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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】血中で安定なmRNA内包ミセル
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20240412BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240412BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240412BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K9/10
A61K47/34
A61K48/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022173386
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2019520320の分割
【原出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2022191527
(43)【公開日】2022-12-27
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017105021
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】大澤 重仁
(72)【発明者】
【氏名】長田 健介
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/186204(WO,A1)
【文献】OSAWA, S. et al.,Polyplex Micelles with Double-Protective Compartments of Hydrophilic Shell and Thermoswitchable Pali,Biomacromolecules,2016年,Vol.17, No.1,pp.354-361
【文献】UCHIDA, S. et al.,Systemic delivery of messenger RNA for the treatment of pancreatic cancer using polyplex nanomicelle,Biomaterials,Vol.82,pp.221-228
【文献】Progress in Polymer Science,2009年,Vol.34,p.893-910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、ポリカチオン性ブロックとをこの順番で含む三元共重合体と、
温度応答性ブロックからなる更なる温度応答性重合体と、
mRNAとを含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
更なる温度応答性重合体は、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
mRNAは、37℃の水溶液中で、疎水性である前記温度応答性ブロックと前記更なる温度応答性重合体によりミセル内部を包むように形成されている疎水性部の内部に内包され、前記疎水性部により保護されている、
ミセルを含む、組成物。
【請求項2】
マウス尾静脈投与2.5分後のmRNAの血中残存量が、10%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記更なる温度応答性重合体が、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)、またはポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)からなる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物であって、
温度応答性重合体が、ポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)である、組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物であって、
三元重合体に含まれる温度応答性ブロックが、ポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)である、組成物。
【請求項6】
前記更なる温度応答性重合体が1mg/mL以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
他のブロック共重合体を構成成分として含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
三元共重合体とmRNAの電荷比が、4以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
三元共重合体とmRNAの電荷比が、1.5~2.5である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
静脈内投与用の医薬組成物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物または請求項10に記載の医薬組成物の製造方法における、
(i) 親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、ポリカチオン性ブロックとをこの順番で含む三元共重合体;
(ii) 温度応答性ブロックからなる更なる温度応答性重合体;および
(iii) mRNA
の使用。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物または請求項10に記載の医薬組成物の製造方法であって、
前記三元共重合体と前記更なる温度応答性重合体と前記mRNAとを、(a)下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合することと、(b)その後、水溶液の温度を下限臨界共溶温度以上に上昇させること
を含む、方法。
【請求項13】
前記(a)において、前記三元共重合体と前記更なる温度応答性重合体と前記mRNAとを下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で球形状のミセルを形成するように混合させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記(b)において、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることによりミセルの中間層として前記三元共重合体と前記更なる温度応答性重合体とによる疎水性部が形成され、mRNAが疎水性部の内部に封入された、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中で安定なmRNA内包ミセルを提供する。
