(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】フラビウイルス交差中和抗体及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 16/10 20060101AFI20240415BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240415BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240415BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240415BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
A61P31/14
A61K39/395 S
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020026736
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宜聖
(72)【発明者】
【氏名】ニチチャノン アナン
(72)【発明者】
【氏名】松村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】林 昌広
(72)【発明者】
【氏名】ラートメモンゴルチャイ ガンジャナ
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/187799(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/010789(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/212291(WO,A1)
【文献】WANG, J. et al.,A Human Bi-specific Antibody against Zika Virus with High Therapeutic Potential,Cell,2017年,vol.171,p.229-241
【文献】ROBBIANI, D. F. et al.,Recurrent potent human neutralizing antibodies to Zika virus in Brazil and Mexico,Cell,169(4),2017年05月04日,pp.597-609
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/10
A61P 31/14
A61K 39/395
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラビウイルスに特異的に結合して、前記フラビウイルスに包含される少なくとも2つのウイルスについての感染抑制能を有するフラビウイルス交差中和抗体であって、
重鎖可変ドメインが、GFTFSRTT(CDR1)、IVIGTGST(CDR2)及びATNPTTVFGVVTPDYYYYPMEV(CDR3)により規定される相補性決定領域(CDR)を含み、かつ、
軽鎖可変ドメインが、NSNIGSNF(CDR1)、RND(CDR2)及びAVWDDTLRVWV(CDR3)により規定される相補性決定領域(CDR)を含
み、
前記フラビウイルスは、ジカウイルス、デング1-4型ウイルス、日本脳炎ウイルス、ウェストナイルウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、又は、セントルイス脳炎ウイルスである、
フラビウイルス交差中和抗体。
【請求項2】
重鎖可変ドメインが、QMQLVQSGPEGKKPGTSVKVSCKAS(FR1)、MQWVRQAPGQRLEWIGW(FR2)、KYSQNFQERVTFSRDMSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYC(FR3)及びWGQGTTVTVSS(FR4)により規定されるフレームワーク領域(FR)を含む請求項1に記載のフラビウイルス交差中和抗体。
【請求項3】
軽鎖可変ドメインが、QSVLTQPPSASGTPGQRVAISCSGG(FR1)、VYWYQHPPGTAPKLLIF(FR2)、QRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAVSGLRTEDEADYFC(FR3)及びFGGGTKLTVL(FR4)により規定されるフレームワーク領域(FR)を含む請求項1又は2に記載のフラビウイルス交差中和抗体。
【請求項4】
重鎖可変ドメインはQMQLVQSGPEGKKPGTSVKVSCKASGFTFSRTTMQWVRQAPGQRLEWIGWIVIGTGSTKYSQNFQERVTFSRDMSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCATNPTTVFGVVTPDYYYYPMEVWGQGTTVTVSSであり、軽鎖可変ドメインはQSVLTQPPSASGTPGQRVAISCSGGNSNIGSNFVYWYQHPPGTAPKLLIFRNDQRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAVSGLRTEDEADYFCAVWDDTLRVWVFGGGTKLTVLである請求項1に記載のフラビウイルス交差中和抗体。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1項に記載のフラビウイルス交差中和抗体を有効成分とする医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラビウイルス交差中和抗体及びそのフラビウイルス交差中和抗体を有効成分とする医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フラビウイルス科フラビウイルス属は、ジカウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス等の全世界で公衆衛生学的問題となる感染症を起こす病原体を多く含む。
【0003】
フラビウイルスは直径50~60nmの球状粒子で、CタンパクとゲノムRNAで構成されるヌクレオカプシドを宿主小胞体膜由来のエンベロープが覆っている(非特許文献1)。フラビウイルスには70種以上のウイルスが存在し、その殆どが吸血性節足動物により媒介される。
【0004】
フラビウイルスゲノムは全長約11kbの+鎖RNAで、5’端にはcap構造を有しているが、3’端はpoly-A構造を有していない。このゲノム上には一つの読み取り枠があり、3種の構造タンパク(C,prM,E)と7種の非構造タンパク(NS1,NS2A,NS2B,NS3,NS4A,NS4B,NS5)がコードされている。
【0005】
フラビウイルス感染症の中には重症化するものがあり、その重症化メカニズムには抗体依存性感染増強(ADE)の関与が強く示唆されている。例えば既存の抗DENV抗体が異なる型のDENVに対し交差的に結合した場合、重症化する(非特許文献2,3,4)。
【0006】
特許文献1には、西ナイルウイルスEタンパク質を認識しかつデングウイルスを含むフラビウイルス科のメンバーと交差反応する、mAb11から誘導されるフラビウイルス中和抗体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Gubler DJ, Kuno G, Markoff L: Flaviviruses. In: Fields virology (Fifth edition). Knipe DM, Howley PM (Ed), Lippincott-Raven, Philadelphia, PA, 1153-252, 2007.
