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  • 特許-植物栽培システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】植物栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20240415BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019184530
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021058131
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519361531
【氏名又は名称】松尾 誠也
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西小野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 明
(72)【発明者】
【氏名】北地 一成
(72)【発明者】
【氏名】岡 正晃
(72)【発明者】
【氏名】松尾 誠也
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-048656(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培する養液を貯留する養液タンクと、
前記養液を一時的に貯留できる容量を有し、貯留されている前記養液を加熱する加熱装置を備えた加熱タンクと、
前記養液タンクから前記加熱タンクに至る往路配管と前記加熱タンクから前記養液タンクに至る復路配管とを備え、前記養液タンクと前記加熱タンクとの間で前記養液を循環させる加熱用養液循環機構と、
前記往路配管と前記復路配管とに亘って設けられ、前記復路配管に流れる前記養液の熱を前記往路配管に流れる前記養液に伝達する熱交換器と、
前記加熱タンクにおける前記養液の収容量に応じて前記加熱タンク内の前記養液への加熱動作を変更すべく、前記加熱装置及び前記加熱用養液循環機構を制御する制御装置と、
を備えた養液加熱殺菌システムと、
前記養液タンクから供給された前記養液により植物を栽培する栽培槽と、
前記養液タンクと前記栽培槽との間で前記養液を循環させる栽培用養液循環機構と、を備えた植物栽培システムであり、
前記養液加熱殺菌システムと前記栽培用養液循環機構とは、前記養液タンクを共用しており、
前記養液タンク内の養液と、前記熱交換器での熱交換及び前記加熱タンクでの加熱の後に前記養液タンク内に戻ってきた温度上昇した養液と、が混合され、前記養液タンク内に戻ってきて前記混合される前記養液の容量が前記養液タンクの容量に比べて小さい、植物栽培システム。
【請求項2】
前記養液加熱殺菌システムにおける前記加熱タンクの前記容量が、前記養液タンクの容量よりも小さい、請求項1に記載の植物栽培システム。
【請求項3】
前記養液タンクに貯留された前記養液を冷却する冷却装置と、
前記養液タンクと前記冷却装置との間で前記養液を循環させる冷却用養液循環機構と、を備え、
前記冷却用養液循環機構は、前記加熱用養液循環機構とは別に設けられている、請求項1または2に記載の植物栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培で植物を栽培する際に用いる養液に係る養液加熱殺菌システム、及び、これを備えた植物栽培システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物工場等の人工環境にて、養液栽培で植物を栽培する際に用いる養液は、植物の病害を防止するために殺菌(除菌)が必要である。ちなみに、養液栽培は閉鎖系と非閉鎖系(かけ流し式)とに大別される。閉鎖系には、養液の循環方式に関し、循環式(例えばNFT(薄膜水耕)、DFT(湛液型循環式水耕)、各固形培地耕、少量土壌培地耕に適用)と、非循環式(例えば毛管水耕、パッシブ水耕、保水シート耕に適用)とがある。また、非閉鎖系は例えば各固形培地耕、少量土壌培地耕に適用される。
【0003】
