴う陰性症状を呈する被験者または1群の被験者から導き出すことができ、判定された使用行動パラメータが基準に等しいか、または基準から導き出された閾値を超える場合、被験者は、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っていると識別することができ、好ましくは、それに伴う陰性症状を呈すると識別することができる。判定された使用行動パラメータが基準値とは異なり、具体的には、前記閾値未満である場合、被験者は、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っていない、または改善している、または少なくとも彼に伴う陰性症状の改善が見られると識別することができる。あるいは、これは、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っていないことが分かっており、具体的には、それに伴う陰性症状を呈しない被験者または1群の被験者から導き出すこともできる。被験者から判定された行動パラメータ(performance parameter)が基準に等しい、または基準から導き出された閾値未満である場合、被験者は、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っていない、または改善している、または少なくともそれに伴う陰性症状の改善が見られると識別することができる。判定された行動パラメータ(performance parameter)が基準とは異なり、具体的には前記閾値を超える場合、被験者は、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っており、好ましくは、それに伴う陰性症状を呈すると識別される。
【0039】
更に典型的には、基準は、前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第2既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、以前に判定された使用行動パラメータであってもよく、前記第2時間枠は第1時間枠よりも前である。このような場合、実際のデータ集合から判定された使用行動パラメータが、以前に判定された使用行動パラメータに関して異なる場合、疾病またはそれに付随する症状の以前の状態(status)に応じて、改善または悪化のいずれかと、使用行動パラメータによって表される使用の種類とを示す。当業者は、この使用の種類および以前の使用行動パラメータに基づいて、前記パラメータを基準としてどのように使用できるかについて把握する。判定された使用行動パラメータと基準との間における典型的な差は、統合失調症の場合には、以下の表1、または表2、および/または表3、また自閉スペクトラム症の場合には、表4、表5、および/または表6に列挙した改善を示す記録変数に対して予想される変化によって反映される。
【0040】
通例、統合失調症または自閉スペクトラム症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善が判定されるのは、少なくとも1つの使用行動パラメータが、統合失調症の場合には、以下の表1、または表2、および/または表3、自閉スペクトラム症の場合、表4、表5、および/または表6に示す基準と比較して、改善する場合である。
【0041】
本発明の方法の実施形態では、前記基準は、第1既定時間枠に先立つ第2既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合内において判定された少なくとも1つの使用行動パラメータである。第1および第2時間枠は、第3既定時間期間、即ち、既定監視期間によって分離されても良い。通例、このような期間は、疾病の進展、個々の被験者に対する治療法の状態、発現(development)、または期間に応じて、日単位から週単位、月単位、そして年単位までの範囲に及ぶ、第1および第2時間枠範囲の長さに依存してもよい。
【0042】
少なくとも1つの判定された使用行動パラメータと基準との比較は、コンピュータのようなデータ処理デバイス上に実装される自動比較アルゴリズムによって達成することができる。互いに比較するのは、本明細書の他のところで指定したように、判定された使用行動パラメータおよび前記判定された使用行動パラメータに対する基準の値である。比較の結果として、判定された使用行動パラメータが基準と同一か、または異なるか、または特定の関係にあるか(例えば、基準よりも大きいまたは小さい)評価することができる。前記評価に基づいて、被験者を、統合失調症を患う、そして好ましくは、それに伴う陰性症状を呈するものとして(「可能性あり」)、またはそうでないとして(「除外」)識別することができる。この評価について、本発明による適した基準と関連付けて他のところで説明したように、基準の種類を考慮に入れる。
【0043】
更にまた、前述の実施形態、および本明細書において以下で指定するものは、統合失調症を評価する場合には、統合失調症に言及することを意図しており、一方前記自閉スペクトラム症を評価する場合には、自閉スペクトラム症に言及することを意図していることは、当業者には理解されよう。
