(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】高圧噴射処理装置
(51)【国際特許分類】
B05B 1/10 20060101AFI20240415BHJP
G01H 3/10 20060101ALN20240415BHJP
【FI】
B05B1/10
G01H3/10
(21)【出願番号】P 2020048280
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】100105809
【氏名又は名称】木森 有平
(72)【発明者】
【氏名】岩坪 聡
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-188315(JP,A)
【文献】特開2002-067887(JP,A)
【文献】特開2017-177037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/10
G01H 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ノズルの通孔から低圧チャンバに所定圧力で原料液を噴射して原料液中の粒子を微細化する高圧噴射処理装置において、前記高圧ノズルはその上流側の通孔径が最小となるように形成されているとともに、低圧チャンバ側に噴射された原料液の一部をその噴射流を利用して前記高圧ノズルの上流側に戻すための戻し通路と、前記戻し通路が前記高圧ノズルの通孔径が最小の部分よりも下流側部分に接続するための連絡通路を備えることを特徴とする高圧噴射処理装置。
【請求項2】
前記高圧ノズルは、ノズルチップとノズルチップを固定してノズルチップよりも大きな通孔径を有するノズルホルダで構成される高圧ノズルを複数連結させた多段式であり、前記戻し通路を上流側N番目の高圧ノズルとその次のN+1番目の高圧ノズルとの間に設けられた連絡通路と接続させるか、又は、前記戻し通路を上流側N番目のノズルチップとN+1番目のノズルチップの間に設けた連絡通路に接続させることを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射処理装置。
【請求項3】
前記連絡通路が高圧ノズルを構成するN+1番目のノズルチップの直前に形成され、前記通孔に戻されることを特徴とする請求項2に記載の高圧噴射処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料の湿式微細化を行う際に用いられる高圧ノズルの噴射流循環方法及び高圧噴射処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子、特にナノ粒子は、そのサイズがナノメートル(nm)オーダーであることで表面積が極めて大きくなり、量子サイズ効果によって特有の物性を示すことなどから、様々な分野で研究され利用が進められている。それら粒子は電子部品、顔料、化粧品、医薬品、食品、農薬等、各種材料分野で広範囲に利用されつつある。特にナノ粒子は凝集し易いことからナノ粒子の特性を有効活用するためには、ナノ粒子の性質に合った適切な分散や微細化処理が必要である。また、近年セルロースなどのナノファイバー化への効率的な解繊技術もその材料の実用化にとって重要な技術となっている。これら微細化処理において、原料の粒子が混合された原料液をノズルから高圧噴射することで粒子自体を微細化する高圧噴射処理装置は、それら粒子を分散・微細化するために、広く実用化されている。
【0003】
しかしながら、高圧噴射処理装置で処理された液の状態に関して、その場での評価方法が確立されておらず、プロセスの最適条件を見つけることが非常に困難であった。これまでは、高圧噴射処理装置で処理された溶液をサンプリングし、それをレーザ粒度分布装置で分析するなどして評価していた。このため、微細化処理の条件出しに時間がかかり、ビーズミル等のメディアを要する処理に比べて、この処理の高速性を十分に活かすことはできなかった。
また、従来高圧噴射処理処理では、低圧側のチャンバでの流体の衝突現象が微細化に有効であると考えられ、衝突型チャンバ、対向チャンバなど様々なチャンバが開発されてきた。しかし、これらの装置での微細化処理は、数十回の処理を必要とする材料もあり、更なる効率化が求められていた。
【0004】
このような背景から本発明者は、原料の湿式微細化を行う際に用いられる高圧噴射処理装置のモニタリング方法及び高圧噴射処理装置のモニタリング機器について、いくつかの提案と開発を行った。
特許文献1には、原料液をノズル内平均速度が300m/s以上となるように高圧噴射して微細化または解繊する請求項1から6のいずれか一項記載のノズルを備えた高圧噴射処理装置において、前記高圧噴射処理装置にAEセンサを取り付け、AE信号を検出し、その値の大きさから微細化特性の性能評価を行うことを特徴とする高圧噴射処理装置の評価方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、「(請求項1) 高圧ノズルから所定圧力で原料液を高圧噴射して粒子を微粒化する高圧噴射処理装置におけるモニタリング方法であって、前記原料液を高圧噴射する作業を複数回繰り返す作業において前記高圧ノズル内で生じるキャビテーションによる信号を検出し、前記信号のレベルを所定時間内の実効値で評価し、高圧噴射処理の前後での前記実効値の変化量が設定範囲内となったときに前記粒子が微粒化されたと判定することを特徴とする高圧噴射処理装置のモニタリング方法」と、「(請求項2) 前記高圧噴射処理装置にAEセンサを取り付けて、前記高圧噴射の際に前記高圧ノズル内で生じる周波数が0.2MHz以上のキャビテーションによるAE信号を検出することを特徴とする請求項1記載の高圧噴射処理装置のモニタリング方法」が開示されている。
【0006】
非特許文献には、超音波分光法に関する論文であり、TiO2スラリーの粒径とそこを伝搬する超音波減衰に関する事例が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-177037号公報
【文献】特許第6221120号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】DUKHIN, A.S., GOETZ, P. J., (1996), Acoustic Spectroscopy for Concentrated Polydisperse Cllods with High Density Contrast, Langmuir, 12, pp. 4987-4997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来高圧噴射処理は、低圧側のチャンバでの流体の衝突現象が微細化に有効であると考えられ、衝突型チャンバ、対向チャンバなど様々なチャンバが開発されてきた。しかし、これらの装置での微細化には、数十回の処理を必要とする材料もあり、更なる効率化が求められていた。
高圧噴射処理で利用しているキャビテーションは、液体の流れの乱れによって局部的に低圧となる部分が生じ、その低圧部分が液体の蒸気圧を下回った時に気泡として発生し、その気泡が収縮し崩壊するときに、大きな衝撃力が生まれる現象である。この処理は、主にキャビテーションを微細化に応用してるので、この方法はなるべく高圧でキャビテーションを起こすことで、より大きな破壊力を得ることができる。このとき高圧で発生する高エネルギー、すなわち高い周波数のキャビテーションの状態をモニタリングすることで、破壊の過程と投入した粒子を含む溶液の原料液の状態を評価できる(特許文献1)。
【0010】
本発明者は、上記キャビテーションによる微細化効率を上げるには、なるべくエネルギーの高い高圧の領域でキャビテーションを発生される方法が良いことを研究により明らかにし、高圧ノズルを一段から多段構成にし、2段目以降に高圧キャビテーション領域を形成することで、微細化に関係する領域を拡大させ、効率を向上させた(特許文献1)。その中で、キャビテーションが多く起こってるにもかかわらず、粒子が微細化されていない現象があった。そして今回の実験から、ノズル内に使用されていない微細化領域が存在することをつきとめ、さらに効率を上げるために噴射による流れを利用し、ノズル内の微細化に使用されていない微細化領域に、積極的に原料を送り込む機構を設けた新規ノズルを発明した。
【0011】
