(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】セルロース系繊維の加工
(51)【国際特許分類】
D01F 2/02 20060101AFI20240415BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
D01F2/02
D01F2/00 Z
(21)【出願番号】P 2021517940
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 US2019054879
(87)【国際公開番号】W WO2020073010
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-21
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516015266
【氏名又は名称】ノース カロライナ ステイト ユニヴァーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】フォード エリッカ エヌ
(72)【発明者】
【氏名】ドワイアー ライアン
(72)【発明者】
【氏名】デドモン ハンナ
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00482664(GB,A)
【文献】特公昭37-012016(JP,B1)
【文献】特開平09-241301(JP,A)
【文献】特表2010-539301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0040029(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00- 6/96
9/00- 9/04
C08B1/00- 37/18
C08K3/00- 13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を加工する方法であって、
セルロース系材料とアルダル酸を第1の溶剤中で組み合わせて、0.1~10質量パーセントのアルダル酸を含む第1の混合物を製造するステップと、
第1の混合物をかき混ぜ、それによりセルロース系材料を溶解して
、セルロース系繊維溶液を製造するステップと、
セルロース系繊維溶液を
、第2の溶剤を含む第1の浴中に押し出して
、紡糸したままの繊維をもたらすステップと、
紡糸したままの繊維を、油を含む第2の浴中
、90℃~240℃の温度で熱延伸して、再生繊維を製造するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
アルダル酸がグルカル酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
セルロース系材料が第1の混合物中
に60質量/体積%
~99.9質量/体積%の濃度で存在する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1の溶剤が、水酸化ナトリウム、尿素、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)水和物、ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルホルムアミド(NMF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、フッ化リチウム(LiF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、メチル-ピロリドン、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)、ジアリルイミダゾリウムメトキシアセテート([A2im][CH
3OCH
2COO])、ピリジニウム、およびイミダゾリウムまたはこれらの組合せを含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項5】
第1の溶剤がジメチルアセトアミド(DMAc)および塩化リチウムを含み、塩化リチウムが3質量/体積%~9質量/体積%で溶剤中に存在する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項6】
第2の溶剤が、メタノール、アセトン、イソプロパノール、水またはこれらの組合せを含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項7】
セルロース系材料が
マーセル化セルロース粉末である、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項8】
マーセル化セルロース粉末が綿廃棄物または農業廃棄物に由来する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
セルロース系材料とアルダル酸を組み合わせるステップの前、かつ、1種または複数の添加剤をセルロース系繊維溶液に添加するステップの前に、セルロース系材料を中和するステップをさらに含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項10】
1種または複数の添加剤が、撥水剤、着色剤、UV安定剤、UV吸収剤、UV遮断剤、酸化防止剤、安定化剤、難燃剤およびこれらの組合せを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
紡糸したままの繊維をエージングして、エージングさせた紡糸したままの繊維をもたらすステップをさらに含み、エージングさせた紡糸したままの繊維が、延伸するステップに供される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項12】
セルロース出発材料を粉砕して微細セルロース粉末を生成すること、
微細セルロース粉末を水酸化ナトリウム水溶液中でマーセル化すること、
マーセル化溶液を酸で中和すること、
マーセル化溶液の繊維をすすぎ、収集すること、および
繊維を乾燥すること
を含む方法によってセルロース系材料を生成するステップをさらに含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法によって製造される、再生セルロース系繊維。
【請求項14】
10~50μmの平均繊維直径を含む、請求項13に記載の再生セルロース系繊維。
【請求項15】
5g/denより大きい靭性を含む、請求項13または14に記載の再生セルロース系繊維。
【請求項16】
250g/denより大きい比弾性率を含む、請求項13
又は14に記載の再生セルロース系繊維。
【請求項17】
500MPaより大きい引張強度を含む、請求項13
又は14に記載の再生セルロース系繊維。
【請求項18】
15デニール未満の線密度を含む、請求項13
又は14に記載の再生セルロース系繊維。
【請求項19】
再生セルロース系繊維が紡糸したままである、請求項13
又は14に記載の再生セルロース系繊維。
【請求項20】
請求項