【0044】
更にまた、判定された使用行動パラメータと基準との間の差の度合いを判定することによって、統合失調症または自閉スペクトラム症の定量的評価が可能になる。尚、実際に判定された使用行動パラメータを、それよりも前に判定され基準として使用されたものと比較することによって、全体的な疾病状態またはその症状の改善、悪化、不変を判定できることは、理解されるはずである。前記使用行動パラメータの値の定量的差に基づいて、改善、悪化、または不変状態を判定することができ、随意に、定量化することができる。統合失調症または自閉スペクトラム症の被験者からの基準というような、他の基準を使用する場合、特定の疾病段階を基準集合(reference collective)に割り当てることができるなら、定量的差は意味があることは理解されよう。この疾病段階に関して、そのような場合に悪化、改善、または不変の疾病状態を判定し、随意に定量化することもできる。
【0045】
被験者の統合失調症または自閉スペクトラム症の評価は、被験者、または医者(medical practitioner)のような他の人に示される。通例、これは、移動体デバイスまたは評価デバイスのディスプレイ上に評価結果を表示することによって、行われる。あるいは、薬剤治療のような治療、あるいは特定の生活様式、例えば、特定の食餌療法(nutritional diet)またはリハビリテーション手段(measures)に対する推奨を、自動的に被験者または他の人に提供する。このために、確定診断をデータベースにおける異なる診断に割り当てられた推奨と比較する。一旦確定診断が、格納され割り当てられた診断の1つと一致したなら、格納されている診断の内確定診断と一致したものに対する推奨の割り当てにより、適した推奨を特定することができる。したがって、通例では、推奨および診断がリレーショナル・データベースの形式で存在することが想像できる。しかしながら、適した推奨の特定を可能にする他の構成(arrangement)も可能であり、当業者には知られている。
【0046】
このように、実施形態における本発明の方法は、統合失調症または自閉スペクトラム症の治療、あるいはそれに伴う陰性症状の少なくとも1つに対する(for at least of the negative symptoms)治療が、成功したか否か判定することも包含する。
【0047】
このような場合、通例、第2および第1時間枠の間に、被験者は統合失調症または自閉スペクトラム症の治療、あるいはそれに伴う陰性症状の少なくとも1つに対する(for at least of the negative symptoms) 治療を受けている。更に典型的には、前記治療は薬剤に基づく治療である。
【0048】
統合失調症または自閉スペクトラム症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善は、通例、治療が成功したことを示す。
更にまた、通例ではリアル・タイムで、1つ以上の使用行動パラメータを移動体デバイス上に格納すること、または被験者に示すこともできる。格納された使用行動パラメータは、時間の経過にまたは同様の評価尺度に組み入れることもできる。このように評価された行動パラメータ(performance parameter)は、本発明の方法にしたがって調査された使用行動についてのフィードバックとして、被験者に提供することもできる。通例、このようなフィードバックは、電子フォーマットで、移動体デバイスの適したディスプレイ上で提供することができ、更に先に指定したような治療またはリハビリテーション手段に対する推奨にリンクすることができる。
【0049】
更に、評価された使用行動パラメータは、医者の事務所または病院における医師、および臨床試験のコンテキストにおける診断検査の開発者または薬剤開発者、健康保険従事者、あるいは公的または私的健康管理システムの他の利害関係者というような、他の医療従事者にも提供することができる。
【0050】
通例、被験者において統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するための本発明の方法は、次のように実行することができる。
最初に、被験者によって前記移動体デバイスが使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含む既存のデータ集合から、少なくとも使用行動パラメータを判定する。前記データ集合は、移動体デバイスから、コンピュータのような評価デバイスに送信されていてもよく、またはデータ集合から少なくとも使用行動パラメータを導き出すために、移動体デバイス内において処理されてもよい。
【0051】
第2に、例えば、移動体デバイスのデータ・プロセッサによって、または評価デバイス、例えば、コンピュータによって実行されるコンピュータ実装比較アルゴリズムを使用することによって、少なくとも判定した使用行動パラメータを基準と比較する。比較において使用した基準に関して、そして前記評価に基づいて、比較結果を評価し、被験者は、統合失調症または自閉スペクトラム症を患っているか否か、あるいはそれに伴う陰性症状の改善を呈するか否か、識別される。
