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特許7471431発泡ポリプロピレンビーズ、発泡ポリプロピレンビーズの製造方法、発泡ポリプロピレンビーズから形成される成形品、及びその成形品の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】発泡ポリプロピレンビーズ、発泡ポリプロピレンビーズの製造方法、発泡ポリプロピレンビーズから形成される成形品、及びその成形品の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20240412BHJP
   C08J 9/228 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C08J9/16 CES
C08J9/228 CES
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022548845
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2021054096
(87)【国際公開番号】W WO2021170492
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】20160024.4
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511114678
【氏名又は名称】ボレアリス エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】レイヒェルト ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】トロムスドルフ ウッラ
(72)【発明者】
【氏名】タマロ ダニエレ
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-274024(JP,A)
【文献】特表2017-532425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0273740(US,A1)
【文献】国際公開第2018/016399(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0153188(US,A1)
【文献】特開平09-302131(JP,A)
【文献】特開平10-298337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
b)135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
c)2.00~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)を含む発泡ポリプロピレンビーズであって、
前記ポリプロピレン組成物(C)は、前記ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマーを含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含む発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項2】
前記ポリプロピレン組成物(C)が、
a)20~100cNの範囲の、ISO 16790に従ってレオテンス試験において決定された破断最大力(Fmax)、
b)180~500mm/sの範囲の、ISO 16790に従ってレオテンス試験において決定された破断最大速度(Vmax)、及び/又は
c)300~1700の範囲の、式(i)で定義される発泡性パラメータ(FP)であって、
FP=MFR × Fmax × (Tm-135) (i)
式(i)中、メルトフローレート(MFR)は、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定され、g/10分で表され、
融解温度(Tm)は、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定され、℃で表され、
破断最大力(Fmax)は、ISO 16790に従ってレオテンス試験において決定され、cNで表される発泡性パラメータ(FP)
を有する請求項1に記載の発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項3】
前記プロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)が、0.95未満の、式(iii)で定義される分岐指数g’を有し、
g’=[IV]br/[IV]lin (iii)
式(iii)中、[IV]brは、135℃のデカリン中で測定した前記分岐ポリプロピレンの固有粘度であり、[IV]linは、前記分岐ポリプロピレンと同じ重量平均分子量(±10%の範囲内)を有する直鎖状ポリプロピレンの固有粘度である
請求項1又は請求項2に記載の発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項4】
前記ポリプロピレン組成物(C)が、0.3重量%未満の粒子状無機セル核剤を含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項5】
前記ポリプロピレン組成物(C)が、0.01~0.3重量%の活性発泡核剤、好ましくはHydrocerolを含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項6】
25~150g/dmの範囲の密度、及び80%以上の、ISO 4590方法1に従って決定された独立気泡含有率を有する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項7】
物理発泡剤を用いた、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の特性を有するポリプロピレン組成物(C)の押出による発泡ポリプロピレンビーズの製造方法であって、式(ii)で定義される圧力降下率が5000bar/s以上であり、
【数1】
式(ii)中、圧力降下はbarで表され、
ラインの出力は、kg/hで表され、
溶融密度は、すべての試料で1000kg/mと近似され、
ダイプレート中の穴の半径(r)はmで表され、
ダイプレート中の穴のランド長はmで表される
方法。
【請求項8】
前記物理発泡剤がイソブタン及び二酸化炭素から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記押出が、
a)単軸又は二軸の溶融押出機であって、前記押出機のエネルギー摂取量が0.1kwh/kg未満であるもの、
