(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20240415BHJP
D01F 8/04 20060101ALI20240415BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
D02G3/04
D01F8/04 Z
D06C7/00 Z
(21)【出願番号】P 2020124808
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘平
(72)【発明者】
【氏名】丸山 慧
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-100058(JP,A)
【文献】特表2019-529728(JP,A)
【文献】特開2013-87372(JP,A)
【文献】特開2009-120991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D01F 8/00 - 8/18
D06B 1/00 - 23/30
D06C 3/00 - 29/00
D06G 1/00 - 5/00
D06H 1/00 - 7/24
D06J 1/00 - 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色された高融点重合体成分で構成された第一芯成分と、透明又は半透明の低融点重合体成分で構成された鞘成分とよりなる芯鞘型第一複合フィラメントが、複数本集束されてなる第一マルチフィラメント糸を準備する工程、
前記第一芯成分とは異なる色の高融点重合体成分で構成された第二芯成分と、透明又は半透明の低融点重合体成分で構成された鞘成分とよりなる芯鞘型第二複合フィラメントが、複数本集束されてなる第二マルチフィラメント糸を準備する工程、
前記第一マルチフィラメント糸と前記第二マルチフィラメント糸とを、螺旋状に撚り合わせて糸条を得る工程及び
前記糸条に加熱処理を施す工程とよりなり、
前記加熱処理により、前記糸条中の前記芯鞘型第一複合フィラメント及び前記芯鞘型第二複合フィラメントを構成している低融点重合体成分を溶融又は軟化させることにより、前記芯鞘型第一複合フィラメントと前記芯鞘型第二複合フィラメントを一体化させることを特徴とする繊維製品の製造方法。
【請求項2】
糸条を用いて組紐、編物又は織物を得た後に、加熱処理を施す請求項1記載の繊維製品の製造方法。
【請求項3】
芯鞘型第一複合フィラメント及び芯鞘型第二複合フィラメントを構成している高融点重合体成分がポリエチレンテレフタレートであり、芯鞘型第一複合フィラメント及び芯鞘型第二複合フィラメントを構成している低融点重合体成分が共重合ポリエステルである請求項1記載の繊維製品の製造方法。
【請求項4】
第一芯成分が顔料で着色されており、第二芯成分が顔料で着色されている請求項1記載の繊維製品の製造方法。
【請求項5】
芯鞘型第一複合フィラメント及び芯鞘型第二複合フィラメントを構成している低融点重合体が、無色透明又は白色半透明である請求項1記載の繊維製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の色合いを実現しうる繊維製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、糸、組紐、織物又は編物等の繊維製品を販売する場合、需要者の希望する色合いを持つ繊維製品を数点乃至数十点準備するのが一般的である。しかるに、人間が普通に認識しうる色の数は数百乃至数千と言われており、数点乃至数十点の色合いを持つ繊維製品を準備しただけでは、需要者の希望に沿えないということがあった。需要者の希望に沿うためには、染料や顔料等の原料を変更し、繊維自体の製造からやり直さなければならなかった。
【0003】
需要者の希望に沿う色合いを実現するために、染色性の異なる二種のマルチフィラメント糸で編成した杢調靴下が提案されている(特許文献1)。かかる杢調靴下は、編成後に需要者が希望する色合いとなるように、染め分けることができ(特許文献、段落0010)、繊維自体の製造からやり直さなければならないという欠点を回避することができる。しかしながら、かかる方法は杢調の繊維製品を得る場合しか通用せず、概ね単一色の色合いを持つ繊維製品には適用できないものであった。