【0052】
第3に、前記評価結果を、被験者、または医師のような他の人に示す。しかしながら、最終的な臨床診断または評価のためには、更に他の要因またはパラメータも臨床医(clinician)によって考慮されるとよいことは理解されよう。
【0053】
更に、治療についての推奨も被験者または他の人に自動的に提供する。このために、確定した診断を、データベースにおいて異なる診断に割り当てられた推奨と比較する。一旦確定診断が、格納され割り当てられた診断の1つと一致したなら、格納されている診断の内確定診断と一致したものに対する推奨の割り当てにより、適した推奨を特定することができる。統合失調症の場合における典型的な推奨は、アリピプラゾール、アセナピン、ブレクスピプラゾール、カリプラジン、クロルプロマジン、フルフェナジン、イロペリドン、ロクサピン、ルラシドン、モリンドン、パリペリドン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、リスペリドン、トリフルオペラジン、アミスルプリド、オランザピン、クエチアピン、ハロペリドール、およびクロザピンというような抗精神病薬による処置、または理学療法を含み、自閉スペクトラム症の場合、神経伝達物質再取り込み阻害剤(フルオキセチン)、三環系抗うつ薬(イミプラミン)、抗けいれん薬(ラモトリジン)、非定型抗精神病薬(クロザピン)、およびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(リバスチグミン)が含まれる。更にまた、心理学的および/または社会的カウンセリングも適した方法である。
【0054】
更に代案としてまたは加えて、少なくとも診断の基礎となる使用行動パラメータを、移動体デバイス上に格納する。通例、本明細書の他のところで指定されるような治療の推奨を電子的に補助することができる移動体デバイス上に実装される、時間経過組み入れアルゴリズム(time course assembling algorithm)のような、適した評価ツールによって、他の格納されている行動パラメータ(performance parameter)と共に評価する。
【0055】
以上のことを考慮して、本発明は、具体的に、統合失調症または自閉スペクトラム症、好ましくは、被験者においてそれに伴う陰性症状の改善を評価する方法も、意図しており、
a)移動体デバイスを使用する前記被験者から、前記移動体デバイスがこの被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を入手するステップと、
b)前記データ集合から判定される使用行動パラメータの内少なくとも1つを決定するステップと、
c)判定した少なくとも1つの使用行動パラメータを基準と比較するステップと、
d)統合失調症または自閉スペクトラム症を評価し、好ましくは、ステップ(b)において実行した比較に基づいて、通例、被験者が統合失調症または自閉スペクトラム症を患っているか否か、またはそれに伴う陰性症状の改善を明示するか否か判定することによって、それに伴う陰性症状の改善を被験者において評価するステップと、
を含む。
【0056】
有利なこととして、本発明の基礎となる研究において、前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から得られた使用行動パラメータは、前記被験者における統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するために使用できることが分かっている。具体的には、前記使用行動パラメータは、前記被験者における統合失調症または自閉スペクトラム症に伴う陰性症状の改善を識別するために使用することができ、例えば、本明細書の他のところで指定されるような統合失調症または自閉スペクトラム症の治療を受ける被験者の監視を補助するために使用することができる。前記データ集合は、被験者が能動的または受動的圧力検査を実行する、遍在的なスマート・フォン、携帯用マルチメディア・デバイス、またはタブレット・コンピュータのような移動体デバイスを使用することによって、都合のよい方法で、統合失調症または自閉スペクトラム症の患者(patient)から取得することができる。続いて、本発明の方法によって、取得したデータ集合を、ディジタル・バイオマーカとして適した使用行動パラメータについて評価することができる。前記評価は、同じ移動体デバイス上で実行することができ、または別のリモート・デバイス上で実行することもできる。更にまた、このような移動体デバイスを使用することによって、治療法に対する推奨を患者(patient)に直接、即ち、医者の事務所または病院の救急車における医師(medical practitioner)の助言を受けずに、提供することができる。本発明の方法により実際に判定された使用行動パラメータの使用によって、統合失調症または自閉スペクトラム症の患者の生活状態を、実際の疾病状態に対して一層正確に調節することができるのは、本発明の成果によるものである。これによって、薬剤治療を有効性について評価することができ、薬剤投与計画を患者の現在の状態(status)に適合させることができる。尚、本発明の方法は、通例、被験者からの既存のデータ集合を必要とするデータ評価方法であることは理解されてしかるべきである。このデータ集合内において、本方法は、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するために使用することができる少なくとも1つの使用行動パラメータを判定する。
