(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】温間プレス成形装置および温間プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 24/00 20060101AFI20240415BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B21D24/00 M
B21D24/00 F
B21D22/20 H
(21)【出願番号】P 2020137610
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】原田 泰典
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-227978(JP,A)
【文献】特開昭57-025222(JP,A)
【文献】特開2016-078066(JP,A)
【文献】特開平08-117896(JP,A)
【文献】特開2003-290843(JP,A)
【文献】特開2002-081449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0312802(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/00
B21D 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチとダイとを用いて温間状態でワークを加工する温間プレス成形装置において、
前記パンチは、
有底空洞を有するパンチ本体と、
前記有底空洞の内部に挿入された回転シャフトと、
前記回転シャフトの先端に取り付けられた回転治具と、を備え、
前記温間プレス成形装置は、
前記回転シャフトを回転させる回転手段と、
前記回転シャフトを介して前記回転治具を前記有底空洞の内部底面に向けて押圧する付勢手段とを備え、
前記回転手段と前記付勢手段とを用いて前記回転治具を押圧し回転させて発生する摩擦熱によって前記ワークを加熱して温間状態を生成するように構成とされている、ことを特徴とする温間プレス成形装置。
【請求項2】
前記有底空洞の内部底面に固定された発熱治具をさらに備え、
前記回転治具と前記発熱治具との間に前記摩擦熱を発生させることを特徴とする請求項1に記載の温間プレス成形装置。
【請求項3】
前記回転治具を取り付けた前記回転シャフトを互いに平行に複数備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温間プレス成形装置。
【請求項4】
前記パンチは、パンチ胴部と先端パンチとに着脱自在に分離可能であり、
前記パンチ胴部は、前記回転シャフトを回転自在に支持する耐熱ベアリングを備え、
前記先端パンチは、前記有底空洞の底部を含んでいる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の温間プレス成形装置。
【請求項5】
パンチとダイとを用いて温間状態でワークを加工する温間プレス成形方法において、
前記パンチの有底空洞の底部に回転治具を押圧して回転させ、摩擦熱を発熱させることにより、前記パンチの先端部を発熱させ、
前記パンチの先端部を前記ワークに接触させて所定の温間状態とし、
前記パンチを前記ダイに向けて押し込むことにより、前記所定の温間状態となった前記ワークの被加工部を温間プレス成形する、ことを特徴とする温間プレス成形方法。
【請求項6】
前記パンチの先端部を前記ワークに接触させた状態で、前記回転治具を回転させることにより前記ワークを所定の温間状態とする、ことを特徴とする請求項5に記載の温間プレス成形方法。
【請求項7】
前記ワークがマグネシウム合金であり、前記加工が深絞り加工であり、
前記所定の温間状態において前記ワークの温度が200℃から300℃の範囲にある、ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の温間プレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温間プレス成形装置および温間プレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プレス成形の絞り加工で成形される製品等において、軽量かつ十分な強度を有する高付加価値製品を生み出すことが積極的に行われている。例えば、電子機器、制御機器、燃料電池などの産業用筐体や生活用品などにおける容器や筐体として用いられるものは、耐食性や耐熱性などの機能性に加え、軽量かつ高強度であるという付加価値が要求される。
【0003】