本発明の目的は、更なる微細化の効率化と有効な解繊が可能になる高精度な高圧ノズルの噴射流循環方法及び高圧噴射処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、原料液を高圧噴射して微細化する高圧ノズルにおいて、高圧ノズルの通孔から噴射された原料液の一部を高圧ノズルの上流側の通孔に戻すための戻し手段を設けて、高圧ノズルの通孔から再度高圧噴射させることを特徴とする高圧ノズルの噴射流循環方法である。前記戻し手段は、高圧ノズルの通孔から噴射された原料液の一部をその噴射流の反動を利用して高圧ノズルの上流側の通孔に戻すために形成された戻し通路であるか、及び/又は、流体の流れを利用しベンチュリ効果によって減圧状態を作り出すためのアスピュレータ機構を備えるものであることを特徴とする。また、前記戻し手段は、高圧ノズルの通孔から噴射された原料液の一部をその噴射流を利用して高圧ノズルの上流側の通孔に戻すために形成された戻し通路であり、かつ、前記高圧ノズルの通孔の近傍位置に設けられる戻し通路であり、原料液の一部は、噴射される原料液の周囲に生じる噴射液を含み、この噴射液が前記高圧ノズルの通孔の近傍位置に設けられる前記戻し通路により前記高圧ノズルの上流側の通孔に戻されることを特徴とする。ここで、「その噴射流を利用する」とは、通孔に戻される対象となる原料液がノズル高圧ノズル内の領域にあるものでも良く、低圧チャンバに高圧ノズルを配置して、アスピュレータ機構を設けて低圧チャンバに噴出した原料液を戻すものであっても良い。アスピュレータ機構とは、流体の流れを利用し、ベンチュリ効果によって減圧状態を作り出すための機構のことであり、本発明は高速に噴射されている流れに巻き込まれるように、原料液を取り込む現象を利用している。
【0013】
また、ノズルチップとノズルホルダからなる高圧ノズルを複数収容するノズルケースの外周壁に前記戻し通路を設けるとともに、前記ノズルチップ及び/又は前記ノズルホルダの側面部に高圧ノズルの通孔に導く連絡通路を設けるか、前記ノズルチップと前記ノズルホルダとの隙間に高圧ノズルの通孔に導く連絡通路を設けるか、又は、前記高圧ノズル間にスペーサを介在させて、前記スペーサに高圧ノズルの通孔に導く連絡通路を設けることが好ましい。
本発明によれば、キャビテーションが起こっているがその部分に原料が流れていない領域に、原料液を供給することにより、微細化の効率化が図られる。このため、従来複数回の微細化処理を繰り返す必要があったが、処理回数の大幅な減少が期待できる。
【0014】
高圧噴射処理による微細化方法には2通りの作用効果がある。一つは、高圧噴射によるノズル内の高速な流れの境界付近の大きな速度差による「せん断」である。他の一つは、高圧噴射による高速な流体によって引き起こされる負圧による「キャビテーション」(液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象)である。「せん断」は速度差に基づくものであるから、高速・高圧で噴射される流体の界面でのみ行われる。そのため、液全体にその効果が及びにくく、微細化特性は余り良くない。一方、キャビテーションは通孔から噴射した流れの外側に、クラウド状態に多く発生するため、その部分を上手く利用することでその効果を液全体に及び易くすることができる。そこで、キャビテーションの有効利用をするために、ノズル構造の工夫によって、微細化特性の向上を指向した。
本願発明者は単独のノズルの構成であった高圧ノズルを多段化することでキャビテーションの利用効率が向上し、微細化性能が上がった構成を実現し、さらに改良を試みたが、上記モニタリングによる測定データで、キャビテーションは多く発生しているが、微細化の効率が上がらない結果がいくつかあった。つまり、ノズル内で高いエネルギーのキャビテーションが起きているが、それが原料液に作用していない領域があると考えられた。その領域は高圧ノズル内部にあると考え、戻し通路によってその部分に材料を供給することで微細化効率が大幅に向上した。具体的には、多段化したノズルに戻し通路(戻し手段)を設けた装置を試作し、その実験結果を調べた。
【0015】
微細化の具体的な作用としては、1.せん断による微細化として、ジェット流境界付近の大きな速度勾配のある領域(
図11に示す領域(a))と、2.高圧キャビテーションによる微細化として、圧力が高いジェット流の外側の領域(
図11に示す領域(b))の2種類がある。単独ノズルの場合、上記領域(b)はノズルチップの近くで圧力が少し高くなっているが、微細化できるほど高いエネルギーのキャビテーションでないため原料液が微細化されないと考えられる。そこで、多段の高圧ノズル構成で高圧領域を拡大し、さらに、その高圧部分に原料を補給する機構、すなわち高圧ノズルケースの通孔Naから噴射された原料液を再度高圧ノズルケース内の通孔Naに戻す戻し通路を形成して、噴射された原料液の一部を高圧ノズルの上流側の通孔に戻して、高圧噴射させる構造とした。このとき、戻し通路Nt1,Nt2には、流体を利用してベンチュリ効果によって減圧状態を作り出すアスピュレータAs(英語:Aspirator)機構が働くことや流れの反動により、液がノズル内に戻ることが重要である。
【0016】
(多段ノズルでのアスピュレータの効果)
これまでの本願発明者の研究を基に、ノズル内の液の流れについて考察する。流れには、大きく分けて、層流、乱流、ジェット流の3つがあり、噴射速度が大きくなると、後者に移る。本発明の微細化のための装置では、高圧で噴射された流れはジェット流になっているので、その境界には大きな速度勾配があるが、その内部はほぼ一様な速度を持っている。そのためこのジェット流の中で大きなせん断力が働くことはほとんどない。一方、流れの境界部分には、大きなせん断力が働く。また、ある圧力下で速度差が大きくなると、その外側にキャビテーションが起こるようになる。一般的には、キャビテーションクラウドと呼ばれる現象が起きる。この状態で微細化の作用のある領域は、(a)大きなせん断力のある境界部分と、(b)流れの外側で発生するキャビテーションの2種類で、微細化の観点から重要な条件をあげる(
図11参照)。
(a)大きなせん断力のある境界部分を大きくするには、流れの速度をなるべく下げないことが必要である。つまり、速い流れが起こるように、流れの抵抗となる部分を作らないことが重要である。
(b)キャビテーションによる破壊、または微細化を強くするには、高い速度でなるべく高圧の領域でキャビテーションを起こすことが必要になる。
上記(a)は障害物がなく直進性に優れた流れを起こすことと、層流などが起きないようにノズル径を調整することが必要である。例えば、径の大きさ制限などがある。
また、上記(b)は圧力が下がらないように、なるべく高圧部分を拡張した構造(多段ノズル構造で排出側に向かって通孔が大きくなる)が有効になる。
しかしながら、単純に高圧ノズルを多段構成にした場合は、高いエネルギーのキャビテーションが発生している領域は増加するが、構造上その部分には微細化される原料の循環がなく、ノズルホルダなどへの損傷があるだけで効率が上がらないことがあった。
例えば、
図9に示す高圧噴射装置(多段構造)の場合には、低圧チャンバ側のノズル出口では、流れによる負圧によって、原料が少し内部に入ることも考えられるが、高圧キャビーションが働くノズル内までに入り込む原料はほとんど無い。そこで噴射後、低圧チャンバ内に滞留する原料液を高圧ノズルの通孔に戻し、再度高圧噴射するためのアスピュレータAsを設けることで微細化効率が向上できると仮定した。
【0017】
本発明では、アスピュレータ機構や流れに反動が働くような構造で、前記高圧ノズルを分割して、この分割した隙間を介して、低圧チャンバから高圧ノズルの通孔に戻し、再度高圧噴射させることも可能である。また、高圧ノズルを分割して、その分割した隙間を利用して、ノズルの通孔と前記戻し通路と連結させることで、前記戻し通路を容易に製造することもできる。
【0018】
本発明の前記高圧ノズルは、ノズルチップとノズルホルダで構成される高圧ノズルを複数連結させた多段式であり、前記複数連結させた高圧ノズルを収容するノズルケースを備え、前記ノズルケースには戻し通路を設け、N番目のノズルホルダに設けられた通孔の近傍領域の原料液を一番上流側の第1番目の高圧ノズルの直後の位置に戻すことを特徴とする。
なお、本発明の前記高圧ノズルは多段式であり、複数の高圧ノズルと高圧ノズルとの間にスペーサが介在されて、前記スペーサに切り欠きや溝を設けるか、あるいは貫通孔を開けるか、スペーサを分割するなどして連絡通路を設け、前記ノズルケースの戻し通路と連結されて戻し手段(アスピュレータ)を構成し、高圧ノズルの通孔Naに、原料を戻すことが好ましい(
