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特許7471522コヒーレントDASのための複雑さを低減した偏波合成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】コヒーレントDASのための複雑さを低減した偏波合成方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20240412BHJP
   G01D 5/353 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
G01H9/00 E
G01D5/353 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023524565
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 US2021058861
(87)【国際公開番号】W WO2022103895
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】63/111,784
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/522,844
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ホ、 ジュンチャン
【審査官】目黒 大地
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117044(WO,A1)
【文献】特開2020-003464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0249076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01D 5/26- 5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センシングファイバと、
光パルスを生成し、それらを前記光センシングファイバに取り込み、該光センシングファイバからレイリー反射信号を受信する光インタロゲータと、
前記レイリー反射信号から情報を抽出するように構成されたコヒーレント受信機と、を有するコヒーレント分散型音響センシング(DAS)システムのための偏波合成方法であって、
前記DASシステムを動作させて、時間領域信号i(t)、xq(t)、yi(t)、yq(t)を取得することと、
前記時間領域信号をデジタル化して、デジタル化信号i(n)、xq(n)、yi(n)、yq(n)を生成することと、
前記デジタル化信号を任意に前処理して、前処理された信号i’(n),xq’(n),yi’(n),yq’(n)を取得することと、
前記前処理された信号の偏波をx-y合成して、x-y合成出力S(n)を生成することと、
前記x-y合成出力に対して差動ビート
S(n)・S * (n-m)
を実行して、単一の偏波ダイバーシティ
【数1】
を生成することであって、質問パルスまたはコードの開始までの相対的時間差である、時間nにおける信号が関連する位置を有し、前記位置について時間mにわたって前記差動ビートを実行することと、
前記生成された単一の偏波ダイバーシティを後処理して、前記光センシングファイバと相互作用する音響インパルスを示す出力を生成することと、を含む方法。
【請求項2】
前記x-y合成が、x-y整列ステップとそれに続く位相連続性ステップとを有する2段階の回転を含むことを、さらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記x-y整列ステップは、より低い平均電力データの偏波をより高い平均電力データに回転させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記位相連続性ステップは、位相連続性が維持されるように更新された角度を回転させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記x-y整列ステップおよび前記位相連続性ステップにおける前記回転に使用される平均位相差
【数2】
は、
【数3】
に正規化され、ここで、
【数4】
時間nにおける前記信号における位相差である、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、コヒーレント分散型音響センシング(DAS)に関する。より詳細には、処理の複雑さ(processing complexity)を低減するために偏波ダイバーシティ合成を使用するコヒーレント分散音響センシング(DAS)において使用するための処理アーキテクチャを開示する。
【背景技術】
【0002】
知られているように、コヒーレントDASは、光ファイバに沿った2つの選択された位置ごとに差動ビートを使用して、2つの間の位置におけるファイバ応力を検出する。コヒーレント光検出には、ファイバの移動または他の要因によってランダムに変化するX・Y偏波ダイバーシティがある。このため、ビートは、X-X、X-Y、Y-X、およびY-Yを使用して、すべての電力を完全に利用することができ、その結果、4つの偏波ダイバーシティζxx、ζxy、ζyx、およびζyyが得られる。4つのダイバーシティ項を単一の項に合成するために、後続の処理が必要とされる。
【0003】
DASで受信したサンプルは、各フレーム内で位置ごとに順番に並んでいるが、偏波ダイバーシティ合成処理では、位置ごとにフレーム単位での処理が必要である。順序の変換には、大量のメモリと帯域幅が必要である。ビート処理からのダイバーシティ項を2倍にすると、必要なメモリと帯域幅がさらに2倍になる。
【0004】
結果として、そのような要求を改善するシステム、方法、および構造は、当技術分野における重要な進歩に相当することになる。
【発明の概要】
【0005】
当技術分野における進歩は、DASのコヒーレント検出を提供する改善されたシステム、方法、および構造を対象とする本開示の態様に従ってなされる。従来技術とは大きく異なり、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、必要とされるメモリおよび帯域幅が従来より低減されるように、ビートダイバーシティ項を有利に低減する。