【文献】Brandt WE, McCown JM, Gentry MK, Russell PK. Infection enhancement of dengue type 2 virus in the U-937 human monocyte cell line by antibodies to flavi-virus cross-reactive determinants. Infect. Immun.36:1036-41, 1982.
【文献】Halstead SB, O'Rourke EJ. Dengue viruses and mononuclear phagocytes. I. Infection enhancement by non-neutralizing antibody. J. Exp. Med. 146:201-17, 1977.
【文献】Halstead SB, Venkateshan CN, Gentry MK, Larsen LK. Heterogeneity of infection enhancement of dengue 2 strains by monoclonal antibodies. J. Immunol.132:1529-32, 1984.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上述のフラビウイルス中和抗体は感染抑制能に優れるが、抗体依存性感染増強(ADE)を十分に抑制されているものではない。
【0010】
本発明は、感染抑制能に優れるとともにADEが抑制されたフラビウイルス交差中和抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるフラビウイルス交差中和抗体は、フラビウイルスのEプロテインのドメインに特異的に結合して、フラビウイルスに包含される少なくとも2つのウイルスについての感染抑制能を有するフラビウイルス交差中和抗体であって、Eプロテインのドメインは、ドメインIIIを包含する複数のドメインであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、感染抑制能に優れるとともにADEが抑制されたフラビウイルス交差中和抗体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】抗体依存性感染増強についての測定結果を示す図である。
【
図2】本発明にかかる抗体の感染防御能についてin vivoでの試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
フラビウイルスのEタンパクはウイルス粒子上の最も重要なタンパクで、成熟粒子上ではホモ2量体を形成し、感染後エンドソーム内で低pHにさらされると、構造変化が起こり、ホモ3量体が形成される。
【0016】
細胞内未成熟粒子は、エンベロープ上にprM-Eのヘテロ2量体が180組あり、そのヘテロ2量体が3組で1つのスパイクを形成している。この構造時は、prMタンパクが膜融合に関わるEタンパク上のフュージョンループを覆い隠し、表出しないようにしている。その後、細胞内分泌経路を通りトランスゴルジネットワークへ達し低pHにさらされると構造変化を起こし、滑らかな表面構造となる。ゴルジ体酵素であるフリンによりprMが割断されMタンパクとなると、prM-Eヘテロ2量体は解消され90組のE-Eホモ2量体を形成し、成熟粒子となる。感染後、エンドソーム内で低pHにさらされると表面構造の再構成が起こり、スパイク状のE-E-Eホモ3量体を形成し、エンドソーム膜と膜融合を起こす。
【0017】
Eタンパクは3つのドメインからなり、フュージョンループはドメインIIに、レセプター結合領域はドメインIIIに存在する。本発明者は、EプロテインのドメインIIIのみならず他のドメインに結合する抗体が、複数のウイルスに対して感染抑制能を有するとともにADEを抑制できることを新知見として見出しかかる事実に基づいて本発明にかかるフラビウイルス交差中和抗体(単に抗体と記載することがある)を完成させた。
【0018】
本発明にかかる抗体は、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、あるいはそれらの改変体、ラットIgM、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgA、IgD、IgE、あるいはそれらの改変体であってもよい。任意の重鎖は、κ又はλ型の軽鎖と対形成してもよい。抗体にはFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、又はFvフラグメントが包含される。
【0019】
本発明にかかる抗体の重鎖可変領域の配列は下記である。QMQLVQSGPEGKKPGTSVKVSCKASGFTFSRTTMQWVRQAPGQRLEWIGWIVIGTGSTKYSQNFQERVTFSRDMSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCATNPTTVFGVVTPDYYYYPMEVWGQGTTVTVSS(配列番号1)
