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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】カバー部材、及び樋材
(51)【国際特許分類】
   E04D 13/064 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
E04D13/064 502B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018041786
(22)【出願日】2018-03-08
(65)【公開番号】P2018155091
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-09-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2017051030
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165505
【氏名又は名称】元旦ビューティ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】舩木 元旦
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】有家 秀郎
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-211397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0184392(US,A1)
【文献】特開2001-98716(JP,A)
【文献】特開2003-172006(JP,A)
【文献】特開2002-146981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D13/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平面状のカバー部と、少なくとも一端に取付部とを有し、上方が開放する排水路を備える樋材に傾斜状に配設されるカバー部材であって、
前記カバー部には、傾斜方向に複数段、傾斜方向に直交する方向に複数列の排水凹部が形成され、上段側の排水凹部列に対して下段側の排水凹部列は全て千鳥状に配設されていると共に、各排水凹部は、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分と、カバー部自体の厚み方向である深さ方向に開口する導入口とを有し、前記案内部分は、導入口へ向かう傾斜曲面状又は複数の傾斜平面状であり、且つその深さ寸法は3~5mmであることを特徴とするカバー部材。
【請求項2】
請求項1に記載のカバー部材を前記樋材の上方が開口する開口部に傾斜状に配したことを特徴とする樋材。
【請求項3】
前記傾斜方向に直交する方向に隣り合う前記排水凹部の離間幅に対し、前記排水凹部の列方向の幅はその2倍であることを特徴とする請求項2に記載の樋材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の軒樋や内樋等に取り付けられて落ち葉等による樋詰まりを防止すると共に雨水の樋材への導入を確実に行うことができるカバー部材、及び樋材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋根には、雨水を流す流水路として各種の軒樋や内樋等の樋類が設けられているが、それらの樋類の中に雨水に混じって落ち葉等が混入して閉塞状態となってしまうことを防止するため、前記樋類の表面には落ち葉よけの蓋状構造を採用するか、或いは別途カバー材等を配設することが多い。
例えば特許文献1に記載の軒樋1や特許文献2に記載の雨樋4は、平坦状の装置であって、その蓋状部分25やその雨樋カバーは、ほぼ水平状に設置される部材である。また、特許文献3に記載の軒といGを覆う軒先屋根材Aは、傾斜状に設置される部材である。これらの文献1~3における蓋部分には、面板方向に開口して上向きに孔が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-148014号公報
