(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】回転子と、固定子と、その回転子および固定子からなる内包磁石型同期機、並びに回転子コアと固定子コアの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240415BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2024000682
(22)【出願日】2024-01-05
【審査請求日】2024-01-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 晋平
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-331784(JP,A)
【文献】特開平11-206075(JP,A)
【文献】特開平06-245470(JP,A)
【文献】特開2008-050686(JP,A)
【文献】特開2004-270011(JP,A)
【文献】特開2005-269840(JP,A)
【文献】特開昭53-124708(JP,A)
【文献】特開2000-175387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内包磁石型同期機の回転子は、回転子コアと永久磁石とからなり、
前記回転子コアは、
一軸異方性を有する誘起変態マルテンサイト組織の磁石よりなる回転子コア部品の積層体からなり、回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個の内包部を有し、
かつ
前記内包部の数に応じて一軸異方性を有する磁石板を回転させ、積層してラジアル異方性を有し、
前記永久磁石は、前記内包部に偶数個が配設されており、配向磁場が印可された前記内包部内で射出成形された希土類異方性ボンド磁石からなり、
前記永久磁石の端部から前記回転子コアの外周端に至る磁石端部域は、非磁性部であることを特徴とする回転子。
【請求項2】
請求項1において、
前記永久磁石の一端部から前記回転子コアの外周端に至る磁石端部域、前記永久磁石に隣接する他の前記永久磁石の他端部から前記回転子コアの外周端に至る磁石端部域および前記磁石端部域を連結する連結領域よりなる磁石端部外周側領域は非磁性部からなることを特徴とする回転子。
【請求項3】
内包磁石型同期機の固定子において、
前記固定子の固定子コアは、請求項1に記載の回転子コアと同一化学組成を有し、
熱処理された固定子コア部品の積層体からなることを特徴とする固定子。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の回転子と、固定子とからなることを特徴とする内包磁石型同期機。
【請求項5】
内包磁石型同期機を構成する回転子の回転子コアと固定子の固定子コアの製造方法において、
(1)非磁性のオーステナイト組織を有するFe系合金の板部材を、低温で冷間圧延加工し、80%以上のマルテンサイト組織を誘起させて半硬質磁性板部材とし、
(2)圧延方向に形成・延伸した繊維組織に沿って張力を付加して熱処理を行ない、
(3)プレス加工で、板部材から回転子コア部品と固定子コア部品とを共通の軸で打ち抜き、
(4)回転子コアは、一軸異方性を有する磁石からなる回転子コア部品をコア全体として、ラジアル異方性特性となるように角度を付けて積層して、ラジアル異方性を有する円筒状とし、
(5)固定子コアは、固定子コア部品を再結晶熱処理によりフェライト組織として等方性軟磁性としたうえで、積層して円筒状とし、
回転子コアと固定子コアとを製造することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘起変態マルテンサイト組織の磁石よりなるラジアル異方性の回転子コアと等方性の固定子コアとからなり、かつ回転子コアと固定子コアが同一化学組成からなり、回転子に設けられた内包部に希土類ボンド磁石を形成し、隣り合ったN極とS極が極異方性着磁されている内包磁石型同期機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機(発電機を含めて単に「モータ」という。)には種々のタイプがある。最近では、インバータ制御の発達と高磁気特性の希土類磁石の普及に伴い、省電力で高効率であり高トルクまたは高出力が望める同期機が注目されている。
【0003】
同期機は、界磁用の永久磁石を回転子(ロータ)に有し、電機子巻線(コイル)を固定子(ステータ)に有するモータであって、その電機子巻線に多相交流(AC)を供給することにより固定子に回転磁界が生じて回転するACモータである。同期機は、永久磁石を回転子の表面に配設した表面磁石型モータ(SPM)と、永久磁石を回転子の内部に埋め込んだ埋込磁石型モータ(IPM)とに大別されるが、出力トルクが大きく、磁石の飛散防止を図れて信頼性が高いIPMが現在の主流となりつつある。さらにIPMモータの出力を増加させるために、回転数の増加が図られている。
現在永久磁石としてはNd焼結磁石が主に使用されているが、高速回転化に伴い発熱問題が深刻となり、希土類ボンド磁石への変更が検討されている。
【0004】
さらにNd焼結磁石の問題点として、従来のIPMは、所定の寸法に切削、研磨等され飽和着磁された焼結磁石をロータに設けたスロット(内包部)へ挿入して構成していた。ところが、着磁した強力な希土類焼結磁石をスロットに挿入する際に、その磁石に欠損等が生じやすい。
そこで特許文献1では、従来の焼結磁石から希土類磁石と樹脂からなる溶融ストランドをロータのスロットへ磁場中で射出充填し、冷却固化させる射出成形タイプの希土類ボンド磁石へ置換することを開示している。
