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特許7471607マルチキュービットゲートに基づく量子コンピュータアーキテクチャ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】マルチキュービットゲートに基づく量子コンピュータアーキテクチャ
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/00 20220101AFI20240415BHJP
【FI】
G06N10/00
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2021539854
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 US2019065855
(87)【国際公開番号】W WO2020146083
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】62/789,875
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/708,025
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(73)【特許権者】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンサン
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
(72)【発明者】
【氏名】モンロー クリストファー
【審査官】大塚 俊範
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0114138(US,A1)
【文献】特開2005-134761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップを使用して、マルチキュービットゲートを実装するための方法であって、
それぞれが個別のキュービットとして使用されるために、前記イオントラップ内のイオンを提供するステップであって、各イオンが3つのエネルギー準位を有する、ステップと、
前記イオントラップ内の前記イオンを使用して運動モードを基底状態にするステップであって、前記運動モードは重心(CoM)モードとは異なり、前記イオントラップ内の前記イオンの間隔に基づく空間周波数プロファイルを有し、前記運動モードを低加熱速度にする、ステップと、
CiracおよびZoller(CZ)プロトコルの運動状態として前記運動モードを使用して、前記CZプロトコルの補助状態として前記エネルギー準位のうちの1つを使用して、前記CZプロトコルを実行するステップと、
前記CZプロトコルを実行するステップに続いて、前記イオントラップ内に準備された前記イオンを使用して単一のネイティブ操作として前記マルチキュービットゲートを直接実装するステップであって、前記マルチキュービットゲートは3つ以上のキュービットを有する、ステップと、
を含む、マルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項2】
前記マルチキュービットゲートは、前記イオントラップ内の前記イオンの少なくともサブセットを使用して実装される、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項3】
前記マルチキュービットゲートは、マルチ制御キュービットゲートである、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項4】
前記マルチキュービットゲートは、n制御ZゲートまたはC-Zゲートである、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項5】
前記運動モードは、ジグザグモードである、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項6】
前記運動モードは、ロッキングモードまたはジグザグモードである、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項7】
前記運動モードは、前記イオントラップ内の全てのイオンが結合されたものであり、前記運動モードの空間周波数プロファイルは、バックグラウンド電界ノイズの空間周波数プロファイルとは異なる、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項8】
前記補助状態は、ゼーマン状態または準安定励起状態のうちの1つである、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項9】
前記イオントラップ内の前記イオンの少なくともサブセットを使用して前記マルチキュービットゲートを実装するステップは、第一の方向における単一の広い光ビームと、第二の方向における前記イオンの前記サブセット内の前記イオンのそれぞれに対する個々の光ビームとを含む光アドレス指定スキームを使用して、前記イオンの前記サブセットを制御するステップを含む、請求項2に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項10】
前記第一の方向および前記第二の方向は、反対方向であるか、あるいは前記第一の方向および前記第二の方向は、垂直または法線方向、請求項9に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項11】
前記イオントラップ内の前記イオンの少なくともサブセットを使用して前記マルチキュービットゲートを実装するステップは、前記イオンの前記サブセットに印加される光ビームを変調して、前記運動モード内の周波数ドリフトを補償するステップを含む、請求項2に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項12】
記変調は、振幅変調、周波数変調、位相変調、またはこれら3つの変調の任意の組合せを含む、請求項11に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項13】
前記変調は、1つまたは複数の音響光学変調器(AOM)によって実行される、請求項11に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項14】
前記イオントラップ内の前記イオンの少なくともサブセットを使用して前記マルチキュービットゲートを実装するステップは、前記イオンの前記サブセットを制御するために光ビームを使用するステップと、強度ドリフトを低減するために前記光ビームの強度にパルス補償を適用するステップとを含む、請求項に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項15】
前記マルチキュービットゲートを使用して、1つまたは複数のアルゴリズムを実行するステップをさらに含む、請求項1に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項16】
前記1つまたは複数のアルゴリズムは、グローバーのアルゴリズムを含み、前記グローバーのアルゴリズムの1つまたは複数のオラクルは、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、請求項15に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項17】
前記1つまたは複数のアルゴリズムは、量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)を含み、前記QAOAの1つまたは複数のブール節条件は、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、請求項15に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項18】
前記1つまたは複数のアルゴリズムは、ショアの因数分解アルゴリズムを含み、前記ショアの因数分解アルゴリズムの1つまたは複数の算術回路は、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、請求項17に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項19】
前記マルチキュービットゲートは、制御制御NOTゲート、またはn制御NOT(C-NOT)ゲートのうちの1つである、請求項18に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項20】
前記1つまたは複数のアルゴリズムは、誤り訂正アルゴリズムを含み、前記誤り訂正アルゴリズムの蒸留回路は、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、請求項17に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数のアルゴリズムは、量子シミュレーションを含み、前記量子シミュレーションの一部として実行される多体相互作用のうちの少なくとも1つは、前記マルチキュービットゲートを使用して実行される、請求項15に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項22】