【0057】
したがって、本発明の方法は、
-疾病状態を評価する、
-患者を、特に、実生活において、日常の状況において、そして大規模に監視する、
-治療の推奨によって患者を支援する、
-薬剤の有効性を、例えば、臨床試験中においても調査する、
-治療決定を容易にする、および/または補助する、
-病院管理を支援する、
-健康保険評価および管理を支援する、および/または
-公衆健康管理における判断を支援する、
のために使用することができる。
【0058】
また、本発明は、コンピュータ・プログラム、コンピュータ・プログラム製品または前記コンピュータ・プログラムが有形的に埋め込まれたコンピュータ読み取り可能記憶媒体も意図しており、コンピュータ・プログラムは命令を含み、データ処理デバイスまたはコンピュータ上で命令を実行すると、先に指定したように、本発明の方法を実行する。具体的には、本開示は、更に、以下のものも包含する。
【0059】
-少なくとも1つのプロセッサを含み、本明細書において説明する実施形態の1つにしたがって本方法を実行するように、プロセッサが構成される、コンピュータまたはコンピュータ・ネットワーク。
【0060】
-データ構造がコンピュータ上で実行されている間、本明細書において説明した実施形態の1つにしたがって本方法を実行するように構成されたコンピュータ・ロード可能データ構造。
【0061】
-コンピュータ・プログラムがコンピュータ上で実行されている間、このプログラムが本明細書において説明した実施形態の1つにしたがって方法を実行するように構成される、コンピュータ・スクリプト。
【0062】
-コンピュータ・プログラムであって、コンピュータまたはコンピュータ・ネットワーク上でこのコンピュータ・プログラムが実行されている間に、本明細書において説明した実施形態の1つにしたがって本方法を実行するプログラム手段を備える、コンピュータ・プログラム。
【0063】
-直前の実施形態によるプログラム手段を備えるコンピュータ・プログラムであって、プログラム手段が、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体上に格納される、コンピュータ・プログラム。
【0064】
-記憶媒体であって、データ構造がこの記憶媒体上に格納され、データ構造が、コンピュータまたはコンピュータ・ネットワークの主ストレージおよび/または作業用ストレージにロードされた後に、本明細書において説明した実施形態の1つによる方法を実行するように、構成される、記憶媒体。
【0065】
-プログラム・コード手段を有するコンピュータ・プログラム製品であって、プログラム・コード手段をコンピュータまたはコンピュータ・ネットワーク上で実行すると、本明細書において説明した実施形態の1つによる方法を実行するために、プログラム・コード手段を記憶媒体上に格納することができる、または記憶媒体上に記憶される、コンピュータ・プログラム製品。
【0066】
-移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における前記移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を含み、通例では暗号化される、データ・ストリーム信号。
【0067】
-データ集合から導き出された少なくとも1つの使用行動パラメータを含み、通例では暗号化される、データ・ストリーム信号。
更に、本発明は、移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用行動パラメータを判定する方法に関する。この方法は、
a)前記データ集合から少なくとも1つの使用行動パラメータを導き出すステップと、
b)判定した少なくとも1つの使用行動パラメータを、基準と比較するステップと、
を含み、
通例では、前記少なくとも1つの使用行動パラメータは、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するのを補助し、好ましくは、前記被験者において、それに伴う陰性症状の改善を評価するのを補助することができる。
【0068】
実施形態では、本発明は、更に、本明細書において指定した使用行動パラメータを、統合失調症の治療のための既知の治療法と組み合わせて使用する、統合失調症の治療方法も意図する。具体的には、これは、統合失調症の治療方法に関し、
a)移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における前記移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用行動パラメータを判定するステップと、