【文献】特開2009-167776号公報
【文献】特開平10-266476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1~3の構造に形成されるそれぞれの孔(穴)は、小さ過ぎると表面張力等の関係で雨水が落下しにくくなり、表面張力等の影響を受けない大きさにすると落葉等の流入が避けられないという問題があった。即ち特許文献1,2では、ほぼ水平状にカバーが設置されているため、孔の幅、径が小さいと表面張力や摩擦抵抗で雨水が滞留し易くなっていた。また、前記特許文献3では、傾斜状に配置されているため、雨水の流れる方向と孔が鉛直方向に交わり、孔に流下し難い構成であった。また、孔幅が小さいと特許文献1,2と同様に表面張力によって雨水が落下しにくい状態になるものであった。さらに、このような孔を大きく、或いは数多く形成することは、面板の強度を下げてしまうため、それらのバランスを調整しながら孔の幅、孔径を設定するのは極めて困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、建築物の軒樋や内樋等に取り付けられて落ち葉等による樋詰まりを防止すると共に雨水の樋材への導入を確実に行うことができ、接触角や表面張力の影響もないカバー部材、及び樋材を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、略平面状のカバー部と、少なくとも一端に取付部とを有し、上方が開放する排水路を備える樋材に傾斜状に配設されるカバー部材であって、前記カバー部には、傾斜方向に複数段、傾斜方向に直交する方向に複数列の排水凹部が形成され、上段側の排水凹部列に対して下段側の排水凹部列は全て千鳥状に配設されていると共に、各排水凹部は、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分と、カバー部自体の厚み方向である深さ方向に開口する導入口とを有し、前記案内部分は、導入口へ向かう傾斜曲面状又は複数の傾斜平面状であり、且つその深さ寸法は3~5mmであることを特徴とするカバー部材に関するものである。
【0008】
さらに、本発明は、前記カバー部材を当該樋材の上方が開口する開口部に傾斜状に配したことを特徴とする樋材をも提案する。
【0009】
また、本発明は、前記樋材において、前記傾斜方向に直交する方向(=列方向)に隣り合う排水凹部の離間幅に対し、排水凹部の列方向の幅はその2倍であることを特徴とする樋材をも提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカバー部材は、それぞれの排水凹部に深さ方向(厚み方向)に開口する導入口を設けたので、導入口に向かって傾斜状の案内部分から導入口へ至った雨水を確実に落下させて軒樋や内樋の樋材の内部に導入させることができ、落ち葉等による樋詰まりを防止することができる。
特に深さ方向に開口する導入口形成されているので、落ち葉等によって導入口が閉塞されることなく雨水を導入させることができる。
さらに、案内部分は、導入口へ向かう傾斜曲面状又は複数の傾斜平面状であり、且つその深さ寸法は3~5mmであるため、雨水量の程度にかかわらず、落ち葉等を侵入させることもないし、導入口(開口縁)に雨水の表面張力が作用(水膜を形成)することなく導入口としての役目が果たされ、雨水は傾斜曲面状又は傾斜平面状の案内部分を伝ってなだらか(円滑に)流れるために、極めて速やかに雨水等を樋材内へ導入させることができる。
また、カバー部には、傾斜方向に複数段、傾斜方向に直交する方向に複数列の排水凹部が形成され、上段側の排水凹部列に対して下段側の排水凹部列は全て千鳥状に配設されているので、傾斜方向の上段において列方向に隣り合う排水凹部の離間幅の水下側に、当段の排水凹部が位置するように配置されるため、上段の排水凹部をすり抜けた雨水も確実に当段の排水凹部にて捕集でき、より効率よく、より確実に裏面側(下方の樋材の内部へ雨水を導入できる。
【0013】