b)静的又は動的な冷却装置、
c)多穴ダイプレート、及び
d)水中ペレット化システム
を含む装置を用いて実施される請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発泡ポリプロピレンビーズから、4bar以下の蒸気圧力を用いて前記ビーズを凝集部分に形成する蒸気室成形プロセス、好ましくは圧力充填蒸気室成形プロセスを用いて成形品を形成する方法。
【請求項11】
蒸気処理時間が30秒未満である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載のプロセスに供した後に凝集部分を形成する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発泡ポリプロピレンビーズ。
【請求項13】
請求項1から請求項6、及び請求項12のいずれか1項に記載の発泡ポリプロピレンビーズから形成され、25~150g/dmの範囲の密度、及び80%以上の、ISO 4590方法1に従って決定された独立気泡含有率を有する成形品。
【請求項14】
a)1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
b)135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
c)2.00~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)であって、前記ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマーを含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含むポリプロピレン組成物(C)の、
式(ii)で定義される圧力降下率が5000bar/s以上である、物理発泡剤を用いる押出プロセスであって、
【数2】
式(ii)中、圧力降下はbarで表され、
ラインの出力は、kg/hで表され、
溶融密度は、すべての試料で1000kg/mと近似され、
ダイプレート中の穴の半径(r)はmで表され、
ダイプレート中の穴のランド長はmで表される押出プロセスにおける、
25~150g/dmの範囲の密度及び80%以上の独立気泡含有率を有する発泡ポリプロピレンビーズの製造のための使用。
【請求項15】
1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
2.00~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)であって、前記ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマーを含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含むポリプロピレン組成物(C)を含む発泡ポリプロピレンビーズの、
4bar以下の蒸気圧力を使用する蒸気室成形プロセス、好ましくは圧力充填蒸気室成形プロセスにおける、
25~150g/dmの範囲の密度及び80%以上の独立気泡含有率を有する成形品の形成のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ポリプロピレンビーズ、発泡ポリプロピレンビーズの製造方法、発泡ポリプロピレンビーズから形成される成形品、及びそのような成形品の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡・膨張ポリオレフィンは、断熱性・遮音性等の特性を有する軽量材料を必要とする用途に古くから使用されている。発泡ポリオレフィンの中で最も一般的なものは、発泡ポリスチレン(XPS)であり、一般的に包装材料として使用されている。XPSの代替品として、発泡ポリプロピレン(EPP)がある。発泡ポリプロピレンは、優れたエネルギー吸収性、耐衝撃性、耐水性、耐薬品性、非常に高い強度重量比、及び100%リサイクル性を有する汎用性の高い発泡材料である。
【0003】
発泡ポリプロピレン製品の最も効率的な製造方法は、まず発泡ポリプロピレンビーズを形成し、その後、これを一緒に成形して物品を形成することを含む。この発泡ビーズを形成するための典型的な方法は、優れた結果をもたらすオートクレーブプロセスを含むが、このプロセスは悪名高くも高価で複雑である。より経済的な方法は、押出プロセスで直接発泡ポリプロピレンビーズを形成することを含む。効率的な方法が開発されているが、このようなプロセスで製造されたビーズは、発泡品を成形する際にビーズ同士を融着させるために、通常、より強い条件を必要とする。オートクレーブプロセスで成形されたビーズは、蒸気室成形プロセスで3~4bar(バール)の蒸気圧力を必要とするのが一般的であるのに対し、押出ビーズでは4~8barの蒸気圧力を必要とするのが一般的である。この高い圧力要件は、専用の装置しか成形プロセスで使用できないことを意味するが、これに対してより低圧の蒸気室成形装置の方がはるかに多く普及している。これは、より低圧の蒸気室成形装置がXPSビーズ及びオートクレーブEPPビーズの融着にも使用できるためである。
【0004】
それゆえ、発泡ポリプロピレン成形品の経済性の高い製造を可能にするために、より低い圧力での蒸気室成形に適した新規な発泡ポリプロピレンビーズが求められている。
【0005】
複数の融解温度を有する発泡ポリプロピレンビーズの形成は、それから成形品を形成するのに有益であることが、例えば韓国特許第101014002B1号明細書等、当該分野において一般に公知である。
【0006】
米国特許第6315931B1号明細書は、フィルムに包まれた発泡粒子を製造することによって同様の効果を得ているが、欧州特許第0778310B1号明細書は、複数の発泡段階に依拠している。
【0007】
欧州特許出願公開第3489287A1号明細書には、tanδ≦0.32×V+0.1という不等式に従って高度に特殊化したポリプロピレンベースの樹脂を選択することにより製造された、低い連続気泡含有率及び有益な成形特性を有する予備発泡ポリプロピレンビーズが記載されている。理論的には有望な開発であるが、ポリプロピレン系樹脂の選択に非常に厳しい制限があるため、このプロセスは実用化において限界がある。
【0008】
広く応用するのに適した発泡ポリプロピレンビーズを特定するためには、さらなる開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国特許第101014002B1号明細書
【文献】米国特許第6315931B1号明細書
