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特許7471665人工衛星用のテザー収納ユニット及び人工衛星システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】人工衛星用のテザー収納ユニット及び人工衛星システム
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/66 20060101AFI20240415BHJP
   B64G 1/32 20060101ALI20240415BHJP
   B64G 1/34 20060101ALI20240415BHJP
   B64G 1/64 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B64G1/66 Z
B64G1/32
B64G1/34
B64G1/64 143
B64G1/64 800
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021553431
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039272
(87)【国際公開番号】W WO2021085217
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2019197135
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、「宇宙デブリ抑制のための軌道離脱を目的としたテザー伸展ユニットの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】能見 公博
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-98959(JP,A)
【文献】米国特許第6945499(US,B1)
【文献】NOHMI, Masahiro and KUMAO, Takeru,“Development of Mini Space Elevator Demonstration Satellite STARS-Me”,Proceedings, i-SAIRAS 2018, 4-6 June, Madrid, Spain,2018年06月04日,p. 1-6
【文献】HOYT, Robert, SLOSTAD, Jeffrey and TWIGGS, Robert,“The Multi-Application Survivable Tether (MAST) Experiment”,39th AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference and Exhibit, 20-23 July 2003, Huntsville, Alabam,2003年07月23日,p. 1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/32
B64G 1/34
B64G 1/64
B64G 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星に設けられて前記人工衛星の衛星軌道上の軌道制御を実現するためのユニットであって、
筐体と、
前記筐体内に、前記筐体から外部に向けて伸展可能なように収納され、前記筐体内で巻線を成すように収納されているテザーと、
前記筐体から伸展した前記テザー上を前記テザーの先端に向けて移動可能なように、前記テザーに取り付けられた状態で前記筐体内に収納される移動物体と、
前記テザーを伸展させるように駆動するとともに、前記移動物体をテザー上に移動させるように駆動する駆動部と、
を備え、
前記駆動部は、前記移動物体に固定された回転軸を有する第1のモータと、前記筐体に設けられ、前記巻線を回転させる第2のモータとを含み、
前記回転軸は、回転方向が前記テザーの長手方向に沿うように、前記テザーに圧着して設けられており、
前記筐体は、前記テザーの伸展方向側に設けられ、前記移動物体が前記テザーとともに脱出可能な開口と、前記テザーの伸展方向の反対側に設けられ、前記移動物体が当接する当接面と、を有し、
前記第1のモータの回転方向及び回転量を制御することにより、前記テザーを外部に向けて伸展させるとともに、前記移動物体を前記テザーの先端に向けて移動させることを可能とし、
前記第2のモータの前記テザーを巻き取る方向の回転を制御することにより、前記テザーの先端を前記移動物体とともに前記筐体に向けて後退させることを可能にする、
人工衛星用のテザー収納ユニット。
【請求項2】
前記テザーは、リボン状の部材である、
請求項1記載の人工衛星用のテザー収納ユニット。
【請求項3】
前記テザーは、凸面が形成されたリボン状の部材である、