前記1つまたは複数のアルゴリズムは、ハミルトニアンシミュレーションを含み、前記ハミルトニアンシミュレーションの選択-Vゲートは、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、請求項15に記載のマルチキュービットゲートを実装するための方法。
【請求項23】
イオントラップ内にマルチキュービットゲートを実装するためのシステムであって、
それぞれが個別のキュービットとして使用されるために、複数のイオンを有する前記イオントラップであって、各イオンが3つのエネルギー準位を有する、イオントラップと、
前記イオントラップ内の前記イオンを制御するように構成された光学コントローラと、
構成コンポーネントであって、
前記イオントラップ内の前記イオンを使用して運動モードを基底状態にするステップであって、前記運動モードは重心(CoM)モードとは異なり、前記イオントラップ内の前記イオンの間隔に基づく空間周波数プロファイルを有し、前記運動モードを低加熱速度にする、ステップと、
CiracおよびZoller(CZ)プロトコルの運動状態として前記運動モードを使用して、前記CZプロトコルの補助状態として前記エネルギー準位のうちの1つを使用して、前記CZプロトコルを実行するステップと、
前記CZプロトコルを実行するステップに続いて、前記イオントラップ内に準備された前記イオンを使用して単一のネイティブ操作として前記マルチキュービットゲートを直接実装するステップであって、前記マルチキュービットゲートは3つ以上のキュービットを有する、ステップと、
を行うように構成された、構成コンポーネントと、
を備える、マルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【請求項24】
前記マルチキュービットゲートは、n制御ZゲートまたはC-Zゲートである、請求項23に記載のマルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【請求項25】
前記運動モードは、ジグザグモードである、請求項23に記載のマルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【請求項26】
前記運動モードは、前記イオントラップ内の全てのイオンが結合されたものであり、前記運動モードの空間周波数プロファイルは、バックグラウンド電界ノイズの空間周波数プロファイルとは異なる、請求項23に記載のマルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【請求項27】
前記補助状態は、ゼーマン状態または準安定励起状態のうちの1つである、請求項23に記載のマルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【請求項28】
前記マルチキュービットゲートを使用して、1つまたは複数のアルゴリズムを実行するために前記光学コントローラに命令を提供するように構成されたアルゴリズムコンポーネントをさらに備える、請求項23に記載のマルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【請求項29】
前記アルゴリズムコンポーネントは、
グローバーのアルゴリズムであって、前記グローバーのアルゴリズムの1つまたは複数のオラクルは、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、グローバーのアルゴリズムと、
量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)であって、前記QAOAの1つまたは複数のブール節条件は、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、QAOAと、
ショアの因数分解アルゴリズムであって、前記ショアの因数分解アルゴリズムの1つまたは複数の算術回路は、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、ショアの因数分解アルゴリズムと、
誤り訂正アルゴリズムであって、前記誤り訂正アルゴリズムの蒸留回路は、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、誤り訂正アルゴリズムと、
量子シミュレーションであって、量子シミュレーションの一部として実行される多体相互作用のうちの少なくとも1つは前記マルチキュービットゲートを使用して実行される、量子シミュレーションと、
ハミルトニアンシミュレーションであって、前記ハミルトニアンシミュレーションの選択-Vゲートは、前記マルチキュービットゲートを使用して実装される、ハミルトニアンシミュレーションと、
のうちの1つまたは複数を実行するための命令を提供するように構成される、請求項28に記載のマルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【請求項30】
前記システムが量子情報処理(QIP)システムである、請求項23に記載のマルチキュービットゲートを実装するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本特許出願は、2019年12月9日に出願された「マルチキュービットゲートに基づく量子コンピュータアーキテクチャ」という名称の米国非仮出願第16/708,025号、および2019年1月8日に出願された「マルチキュービットゲートに基づく量子コンピュータアーキテクチャ」という名称の米国仮特許出願第62/789,875号の優先権を主張するものであり、両出願の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の態様は、概して、量子システムに関し、より具体的には、量子計算を実行するためのトラップイオンシステムにおけるマルチキュービットゲートのアーキテクチャの実用的な実装に関する。
【背景技術】
【0003】
実用的な実装のために考慮することができる従来の量子コンピュータアーキテクチャは、しばしば、単一キュービットゲートおよび2キュービットゲートによって定義される基本的な汎用ゲートセットの実行に基づいている。これは、主に、多重量子ビットゲート(またはマルチキュービットゲート)が実際に信頼性良く実現することが困難であるという事実から生じる。トラップイオンシステムでは、マルチキュービットゲートの直接実装が提案され、低品質ではあるが実験でも実証されている。いくつかの単一および2つのキュービットゲートから組み立てられたマルチキュービットゲートは、より良好に機能し、これまで好ましいアプローチ方法であった。このようなアプローチから計算機を構築するための系統的な設計努力は、実用的な実装が困難であるために、行われていない。
【0004】
任意のマルチキュービットゲートに基づいて量子コンピュータを操作させることの大きな利点は、異なるアルゴリズムが量子コンピュータまたは量子情報処理(QIP)システムのネイティブ命令セットに分解する効率的な方法に由来する。例えば、制御されたn制御NOTゲート(例えば、トフォリ(Toffoli)ゲートとしても知られる3キュービットゲート)は、演算回路、最適化アルゴリズムおよびグローバー(Grover)のアルゴリズムのような多くの量子アルゴリズムの基礎であり、典型的には、それが実用的に実行され得るように、6つの2キュービットゲート(例えば、CNOTゲート)に分解されることを必要とする。したがって、単一のマルチキュービットゲートを採用し、それを多くのより小さなネイティブ演算(例えば、2キュービットゲート)に分解する必要がなく、それ自体の単一のネイティブ演算として、そのようなマルチキュービットゲートを実行することができると、量子コンピュータまたはQIPシステムにおいて、広範囲の量子アルゴリズムの実装をはるかに効率的にすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、トラップイオンキュービットのチェーンにおける実装を含む量子計算のための柔軟なマルチキュービットゲートの実用的な実装を可能にする技術が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下は、そのような態様の基本的な理解を提供するために、1つまたは複数の態様の簡略化された発明の概要を提示する。この発明の概要は、全ての企図された態様の広範な概観ではなく、全部の態様の主要または重要な要素を識別することも、任意または全部の態様の範囲を線引きすることも意図されていない。その目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の態様のいくつかの概念を簡略化された形態で提示することである。
【0007】
本開示は、量子計算のためのトラップイオンシステムにおいて、マルチキュービットゲートのアーキテクチャの実用的な実装のための技術を記載する。さらに、本開示は、性能を向上させるために、そのようなアーキテクチャで実装され得る種々のアプリケーション回路を説明する。
【0008】
本開示の一態様では、イオントラップを使用して、マルチキュービットゲートを実装するための方法が記載され、この方法は、3つのエネルギー準位を含むイオントラップ内のイオンを有効にするステップと、イオントラップ内のイオンによる運動の基底状態で低加熱速度運動モードを有効にするステップと、CiracおよびZoller(CZ)プロトコルを、前記CZプロトコルの運動状態として、低加熱速度運動モードを使用して、CZプロトコルの補助状態としてエネルギー準位のうちの1つを使用して、実行するステップであって、前記CZプロトコルを実行するステップは、マルチキュービットゲートを実装することを含む、ステップと、を含む。