【文献】欧州特許第0778310B1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3489287A1号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、適切な特性を有するポリプロピレン組成物を選択することによって、有益に低い連続気泡含有率及び良好な密度を有し、一方で最も重要なことに、4bar以下の圧力で蒸気室成形プロセスを介した成形品の形成に適しており、一方で短い蒸気処理時間しか必要としない発泡ポリプロピレンビーズを得ることができるという知見に基づく。
【0011】
本発明は、
a)1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
b)135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
c)2.00~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/s(秒)の角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)を含む発泡プロピレンビーズであって、
ポリプロピレン組成物(C)は、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマー(複数種可)を含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含む発泡プロピレンビーズに向けられる。
【0012】
別の態様では、本発明は、物理発泡剤を用いたポリプロピレン組成物(C)の押出による発泡プロピレンビーズの製造方法であって、式(ii)で定義される圧力降下率が5000bar/s以上であり、
【数1】
式(ii)中、圧力降下はbarで表され、
ラインの出力は、kg/h(時間)で表され、
溶融密度は、すべての試料で1000kg/mと近似され、
ダイプレート中の穴の半径(r)はmで表され、
ダイプレート中の穴のランド長はmで表される方法、
及び上記方法を経て製造された発泡プロピレンビーズに向けられる。
【0013】
本発明はさらに、4bar以下の蒸気圧力を用いる蒸気室成形プロセス、好ましくは圧力充填蒸気室成形プロセスを用いて、本発明の発泡ポリプロピレンビーズから成形品を形成する方法にも向けられている。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、本発明の方法を経て得られる、本発明の発泡ポリプロピレンビーズから形成され、25~150g/dmの範囲の密度及び80重量%を超える独立気泡含有率を有する成形品に向けられる。
【0015】
本発明はさらに、
a)1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
b)135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
c)2.00~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)であって、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマー(複数種可)を含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含むポリプロピレン組成物(C)の、
式(ii)で定義される圧力降下率が5000bar/s以上である、物理発泡剤を用いる押出プロセスであって、
【数2】
式(ii)中、圧力降下はbarで表され、
ラインの出力は、kg/hで表され、
溶融密度は、すべての試料で1000kg/mと近似され、
ダイプレート中の穴の半径(r)はmで表され、
ダイプレート中の穴のランド長はmで表される押出プロセスにおける、
25~150g/dmの範囲の密度及び80%以上の独立気泡含有率を有する発泡ポリプロピレンビーズの製造のための使用に向けられる。
【0016】
さらには、本発明は、
1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
1.90~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)であって、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマー(複数種可)を含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含むポリプロピレン組成物(C)を含む発泡ポリプロピレンビーズの、
4bar以下の蒸気圧力を使用する蒸気室成形プロセス、好ましくは圧力充填蒸気室成形プロセスにおける、
25~150g/dmの範囲の密度及び80%以上の独立気泡含有率を有する成形品の形成のための使用に向けられる。
【0017】
定義
活性発泡核剤は、化学発泡剤をさらに含む発泡核剤であり、従って、気泡形成及び結晶核形成の二重の効果を有する。これらは、有機系(アゾジカルボンアミド等)又は無機系(Hydrocerol(ヒドロセロール)系等)の核剤であってもよいが、場合によっては、さらに粒子状の共核剤を含むことができる。
【0018】
発泡ポリプロピレンビーズは、揮発性発泡剤が高圧でポリプロピレンに溶解され、その後減圧することにより、揮発性発泡剤が化学的にガスを発生するか、又は単に沸騰してポリプロピレンマトリクス内に気泡(又はセル)を形成する、いわゆる「(粒子を膨張させるための高圧状態から低圧状態への)圧力解放膨張法」により得られるポリプロピレンの粒子である。
【0019】
凝集部分(coherent part)は、滑らかな表面を有する均質発泡ビーズ成形品と定義される。EPP部品は、明確に定義された隅部及びエッジを持ち、相互に接続されたEPPビーズで構成されている。EPP部品の表面は、個々のビーズを離脱させることなく、ペンを使って手で引っ掻くことができる。蒸気処理及び冷却後に金型が開かれたとき、個々のビーズの5%未満しか金型から脱落しない。
【0020】
粒子状無機セル核剤
無機セル核剤はポリオレフィン組成物に不溶であるため、特定の条件下でポリオレフィン組成物に部分的に溶解する有機セル核剤とは対照的に、粒子状で存在する。典型的な無機セル核剤は、タルク又はマイカである。
有機系核剤は、ポリオレフィン組成物に部分的に溶解し、結晶成長の核となる。通常、有機系核剤は、タルク又はマイカとは対照的に、粒子状の核剤とはみなされない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ポリプロピレン組成物(C)
本発明の本質的な特徴は、発泡ポリプロピレンビーズの形成に適したポリプロピレン組成物を選択することである。従って、本発明の発泡ポリプロピレンビーズは、特定の特性を有するポリプロピレン組成物(C)を含む。
【0022】
本発明のポリプロピレン組成物(C)は、1.5~15.0g/10分の範囲、より好ましくは1.8~10.0g/10分の範囲、最も好ましくは2.0~8.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)を有する。
