(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】支持板製造方法および摩擦パッド製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/092 20060101AFI20240415BHJP
F16D 69/04 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
F16D65/092 D
F16D69/04 A
(21)【出願番号】P 2021022266
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591202904
【氏名又は名称】エムケーカシヤマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】樫山 剛士
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 賢浩
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149674(JP,A)
【文献】特開2020-106085(JP,A)
【文献】実開平05-071475(JP,U)
【文献】特開2002-098181(JP,A)
【文献】特表2006-522289(JP,A)
【文献】特開2001-234961(JP,A)
【文献】特開2001-317575(JP,A)
【文献】実開昭58-022533(JP,U)
【文献】実開昭61-057239(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/092
F16D 69/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持板における一方の面に摩擦材が配設されてディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに取り付け可能に構成された摩擦パッドにおける当該支持板を製造する支持板製造方法であって、
前記一方の面および他方の面に沿って延在させられて厚み方向に沿った端面に設けられた第1の開口部に連通させられた第1の通気路が当該一方の面および当該他方の面の間に形成され、かつ前記摩擦材の発熱によって当該摩擦材から発生するガスを導入可能に前記一方の面に設けられた第2の開口部と前記第1の通気路とを連通させる第2の通気路が形成された前記支持板を金属3Dプリンターを使用して積層造形によって製造すると共に、前記第1の開口部、前記第1の通気路、前記第2の開口部および前記第2の通気路を前記積層造形のときに形成する支持板製造方法。
【請求項2】
前記一方の面における前記摩擦材の配設部位に当該一方の面から突出する複数の突起部を前記積層造形によって形成する請求項1記載の支持板製造方法。
【請求項3】
前記第2の開口部が突端に開口された前記突起部を前記積層造形によって形成する請求項2記載の支持板製造方法。
【請求項4】
前記一方の面および前記他方の面の間に三次元網目構造部を前記積層造形によって形成する請求項1から3のいずれかに記載の支持板製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の支持板製造方法によって前記支持板を製造する支持板製造工程と、
摩擦材形成材料を成形して前記摩擦材を製造する摩擦材製造工程と、
前記支持板における前記一方の面に前記摩擦材を接着する接着工程とを行って前記摩擦パッドを製造する摩擦パッド製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持板における一方の面に摩擦材が配設されてディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに取り付け可能に構成された摩擦パッドにおける支持板を製造する支持板製造方法、およびそのような製造方法に従って製造した支持板を備えた摩擦パッドを製造する摩擦パッド製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記の特許文献には、ディスクブレーキ装置において使用可能なブレーキパッド、およびその製造方法が開示されている。このブレーキパッドは、キャリパボデーの係止ピンを挿通可能な一対の係止ピン穴が設けられた裏板と、裏板における一方の面に接着された摩擦材とを備えている。この場合、同特許文献に開示のブレーキパッドは、制動時に発生する熱をブレーキキャリパに伝熱し難くすると共に、摩擦材において発生した熱を裏板から速やかに放熱可能とすることを目的として複数の「空洞」が裏板に設けられている。
【0003】
具体的には、同特許文献における実施例1,2に係るブレーキパッドでは、鉄製の裏板における厚みの範囲内に、厚み方向に対して直交する方向(板面方向)に沿って複数の貫通孔(裏板において対向する端面の間を貫通させられた孔)が「空洞」として形成されている。これにより、この両実施例1,2に係るディスクパッドでは、貫通孔が存在しない裏板を備えた構成と比較して、摩擦材とブレーキキャリパとの間(裏板の厚み内)に熱伝導率が低い「空洞(空気)」が存在する分だけ、摩擦材において発生した熱がブレーキキャリパに伝熱し難く、また、各貫通孔に流体(空気)が流入することで裏板から速やかに放熱させることが可能となっている。
【0004】
また、同特許文献における実施例3に係るブレーキパッドでは、鉄製の裏板における摩擦材の接着面の裏面に、複数の冷却穴(裏板の厚みよりも浅い穴)が「空洞」として板面に対して垂直に(厚み方向に沿って)形成されている。これにより、この実施例3に係るディスクパッドにおいても、冷却穴が存在しない裏板を備えた構成と比較して、摩擦材とブレーキキャリパとの間(裏板の厚み内)に熱伝導率が低い「空洞(空気)」が存在する分だけ、摩擦材において発生した熱がブレーキキャリパに伝熱し難く、また、各冷却穴に流体(空気)が流入することで裏板から速やかに放熱させることが可能となっている。
【0005】
この場合、上記実施例1~3に係るブレーキパッドの裏板は、所望の外形に切断した鉄材にドリルを用いた切削加工によって貫通孔や冷却穴を形成したり、引き抜き加工、押し出し加工、またはプレス加工等によって貫通孔や冷却穴を形成した鉄材を、レーザー切断機等を用いて所望の外形に切断したりする製造方法で製造されている。なお、同特許文献における実施例4,5に係るブレーキパッドの裏板は、アルミニウム合金などの非鉄系金属材料や、樹脂等の高分子材料および炭素繊維などの非金蔵系材料で構成されている点を除き、上記実施例1~3のブレーキパッドにおける裏板と同様の構成・製造方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-149674号公報(第4-7頁、第1-15図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献に開示のブレーキパッドおよびその裏板の製造方法には、以下のような解決すべき課題が存在する。具体的には、上記特許文献に開示の製造方法では、ドリルを用いた切削加工(以下、単に「切削加工」ともいう)、引き抜き加工、押し出し加工、またはプレス加工等によって裏板に貫通孔や冷却穴を形成している。