さらに、本発明の樋材は、前記カバー部材を当該樋材の上方が開口する開口部に傾斜状に配したので、傾斜状の案内部分から導入口へ至った雨水が正対して軒樋や内樋の樋材の内部に確実に導入することができ、落ち葉等による樋詰まりを防止することができる。
【0014】
また、列方向に隣り合う排水凹部の離間幅に対し、排水凹部の列方向の幅はその2倍である場合には、方向に隣り合う排水凹部の合計は、全体幅の3分の2に達するので、雨水を確実に樋材内へ導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のカバー部材の施工例の一つを示す側断面図である。
図2】(a)第1実施例のカバー部を示す平面部、(b)その側断面図、(c)排水凹部の拡大平面図である。
図3】(a)第2実施例のカバー部を示す平面部、(b)その側断面図、(c)排水凹部の拡大平面図である。
図4】(a)第3実施例のカバー部を示す平面部、(b)その側断面図である。
図5】(a)第4実施例のカバー部を示す平面部、(b)その側断面図である。
図6】(a)第5実施例のカバー部を示す平面部、(b)その側断面図、(c)排水凹部の拡大平面図である。
図7】(a)第6実施例のカバー部及び水下側取付部を示す平面部、(b)そのx-x線における側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のカバー部材は、略平面状のカバー部と、少なくとも一端に取付部とを有し、上方が開放する排水路を備える樋材に傾斜状に配設されるカバー部材であって、前記カバー部には、傾斜方向に複数段、傾斜方向に直交する方向に複数列の排水凹部が形成され、上段側の排水凹部列に対して下段側の排水凹部列は全て千鳥状に配設されていると共に、各排水凹部は、表面側から裏面側へ雨水を導く傾斜曲面状又は複数の傾斜平面状の案内部分と、カバー部自体の厚み方向である深さ方向に開口する導入口とを有し、前記案内部分の深さ寸法は3~5mmであることを特徴とする。
【0018】
本発明のカバー材のカバー部は、軒樋や内樋等の樋材を覆う部位に相当するものであって、該カバー部に形成する排水凹部は、傾斜方向に複数段、傾斜方向に直交する方向に複数列が形成され、上段側の排水凹部列に対して下段側の排水凹部列は全て千鳥状に配設され、表面側から裏面側へ雨水を導く傾斜曲面状又は複数の傾斜平面状であり、且つその深さ寸法は3~5mmである案内部分と、深さ方向に開口する導入口とを有するこの導入口は、各排水凹部の最下端に形成されるので、前記案内部分は深さ方向に傾斜状となって雨水を導く。
なお、前述のように前記「深さ方向」とは、カバー部自体の厚み方向、即ち深さ方向を意味しており、導入口が深さ方向に開口している。
【0020】
このカバー材を樋材の開口部に傾斜状に設置してカバー部が傾斜状に配設されるので、水上側に案内部分が位置し、その水下端に導入口が形成されるように、即ち導入口が傾斜方向に正対するように排水凹部を配設することが望ましい。
この排水凹部は、導入口に相当するスリット加工とそれを端縁とするようなプレス加工(凹状を形成する加工)を併用して形成できるので、傾斜方向に交わる方向にスリット幅を形成することにより、導入口が傾斜方向に正対させることができ、所望の案内部分及び導入口を形成できる。特に傾斜方向に複数段、傾斜方向に直交する方向に複数列の排水凹部が形成され、上段側の排水凹部列に対して下段側の排水凹部列は全て千鳥状に配設されているため、前述のスリット加工とプレス加工との併用が容易に果たされ、効率よく雨水を導くことができる。
【0021】
なお、以下の説明では、カバー部が傾斜状に配設され、水上側に案内部分が位置し、その水下端に導入口が形成されるように排水凹部を配設し、導入口が傾斜方向に正対するように形成する態様における排水凹部の配列構成や排水凹部自体の形状構成等について説明する。
【0022】
前記導入口は、雨水等を軒樋や内樋の内部へ導入する部位を指し、前述のように深さ方向に開口しているものである。前記従来技術の特許文献等では、面板方向に開口して上向きに孔が形成されているパンチングメタルのようなものが一般的であったのに対し、本発明における導入口は、深さ方向に開口して側方を向くように形成されている。
この導入口の深さ幅に関し、後述する好適な範囲が存在するが、小さ過ぎると、表面張力が働いて水膜を作り、十分に排水できず、大き過ぎると、排水量は大きくなるものの落ち葉やゴミ等が詰まり易く(樋材内へ導入し易く)なる。