【背景技術】
【0002】
治療用核酸の送達は、現在難治である様々な疾患の治療を実現する可能性を有しているため注目を集めている。核酸による治療は、DNAやmRNAといった核酸を疾患に運ぶことで治療用タンパクを得ることで達成される。特に近年mRNAは、非分裂細胞に対しても遺伝子発現が可能、またDNAのようにゲノムインテグレーションを誘起しないことから有用な治療用核酸として注目度が高い。しかしながら、mRNAの生体内安定性は極めて低く、例えば血中では数秒でほとんどが分解を受ける。このことは、mRNAは疾患部位に到達する前に分解されて消えてなくなってしまうことを意味する。したがって、疾患部位までmRNAの活性を保ちつつ運ぶことがmRNAによる疾患治療実現に対するボトルネックであると言えよう。
【0003】
ところで、プラスミドDNAの血中安定性を高める技術として、親水性ブロック-温度応答性ブロック-ポリカチオン性ブロックからなる三元共重合体が開発されている(非特許文献1)。この三元共重合体は、プラスミドDNAと低温で混合するとミセルを形成する。このミセルでは、プラスミドDNAは前記三元共重合体のポリカチオン性ブロックと複合体を形成する。その後、温度を上昇させると、温度応答性ブロックが親水性から疎水性に変化し、これによりプラスミドDNAを覆う疎水性の中間層を形成させ、これをDNAの保護層として用いる技術である。しかし、mRNAの血中安定性が大きく改善されたミセル製剤技術はいまだ知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Osawa S. et al., Biomacromolecule,17(1):354-361, 2016
【発明の概要】
【0005】
本発明は、血中で安定なmRNA内包ミセルを提供する。
【0006】
ところで、mRNAの血中での分解速度は極めて高速であり、静脈内投与用製剤を実現するためにはmRNAの安定性を血中で少なくとも10万倍~100万倍以上高めることが必要であり、数十倍程度の安定化効果ではmRNAの静脈内投与製剤は成立し得ない。
【0007】
本発明者らは、親水性ブロック-温度応答性ブロック-ポリカチオン性ブロックからなる三元共重合体を用いて形成したmRNA内包ミセルに内包されたmRNAは、裸のmRNAに対して100万倍を超える安定化効果を奏することを見出した。また、本発明者らは、上記ミセルにさらに温度応答性ブロックからなる重合体を添加することにより、その安定化効果がいっそう高まることを見出した。しかも、ミセル形成に使用するポリマーのモル量は従来よりも低減することが可能であった。本発明は、これらの知見に基づく発明である。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
(a)前記三元共重合体とRNAとを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合し、(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることにより得られる、
ミセル。
(2)前記RNAは、疎水性に変化した温度応答性ブロックで形成される外殻によって覆われている、上記(1)に記載のミセル。
(3)前記(a)において、前記三元共重合体とRNAとを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で球形状のミセルを形成するように混合させる、上記(2)に記載のミセル。
(4)前記(b)において、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることによりミセルの中間層として疎水性部が形成され、RNAが疎水性部の内部に封入された、上記(2)または(3)に記載のミセル。
(5)温度応答性重合体をさらに含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載のミセル。
(6)温度応答性重合体が1mg/mL以下である、上記(5)に記載のミセル。
(7)上記(5)または(6)に記載のミセルであって、
前記三元共重合体とRNAとを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合し、ミセルを形成させ、その後、温度応答性重合体を添加し、さらに、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることにより形成される、ミセル。
(8)他のブロック共重合体を構成成分として含まない、上記(1)~(7)のいずれかに記載のミセル。
(9)三元共重合体とRNAの電荷比が、4以下である、上記(1)~(8)のいずれかに記載のミセル。
(10)三元共重合体とRNAの電荷比が、1.5~2.5である、上記(1)~(9)のいずれかに記載のミセル。
(11)RNAがmRNAである、上記(1)~(10)のいずれかに記載のミセル。
(12)静脈内投与用の、上記(1)~(11)のいずれかに記載のミセルを含む、医薬組成物。
(13)mRNAの血中残存量が、mRNAの投与2.5分後に10%以上である、上記(12)に記載の医薬組成物。
(14)mRNAの血中残存量が、mRNAの投与2.5分後に20%以上である、上記(13)に記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、50%血清中でのプラスミドDNA(pDNA)の分解に対する三元共重合体ミセル(トリブロック)による保護効果(a)および50%血清中でのmRNAの分解に対する三元共重合体ミセル(トリブロック)による保護効果(b)を示す。
図2図2は、血中におけるmRNAの安定性に対する三元共重合体ミセル(トリブロック)の効果を示す。図中、ジブロック共重合体は、三元共重合体において温度応答性ブロックを欠失した重合体を示す。
図3-1】図3-1は、mRNA内包三元共重合体ミセルの粒径分布(a)と、温度応答性ブロックからなる重合体をさらに含むmRNA内包三元共重合体ミセルの粒径分布(b)を示す。
図3-2】図3-2は、温度応答性ブロックを有しないmRNA内包二元共重合体ミセルの粒径分布(a)、温度応答性ブロックからなる重合体を添加して作製したmRNA内包二元共重合体ミセルの粒径分布(b)、温度応答性ブロックからなる重合体の粒径分布(c)を示す。
図4図4は、温度応答性ブロックからなる重合体を添加して作製されたmRNA内包三元共重合体ミセルに内包されたmRNAの安定化効果を示す。
図5図5は、血中における、温度応答性ブロックからなる重合体を添加して作製されたmRNA内包三元共重合体ミセルに内包されたmRNAの安定化効果を示す。
【発明の具体的な説明】
【0010】
本明細書では、「対象」とは、ヒトを含む哺乳動物である。対象は、健常の対象であってもよいし、何らかの疾患に罹患した対象であってもよい。対象は、哺乳動物、例えば、ヒトであり、特に、本発明のミセルの投与が有益である哺乳動物、例えば、ヒトであり得る。
【0011】