【0009】
本開示の別の態様では、イオントラップ内にマルチキュービットゲートを実装するためのシステムが記載され、このシステムは、3つのエネルギー準位を含む複数のイオンを有するイオントラップと、イオントラップ内のイオンを制御するように構成された光学コントローラと、構成コンポーネントであって、イオントラップ内のイオンによる運動の基底状態で低加熱速度運動モードを有効にするステップと、少なくとも光学コントローラで、CZプロトコルを、CZプロトコルの運動状態として低加熱速度運動モードを使用して、CZプロトコルの補助状態としてエネルギー準位のうちの1つを使用して、実行するステップであって、CZプロトコルは、イオントラップ内のイオンの少なくともサブセットを使用して、マルチキュービットゲートを実装する、ステップと、を行うように構成された、構成コンポーネントと、を備える。
【0010】
本明細書では、トラップイオンシステムにおけるマルチキュービットゲートのアーキテクチャの実装に関連する様々な態様のための方法、装置、およびコンピュータ可読記憶媒体、ならびにそのようなアーキテクチャのためのアプリケーション回路を説明する。
【0011】
添付の図面は、いくつかの実施態様のみを示しており、したがって、範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の態様に従って、マルチキュービットゲートを実装するためのプロトコルの一般的な記述の一例を示す。
図2A】本開示の態様に従って、線状の結晶内の原子イオンのトラップの図を示す。
図2B】本開示の態様による、トラップされた原子イオンを有するジグザグモードの一例を示す。
図3】本開示の態様に従って、トラップされた原子イオンを使用するマルチキュービットゲートを実装するための光アドレス指定スキームの一例を示す。
図4】本開示の態様に従うコンピュータ装置の一例を示す図である。
図5】本開示の態様に従う方法の一例を示すフロー図である。
図6A】本開示の態様に従う量子情報処理(QIP)システムの一例を示すブロック図である。
図6B】本開示の態様に従って、図6AのQIPシステムのアルゴリズムコンポーネントの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成の説明として意図されていて、本明細書で説明される概念が実施され得る唯一の構成を表すことを意図していない。詳細な説明は、様々な概念の完全な理解を提供する目的で、特定の詳細を含む。しかしながら、これらの概念は、これらの特定の詳細なしに実施され得ることは、当業者には明らかであろう。場合によっては、そのような概念を曖昧にしないようにするために、周知のコンポーネントがブロック図の形態で示される。
【0014】
CiracおよびZoller(CZ)は、彼らの最初の研究の中で、n制御ゲート(C-Zゲート)などのマルチキュービットゲートまたはマルチ制御ゲートを実現または実装するためのプロトコルを記載した(例えば、1995年5月15日に公開されたQuantum Computations with Cold Trapped Ions、Phys.Rev.Lett.74、4091を参照されたい)。n制御ゲートを使用する例として、制御制御NOTゲート(CCNOT)がある。これは、2つの制御(CC-Z、プラス2つのアダマールゲート)を使用し、トフォリゲートとも呼ばれる。トフォリゲートは、量子計算のための普遍的ゲートである3キュービットゲートである。N制御Zゲートは、より多数のキュービット(例えば、トフォリゲートの3つより多いキュービット)に対して実施することができる。例えば、状態x、x、x4、およびxに、4つのキュービットのセット(例えば、キュービットのより大きなセットからのキュービット1、3、4、および6のサブセット)がある場合、制御キュービット1、3、および4が状態「1」にあり、キュービット6も状態「1」にあれば、キュービット6の符号が反転され、そうでない場合、キュービット6の符号は反転されず、すなわち、キュービット6は変化しないままである。キュービット6の符号を変更すると、この例では、4つのキュービットを含む全体的なの量子状態の符号が効果的に変化する。n制御Zゲートは、基本的に、全てのキュービットが「1」状態にある場合にのみ、関係するキュービットの全体的な状態の符号が反転されるので、「ターゲット」に対する特殊な指定はない。キュービット6が、n制御Zゲートが適用される前後に2つのアダマールゲートで補足される場合、これは、3つの制御を有する制御制御制御ゲート(CCCNOT)の例である。ここで、キュービット1、3、および4は制御である。一般に、n制御Zゲートは、両側の2つのアダマールゲートを1つの「特別な」キュービットに適用することによって、n制御NOTゲートに変えることができ、これは、そのキュービットをターゲットキュービットに変える。n制御Zゲートは、非常に特殊なゲートであり、CiracおよびZollerによって記載されたプロトコルは、理論的には可能であるが、高い忠実度で現実に実装することが困難であった。
【0015】
1999年にMolmerとSorensenは、量子計算用の2キュービットゲート(以降MSゲートと呼ぶ)を提案した。このゲートは、CiracおよびZoller(CZ)プロトコルを使用して提案されたゲートよりも、実装のためにより実用的であることが分かった。MSゲートは、イオンの熱運動に対する感度のような、CZプロトコルベースのゲートまたはCZゲートの現実的課題および非理想性の多くを克服した。CZゲートの高忠実度実装は、イオン運動が量子力学的基底状態に冷却され、維持されることを必要とし、これは、実験的に挑戦的な要求を加える。その結果、実行するのが非常に難しく、実行可能な代替案があるため、最近、CZプロトコルを考えている人はほとんどいない。したがって、量子コンピュータまたは量子情報処理(QIP)システムを構築するための現在のアーキテクチャは、MSゲートの使用に基づいている。
【0016】
しかしながら、CZゲートは、望ましい。その理由は、特定のマルチキュービットゲートを直接実装することが可能であり、かつ、マルチキュービットゲートを実装するキュービットのより大きなセットから任意のnキュービットを選択することが可能であり、CZゲートが、いくつかの重要な量子アルゴリズムを効率的に実行するためにMSゲートよりも有利になることによって、フレキシブルになるからである。MSゲートは、マルチキュービットゲートを実装するために使用することができるが、これは、典型的には、CZゲートで可能であるようなマルチキュービット相互作用ではなく、キュービットのセット内の全ての可能なペア間のペアワイズ(2キュービット)相互作用の均一な組合せに限定され、このため、MSゲートの使用は、多くのアルゴリズムの実装において、CZゲートよりも効果的でない。このようなアプローチの一例は、米国特許出願第16/234,112号(発明の名称「効率的な量子回路構成におけるグローバルな相互作用の使用」、2018年12月27日出願)に記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0017】
トラップされたイオン技術に基づく現在のQIPシステム(例えば、表面トラップとも呼ばれるイオントラップを使用する)は、CZゲートの実装で最初に見出された問題および課題を回避することによって、CZゲートを実装することができるフレームワークを提供することができる。そうすることで、様々なタイプのアルゴリズムを、CZゲートの使用により、より効率的な方法に分解することが可能になるだろう。ある問題は、プリミティブゲートと呼ばれるものに非常に自然に分解される。これらのプリミティブゲートを量子コンピュータまたはQIPシステムに実装することができれば、それぞれの問題を非常に効果的に解決することができる。例えば、2キュービットゲートを用いて実装されるべきC4-Zゲートは、15または16もの多くのMSゲートを必要とすることがある。そのため、多くの2キュービットゲートがC-Zゲートに分解するのに必要な場合がある。このゲートは、CZゲートなどの単一のマルチキュービットゲートを使用して、実装することができる。別の例では、n制御ゲートを実現するために必要な2キュービットゲート(CNOTゲートなど)の典型的な数は、n(~An、ここでAは定数、約12)で直線的にスケールする。原則として、マルチキュービットゲートを取り、それをペアワイズゲート(例えば、2キュービットゲート)に分解することは可能であるが、このアプローチは、多くのMSゲートがほとんどの場合に必要とされるので、あまり効果的ではない。
さらに、システムが最近傍(または他の制約)に2キュービットゲートを適用することに制限される場合、一般的なゲート数は、キュービットシステムの残りの部分内のゲートに関与するn+1キュービットの分布に依存するこれらの制約により、さらに増加し得る。
【0018】
本開示は、トラップイオン技術を効果的に使用してCZゲートを実装する方法と、一旦CZゲートが実装されると、種々の種類のアルゴリズムおよび/または計算がCZゲートを用いて非常に効率的な方法で実行され得る方法との様々な態様を説明する。
【0019】
