(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】アルミニウム合金クラッド材
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20240412BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240412BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 D
C22F1/04 B
C22F1/04 Z
C22F1/00 627
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 651A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
(21)【出願番号】P 2023118008
(22)【出願日】2023-07-20
【審査請求日】2023-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】川上 隆之
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-191293(JP,A)
【文献】特開2015-196859(JP,A)
【文献】特開2015-196858(JP,A)
【文献】特開2023-116058(JP,A)
【文献】特開2017-082266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる心材の片面または両面に、質量%で、
Si:2.0~13.0%を含有し、さらに
Fe:0.8%以下、
Zn:5.0%以下、
Cu:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
Cr:0.50%以下、
Zr:0.30%以下、
Ti:0.30%以下、
Ni:1.5%以下、
Mg:2.0%以下、
Sr:0.2%以下、
Na:0.2%以下、
V:0.2%以下、
Bi:1.0%以下、
Sb:1.0%以下、および
Sn:1.0%以下の一種以上を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を有するろう材からなる皮材または/および、質量%で、
Si:1.5%以下、
Fe:0.8%以下、
Zn:0.4~10.0%
Cu:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
Cr:0.50%以下、
Zr:0.30%以下、
Ti:0.30%以下、
Ni:1.5%以下、
Mg:3.0%以下、
Sr:0.2%以下、
Na:0.2%以下、
V:0.2%以下、
Bi:1.0%以下、
Sb:1.0%以下、および
Sn:1.0%以下、
を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を有する犠牲材からなる皮材が一種または二種以上積層され、心材のクラッド率が60~97%
クラッド材の板厚が0.5mm~3.5mmのアルミニウム合金クラッド材であって、
前記心材は、質量%で、
Mn:0.7~1.7%、
Si:0.5~1.7%、
Cu:0.1~1.2%、
Fe:0.1~0.8%、
Zn:0.05~1.1%、
を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、
前記組成における成分含有量が[%Mn]+[%Fe]+|(1-[%Si])/[%Si]|≦2.6の関係式を満たし、
100nm~500nmの分散粒子の分布密度が1mm
2あたり1.0×10
6個~5.0×10
6個で分布しており、かつ、200μm以上の化合物が10mm
2に1個以下で分布しており、
前記アルミニウム合金クラッド材は、引張強さが150MPa~250MPa、圧延方向に対して0°、45°、90°方向から測定したr値より算出される平均値r
aveが0.6以上を有する、
ことを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【請求項2】
前記心材の組成に、さらに、
質量%で、
Cr:0.01~0.30%、
Zr:0.01~0.30%、
Ti:0.01~0.30%、および
Mg:0.1~1.2%、
を1種以上含む請求項1記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項3】
前記皮材として前記ろう材のみが積層されており、前記心材の片面または両面に、ろう材/心材の順に積層されている請求項1または2に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項4】