【0023】
本発明のポリプロピレン組成物(C)は、135~158℃の範囲、好ましくは135~155℃の範囲、より好ましくは138~152℃の範囲、最も好ましくは140~150℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)を有する。
【0024】
当該分野で一般に受け入れられている理解とは対照的に、2つの別々の融解温度が観察されることは要求されず、むしろ、単一の融解温度のみが発泡ポリプロピレンビーズによって示されることが好ましい。
【0025】
本発明のポリプロピレン組成物(C)は、2.00~4.00の範囲、より好ましくは2.10~3.50の範囲、最も好ましくは2.20~3.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)を有する。
【0026】
本発明のポリプロピレン組成物(C)は、好ましくは20~100cNの範囲、より好ましくは22~70cNの範囲、最も好ましくは24~40cNの範囲の、ISO 16790に従ってレオテンス(Rheotens)試験において決定された破断最大力(maximum force at break、Fmax)を有する。
【0027】
本発明のポリプロピレン組成物(C)は、好ましくは180~500mm/sの範囲、より好ましくは200~500mm/sの範囲、最も好ましくは220~300mm/sの範囲の、ISO 16790に従ってレオテンス試験において決定された破断最大速度(maximum velocity at break、Vmax)を有する。
【0028】
本発明のポリプロピレン組成物(C)は、300~1700の範囲の、式(i)で定義される発泡性パラメータ(FP)を有することが好ましい。
FP=MFR × Fmax × (Tm-135) (i)
式(i)中、メルトフローレート(MFR)は、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定され、g/10分で表され、
融解温度(Tm)は、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を使用して決定され、℃で表され、
破断最大力(Fmax)は、ISO 16790に従ってレオテンス試験において決定され、cNで表される。
【0029】
より好ましくは、発泡性パラメータは、400~1700の範囲、さらにより好ましくは450~1650の範囲、最も好ましくは490~1600の範囲にある。
【0030】
従って、本発明のポリプロピレン組成物は
a)1.5~15.0g/10分の範囲、より好ましくは1.8~10.0g/10分の範囲、最も好ましくは2.0~8.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
b)135~155℃の範囲、より好ましくは138~152℃の範囲、最も好ましくは140~150℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
c)2.00~4.00の範囲、より好ましくは2.10~3.50の範囲、最も好ましくは2.20~3.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有する。
【0031】
加えて、本発明のポリプロピレン組成物は、好ましくは、以下の特性:
a)20~100cNの範囲、より好ましくは22~70cNの範囲、最も好ましくは24~40cNの範囲の、ISO 16790に従ってレオテンス試験において決定された破断最大力(Fmax)、
b)180~500mm/sの範囲、より好ましくは200~500mm/sの範囲、最も好ましくは220~300mm/sの範囲の、ISO 16790に従ってレオテンス試験において決定された破断最大速度(Vmax)、及び
c)450~1700の範囲、より好ましくは470~1650の範囲、最も好ましくは490~1600の範囲の、式(i)で定義される発泡性パラメータ(FP)
のうち1つ以上、好ましくはすべてを有する。
【0032】
本発明のポリプロピレン組成物(C)は、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、プロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含む。
【0033】
本発明の長鎖分岐コポリマー(c-PP)は、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマー(複数種可)を含む。
【0034】
好ましくは、本発明の長鎖分岐コポリマー(c-PP)は、0.5~8.0重量%の範囲、より好ましくは1.0~7.0重量%の範囲、さらにより好ましくは2.0~6.0重量%の範囲、最も好ましくは3.0~5.0重量%の範囲のエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマー(複数種可)を含む。
【0035】
長鎖分岐コポリマー(c-PP)のコモノマー(複数可)は、エチレン及びC~C10αオレフィンから選択され、より好ましくはエチレンである。特に好ましい実施形態では、エチレンは、長鎖分岐コポリマー(c-PP)中に存在する唯一のコモノマーである。
【0036】
本発明の長鎖分岐コポリマー(c-PP)は、好ましくは0.95未満、より好ましくは0.90未満、最も好ましくは0.85未満の分岐指数g’を有する。分岐指数g’は、通常、0.50より低くはない。
【0037】
発泡ポリプロピレンビーズを製造しようとする場合、規則的な大きさのセルの形成を促進するために、セル核剤を使用することが通例である。代表的なセル核剤は、タルク、炭酸カルシウム、セルロース粉末である。
【0038】
粒子状無機セル核剤は、本発明に関しては、独立気泡の形成に有害であるというのが、本発明の知見である。
【0039】
従って、ポリプロピレン組成物(C)が、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて0.20重量%未満のタルクを含むことが好ましく、より好ましくは0.10重量%未満のタルクを含み、最も好ましくはポリプロピレン組成物(C)はタルク不含であるべきである。
【0040】
さらに、ポリプロピレン組成物(C)が、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて0.20重量%未満の粒子状無機セル核剤を含むことが好ましく、より好ましくは0.10重量%未満の粒子状無機セル核剤を含み、最も好ましくはポリプロピレン組成物(C)は完全に粒子状無機セル核剤不含であるべきである。
【0041】
