(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】電気自動車の四駆トルク配分方法、システム及び車両
(51)【国際特許分類】
B60W 30/18 20120101AFI20240412BHJP
【FI】
B60W30/18
(21)【出願番号】P 2023518364
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 CN2020129825
(87)【国際公開番号】W WO2022104601
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-03-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523284985
【氏名又は名称】浙江極▲け▼智能科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG ZEEKR INTELLIGENT TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1031, Building 1, Business Building, Liaohe Road, Xinqi Street, Beilun District, Ningbo, Zhejiang 315000, China
(73)【特許権者】
【識別番号】507362513
【氏名又は名称】浙江吉利控股集団有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG GEELY HOLDING GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】1760 Jiangling Road, Binjiang District, Hangzhou Zhejiang310000, China
(74)【代理人】
【識別番号】100224007
【氏名又は名称】長谷 潮
(72)【発明者】
【氏名】フー ベンボー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ダウン
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110422053(CN,A)
【文献】特開2006-62549(JP,A)
【文献】特開2020-62972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプログラム指令が記憶されたメモリと、前記少なくとも1つのプログラム指令をロードして実行することにより、車両としての電気自動車の四駆トルク配分方法を実現するプロセッサと、を備えるトルク配分
システムであって、
前記電気自動車の四駆トルク配分方法は、
全車トータルデマンドトルクを取得するステップと、
走行パラメータ情報に基づいて全車デマンド状態を決定し、且つ前記全車デマンド状態に対応する前後軸トルクの配分係数を出力するステップと、を備え、
ここで、前記全車デマンド状態は、駆動効率が最も高いことを含み、
前記全車デマンド状態に対応する前後軸トルクの配分係数を出力する
前記ステップは、
前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力の数学モデルと前記全車トータルデマンドトルクに基づいて第1前後軸トルクの配分係数を
取得
する
ステップ、
前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を
取得するステップ、及び
前記前後軸トルクの配分係数と前記全車トータルデマンドトルクとに基づいて前後駆動システムの目標トルクを
取得するステップを含
み、
前記前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力の数学モデルの取得は、
前軸タイヤ接地点及び後軸タイヤ接地点に対してモーメントを取って対応する第1公式群を取得するステップと、
前軸駆動力と後軸駆動力の和が全体の路面付着力に等しく、且つ前記前軸駆動力及び前記後軸駆動力がそれぞれの路面付着力に等しいことに基づいて、対応する第2公式群を取得するステップと、
前記第1公式群と前記第2公式群から、路面付着係数を係数とする前記前軸駆動力及び前記後軸駆動力を表す第3公式群を取得するステップと、
前記第3公式群における前記路面付着係数を除去し、前記前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力配分に基づく数学モデルを取得するステップと、を含む
ことを特徴とするトルク配分
システム。
【請求項2】
前記全車トータルデマンドトルクを取得する
前記ステップは、
車速及びアクセルペダル開度を取得する
ステップと、
前記車速と前記アクセルペダル開度とのチェックテーブルに基づいて前記全車トータルデマンドトルクを算出する
ステップと、を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のトルク配分
システム。
【請求項3】
前記全車トータルデマンドトルクを取得する
前記ステップは、
運転モード、車速及びアクセルペダル開度を取得する
ステップと、
前記運転モード、前記車速及び前記アクセルペダル開度のチェックテーブルに基づいて前記全車トータルデマンドトルクを算出する
ステップと、含む
ことを特徴とする請求項1に記載のトルク配分
システム。
【請求項4】
前記第1公式群は、
【数10】
であり、
前記第2公式群は、
【数11】
であり、
前記第3公式群は、
【数13】
であり、
前記前後ホイールが同時にスリップするときの前後軸駆動力配分に基づく前記数式モデルは、
【数14】
であり、
ここで、m=Wf+Wr、L=a+b、G=m*g、du/dt=φ*g、mは満載質量であり、Wfは前軸質量であり、Wrは後軸質量であり、F
Z1
は前輪地面の法線力であり、F
Z2
は後輪地面の法線力であり、Hgはセントロイド高さであり、Lは軸距離であり、aはセントロイドから前軸までの距離であり、bはセントロイドから後軸までの距離であり、rはタイヤ転動半径であり、φは前記路面付着係数であり、Gは自動車の重力であり、du/dtは自動車の加速度であり、F
f
は前記前軸駆動力であり、F
r
は前記後軸駆動力であり、M
f
は前軸トルクであり、M
r
は後軸トルクである
ことを特徴とする請求項1に記載のトルク配分
システム。
【請求項5】