請求項1又は2記載の人工衛星用のテザー収納ユニット。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の人工衛星用のテザー収納ユニットと、
衛星本体ユニットと、
を備える人工衛星システム。
【請求項8】
前記第1のモータ及び前記第2のモータの制御により、前記テザーの外部に向けた伸展長をLに設定し、前記移動物体を前記テザーの先端に移動させることにより、前記衛星本体ユニットの軌道半径をR、前記衛星本体ユニットの軌道角速度をΩ、前記テザーの先端と地球中心とを結んだ線と前記衛星本体ユニットと地球中心とを結んだ線に垂直な線とのなす角をα、前記衛星本体ユニットと地球中心とを結んだ線と前記テザーの伸展方向とのなす角をθ、前記移動物体の質量をm、重力定数をμ、前記テザーの幅をw、及び、空気が垂直に作用した場合の単位面積当たりの力をFとした場合に、下記式;
C=m・sqrt{(R-Lcosθ)+(Lsinθ)}・Ω
G=m・μ/{(R-Lcosθ)+(Lsinθ)},
TG=(G-C)・cos(α-θ)・L,
TA=-FLwcosθcosθ・(L/2)
によって計算される重力トルクTGと空力トルクTAの絶対値が等しくなるようななす角θに変化するように制御することで、前記テザーの伸展方向の地球に向かう方向からの傾きを変化させる、
請求項7記載の人工衛星システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、人工衛星用のテザー収納ユニット及び人工衛星システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙デブリ(ゴミ)(以下、単に「デブリ」ともいう。)の数が2万個以上にまで爆発的に増加しており、デブリの発生を抑制すること、及び、デブリを除去することが急務となっている。一方、近年では、超小型衛星が増加しており、多数の衛星を用いることにより地球上において衛星の高頻度の上空通過が実現できる。ここで、超小型衛星の軌道制御が可能となれば多数基の衛星の編隊飛行を制御することができ、効率的にミッションの遂行が可能となる。
【0003】
上記のようなデブリ除去を実現するための技術として、下記非特許文献1及び下記特許文献1に記載の非導電性テザーあるいは導電性テザーを用いた軌道制御技術が知られている。この導電性テザーを用いた技術では、テザーに働くローレンツ力を利用することにより人工衛星システムの軌道制御を行う。また、テザーを用いた姿勢制御の技術として、下記特許文献2に記載のものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-98959号公報
【文献】特許第3843299号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】西田 信一郎、他2名,「デブリ除去技術へのアプローチ」,計測と制御,第41巻 第8号,2002年8月,p575~580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の導電性テザーを内蔵する装置は、構成が複雑であり、小型化及び軽量化には限界があった。特に、小型衛星に用いる装置としては不向きであった。また、上記の非導電性テザーを内蔵する装置においては、軌道を制御するためにはテザー長を制御する必要があるが、効率的に軌道制御を行うことは困難であった。
【0007】
そこで、実施形態は、上記課題に鑑みて為されたものであり、構成を複雑化させることなく効率的な軌道制御を実現する人工衛星用のテザー収納ユニット及び人工衛星システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一側面にかかる人工衛星用のテザー収納ユニットは、筐体と、筐体内に、筐体から外部に向けて伸展可能なように収納されるテザーと、筐体から伸展したテザー上をテザーの先端に向けて移動可能なように、テザーに取り付けられた状態で筐体内に収納される移動物体と、テザーを伸展させるように駆動するとともに、移動物体をテザー上に移動させるように駆動する駆動部と、を備える。
【0009】
あるいは、本発明の他の側面の人工衛星システムは、上述した認識信号生成素子と、テザー収納ユニットと、衛星本体ユニットと、を備える。
【0010】
なお、本明細書中で述べる「テザー」とは、可撓性を有するひも状あるいは帯状の部材のことを言う。
【0011】
上記側面のテザー収納ユニットあるいは人工衛星システムによれば、駆動部によってテザーが筐体から外部に向けて伸展されるとともに、駆動部により、テザーに取り付けられた移動物体をテザーの先端に向けて移動させることが可能となる。これにより、テザー収納ユニットが取り付けられた人工衛星システムにおいて、移動物体のテザー上での移動量を制御して重力傾斜量を変化させることにより、テザーの伸展方向の地球に向かう方向からの傾きを変化させることができる。その結果、簡易な構成によってテザーへの空気抵抗力を制御することで効率的に人工衛星システムの軌道制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
