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特許7471394繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20240412BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240412BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240412BHJP
   B29C 48/78 20190101ALI20240412BHJP
   C08J 5/04 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
C08L23/12
C08L23/26
C08K7/02
B29C48/78
C08J5/04 CES
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022512610
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013790
(87)【国際公開番号】W WO2021201086
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020062388
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕一
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/119480(WO,A1)
【文献】特開2009-114435(JP,A)
【文献】特開2014-198847(JP,A)
【文献】特開2016-006245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(A)、150℃、30分加熱したときに揮発するポリプロピレン由来の炭素原子数24以下のオリゴマー成分が109μg/g未満である不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)及び強化繊維(C)を含有し、前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)の不飽和カルボン酸のグラフト量が0.3~0.6質量%であり、前記不飽和カルボン酸が無水マレイン酸または無水フタル酸である、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を150℃、30分加熱したときに揮発する不飽和カルボン酸由来の揮発成分量が10~1000μg/gである請求項1に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)が無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む請求項1に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記強化繊維(C)がガラス繊維を含む請求項1に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリプロピレンと不飽和カルボン酸又はその誘導体を、有機過酸化物と共に170~200℃で混練することにより、前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を得る工程を含む、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
前記繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物が、ポリプロピレン系樹脂(A)、150℃、30分加熱したときに揮発するポリプロピレン由来の炭素原子数24以下のオリゴマー成分が200μg/g未満である不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)及び強化繊維(C)を含有し、
前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)の不飽和カルボン酸のグラフト量が0.3~0.6質量%であり、前記不飽和カルボン酸が無水マレイン酸または無水フタル酸である
【請求項6】
前記工程における混練は二軸押出機を用いて行い、前記二軸押出機の混練部の設定温度が110℃以上、前記ポリプロピレンの融点未満である請求項5に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度(特に耐クリープ性)に優れた成形体を製造しうる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂成形体は軽量で剛性及び耐熱性に優れているので、電気機器、自動車、住宅設備、医療器具等の様々な分野で利用されている。
【0003】
繊維強化樹脂成形体としては、例えば、ガラス繊維等の強化繊維と、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を用いた成形体が知られている。ポリオレフィン系樹脂は、一般的に安価であり、加工性や耐薬品性に優れ、焼却しても有害ガスを発生させ難い、リサイクル性に優れる等の優れた特性を持つ。したがって、ポリオレフィン系樹脂は繊維強化樹脂のマトリックス樹脂として注目されている。中でも、安価で、比重が小さく、耐熱性が比較的高く、成形性、耐薬品性などの特性にも優れるポリプロピレン系樹脂が注目されている。
【0004】
ポリプロピレン系樹脂は極性が低いので、強化繊維との界面接着性に劣る傾向にある。そこで、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂を用いて強化繊維との界面接着性を改善する方法が知られている。
【0005】
不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂は、通常、不飽和カルボン酸成分を用いて未変性ポリプロピレン系樹脂に不飽和カルボン酸単位を導入することにより得られる。ただし、このようにして得られる酸変性ポリプロピレン系樹脂においては、ある程度の量の未反応の不飽和カルボン成分が樹脂中に残存する傾向にあり、その残存量が多いと繊維強化樹脂成形体の物性に悪影響を与える場合がある。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む繊維収束剤の乾燥残渣における不飽和カルボン酸モノマー量を10,000ppm以下にすることにより、物性の低下を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-006245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む従来の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物について、特に耐クリープ性等の強度についてさらに改善しようと考えた。すなわち本発明の目的は、強度(特に耐クリープ性)に優れた成形体を製造しうる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定条件で測定した特定種類のオリゴマーの揮発量が特定量以下である不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂を用いることが、強度(特に耐クリープ性)の向上において非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1]ポリプロピレン系樹脂(A)、150℃、30分加熱したときに揮発するポリプロピレン由来の炭素原子数24以下のオリゴマー成分が200μg/g未満である不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)及び強化繊維(C)を含有する繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【0011】