前記前後軸トルクの配分係数と前記全車トータルデマンドトルクとに基づいて前記前後駆動システムの目標トルクを取得する前記ステップの後に、
前記前後駆動システムの最大トルクパラメータを取得するステップと、
前記目標トルクと前記最大トルクパラメータとを比較して、両者のうちの小さな値を前記前後駆動システムの最終目標トルクとするステップと、
前記最終目標トルクを前記前後駆動システムに送信するステップと、をさらに含む
ことを特徴とする請求項
1に記載のトルク配分
システム。
【請求項6】
前記全車デマンド状態は、車両操舵不安定制御をさらに含み、
前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を取得する前記ステップは、
車両動力学解析によって前記車両の操舵状態を取得した後に、当該操舵状態と予め設定された操舵配分係数関係に基づいて第2前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
前記第1前後軸トルクの配分係数と前記第2前後軸トルクの配分係数とを加算して前記前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のトルク配分
システム。
【請求項7】
前記車両動力学解析は、前記車両を二自由度モデルに簡略化し、前記車両の旋回時における側方向と横方向の運動受力関係を解析し、前記車両の走行方向に垂直な車両外力の合力と重心周りのモーメントとによって受力方程式を確立し、前記車両を運転する運転者の所望のヨー角速度を取得し、そして前記所望のヨー角速度と実際のヨー角速度との差によって前記車両の操舵状態を取得し、且つ当該操舵状態をPID制御アルゴリズムの入力パラメータとし、その後、前記入力パラメータと予め設定された操舵配分係数関係に基づいて対応する第2前後軸トルクの配分係数を取得し、
ここで、前記受力方程式は、
【数15】
であり、
ここで、Vは車速であり、Mは全車質量であり、I
zz
はz軸回りの回転慣性量であり、D
1
、D
2
はそれぞれ前軸タイヤ及び後軸タイヤの側偏剛性であり、a
1
、a
2
はそれぞれセントロイドから前軸、後軸までの距離であり、βはサイド滑り角であり、「ω」はヨー角速度であり、δはタイヤの回転角であり、即ち、ハンドルの回転角と角伝動比との積である
ことを特徴とする請求項
6に記載のトルク配分
システム。
【請求項8】
前記全車デマンド状態は、さらに登坂能力を含み、
前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を取得する前記ステップは、
坂道勾配と、予め設定された坂道勾配に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで当該坂道勾配に基づく第3前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
前記第3前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、を含む
ことを特徴とする請求項
1に記載のトルク配分
システム。
【請求項9】
前記第3前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を取得する前記ステップは、
軸スリップ状態パラメータと、予め設定された軸スリップ状態パラメータに基づく配分係数関係とによって、軸スリップ制御に基づく第4前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
前記第3前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数とを乗算し、且つ当該乗算により得られた結果を前記第4前後軸トルクの配分係数と加算して前記前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、を含む
ことを特徴とする請求項
8に記載のトルク配分
システム。
【請求項10】
前記全車デマンド状態は、さらに需要操作性を含み、
前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を取得する前記ステップは、
ハンドル回転角と、予め設定されたハンドル回転角に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第5前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
前記第5前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、を含む
ことを特徴とする請求項
1に記載のトルク配分
システム。
【請求項11】
前記第5前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を得る前記ステップは、
車速と、予め設定された車速に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第6前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
前記第5前後軸トルクの配分係数と、前記第6前後軸トルクの配分係数と、前記第1前後軸トルクの配分係数とを乗算して前記前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、含む
ことを特徴とする請求項
10に記載のトルク配分
システム。
【請求項12】
前記全車デマンド状態は、さらに前記車両の操舵時の不安定制御、登坂能力及び需要操作性を含み、
前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を取得する前記ステップは、
車両動力学解析によって前記車両の操舵状態を取得するステップと、
前記操舵状態と、予め設定された操舵配分係数関係とに基づいて第2前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
坂道勾配と、予め設定された坂道勾配に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで坂道勾配に基づく第3前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
軸スリップ状態パラメータと、予め設定された軸スリップ状態パラメータに基づく配分係数関係とによって軸スリップ制御による第4前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