【0008】
この場合、上記特許文献における実施例1,2に係るブレーキパッドの裏板(以下、単に「実施例1,2の裏板」ともいう)における貫通孔を切削加工によって形成するときには、鉄材に対するドリル刃の進入方向に沿った直線状の貫通孔を形成することができるものの、非直線状の貫通孔(例えば、平面視弧状の貫通孔やクランク状の貫通孔)を形成することはできない。また、実施例1,2の裏板における貫通孔を引き抜き加工や押し出し加工によって形成するときには、並設すべき各貫通孔を互いに平行に形成することができるものの、各貫通孔を非平行状態に形成することはできない。
【0009】
一方、この種のブレーキパッド(摩擦パッド)の裏板(支持板)では、ブレーキキャリパのガイドピンを挿通させるための挿通孔(上記特許文献に開示のブレーキパッドにおける係止ピン穴)、ブレーキキャリパに装着された状態の一対のブレーキパッドを互いに離反させるためのスプリングを係合させるための係合孔、摩擦材が減耗したことを報知するインジケータを固定するための固定用孔、および摩擦材の一部を裏板の厚みの範囲内に挿入して両者の結合力を向上させるための結着孔などの各種の「孔」を形成する必要がある。また、裏板に形成すべき「孔」の数、大きさ、形状、および形成位置も、ブレーキパッドに求められる機能に応じて様々である。
【0010】
この場合、実施例1,2の裏板における貫通孔が、裏板に形成すべき上記の各「孔」に連通させられた状態では、「孔」の形成部位において裏板の強度が低下したり、「孔」に挿入される各種の物品(ガイドピン、スプリングおよび摩擦材など)によって貫通孔が閉塞されて貫通孔を通過させようとしている空気の流動が妨げられたりすることとなる。したがって、実施例1,2の裏板の製造方法では、裏板に形成すべき「孔」の数、大きさ、形状、および形成位置に応じて、これらの「孔」を避けて貫通孔を形成する必要があるが、直線状、または平行状態の貫通孔しか形成できないことで、裏板(ブレーキパッド)の設計の自由度が著しく低下している現状がある。
【0011】
一方、上記特許文献における実施例3に係るブレーキパッドの裏板(以下、単に「実施例3の裏板」ともいう)の冷却穴については、切削加工やプレス加工によって裏板の裏面を凹ませるだけのため、上記の各「孔」の形成位置を避けさえすれば、任意の位置に十分な数の冷却穴を形成することができる。しかしながら、実施例3に係るブレーキパッドの裏板では、冷却穴の形成によって裏板の表面積(すなわち、空気と接する面積)が拡がっている分だけ、冷却穴が存在しない裏板よりも放熱能力が向上するもの、空気が冷却穴を通過する構造とはなっていないため、上記特許文献において説明されているような効果的な放熱が困難となっている現状がある。
【0012】
また、この種のブレーキパッドを備えたディスクブレーキ装置では、制動時に摩擦材が過剰に高温となったときに、熱分解によって摩擦材においてガス(摩擦材の構成材料が気化したもの)が生じてフェード現象が発生し、ガスの発生量が多いときには、十分な制動力を得られない状態となることが知られている。しかしながら、上記特許文献における実施例1~3のブレーキパッド(摩擦パッド)では、いずれも、摩擦材における裏板に対する接着面の全域が裏板に密着するようにして両者が接着されている。このため、摩擦材から発生したガスは、その一部が摩擦材の側端面から大気に放出されるものの、裏板に対する接触面から放出されないため、その大半が、ディスクロータとの接触面から大気に放出されることとなる。このため、実施例1~3のブレーキパッドでは、裏板に形成した貫通孔や冷却穴によって放熱性が向上することでベーパーロック現象の発生を回避できる可能性があるものの、高負荷時に安定した制動能力を発揮させるのが困難となっている現状がある。
【0013】
この場合、出願人は、上記特許文献における実施例1,2に係るブレーキパッドの構造を改良して、裏板における摩擦材の接着面から各貫通孔に連通する複数の小孔を形成した。これにより、熱分解によって発生するガスの一部を摩擦材における裏板との接着面から小孔および貫通孔を介して大気に放出することが可能となり、フェード現象の発生を抑制することが可能となった。しかしながら、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工によって裏板に貫通孔を形成する実施例1,2のブレーキパッドでは、前述したように、設計の自由度が著しく低下しているため、貫通孔の形成位置や数が限定されることとなる。このため、貫通孔に連通させる小孔の形成位置や数についても限定されることとなり、摩擦材において発生したガスが裏板との接触面から好適に放出されるブレーキパッドの製造が困難であることが判った。
【0014】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、支持板の設計の自由度を十分に向上させ、高負荷時にも安定した制動能力を発揮し得る摩擦パッドを確実かつ容易に製造可能な支持板製造方法および摩擦パッド製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成すべく、請求項1記載の支持板製造方法は、支持板における一方の面に摩擦材が配設されてディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに取り付け可能に構成された摩擦パッドにおける当該支持板を製造する支持板製造方法であって、前記一方の面および他方の面に沿って延在させられて厚み方向に沿った端面に設けられた第1の開口部に連通させられた第1の通気路が当該一方の面および当該他方の面の間に形成され、かつ前記摩擦材の発熱によって当該摩擦材から発生するガスを導入可能に前記一方の面に設けられた第2の開口部と前記第1の通気路とを連通させる第2の通気路が形成された前記支持板を金属3Dプリンターを使用して積層造形によって製造すると共に、前記第1の開口部、前記第1の通気路、前記第2の開口部および前記第2の通気路を前記積層造形のときに形成する。
【0016】
また、請求項2記載の支持体製造方法は、請求項1記載の支持板製造方法において、前記一方の面における前記摩擦材の配設部位に当該一方の面から突出する複数の突起部を前記積層造形によって形成する。
【0017】
さらに、請求項3記載の支持板製造方法は、請求項2記載の支持板製造方法において、前記第2の開口部が突端に開口された前記突起部を前記積層造形によって形成する。
【0018】
また、請求項4記載の支持板製造方法は、請求項1から3のいずれかに記載の支持板製造方法において、前記一方の面および前記他方の面の間に三次元網目構造部を前記積層造形によって形成する。
【0019】