図5(b))。このとき、高速な流れに影響がでないように低圧側のノズル径を高圧側のものより大きくし、また、戻し手段(アスピュレータ)を構成する戻し通路と連絡通路も、その噴射流に影響がでないように流れの方向に対して軸対称に設置することが好ましい。
本発明によれば、複数の高圧ノズルによる多段式の場合、低圧チャンバ内に滞留している原料液の一部を低圧チャンバから前記戻し手段で高圧ノズルの通孔に戻すことで、これまで使用できていなかったキャビテーション領域での処理も可能となる。それに加えて、流路が曲がることにより(戻し通路に角部のコーナーを設けることにより)、原料に大きなせん断力を加えることも可能になる(
図28(a)参照)。これらの作用により、効率的な微細化や解繊が実現できる。ただしこの効果を出すためには、戻し手段を構成する連絡通路をノズルチップの直前に設けることなど、直線的な流れを妨害しないことが重要である。
【0019】
本発明は、前記高圧ノズルの通孔は高圧ノズルの中央に形成され、前記戻し通路は高圧ノズルの通孔に対して前記高圧ノズルを軸とする対称な外周位置に複数設けられていることを特徴とする。ここで、前記戻し通路を高圧ノズルの通孔に対して対称位置に複数配置し、それらの合計した直径の大きさが前記高圧ノズル直径Dnmのより大きいことが好ましい。
本発明によれば、高圧ノズルの通孔より処理できる量に加えて、下流側の大きくなったノズル通孔部分で、キャビテーションなどの微細化作用を受ける体積が増加するために、原料の効率的な微細化や解繊が可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高いエネルギーのキャビテーションが起こっているが、戻し手段により、微細化に利用されていなかった領域に原料を供給することで、効率的な微細化を図ることができる。このため、従来の装置外で循環経路を形成して、複数回の微細化を行う場合に比べて、非常に高効率な微細化が行われ、本発明の高圧噴射装置に1回の微細化は、従来の複数回の噴射に相当し、より均一な微細化が可能になる。その結果、単分散の懸濁液や均一なファイバーの作製が容易に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を適用した実施形態の高圧噴射処理装置の高圧ノズル部で発生するキャビテーションを示す概念図である。
【
図2】本発明を適用した実施形態の高圧噴射処理装置のモニタリング方法の作業手順を示すフロー図である。
【
図3】高圧噴射された原料液中の粒子がキャビテーション崩壊によって微粒化される過程を模式的に示す図である。
【
図4】高圧噴射処理装置における多段式高圧ノズルの模式的に示す断面図である。
【
図5】高圧噴射処理装置における単独の高圧ノズルを示す概略図であり、(a)はノズルN1を示す断面図で、(b)は、ノズルチップの通孔の直径Dnに対する厚みWnの比(Wn/Dn)を10とする例である。
【
図6】本発明を適用した第1の実施の形態に使用される高圧ノズルを示す斜視図である。
【
図7】本発明を適用した上記実施の形態に使用される多段式高圧ノズルのみの構成を示す斜視図である。
【
図8】本発明を適用した上記実施の形態に使用される多段式高圧ノズルのみの構成を示す展開図である。
【
図9】本発明を適用した上記実施の形態に使用される多段式高圧ノズルを収容し、戻し通路を設けたノズルケースを示す斜視図である。
【
図10】本発明を適用した上記実施の形態に使用されるノズルケースに多段式高圧ノズルが収容された状態を示す図である。
【
図11】単独の高圧ノズル周辺の噴射液の流れ及び、微細化領域を示す模式図である。
【
図12】本発明を適用した上記実施の形態の多段式高圧ノズルと噴射流の循環状態を示す模式図である。
【
図13】本発明を適用した上記実施の形態の多段式高圧ノズルと噴射流の循環状態を示す模式図である。
【
図14】本発明における実験において単独ノズルによるAEの大きさと処理液の粘度ηを示す図である。
【
図15】本発明における実験において多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図16】本発明における実験においてアスピュレータをN2-N3間に1本配置した多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図17】本発明における実験においてアスピュレータをN1-N2間に1本配置した多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図18】本発明における実験においてアスピュレータをN2-N3間に2本配置した多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図19】本発明における実験においてアスピュレータをN1-N2間に2本配置した多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図20】本発明における実験においてアスピュレータをN1-N2間に中間体を配した多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図21】本発明における実験においてアスピュレータをN1-N2間に中間体を配し、N2の直前にアスピュレータを2本配置した多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図22】本発明における実験においてアスピュレータをN1-N2間に中間体を配し、中間体にアスピュレータを2本配置した多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図23】本発明における実験において5段構造の多段式高圧ノズルを用いた場合のAEとηを示す図である。
【
図24】本発明における実験において5段構造の多段式高圧ノズルのN1-N2間にアスピュレータを2本配置した場合のAEとηを示す図である。
【
図25】本発明における実験において使用する微細化前の原料の顕微鏡画像である。
【
図26】本発明における実験において単独の高圧ノズルを使用して微細化した原料の顕微鏡画像である。
【
図27】本発明における実験において多段式高圧ノズル(3段)を使用して微細化した原料の顕微鏡画像である。
【
図28】本発明における実験においてN1-N2間にアスピュレータを2本配置した多段式高圧ノズル(3段)を使用して微細化した原料の顕微鏡画像である。
【
図29】本発明における実験の結果をまとめたもので、使用した各種ノズルの処理回数Npと処理液の粘度ηを示した図である。
【
図30】多段式高圧ノズルの内部において微細化が起こっている箇所を示した模式図である。
【
図31】本発明を適用した実施の形態の多段式高圧ノズルにおいて、アスピュレータの有効な配置位置を示す模式図である。
【
図32】本発明を適用した別の実施の形態の多段式高圧ノズルを示す図である。
【
図33】本発明を適用した別の実施の形態の多段式高圧ノズルを示す図である。
【
図34】本発明を適用した別の実施の形態の多段式高圧ノズルを示す図である。
【
図35】本発明を適用した別の実施の形態の多段式高圧ノズルを示す図である。
【
図36】本発明を適用した別の実施の形態の多段式高圧ノズルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
(本発明において使用する高圧噴射処理装置の構成)
図1は、本発明の高圧噴射処理装置の高圧チャンバ500と、低圧チャンバ40および高圧ノズル400(ノズルケース100)周辺の概略構成を示すブロック図である。
以下、原料液10の移動方向に関し、高圧噴射処理装置の高圧チャンバ側を上流側、低圧チャンバ側を下流側として詳細を説明する。
本発明において、高圧噴射処理装置は、高圧ポンプを駆動及び制御することで原料液を100MPa以上に加圧するための駆動制御部と、原料液10を100MPa以上に加圧する高圧ポンプ、原料液10を投入する原料タンクと高圧チャンバが備わっている装置である。投入され100MPa以上に加圧された原料液10(及び10内の粒子1a)は高圧ノズル400周辺で加速され、ノズルを通過するときに高速な流れ、つまりジェット流になり、その周辺にキャビテーションが発生する。そのキャビテーションにより原料液中の粒子が微細化される。その後、低圧チャンバ40内にて、気泡の多いスーパーキャビテーション状態になり、撹拌され微細化された粒子を有する懸濁液20が生成され、出口402から排出される。この処理を繰り返すことになる。この噴射回数をN