セル核形成を促進するためには、活性セル核剤を使用することが有益である。
【0042】
このように、ポリプロピレン組成物(C)は、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて0.01~0.30重量%の活性セル核剤を含むことが好ましく、0.05~0.25重量%がより好ましく、0.10~0.20重量%が最も好ましい。
【0043】
特に、活性セル核剤が有機活性発泡核剤であることが好ましい。
【0044】
それゆえ、ポリプロピレン組成物(C)が、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて、0.01~0.30重量%の有機活性発泡核剤を含むことが好ましく、0.05~0.25重量%がより好ましく、0.10~0.20重量%が最も好ましい。
【0045】
さらに、ポリプロピレン組成物(C)が、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて、0.01~0.30重量%のHydrocerolを含むことが好ましく、0.05~0.25重量%がより好ましく、0.10~0.20重量%が最も好ましい。
【0046】
発泡ポリプロピレンビーズ
本発明の発泡ポリプロピレンビーズは、ポリプロピレン組成物(C)を含む。
【0047】
発泡ポリプロピレンビーズは、25~150g/dmの範囲の密度を有することが好ましく、より好ましくは25~100g/dmの範囲であり、最も好ましくは25~80g/dmの範囲である。
【0048】
本発明の発泡ポリプロピレンビーズは、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上の独立気泡含有率を有する。
【0049】
本発明に係る発泡ポリプロピレンビーズは、3.0~20.0g/10分の範囲、より好ましくは3.0~15.0g/10分の範囲、最も好ましくは3.5~10.0g/10分の範囲の、上記ビーズから形成された成形品の細断試料についてISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)を有する。
【0050】
発泡ポリプロピレンビーズの製造プロセス
本発明は、発泡ポリプロピレンビーズの製造プロセスにも向けられている。
【0051】
蒸気室成形を介した成形品の形成に適した特性を有する物理発泡剤を用いたポリプロピレン組成物の押出による発泡ポリプロピレンビーズの製造は、多くのプロセスパラメータに依存しうるというのが本発明の知見である。
【0052】
特に、ダイプレートから出る際のポリプロピレン組成物の圧力降下率(PDR)が重要な決定要因であることが判明した。
【0053】
それゆえ、物理的発泡剤を用いたポリプロピレン組成物の押出による発泡ポリプロピレンビーズの製造プロセスは、式(ii)で定義される圧力降下率が、5000bar/s以上である。
【数3】
式(ii)中、圧力降下はbarで表され、
ラインの出力は、kg/hで表され、
溶融密度は、すべての試料で1000kg/mと近似され、
ダイプレート中の穴の半径(r)はmで表され、
ダイプレート中の穴のランド長はmで表される。
【0054】
最大圧力降下率は、通常、20000bar/sである。
【0055】
式(ii)で定義される圧力降下率は、5000~20000bar/sの範囲にあることが好ましい。
【0056】
ポリプロピレン組成物の押出による当該発泡ポリプロピレンビーズの製造プロセスは、物理発泡剤を使用する。この物理発泡剤は、好ましくはイソブタン及び二酸化炭素から選択され、より好ましくはイソブタンである。
【0057】
物理発泡剤が必要であるということは、活性発泡核剤に存在するような化学的発泡剤も存在することはできないということを意味するものではない。
【0058】
物理発泡剤を用いたポリプロピレン組成物の押出による発泡ポリプロピレンビーズの製造プロセスは、好ましくは、以下を用いて実施される。
a)単軸又は二軸の溶融押出機であって、押出機のエネルギー摂取量が0.1kwh/kg未満であるもの、
b)静的又は動的な冷却装置、
c)多穴ダイプレート、及び
d)水中ペレット化システム。
【0059】
押出機のエネルギー摂取量は、加熱エネルギー及び/又は冷却エネルギーを除いた主駆動機関のエネルギーと定義される。
【0060】
本発明のプロセスに従って発泡剤を使用して押し出される使用されるポリプロピレン組成物が、上記で定義されたポリプロピレン組成物(C)であることが好ましい。
【0061】
本発明はさらに、本節で定義したプロセスによって得られた、前節で説明した発泡ポリプロピレンビーズに向けられる。
【0062】
成形品及び使用
本発明の別の態様は、成形品の形成のための当該発泡ポリプロピレンビーズの使用である。
【0063】
本発明に係る成形品の形成プロセスは、4bar以下、より好ましくは3.8bar以下、最も好ましくは3.5bar以下の蒸気圧力を用いた蒸気室成形プロセスを用いて、ビーズを凝集部分へと結合させることを含む。
【0064】
蒸気室成形プロセスの蒸気処理時間は、30秒未満であることが好ましく、より好ましくは25秒未満、さらにより好ましくは20秒未満、なおより好ましくは15秒未満、なおより好ましくは10秒未満、最も好ましくは6秒未満である。
【0065】
蒸気室成形プロセスが、上記に与えられたような蒸気圧力と任意に蒸気処理時間を用いた圧力充填蒸気室成形プロセスであることがさらに好ましい。
【0066】
本発明は、さらには、前節に記載したような発泡ポリプロピレンビーズから形成された成形品に向けられる。
【0067】
本発明は、本節で定義される蒸気室成形プロセスに供された後に凝集部分を形成する、前節に記載された発泡ポリプロピレンビーズにさらに向けられている。
【0068】
本発明の成形品は、25~150g/dm、より好ましくは25~140g/dm、最も好ましくは25~130g/dmの範囲の密度を有する。
【0069】
本発明の成形品は、80重量%以上、より好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上の独立気泡含有率を有する。
【0070】
本発明の成形品は、好ましくは3.0~20.0g/10分の範囲、より好ましくは3.0~15.0g/10分の範囲、最も好ましくは3.5~10.0g/10分の範囲の、成形品の細断試料についてISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)を有する。
【0071】
本発明の成形品は、上記のように4bar以下の圧力で、蒸気室成形のプロセス、好ましくは圧力充填蒸気室成形プロセスを用いて得られることが好ましい。
【0072】
本発明はさらに、
a)1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