【0020】
重鎖可変ドメインのCDRは、GFTFSRTT(CDR1)、IVIGTGST(CDR2)及びATNPTTVFGVVTPDYYYYPMEV(CDR3)により規定される。
【0021】
また軽鎖可変ドメインのFRは、QMQLVQSGPEGKKPGTSVKVSCKAS(FR1)、MQWVRQAPGQRLEWIGW(FR2)、KYSQNFQERVTFSRDMSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYC(FR3)及びWGQGTTVTVSS(FR4)により規定される。
【0022】
本発明にかかる抗体の軽鎖可変領域の配列は下記である。QSVLTQPPSASGTPGQRVAISCSGGNSNIGSNFVYWYQHPPGTAPKLLIFRNDQRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAVSGLRTEDEADYFCAVWDDTLRVWVFGGGTKLTVL(配列番号2)
【0023】
軽鎖可変領域のCDRは、NSNIGSNF(CDR1)、RND(CDR2)及びAVWDDTLRVWV(CDR3)により規定される。
【0024】
軽鎖可変領域のFRは、QSVLTQPPSASGTPGQRVAISCSGG(FR1)、VYWYQHPPGTAPKLLIF(FR2)、QRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAVSGLRTEDEADYFC(FR3)及びFGGGTKLTVL(FR4)により規定される。
【0025】
ADEは、主に、抗体がFcγレセプターIIa(FcγRIIa)を介して細胞とウイルスとを架橋し、ウイルスの吸着効率が上昇することによって引き起こされると考えられている。そこでADEの主要因と考えられる抗体のFc領域を除去したF(ab’)2抗体は中和能を維持させたままADEを抑えることが可能である点で有利である。
【0026】
本発明にかかる抗体は、任意の種類の分子と抗体との共有結合により修飾又は複合化された、抗体誘導体を包含することも可能である。このような抗体誘導体として、例えば、アセチル化、グリコシル化、アミド化、PEG化、リン酸化、既知の保護基/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解的開裂、又は細胞内配位子又は他のタンパク質あるいは低分子化合物への結合により修飾されている抗体が挙げられる。
【0027】
本発明にかかる抗体を取得する方法は、特に限定されるものではないが、取得したい抗体を産生するハイブリドーマを培養し、得られた培養上清から常法によって抗体を精製して取得することができる。取得したハイブリドーマから抗体を採取する方法は、特に限定されるものではないが、例えば通常の腹水形成法や細胞培養法等を用いることが可能である。また、別の方法としては、取得したい抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子、より詳細には免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子を取得して、該遺伝子を発現するためのベクターを作成し、宿主細胞(哺乳類細胞、昆虫細胞、微生物等)に導入して、該抗体を産生させることも可能である。
【0028】
(医薬組成物)
本発明にかかる医薬組成物は、本発明にかかるフラビウイルス交差中和抗体を有効成分とする。本発明にかかる医薬組成物は、経口、非経口投与のいずれかによって投与される。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与等である。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等によって全身又は局部的に投与される。
【0029】
投与方法は、特に限定されるものではなく、例えば患者の年齢、症状により適宜選択される。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で投与量が選択される。また例えば、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択される。本実施形態にかかる医薬組成物は、その投与時期として、疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず投与することができる。
【0030】
本発明にかかるフラビウイルス交差中和抗体は、常法に従って製剤化され、医薬的に許容される担体や添加物が共に含まれ得ることにより、医薬組成物として形成される。
【0031】