前記皮材として前記ろう材と前記犠牲材が積層されており、前記心材の両面に、ろう材/心材/犠牲材の順に積層されている請求項1または2に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高い強度と成形性に優れるアルミニウム合金クラッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材では、高強度化のために心材にMn、Si、Cu、Feを含有させるものが知られている。
例えば特許文献1では、Si、Mn、Feを適量含有する熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートが提供されており、高い強度と、優れた耐食性及び曲げ疲労特性を有するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アルミニウム合金クラッド材の心材に、Mn,Si,Cu,Feの元素が多く含まれると、鋳造時に巨大な金属間化合物(例えば200μm径以上)が多量に生成することが知られている。それら化合物が多量に生成すると微細な分散粒子の分布密度が低下し、材料に対する強化機能が低下する。また巨大な金属間化合物が存在すると、破壊の起点になることで耐久性が低下したり、成形時に化合物を起点とした割れやき裂が生成するため成形性も劣る。
展伸材に使用するためには、成分および製法の観点から巨大な金属間化合物が生成しないように製造することが望まれる。
また、高強度化のために元素が多く含まれると一般的には伸びの低下や板材の異方性が大きくなるため、成形性が低下し所望する形状の製品を得にくくなる。そのため、板材の高強度化と成形性を両立することは困難とされている。
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、巨大な金属間化合物の生成が抑制され、かつ高い強度を有し成形性に優れるアルミニウム合金クラッド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明のアルミニウム合金のうち第1の形態は、
アルミニウム合金からなる心材の片面または両面に、質量%で、
Si:2.0~13.0%を含有し、さらに
Fe:0.8%以下、
Zn:5.0%以下、
Cu:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
Cr:0.50%以下、
Zr:0.30%以下、
Ti:0.30%以下、
Ni:1.5%以下、
Mg:2.0%以下、
Sr:0.2%以下、
Na:0.2%以下、
V:0.2%以下、
Bi:1.0%以下、
Sb:1.0%以下、および
Sn:1.0%以下の一種以上を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を有するろう材からなる皮材または/および、質量%で、
Si:1.5%以下、
Fe:0.8%以下、
Zn:0.4~10.0%
Cu:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
Cr:0.50%以下、
Zr:0.30%以下、
Ti:0.30%以下、
Ni:1.5%以下、
Mg:3.0%以下、
Sr:0.2%以下、
Na:0.2%以下、
V:0.2%以下、
Bi:1.0%以下、
Sb:1.0%以下、および
Sn:1.0%以下、
を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を有する犠牲材からなる皮材が一種または二種以上積層され、心材のクラッド率が60~97% クラッド材の板厚が0.5mm~3.5mmのアルミニウム合金クラッド材であって、
前記心材は、質量%で、
Mn:0.7~1.7%、
Si:0.5~1.7%、
Cu:0.1~1.2%、
Fe:0.1~0.8%、
Zn:0.05~1.1%、
を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、
前記組成における成分含有量が[%Mn]+[%Fe]+|(1-[%Si])/[%Si]|≦2.6の関係式を満たし、
100nm~500nmの分散粒子の分布密度が1mm2あたり1.0×106個~5.0×106個で分布しており、かつ、200μm以上の化合物が10mm2に1個以下で分布しており、
前記アルミニウム合金クラッド材は、引張強さが150MPa~250MPa、圧延方向に対して0°、45°、90°方向から測定したr値より算出される平均値raveが0.6以上を有する、
ことを特徴とする
【0006】
他の形態のアルミニウム合金の発明は、前記形態の発明において、
前記心材の組成に、さらに、
質量%で、
Cr:0.01~0.30%、
Zr:0.01~0.30%、
Ti:0.01~0.30%、および
Mg:0.1~1.2%、
を1種以上含む。
【0007】
他の形態のアルミニウム合金の発明は、前記形態の発明において、 前記皮材として前記ろう材のみが積層されており、前記心材の片面または両面に、ろう材/心材の順に積層されている。