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、予め準備された複数色のマルチフィラメント糸を用いて、概ね単一色と視認しうる繊維製品を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、特定の芯鞘型複合フィラメントを用いることにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、着色された高融点重合体成分で構成された第一芯成分と、透明又は半透明の低融点重合体成分で構成された鞘成分とよりなる芯鞘型第一複合フィラメントが、複数本集束されてなる第一マルチフィラメント糸を準備する工程、前記第一芯成分とは異なる色の高融点重合体成分で構成された第二芯成分と、透明又は半透明の低融点重合体成分で構成された鞘成分とよりなる芯鞘型第二複合フィラメントが、複数本集束されてなる第二マルチフィラメント糸を準備する工程、前記第一マルチフィラメント糸と前記第二マルチフィラメント糸とを、螺旋状に撚り合わせて糸条を得る工程及び前記糸条に加熱処理を施す工程とよりなり、前記加熱処理により、前記糸条中の前記芯鞘型第一複合フィラメント及び前記芯鞘型第二複合フィラメントを構成している低融点重合体成分を溶融又は軟化させることにより、前記芯鞘型第一複合フィラメントと前記芯鞘型第二複合フィラメントを一体化させることを特徴とする繊維製品の製造方法に関するものである。
【0007】
本発明では、まず第一マルチフィラメント糸を準備する。第一マルチフィラメント糸は、芯鞘型第一複合フィラメントが複数本集束されてなるものである。芯鞘型は同心芯鞘型であっても偏心芯鞘型であってもよい。集束される本数は任意であり、たとえば、2~200本程度である。また、複数本の集束の状態は、単に芯鞘型第一複合フィラメントが引き揃えられた状態であってもよいし、加撚されて撚りが掛かった状態であってもよい。芯鞘型第一複合フィラメントは、芯成分が高融点重合体成分で鞘成分が低融点重合体成分で形成されてなるものである。芯成分と鞘成分の質量比は任意であるが、芯成分:鞘成分=1~4:1であるのが好ましい。芯鞘型第一複合フィラメントの繊度も任意であり、たとえば、1~20デシテックス程度である。高融点重合体成分/低融点重合体成分の組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート/ポリオレフィン、ナイロン6/ナイロン66等の組み合わせが用いられる。高融点重合体成分には、顔料又は染料が添加されており、任意の色合いに着色されている。顔料又は染料としては、従来公知のものが用いられる。低融点重合体成分は、光が透過するように透明又は半透明となっている。低融点重合体成分を透明にするには、顔料を添加しなければよい。また、半透明にするには、顔料の添加量を少なくすればよい。したがって、第一マルチフィラメント糸は、着色された高融点重合体成分の色合いとして視認される。
【0008】
次に、第二マルチフィラメント糸を準備する。第二マルチフィラメント糸も第一マルチフィラメント糸と同様の構成となっているが、異なる点は、高融点重合体成分の色合いが、第一マルチフィラメント糸と異なる色合いになっている点である。すなわち、第一マルチフィラメント糸中の高融点重合体成分と第二マルチフィラメント糸中の高融点重合体成分とは、異色となっている。たとえば、第一マルチフィラメント糸中の高融点重合体成分が橙色に着色されている場合には、第二マルチフィラメント糸中の高融点重合体成分は橙色とは異なる色合い、たとえば、緑色や白色に着色されている。したがって、第二マルチフィラメント糸は、第一マルチフィラメント糸の色合いとは、異なった色合いのものとして視認される。なお、本発明で言う着色とか色合いには、白色,灰色及び黒色の無彩色も含む。
【0009】
準備した第一マルチフィラメント糸と第二マルチフィラメント糸とを引き揃えた後、加撚して撚り合わせることにより、糸条を得る。この加撚により、第一マルチフィラメント糸中の芯鞘型第一複合フィラメント及び第二マルチフィラメント糸中の芯鞘型第二複合フィラメントは、各々螺旋状に撚り合わされることになる。この糸条は、第一マルチフィラメント糸と第二マルチフィラメント糸が異色となっているので、各色を視認でき、いわゆる杢調となっている。
【0010】
次に、糸条に加熱処理を施す。この加熱処理は、第一マルチフィラメント糸中の低融点重合体成分のみ及び第二マルチフィラメント糸中の低融点重合体成分のみを、軟化又は溶融させて一体化するための処理である。したがって、加熱温度は、両低融点重合体成分の軟化温度以上又は融点以上であり、両高融点重合体成分の融点未満の温度で処理される。加熱処理は、糸条を緊張状態にして行うのが好ましい。糸条を緊張状態にしておくと、両低融点重合体成分が流動しやすくなり、一体化しやすいためである。この加熱処理により、繊維形態を維持し螺旋状となっている第一芯成分群及び第二芯成分群が、一体化した両低融点重合体成分よりなる母体中に存在することになる。このため、透明又は半透明の母体中に、異色の第一芯成分群と第二芯成分群とが螺旋状で混在し、通常の目視状態においては、両者の色を混色した概ね単一色として視認されるのである。
【0011】
糸条に対する加熱処理は、糸条を編組又は編織して、組紐、織物又は編物とした後で行ってもよい。この場合、組紐、織物又は編物等の繊維製品中の糸条は、概ね単一色として視認され、繊維製品全体も概ね単一色として視認されるものである。