経口投与の製剤の場合、分散剤及び/又は溶解改善剤を製剤担体と共に錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等の形態で製剤化して得られる。製剤担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、及び可塑剤等を使用できる。賦形剤としては、例えば、白糖、塩化ナトリウム、マンニトール、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、炭酸カルシウム等を使用できる。結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース等を使用できる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、乾燥デンプン、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等を使用できる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等を使用できる。可塑剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ヒマシ油等を使用できる。分散剤及び/又は溶解改善剤としては、水溶性高分子及び界面活性剤等を使用できる。水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等を使用できる。界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のアルキル硫酸塩を使用できる。
【0032】
経口液体製剤は、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、香料等を混合して調製する。
【0033】
非経口投与用製剤のうち注射用製剤は、例えば、液剤、乳濁液、又は懸濁液の形態で調製され、血液に対して等張にされる。液体、乳濁液又は懸濁液の形態の製剤は、例えば、水性媒体、エチルアルコール、プロピレングリコール等を用いて調製される。水性媒体としては、水又は水を含有する媒体が挙げられる。水としては、滅菌水が使用される。水を含有する媒体としては、例えば、生理食塩水、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)又は乳酸配合リンゲル液等が挙げられる。
【0034】
注射用製剤において、当技術分野で通常使用されている添加剤を適宜用いることができる。添加剤としては、例えば、等張化剤、安定化剤、緩衝剤、保存剤、キレート剤、抗酸化剤、又は溶解補助剤等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール等の糖類、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。安定化剤としては、例えば亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等が挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコール、クロロクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体等が挙げられる。
【0035】
本発明にかかる医薬組成物は、本発明にかかるフラビウイルス交差中和抗体を有効成分とし、フラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスに効果的である。例えば、ジカウイルス(Zika virus)、デングウイルス(Dengue virus)、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)、西ナイルウイルス(west Nile virus)、黄熱ウイルス(yellow fever virus)、マレー渓谷脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)等に効果的である。
【実施例】
【0036】
1.候補対象となるモノクローナル抗体の準備
ヒト末梢血細胞の中から、フラビウイルスEタンパクに結合するIgG陽性記憶B細胞(CD2陰性CD4陰性IgD陰性の生細胞の中から、CD19陽性IgG陽性CD38陰性にゲート)をフローサイトメトリにて分離した。MS40Lフィーダー細胞(Immunity. 2016 Mar 15;44(3):542-552. doi: 10.1016/j.immuni.2016.02.010. Epub 2016 Mar 3に報告済みの細胞)が単層培養され、ヒトIL-2 (50 ng/ml)、IL-4 (10 ng/ml)、IL-21 (10 ng/ml), BAFF (10 ng/ml)を含む96ウェルに細胞1個ずつ分取し、25日間培養した後、ヒトIgGモノクローナル抗体を含む複数ウェルの培養上清を回収した。
【0037】
2.抗体ZDJ01の選別
ヒトIgGモノクローナル抗体を含む複数の培養上清を以下に記載の単回感染性粒子を用いた試験に供し、本実施例にかかる抗体であるZDJ01を選別した。
【0038】