第一に、トラップイオン技術を用いてCZゲートを実現するためには、個々の原子またはイオン内で3つの別個のエネルギー準位を使用することが必要な場合がある。これらは、キュービット状態の|0>および|1>と呼ばれ、利用可能な補助状態の何らかの形成とも呼ばれ得る(例えば、図1参照)。したがって、トラップイオン技術の一部として使用されるイオントラップまたは表面トラップ内の各原子またはイオンは、この構成を有することになる。現在のトラップイオンシステムでは、原子またはイオン中の2つのエネルギー準位のみを利用することに焦点を当てている。
【0020】
第二に、一旦荷電原子がトラップに装填されると、それらは全てクーロン相互作用(電荷による相互反発)により互いに相互作用し、この相互作用は、運動状態と呼ばれる鎖中のイオンの位置の結合運動をもたらす。すなわち、いずれか1つのイオンが振盪されると、全てのイオンが振盪される。k個のイオンが存在する場合、3k個の通常の運動モードまたは運動状態(x、y、およびz方向のそれぞれについてk個の通常モード)が存在する。方向のうちの1つ(例えば、イオンのチェーンにおける2つの横モードのうちの1つ)に焦点を当てると、これらの運動モードのうちの小さな方(trivial one)は、荷電原子(イオンまたは原子イオン)の全てが一緒に移動する質量中心(CoM)モードである。これらの運動モードの別の1つは、隣接するイオンが反対方向に移動するジグザグモードである(例えば、図2B参照)。上述したように、CZゲートについては、多体相互作用を可能にするために、全てのイオンが結合されるモードが望ましい。CoMモードおよびジグザグモードは、そのようなモードの例であり、イオンのうちの1つがヒット(例えば、運動が励起される)されると、他の全てのイオンの運動が励起される。次いで、CZゲートを実装するための条件は、全てのイオンがそれらの運動状態に非常に良好に結合されるモードを選出または選択することである。
【0021】
CiracおよびZollerによって提案されているように、使用されるモードはCoMモードであった。これは、一連の課題を提示し、これが、CZゲートを実装するためのオリジナルのプロトコルが広く使用されず、代わりにMSゲートが好ましいアプローチとなった理由である。
【0022】
図1は、CiracおよびZollerによって提案されたマルチキュービットゲートを実装するためのオリジナルプロトコルの一般的な説明を表すダイアグラム100を示す。オリジナルプロトコルの一部として、運動状態、CoMモードは、運動の基底状態(例えば、|0>m)に下げられる必要がある。すなわち、運動状態は、全ての運動量子を取り除き、次いで、ゲートの持続期間中、運動状態を量子力学的基底状態の運動に置くことによって冷却する必要がある。これは、典型的には容易に行うことができないが、現在のイオントラップ技術では、運動の基底状態で運動状態をもたらし、維持することができるようになった。
【0023】
複数の状態を考慮することができ、ダイアグラム100では、マルチキュービットゲートを実装するために使用されるキュービット(例えば、イオン)に対応する、x、x、x、…、xとして示される。これらの状態は、例示として提供され、プロトコルは、トラップ内のイオンの任意のセットまたはサブセットの状態を使用する柔軟性を有することを理解されたい。プロトコルの一部として、第一の状態xは、最初に、CoMモードである運動状態(操作1)と相互作用し、次に、次の状態xは、運動状態(操作2)と相互作用し、次に、次の状態xは、運動状態(操作3)と相互作用し、これは、最後の状態xまで継続し、運動状態(操作n)と相互作用する。様々な状態を励起して運動状態と相互作用させるために、レーザまたは光ビームを使用してもよい。
【0024】
プロトコルのこの部分が完了すると、プロトコルは、下に戻って、様々な状態を運動状態と逆の順序で相互作用させることによって続行する。例えば、状態xは運動状態(操作2n-3)と相互作用し、状態xは運動状態(操作2n-2)と相互作用し、最後に状態xは運動状態(操作2n-1)と相互作用する。したがって、プロトコル全体は、運動状態と相互作用するときに状態を上昇させ、次いで、運動状態と再び相互作用するときに状態を下降させ、相互作用は、別個のエネルギー準位および運動状態(この場合、CoM状態である)を伴う。プロトコルの最後に、結果は、非常に特定なマルチキュービットゲートになる。
【0025】
図1のダイアグラム100に関連して上記で概説したアプローチを使用することに関する課題の1つは、運動状態を運動の基底状態にし、プロトコルの様々な操作を実行した後、運動状態は、基底状態の特定の(エンタングルした(entangled)絡み合った、重ね合わされた)状態および1つの励起のみの励起状態にあり、この特定の運動状態から変化することができず、そうでなければ、プロトコルは機能せず、マルチキュービットゲートは、予想通りに操作しないことである。しかし、常に、運動状態で起こる自然な加熱または誘起された加熱がある。例えば、イオン(例えば、キュービット)を保持するトラップ内にある程度の電界変動が存在すると、運動状態が励起され、それがゲートプロセス中に生成される特定の運動状態から外れるようにさせる。言い換えると、加熱は(基底状態と1つの励磁だけを有する励磁状態のみで構成される)特定の状態から運動状態をとり、それを熱状態に変えることができ、それによって、プロトコル/マルチキュービットゲートの性能が悪くなる。CoMモードを常に低温に保つことは困難であるため、マルチキュービットゲートを実装するためのオリジナルのCZプロトコルは、実際に高い忠実度で実装することが非常に困難である。
【0026】
本開示は、異なるアプローチを提案する。運動状態にCoMモードを使用するのではなく、低加熱速度モード(例えば、高い空間周波数を持つ運動モード)を、マルチキュービットゲートの実装のために代わりに提案した。さらに、本開示は、補助状態のためのゼーマン準位またはD準位(例えば、準安定励起状態)の使用を提案し、これらの状態のコヒーレンス時間を改善するために、種々の方法を使用することができる(例えば、イッテルビウム(Yb)およびバリウム(Ba)スキームの使用)。本開示において提案されている他の特徴は、システムを実現するための光アドレススキームと、振幅変調/周波数変調(AM/FM)のような技術を用いてモード周波数ドリフトに対してロバストにするためのゲート設計と、レーザ強度ドリフトに対してロバストな赤色側波帯pi(π)および2pi(2π)パルスを作るための補償パルス技術の使用と、スピンおよび運動位相の検討と、それらをロバストに制御する方法と、を含む。
【0027】
運動状態に関して、1つのアプローチは、ジグザグモードまたはジグザグモードに近いものを低加熱速度モードに使用することである。図2Aは、線状結晶210における原子イオン220のトラップのダイアグラム200aを示す。図2Bのダイアグラム200bに示すように、原子イオン220(例えば、キュービット)は、ジグザグモードに励起され得る。線状結晶210は、原子イオン220を閉じ込めるためのイオントラップ(例えば、図6Aのイオントラップ670参照)の一部として電極層を収容する真空チャンバ内に形成することができる。
【0028】
図2Aのダイアグラム200aに戻って参照すると、トラップされ、線状結晶210を形成する原子イオン220は、量子情報処理、したがって、そのような処理に必要なマルチキュービットゲートを実装するために使用されてもよい。原子ベースのキュービットは、異なるタイプの装置として使用され得る。これらの装置には、量子メモリと、量子コンピュータおよびシミュレータにおける量子ゲートと、量子通信ネットワークのためのノードが含まれるが、これらに限定されない。トラップ原子イオンに基づくキュービットは、非常に良好なコヒーレンス特性を有することができ、ほぼ100%の効率で準備して、測定することができ、光場およびマイクロ波場などの適切な外部制御場と、クーロン相互作用を変調することによって、互いに容易にエンタングルすることができる。本開示で使用されるように、用語「原子イオン」、「原子」、および「イオン」は、トラップ内に閉じ込められるか、または実際に閉じ込められて、結晶または同様の配置または構成を形成する粒子を説明するために、互換的に使用され得る。
【0029】
量子情報および計測目的に使用される典型的なイオントラップの幾何学的形状または構造は、線形無線周波数(RF)パウルトラップ(RFトラップ、表面トラップ、または単にパウルトラップとも呼ばれる)であり、ここで、近くの電極層は、イオンの効果的な不均一な高調波閉じ込めにつながる静的および動的電位を保持する。RFパウルトラップは、電場を使用して、荷電粒子を特定の領域、位置、または場所にトラップするタイプ、または閉じ込めるタイプのトラップである。原子イオンがこのようなトラップで非常に低温までレーザ冷却されると、原子イオンはキュービットの静止結晶(例えば、キュービットの構造化配列)を形成し、クーロン斥力が外部閉じ込め力と釣り合う。十分なトラップ異方性のために、イオンは、閉じ込めの弱い方向に沿って線状結晶を形成することができ、これは、量子情報および計測学における用途で典型的に採用される構成である。上述のように、トラップ内の近くの電極によっておそらく引き起こされる電界変動は、運動状態を基底またはゼロモードまたは状態から熱状態に加熱することができる。
【0030】
ダイアグラム200aに示す例では、線状結晶210に閉じ込められたイッテルビウムイオン(例えば、171Ybイオン)をレーザ冷却してほぼ静止させている。捕捉される原子イオン220の数は、構成可能であり得る。この例では、原子イオン220は、蛍光によって示されるように、互いに約5マイクロメートル(μm)の距離215だけ離れている。原子イオンの分離は、外部閉じ込め力とクーロン反発力との間のバランスによって決定される。