ところで、マグネシウム合金は、実用金属材料の中で最も軽量であり、自動車や航空機などの輸送機器の分野において、省エネや地球温暖化ガスの排出抑制のための次世代構造材料として注目されている材料である。しかしながら、多くのマグネシウム合金は、すべり系の少ない六方晶結晶構造を有するため、冷間加工はほとんど不可能であるのが現状である。このようなマグネシウム合金の製品は、おもにダイカストやチクソモールディングなどで温間成形されているが、生産性向上と軽量化や薄肉化などの観点から、冷間加工による成形が強く望まれているが、温間のプレス成形による新しい板材成形技術の実用化も望まれている。
【0004】
一方で、マグネシウム合金の板材は、圧延によって製造され、周辺技術の進歩とともに、その供給体制が十分に整備されてきており、プレス成形に向けての環境は整ってきている。このようなマグネシウム合金板による成形品は、パソコンやカメラなどにおける筐体として多くの用途があり、プレス成形の深絞り加工による製品化が望まれている。
【0005】
マグネシウム合金部品の温間プレス成形に関し、絞り工程ではマグネシウム合金板をマグネシウム合金が破断しない温度に加熱し、絞り加工の終了後の離型工程ではマグネシウム合金板をその塑性変形応力が離型抵抗を上回る温度に冷却する、という方法と装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、パンチとダイとの間にワークを挟み込んでヒータにより所定温度まで加熱してからワークをプレス成形する際の不均一な加熱を解消するため、パンチの周囲に位置する部位に複数のヒータを埋設する構成とした温間プレス成形装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-136306号公報
【文献】特開2006-130511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1,2に示されるような方法や装置は、ワークの注目する加工領域を重点的に温間状態にするものではなく、熱効率等に関して、なお改善余地がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解消するものであって、ワークに接するパンチの先端部分を直接的に加熱でき、ワークの加工領域を重点的に温間状態にすることができる温間プレス成形装置および温間プレス成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明の温間プレス成形装置は、パンチとダイとを用いて温間状態でワークを加工する温間プレス成形装置において、前記パンチは、有底空洞を有するパンチ本体と、前記有底空洞の内部に挿入された回転シャフトと、前記回転シャフトの先端に取り付けられた回転治具と、を備え、前記温間プレス成形装置は、前記回転シャフトを回転させる回転手段と、前記回転シャフトを介して前記回転治具を前記有底空洞の内部底面に向けて押圧する付勢手段とを備え、前記回転手段と前記付勢手段とを用いて前記回転治具を押圧し回転させて発生する摩擦熱によって前記ワークを加熱して温間状態を生成するように構成とされている、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の温間プレス成形方法は、パンチとダイとを用いて温間状態でワークを加工する温間プレス成形方法において、前記パンチの有底空洞の底部に回転治具を押圧して回転させ、摩擦熱を発熱させることにより、前記パンチの先端部を発熱させ、前記パンチの先端部を前記ワークに接触させて所定の温間状態とし、前記パンチを前記ダイに向けて押し込むことにより、前記所定の温間状態となった前記ワークの被加工部を温間プレス成形する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の温間プレス成形装置および温間プレス成形方法によれば、パンチの有底空洞の底部において摩擦熱を発生させてパンチの先端部を発熱させるので、パンチの先端部の熱でワークの加工領域を重点的に温間状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る温間プレス成形装置を示す概念構成図、(b)は同装置においてパンチがダイに押し込まれた状態の図。
【
図2】(a)は他の実施形態に係る温間プレス成形装置の部分断面図、(b)は(a)におけるパンチのA-A線断面図。
【
図3】さらに他の実施形態に係る温間プレス成形装置の構成図。
【
図4】本発明の一実施形態に係る温間プレス成形方法を示すフローチャート。
【