b)判定した少なくとも1つの使用行動パラメータを、基準と比較することによって、統合失調症を評価するステップと、
c)被験者に、統合失調症の治療法を処方するステップと、
を含む。
【0069】
好ましくは、統合失調症の治療法は、アリピプラゾール、アセナピン、ブレクスピプラゾール、カリプラジン、クロルプロマジン、フルフェナジン、イロペリドン、ロクサピン、ルラシドン、モリンドン、パリペリドン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、リスペリドン、トリフルオペラジン、アミスルプリド、オランザピン、クエチアピン、ハロペリドール、およびクロザピンというような抗精神病薬による処置、または理学療法を含む。更にまた、心理学的および/または社会的カウンセリングも適した方法である。
【0070】
他の実施形態では、本発明は、統合失調症の治療に使用するための先の統合失調症治療法と組み合わせた使用行動パラメータを意図する。
本発明は、プロセッサと、使用データを記録する少なくとも1つのセンサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれ、前記デバイス上で実行すると、本発明の方法を実行するソフトウェアとを備える移動体デバイスに関する。
【0071】
前記移動体デバイスは、したがって、データ集合を取得し、それから使用行動パラメータを判定することができるように構成される。更にまた、これは基準との比較を実行し、本明細書の他のところで詳しく説明したように、統合失調症または自閉スペクトラム症の評価を確立するように構成される。
【0072】
他の実施形態では、本発明は、統合失調症の治療において使用するために、先の統合失調症治療法と組み合わせた前記移動体デバイスを意図する。
更に他の実施形態では、本発明は、統合失調症の治療のための方法において使用するための統合失調症用抗精神病薬に関し、本明細書において指定したように、統合失調症の評価方法を使用して、抗精神病薬の有効性を調査し、および/または適合させる。
【0073】
更に他の実施形態では、本発明は、統合失調症の治療のための方法において使用するための統合失調症用抗精神病薬に関し、本明細書において指定したように、統合失調症評価方法を使用して、患者を監視する。
【0074】
統合失調症用抗精神病薬は、好ましくは、アリピプラゾール、アセナピン、ブレクスピプラゾール、カリプラジン、クロルプロマジン、フルフェナジン、イロペリドン、ロクサピン、ルラシドン、モリンドン、パリペリドン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、リスペリドン、トリフルオペラジン、アミスルプリド、オランザピン、クエチアピン、ハロペリドール、およびクロザピンを含むことができる。
【0075】
更に、本発明は、システムに関し、このシステムは、使用データを記録する少なくとも1つのセンサを含む移動体デバイスと、プロセッサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれたソフトウェアであって、前記デバイス上で実行すると、本発明の方法を実行する、ソフトウェアとを含むリモート・デバイスとを備え、前記移動体デバイスおよび前記リモート・デバイスが互いに動作可能にリンクされる。
【0076】
「動作可能に互いにリンクされた」下では、これらのデバイスが、一方のデバイスから他方のデバイスへのデータ転送を可能にするように接続されていることは、理解されてしかるべきである。通例、取得したデータを、処理のために、リモート・デバイスに送信することができるように、被験者からデータを取得する少なくとも移動体デバイスを、本発明の方法のステップを実行するリモート・デバイスに接続することが想像できる。しかしながら、リモート・デバイスも、移動体デバイスに、その適正な機能を制御または監視する信号というような、データを送信することができる。移動体デバイスとリモート・デバイスとの間の接続は、同軸、ファイバ、光ファイバ、撚り線対、10BASE-Tケーブルというような、永続的または一時的物理接続によって、行うことができる。あるいは、例えば、Wi-Fi、LTE、LTE-advanced、またはBluetoothというような無線波を使用して、一時的または永続的ワイヤレス接続によって行うこともできる。更なる詳細は、本明細書の他のところにおいて見出すことができる。データ取得のために、移動体デバイスは、画面またはデータ取得用の他の機器というような、ユーザ・インターフェースを備えてもよい。
【0077】
更に、本発明は、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価し、前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を分析するための、移動体デバイスまたは本発明のシステムの使用も意図する。
【0078】
また、本発明は、精神病、神経発達、神経変性、神経筋、および神経系自己免疫疾患の患者の神経学的状態を評価する方法も意図する。この方法は、
a)前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用行動パラメータを判定するステップと、