ハンドル回転角と、予め設定されたハンドル回転角に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第5前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
車速と、予め設定された車速に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第6前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、
前記第1前後軸トルクの配分係数と、前記第3前後軸トルクの配分係数と、前記第5前後軸トルクの配分係数と、前記第6前後軸トルクの配分係数とを乗算し、且つ乗算により得られたものを、前記第2前後軸トルクの配分係数と前記第4前後軸トルクの配分係数と加算して、前記前後軸トルクの配分係数を取得するステップと、含む
ことを特徴とする請求項
1に記載のトルク配分
システム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のトルク配分システムを含む
ことを特徴とする
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、自動車の動力配分分野に関し、具体的には電気自動車の四駆(四輪駆動)トルク配分方法、及び前記電気自動車の四駆トルク配分方法を応用したシステム及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な環境問題とエネルギー危機の深刻化に伴い、環境保護・省エネは世界的にホットスポットな話題となる。電気自動車が省エネ、高効率、ゼロエミッションなどの利点があるため、純電気自動車の研究開発と普及の推進に取り組む国が益々多くなっている。
【0003】
省エネと環境保護に加えて、四駆動力システムを通じてより良い動力性能と制御性能を提供することができる。そのため、益々多くの電気自動車は四駆構造の動力システムを採用した。電気四駆自動車は、通常、独立した前軸電気駆動システムと後軸電気駆動システムを備えており、前、後軸電気駆動システムはいずれも(0-1)の占有範囲内で運転者の全車需要トルクの配分を行うことができる。二駆電気自動車とは異なり、電動四駆自動車は前後軸でトルク配分を行う必要があり、有効なトルク配分制御策略を有することこそ四駆動力システムの優位性を十分に発揮できるため、より高度な制御の複雑さを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
四駆自動車の前後軸のトルク配分は異なる地形と走行状況を考慮する必要があるため、現在、四駆自動車の前後軸トルクに対する配分制御技術は依然として全車制御技術の難点とホットスポットである。異なる地形、異なる路面付着係数、異なる車両運動状態及び運転者の異なる運転操作は、車両の前後軸トルク配分に対する要求が異なり、異なる前後軸トルク配分は車両の駆動効率、安定性及び操縦性などの性能に影響を与え、また、前後軸トルク配分は前後軸電気駆動システム自身により制限されている。そのため、どのように電動四駆車両の実際の走行状況に基づいて前後軸トルクの配分割合を合理的に配分して駆動効率を最も高く実現するかは、当業者が早急に解決しなければならない技術問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の目的は、路面付着性能が最も良く、駆動効率が最も高い前後軸のトルク配分を実現できる電気自動車の四駆トルク配分方法及び前記電気自動車の四駆トルク配分方法を応用したシステム及び車両を提供することにある。
【0006】
上述の技術的課題を解決するために、本願は、電気自動車の四駆トルク配分方法を提供する。
一実施形態として、前記電気自動車の四駆トルク配分方法は、全車トータルデマンドトルクを取得するステップと、走行パラメータ情報に基づいて全車デマンド状態を決定し、且つ前記全車デマンド状態に対応する前後軸トルクの配分係数を出力するステップと、を備え、ここで、前記全車デマンド状態は、駆動効率が最も高いことを含み、前記全車デマンド状態に対応する前後軸トルクの配分係数を出力するステップは、前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力の数学モデルと前記全車トータルデマンドトルクに基づいて第1前後軸トルクの配分係数を得ること、前記第1前後軸トルクの配分係数から前記前後軸トルクの配分係数を得ること、及び前記前後軸トルクの配分係数と前記全車トータルデマンドトルクとに基づいて前後駆動システムの目標トルクを得ることを含む。
【0007】
一実施形態として、前記全車トータルデマンドトルクを取得するステップは、車速及びアクセルペダル開度を取得することと、前記車速と前記アクセルペダル開度とのチェックテーブルに基づいて前記全車トータルデマンドトルクを算出することと、を含む。
【0008】
一実施形態として、前記全車トータルデマンドトルクを取得するステップは、運転モード、車速及びアクセルペダル開度を取得することと、前記運転モード、前記車速及び前記アクセルペダル開度のチェックテーブルに基づいて前記全車トータルデマンドトルクを算出することと、を含む。
【0009】
一実施形態として、前記前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力の数学モデルを取得する方法は、前、後軸タイヤ接地点に対してモーメントを取って対応する第1公式群を取得することと、前、後軸駆動力の和が全体の路面付着力に等しく、且つ前、後軸駆動力がそれぞれの路面付着力に等しいことに基づいて、対応する第2公式群を取得することと、前記第1公式群と前記第2公式群から、前、後軸の駆動力を表す第3公式群を取得することと、前記第3公式群の上に、そのうちの路面付着係数を除去し、前記前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力配分に基づく数学モデルを取得することと、を含む。
【0010】
一実施形態として、前記第1公式群は、
【数1】
であり、
前記第2公式群は、
【数2】
であり、
前記第3公式群は、
【数3】
であり、
前記前後ホイールが同時にスリップするときの前後軸駆動力の配分に基づく数式モデルは、
【数4】
であり、
ここで、m=W
f+W
r、L=a+b、G=m*g、du/dt=Φ*g、mは満載質量であり、W
fは前軸質量であり、W