[2]前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を150℃、30分加熱したときに揮発する不飽和カルボン酸由来の揮発成分量が10~1000μg/gである[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【0012】
[3]前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)が無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【0013】
[4]前記強化繊維(C)がガラス繊維を含む[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【0014】
[5]ポリプロピレンと不飽和カルボン酸又はその誘導体を、有機過酸化物と共に170~200℃で混練することにより、前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を得る工程を含む、[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【0015】
[6]前記工程における混は二軸押出機を用いて行い、前記二軸押出機の混部の設定温度が110℃以上、前記ポリプロピレンの融点未満である[5]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度(特に耐クリープ性)に優れた成形体を製造しうる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法を提供できる。
【0017】
例えば、未反応の無水マレイン酸を多く含む無水マレイン酸変性ポリプロピレンをガラス繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物に使用すると、特定の物性が低下する傾向があることは知られている。一方、本発明においては無水マレイン酸ではなく別の観点から、すなわち、特定の条件で揮発するポリプロピレン由来の炭素原子数24以下のオリゴマー成分の量が特定範囲内である不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を使用することにより、強度(特に耐クリープ性)に優れた成形体を製造しうる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ポリプロピレン系樹脂(A)>
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂(A)は、代表的にはプロピレン単独重合体である。ただし本発明はこれに限定されず、プロピレン系共重合体(プロピレンと他のモノマーとの共重合体)であっても良い。プロピレン系共重合体としては、例えば、プロピレンとエチレン及び炭素原子数4~20のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンとのランダム共重合体又はブロック共重合体が挙げられる。ランダム共重合体に占めるプロピレン起因骨格の含量は通常90~99モル%、好ましくは92~98モル%である。ブロック共重合体に占めるプロピレン起因の骨格含量は通常70~99モル%、好ましくは75~98モル%である。ポリプロピレン系樹脂(A)として、2種以上のプロピレン系樹脂(例えばプロピレン単独重合体とプロピレン系共重合体)を併用しても良い。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂(A)がプロピレン系共重合体を含む場合、そのプロピレン系共重合体に用いるプロピレン以外のモノマーの具体例としては、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセンが挙げられる。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂(A)のASTM D1238に準拠して測定される230℃、荷重2.16kgでのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1~500g/10分、より好ましくは0.2~400g/10分、特に好ましくは0.3~300g/10分である。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂(A)は、好ましくはアイソタクティックポリプロピレン系樹脂である。アイソタクティックプロピレン系樹脂とは、NMR法により求めたアイソタクティックペンタッド分率が0.9以上、好ましくは0.95以上であるプロピレン系樹脂である。ただし本発明はこれに限定されず、ポリプロピレン系樹脂(A)はシンジオタクティックポリプロピレン系樹脂であっても良いし、アタクティックポリプロピレン系樹脂であっても良い。また、ポリプロピレン系樹脂(A)は、チーグラーナッタ触媒を用いて調製されたものであっても良いし、メタロセン触媒を用いて調製されたものであっても良い。
【0022】
<不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)>
本発明に用いる不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)は、ポリプロピレン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体で酸変性することにより得られる。その変性方法としては、例えば、グラフト変性や共重合化がある。
【0023】
変性に用いる不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、フタル酸が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩がある。その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水フタル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、マレイン酸モノエチルエステル、アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムが挙げられる。中でも、不飽和ジカルボン酸及びその誘導体が好ましく、無水マレイン酸及び無水フタル酸がより好ましく、無水マレイン酸が最も好ましい。
【0024】
溶融混練過程で酸変性する場合は、例えば、ポリプロピレンと不飽和カルボン酸又はその誘導体を、有機過酸化物と共に押出機中で混練することにより、不飽和カルボン酸又はその誘導体をグラフト共重合し変性する。その有機過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドが挙げられる。
【0025】
特に、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)は、無水脂肪酸変性ポリプロピレン系樹脂を含むがことが好ましく、無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を含むことがより好ましい。
【0026】
本発明において、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を150℃、30分加熱したときに揮発するポリプロピレン由来の炭素原子数24以下のオリゴマー成分の量(揮発成分量)は、200μg/g未満、好ましくは150μg/g未満、より好ましくは50μg/g未満である。このような特定の条件で揮発する上記オリゴマー成分の量が上記各範囲内であると、成形体の強度(特に耐クリープ性)が向上する。各範囲の下限値は特に限定されず、この揮発成分量は少ないほど好ましい。ただし、オリゴマー成分を除去する工程(後述する製造方法の欄に記載の方法や実施例における乾燥工程など)の時間やコストを考慮した場合、各範囲の下限値については,20μg/g以上が好ましい。ここで、揮発成分量はGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)によって測定される値である。測定方法の詳細は実施例の欄に記載する。