b)135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
c)2.00~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)であって、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマー(複数種可)を含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含むポリプロピレン組成物(C)の、
式(ii)で定義される圧力降下率が5000bar/s以上である、物理発泡剤を用いる押出プロセスにおける、
25~150g/dmの範囲の密度及び80%以上の独立気泡含有率を有する発泡ポリプロピレンビーズの製造のための使用に向けられる。
【0073】
本発明は、
a)1.5~15.0g/10分の範囲の、ISO 1133に従って230℃及び2.16kg荷重で決定されたメルトフローレート(MFR)、
b)135~158℃の範囲の、ISO 11357に従って示差走査熱量測定を用いて決定された融解温度(Tm)、並びに
c)2.00~4.00の範囲の、200℃での動的粘弾性挙動測定における0.1rad/sの角周波数での損失正接(tanδ)
を有するポリプロピレン組成物(C)であって、ポリプロピレン組成物(C)の総重量に基づいて90.0重量%超の、8.0重量%までのエチレン及びC~C10αオレフィンから選択されるコモノマー(複数種可)を含むプロピレンの長鎖分岐コポリマー(c-PP)を含むポリプロピレン組成物(C)を含む発泡ポリプロピレンビーズの、
4bar以下の蒸気圧力を使用する蒸気室成形プロセス、好ましくは圧力充填蒸気室成形プロセスにおける、
25~150g/dmの範囲の密度及び80%以上の独立気泡含有率を有する成形品の形成のための使用にも向けられている。
【0074】
ポリプロピレン組成物(C)及び発泡ポリプロピレンビーズについて開示されたすべての好ましい範囲、並びに物理発泡剤を用いたポリプロピレンビーズの製造方法及びこの発泡ポリプロピレンビーズを含む成形品の形成プロセスも、上記のような使用に適用可能である。
【実施例
【0075】
1.定義/決定方法:
メルトフローレート
メルトフローレート(MFR)はISO 1133に従って測定し、g/10分単位で示す。MFRは、ポリマーの流動性、ひいては加工性の指標である。メルトフローレートが高いほど、ポリマーの粘度は低い。ポリプロピレンのMFRは、230℃の温度、2.16kgの荷重の下で測定する。
【0076】
示差走査熱量測定(DSC)
示差走査熱量測定(DSC)分析、融解温度(T)及び融解エンタルピー(H)、結晶化温度(T)及び結晶化熱(H、HCR)は、5~7mgの試料に対してTA Instrument(ティーエー・インスツルメンツ) Q200示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定する。DSCは、ISO 11357/パート3/方法C2に従い、-30~+225℃の温度範囲の10℃/分の走査速度での加熱/冷却/加熱サイクルにおいて実行する。結晶化温度(T)及び結晶化熱(H)は冷却工程から決定し、他方、融解温度(T)及び融解エンタルピー(H)は2回目の加熱工程から決定する。
【0077】
密度
密度は、アルキメデスの原理により、試験片の質量(m)及び体積(V)を測定し、(d=m/V)に従ってその密度(d)を計算することによって測定した。
23℃の水が入ったメスシリンダーに、23℃、相対湿度50%で48時間放置したPPビーズ約500mL(重量W1)を金網を使用して浸漬する。水位の上昇から、見かけの体積V1(L)を求める。見かけの密度は、PPビーズ(b)の重量W1(g)を見かけの体積V1(cm)で割ることにより得る。
密度=W1/V1
【0078】
レオテンス試験(Fmax及びVmax)
本明細書に記載した試験は、ISO 16790:2005に準拠している。
【0079】
ひずみ硬化挙動は、論文「Rheotens-Mastercurves and Drawability of Polymer Melts」、M.H.Wagner、Polymer Engineering and Sience、第36巻、第925~935ページに記載されている方法により決定する。この文献の内容は参照により含まれる。ポリマーのひずみ硬化挙動は、レオテンス装置(ジーメンス通り(Siemensstr.) 2、74711 ブーヒェン(Buchen)、ドイツのGoettfert(ゲットフェルト)の製品)により分析する。この装置では、規定の加速度で引き下げることにより、融解物のストランドが伸長される。
【0080】
レオテンス実験は、工業用の紡糸及び押出プロセスをシミュレートする。原理的には、融解物を丸いダイを通して圧迫するか又は押し出して、得られたストランドを引き出す。押出成形品にかかる応力を、融解物の特性及び測定パラメータ(とりわけ、出力と引き出し速度の比、実用的には伸長率の尺度)の関数として記録する。以下に示す結果では、材料は、実験用押出機HAAKE Polylabシステムと、円筒形ダイ(L/D=6.0/2.0mm)を備えたギアポンプを用いて押し出した。ギアポンプは、ギアポンプ前の圧力が30barで、2.1g/分の処理量(スループット)に予め調整し、融解温度を200℃に設定した。ダイとレオテンスホイール間のスピンライン長は100mmとした。実験開始時には、レオテンスホイールの巻き取り速度を、押し出されたポリマーストランドの速度に調整した(引張力ゼロ)。その後、レオテンスホイールの巻き取り速度をゆっくりと上げて実験を開始し、ポリマーフィラメントが破断するまで行った。ホイールの加速度は、引張力が準定常状態で測定されるように十分小さくした。引き下げられたメルトストランド(2)の加速度は120mm/sである。このレオテンスは、PCプログラム「EXTENS」と組み合わせて操作した。これは、リアルタイムのデータ取得プログラムであり、引張力と引き下げ(ドローダウン)速度の測定データを表示及び保存する。レオテンス曲線(力対プーリー回転速度)の終点を、FmaxとVmaxとする。
【0081】
コモノマー含有量:
定量的核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて、ポリマーのコモノマー含有量を定量した。定量的13C{H} NMRスペクトルは、H及び13Cについてそれぞれ400.15MHz及び100.62MHzで動作するBruker Advance III 400 NMR分光計を使用して、溶液状態で記録した。すべてのスペクトルを、125℃の13Cに最適化した10mm拡張温度プローブヘッドを使用し、すべての空圧について窒素ガスを使用して記録した。
【0082】