13~19のいずれか1項に記載の
再生セルロース系繊維を含む繊維製品。
【請求項21】
糸、布
、紡糸したままのウェブ、熱接着ウェブ、水流交絡ウェ
ブまたはこれらの組合せからなる群から選択される、請求項20に記載の繊維製品。
【請求項22】
布が不織布である、請求項21に記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年10月5日出願の米国仮特許出願第62/742,033号の優先権を主張する。
本開示の主題は、セルロース系繊維の製造を対象とする。より詳細には、本開示は、アルダル酸を使用したセルロース系繊維の補強のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系繊維から構築される材料は、特に強度が要求される包装および衣料産業で幅広く使用される。セルロース系材料から構築される基材は、ポリマー材料の添加によって補強されることが多い。しかし、そのようなポリマー材料は、一般的に水蒸気、水および/または溶剤に対する感度の低減などの望ましくない特徴をセルロース系材料に付与する。さらに、ポリマー材料で処理される材料は、多くの場合過度に剛性および/または脆性の製品をもたらす。加えて、強度が増加したポリマーベース繊維(例えば、高性能繊維)を製造するための費用は過大になる場合があり、そのような繊維は法外に高価になる。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、セルロース系繊維の補強を対象とする。一態様では、セルロース系繊維(cellulosic fiber)を加工するための方法は、セルロース系材料(cellulosic material)とアルダル酸を第1の溶剤中で組み合わせて、0.1~10質量パーセントのアルダル酸を含む第1の混合物を製造するステップと、第1の混合物をかき混ぜ、それによりセルロース系材料を溶解し、第1の溶液を製造するステップと、第1の溶液を紡糸してセルロース系繊維溶液を製造するステップと、セルロース系繊維溶液を第2の溶剤を含む第1の浴中に押し出して紡糸したままの繊維(as-spun fiber)をもたらすステップと、紡糸したままの繊維を油を含む第2の浴中で熱延伸(thermally drawing)して、再生繊維を製造するステップとを含む。
【0004】
一部の実施形態では、アルダル酸はグルカル酸である。
一部の実施形態では、セルロース系繊維は、第1の混合物中に約60質量/体積%~約99.9質量/体積%の濃度で存在する。
一部の実施形態では、第1の溶剤は、非プロトン性溶剤、イオン性有機水和物、または水性溶剤である。一部の場合では、第1の溶剤はハロゲン化リチウムを含む。一部の場合では、第1の溶剤は、没食子酸エステルなどの酸化防止剤を含む。
一部の実施形態では、第2の溶剤は、メタノール、アセトン、イソプロパノール、水またはこれらの組合せを含む。
一部の実施形態では、セルロース系材料は活性化セルロース粉末である。一部の場合では、活性化セルロース粉末は、綿廃棄物または農業廃棄物に由来する。
一部の実施形態では、方法は、中和セルロース溶液を押し出すステップの前に、1種または複数の添加剤を中和セルロース溶液に添加するステップをさらに含む。種々の実施形態では、1種または複数の添加剤は、撥水剤、着色剤、UV安定剤、UV吸収剤、UV遮断剤、酸化防止剤、安定化剤、難燃剤およびこれらの組合せを含みうる。
一部の実施形態では、方法は、紡糸したままの繊維をエージングして、エージングさせた紡糸したままの繊維をもたらすステップをさらに含み、エージングさせた紡糸したままの繊維が、延伸するステップに供される。
一部の実施形態では、方法は、セルロース出発材料を粉砕して微細セルロース粉末を生成すること、微細セルロース粉末を水酸化ナトリウム水溶液中でマーセル化すること、マーセル化溶液を酸で中和すること、水酸化ナトリウムを添加し、得られた溶液の温度を上昇させ、その後室温に冷却すること、および冷却溶液を遠心分離することを含む方法によってセルロース系材料を生成するステップをさらに含む。
【0005】
一部の実施形態では、本開示の主題は、開示される方法によって製造される再生セルロース系繊維を対象とする。
一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は、約10~50μmの平均直径を有する。
一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は、約5g/denより大きい靭性(tenacity)を有する。
一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は、約250g/denより大きい比弾性率を有する。
一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は、約500MPaより大きい引張強度を有する。
一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は、約15デニール未満の線密度を有する。
一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は、メルトブロー、スパンボンド、または紡糸したままである。
【0006】
一部の実施形態では、本開示の主題は、開示される繊維を含む繊維製品を対象とする。
一部の実施形態では、繊維製品は、糸、布、メルトブローウェブ、スパンボンドウェブ、紡糸したままのウェブ、熱接着ウェブ、水流交絡ウェブ(hydroentangled web)、不織布またはこれらの組合せからなる群から選択される。
本開示による一部の利益を得るために、セルロース系繊維の加工に関連する材料、技術または方法が本明細書に特徴付けられる詳細のすべてを含むという特定の要件は存在しない。したがって、本明細書に特徴付けられる特定の例は、記載される技術の例示的な適用例であることを意図し、代替が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
特許または出願ファイルは、少なくとも1つのカラーで作成された図面を含有する。カラーの図面を含む本特許または特許出願公開の写しは、請求および必要な手数料の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【
図1】セルロース系繊維を加工するための例示的な方法を示す。
【
図2】セルロース系繊維を押し出す、エージングするおよび延伸するための例示的なシステムの概略図を示す。
【
図3A-3B】共焦点顕微鏡法による、グルカル酸の存在下および非存在下で調製された繊維の画像である。
【
図4A-4B】グルカレート(glucarate)の非存在下および存在下での粉砕された綿試料の溶解を例示する画像である。
【
図5】酸前処理を伴うおよび伴わない、ならびにマーセル化後の乾燥を伴う粉砕された綿試料の溶解を示す写真である。
【
図6】マーセル化前処理前後の粉砕された綿試料を表す線グラフである。
【
図7A】本開示の主題の一部の実施形態によって製造された4フィラメント糸の写真である。
【
図7B】
図7Aの4フィラメント糸の繊維の断面図の共焦点顕微鏡写真である。