本明細書では、「薬剤送達用の」とは、生体適合性であること、および、薬剤を小胞に内包できることを意味する。本明細書では、「薬剤送達用の」とは、薬剤の血中残存時間を、裸の薬剤の血中残存時間と比べて長期化する用途、または、所定の組織への薬剤の送達量を向上させる用途を意味することがある。
【0012】
本明細書では、「小胞」とは、物質を内包できる微粒子や中空微粒子を指す用語を意図して用いられる。小胞は、好ましくは生体適合性の外殻または修飾を有する。
【0013】
本明細書では、「ミセル」とは、高分子などの分子が集合して形成される小胞を意味する。ミセルとしては、界面活性剤などの両親媒性分子により形成されるミセル、および、ポリイオンコンプレックスにより形成されるミセル(PICミセル)が挙げられる。ミセルは、生物学的利用能の改善の観点では、その外表面を非電荷親水性鎖で修飾することが好ましい。
【0014】
本明細書では、「平均分子量」は、特に断りの無い限り、数平均分子量を意味する。
【0015】
本明細書では、「重合度」は、ポリマーにおける単量体単位の数を意味し、「平均重合度」は、特に断りのない限り数平均重合度を意味する。
【0016】
本明細書では、「RNA」は、リボ核酸を意味する。RNAとしては、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、ノンコーディングRNA(ncRNA)、siRNA、shRNA、および二本鎖RNA、並びにRNAの誘導体が挙げられる。本明細書では、「裸」という用語はRNAに対して述べられた場合には、遊離状態で存在する単独のRNAを意味し、ミセルに内包されたRNAとは異なることを強調するために用いられる用語である。
【0017】
本明細書では、「カチオン性ブロック」とは、カチオン性の単量体を含む単量体単位を重合させて得られ、全体としてカチオン性であるポリマーを意味する。カチオン性ポリマーには、ホモカチオン性ポリマー、ホモカチオン性ポリマーと非電荷親水性鎖とが連結したポリマー等が挙げられる。カチオン性ポリマーが他のポリマーとブロック共重合体を形成しているとき、カチオン性ポリマー部分は、カチオン性ブロックと呼ばれることがある。本明細書では、カチオン性ポリマーは、薬学的に許容されるカチオン性ポリマーである。
【0018】
本明細書では、「親水性ブロック」とは、水性媒体に対して溶解性を示すポリマー鎖を意味する。本発明では、非電荷親水性鎖は、薬学的に許容される非電荷親水性鎖である。このような親水性鎖としては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)が挙げられる。非電荷親水性鎖は、局所的にも全体的にも電荷が中和されている限り、極性原子を有していてもよい。
【0019】
本明細書では、「温度応答性ブロック」および「温度応答性重合体」とはそれぞれ、温度に依存して親水性から疎水性に変化することができるポリマーブロックおよびポリマーを意味する。温度に依存して親水性から疎水性に変化する物質は様々知られており、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)やポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)が挙げられる。このような温度応答性のポリマーは、下限臨界共溶温度(LCST)を有し、LCST未満では親水性であり、LCST以上では疎水性である。温度応答性重合体は、温度応答性ブロックを含んでなる。ある態様では、温度応答性重合体は、温度応答性ブロックと親水性ブロックとを含む。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。温度応答性重合体は、温度応答性ブロックから本質的になる重合体であっても、温度応答性ブロックからなる重合体であってもよい。
【0020】
本明細書では、「三元共重合体」または「トリブロック共重合体」とは、異なるポリマーブロックを3つ含むブロック共重合体を意味する。各ブロックは、リンカーやスペーサーを介して連結していてよい。三元共重合体は、3つの異なるブロック、A、BおよびCをこの順番で含む場合には、「A-B-C」と表記することができる。記号「-」は、結合、またはリンカー若しくはスペーサーであり得る。三元共重合体は、3つの異なるポリマーブロックを含んでいる限り、他の異なるポリマーブロックを含んでいてもよい。三元共重合体は、3つの異なるポリマーブロック「A-B-C」から実質的になる、または「A-B-C」からなるものであってもよい。
【0021】
本明細書では、「外殻」とは、RNAを包む保護層を意味する。外殻は、必ずしも最外殻に存在することを意味するものではない。本明細書では、「保護層」は、それが無い場合と比較して、RNaseによる分解からRNAを保護することができる。
【0022】
本明細書では、「を含んでなる」(comprise)とは、「からなる」(consist of)および「から本質的になる」(essentially consistof)を含む意味で用いられる。「を含んでなる」とは、対象となる構成要素以外の構成要素を含んでいてもよいことを意味し、「からなる」とは、対象となる構成要素以外の構成要素を含まないことを意味する。本明細書では、「から本質的になる」とは、対象となる構成要素以外の構成要素を特別な機能を発揮する態様では含まないことを意味する。
【0023】
本発明者らは、親水性ブロックと温度応答性ブロックとカチオン性ブロックを含む三元共重合体により形成されるミセルが、mRNAの血中安定性を劇的に向上させることを見出した。したがって、本発明によれば、RNAと、親水性ブロックと温度応答性ブロックとカチオン性ブロックを含む三元共重合体とを含むミセルが提供される。
このようなミセルは、以下の手順で調製することができる。すなわち、親水性ブロックと温度応答性ブロックとカチオン性ブロックを含む三元共重合体と、RNAとをミセルを形成できるようにLCST未満の温度の水溶液中で混合する。ミセルが得られたら、水溶液の温度をLCST以上に上昇させ、温度応答性ブロックを親水性から疎水性に変化させる。
【0024】
血液の温度がヒトの場合、36℃~37℃程度であることを考慮すると、三元共重合体のLCSTは、35℃以下であることが好ましい。このようにすることで投与後に血中でミセルの状態が維持される。また、mRNAの調製を0~4℃程度で行うことを考慮すると、LCSTは、5℃以上であることが好ましい。なお、LCSTは、その他の様々な状況を考慮して適切なLCSTを設定することが好ましい。例えば、LCSTは、5℃~35℃とすることができ、10℃~32℃とすることができ、または25℃~32℃とすることができる。一般に水溶性ポリマーは、LCSTを有する。本発明では、上記の温度範囲内にLCSTを有するポリマーであれば適宜温度応答性ブロックとして用いることができる。
【0025】
したがって、本発明によれば、
親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性である、
ミセル
が提供される。このミセルは、以下の工程によって調製され得る:
