(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】同期回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2753 20220101AFI20240415BHJP
【FI】
H02K1/2753
(21)【出願番号】P 2023174376
(22)【出願日】2023-10-06
【審査請求日】2023-10-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520144842
【氏名又は名称】村井 啓一
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 啓一
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122190(JP,A)
【文献】特開平07-312852(JP,A)
【文献】特開2021-068754(JP,A)
【文献】特開2018-142635(JP,A)
【文献】特開2016-171675(JP,A)
【文献】特開平03-036945(JP,A)
【文献】特開2017-195683(JP,A)
【文献】特開2009-044866(JP,A)
【文献】特開2014-121116(JP,A)
【文献】特開2006-353009(JP,A)
【文献】実開昭56-071044(JP,U)
【文献】特開昭63-023542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2753
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸により回転させられるリング状のロータと、ロータの周囲に設けられるステータとを備え、上記ロータを、上記回転軸の外側に該回転軸の中心軸を中心とする円周方向に沿って同極同士を互いに対向させて等角度間隔に配置され同一形状且つ同一の大きさに形成された複数の永久磁石からなる磁石体と、隣接する磁石体間に配置され該磁石体の側面に接合する側面を有するとともに所定の中心角を有した扇状で同一形状且つ同一の大きさに形成された複数のヨークとを備えて構成した同期回転電機におい
て、
上記磁石体のアキシャル方向の長さをMa、ラジアル方向の長さをMrとし、上記ヨークのアキシャル方向の長さをYa、ラジアル方向の長さをYrとしたとき、Ma<Ya、Mr<Yrに設定
し、上記磁石体のほとんどの磁束を上記ヨークに吸収させることを特徴とする同期回転電機。
【請求項2】
上記磁石体を、その磁束密度をBとしたとき、150mT≦Bの磁石材料で構成し、
上記ヨークの中心角をθとしたとき、20°<θ<40°に設定し、
上記磁石体の側面をこれに直交する方向から見たとき該磁石体の側面の周縁から上記ヨークの側面の周縁を突出させて該磁石体の側面と上記ヨークの側面とを接合させ、
上記磁石体の側面のアキシャル方向一方側の周縁に対する上記ヨークの側面のアキシャル方向一方側の周縁の突出寸法をEaとし、上記磁石体の側面のアキシャル方向他方側の周縁に対する上記ヨークの側面のアキシャル方向他方側の周縁の突出寸法をEbとし、隣接する磁石体の最小間隔をGとしたとき、
0.5mm≦Ea≦5mm、0.5mm≦Eb≦5mm、0.5mm≦G≦5mmに設定したことを特徴とする請求項1記載の同期回転電機。
【請求項3】
上記磁石体の側面のラジアル方向外端側の周縁に対する上記ヨークの側面のラジアル方向外側の周縁の突出寸法をEcとしたとき、0.5mm≦Ec≦5mmに設定したことを特徴とする
請求項2記載の同期回転電機。
【請求項4】
上記ヨークにおいて、25.7°<θ≦36°の範囲であって、該ヨークの数をnとしたとき、n=10,n=12,n=14の何れかにし、上記磁石体を、略直方体状に形成したことを特徴とする
請求項3記載の同期回転電機。
【請求項5】
上記ヨークの側面の外端部に、周方向に沿って突出形成され上記磁石体の外端面が衝止する突片を形成したことを特徴とする
請求項4記載の同期回転電機。
【請求項6】
上記ロータを、上記回転軸が挿通されて固定されるとともに上記各ヨークの基端部を保持する非磁性体からなるホルダを備えて構成したことを特徴とする
請求項5記載の同期回転電機。
【請求項7】
上記ロータを、上記回転軸が挿通されて固定されるリング状に形成され外周部に上記各ヨークの基端部を保持する非磁性体からなるホルダを備えて構成し、上記ヨークの内端部に周方向左右に突出する係合部を設け、上記ホルダの外周部に上記係合部が該ホルダの上記中心軸に直交する一方面または他方面側から挿入されて係合する被係合部を形成したことを特徴とする
請求項5記載の同期回転電機。
【請求項8】
上記ロータを、上記回転軸が挿通されて固定されるとともに上記各ヨークの上記中心軸に直交する一方面及び他方面に夫々付設されて上記各ヨークの基端部を保持する非磁性体からなる一対のプレートを備えたホルダを備えて構成し、上記各ヨークの基端部に上記回転軸の軸方向に沿う第1ボルト挿通孔を形成し、上記ホルダの各プレートに上記第1ボルト挿通孔に対応した複数の第2ボルト挿通孔を形成し、上記一方のプレートの第2ボルト挿通孔、上記各ヨークの第1ボルト挿通孔及び上記他方のプレートの第2ボルト挿通孔に非磁性体からなるボルトを挿通し、各ボルトに非磁性体からなるナットを螺合して、上記各ヨークを一対のプレートで挾持することを特徴とする
請求項5記載の同期回転電機。
【請求項9】
上記ステータとして、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたラジアル位置ステータを備えたことを特徴とする
請求項1乃至8何れかに記載の同期回転電機。
【請求項10】
上記ステータとして、上記ロータの中心軸に直交する一方面及び/または他方面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたアキシャル位置ステータを備えたことを特徴とする
請求項1乃至8何れかに記載の同期回転電機。
【請求項11】
上記ステータとして、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたラジアル位置ステータと、上記ロータの中心軸に直交する一方面及び/または他方面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたアキシャル位置ステータとを備えたことを特徴とする
請求項1乃至8何れかに記載の同期回転電機。
【請求項12】
上記ステータとして、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルと、該複数のステータコイルに夫々対応して設けられステータコイルが巻回される複数のティースとを備えたラジアル位置ステータを備え、
該ラジアル位置ステータのティースを、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面する本体と、該本体の上記中心軸方向両端部から該中心軸に向けて突設され上記ロータの一方面及び他方面に夫々エアギャップを介して対面する対面部を有した凸条体とを備えて構成し、上記ステータコイルを、上記ティースに少なくとも上記凸条体の対面部を露出させて巻回したことを特徴とする
請求項1乃至8何れかに記載の同期回転電機。
【請求項13】
上記本体と上記凸条体との間に絶縁部材を介装したことを特徴とする
請求項12記載の同期回転電機。
【請求項14】
上記ロータ及びステータの組を、同一の回転軸に複数組列設したことを特徴とする
請求項13記載の同期回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸により回転させられるリング状のロータとロータの周囲に設けられるステータとを備え電動機あるいは発電機として構成可能な同期回転電機に係り、特に、永久磁石を同極同士が互いに対向するように独立した扇型のヨークを介して周方向に配置した所謂同極反発型のロータを備えた同期回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の同期回転電機としては、例えば、特開平6-38415号公報(特許文献1)に掲載されたものが知られており、これは、
図31に示すように、回転軸(図示せず)により回転させられるリング状のロータ100と、ロータ100の周囲に設けられるステータ(図示せず)とを備え、ロータ100は、回転軸の外側に回転軸の中心軸Pを中心とする円周方向に沿って同極同士を互いに対向させて等角度間隔(45°)に配置され同一形状且つ同一の大きさで細長の直方体に形成された複数の永久磁石からなる磁石体101と、隣接する磁石体101間に配置され磁石体101の側面に接合する側面を有するとともに所定の中心角(45°)を有した扇状で同一形状且つ同一の大きさに形成された複数のヨーク102とを備えて構成されている。
【0003】
ところで、同期回転電機Kaとして、例えばモータ(電動機)の場合、エネルギー効率の高いモータを得るために、ロータ100の磁石体101として、フェライト系のものに代わり、磁束密度の高い例えばネオジム系磁石を用いたい。しかし、この磁束密度の高い磁石体101を用いたロータ100を設計し安価に生産しようとした際に、
図31に示す磁石体101を独立したヨーク102を介して周方向に配置するタイプのロータ100においては、磁石体がフェライト系磁石では問題ないものの、高磁束密度の磁石体101の場合には、磁力が強力で組み立て実装工程に困難性が生じる。そのため、従来においては、ロータとして磁石体を鉄心に埋め込むタイプにした所謂IPMモータが普及している(例えば、特開平10-66285号公報等参照)。しかしながら、例えば、EVやロボットなどの分野においては、出来るだけ低重量で高トルク、高回転のモータを利用することが求められ、磁石体101を独立したヨーク102を介して周方向に配置するタイプのロータ100は、単位重量あたりのトルク密度に優れていることから、その普及が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-38415号公報
【文献】特開平10-66285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、再度、磁石体101を独立したヨーク102を介して周方向に配置するタイプのロータ100についての問題点を詳しく挙げると、