また、請求項5記載の摩擦パッド製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載の支持板製造方法によって前記支持板を製造する支持板製造工程と、摩擦材形成材料を成形して前記摩擦材を製造する摩擦材製造工程と、前記支持板における前記一方の面に前記摩擦材を接着する接着工程とを行って前記摩擦パッドを製造する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の支持板製造方法では、一方の面および他方の面に沿って延在させられて厚み方向に沿った端面に設けられた第1の開口部に連通させられた第1の通気路が一方の面および他方の面の間に形成され、かつ摩擦材の発熱によって摩擦材から発生するガスを導入可能に一方の面に設けられた第2の開口部と第1の通気路とを連通させる第2の通気路が形成された支持板を金属3Dプリンターを使用して積層造形によって製造すると共に、第1の開口部、第1の通気路、第2の開口部および第2の通気路を積層造形のときに形成する。
【0021】
また、請求項5記載の摩擦パッド製造方法では、上記の支持板製造方法によって支持板を製造する支持板製造工程と、摩擦材形成材料を成形して摩擦材を製造する摩擦材製造工程と、支持板における一方の面に摩擦材を接着する接着工程とを行って摩擦パッドを製造する。
【0022】
したがって、請求項1記載の支持板製造方法、および請求項5記載の摩擦パッド製造方法によれば、切削加工時のドリル等の進入方向に起因する制限や、引き抜き加工時、押し出し加工時、およびプレス加工時の造形物(または造形用治具)の移動方向に起因する制限を受けることなく、第1の開口部および第1の通気路を任意の位置に任意の形状で形成することができ、これにより、第1の通気路に連通させるべき第2の開口部および第2の通気路についても任意の位置に形成することができる。したがって、支持板の設計の自由度を十分に向上させることができる結果、高負荷時にも安定した制動能力を発揮し得る摩擦パッドを確実かつ容易に製造することができる。
【0023】
また、請求項2記載の支持板製造方法、およびそのような製造方法に従って支持板を製造する摩擦パッド製造方法によれば、一方の面における摩擦材の配設部位に一方の面から突出する複数の突起部を積層造形によって形成することにより、支持板の一方の面に沿った摩擦材の相対的な移動(すなわち、制動時に摩擦パッドの支持板と摩擦材との間に加わる力による支持板からの摩擦材の剥離)を好適に回避し得る支持板および摩擦パッドを確実かつ容易に製造することができる。
【0024】
さらに、請求項3記載の支持板製造方法、およびそのような製造方法に従って支持板を製造する摩擦パッド製造方法によれば、第2の開口部が突端に開口された突起部を積層造形によって形成することにより、摩擦材において発生したガスを摩擦材の内部から第2の開口部(第2の通気路)に好適に流入させることができることで、フェード現象の発生を一層好適に回避可能な支持板および摩擦パッドを確実かつ容易に製造することができる。
【0025】
また、請求項4記載の支持板製造方法、およびそのような製造方法に従って支持板を製造する摩擦パッド製造方法によれば、一方の面および他方の面の間に三次元網目構造部を積層造形によって形成することにより、三次元網目構造部における空隙の分だけ十分に軽量化が図られた支持板および摩擦パッドを確実かつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】摩擦材3側の面から見た摩擦パッド1の外観斜視図である。
【
図2】摩擦材3側の面から見た摩擦パッド1の他の外観斜視図である。
【
図3】支持板2側の面から見た摩擦パッド1の外観斜視図である。
【
図4】表面Fa(摩擦材3の接着面)側から見た支持板2の外観斜視図である。
【
図6】支持板2における突起部15を拡大した斜視図である。
【
図7】支持板2の内部構造について説明するための説明図(
図5におけるA-A線断面図)である。
【
図8】支持板2に形成された通気路14,16の位置関係について説明するための説明図である。
【
図11】表面Fa(摩擦材3の接着面)側から見た支持板2Aの外観斜視図である。
【
図13】表面Fa(摩擦材3の接着面)側から見た支持板2Bの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、「支持板製造方法」および「摩擦パッド製造方法」の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0028】
図1~3に示す摩擦パッド1は、後述する「摩擦パッド製造方法」に従って製造された「摩擦パッド」の一例であって、支持板2および摩擦材3を備えて、図示しないディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに取り付け可能に構成されている。
【0029】
支持板2は、後述する「支持板製造方法(摩擦材製造工程)」に従って製造された「支持板(裏板:バックプレート:ベースプレート)」の一例であって、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、ニッケル合金およびマルエージング鋼(マレージング鋼)などの金属材料を用いた金属3Dプリンターによる積層造形によって所望の形状に造形されている。この場合、
図2~4に示すように、本例の摩擦パッド1における支持板2では、一例として、ディスクブレーキ装置におけるブレーキキャリパのガイドピンを挿通させるための一対の挿通孔11(前述の特許文献に開示のブレーキパッドにおける係止ピン穴)、およびブレーキキャリパに装着された状態の一対の摩擦パッド1,1を互いに離反させるためのスプリングを係合させるための一対の係合孔12が形成されている。
【0030】
また、
図4~8に示すように、この支持板2では、表面Fa(摩擦材3の接着面:「一方の面」の一例)および裏面Fb(摩擦材3の接着面の裏面:「他方の面」の一例)に沿って延在させられて、厚み方向に沿った端面に設けられた開口部13a,13b(「第1の開口部」の一例)に連通させられた通気路14(複数の「第1の開口部」のうちの少なくとも1つに一端が連通させられると共に、複数の「第1の開口部」の他の少なくとも1つに他端が連通させられている「第1の通気路」の一例)が表面Faおよび裏面Fbの間に形成されている。この場合、
図7に示すように、この支持板2における通気路14は、支持板2における表面Fa側の平板状部位と裏面Fb側の平板状部位との間に、表面Faおよび裏面Fbに沿って延在させられている空間(空洞)で構成されている。
【0031】
この通気路14は、上記の空間内に複数の支柱14a(一例として、円柱状の支柱)が配設されており、これにより、ブレーキキャリパに装着された状態で摩擦パッド1がディスクロータに対して押し付けられたときに、支持板2が厚み方向に押し潰されるように変形するのを回避しつつ、後述するように、各支柱14aの間を空気が通過可能に構成されている。また、
図7に示すように、この通気路14は、支持板2の一端部(同図における下端部)に形成された開口部13aと他端部(同図における上端部)に形成された開口部13bとを直線的に結ぶ領域内に複数の支柱14aが配置されて開口部13a(13b)から開口部13b(13a)を視認できない状態となっている。これにより、例えば開口部13aから通気路14内に流入した空気が開口部13bに向かって通気路14内を直線的に移動しようとしたときに、その空気が上記の直線的な領域内に配置されている各通気路14に当接する(開口部13a,13b間を空気が直線的に移動できない)構成となっている。