【
図8】
図8Aは、乾燥状態の試料の引張試験データを示し、
図8Bは、湿潤状態の試料の引張試験データを示す。
【
図9】ループ試験に使用される例示的な繊維の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、再生セルロース系繊維の乾燥および湿潤靭性の強化を対象とする。より詳細には、本明細書に開示される方法は、(これらに限定されないが)グルカル酸またはガラクタル酸などのアルダル酸の添加によってセルロース系繊維を補強する。一部の場合では、再生セルロース系材料は、使用前および使用済み綿廃棄物、農業廃棄物(例えば、サトウキビバガス)ならびに古紙製品などの出発材料として加工され、使用されてもよい。しかし、本明細書に開示される方法および技術はまた、生来の(すなわち、再生ではない)セルロース系繊維に適用されてもよい。
再生セルロース系繊維は、典型的に天然のセルロース系繊維より脆い。特に、再生セルロース系繊維の分子量の減少により、機械的特性を向上させるために熱化学的加工が必要とされる。開示される方法を使用して、アルダル酸を紡糸原液(紡糸溶液)に添加することにより、再生セルロース繊維の湿潤および乾燥靭性を向上させることができる。
「靭性」という用語は、破断引張力をその線密度で除すことによって計算されるモノフィラメント繊維の単位引張強度を指す。湿潤靭性および乾燥靭性は、それぞれ乾燥および湿潤時の繊維の引張試験を指す。繊維の湿潤および乾燥靭性は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれるASTM D3822-07によって決定することができる。一部の実施形態では、本開示の主題は、開示される方法によって製造されるアルダル酸またはその塩を含む再生セルロース系繊維をさらに含む。特定の理論に束縛されることなく、製造される繊維は、アルダル酸を含むことに少なくとも部分的に起因して有利な特性を有するように思われる。
【0009】
I.定義
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合、定義を含む本文献が優先する。好ましい方法および材料が以下に記載されるが、本明細書に記載されるものと同様または同等の方法および材料が本発明の実施または試験に使用されてもよい。本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。本明細書に開示される材料、方法および例はほんの例示であり、限定的であることを意図しない。
【0010】
「含む(comprise)」、「含む(include)」、「有している」、「有する」、「できる」という用語およびそれらの変形は、さらなる行為または構造の可能性を除外しない非制限的な移行句、用語または単語であることを意図する。単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別段明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。本開示はまた、明示的に記載されるか否かにかかわらず、本明細書に提示される実施形態または要素「を含む」かつ「から本質的になる」他の実施形態を企図する。
【0011】
本明細書の数値範囲の列挙では、同程度の精度を有するその間のそれぞれの介在する数字が明示的に企図される。例えば、6~9の範囲では、6および9に加えて数字7および8が企図され、6.0~7.0の範囲では、数字6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9および7.0が明示的に企図される。
数量に関連して使用される「約」という用語は、記述された値を包含し、文脈によって指示される意味を有する(例えば、特定の数量の測定に付随する少なくともある程度の誤差を含む)。「約」という修飾語はまた、2つの端点の絶対値によって定義される範囲を開示するとみなされるべきである。例えば、「約2~約4」という表現は、「2~4」の範囲も開示する。「約」という用語は、指し示された数字のプラスまたはマイナス10%を指す場合がある。例えば、「約10%」は9%~11%の範囲を指し示す場合があり、「約1」は0.9~11を意味する場合がある。「約」の他の意味は、丸めなどの文脈から明らかである場合があり、したがって例えば「約1」は、0.5~1.4も意味する場合がある。
【0012】
特定の官能基の定義および化学的用語が以下により詳細に記載される。本開示の目的では、化学元素は、the Periodic Table of the Elements, CAS version, Handbook of Chemistry and Physics, 75th Ed.の表紙裏に従って特定され、特定の官能基は、一般的にその中に記載されるように定義される。さらに、有機化学の一般的原理ならびに特定の官能性部分および反応性は、それぞれの全内容が参照により本明細書に組み込まれるOrganic Chemistry, Thomas Sorrell, University Science Books, Sausalito, 1999; Smith and March March’s Advanced Organic Chemistry, 5th Edition, John Wiley & Sons, Inc., New York, 2001; Larock, Comprehensive Organic Transformations, VCH Publishers, Inc., New York, 1989; Carruthers, Some Modern Methods of Organic Synthesis, 3rd Edition, Cambridge University Press, Cambridge, 1987に記載される。
【0013】
II.例示的方法およびシステムに使用可能な例示的材料
種々の種類のセルロース系繊維を本明細書に開示される例示的方法およびシステムに使用することができる。これらならびに例示的方法およびシステムに使用可能な他の材料が以下で考察される。
【0014】
A.セルロース系繊維
セルロース系繊維は、溶剤繊維紡糸法を使用してパルプ(例えば、木材パルプ)から構築される繊維の1種である。(これらに限定されないが)広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、コットンリンター、バガス、麻、亜麻、竹、ケナフ、草、藁、亜麻仁、ジュート、ラミー、靱皮、サイザルおよび/または繊維性師部を有する任意の他の植物などの、任意の所望のパルプを使用することができる。好適な広葉樹パルプは、アカシア、ハンノキ、カバノキ、キバナヨウラク、ガム、カエデ、オーク、ユーカリ、ポプラ、ブナ、ヤマナラシなどのうちの1種または複数から選択することができる。好適な針葉樹パルプは、サザンパイン、ホワイトパイン、カリビアンパイン、ウエスタンヘムロック、トウヒ、ベイマツなどのうちの1種または複数から選択することができる。