(a)前記三元共重合体とRNAとを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合する。
【0026】
また、本発明によれば、
親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
(a)前記三元共重合体とRNAとを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合し、(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることにより得られる、
ミセル
が提供される。このようにして得られたミセルは、LCST以上の温度条件下では温度応答性ブロックが疎水性であるため、水溶液中では疎水性の層を形成し、この層の内部にRNAが封入され、RNAを分解から保護する役割を果たすと考えられる。
【0027】
工程(a)において、前記三元共重合体とRNAとは、前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で球形状のミセルを形成するように混合することができる。このためには、例えば、三元共重合体とRNAとの電荷比を指標として混合することができる。例えば、ある態様では、三元共重合体とRNAの電荷比(三元共重合体の電荷/RNAの電荷)が、4以下である。ある態様では、三元共重合体とRNAの電荷比が、1.5~2.5である。また、球形状のミセルを形成させるためには、前記三元共重合体とRNAそれぞれの水溶液中の濃度を臨界ミセル濃度以上とすることができる。
【0028】
工程(b)において、ミセルの中間層として疎水性部が形成されるようにすることができる。このためには、例えば、三元共重合体として、親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとをこの順番で含む三元共重合体を用いることができる。
【0029】
このようにして得られるミセルは、おそらくミセルの中間層としてミセルの内部を包むように疎水性部が形成されており、疎水性部は、内部に内包されたmRNAを保護する働きをしていると考えられる。
【0030】
したがって、本発明によれば、
親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
RNAは、疎水性に変化した温度応答性ブロックで形成される外殻によって覆われている、ミセル
が提供される。このミセルは、例えば、上記工程(a)および(b)により調製することができる。また、調製後は使用時までミセルを下限臨界共溶温度以上で維持することができる。
【0031】
本発明のある態様では、三元共重合体の親水性ブロックは、ポリエチレングリコールまたはポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)であり得る。親水性ブロックの平均分子量は、例えば、10kD以上、15kD以上、20kD以上、30kD以上、または40kD以上とすることができる。親水性ブロックはまた、例えば、20kD以下、30kD以下、40kD以下、または50kD以下の平均分子量とすることができる。
【0032】
本発明のある態様では、三元共重合体の温度応答性ブロックは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)やポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)、またはポリ(2-イソプロピル-2オキサゾリン)であり得る。温度応答性ブロックの平均分子量は、例えば、3kD以上、5kD以上、7kD以上、または10kD以上であり得る。温度応答性ブロックの平均分子量はまた、例えば、10kD以下、15kD以下、または20kD以下であり得る。
【0033】
本発明のある態様では、三元共重合体のポリカチオン性ブロックは、天然または非天然のカチオン性アミノ酸を単量体単位として含むペプチドであり得る。三元共重合体のポリカチオン性ブロックは、例えば、リジンおよびオルニチンなどの天然のカチオン性アミノ酸を単量体単位として含むペプチド、例えば、ポリリジンまたはポリオルニチンであり得る。本発明のある態様では、三元共重合体のポリカチオン性ブロックは、例えば、ジエチレントリアミンまたはトリエチレンテトラアミンでカルボキシル基を修飾したアスパラギン酸やグルタミン酸を単量体単位として含むペプチド、例えば、ホモポリマーであり得る。ポリカチオン性ブロックの平均重合度は、例えば、30以上、40以上、50以上、60以上、または70以上であり得る。ポリカチオン性ブロックの平均重合度はまた、70以下、80以下、90以下、または100以下であり得る。
【0034】
本発明のある態様では、三元共重合体は、親水性ブロックがポリエチレングリコールまたはポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)であり、温度応答性ブロックは、ポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)であり、ポリカチオン性ブロックは、ポリリジンまたはポリオルニチンである。本発明のある態様では、三元共重合体は、親水性ブロックがポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)であり、温度応答性ブロックは、ポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)であり、ポリカチオン性ブロックは、ポリリジンである。
【0035】
本発明によれば、親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、RNAとの組合せが提供される。本発明によれば、親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、RNAとの組合せの使用であって、下記ミセルの製造における使用が提供される:
[1]親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
RNAは、疎水性に変化した温度応答性ブロックで形成される外殻によって覆われている、ミセル;または
[2]親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
RNAとを含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満以下で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
(a)前記三元共重合体とRNAとを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合し、(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることにより得られる、
ミセル。
【0036】
本発明によれば、温度応答性重合体は、親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、RNAとを含む、上記ミセルにおけるRNAの安定性をさらに向上させた。