図5】発明の一実施形態に係る温間プレス成形装置で成形されたプレス成形品の写真を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る温間プレス成形装置および温間プレス成形方法について、図面を参照して説明する。
【0015】
(温間プレス成形装置)
図1(a)(b)は、本発明の一実施形態に係る温間プレス成形装置1を示す。この温間プレス成形装置1は、パンチ2とダイ3とを用いて温間状態でワーク10を加工する装置である。温間プレス成形装置1は、一般的な上金型と下金型とを有するプレス駆動装置に組み込まれて動作する。例えば、パンチ2は上金型に固定され、ダイ3は下金型に固定される。パンチ2とダイ3は、上金型と下金型の上下方向における接近と離脱の相対運動に従って、プレス成形動作をする。パンチ2とダイ3の空間配置は、これに限られず、上下逆方向、水平方向、または任意の斜め方向の空間配置であってもよい。
【0016】
パンチ2は、有底空洞2aを有するパンチ本体20と、有底空洞2aの内部に挿入された回転シャフト21と、回転シャフト21の先端に取り付けられた回転治具22と、有底空洞2aの内部底面に固定された発熱治具23とを備えている。温間プレス成形装置1は、さらに、回転シャフト21を回転させる回転装置(回転手段)24と、回転シャフト21を介して回転治具22を発熱治具23に押圧する付勢装置(付勢手段)25とを備えている。
【0017】
ダイ3は、ワークホルダ30と、ダイ本体31とを有する。ワークホルダ30は、ワークホルダ30とダイ本体31との間にワーク10を挟み込み、ワーク10に適宜の圧力を加えることにより、絞り加工時のしわ発生防止を行いつつ、ワーク10の中心方向への移動や延びを可能とする。ワークホルダ30の開口は、本実施形態では円形であり、円柱状のパンチ2がワークとともに挿通される適宜の開口径を有する。ワークホルダ30の開口、ダイ本体31の開口、およびパンチ2は、互いに同軸配置とされている。ワークホルダ30とダイ本体31とがワーク10を挟持するためダイ3に加える圧力は、別途の油圧装置などから与えられる。
【0018】
パンチ本体20とダイ3とは、例えば円筒形の深絞り容器を生成する場合、それぞれ円形の外形と円形の内径を有し、パンチ2の有底空洞2a、回転シャフト21、回転治具22、および発熱治具23は軸対称の形状を有する。また、四角筒形の深絞り容器を生成する場合、パンチ本体20とダイ3とは、それぞれ四角形の外形と四角形の内径を有する。
【0019】
付勢装置25によって回転シャフト21を通じて回転治具22を発熱治具23に押圧し、その押圧状態で、回転装置24によって回転シャフト21を介して回転治具22を回転することにより、回転治具22と発熱治具23との間に機械的な発熱である摩擦熱が発生する。パンチ本体20の先端部分すなわちワーク10の成形領域に接する部分が、その機械的な摩擦熱によって加熱される。
【0020】
温間プレス成形装置1は、例えばマグネシウム合金のような、室温でのプレス成形が困難である板材の深絞り加工性を改善するため、摩擦熱を利用して温間状態を生成することにより、深絞り加工を実現するものである。マグネシウム合金は、冷間での深絞り加工による成形が困難であるが、例えば、200~300℃程度に加熱することで成形性が大きく向上するので、一般にこのような温間で深絞り加工が行われている。
【0021】
合金板における注目する成形領域のみが温間状態であれば、成形は可能と考えられる。つまり、プレス成形金型であるパンチの、少なくとも合金板の成形領域に接する先端部が加熱されれば、パンチに接している合金板も加熱されて温間状態となり、温間プレス成形ができると考えられる。このことから、温間プレス成形装置1は、パンチ先端部を温間状態とするため、空洞にしたパンチ本体20の内部に組み込んだ回転治具22を回転させ、有底空洞2aの内面底部に摩擦熱を発熱させる構造とされている。
【0022】
本実施形態では、有底空洞2aの内部底面と回転治具22との間で摩擦熱を発生させるために、底面と回転治具22との間に発熱治具23を挿入配置している。回転治具22と発熱治具23との間で摩擦熱を発生させ、発熱治具23に発生した摩擦熱によって、パンチ本体20の底部が加熱される。
【0023】
回転治具22と発熱治具23とは、例えば、互いに接触面において摩擦熱が発生しやすい材料と表面構造とを有する構成とされる。回転治具22は熱を伝達しにくい材料で熱を逃がさず、発熱治具23は熱をパンチ本体20の底部に素早く伝達して加熱できる材料と寸法構造とされる。パンチ本体20とは別体の発熱治具23を採用することにより、パンチ本体20と発熱治具23の材料を最適化することができる。また、発熱治具23は着脱自在とすることで、摩擦力を受ける消耗品として適宜交換でき、パンチ本体20の内部底面部が発熱治具23を兼ねている場合に比べて、パンチ本体20の使用寿命を延ばすことができる。