【0008】
他の形態のアルミニウム合金の発明は、前記形態の発明において、前記皮材として前記ろう材と前記犠牲材が積層されており、前記心材の両面に、ろう材/心材/犠牲材の順に積層されている。
【0011】
以下に、本発明で規定する組成成分などの規定理由を説明する。
【0012】
(心材組成)
各元素の添加バランスの適正化により巨大な金属間化合物の生成を抑制する。以下の含有量はいずれも質量%で示される。
【0013】
Mn:0.7~1.7%
Mnの含有は、固溶強化および、Al-Mn系、Al-Mn-Si系、Al-Mn-Fe系、Al-Mn-Fe-Si系などの金属間化合物として析出によって材料強度を向上する。Mn含有量が過小であると所望の強度向上効果を得られない。一方、含有量が過剰であると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、製造性が低下する。このため、Mn含有量の下限を0.7%とし、上限を1.7%とする。
なお、同様の理由で上限を1.5%、下限を0.8%とするのが望ましい。
【0014】
Si:0.5~1.7%
Siの含有は、固溶強化および、Al-Mn-Si系、Al-Mn-Fe-Si系などの金属間化合物として析出する分散強化によって材料強度を向上する。
Si含有量が過小であると所望の強度向上効果を得られない。一方、含有量が過剰であると、鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、製造性が低下する。このため、Si含有量の下限を0.5%とし、上限を1.7%とする。
なお、同様の理由で上限を1.6%、下限を0.6%とするのが望ましい。
【0015】
Cu:0.1~1.2%
Cuの含有による固溶強化により材料強度を向上する。またZnと共に添加することで伸びを向上し成形性を向上することに寄与する。Cu含有量が過小であると所望の強度向上効果を得られない。一方、含有量が過剰であると、鋳造時に割れが生じやすくなる。このため、Cu含有量の下限を0.1%、上限を1.2%とする。
なお、同様の理由で上限を0.9%、下限を0.15%とするのが望ましい。
【0016】
Fe:0.1~0.8%
Feの含有によって、主にAl-Fe系、Al-Fe-Si系、Al-Mn-Fe系、Al-Mn-Fe-Si系などの金属間化合物として析出し、材料強度を向上する。
Feは、原料に不純物として存在しているため下限未満とするとコストがかかる。また、所望する強度向上効果を得られない。一方、過剰に含有すると、鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、製造性が低下する。このため、Fe含有量の下限を0.1%、上限を0.8%とする。
なお、同様の理由で上限を0.65%、下限を0.20%とするのが望ましい。さらに、下限を0.25%とするのがより望ましい。
【0017】
Zn:0.05~1.1%
Znの含有は、結晶粒微細化により強度および成形性が向上する。またCuと共に添加することで伸びを向上し成形性を向上することに寄与する。下限未満であると所望する効果が得られない。一方、過剰に含有すると、成形性への影響は小さいものの、自己腐食速度が増大することで耐食性が低下する。このため、Zn含有量の下限を0.05%、上限を1.1%とするのが望ましい。
なお、同様の理由で上限を1.0%、下限を0.35%とするのが望ましい。
【0018】
Ti,Zr、Cr:0.01~0.30%
これらの成分は、固溶強化および、金属間化合物として析出する分散強化により材料強度を向上させるので、所望により一種以上を含有させる。
これら元素の含有量が過小であると所望の強度向上効果を得られない。一方、含有量が過剰であると、鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、製造性が低下する。このため、これら元素の含有量の下限をそれぞれ0.01%とし、上限をそれぞれ0.30%とする。
なお、同様の理由でTi,Zr含有量の上限を0.1%、下限を0.05%とするのが望ましい。
またCr含有量の上限を0.08%、下限を0.05%とするのが望ましい。これら元素を添加しない場合でも、いずれかの元素を不可避不純物として含有するものであってもよく、その場合、個々には、0.01%未満であるのが望ましい。
【0019】
Mg:0.1~1.2%
Mgの含有は、固溶強化および、Mg-Si系の金属間化合物として析出し時効析出能を発揮することで材料強度が向上するので、所望により含有させる。
Mgの含有が過小であると、所望の強度向上効果が得られない。一方で、過剰に含有すると、熱間圧延時に割れが生じ易くなり、製造性が低下する。このため、Mgを含有する場合、下限は0.1%、上限は1.2%とする。
なお、同様の理由で上限を1.0%、下限を0.4%とするのが望ましい。