【0032】
さらに、
図4~6に示すように、この支持板2では、表面Faにおける摩擦材3の配設部位に表面Faから突出する複数の突起部15が形成されている。この突起部15は、「突起部」の一例であって、
図6,9に示すように、摩擦パッド1を装着したディスクブレーキ装置における制動時に摩擦材3の発熱によって摩擦材3から発生するガス(摩擦材の構成材料が気化したもの)を導入するための開口部15a(「第2の開口部」の一例)が突端に開口されると共に、開口部15aと通気路14とを連通させる通気路16(「第2の通気路」の一例)が支持板2の厚み方向に沿って形成されている。また、
図5,6に示すように、この突起部15は、側面視において基端部側(表面Fa側)よりも突端側の方が幅広の楔形状に形成されている。
【0033】
この場合、本例の支持板2では、摩擦材3が接着される領域(摩擦材3が接触させられる領域:
図8に示す破線内の領域)内の各部に各突起部15が分散配置されており、これにより、
図8に示すように、摩擦材3が接着される領域内の各部に開口部15a(通気路16)が分散して配置された状態となっている。
【0034】
摩擦材3は、後述する「摩擦材製造工程」によって製造された「摩擦材」の一例であって、粉粒状の原材料を圧縮して所望の形状に成形することで平板状に形成されると共に、後述する接着工程(支持板2と一体化させる工程)における加熱処理や、接着工程後に必要に応じて実行される加熱処理によって硬化させられている。なお、摩擦材3を構成する原材料については、摩擦パッド1に求められる制動能力(想定される使用環境において好適な制動力を発揮し得る特性)に応じて各種の摩擦材形成材料のなかから任意の摩擦材形成材料を選択することができる。
【0035】
この摩擦パッド1の製造に際しては、まず、支持板2および摩擦材3をそれぞれ製造する。
【0036】
具体的には、支持板2の製造に際しては、前述のように、予め選定した金属材料を用いた金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2の各構成要素を形成する。この場合、金属3Dプリンターとしては、パウダーベッド方式、指向性エネルギー堆積方式、FDM方式(熱溶解積層方式)、アーク溶接方式、バインダージェット方式、超音速堆積方式および液体金属堆積方式などの各種方式によって造形物を積層造形可能な装置を使用することができる。また、積層造形に際しては、一例として、支持板2における裏面Fb側から造形を開始して、突起部15の突端を最後に造形する。
【0037】
さらに、金属3Dプリンターによる支持板2の製造に際しては、裏面Fb側の平板状部位、各開口部13a,13b、通気路14の側壁部位(支持板2の端面を構成する部位)、通気路14、表面Fa側の平板状部位、各突起部15、各通気路16、各開口部15a、両挿通孔11、および両係合孔12のすべてを積層造形時にそれぞれ形成する(「第1の開口部、第1の通気路、第2の開口部および第2の通気路を金属3Dプリンターによる積層造形時にそれぞれ形成する」との手順、および「複数の突起部(第2の開口部が突端に開口された突起部)を積層造形によって形成する」との手順の一例)。この後、必要に応じて、不要箇所の切除や造形物のクリーニング行うことにより、「支持板製造方法(支持板製造工程)」による支持板2に製造が完了する。
【0038】
次いで、公知の手順で摩擦材形成材料を所望の形状に成形することにより、摩擦材3を製造する(摩擦材製造工程)。なお、摩擦材3の製造方法(製造工程)については公知のため、詳細な説明を省略する。
【0039】
続いて、支持板2に摩擦材3を接着する接着工程を実施する。具体的には、予め洗浄をした支持板2の表面Faに接着剤を塗布する。次いで、支持板2における各突起部15の上に摩擦材3を載置した状態で、両者を圧縮しつつ加熱して密着させる。この際には、支持板2の表面Faに向けて摩擦材3が相対的に押し付けられることにより、
図9に示すように、支持板2の各突起部15が摩擦材3に押し込まれると共に、各突起部15に設けられている開口部15aから通気路16内に摩擦材3が進入した状態となり、加熱によって温度上昇した摩擦材3が上記の状態において硬化させられる。また、摩擦材3が十分に硬化したときには、圧縮および加熱を終了する。
【0040】
この場合、本例の摩擦パッド1(支持板2)では、支持板2の表面Faに複数の突起部15が形成されている。したがって、摩擦材3が十分に硬化した状態においては、支持板2に対する摩擦材3の表面Faに沿った向きへの相対的な移動が好適に回避される状態となる。また、本例の摩擦パッド1(支持板2)では、各突起部15が、基端部側(表面Fa側)よりも突端側の方が幅広の楔形状に形成されている。したがって、摩擦材3が十分に硬化した状態においては、支持板2に対する摩擦材3の離反方向への相対的な移動(支持板2からの摩擦材3の剥離)が好適に回避される状態となる。以上により、支持板2に対する摩擦材3の接着が完了し、両者が一体化した状態となる。
【0041】
この後、支持板2に接着された摩擦材3におけるディスクロータとの接触面を平坦に研磨する。なお、摩擦パッド1に着色を施す場合には、研磨に先立って粉体焼付け塗装等によって任意の色に塗装する。また、必要に応じて摩擦材3に対する溝入れ加工や焼き入れ(ガス抜き)処理を実施する。さらに、本例の摩擦パッド1とは異なるが、減耗警告用のインジケータを備えた「摩擦パッド」を製造する際には、上記の各工程を完了した時点において「支持板」にインジケータを固定する。以上により、
図1~3に示すように、摩擦パッド1が完成する。
【0042】
上記の摩擦パッド製造方法に従って製造された摩擦パッド1は、図示しないパッド離反用スプリングと共にディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに装着される。この際に、本例の摩擦パッド1では、一例として、支持板2において開口部13aが形成されている端面が、ディスクブレーキ装置の搭載車両における車軸側に位置するように装着される。また、摩擦パッド1が装着された車両の走行時には、一例として、車輪の内側から外側に向かう空気の流れが生じる。この空気の流れにより、摩擦パッド1の周囲の空気が開口部13aから通気路14内に進入して開口部13bから放出される。
【0043】
この際に、本例の摩擦パッド1では、前述したように、通気路14における開口部13a,13bを直線的に結ぶ領域内に複数の支柱14aが配置されて開口部13a,13b間を空気が直線的に移動できない構成となっている。したがって、開口部13aから通気路14内に進入した空気は、複数の支柱14aに当接して進行方向を逐次変化させながら開口部13bに向かって移動させられて開口部13bから放出される。これにより、通気路14における表面Fa側の部位、裏面Fb側の部位、および各端面側の部位に加えて、各支柱14aの周面にも空気が接することで、通気路14内に進入した空気と支持板2との間で好適に熱交換が生じる状態となる。
【0044】