Pで表し、処理効果が高いとは、同じ径の微粒子を得るためのN
Pが小さいことを言う。
前記低圧チャンバ40内には、シングルノズルチャンバ、斜向衝突チャンバ、ボール衝突チャンバ等の種類があり、高圧ノズル400(ノズルケース100)を収納配置するものである。
【0024】
(原料について)
前記原料混合液10は、例えば粒子1a(原料)と水や有機溶媒との混合液である。用途によって界面活性剤を含むこともある。本発明において、前記原料混合液10に含まれる粒子1a(原料)は、酸化チタン、チタン酸バリウム、フェライト、アルミナ、シリカ、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、その他既知の金属、酸化物、炭化物微粒子が挙げられる。また、セルロースやカーボンナノチューブCNTなどの、ファイバー形状の材料を使用することも可能である。前記原料混合液10は、前記微粒子やそれらの凝集体が含有された懸濁液状の液体である。
【0025】
(AE信号について)
微細化の状況を評価するために、高圧噴射処理装置のモニタリング機器1を前記高圧噴射処理装置に取り付けて、高圧ノズルや高圧チャンバ等の装置の性能評価を行うことが可能である。その場合、前記高圧噴射処理装置に取り付けるAEセンサ9と当該AEセンサ9から検出されたAE信号を処理して、装置の性能評価を判定する信号処理判定手段8を備える。
前述したように、高圧噴射処理における微細化現象は、主に高圧部分で発生するキャビテーションによって起こる。高圧噴射処理装置内において発生するキャビテーションは、(1)低圧チャンバなどの低圧側で発生している低エネルギーのキャビテーションと(2)高圧ノズル内で発生している高エネルギーのキャビテーションに分類される。原料液の粒子の微細化は、上述の(2)のキャビテーションの崩壊に基づく衝撃であるから、(2)の高エネルギーのキャビテーションによるAE信号、すなわち高周波信号(0.2MHz以上)を、AEセンサを使用して計測することで、粒子の微細化の度合いや流れによる粉砕力などを評価することができる。
【0026】
前記信号処理判定手段は、AEセンサからの信号を周波数とレベルが判るように出力するとともに良否判定することが可能な機器である。前記信号処理判定手段としては、AEテスタ、FFTアナライザ、スペクトラム・アナライザ、デジタルオシロスコープ、その他の実効値計算記録表示装置などが挙げられる。AEテスタは、プリアンプ、フィルタ、ディスクリミネータ、及びレートメータを組み合わせた機器であり、市販品を適用することができる。
【0027】
高圧噴射処理装置としては、前記モニタリング方法を実行するための共振型AEセンサと当該共振型AEセンサからの信号を処理して判定する信号処理判定手段を備え、前記原料液を高圧噴射する作業を複数回繰り返す作業では、前記信号処理判定手段によって前記粒子の微細化処理が完了したと判定されるまで高圧噴射処理を繰り返す構成とすることができる。前記原料液を高圧噴射する作業を複数回繰り返す作業では、前記AE信号のレベルを所定時間内の実効値で評価し、高圧噴射処理の前後での前記実効値の変化量が設定範囲内となったときに、前記粒子の微細化処理が完了したと判定することができる。
【0028】
(本発明のモニタリング方法について)
図2は、本発明を適用した実施形態の高圧噴射処理装置のモニタリング方法の作業手順を示すフロー図である。本実施形態では、先ず、AEセンサを高圧噴射処理装置の高圧ノズルで発生する超音波が検出できる場所に取り付ける(ステップS1)。ノズルで発生した高い周波数の超音波が、懸濁液(スラリー)中を通過し、それが高圧チャンバ、高圧ノズル、低圧チャンバを構成する部材で伝搬する構造になっている場合は、それらのどこに取り付けてもかまわない。次に、前記高圧噴射処理装置の高圧ノズルから所定圧力で原料混合液を高圧噴射処理する(ステップS2)。そして、前記高圧噴射処理を行う時に前記ノズル内で生じる周波数が0.2MHz以上の超音波を前記AEセンサによって検出し、前記AEセンサからの信号レベルの評価を行う(ステップS3)。そして、前記高圧噴射処理を繰り返すか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4にて、信号レベルの変化がある場合、まだ前記粒子が十分に微粒化されていないと判定し、前記高圧噴射処理を繰り返す。ステップS4にて、信号レベルの変化がなくなった場合、あるいは、所定のレベルに達した場合、前記粒子が微粒化されていると判定し、処理を終了する。
【0029】
(本発明のモニタリング機器について)
図1における600は本発明を適用した実施形態の高圧噴射処理装置のモニタリング機器によって検出されるキャビテーションにより発生する信号を示す概念図である。信号には流れにより液から発生するキャビテーション信号AE
sと、粒子から発生するキャビテーション信号AE
p、さらに、それら超音波の伝搬特性(減衰率)Att
uが記載されている。本実施形態は、高圧ノズル400から所定圧力で原料液10を高圧噴射し粒子を微細化する高圧噴射処理装置のモニタリング機器1であって、前記高圧噴射処理装置に取り付けるAEセンサ9と当該AEセンサ9から検出されたAE信号を処理して判定する信号処理判定手段8を備える。前記AEセンサ9は、共振周波数が0.5MHzの共振型AEセンサである。前記信号処理判定手段8は、例えば、AEテスタ、FFTアナライザ、スペクトラム・アナライザ、デジタルオシロスコープ、その他の実効値計算記録表示装置などが挙げられる。
【0030】
高圧ノズル400内の液体の流速は、ノズル径とAEセンサ9の信号発生時間から正確に求めることができる。高圧ノズル400の出口付近では、σ
cは0.6以下になっており、そこではスーパーキャビーションの状態、すなわち、ノズルの側面には気泡が多く、強い撹拌効果が得られる状態になっていると考えられる。
一方、高圧ノズル400から低圧チャンバ40に入った領域では、その減圧雰囲気ではキャビテーションの崩壊エネルギーも急激に減少する。この領域では、強いキャビテーション崩壊による微細化の作用は得られない。キャビテーションの発生は、そのスーパーキャビテーションから、流速がゼロ近くまで落ち着くまで、しばらく続き最終的には消滅する。このため、高圧ノズル400の内部で発生している高エネルギーのキャビテーションは短時間で消滅するが、低圧チャンバ内では、しばらく低圧キャビテーションが発生する。この影響で低周波のAE信号は噴射終了後も尾を引いたようにしばらく発生し続けることになる。なお、前記低圧チャンバは、符号40で示される構成要素であり、高圧ノズルを収納する(
図1)。
【0031】
高圧ノズル400内に粒径が数ミクロンの大きな粒子がある原料液(スラリー)の場合には、粒子からキャビテーションによる信号AEpが発生する。これはその数や粒子形態で異なる大きさを示す。キャビテーションは、流体が固体表面を流れるときに負圧になる部分が発生し、それが流体の蒸気圧より下がったときに発生するから、粒径が大きくなると気泡の基になる負圧部分も大きくなるため、そのエネルギー、すなわち、高周波のAE信号の信号レベルが大きくなると考えられる。この信号レベルから、スラリー中の粒子径を推測することができる。これは、流体だけの時よりもキャビテーションが発生しやすいため、この信号は高圧ノズル400の入り口近くから発生し始めることになる。
【0032】
実際の計測においては、
図1に示すように低圧チャンバ40方向から伝搬する超音波のAE信号と高圧チャンバ500方向の原料液10の液中を伝搬してくる超音波のAE信号が考えられる。
次に、発生する信号とその伝搬経路について述べる。キャビテーション数の変化から、キャビテーションはノズルの途中から発生し、その後スーパーキャビテーションになる。ノズル後半は、スーパーキャビテーションの状態であることと、低圧チャンバ40方向には多くの大きな低圧キャビテーションがあるため、この部分の原料液には、原料液とこの部分には大きな音響インピーダンスの違いが起きている。その結果、低圧チャンバ40の方向へは、反射が大きく発生した超音波は伝搬し難い。よって、AE信号として測定される超音波は高圧ノズル400の進行方向とは反対方向の、キャビテーションを起こしていない液中を伝搬してくると考えられる。その超音波の溶液中の伝搬速度を計算してみると、超音波の伝搬速度は1500m/sと、流速の400m/sより大きいので、この方向で、効率よく伝搬する。