【0023】
前記案内部分は、排水凹部の最下端に形成される導入口に向かう傾斜曲面状でも、複数の傾斜平面状からなるものでもよく、その平面視形状は、横長矩形状でも、左右の対向する上端角を円弧状に形成した横長状でもよく、特に限定するものではない。なお、前記「横長」とは、流れ方向に交わる方向(左右方向)の寸法が長いことを意味している。
流れてきた雨水を傾斜状の案内部分に落とし導入口に集めるためには、案内部分に一定の長さ幅が必要である。その長さ幅が小さすぎると、ぬれ現象が発生せずに雨水は案内部分を飛び越えて導入口に入らない。例えば散水試験にて6mmの長さ幅があれば水が案内部分に落ちて導入口に集まり排水されることを確認した。このように案内部分の流れ方向の長さ幅に関し、流量・流速に対して長さ幅が狭過ぎると、水が飛び越えてしまい、広い方が雨水の捕集作用が大きい。
一方、案内部分の長さ幅が大きいほど雨水が導入口を飛び越える可能性が下がって導入口に集まるものの、流れ方向にこの案内部分1ヶ所の占める範囲が大きくなり、導入口の数を制限してしまうため、排水量は全体的には低下してしまう。また案内部分の長さ幅が広くなると、落ち葉やゴミ等が案内部分に入り込んで堆積する可能性が大きくなるという問題もあった。
【0024】
さらに、これらの導入口及び案内部分の流れ方向に交わる方向(左右方向)の幅に関し、左右幅が大きい(広い)ほど排水量が大きくなる反面、落ち葉やゴミ等が詰まり易くなるという問題がある。また、小さい(狭い)ほど排水量も小さく設置個数が増大するため、加工効率の問題も生じる。
また、流れてきた雨水の全てを樋材の内部に導入(排水)するためには、導入口を面内に千鳥状に配置し、上下の段の導入口が重なっている必要がある。
【0025】
このような構成を有する排水凹部は、導入口の幅寸法のスリット加工と、それを下端とするプレス加工(凹状を形成する加工)とを併用する(同時に行う)ことにより、所望の案内部分及び導入口を形成できる。したがって、このカバー部材は、金属製、合成樹脂製、その他の素材にて作製されるが、前述の加工を行うことができるような素材であれば特に限定するものではなく、例えば横葺き外装材(屋根材)としても用いられる素材、代表的には概ね0.4~1.6mm程度の表面化粧鋼板、ラミネート鋼板、メッキ鋼板、ステンレス鋼板、アルミ合金板、チタン合金板、銅板等の公知の金属素材を用いることができる。
【0026】
このように本発明におけるカバー部材のカバー部は、水下端に深さ方向に開口する導入口が設けられた傾斜状の案内部分が配置された排水凹部が複数配置されている。
このカバー部材を樋等の落ち葉除けとして使う場合、導入口は案内部分の流れ方向の水下端に配置し、流れ方向の水上側から流れてきた雨水を、液体のぬれ現象を利用して表面から1段(低く)落とし導入口に集める。雨水は案内部分を落ちることで流速が増し、そのベクトルは導入口に向かうこととなるので、前述の従来技術の面板方向に穴が形成されている形状に比べ、スムーズに排水することが期待できる。
【0027】
この排水凹部において、導入口の深さ間隔に関する前述の知見に基づいて実験したところ、3~5mmであることが望ましいことが確認された。
深さ間隔が5mmを越えると、雨水と共に落ち葉やゴミ等の侵入が生ずる現象が確認され、深さ間隔が3mm未満では、導入口(開口縁)に雨水の表面張力が作用(水膜を形成)し、導入口としての役目を果たさず、雨水が速やかに導入できずにカバー部表面を流下する(樋材への雨水の導入が損なわれる)現象が確認された。言い換えれば導入口の深さ間隔を3~5mmに形成することにより、落ち葉やゴミ等の侵入を防ぎ、雨水を速やかに樋材の流水路へ導入することができる。
なお、落ち葉に関しては、品種や生育程度により形状や大きさが様々であり、ここから導入口の深さ間隔を明確に定めることはできない。
【0028】
また、流れ方向に交わる方向(左右方向)に隣り合う排水凹部の離間幅に対し、排水凹部の左右幅はその2倍であることが望ましいことが実験結果の考察にて見出された。この条件では、排水凹部の左右幅に関わらず、全ての排水凹部の導入口の合計左右幅は、全体幅の3分の2となるから、しかも流れ方向に複数段の排水凹部を設けているため、流れ方向を流下する雨水をほぼ確実に導入口から樋材の内部へ導入することができる。