図31に示すように、このロータ100においては、磁石体101が細長の直方体に形成され、扇型のヨーク102の付け根が広くなっているので、磁束が漏れて本来磁束密度を高めたいラジアル方向の磁束密度が高くならない、本来磁石が保有する磁束を有効に利用することができずエネルギー効率が悪い、という問題がある。そのため、扇型のヨークの付け根幅を狭くするようにし、ヨークの付け根の磁束を極端に少なくしてラジアル方向の磁束密度を高めることが考えられるが、反面、磁気飽和し易くなり、この部分から同極磁石が反発することになるので、上記の実装する場合に磁力が強力で組み立て実装工程に困難性が生じてしまう。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、永久磁石を同極同士が互いに対向するように独立した扇型のヨークを介して周方向に配置したロータを備えたものにおいて、ネオジム磁石などの高性能磁石を用いても、磁石体及びヨークを反発力に拮抗しながら容易に組み立てることができるようにするとともに、磁石体から放射される磁束をヨークに有効に導いて、同時に磁気飽和を防いで高性能磁石とヨークの最適構造化を達成し、磁気的に自動安定して一体化し、高性能磁石が保有するほとんどの磁束密度をヨークに吸収し駆動力に貢献する磁束として放出し最大限活かすことができる同期回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、長年の研究により、磁束密度の高い高性能磁石体とヨークとの関係を検討した結果、磁気飽和させること無く最大効率を生み出すことができる条件を見出し、本発明を完成させた。
即ち、上記課題を解決するための本発明の同期回転電機は、回転軸により回転させられるリング状のロータと、ロータの周囲に設けられるステータとを備え、上記ロータを、上記回転軸の外側に該回転軸の中心軸を中心とする円周方向に沿って同極同士を互いに対向させて等角度間隔に配置され同一形状且つ同一の大きさに形成された複数の永久磁石からなる磁石体と、隣接する磁石体間に配置され該磁石体の側面に接合する側面を有するとともに所定の中心角を有した扇状で同一形状且つ同一の大きさに形成された複数のヨークとを備えて構成した同期回転電機において、
上記磁石体のアキシャル方向の長さをMa、ラジアル方向の長さをMrとし、上記ヨークのアキシャル方向の長さをYa、ラジアル方向の長さをYrとしたとき、Ma<Ya、Mr<Yrに設定し、上記磁石体のほとんどの磁束を上記ヨークに吸収させる構成としている。
より具体的には、上記磁石体を、その磁束密度をBとしたとき、150mT≦Bの磁石材料で構成し、
上記ヨークの中心角をθとしたとき、20°<θ<40°に設定し、
上記磁石体のアキシャル方向の長さをMa、ラジアル方向の長さをMrとし、上記ヨークのアキシャル方向の長さをYa、ラジアル方向の長さをYrとしたとき、Ma<Ya、Mr<Yrに設定し、
上記磁石体の側面をこれに直交する方向から見たとき該磁石体の側面の周縁から上記ヨークの側面の周縁を突出させて該磁石体の側面と上記ヨークの側面とを接合させ、
上記磁石体の側面のアキシャル方向一方側の周縁に対する上記ヨークの側面のアキシャル方向一方側の周縁の突出寸法をEaとし、上記磁石体の側面のアキシャル方向他方側の周縁に対する上記ヨークの側面のアキシャル方向他方側の周縁の突出寸法をEbとし、隣接する磁石体の最小間隔をGとしたとき、
0.5mm≦Ea≦5mm、0.5mm≦Eb≦5mm、0.5mm≦G≦5mmに
設定した構成としている。
【0008】
ここで、150mT≦Bの磁石材料としては、希土類磁石を挙げることができる。希土類磁石は希土類金属(ネオジウム、サマリウム、コバルトなど合計17元素)の粉末を成型してから焼結した高性能なマグネットを言う。サマリウム・コバルトSm-Co系マグネット(通称:サマコバ磁石)と、ネオジウム・鉄・ボロンNd-Fe-B系マグネット(通称:ネオジム磁石)とがある。
また、ヨークとしては、飽和磁束密度が高い鉄系の材料、電磁軟鉄、圧紛鉄心、電磁鋼板、低炭素鋼、珪素鋼板等、適宜の材質のものが選択される。必要に応じて、熱処理を行ない、あるいは、防錆のためのメッキや塗装処理を施すことができる。
【0009】
これにより、ロータを組み立てるときは、
図5に示すように、例えば、予め、1つのヨークの一方側面に1つの磁石体(一方の磁石体)のS極側面を接合させ、このヨークの他方側面に別の磁石体(他方の磁石体)のS極側面を接合させる。若しくは、図示しないが、予め、1つのヨークの一方側面に1つの磁石体(一方の磁石体)のN極側面を接合させ、このヨークの他方側面に別の磁石体(他方の磁石体)のN極側面を接合させる。
【0010】
この場合、本発明によれば、一方の磁石体が吸着したヨークに他方の磁石体を近づけてこれらの面同士を接合しようとすると反発を受けて吸着できない状態が一時的に生じても、他方の磁石体を更に近接させて面接合させるようにするとそのS極の磁束がヨークに吸収されるようになることから、吸着できるようになる。その理由は、本発明では、
図6に示すように、ヨークの中心角θを、20°<θ<40°に設定するとともに、隣接する磁石体の最小間隔Gを0.5mm≦G≦5mmにすることにより、扇型のヨークの付け根幅を狭くするようにし、更に、磁石体の側面をこれに直交する方向から見たとき磁石体の側面の周縁からヨークの側面の周縁を突出させて、即ち、ヨークの周縁(ヨークの全周辺)を磁石体の周縁(磁石体の全周辺)に対して、はみ出すような構成にしたので、特に、
図6(b)及び
図7(a)に示すように、ヨークの周縁を磁石体の周縁に対して、ラジアル方向のみならずアキシャル方向においても、0.5mm~5mm突出させたので、他方の磁石体を更にヨークに近接させて面接合させると、S極の磁束がヨークに吸収されるようになるからである。
【0011】
もし、ヨークの磁石体に対するアキシャル方向の突き出しがない場合には、即ち、
図7(b)に示すように、アキシャル方向において、ヨークの中心軸方向に直交する一方面及び他方面と、磁石体の中心軸方向に直交する一方面及び他方面とが面一(フラット)な場合には、一般に、ネオジム磁石のような高機能磁石は欠け易いので、コーナ部がアール(R)状の面取り形成されていることもあって、コーナ部であるアールの部分から磁束がヨークに吸収されず外部に磁束が漏れ、さらにヨークの付け根付近は磁束が飽和し易いことから、ヨークに対峙する磁石体の同極同士が反発し易くなる。そのため、一方の磁石体が吸着したヨークに他方の磁石体のS極から発生している全磁束が吸収されず、結果としてヨークの付け根付近は磁束が磁気飽和し、ヨーク表面から放出しているS極磁束と反発して吸着させることができない。この状態で無理やり、例えば接着剤で接着したり、拘束手段で拘束しても、磁束を有効に使用することができずに、高磁束密度磁石を使用することの意味が少なくなる。本発明においては、この反発して吸着できなくなる現象を避けることが出来るのである。
【0012】
このようにして、磁石体とヨークとを順次組み付けてリング状のロータにする。そして、組み立てた状態では、扇型ヨークの付け根幅は狭く、ヨークの周縁を磁石体の周縁に対して、ラジアル方向のみならずアキシャル方向においても、0.5mm~5mm突出しているので、磁気飽和し易いヨークの付け根付近も磁束がヨークに吸収され吸着し、同様にヨーク全体の周縁部においても磁束がヨークに吸収され吸着し、磁石の磁束をヨークに導くことができるようになる。このため、ラジアル方向の総磁束密度がヨークの付け根より格段に高くなり、その結果、磁石体の磁束密度を最大効率で活かすことができるようになる。5mmを超えると磁束密度が低下傾向になり、5mm以下の安定吸着のできる範囲に設定することが望ましい。
【0013】
ヨークの周縁の磁石体の周縁に対する突き出し量は、
図20に示すヨークの突き出し量についての試験結果から、3mm以下の安定吸着のできる範囲に設定することが望ましい。即ち、好ましくは、0.5mm≦Ea≦3mm、0.5mm≦Eb≦3mm、0.5mm≦G≦3mm、より望ましくは、0.5mm≦Ea≦1mm、0.5mm≦Eb≦1mm、0.5mm≦G≦1mmである。Ea=0であると安定吸着ができない。磁石体の磁束密度を最大効率で活かすためには上限値はできるだけ小さい方が良いが、安定吸着ができる突き出し量の範囲で設定することができる。
【0014】
また、
図14乃至
図19に示す試験結果から、ヨークの中心角度が20°未満の場合には、ヨークの基端部の磁束が飽和して吸着できないことが分かっており、本発明では、ヨークの中心角θを、20°<θ<40°に設定したので、確実にヨークの基端部の磁束が飽和して吸着できない状態を回避できるようになるのである。40°を超えると、磁束密度が低下してくる。望ましくは、20°<θ≦36°である。
【0015】
このため、本発明においては、ヨークに磁石体を外力で押さえるなどせずに安定して吸着できるので、安定して実装し組み立てることができ、生産性を向上させ、コスト低下を図ることができる。組み立てた状態では、磁石体の表面から発生している全磁束をヨークに吸収させて、ヨークを透磁して表面から磁束を放出させることができるので、高磁束密度磁石の磁束を有効に生かすことができる。本発明では、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータを、重量あたり最大の効率で駆動させることができ、組み立てが容易で、高トルク、高効率で、低重量のモータを得ることができる。
【0016】
そして、必要に応じ、上記磁石体の側面のラジアル方向外側の周縁に対する上記ヨークの側面のラジアル方向外側の周縁の突出寸法をEcとしたとき、0.5mm≦Ec≦5mmに設定した構成としている。望ましくは、0.5mm≦Ec≦3mm、より望ましくは、0.5mm≦Ec≦1mmである。Ec=0であると安定吸着に劣る。磁石体の磁束密度を最大効率で活かすためには上限値はできるだけ小さい方が良いが、安定吸着ができる突き出し量の範囲で設定することができる。
尚、磁石体の側面のラジアル方向内側の周縁に対する上記ヨークの側面のラジアル方向内側の周縁の突出寸法Edは、0.5mm≦G≦5mmに設定していることにより、特に規定しなくても良い。しかし、できるだけ突出寸法Edを小さくすることが望ましい。
【0017】
また、必要に応じ、上記ヨークにおいて、25.7°≦θ<36°の範囲であって、該ヨークの数をnとしたとき、n=10,n=12,n=14の何れかにし、上記磁石体を、略直方体状に形成した構成としている。nは整数の偶数である。n=10(θ=36°)、n=12(θ=30°)、n=14(θ≒25.7°)である。n=14の場合、中心角θは割り切れないが、磁石体とヨークの密着性においては誤差範囲であり、作用,効果に影響はなく、ほとんど問題はない。もし、隙間が気になるのであれば、接着剤等を介装すればよい。この範囲で、本発明の作用,効果を最大限に発揮できる。
図19の試験例からも分かるように、n≦8であると、総磁束密度が有効に使えない。
16≦nであると、ヨークが薄くなり、飽和しやすくなる。
【0018】
更に、必要に応じ、上記ヨークの側面の外端部に、周方向に沿って突出形成され上記磁石体の外端面が衝止する突片を形成した構成としている。本発明においては、ヨークに磁石体を外力で押さえるなどせずに磁石体とヨークとを安定吸着できるので、突片は特に必要がないが、組み立て時に磁石体を突片に衝止して位置決めができるので、組み立てをより一層やりやすくすることができる。また、ロータの回転時の遠心力によるずれを確実に防止することができる。
【0019】
更にまた、必要に応じ、上記ロータを、上記回転軸が挿通されて固定されるとともに上記各ヨークの基端部を保持する非磁性体からなるホルダを備えて構成している。回転軸をホルダに固定できるので、回転軸とロータとの軸心合わせが確実になる。そのため、回転軸に対するロータの取り付けを確実かつ容易に行うことができる。そして、回転軸を回転させたときには、ロータの回転を円滑にすることができる。また、回転時には、ヨーク基端部がロータに保持されているので、ロータの回転時の遠心力によるずれを確実に防止することができ、回転を円滑に行うことができる。