【0031】
個々のトラップ原子イオンの強い蛍光は、光子の効率的なサイクルに依存し、したがって、イオンの原子構造は、運動のレーザ冷却、キュービット状態の初期化、および効率的なキュービット読み出しを可能にする強い閉じた光学遷移を有さなければならない。これによって、アルカリ土類(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)および特定の遷移金属(Zn、Hg、Cd、およびYb)のように外殻電子が1つしかないシンプルな原子イオン以外の、多くの原子イオンが除外される可能性がある。これらの原子イオン内で、キュービットは、2つの安定な電子準位によって表され、しばしば、2つの状態|↑>および|↓>、または等価である|1>および|0>を有する有効スピンによって特徴付けられる。
【0032】
キュービット準位間のコヒーレント遷移の場合、単一キュービット回転演算およびエンタングリング(entangling)・マルチキュービット演算が存在することができる。単一キュービット回転演算は、単一キュービット演算または単にキュービット反転と呼ばれることもある。エンタングリング・マルチキュービット演算に関しては、多くのトラップイオンの運動は、バネによって連結された振り子のアレイのように、クーロン相互作用を介して結合される。結晶中の原子イオン間にエンタングリング量子論理ゲートを実装する自然な方法は、その運動を仲介物として用いることである。
【0033】
図2Bのダイアグラム200bに戻って参照すると、一例が示され、矢印で示すように、隣接するイオンが反対方向に移動するとともに、幾つかの原子イオン220がジグザグモードで配列されている例が示されている。このモードは、原子イオン220間の間隔215に部分的に基づいて明確に規定された周波数を有する。空間周波数が高いため、このモードは、あまりよく加熱されない(例えば、低加熱速度モードである)ことが分かる。すなわち、ジグザグモードがその運動の基底状態まで冷却されると、このモードをその運動の基底状態から励起する方法は、例えば、トラップ内の電極によって引き起こされる電界ノイズまたは電界変動をジグザグモードの空間プロファイルに厳密に一致する空間パターンまたはプロファイルを有することである。原子イオン220が互いに約5μm離れていることを考えると、いかなる既存の低ノイズ電界変動も、ジグザグモードの空間パターンまたはプロファイルと一致する可能性は非常に低い。したがって、ジグザグモードは、一般に、その運動の基底状態に留まり、これは、ジグザグモードが、マルチキュービットゲートを実装するためのCZプロトコルの運動状態として使用される場合に望ましい。
【0034】
トラップイオン技術を効果的に使用してCZゲートを実装するための別の条件は、3つの別々のエネルギー準位を有することであり、図1のダイアグラム100では、|0>、|1>、および補助状態|a>として示している。上述のように、本開示は、補助状態|a>のために、ゼーマン準位またはD準位(例えば、準安定励起状態)の使用を提案する。これを可能にするために、操作環境は、例えば、原子イオン220を保護する良好な磁場シールド(または他の形態のシールド)を有することによって、かなり安定である必要がある。
【0035】
マルチキュービットゲートの実装および使用を有効にするために量子コンピュータまたはQIPシステムの一部として使用され得る光学スキームが、図3のダイアグラム300に記載されている。そこでは、単一の広い光ビーム310が、一方向から全ての原子イオン220に印加され、次いで、別の方向からの専用光ビーム320によって、それぞれの原子イオン220が個別にアドレス指定される(例えば、個々に制御される)。この例では、これらの2つのビームは、異なるキュービット準位(典型的には基底状態にある)間のラマン遷移を駆動する。ビーム310および320の方向は、互いに180度(例えば、反対方向)、または互いに90度(例えば、垂直または法線方向)であり得る。このような構成で光ビームを有することによって、また適切な偏光を使用することによって、個々の原子イオン220のキュービット状態および補助状態に対処することが可能である。D準位の使用が望ましい場合、各イオンに集束された周波数安定化レーザビームを使用して、転移をD準位に駆動することができる。
【0036】
トラップイオン技術に基づくマルチキュービットゲートの実装および使用に関連する別の態様は、イオンを閉じ込めるトラップポテンシャルが、経時的に変動し、運動状態の周波数(例えば、モード周波数)を少しドリフトさせる可能性があることである。モード周波数のこのドリフトは、原理的に安定化することができるが、現実的な場合には、ドリフトを生じ、システムは、周波数の変化が生じたときに、その変化を処理することができる必要がある。マルチキュービットゲートが実装され、それとの相互作用がある場合、ドリフトに対して相互作用をロバストにする技法を使用することができるように、モードの周波数が何であるかを正確に知ることが重要である。例えば、相互作用に関与するレーザまたは光ビームに対して振幅変調(AM)および/または周波数変調(FM)を実行することによって(例えば、音響光学変調器(AOM)を使用することによって)、レーザビームによって提供されるパルスまたはパルスシーケンスを調整および/または設計して、それらを周波数ドリフトに対してよりロバストにすることが可能である。すなわち、パルスまたはパルスシーケンスは、周波数ドリフトに対する感度を低くすること、および/またはAMおよび/またはFM変調によって周波数ドリフトを補償するようにすることができる。
【0037】
トラップイオン技術に基づくマルチキュービットゲートの実装および使用に関連するさらに別の態様は、レーザまたは光ビームがマルチキュービットゲートと相互作用するために使用され、レーザビームの強度が経時的に変化またはドリフトする場合があることである。レーザビームの強さを直接的に調節することはできるが、これは、必要とされる精度のレベル(例えば、10-4までの精度)を得るのに十分ではないことがある。この場合に使用され得るアプローチは、補償パルスまたは補償シーケンス技術の適用であり、ここで、パルスがマルチキュービットゲート上に照射される代わりに、位相が変化するパルスのシーケンスが、全体的に安定したレーザビーム強度を生成するために使用される。同様のアプローチが核磁気共鳴(NMR)において使用されており、マルチキュービットゲートに適用可能である。
【0038】
上述したように、本開示は、CZプロトコルを実現するために、運動状態(例えば、ジグザグモード、低加熱速度モード、高い空間周波数モード)および補助状態(例えば、ゼーマン準位またはD準位)としての原子の内部状態の使用に対し、高次モードの使用を提案し、その一方で、CZプロトコルを第一の場所で実施することを困難にした問題および課題を克服する。それから、これは、2キュービットゲート(例えば、MSゲート)を使用してゲートを多数のペアワイズ相互作用に分解しなければならない代わりに、マルチキュービットゲート(例えば、n制御ZゲートまたはC-Zゲート)の直接的な実装を可能にする。
【0039】
上述のCZプロトコルの様々な修正を使用してマルチキュービットゲートまたはマルチ制御ゲートを実装するためにトラップイオン技術を使用する能力によって、また、例えば、個々の光アドレス指定、モード周波数ドリフト補正、および/またはレーザビーム強度ドリフト補正を使用することによって、所与の量子計算を実行するために必要とされる、長時間にわたって、これらのタイプのゲートの品質を維持する能力が追加されたことにより、様々なアルゴリズムをより効率的に実行することが可能になる。
【0040】
第一のそのようなアルゴリズムは、グローバーのアルゴリズムであり、ここで、マルチキュービットゲートを実装することによって、オラクルまたは類似の関数の効率的な回路レベルの実装が可能になる。グローバーのアルゴリズムは、満足度問題を解くために使用されるアルゴリズムである。
【0041】
グローバーのアルゴリズムは、ソートされていないデータベース探索を含む様々なタイプの探索問題で使用することができ、それによって量子計算アプローチから探索を実行し、最良の古典的計算アプローチを超える二次速度改善に至ることができる最適な方法で探索を実行することが可能である。例えば、姓によって編成された電話帳を見て、人の番号が提供されるとき、どの番号が古典的な計算アプローチで提供されたものであるかを見つけるためには、電話帳が電話番号で分類されていないので、その番号について一致が見つかるまで、電話帳の全てのエントリを見る必要がある。なぜなら、電話帳は電話番号でソートされていないからである。ただし、電話番号が人の姓と関連付けられている特別な場合を除く。したがって、m個のエントリがある場合は、最悪のケースでm回、または平均でm/2回調べて、提供された番号と一致する名前を見つける必要がある。代わりに、電話帳が量子データベースに保存されている場合、実行できることは、検索される述語の構成または関数であるオラクルを作成することである。そのため、オラクルが回答を認識できるが、その回答を見つけるようには構成されていない。
【0042】