この場合、本例の摩擦パッド1では、金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2を製造しているため、上記のように複数の支柱14aを通気路14内に配置することができるが、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、支持板2のように支柱14aを配置した通気路14を形成することはできない。このため、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「第1の通気路」内に進入した空気と「支持板」との間で好適に熱交換可能な製品を提供するのが困難となっている。
【0045】
一方、摩擦パッド1が装着された車両の制動時には、摩擦パッド1とディスクロータとの間において生じる摩擦熱によって摩擦パッド1(摩擦材3)およびディスクロータが温度上昇させられる。この際に、摩擦材3から支持板2に伝熱した熱の一部が、上記のように通気路14内を通過する空気との熱交換によって放熱される。これにより、摩擦パッド1(支持板2)からブレーキキャリパに伝熱される熱量が減少する結果、ベーパーロック現象の発生が好適に回避される。
【0046】
また、摩擦熱によって摩擦材3が温度上昇したときには、摩擦材3においてガス(摩擦材の構成材料が気化したもの)が発生する。この際に、本例の摩擦パッド1では、摩擦材3における支持板2との接着面に支持板2における各開口部15a(通気路16)が対向した状態となっている。このため、摩擦材3において発生したガスの一部が、各開口部15aから通気路16内を移動して通気路14内に流入して、前述したように通気路14内を移動している空気と共に開口部13bから放出される。したがって、摩擦材3における側端面やディスクロータとの接触面からのガスの放出量が減少する結果、フェード現象の発生が好適に回避される。
【0047】
この場合、本例の摩擦パッド1では、金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2を製造しているため、各開口部15a(通気路16)を連通させるべき位置に通気路14を容易に形成することができるが、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「第1の通気路」を形成可能な位置に制限が生じるため、「第2の開口部(第2の通気路)」を連通させたい位置に「第1の通気路」を形成できないことがある。このため、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「摩擦材」において発生したガスを「摩擦材」の各部から「第1の通気路」にそれぞれ流入させることが可能に「第2の開口部(第2の通気路)」を「支持板」における「摩擦材」との接触面の全域に分散配置した製品を提供するのが困難となっている。
【0048】
このように、「金属3Dプリンターによる積層造形」によって支持板2を製造することで、設計の自由度が向上し、ベーパーロック現象やフェード減少の発生を好適に回避可能な摩擦パッド1を容易に製造することが可能となっている。
【0049】
次に、「支持板製造方法」および「摩擦パッド製造方法」の他の実施の形態について添付図面を参照して説明する。なお、製造される「支持板」や「摩擦パッド」において前述の支持板2や摩擦パッド1の構成要素と同様の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、支持板2および摩擦パッド1の製造方法と同様の工程についての重複する説明も省略する。
【0050】
図10に示す摩擦パッド1Aは、「摩擦パッド製造方法」に従って製造された「摩擦パッド」の他の一例であって、摩擦パッド1における支持板2に代えて支持板2Aを備え、図示しないディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに取り付け可能に構成されている。
【0051】
支持板2Aは、「支持板製造方法(摩擦材製造工程)」に従って製造された「支持板」の他の一例であって、前述の支持板2と同様にして金属3Dプリンターによる積層造形によって所望の形状に造形されている。この場合、本例の支持板2Aでは、前述の支持板2と同様にして厚み方向に沿った端面に開口部13a,13bが設けられている。また、
図10,11に示すように、この支持板2Aでは、表面Faおよび裏面Fbに沿って延在させられて開口部13a,13bに連通させられた通気路24(複数の「第1の開口部」のうちの少なくとも1つに一端が連通させられると共に、複数の「第1の開口部」の他の少なくとも1つに他端が連通させられている「第1の通気路」の他の一例)が表面Faおよび裏面Fbの間に形成されている。
【0052】
この場合、この支持板2Aにおける通気路24は、表面Faおよび裏面Fbに沿って延在させられた三次元網目構造の構造物(支持板2Aの板面方向および厚み方向の双方において網目状となっている構造物)の空隙で構成されている(「第1の通気路」内に「三次元網目構造部」を形成した構成の例)。なお、両図では、「三次元網目構造部」の形成部位を網線で塗り潰して図示している。これにより、本例の支持板2Aでは、三次元網目構造の構造物における空隙の分だけ、支持板2Aが十分に軽量化されている。また、この支持板2Aでは、表面Faまで三次元網目構造の構造物が造形されている。つまり、この支持板2Aでは、三次元網目構造の構造物における表面Fa側の空隙が「第1の通気路」としての通気路24の一部を構成しつつ、「第2の通気路(第2の開口部)」としても機能する構成が採用されている。
【0053】
この通気路24は、ブレーキキャリパに装着された状態で摩擦パッド1Aがディスクロータに対して押し付けられたときに、三次元網目構造の構造物によって、支持板2Aが厚み方向に押し潰されるように変形するのを回避しつつ、後述するように、三次元網目構造の構造物の空隙を空気が通過することができるように構成されている。また、この通気路24は、開口部13a,13bを直線的に結ぶ領域内に三次元網目構造の構造物が配置されて開口部13a(13b)から開口部13b(13a)を視認できない状態となっている。これにより、例えば開口部13aから通気路24内に流入した空気が開口部13bに向かって通気路24内を直線的に移動しようとしたときに、上記の直線的な領域内に配置されている構造物に当接する(開口部13a,13b間を空気が直線的に移動できない)構成となっている。
【0054】
この摩擦パッド1Aの製造に際しては、まず、支持板2Aおよび摩擦材3をそれぞれ製造する。
【0055】
具体的には、支持板2Aの製造に際しては、前述のように、予め選定した金属材料を用いた金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2Aの各構成要素を形成する。この場合、積層造形に際しては、一例として、支持板2Aにおける裏面Fb側から造形を開始する。また、金属3Dプリンターによる支持板2Aの製造に際しては、裏面Fb側の平板状部位、各開口部13a,13b、通気路24の側壁部位(支持板2Aの端面を構成する部位)、通気路24(三次元網目構造の構造物)、各突起部15、各通気路16、各開口部15a、両挿通孔11、および両係合孔12のすべてを積層造形時にそれぞれ形成する(「第1の開口部、第1の通気路、第2の開口部および第2の通気路を金属3Dプリンターによる積層造形時にそれぞれ形成する」との手順、および「複数の突起部(第2の開口部が突端に開口された突起部)を積層造形によって形成する」との手順の他の一例)。