【0029】
さらに、排水凹部が水勾配方向に沿って千鳥状に配設されている場合には、流れ方向の上段において左右方向に隣り合う排水凹部の離間幅の水下側に、当段の排水凹部が位置するように配置されるため、上段の排水凹部をすり抜けた雨水も確実に当段の排水凹部にて捕集でき、より確実に樋材の内部へ雨水を導入することができる。
【0030】
また、後述する図示実施例に示すように、左右方向に隣り合う排水凹部の間隔に、表面側へ隆起する分水リブを設けることにより、雨水がより確実に排水凹部へ案内されるようにしてもよい。
【0031】
次に、前述の知見に基づいて、案内部分の流れ方向の長さ幅、前記導入口及び案内部分の左右幅に関する実験した。
前者に関し、散水試験では6~10mmでも排水できることが確認された。
即ち流れ方向の段数を考慮すると、カバー部の広さ(樋材の大きさ)にも依存し、段ピッチを25mmにした場合には、この案内部分の長さ幅は最低でも6~10mmで、段ピッチ(25mm)を越えない範囲であればよいことが確認された(後述する第1~第3実施例)。
なお、カバー部の広さ(樋材の大きさ)に応じて段ピッチを大きく設定することもある。即ち段ピッチが小さ過ぎると、排水凹部の密度が高くなり過ぎるため、加工の手間がかかるからである。但し、段ピッチを前記数値(25mm)より大きく設定した場合、雨水が風の影響で斜め走りすることが懸念される。その場合にも、前述の分水リブを設けることにより雨水の捕集を確実にできることが確認された。
【0032】
後者に関し、左右幅は30mm以上必要であることが確認された。
即ちこれ以下では、上下段の導入口同士の重なりが小さくなり、樋材内部への導入が損なわれる。長い方が排水量は増加するが、例えば80mmにて落ち葉が刺さり易くなる現象が確認され、樋材内に侵入する可能性も増すので、左右幅は80mmを越えないことが望ましいことが確認された。
また、導入口の左右幅を大きくし過ぎると、面板強度が低下し、例えば積雪を受ける荷重に耐えられない可能性がある。左右幅を30~80mmにて検討したところ、案内部分に落ち葉を滞留させた状態で風を当てて落ち葉の残留する量を測定する試験を行った結果、30mmのほうが80mmよりも残留量が少なかった。80mmでも特に問題とはならなかったが、長さが増すほど落ち葉の侵入・堆積の可能性は高くなるので、長さは最低でも30mm以上で80mmを越えない範囲が好ましい。
【0033】
補足すると、前述の従来文献における面板方向に形成される孔は、流れ方向に平行に開口しており、本発明のカバー部材における導入口は、流れ方向に正対する深さ方向に開口しているので、表面張力は従来文献のような面板方向に平行に開口する孔では作用し易く、深さ方向(縦方向に)開口する本発明における導入口では更に重力も作用するため、少なくとも流れ方向に平行に開口する孔よりは表面張力が作用し難いものと推察される。
【0034】
このように構成される本発明のカバー部材は、それぞれの排水凹部の水下端に深さ方向(縦方向)に開口する導入口を設けたので、傾斜状の案内部分から導入口へ至った雨水が正対して裏面を「伝い流れ」することなく確実に落下させて軒樋や内樋の樋材の内部に導入することができ、落ち葉等による樋詰まりを防止することができる。
また、本発明における排水凹部は、その案内部分が傾斜状に形成され、雨水等の水はこの案内部分から導入口へ流下して樋材内へ導入することができる。
なお、落ち葉等については、凹状の案内部分に貯まり易いものの雨水等の水は、それらを通過して導入口より落下できる。それに対し、従来文献等の面板方向に形成される孔では。落ち葉等が孔を閉塞し易い。
【0035】
また、本発明のカバー部材は、樋材の表面を覆うように取り付けられる部材であるが、少なくとも一端に設けられる取付部の構成については特に限定するものではなく、後述する図示実施例のように水上側又は水下側の端縁、又は両方の端縁に取付部を設けることが望ましい。また、その取付部は、公知の接続手段で取り付けられるものであればよく、その取付対象についても樋材に限定されるものではなく、屋根面を構成する下地材に取り付けるようにしてもよい。