rは後軸質量であり、F
Z1は前輪地面の法線力であり、F
Z2は後輪地面の法線力であり、Hgはセントロイド高さであり、Lは軸距離であり、aはセントロイドから前軸までの距離であり、bはセントロイドから後軸までの距離であり、rはタイヤ転動半径であり、Φは前記路面付着係数であり、Gは自動車の重力であり、du/dtは自動車の加速度であり、F
fは前記前軸駆動力であり、F
rは前記後軸駆動力であり、M
fは前軸トルクであり、M
rは後軸トルクである。
【0011】
一実施形態として、前記前後軸トルクの配分係数と前記全車トータルデマンドトルクとに基づいて前後駆動システムの目標トルクを取得するステップの後に、前記前後駆動システムの最大トルクパラメータを取得するステップと、前記目標トルクを前記最大トルクパラメータと比較して、そのうちの小さな値を前後駆動システムの最終目標トルクとするステップと、前記最終目標トルクを前記前後駆動システムに送信するステップと、をさらに含む。
【0012】
一実施形態として、前記全車デマンド状態は、車両操舵不安定制御をさらに含み、前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を取得するステップは、車両動力学解析によって車両の操舵状態を取得した後に、前記車両の操舵状態と予め設定された操舵配分係数関係に基づいて第2前後軸トルクの配分係数を取得することと、前記第1前後軸トルクの配分係数と前記第2前後軸トルクの配分係数とを加算して前記前後軸トルクの配分係数を得ることと、を含む。
【0013】
一実施形態として、前記車両動力学解析は、車両を二自由度モデルに簡略化し、車両の旋回時における側方向と横方向の運動受力関係を解析し、車両の走行方向に垂直な車両外力の合力と重心周りのモーメントとによって受力方程式を確立し、運転者の所望のヨー角速度を取得し、そして前記所望のヨー角速度と実際のヨー角速度との差によって車両の操舵状態を取得し、且つ前記車両の操舵状態をPID制御アルゴリズムの入力パラメータとし、その後、前記入力パラメータと予め設定された操舵配分係数関係に基づいて対応する第2前後軸トルクの配分係数P2を取得し、ここで、前記受力方程式は、
【数5】
であり、
ここで、Vは車速であり、Mは全車質量であり、Izzはz軸回りの回転慣性量であり、D
1、D
2はそれぞれ前後軸タイヤの側偏剛性であり、a
1、a
2はそれぞれセントロイドから前軸、後軸までの距離であり、βはサイド滑り角であり、ωはヨー角速度であり、δはタイヤの回転角であり、即ち、ハンドルの回転角と角伝動比との積である。
【0014】
一実施形態として、前記全車デマンド状態は、さらに登坂能力を含み、前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を得るステップは、坂道勾配と予め設定された坂道勾配に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで坂道勾配に基づく第3前後軸トルクの配分係数を得ることと、前記第3前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を得ることと、を含む。
【0015】
一実施形態として、前記第3前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を得るステップは、軸スリップ状態パラメータと予め設定された軸スリップ状態パラメータに基づく配分係数関係によって、軸スリップ制御に基づく第4前後軸トルクの配分係数を得ることと、前記第3前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数とを乗算し、且つ乗算により得られた結果を前記第4前後軸トルクの配分係数と加算して前記前後軸トルクの配分係数を得ることと、を含む。
【0016】
一実施形態として、前記全車デマンド状態は、さらに需要操作性を含み、前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を得るステップは、ハンドル回転角と予め設定されたハンドル回転角に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第5前後軸トルクの配分係数を得ることと、前記第5前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を得ることと、を含む。
【0017】
一実施形態として、前記第5前後軸トルクの配分係数と前記第1前後軸トルクの配分係数との積から前記前後軸トルクの配分係数を得るステップは、車速と予め設定された車速に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第6前後軸トルクの配分係数を取得することと、前記第5前後軸トルクの配分係数と、前記第6前後軸トルクの配分係数と、前記第1前後軸トルクの配分係数とを乗算して前記前後軸トルクの配分係数を得ることと、を含む。
【0018】
一実施形態として、前記全車デマンド状態は、さらに車両操舵時の不安定制御、登坂能力及び需要操作性を含み、前記第1前後軸トルクの配分係数に基づいて前記前後軸トルクの配分係数を得るステップは、車両動力学解析によって車両の操舵状態を取得することと、前記車両の操舵状態と予め設定された操舵配分係数関係に基づいて第2前後軸トルクの配分係数を取得することと、坂道勾配と予め設定された坂道勾配に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで坂道勾配に基づく第3前後軸トルクの配分係数を取得することと、軸スリップ状態パラメータと予め設定された軸スリップ状態パラメータに基づく配分係数関係によって軸スリップ制御による第4前後軸トルクの配分係数を取得することと、ハンドル回転角と予め設定されたハンドル回転角に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第5前後軸トルクの配分係数を取得することと、車速と予め設定された車速に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することで第6前後軸トルクの配分係数を取得することと、前記第1前後軸トルクの配分係数と、前記第3前後軸トルクの配分係数と、前記第5前後軸トルクの配分係数と、前記第6前後軸トルクの配分係数とを乗算し、且つ乗算により得られたものを前記第2前後軸トルクの配分係数と前記第4前後軸トルクの配分係数と加算して、前記前後軸トルクの配分係数を取得することと、を含む。