【0020】
具体的には、必要に応じ、上記ロータを、上記回転軸が挿通されて固定されるリング状に形成され外周部に上記各ヨークの基端部を保持する非磁性体からなるホルダを備えて構成し、上記ヨークの内端部に周方向左右に突出する係合部を設け、上記ホルダの外周部に上記係合部が該ホルダの上記中心軸に直交する一方面または他方面側から挿入されて係合する被係合部を形成した構成としている。
【0021】
これにより、ロータの組み立て時においては、例えば、予め、1つのヨークの一方側面に1つの磁石体のN極側面を接合させて磁石体のS極側面を露出させた第1ユニットと、1つのヨークの一方側面に1つの磁石体のS極側面を接合させて磁石体のN極側面を露出させた第2ユニットとを、必要数作成しておき、この第1ユニットと第2ユニットとを、交互に順番に接合していく。この場合、先ず、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか一方を、そのヨークの係合部をホルダの被係合部に係合してホルダに取り付ける。次に、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか他方を、そのヨークの係合部をホルダの被係合部に係合してホルダに取り付ける。
【0022】
この場合、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか一方のヨークの他方側面に、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか他方の磁石体がスライドして接合するようになるが、そのスライド初期にはこれらは互いに同極で反発して吸着できない状態が一時的に生じるものの、上述したように、更にスライドさせながら近接させて面接合させるようにすると磁石体の磁束がヨークに吸収されるようになることから、吸着できるようになる。このようにして、第1ユニットと第2ユニットとを、交互に順番に接合していく。この際には、ヨークの係合部をホルダの被係合部に係合して押し込むだけで良いので、位置決めを容易に行って組み付けることができ、組み立てを容易に行うことができる。
【0023】
次に、このロータのホルダを回転軸に取り付ける。この場合、ホルダを回転軸に固定できるので、回転軸とロータとの軸心合わせが確実になる。そのため、回転軸に対するロータの取り付けを確実かつ容易に行うことができる。そして、回転軸を回転させたときには、ロータの回転を円滑にすることができる。また、回転時には、ヨークの係合部がホルダの被係合部に係合しているので、ロータの回転時の遠心力によるずれを確実に防止することができ、回転を円滑に行うことができる。
【0024】
また、必要に応じ、上記ロータを、上記回転軸が挿通されて固定されるとともに上記各ヨークの上記中心軸に直交する一方面及び他方面に夫々付設されて上記各ヨークの基端部を保持する非磁性体からなる一対のプレートを備えたホルダを備えて構成し、上記各ヨークの基端部に上記回転軸の軸方向に沿う第1ボルト挿通孔を形成し、上記ホルダの各プレートに上記第1ボルト挿通孔に対応した複数の第2ボルト挿通孔を形成し、上記一方のプレートの第2ボルト挿通孔、上記各ヨークの第1ボルト挿通孔及び上記他方のプレートの第2ボルト挿通孔に非磁性体からなるボルトを挿通し、各ボルトに非磁性体からなるナットを螺合して、上記各ヨークを一対のプレートで挾持する構成としている。
【0025】
これにより、ロータの組み立て時においては、例えば、予め、1つのヨークの一方側面に1つの磁石体のN極側面を接合させて磁石体のS極側面を露出させた第1ユニットと、1つのヨークの一方側面に1つの磁石体のS極側面を接合させて磁石体のN極側面を露出させた第2ユニットとを、必要数作成しておき、この第1ユニットと第2ユニットとを、交互に順番に接合していく。この場合、ホルダの一方のプレートの各第2ボルト挿通孔に夫々ボルトを挿通して取り付けておく。そして、先ず、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか一方を、そのヨークの第1ボルト挿通孔をボルトに挿通して一方のプレートに取り付ける。次に、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか他方を、そのヨークの第1ボルト挿通孔をボルトに挿通して一方のプレートに取り付ける。
【0026】
この場合、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか一方のヨークの他方側面に、第1ユニット若しくは第2ユニットのいずれか他方の磁石体がスライドして接合するようになるが、そのスライド初期にはこれらは互いに同極で反発して吸着できない状態が一時的に生じるものの、上述したように、更にスライドさせながら近接させて面接合させるようにすると磁石体の磁束がヨークに吸収されるようになることから、吸着できるようになる。このようにして、第1ユニットと第2ユニットとを、交互に順番に接合していく。この際には、ヨークの第1ボルト挿通孔をボルトに挿通させて押し込むだけで良いので、位置決めを容易に行って組み付けることができ、組み立てを容易に行うことができる。そして、最後に、他方のプレートを、その第2ボルト挿通孔をボルトに挿通するとともに、ボルトにナットを螺合して取り付ける。これにより、各ヨークが一対のプレートで挾持される。
【0027】
次に、このロータのホルダを回転軸に取り付ける。この場合、ホルダを回転軸に固定できるので、回転軸とロータとの軸心合わせが確実になる。そのため、回転軸に対するロータの取り付けを確実かつ容易に行うことができる。そして、回転軸を回転させたときには、ロータの回転を円滑にすることができる。また、回転時には、各ヨークがその第1ボルト挿通孔にボルトを挿通させて一対のプレートで挾持されているので、ロータの回転時の遠心力によるずれを確実に防止することができ、回転を円滑に行うことができる。また、ヨークの基端部に第1ボルト挿通孔が形成されているので、且つ非磁性体のボルトを使用したことによる磁気抵抗の増大によって、ヨークの基端部の幅が実質的に小さくなることから、磁石の磁束をヨークに導きやすくなる。
【0028】
そしてまた、必要に応じ、上記ステータとして、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたラジアル位置ステータを備えた構成としている。
【0029】
また、必要に応じ、上記ステータとして、上記ロータの中心軸に直交する一方面及び/または他方面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたアキシャル位置ステータを備えた構成としている。
【0030】
更に、必要に応じ、上記ステータとして、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたラジアル位置ステータと、上記ロータの中心軸に直交する一方面及び/または他方面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルを備えたアキシャル位置ステータとを備えた構成としている。
【0031】
これにより、ラジアル位置ステータとアキシャル位置ステータとを備えたので、ステータコイルは、ロータの磁束を捉えやすく、そのため、同期回転電機の効率を向上させることができる。例えば、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータであれば、高効率のモータを得ることができる。
【0032】
更にまた、必要に応じ、上記ステータとして、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面するとともに該ロータの回転軸を中心とした円周上に所定間隔で列設された複数のステータコイルと、該複数のステータコイルに夫々対応して設けられステータコイルが巻回される複数のティースとを備えたラジアル位置ステータを備え、
該ラジアル位置ステータのティースを、上記ロータの外周面にエアギャップを介して対面する本体と、該本体の上記中心軸方向両端部から該中心軸に向けて突設され上記ロータの一方面及び他方面に夫々エアギャップを介して対面する対面部を有した凸条体とを備えて構成し、上記ステータコイルを、上記ティースに少なくとも上記凸条体の対面部を露出させて巻回した構成としている。
【0033】
これにより、ラジアル位置ステータのティースは、ロータの外周面に対面する本体と、ロータの一方面及び他方面に夫々対面する対面部を有した凸条体とを備えて構成されているので、ステータコイルは、ロータの磁束を捉えやすく、そのため、同期回転電機の効率を向上させることができる。例えば、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータであれば、高効率のモータを得ることができる。
【0034】
この場合、上記本体と上記凸条体との間に非磁性絶縁部材を介装したことが有効である。ロータの外周面に対面する本体と、ロータの一方面及び他方面に夫々対面する対面部を有した凸条体とから放射される磁束密度量のバランスが執れるようになる。
【0035】
また、この場合、上記ロータ及びステータの組を、同一の回転軸に複数組列設したことが有効である。その結果、高性能磁石からヨークに吸収されて、ロータの外周面とロータの一方面及び他方面に夫々対面する対面部から放射される磁束密度を最大限ステータコイルに導くことができるようになり同期回転電機の効率を向上させることができる。例えば、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータであれば、高効率のモータを得ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ネオジム磁石などの高性能磁石を用いても、磁石体及びヨークを反発力に拮抗しながら容易に組み立てることができるようになる。また、磁石体から放射される磁束をヨークに有効に導いて、同時に磁気飽和を防いで高性能磁石とヨークを安定して一体化し、高性能磁石が保有する磁束密度を最大限活かすことができる。これにより、リング状のロータとロータの周囲に設けられるステータとを備えた高効率な電動機(モータ)あるいは発電機として、利用,活用を図ることができる。特に、外形寸法が制限され且つ軽量化が必要な用途、例えば、外形が小さく細長いスピンドルモータ、ロボットの腕関節部やロボットの腕先端に搭載するモータ、医療用モータ等に最適であり、これらを利用することにより、小型軽量が望まれる、工作機械、ロボット、ハンディタイプの手作業ツール、各種医療機器、ドローン等に極めて有用になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の第一の実施の形態に係る同期回転電機を示し、(a)はロータとステータとを分解して示す分解斜視図、(b)はロータとステータとを組み立てた状態で示す斜視図である。
【
図2】本発明の第一の実施の形態に係る同期回転電機のロータの構造を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の第一の実施の形態に係る同期回転電機のロータを示す図である。