【0036】
なお、前述のようにこのカバー部には、複数の前記排水凹部を、流れ方向、流れ方向に交わる方向(左右方向)に形成するが、当然のことながら排水凹部(導入口)の形成密度が高すぎると、雨水の導入が速やかに行われるものの強度が低下する問題を生じ、排水凹部(導入口)の形成密度が低すぎると、強度は低下しないものの雨水の導入に支障を生じる場合がある。
尤も、前述のように排水凹部は、縦方向の導入口と三次元成形される案内部分とからなるので、少なくとも前述の従来文献等のように面板方向に複数の孔を形成するケースに比べて面強度の低下は少ない。また、導入口に比べて案内部分を大きく形成できるので、接触角の影響も受け難い。さらに、従来文献等のような面板方向に平行に開口する孔に比べ、深さ方向(縦方向に)開口する導入口には重力の影響で表面張力の影響も受け難いため、雨水を樋材内へ導入し易い。
【0037】
前述のようにこのカバー部材としては、金属製、合成樹脂製、その他の素材にて作製することができるが、横葺き外装材(屋根材)としても用いられる素材と同様の長尺帯板状の金属板を原料素材として用いるものとして、排水凹部(導入口)の配設間隔や排水凹部(案内部分)の大きさを、実験により検討、考察した。なお、流れ方向に交わる方向(左右方向)には専ら直列状に排水凹部を設け、流れ方向には専ら千鳥状に排水凹部を設ける態様で検討、考察した。
【0038】
また、前述の実験では、雨水として、地域の最大降雨量から算定した水道水を供給して行ったが、横方向の打ち抜き孔を設けた比較例に比較しておおよそ全ての条件で効率よく雨水を導入でき、「伝い流れ」も生じなかった。
但し、当該実験は、前述のようにカバー部材として、横葺き外装材(屋根材)に用いられる素材と同様の長尺帯板状の金属板を原料素材として用いたが、当該原料素材を高強度素材に変更することにより、前述の条件はより広く緩和できるものと見込まれる。
【実施例1】
【0039】
図1は、本発明のカバー部材1の施工例の一つを示すものであって、カバー材1を軒樋2を覆うように傾斜状に取り付けた状態を示している。前記カバー部材1の水上側取付部12は、最軒側の横葺き外装材3の裏面側に吊子4と共にビス止め(ビス4b)され、その水下側取付部13は、軒樋2の軒側の側端23にオーバーハング状に係合している。
この施工例のカバー部材1は、横葺き外装材3と同様の金属板材の成形体であって、その中央に位置するカバー部11については当該素面では模式的に示しているが、前述のように導入口の幅寸法にスリット加工を行った後、それを下端とするようなプレス加工を行って案内部分102及び導入口101を形成して排水凹部10を形成している。なお、このカバー部11及び排水凹部10の構成については、後述する図2~5の第1~第4実施例にて説明する。
【0040】
また、この施工例における建築物は、傾斜方向に延在するH躯体7に、木毛セメント板等で形成される野地材6及び通し材である支持材5が敷設され、該野地材6及び支持材5の外側に防水シート6bを介して横葺き外装材3が取り付けられている。前記横葺き外装材3の裏面側には裏貼り材3bが添装され、更に裏面側にはバックアップ材3cが配設され、支持材5に固定された吊子4にて段状の外装面を構築している。なお、最軒側の横葺き外装材3を保持する吊子4'は、他の吊子4と異なり略平坦状であり、ビス4bにて支持材5に固定されている。
また、前記H躯体7の軒端には、縦方向に延在する構造材7Bが、その下端に横方向に延在する構造材7Cが配設され、前記構造材7Bの外側には壁面外装材8Aが、下端には納め材8Bが配され、前記構造材7Cの外側(下面側)には軒先天井材9Aが配されている。
【0041】
以下に説明する第1~第4実施例において、排水凹部10a~10dの導入口101a~101dの深さ間隔は3~5mmであり、並びに左右方向に隣り合う排水凹部10a~10dの離間幅に対して排水凹部10a~10dの左右幅をその2倍としている点では全く同様である。また、第1~第3実施例においては、流れ方向に隣り合う排水凹部10a~10cの導入口101a~101cの間隔を、導入口101a~101cの左右幅の6分の5とした。
【0042】