以上の事情から、IPMモータの高速回転化と出力アップのために、Nd焼結磁石を変更した射出成形タイプの希土類ボンド磁石の採用が検討されている。
【0005】
特許文献6には、上記問題を解決するために、射出成形タイプの希土類ボンド磁石を用い、高速回転化を図り、同時にロータコアに誘起変態タイプの磁石と磁石端部を非磁性にすることによって出力アップを図ることができることが開示されている。
しかし、ロータコアの誘起変態タイプの磁石にラジアル異方性をどう付与するのかの問題が未解決であり、またステータコアに従来素材を使用した場合、二つのコア素材として異なる材料を使用する場合には大幅なコストアップとなってしまうという問題が生じてしまう。これらの問題の解決が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-206075号公報
【文献】特許第4626683号公報
【文献】特開2013-1433791号公報
【文献】特許第6868174号公報
【文献】特許第7125684号公報
【文献】特許第7394427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
もっとも特許文献1は、単にIPMの希土類焼結磁石を希土類ボンド磁石に置換することを提案している留まり、希土類ボンド磁石の磁場中射出成形に適したロータやスロットの構成等に関して何ら触れていない。
【0008】
特許文献2では、鉄心であるロータの一部に非磁性部を設けることが従来から提案されている。これにより、漏れ磁束が低減され、モータ出力に寄与する有効磁束(鎖交磁束)が増加しうる。もっとも、このような非磁性部は、モータ運転時のロータとステータとの間に形成される磁気回路に着目して配設されているに過ぎず、後述するような希土類ボンド磁石の射出成型時の配向磁場とは関係ない。
【0009】
特許文献3では、希土類ボンド磁石を構成する希土類異方性磁石粒子は、組成によらず、一般的に多用されているフェライト磁石粒子と比較して、磁束密度のみならず保磁力がはるかに高いため、射出成形時の配向にフェライト磁石粒子より高い配向磁場が必要である。従って高性能なIPMを効率的に生産するためには、希土類異方性ボンド磁石の射出成形時に印加する配向磁場を、そのボンド磁石が収まるロータコアのスロットへ有効に作用させる方法が開示されている。
非磁性部の改質は合金元素を転嫁するレーザ溶接などで行なっているが、改質部は凹凸が激しいうえに形状も変化するので、表面研削や形状修正加工などの改質後の処理が複雑で実用的とは言えない。実際には、本件出願は審査請求されることなく放棄されている。当然ながら産業上は使用されていない。
しかし、希土類ボンド磁石はNd焼結磁石に比べて磁石性能の点で落ちるのでモータトルクの点で低下しがちであり、トルクアップ方策が期待されている。
【0010】
特許文献6では、射出成形タイプの希土類ボンド磁石を用い、高速回転化を図り、同時にロータコアに誘起変態タイプの磁石と磁石端部を非磁性にすることによって出力アップを図ることができることを開示している。
【0011】
つまり、発明者らは、2019年に誘起変態タイプの磁石の発明を開示した(特許文献4)。さらに、特許文献5に示すように、磁石式義歯アタッチメントのプレート部品を磁性材料から誘起変態タイプの磁石に変更したところ吸着力が50%も増加した経験を踏まえて、さらに誘起変態タイプの磁石の比抵抗は、72μΩcmと、IPMモータの磁性材料として用いられている3%珪素鋼板の32μΩcmに比べて、2倍以上あることに着目して、IPMモータの回転子の磁性材料を誘起変態タイプの磁石に変更することを検討した。
試行錯誤を重ねた結果、Ni系ステンレス鋼の組織を100%のオーステナイト組織からマルテンサイト組織を80%以上有する組織に変化させて半硬質磁性材料とし、かつ飽和着磁後の磁石性能は、室温において、12,000~16,000Gの飽和磁化と、80~300Oeの保磁力と、残留磁気Br6,000~8,000G、0.2~4MGOeの最大エネルギー積を有する誘起変態タイプの磁石を採用し、さらにロータコアの特定域を改質により非磁性とすることにより、回転子の本体素材を磁性材料で非磁性改質をしていないロータに比べてモータトルクを30%以上増加できることを見出した。しかも、非磁性箇所はレーザや高周波による加熱法で900℃以上に加熱することで、外周部の形状を変化させることなくオーステナイト相に回復して非磁性に改質されることを確認した。
【0012】
しかし、ロータコアの誘起変態タイプの磁石にラジアル異方性をどう付与するのかの問題が未解決であり、またステータコアに従来素材を使用した場合、二つのコア素材を別種とすると大幅なコストアップとなってしまうという問題が生じてしまう。これらの問題の解決が求められていた。
【0013】
本発明は、特許文献6における問題点を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、回転子コア(ロータコア)および固定子コア(ステータコア)は薄板部品を積層することが必要であるとの前提に立って、ラジアル異方性が求められる回転子コアに対しては、一軸異方性を有する誘起変態タイプの半硬質磁性板(半硬質磁性材料の薄板)を積層する際に、角度を付けて積層することでラジアル異方性が確保できることに思い至った。つまり磁極が6極の場合には、6枚の一軸異方性の薄板磁石を60度ずつ回転左折組み立てればよいことを見出した。ラジアル異方性を付与した回転子コアを製作し、一軸異方性のものと比較した場合、モータトルクが増加し、かつコギングトルクが大幅に減少することが確認できた。
【0015】
上記誘起変態組織を有する半硬質磁性材料は、焼きなまし熱処理によって再結晶フェライト組織にすると前記磁石と同一化学組成を有する軟磁性素材となる。この点に着目して、誘起変態タイプの磁性板から回転子コアと固定子コアとを同軸を保ってプレス加工して作製し、固定子コア部品は焼きなまし熱処理をして、軟磁性素材にして、それを積層して固定子コアを製作した。ケイ素鋼板からなる従来のものと比較した場合、透磁率がやや劣るという特性があるが、比抵抗は2倍と優れており、総合的効果で同等のモータトルクを得ることができた。