【0033】
高圧ノズル400内では、AE信号にはAEpとAEsの発生源があり、AEセンサ9を取り付けた場合、懸濁液(スラリー)10の液中を伝搬してきた信号が多く検出される。このことは、当然その伝搬特性(減衰率)の影響を受ける。伝搬特性(減衰特性)は、粒子径に大きく依存するとされており、1ミクロン以上の粒子を含むスラリーの超音波減衰は大きいことを示している。
【0034】
上述のように、計測されるAE信号AEmは、溶媒から発生する流体キャビテーション信号AEsと、高圧ノズル内の粒子から発生する粒子キャビテーション信号AEpとの合計に、超音波の伝搬特性(減衰率)Attuを反映したものになる。したがって、計測される信号強度AEmは、次式のとおり、AEm=(AEs+AEp)×Attu、で示される。
この式では、スラリー濃度が高い場合は、AEpが大きくなり、粒径変化を正確に捉えることができる。一方、スラリー濃度が低い場合はAEsが大きくなるため、粒径の情報をもつAEpは埋もれてしまう。そのため、正確な評価はできなくなる。
【0035】
図3は、高圧噴射された原料液10内で起こるキャビテーションと、それによる微細化を模式的に示す図である。
図3において、符号1aは微細化する直前の原料の粒子であり、符号1bは微細化の途中段階の粒子であり、符号1cは微細化された粒子である。
流れを考えた場合には、キャビテーションのでき方は粒子形態にも大きく依存する。例えば、
図3(a)に示すように、原料液10内の粒子1aが凝集体などの歪(いびつ)な形態の場合、曲率が急に小さくなる部分で負圧になり易く、その箇所を起点としたキャビテーション700が発生し、その崩壊が起こる。この収縮過程では、接触している粒子を引き込む圧力と、崩壊による衝撃がその部分にかかる。つまり、ネッキングした歪な粒子ではより効果的な微細化処理ができることになる。
一方、
図3(b)に示すように、粒子1bが球状形態では、負圧になり易い部分が減少する。つまり、キャビテーション700の大きさも減少し、その崩壊エネルギーも小さくなる。
図3(c)に示すように、粒子1cが微小な球状になった状態では、キャビテーション大きさは小さくなり、その崩壊エネルギーも減少して行く。その結果、その崩壊による衝撃が粒子1cを破壊するに必要な応力を上回らなくなると考えられ、微細化は進まなくなる。この状態が微細化処理の終了を意味する。この効果によって、高圧噴射処理は粒子径の揃った単分散のスラリーを作製することができる。
【0036】
このことは、この高圧噴射装置は、粒子径が小さくなればなるほど、微細化現象は生じ難くなり、低圧チャンバ40で起こっている低エネルギーキャビテーションとスーパーキャビテーションによる強い撹拌の効果しか利用できなくなることを意味している。この破壊力―微細化の限界のため、スラリー中の粒子径や形態に変化がなくなる。これが、高圧噴射による微細化処理の限界であり、処理が終了したことを示している。
付け加えると、この高圧噴射装置では、この粒子表面での衝撃は直接的な微細化にはつながらないが、超音波洗浄などに比べてはるかに強く、それによる粒子表面のコンタミ除去や形状の球体化などの作用を期待することができる。これらが、高圧噴射処理の特長をなしている。
【0037】
(懸濁液の粘度について)
原料の微細化は、前記AE信号の判定に加え、高圧噴射処理後の懸濁液の粘度ηによっても評価できる。例えば、セルロースをナノファイバー化する微細処理の場合には、まず、原料粒子の微細化から始まり、次に作製された微粒子のナノファイバー化が起こり、ナノファイバーの凝集体を形成する。さらに、処理を進めるとその作製された凝集体も小さくなっていく(ナノファイバーの長さが短くなる)過程を経る。この変化は、凝集体の絡まりと関係するので、微細化性能は粘度変化として測定できる。つまり、微細化性能は最大粘度の大きさと、そのときの処理回数NPで評価できることになる。
なお、粘度計は、一般的な回転式や振動式粘度計などが適用できる。
【0038】
(多段式の高圧ノズルについて)
図4は多段式高圧ノズルN2を示す断面図である。
本発明の実施の形態である高圧ノズルは、1つのノズルホルダNhとノズルチップNnから構成されており、微細化処理には、前記ノズルチップのDnが小さく、Wnがなるべく厚く、Wn/Dnが10以上のノズルが有効であることが分かった(
図5(b)参照)が、ノズルチップの材質である単結晶ダイヤモンドや、焼結ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド等にWnを厚い状態でDnを小さく形成するのは非常に困難である。
したがって、本発明高圧ノズルは複数(多段)のノズルチップNn
m(m=1,2,・・・,M)と複数(多段)のノズルホルダNh
m(m=1,2,・・・,M)を組み合わせて形成する。
【0039】
多段式高圧ノズルは、複数のノズルチップNnm(m=1,2,・・・,M)と複数のノズルホルダNhm(m=1,2,・・・,M)から構成され、上流側から下流側へNn1,Nh1,Nn2,Nh2,Nn3,Nh3,・・・,NnM,NhMの順に並んで取り付けられており、前記ノズルチップNnmの通孔と前記ノズルホルダNhmの通孔が全て同軸上となるように形成されている。
ノズルチップNnm(m=1,2,・・・,M)とノズルホルダNhm(m=1,2,・・・,M)の数Mは、2個以上であることが好ましく、3個であることがより好ましい。
前記ノズルチップNnm(m=1,2,・・・,M)の中心箇所には円柱状の通孔が設けられている。前記ノズルチップNnmの材質は単結晶ダイヤモンドや、焼結ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド等である。
前記ノズルホルダNhmは、前記ノズルチップNnmを固定するためのホルダであり、上流側は高圧チャンバ500に取り付けられ、下流側は低圧チャンバ40と接続されている。前記ノズルホルダNhmの中心箇所にも前記ノズルチップNnm(m=1,2,・・・,M)と同様に円柱状の通孔が設けられている。前記ノズルホルダNhmの材質はSUS630等のSUS系の金属である。
一番上流側に位置するノズルチップNn1は加圧された前記原料混合液10を下流側の低圧チャンバ40に向け高圧噴射するための入口であり、ノズルホルダNh1に収納され取り付けられている。
前記ノズルチップNnmの通孔の直径Dnm(m=1,2,・・・,M)は多段式高圧ノズル内の流速を高速とするため0.2mm以下であることが好ましい。また、一番上流側に位置するノズルチップNn1の通孔の直径Dn1を一番小さくし、その他のノズルチップNn2,Nn3,・・・,NnMの通孔の直径Dn2,Dn3,・・・,DnMは、直径Dn1よりも大きい値とする。
【0040】
直径Dn1を0.1mm~0.16mm(0.16mm以下)に、その他のDnm(m
=2,・・・,M)を0.16mm以上0.8mm以下とするのが好ましく、0.2mmがより好ましい。
また、前記ノズルチップNnmの通孔の厚みWnm(m=1,2,・・・,M)は、(数4)のように、前記ノズルチップNn1の通孔の直径Dn1に比べて前記ノズルチップNnmの通孔の厚みWnm(m=1,2,・・・,M)の合計を充分に大きくする(前記ノズルチップNn1の通孔の直径Dn1と前記ノズルチップNnmの通孔の厚みWnm(m=1,2,・・・,M)の合計の比を10以上とする)。
【0041】
前記多段式の高圧ノズルを使用することによって、直径が小さく、かつ長い通孔をもつノズルチップを形成せずとも、短い通孔をもつノズルチップを複数組み合わせること、通孔の直径が小さいノズルを一番上流側に配置し、その他のノズルは通孔の直径をある程度大きくすることによって、効率的な微細化処理が可能になる。つまり、せん断力が及ぶ領域に関しては、長い通孔をもつノズルチップを使用した場合と同様の効果を得ることが可能となる。さらに、多段式は高圧キャビテーション領域の体積を大きくすることが可能になり、さらに処理効率が向上する。また、ノズルの作製に当たっては、ノズルチップとなる硬い材質である単結晶ダイヤモンド、焼結ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド等の強硬質な材質に小さな孔を長く開ける必要がないため、製造が簡単となる。