b)判定した少なくとも1つの使用行動パラメータを、基準と比較することによって、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するステップと、
を含む。
【0079】
更に意図するのは、統合失調症、双極性障害、うつ、自閉スペクトラム症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー症、多発性硬化症の患者の神経学的状態を評価する方法である。この方法は、
a)前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用行動パラメータを判定するステップと、
b)判定した少なくとも1つの使用行動パラメータを、基準と比較することによって、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するステップと、
を含む。
【0080】
以下に、本発明の方法によって評価することもできる疾病について述べる。
パーキンソン病は、動作緩慢、身震い、硬直、運動障害、不随意運動、言語障害、歩行障害および歩行困難、日周リズムに対する疲労および変化、処理速度の認識機能障害、 注意(attentiotn)から成る、パーキンソン病に伴う症状の一群から選択された、少なくとも1つの症状を評価することを含む。
【0081】
ハンチントン病は、精神運動遅滞、舞踏病(けいれん、身もだえ)、進行性構音障害、交直および筋緊張異常、社会的ひきこもり、処理速度、注意、計画、視覚空間処理、学習(完全な想起(intact recall)による)の進行性認識機能障害、日周リズムに対する疲労および変化から成る、ハンチントン病に伴う症状の一群から選択された、少なくとも1つの症状を評価することを含む。
【0082】
脊髄性筋萎縮症は、筋緊張低下および筋力低下、日周リズムに対する疲労および変化から成る、脊髄性筋萎縮症に伴う症状の一群から選択された、少なくとも1つの症状を評価することを含む。
【0083】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー症は、筋緊張低下および筋力低下、歩行異常、注意、言語学習、記憶、ならびに社会的意思疎通および交流の認知発達遅滞、日周リズムに対する疲労および変化から成る、脊髄性筋萎縮症に伴う症状の一群から選択された、少なくとも1つの症状を評価することを含む。
【0084】
筋萎縮性側索硬化症は、筋緊張低下および筋力低下、協調に付随する問題、筋肉強直、筋力低下、筋痙攣、過剰反射神経(overactive reflexes)から成る、筋萎縮性側索硬化症に伴う症状の一群から選択された、少なくとも1つの症状を評価することを含む。
【0085】
多発性硬化症は、微細運動技能障害、しびれ、指のしびれ、日周リズムに対する疲労および変化、歩行障害および歩行困難、処理速度に付随する問題を含む認識機能障害から成る、多発性硬化症に伴う症状の一群から選択された、少なくとも1つの症状を評価することを含む。
【0086】
以下に、本発明の更に特定的な実施形態を列挙する。
実施形態1。被験者における統合失調症または自閉スペクトラム症の評価方法であって、
a)被験者によって移動体デバイスが使用されていた第1既定時間枠内における前記移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合から、少なくとも1つの使用行動パラメータを判定するステップと、
b)判定した少なくとも1つの使用挙動パラメータを基準と比較することによって、統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するステップとを含む。
【0087】
実施形態2。実施形態1の方法において、前記統合失調症を評価するステップが、非社会性、アロギー、無関心、無快感症、および注意力の低下から成る、統合失調症に伴う陰性症状の一群から選択された、少なくとも1つの陰性症状を評価するステップを含み、前記自閉スペクトラム症を評価するステップが、社会的意思疎通および社会的交流における問題、ならびに行動、関心、または活動の限定された反復パターンから成る、自閉スペクトラム症に伴う陰性症状の一群から選択された、少なくとも1つの陰性症状を評価するステップを含む。
【0088】
実施形態3。実施形態2の方法において、前記統合失調症または自閉スペクトラム症を評価するステップが、統合失調症または自閉スペクトラム症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善を判定するステップを含む。
【0089】
実施形態4。実施形態1から3のいずれか1つの方法において、移動体デバイスについての前記使用データが、電話使用データ、アプリケーション(アプリ)使用データ、周囲ノイズ・データ、移動キャプチャ・データ、および位置キャプチャ・データから成る一群から選択されたデータを含む。
【0090】