Mgを添加しない場合でもMgを不可避不純物として含有するものであってもよく、その場合、0.05%以下であるのが望ましい。
【0020】
成分含有量[%Mn]+[%Fe]+|(1-[%Si])/[%Si]|≦2.6
これらの関係式を満たすことで、巨大な金属間化合物の生成が抑制される。この関係式を満たさないと、製造方法等の条件如何に拘わらず、巨大な金属間化合物の生成抑制が困難になる。
上記関係式は、成分含有量と単位面積当たりの200μm径以上の化合物の生成個数との関係を、製造した合金に存在する200μm以上の化合物の個数と、MnとFeおよびSiの添加量との対応を回帰分析により求めたものであり、上記関係式を満たすことで、200μm以上の化合物を10mm2に1個以下とすることができる。上記関係式を満たさないと、上記巨大化合物の生成個数を10mm2当たり1個以下とするのが困難になる。
【0021】
(心材特性)
100nm~500nmの分散粒子の分布密度が1mm2あたり1.0×106個~5.0×106個
所望する焼鈍後の引張強さを得るために、上記の金属間化合物の分布状態に調整する必要がある。金属間化合物の粒子サイズが100nm未満および500nm超では所望する強度を得られないため、100nm~500nmの分散粒子に着目した。これらの分散粒子の分散密度については、1.0×106個未満または5.0×106個超では所望する強度を得られない。
【0022】
200μm以上の化合物が10mm2に1個以下
これらの化合物が存在する場合、表面剥離や圧延中の破断の原因となり圧延性の低下を招く恐れがある。また、部品成型時や製品仕様時にこれらの巨大な化合物が起点となって破壊を助長する。
【0023】
(クラッド材特性)
引張強さが150MPa~250MPa
焼鈍後において、引張強さが上記の範囲であることが好ましい。強度が150MPa未満であると成形後の構造強度を保つことができない。一方、上記引張強さが250MPa超であると成形時に割れが発生する恐れがある。
【0024】
圧延方向に対して0°、45°、90°方向から測定したr値(ランクフォード値)より算出される平均値raveが0.6以上
r値は0.6以上が好ましい。raveは、常温において計測し、引張強さが得らえるひずみ量(均一伸び)からマイナス0.5%のひずみ量において、0°、45°、90°で測定されたr値(;r0°、r45°、r90°)に基づいて、以下の式により算出される。
rave=(r0°+r90°+2*r45°)/4
raveが0.6未満であると、異方性が高くなりプレス成形性が低下し、割れなどが生じ易くなる。
【0025】
(クラッド材の積層構成)
クラッド材は、前記心材の片面または両面に、皮材または犠牲材からなる一種または二種以上の皮材が積層されている。
クラッド材の各層のクラッド率は特に限定されないが、心材のクラッド率を60~97%の範囲とするのが望ましい。
皮材としては、ろう材、犠牲材から選択される。積層構成は、特に限定されないが、ろう材/心材の順に積層されているアルミニウム合金クラッド材、ろう材/心材/ろう材の順に積層されているアルミニウム合金クラッド材、ろう材/心材/犠牲材の順に積層されているアルミニウム合金クラッド材、ろう材/心材/犠牲材/ろう材の順に積層されているアルミニウム合金クラッド材、ろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の順に積層されているアルミニウム合金クラッド材、犠牲材/心材の順に積層されているアルミニウム合金クラッド材、犠牲材/心材/犠牲材の順に積層されているアルミニウム合金クラッド材などを例示することができる。
【0026】
ろう材種別
心材には、皮材として一般的なろう材であるAl-Si系合金はもちろん、さらに、各種元素を含有したろう材を貼り合わせることができる。クラッド材全体の強度に対するろう材の寄与は少ないが、ろう材に特に強度向上効果が大きい元素を含有する場合にはその影響を考慮することで、クラッド材全体の強度を調整することができる。
【0027】
クラッド材全体の強度は、下記の式のとおり、各層単体の強度のクラッド率按分で算出できる。
クラッド材全体の強度=(皮材単体の強度×皮材クラッド率)+(心材単体の強度×心材クラッド率)
【0028】
さらに、ろう材に任意に含有される元素のうち、ろう材単体の強度に寄与しやすい元素としては、Mg,Mn,Cu,Feを上げることができ、それぞれのろう材単体の強度に及ぼす影響は、
[引張強さ]
Mg:5MPa/0.1%含有、Mn:2MPa/0.1%含有、Cu:5MPa/0.1%含有、Fe:2MPa/0.1%含有である。
【0029】
一方、クラッド材全体の成形性は皮材の成形性>心材の成形性となるため、基本的に心材の成形性、すなわち心材の化学成分や金属組織によって決まる。
【0030】
(ろう材組成)
ろう材の含有成分は特定のものに限定されないが、以下の代表的な成分例を説明する。
【0031】
Si:2.0~13.0%