典型的には、オラクルは、単一の入力を受信するように構成することができ、その入力が正しい回答である場合、オラクルは、出力として「1」または同様/同等のインジケータを返し、そうでなく、入力が正しい回答でない場合、オラクルは、出力として「0」または同様/同等のインジケータを返す。したがって、オラクルによって、電話帳データベース内の数を調べるときと同様に、クエリが入力として提供されることが可能になる。古典的には、一度に1つのクエリしか行うことができない。古典的なオラクルは、次いで、提供された入力が予め割り当てられた条件を満たすかどうかに基づいて、出力「0」または「1」を返す。
【0043】
グローバーのアルゴリズムで使用されるオラクルの量子バージョンは、入力として、全ての状態の重ね合わせを同時に使用することができる。事前に割り当てられた条件が満たされる全ての入力項について、量子オラクルは、それらのエントリを(それ以上あれば、並列に)「マーク」する。(オラクルおよび「手段についての反転」操作からなる)グローバーの演算子の各反復は、測定時に正しい回答が検出される確率を増幅する。グローバーの演算子を繰り返し適用すると、初期状態がすぐに進化して、測定が非常に高い確率で正しい回答を得られる状態になる。グローバーのアルゴリズムでは、量子オラクルは√m回実行でき、回答を見つける確率は1(~100%)のオーダーになる。古典的な場合のようにm回のオーダーで見る代わりに、量子アプローチでは、√m回のオーダーで見る必要があるだけである。
【0044】
量子オラクルがブール関数である場合、量子オラクルは、n制御ZゲートまたはC-Z制御ゲートとすることができる。グローバーのアルゴリズムの単純な実装では、C-Zゲートの実装は量子オラクルである。量子オラクルが、2キュービットゲート(例えば、MSゲート)とのペアワイズ相互作用を用いて実装される場合、この分解は、キュービットの数に依存して行うことが非常に困難であり、その結果、非常に複雑な回路が生じる。その代わりに、量子オラクルの実装のために単一のマルチキュービットゲートを使用することは、はるかに効果的である。
【0045】
グローバーのアルゴリズムに関連して上述した類似のタイプのアプローチは、量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)による課題を解くために使用することができる。QAOAは、特定の最適化問題を解くための発見的アプローチを提供し、満たされる必要がある条件およびいくつかのブール節を考慮に入れる。例えば、所与のグラフが、m個の頂点または任意の頂点のペアを結ぶ点とエッジを含み、目的は、その所与のグラフを二分割することであるとする。QAOAを使用して、二分割分離を達成するために、エッジを除去する最良の方法を決定することができる。したがって、QAOAは、探索問題を解決するための一種の技法であり、それは、移動するセールスマン問題などの最適化問題を解決するために使用することができる。
【0046】
一般に、QAOAは、これらのブール節が満たされたかどうかを見つけようとする。そのために、多重制御操作を実装することが必要となる場合がある。その理由は、量子コンピュータやQIPで適用されるような操作は、全ての制御キュービットが1つの状態にある(例えば、「0」が満たされておらず、「1」が満たされている)場合にのみ、ターゲットキュービットに対する操作を誘起するからである。したがって、多重制御NOTまたは多重制御Zゲートを使用して、量子コンピュータで前述の満足度チェック工程を容易に実施することができる。しかしながら、量子コンピュータ(あるいは充足可能性条件の大きさ)を大きくすれば、満たす必要のある各条件は、単一のマルチキュービットゲートとして実現できる。量子コンピュータでは、全てのパターンを同時に試し、あらかじめ指定された条件を満たすパターンを見つけるために、全ての単一パターンを同時にロードすることが可能であるため、このことは、量子設定において非常に強力である。
【0047】
例えば、いくつかのトラップイオンシステムでは、イオントラップ内に50個以上のキュービットを有することが可能であり、50個以上のビットが各節を含む条件が存在し得る。これらの場合、節に含まれるビット数が、使用されるマルチキュービットゲートのサイズを決定する。したがって、使用される各節は、nが50よりも大きくてもよいn制御ゲートに変わることができ、QAOAの条件は、これらのゲートを使用して実装することができる。
【0048】
本開示から、ネイティブ操作としてマルチキュービットまたはマルチ制御ゲートを実装できることは、ゲートをネイティブ操作のより小さなユニットに分解しなければならないことよりも効果的であることが理解されるべきである。さらに、CZプロトコルに対する修正を使用してマルチキュービットまたはマルチ制御ゲートを実装するための本明細書で説明されるアプローチは、任意の数の制御(たとえば、2つ以上の制御)に適用することができ、ネイティブ操作としてより小さいユニットを使用するが、制御の数が限定される他のアプローチよりも柔軟であり得る。
【0049】
完全に接続されたイオントラッププロセッサ上で本明細書に記載された技術を実行することのさらなる利点があり得る。全てのイオンが結合されるジグザグモードのようなモードが使用される場合、ゲートを行うコストがnの関数として増加する一方で、本開示で説明されるアプローチは、これらのn+1キュービットが量子コンピュータまたは量子情報処理システム内でどのように分配されるかと、ほとんど無関係であるという意味で、ほぼ「フラット」なコスト(またはリソース)を有する任意のn制御zゲートを実装することが可能である。
【0050】
さらに、量子コンピュータまたは量子情報処理システムは、モジュール式とすることができ、すなわち、キュービットの複数のモジュールを有することができる。このようなモジュラーシステムの例は、「ソフトウェア定義された量子コンピュータ」と題する米国特許出願第16/199,993号(2018年11月26日出願)に記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。実行される問題またはアプリケーションのサイズが、単一のモジュール内のキュービットの数よりも大きい場合、モジュール間のキュービットを「テレポート」することが可能であり、「節」のサイズが、モジュール内のキュービットの数よりも小さい(したがって、n制御NOTゲートまたはn制御Zゲートで実施することが可能である)限り、アルゴリズムを効率的に実装することが可能である。
【0051】
上述のアルゴリズムに加えて、他のアプリケーションは、例えば、加算または乗算のような算術の使用を含む。整数算術は、古典的なコンピュータが非常にうまく機能するものである。しかしながら、例えば、離散対数問題、周知のショア(Shor)の因数分解アルゴリズムの一般化を解決するために、演算は、量子コンピュータで実行する必要がある場合がある。ショアの因数分解アルゴリズムでは、それらの結果を量子フーリエ変換QFT)操作に適用する前に、事前に実行する必要な算術演算が多い。ショアの因数分解アルゴリズムのための算術演算は、量子アプローチを使用して実行される必要があり、このような量子演算回路は、通常、NOTゲート、制御NOTゲート、および制御制御NOTゲートを含む。
【0052】
本開示で使用されるように、制御制御NOTゲートおよび制御制御Zゲートは、(ターゲットに適用される2つのアダマールゲート内の)同様または同等のゲートであると考えることができ、上述のように、制御制御NOTゲートは、一般に、トフォリゲートと呼ばれる。トフォリゲートの汎用性のある態様の1つは、可逆古典的計算における汎用ゲートであるので、任意の古典的アルゴリズムを書き込むために使用できることである。したがって、トフォリゲートは、量子回路の一部が可逆古典的操作によって動機付けられた場合、および/またはそれに基づいている場合に、量子計算の文脈において、使用される傾向がある。したがって、少なくとも一部が可逆古典的演算に基づく持つ量子回路は、これらのタイプのマルチキュービットゲートを有することになる。これらの可逆回路のいくつかの例は、最小化またはマッピング問題に適用できる可逆論理回路、特にReed-Muller型を含む。
【0053】
これらのタイプのゲートは、量子演算回路にマルチキュービットゲートを使用するほか、量子誤り訂正符号およびその蒸留回路にも使用できる。
【0054】
本開示に記載されるマルチキュービットゲートの別の用途には、材料の様々な特性のモデル化またはシミュレートに使用されるものなどの量子シミュレーションが含まれる。
いくつかの材料シミュレーションは、量子粒子間の強い相関(例えば、核物理における有効力)をモデル化することを含んでいるため、マルチキュービットゲートは、複数の粒子間の相互作用をシミュレートするアルゴリズムの一部として使用することができる。
【0055】
本開示に記載されるマルチキュービットゲートのさらに別の用途は、選択-Vゲート(Select-V gate)を含み、典型的には、ユニタリーまたは量子信号処理アルゴリズムの線形組合せを使用するハミルトニアンシミュレーションに使用される。それらは、漸近最良のシミュレーションアルゴリズムであり、テプリッツ行列とハンケル行列、または巡回行列と、それらの変形例を視覚的に追跡するため、直接実装して利用することもできる。選択-Vゲートの実装は、マルチキュービットまたはマルチ制御ゲートの使用を必要とする。しかしながら、これらのアルゴリズムの大部分は、フォールトトレランスを仮定している。
【0056】