【0027】
本発明において、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を150℃、30分加熱したときに揮発する不飽和カルボン酸由来の揮発成分量は、好ましくは10~1000μg/g、より好ましくは10~500μg/gである。このような特定の条件で揮発する不飽和カルボン酸由来の揮発成分量が上記各範囲内であると、上述したオリゴマー成分の量が少ないことにより生じる作用・効果と相俟って、成形体の強度(特に耐クリープ性)がさらに向上する。ここで、不飽和カルボン酸由来の揮発成分量はGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)によって測定される値である。測定方法の詳細は実施例の欄に記載する。
【0028】
本発明において、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を得る為の変性方法としてグラフト変性を用いる場合、不飽和カルボン酸又はその誘導体のグラフト量は、好ましくは0.3~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%である。グラフト量の測定方法の詳細は実施例の欄に記載する。
【0029】
不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)のベースとなるポリプロピレン系樹脂の種類や物性は、特に制限されない。ただし、ポリプロピレン系樹脂(A)の種類や物性として先に挙げたものと同様のものを使用できる。
【0030】
<強化繊維(C)>
本発明に用いる強化繊維(C)の種類は特に限定されない。強化繊維(C)の具体例としては、ガラス繊維、カーボンファイバー(炭素繊維)、カーボンナノチューブ、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、炭化ケイ素繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、金属繊維、綿、セルロース類、絹、羊毛及び麻等の天然繊維、レーヨン及びキュプラ等の再生繊維、アセテート及びプロミックス等の半合成繊維、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド及びポリオレフィン等の合成繊維、さらにはそれらの表面及び末端を化学修飾した変性繊維が挙げられる。特に、強化繊維(C)は、ガラス繊維を含むことが好ましい。
【0031】
強化繊維(C)の形態としては、チョップドストランドが好ましい。チョップドストランドは、通常長さが1~10mm、繊維径が5~20μmであり、好ましくは長さが1.5~6mm、繊維径が8~14μmである。その他の形態として、連続状繊維束を用いることもできる。連続状繊維束は、例えばロービングとして市販されている。その繊維径は通常5~30μm、好ましくは13~20μmである。
【0032】
強化繊維(C)としては、一種の強化繊維のみを使用しても良いし、2種以上の強化繊維を併用してもよい。
【0033】
<その他の成分>
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、衝撃改良剤としてのエラストマー成分や、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、銅害防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、顔料、発泡剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合できる。添加剤の混合順序は任意であり、同時に混合してもよいし、一部成分を混合した後に他の成分を混合する多段階の混合方法を用いることもできる。中でも、フェノール系酸化防止剤及び/又はイオウ系酸化防止剤を配合することが好ましい。
【0034】
<繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物>
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、以上説明したポリプロピレン系樹脂(A)、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)及び強化繊維(C)を含有する樹脂組成物である。
【0035】
繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物中、ポリプロピレン系樹脂(A)及び強化繊維(C)の合計100質量部を基準として、ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量は、好ましくは90~50質量部、より好ましくは80~60質量部である。強化繊維(C)の含有量は、好ましくは10~50質量部、より好ましくは20~40質量部である。
【0036】
また、ポリプロピレン系樹脂(A)及び強化繊維(C)の合計100質量部を基準として、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)の含有量は、好ましくは0.5~5質量部、より好ましくは1~3質量部である。
【0037】
<繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法>
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、以上説明したポリプロピレン系樹脂(A)、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)及び強化繊維(C)、並びに必要に応じてその他の成分を配合することにより製造できる。各成分の配合の順序は任意である。例えば、各成分を混合装置により混合又は溶融混練することにより繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得ることができる。
【0038】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンと不飽和カルボン酸又はその誘導体を、有機過酸化物と共に170~200℃で混練することにより、前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)を得る工程を含む方法によって製造することが好ましい。このような工程は、特定の揮発成分(ポリプロピレン由来の炭素原子数24以下のオリゴマー成分)を不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)から除去する為に非常に有効な工程である。
【0039】
前記工程における混時の樹脂温度は170~200℃であり、好ましくは170~190℃である。
【0040】
前記工程における混を二軸押出機などの押出機を用いて行う場合、二軸押出機などの押出機の混部の設定温度は、110℃以上、ポリプロピレンの融点未満であることが好ましく、120℃以上、150℃以下であることがより好ましい。なお、二軸押出機の混部は、ニーディング(スクリューセグメント)を設けた部分であり、スクリューが回転することにより得られるせん断作用により樹脂を可塑化し且つ加熱混する部分である。また、二軸押出機の先端部分のダイス部の設定温度は、170℃以上、200℃未満であることが好ましく、170℃以上、190℃以下であることが好ましい。ダイス部は、スクリュー回転によるせん断発熱作用による温度上昇の影響を受けず、混部の樹脂温度を維持するため、ダイス部は混部より高めの温度設定することが好ましい。
【実施例
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0042】
<製造例1>