【
図4】本発明の第一の実施の形態に係る同期回転電機のロータとロータをエアーギャップを介して取り囲むように円周に存在するステータとの関係を示す断面図である。
【
図5】本発明の同期回転電機のロータにおいて、磁石体とヨークとの基本構造及びこれらの関係を示し、(a)は一方の磁石体が吸着したヨークに他方の磁石体を吸着させる前の状態を示す正面図、(b)は一方の磁石体が吸着したヨークに他方の磁石体が吸着した状態を示す正面図である。
【
図6】本発明の同期回転電機のロータにおいて、磁石体とヨークとの基本構造及びこれらの関係を示し、(a)は一方の磁石体が吸着したヨークに他方の磁石体を吸着した状態を示す正面図、(b)はヨークの側面に直交する方向から見た側面図である。
【
図7】本発明の同期回転電機のロータにおいて、磁石体とヨークとの基本構造及びこれらの関係を示し、(a)はヨークが磁石体に対してアキシャル方向に突出した本発明の
図6(a)中A-A線断面図、(b)はヨークが磁石体に対してアキシャル方向に突出していない場合の状態を示す
図7(a)相当断面図である。
【
図8】本発明の第二の実施の形態に係る同期回転電機を示す斜視図である。
【
図9】本発明の第二の実施の形態に係る同期回転電機の変形例を示す断面図である。
【
図10】本発明の第三の実施の形態に係る同期回転電機を示す正面図である。
【
図11】本発明の第四の実施の形態に係る同期回転電機を示し、(a)はロータとステータを示す正面図、(b)は1つのロータと1つのステータを組み付けた状態(シングルアキシャル型)を示す断面図、(c)は2つのロータと1つのステータを組み付けた状態(ダブルアキシャル型)を示す断面図である。
【
図12】本発明の第五の実施の形態に係る同期回転電機を示すとともにそのロータとステータとの関係を示す図である。
【
図13】本発明の各実施の形態に係る同期回転電機において、ロータの別の例を示す分解斜視図である。
【
図14】本発明の試験例1(磁石体及びヨーク間距離とヨーク表面の磁束密度との関係に係る試験)において、一方の磁石体が吸着したヨークに他方の磁石体を吸着させる状態を磁束密度センサーとの関係で示す図である。
【
図15】本発明の試験例1の測定結果を示すグラフ図である。
【
図16】本発明の試験例2(ヨーク表面の磁束密度と磁石体の表面の磁束密度の測定)の測定結果を示すグラフ図である。
【
図17】本発明の試験例3(ヨークの中心角θについての試験<その1>)に係り、(a)は一方の磁石体が吸着したヨークに他方の磁石体を吸着させる状態を磁束密度センサーの測定部位(扇型のラジアル方向に広がった外周部位中心部)との関係で示す図、(b)はヨークの異なる中心角度毎に磁束密度を測定した結果を示すグラフ図である。
【
図18】本発明の試験例4(ヨークの中心角θについての試験<その2>)に係り、(a)は磁束密度センサーの測定部位を示す図、(b)はヨークの異なる中心角度毎に磁束密度を測定した結果を示すグラフ図である。
【
図19】本発明の試験例5(ヨークの中心角θについての試験<その3>)に係り、ヨークの異なる中心角度毎に磁石体の単位当たりの磁束強度に極数(ヨークの数)を掛けた値を磁極数合計総磁束強度として算出した結果を示すグラフ図である。
【
図20】本発明の試験例6(ヨークの磁石体に対する突き出し量についての試験)に係り、磁石体に対してアキシャル方向の幅の異なるヨークについての磁束密度の測定結果(磁束密度の測定部位は試験例1と同様の位置(
図14)である)を示すグラフ図である。
【
図21】本発明の試験例7(磁石体の厚さ(磁石体の周方向の長さMe)についての試験)に係り、ネオジム磁石について厚さと磁束密度との関係を測定した結果を示すグラフ図である。
【
図22】本発明の試験例8(ホルダの材質についての試験)に係り、(a)は磁束密度センサーの測定部位を示す図、(b)はホルダの材質毎の測定結果を示すグラフ図である。
【
図23】本発明の試験例9(ロータの大きさについての試験)に係り、(a)はネオジム磁石の大きさとヨークの大きさとの異なる組み合わせにおいて、ヨークの角度と磁束密度との関係を測定した結果を示すグラフ図、(b)はその元になるデータを示す表図である。
【
図24】本発明の試験例9(ロータの大きさについての試験)に係り、ネオジム磁石の大きさとヨークの大きさとの異なる組み合わせ(a)(b)(c)(d)を、ヨークの面積比及び実ヨークの表面積比(斜線部)との関係で示す図である。
【
図25】本発明の試験例9(ロータの大きさについての試験)に係り、重量あたり最大トルクを得るための最適なロータの大きさを決める解析において、ヨーク及びこれを挟むネオジム磁石2個における単位重量当たりのトルク重量比係数Fの概念を視覚的に示す図である。
【
図26】磁石長Mrとトルク重量比係数Fとの関係を示すグラフ図である。
【
図27】本発明の各実施の形態に係る同期回転電機に用いることのできるロータの試作品を示す図(a)(b)(c)である。
【
図28】本発明の実施例を示し、(a)は実施例1(試作機1:ラジアルギャップモータ)を示す斜視図、(b)は実施例2(試作機2:シングルアキシャルギャップモータ)を示す斜視図、(c)は実施例3(試作機3:ダブルアキシャルギャップモータ)を示す斜視図である。
【
図29】本発明の試験例10(実施例についてのトルク測定試験)に係り、(a)は実施例1~3の試験結果及び実施例4の試算値を示す表図、(b)は比較例1~7(市販されているモータ1~7)のデータを示す表図である。
【
図30】本発明の実施の形態に係るロータの変形例を示す図である。
【
図31】従来の同期回転電機のロータをその問題点とともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る同期回転電機について詳細に説明する。
図1乃至
図4には、本発明の第一の実施の形態に係る同期回転電機Kを示している。この同期回転電機Kは、回転軸S(
図4)により回転させられるリング状のロータ1と、ロータ1の周囲に設けられるステータとしてのラジアル位置ステータ20とを備えている。
【0039】
ロータ1は、回転軸Sの外側に該回転軸Sの中心軸Pを中心とする円周方向に沿って同極同士を互いに対向させて等角度間隔に配置され同一形状且つ同一の大きさに形成された複数の永久磁石からなる磁石体2と、隣接する磁石体2間に配置されこの磁石体2の側面に接合する側面を有するとともに所定の中心角を有した扇状で同一形状且つ同一の大きさに形成された複数のヨーク3と、回転軸Sが挿通されて固定され各ヨーク3の基端部を保持する非磁性体からなるホルダ10とを備えて構成されている。
【0040】
磁石体2は、その磁束密度をBとしたとき、150mT≦Bの磁石材料で構成されている。150mT≦Bの磁石材料としては、希土類磁石を挙げることができる。希土類磁石は希土類金属(ネオジウム、サマリウム、コバルトなど合計17元素)の粉末を成型してから焼結した高性能なマグネットを言う。サマリウム・コバルトSm-Co系マグネット(通称:サマコバ磁石)と、ネオジウム・鉄・ボロンNd-Fe-B系マグネット(通称:ネオジム磁石)とがある。実施の形態では、ネオジム磁石を用いている。磁石体2は、略直方体状に形成されている。
【0041】
ヨーク3はとしては、例えば、透磁率が高く、飽和磁束密度が高い鉄系の材料、電磁軟鉄、圧紛鉄心、低炭素鋼、珪素鋼板等、適宜の材質のものが選択される。必要に応じて、熱処理を行ない、あるいは、防錆のためのメッキや塗装処理を施すことができる。
【0042】
ヨーク3は、その中心角をθとしたとき、20°<θ<40°に設定されている。望ましくは、20°<θ≦36°である。より望ましくは、25.7°<θ≦36°の範囲であって、ヨーク3の数をnとしたとき、n=10,n=12,n=14の何れかにしている。実施の形態では、n=10(θ=36°)にしている。ヨーク3の側面の外端部には、周方向に沿って突出形成され磁石体2の外端面が衝止する突片4が形成されている。ヨーク3の内端部には、周方向左右に突出する係合部5が設けられている一方、ホルダ10には、係合部5がホルダ10の中心軸Pに直交する一方面または他方面側から挿入されて係合する被係合部6が形成されている。ヨーク3の基端部7と係合部5は一体に形成され、略T字状に形成されている。一方、被係合部6は、ヨーク3の基端部7と係合部5からなるT字状部分が嵌合するように、凹状に形成されている。被係合部6は、実施の形態では、ヨーク3の数(n=10)に合致して、等角度間隔に10個形成されている。
【0043】
そして、
図6に示すように、磁石体2のアキシャル方向の長さをMa、ラジアル方向の長さをMrとし、ヨーク3のアキシャル方向の長さをYa、ラジアル方向の長さをYrとしたとき、Ma<Ya、Mr<Yrに設定し、磁石体2の側面をこれに直交する方向から見たとき、磁石体2の側面の周縁からヨーク3の側面の周縁を突出させて、磁石体2の側面とヨーク3の側面とを接合させている。尚、実施の形態では、ヨーク3は、上記の係合部5を有するので、ヨーク3のラジアル方向の長さYrは、係合部5を含んで設定される。例えば、ロータ1は、その半径R(
図3)は、20mm≦R≦80mm程度のものであり、5mm≦Ya≦100mm、5mm≦Yr≦55mmに設定される。また、磁石体2の周方向の長さMe(厚さ)は、半径Rの大きさによっても異なるが、2mm≦Me≦20mmに設定される。また、後述の試験例9から、磁石体2の大きさは、8mm≦Ma≦10mm、5mm≦Mr≦25mmが最適である。各部の寸法は、これらに限定されない。
【0044】
また、磁石体2の側面のアキシャル方向一方側の周縁に対するヨーク3の側面のアキシャル方向一方側の周縁の突出寸法をEaとし、磁石体2の側面のアキシャル方向他方側の周縁に対するヨーク3の側面のアキシャル方向他方側の周縁の突出寸法をEbとし、隣接する磁石体2の最小間隔(1つのヨーク3に対して接合された一対の磁石体2の互いに隣接する内側の周縁間)をGとしたとき、0.5mm≦Ea≦5mm、0.5mm≦Eb≦5mm、0.5mm≦G≦5mmに設定している。望ましくは、0.5mm≦Ea≦3mm、0.5mm≦Eb≦3mm、0.5mm≦G≦3mm、より望ましくは、0.5mm≦Ea≦1mm、0.5mm≦Eb≦1mm、0.5mm≦G≦1mmである。
【0045】
また、磁石体2の側面のラジアル方向外側の周縁に対するヨーク3の側面のラジアル方向外側の周縁の突出寸法をEcとしたとき、0.5mm≦Ec≦5mmに設定した構成としている。望ましくは、0.5mm≦Ec≦3mm、より望ましくは、0.5mm≦Ec≦1mmである。Ec=0であると安定吸着ができない。磁石体の磁束密度を最大効率で活かすためには上限値はできるだけ小さい方が良いが、安定吸着ができる突き出し量の範囲で設定することができる。
【0046】
尚、磁石体2の側面のラジアル方向内側の周縁に対するヨーク3の側面のラジアル方向内側の周縁の突出寸法Edは、0.5mm≦G≦5mmに設定していることにより、特に規定しなくても良い。しかし、できるだけ突出寸法Edを小さくすることが望ましい。実施の形態では、係合部5を設けているので、突出寸法Edは、係合部5を含んで設定される。
【0047】