【0016】
ラジアル異方性を有する積層回転子コアおよび等方性の軟磁性特性を有する積層固定子コアの製造方法は、
(1)非磁性のオーステナイト組織を有するFe系合金の板部材を、低温で冷間加工し、80%以上のマルテンサイト組織を誘起させて半硬質磁性板部材として、
(2)圧延方向に形成し、延伸した繊維組織に沿って張力を付加して熱処理を行い、磁気異方性を強化して磁石特性を改善し、
(3)プレス加工で、上記板部材(張力熱処理板部材)から回転子コア部品と固定子コア部品を共通の軸で打ち抜き、高い歩留まりを確保し、
(4)回転子コアは、一軸異方性を有する半硬質磁性板からなる回転子コア部品をコア全体として、ラジアル異方性特性となるように角度を付けて積層して、ラジアル異方性を有する円筒状とし、
(5)固定子コアは、固定子コア部品を再結晶熱処理によりフェライト組織として等方性軟磁性としたうえで、積層して円筒状として、
回転子コアと固定子コアを製造することができることを見出した。
【0017】
(1)内包磁石型同期機の回転子と固定子コア
回転子は、誘起変態マルテンサイト組織の磁石と回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個の内包部を有し、内包部に設けられた偶数個の永久磁石を備える。
永久磁石の端部から回転子の本体の外周端に至る磁石端部域は非磁性部からなる。また、一つの永久磁石の一端部から回転子の本体の外周端に至る磁石端部域、隣接する永久磁石の他端部から回転子の本体の外周端に至る磁石端部域および磁石端部を連結する連結領域よりなる本体の磁石端部外周側領域は非磁性部からなる。
永久磁石は、配向磁場が印加された内包部内で射出成形された希土類ボンド磁石からなる。
固定子コアは、前記磁石と同一化学組成を有する軟磁性素材からなる。
【0018】
本発明の回転子は、極異方的に配向させた永久磁石(希土類ボンド磁石)とラジアル異方性を有する誘起変態タイプの磁石部からなり、両者は一体となって射出成型時に極異方性着磁され、同時に同一化学成分を有する軟磁性材料からなる固定子コアと組み合わされて、内包磁石型同期機の高トルク化とコギングトルクの低減という高性能化に寄与する。この理由は次のように考えられる。
【0019】
先ず本発明の回転子では、
図4(b)に示すように、内包部に収納される永久磁石の端部から本体の外周端までが非磁性部となっている場合(磁石端部域の非磁性部という。)と、
図4(c)に示すように、内包部に収納される永久磁石の端部から延在して本体(ロータコア)の外周端までと、隣接する他の永久磁石の端部から延在して本体の外周端までと、両者の外周端を連結する外周側領域が、非磁性部となっている場合(磁石端部外周側領域の非磁性部という。)がある。
このような非磁性外周側領域を伴う内包部へ射出成形時に配向磁場が印加されると、配向磁場は、永久磁石の内側磁極部から外側磁極部に流れ、続いて隣接する永久磁石の外側磁極部から内側磁極部に流れる。
しかし、この時に磁石端部の非磁性部が存在しないと、希土類異方性磁石粉末の配向に寄与しない永久磁石の内側磁極から外側磁極に直接流れる大きな漏れ磁束が存在し、配向磁場が弱まることになる。
逆に磁石端部の非磁性部が存在すると、漏れ磁束が激減し、配向磁場が強められることになる。また、磁石端部外周側領域の非磁性部が存在すると、永久磁石の内側磁極から外側磁極に直接流れる大きな漏れ磁束がさらに低減されるので、配向磁場がより強くなる。
逆に言うと、射出成形時に外部から回転子へ印加した配向磁場は、回転子の内包部内および誘起変態タイプの磁石部に高密度に分布するようになり、希土類異方性磁石粉末の配向に寄与する有効磁束が大幅に増加する。従って、本発明に係る希土類異方性ボンド磁石は、1T以上の配向磁場が作用した状態で射出成形することが可能となる。
【0020】
コギングトルクが低減できる理由は、回転子コアの磁石と内包部に射出成形で形成された磁石が、一体となって、極異方着磁をされて、優れた軸対称性着磁されるためである。また回転子コアの磁石がラジアル異方性を有するため、どの方向にも極異方性着磁の磁力が軸対象となるためである。
【0021】
また、1T以上の印加配向磁場の場合にその希土類ボンド磁石は飽和着磁された状態で成形される。飽和着磁される理由は、射出成型温度が200℃以上と高いために、希土類磁石の磁粉の保磁力が0.5T程度に小さくなっているためである。射出成形の終了後のも飽和着磁の状態は維持されるので、射出成形後の着磁(後着磁)も不要となり得る。これは、後着磁工程で3T程度の着磁磁界が必要な難配向性磁石粉末である希土類異方性磁石粉末(例えばNd-Fe-B系磁石粉末等)からなる希土類異方性ボンド磁石の場合に特に有効である。
【0022】
同時に、誘起変態タイプの磁石材料から形成したラジアル異方性を有する積層回転子コアも、希土類磁石のN極からS極に向かう配向磁場によって半硬質磁性特性から配向飽和着磁されて永久磁石になり、ロータの磁極から発する磁束は、回転子のコア素材を磁性材料から誘起変態タイプの磁石への変更によって10%程度増加する。これによりモータトルクは10%程度増加する。
【0023】
さらに、永久磁石の異なる磁極面である端部(端面)の位置から回転子本体の外周端までの延在する磁石端部域を非磁性化(
図4(b)に示す。)することによって、または永久磁石の異なる磁極面である端部(端面)の位置からロータ本体の外周端まで延在する磁石端部域と他の永久磁石の異なる磁極面である端部(端面)の位置からロータ本体の外周端まで延在する他の磁石端部域と、それら2つの磁石端部域を連結する連結領域からなる磁石端部外周側領域を非磁性(