【0056】
次いで、公知の手順で摩擦材3を製造した後に(摩擦材製造工程)、支持板2Aに摩擦材3を接着する接着工程を実施する。具体的には、予め洗浄をした支持板2Aの表面Faに接着剤を塗布する。次いで、支持板2Aにおける各突起部15の上に摩擦材3を載置した状態で、両者を圧縮しつつ加熱して密着させる。この際には、支持板2Aの表面Faに向けて摩擦材3が相対的に押し付けられることにより、
図10に示すように、支持板2Aの各突起部15が摩擦材3に押し込まれると共に、各突起部15に設けられている開口部15aから通気路16内に軟化した摩擦材3が進入した状態となる。また、本例の支持板2Aでは、その表面Faまで三次元網目構造の構造物が形成されているため、摩擦材3が支持板2Aの表面Faに接した状態において圧縮されることで、三次元網目構造の構造物における空隙内にも摩擦材3が進入した状態となる。この状態において加熱によって摩擦材3が温度上昇させられて硬化させられることで支持板2Aに対する摩擦材3の接着が完了し、両者が一体化した状態となる。この後、摩擦材3におけるディスクロータとの接触面の研磨などを実行することにより、摩擦パッド1Aが完成する。
【0057】
上記の摩擦パッド製造方法に従って製造された摩擦パッド1Aは、図示しないパッド離反用スプリングと共にディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに装着される。この際に、本例の摩擦パッド1Aでは、一例として、支持板2Aにおいて開口部13aが形成されている端面が、ディスクブレーキ装置の搭載車両における車軸側に位置するように装着される。また、摩擦パッド1Aが装着された車両の走行時には、一例として、車輪に内側から外側に向かう空気の流れが生じる。この空気の流れにより、摩擦パッド1Aの周囲の空気が開口部13aから通気路24内に進入して開口部13bから放出される。
【0058】
この際に、本例の摩擦パッド1Aでは、前述したように、通気路24における開口部13a,13bを直線的に結ぶ領域内に三次元網目構造の構造物が配置されて開口部13a,13b間を空気が直線的に移動できない構成となっている。したがって、開口部13aから通気路24内に進入した空気は、通気路24内の構造物に当接して進行方向を逐次変化させながら開口部13bに向かって移動させられて開口部13bから放出される。これにより、通気路24における裏面Fb側の部位、および各端面側の部位に加えて、通気路24内の構造物の周面にも空気が接することで、通気路24内に進入した空気と支持板2Aとの間で好適に熱交換が生じる状態となる。
【0059】
この場合、本例の摩擦パッド1Aでは、金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2Aを製造しているため、上記のように三次元網目構造の構造物を通気路24内に形成することができるが、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、支持板2Aのように三次元網目構造の構造物を配置した通気路24を形成することはできない。このため、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「第1の通気路」内に進入した空気と「支持板」との間で好適に熱交換可能な製品を提供するのが困難となっている。
【0060】
一方、摩擦パッド1Aが装着された車両の制動時には、摩擦パッド1Aとディスクロータとの間において生じる摩擦熱によって摩擦パッド1A(摩擦材3)およびディスクロータが温度上昇させられる。この際に、摩擦材3から支持板2Aに伝熱した熱の一部が、上記のように通気路24内を通過する空気との熱交換によって放熱される。これにより、摩擦パッド1A(支持板2A)からブレーキキャリパに伝熱される熱量が減少する結果、ベーパーロック現象の発生が好適に回避される。
【0061】
また、摩擦熱によって摩擦材3が温度上昇したときには、摩擦材3においてガス(摩擦材の構成材料が気化したもの)が発生する。この際に、本例の摩擦パッド1Aでは、摩擦材3における支持板2Aとの接着面に支持板2Aにおける各開口部15a(通気路16)や三次元網目構造の構造物の各空隙が対向した状態となっている。このため、摩擦材3において発生したガスの一部が、各開口部15aから通気路16内を移動したり三次元網目構造の構造物の空隙内を移動したりして通気路24内に流入して、前述したように通気路24内を移動している空気と共に開口部13bから放出される。したがって、摩擦材3における側端面やディスクロータとの接触面からのガスの放出量が減少する結果、フェード現象の発生が好適に回避される。
【0062】
この場合、本例の摩擦パッド1Aでは、金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2Aを製造しているため、各開口部15a(通気路16)を連通させるべき位置に通気路24を容易に形成し、かつ任意の位置に三次元網目構造の構造物を形成することができるが、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「第1の通気路」を形成可能な位置に制限が生じるため、「第2の開口部(第2の通気路)」を連通させたい位置に「第1の通気路」を形成できなかったり、「第1の通気路」を三次元網目構造の構造物の空隙で構成することができなかったりする。このため、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「摩擦材」において発生したガスを「摩擦材」の各部から「第1の通気路」にそれぞれ流入させることが可能に「第2の開口部(第2の通気路)」を「支持板」における「摩擦材」との接触面の全域に分散配置した製品を提供するのが困難となっている。
【0063】
このように、「金属3Dプリンターによる積層造形」によって支持板2Aを製造することで、設計の自由度が向上し、ベーパーロック現象やフェード減少の発生を好適に回避可能な摩擦パッド1Aを容易に製造することが可能となっている。
【0064】
一方、
図12に示す摩擦パッド1Bは、「摩擦パッド製造方法」に従って製造された「摩擦パッド」のさらに他の一例であって、摩擦パッド1,1Aにおける支持板2,2Aに代えて支持板2Bを備え、図示しないディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに取り付け可能に構成されている。
【0065】
支持板2Bは、「支持板製造方法(摩擦材製造工程)」に従って製造された「支持板」のさらに他の一例であって、前述の支持板2,2Aと同様にして金属3Dプリンターによる積層造形によって所望の形状に造形されている。この場合、
図13に示すように、本例の支持板2Bでは、厚み方向に沿った端面に開口部33a,33b(「第1の開口部」の他の一例)が設けられている。また、この支持板2Bでは、表面Faおよび裏面Fbに沿って延在させられて開口部33a,33bに連通させられた通気路34(複数の「第1の開口部」のうちの少なくとも1つに一端が連通させられると共に、複数の「第1の開口部」の他の少なくとも1つに他端が連通させられている「第1の通気路」のさらに他の一例)が表面Faおよび裏面Fbの間に形成されている。