【0024】
図2(a)(b)は、回転治具22を取り付けられた回転シャフト21を互いに平行に複数(本例では2本)備えた温間プレス成形装置1を示す。パンチ本体20は、長四角柱の外形を有し、内部に長四角空洞を有する。パンチ本体20の内部底面には、2つの回転治具との摩擦によって摩擦熱を発生する、四角形の単一の発熱治具23が備えられている。この温間プレス成形装置1は、長方形の角筒容器を製造する装置として用いられる。
【0025】
一般に、温間プレス成形装置1は、複数の回転シャフト21を互いに平行に備え、単一または複数の発熱治具23を備えた温間プレス成形装置1を構成することにより、プレス方向に垂直な断面の形状が円形、四角形、長方形などに限られず、任意の異形断面を有する温間プレス成形品を成形することができる。
【0026】
図3は、
図1(a)(b)に示した温間プレス成形装置1のより具体的な構成を示す。この実施形態の温間プレス成形装置1は、パンチ2のパンチ本体20が、パンチ胴部20aと先端パンチ20bとに着脱自在に分離可能である。有底空洞2aは、パンチ胴部20aと先端パンチ20bの分割に対応して、両端開口空洞と有底空洞とに分割される。パンチ胴部20aと先端パンチ20bとは、互いに篏合した状態で止めねじ20cによって固定される。
【0027】
パンチ胴部20aは、回転シャフト21を回転自在に支持する耐熱ベアリング4を備えている。耐熱ベアリング4は2つの耐熱ベアリング41,42と1つの筒状のスペーサ40を有している。耐熱ベアリング41,42は、スペーサ40で上下に位置決めされてパンチ胴部20aの両端開口空洞に篏合固定されている。回転シャフト21は、耐熱ベアリング4(41,42)によって、回転自在かつ軸方向に移動自在に支持されており、パンチ2内で、回転治具22を発熱治具23に押圧した状態で回転させることができる。
【0028】
先端パンチ20bは、有底空洞2aの底部を含んで発熱治具23を備えている。発熱治具23は、有底空洞2aの底部に配置され、偏芯位置に設けられたとめピンによって、回転治具22との供回りが防がれている。先端パンチ20bは、止めねじ20cを外すことにより、パンチ胴部20aから分離できるので、発熱治具23の状態確認、脱着、交換などを容易に行うことができる。
【0029】
温間プレス成形は、成形時の温度管理が重要である。温間プレス成形装置1は、ダイ3の各部およびワーク10そのものの要所の温度を測定するため、例えば、熱電対を備えている。例えば、ワークホルダ30における開口部の近傍の温度測定用の熱電対12、ダイ本体31における肩部と開口側壁の各温度測定用の熱電対13,14、およびワーク10の中央下面に設置された熱電対11などが備えられている。熱電対11により、ワーク10の温間状態を把握でき、パンチ2の先端の温度を推定できる。
【0030】
ダイ3には、補助の加熱部材や保温部材を備えてもよい。例えば、ワークホルダ30やダイ本体31の内部や表面にシースヒータやパイプヒータなどを備えてもよい。また、パンチ2の加熱部の表面温度や、ワーク10の表面温度を測定するために、輻射式温度計(パイロメータ)を備えてもよい。
【0031】
上述した各実施形態の温間プレス成形装置1は、マグネシウム合金の深絞り加工を行う温間プレス成形に好適に用いられる。この温間プレス成形装置1は、マグネシウム合金に対して温間における深絞り加工を行う際に、金型におけるパンチ2を摩擦熱によって内部から発熱して温間状態を生成して成形を行う。このパンチ主要部の部分加熱の実現は、ワークと金型全体(パンチ2とダイ3)を予め加熱する必要性をなくし、ワークの成形領域に限定した部分加熱に基づくプレス成形の道を開くことができる。機械的な摩擦熱発生による部分加熱成形によれば、電気的な加熱装置、制御装置、断熱処理、ヒータ配線と絶縁処理など、多くの装置や電気設備が不要になる。
【0032】
パンチ内部に設置した材料を回転させることによって安定的に摩擦熱を発生させて温間状態にするには、発熱時に互いに接合することなく安定して回転できるように、回転治具22と発熱治具23の材料を選択することが重要になる。回転摩擦の技術は摩擦圧接の接合技術に用いられている。また、摩擦攪拌接合(FSW)に関する研究も多く行われている。このような接合技術の分野において、接合し難い、難接合材の組み合わせの知見が多く蓄積されている。そこで、その知見に基づいて、互いに圧接し難い材料を、回転治具22と発熱治具23の材料として選択すればよい。また、回転治具22と発熱治具23は、例えば、工具鋼や耐熱鋼などの合金鋼による組み合わせとしてもよく、超硬合金やセラミックの材料との組み合わせとしてもよい。
【0033】