したがって、本発明によれば、親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、RNAとを含むミセルは、温度応答性重合体(例えば、温度応答性重合体)をさらに含んでいてもよい。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは同一分子でも異なる分子であり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。温度応答性重合体は、温度応答性ブロックからなる重合体とすることもできる。
ここで、血液の温度がヒトの場合、36℃~37℃程度であることを考慮すると、温度応答性重合体のLCSTは、35℃以下であることが好ましい。このようにすることで投与後に血中でミセルの状態が維持される。また、mRNAの調製を0~4℃程度で行うことを考慮すると、温度応答性重合体のLCSTは、5℃以上であることが好ましい。このようにすることで調製中に三元共重合体を親水性に保つことが容易となる。なお、温度応答性重合体のLCSTは、その他の様々な状況を考慮して適切なLCSTを設定することが好ましい。例えば、LCSTは、5℃~35℃とすることができ、10℃~32℃とすることができ、または25℃~32℃とすることができる。一般に水溶性ポリマーは、LCSTを有する。本発明では、上記の温度範囲内にLCSTを有する高分子ポリマーであれば適宜温度応答性ブロックとして用いることができる。
【0037】
より具体的には、本発明によれば、
親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
温度応答性重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
(i)(a)前記三元共重合体とRNAと温度応答性重合体とを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合し、(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることにより得られる、
ミセル
が提供される。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは同一の分子でも異なる分子であり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。温度応答性重合体は、温度応答性ブロックからなる重合体とすることもできる。
【0038】
本発明によればまた、
親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
温度応答性重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
RNAは、疎水性に変化した三元共重合体の温度応答性ブロックと温度応答性重合体とで形成される外殻によって覆われている、ミセルが提供される。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは同一の分子でも異なる分子であり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。温度応答性重合体は、温度応答性ブロックからなる重合体とすることもできる。
【0039】
本発明によれば、さらに、親水性ブロックと温度応答性ブロックとカチオン性ブロックとの三元共重合体と、温度応答性重合体と、RNAとの組合せが提供される。本発明によれば、さらにまた、親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、温度応答性重合体と、RNAとの組合せの使用であって、下記ミセルの製造における使用が提供される:
[3]親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
温度応答性重合体と、
タンパク質発現用のmRNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
(a)前記三元共重合体とRNAと温度応答性重合体とを前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合し、(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることにより得られる、
ミセル;または
[4]親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、
温度応答性重合体と、
RNAと
を含む、ミセルであって、
温度応答性ブロックは、5℃~35℃の下限臨界共溶温度を有し、下限臨界共溶温度未満で親水性であり、下限臨界共溶温度以上で疎水性であり、
RNAは、疎水性に変化した三元共重合体の温度応答性ブロックと温度応答性重合体とで形成される外殻によって覆われている、ミセル。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは同一の分子でも異なる分子でもあり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。温度応答性重合体は、温度応答性ブロックからなる重合体とすることもできる。
【0040】
本発明の上記ミセルは、血中安定性が高く、血中においてもmRNAを安定に維持することができる。したがって、本発明の上記ミセルは、医薬組成物、特に限定されないが、静脈内投与用の医薬組成物とすることができる。
【0041】
したがって、本発明によれば、親水性ブロックと温度応答性ブロックとカチオン性ブロックとの三元共重合体と、RNAとの組合せの使用であって、上記[1]または[2]に記載のミセルを含む医薬組成物の製造、特に静脈内投与用の医薬組成物の製造における使用が提供される。また、本発明によれば、親水性ブロックと、温度応答性ブロックと、カチオン性ブロックとの三元共重合体と、温度応答性重合体と、RNAとの組合せの使用であって、上記[3]または[4]に記載のミセルを含む医薬組成物の製造、特に静脈内投与用の医薬組成物の製造における使用が提供される。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子であり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。温度応答性重合体は、温度応答性ブロックからなる重合体とすることもできる。
【0042】
本発明の医薬組成物は、上記ミセルに加えて、賦形剤を含んでいてもよい。ミセルは体液一般に含まれるRNAseから内包したmRNAを保護することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、経皮投与、腹腔内投与、脳室内投与、心室内投与、筋肉内投与、および髄腔内投与などのあらゆる非経口投与により投与され得る。これらの投与に適した賦形剤は、当業者に知られた賦形剤を用いることができる。