図4(c)に示す。)にすることによって、その磁束は30%程度増加する。これによりモータトルクは30%程度増加する。
【0024】
なお当然ながら、本発明では、回転子に内包される永久磁石がボンド磁石であるため、焼結磁石を埋め込む場合と比較して、多くの利点を有する。例えば、希少で高価な希土類の使用を抑制できる。また、焼結磁石を用いる場合、精密研削加工や着磁が必要であるが、射出成形磁石の場合そのような加工は不要である。加えて加工屑も生じないので、希少で高価な希土類を無駄にすることもない。
【0025】
他方、焼結磁石を用いる場合、内包部(スロット)へ焼結磁石を挿入する際に内包部内に固定する接着剤が必要となり、その結果磁石と回転子の磁性材料の間に非磁性の間隙が生じて磁気抵抗を大きくして磁束の流れを損なうことになる。また永久磁石を飽和着磁して内包部内に設置する必要があり、そのため永久磁石と回転子の磁性材料に衝突して欠損等を生じたりするトラブルが発生する。
しかし、内包部内に一体成形されるボンド磁石なら、自ずとスロット内に強固に密着固定されるため、焼結磁石のような欠点がない。
【0026】
また、同期機の運転時、焼結磁石には大きな渦電流による鉄損が生じ得る。回転数が増加するほど渦電流損はその二乗で大きくなり、それに伴って磁石が発熱し、保磁力が低下し、ついには電磁石からの反磁界で減磁することになってしまう。
他方、ボンド磁石は各磁石粒子が絶縁体であるバインダ樹脂で絶縁された状態になっているため、生じる渦電流による鉄損は非常に小さい。従ってボンド磁石を内包した回転子からなる同期機は効率的である。またボンド磁石は、各磁石粒子がバインダ樹脂で被覆された状態となっているため、表面処理等を行うまでもなく高い耐酸化性を有する。
【0027】
<内包磁石型同期機>
(1)本発明は上述した回転子コアと固定子コアを有する内包磁石型同期機である。すなわち本発明は、上述した回転子と、その回転子の外周囲に均等に配設されたコイルとそのコイルの外周側で磁気回路を構成するヨークとを有する固定子と、を備える内包磁石型同期機でもよい。なお、適宜、ヨークはコイル内にあるティースを含むことができる。
【0028】
同期機は、基本的に、回転子に設けた永久磁石により形成される磁極と固定子により回転子の外周囲に形成される回転磁界とで生じる吸引力および反発力に基づいて回転力(マグネットトルク)を生じる。もっとも、表面磁石型同期機と異なり埋込磁石型(内包磁石型)同期機の場合、磁極に生じるインダクタンス(Ld)と磁極間に生じるインダクタンス(Lq)との差異を生じ易いため、吸引力に基づくリラクタンス
トルクも回転子に生じることが多い。特にLd<Lqとなる場合、リラクタンストルクとマグネットトルクは同じ方向となり、出力トルクが増大し得る。
【0029】
そこで本発明に係る回転子も、回転子中における永久磁石(内包部)の形状や配置等を調整して、例えば、永久磁石により形成される隣接する磁極間に、この磁極により生じるマグネットトルクと同一方向に作用するリラクタンストルクを生じさせる突極を有するものであると好適である。
同期機の出力は回転数に比例するので、回転数の増加を図ることが望ましい。Nd焼結磁石の場合、高速回転するほど発熱が大きくなり、回転数を3万RPM以上に増加させることは困難である。従って希土類射出成型ボンド磁石を使用する本発明は3万RPM以上の回転数を有する同期機により適している。
【0030】
<内包磁石型同期機の製造方法>
さらに本発明は、上述した内包磁石型同期機としてのみならず、その回転子コアと固定コアの製造方法としても把握できる。すなわち本発明は、(1)非磁性のオーステナイト組織を有するFe系合金の板部材を、低温で冷間圧延加工し、80%以上のマルテンサイト組織を誘起させて半硬質磁性板部材として、(2)圧延方向に形成し、延伸した繊維組織に沿って張力を付加して熱処理を行い、磁気異方性を強化して磁石特性を改善し、(3)プレス加工で、上記の張力熱処理を施した板材から回転子コア部品と固定子コア部品を共通の軸で打ち抜き、高い歩留まりを確保し、(4)回転子コアは、一軸異方性を有する磁石からなる回転子コア部材をコア全体として、ラジアル異方性特性となるように角度を付けて積層して、ラジアル異方性を有する円筒状とし、次いでその円筒の内包部と回転子表面の中間領域または外周側領域をレーザ加熱により非磁性部とし、
(5)固定子コアは、固定子コア部品を再結晶熱処理によりフェライト組織として等方性軟磁性としたうえで、積層して円筒状として、固定コアと回転子コアを製造することを特徴とする製造方法である。
【0031】
円筒状の回転子コアは、回転中心軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる内包部を有している。空隙の端部から回転子コアの表面の中間領域または外周側領域を加熱して非磁性部としたうえで、空隙部に溶融したバインダ樹脂中に希土類異方性磁石粉末を分散させた溶融混合物を配向磁場中で射出充填して、希土類異方性ボンド磁石を成形すると同時に、飽和着磁して回転子とする。
ここで、中間領域とは永久磁石の端部から回転子コアの外周端に至る磁石端部域と定義することができる。また、外周側領域とは、永久磁石の一端部から回転子コアの外周端に至る磁石端部域、永久磁石に隣接する他の永久磁石の他端部から回転子コアの外周端に至る磁石端部域および磁石端部域を連結する連結領域よりなる磁石端部外周側領域と定義することもできる。
【0032】
固定子コアに界磁用コイルを取り付けて固定子とする。上記回転子と組み合わせて内包磁石型同期機を製造することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、3万RPM以上の回転を有するIPMモータにおいて、着磁状態の軸異方性が改善されて、モータトルクを30%以上の増加し、コギングトルクの低減をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】円筒状の回転子予備体を構成する半硬質磁性材料、内包部および非磁性部の平面断面図である。