ポリプロピレン[(株)プライムポリマー製、商品名E-100GV、ホモポリマー、融点165℃]100質量部、無水マレイン酸2質量部、及び、有機過酸化物[化薬アクゾ(株)製、商品名パーカドックス(登録商標)14]0.3質量部をヘンシェルミキサーで均一に混合した。このようにして得た混合物を、同方向二軸押出混練機[(株)日本製鋼所製、TEX(登録商標)44]に供給し、混部温度を130℃、ダイス部温度を180℃に設定し、樹脂温度190℃で混練して、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)のペレットを得た。
【0043】
<製造例2>
製造例1で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)を、ギヤーオーブンを用いて120℃で2時間乾燥し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-2)のペレットを得た。
【0044】
<製造例3>
無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B'-1)[ポリラム社製、商品名Bondyram1001]を、ギヤーオーブンを用いて120℃で2時間乾燥し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-3)のペレットを得た。
【0045】
以上のようにして得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)~(B-3)、並びに、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B'-1)[ポリラム社製、商品名Bondyram1001]及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B'-2)[ポリマーアジア社製、商品名PA-Bond363C]の無水マレイン酸のグラフト量、無水マレイン酸由来揮発成分量及び炭素原子数24以下のオリゴマー揮発成分量を、以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0046】
[無水マレイン酸のグラフト量]
無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂約2gを採取し、500mlの沸騰p-キシレンに完全に加熱溶解した。これを冷却した後、1200mlのアセトン中に投入し、析出物を濾過、乾燥してポリマー精製物を得た。そして、このポリマー精製物を熱プレスして、厚さ20μmのフィルムを得た。このフィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm-1付近の吸収に基づいて無水マレイン酸のグラフト量を定量した。
【0047】
[無水マレイン酸由来の揮発成分量]
無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂50mgを採取し、150℃で30分加熱したときの無水マレイン酸由来の揮発成分量をGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)によって定量した。
【0048】
[炭素原子数24以下のオリゴマー成分の量]
無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂50mgを採取し、150℃で30分加熱したときの炭素原子数24以下のオリゴマー成分の量(揮発成分量)をGC-MSによって定量した。
【0049】
【表1】
【0050】
<実施例1>
ポリプロピレン系樹脂(A)としてポリプロピレン(J105G)[(株)プライムポリマー製、商品名J105G、ホモポリマー、MFR=9g/10min]80質量部、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)として製造例1で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)1質量部、フェノール系酸化防止剤(Irg1010)[BASF社製、商品名イルガノックス(登録商標)1010]0.1質量部、及び、イオウ系酸化防止剤(DMTP)[三菱化学社製、商品名DMTP]0.1質量部をタンブラーミキサーで均一に混合した。
【0051】
以上のようにして得た混合物を、同方向二軸押出混練機[(株)日本製鋼所製、TEX(登録商標)30α]に供給し、かつ強化繊維(C)としてガラス繊維(T-480)[日本電気硝子(株)製、商品名T-480、チョップドストランド]を同方向二軸押出混練機の途中からサイドフィードし、240℃で加熱混練して、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0052】
<実施例2>
不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)として、製造例1で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)の代わりに、製造例2で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0053】
<実施例3>
不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)として、製造例1で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)の代わりに、製造例3で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0054】
<比較例1>
製造例1で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)の代わりに、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B'-1)[ポリラム社製、商品名Bondyram1001]を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0055】
<比較例2>
製造例1で得た無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B-1)の代わりに、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B'-2)[ポリマーアジア社製、商品名PA-Bond363C]を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0056】
以上の実施例及び比較例のペレットを用いて、射出成形機にて成形温度220℃、金型温度40℃でISO 527の1Aダンベルの試験片を成形し、これを用いて以下に示す方法で引張破壊応力とクリープ破断時間を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
[引張破壊応力]
ISO 527に準拠し、1Aダンベルを用いて引張速度5mm/minの条件で引張破壊応力(MPa)を測定した。
【0058】
[クリープ破断時間]
ISO 527の1Aダンベルを使用し、80℃、応力25MPaの条件でクリープ破断時間(hr)を測定した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2から明らかなように、実施例1~3のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体はクリープ破断時間が長く、すなわち耐クリープ性が優れていた。
【0061】
一方、比較例1及び2は、炭素原子数24以下のオリゴマー成分の量が200μg/gを超える例であり、クリープ破断時間が短く、すなわち耐クリープ性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、種々の分野の耐クリープ性に優れる成形体の材料として好適に用いることができる。