【0066】
この場合、この支持板2Bにおける各通気路34は、表面Faおよび裏面Fbに沿って延在させられた線状の空隙で構成されている。また、この支持板2Bにおける各通気路34のうちの一部(
図13における左端部寄りの数本、および右端部寄りの数本は、平面視非直線状に形成されており、これらの通気路34については、開口部33a(33b)から開口部33b(33a)を視認できない状態となっている。これにより、例えば開口部33aからこれらの通気路34内に流入した空気が開口部33bに向かって通気路34内を直線的に移動しようとしたときに、曲線状の部位の内壁に当接する(開口部33a,33b間を空気が直線的に移動できない)構成となっている。
【0067】
また、この支持板2Bでは、摩擦材3Bの一部が挿入されることで支持板2Bと摩擦材3Bとの結合力を向上させるための円形の結着孔37結着孔が形成されている。さらに、この支持板2Bでは、突起部15の突端に設けられた開口部15aが通気路16を介して通気路34に連通させられている。なお、
図13では、各通気路34の形状や形成位置に関する理解を容易とするために、突起部15(開口部15aおよび通気路16)の図示を省略している。また、摩擦材3Bは、「摩擦材」の他の一例であって、支持板2Bの結着孔37に挿入される凸状の部位(図示せず)が形成されている点を除き、前述の摩擦パッド1,1Aにおける摩擦材3と同様に構成されている。
【0068】
この摩擦パッド1Bの製造に際しては、まず、支持板2Bおよび摩擦材3Bをそれぞれ製造する。
【0069】
具体的には、支持板2Bの製造に際しては、前述のように、予め選定した金属材料を用いた金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2Bの各構成要素を形成する。この場合、積層造形に際しては、一例として、支持板2Bにおける裏面Fb側から造形を開始して、突起部15の突端を最後に造形する。また、金属3Dプリンターによる支持板2Bの製造に際しては、裏面Fb側の平板状部位、各開口部33a,33b、通気路34、各結着孔37、表面Fa側の平板状部位、各突起部15、各通気路16、各開口部15a、両挿通孔11、および両係合孔12のすべてを積層造形時にそれぞれ形成する(「第1の開口部、第1の通気路、第2の開口部および第2の通気路を金属3Dプリンターによる積層造形時にそれぞれ形成する」との手順、および「複数の突起部(第2の開口部が突端に開口された突起部)を積層造形によって形成する」との手順のさらに他の一例)。
【0070】
次いで、公知の手順で摩擦材3Bを製造した後に(摩擦材製造工程)、支持板2Bに摩擦材3Bを接着する接着工程を実施する。具体的には、予め洗浄をした支持板2Bの表面Faに接着剤を塗布する。次いで、支持板2Bにおける各突起部15の上に摩擦材3Bを載置した状態で、両者を圧縮しつつ加熱して密着させる。この際には、支持板2Bの表面Faに向けて摩擦材3Bが相対的に押し付けられることにより、摩擦材3Bにおける凸状の部位が支持板2Bの結着孔37に挿入されると共に、
図12に示すように、支持板2Bの各突起部15が摩擦材3Bに押し込まれて各突起部15に設けられている開口部15aから通気路16内に摩擦材3Bが進入した状態となる。この状態において加熱によって摩擦材3Bが温度上昇させられて硬化させられることで支持板2Bに対する摩擦材3Bの接着が完了し、両者が一体化した状態となる。この後、摩擦材3Bにおけるディスクロータとの接触面の研磨などを実行することにより、摩擦パッド1Bが完成する。
【0071】
上記の摩擦パッド製造方法に従って製造された摩擦パッド1Bは、図示しないパッド離反用スプリングと共にディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに装着される。この際に、本例の摩擦パッド1Bでは、一例として、支持板2Bにおいて開口部33aが形成されている端面が、ディスクブレーキ装置の搭載車両における車軸側に位置するように装着される。また、摩擦パッド1Bが装着された車両の走行時には、一例として、車輪に内側から外側に向かう空気の流れが生じる。この空気の流れにより、摩擦パッド1Bの周囲の空気が開口部33aから通気路34内に進入して開口部33bから放出される。
【0072】
この際に、本例の摩擦パッド1Bでは、前述したように、各通気路34のうちの一部が平面視非直線状に形成されて開口部33a,33b間を空気が直線的に移動できない構成となっている。したがって、開口部33aからこれらの通気路34内に進入した空気は、通気路34の内壁に当接して進行方向を逐次変化させながら開口部33bに向かって移動させられて開口部33bから放出される。これにより、これらの通気路34の内面に空気が好適に接することで、通気路34内に進入した空気と支持板2Bとの間で好適に熱交換が生じる状態となる。なお、平面視直線状の通気路34に進入した空気についても、開口部33aから開口部33bまで移動する間に通気路34の内壁に接することでこれらの通気路34内に進入した空気と支持板2Bとの間で熱交換が生じる状態となる。
【0073】
この場合、本例の摩擦パッド1Bでは、金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2Bを製造しているため、上記のように平面視非直線状の通気路34を形成することができるが、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、支持板2Bのように非直線状の通気路34を形成することはできない。このため、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「第1の通気路」内に進入した空気と「支持板」との間で好適に熱交換可能な製品を提供するのが困難となっている。
【0074】
一方、摩擦パッド1Bが装着された車両の制動時には、摩擦パッド1Bとディスクロータとの間において生じる摩擦熱によって摩擦パッド1B(摩擦材3B)およびディスクロータが温度上昇させられる。この際に、摩擦材3Bから支持板2Bに伝熱した熱の一部が、上記のように通気路34内を通過する空気との熱交換によって放熱される。これにより、摩擦パッド1B(支持板2B)からブレーキキャリパに伝熱される熱量が減少する結果、ベーパーロック現象の発生が好適に回避される。
【0075】
また、摩擦熱によって摩擦材3Bが温度上昇したときには、摩擦材3Bにおいてガス(摩擦材の構成材料が気化したもの)が発生する。この際に、本例の摩擦パッド1Bでは、前述した摩擦パッド1と同様にして、摩擦材3Bにおける支持板2Bとの接着面に支持板2Bにおける各開口部15a(通気路16)が対向した状態となっている。このため、摩擦材3Bにおいて発生したガスの一部が、各開口部15aから通気路16内を移動して通気路34内に流入して、前述したように通気路34内を移動している空気と共に開口部33bから放出される。したがって、摩擦材3Bにおける側端面やディスクロータとの接触面からのガスの放出量が減少する結果、フェード現象の発生が好適に回避される。