ここで一例として、特許文献1では、オゾン、紫外線、光触媒を用いた養液の除菌方法が提案されている。ところが、本願発明者の知見によると、これらの除菌方法では、植物の病気の原因菌の約8割を占めていると言われる養液中の「真菌」を陰性にするのは容易ではない。陰性にしようとすると、オゾン、紫外線、光触媒の濃度や強度を上げざるを得ず、今度はその影響により一部の肥料要素の不溶化や沈殿を招き、養液中の肥料要素の組成バランスを崩すという悪循環に陥っていた。
【0004】
一方、特許文献2では、加熱による養液(液肥)の殺菌装置が提案されている。このような加熱式は、養液中の肥料要素の組成バランスを崩しにくい点で有利である。
【0005】
しかし、特許文献2に記載の殺菌装置は、循環する養液の全量を加熱殺菌処理するよう構成されている。このため、加熱のために大きなエネルギーが必要になることから、殺菌装置を構成する加熱装置の能力を大きくせざるを得ないとの欠点がある。また、加熱した養液をそのまま植物に供給すると植物が熱の悪影響を受けてしまうため、加熱後に養液の冷却を行う必要がある。この際でも、特許文献2のように全量を殺菌処理する方法では、冷却に大きなエネルギーが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2011/043326号
【文献】特開平3-127918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、養液中の肥料要素の組成バランスを崩しにくい加熱式であって、しかも、加熱のために必要なエネルギーが小さくて済む養液加熱殺菌システム、及び、これを備えた植物栽培システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、植物を栽培する養液を貯留する養液タンクと、前記養液を一時的に貯留できる容量を有し、貯留されている前記養液を加熱する加熱装置を備えた加熱タンクと、前記養液タンクから前記加熱タンクに至る往路配管と前記加熱タンクから前記養液タンクに至る復路配管とを備え、前記養液タンクと前記加熱タンクとの間で前記養液を循環させる加熱用養液循環機構と、前記往路配管と前記復路配管とに亘って設けられ、前記復路配管に流れる前記養液の熱を前記往路配管に流れる前記養液に伝達する熱交換器と、を備えた養液加熱殺菌システムである。
【0009】
この構成によれば、養液タンクとは別に加熱タンクを設け、加熱用養液循環機構を介して養液を循環させるように構成したことにより、植物を栽培するための養液を全量加熱する構成に比べ、加熱装置の能力を小さくできる。
【0010】
そして、本発明は、前記加熱タンクの前記容量が、前記養液タンクの容量よりも小さいものとできる。
【0011】
この構成によれば、加熱タンクの容量が養液タンクの容量よりも小さいことにより、加熱タンクに移動させた養液(養液の全量に対する一部)に対して加熱を行うことができるので、効率よく加熱できる。
【0012】
そして、本発明は、前記養液タンクに貯留された前記養液を冷却する冷却装置と、前記養液タンクと前記冷却装置との間で前記養液を循環させる冷却用養液循環機構と、を備え、前記冷却用養液循環機構は、前記加熱用養液循環機構とは別に設けられているものとできる。
【0013】
この構成によれば、冷却装置と冷却用養液循環機構とを備えることで、加熱により殺菌された養液を植物の栽培に適した温度まで、速やかに冷却できる。
【0014】
そして、本発明は、前記養液加熱殺菌システムと、前記養液タンクから供給された前記養液により植物を栽培する栽培槽と、前記養液タンクと前記栽培槽との間で前記養液を循環させる栽培用養液循環機構と、を備えた植物栽培システムである。
【0015】
この構成によれば、養液タンクとは別に加熱タンクを設け、加熱用養液循環機構を介して養液を循環させるように構成したことにより、養液タンクと栽培槽との間で循環する
養液を全量加熱する構成に比べ、加熱装置の能力を小さくできる。
【0016】
なお、本発明の養液加熱殺菌システムは、前記養液タンクと前記栽培槽との間で前記養液を循環させる栽培用養液循環機構と、を備えた前記植物栽培システムだけでなく、養液を循環させない、非循環式(いわゆるかけ流し式)の養液栽培システムにおいても何らかの理由により養液タンクに真菌が発生する場合があることから、これにも適用可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、植物を栽培するための養液を全量加熱する構成に比べ、加熱装置の能力を小さくできる。このため、養液中の肥料要素の組成バランスを崩しにくい加熱式であって、しかも、加熱のために必要なエネルギーが小さくて済む養液加熱殺菌システム、及び、これを備えた植物栽培システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る養液加熱殺菌システムを備えた植物栽培システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明につき、植物栽培システム1の一実施形態を取り上げて、図面とともに以下説明を行う。