ステータとしてのラジアル位置ステータ20は、ロータ1の外周面にエアギャップを介して対面するとともにロータ1の回転軸Sを中心とした円周上に所定間隔で列設された複数(実施の形態では12個)のステータコイル21と、複数のステータコイル21に夫々対応して設けられステータコイル21が巻回される複数(実施の形態では12個)のティース22とを備えて構成されている。ティース22は、ロータ1を囲繞しリング状に形成された非磁性体からなる枠体23に固定されている。
【0048】
ラジアル位置ステータ20のティース22は、
図4に示すように、ロータ1の外周面にエアギャップを介して対面する本体24と、本体24の中心軸P方向両端部から中心軸Pに向けて突設されロータ1の一方面及び他方面に夫々エアギャップを介して対面する対面部25aを有した凸条体25とを備えて構成されている。本体24と凸条体25との間には、非磁性絶縁部材26が介装されている。ステータコイル21は、ティース22に少なくとも凸条体25の対面部25aを露出させて、中心軸Pに直交し本体24を通る放射方向の軸Qを中心にして巻回されている。
【0049】
従って、この実施の形態に係る同期回転電機Kにおいて、ロータ1を組み立てるときは、
図2に示すように、例えば、予め、1つのヨーク3の一方側面に1つの磁石体2のN極側面を接合させてこの磁石体2のS極側面を露出させた第1ユニットU1と、1つのヨーク3の一方側面に1つの磁石体2のS極側面を接合させてこの磁石体2のN極側面を露出させた第2ユニットU2とを、必要数作成しておく。この場合、組み立て時に磁石体2を突片4に衝止して位置決めができるので、組み立てをより一層やりやすくすることができる。
【0050】
そして、ホルダ10に、第1ユニットU1と第2ユニットU2とを、交互に順番に組み付けていく。この場合、先ず、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか一方を、そのヨーク3の係合部5をホルダ10の被係合部6に係合してホルダ10に取り付ける。次に、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか他方を、そのヨーク3の係合部5をホルダ10の被係合部6に係合してホルダ10に取り付ける。
【0051】
この際、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか一方のヨーク3の他方側面に、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか他方の磁石体2がスライドして接合するようになるが、そのスライド初期にはこれらは互いに同極で反発して吸着できない状態が生じる。しかしながら、それは、一時的に生じるものであり、更にスライドさせながら近接させて面接合させるようにすると磁石体2の磁束がヨーク3に吸収されるようになることから、吸着できるようになる。このようにして、第1ユニットU1と第2ユニットU2とを、交互に順番に接合していく。そのため、ヨーク3の係合部5をホルダ10の被係合部6に係合して押し込むだけで良いので、位置決めを容易に行って組み付けることができ、組み立てを容易に行うことができる。
【0052】
詳しくは、このように、同極で反発して吸着できない状態が生じるものの、更に近接させて面接合させるようにすると吸着できるようになるのは、
図6に示すように、実施の形態では、ヨーク3の中心角θを、20°<θ<40°に設定するとともに、隣接する磁石体2の最小間隔Gを0.5mm≦G≦5mmにすることにより、扇型のヨーク3の付け根幅を狭くするようにし、更に、磁石体2の側面をこれに直交する方向から見たとき磁石体2の側面の周縁からヨーク3の側面の周縁を突出させて、即ち、ヨーク3の周縁(ヨーク3の全周辺)を磁石体2の周縁(磁石体2の全周辺)に対して、はみ出すような構成にしたので、特に、
図6(b)及び
図7(a)に示すように、ヨーク3の周縁を磁石体2の周縁に対して、ラジアル方向のみならずアキシャル方向においても、0.5mm~5mm突出させたので、一方の磁石体2が吸着したヨーク3に対して他方の磁石体2を更に近接させて面接合させるようにすると、他方の磁石体2のS極の磁束がヨーク3に吸収されるようになるからである。また、磁石体2の側面のラジアル方向外側の周縁に対するヨーク3の側面のラジアル方向外側の周縁の突出寸法Ecを、0.5mm≦Ec≦5mmに設定しているので、この点でも、安定吸着を行わせることができる。
【0053】
このようにして、磁石体2とヨーク3とを順次組み付けてリング状のロータ1にする。このロータ1の組み立てにおいては、ヨーク3に磁石体2を外力で押さえるなどせずに安定して吸着できるので、安定して実装し組み立てることができ、生産性を向上させ、コスト低下を図ることができる。それから、このロータ1のホルダ10を回転軸Sに取り付ける。この場合、ホルダ10を回転軸Sに固定できるので、回転軸Sとロータ1との軸心合わせが確実になる。そのため、回転軸Sに対するロータ1の取り付けを確実かつ容易に行うことができる。また、このロータ1をステータ20とともに組み立てて、同期回転電機Kを完成させる。
【0054】
この同期回転電機Kにおいては、ロータ1において、扇型ヨーク3の付け根幅は狭く、ヨーク3の周縁を磁石体2の周縁に対して、ラジアル方向のみならずアキシャル方向においても、0.5mm~5mm突出しているので、磁束をヨーク3に導くことができるようになる。このため、
図6に示すように、ラジアル方向の総磁束密度がヨーク3の付け根(基端部7)より格段に高くなり、その結果、磁石体2の磁束密度を最大効率で活かすことができるようになる。即ち、ロータ1においては、磁石体2の表面から発生している全磁束をヨーク3に吸収させて、ヨーク3を透磁して表面から磁束を放出させることができるので、、高磁束密度磁石の磁束を有効に生かすことができる。例えば、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータを、重量あたり最大の効率で駆動させることができ、組み立てが容易で、高トルク、高効率で、低重量のモータを得ることができる。
【0055】
更に、ヨーク3の側面の外端部に、周方向に沿って突出形成され磁石体2の外端面が衝止する突片4を形成しているので、ロータ1の回転時の遠心力による磁石体2のずれを確実に防止することができる。また、ヨーク3の係合部5がホルダ10の被係合部6に係合しているので、ロータ1の回転時の遠心力によるヨーク3のずれを確実に防止することができ、回転を円滑に行うことができる。
【0056】
更にまた、ステータとして、ラジアル位置ステータ20を備え、このラジアル位置ステータ20のティース22は、ロータ1の外周面に対面する本体24と、ロータ1の一方面及び他方面に夫々対面する対面部25aを有した凸条体25とを備えて構成されているので、ステータコイル21は、ロータ1の磁束を捉えやすく、そのため、同期回転電機Kの効率を向上させることができる。例えば、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータであれば、高効率のモータを得ることができる。また、本体24と凸条体25との間に非磁性絶縁部材26を介装したので、本体24と凸条体25とから放射される磁束密度量のバランスが執れるようになる。
【0057】
図8には、第二の実施の形態に係る同期回転電機Kを示している。これは、第一の実施の形態に係るロータ1及びステータ20の組を、同一の回転軸Sに複数組列設して構成されている。そのため、同期回転電機Kの効率を向上させることができる。例えば、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータであれば、高効率のモータを得ることができる。モータ直径を大きくしたくないがトルクを高くしたい仕様の場合には特に有効な構成である。
【0058】
図9には、第二の実施の形態に係る同期回転電機Kの変形例を示している。これは、
図8に示す各ステータ20のティース22を一体化したものであり、隣接するティース22の凸条体25を共用し、ステータコイル21を、凸条体25の対面部25aを露出させて、全体に巻回したものである。これにより、モータの場合では、凸条体25の両側から発生する磁束を有効に利用でき、電気エネルギーを有効に生かすことができるとともに、単位重量当たりのトルクを高めることができる。
【0059】
図10には、第三の実施の形態に係る同期回転電機Kを示している。これは、ステータとして、ラジアル位置ステータ20を備え、このラジアル位置ステータ20は、ロータ1の外周面にエアギャップを介して対面するとともにロータ1の回転軸Sを中心とした円周上に所定間隔で列設された複数(実施の形態では12個)のステータコイル21と、複数のステータコイル21に夫々対応して設けられステータコイル21が巻回される複数(実施の形態では12個)のティース22とを備えて構成されている。ティース22は、ロータ1を囲繞しリング状に形成された非磁性体からなる枠体27の内側に固定されている。
【0060】
図11には、第四の実施の形態に係る同期回転電機Kを示している。これは、
図11(a)に示すように、ステータとして、アキシャル位置ステータ30を備え、このアキシャル位置ステータ30は、ロータ1の中心軸Pに直交する面にエアギャップを介して対面する一方面及び他方面を有するとともにロータ1の回転軸Sを中心とした円周上に所定間隔で列設された複数(実施の形態では12個)のステータコイル21と、複数のステータコイル21に夫々対応して設けられステータコイル21が巻回される複数(実施の形態では12個)のティース22とを備えて構成されている。ロータ1は、ロータ1の中心軸Pに直交する一方の面が付設され、中心軸Pを中心とした円盤31に固定されている。
図11(b)は、アキシャル位置ステータ30を固定体(図示せず)に固定し、回転軸Sに1つのロータ1を取り付けて、このロータ1をアキシャル位置ステータ30の一方面に対面させて設けた例(シングルアキシャル型)を示す。
図11(c)は、アキシャル位置ステータ30を固定体(図示せず)に固定し、回転軸Sにアキシャル位置ステータ30を挟んで2つのロータ1を取り付けて、一方のロータ1をアキシャル位置ステータ30の一方面に対面させ、他方のロータ1をアキシャル位置ステータ30の他方面に対面させた例(ダブルアキシャル型)を示す。
【0061】
図12には、第五の実施の形態に係る同期回転電機Kを示している。これは、第三の実施の形態に係る同期回転電機Kのラジアル位置ステータ20と、第四の実施の形態に係る同期回転電機Kのアキシャル位置ステータ30とを備えて構成されている。そのため、同期回転電機Kの効率を向上させることができる。例えば、磁束密度が150mT以上あるネオジム磁石などの高性能磁石を用いたモータであれば、高効率のモータを得ることができる。
【0062】