実施形態5。実施形態1から4のいずれか1つの方法において、前記少なくとも1つの使用行動データが、統合失調症の場合には表1、表2、および/または表3から選択された記録変数(recorded variable)であり、また自閉スペクトラム症の場合表4、表5、および/または表6から選択された記録変数である。
【0091】
実施形態6。実施形態5の方法において、統合失調症または自閉スペクトラム症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善が、少なくとも1つの使用行動パラメータが、統合失調症の場合には、表1、表2、および/または表3、自閉スペクトラム症の場合、表4、表5、および/または表6に示す基準と比較して、改善する場合に判定される。
【0092】
実施形態7。実施形態1から6のいずれか1つの方法において、前記基準が、第1既定時間枠に先立つ第2既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合内において判定された少なくとも1つの使用行動パラメータである。
【0093】
実施形態8。実施形態7の方法において、第2および第1時間枠の間に、被験者が、統合失調症または自閉スペクトラム症の治療、あるいはそれに伴う陰性症状の内少なくとも1つのための治療を受けている。
【0094】
実施形態9。実施形態8の方法において、前記治療が薬剤に基づく治療である。
実施形態10。実施形態8または9の方法において、統合失調症または自閉スペクトラム症に伴う少なくとも1つの陰性症状の改善が、治療の成功を示す。
【0095】
実施形態11。実施形態1から10のいずれか1つの方法において、前記移動体デバイスが、スマート・フォン、スマートウォッチ、ウェアラブル・センサ、携帯用マルチメディア・デバイス、またはタブレット・コンピュータである。
【0096】
実施形態12。実施形態1から11のいずれか1つの方法において、前記被験者が人間である。
実施形態13。移動体デバイスであって、プロセッサと、使用データを記録する少なくとも1つのセンサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれ、前記デバイス上で実行すると、実施形態1から12のいずれか1つの方法を実行するソフトウェアとを備える。
【0097】
実施形態14。システムであって、使用データを記録する少なくとも1つのセンサを含む移動体デバイスと、プロセッサと、データベースと、前記デバイスに有形的に埋め込まれたソフトウェアであって、前記デバイス上で実行すると、実施形態1から12のいずれか1つの方法を実行する、ソフトウェアとを含むリモート・デバイスとを備え、前記移動体デバイスおよび前記リモート・デバイスが互いに動作可能にリンクされる。
【0098】
実施形態15。統合失調症または自閉スペクトラム症を評価し、前記移動体デバイスが被験者によって使用されていた第1既定時間枠内における移動体デバイスについての使用データを含むデータ集合を分析するための、実施形態13による移動体デバイスまたは実施形態14のシステムの使用。
【0099】
実施形態16。実施形態1から12のいずれか1つの方法を含む統合失調症の治療方法であって、更に、
c)統合失調症の治療法を患者に処方するステップを含む。
【0100】
実施形態17。統合失調症治療法において使用する統合失調症用抗精神病薬であって、実施形態1から12のいずれか1つの統合失調症評価方法を使用して、抗精神病薬の有効性を調査し、および/または適合させる。
【0101】
本明細書全体を通じて、引用された参考文献は全て、本明細書において引用したことにより、開示内容全体に関して、そして明細書において述べた具体的な開示内容に関して、その内容が本願にも含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【
図1A】患者からのデータ・キャプチャのためのアプリの起動(A)を示し、キャプチャされた使用行動、即ち、連絡先(B)、通話およびメッセージ(C)、アプリ使用(D)、周囲のノイズ(E)、位置および移動(F)について、患者に通知する。更に、アプリは、データ・キャプチャをどのように停止または中断できるかについて知らせる(G)。
【
図1B】患者からのデータ・キャプチャのためのアプリの起動(A)を示し、キャプチャされた使用行動、即ち、連絡先(B)、通話およびメッセージ(C)、アプリ使用(D)、周囲のノイズ(E)、位置および移動(F)について、患者に通知する。更に、アプリは、データ・キャプチャをどのように停止または中断できるかについて知らせる(G)。
【
図1C】患者からのデータ・キャプチャのためのアプリの起動(A)を示し、キャプチャされた使用行動、即ち、連絡先(B)、通話およびメッセージ(C)、アプリ使用(D)、周囲のノイズ(E)、位置および移動(F)について、患者に通知する。更に、アプリは、データ・キャプチャをどのように停止または中断できるかについて知らせる(G)。
【
図1D】患者からのデータ・キャプチャのためのアプリの起動(A)を示し、キャプチャされた使用行動、即ち、連絡先(B)、通話およびメッセージ(C)、アプリ使用(D)、周囲のノイズ(E)、位置および移動(F)について、患者に通知する。更に、アプリは、データ・キャプチャをどのように停止または中断できるかについて知らせる(G)。
