(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤおよび溶接プロセス
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20240412BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240412BHJP
C22C 38/12 20060101ALI20240412BHJP
B23K 9/18 20060101ALI20240412BHJP
B23K 101/12 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
B23K35/30 320C
C22C38/00 301B
C22C38/12
B23K9/18 F
B23K101:12
(21)【出願番号】P 2022572530
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 CN2020097644
(87)【国際公開番号】W WO2021237843
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】202010466387.5
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519226115
【氏名又は名称】南京鋼鉄股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】李 恒坤
(72)【発明者】
【氏名】汪 晶潔
(72)【発明者】
【氏名】趙 晋斌
(72)【発明者】
【氏名】邱 保文
(72)【発明者】
【氏名】車 馬俊
(72)【発明者】
【氏名】張 暁雪
(72)【発明者】
【氏名】尹 雨群
(72)【発明者】
【氏名】陳 林恒
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-246495(JP,A)
【文献】特開2001-225189(JP,A)
【文献】特開2002-361485(JP,A)
【文献】特開2001-179484(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108637525(CN,A)
【文献】米国特許第03537846(US,A)
【文献】中国特許出願公開第102554507(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101862887(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 38/00-38/60
B23K 9/18
B23K 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分および質量%:C:0.01%~0.10%、Mn:2.0%~4.5%、Si:0.10%~0.20%、S≦0.01%、P≦0.02%、Ni:9.0%~15.0%、Cr:10.0%~16.0%、Mo≦0.01%、V≦0.01%、残りはFeおよび不可避的不純物である、ことを特徴とする深冷環境用の省ニッケル低温鋼
用のサブマージアーク溶接ワイヤ。
【請求項2】
以下の化学成分および質量%の
深冷環境用の省ニッケル低温鋼からなる鋼板に適合し:C:0.03%~0.08%、Si:0.05%~0.20%、Mn:0.85%~1.75%、Ni:0.85%~1.25%、Mo≦0.20%、Al:0.015%~0.06%、P≦0.010%、S≦0.002%、残りはFeおよび不可避的不純物である、ことを特徴とする請求項1に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼
用のサブマージアーク溶接ワイヤ。
【請求項3】
厚さ20~35mmの
前記鋼板に適合する、ことを特徴とする請求項2に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼
用のサブマージアーク溶接ワイヤ。
【請求項4】
ワイヤ直径Φが1.2~4.0mmである、ことを特徴とする請求項1に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼
用のサブマージアーク溶接ワイヤ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼
用のサブマージアーク溶接ワイヤ
を使用する溶接プロセスであって、
グルーブ形状:対称X型グルーブ、角度52~62°、
溶接前の予熱なし、パス間温度≦120℃、リバース溶接前にルートクリーニング処理を行い、
サブマージアーク溶接方法を採用する、ことを特徴とする溶接プロセス。
【請求項6】
グルーブルート面寸法が0~2mmであり、グルーブ組立ギャップが0~3mmである、ことを特徴とする請求項5に記載
の溶接プロセス。
【請求項7】
溶接電流350~450A、アーク電圧25~37V、溶接速度28~38cm/min、溶接入熱18~36kJ/cmである、ことを特徴とする請求項5に記載
の溶接プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製錬の技術分野に関し、特に深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤおよび溶接プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
国際情勢の変化やエネルギーが経済に与える深刻な影響を受けて、国内の石油や化学などのエネルギー産業は発展途上であり、危機的な状況に陥っている。LPG、液体メタノールと他の輸送とストレージ機器の需要が強く、これは低温サービス条件下でのエネルギー生産とストレージ機器や他の製造業に広い市場と開発の機会を提供する同時に、低温用鋼の需要が日に日に増加している。
【0003】
現在、極低温容器の製造には、極低温用鋼のNi系が広く使用されている。金属Niは、鋼の低温靭性を向上させる特性を持つが、その高価な価格と中国の貧しいニッケル資源の現状は、Ni系低温鋼の持続的な適用に何らかの影響をもたらす。世界的にエネルギーや資源の需要が高まる中、鉄鋼のコストダウンや低コスト化は鉄鋼業の重要な開発方向となっている。