融点を低下させてろう付温度において液相を生成することでろう付を可能とする。
下限未満では液相生成量が少なくろう付不良となる。上限超えでは、Si過剰のためエロ-ジョンが発生する。
【0032】
Fe:0.8%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0033】
Zn:5.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。ろう材を心材に対する防食層として機能させたい場合に含有する。含有した場合は電位が卑となり心材に対する犠牲陽極効果を発揮する。上限超えの場合には、腐食速度が速くなりすぎる。
【0034】
Cu:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは、材料が硬くなって製造が困難となる。
【0035】
Mn:2.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0036】
Cr:0.50%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0037】
Zr:0.30%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0038】
Ti:0.30%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0039】
Ni:1.5%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0040】
Mg:2.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。真空ろう付などに使用する場合に含有される。上限超えでは、材料が硬くなって製造が困難となる。
【0041】
Sr:0.2%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0042】
Na:0.2%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0043】
V:0.2%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0044】
Bi:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0045】
Sb:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0046】
Sn:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0047】
(犠牲材組成)
心材には、皮材として心材よりも電位が低い材料を犠牲材としてクラッドすることができる。
一般的な犠牲材であるAl-Zn系合金はもちろん、さらに、各種元素を含有した犠牲材を貼り合わせることができる。クラッド材全体の強度に対する犠牲材の寄与は少ないが、犠牲材に特に強度向上効果が大きい元素を含有する場合にはその影響を考慮することで、クラッド材全体の強度を調整することができる。
【0048】
クラッド材全体の強度は、下記の式のとおり、各層の強度のクラッド率按分で算出できる。
クラッド材全体の強度=(皮材単体の強度×皮材クラッド率)+(心材単体の強度×心材クラッド率)
【0049】
さらに、犠牲材に任意に含有される元素のうち、犠牲材単体の強度に寄与しやすい元素としては、Mg,Mn,Si,Cu,Feを上げることができ、それぞれの犠牲材単体の強度に及ぼす影響は、
[引張強さ]
Mg:5MPa/0.1%含有、Mn:2MPa/0.1%含有、Si:5MPa/0.1%含有、Cu:5MPa/0.1%含有、Fe:2MPa/0.1%含有である。
【0050】
クラッド材全体の成形性は、ろう材の場合と同様に、皮材の成形性>心材の成形性となるため、基本的に心材の成形性、すなわち心材の化学成分や金属組織によって決まる。
【0051】
(犠牲材組成)
犠牲材の含有成分は特定のものに限定されないが、以下の代表的な成分例を説明する。
【0052】
Si:1.5%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは、融点が低下して局部溶融が発生する。
【0053】
Fe:0.8%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0054】
Zn:0.4~10.0%
含有してもよい(0%としてもよい)。電位を卑にして心材に対する犠牲陽極効果を得るために含有される。下限未満ではその効果が小さく、上限超えでは腐食速度が速くなりすぎて犠牲材が早期消耗することで、犠牲陽極効果が長期間発揮できない。
【0055】
Cu:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは、材料が硬くなって製造が困難となる。