【0042】
(本発明の第1の実施形態)
高圧噴射処理装置としては、スギノマシン社のスターバーストミニHJP-25001を使用し、低圧チャンバ40はすべてボール衝突チャンバを使用した。
【0043】
図6~
図10は、本実施の形態の多段式高圧ノズルの詳細を示す図である。
図6は、高圧ノズル400の断面斜視図であり、ノズルチップNnがノズルホルダNhに組み込まれ、ノズルチップNn、ノズルホルダNhそれぞれに通孔Nan、Nahが同軸上に設けられていることが示されている。
図7は、高圧ノズル400が複数配置された多段式高圧ノズルの構造を示す斜視図であり、高圧ノズルが3つ配置され(上流側からN1、N2、N3)、高圧ノズル間に上流側から第1のスペーサ5A、第2のスペーサ5Bを介在させることが示されている。
図8は、
図7で示した多段式高圧ノズルの展開図であり、第1のスペーサ5Aには連絡通路としての溝が通孔を軸に上下対称に2本設けられている。
図9は、多段式の高圧ノズルを収納するノズルケース100の断面斜視図であり、原料液が高圧噴射される通孔Nacと、高圧噴射の後低圧チャンバ40内に滞留する懸濁液を高圧ノズルへ戻すための一対の戻し通路Nt1、Nt2が設けられている。
そして前記一対の戻し通路Nt1とNt2は通孔Nacを軸とし、対称の位置に設けられると共に、
図8で示された第1のスペーサに設けられた連絡通路に接続される。
これらの戻し通路Nt1、Nt2や連絡通路は通孔を軸とし、対称に複数設けられても良く、十字状や、さらに細かな間隔の放射状に設けられていても良い。
図10は、3つの高圧ノズル(N1、N2、N3)と、高圧ノズル間に介在する第1のスペーサ5A、第2のスペーサ5Bをノズルケース100に収納した状態を示す断面斜視図であり(a)、原料液の噴射流と、噴射後の懸濁液が高圧ノズルへ戻る流れの関係を示す断面図である(b)。
なお、実際の装置の当該多段式高圧ノズルは、N1の上流側の面に配される漏れ防止を目的とした円環状のシール部材(パッキン)を介して高圧噴射処理装置の高圧チャンバ500側へ押し込まれるように格納するが、図を明確化させるため図示しない。
【0044】
ここで、高圧ノズル(N1、N2、N3)は、それぞれ通孔Nanを設けたノズルチップと通孔Nahを設けたノズルホルダで構成され、ノズルチップNnの通孔径Dnは、ノズルホルダNhの通孔径Dhよりも小さく形成されている。また、前記戻し通路Nt1,Nt2はノズルケース100に、通孔を軸に対称位置に複数配置し、それらの合計した径の断面積が前記高圧ノズルの通孔最大直径Dnmの断面積と、通孔最小直径Dnmの断面積の差より大きいことを特徴とする。
例えば、前記多段式高圧ノズルでは、高圧噴射後の懸濁液を上流側の第1番目のノズルN1と第2番目のノズルN2の間のノズル通孔Naに前記戻し通路・連絡通路を介して戻すことが好ましい例である。前記戻し通路Nt1、Nt2は、ノズルケース100と高圧ノズル400との境界のノズルケース側に設けると、作製が比較的容易である。
【0045】
以下、戻し通路Ntと連絡通路5cから成る、低圧チャンバ内の懸濁液を高圧ノズルへ戻す機構を、アスピュレータAsとして説明する。
(多段ノズルでのアスピュレータ効果について)
これまでの研究から、高圧ノズル内の噴射液の流れについて考察する。高圧で噴射された流れ(ジェット流)の内部は、ほぼ一様な速度を持っているので、この中で大きなせん断力が働くことは少ない。一方、流れの外側の境界部分には大きな速度勾配があるため、大きなせん断力が働く。さらに、その部分の速度勾配が大きくなると、離れた外側にはキャビテーションが広がる(
図11)。
この現象を考えると微細化の作用のある領域は、(a)大きなせん断力のある境界部分と、(b)流れの外側で発生するキャビテーションの2種類であることになる。
(a)大きなせん断力のある境界部分での微細化効果を大きくするには、流れの速度をなるべく下げないことが必要になる。つまり、拡散する流れより、直線的な流れが有効である。
(b)キャビテーションによる微細化効果を大きくするには、高い速度でなるべく高い圧力領域でキャビテーションを起こすことが必要になる。上記(a)は直進性に優れた流れが発生できる高圧ノズルが好ましい。また、上記(b)は圧力が下がらないように、なるべく高圧部分を広げた構造(多段式高圧ノズル構造)が有効である。
しかし、単純に多段構成にした場合には、高いエネルギーのキャビテーションが発生している領域は増加するが、構造上その部分には微細化される原料の供給がなく、高圧ノズルの損傷があるだけで処理効率は上がらない。
例えば、
図12に示す多段構造の場合には、低圧側の高圧ノズル出口では、流れによる負圧によって、原料が少し内部に入っていることも考えられるが、微細化される高圧キャビーションが働く高圧ノズル内に入り込む原料はほとんど無い。そこで、低圧チャンバ40から原料を高圧ノズルへ戻す、戻し手段(アスピュレータ)を設けることで、微細化の効率が向上すると考えられる。以下のノズル構造で実験を進め、その効果を検討した。
【0046】
(実験の詳細)
結晶性セルロース粉末の2%原料液を作製し、スギノマシン社製スターバーストミニHJP-25001に各種試作ノズルをつけて、200MPaにて高圧噴射させた。その処理中のAE信号と、処理後の粘度を測定した。粘度計は、株式会社セコニックの振動式粘度計VM-10Aを用いて測定した。この高圧噴射処理では、セルロースの粒子が微細化し、さらにナノファイバー化が進む。そのため、液中にナノファイバーが多くなると、液の粘度が上昇する。さらに微細化が進むと、作製されたナノファイバー(正確には、ナノファイバーの凝集体)の長さが短くなることから、粘度は減少する傾向を示す。このため、装置の微細化性能は、なるべく少ない処理回数で大きな粘度に達する回数と、その粘度の大きさで評価することができる。
アスピュレータAsの効果を調べるため、以下の実験を行った。多段式高圧ノズルの標記は、例えば、上流側第1ノズルN1の通孔径Dn
1が0.1mm、第2ノズルN2の通孔径Dn
2が0.2mm、下流側第3ノズルN3の通孔径Dn
3が0.2mmの場合を、「M010202」とし、高圧ノズル間にアスピュレータAsを配置して実験を行った。ここで、M010202の多段式高圧ノズルで、アスピュレータAsの挿入箇所を「A」、挿入箇所が2箇所(通孔を軸に対称となるように配置)の場合「AA」と示す。すなわち
図13は、本発明の高圧噴射装置の原理を説明する模式図であり、「M01AA0202」と表される。
【0047】
実験の内容は以下の通りでる。
実験A_アスピュレータAsが1本の場合
高圧ノズル(N1:Dn1=0.1mm+Dh1=0.8mm、N2:Dn2=0.2mm+Dh2=0.8mm、N3:Dn3=0.2mm+Dh3=0.8mm
(a) M010202 :アスピュレータAsがないものである。
(b) M0102A02:高圧ノズルN2-N3間に、アスピュレータAsを1本配置した。
(c) M01A0202:高圧ノズルN1-N2間に、アスピュレータAsを1本配置した。
実験B_アスピュレータAsが2つの場合
高圧ノズル(実験Aと同条件)
(d) M0102AA02:ノズルN2-N3間に、アスピュレータAsを2本配置した。
(e) M01AA0202:ノズルN1-N2間に、アスピュレータAsを2本配置した。
実験C_アスピュレータAsが2つで、その位置を中間部分とノズルチップ直前に配置した場合
高圧ノズル(N1:Dn1=0.1mm+Dh1=0.8mm、N1のDh1と同じ通孔径0.8mmの中間部分、N2:Dn2=0.2mm+Dh2=0.8mm)
(f) M010802 :アスピュレータAsがないもの。
(g) M0108AA02:高圧ノズルN2の直前に、アスピュレータAsを2本配置した。
(h) M01AA0802:高圧ノズルN1-N2の中間に、アスピュレータAsを2本配置した。
実験D_アスピュレータAsが2つで、後段を伸ばした場合
高圧ノズル(実験Aと同条件のN1、実験Aと同条件のN2を4個(N3、N4、N5))
(i) M0102020202:アスピュレータAsを入れないもの。
(j) M01AA02020202:ノズルN1-N2間にアスピュレータAsを2本配置し、後段を長くした。
【0048】
ここで、アスピュレータAsを十分に働かせるには、戻し通路Nt1,Nt2の総断面積の値から単一口の径に換算した径dAを求めた場合、それは低圧側の最大ノズルの通孔の径より大きいことが必要である。また、高圧側のノズルホルダ部分の圧力がなるべく下がらないことも重要になる。そのため、先頭のノズル径をd1、それ以降の最小ノズル径をd2とすると、次の関係が必要になる。