【0020】
本実施形態の植物栽培システム1は、図1に示すように、栽培槽2、養液タンク3、栽培用養液循環機構4と、養液加熱殺菌システム5とを備える。本実施形態で用いられる養液は、植物を成長させるための養分や、植物が病気にならないようにするための薬剤等、植物に有用な水溶性成分が溶かされた水溶液であって、植物栽培システム1の各部を循環する。
【0021】
栽培槽2は植物を栽培する部分であって、養液が植物の根に接するように一定の容量を有している。栽培槽2には、矢印を図示したように、養液が一方向に出入りする栽培用養液循環機構4が接続されている。また、図示しないが、栽培槽2には、栽培対象である植物の根を支持するための支持部が設けられている。また、図示しないが、完全人工光型植物工場の場合には、栽培槽2の周囲(例えば栽培槽2の上方)には照明装置が設けられており、植物を成長させるための光を照射する。本実施形態では、3台の栽培槽2…2が並列して設けられている。しかし、栽培槽2の数量はこれに限定されない。また、複数の栽培槽2…2が設けられる場合には、各栽培槽2を上下方向や水平方向に並べることができる。また、栽培槽2で栽培される植物は、葉物野菜等、養液栽培に適した種々の植物とできる。
【0022】
養液タンク3は、植物を栽培する養液を貯留する一定の容量を有する槽である。養液タンク3の容量は、栽培槽2に滞留する分及び栽培用養液循環機構4を循環する分に対し、余裕を持たせた容量とされている。本実施形態の養液タンク3の容量は、例えば500リットルである。
【0023】
栽培用養液循環機構4は、養液タンク3と栽培槽2との間で養液を循環させるための機構である。栽培用養液循環機構4は、養液タンク3から栽培槽2に至る栽培用往路配管41と、栽培槽2から養液タンク3に至る栽培用復路配管42とを備える。栽培用往路配管41の途中には、栽培用養液循環ポンプ43が設けられている。図示はしていないが、栽培槽2で植物に吸収されたり蒸発したりすることで減少した分の養液全体または養液中の成分を補充するための補充機構が、養液タンク3または栽培用養液循環機構4に設けられている。また、同じく図示はしていないが、栽培用復路配管42の途中には、栽培槽2からの養液を一時的に貯留し、養液の循環を安定させる貯留タンクが設置される場合がある。
【0024】
養液加熱殺菌システム5は、養液を殺菌するために設けられる。殺菌対象の菌は、例えば真菌である。養液加熱殺菌システム5は、栽培用養液循環機構4とは別に(ただし養液タンク3を共用している)設けられている。この養液加熱殺菌システム5は、主に、加熱タンク51、加熱用養液循環機構52、熱交換器53、冷却装置54、冷却用養液循環機構55を備える。ただし、本発明において熱交換器53は必須構成ではなく、設けないこともできる。なお、前記養液タンク3は前述のように栽培用養液循環機構4と共用であるため、概念上、養液加熱殺菌システム5にも含まれている。
【0025】
加熱タンク51は、養液を一時的に貯留できる容量を有する。加熱タンク51は、貯留されている養液を加熱する加熱装置511を備える。本実施形態の加熱装置511は電気ヒータである。ただし、これに限定されず、種々の形式の加熱装置を使用できる。他の形式の加熱装置としては、石油ボイラやガスボイラが例示できる。本実施形態の養液加熱殺菌システム5では、一時的に貯留されている養液を加熱することから、養液タンク3と栽培槽2との間で循環する養液の量よりも、加熱する養液の量を小さくできる。つまり、従来の、養液全量を殺菌処理するやり方に比べて、加熱する対象の養液の量を小さくできる場合がある。このため、省エネルギーに貢献できる。これに伴い、加熱タンク51の容量は養液タンク3の容量よりも小さく設定できる。本実施形態の養液タンク3の容量は例えば200リットルであり、養液タンク3の容量(例えば500リットル)よりも小さい。よって、加熱タンク51の設置スペースを小さくでき、植物栽培システム1全体の省スペース化に貢献できる場合がある。また、加熱タンク51には温度センサ(図示しない)が設けられていて、接続された制御装置(図示しない)により加熱が制御される。