【
図3】円筒状の回転子を構成する誘起変態タイプの磁石、永久磁石および非磁性部の平面図である。
【
図4】回転子予備体の部分図であって、(a)内包部を形成した打ち抜き材、(b)磁石端部域のみの非磁性部、(c)磁石端部外周側領域の非磁性部を示す平面図である。
【
図5】回転子コアと固定子コアの製造工程のフロー図である。
【
図6】半硬質磁性板から回転子コアと固定子コアの同時打ち抜き加工の方法を示す図である。
【
図7】打ち抜き加工により作製した回転子コア部品の平面図である。
【
図8】打ち抜き加工により作製した固定子コア部品の平面図である。
【
図9】ラジアル異方性を有する回転子コアの積層方法を示す図である。
【
図10】回転子コアの積層状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の内包磁石型同期機の回転子コアは、一軸異方性を有する誘起変態タイプの磁石からなり、回転中心軸を有し、その回転軸の周囲に軸対称的に配置された空隙からなる偶数個の内包部を有し、内包部の数(以下、6個の内包部の例とする。)に応じて一軸異方性異方性を有する磁石板を
図9に示すように30度で6回ほど回転させ、
図10に示すように積層してラジアル異方性を有する。
回転子本体は、積層タイプの回転子コアの前記内包部に設けられた偶数個の永久磁石を備え、前記永久磁石の端部から前記回転子の本体の外周端に至る磁石端部域は非磁性部からなり、前記永久磁石は、配向磁場が印可された前記内包部内で射出成型され、配向磁場に沿って配向されると同時に飽和着磁している希土類異方性ボンド磁石からなることを特徴とする。
【0036】
また、内包磁石型同期機の回転子コアの非磁性部は、
前記永久磁石の一端部から前記回転子の本体の外周端に至る磁石端部域、前記永久磁石に隣接する他の前記永久磁石の他端部から前記回転子の本体の外周端に至る磁石端部域および前記磁石端部域を連結する連結領域よりなる磁石端部外周側領域は非磁性部からなることを特徴とする。
以下、
図1~
図4を用いて詳細に説明する。
【0037】
<内包磁石型同期機の回転子>
(1)本体(回転子)
回転子の本体11は、誘起変態タイプの磁石10からなり、その材質は問わないが、常温で非磁性のオーステナイト相で、冷間加工後に磁性のマルテンサイト相となる半硬質磁性材料のCr-Ni系ステンレス鋼やMn系非磁性鋼などのFe系合金材料が好ましい。形状は、通常、両面を絶縁被覆した薄板の積層体からなる。
これにより、局部加熱による部分改質により非磁性部を容易に形成することができる。
【0038】
(2)内包部
回転子11の内包部12、121~126は、上記本体11中に設けられ、永久磁石を配設するための空隙からなる。内包部12、121~126は、磁極となる永久磁石を内包するため、少なくとも2以上あり、通常、これらは本体の回転中心軸周りに対称に配置される。
【0039】
内包部の形状は、内包部全体に高い配向磁場を均一的に作用させることができるように内周側に凸な形状をした凸型内包部で、滑らかな曲線形状からなる。
なお、内包部の形状は同期機の仕様等に応じて適宜調整される。例えば、磁極数が6極の場合において、内包部12、121~126は、中心から半径方向へ直線状に延在する放射型内包部(12、121~126)でもよい。また内包部は均一的な溝幅からなると好ましい。逆にいうと、印加した配向磁場が局所的集中しやすい急激な形状変化や寸法変化がないほど好ましい。
【0040】
さらに内包部は、半径方向に複数ある多層型内包部でもよい。多層型内包部にすると、リラクタンストルクの増大を図れる。多層型内包部の層数は問わないが、2層または3層が同期機の特性と生産性の両立を図る上で好ましい。
【0041】
本発明では、永久磁石が射出成形された希土類ボンド磁石(以下、ボンド磁石という。)からなるため内包部がどのような形状であっても、永久磁石は内包部の形状に基本的に沿ったものとなる。但し、内包部にスペーサー等を介在させて射出成形することも可能なため、内包部の形状と永久磁石の形状が一致しないこともある。ボンド磁石には等方性タイプと異方性タイプの2種類があるが、異方性タイプの採用が好ましい。
これにより、回転子の磁界分布・バラツキや局所発熱を解消し、回転子の高速回転を可能ならしめてIPMモータの出力アップが可能となる。
【0042】
(3)非磁性部
非磁性部14は、透磁率が1.2以下となる箇所である。回転子本体11を構成する誘起変態タイプの磁石10に飽和磁化させる前の半硬質磁性材料を部分的に改質した改質部により非磁性部14、141~146は構成される。
これにより、磁気回路を効率化することが可能となり、モータトルクが30%向上することが期待できる。
【0043】
ここで半硬質磁性材料の改質は、強磁性を有するマルテンサイト組織からなる半硬質磁性材料を非磁性なオーステナイト組織に回復させることにより行える。このような改質は、900℃以上の局部的な加熱、レーザや電子ビーム等の照射や高周波誘導加熱等により安定的に行うことができる。
【0044】
図4により非磁性部の形成について、6極の磁極数からなる部分図にて説明する。
(a)内包部を形成した打ち抜き材
半硬質磁性材料111の薄板から回転子予備体(予備本体)110を打ち抜きにより作製する。その外周を外周端111eとする。
内包部121、隣接する122には、その端面(端部)はそれぞれ2ケ所あり、一端面を121a、他端面を121bおよび122a、122bとする。
内包部121の端部121aから外周端111eまで延在する領域を磁石端部域121amとする。以下、同様に内包部の端部から外周端まで延在する領域を磁石端部域とする。