【
図1E】患者からのデータ・キャプチャのためのアプリの起動(A)を示し、キャプチャされた使用行動、即ち、連絡先(B)、通話およびメッセージ(C)、アプリ使用(D)、周囲のノイズ(E)、位置および移動(F)について、患者に通知する。更に、アプリは、データ・キャプチャをどのように停止または中断できるかについて知らせる(G)。
【
図1F】患者からのデータ・キャプチャのためのアプリの起動(A)を示し、キャプチャされた使用行動、即ち、連絡先(B)、通話およびメッセージ(C)、アプリ使用(D)、周囲のノイズ(E)、位置および移動(F)について、患者に通知する。更に、アプリは、データ・キャプチャをどのように停止または中断できるかについて知らせる(G)。
【
図1G】患者からのデータ・キャプチャのためのアプリの起動(A)を示し、キャプチャされた使用行動、即ち、連絡先(B)、通話およびメッセージ(C)、アプリ使用(D)、周囲のノイズ(E)、位置および移動(F)について、患者に通知する。更に、アプリは、データ・キャプチャをどのように停止または中断できるかについて知らせる(G)。
【
図2】患者からキャプチャしたデータのプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0103】
例
これより、以下の例(1つまたは複数)によって本発明を例示する。しかしながら、これらの例(1つまたは複数)は、本発明の範囲を限定するように解釈してはならない。
【0104】
例1:統合失調症の患者における16週間にわたる移動体電話機行動の調査
統合失調症を患う100人の患者のスマート・フォン使用行動を、16週間(観察期間)の期間にわたって監視する。患者はアンドロイド系スマート・フォンを使用する。患者は薬剤を受けてもよい。調査されるスマート・フォンの使用には、電話機の使用、アプリの使用、周囲のノイズ、移動、位置および全体的な扱い、ならびにタッチ行動が含まれる。
【0105】
以下の表1、表2、および/または表3において、取り込んだデータ、変数(使用パラメータ)、および統合失調症の改善に関連付けられる予想を示す。
前記使用データをキャプチャするために、患者のスマート・フォン上にアプリをインストールする。このアプリは、特定の時間枠内で使用行動データを自動的にキャプチャし、表1および表2に示すように、そこから使用行動パラメータを導き出し、これらのパラメータをスマート・フォン上に格納する。データ・キャプチャは、観察期間中数回、例えば、毎日、実行される。アプリは、一旦データ・キャプチャを開始したなら、患者に通知し、それが終了したときに通知する(
図1)。更にまた、データ保護規定を守るために、観察期間の開始時にアプリを調査者によって起動し、観察期間の終了時に前記調査者によってアンインストールする(de-install)。患者が彼らのインフォームド・コンセントを与えた場合にのみ、患者を観察する。観察期間の前、最中、または後に転送されるかもしれない全てのデータを暗号化する。
【0106】
患者からキャプチャしたデータのプロファイルを
図2に示す。
例2:統合失調症患者における16週間にわたる移動体電話機行動の調査
自閉スペクトラム症を患う100人の患者のスマート・フォン使用行動を、16週間の期間(観察期間)にわたって監視する。患者は、アンドロイド系スマート・フォンを使用する。患者は薬剤を受けてもよい。調査されるスマート・フォン使用には、電話機使用、アプリ使用、周囲のノイズ、移動、位置、および全体的な扱い、ならびにタッチ行動が含まれる。
【0107】
以下の表4、表2、および/または表6に、キャプチャ下データ、変数(使用パラメータ)、および自閉スペクトラム症の改善に伴う予想を示す。
前記使用データをキャプチャするために、患者のスマート・フォン上にアプリをインストールする。このアプリは、特定の時間枠内において使用行動データを自動的にキャプチャし、これから、表1および表2に示すような使用行動パラメータを導き出し、これらのパラメータをスマート・フォン上に格納する。データ・キャプチャは、観察期間中数回、例えば、毎日行われる。アプリは、一旦データ・キャプチャを開始したなら、患者に通知し、それが終了した時に通知する(
図1)。更にまた、データ保護規定を守るために、観察期間の開始時にアプリを調査者によって起動し、観察期間の終了時に前記調査者によってアンインストールする(de-install)。患者が彼らのインフォームド・コンセントを与えた場合にのみ、患者が観察される。観察期間の前、最中、または後に転送されるかもしれない全てのデータを暗号化する。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
引用文献
Torous 2016, JMIR Mental Health 3(2): e16.
Wang 2016, ISBN: 978-1-4503-4461-6, The 2016 ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing (UbiComp 2016), pages 886-897.