図2に示す第1実施例のカバー部11Aは、流れ方向(図面の上下方向)に5段、流れ方向に交わる方向(図面の左右方向)に4列の排水凹部10aの合計20個の群を有するものであり、各排水凹部10aは、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分102aと、流れ方向に正対して深さ方向に開口する導入口101aとを有する。
この第1実施例の排水凹部10aは、図2(c)に拡大して示すようにその平面視形状が、左右の対向する上端角を円弧状に形成した横長状であって、導入口101aの幅寸法のスリット加工、それを下端とするプレス加工を同時に行って形成したものである。前記プレス加工では、表面側から臨ませる雄型として曲面で形成される型を用いることにより、形成される案内部分102aは、水下端に形成される導入口101aに向かう傾斜曲面状に形成されている。
【0043】
図3に示す第2実施例のカバー部11Bは、流れ方向(図面の上下方向)に5段、流れ方向に交わる方向(図面の左右方向)に4列の排水凹部10bの合計20個の群を有するものであり、各排水凹部10bは、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分102bと、流れ方向に正対して深さ方向に開口する導入口101bとを有する。
この第2実施例の排水凹部10bは、図3(c)に拡大して示すようにその平面視形状が、横長矩形状であって、導入口101bの幅寸法のスリット加工、それを下端とするプレス加工を同時に行って形成したものである。前記プレス加工では、表面側から臨ませる雄型として多角形状の型を用いることにより、形成される案内部分102bは、水下端に形成される導入口101bに向かう複数の傾斜平面状に形成されている。
【0044】
これらの第1,第2実施例では、図2(b),図3(b)に示すように案内部分102a,102bの傾斜角度が急勾配に形成されているので、後述する第3実施例に比べて雨水の捕集作用は少ないが、これらの案内部分102a,102bから雨水を確実に導入口101a,10bに導いて図示しない樋材内へ導入することができる。
【0045】
図4に示す第3実施例のカバー部11Cは、流れ方向(図面の上下方向)に5段、流れ方向に交わる方向(図面の左右方向)に4列の排水凹部10cの合計20個の群を有するものであり、各排水凹部10cは、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分102cと、流れ方向に正対して深さ方向に開口する導入口101cとを有する。
この第3実施例の排水凹部10cは、前記第1実施例と同様にその平面視形状が、左右の対向する上端角を円弧状に形成した横長状(但し、前記第1実施例より流れ方向の寸法が約2倍)であって、導入口101cの幅寸法のスリット加工、それを下端とするプレス加工を同時に行って形成したものである。前記プレス加工では、表面側から臨ませる雄型として曲面で形成される型(但し、前記第1実施例に用いて雄型より流れ方向の寸法が約2倍の型)を用いることにより、形成される案内部分102cは、水下端に形成される導入口101cに向かう傾斜曲面状に形成されている。
【0046】
この第3実施例では、図4(b)に示すように案内部分102cの傾斜角度が緩やかに形成されているので、前記第1,第2実施例に比べて雨水の案内(流下)速度は小さいものの、約2倍程度広い案内部分102cにてより多量の雨水を捕集して導入口101cへ案内することができる。なお、案内部分102cは前述のように緩やかに形成されてはいるものの、その高低差により最も低い導入口101cへ雨水を流下させることができる。
【0047】
図5に示す第4実施例のカバー部11Dは、流れ方向(図面の上下方向)に5段、流れ方向に交わる方向(図面の左右方向)に4列の排水凹部10dの合計20個の群を有するものであり、各排水凹部10dは、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分102dと、流れ方向に正対して深さ方向に開口する導入口101dとを有する。