再生セルロース系繊維は、溶解されたセルロース系繊維を含む溶液から再生(例えば、固形に戻す)によって調製された繊維である。以下で本明細書により詳細に記載されるように、開示される方法は、セルロース系材料を溶剤(紡糸原液)に溶解すること、および得られた溶液を繊維へと紡糸することを含む。アルダル酸(例えば、グルカル酸)を紡糸原液に添加することにより、得られる再生繊維が補強されることが見出された。
【0015】
B.アルダル酸を含む例示的溶剤
本明細書に開示される例示的方法の操作中に使用される特定の溶剤は、アルダル酸を含む。本セクションで考察される溶剤は、セルロース系材料の溶解操作中に使用される。
【0016】
1.例示的アルダル酸
アルダル酸は、糖の末端ヒドロキシルおよびカルボニル基が末端カルボン酸によって置き換えられた糖酸の群である。アルダル酸は、式HOOC-(CHOH)n-COOHによって特徴付けることができる。開示される方法に使用するのに好適なアルダル酸の例として、グルカル酸、酒石酸、ガラクタル酸(粘液酸としても公知)、キシラル酸、リバル酸、アラビナル酸、リバル酸、リキサル酸、マンナル酸および/またはイダル酸が挙げられる。
一部の実施形態では、選択されるアルダル酸は、グルカル酸またはその塩である。特に、グルカル酸は、グルカル酸の二酸形態、ラクトン形態(例えば、1,4-ラクトンおよび3,6-ラクトン)またはこれらの組合せを含みうる。
グルカル酸は塩であってもよく、かつ完全または部分的に中和されてもよい。グルカル酸の塩の対イオンとして(これらに限定されないが)ナトリウム、カリウム、アンモニウム、亜鉛、リチウムまたはこれらの組合せを挙げることができる。例えば、グルカル酸は、モノアンモニウム塩、ジアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはこれらの組合せであってもよい。特定の理論によって束縛されるものではないが、グルカル酸の遊離ヒドロキシルおよびカルボン酸基は、マトリックスポリマー、特に溶解されたセルロースポリマーのヒドロキシル基との強力な分子間の二次結合に関わると考えられる。
一部の実施形態では、グルカル酸は、式(I)に記載される式を有しうる。
【0017】
【化1】
式(I)
しかし、一部の実施形態では、グルカル酸は、式(II)として以下に記載される式を有しうる。
【0018】
【0019】
式(II)では、Z+は水素、ナトリウム、カリウム、N(R1)4、亜鉛、リチウムおよびこれらの組合せから選択されてもよい。
一部の実施形態では、グルカル酸は、式(III)、(IV)または(V)のうちの1つまたは複数から選択されてもよい。
【0020】
【化3】
一部の実施形態では、グルカル酸は、1つまたは複数の生合成方法によってもたらされてもよい。例えば、グルカル酸は、微生物発酵によってもたらされてもよい。したがって、グルカル酸は費用対効果の高い様態でもたらされうる。他の実施形態では、グルカル酸は、糖(例えば、グルコース)の酸化剤(例えば、硝酸)による酸化によってもたらされてもよい。
【0021】
2.さらなる例示的な溶剤成分
一般的に、セルロース系材料を溶解するために使用される例示的溶剤は、非プロトン性、イオン性有機水和物または水性である。種々の実装形態では、例示的溶剤はハロゲン化リチウムを含みうる。種々の実装形態では、例示的溶剤は酸化防止剤を含みうる。一部の例示的溶剤は、ハロゲン化リチウムと酸化防止剤の両方を含みうる。上記に指し示されるように、アルダル酸はこれらの溶剤系に添加される。
溶剤媒体は非プロトン性溶剤でありうる。本明細書に開示される方法およびシステムに使用可能な例示的非プロトン性溶剤は、時には塩との組合せで、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、n-メチルホルムアミド(NMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)およびメチル-ピロリドンを含む。
溶剤媒体は、イオン性有機水和物でありうる。例示的イオン性有機水和物は、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)、ジアリルイミダゾリウムメトキシアセテート([A2im][CH3OCH2COO])、ピリジニウムならびに酢酸、ギ酸、リン酸ジメチルおよび塩素などのアニオンを有するイミダゾリウムを含む。
溶剤媒体は水性ベースでありうる。例えば、例示的溶剤は、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液または尿素水溶液であってもよい。
【0022】
一部の場合では、非プロトン性溶剤、イオン性有機水和物溶剤または水性溶剤はまた、ハロゲン化リチウムを含みうる。例示的ハロゲン化リチウムとして、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)およびリチウム臭素(lithium bromine)(LiBr)が挙げられる。一部の場合では、NMOなどの溶剤は、ハロゲン化リチウムを伴わずにセルロース系材料を有効に溶解することができる。
種々の実装形態では、ハロゲン化リチウムは、溶液の3~20質量/体積%、5質量/体積%~15質量/体積%、4質量/体積%~10質量/体積%、7質量/体積%~12質量/体積%、12質量/体積%~18質量/体積%、3質量/体積%~9質量/体積%または8質量/体積%~14質量/体積%で溶剤中に存在してもよい。
溶剤はまた、1種または複数の酸化防止剤を含みうる。例示的酸化防止剤として、例えば没食子酸ドデシル、没食子酸プロピルおよび没食子酸ラウリルなどの没食子酸エステルが挙げられる。1種または複数の没食子酸エステルは、約0.1質量/体積%~0.3質量/体積%または約0.2質量/体積%で溶剤に添加されてもよい。
【0023】
III.例示的方法
A.例示的なセルロース活性化
典型的に、以下に開示される例示的なセルロース系繊維加工用原料を事前加工して「活性化セルロース系粉末」を生成する。活性化セルロース粉末は、セルロースのケーキでありうるセルロース出発材料を微細粉末へと粉砕または摩砕することなどによって、種々の態様で得ることができる。一部の場合では、粉末は20金属メッシュサイズ(約840μm)である。得られる粉末は粉砕後に乾燥されてもよい。例えば、粉末は、85℃で少なくとも4時間オーブン乾燥されてもよい。一部の実装形態では、粉末は、さらなる加工前に乾燥器で保管されてもよい。
次いで、微細粉末は、水酸化ナトリウム(NaOH)などの水性溶剤中でマーセル化される。マーセル化は、室温で行われてもよい。マーセル化は、セルロース鎖間の水素結合を破壊することによって繊維を膨潤させるセルロースの苛性処理である。処理は、室温またはより低い温度で水中最大25%の水酸化ナトリウムを含む。例えば、マーセル化は、20質量/体積%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液により、23℃で5時間乾燥粉末を処理することを含みうる。
【0024】
一部の実施形態では、繊維はマーセル化後にすすがれ、収集され、乾燥されてもよい(例えば、80℃で)。実験試験により、マーセル化後かつ中和前に繊維を乾燥すると、下流プロセス(以下で考察される紡糸操作110後など)でセルロースの溶解が向上しうることが指し示された。