即ち単回感染性粒子を用いた中和試験は下記であった。デング1-4型ウイルス、日本脳炎ウイルス、ウェストナイルウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルスの10種類のフラビウイルスから単回感染性粒子(Single-round infectious particles;SRIPs)を作製した(Matsuda M, Yamanaka A, Yato K, et al. High-throughput neutralization assay for multiple flaviviruses based on single-round infectious particles using dengue virus type 1 reporter replicon. Sci Rep 2018; 8:16624.に方法を記載)。各単回感染性粒子を、1ウェルあたり50個ずつの感染性粒子が含まれるように希釈し、希釈したヒトIgGモノクローナル抗体(精製抗体、もしくは培養上清)と一晩4℃で培養した後、96ウェルプレート内で単層培養されたVero細胞に添加した。6時間37℃で培養後、上清を除去して新しい培地を添加してから3日間37℃で培養した。その後、各ウェルのルシフェラーゼ活性をNano-Gloルシフェラーゼアッセイシステムにて測定しZDJ01を選別した。
【0039】
3.抗体ZDJ01の単離
ZDJ01の培養上清を回収したウェルから細胞を回収し、抗体遺伝子可変領域(IgVH、IgVL)をPCRにて増幅し、発現ベクターにクローニングした(Tiller T, Meffre E, Yurasov S, Tsuiji M, Nussenzweig MC, Wardemann H. Efficient generation of monoclonal antibodies from single human B cells by single cell RT-PCR and expression vector cloning. J Immunol Methods 2008; 329:112-24に記載のプロトコール)。重鎖、軽鎖発現ベクターの293-F細胞への遺伝子導入は、FreeStyleTM 293 Expression System (Thermo Fisher Scientific, USA)を使用して行った。5日間後に培養上清を回収し、HiTrap プロテインGカラム(GE Healthcare)を用いてモノクローナルIgG抗体を精製した。
【0040】
ZDJ01の重鎖可変領域の配列は下記であった。QMQLVQSGPEGKKPGTSVKVSCKASGFTFSRTTMQWVRQAPGQRLEWIGWIVIGTGSTKYSQNFQERVTFSRDMSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCATNPTTVFGVVTPDYYYYPMEVWGQGTTVTVSS
【0041】
ZDJ01の軽鎖可変領域の配列は下記であった。QSVLTQPPSASGTPGQRVAISCSGGNSNIGSNFVYWYQHPPGTAPKLLIFRNDQRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAVSGLRTEDEADYFCAVWDDTLRVWVFGGGTKLTVL
【0042】
また下記表1に示されるように抗体ZDJ01は、例えばジカウイルス(ZIKV)、デング1型ウイルス(DENV1)及び日本脳炎ウイルス(JEV)の3つのウイルスに対して高い防御免疫能を有しており、抗体ZDJ01の交差中和活性は優れたものであった。
【0043】
【0044】
4.抗体ZDJ01のADE活性
抗体の中和能は、通常プラーク減少法(PRNT法)を用いてVero細胞等FcγRのない細胞にて測定されているが、このような中和試験法では中和能のみを測定し、感染増強効果を反映させた中和能の測定はなされていない。そこで抗体ZDJ01のADE活性は、上述の単回感染性粒子(SRIPs)を用いた中和試験の内容を、Vero細胞からFcgレセプターを発現するK562細胞に変更して行うことで測定した。抗体を加えない時のルシフェラーゼ活性を1とし、ZDJ01もしくはZ004 IgG抗体を加えた時のルシフェラーゼ活性の増加率をもとに、ADEの有無を判定した。
図1に示されるように、抗体Z004と異なり抗体ZDJ01は増加しなかったので、抗体ZDJ01については抗体依存性感染増強はないと判断された。
【0045】
以上より、抗体ZDJ01は、フラビウイルスに包含される複数のウイルスに対して高い防御免疫能を有するとともに抗体依存性感染増強(ADE)が生じないことが判明した。
【0046】
5.in vivo試験
ddYマウス(4週齢メス、1群10匹)に0.2 mgのZDJ01、Z004、もしくはインフルエンザIgG抗体(V15-5、陰性コントロール)を腹腔内投与した。抗体投与1日後に日本脳炎ウイルス北京株を10LD50腹腔内感染させ、21日間の生存率を観察した。
図2に示されるように、抗体ZDJ01は、in vivo試験において、ジカウイルスのみならず日本脳炎ウイルスに対しても高い防御免疫脳を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
フラビウイルス感染症の治療に利用できる。
【配列表】