図4は、上述のようなCZプロトコルの修正バージョンを使用してマルチキュービットゲートを実装し、マルチキュービットゲートを使用する1つまたは複数のアルゴリズムを実行するように構成されたコンピュータ装置400の一例を示す。一例では、コンピュータ装置400は、本明細書で説明する特徴のうちの1つまたは複数に関連する処理機能を実行するためのプロセッサ410を含むことができる。プロセッサ410は、単一または複数セットのプロセッサまたはマルチコアプロセッサを含んでもよい。さらに、プロセッサ410は、統合処理システムおよび/または分散処理システムとして実装されてもよい。プロセッサ410は、中央処理ユニット(CPU)、量子処理ユニット(QPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、またはこれらのタイプのプロセッサの組合せを含むことができる。一態様では、プロセッサ410は、コンピュータ装置400の一般的なプロセッサを意味することができ、このプロセッサは、マルチキュービットゲートの実装を可能にし、そのようなゲートで様々なアルゴリズムを実行するための機能などのより具体的な機能を実行する追加のプロセッサ410を含むこともできる。
【0057】
一例では、コンピュータ装置400は、本明細書に記載する機能を実行するために、プロセッサ410によって実行可能な命令を記憶するメモリ420を含んでもよい。一つの実装では、例えば、メモリ420は、本明細書に記載する1つまたは複数の機能または操作を実行するためのコードまたは命令を記憶するコンピュータ可読記憶媒体に対応することができる。一例では、メモリ420は、図5に関連して以下で説明する方法500の態様を実行するための命令を含むことができる。プロセッサ410と同様に、メモリ420は、コンピュータ装置400の汎用メモリを指すことができ、このメモリは、マルチキュービットゲートを実装し、これらのゲートを操作状態に維持し、および/またはこれらのゲートに基づいてアルゴリズムを実施するための命令および/またはデータなどのより特定機能のための命令および/またはデータを記憶する追加のメモリ420を含むこともできる。
【0058】
さらに、コンピュータ装置400は、ハードウェア、ソフトウェア、およびサービスを利用する1つまたは複数の主体との通信を確立および維持するために提供する通信コンポーネント430を含んでもよい。通信コンポーネント430は、コンピュータ装置400上のコンポーネント間でも、コンピュータ装置400と、通信網を介して配置された装置および/またはコンピュータ装置400にシリアルまたはローカルに接続された装置のような外部装置との間でも通信を実行することができる。例えば、通信コンポーネント430は、1つまたは複数のバスを含むことができ、さらに、外部装置とインターフェースするために操作可能な送信機および受信機にそれぞれ関連する送信鎖コンポーネントおよび受信鎖コンポーネントを含むことができる。
【0059】
さらに、コンピュータ装置400は、データストア440を含むことができ、本明細書で説明する実装に関連して使用される情報、データベース、およびプログラムの大容量記憶を提供するハードウェアおよび/またはソフトウェアの任意の適切な組合せとすることができる。例えば、データストア440は、オペレーティングシステム460(例えば、従来OS、または量子OS)のためのデータリポジトリであってもよい。一つの実装では、データストア440は、メモリ420を含んでもよい。
【0060】
コンピュータ装置400は、また、コンピュータ装置400のユーザから入力を受信するように操作可能であり、さらにユーザに提示するための出力を生成するように、または異なるシステムに(直接的または間接的に)提供するように操作可能なユーザインタフェースコンポーネント450を含むことができる。ユーザインタフェースコンポーネント450は、1つまたは複数の入力装置を含むことができる。入力装置には、キーボード、ナンバーパッド、マウス、タッチセンシティブディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、ファンクションキー、マイクロフォン、音声認識コンポーネント、ユーザからの入力を受信することができる任意の他の機構、またはそれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。さらに、ユーザインタフェースコンポーネント450は、1つまたは複数の出力装置を含むことができる。出力装置には、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザに出力を提示することができる任意の他の機構、またはそれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
一つの実装では、ユーザインタフェースコンポーネント450は、オペレーティングシステム460の操作に対応するメッセージを送信および/または受信することができる。さらに、プロセッサ410は、オペレーティングシステム460および/またはアプリケーション、プログラム、またはアルゴリズムを実行することができ、メモリ420またはデータストア440は、それらを格納することができる。
【0062】
コンピュータ装置400がクラウドベースのインフラ解決策の一部として実装される場合、ユーザインタフェースコンポーネント450を使用して、クラウドベースのインフラ解決策のユーザがコンピュータ装置400とリモートで対話できるようにすることが可能になる。
【0063】
図5は、イオントラップを使用してマルチキュービットゲートを実装するための方法500の一例を示すフロー図である。一態様では、方法500は、上述のコンピュータシステム400のようなコンピュータシステムで実行されてもよく、ここで、例えば、方法500の機能を実行するために、プロセッサ410、メモリ420、データストア440、および/またはオペレーティングシステム460が使用されてもよい。同様に、方法500の機能は、QIPシステム605およびそのコンポーネント(例えば、構成コンポーネント615、光学コントローラ620、イオントラップ670、および/またはアルゴリズムコンポーネント610およびそのサブコンポーネント)などのQIPシステムの1つまたは複数のコンポーネントによって実行され得る。
【0064】
510において、方法500は、3つのエネルギー準位(例えば、キュービット状態、および補助状態)を含むイオントラップ内のイオン(例えば、原子イオン220)を有効にするステップを含む。
【0065】
520において、方法500は、イオントラップ内のイオンとの運動の基底状態において、低加熱速度運動モード(例えば、図2B図200bのジグザグモード)を有効にするステップを含む。
【0066】
530において、方法500は、CZプロトコルの運動状態として低加熱速度運動モードを使用して、CZプロトコルの補助状態としてエネルギー準位のうちの1つを使用して、CZプロトコルを実行するステップを含む(例えば、実用的な実装のためのCZプロトコルの修正バージョン)。CZプロトコルを実装するステップは、マルチキュービットゲートを実装することが含まれる。マルチキュービットゲートは、例えば、イオントラップ内のイオンの少なくともサブセットを使用して、マルチキュービットゲートを実装することができる。
【0067】
方法500の態様において、マルチキュービットゲートは、単一のネイティブゲート操作である。マルチキュービットゲートは、マルチ制御キュービットゲートであってもよい。マルチキュービットゲートは、n制御ZゲートまたはC-Zゲートであってもよい。
【0068】
方法500の別の態様では、低加熱速度運動モードは、ジグザグモードである。低加熱速度運動モードは、トラップイオンシステム内の全てのイオンが強く結合されたものであってもよく、低加熱速度運動モードは、バックグラウンド電界ノイズの空間周波数プロファイルとは異なる空間周波数プロファイルを有してもよい。このような例では、このモードによって提供される全対全接続性によって、チェーン内の任意のセットのキュービットの中で、n制御Z(またはn制御NOT)ゲートを実装することが可能になる。
【0069】
代替的なアプローチでは、特定のセットのキュービットの中でこのセクションで説明されるマルチキュービットゲートの実装は、異なる運動モードを利用することができ、この異なる運動モードは、ゲート内の全てのキュービットを効果的に結合するが、このゲートに関与しない他のキュービットは結合しない。すなわち、選出または選択される運動モードは、ゲートが適用されるイオンセットに依存する。例えば、ゲートが17個のイオンからなる鎖中のイオン1、3、16、および17を含む場合、これらの4つのイオンが強く結合するが、イオンのいくつかはあまりよく結合しない「ロッキング(rocking)」モードを使用することが可能である。これは、ゲートに関与しない他のイオンの励磁を管理または最小化するのに役立つ。モードのこの選択は、イオンの任意のセットに対して普遍的ではないが、ここでのポイントは、ゲートに含まれるイオンのセットに応じて異なるモードを使用することが可能であることである。
【0070】
方法500の別の態様では、方法500は、ゲートが適用されるイオンに基づいて、低加熱速度運動モードを選択することを含んでもよい。例えば、選択される低加熱速度運動モードは、実装されているゲートに対してチェーンまたは結晶のどのイオンが使用されているかに応じてロッキングモードまたはジグザグモードとすることができる。
【0071】
方法500の別の態様では、補助状態は、ゼーマン基底状態(例えば、ゼーマン準位)または準安定励起状態(例えば、D準位)のうちの1つである。
【0072】