次に、NaOH/粉砕されたセルロースの混合物が強酸または弱酸によって中和される。1つの例として、pHは4Nの硫酸で中和されてもよい。次いで、繊維はすすがれ、収集され、その後乾燥されてもよい。例えば、乾燥は80℃で行われてもよい。
次に、乾燥粉末は尿素を含むNaOHまたはDMAc/LiClでありうる溶解溶剤に添加されてもよい。一部の場合では、溶解溶剤は没食子酸ラウリルを含みうる。一部の場合では、溶液の温度は120℃~130℃に増大され、その後室温まで低下されてもよい。次いで、得られる原液を遠心分離し、フィブリルを完全に溶解し、原液を脱気してもよい。
【0025】
B.例示的なセルロース系繊維の加工
図1は、セルロース系繊維を加工するための例示的方法100を示す。一般的に、方法100は、出発材料のセルロース系繊維と比べて向上した強度特性を有するセルロース系繊維をもたらす。方法100の出発材料は、再利用繊維および/または生来の繊維を含みうる。他の実施形態は、より多いまたはより少ない操作を含みうる。
方法100は、操作102、104および106として以下に記載される、セルロース系材料とアルダル酸を第1の溶剤中で組み合わせて第1の混合物を製造することを含む。方法100は、セルロース系材料を第1の溶剤に添加すること(操作102)によって開始してもよい。典型的に、セルロース系材料は活性化セルロース粉末である。通常、セルロース系材料は事前乾燥されている。種々の実装形態では、セルロース系材料は、セルロース系材料が約60質量/体積%~約99.9質量/体積%の濃度で溶液に存在するように添加される。
種々の所望の溶剤が操作102の第1の溶剤として使用されてもよい。例示的な溶剤は、非プロトン性溶剤、イオン性有機水和物または水性溶剤である。一部の場合では、第1の溶剤はハロゲン化リチウムを含む。一部の場合では、第1の溶剤は、没食子酸エステルなどの酸化防止剤を含む。例示的な溶剤、潜在的な成分および可能な相対量は上記により詳細に記載され、簡潔性のためにここでは繰り返さない。
代替的に、ビスコースレーヨン法などの間接的溶解方法が使用されてもよい。ビスコースレーヨン法では、セルロースをCS
2と組み合わせ、NaOH水溶液に可溶性であるセルロースキサントゲン酸塩を形成し、繊維紡糸のためのビスコース溶液を作製する。紡糸された繊維を酸溶液で処理し、誘導体を変換してセルロースへと戻す。
【0026】
アルダル酸もまた第1の溶剤に添加される(操作104)。一部の場合では、アルダル酸は、セルロース系材料が溶剤に添加されるまたは溶解する前に添加される(操作104)。例示的なアルダル酸として、これらに限定されないが、グルカル酸およびガラクタル酸が挙げられる。アルダル酸は、アルダル酸が約0.01質量/体積%~約10質量/体積%の濃度で溶液に存在するように溶液に添加される(操作104)。
1種または複数の添加剤が溶剤、セルロース系材料およびアルダル酸の混合物でありうる第1の溶剤に任意に添加されてもよい(操作106)。1種または複数の添加剤は、撥水剤、着色剤、UV安定剤、UV吸収剤、UV遮断剤、酸化防止剤、安定化剤、難燃剤およびこれらの組合せを含みうる。
【0027】
次に、溶液がかき混ぜられる(操作108)。かき混ぜ(操作108)は、溶液を所望の温度で所望の時間撹拌することを含みうる。一部の実施形態では、(例えば、使用される溶剤に応じて)所望の温度は室温でありうる。しかし、一部の実施形態では、所望の温度は室温より高い(例えば、約60℃~100℃)または低い(例えば、約10℃以下)場合がある。所望の時間は、約15分~数時間の範囲でありうる。
次いで、任意の公知の方法を使用して溶液を紡糸し(操作110)、セルロース系材料を溶液に溶解してもよい。1つの例として、溶液は操作108中に遠心分離されてもよい。他の実装形態では、音波処理、超音波処理、高せん断均質化および混錬反応を使用してセルロース系材料を溶液に溶解してもよい。
次に、溶液を第2の溶剤中に押し出し(操作112)、紡糸したままの繊維をもたらしてもよい。第2の溶剤は、メタノール、アセトン、イソプロパノール、水またはこれらの組合せを含みうる。一部の場合では、押出装置と浴の間に空隙が設けられる。空隙での原液の乾燥ジェットにより、絡まったポリマー鎖が第2の溶剤での凝集前に伸長することが可能になりうる。
【0028】
一部の実施形態では、方法100は、紡糸したままの繊維を油(例えば、シリコーン油)を含む浴中で熱延伸して(操作114)、再生繊維を製造することを含みうる。一部の場合では、紡糸したままの繊維は、第2の溶剤中でエージングした後に、エージングさせた繊維または紡糸したままの繊維を油を含む浴中で延伸してもよい。しかし、一部の実施形態では、メルトブロー法、スパンボンド法および/または紡糸したままの方法が使用されてもよいことが認識されるべきである。したがって、繊維はメルトブロー繊維、スパンボンド繊維および/または紡糸したままの繊維でありうる。
【0029】
IV.例示的なシステム
図2は、セルロース系繊維を押し出すおよび延伸するための例示的なシステム200の概略図を示す。システム200に示される1つまたは複数の構成要素を使用して、上記に考察されたように方法100の操作112および操作114を実装してもよい。他の実施形態は、より多いまたはより少ない構成要素を含みうる。
システム200は、紡糸したままの繊維などの押し出されたセルロース系繊維を生成しうる押出装置202を含む。典型的に、中性pHの溶解されたセルロース系繊維を含む混合物が押出装置202に与えられる。押出装置202に圧力が印加されるにつれ、セルロース系繊維がオリフィスを通って浴204へと進む。オリフィスの直径および印加される圧力は、所望される繊維の種類に応じて異なってもよい。例えば、オリフィスは、内径約0.69mmの19ゲージ針によって供給されてもよい。
押出装置202と浴204の間には、空隙203が存在する。オリフィスと第1の浴との間の空隙は、約2mm~約8mm、3mm~5mmまたは約2mm~約7mmなど、約1mm~約10mmであってもよい。
浴204は、押出装置202の溶液より高いまたは低い温度でありうる1種または複数の溶剤を含む。浴204の溶剤は、メタノール、アセトン、イソプロパノール、水またはこれらの組合せを含みうる。一部の実施形態では、浴204の溶剤は0℃、-10℃、-20℃、-25℃または-35℃であり、かつメタノールとアセトンの混合物を含む。第1の浴での凝集に続き、紡糸したままの繊維が回転ワインダー206へと収集されてもよい。
【0030】
紡糸したままの繊維が生成されると、これを浴204と同じまたは同様の溶剤を含むが典型的には浴204より高温(例えば、0℃より高い)の浴208内でエージングして、エージングさせた紡糸したままの繊維を製造してもよい。紡糸したままの繊維は、約1時間~約48時間エージングされてもよい。一部の実施形態では、紡糸したままの繊維は、浴208で5℃で24時間エージングされる。このステップを通して、紡糸したままの繊維(およびエージングさせた紡糸したままの繊維)は、ポリマーゲルと称されることもある。