各実施形態の温間プレス成形装置1は、マグネシウム合金に対する深絞り加工だけでなく、冷間加工が困難な金属材料に対しても、容器の成形応用への可能性を有する。例えば、室温での成形が困難とされているα+β型チタン合金6Al-4V系やニッケル合金Inconel718系などの材料を用いる温間プレス成形への応用展開をしてもよい。
【0034】
(温間プレス成形方法)
図4は、温間プレス成形装置1を用いて行う温間プレス成形方法を示す。温間プレス成形方法は、次の手順で実施される。まず、パンチ2の有底空洞2aの底部の発熱治具23に回転治具22を押圧し、押圧状態で回転治具22を回転させ、摩擦熱を発生させることにより、パンチ2の先端部を発熱させる(S1)。
【0035】
次に、摩擦熱で加熱されたパンチ2の先端部をワーク10に接触させ、ワーク10の成形領域を所定の温間状態とする(S2,S3)。
【0036】
ワーク10の成形領域が所定の温間状態になると(S3でYes)、パンチ2をダイ3に向けて押し込むことにより、所定の温間状態となったワーク10の被加工部を温間プレス成形し(S4)、その後、離型する(S5)。
【0037】
上記の最初の2つのステップ(S1,S2)は、同時に行ってもよい。つまり、パンチ2の先端部をワーク10に接触させた状態で、回転治具22を回転させることによりワーク10を所定の温間状態としてもよい。
【0038】
この温間プレス成形方法において、例えば、ワーク10がマグネシウム合金であり、加工が深絞り加工であり、所定の温間状態においてワーク10の温度が200℃から300℃の範囲にある。
【0039】
(実施例)
図5に示す成形品は、
図1(a)(b)に示した装置と同様の構成の温間プレス装置を用いて加工された成形品である。パンチ本体20は外径20mmであり、有底空洞2aに収められた回転治具22は直径15mmである。パンチ本体20の材料として、標準熱処理を施した熱間工具鋼SKD11(HRC50)を用いた。
【0040】
パンチ本体内部の回転治具22を、パンチ底部に対する所定の荷重下で高速回転させて摩擦による発熱を生じさせ、パンチ先端部を温間状態になるようにした。本実施例では、パンチ本体20とは別体の発熱治具23は用いず、パンチ本体20の有底空洞2aの内面を、回転治具22との摩擦発熱面とした。予備試験において、予想以上の発熱が得られ、熱電対によるパンチ先端部における温度測定では、摩擦回転開始の数分後に300℃程度まで加熱できた。
【0041】
ワーク(ブランク材)として、板厚0.5mm、直径30~40mmのマグネシウム合金AZ31薄板を用いた。ダイ本体31の開口は、内径21mm、肩部面取り半径5mmである。これらの条件の下で温間プレス成形による深絞り加工を行なった。
図5に示す成形品は、直径35mmのブランク材を用いて成形されたものであり、外径21mm、高さ11mmの寸法を有する。この成形品には、容器の底割れや壁割れの破壊は見られず、良好な成形性が確認された。本実施例において、ワークの加熱温度は最高350℃程度まで確認された。また、回転治具22、回転シャフト21の回転速度は、300~3000rpmで可変である。
【0042】
また、
図5に示した成形品は、マグネシウム合金の板材として、押出材や圧延材から製造された薄板である市販のマグネシウム合金AZ31系板材を用いたものであるが、この他に、室温成形が困難である合金であるマグネシウム合金AZ61系、および難燃性マグネシウム合金AZX系などについても、温間プレス成形を行い、同様の結果が得られた。
【0043】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、内部から回転摩擦で先端を加熱させるパンチ2と同様の構造の構成部材を、ダイの開口部に備えて、ワークの下面からワークを加熱するようにしてもよい。この構成部材は、対向するパンチ2と同期して同方向に移動するか、事前に退避するか設定すればよい。
【0044】
また、例えば、パンチ2の先端に超音波振動を付加して超音波振動するパンチ2によって温間プレス成形するようにしてもよい。そのため、超音波発信機をパンチ2に備えればよい。また、ワーク10を温間状態にするため、例えば、シリコンウエハをレーザでアニーリングする手法と類似の技術を用いて、ワーク10の成形領域をレーザ光でスキャンして加熱するようにしてもよい。そのため、スキャン用のレーザ発信器を備えればよい。
【符号の説明】
【0045】
1 温間プレス成形装置
10 ワーク
2 パンチ
2a 有底空洞
20 パンチ本体
20a パンチ胴部
20b 先端パンチ
21 回転シャフト
22 回転治具
23 発熱治具
24 回転装置(回転手段)
25 付勢装置(付勢手段)
3 ダイ
4 耐熱ベアリング
41,42 耐熱ベアリング