【0006】
本開示の態様によれば、偏波の切り替えは、位置サンプリングレート(すなわち、DASパルスまたはフレーム繰り返しレート)と比較して遅い処理であるので、X偏波とY偏波とは、ビートの前に併合される。動作的には、2つの偏波は、併合前に、まず、偏波の一方(XまたはY)を他方(YまたはX)に回転させることによって同じ方向に揃えられ、次に、位相の連続性を維持するために回転される。
【0007】
一実施形態では、2つの偏波は、まず、より高い平均電力(例えば、pol-P)を有する偏波に揃える。次いで、X-Y合成信号は、差動ビートのためにビートモジュールに渡され、その後、位相抽出または他の追加の処理が行われる。
【0008】
有利なことに、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、ビートモジュールへの単一の入力およびビートからの1つの出力のみが存在するように、2つの偏波をビート前に1つの出力に合成する。この発明的な動作は、処理の複雑さおよびメモリサイズを有利に低減する。
【0009】
本開示の追加の態様によれば、第1の回転が実行され、2つの偏波を整列させるために使用され、より高い電力の偏波が一方から他方に変化する場合、位相の連続性を維持するために第2の回転を使用する。この第2の回転により、ビート出力における2つのサンプル間の位相差が、処理によって加えられる他の効果ではなく、信号とノイズを完全に反映することを保証する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示のより完全な理解は、添付図面を参照することによって実現され得る。
【0011】
図1(A)】例示的な従来技術のDAS構成の概略図である。
【0012】
図1(B)】本開示の態様による例示的なコヒーレントDAS構成の概略図である。
【0013】
図2(A)】例示的な従来技術のコヒーレントDAS動作/処理構成の概略図である。
【0014】
図2(B)】本開示の態様による例示的なコヒーレントDAS動作/処理構成の概略図である。
【0015】
図3】本開示の態様による例示的なコヒーレントDASの動作を概説するフロー図である。
【0016】
図4】本開示の態様による例示的な方法を説明するフロー図である。
【0017】
例示的な実施形態は、図面および詳細な説明によってより完全に説明される。しかしながら、本開示による実施形態は様々な形態で実施することができ、図面および詳細な説明に記載された特定のまたは例示的な実施形態に限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者は本明細書に明示的に記載または図示されていないが、本開示の原理を具現化し、その精神および範囲内に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されよう。
【0019】
さらに、本明細書に記載されているすべての実施例および条件付き用語は、本開示の原理および技術を促進するために発明者によって寄与された概念を読者が理解するのを助けるための教育目的のためだけのものであることを意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0020】
さらに、本開示の原理、態様、および実施形態を記載する本明細書のすべての記述、ならびにその具体例は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することを意図している。さらに、そのような等価物は、現在知られている等価物と、将来開発される等価物、すなわち、構造に関係なく同じ機能を実行する開発された要素との両方を含むことが意図されている。
【0021】
したがって、たとえば、本明細書の任意のブロック図が、本開示の原理を実施する例示的な回路の概念図を表すことは、当業者には理解されるであろう。
【0022】
本明細書で特に明記しない限り、図面を構成する図は、縮尺通りに描かれていない。
【0023】
いくつかの追加の背景として、近年、分散型振動センシング(DVS)や分散型音響センシング(DAS)を含む分散型光ファイバセンシング(DFOS)システムは、インフラストラクチャ監視、侵入検知、地震検知を含むがこれらに限定されない多数の用途において広く受け入れられていることを、ここで改めて説明したい。DASおよびDVSでは、後方レイリー散乱効果を用いてファイバの歪の変化を検出し、ファイバ自体がその後の分析のために光センシング信号をインタロゲータに戻す伝送媒体として機能する。
【0024】
図1(A)は、インタロゲータ/コヒーレントレシーバ/検出/分析システムを使用する従来技術のDFOS/DVS/DASシステムの簡略化された概略図を示す。動作的には、そのようなシステムは、光Tx信号を生成し/光センシングファイバに印加し、その結果、反射/散乱された光信号が受信/分析システムに戻され、受信/分析システムが、反射/散乱されてその後に受信された信号を受信/検出/分析する。信号が分析され、ファイバの長さに沿って遭遇する環境条件を示す出力が生成される。
【0025】
図1(B)は、本開示の態様による例示的なコヒーレントDASシステムの概略ブロック図である。コヒーレントDASシステムは、レイリー散乱を使用してセンシングファイバに沿って音響信号を検出するため、一般に、光信号(パルスまたはコード)を周期的に生成する送信機(Tx)を含むインタロゲータを使用する。光信号は、分散型センシングファイバに送られる。ファイバに沿った各位置は、光信号のごく一部を反射してインタロゲータに戻す。後方散乱信号はRxセクションで処理され、音響信号を復元したり、振動を検出したりする。
【0026】
前述のように、コヒーレントDASは、光ファイバに沿って選択された2つの位置ごとに差動ビートを使用して、選択された2つの位置の間の位置でファイバ応力を検出する。コヒーレント光検出には、X・Y偏波ダイバーシティがあり、ファイバの移動やその他の要因によってランダムに変化する。このため、ビートは、X-X、X-Y、Y-X、およびY-Yを使用してすべての電力を完全に利用することができ、その結果、4つの偏波ダイバーシティζxx、ζxy、ζyx、およびζyyが得られる。4つのダイバーシティ項を単一の項に合成するには、後続の処理が必要である。
【0027】