次に、繊維が浴210の1~4段階の油中で延伸されてもよい。例示的な油はシリコーン油である。典型的に、浴210の油は、浴204および浴208と比べて上昇した温度である、例えば、浴210の油は90℃~240℃であってもよい。繊維延伸の各段階における延伸比(DR)はDR=V2/V1として計算されてもよく、ここでV1は繊維送りワインダー212の速度であり、V2は繊維巻取りワインダー214の速度である。
様々な送り量および延伸比が開示される方法で使用されてもよい。例えば、方法は、約0.1メートル/分(m/分)~約20m/分の送り量を含みうる。さらに、方法は、約1~約20の延伸比を含みうる。一部の実施形態では、方法は、約30~約150または約35~約85など、約25~約160の全延伸比を有してもよい。本明細書で使用される場合、「全延伸比」は、シリコーン油を含む浴210で実施される各延伸段階の累積延伸比を指す。
【0031】
V.例示的な再生繊維の態様
例示的な再生繊維を、繊維の種々の成分および化学的特徴ならびに物理的特性に関して記載する。種々の態様が以下で考察される。
【0032】
A.例示的な再生繊維の成分
一部の実施形態では、再生繊維は、繊維に1つまたは複数の有益な特性を植え付ける1種または複数の添加剤を含みうる。「添加剤」という用語は、撥水剤、着色剤、UV安定剤、UV吸収剤、UV遮断剤、酸化防止剤、安定化剤、難燃剤、または製造される繊維の外観もしくは性能特徴を増強させる任意の他の化合物を指す。好適な添加剤として(これらに限定されないが)、リグニン、カーボンナノチューブ、ナノフィラーまたはこれらの組合せを挙げることができる。添加剤は、繊維の全質量に対して約0.1~50質量パーセントの濃度で繊維内に存在してもよい。したがって、添加剤は約1~45、5~30または10~20質量パーセントの量で存在してもよい。
【0033】
一部の実施形態では、開示される再生繊維はリグニンを含みうる。リグニンは、植物および一部の藻類の二次細胞壁の一部である複合ポリマーであり、細胞壁を形成するセルロース、ヘミセルロースおよびペクチンの間の空間を充填する。リグニンはヘミセルロースに共有結合し、様々な多糖を架橋し、それにより細胞壁の機械的強度を増加させる。一部の実施形態では、再生繊維は、繊維の全質量に対して約0.1~50質量パーセントのリグニンを含みうる。例えば、再生繊維のリグニンの含有量は、約1~25、1~30、5~30または8~20質量パーセントのリグニンを含みうる。
リグニンは様々な形態で使用することができる。例えば、リグニンはマツのおがくずの水性ペーストとして用意されてもよい。さらに、溶液として用意されるリグニンは、pH2~4などの酸性pHを有しうる。一部の実施形態では、リグニンは、溶剤(例えば、アセトン)中で溶解し、濾過してリグニンの不溶性画分を除去することによって精製されてもよい。リグニンの精製により、得られる繊維の延伸性(例えば、より高い繊維の伸縮性および/またはより少ない延伸中の破断)が向上しうる。
再生繊維は、使用される製造方法に応じて任意の所望の直径を有してもよい。例えば、繊維は約15~45、20~40または25~35μmなど、約10~50μmの直径を有してもよい。
【0034】
アルダル酸に少なくとも部分的に起因して、開示される再生セルロース系繊維は、アルダル酸の非存在下で製造される再生繊維に比べて増加した靭性を有しうる。特に、開示される再生繊維は、アルダル酸の非存在下で製造される再生セルロース系繊維の少なくとも1.5×、2×、2.5×、3×、4×、5×または10×の靭性を有しうる。例えば、開示される再生繊維は、約3~15g/denの靭性を有しうる。したがって、再生繊維は、約5、6、7、8または9g/denより大きい、6g/denより大きい、7g/denより大きい、8g/denより大きいまたは9g/denより大きい靭性を有しうる。
一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は、繊維の全質量に対して約0.01%~約10%のアルダル酸濃度を有しうる。したがって、繊維は約0.01%~8%、0.8%~5%または1%~4%のアルダル酸を含みうる。
【0035】
B.例示的な生成された繊維の例示的な物理的特徴
一部の実施形態では、製造された繊維は、約200g/den~約1200g/denの比弾性率を有しうる。したがって、繊維は、約230、250、300、350、400または450g/denより大きい比弾性率を有しうる。「比弾性率」という用語は、弾性率(ヤング率)を材料の体積質量密度(例えば、単位体積あたりの質量)で除した値を指す。ヤング率は、材料の剛性の尺度となる機械的特性である(例えば、単位面積あたりの単軸応力または力をひずみで除した値)。比弾性率およびヤング率は、参照により本明細書に組み込まれるASTM D3039およびASTM D790に従って決定されてもよい。
繊維は、約150MPa~約2000MPaの引張強度を有してもよい。繊維は、500MPaより大きい、550MPaより大きい、600MPaより大きい、650MPaより大きい、700MPaより大きい、750MPaより大きい、800MPaより大きい、900MPaより大きいまたは1000MPaより大きい引張強度を有してもよい。材料の引張強度は、破裂または破損するまでに材料に印加できる応力の最大量を指す(例えば、繊維がどれほど早くおよび/または容易に破れるまたは裂けるか)。
一部の実施形態では、製造される繊維は約3~25、3~20または3~15デニールなど、約3~30デニールの線密度を有しうる。一部の実施形態では、再生セルロース系繊維は約16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6または5デニール未満など、約17デニール未満の線密度を有しうる。
上記で言及されたように、再生繊維は、その有利な特性のために多数の様々な用途で使用することができる。1つのそのような用途は、(これらに限定されないが)糸、布、メルトブローウェブ、スパンボンドウェブ、ゲルスパンウェブ、ニードルパンチウェブ、熱接着ウェブ、水流交絡ウェブ、不織布およびこれらの組合せなどの繊維製品の一部としての繊維の使用である。
さらに、繊維は、高性能繊維が必要とされる用途で使用することができる。これらの種類の用途の例として、炭素繊維の前駆体、タイヤコード、放射線シールドおよび繊維強化プラスチックが挙げられる。
【0036】
VI.実験実施例
本発明の組成物および方法は、本発明の例示を意図し、本発明の範囲の限定を意図しない以下の実施例を参照することによってより良好に理解される。
【0037】
(実施例1)
セルロースのマーセル化前処理
3.0+/-0.05グラムの粉砕されたセルロース粉末を500mLの冷(23℃)20%NaOH溶液に添加した。懸濁液を1時間機械的に撹拌した。次いで、濾液が中和される(pH6~7)まで固体を濾過し洗浄した。処理したセルロースを空気乾燥した。セルロースがほぼ透明の溶液へと溶解したことが観察された。
【0038】
(実施例2)
綿パルプのマーセル化前処理