【0045】
(b)磁石端部域の非磁性部
半硬質磁性材料よりなる磁石端部域121a、121b、122a、122bを局部加熱してマルテンサイト組織からオーステナイト組織に改質して非磁性部141a、141b、142a、142bを形成する。
この改質による非磁性部は、1個の内包部につき両端部に形成することから2ケ所形成される。
【0046】
(c)磁石端部外周側領域の非磁性部
内包部121の一端部121aと内包部122の他端部122bとは隣接していることから、内包部121の磁石端部域121amと隣接する内包部122の磁石端部域122b(図での符号略)および両者の磁石端部域を連結している連結領域からなる3ケ所の領域を磁石端部外周側領域として1回の局部加熱により改質して非磁性部141を形成する。
この方法では、1個の内包部に1ケ所の非磁性部を形成することが可能となり、局部加熱の回数を半減することができる。
【0047】
ところで本発明に係る非磁性部14は、ボンド磁石が射出成形される部分(内包部121~126)へ、高い配向磁場が均一的に誘導されるように、隣接する永久磁石(ボンド磁石)の間で外周側領域のマルテンサイト組織を加熱により改質して非磁性部とする。
これにより、本体の外部から印加された配向磁場の流れにおいて、内側磁極側から外側磁極側に端部の外周側領域の特定部分を介して直接流れる漏洩磁束を激減させて、配向に寄与する配向磁場を強めることができる。非磁性部は
図4(b)より
図4(c)の方がより漏洩磁束を小さくすることができるので好ましい。
【0048】
上述の非磁性部は、Cr-Ni系ステンレス鋼などからなり、機械的性質に優れているとともに局部加熱による改質されているに過ぎないことから回転子本体の作製時の精度がそのまま維持されており、回転子の高速回転に好適である。
【0049】
<希土類異方性ボンド磁石>
(1)原料
希土類異方性ボンド磁石は、基本的に希土類異方性磁石粉末とバインダ樹脂からなる。希土類異方性磁石粉末は、その種類等が特に限定されず、例えばNd-Fe-B系磁石粉末、Sm-Fe-N系磁石粉末、Sm-Co系磁石粉末等がある。これら希土類異方性磁石粉末は、一種のみならず複数種からなってもよい。
【0050】
バインダ樹脂には、ゴムを含む公知の材料を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリアミドイミド等の熱可塑性樹脂を用いると好ましい。またエポキシ樹脂、網の樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂を適宜用いることができる。
【0051】
(2)射出成形
本発明に係る希土類異方性ボンド磁石は、上記原料からなるペレット等を加熱溶融させた溶融混合物を、配向磁場を印加した内包部へ射出成形した後、冷却固化して成形される。射出成形の各条件は、原料の特性、充填量、内包部の冷却性等を考慮して適宜調整される。例えば、射出成型時の加熱温度(溶融混合物の温度)は、希土類異方性磁石粉末のキュリー点未満が好ましい。
【0052】
また配向磁場は、溶融混合物の固化前に印加されている必要があるが、その開始は射出成型の当初からでも、射出成形の途中からでもよい。例えば、配向磁場源に永久磁石を用いる場合は射出成型の当初からとし、電磁石を用いる場合は射出成形の途中からとしてもよい。配向磁場の印加形態(回転子内に形成させる磁束密度の分布)は、内包部の形状ひいては同期機の仕様に応じて適宜調整される。
【0053】
<固定子>
固定子コアは、上記誘起変態タイプの磁石素材から回転子コアと同時にプレス打ち抜きして一枚の薄板固定子コア部品を製作する。その後600℃から850℃の焼きなまし熱処理をして、フェライト再結晶組織として、半硬質磁気特性を軟磁気特性に改質する。それを積層して固定子コアとする。固定子の所定の部位に界磁用コイルを取り付けて固定子を製作する。
【0054】
上記回転子と固定子を組み合して、内包磁石型同期機を製作する。
【0055】
<内包磁石型同期機とその用途>
本発明は、3万RPMの回転速度を有する内包磁石型同期機(IPMモータ)への適用が適している。その用途は、電機自動車、ハイブリッド車若しくは鉄道車両等に用いられる車両駆動用モータ、エアコン、冷蔵庫若しくは洗濯機等に用いられる家電製品用モータなどに好適である。しかし、上記用途に限定されるものではない。
【0056】
本発明の回転子コアおよび固定子コアの製造方法について、
図5のフロー図を用いて詳細に説明する。
なお、偶数個の内包部の一例として6個の内包部で説明する。
<工程201>
母材は、非磁性のオーステナイト組織を有するFe系合金材料で、Cr-Ni系ステンレス鋼やMn系非磁性鋼などからなる。厚さは1mm程度の鋼板からなる。
【0057】
<工程202>
冷間圧延加工にて、オーステナイト組織のFe系合金の板部材から80%以上のマルテンサイト組織を誘起させて半硬質磁性材からなる厚さ0.2~0.5mm薄板部材(半硬質磁性板部材)を製作する工程である。この工程で、圧延方向に形成された延伸するマルテンサイト組織からなる一軸方向の繊維状組織が形成される。これにより、回転子コア部品は、飽和着磁により磁石を作製することができる。
なお、
図6~
図9において、一軸方向の繊維状組織は圧延方向を鎖線(- - - - -)で示している。
【0058】
<工程203>
圧延方向に形成し、延伸した繊維状組織に沿って張力を付加した熱処理を行なう工程である。
張力熱処理は、20~80kg/mm2の張力にて400~600℃の熱処理を行なう。これにより、磁気異方性を強化して磁石特性が改善される。
【0059】
<工程204>
プレス加工で、回転子コア部品と固定子コア部品を共通の軸で打ち抜く工程である。
図6により説明する。