【0056】
Mn:2.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0057】
Cr:0.50%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0058】
Zr:0.30%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0059】
Ti:0.30%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0060】
Ni:1.5%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。上限超えでは巨大な化合物を生成し、製造が困難となる。
【0061】
Mg:3.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。真空ろう付などに使用する場合に含有される。上限超えでは、材料が硬くなって製造が困難となる。
【0062】
Sr:0.2%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0063】
Na:0.2%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0064】
V:0.2%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0065】
Bi:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0066】
Sb:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【0067】
Sn:1.0%以下
含有してもよい(0%としてもよい)。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、高い強度と、優れた成形性を有するクラッド材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
[心材の作製]
[心材組成]
心材用のアルミニウム合金として、質量%で、Mn:0.7~1.7%、Si:0.5~1.7%、Cu:0.1~1.2%、Fe:0.1~0.8%、Zn:0.05~1.1%を含有し、所望によりCr:0.01~0.30%、Zr:0.01~0.30%、Ti:0.01~0.30%、Mg:0.1~1.2%を1種以上を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成に調製する。その際に、前記組成の成分含有量について、[%Mn]+[%Fe]+|(1-[%Si])/[%Si]|≦2.6の関係式を満たすように調製する。
【0070】
[鋳造]
上記組成においてアルミニウム合金を溶製する。溶製の方法としては、例えば半連続鋳造法によりアルミニウム合金を鋳造する。
一般的な鋳造速度で鋳造を実施すると鋳造開始から凝固までの間でAl-Mn-Fe系の化合物などが成長し、200μm以上の巨大な金属間化合物を形成しやすくなる。これを抑制するために鋳造時に640℃~670℃を通過する際の合金の冷却速度が0.1℃/s~10℃/sの間で実施するのが望ましい。これにより200μm以上の巨大な金属間化合物の生成を効果的に抑制することができる。なお、640℃~670℃は上記化合物が成長する温度である。
上記冷却速度が0.1℃/秒未満の場合、巨大な金属間化合物が生成しやすい。また10℃/秒以上の場合、巨大な金属間化合物の生成抑制については効果的であるが、割れの感受性が高まり製造性が低下する。より好ましくは、上記温度範囲の冷却速度を0.5℃/秒~5℃/秒とする。
【0071】
[均質化処理]
得られた合金に対しては均質化処理を行うことができる。
均質化処理では、得られた合金に400℃~600℃未満、処理時間3時間~12時間未満の範囲で均質化処理を施すことができる。これにより、所望する特性を得るための適切な金属間化合物として、円相当径100nm~500nm程度の微細な分散状態が得られる。上記温度および処理時間外の条件を施すと、所望する金属間化合物の分布状態を得ることができず、強度が低下する。また600℃以上では、材料が均質化処理中に溶融するリスクもある。より好ましい温度は、420℃~580℃である。
【0072】
「熱間圧延」
別途、ろう材用合金、犠牲材用合金を、常法により、鋳造、熱間圧延により所定厚みとし、心材用鋳塊と張り合わせて熱間圧延することでクラッド材を製造する。
ろう材用合金としては、質量%で、Si:2.0~13.0%を含有し、さらに、
Fe:0.8%以下、Zn:5.0%以下、Cu:1.0%以下、Mn:2.0%以下、