20%のNaOH水溶液を調製した。3.0+/-0.05グラムの綿パルプを20%NaOH溶液に添加し、250rpmで1時間室温(20~23℃)で撹拌した。微細鋼メッシュおよびブフナー漏斗を使用し、真空下で溶液を濾過した。濾過した乾燥パルプを30mLの白色ビネガー(5%酢酸)に添加し、5~10分間撹拌し、溶液のpHを6~7に中和した。溶液を、微細鋼メッシュによってブフナー漏斗を使用して真空下で濾過した。濾過したパルプを60mLの蒸留水に添加し、5~10分間室温で撹拌した。パルプが十分洗浄される(pHが中和され、ナトリウムが除去される)まで、水によるすすぎおよび濾過のステップを繰り返した。次いで、パルプをオーブンで85℃で少なくとも4時間乾燥した。乾燥したパルプを、溶解または特性決定試験に使用するまで、真空密閉乾燥機で室温で保管した。
【0039】
(実施例3)
溶解に対するNaOH前処理の役割
マーセル化前処理を伴わない、3質量%のセルロースの粉砕された再利用綿試料を、8%のLiCl/DMAc+0.2質量パーセントの没食子酸ドデシル+10質量パーセントのグルカル酸の溶液に添加した。溶液を120℃(油浴)で1時間撹拌した。溶液を室温でさらに1時間撹拌した。原液試料を遠心分離(2500rpm、20分)のために採取し、上清を滴下試験に適用した。
試料は完全に溶解しなかったことが観察された。試料はまた、高い粘性を有するように思われなかった。遠心分離後、沈殿物が観察され、これは非常に不良な溶解状態を指し示す。
凝集試験(水中)により、容易に分解する脆い液滴が生じた。したがって、マーセル化前処理は、粉砕されたセルロース試料の溶解効率に影響を及ぼすLiCl/DMAc溶解法の重要なステップであることが結論付けられた。
【0040】
(実施例4)
耐可塑剤作用
耐可塑剤は、繊維の延伸性および/または機械的強度を増強させることが公知である。セルロース繊維(重合度600~800)を3質量%のDMAc/LiCl溶液に添加することによって試料1を調製した。セルロース繊維(重合度600~800)を10%のグルカル酸溶液に添加することによって試料2を調製した。得られた試料1および2の繊維のSEM画像をそれぞれ
図3Aおよび
図3Bに示す。
図3Aの試料1の繊維は、1×ズームで1280×1280μmの画像サイズで示される。繊維は、面積1.8×10-9m
2、直径48μm、セルロース密度1580000g/m
3、26デニールおよび29デシテックスであった。
図3Bの試料2の繊維は、1×ズームで1280×1280μmの画像サイズで示される。繊維は、面積1.74×10-9m
2、直径47μm、セルロース密度11500000g/m
3、23デニールおよび26デシテックスであった。
【0041】
(実施例5)
溶解試験
試料6を調製するために、油浴を130℃に加熱した。4グラムのLiClおよび0.1グラムの没食子酸ラウリルを50mLのDMAcに添加した。事前加熱のために溶液を油浴で加熱した。1.5グラムの処理された綿試料を加熱溶液に添加し、1時間撹拌した。次に、懸濁液を室温に冷却し、
図4Aの写真に示されるようにさらに1時間撹拌した。
試料7を調製するために、油浴を130℃に加熱した。4グラムのLiCl、0.1グラムの没食子酸ラウリルおよび0.15グラムのグルカレートを50mLのDMAcに添加した。事前加熱のために溶液を油浴で加熱した。1.5グラムの処理された綿試料を加熱溶液に添加し、1時間撹拌した。次に、懸濁液を70℃~80℃に冷却し、その後水道水/フラスコの手動の振盪によって素早く温度クエンチした。
図4Bに示されるように、反応をクエンチすることにより、完全な溶解状態が突然出現したことが観察された。
【0042】
(実施例6)
セルロースの溶解に対する前処理の役割
実験を行い、セルロースの溶解に対する前処理操作の可能性のある役割を評価した。
粉砕された綿試料(重合度600~800)をマーセル化前処理に供すことによって試料3を調製した。20%NaOH中5%(質量/質量)の粉砕された綿の懸濁液を調製した。懸濁液を室温で5時間撹拌した。次に、400mLの4Nの硫酸を添加し、懸濁液をpH7.0に中和した。試料を濾過によって収集し、80℃でオーブン乾燥した。溶解試験中、試料が完全に溶解したことが観察された。
粉砕された綿試料(重合度600~800)に対するマーセル化前処理を省略することにより、試料4を調製した。20%NaOH中5%(質量/質量)の粉砕された綿の懸濁液を調製した。懸濁液を室温で5時間撹拌した。次に、試料を水で洗浄してpH7.0に中和した。試料を濾過によって収集し、80℃でオーブン乾燥した。
試料4からの20グラムのマーセル化された綿セルロースを添加し、400mLの4Nの硫酸で30~40分間室温で処理することにより、試料5を調製した。試料を濾過によって収集し、水道水でpH7.0まで洗浄した。次いで、試料を80℃で4時間オーブン乾燥した。
図5は、左から右に試料3、試料4および試料5の写真である。酸処理を伴わない場合、試料5は、
図5に示されるように非常に不良のセルロース溶解性能を示したことが観察された。さらに、追加の酸処理ステップ(試料4)によってセルロースの溶解が改善した(しかし、依然として完全には溶解されない)ことが観察された。
【0043】
(実施例7)
粉砕された綿試料の結晶化度試験
マーセル化前の粉砕された綿試料(試料8)およびマーセル化後の粉砕された綿試料(試料9)を、以下の
図6に示されるように比較した。1429cm
-1のピークの減少および895cm
-1のピークの増大は、マーセル化後の結晶化度の低減を指し示す。赤い楕円は、セルロースの分子間および分子内水素結合が変化したことを指し示し、これはセルロースIからIIへの結晶構造の変換を指摘する。
【0044】
(実施例8)
編物セルロース繊維試料の製造
シャツからセルロース繊維(重合度600~800)を得た(3質量%のセルロース)。10%のグルカル酸、7%のDMAc/LiClおよび0.2%の没食子酸ドデシルの溶液を調製した。溶液を水凝集浴に供した。10mL/分の送り量および6~7m/分の巻取りスピードを使用し、
図7Aおよび
図7Bに示される4フィラメント糸を製造した。
【0045】
(実施例9)
物理的特性試験
再利用綿の繊維を短繊維粉末へと粉砕した。これらの繊維の平均重合度は600~800DP(すなわち、中程度のDP)であった。溶剤に対して5~8質量対体積(質量/体積)%の再利用綿からのセルロース。溶剤は、ジメチルアセトアミドに対して8質量/体積%の塩化リチウム(LiCl/DMAc)および0.2質量%の没食子酸ラウリルを含んだ。溶液を120℃で3時間溶解し、室温でさらに1時間撹拌した。紡糸原液の溶液を2500rpmで20分間遠心分離した。紡糸原液を遠心分離し、さらにより均質な原液にするために未溶解粉末を分離した。
S1~S5の5つの試料を試験し、以下の表1に簡潔に記載する。試料S1、S4およびS5では、綿を粉砕し、マーセル化し、4Nの硫酸で中和し、80℃で乾燥した。試料S2およびS3では、綿を粉砕し、マーセル化し、4Nの硫酸で中和し、80℃で乾燥した。
【0046】
【0047】
試料S1~S5のそれぞれの種々の機械的特性を実験によって入手し、結果を以下の表2に詳述する。表2で使用される場合、「gf」は重量グラムであり、デニール=g/9000mである。線密度の測定値は、ASTM D1577 織物繊維の線密度に関する標準試験法に従って入手した。比弾性率の値は、ASTM D3379-75(1989)e1 高弾性率単一フィラメント材料に関する引張強度およびヤング率に関する標準試験法(1998年に廃止)に従って入手した。