【0019】
上述の技術的課題を解決するために、本願はさらに、電気自動車の四駆トルク配分システムを提供する。一実施形態として、前記電気自動車の四駆トルク配分システムは、少なくとも1つのプログラム指令が記憶されたメモリと、前記少なくとも1つのプログラム指令をロードして実行することにより、上記の何れかの実施形態に記載の電気自動車の四駆トルク配分方法を実現するプロセッサと、を備える。
【0020】
上記技術的課題を解決するために、本願はさらに、上記実施形態に記載の電気自動車の四駆トルク配分システムを含む車両を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本願が提供する電気自動車の四駆トルク配分方法、及び前記電気自動車の四駆トルク配分方法を応用したシステム及び車両は、車両の前後ホイールが同時にスリップする際の前後軸駆動トルクの数学モデルを構築することにより、この数学モデルに基づいて異なる路面付着係数を有する路面の理想的な前後軸駆動力の配分曲線を得ることができ、この理想的な前後軸駆動力の配分曲線に基づいて異なる需要トルクでの前後軸トルクの配分係数を標定することにより、車両の走行時に車両がリアルタイムに必要な全車トータルデマンドトルクと対応する前後軸トルクの配分係数に基づいて路面の付着性能が最も良く、駆動効率が最も高い前後駆動システムの目標トルクを得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本願の電気自動車四駆トルク配分方法の一実施形態のフローチャートである。
【
図2】本願の数学モデルの構築時の車両駆動受力解析模式図である。
【
図3】本願が数学モデルにより得た理想的な前後軸駆動力の配分曲線の概略図である。
【
図4】本願の一実施形態による電気自動車四駆トルク配分方法の論理構成のブロック図である。
【
図5】本願の一実施形態による電気自動車の四駆トルク配分システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、特定の具体的な実施形態によって本願の実施形態を説明する。この技術に詳しい者は、本明細書で開示された内容によって本願の他の利点及び効果を容易に理解することができる。
【0024】
以下の説明では、図面を参照して、本願の幾つかの実施形態を説明する。なお、他の実施形態を採用することができ、本願の精神及び範囲から逸脱しない前提下で、機械的構成、構造、電気的及び操作上の変更を行うことができる。以下の詳細な説明は、限定的なものと見なすべきではなく、本願の実施形態の範囲は、開示された特許請求の範囲のみによって限定される。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記述するためにのみ使用され、本願を限定することを意図するものではない。いくつかの例では、第1、第2などの用語が本明細書で様々な要素を記述するために使用されるが、これらの要素は前記用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、1つの構成部品を別の構成部品から区別するためにのみ使用される。
【0025】
さらに、本明細書で使用されるように、単数形「1」、「1つ」、及び「これ」は、文脈内で逆の指示がない限り、複数形も含むことを意図している。さらに、用語「含む」、「包含」は、記載された特徴、ステップ、動作、部品、アセンブリ、プロジェクト、種類、及び/またはグループの存在を意味するが、1つまたは複数の他の特徴、ステップ、動作、部品、アセンブリ、プロジェクト、種類、及び/またはグループの存在、出現、または追加は除外されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語「または」及び「及び/または」は、包括的と解釈され、または何れかの或いは任意の組合せを意味する。従って、「A、B又はC」又は「A、B及び/又はC」は、「A、B、C、AとB、AとC、BとC、A、B及びC」を意味する。この定義の例外は、部品、機能、ステップ、または操作の組み合わせが幾つかの場合で内在的に排斥している場合にのみ発生する。
【0026】
図1に示すように、
図1は本願の電気自動車四駆トルク配分方法の一実施形態のフローチャートである。
【0027】
なお、本実施形態の電気自動車四駆トルク配分方法は、以下のステップを含むが、これらに限定されない。
【0028】
ステップS1において、全車トータルデマンドトルクを取得する。
【0029】
具体的には、全車トータルデマンドトルクは、車両が異なる走行状態で全車に必要なトルクを表す。一般的には、アクセルペダル開度によって決定され、つまり、アクセルペダル開度のチェックテーブルによって現在の全車トータルデマンドトルクが算出される。
【0030】
一実施形態において、全車トータルデマンドトルクを取得するステップS1には、車速とアクセルペダル開度を取得すること、及び車速とアクセルペダル開度のチェックテーブルに基づいて全車トータルデマンドトルクを算出することが含まれる。
【0031】
説明する必要があるところ、異なるクラスの車両は異なる全車性能調節を有し、例えば、運転モード調節を備えた車両に対して、運動、快適さなどの異なる運転モードを調節することができ、異なる運転モードにおいて、異なるアクセルペダル開度に必要な全車トータルデマンドトルクは異なる。つまり、異なる運転モードの下で異なるアクセルペダル開度のチェックテーブルを有する。従って、一実施形態では、全車トータルデマンドトルクを取得するステップS1には、運転モード、車速及びアクセルペダル開度を取得すること、及び運転モード、車速及びアクセルペダル開度のチェックテーブルに基づいて全車トータルデマンドトルクを算出することが含まれる。
【0032】
ステップS2において、走行パラメータ情報に基づいて全車のデマンド状態を決定し、且つ全車のデマンド状態に対応する前後軸トルクの配分係数を出力する。
【0033】
ここで、全車デマンド状態は、駆動効率が最も高いことを含む。全車のデマンド状態に対応する前後軸トルクの配分係数を出力するステップは、前後ホイールの同時スリップ時の前後軸の駆動力数学モデルと全車トータルデマンドトルクに基づいて第1前後軸トルクの配分係数P1を取得すること、及び前記第1前後軸トルクの配分係数P1に基づいて前後軸トルクの配分係数Pを取得することを含む。
【0034】