この第4実施例の排水凹部10dは、前記第1~第3実施例と異なり、流れ方向に隣り合う排水凹部10dの導入口101dの間隔を、導入口101dの左右幅より広い段ピッチとした。尤も排水凹部10dの形状自体は、前記第3実施例の排水凹部10cとほぼ同様である。また、この第4実施例では、左右方向に隣り合う排水凹部10d,10d間に、表面側へ隆起する分水リブ14を設けている。
【0048】
この第4実施例では、前記第3実施例の排水凹部10cと同様の排水凹部10dを設けているので、前記第3実施例と同様に多量の雨水を捕集して導入口101dへ案内(流下)することができる。なお、この第4実施例では、導入口101dの段ピッチを前記第3実施例よりも広く形成したので、雨水が風の影響で斜め走りすることが懸念されたが、分水リブ14を設けたので、雨水の捕集を隣り合う排水凹部10d,10dへ確実に案内できることが確認された。
【0049】
図6に示す第5実施例のカバー部11Eは、流れ方向(図面の上下方向)に5段、流れ方向に交わる方向(図面の左右方向)に6列の排水凹部10eの合計30個の群を有するものであり、各排水凹部10eは、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分102eと、流れ方向に正対して深さ方向に開口する導入口101eとを有する。
この第5実施例の排水凹部10eは、図6(c)に拡大して示すようにその平面視形状が、左右の対向する上端角を円弧状に形成した横長状であって、導入口101eの幅寸法のスリット加工、それを下端とするプレス加工を同時に行って形成したものであり、前記第2実施例(10b)と異なるのは案内部分102eの基端が山状から逆山状に形成されている。
【0050】
この第5実施例では、前記第2実施例の排水凹部10bと近似する形状の排水凹部10eを設けたので、前記第2実施例と同様に多量の雨水を捕集して導入口101eへ案内(流下)することができる。そして、この第5実施例では、より確実に案内部分102eへ雨水を導くことが確認された。
【0051】
図7に示す第6実施例のカバー部11Fは、流れ方向(図面の上下方向)に6段、流れ方向に交わる方向(図面の左右方向)に6列の排水凹部10fの合計36個の群を有するものであり、各排水凹部10fは、表面側から裏面側へ雨水を導く案内部分102fと、流れ方向に正対して深さ方向に開口する導入口101fとを有する。
この第6実施例の排水凹部10fは、前記図6の第5実施例(10e)と略同様に、その平面視形状が、左右の対向する上端角を円弧状に形成した横長状であって、導入口101fの幅寸法のスリット加工、それを下端とするプレス加工を同時に行って形成したものであり、前記第5実施例(10e)と異なるのは、排水凹部10fの方がより横長であって、案内部分102fの先端に、略垂下状に折り曲げられた水切り部103fが形成されていることである。
【0052】
この第6実施例では、前記第5実施例(10e)と略同様の排水凹部10fを設けたので、前記第5実施例と略同様の導水作用を有するが、特に略垂下状の水切り部103fを形成したので、より確実に雨水を裏面側(軒樋2)へ落下させることができる。
また、この第6実施例では、カバー部11Fの水下端(カバー部11Fと水下側取付部13Fと境界)に、長さ方向(横方向)に連続する断面凹状の軒側排水溝131fが設けられ、該軒側排水溝131fに所定間隔にて複数の略円孔状の軒側導水孔132fが設けられている。なお、当該軒側排水溝131fは谷状底部に形成され、確実に雨水を捕集できる構成となっている。そのため、仮に前記排水凹部10fにて裏面側(軒樋2)へ落下できない(捕集できない)雨水があったとしても、確実にこの軒側排水溝131f及び軒側導水孔132fにて雨水を捕集して裏面側(軒樋2)へ落下させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 カバー部材
10,10a~10e 排水凹部
101,101a~101f 導入口
102,102a~102f 案内部分
11,11A~11F カバー部
12 水上側取付部
13,13F 水下側取付部
14 分水リブ
2 軒樋
3 横葺き外装材
4,4' 吊子
5 支持材
6 野地板
7 H躯体
7B,7C 構造材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7