【0043】
上記の全ての態様において、RNAとしてmRNAが好ましく用いられ得る。また、mRNAはタンパク質発現用のmRNAであり得る。
【0044】
本発明の上記ミセルは、粒径が数十nmから100nm程度であり得る。このようなミセルは、Enhancedpermeability and retention(EPR)効果により腫瘍に好ましく送達されうる。したがって、ある態様では、本発明の上記ミセルに含有させるmRNAは、抗腫瘍効果を有するタンパク質をコードするmRNAであり得る。
【0045】
本発明では、薬剤送達用のキャリアやこれを含む組成物は、薬学上許容されるものである。「薬学上許容される」とは、許容されない毒性を奏しないこと、および/または、許容されない毒性を奏しない用量で投与されることを意味する。
【0046】
本発明によれば、RNA内包ミセルの製造方法であって、
(a)親水ブロックと5~35℃の下限臨界共溶温度を有する温度応答性ブロックとカチオン性ブロックとを含む三元共重合体とRNAとを、前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合することと、
(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させること
を含む方法が提供される。この方法において、三元共重合体とRNAには、温度応答性重合体(例えば、温度応答性ブロックからなる重合体)とさらに混合してもよい。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは同一の分子でも異なる分子でもあり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。
【0047】
本発明によれば、RNA内包ミセルを含む医薬組成物の製造方法であって、
(a)親水ブロックと5~35℃の下限臨界共溶温度を有する温度応答性ブロックとカチオン性ブロックとを含む三元共重合体とRNAとを、前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合することと、
(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させること
を含む方法が提供される。上記(a)では、混合する材料は全て薬学的に許容されるものとしてもよく、水溶液は賦形剤を含んでいてもよい。この方法において、三元共重合体とRNAには、温度応答性ブロックを含んでなる重合体(例えば、温度応答性ブロックからなる重合体)とさらに混合してもよい。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とはある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。異なる分子でもあり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。
【0048】
本発明によれば、対象の体内にRNAを送達する方法であって、本発明のミセルを対象に投与することを含む、方法が提供される。本発明によれば、対象の体内にRNAを送達する方法であって、
(a)親水ブロックと5~35℃の下限臨界共溶温度を有する温度応答性ブロックとカチオン性ブロックとを含む三元共重合体とRNAとを、前記下限臨界共溶温度未満の温度の水溶液中で混合することと、
(b)その後、水溶液の温度を前記下限臨界共溶温度以上に上昇させることと、
(c)得られたミセルを対象に投与することと
を含む、方法が提供される。この方法において、三元共重合体とRNAには、温度応答性重合体(例えば、温度応答性ブロックからなる重合体)とさらに混合してもよい。この態様において、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは同一の分子でも異なる分子でもあり得る。ある態様では、温度応答性重合体は、前記三元共重合体とは異なる分子である。ある態様では、温度応答性重合体は、カチオン性ブロックを有しない。
【実施例
【0049】
実施例1:トリブロック共重合体を用いたpDNAとmRNAの安定性向上効果の比較
【0050】
[材料]
mRNAは、テンプレートのDNAをmMESSAGE mMACHINE T7 Ultra Kit (Ambion社) を用いてin vitroトランスクリプションする、またpoly(A) tailkit(Ambion社)を用いてpoly(A)修飾を施すことで調製した。またテンプレートのDNA作成には、New England Biolabs社より購入したpCMV-Gluc control plasmidを用いた。
ウシアルブミン血清(FBS)は大日本住友製薬から購入した。
pDNAは理研バイオリソースセンターより提供されたルシフェラーゼがコードされCAGプロモーターを持つpCAG-Luc2を用いた。
トリブロック共重合体は、親水性連鎖ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEtOx)と温度応答性連鎖ポリ(2-n-プロピル-2-オキサゾリン)からなるブロックセグメントと、カチオン性連鎖ポリリジン(PLys)を合成し、これらを結合することで作成した。トリブロック共重合体の合成スキームは以下スキーム1~3に示される通りであった。
【0051】
【化1】
【化2】

【化3】
【0052】
より具体的には、トリブロック共重合体の合成では、まずアルキン末端を持つ重合開始剤p-トルエンスルホン酸プロパルギル(61 mg, 0.29 mmol)をアセトニトリル9 mLとクロロベンゼン9 mLに溶解させ、2-n-プロピル-2-オキサゾリン( 2.3 g, 20 mmol)を加えた。反応溶液を42 ℃で6日間反応させた後、2-エチル-2-オキサゾリン(4.3 g, 44 mmol)を加えてさらに6日間反応を行った。ここで用いたp-トルエンスルホン酸プロパルギルは東京化成より購入し、Wako社より購入した五酸化ニリンを脱水剤として用いて蒸留精製して使用した。オキサゾリンモノマーは東京化成より購入し、シグマアルドリッチ社より購入したカルシウムハイドライドを脱水材として用いて蒸留精製して使用した。反応溶媒のアセトニトリル、クロロベンゼンはwako社より購入し、それぞれカルシウムハイドライド、五酸化二リンを脱水剤として用いて蒸留精製して使用した。重合反応後、反応溶液を水に対して5回透析し、凍結乾燥することでアルキン末端を持つジブロック共重合体、Alkyne-PnPrOx-PEtOxを得た。得られたポリマーは、MALDI-TOFMS(UltraFlextreme, Bruker社)と1H-NMR(ESC400,JEOL)による解析から、PnPrOxの分子量が7.3k、PEtOxの分子量が13.7kであることが分かった。