実施形態によれば、構成を複雑化させることなく効率的な軌道変換を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】好適な実施形態にかかる人工衛星システム100の概略構成を示す斜視図である。
図2】本実施形態にかかるテザー収納ユニット5の詳細構成を示す正面図である。
図3】本実施形態にかかるテザー収納ユニット5の駆動形態を示す正面図である。
図4】本実施形態にかかるテザー収納ユニット5の駆動形態を示す斜視図である。
図5】衛星軌道上での人工衛星システム100のテザー13の伸展状態をモデル化した図である。
図6】地球上における人工衛星システム100のクライマー部17の移動状態を示す図である。
図7】変形例にかかるテザー収納ユニット5Aの詳細構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る人工衛星用のテザー収納ユニット及び人工衛星システムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面は説明用のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
【0015】
図1は、好適な実施形態にかかる人工衛星システム100の概略構成を示す斜視図である。実施形態にかかる人工衛星システム100は、所定のサイズを有する衛星本体ユニット1と、連結部3と、テザー収納ユニット5とを含んで構成される。衛星本体ユニット1は、人工衛星としての所定のミッションを実現する機能部が内蔵され、所定サイズ(例えば、外形が10cm×10cm×10cm、10cm×10cm×20cm、10cm×10cm×30cm等)の略直方体の形状を有する。テザー収納ユニット5は、人工衛星システム100の軌道制御を実現する機能を有し、所定サイズ(例えば、外形が10cm×10cm×10cm)の略直方体の形状を有する。このテザー収納ユニット5は、連結部3を挟んで衛星本体ユニット1に固定されることにより衛星本体ユニット1と一体化されている。連結部3は、衛星本体ユニット1とテザー収納ユニット5との間での制御信号等の各種信号を伝達するインターフェース部である。この連結部3は、衛星本体ユニット1とテザー収納ユニット5との間で電力を伝達してもよい。
【0016】
図2は、本実施形態にかかるテザー収納ユニット5の詳細構成を示す正面図である。同図に示すように、テザー収納ユニット5は、アルミニウム等の所定の部材で構成される略直方体形状の筐体11と、テザー13が巻線状に巻き取られた状態で筐体11内に収納されたテザー巻線部15と、筐体11内に収納された所定の外形(例えば、略球状、略直方体状)のクライマー部17とを含んで構成されている。
【0017】
筐体11には、一方の側面11aにクライマー部17がテザー13とともに脱出可能な開口19が設けられ、内部の側面11aの反対側の他方の側面11a側には、開口19によって形成される空間の底面をなす当接面21が形成されている。クライマー部17は、この当接面21に当接した状態で筐体11内に収納される。また、テザー巻線部15は、開口19の内側に形成される筐体11内の空間の任意の位置において、テザー13を開口19に向けて引き出し可能な状態で収納される。なお、筐体11は、枠体構造のものであってもよいし、開口19以外が連続した板状部材で形成された箱構造のものであってもよいし、それらの構造の組み合わせであってもよい。
【0018】
テザー巻線部15に巻き取られたテザー13は、所定材料で構成されたリボン状の部材であり、好ましくは、その面の中央に長手方向に沿って凸面が形成されるように湾曲した形状(メジャーとして用いられるコンベックスと同等な形状)を有する。テザー13の材料は、所定の強度を確保できるものであれば特定の材料に限定されないが、強度の観点からは金属材料が好適である。このテザー巻線部15は、テザー13がクライマー部17を経由して開口19から外部に伸展可能なように筐体11内に固定して収納されている(詳細は後述する)。
【0019】
クライマー部17は、移動物体23、モータ(駆動部)25、テザー受け部27、及び電力供給部29とを含んでいる。移動物体23は、所定材料で所定形状に形成され、外部に伸展したテザー13に対して重りとして用いられる物体であり、例えば、金属材料あるいは樹脂材料で形成された略球形状の物体である。この移動物体23には、中央において直線状に伸びる切込み部31が形成されている。その切込み部31は、平坦な直線状の底面31aを有する。移動物体23は、筐体11内に収納された状態では、直線状の底面31aが当接面21から側面11aの開口19に抜ける方向に伸びるように配置される。さらに、移動物体23には、切込み部31の底面31aにおいてテザー受け部27が設けられている。このテザー受け部27は、移動物体23が筐体11に収納された状態において、テザー巻線部15から引き出されたテザー13を、テザー13の両面が底面31aに略垂直な状態で切込み部31に沿って開口19から外部に向けて伸びるように、摺動可能に支持する。