【0076】
この場合、本例の摩擦パッド1Bでは、金属3Dプリンターによる積層造形によって支持板2Bを製造しているため、各開口部15a(通気路16)を連通させるべき位置に通気路34を容易に形成することができるが、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「第1の通気路」を形成可能な位置に制限が生じるため、「第2の開口部(第2の通気路)」を連通させたい位置に「第1の通気路」を形成できないことがある。このため、切削加工、引き抜き加工および押し出し加工では、「摩擦材」において発生したガスを「摩擦材」の各部から「第1の通気路」にそれぞれ流入させることが可能に「第2の開口部(第2の通気路)」を「支持板」における「摩擦材」との接触面の全域に分散配置した製品を提供するのが困難となっている。
【0077】
一方、上記したように、「金属3Dプリンターによる積層造形」によって支持板2Bを製造することで、設計の自由度が向上し、ベーパーロック現象やフェード減少の発生を好適に回避可能な摩擦パッド1Bを容易に製造することが可能となっている。
【0078】
このように、この「支持板製造方法」では、表面Faおよび裏面Fbに沿って延在させられて厚み方向に沿った端面に設けられた開口部13a,13b,33a,33bに連通させられた通気路14,24,34が表面Faおよび裏面Fbの間に形成され、かつ摩擦材3,3Bの発熱によって摩擦材3,3Bから発生するガスを導入可能に表面Faに設けられた開口部15a(および支持板2Aにおける三次元網目構造の構造物における空隙)と通気路14,24,34とを連通させる通気路16(および支持板2Aにおける三次元網目構造の構造物における空隙)が形成された支持板2,2A,2Bを金属3Dプリンターを使用して積層造形によって製造すると共に、開口部13a,13b,33a,33b、通気路14,24,34、開口部15a(および支持板2Aにおける三次元網目構造の構造物における空隙)および通気路16(および支持板2Aにおける三次元網目構造の構造物における空隙)を積層造形のときに形成する。
【0079】
また、この「摩擦パッド製造方法」では、上記の「支持板製造方法」によって支持板2,2A,2Bを製造する「支持板製造工程」と、摩擦材形成材料を成形して摩擦材3,3Bを製造する「摩擦材製造工程」と、支持板2,2A,2Bにおける表面Faに摩擦材3,3Bを接着する「接着工程」とを行って摩擦パッド1,1A,1Bを製造する。
【0080】
したがって、この支持板2,2A,2B製造方法および「摩擦パッド製造方法」によれば、切削加工時のドリル等の進入方向に起因する制限や、引き抜き加工時、押し出し加工時、およびプレス加工時の造形物(または造形用治具)の移動方向に起因する制限を受けることなく、開口部13a,13b,33a,33bおよび通気路14,24,34を任意の位置に任意の形状で形成することができ、これにより、通気路14,24,34に連通させるべき開口部15a(および支持板2Aにおける三次元網目構造の構造物における空隙)および通気路16(および支持板2Aにおける三次元網目構造の構造物における空隙)についても任意の位置に形成することができる。したがって、支持板2,2A,2Bの設計の自由度を十分に向上させることができる結果、高負荷時にも安定した制動能力を発揮し得る摩擦パッド1,1A,1Bを確実かつ容易に製造することができる。
【0081】
また、この「支持板製造方法」および「摩擦パッド製造方法」によれば、表面Faにおける摩擦材3,3Bの配設部位に表面Faから突出する複数の突起部15を積層造形によって形成することにより、支持板2,2A,2Bの表面Faに沿った摩擦材3,3Bの相対的な移動(すなわち、制動時に摩擦パッド1,1A,1Bの支持板2,2A,2Bと摩擦材3,3Bとの間に加わる力による支持板2,2A,2Bからの摩擦材3,3Bの剥離)を好適に回避し得る支持板2,2A,2Bおよび摩擦パッド1,1A,1Bを確実かつ容易に製造することができる。
【0082】
さらに、この「支持板製造方法」および「摩擦パッド製造方法」によれば、開口部15aが突端に開口された突起部15を積層造形によって形成することにより、摩擦材3,3Bにおいて発生したガスを摩擦材3,3Bの内部から開口部15a(通気路16)に好適に流入させることができることで、フェード現象の発生を一層好適に回避可能な支持板2,2A,2Bおよび摩擦パッド1,1A,1Bを確実かつ容易に製造することができる。
【0083】
また、この「支持板製造方法」および「摩擦パッド製造方法」(支持板2Aおよび摩擦パッド1Aの製造方法)によれば、支持板2Aの表面Faおよび裏面Fbの間に三次元網目構造部を積層造形によって形成することにより、三次元網目構造部における空隙の分だけ十分に軽量化が図られた支持板2Aおよび摩擦パッド1Aを確実かつ容易に製造することができる。
【0084】
なお、「支持板製造方法」および「摩擦パッド製造方法」は、上記の支持板2,2A,2Bや摩擦パッド1,1A,1Bの製造方法の手順の例に限定されない。
【0085】
例えば、突起部15の突端に開口部15aを「第2の開口部」として開口した支持板2,2A,2Bの製造方法を例に挙げて説明したが、「突起部」の突端に「第2の開口部」を開口せずに、「突起部」を除く部位に「第2の開口部」を開口して「第2の通気路」を介して「第1の通気路」に連通させられた「支持板」(図示せず)を金属3Dプリンターによる積層造形によって製造することもできる。また、側面視において基端部側(表面Fa側)よりも突端側の方が幅広の楔形状の突起部15を「突起部」として形成した支持板2,2A,2Bの製造方法を例に挙げて説明したが、基端部側から突端側まで同じ幅の「突起部」や、突端側よりも基端部側の方が幅広の逆楔形状の「突起部」が「一方の面」に形成された「支持板」(図示せず)を金属3Dプリンターによる積層造形によって製造することもできる。さらに、「突起部」が存在しない「支持板」(図示せず)を金属3Dプリンターによる積層造形によって製造することもできる。
【0086】
また、挿通孔11、係合孔12および結着孔37を支持板2,2A,2Bの他の構成要素と共に金属3Dプリンターによる積層造形時に形成する「支持板製造方法(支持板製造工程)」について説明したが、挿通孔11、係合孔12および結着孔37については、他の構成要素を金属3Dプリンターによる積層造形によって形成した後に、切削加工や打ち抜き加工によって形成することもできる。さらに、ブレーキキャリパに装着した状態において、車輪の内側および外側に位置する端面に「第1の開口部」としての開口部13a,13b,33a,33bを開口した支持板2,2A,2Bの製造方法について説明したが、「第1の開口部」の開口位置については、「摩擦パッド」に求められる機能や、装着される車両の特性などに応じて、「支持板」における任意の端面に開口することができる。
【符号の説明】
【0087】
1,1A,1B 摩擦パッド
2,2A,2B 支持板
3,3B 摩擦材
11 挿通孔
12 係合孔
13a,13b,15a,33a,33b 開口部
14,16,24,34 通気路
14a 支柱
15 突起部
37 結着孔
Fa 表面
Fb 裏面