別途、アジド末端を持つポリリジン(PLys-N3)を合成した。これは、シグマアルドリッチ社より購入した11-azido-3,6,9-trioxaundecan-1-amineを開始剤として用い、非特許文献(J. Polym. Sci. Part A Polym. Chem. 2003, 41 1167-1187)に則りFuchs-Farthing法により合成したLys(TFA)-NCAを重合、その後塩基で処理することで得られる。開始剤(22 mg, 0.10 mmol)を1Mの濃度のチオウレアを溶かしたDMF (DMF (1M TU))2 mLに溶解させた。別途Arバック中でLys(TFA)-NCA(1.35 g, 5.0 mmol)をフラスコに測りとり、15mLのDMF(1M TU)に溶解させた。調製したLys(TFA)-NCA溶液を、Ar雰囲気下で開始剤溶液に加え、25 ℃で2日間撹拌して重合反応を行った。反応溶液を水に対して5回透析したのち、凍結乾燥することでPoly(L-Lysine)(TFA) (PLys(TFA))を得た。 得られたPLys(TFA)を500 mg測りとり、25 mLのメタノールに溶解させた。反応後は、0.01 M HClに対して3回透析を行った後、水に対して3回透析を行い、凍結乾燥によりアジド末端を持つポリリジン、PLys-N3を回収した。得られたポリマーは、1H-NMR(ESC400,JEOL)による解析から、重合度が51であることが分かった。
続いて、Alkyne-PnPrOx-PEtOxとPLys-N3をClick Chemistryによりカップリングした。Alkyne-PnPrOx-PEtOx(210 mg, 0.01 mmol)を水2 mLに溶解し、1MのCuSO4溶液と1Mのアスコルビン酸ナトリウム溶液を20 μLずつ加え、撹拌した。別途、PLys-N3(35mg, 0.0044 mmol)を水1 mLに溶解し、Alkyne-PnPrOx-PEtOx溶液に加え、-20 ℃で一晩静置し、4 ℃で2時間かけて融解させた。生成物は、反応溶液を水に対して5回透析し、凍結乾燥することで回収した。ここでの回収物はトリブロック共重合体の他に、PLys-N3を全て反応させるために過剰に加えたAlkyne-PnPrOx-PEtOxも含まれている。これら二つのジオキサンへの溶解性の違いに着目し、精製作業を行った。回収物をwako社より購入した脱水ジオキサンに分散させて遠心分離により上澄みを取り除く工程を3回行い、ジオキサンへの溶解性が高いAlkyne-PnPrOx-PEtOxのみを取り除き、溶解性の低いトリブロック共重合体のみを沈殿物として回収した。
カップリングの進行や、精製作業後の回収物はGEヘルスケア社のカラムSuperdex 200を用いたSEC(AKTAexplorer,GE Helthcere)によって分析した。
本トリブロック共重合体の下限臨界共溶温度(LCST)は約30℃であった。
【0053】
[実験]
50 ng/μLの濃度に調製したpDNA溶液、またはmRNA溶液100 μLに対して、ポリカチオン/核酸の電荷比が2となるよう濃度を調製したトリブロック共重合体水溶液50 μLを4 ℃で混合し、その後37 ℃で10分間静置することでミセル溶液とした。これらのミセル溶液15 μLとFBS15 μLをそれぞれ混合し、37 ℃で15分間静置した。pDNAミセル溶液に対してはDNeasy kit (Qiagen社)を、mRNAミセル溶液に対してはRNeasykit (Qiagen社)を用いて核酸を抽出し、回収した。回収したDNAはそのままqRT-PCR( ,Biorad社)を用いて残存量を定量し、RNAについてはReverse Transfection kit (TOYOBO社)を用いてcDNAに逆転写した後、qRT-PCR(Biorad社)により定量した。
33.3 ng/μLの濃度に調製したpDNA溶液、mRNA溶液に対しても、FBSとの静置や抽出等、ミセル溶液と同様の操作をそれぞれ行った。結果は、図1に示される通りであった。
【0054】
図1に示されるように、pDNAミセルの系では、pDNAを安定に保持することが確認された。これは既報(Biomacromolecules, 2016, 17, 354-361)の通りである。Nakedと比べると、その残存量は約18倍の値を示した。一方、mRNAミセルでは劇的な安定性向上効果が観察された。今回の実験では、nakedのmRNAの残存量はバックグラウンドと変わらず検出できなかったが、同実験条件においてmRNAの残存量は1.33×10-5%となるとの報告がなされている(Biomaterials, 2016, 82, 221-228.)。トリブロック共重合体でミセル化したmRNAについては50%程度の残存量を示しているので、その残存量は実に4,000,000倍程度であった。これはトリブロック共重合体によるミセルが、生体内で分解されやすいmRNAの核酸送達キャリアとして特に適していることを示している。上記トリブロック共重合体によるミセルは、意外にもmRNAに対しては数百万倍という高い保護効果が奏され、これにより、その保護効果は実用上意味のあるものであると評価された。上記トリブロック共重合体によるミセルが力学的に安定な球の形状を有していたことが、内包するmRNAの高い保護効果に起因していると考えられた。
【0055】
実施例2: mRNAミセルの血中安定性
【0056】
[材料]
トリブロック共重合体、mRNAについては実施例1と同様のものを用いた。動物実験に用いるマウス(Balb/c, ♀)は、チャールズリバー社より購入した。また今回の実験では対照として、温度応答性を持たず、カチオン鎖であるPLysの重合度はトリブロック共重合体と同じ51で、親水性鎖として分子量23kのPEtOxを持つジブロック共重合体を用意した。
【0057】
[実験]
300 ng/μLの濃度に調整したmRNA溶液と、ポリカチオン/核酸の電荷比が2となるよう濃度を調製したトリブロック共重合体を4 ℃で混合し、核酸の濃度が200 ng/μLのミセル溶液となるよう調節した。ミセル溶液を37 ℃で10分間静置した後、マウス尾静脈より投与した。投与後2.5、5、10分後に尾の静脈より2.0 μLの血液を採取し、1%のメルカプトエタノールを含んだRLTバッファー350 μLに加えた。その後、RNeasy kit(Qiagen社)のプロトコールに則りRNAを抽出した。抽出したRNAはReverseTransfection kit (TOYOBO社)を用いてcDNAに逆転写した後、qRT-PCR(Biorad社)により定量した。同様に、ジブロック共重合体も用いて高分子ミセルを作成し、評価した。結果は、図2に示される通りであった。
【0058】
図2に示されるように、トリブロック共重合体は有意に高い血中安定性を示した。血中半減期を計算すると、トリブロック共重合体では64秒でジブロック共重合体では27秒であることからも、疎水性保護層が効果的であることがはっきりと分かる。また現在このトリブロック共重合体からなるミセルと同等の血中半減期を持つmRNAキャリアも報告されているが(Biomaterials, 2016, 82,221-228.)、これは過剰にカチオンポリマーが存在する系である為、毒性の観点から考えると、トリブロック共重合体ミセルの方が好ましいと結論出来る。
【0059】
実施例3:ミセルに対する刺激応答性ポリマーの添加と形態変化
【0060】
[材料]