図13には、上記各実施の形態に係る同期回転電機において、ロータの別の例を示す。このロータ1においては、上記各実施の形態におけるロータとはホルダの形態が異なっている。詳しくは、このロータ1は、回転軸(図示せず)が挿通されて固定されるとともにロータ1の中心軸Pに直交する一方面及び他方面に夫々付設されて各ヨーク3の基端部を保持する非磁性体からなる一対のプレート41を備えたホルダ40を備えて構成されている。各ヨーク3の基端部には、回転軸Pの軸方向に沿う第1ボルト挿通孔42が形成されている一方、ホルダ40の各プレートには、第1ボルト挿通孔42に対応した複数の第2ボルト挿通孔43が形成されている。そして、一方のプレート41の第2ボルト挿通孔43、各ヨーク3の第1ボルト挿通孔42及び他方のプレート41の第2ボルト挿通孔43に非磁性体からなるボルト44が挿通され、各ボルト44に非磁性体からなるナット(図示せず)が螺合されて、各ヨーク3は、一対のプレート41で挾持されている。
【0063】
これにより、ロータ1の組み立て時においては、例えば、予め、1つのヨーク3の一方側面に1つの磁石体2のN極側面を接合させて磁石体2のS極側面を露出させた第1ユニットU1と、1つのヨーク3の一方側面に1つの磁石体2のS極側面を接合させて磁石体のN極側面を露出させた第2ユニットU2とを、必要数作成しておき、この第1ユニットU1と第2ユニットU2とを、交互に順番に接合していく。この場合、ホルダ41の一方のプレート41の各第2ボルト挿通孔43に夫々ボルト44を挿通して取り付けておく。そして、先ず、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか一方を、そのヨーク3の第1ボルト挿通孔42をボルト44に挿通して一方のプレート41に取り付ける。次に、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか他方を、そのヨーク3の第1ボルト挿通孔42を対応するボルト44に挿通して一方のプレート41に取り付ける。
【0064】
この場合、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか一方のヨーク3の他方側面に、第1ユニットU1若しくは第2ユニットU2のいずれか他方の磁石体2がスライドして接合するようになるが、そのスライド初期にはこれらは互いに同極で反発して吸着できない状態が一時的に生じるものの、上述したように、更にスライドさせながら近接させて面接合させるようにすると磁石体2の磁束がヨーク3に吸収されるようになることから、吸着できるようになる。このようにして、第1ユニットU1と第2ユニットU2とを、交互に順番に接合していく。この際には、ヨーク3の第1ボルト挿通孔42をボルト44に挿通させて押し込むだけで良いので、位置決めを容易に行って組み付けることができ、組み立てを容易に行うことができる。そして、最後に、他方のプレート41を、その第2ボルト挿通孔43をボルト44に挿通するとともに、ボルト44にナットを螺合して取り付ける。これにより、各ヨーク3が一対のプレート41で挾持される。
【0065】
次に、このロータ1のホルダ40を回転軸Sに取り付ける。この場合、ホルダ40を回転軸Sに固定できるので、回転軸Sとロータ1との軸心合わせが確実になる。そのため、回転軸Sに対するロータ1の取り付けを確実かつ容易に行うことができる。そして、回転軸Sを回転させたときには、ロータ1の回転を円滑にすることができる。また、回転時には、各ヨーク3がその第1ボルト挿通孔42にボルト44を挿通させて一対のプレート41で挾持されているので、ロータ1の回転時の遠心力によるずれを確実に防止することができ、回転を円滑に行うことができる。また、ヨーク3の基端部に第1ボルト挿通孔42が形成されているので、さらに非磁性体のボルト44が貫通しているので磁気抵抗が増加し、貫通穴の効果が相乗してヨーク3の基端部の幅が実質的に小さくなることから、磁石の磁束をヨークに導きやすくなる。
【0066】
<試験例>
次に、本発明の裏付けとなる試験例を示す。
(1)試験例1(磁石体2及びヨーク3間距離とヨーク3の表面の磁束密度との関係に係る試験)
図6に示す記号を用い、磁石体2として、ネオジム磁石であって、Ma=10mm、Mr=20mm、Me=8mmのもの(B=430mT)を用いた。ヨーク3として、SS400(鉄材)で、Ya=11mm、Yr=22mmのもの(係合部5の無いもの)で、中心角θを、20°、25°、30°、40°、60°、80°にした6種類を用意した(
図15)。
【0067】
そして、
図14に示すように、中心角θの異なるヨーク3毎に、種類の異なる磁石体2の1対を同極同士を互いに対向させてヨーク3の両側に吸着させるようにし、ヨーク3の表面の磁束密度を測定した。測定器は株式会社マザーツール製「MT-801」を用いた。磁石体2の吸着においては、先に一方の磁石体2をヨーク3に吸着させておき、この状態で他方の磁石体2をヨーク3の側面に近づけて行き、その距離が、100mm、40mm、20mm、10mm、5mm、2.5mmになるところで、ヨーク3の表面の磁束密度を測定した。磁束密度センサーの厚みが約2mmであるので、2.5mmの隙間を開けて、ヨーク3の中心角θを変化させて測定した。
【0068】
結果を
図15に示す。最初は先にヨーク3に着接させた一方の磁石体2(A)の磁束蜜度がヨーク3表面から放出されていたが、他方の磁石体2(B)が接近するに伴い磁石体2(B)の磁束蜜度が有効的にヨーク3に吸収されて行くようになり反転することになることが分かった。5mm辺りからは、容積の大きな磁束吸収容量のある中心角θが25°以上のヨーク3は、磁石体2(B)を吸着させる磁力磁束密度となる。2.5mmの距離では中心角θが20°以外のヨーク3は強い吸着力を発生するが、20°のヨーク3はヨーク3の磁気飽和によって、完全に接近しても吸着することは無い。
【0069】
(2)試験例2(ヨーク3表面の磁束密度と磁石体2の表面の磁束密度の測定)
試験例1の磁石体2とヨーク3の組み合わせにおいて、ヨーク3表面の磁束密度と磁石体2(B)の表面の磁束密度とを、ヨーク3の中心角θを変化させて測定した。結果を
図16に示す。この結果から、中心角θが20°のヨーク3について、磁石体2(B)の最接近状態(2.5mm)の詳細について観察することができた。即ち、中心角θが20°のヨーク3においては、ヨーク3表面の磁束密度は380mTで、磁石体2(B)の表面の磁束密度420mTを完全に吸収できていないことが分かった。その要因として、中心角θが20°のヨーク3は、その容積が少ないことから、磁石体2(A)と磁石体2(B)とを合体した磁束密度を完全に吸収できないことにある。そのため、20°のヨーク3の場合は、磁石体2(B)の磁束密度は反対極に誘起されず、吸着する磁力密度が不足して、磁石体2(A)の同極に反発されることになる。一方、中心角θが25°以上のヨーク3では、磁石体2(B)の表面磁束密度はヨーク3に十分流れ込み、ヨーク3表面が反対極(S)に誘起されて、磁気吸着をすることができる。
【0070】
(3)試験例3(ヨーク3の中心角θについての試験<その1>)
磁石体2の試験片として、ネオジム磁石(B=430mT)、ネオジム磁石(B=153mT)、フェライト磁石(B=143mT)の3種類を用意した。
図6に示す記号を用い、磁石体2は、Ma=10mm、Mr=20mm、Me=8mmのものを用いた。ヨーク3として、Ya=11mm、Yr=22mmのもの(係合部5の無いもの)で、中心角θを、20°~80°の範囲で、5°ずつ異なる9種類を用意した(
図17(b))。
【0071】
そして、
図17(a)に示すように、中心角θの異なるヨーク3毎に、種類の異なる磁石体2の1対を同極同士を互いに対向させてヨーク3の両側に吸着させるようにし、ヨーク3の扇型のラジアル方向に広がった外周部位中心部の磁束密度を測定した。測定器は株式会社マザーツール製「MT-801」を用いた。磁石体2の吸着においては、先に一方の磁石体2をヨーク3に吸着させておき、この状態で他方の磁石体2をヨーク3の側面に近づけて行き、吸着させるようにした。
【0072】
測定結果を
図17(b)に示す。ヨーク3の中心角θが20°の場合は、フェライト磁石は吸着したが、ネオジム磁石では、何れもヨーク3の基端部Xの磁束が飽和して吸着できなかった。しかし、中心角θが25°以上の磁石体2では、接近接合しようとすると反発を受けて一時的に吸着できないが、更に接近させると吸着できた。これは、一方の磁石体2が吸着したヨーク3に他方の磁石体2を近接させると、この他方の磁石体2のS極の磁束がヨーク3に吸収されるからである。また、中心角θが35°以上になると磁束密度は低下傾向になる。
【0073】
(4)試験例4(ヨーク3の中心角θについての試験<その2>)
試験片としては、試験例1と同様に、磁石体2として、ネオジム磁石であって、Ma=10mm、Mr=20mm、Me=8mmのもの(B=430mT)を用いた。ヨーク3として、SS400(鉄材)で、Ya=11mm、Yr=22mmのもの(係合部5の無いもの)で、中心角θを、20°、25°、30°、40°、60°にした5種類を用意した(
図18(b))。
【0074】
そして、
図18(a)に示すように、ヨーク3のラジアル面(外周)の磁束密度とアキシャル位置(中心軸Pに直交する一方面及び他方面において、外周から5mm内側の点)の磁束密度を、上記と同じ測定器を用いて、中心角θの異なるヨーク3毎に測定した。
【0075】
測定結果を
図18(b)に示す。この図において、下の折れ線は、一本であるが、ラジアル面、アキシャル面1(一方面)、アキシャル面2(他方面)の磁束密度が略同じなので、これらの折れ線が重なった線になっている。ヨーク3の中心角θが20°の場合は、何れも磁束が飽和して吸着できなかった。この結果、総磁束密度とヨーク3の中心角θとの関係からしても、中心角θが25°以上の磁石体2は、良好であることが分かる。
【0076】
(5)試験例5(ヨーク3の中心角θについての試験<その3>)
試験例3と同じ試験片を用い、磁石体2の単位当たりの磁束強度に極数(ヨーク3の数)を掛けた値を磁極数合計総磁束強度として算出し、これとヨーク3の中心角θとの関係を見た。結果を
図19に示す。
【0077】
この試験例3乃至5の結果から、ヨーク3の中心角θは、20°<θ<40°の範囲が適正と考えられ、40°を超えると、磁束密度が低下してくる。望ましくは、20°<θ≦36°である。実質的には、試験例5の結果から、ヨーク3表面積と極数(ヨーク3の数)を勘案し、実用的には、10極(θ=36°)、12極(θ=30°)、14極(θ≒25.7°)がネオジム磁石の磁束密度を有効に使うことができると想定できる。中心角θが広がると、極数が減ると同時に総磁束密度が減少して効率が低下する。中心角θが20°は磁束がヨーク3を飽和させ吸収せず磁石体2の磁束密度が有効に使用できないので非効率になる。即ち、ヨーク3において、25.7°<θ≦36°の範囲であって、ヨーク3の数をnとしたとき、nは整数の偶数であり、n=10(θ=36°)、n=12(θ=30°)、n=14(θ≒25.7°)の何れかにする構成が好ましいことが分かった。n=14の場合、中心角θは割り切れないが、磁石体2とヨーク3の密着性においては誤差範囲であり、作用,効果に影響はなく、ほとんど問題はない。もし、隙間が気になるのであれば、接着剤等を介装すればよい。
【0078】
また、試験例4の結果から、ラジアル面、アキシャル面1(一方面)、アキシャル面2(他方面)の磁束密度が略同じであるので、第五の実施の形態においては、ラジアル面、アキシャル面1(一方面)及び/またはアキシャル面2(他方面)に、ラジアル位置ステータ20とアキシャル位置ステータ30とが夫々面することから、極めて高効率であることが分かる。