図9Aおよび
図9Bに示されるものを含む靭性値は、ASTM D3822 標準織物繊維の引張特性に関する標準試験法によって入手した。
【0048】
引張試験のパラメータ:25mmのゲージ長で、5ポンドのロードセルの15mm/分のクロスヘッドスピードを用いて試験を実行した。少なくとも15種の代表試料を試験し、最も多く繰り返された機械的特性を報告した。
図8Aは、乾燥状態の試料の引張試験データを示し、
図8Bは湿潤状態の試料の引張試験データを示す。
図8Aおよび8Bに示されるように、アルダル酸の添加により、得られる繊維の強度および延伸性が向上した。
【0049】
【0050】
また、ループ試験を試料S1~S5に実施した。特に、ASTM D3217 ループまたは結び目構成における製造された織物繊維の破壊靭性に関する標準試験法に従い、以下の表3に示されるデータを入手した。引張試験パラメータ:25mmのゲージ長で、5ポンドのロードセルの15mm/分のクロスヘッドスピードを用いて試験を実行した。少なくとも15種の代表試料を試験し、最も多く繰り返された機械的特性を報告した。
図9は、ループ試験に使用した例示的な繊維、特にS2の10%グルカル酸-セルロース繊維の写真である。
【0051】
【0052】
前述の詳細な説明および付随する例は例示にすぎず、本開示の範囲の限定と解釈されるべきではない。開示された実施形態に対する種々の変更および修正が当業者に明らかである。限定することなく、化学的構造、置換基、誘導体、中間体、合成、組成物、配合物、または使用方法に関するものを含むそのような変更および修正が本開示の精神および範囲から逸脱することなくなされてもよい。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕セルロース系繊維を加工する方法であって、
セルロース系材料とアルダル酸を第1の溶剤中で組み合わせて、0.1~10質量パーセントのアルダル酸を含む第1の混合物を製造するステップと、
第1の混合物をかき混ぜ、それによりセルロース系材料を溶解し、第1の溶液を製造するステップと、
第1の溶液を紡糸してセルロース系繊維溶液を製造するステップと、
セルロース系繊維溶液を第2の溶剤を含む第1の浴中に押し出して紡糸したままの繊維をもたらすステップと、
紡糸したままの繊維を、油を含む第2の浴中で熱延伸して、再生繊維を製造するステップと
を含む、方法。
〔2〕アルダル酸がグルカル酸である、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕セルロース系材料が第1の混合物中に約60質量/体積%~約99.9質量/体積%の濃度で存在する、前記〔1〕または前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕第1の溶剤が、水酸化ナトリウム、尿素、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)水和物、ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルホルムアミド(NMF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、フッ化リチウム(LiF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、メチル-ピロリドン、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)、ジアリルイミダゾリウムメトキシアセテート([A2im][CH
3
OCH
2
COO])、ピリジニウム、およびイミダゾリウムまたはこれらの組合せを含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕第1の溶剤がジメチルアセトアミド(DMAc)および塩化リチウムを含み、塩化リチウムが3質量/体積%~9質量/体積%で溶剤中に存在する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕第2の溶剤が、メタノール、アセトン、イソプロパノール、水またはこれらの組合せを含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕セルロース系材料が活性化セルロース粉末である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕活性化セルロース粉末が綿廃棄物または農業廃棄物に由来する、前記〔7〕に記載の方法。
〔9〕中和セルロース溶液を押し出すステップの前に、1種または複数の添加剤を中和セルロース溶液に添加するステップをさらに含む、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の方法。
〔10〕1種または複数の添加剤が、撥水剤、着色剤、UV安定剤、UV吸収剤、UV遮断剤、酸化防止剤、安定化剤、難燃剤およびこれらの組合せを含む、前記〔9〕に記載の方法。
〔11〕紡糸したままの繊維をエージングして、エージングさせた紡糸したままの繊維をもたらすステップをさらに含み、エージングさせた紡糸したままの繊維が、延伸するステップに供される、前記〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
〔12〕セルロース出発材料を粉砕して微細セルロース粉末を生成すること、
微細セルロース粉末を水酸化ナトリウム水溶液中でマーセル化すること、
マーセル化溶液を酸で中和すること、
マーセル化溶液の繊維をすすぎ、収集すること、および
繊維を乾燥すること
を含む方法によってセルロース系材料を生成するステップをさらに含む、前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕前記〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法によって製造される、再生セルロース系繊維。
〔14〕約10~50μmの平均繊維直径を含む、前記〔13〕に記載の再生セルロース系繊維。
〔15〕約5g/denより大きい靭性を含む、前記〔13〕または〔14〕に記載の再生セルロース系繊維。
〔16〕約250g/denより大きい比弾性率を含む、前記〔13〕~〔15〕のいずれか1項に記載の再生セルロース系繊維。
〔17〕約500MPaより大きい引張強度を含む、前記〔13〕~〔16〕のいずれか1項に記載の再生セルロース系繊維。
〔18〕約15デニール未満の線密度を含む、前記〔13〕~〔17〕のいずれか1項に記載の再生セルロース系繊維。
〔19〕メルトブロー、スパンボンド、または紡糸したままである、前記〔13〕~〔18〕のいずれか1項に記載の再生セルロース系繊維。
〔20〕前記〔1〕~〔19〕のいずれか1項に記載の繊維を含む繊維製品。
〔21〕糸、布、メルトブローウェブ、スパンボンドウェブ、紡糸したままのウェブ、熱接着ウェブ、水流交絡ウェブ、不織布またはこれらの組合せからなる群から選択される、前記〔20〕に記載の繊維製品。