具体的には、全車デマンド状態とは、車両が異なる運動シーンでの異なる機能需要を指し、異なる機能需要は異なる前後軸トルクの配分に転化することができる。例えば、車両全体の走行過程において、最も基礎的な機能需要は車両の駆動効率が最も高いことであり、駆動効率が最も高い上に、車両の操舵不安定時の不安定制御を実現する必要があるかもしれないし、車両の上り坂時の車両勾配走行時の安定性などの異なる特殊な状況における車両のデマンド状態を実現する必要があるかもしれない。即ち、車両走行時の特別な状況に対応して、前後軸トルクの配分係数を対応的に調整することがある。ここで、車両の走行パラメータ情報は、異なるデマンド状態に対応して、必要な走行パラメータ情報が異なり、ハンドル回転角、四輪車速、車速、ヨー角速度、横方向加速度、縦方向加速度、運転モード、坂道勾配などを含むことができる。
【0035】
その中で、最も基礎的な全車デマンド状態として、車両の駆動効率が最も高いことが特に重要である。車両の前後ホイールが同時にスリップする時に、車両タイヤの路面付着性能が最も良く、駆動効率が最も高い。そこで、車両の前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動トルクの数学モデルを構築することにより、この数学モデルに基づいて異なる路面付着係数を有する路面の理想的な前後軸駆動力の配分曲線を得ることができる。この理想的な前後軸駆動力の配分曲線に基づいて異なる需要トルクでの前後軸トルクの配分係数を標定することができる。この標定グラフから、駆動効率が最も高い第1前後軸トルクの配分係数P1が取得される。
【0036】
なお、本文で述べた前後軸トルクの配分係数は、前軸トルクの全車トータルデマンドトルクに対する割合を表し、あるいは後軸トルクの全車トータルデマンドトルクに対する割合を表し、そのうちの1つが確定された後にもう1つのパラメータも当然に確定される。
【0037】
一実施形態では、ステップS2において、前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力に基づく数学モデルを得る方法は、前、後軸タイヤの接地点に対してモーメントを取って、対応する第1公式群を得るステップと、前、後軸駆動力の和が全体の路面付着力に等しく、かつ前、後軸駆動力がそれぞれの路面付着力に等しいことに基づいて、対応する第2公式群を得るステップと、第1公式群と第2公式群に基づいて、前、後軸の駆動力を表す第3公式群を得るステップと、第3公式群の上に、そのうちの路面付着係数を除去し、前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力の配分に基づく数学モデルを得るステップと、を含む。
【0038】
具体的には、
図2を参照する。
図2は、本願の数学モデルの構築時の車両駆動受力解析の模式図である。
図2に示すように、車両の前、後軸タイヤ接地点に対してモーメントを取って第1公式群を得る。
【数6】
前後ホイールが同時にスリップしている時に、車両付着性能が最も良く利用されており、何れかの付着係数の路面において、前後ホイールが同時にスリップする条件は、前後軸駆動力の和が付着力に等しく、且つ前後軸の駆動力がそれぞれ各自の付着力に等しいことである。従って、第2公式群は、次のようになる。
【数7】
第1公式群及び第2公式群から、前後軸駆動力を表す第3公式群を取得する。
【数8】
最後に、第3公式群の上に、その中の路面付着係数をなくし、前後ホイールが同時にスリップするときの前後軸駆動力の配分に基づく数式モデルを得る。
【数9】
ここで、m=Wf+Wr、L=a+b、G=m*g、du/dt=Φ*g、mは満載質量であり、W
fは前軸質量であり、W
rは後軸質量であり、F
Z1は前輪地面の法線力であり、F
Z2は後輪地面の法線力であり、Hgはセントロイド高さであり、Lは軸距離であり、aはセントロイドから前軸までの距離であり、bはセントロイドから後軸までの距離であり、rはタイヤ転動半径であり、Φは前記路面付着係数であり、Gは自動車の重力であり、du/dtは自動車の加速度であり、F
fは前記前軸駆動力であり、F
rは前記後軸駆動力であり、M
fは前軸トルクであり、M
rは後軸トルクである。
【0039】
上記の分析から、異なる付着係数の路面別に、理想的な駆動力配分曲線、即ち、理想的な前後軸トルクの配分曲線が得られる。
図3に示すように、
図3は本願の数学モデルにより得られる理想的な前後軸駆動力の配分曲線を示す図である。
図3から分かるように、全車の総必要トルクが決まると、対応する前後軸のトルクも決まり、つまり、第1前後軸トルクの配分係数P1が決定される。実質的には、この第1前後軸トルクの配分係数P1は、全車トータルデマンドトルクのチェックテーブルにより求められ、このチェックテーブルは上記の解析により得られる。つまり、この数式モデルの最終的な適用となる。例えば、
図3において、路面付着係数が0.1のときに対応する後軸トルクは400N.mであり、前軸トルクは500N.mであるので、トータルデマンドトルクは900N.mである。このときの第1前後軸トルクの配分係数P1は、トータルトルクに対する前軸トルク又は後軸トルクの比の値である。
【0040】
一実施形態では、ステップS2において、全車デマンド状態は、車両操舵不安定制御をさらに含む。第1前後軸トルクの配分係数P1に基づいて前後軸トルクの配分係数を得るステップには、車両の動力学解析により車両操舵状態を取得し、その後、車両操舵状態と予め設定された操舵配分係数関係に基づいて第2前後軸トルクの配分係数P2を取得することと、第1前後軸トルクの配分係数P1と第2前後軸トルクの配分係数P2とを加算して、前後軸トルクの配分係数Pを得ることと、が含まれる。
【0041】
具体的には、車両が操舵する際に、前後軸トルクの配分が特に重要である。車がかじ取りすぎたときに、後輪タイヤの側方力負荷が大きく、この時、後輪に駆動トルクの配分制御を加えてトルクを増加させると、車両のかじ取り過ぎる状態の悪化を招き易く、車両の安定な制御に不利である。一方、車両は中性または操舵不足の状態では、後輪にトルク配分制御を行うことにより、トルクを増加させると、車両の操舵応答を向上させ、操舵不足の特性を弱めるのに有利である。そこで、車両の動力学解析により、車両の操舵状態を判断し、その後、異なる操舵状態と予め設定された操舵配分係数関係に基づいて異なる操舵状態での前後軸トルクの配分係数を得る。即ち、量子化された操舵状態を入力パラメータとして、予め設定された操舵配分係数関係に従って得られた第2前後軸トルクの配分係数を取得する。ここで、予め設定された操舵配分係数関係は、スカラテーブル又は計算式であってもよく、ここでは限定しない。
【0042】