およそ200mgの物質を、溶媒中の緩和剤の65mM溶液(Singh,G.、Kothari,A.、Gupta,V.、Polymer Testing 28 5(2009)、475)を与えるクロム(III)アセチルアセトナート(Cr(acac))と共に3mLの1,2-テトラクロロエタン-d(TCE-d)に溶解した。均一溶液を確保するために、ヒートブロック中での最初の試料調製のあと、そのNMRチューブを回転式オーブンの中で少なくとも1時間さらに加熱した。磁石の中へ挿入したあと、チューブを10Hzで回転させた。正確なエチレン含有量の定量のために必要である高分解能及び定量性を主な理由としてこの設定を選んだ。最適化した先端角(tip angle)、1sの繰り返し時間(recycle delay)及びバイレベルWALTZ16デカップリングスキーム(Zhou,Z.、Kuemmerle,R.、Qiu,X.、Redwine,D.、Cong,R.、Taha,A.、Baugh,D.;Winniford,B.、J.Mag.Reson. 187(2007) 225;Busico,V.、Carbonniere,P.、Cipullo,R.、Pellecchia,R.、Severn,J.、Talarico,G.、Macromol.Rapid Commun.2007、28、1128)を使用して、NOEを伴わない標準的なシングルパルス励起を採用した。1スペクトルあたり全部で6144(6k)の過渡信号を取得した。
【0083】
定量的13C{H} NMRスペクトルを、独自のコンピュータープログラムを使用して処理し、積分し、関連の定量的特性を積分値から求めた。すべての化学シフトは、溶媒の化学シフトを使用して、30.00ppmのエチレンブロック(EEE)の中央のメチレン基を間接的に参照した。このアプローチにより、この構造単位が存在しない場合でも比較可能な参照が可能になる。エチレンの組み込みに対応する特徴的なシグナルを観察した(Cheng,H.N.、Macromolecules 17(1984)、1950)。
【0084】
コモノマー分率は、13C スペクトルのスペクトル領域全体にわたる複数のシグナルの積分により、Wangらの方法(Wang,W.J.、Zhu,S.、Macromolecules 33(2000)、1157)を使用して定量した。この方法を、そのロバスト性、及び必要な場合には位置欠陥の存在を考慮できることが理由で選んだ。積分領域は、直面するコモノマー含有量の全範囲にわたる適用性を高めるためにわずかに調整した。PPEPP配列中の孤立したエチレンのみが観察される系については、Wangらの方法を、存在しないことが既知の部位の非ゼロ積分の影響を低減するように改変した。このアプローチはそのような系に対するエチレン含有量の過大評価を低減し、これは、絶対的なエチレン含有量を求めるために使用される部位の数を
E=0.5(Sββ+Sβγ+Sβδ+0.5(Sαβ+Sαγ))
に減じることにより成し遂げられた。
【0085】
この部位の組の使用により、対応する積分方程式は、Wangらの論文(Wang,W-J.、Zhu,S.、Macromolecules 33(2000)、1157)で使用されたのと同じ表記法を使用して、
E=0.5(IH+IG+0.5(IC+ID))
となる。絶対的プロピレン含有量のために使用した方程式は改変しなかった。モルパーセントでのコモノマー組み込みはモル分率から算出した。
E[モル%]=100×fE
【0086】
重量パーセントでのコモノマー組み込みはモル分率から算出した。
E[重量%]=100×(fE×28.06)/((fE×28.06)+((1-fE)×42.08))
【0087】
分岐指数g’:
分岐指数g’は、g’=[IV]br/[IV]linとして定義され、式中、g’は分岐指数であり、[IV]brは135℃のデカリン中で測定した分岐ポリプロピレンの固有粘度であり、[IV]linは140℃のトリクロロベンゼン中のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に基づいて算出した分岐ポリプロピレンと同じ重量平均分子量(±10%の範囲内)を有する直鎖状(非分岐)ポリプロピレンの固有粘度である。これにより、g’値が低いことは、高分岐ポリマーの指標となる。言い換えれば、g’値が減少すれば、ポリプロピレンの分岐は増加している。これに関しては、B.H.Zimm及びW.H.Stockmeyer、J.Chem.Phys. 17、1301(1949)が参照される。
【0088】
損失正接tanδ
ポリプロピレン系樹脂を、1.5mmの厚さを有するスペーサを使用して190℃で5分間熱プレスし、1.5mmの厚さを有するプレス板を作製し、このプレス板からφ25mmのパンチを用いて試験片を打ち抜いた。測定装置として、TA Instruments製の粘弾性測定装置ARESを使用した。この粘弾性測定装置には、φ25mmの平行板型治具を取り付けた。治具を囲むように恒温槽を配置し、この恒温槽を200℃に加熱し、治具を予熱した。その後、恒温槽を開放し、φ25mmの試験片を平行な板の間に挟み込んだ。その後、恒温槽を閉め、試験片を5分間予熱した。その後、平行板間のギャップを1mmに狭め、試験片を圧縮した。圧縮後、再び恒温槽を開放し、平行板からはみ出した樹脂を真鍮ヘラで除去した。恒温槽を閉め、5分間恒温槽を加熱して維持した。その後、動的粘弾性挙動の測定を開始した。測定は、0.1rad/s~100rad/sの範囲の角周波数で実施した。各角周波数における貯蔵弾性率及び損失弾性率を求め、各角周波数における損失正接tanδを計算値として求めた。その結果から、角周波数0.1rad/sでの損失正接tanδの値を採用した。なお、測定は窒素雰囲気下、歪み量5%で行った。
【0089】
圧力降下率の算出
圧力降下率(単位:bar/s)は、ダイプレート前での運転時の試験圧力(bar)、押出機の出力(単位:kg/h)、想定密度1000kg/m、ダイプレートの穴の数、穴の半径、ダイのランド長(単位:いずれもm)から計算する。
【数4】
【0090】
EPPビーズの連続気泡試験
押出プロセスで得られたEPPビーズの連続気泡含有率を、自動ガスピクノメータ(Quantachrom(カンタクローム) Ultapyc 1200e)を用いてISO 4590の方法1に従い測定した。試験は、4gのビーズに対して、20℃の50cmの試験セルを用いて、圧力20mbarでヘリウムをガスとして使用して実施した。EPPビーズを、発泡剤を除去するために500mbarの真空下、60℃で12時間処理し、ピクノメーター試験手順の前にて20℃、50%の空気湿度で24時間調整(コンディショニング)を行った。
【0091】
発泡ビーズの成形性の評価:
EPPビーズの成形トライアル:
Teubert(トイベルト) TransTec72/52を用いて、a)引張試験用の280×195×22mm、及びb)圧縮試験用の280×195×50mmの2つの異なる金型を使用してEPPビーズを試験片に成形した。
【0092】