DAS受信信号サンプルは、各フレーム内で位置ごとに順番に受信されるが、偏波ダイバーシティ合成処理では、位置ごとにフレーム単位での処理が必要となる。順序の変換には、大量のメモリと帯域幅を必要とする。ビート処理からのダイバーシティ項を2倍にすると、必要なメモリと帯域幅がさらに2倍になる。
【0028】
本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、一般に、受信機内で、または受信機と連携して動作し、有利には、ビートダイバーシティ項を低減することによって必要とされるメモリおよび帯域幅を低減する。
【0029】
本開示の態様によれば、偏波の切り替えは、位置サンプリングレート(すなわち、DASパルスまたはフレーム繰り返しレート)と比較して遅い処理であるので、X偏波とY偏波とは、ビート前に併合される。動作的には、2つの偏波は、併合前に、まず、偏波の一方(XまたはY)を他方(YまたはX)に回転させることによって同じ方向に揃えられ、次に、位相の連続性を維持するために回転される。
【0030】
2つの偏波は、まず、より高い平均電力(例えば、pol-P)を有する偏波に揃える。次いで、X-Y合成信号は、差動ビートのためにビートモジュールに渡され、その後、位相抽出または他の追加の処理が行われる。
【0031】
有利なことに、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、ビートモジュールへの単一の入力およびビートからの1つの出力のみが存在するように、2つの偏波をビート前に1つの出力に合成する。この全体的な発明の動作は、処理の複雑さおよびメモリサイズを有利に低減する。
【0032】
本開示の追加の態様によれば、第1の回転が実行され、2つの偏波を揃えるために使用され、より高い電力の偏波が一方から他方に変化する場合、位相の連続性を維持するために第2の回転を使用する。この第2の回転により、ビート出力における2つのサンプル間の位相差が、処理によって加えられる他の効果ではなく、信号とノイズを完全に反映することを保証する。
【0033】
この説明では、時間平均(またはローパスフィルタリング値)には
【数1】
を使用し、複素共役には
【数2】
を使用する。前述のように、コヒーレントDASシステムは、レイリー散乱を使用して、接続されたファイバに沿って音響信号を検出する。これには、光パルス信号またはコード信号を周期的に生成する送信機(Tx)セクションが含まれている。その信号は、分散型センシングファイバに導かれる。ファイバに沿った各位置は、光信号のごく一部を反射/散乱させてインタロゲータに戻す。後方散乱信号は、Rxセクションで処理され、音響信号を復元したり、振動を検出したりする。本開示の焦点は、受信機セクション、特に、異なる偏波ダイバーシティを示す信号を単一の信号に合成することである。
【0034】
図2(A)および図2(B)は、従来技術(図2(A))および本開示(図2(B))によるコヒーレントDAS受信機処理を示す。図に示されるように、A/Dは、連続した時間領域信号(アナログ)をサンプリングし、それを離散的なデジタル化信号(デジタル)に変換するアナログ-デジタル変換器/処理である。次に、結果として得られる信号は、周波数変換、フィルタリング、ダウンサンプリング、および/または復号を含む前処理が行われる。差動ビートは、前処理された信号に対して実行され、位相変化を表す2つの信号の内積を生成する。偏波合成は、複数の偏波ダイバーシティ項を単一の信号に統合する。結果として得られる単一信号は、複素信号からの位相アンラップ、信号フィルタリング、および出力として提供される後続の振動検出を含む後処理が行われる。
【0035】
図2(B)に示すように、本開示の態様によるDAS Rx処理は、差動ビート処理の前にX-Y合成を有利に実行する。重要なことは、差動ビート出力に続いて4つの偏波ダイバーシティ項ζxx、ζxy、ζyx、およびζyyを処理するのではなく、本発明の態様によるシステム、方法、および構成は、差動ビートが単一の入力S(n)を受信し、単一の
【数3】
出力のみを出力するように、差動ビート前に偏波合成を実行することである。
【0036】
コヒーレントDASでは、時間nにおける信号Rsが関連する位置zを有し、これは質問パルスまたはコードの開始までの相対時間差である。図2(A)に示すような偏波合成は、各位置を個別に扱い、時間mにわたって各位置zのRs(z,m)を経時的に効果的に処理する。
【0037】
説明を簡単にするために、以下では、特に明記しない限り、単一の位置zに焦点を当てる。
【0038】
これを達成するための手順は、2段階の回転によって実行される。第1のステップは、X-Yアライメントで、平均電力の低い方の偏波を高い方の偏波に回転させる。実行される第2のステップでは、位相の連続性を維持するために、動的に更新された角度だけ回転する。手順の詳細なフローチャートを図3に示し、簡略化したMatlab(登録商標)コードを以下のリストに示す。なお、回転に用いられる平均位相差
【数4】
は、Matlab疑似コードのリストに記述されているように、
【数5】
に正規化されたものである。
【0039】
本開示の態様による、この第1の回転および第2の回転を示す簡略化されたMATLABコードリストは、以下の通りである。
【表1】
【0040】
図3のフローチャートに例示的に示す偏波合成は、正規化された
【数6】
によって回転されたxとyの元の振幅を使用する。一実施形態では、合成は、
【数7】
または
【数8】
のように、平均化された振幅を使用して、重みを適用することができる。
【0041】
実装を簡略化するために、第1の回転および合成は、より高い電力信号のみを使用することによって低減することができる。すなわち
【数9】
である。
【0042】
処理の複雑さをさらに軽減するために、図4の対応するフローチャートに示すように、
【数10】
を使用して、瞬間位相差(instant phase difference)によって第2の回転を更新することができる。
【0043】
この時点で、いくつかの具体例を使用して本開示を提示したが、当業者は本教示がそのように限定されないことを認識するのであろう。したがって、本開示は、本明細書に添付される特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
図1(A)】
図1(B)】
図2(A)】
図2(B)】
図3
図4