一実施形態において、車両動力学解析は車両を二自由度モデルに簡略化し、車両の旋回時における側方向と横方向の運動受力関係を解析し、車両の走行方向に垂直な車両外力の合力と重心周りのモーメントとによって受力方程式を確立し、運転者の所望のヨー角速度を取得し、そして所望のヨー角速度と実際のヨー角速度との差によって車両の操舵状態を取得し、且つ車両の操舵状態をPID制御アルゴリズムの入力パラメータとし、その後、当該入力パラメータと予め設定された操舵配分係数関係に基づいて対応する第2前後軸トルクの配分係数P2を得る。ここで、受力方程式は、次の通りである。
【数10】
ここで、Vは車速であり、Mは全車質量であり、Izzはz軸回りの回転慣性量であり、D
1、D
2はそれぞれ前後軸タイヤの側偏剛性であり、a
1、a
2はそれぞれセントロイドから前軸、後軸までの距離であり、βはサイド滑り角であり、「ω」はヨー角速度であり、δはタイヤの回転角であり、即ち、ハンドルの回転角と角伝動比との積である。
【0043】
具体的には、車両の動力学解析によって、車両を二自由度モデルに簡略化し、このモデルからの受力方程式に基づいて、運転者があるハンドル回転角を入力すると、運転者が所望するヨー角速度を算出することができ、その後、全車に取り付けられたヨー角速度センサーが検出した実際のヨー角速度数値によって比較する。実際のヨー角速度が所望のヨー角速度より大きい場合、車両はかじ取りすぎる状態になり、逆に操舵不足である。量子化計算では、所望のヨー角速度と実際のヨー角速度との差分を閉鎖ループPID(比例(proportion)、積分(integral)、微分(differential)制御アルゴリズムとしてパラメータを入力することにより、予め設定された操舵配分係数関係に基づいて第2前後軸トルクの配分係数P2を決定する。
【0044】
一実施形態では、全車デマンド状態は、登坂能力をさらに含む。第1前後軸トルクの配分係数P1に基づいて前後軸トルクの配分係数を得るステップには、坂道勾配と予め設定された坂道勾配に基づく配分係数スカラテーブルとを対比して、坂道勾配に基づく第3前後軸トルクの配分係数P3を得ることと、第3前後軸トルクの配分係数P3と第1前後軸トルクの配分係数P1との積から前後軸トルクの配分係数Pを得ることと、が含まれる。
【0045】
具体的には、この全車デマンド状態は登坂能力であり、この状態は坂道走行時の前後軸トルクに対する配分調節を含むことができる。もちろん、安定性需要に応じて、他の場合の前後軸トルク調節を加えることもできる。本実施形態では、坂道の勾配は変数として、対応的には、坂道勾配を入力パラメータとするチェックテーブルが予め設定されている。チェックテーブルにおいて、坂道勾配に対応する配分係数を有する。この配分係数は、第3前後軸トルクの配分係数P3としている。その後、第3前後軸トルクの配分係数P3と第1前後軸トルクの配分係数P1との積に基づいて前後軸トルクの配分係数Pを得る。
【0046】
一実施形態では、第3前後軸トルクの配分係数P3と第1前後軸トルクの配分係数P1との積に基づいて前後軸トルクの配分係数Pを得るステップには、軸スリップ状態パラメータと予め設定された軸スリップ状態パラメータに基づく配分係数関係によって、軸スリップ制御に基づく第4前後軸トルクの配分係数P4を得ることと、第3前後軸トルクの配分係数P3と第1前後軸トルクの配分係数P1とを乗算して、乗算した結果を第4前後軸トルクの配分係数P4と加算して、前後軸トルクの配分係数Pを得ることと、が含まれる。
【0047】
具体的には、予め設定された軸スリップ状態パラメータに基づく配分係数関係は、対応するスカラテーブルまたは対応する計算式であってもよい。
【0048】
一実施形態では、全車デマンド状態はさらに需要操作性を含む。第1前後軸トルクの配分係数P1に基づいて前後軸トルクの配分係数Pを得るステップには、ハンドル回転角と予め設定されたハンドル回転角に基づく配分係数スカラテーブルとを対比して、第5前後軸トルクの配分係数P5を得ることと、第5前後軸トルクの配分係数P5と第1前後軸トルクの配分係数P1との積から前後軸トルクの配分係数Pを得ることと、が含まれる。
【0049】
具体的には、前述の安定性と同様に、本実施形態では、ハンドル回転角に対して前後軸トルクの配分を改訂することにより、車両の操作性を高速で精密に制御することを実現する。
【0050】
一実施形態では、第5前後軸トルクの配分係数P5と第1前後軸トルクの配分係数P1との積に基づいて前後軸トルクの配分係数Pを得るステップには、車速と予め設定された車速に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することによって、第6前後軸トルクの配分係数P6を得ることと、第5前後軸トルクの配分係数P5、第6前後軸トルクの配分係数P6及び第1前後軸トルクの配分係数P1を乗算して前後軸トルクの配分係数Pを得ることと、が含まれる。
【0051】
一実施形態において、全車デマンド状態はさらに車両の操舵不安定制御、登坂能力及び需要操作性を含む。第1前後軸トルクの配分係数P1に基づいて前後軸トルクの配分係数Pを得ることには、車両動力学解析により車両の操舵状態を取得し、その後、前記車両の操舵状態と予め設定された操舵配分係数関係に基づいて第2前後軸トルクの配分係数P2を取得すること、坂道勾配と予め設定された坂道勾配に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することによって、坂道勾配に基づく第3前後軸トルクの配分係数P3を取得すること、軸スリップ状態パラメータと予め設定された軸スリップ状態パラメータに基づく配分係数関係によって、軸スリップ制御に基づく第4前後軸トルクの配分係数P4を取得すること、ハンドル回転角と予め設定されたハンドル回転角に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することによって、第5前後軸トルクの配分係数P5を取得すること、車速と予め設定された車速に基づく配分係数スカラテーブルとを対比することによって、第6前後軸トルクの配分係数P6を取得すること、及び第1前後軸トルクの配分係数P1と、第3前後軸トルクの配分係数P3と、第5前後軸トルクの配分係数P5と、第6前後軸トルクの配分係数P6とを乗算し、乗算したものを第2前後軸トルクの配分係数P2及び第4前後軸トルクの配分係数P4と加算して前後軸トルクの配分係数Pを得ることが含まれる。
【0052】
具体的には、
図4を参照する。
図4は、本願の電気自動車四駆トルク配分方法の一実施形態の論理構成のブロック図である。