Cr:0.50%以下、Zr:0.30%以下、Ti:0.30%以下、Ni:1.5%以下、Mg:2.0%以下、Sr:0.2%以下、Na:0.2%以下、V:0.2%以下、Bi:1.0%以下、Sb:1.0%以下、Sn:1.0%以下、を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を例示することができる。Si以外の各成分は0%の場合を含む。
前記犠牲材用アルミニウム合金としては、質量%で、Si:1.5%以下、Fe:0.8%以下、Zn:0.4~10.0%、Cu:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:0.50%以下、Zr:0.30%以下、Ti:0.30%以下、Ni:1.5%以下、 Mg:3.0%以下、Sr:0.2%以下、Na:0.2%以下、V:0.2%以下、Bi:1.0%以下、Sb:1.0%以下、Sn:1.0%以下、を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を例示することができる。各成分は0%の場合を含む。
【0073】
ここでクラッド材に対する熱間圧延前の均熱処理は400℃から550℃で1~10時間の温度で行うことが望ましい。これ以上の温度では均質化処理にて析出させた分散粒子が再固溶するため素材強度が低下する。加えて、鋳造時に生成した巨大な金属間化合物を熱間圧延中に破砕することを目的として、入側の厚さに対して出側の厚さが20mm以上の減少を伴うように圧延されるパスを15回以上実行することが望ましい。またこの条件を行うことで、破砕された金属間化合物が核生成サイトとして有効に働く1μm程度のサイズになるとともに、金属間化合物の分布状態が好適化することで、板材のr値を向上させることができる。
これよりも少ない圧下量もしくは回数の場合、鋳造時に生成した巨大な金属間化合物が残留し、後の製造性が低下する。一方で30mmを超える圧下量は巨大な金属間化合物の破砕には効果的であるが、板幅方向の割れが助長されるため製造性が低下する。したがって、1パス当たりの圧下量を20mm~30mmとし、そのパス数を15回以上とするのがより好ましい。
【0074】
「冷間圧延」
熱間圧延を行ったアルミニウム合金クラッド材に対しては、冷間圧延を行うことができる。この際に、特に規定されるものではないが、1パス当たりの圧下率が10~40%の間で実施するのが望ましい。この範囲以外の場合、製造性が低下する。
【0075】
「圧延途中の焼鈍」
冷間圧延の途中で、冷間圧延を続行するために実施しても良い。バッチ式の焼鈍炉を用いて昇温速度30~70℃/時間で200~450℃、処理時間3~10時間の範囲で施すことができる。450℃を超える場合、二次再結晶が生じて不均一な再結晶粒となるおそれがある。
また連続焼鈍炉(昇温速度50℃/s以上、処理温度400℃以上、処理時間60s、冷却速度200℃/s以下)を用いても良い。
【0076】
「最終板厚」
特に定められるものではないが、0.5mm~3.5mmが例示される。
【0077】
「焼鈍」
冷間圧延を終了したアルミニウム合金クラッド材では、最終焼鈍を行うことができる。最終焼鈍としては、バッチ式の焼鈍炉を用いて昇温速度30~70℃/時間で200~400℃、処理時間3~10時間の範囲で施すことができる。
また連続焼鈍炉(昇温速度50℃/s以上、処理温度400℃以上、処理時間60s、冷却速度200℃/s以下)を用いた場合であれば、さらに焼鈍後の結晶粒が微細となり強度と成形性が向上する。
なお、必要に応じて焼鈍後にさらに最終圧延を10~40%の範囲で行うことができる。
また、上記説明では、冷間圧延後、最終焼鈍を行っているが、本実施形態は、冷間圧延後に最終焼鈍を行わず、圧延ままで使用に供することもできる。
【0078】
上記工程を経たアルミニウム合金クラッド材では、心材に100nm~500nmの分散粒子の分布密度が1mm2あたり1.0×106個~5.0×106個で分布しており、かつ、200μm以上の化合物が10mm2に1個以下で分布している。
【0079】
また、製造後のアルミニウム合金クラッド材では、焼鈍後または圧延ままで、引張強さが150MPa~250MPa、圧延方向に対して0°、45°、90°方向から測定したr値より算出される平均値raveが0.6以上を有している。
本発明のアルミニウム合金は、特定の用途に限定されるものではないが、例えば、熱交換器用のプレート材などに好適に用いることができる。
【実施例1】
【0080】
表1に示す心材用アルミニウム合金(残部がAlと不可避不純物)を用意した。それぞれの組成における[%Mn]+[%Fe]+|(1-[%Si])/[%Si]|の関係式における計算値を表1に示した。
該合金の鋳造方法は半連続鋳造を採用し、アルミニウム合金の物体温度が640℃~670℃を通過する際には、適正な鋳造速度および冷却水量の調節を行うことで冷却速度を制御し、0.5℃~5.0℃/secの範囲とした。640℃未満の冷却速度については一般的な鋳造速度で鋳造した。640℃~670℃の範囲で冷却速度を0.5℃~5.0℃/secの範囲で制御したものを●、0.5℃/sec未満で制御したものを△で表5に示した。