【0004】
鉄鋼業の技術・プロセスの成熟化に伴い、「Niの代わりにMnを」という技術思想と工業生産が極低温鋼で発展・実践されてきた。低温靭性を確保しながら、生産コストを削減するために、高価な金属Niの代わりに安価な金属Mnを介して低温鋼の組成設計では、貴重な金属の使用を保存し、資源の合理的利用の両方を達成するために、また効果的に鋼の持続可能な生産のコストを削減することは、近年では新しい低温鋼研究開発のホットスポットとトレンドになっている。
【0005】
Ni含有量が0.85%~1.25%だけであり、Q(DQ)-L-T熱処理プロセスを介して、主な微細構造としてベイナイト+残留オーステナイトを得、降伏強度が355MPa、引張強度が490MPaに達する同時に、-101℃のとき80J以上の優れた衝撃靭性を達成し、機械的特性から3.5Ni低温鋼の要件を十分に満足する低コストの省ニッケル型低温鋼がある。この低温鋼は、低温貯蔵タンクや輸送容器などの建設に使用することができ、接続は通常の溶接技術で行われる。しかし、この新しい低温鋼は広い溶接プロセスウィンドウを持っているかどうか、接合性能、特に溶接接合部の低温衝撃靭性などが標準やユーザ要求を満たすかどうかは、市場にこの鋼の最初の閾値になっている。このことから分かるように、低コストの省ニッケル低温鋼に適するサブマージアーク溶接プロセスを見出し、溶接接合部の機械的特性の要求を満たすことは、構造上の安全使用に重要な実用意義がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的問題を解決するために、本発明は、化学成分および質量%:C:0.01%~0.10%、Mn:2.0%~4.5%、Si:0.10%~0.20%、S≦0.01%、P≦0.02%、Ni:9.0%~15.0%、Cr:10.0%~16.0%、Mo≦0.01%、V≦0.01%、残りはFeおよび不可避的不純物である、深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤを提供する。
【0007】
以下の技術的効果がある。本発明が設計した深冷環境下で低コストの省ニッケル型低温鋼に適するサブマージアーク溶接ワイヤは、溶接ライン金属と母材をできるだけ一致させ、溶接ラインの-101℃低温衝撃靭性≧34J、ワイヤ引張強度≧530MPaを確保することができる。
【0008】
本発明のさらなる技術的解決策を提供する。
上記の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤは、以下の化学成分および質量%の鋼板に適合し:C:0.03%~0.08%、Si:0.05%~0.20%、Mn:0.85%~1.75%、Ni:0.85%~1.25%、Mo≦0.20%、Al:0.015%~0.06%、P≦0.010%、S≦0.002%、残りはFeおよび不可避的不純物である。
【0009】
上記の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤは、厚さ20~35mmの鋼板に適している。
【0010】
上記の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤは、ワイヤ直径Φ1.2~4.0mmである。
【0011】
本発明の別の目的は、深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤの溶接プロセスを提供し、
グルーブ形状:対称X型グルーブ、角度52~62°、
溶接前の予熱なし、パス間温度≦120℃、リバース溶接前にルートクリーニング処理を行い、
サブマージアーク溶接方法を採用する。
【0012】
上記の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤの溶接プロセスでは、グルーブルート面寸法が0~2mmであり、グルーブ組立ギャップが0~3mmである。
【0013】
上記の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤの溶接プロセスでは、溶接電流350~450A、アーク電圧25~37V、溶接速度28~38cm/min、溶接入熱18~36kJ/cmである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下の有益な効果を有する。
(1)本発明は、降伏強度≧355MPa、引張強度≧490MPa、伸び率≧22%、-101℃破断吸収エネルギーKV2≧80Jの鋼板に適し、このような鋼板に対してワイヤと溶接プロセスを設計して、溶接ライン金属と熱害区の組織および機械的特性を確保することができる。
(2)本発明で採用したワイヤおよび溶接プロセスによって得られた溶接接合部の総合的な機械的特性が優れ、溶接ラインおよび熱害区の-101℃破断吸収エネルギーKV2≧34J、引張強度Rm≧490MPa、溶接接合部サイドベンドd=4a、180°が合格である。
(3)本発明で採用した溶接プロセスによって形成された溶接接合部は良好な総合的な機械的特性があり、厚さ20~35mmの省ニッケル型低温鋼鋼板の生産溶接に適し、操作しやすく、適用環境が広く、経済性に優れるなどの利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の実施例はいずれも、C:0.03%~0.08%、Si:0.05%~0.20%、Mn:0.85%~1.75%、Ni:0.85%~1.25%、Mo≦0.20%、Al:0.015%~0.06%、P≦0.010%、S≦0.002%、残りはFeおよび不可避的不純物である鋼板に適している。
【0017】
実施例1
本実施例が提供する深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接プロセスでは、
鋼板厚さ20mm、溶接試験板の組み合せを20mm+20mmとし、試験板寸法を600mm(圧延方向)×180mm(板幅方向)×20mm(厚さ)とする。母材性能:降伏強度≧390MPa、引張強度≧490MPa、伸び率≧22%、-101℃破断吸収エネルギーKV2≧80Jとする。
【0018】
使用するワイヤ直径がΦ2.0mm、化学成分および重量%:C:0.05%、Mn:2.6%、Si:0.13%、S:0.001%、P:0.009%、Ni:13.8%、Cr:10.5%、Mo:0.005%、V:0.001%、残りはFeおよび不可避の不純物である。