張力熱処理された半硬質磁性板部材300(圧延方向は左右方向の鎖線301で示す。)をプレス加工にて、まず回転子コア部品310の打ち抜きに先立って不要な内包部312、中心孔(シャフト用)313およびスロット部323を1、2回で打ち抜いて空隙とする。回転子コア部品310を打ち抜いて製作した後、固定子コア部品320を打ち抜いて製作する。
【0060】
<工程205>
プレス加工により製作された回転子コア部品310を
図7で示す。
回転子コア部品310は、薄板の円板311からなり、希土類ボンド磁石が射出成形される内包部312、シャフト挿入用の中心孔313は打ち抜かれて空隙となっている。
【0061】
<工程206>
回転子コア部品310をラジアル積層して回転子コアを製作する工程である。
図9および
図10により説明する。
一軸異方性を有する半硬質磁性板(薄板の円板)からなる回転子コア部品をコア全体として、ラジアル異方性特性となるように角度をつけて積層して、ラジアル異方性を有する円筒状に製作する工程である。
内包部312は6個を有する6軸より、
図9に示すように、1段目には圧延方向に平行とし、2段目には圧延方向から右回転で30度回転した方向とし、3段目にはさらに30度回転した計60度回転の方向とし、以下4段目から6段目にはそれぞれ30度回転させて90℃回転、120度回転そして150度回転させてラジアル異方性特性を形成するように積層する。
円筒状に積層した回転子コア400の斜視図を
図10に示す。
これにより、誘起変態タイプの磁石にラジアル特性が付与され、高速回転が可能となる。
【0062】
<工程207>
プレス加工により製作された固定子コア部品320を
図8で示す。
固定子コア部品320は、薄板のリング321からなり、界磁用コイルが巻回されるティース322を有し、スロット323は打ち抜かれて空隙である。
【0063】
<工程208>
固定子コア部品に、600℃~850℃、好ましくは500~700℃にて再結晶熱処理を行なってフェライト組織として等方性軟磁性とする熱処理工程である。
これにより、固定子としての機能を発揮でき、従来の内包磁石型同期機に使用されている電磁鋼板と遜色ないものとなる。
【0064】
<工程209>
熱処理工程により等方性軟磁性特性を有している固定子コア部品を積層し、円筒状にして固定子コアを製作する工程である。
【0065】
以上の回転子コアおよび固定子コアの製造方法より、
1)回転子コア(ロータコア)の誘起変態タイプの磁石へのラジアル異方性を付与することができるとともに、
2)固定子コア(ステータコア)は、回転子コアの化学組成と同一の素材を使用することができことにより大幅なコストダウンを図ることができる。
【実施例】
【0066】
本発明の内包磁石型同期機に係る実施例について、母材として非磁性オーステナイト組織よりなる18Cr-8Ni系ステンレス鋼を用いて、
図1~
図10により説明する。
図1は同期モータSMの要部断面図を示し、
図2は回転子予備体を構成する半硬質磁性材料、内包部および非磁性部の平面図を示し、
図3は回転子を構成する誘起変態タイプの磁石、永久磁石および非磁性部の平面図を示し、
図4は
図3の回転子予備体の部分図であって、(a)内包部を形成した打ち抜き材、(b)磁石端部域の非磁性部、(c)磁石端部外周側領域の非磁性部を示す平面図を示す。
図5は回転子コアと固定子コアの製造工程のフロー図を示し、
図6は半硬質磁性板
から回転子コアと固定子コアの同時打ち抜き加工の方法を示し、
図7は打ち抜き加工
により作製した回転子コア部品の平面図を示し、
図8は打ち抜き加工により作製した
固定子コア部品の平面図を示し、
図9はラジアル異方性を有する回転子コアの積層方
法を示し、
図10は回転子コアの積層状態を示す斜視図である。
図1に示す同期モータSMは、6極18スロットルタイプである。
以下、ステータSおよびロータ1について詳しく説明する。
【0067】
(1)ステータ
ステータSは、
図1に示すように、18Cr-8Ni系ステンレス鋼フェライト組織よりなる積層鋼板からなり、環状のヨークSaと、ヨークSaから中心方向に向けて均等に突出したティースSbと、隣接するティースSb間に形成されたスロットScからなる。
各スロットScには、ティースSbの周囲に分布巻きされた電磁コイル(図略)が収納される。各電磁コイルへインバータ制御された三相交流が供給されることにより、その周波数と極数に応じた同期速度の回転磁界がステータSに発生する。
【0068】
(2)回転子コア部品
回転子コア部品110は、
図2に示すように、中心孔151とその中心まわりに6つ均等に軸対称的に配置された内周側に湾曲した形状(凸な形状)で貫通した等幅な長溝よりなる内包部121~126とを有する円板状の半硬質磁性材料111が内包部の数に対応した角度だけ回転して積層(
図9、
図10)されてなる。
この半硬質磁性材料111が積層されることにより、ラジアル異方性を有する回転子コア110が形成され、長溝よりなる内包部121~126は永久磁石Mが射出成形される同方向に延びる貫通した内包部となり、中心孔151は同期モータSMのシャフト(図略)が嵌入される方向へ延びるシャフト孔151となる。
【0069】
内包部の端部は、半硬質磁性材料からなる予備本体110の外周端を、非磁性のオーステナイト組織へ改質した改質部141~146(非磁性部)となっている。この改質処理は、処理対象部分である予備本体110の外周領域をレーザで900℃以上に加熱して、局所加熱により行った。
【0070】
(2)回転子
この改質部141~146を両端の外周側に有する内包部12(121~126)内に、磁場中射出成形により希土類異方性ボンド磁石からなる永久磁石Mを形成した。
具体的には、先ず、予備本体110を磁場中射出充填装置(図略)にセットし、隣接する内包部12間で極性が交互に異なる配向磁場を、内包部12に向けて印加する。