本方法500の他の態様は、第一の方向における単一の広い光ビームと、第二の方向におけるイオンのサブセット内のイオンのそれぞれに対する個々の光ビームとを含む光アドレス指定スキームを使用して、イオンのサブセットを制御することによって、イオントラップ内のイオンの少なくともサブセットを使用してマルチキュービットゲートを実装するステップを含む。第一および第二の方向は、反対方向(180度)であるか、あるいは第一および第二の方向は、垂直または法線方向(90度)である。
【0073】
方法500の他の態様は、運動モードにおける周波数ドリフトを補償するために、イオンのサブセットに適用される光ビームを変調することによって、イオントラップ内のイオンの少なくともサブセットを使用して実装されるステップを含む。変調は、振幅変調(AM)、周波数変調(FM)、位相変調(PM)、またはこれら3つの変調の任意の組合せとすることができる。さらに、変調は、1つまたは複数のAOM(たとえば、AOM645)によって実行され得る。
【0074】
方法500の他の態様は、イオンのサブセットを制御するために光ビームを使用または適用することによって、イオントラップ内のイオンの少なくともサブセットを使用して実装されるステップと、強度ドリフトを低減するために光ビームの強度にパルス補償を適用または実行するステップとを含む。
【0075】
方法500は、マルチキュービットゲートを使用して、1つまたは複数のアルゴリズムを実行するステップをさらに含むことができる。1つまたは複数のアルゴリズムは、グローバーのアルゴリズムを含むことができ、グローバーのアルゴリズムの1つまたは複数のオラクルは、マルチキュービットゲートを使用して実装される。1つまたは複数のアルゴリズムは、QAOAを含むことができ、QAOAの1つまたは複数のブール節条件は、マルチキュービットゲートを使用して実装される。1つまたは複数のアルゴリズムは、ショアの因数分解アルゴリズムを含むことができ、ショアの因数分解アルゴリズムの1つまたは複数の算術回路は、マルチキュービットゲートを使用して実装され、マルチキュービットゲートは、NOTゲート、制御NOTゲート、または制御制御NOTゲートのうちの1つとすることができる。1つまたは複数のアルゴリズムは、誤り訂正アルゴリズムを含むことができ、誤り訂正アルゴリズムの蒸留回路は、マルチキュービットゲートを使用して実装される。1つまたは複数のアルゴリズムは、量子シミュレーション(例えば、材料シミュレーション)を含み、量子シミュレーションの一部として実行される多体相互作用のうちの少なくとも1つは、マルチキュービットゲートを使用して実行される。1つまたは複数のアルゴリズムは、ハミルトニアンシミュレーションを含むことができ、ハミルトニアンシミュレーションの選択-Vゲートは、マルチキュービットゲートを使用して実装される。
【0076】
図6Aは、本開示の態様に従うQIPシステム605の一例を示すブロック図である。
QIPシステム605は、量子計算システム、量子コンピュータ、コンピュータ装置などと呼ばれ得る。一態様では、QIPシステム605は、図4のコンピュータ装置400の量子コンピュータ実装の複数部分に対応し得る。
【0077】
QIPシステム605は、原子種(例えば、中性原子のフラックス)を、イオントラップ670を有するチャンバ650に提供するソース660を含むことができ、イオントラップ670は、光学コントローラ620によって一旦イオン化された(例えば、光イオン化された)原子種をトラップする。いくつかの実装では、ソース660は、チャンバ650の内側にある。イオントラップ670は、(図2Aのダイアグラム200aに図示されているように)線状結晶内にイオンをトラップするために使用されてもよい。光学コントローラ620内の光源630は、1つまたは複数のレーザまたは光ビーム源を含むことができ、これは、原子種のイオン化、原子イオンの制御(例えば、位相制御)のために、光学コントローラ620内の撮像システム640内で操作する画像処理アルゴリズムによって監視し、追跡することができる原子イオンの蛍光のために、および/またはCZプロトコルの変形例を使用するマルチキュービットゲート675の実装に関連する光学制御機能、および上述の相互作用などのマルチキュービットゲート675との他の相互作用を実行するために使用することができる。一態様では、光源630は、光学コントローラ620とは別個に実装され得る。
【0078】
撮像システム640は、イオントラップに提供されている間、またはイオントラップ670に提供された後に、原子イオンを監視するための高分解能撮像装置(例えば、CCDカメラ)を含んでもよい。一態様では、撮像システム640は、光学コントローラ620とは別個に実装することができるが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出し、識別し、ラベル付けするための蛍光の使用は、光学コントローラ620と調整する必要がある場合もある。
【0079】
音響光学変調器(AOM)645は、光源630によって生成されるレーザまたは光ビームの変調を実行するために使用されてもよい。変調は、AM、FM、PM、またはこれら3つの任意の組合せを含むことができ、上述したように、モード周波数のドリフトを少なくとも部分的に相殺または補償するために使用することができる。
【0080】
QIPシステム605は、またアルゴリズムコンポーネント610も含むことができ、アルゴリズムコンポーネント610は、QIPシステム605の他の部分(図示せず)とともに操作して、単一キュービット演算またはマルチキュービット演算および拡張量子計算を含む量子アルゴリズムまたは量子操作を実行することができる。そのように、アルゴリズムコンポーネント610は、量子アルゴリズムまたは量子操作の実装を有効にするために、QIPシステム605の様々なコンポーネント(例えば、光学コントローラ620)に命令を提供し、その結果、本明細書に記載される様々な技法を実装することができる。
【0081】
QIPシステム605は、また構成コンポーネント615を含むことができ、構成コンポーネント615は、適切な命令、指令、および/または情報をQIPシステム605の他の部分に提供して、CZプロトコルの修正バージョンを使用してマルチキュービットゲートを実装し、次いで、このように実装されるマルチキュービットゲートを様々なアルゴリズムで使用するのに必要で適切な運動状態および他の条件を有効にすることができる。したがって、構成コンポーネント615は、アルゴリズムコンポーネント610と通信して、どのアルゴリズムを識別し、どのタイプのマルチキュービットゲートをそのアルゴリズムに実装するかを識別することができ、光学コントローラ620で、光アドレス指定スキームのために、またモード周波数および/または強度ドリフトを処理するための技法を実行するために、CZプロトコルの修正版を用いて実行されるべき操作に関連しており、チャンバ650/イオントラップ670は、運動状態を確立するための適切な条件を有効にし、モーター状態との相互作用を実行するためのものである。いくつかの実装では、構成コンポーネント615は、別個のコンポーネントである必要はなく、QIPシステム605の他のコンポーネントに少なくとも部分的に統合することができる。いくつかの実装では、構成コンポーネント615は、上述した各種機能を実行する実行可能命令を有するハードウェアプロセッサとして実装されてもよい。
【0082】
図6Bは、アルゴリズムコンポーネント610の少なくとも一部を示す。この例では、アルゴリズムコンポーネント610は、異なるアルゴリズムの操作をサポートするために異なるサブコンポーネントを含むことができる。これらのサブコンポーネントのそれぞれは、QIPシステム605内の指定されたアルゴリズムの性能に関連する情報を受信し、格納し、および/またはアクセスすることができ、その情報には、その指定されたアルゴリズムの性能のために実装されるマルチキュービットゲートの種類に関連する情報を含む。一つの実装では、アルゴリズムコンポーネント610は、上述したように、グローバーのアルゴリズムの性能に関する情報を有するグローバーのアルゴリズムコンポーネント611を含むことができる。一つの実装では、アルゴリズムコンポーネント610は、上述したように、QAOAの性能に関する情報を有するQAOAコンポーネント612を含むことができる。一つの実装では、アルゴリズムコンポーネント610は、上述したように、ショアの因数分解アルゴリズムの性能に関する情報を有するショアの因数分解アルゴリズムコンポーネント613を含むことができる。一つの実装では、アルゴリズムコンポーネント610は、上述したように、誤り訂正符号の性能に関する情報を有する誤り訂正コンポーネント614を含むことができる。一つの実装では、アルゴリズムコンポーネント610は、上述したように、量子シミュレーションの性能に関する情報を有するn体相互作用量子力学シミュレーションコンポーネント615を含むことができる。一つの実装では、アルゴリズムコンポーネント610は、上述したように、ハミルトニアンシミュレーションの性能に関する情報を有するハミルトニアンシミュレーションコンポーネント616を含むことができる。
【0083】
本開示は、図示された実装に従って提供されたが、当業者は、実施形態にバリエーションがあり得ることも、それらのバリエーションも本開示の範囲内にあることも容易に認識するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、当業者は多くの修正を行うことができる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B