【0026】
加熱用養液循環機構52は、養液タンク3から加熱タンク51に至る往路配管521と加熱タンク51から養液タンク3に至る復路配管522とを備える。加熱用養液循環機構52は、養液タンク3と加熱タンク51との間で、往路配管521及び復路配管522を介して養液を循環させる。この循環のため、往路配管521には加熱用往路ポンプ523が設けられており、復路配管522には加熱用復路ポンプ524が設けられている。本実施形態の加熱用養液循環機構52では、各ポンプ523,524により、例えば1分間に20リットルの養液を移動させられる。
【0027】
養液タンク3の養液は、往路配管521、加熱タンク51、復路配管522を経て養液タンク3に戻る。このように養液は加熱のために循環する。循環は切れ目なく連続してなされてもよいし、バッチ処理として間欠的になされてもよい。本実施形態では後者を採用している。後者の場合、加熱タンク51に貯留し、出入りを止めた分の養液を加熱できるので、温度管理がしやすいメリットがある。
【0028】
熱交換器53は、往路配管521と復路配管522とに亘って設けられる。熱交換器53は、復路配管522に流れる養液の熱を往路配管521に流れる前記養液に伝達する。本実施形態の熱交換器53はプレート型熱交換器である。ただし、これに限定されず、種々の形式の熱交換器を使用できる。熱損失を無視した場合、熱交換器53における往路配管521側の養液の温度上昇と復路配管522側の養液の温度下降は同じである。温度変化の具体例は後述する。
【0029】
冷却装置54は、養液タンク3に貯留された養液を冷却する。本実施形態の冷却装置54はチラーである。ただし、これに限定されず、種々の形式の冷却装置を使用できる。冷却用養液循環機構55は冷却用ポンプ551を備えていて、養液タンク3と冷却装置54との間で養液を循環させる。冷却用養液循環機構55は、加熱用養液循環機構52とは別に設けられている。このため、熱交換器53により温度が低下して養液タンク3に戻った養液に対し、過剰(冷やし過ぎ)でない適切な冷却が可能である。冷却装置54は本実施形態では、冷却用養液循環機構55と共に常時運転されているが、間欠的な運転であってもよい。
【0030】
次に、以上のように構成された養液加熱殺菌システム5における運転の仕方の一例につき説明する。なお、温度や時間の設定はあくまでも一例に過ぎず、これに限定されない。
【0031】
初回(加熱タンク51が空の場合)においては、加熱用往路ポンプ523だけを動作させ、加熱タンク51に一度に殺菌処理する量の養液を貯める。次に、加熱用往路ポンプ523を停止し、加熱装置(電気ヒータ)511を作動させ、加熱タンク51内の養液を60~70℃まで加熱する。
【0032】
2回目以降(加熱タンク51に既に養液が貯まっている場合)は、加熱用往路ポンプ523と加熱用復路ポンプ524を同時に動作させて、熱交換器53において、高温と低温の養液同士で熱交換を行う。その結果、加熱タンク51には45~55℃の養液が入り、養液タンク3には35~45℃の養液が戻る。次に、加熱用往路ポンプ523と加熱用復路ポンプ524を停止し、加熱装置(電気ヒータ)511を作動させ、加熱タンク51内の45~55℃の養液を60~70℃まで加熱する。加熱後、加熱装置511を継続して作動させることで、60~70℃を数分~30分間維持する(保温する)。次に、養液タンク3内の約25℃の養液に、養液タンク3に戻ってきた35~45℃の養液が混合され、養液タンク3内の養液は約25℃より数℃上昇する(上昇温度は混合割合によって異なる)。戻ってきた容量の混合量が養液タンク3の容量に比べて小さいため、養液タンク3内の養液の温度上昇を小さく抑えられる。温度上昇した分、冷却装置(チラー)54によって約25℃まで冷却する。これらを繰り返すことで、殺菌処理を順次行っていく。
【0033】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 植物栽培システム
2 栽培槽
3 養液タンク
4 栽培用養液循環機構
41 栽培用往路配管
42 栽培用復路配管
43 栽培用養液循環ポンプ
5 養液加熱殺菌システム
51 加熱タンク
511 加熱装置
52 加熱用養液循環機構
521 往路配管
522 復路配管
523 加熱用往路ポンプ
524 加熱用復路ポンプ
53 熱交換器
54 冷却装置
55 冷却用養液循環機構
図1