さらに、永久磁石M(121M~126M)を形成すると同時に半硬質非磁性材料からなる予備本体を飽和磁化させて誘起変態タイプの18Cr-8Ni系ステンレス磁石を形成した。こうして回転子本体11が作製された。
【0071】
すなわち、これら内包部12へ、Nd-Fe-B系異方性磁石粉末、Sm-Fe-N系磁石粉末およびポリフェニレンサルファイド樹脂(バインダ樹脂)からなるペレットを、加熱溶融してなる溶融混合物を射出充填する。この後、磁場中射出充填装置の金型内で冷却されることにより内包部12内の溶融混合物が固化し、内包部12内に一体成形された永久磁石Mが形成された。こうして、内周側に湾曲した永久磁石Mを環状均等に内包したロータ1が得られた。
【0072】
なお本実施例では、溶融混合物の充填開始時から充填終了時まで、スロット12へ配向磁場を印加した。この際、配向磁場:0.7T、溶融混合物の温度:300℃、射出圧力:80MPa、射出速度:80mm/secとした。
【0073】
これにより永久磁石M中の磁石粒子は、磁場中射出成型時に配向するのみならず、同時に着磁もされ、永久磁石Mは既に高磁束密度を発揮する状態となっていた。このため本実施例では、後着磁を行なう必要がなかった。
【0074】
固定子コアは、上記誘起変態タイプの磁石素材板から回転子コアと同時にプレス加工打ち抜きを行う。これにより固定子コアと回転子コア素材の材料歩留まりを改善した。次にそれを650℃、30分間の焼きなまし熱処理により軟磁気特性を有するフェライト再結晶組織とした。積層して固定子コアとした。固定子コアの所定の位置に界磁コイルを取り付けて固定子を製作した。固定子と回転子を組み合わせて内包磁石型同期機を製作した。
【0075】
(3)モータ
永久磁石Mを内包したロータ1のシャフト孔19に、シャフト(図略)を嵌入して取り付ける。このロータ1をステータS内に回動自在に配設する。この際、ロータ1の外周端面とティースSbの内端面との間に形成されるギャップが一定となるようにした。この同期モータSMが得られた。この同期モータSMをインバータ制御された電源に接続し、ステータSに回転磁界を発生させると、それに同期してロータ1が回転するようになる。
【0076】
なお、同期モータSMでは、永久磁石Mの中央を通るd軸方向のインダクタンスLd1よりも、そのd軸方向からπ/2(電気角)ずれたq軸方向のインダクタンスLq1が大きくなる。このため同期モータSM1には、永久磁石M1によるマグネットトルクTm1のみならず、インダクタンス差(Lq1-Ld1)に基づくリラクタンストルクTr1もマグネットトルクTm1と同方向に発生する。従って同期モータSM1は、より大きな出力を発揮する。またコギングトルクが減少した。なお、以降の実施例でもd軸およびq軸の定義は同様とする。
【産業上の利用可能性】
【0077】
電気自動車、ハイブリッド車若しくは鉄道車両等に用いられる車両駆動用モータ、エアコン、冷蔵庫若しくは洗濯機等に用いせれる家電製品用モータ、各種ロボット機器の駆動モータなど幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0078】
SM:同期モータ(内包磁石型同期機)
1:回転子
10:誘起変態タイプの磁石(板)、12:内包部、14:非磁性部、15:シャフト
M:永久磁石(希土類異方性ボンド磁石)
d:永久磁石Mの中心を通る軸方向
q:d軸方向からπ/2(電気角)ずれた軸方向
2:ステータ
Sa:環状ヨーク、Sb:ティース、Sc:スロット
【0079】
110:回転子の予備体(予備本体)
111:半硬質磁性材料、121~126:内包部、141~146:非磁性部、
151:シャフト孔
【0080】
11:回転子(本体)
10:誘起変態タイプの磁石(誘起変態タイプの磁石部)
110:本体の外周端
121M~126M:永久磁石
121Ma:永久磁石の一端部
122Mb:永久磁石の他端部
141~146:非磁性部
151:シャフト孔
【0081】
30:内包部を打ち抜き形成した半硬質磁性材料
111:半硬質磁性材料(予備本体)
111e:予備本体の外周端
121~122:内包部
121a:内包部121の一端部
121am:内包部121の磁石端部域
121b:内包部121の他端部
122a:内包部122の一端部
122b:内包部122の他端部
30A:磁石端部域の非磁性部
121~122:内包部
141a:磁石端部域121amを改質した非磁性部
141b:磁石端部域121bm(図の符号なし)を改質した非磁性部
142a:磁石端部域122am(図の符号なし)を改質した非磁性部
142b:磁石端部域122bm(図の符号なし)を改質した非磁性部
30B:磁石端部域外周側領域の非磁性部
121~122:内包部
141:磁石端部域外周側領域(121am、122bmおよび両者の連結領域)
の非磁性部
142:磁石端部域外周側領域の非磁性部
146:磁石端部域外周側領域の非磁性部
【0082】
300:回転子コアと固定子コアの同時打ち抜き加工
301:張力熱処理された半硬質磁性板部材
302:圧延方向(鎖線)
310:回転子コア部品
311:薄板の円板
312:内包部
313:中心孔
320:固定子コア部品
321:薄板のリング
322:ティース
323:スロット
400:回転子コア(円筒状にラジアル積層)
【要約】
【課題】
回転子コアの誘起変態タイプの磁石へのラジアル異方の附与よび回転子コアと固定子コアを同一化学組成の素材とすることである。
【解決手段】
内包磁石型の同期機の回転子は、回転子コアとその内包部内に射出成形された希土類ボンド磁石と極異方着磁とからなり、回転子コアは誘起変態マルテンサイト組織の磁石よりなる回転子コア部品の積層体からなり、かつラジアル異方性に配向着磁されている。
固定子コアは、回転子コアと同一化学組成を有して、熱処理された等方性軟磁性特性を有する固定子コアの積層体からなる。
【選択図】
図1