金型への充填技術として、a)クラック充填(crack fill)とb)圧力充填の2種類を試験した。
【0093】
クラック充填を使用する場合、ツールがわずかに開いたまま(クラック位置)、EPPビーズを低いサイロ圧力で搬送した。ビーズの圧縮は、クラックを機械的に閉じることで実現した。初期高さに対する型閉めによるビード高さの変化の比率を、圧縮率(単位:%)として報告する。
【0094】
圧力充填モードでは、室内の圧力(2.5bar)(背圧)に対してより高い圧力でEPPビーズを搬送した。
【0095】
表3における発泡ビーズ成形性の評価では、成形蒸気圧力及び時間を、滑らかな表面を有する均質な発泡ビーズ成形品が得られるまで最適化した。好ましい充填技術は圧力充填であり、これをIE1及びすべての比較例のEPPビーズについて試験した。クラック充填は、圧力充填が均質な成形品を与えないEPPビーズに対してのみ試験した。
【0096】
その後、成形物を80℃のオーブンで12時間養生(時効化)し、PPビーズ成形試料を得た。
【0097】
成形したEPP試料の圧縮試験:
発泡ビーズ成形品の50%歪み時の圧縮応力は、万能試験機Zwick(ツビック) 1485を用いて求めた値である。各発泡成形品試料から縦50mm、横50mm、高さ30mmの試験片を切り出し、この試験片を用いてISO 844に準拠して試験片温度23℃、荷重速度3mm/分の条件で試験を行い、試験データに基づいて試験片に荷重を加えた時の応力-歪み線図を作成した。この図から50%ひずみ時の圧縮量を求め、発泡成形品試料の圧縮応力とした。
【0098】
試験は3回繰り返し行い、その平均値を表4に報告する。
【0099】
破断点伸び
発泡ビーズ成形品の破断点伸びを、DIN ISO 1789に規定される方法に従って測定した。より具体的には、ウォータージェットにより発泡ビーズ成形品から切り出した155×25×10mmの試験片タイプA(表面はすべて切断面である)のサイズを有する試験片を、オートグラフ装置(Zwick製モデルZ1485)により、支点間のスパンを55mm、試験速度を500mm/分として測定した。
【0100】
EPPビーズ中のポリマーのメルトフローレート:
EPPビーズは、発泡剤を除去するために500mbarの真空下、60℃で12時間処理し、この試験手順の前に20℃及び50%の空気湿度で24時間調整した。
10gのEPPビーズを、加熱ホットプレスを用いて220℃で圧縮成形し、1mmの中実な板とした。この中実なポリマー板を1~2mm片に細断し、その後、230℃/2.16kgでメルトフローレートを試験した。
【0101】
2.実験編:
本発明のポリプロピレンビーズの調製のための代表的な手順:
使用したEPP発泡ラインは、注入装置、噛み合い型同方向回転二軸押出機、メルトクーラーを含むメルト調整部、及び水中ペレタイザーの組み合わせを含む。
【0102】
この研究で使用した発泡ラインは、Sulzer Ltd.(スルザー)製の二軸押出機ベースの押出発泡ラインである。これは、6つの重量式フィーダ及び3種の異なる発泡剤を供給できるガス注入ステーションを備えた45mm、L/D=42の二軸押出機、タイプ425「Torpedo」メルトクーラー、SMB Plus DN40スタティックミキサー、並びにダイプレートを含む。発泡剤(複数種可)は押出機で添加することができる。押出機は、ハウジング及び融解物の全体の温度分布を一定かつ均一に維持するために、独自のアルゴリズムで制御された発熱体及び水冷システムを有する。含浸された融解物は、融解物全体を均一に温度制御できる熱交換器を中心とした調整部に移送される。ポリマー融解物は、次にギアポンプで定容量的に供給され、任意に、切換弁(分流弁)に入る前にふるいを通過する。ギアポンプは、水中ペレット化によって行われるペレット化のために、一定のメルトフローと圧力を確保するために使用する。パイロットプラントのメルトクーラー、ギアポンプ、フィルタ、切換弁、及びダイの温度は、3台の独立した熱媒油熱交換器(HTU)により制御される。
【0103】
PP3(Daploy(商標) WB260HMS)及び0.15重量% Hydrocerol CF20を別々に重量式フィーダにより20kg/hで二軸発泡押出機に供給する。イソブタンは、注入バルブを通して直接押出機に注入する。メルトクーラーにより融解温度を133℃に調整し、ダイプレートでの温度を142℃に調整する。5000bar/sを超えるPDRを達成するために、それぞれ直径1.1mm及びランド長5.0mmを有する12本のチャネルを有する高PDRダイプレートを使用した。
【0104】
比較のポリプロピレンビーズの調製:
比較ビーズは、表1に記載したポリプロピレンを用いて、表2に示した条件を用いて、本発明のビーズと同様に調製した。例IE2は、イソブタンの代替として二酸化炭素も本発明のプロセスに採用してもよいことを実証している。
【0105】
【表1】
PP1は、Borealis AG(ボレアリス)から市販されているRB501BFである。
PP2は、Borealis AGから市販されているDaploy(商標) WB140HMSである。
PP3は、Borealis AGから市販されているDaploy(商標) WB260HMSである。
PP4は、欧州特許第1853426B1号明細書の方法に従って製造したDaploy(商標) WB260HMSの高メルトフローレート変形例である。
【0106】
【表2】
【0107】
本発明の発泡ポリプロピレンビーズからの物品の形成
表2で形成したビーズを、最大蒸気圧力4.8bar及び最大蒸気処理時間15秒/面を用いて、圧力充填(方法の節に記載のとおり)、又は圧力充填が凝集部分を提供できない場合のクラック充填のいずれかにより、成形品の形成に使用した。
【0108】
これらの物品の形成条件を表3に、こうして得られた物品の特性を表4に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
表3からわかるように、2.5barの最大背圧を加え、4.8barまでの蒸気圧力、15秒までの蒸気処理時間を使用する圧力充填法を使用すると、CE1、CE2及びCE3で製造したビーズは凝集部分を形成しなかった。CE2から凝集部分を形成するためには、クラック充填法と4barを超える蒸気圧力が必要である。同様に、CE4のビーズは、その高い連続気泡含有率のためにクラック充填法を必要としたが、IE1の本発明のビーズは、圧力充填法に適しており、4barより低い圧力の蒸気を用いて加工することができる。
【0112】
表4のデータは、比較EPPビーズから形成された発泡品は、望ましくない高い連続気泡含有率だけでなく、はるかに低い破断点伸びを有することを示す。CE4の物品は、25%歪みと50%の両方で劣る圧縮強度を有している。CE2bは良好な圧縮強度を示すが、連続気泡数が大きいため絶縁特性が影響され、長い蒸気処理時間を伴うクラック充填蒸気室法の必要性から成形品の生産が制限される。