実施例1、2で用いたものと同様のトリブロック共重合体とmRNA、また実施例2で用いたものと同様のジブロック共重合体を用意した。
ミセルに添加する刺激応答性ポリマーとして、分子量が20kのPnPrOxを用意した。開始剤p-トルエンスルホン酸プロパルギル(61 mg, 0.29 mmol)をアセトニトリル9 mL、クロロベンゼン9 mLに加えた。ここに2-n-プロピル-2-オキサゾリン(7.2g, 64 mmol)を加え、42 ℃で10日間反応させた。ここで用いたp-トルエンスルホン酸プロパルギルは東京化成より購入し、Wako社より購入した五酸化ニリンを脱水剤として用いて蒸留精製して使用した。オキサゾリンモノマーは東京化成より購入し、シグマアルドリッチ社より購入したカルシウムハイドライドを脱水材として用いて蒸留精製して使用した。反応溶媒のアセトニトリル、クロロベンゼンはwako社より購入し、それぞれカルシウムハイドライド、五酸化二リンを脱水剤として用いて蒸留精製して使用した。
【0061】
[実験]
50 ng/μLの濃度に調製したmRNA溶液100 μLに対して、ポリカチオン/核酸の電荷比が2となるよう濃度を調製したトリブロック共重合体溶液50 μLを4 ℃で混合した。続いて37 ℃で10分間静置し、これに対して37 ℃で動的光散乱測定(Zetasizer, Malvern)を行い、粒径、粒径分布を見た。また別途、4 ℃においてミセル溶液50 μLと0.5 mg/mLに調整したPnPrOx溶液25 μLを混合した溶液を調整し、37 ℃で10分間静置後、動的光散乱測定により形態を評価した。同様の測定を、ジブロック共重合体から形成されたミセルに対しても行った。結果は図3-1および3-2に示される通りであった。
【0062】
図3-1に示されるように、動的光散乱測定によると、トリブロックからなるミセルは、37 ℃において平均粒径が64 nm、粒径分布を示すPDIが0.24であった。これに対し、PnPrOxをミセルに後から加えた系では、平均粒径が77 nm、PDIが0.14であり、少し粒径が増加してより粒径分布の狭い粒子となった。また、透過電子顕微鏡によると粒子は球形であった。
【0063】
LCST未満の低温では、ミセル状態における中間層である温度応答性ブロックPnPrOxは親水性であり、親水性である他の中間層と一定以上の密度で密集しており、他方で後に添加したPnPrOxは溶液中を浮遊していると考えられる。ここで、LCST以上に温度を上昇させると、PnPrOxが疎水性に変化し、ミセル状態における中間層である温度応答性ブロックPnPrOxがまず相互作用を起こして疎水性の核を形成する。そして、後から添加したPnPrOxは、先に疎水性相互作用を起こしたミセル中間層を核として遅れて疎水吸着を起こし、これにより粒径を増大させたものと考えられる。図3-2(b)に見られるように、疎水性保護層が存在しないミセルに対しては、粒径分布は二峰性となる。この二峰性のピークはそれぞれ図3-2(a)および(c)のジブロック共重合体のミセルおよびPnPrOx凝集体を示す粒径分布に対応することから、図3-2(b)の二つのピークは、ジブロックポリマーより形成されたミセルと、PnPrOxの凝集体に起因するものであることが分かった。したがって、温度応答性ブロックを有しないジブロック共重合体では、PnPrOxはミセルと複合体を形成できないが、温度応答性ブロックを有するトリブロック共重合体では、PnPrOxはミセルに取り込まれたことが示された。この結果は、PnPrOxがトリブロックミセルに疎水吸着していることを支持するものである。これにより、トリブロック共重合体を用いて形成させたRNAミセルは、力学的に安定な形状(すなわち、球の形状)を有し、かつ、力学的に安定な構造(疎水結合)を有することが明らかとなった。
【0064】
実施例4:刺激応答性ポリマー添加によるRNase Aに対する酵素分解の抑制
【0065】
[材料]
実施例1、2、3で用いたものと同様のトリブロック共重合体とmRNA、また実施例3で用いたものと同様である分子量20kのPnPrOxを用意した。
RNase Aはタカラバイオ株式会社より購入したものを用いた。
【0066】
[実験]
50 ng/μLの濃度に調製したmRNA溶液200 μLに対して、ポリカチオン/核酸の電荷比が2となるよう濃度を調製したトリブロック共重合体溶液100 μLを4 ℃で混合した。ミセル溶液60 μLを測りとり、4 ℃において5,2.5, 0.5, 0 mg/mL濃度に調整したPnPrOx水溶液30 μLのいずれかと混合し、37 ℃で10分間静置した。これら調整したミセル溶液 15 μLに対してそれぞれ 6 μg/mLのRNase A溶液15 μLを加え、37 ℃で1時間静置した。その後、RNeasykit(Qiagen社)のプロトコールに則りRNAを抽出した。抽出したRNAはReverse Transfection kit (TOYOBO社)を用いてcDNAに逆転写した後、qRT-PCR(Biorad社)により定量した。結果は、図4に示される通りであった。
【0067】
図4に示される通り、トリブロック共重合体ミセルに対してPnPrOxを添加することで内包されるmRNAのRNase A耐性の向上が見られた。この結果から、PnPrOxがミセル中間層に吸着し、疎水性層をより強固にしていると考えられた。このようにして、PnPrOxをミセル形成後に添加することによって、高分子ミセルの更なる安定化を達成することが出来た。
【0068】
実施例5:刺激応答性ポリマーを添加したミセルの血中安定性評価
【0069】
[材料]
実施例1、2、3で用いたものと同様のトリブロック共重合体とmRNA、また実施例3で用いたものと同様である分子量20kのPnPrOxを用意した。動物実験に用いるマウスはBalb/c ♀をチャールズリバー社より購入した。
【0070】
[実験]
300 ng/μLの濃度に調整したmRNA溶液と、ポリカチオン/核酸の電荷比が2となるよう濃度を調製したトリブロック共重合体を4 ℃で混合し、核酸の濃度を200 ng/μLになるよう調節した。4 ℃においてミセル溶液200 μLに対して0.5 mg/mLに調節したPnPrOx溶液100 μLを混合し、37 ℃で10分間静置した。このように調整したミセル溶液300 μLをマウス尾静脈より投与し、投与後2.5分後に尾の静脈より2.0 μLの血液を採取、1%のメルカプトエタノールを含んだRLTバッファー350 μLに加えた。その後、RNeasykit(Qiagen社)のプロトコールに則りRNAを抽出した。抽出したRNAはReverse Transfection kit (TOYOBO社)を用いてcDNAに逆転写した後、qRT-PCR(Biorad社)により定量した。結果は、図5に示される通りであった。
【0071】
図5に示されるように、PnPrOxを添加することで、血中半減期が64秒から80秒に向上した。PnPrOx添加によるトリブロック共重合体ミセルの疎水性保護層の強化は、内包されるmRNAの血中安定性向上に有効であることが分かった。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5