図4に示すように、車両の路面付着性能の利用が最も良く、駆動効率が最も高く、操舵不安定制御及び車両の操作性と安定性を高速で精確に制御することを満たすために、本実施形態では、ハンドル回転角、四輪速度、車速、ヨー角速度、横方向加速度、縦方向加速度、運転モード、坂道勾配及びアクセルペダル開度を含む車両走行パラメータを入力信号として、上記入力信号により、全車トータルデマンドトルクが取得し、且つ前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動力の数学モデルと全車トータルデマンドトルクに基づく第1前後軸トルクの配分係数P1、ヨー偏差量に基づくPID制御の第2前後軸トルクの配分係数P2、坂道勾配に基づく第3前後軸トルクの配分係数P3、軸スリップ制御に基づく第4前後軸トルクの配分係数P4、ハンドルの回転角に基づく第5前後軸トルクの配分係数P5、車速に基づく第6前後軸トルクの配分係数P6を取得し、その後、公式P=P1*P3*P5*P6+P2+P4によって、ここで、Pは前後軸トルクの配分係数であり、前後軸トルクの配分係数Pを全車トータルデマンドトルクに乗算して、目標前軸トルクと目標後軸トルクを取得し、それから車両の前後駆動システムに送信して実行を要求する。
【0053】
なお、
図4におけるP1~P6前の文字は、いずれも、坂道勾配に基づくトルク配分係数P3、即ち、第3前後軸トルクの配分係数P3など、その対応する実質的な内容である。
【0054】
ステップS3において、前後軸トルクの配分係数Pと全車トータルデマンドトルクに基づいて前後駆動システムの目標トルクを得る。
【0055】
一実施形態では、ステップS3において、前後軸トルクの配分係数と全車トータルデマンドトルクに基づいて前後駆動システムの目標トルクを得るステップの後に、前後駆動システムの最大トルクパラメータを取得するステップと、目標トルクと前後駆動システムの最大トルクパラメータとを比較して、その中の小さい値を前後駆動システムの最終目標トルクとするステップと、最終目標トルクを前後駆動システムに送信するステップと、をさらに含む
【0056】
具体的には、実際の応用において、車両の前後駆動システムの前後モータパラメータ(電力/ピークトルク)が確定された後、実際の前後軸トルク配分は理想的な駆動力配分曲線と完全に一致することができず、一定の路面付着係数範囲内で理想的な配分を行うしかない。アクセルペダルまたは全車トータルデマンドトルクに反映する。つまり、一定範囲のデマンドトルク範囲内で合理的な配分を行うしかない。そこで、本実施形態では、実際のモータ状況に合わせて前後軸トルクの配分係数Pを改訂することで最終的な前後駆動システムの目標トルクを得る。
【0057】
なお、高さセンサーを増やし、前後軸の重量をリアルタイムに評価し、最適な路面付着利用を図るために動的な駆動モデルを構築することもできる。
【0058】
本願の電気自動車四駆トルク配分方法は、車両の前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動トルクの数学モデルを構築することにより、この数学モデルに基づいて異なる路面付着係数を有する路面の理想的な前後軸駆動力の配分曲線を得ることができ、この理想的な前後軸駆動力の配分曲線に基づいて異なる需要トルクの下での前後軸トルクの配分係数を標定することができる。これにより、車両が走行する時に車両のリアルタイム需要に応じた全車トータルデマンドトルクと対応する前後軸トルクの配分係数に基づいて、路面付着性能が最も良く、駆動効率が最も高い前後駆動システムの目標トルクを得る。
【0059】
本願は、さらに電気自動車の四駆トルク配分システムを提供する。
図5を参照して、
図5は本願電気自動車の四駆トルク配分システムの一実施形態の構成概略図である。
図5に示すように、電気自動車の四駆トルク配分システム10は、メモリ11と、プロセッサ12とを含む。メモリ11は、少なくとも1つのプログラム指令を記憶しており、プロセッサ12は、上述した何れかの実施形態の電気自動車の四駆トルク配分方法を実現するために、少なくとも1つのプログラム指令をロードして実行する。
【0060】
本願は、さらに上記実施形態に記載の電気自動車の四駆トルク配分システム10を含む車両を提供する。もちろん、この車両は、様々なネットワークインターフェース、電源などのコンポーネントを含むこともできる。
【0061】
本願の電気自動車の四駆トルク配分システム及び車両は、車両の前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動トルクの数学モデルを構築することにより、この数学モデルに基づいて異なる路面付着係数を有する路面の理想的な前後軸駆動力の配分曲線を得ることができ、この理想的な前後軸駆動力の配分曲線に基づいて異なる需要トルクでの前後軸トルクの配分係数を標定することができる。これにより、車両が走行する時に車両のリアルタイム需要に応じた全車トータルデマンドトルクと対応する前後軸トルクの配分係数に基づいて、路面付着性能が最も良く、駆動効率が最も高い前後駆動システムの目標トルクを得る。
【0062】
なお、本明細書における各実施形態は、いずれも漸進的に記載されている。各実施形態は、他の実施形態と異なる点を中心に説明し、それぞれの実施形態の間で同一または類似する部分は互いに参照されればよい。
【0063】
上述の実施形態は、本願の原理及びその効果を例示的に示すだけであって、本願を制限するためのものではない。この技術に詳しい如何なる人が、本願の精神及び範疇に背くことなく、上述の実施形態を修飾又は変更することができる。従って、所属する技術分野において通常の知識を有する者は、本願に開示された精神及び技術思想から逸脱することなく達成されたすべての等価な修飾又は変更は、依然として本願の請求項によってカバーされるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願の電気自動車四駆トルク配分方法、及び前記電気自動車四駆トルク配分方法を応用したシステム及び車両は、車両の前後ホイールが同時にスリップする時の前後軸駆動トルクの数学モデルを構築することにより、この数学モデルに基づいて異なる路面付着係数を有する路面の理想的な前後軸駆動力の配分曲線を得ることができ、この理想的な前後軸駆動力の配分曲線に基づいて異なる需要トルクでの前後軸トルクの配分係数を標定することにより、車両の走行時に車両のリアルタイム需要に応じた全車トータルデマンドトルクと対応する前後軸トルクの配分係数に基づいて路面付着性能が最も良く、駆動効率が最も高い前後駆動システムの目標トルクを得る。