【0049】
【数1】
このとき、d
1はd
2より小さい条件が加わり、上記数式1で、d
Aはなるべく小さな値にすることが好ましい。実験は、加工精度の関係から、d
Aを1mm程度にして実験を行った。
【0050】
(単独ノズル)
参考に、単独ノズルを使用した場合のAEの大きさと処理液の粘度ηの関係を
図14に示す。
単独ノズルは「S01N」で示し、市販されているノズルチップの通孔径Dnが0.1mmのノズルを使用したが、処理回数N
Pを上げるとηとAE信号V
AEが増加する傾向を示すが、120回処理を行ってもηは500mPa・secにしかならなかった。
【0051】
(実験A)
M010202の3段ノズルを使用して処理したAE信号の大きさとセルロース懸濁液の粘度変化を
図15に示す。この構成は、単独ノズルよりAE信号も大きく、ηもN
Pが10で600mPa・secまで,大きくなった。また、水だけで噴射した場合のAEも単独ノズルより、大きな値を示していた。ノズル内でキャビテーションが多く発生していることが分かる。
(M0102A02の多段式ノズル+アスピュレータ1本)
前記M010202のN2-N3間にアスピュレータAsを1本配置した、M0102A02の3段ノズルを使用した場合、AE信号は更に大きくなり、ηは少し大きな値を示した(
図16)。
(M01A0202の多段式ノズル+アスピュレータ1本)
一方、M010202のN1-N2間にアスピュレータAsを1本配置した、M01A0202の3段ノズルを使用した場合、前記M0102A02と比較すると、ηが大きくなったことが分かる(
図17)。
この実験Aにより、単独ノズルよりも多段式ノズル(3段)、多段式ノズル(3段)よりも、多段式ノズル(3段)+アスピュレータ1本と、AE信号の値、ηの値がともに上昇したことから、微細化性能が向上することが実証された。
【0052】
(実験B)
次に、M010202の3段ノズルの、通孔を軸として対称に2本のアスピュレータAsを配置した場合であるが、最初AE信号は減少した。しかし、セルロースの微細化を進めるにしたがって、AE信号が大きくなる傾向があった。
すなわち、アスピュレータAsを2本配置することで、アスピュレータより前のノズルの背圧が減少しAE信号は下がるが、微細化が進むにしたがって、原料のηが増加しノズル内の圧力が上昇し、AEが大きくなったと考えられる。
このように、アスピュレータを2本配置した場合でも、その配置位置(戻し位置)によって違いが見て取れ、M0102AA02の構成(
図18)よりも、AEの絶対値が大きくないM01AA0202の構成(
図19)で、最も高い粘度(900mPa・sec)になったことは、セルロースを微細化するに必要なエネルギーをもつキャビテーション領域に原料液(懸濁液)を最も有効に供給できた結果であると考えられる。
【0053】
(実験C)
実験に使用したノズルチップは通孔径Dnが0.1mmまたは0.2mmで、ノズルホルダの通孔径Dhは0.8mmであったので、通孔径が0.8mmの中間部分を第1ノズルN1と第2ノズルN2の間に入れたノズルを作製した。
このノズルをM010802と記載する。この場合、アスピュレータAsはなく、第1ノズルN1の後から大きなキャビテーションが起きていた。AEの大きさはN
Pに依らずほぼ一定であった。ηはM010202と同様に大きくなった。この結果は、この構成でもキャビテーションが原料の微細化にある程度貢献しているが、使用されていないキャビテーションが多く存在していることを示している(
図20)。
そこで、アスピュレータAsを0.2mmのノズルチップの直前に通孔を軸に対称となるように2本配置した場合の3段ノズルM0108AA02で実験すると、水だけのAEは単独ノズルより小さくなったが、セルロース懸濁液を入れることで、非常に大きなAEが発生した。このAEは微細化したセルロースから出ていると考えられる。この場合は、流速が落ちず、高い微細化性能が得られた。また、N
Pが3までは、各処理の中で最も大きなηを示すが、その後、ηとAEが減少し始めるのは速かった。通孔の径が変化するところにアスピュレータAsを設置すると、ηの最大値からの減少が速くなっていくことが分かった(
図21)。
次に、中間部分に2本のアスピュレータAsを配置した場合の構成になる3段ノズルM01AA0802の微細化特性を示す。このノズル構成は、水だけのAEは大きいが、セルロース懸濁液のAEはあまり大きくならなかった。さらに、ηも大きくなっていないことから、余り微細化が進まなかったことが分かる。また、AEとηの間に相関がなかった。この相関がないことは、N
Pで流れの状態が大きく変化したことを示している。そこで、AEのデータから流速を求めると、その流速はM010802よりも低くなっていた。特に、水だけの場合には100Pa以下の低圧で急激に流速が減少していた。これらの結果は、アスピュレータAsを第2の高圧ノズルから遠ざけ、N1-N2間の途中に設置することで、ノズルホルダ内の直線的な流れが乱されたため起こったと考えられる。つまり、アスピュレータAsの配置場所としては、ノズル内のジェット流れを乱さないことが重要で、第2の高圧ノズル(ノズルチップ)の直前に配置することが好ましいことが分かった。これらの結果から、
図22にそのジェット流の様子を示す。
【0054】
(実験D)
3段ノズルのM010202の後段に、ノズルチップの通孔径Dnが0.2mmの高圧ノズルを2つ加えた5段構造のM0102020202を作製し、その微細化性能を評価した。
AE信号はM010202よりも小さく、ηの増加もそれより少し悪くなった。この場合は、流れの抵抗が増えて、流速が減少したことから、M010202より微細化性能が悪くなったと考えられる(
図23)。
次に、5段構造ノズルのM0102020202にアスピュレータAsを2本配置し、M01AA02020202の微細化特性を評価した。この場合は、アスピュレータAsの追加によりηの増加があったが、3段ノズルのM01AA0202よりηの大きさが小さいことから、装置の微細化特性は劣化した。これも後段が長くなり、流速が減少した影響が現れていると考えられる(
図24)。
【0055】
次に、微細化処理する前の原料の光学顕微鏡像(
図25)、標準ノズルS01N、M010202と、アスピュレータAsを備えたM01AA0202ノズルで処理されたセルロース微粒子とセルロースナノファイバー(CNF)凝集体の像を示す(
図26~
図28)。
S01Nでは、ナノファイバー化されていない多くのセルロース微粒子が存在し、数百μmの大きな凝集体を形成していた。N
Pを30まで上げてもまだ多くの微粒子が残っている状態で、この懸濁液は白濁した状態であった。それに対してM010202ノズルでは、数μmのセルロース微粒子と数十μmのセルロースナノファイバー(CNF)凝集体が観察され、N
Pを30にすると黒く写っているセルロース微粒子はより小さく、薄く写っているCNF凝集体も小さくなり、懸濁液の透明度は大きく上昇した。
さらに、アスピュレータAsを備えたM01AA0202ノズルでは、観察される黒い数μmのセルロース微粒子は非常に少なくなり、薄く写っているCNF凝集体の大きさも数十μmと小さく、この懸濁液は非常に高い透明度を示した。以上の結果から、多段のノズル構成、さらにアスピュレータAsを加えることで、微細化性能が大きく向上することが確認できた。
以上のことから、高圧噴射装置でのセルロースのナノファイバー化は、以下に示すようになることが分かった。まず、原料粒子の微細化から始まり、次に作製された微粒子のナノファイバー化が起こり、CNF凝集体を形成する。さらに、処理を進めると作製されたCNF凝集体も小さくなっていく過程を経る。この凝集体などの形態やそれらの絡まりの変化は、粘度の変化として測定できる。つまり、微細化性能は、最大粘度の大きさと、そのときの処理回数N
Pで評価でき、多段ノズル構成とアスピュレータAsの追加により、従来の単独ノズルに比べて、非常に高い微細化性能が実現できたことが確かめられた。
【0056】
(実験の検証)
様々な多段式高圧ノズル構成でのセルロース懸濁液の処理による粘度変化を、
図29にまとめると、M01AA0202、M0108AA02など、ノズルN1-N2間にアスピュレータAsを、通孔を軸に対称に2本配置する構造が、最も微細化性能が高くなった。