【0019】
ワイヤグルーブ形態がX型グルーブであり、グルーブ角度が53°で、ルートフェイスなし、グルーブ組立ギャップが0.5mmであり、溶接前の予熱なし、パス間温度が80~110℃であり、リバース溶接前に研削盤によりルートクリーニング処理を行い、ルート部が金属光沢を示し、マルチワイヤサブマージアーク溶接プロセスを採用し、溶接電流381A、アーク電圧30V、溶接速度38cm/min、溶接入熱量18kJ/cmとする。
【0020】
実施例2
本実施例が提供する深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接プロセスでは、
鋼板厚さ20mm、溶接試験板組み合せを26mm+26mmとし、試験板寸法を600mm(圧延方向)×180mm(板幅方向)×26mm(厚さ)とする。母材性能:降伏強度≧390MPa、引張強度≧490MPa、伸び率≧22%、-101℃破断吸収エネルギーKV2≧80Jとする。
【0021】
使用するワイヤ直径がΦ2.0mm、化学成分および重量%:C:0.05%、Mn:2.6%、Si:0.13%、S:0.001%、P:0.009%、Ni:13.8%、Cr:10.5%、Mo:0.005%、V:0.001%、残りはFeおよび不可避の不純物である。
【0022】
グルーブ形態がX型グルーブであり、グルーブ角度が58°、ルートフェイスが1mm、グルーブ組立ギャップが1mmであり、溶接前の予熱なし、パス間温度が80~110℃であり、リバース溶接前に研削盤によりルートクリーニング処理を行い、ルート部が金属光沢を示し、マルチワイヤサブマージアーク溶接プロセスを採用し、溶接電流420A、アーク電圧35V、溶接速度35cm/min、溶接入熱量25kJ/cmとする。
【0023】
実施例3
本実施例が提供する深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接プロセスでは、
鋼板厚さ35mm、溶接試験板組み合せを35mm+35mmとし、試験板寸法を600mm(圧延方向)×180mm(板幅方向)×35mm(厚さ)とする。母材性能:降伏強度≧390MPa、引張強度≧490MPa、伸び率≧22%、-101℃破断吸収エネルギーKV2≧80Jとする。
【0024】
使用するワイヤ直径がΦ2.4mm、化学成分および重量%:C:0.05%、Mn:2.7%、Si:0.11%、S:0.001%、P:0.008%、Ni:14.3%、Cr:11.6%、Mo:0.005%、V:0.001%、残りはFeおよび不可避の不純物である。
【0025】
グルーブ形態がX型グルーブであり、グルーブ角度を60°、ルートフェイスを1mm、グルーブ組立ギャップを2mmとし、溶接前の予熱なし、パス間温度を90~120℃とし、リバース溶接前に研削盤によりルートクリーニング処理を行い、ルート部が金属光沢を示し、マルチワイヤサブマージアーク溶接プロセスにより、溶接電流450A、アーク電圧36V、溶接速度28cm/min、溶接入熱量35kJ/cmとする。
【0026】
実施例1、実施例2、実施例3の溶接接合部の機械的特性を測定し、結果が下表に示される。
【0027】
【0028】
この表から分かるように、実施例で得られた溶接接合部の総合的な機械的特性が優れ、溶接接合部の引張強度Rm≧520MPa、溶接接合部サイドベンドd=4a、180°合格で、溶接ラインおよび熱害区-101℃破断吸収エネルギーKV2≧46Jである。
【0029】
本発明が設計したワイヤと溶接プロセスは、実施が簡単で応用性が高く、3.5Ni鋼に代わる低コストの省ニッケル型低温鋼・深冷環境用の貯蔵や輸送装置の構築に、低コストで高性能の材料選択の新しい方向を提供する。
【0030】
上記の実施例以外にも、本発明は他の実施形態が可能である。等価置換や等価変更を用いて形成された技術的解決策は、すべて本発明の保護範囲に含まれる。
【0031】
(付記)
(付記1)
化学成分および質量%:C:0.01%~0.10%、Mn:2.0%~4.5%、Si:0.10%~0.20%、S≦0.01%、P≦0.02%、Ni:9.0%~15.0%、Cr:10.0%~16.0%、Mo≦0.01%、V≦0.01%、残りはFeおよび不可避的不純物である、ことを特徴とする深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤ。
【0032】
(付記2)
以下の化学成分および質量%の鋼板に適合し:C:0.03%~0.08%、Si:0.05%~0.20%、Mn:0.85%~1.75%、Ni:0.85%~1.25%、Mo≦0.20%、Al:0.015%~0.06%、P≦0.010%、S≦0.002%、残りはFeおよび不可避的不純物である、ことを特徴とする付記1に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤ。
【0033】
(付記3)
厚さ20~35mmの鋼板に適合する、ことを特徴とする付記2に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤ。
【0034】
(付記4)
ワイヤ直径Φが1.2~4.0mmである、ことを特徴とする付記1に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤ。
【0035】
(付記5)
付記1~4のいずれか1つに記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤの溶接プロセスであって、
グルーブ形状:対称X型グルーブ、角度52~62°、
溶接前の予熱なし、パス間温度≦120℃、リバース溶接前にルートクリーニング処理を行い、
サブマージアーク溶接方法を採用する、ことを特徴とする溶接プロセス。
【0036】
(付記6)
グルーブルート面寸法が0~2mmであり、グルーブ組立ギャップが0~3mmである、ことを特徴とする付記5に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤの溶接プロセス。
【0037】
(付記7)
溶接電流350~450A、アーク電圧25~37V、溶接速度28~38cm/min、溶接入熱18~36kJ/cmである、ことを特徴とする付記5に記載の深冷環境用の省ニッケル低温鋼サブマージアーク溶接ワイヤの溶接プロセス。