【0079】
(6)試験例6(ヨーク3の磁石体2に対する突き出し量についての試験)
磁石体2の試験片として、Ma=10mm、Mr=20mm、Me=8mmのもので、ネオジム磁石(B=430mT)を用いた。ヨーク3として、Yr=22mmのもの(係合部5の無いもの)で、中心角θを、θ=30°、θ=60°、θ=80°の3種類について、夫々、Ya=10mm(Ea+Eb=0mm)、Ya=11mm(Ea+Eb=1mm)、Ya=12mm(Ea+Eb=2mm)、Ya=13mm(Ea+Eb=3mm)とアキシャル方向の幅の異なる4種類を用意した(
図20)。
【0080】
そして、各ヨーク3毎に、磁石体2の1対を同極同士を互いに対向させてヨーク3の両側に吸着させ、ヨーク3の扇型のラジアル方向に広がった外周部位中心の磁束密度を、上記と同じ測定器を用いて測定した。尚、本試験においては、磁石体2の側面をこれに直交する方向から見たとき、磁石体2の側面の周縁からヨーク3の側面の周縁を突出させて磁石体2の側面とヨーク3の側面とを接合させている。
【0081】
結果を
図20に示す。ヨーク3の磁石体2に対する突き出し量が無い(両側合計で、Ea+Eb=0mm)ものは、他と比較して磁束密度は高いが、これは、磁石体2を無理に押さえて吸着状態にしたもので、実際は吸着できない。ヨーク3の磁石体2に対する突き出し量があるものは、安定的に吸着できた。また、突き出し量が増すと、磁束密度が低下することが分かった。ヨーク3の突き出し量は、多すぎるとヨーク3の体積が増大し表面積が増大して、磁束密度が低下する。両側合計で1mm突出しただけで、10%もヨーク3周方向磁束密度が低下する。更に、ヨーク3の中心角θが大きいもの(θ=60°、θ=80°)では、小さいもの(θ=30°)に比較して磁束密度の低下がみられた。
【0082】
この結果から、ヨーク3の周縁の磁石体2の周縁に対する突き出し量は、0.5mm≦Ea≦5mm、0.5mm≦Eb≦5mm、望ましくは、0.5mm≦Ea≦3mm、0.5mm≦Eb≦3mm、より望ましくは、0.5mm≦Ea≦1mm、0.5mm≦Eb≦1mmであると言える。
【0083】
また、このことから、ヨーク3の側面のラジアル方向外側の周縁の突出寸法Ecも、0.5mm≦Ec≦5mmに設定することが好ましいと言える。望ましくは、0.5mm≦Ec≦3mm、より望ましくは、0.5mm≦Ec≦1mmである。
【0084】
尚、ヨーク3の側面のラジアル方向内側の周縁の突出寸法Edは、0.5mm≦G≦5mmに設定していることにより、特に規定しなくても良い。しかし、できるだけ突出寸法Edを小さくすることが望ましい。
【0085】
(7)試験例7(磁石体2の厚さ(磁石体2の周方向の長さMe)についての試験)
ネオジム磁石について、厚さと磁束密度との関係を測定した。結果を
図21に示す。この結果から、ネオジム磁石においては、150mT以下になることもあるが、フェライトでは得られない150mT以上に実用的価値がある。厚みを増すことで磁束密度は向上するが、重量あたりの効率を考えると6mm≦Me≦10mmあたりが良い。即ち、磁石の厚さMeは2mm~20mmが使用できるが、望ましくは、6mm~10mmの範囲である。
【0086】
(8)試験例8(ホルダ10の材質についての試験)
図22に示すように、第一の実施の形態と同様のロータ1(10極)において、ホルダ10の材質について試験した。後述する
図27(c)に示すように、ロータ1は、磁石体2として、ネオジム磁石であって、Ma=10mm、Mr=20mm、Me=8mmのもの(B=430mT)を用いた。ヨーク3として、SS400(鉄材)で、Ya=11mm、Yr=22mmのもの(係合部5の有るもの)で、中心角θを36°にしたものを用意した。
ホルダ10として、その材質が、一般構造用圧延鋼材(SS400)、ステンレス鋼(SUS304)、アルミニウム合金(A5052)の3種類を作成した(
図22(b))。
【0087】
そして、この種類の異なるホルダ10を夫々用いて作成した3種類のロータ1(10極)において、夫々、
図22(a)に示すように、ヨーク3の外周面(A表面)、ヨーク3の中心軸Pに直交する一方面のうち外側の部位(B表面)、ヨーク3の中心軸Pに直交する一方面のうち内側の部位(C表面)の磁束密度を、上記と同様の測定器を用いて測定した。
【0088】
結果を
図22(b)に示す。この結果から、ホルダの材質として非磁性体を用いることによって、ヨークの付け根部からの磁束漏れを防ぐことができ、その影響は、ヨークの最も重要な反対側のラジアル円周方向の磁束密度とアキシャル面の磁束密度とを10%以上も向上させるということが言える。
【0089】
(9)試験例9(ロータの大きさについての試験)
(9-1)ロータの内周円の半径(Ra)について
試験例7の結果から、6mm≦Me≦10mmの内、最小のMe=6mmを選択し、0.5mm≦G≦5mmの内、最小のG=0.5mmを選択してこれに設定すると、ロータの内側の半径Raは近似的に、
Ra≒(Me+G)×極数/2π・・・・・・・(式1)
としてよいから、
この式1から、ロータの内周円の周長は、10極(θ=36°)で約65mm(半径約10mm)、になる。
最大の場合は、14極(θ≒25.7°)で、Meが最大の10mm、Gが最大の5mmの場合であり、周長は約210mm(半径約35mm)になる。従って、ネオジム磁石の場合、ロータの内周円の半径(Ra)は、約10mm~約35mmの範囲が最適になる。
【0090】
(9-2)ロータの外周円の半径(R)について
そして、磁石の長さ(Mr)の検討からロータの外周円の直径(半径R)を決めることができる。先ず、
図23に示すように、Ma=10mm、Mr=10mm、Me=10mmのネオジム磁石(2a)と、Ma=10mm、Mr=20mm、Me=10mmのネオジム磁石(2b)を用い、ヨークの角度(θ)とヨークの扇型のラジアル方向に広がった外周部位中心の磁束密度との関係を上記の要領で測定した。その結果、ネオジム磁石(2a)では、ヨークの大きさが小さいため、磁気飽和し易くヨークの角度(θ)が20°、25°で吸着が困難になり、30°から吸着が可能となる。ネオジム磁石(2b)では、ヨークの大きさが大きくなるので、磁気飽和をおこし難くなり、ヨークの角度(θ)が20°では吸着しないが、25°で十分な吸着力を得ることができる。
【0091】
また、磁石の長さ(Mr)とヨーク、そしてラジアル周方向磁束密度の関係を確認した。
図23の結果から、ヨークの角度が大きくなり体積が増えると磁束密度が低下することが分る。また、例えば、ヨーク(θ=30°)で比較検討すると、
図24(b)(c)も参照し、ネオジム磁石(2a)のヨークと、ネオジム磁石(2b)のヨークとでは、ネオジム磁石の大きさ(体積)は2倍違うが、ヨークの大きさ(体積)は4倍違うことになる。従って、結果的にはヨークの体積が大きくなると効率が極端に低下することになる。実測値でみると、ネオジム磁石(2a)を用いたヨークの中心の磁束密度は332mTであり、ネオジム磁石(2b)を用いたヨークの中心の磁束密度は285mTであり、磁石の大きさを2倍にしたにも関わらず、磁束密度は約85%の値に低下する。これは、ネオジム磁石(2b)を用いたヨークにおいては、磁気飽和は起き難くなるが、反面、ヨークの中に磁束が十分吸収され全体に拡散することになり、結果として、ヨーク中心に現れる磁束密度がかなり低下することになるからである。この磁束密度が約85%低下する点は、
図23の結果から、ヨークの角度θが30°の場合に限らず、各角度θにおいて共通する。透磁率の良い材料などを用いることでこの低下率を良い方向に変化させることができる。ヨーク材料として高透磁率材料が開発されることが期待される。
【0092】
次に、重量あたり最大トルクを得るための最適なロータの大きさを決める要素関係を解析した。
図1に示す実施の形態に係るステータ(ラジアル型という)を想定した場合(A)と、
図11(a)に示す実施の形態に係るステータ(アキシャル型という)を想定した場合(B)とで解析した。
【0093】
(A)
図1に示す実施の形態に係るステータ(ラジアル型)を想定した場合
図25に示すように、ヨーク及びこれを挟むネオジム磁石2個における単位重量当たりのトルク重量比係数をFとして、これを、
F≒(R×B×H)÷(M+Y)=[(Ra+Mr)×B×H]÷(M+Y)
・・・・・・(式2)
と定義した。
【0094】
ここで、
F:トルク重量比係数
Mr:磁石体のロータの半径方向の長さ
Ra:ロータの内周円の半径。ここでは、半径を15mmとする。
R(≒Ra+Mr):ロータの外周円の半径
H:実ヨークの表面積比(ステータ寄与表面積比)。ここでは、
図1に示す実施の形態に係るステータを想定し、ティース22の凸条体25の最大長さを10mm程度として、図
図24に示すように、ネオジム磁石(2a)を用いたヨークの表面積(
図24(b))をアキシャル面とラジアル面を合計して分り易いように2とした。即ち、
図24(b)中、ヨークの斜線部分が表裏にあるので、この表裏の斜線部分を1とし、ヨークのラジアル周方向面(図示せず)を1とし、これらを足し合わせて2とした。
【0095】
M:ネオジム磁石の重量比。ここでは、ネオジム磁石(2a)の重量を2とした。
Y:ヨークの重量比。ここでは、ネオジム磁石(2a)を用いたヨークの重量を1とした。
B(=0.85
n):ヨークの磁束密度比。ここでは、上記の
図23の結果から、磁束密度がネオジム磁石の長さMrが10mm長くなると、その都度、約85%の値に低下することとし、ネオジム磁石(2a)を用いた場合のnを、n=0とし(ヨークの磁束密度比Bを1とし)、長さMrが10mm増えるごとに、nに1を加える。ネオジム磁石(2b)を用いた場合は、長さMrが20mmなので、n=1であるから、B=0.85となる。長さMrが30mmの場合は、n=2であるから、B=(0.85)
2=0.72となる。
【0096】
そして、ネオジム磁石を2個用いたヨークの場合、ネオジム磁石の長さMrを、5mm、10mm(ネオジム磁石(2a)を2個用いたヨークの場合)、20mm(ネオジム磁石(2b)を2個用いたヨークの場合)、30mm、40mm、50mmの各場合において、夫々、トルク重量比係数をFa~Ffとして、式2により計算すると、以下のようになる。
尚、磁石長Mrが5mmのネオジム磁石の場合には、側面のティースの形成が難しいので、10mmのものと比較して比表面積Hを0.5とし、磁石重量比Mを1.0とした。
Fa≒[(15+5)×1.17×0.5]÷(1.0+0.25)≒9.4
Fb≒[(15+10)×1×2]÷(2+1)≒16.7
Fc≒[(15+20)×0.85×5]÷(4+4)≒18.6
Fd≒[(15+30)×0.72×8]÷(6+9)≒17.3
Fe≒[(15+40)×0.61×11]÷(8+16)≒15.4
Ff≒[(15+50)×0.51×14]÷(10+25)≒13.3
【0097】
この結果をグラフ化すると、磁石長Mrとトルク重量比係数との関係は、
図26(a)に示すようになる。また、
図26(b)に、磁石長Mrとトルク(トルク重量比係数の算出式において、トルクに関与する分子部分)との関係を示す。例えば、ネオジム磁石(2b)を用いたロータはネオジム磁石(2a)を用いたロータに比較して、そのトルクは比例して増えると想定されるが、単純な比例関係にはない。