【0081】
また、表2に示すろう材用合金、表3に示す犠牲材用合金を同様に半連続鋳造によって製造した。ろう材用合金、犠牲材用合金は通常条件で鋳造した。ろう材用合金、犠牲材用合金は表4に示すクラッド率になるように熱間圧延で板厚調整した後、心材用合金と組み合わせて熱間圧延によりクラッド材にした。
【0082】
心材用合金鋳塊に対し、表5に示す条件で均質化処理を行った後に、上記のとおり、ろう材用合金、犠牲材用合金と組み合わせ、均熱処理を500℃×1時間の条件で行い、その後、熱間圧延を行った。その際の熱間圧延条件(圧下量20mm~30mmの圧下量で圧延を行った際のパス数)を表5に示した。
熱間圧延材の厚さは、8.0mmとし、その後、冷間圧延を行い、板厚0.8mmの冷間圧延材を得た。供試材No.21については、冷間圧延の途中で、中間焼鈍を行った。熱間圧延後に冷間圧延にて3.0mmまで圧延を行った後、中間焼鈍の条件として、350℃×4時間で熱処理を実施した。その後、冷間圧延にて0.8mmの冷間圧延材を得た。
0.8mmまで冷間圧延後に、最終焼鈍として350℃で3時間の熱処理を行った(質別O材)。
なお、一部の試料(No.31,32)については、最後の焼鈍を0.8mmより手前で行い、所定の冷間圧延率になるように0.8mmまで薄くしたままの試料も用意した(質別H材で、それぞれ15%、30%の最終圧延率)。
【0083】
「化合物の分布状態]
200μm以上の化合物の確認
製造したアルミニウム合金について、圧延方向に平行な断面を機械研磨し、光学顕微鏡にて金属間化合物を観察した。光学顕微鏡にて倍率×100で、0.35mm2の面積で10視野を観察し、10枚取得した画像より、画像解析ソフト(例えばImageJ、Wayne Rasband開発)を用いて、金属間化合物の粒子の円相当径および分布量を算出し、その結果を表5に示した。
【0084】
100~500nmの化合物の確認
上記と同様に圧延方向に平行な断面にクロスセクションポリッシャ加工を施し、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM;日本電子製JSM-7900F)を用いて二次電子像を倍率30000倍で、12μm2の面積で10視野を観察し、10枚の画像を取得した。取得した画像より画像解析ソフトを用いて、金属間化合物の粒子の円相当径および分布量を算出し、表5に示した。
【0085】
[引張強さ]
引張試験
圧延方向と平行になるようJISZ2241に準ずる方法で5号試験片を採取し、引張強さを測定した。引張強さは、140MPa未満を×、140MPa以上、180MPa未満を〇、180MPa以上を◎とし、その結果を表5に示した。
【0086】
[平均r値]
引張強さが得らえるひずみ量(均一伸び)からマイナス0.5%のひずみ量におけるr値を測定した。r値の測定方法は常法に従う。圧延方向に平行方向を0°としてr0°を測定し、同様に45°方向からr45°および90°方向からr90°を測定した。
平均r値として(r0°+r90°+2*r45°)/4を算出し、その絶対値が0.6以上、0.7未満のものを〇、0.7以上のものを◎とし、0.6未満のものは×として評価し、算出値および評価を表5に示した。
【0087】
[成形性評価]
成形性の評価として、打ち抜きと曲げを踏まえたプレス成型加工を実施した。寸法精度が特に優れたものをA、それ以外で規格をクリアしたものをBとして合格判定し、優れなかったものをCとして不合格判定して表5に示した。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【要約】
【課題】巨大な金属間化合物の生成が抑制され、強度と成形性に優れたアルミニウム合金クラッド材を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金クラッド材は、質量%で、Mn:0.7~1.7%、Si:0.5~1.7%、Cu:0.1~1.2%、Fe:0.2~0.8%、Zn:0.05~1.1%、を含有し、残りはAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、前記組成における成分含有量が[%Mn]+[%Fe]+|(1-[%Si])/[%Si]|≦2.6の関係式を満たし、100nm~500nmの分散粒子の分布密度が1mm2あたり1.0×106個~5.0×106個で分布しており、かつ、200μm以上の化合物が10mm2に1個以下で分布している心材を有し、ろう材または犠牲材からなる皮材が積層されており、引張強さが150MPa~250MPa、圧延方向に対して0°、45°、90°方向から測定したr値より算出される平均値raveが0.6以上を有する。
【選択図】なし