【0012】
本発明に係る方法で得られる繊維製品は、低融点重合体成分が軟化又は溶融して一体化しているので、比較的剛直である。したがって、靴の甲被、安全ネット、ブラインド地等の用途に好適に使用しうるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る繊維製品の製造方法は、複数色の特定の芯鞘型複合フィラメントを特定の方法で組み合わせて処理することにより、任意の概ね単一色を持つ繊維製品を得ることができる。したがって、需要者の希望に沿う色合いを持つ繊維製品を、合理的に提供しうるという効果を奏する。
【実施例】
【0014】
実施例1
第一芯成分がポリエチレンテレフタレート(融点260℃)に橙色顔料を混合してなる橙色芯成分と、共重合ポリエステル(融点161℃)よりなる白色半透明の鞘成分とよりなる芯鞘型第一複合フィラメントを、48本集束して、280デシテックス/48フィラメントの第一マルチフィラメント糸を準備した。
一方、第二芯成分がポリエチレンテレフタレート(融点260℃)に緑色顔料を混合してなる緑色芯成分と、共重合ポリエステル(融点161℃)よりなる白色半透明の鞘成分とよりなる芯鞘型第二複合フィラメントを、48本集束して、280デシテックス/48フィラメントの第二マルチフィラメント糸を準備した。
なお、芯鞘型第一複合フィラメント及び芯鞘型第二複合フィラメントの芯成分と鞘成分の質量比は、芯成分:鞘成分=2.7:1である。
【0015】
第一マルチフィラメント糸1本と第二マルチフィラメント糸1本とを引き揃えた後、共立機械製リング撚糸機ST-30に掛けて、800回/mの撚り数でS撚りを施し下撚糸を得た。下撚糸2本を引き揃え、共立機械製リング撚糸機ST-30に掛けて、600回/mの撚り数でZ撚りを上撚りを施して、杢調の諸撚り糸条を得た。
【0016】
得られた杢調の諸撚り糸条を用いて、栄光産業製筒網機NCR-ESによって筒編物を編成した。この筒編物を筒状の型に取り付けて緊張状態とし、180℃の耐熱オーブンにて2分間加熱処理を行い、概ね茶色の筒編物を得た。
【0017】
実施例2
実施例1で得られた杢調の諸撚り糸条を用いて、8打角打ち製紐機を使用し、8本角打ち組紐を得た。組紐(長さ約40cm)の両端を固定した状態で、180℃の耐熱オーブンにて2分間熱処理を行い、概ね茶色の組紐を得た。
【0018】
実施例3
第一芯成分がポリエチレンテレフタレート(融点260℃)に橙色顔料を混合してなる橙色芯成分と、共重合ポリエステル(融点161℃)よりなる白色半透明の鞘成分とよりなる芯鞘型第一複合フィラメントを、96本集束した後、800回/mの撚り数でS撚りを施して、560デシテックス/96フィラメントの第一マルチフィラメント糸を準備した。
一方、第二芯成分がポリエチレンテレフタレート(融点260℃)に緑色顔料を混合してなる緑色芯成分と、共重合ポリエステル(融点161℃)よりなる白色半透明の鞘成分とよりなる芯鞘型第二複合フィラメントを、96本集束した後、800回/mの撚り数でS撚りを施して、560デシテックス/96フィラメントの第二マルチフィラメント糸を準備した。
【0019】
第一マルチフィラメント糸1本と第二マルチフィラメント糸1本とを引き揃えた後、共立機械製リング撚糸機ST-30に掛けて、600回/mの撚り数でZ撚りを施し、杢調の諸撚り糸条を得た。
【0020】
得られた杢調の諸撚り糸条を用いて、実施例1と同様に筒編物を編成し、同様に加熱処理を行ったところ、概ね茶色の筒編物を得た。
【0021】
実施例4
実施例3で得られた杢調の諸撚り糸条を用いて、実施例2と同様に組紐を編組し、同様に加熱処理を行ったところ、概ね茶色の組紐を得た。
【0022】
実施例5
第一芯成分に混合される顔料を橙色顔料から黒色顔料に変更し、第二芯成分に混合される顔料を緑色顔料から白色顔料に変更した他は、実施例1と同一の方法で杢調の諸撚り糸条を得た。そして、この杢調の諸撚り糸条を用いて、実施例2と同一の方法で、杢調の組紐を得た後、熱処理して、概ね灰色の組紐を得た。なお、
図1中のaは杢調の組紐であり、
図1中のbが灰色の組紐である。
【0023】
実施例6
実施例1で得られた杢調の諸撚り糸条を用いて、経糸密度30本/インチで緯糸密度28本/インチの平織物を製織した。この平織物に、熱プレス機を用いて、温度180℃、圧力0.3MPa及び時間120秒の条件で加熱加圧処理を施し、概ね茶色の平織物を得た。
【0024】
実施例7
実施例3で得られた杢調の諸撚り糸条を用いて、実施例6と同一の方法で、平織物を製織し加熱加圧処理を施し、概ね茶色の平織物を得た。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例5で得られた杢調の組紐と灰色の組紐の写真である。aは杢調の組紐であり、bが灰色の組紐である。