即ち、トルク重量比係数の算出式において、トルクに関与する分子部分(ここではトルクとする)の各要素は1次関数であり、磁石長が長くなると、この分子部分は、
図26(b)のように一次関数的に増加する。分母のヨーク重量は2次関数になるので、トルク重量比係数は、
図26(a)のように長さ10~20mmを最大にして、磁石の大きさが長くなると分母が大きくなり、徐々に低下することになる。
【0098】
(B)
図11(a)に示す実施の形態に係るステータ(アキシャル型という)を想定した場合
ここでは、上記と同様にトクル比係数を算出するが、ヨークの大きさに近似してアキシャルタイプは、ステータが大きくなるため、その分を考慮して、ヨークの重量比部分の数値を、2Yにした。また、磁石の長さMrに変えて、トルクを生じるヨークの重心位置までの長さLとした。実ヨーク表面積Hは、ステータのコイルに実質対峙する部分の面積とした。他は上記と同様である。
【0099】
よって、ヨーク及びこれを挟むネオジム磁石2個における単位重量当たりのトルク重量比係数Fは、
F≒(R×B×H)÷(M+2Y)=[(Ra+L)×B×H]÷(M+2Y)
・・・・・・(式3)
となる。
【0100】
上記と同様に、ネオジム磁石を2個用いたヨークの場合、ネオジム磁石の長さMrを、5mm(L=3mm)、10mm(L=7mm)、20mm(L=14mm)、30mm(L=20mm)、40mm(L=24mm)、50mm(L=32mm)の各場合において、夫々、トルク重量比係数をFa~Ffとして、式2により計算すると、以下のようになる。
Fa≒[(15+3)×1.17×0.2]÷(1.0+0.5)≒2.8
Fb≒[(15+7)×1×0.75]÷(2+2)≒4.1
Fc≒[(15+14)×0.85×3.5]÷(4+8)≒7.2
Fd≒[(15+20)×0.72×8]÷(6+18)=8.4
Fe≒[(15+24)×0.61×15]÷(8+32)≒8.9
Ff≒[(15+32)×0.51×23]÷(10+50)≒9.2
【0101】
この結果をグラフ化すると、磁石長Mrとトルク重量比係数との関係は、
図26(c)に示すようになる。また、
図26(d)に、磁石長Mrとトルク(トルク重量比係数の算出式において、トルクに関与する分子部分)との関係を示す。アキシャル型(
図11(a))の場合は、ヨークの面積が磁石長との関係で2次関数的に増加することが分る。磁石長30mmまでは、ラジアル型(
図1)が有利であるが、磁石長40mm超えの大径モータでは、アキシャル型(
図11(a))、ダブルアキシャル型(
図11(b))が有効であるといえる。
【0102】
(9-3)まとめ
以上の結果をまとめると、6mm≦Me≦10mm、0.5mm≦G≦5mmの条件下では、ロータの内周円の半径Raは約10mm~35mmの範囲、磁石体のロータの半径方向の長さMrは、5mm~50mmを使うことができ、その結果、ロータの外周円の半径Rは15mm~85mmの範囲が良好であることが分かった。尚、細長い形状の特徴を活かす場合は長さMrが5mmのものを使用するメリットはある。
【実施例】
【0103】
次に、実施例について示す。
先ず、
図27に示すようなロータを作成した。ロータは、
図2及び
図3に示す構造のものであり、中心角θが36°のヨークを用いた10極にした。
図27(a)に示すロータは、直径が40mm、ネオジム磁石は、長さ(Mr)5mm×幅(Ma)10mm×厚さ(Me)6mmで、磁束密度460mTである。
図27(b)に示すロータは、直径が50mm、ネオジム磁石は、長さ(Mr)10mm×幅(Ma)10mm×厚さ(Me)8mmである。
図27(c)に示すロータは、直径が70mm、ネオジム磁石は、長さ(Mr)20mm×幅(Ma)10mm×厚さ(Me)8mmである。
【0104】
そして、
図28に示すように、
図10及び
図11に示す実施の形態に係るロータ及びステータを用いたモータの試作機(実施例1~3)を作成した。各実施例において、ロータ1は、
図27(a)に示すロータ(直径Rが40mm、ネオジム磁石は、長さ(Mr)5mm×幅(Ma)10mm×厚さ(Me)6mm、磁束密度460mT)を用いた。
【0105】
<実施例1(試作機:(ラジアルギャップモータ)>
図28(a)に示すように、これは、
図10に示すタイプのもので、ロータ1及びラジアル位置ステータ20を備えるとともに、ベース50と、軸方向の途中にロータ1を固定した回転軸Sの両端側を軸支する一対の軸受体51と、ベース50に設けられラジアル位置ステータ20を固定する固定体52とを備えて構成されている。
【0106】
<実施例2(試作機2:シングルアキシャルギャップモータ)>
図28(b)に示すように、これは、
図11(b)に示すシングルアキシャルタイプのもので、1つのロータ1及びアキシャル位置ステータ30とを備えるとともに、ベース50と、ベース50に設けられ軸方向の途中にロータ1を固定した回転軸Sの両端側を軸支する一対の軸受体51と、ベース50に設けられアキシャル位置ステータ30を固定する固定体52とを備えて構成されている。ロータ1は、アキシャル位置ステータ30の一方面に対面させて設けられる。
【0107】
<実施例3(試作機3:ダブルアキシャルギャップモータ)>
図28(c)に示すように、これは、
図11(c)に示すダブルアキシャルタイプのもので、2つのロータ1及びアキシャル位置ステータ30とを備えるとともに、ベース50と、ベース50に設けられ軸方向の途中に2つのロータ1を固定した回転軸Sの両端側を軸支する一対の軸受体51と、ベース50に設けられアキシャル位置ステータ30を固定する固定体(図示せず)とを備えて構成されている。アキシャル位置ステータ30を挟んで2つのロータ1が回転軸Sに取り付けられ、一方のロータ1をアキシャル位置ステータ30の一方面に対面させ、他方のロータ1をアキシャル位置ステータ30の他方面に対面させている。
【0108】
<実施例4(仮想の例)>
これは、
図1に示した構造(シングルラジアル+ダブルアキシャル)の仮想のモータである。
【0109】
そして、これらの実施例1~3において、ステータのコイルに電流を流し、回転軸に負荷をかけて最大トルクを計測した。実施例4(仮想)については、実施例1~3の計測結果から試算した。また、単位重量当たりの最大トルクを算出した。更に、実装モータでは外装とシャフトの重量が追加されるので、(シャフト+外装)分について100gの重量増加を見込んだ単位重量当たりの最大トルクも算出した(カッコ内に記載)。結果を
図29(a)に示す。また、
図29(b)に、比較例として、市販されている7種のモータについての最大トルク及び単位重量当たりの最大トルクを示す。
【0110】
この結果から、本発明を適用したモータ(実施例1~4)は、市販されているモータ(比較例1~7)に比較して、何れも、単位重量当たりの最大トルクが大きくなることが分かった。また、実施例3(試験機3)の結果及び試算からも分かるように、ダブルアキシャルタイプを採用することで、高効率化が可能となることも分かった。
【0111】
これらの結果から、
図27(c)に示す長さ(Mr)20mmのネオジム磁石を用いたロータの場合、
図26(b)の磁石長とトルク比係数試験から想定されることとして、長さ(Mr)20mmのネオジム磁石を用いた場合の単純トルク値が148であるから、長さ(Mr)5mm磁石のトルク値12からの比例計算を行うと、約10倍のトルクが得られるものと想定される。従って、例えば、
図1に示す構造のモータでは、24V駆動で約10N・mのトルクを発生することができると想定され、外装を入れたモータの重量も約500gにすることができると想定される。更に、2連装ロータ化(
図8参照)した場合には、外装を入れた重量が約1kg相当で、約20N・mものトルクを得ることができると考えられる。駆動電圧を高く、例えば50Vにすれば1kg重量のモータで40N・mの高出力も可能となる。
【0112】
また、
図26(a)の磁石長とトルク重量比係数から想定されることとして、
図1に示す構成のモータにおいては、磁石長(Mr)20mmのネオジム磁石を用いた場合が重量比あたり効率としては最善であることが想定される。重量を考慮しなければ、磁石長をさらに50mmまで長くすることも可能である。しかし、トルクの立ち上がりや、最大回転数を考えると、磁石長(Mr)20mm前後のロータ径を多段に組み合わせたロータ(
図8参照)を用いたモータや、アキシャルタイプ(
図11参照)との組み合わせ、更にこれを多段にした構成が有効であると考えられる。このため、本発明は、重量当りのトルクが大きく、外形が小さく細長い、スピンドルモータ、小型軽量が望まれる、工作機械、ロボット、手作業ツール、ドローン等に極めて有用であると言える。
【0113】
尚、上記実施の形態に係る同期回転電機Kのロータ1において、磁石体2は直方体状に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、
図30に示すように、扇型(中心角α)になっていても良く適宜変更して差支えない。また、ヨーク3の数(極数)も上述した数に限定されるものではなく、適宜変更して差支えない。更に、上記実施の形態において、ホルダ10の形態は上述したものに限定されず適宜変更して差支えない。要するに、本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、リング状のロータとロータの周囲に設けられるステータとを備えた高効率な電動機(モータ)あるいは発電機として、利用,活用を図ることができ、重量当りのトルクが大きく、外形が小さく細長い、スピンドルモータ、小型軽量が望まれる、工作機械、ロボット、手作業ツール、ドローン等に極めて有用である。
【符号の説明】
【0115】
K 同期回転電機
S 回転軸
1 ロータ
P 中心軸
2 磁石体
3 ヨーク
θ 中心角
4 突片
5 係合部
6 被係合部
7 基端部
10 ホルダ
20 ラジアル位置ステータ
21 ステータコイル
22 ティース
23 枠体
24 本体
25 凸条体
25a 対面部
26 非磁性絶縁部材
U1 第1ユニット
U2 第2ユニット
27 枠体
30 アキシャル位置ステータ
31 円盤
40 ホルダ
41 プレート
42 第1ボルト挿通孔
43 第2ボルト挿通孔
44 ボルト
50 ベース
51 軸受体
52 固定体
【要約】
【課題】 磁石体及びヨークを反発力に拮抗しながら容易に組み立てることができるようにするとともに、磁石体及びヨークを磁気飽和を防いで安定して一体化できるようにする。
【解決手段】 磁石体2が同極同士を互いに対向させて扇型のヨーク3を介して等角度間隔に配置されたロータにおいて、磁石体2として磁束密度Bが150mT≦Bになるネオジム磁石を用い、ヨーク3の中心角θを20°<θ<40°に設定し、磁石体2の側面をこれに直交する方向から見たとき、磁石体2の側面の周縁からヨーク3の側面の周縁を突出させて磁石体2の側面とヨーク3の側面とを接合させ、ヨーク3のアキシャル方向の突出寸法Ea、アキシャル方向他方側の突出寸法Eb、隣接する磁石体2の最小間隔Gの関係を、0.5mm≦Ea≦5mm、0.5mm≦Eb≦5mm、0.5mm≦G≦5mmに設定した。
【選択図】
図6