以上の結果から、多段式高圧ノズルのシステムにおけるアスピュレータAs配置の効果をまとめると、次のようになる。
【0057】
多段式の高圧ノズルにアスピュレータAsを配置することにより、単独ノズルやアスピュレータを配置しない多段式高圧ノズルと比べ、処理回数が少なくても粘度の大きなセルロースナノファイバー(CNF)懸濁液が得られ、微細化性能が大幅に向上した。また、アスピュレータを配置することで、最初のAE信号は小さくなるが、N
Pを増加し、微細化を進めるにしたがってAE信号が大きくなる傾向が見られた。特にN
Pが10以下での粘度上昇が大きくなり、高圧で発生した強いキャビテーションを上手く原料液に与え、微細化できていた。
図30を用いて、この結果を模式的に示す。原料液は高圧チャンバの上流側(左)から低圧チャンバの下流側(右)に高圧噴射されている。図中のハッチング部分は本来キャビテーションなどの微細化作用が働いていると仮定している部分だが、その部分には原料液が循環していないないため、原料液全体の微細化が起こらないことを示している。この場合、微細化は主にノズル出口近くのジェット流近傍でのみ起こっている(a)。そこに、アスピュレータAsや、低圧チャンバ内の流れの反動を利用すると、原料が高圧のキャビテーションとせん断が働いている径が大きい第2ノズルの内部に供給されることになる(b)。これによって、大幅に微細化性能が向上したと考えられる。
【0058】
実験では、アスピュレータAsを配置する位置に関して、高圧ノズルN1とN2との間(N2の直前)に配置した結果が最も優れており、原料液の効率的な微細化に適した構造であった。特に、処理回数NPが1~5と少ないところで、粘度の増加が大きくなったことが重要である。
単独の標準ノズルで粘度が、500mPa・secを超えるのはNPが120以上必要であるのに対して、3段のM010202の高圧ノズルでは、Npが10で500mPa・secを超え、更に高圧ノズルN1とN2の間に、アスピュレータAsを、通孔を軸に対象となるように2本配置したM01AA0202では、NPが5でその値を遙かに超えることが出来た。また、原料を水だけにした場合には、アスピュレータAsを配置することで、予想どおりその場所の圧力が減少し、AEの値は小さくなった。しかし、原料液にセルロース粉末を加えた場合には、アスピュレータAsを入れる場所が高圧ノズルN2-N3間の場合はNPが5~10で急激に増加、高圧ノズルN1-N2間の場合はNPが2以上で急激に増加した。これはある程度微細化が進むと、大きなセルロースナノファイバー(CNF)凝集体が形成され、その充填によりアスピュレータ通路内の圧力が上昇することにより、AE信号が上昇したと考えられる。
また、M01AA0202の構成では、キャビテーションによるAEの増加とともに、ノズル径が0.1から0.2mmに変わるところで、アスピュレータAsから供給される原料の流れの方向が変わるので、CNF凝集体にかかるせん断力も大きくなると考えられる。そのため、最も効率よく微細化され高いηを示したが、凝集体の微細化効果も大きくなることから、ηは最大値を取った後に、急激に減少した。
このように、第1ノズルで細いジェット流を作製し、第2以降のノズルで圧力を下げないような構成にすることで、高い微細化性能が実現できた。さらにアスピュレータAsの追加により、原料液になるべく多くのキャビテーションの効果を与えることができ、微細化の処理効率が向上することが明らかになった。ただしこのとき、微細化性能を下げないためにはジェット流の速度を下げないことが必要であった。
【0059】
総括として、高圧噴射装置の多段の高圧ノズル部分にアスピュレータ機構を追加することと、原料液の噴射速度下げないことで、微細化性能を大きく向上できることが分かった。
また、高圧噴射装置では上記過程で微細化が進むが、途中大きなCNF凝集体が形成されるときには、アスピュレータAsの部分で流路を90度変えた場合(
図31(a)参照)、凝集体は入り口に入った途端に流れの速い領域になるため、凝集体の一部がノズルに押しつけられ、凝集体全体に非常に高いせん断力が働くことになる。一方、ノズルの前方に、その部分を設けた場合には、ノズル部分で押さえられることは無くなるため、前者の様に凝集体に大きなせん断力加わることはなくなる(
図31(b)参照)。両者を比較すると、アスピュレータAsをノズルチップの直前に入れた場合のほうが、より微細化性能が上がった。
つまり、アスピュレータAsの位置も微細化性能に関連する重要なパラメータであり、本実施の形態はキャビテーションとせん断力を高めた優れた微細化方式であると言える。
【0060】
(本発明の他の実施の形態)
前記実験結果では、第1スペーサ5Aの下流側(N2のノズルチップの直前)に連絡通路5cを設けた第1の実施の形態が最も良い実験結果が得られたが、他の実施形態を以下に示す(
図32~図
36)。
図32(a)(b)は、第1の実施の形態と同様に高圧ノズル400(N1,N2,N3)が複数配置された多段式高圧ノズル構造を示す図であり、複数の高圧ノズルがノズルケース101に収納される。そして、高圧ノズル間にスペーサ5A,5Bが介在されており、前記スペーサ5Aまたは5Bを一部切り欠いた連絡通路5c(図はスペーサ5Bに連絡通路を備える)、あるいは貫通穴(図示しない)が形成されており、ノズルケース101に設けられた、通孔を軸に上下対象に形成された戻し通路Nt1、Nt2と連結され、アスピュレータAsを構成している。したがって、高圧噴射により、低圧チャンバに滞留する原料液は戻し通路Ntと連絡通路5cを介して通孔Naに戻されて、再度高速噴射される。
【0061】
図33は、高圧ノズル400を構成するノズルホルダNhに貫通穴を設け連絡通路5cとし、ノズルケースに設けられた戻し通路と連結され、アスピュレータAsを構成していることを示す図である。
本実施の形態では、ノズルホルダNhに設けられた連絡通路5cの位置は、
図42(a)(b)で示すようにA-Aの範囲内であれば、どの位置にあっても良く、ノズルホルダNhの下流側の側端に設ける場合は切り欠いて設けられていても良い。
【0062】
また、戻し通路と連絡通路から構成されるアスピュレータAsは、ノズルの通孔Naを軸として対称に設けられ、十字状に形成されていてもよく(
図34(a)(b))、さらに本数を放射状に増加させて設けても良い。
更に
図35のように、前記スペーサ5A(または5B)を分割して、分割した中央の隙間を連絡通路5cと通孔とし、戻し通路Ntと連結させて、アスピュレータAsを構成することもできる。
【0063】
図36は、複数の高圧ノズルのうち、上流側の高圧ノズルN1がノズルケース102の上流側から収容され、下流側の高圧ノズルN2、N3がノズルケース102の下流側から収容され、ノズルケース102に配したねじ溝Nyとねじ込み押さえ部材Njによって隙間なく螺合される。
また、ノズルケース102には高圧ノズルN1とN2,N3の間とを隔離する隔離壁40aが設けられ、連絡通路5cが形成されており、戻し通路Nt1,Nt2と連結されている。すなわち、ノズルケース102の全体にわたって戻し通路、連絡通路によるアスピュレータAsが構成された例である。
【0064】
以上、上記実施の形態では、多段式高圧ノズルにおいて、ノズルホルダやノズルケース、スペーサに通孔や連絡通を設けた構成で、低圧チャンバ内に滞留する原料液を通孔に戻す構成を示したが、本発明はこれら実施の形態に限られず、多段式高圧ノズルに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
400,N1,N2,N3 高圧ノズル、
Nn,Nn1,Nn2,Nn3,NnM ノズルチップ、
Nh,Nh1,Nh2,Nh3,NhM ノズルホルダ、
Nt,Nt1,Nt2 戻し通路、
100,101,102 ノズルケース、
Nan ノズルチップの通孔、
Nah ノズルホルダの通孔、
Nac ノズルケースの通孔、
5A 第1のスペーサ、
5B 第2のスペーサ、
5c 連絡通路、
8 信号処理判定手段、
9 AEセンサ、
10 原料液、
1a,1b 微粒子の凝集体(スラリー)、
1c 微粒子、
20 懸濁液、
40 低圧チャンバ、
40a 隔離壁、
402 低圧チャンバからの排出口、
500 高圧チャンバ、
600 AE信号の伝播経路、
AEm 計測されるAE信号の強度、
AEp 粒子のキャビテーションによる信号、
As アスピュレータ、
Attu 超音波の伝搬特性(減衰率)、
Np 高圧噴射処理の噴射回数、
Vrms AE信号電圧