【0020】
モータ25は、2つの回転軸25a,25bを有し、これらの回転軸25a,25bは、互いに接近した状態で底面31aに対して垂直に向くように移動物体23に対して回転可能に固定されている。これらの回転軸25a,25bは、切込み部31に沿って延びるテザー13をその両面から挟むようにテザー13に圧着して設けられており、それらの回転方向がテザー13の面の長手方向に沿うように配置されている。そして、モータ25は、2つの回転軸25a,25bを、互いに逆方向になるように順回転及び逆回転で回転駆動する。例えば、モータ25は、順回転においては、底面31aの上方から見て、回転軸25aを反時計方向に回転駆動し、回転軸25bを時計方向に回転駆動する。モータ25は、逆回転においては、底面31aの上方から見て、回転軸25aを時計方向に回転駆動し、回転軸25bを反時計方向に回転駆動する。電力供給部29は、移動物体23の内部に設けられ、モータ25に対して電力を供給するとともに、衛星本体ユニット1からの制御信号を有線通信あるいは無線通信で受けて、それに応じてモータ25の回転方向及び回転量を制御する。なお、電力供給部29は、筐体11に設けられて、導線を経由してモータ25に電力及び制御信号を伝送可能とされていてもよい。
【0021】
上記のような構成のテザー収納ユニット5の駆動形態について、図2に加えて、図3及び図4を参照しながら説明する。図3は、本実施形態にかかるテザー収納ユニット5の駆動形態を示す正面図、図4は、本実施形態にかかるテザー収納ユニット5の駆動形態を示す斜視図である。
【0022】
図2に示すように、電力供給部29による給電制御により、モータ25が順回転で駆動すると、クライマー部17に当接面21に押し当てられる力が作用することによりクライマー部17が筐体11に収納された状態が維持される。その一方で、電力供給部29による給電制御により、モータ25が順回転で駆動すると、テザー13がテザー巻線部15から切込み部31に沿って側面11aの開口19に向けて引き出されることにより、テザー13が外部に向けて伸展する。
【0023】
一方で、図3に示すように、電力供給部29による給電制御により、モータ25が逆回転で駆動すると、開口19から外部に伸展したテザー13はある程度の強度を有するため、クライマー部17に開口19から脱出する方向に力が作用し、クライマー部17が、開口19から脱出する。その後もモータ25が逆回転で駆動されると、クライマー部17が、テザー13の先端13aに向けて、テザー13を切込み部31に沿って支持した状態を保ちながら移動するように駆動される。
【0024】
図4には、テザー収納ユニット5の3つの使用形態について図示しており、(a)部には、テザー13及びクライマー部17が筐体11内に収納された使用形態、(b)部には、テザー13のみが筐体11から外部に伸展した使用形態、(c)部には、伸展したテザー13の先端13aに向けてクライマー部17が移動した使用形態を、それぞれ示している。このように、電力供給部29によるモータ25の駆動制御のみで3つの使用形態が切り替えられる。さらに、電力供給部29によるモータ25の駆動制御によって、テザー13の筐体11からの伸展量およびクライマー部17のテザー13上の移動量の制御が容易になされる。
【0025】
上記の構成のテザー収納ユニット5を含む人工衛星システム100を地球上空の衛星軌道上で用いた場合に、テザー収納ユニット5で制御されるテザー13の伸展方向の計算結果について説明する。図5は、衛星軌道上での人工衛星システム100のテザー13の伸展状態をモデル化した図である。ここでは、人工衛星システム100において、地球中心からの距離(軌道半径)をR、軌道角速度をΩ、テザー13の伸展長をL、テザー13の先端と地球中心とを結んだ線と衛星本体と地球中心とを結んだ線に垂直な線とのなす角をα、テザー13の先端と地球中心とを結んだ線と衛星本体と地球中心とを結んだ線とのなす角をβ、衛星本体と地球中心とを結んだ線と衛星本体からのテザー13の先端とを結んだ線(テザー13の伸展方向)とのなす角をθとした。
【0026】
上記の想定で、クライマー部17がテザー13の先端まで移動した状態でのクライマー部17に作用する遠心力Cは、クライマー部17の質量をmとすると、下記式;
C=m・sqrt{(R-Lcosθ)+(Lsinθ)}・Ω
で計算される。また、クライマー部17に作用する重力Gは、重力定数をμとすると、下記式;
G=m・μ/{(R-Lcosθ)+(Lsinθ)
で計算される。さらに、テザー13に比較してクライマー部17が十分に重いと仮定して、伸展したテザー13に働く回転方向の重力トルクTGは、下記式;
TG=(G-C)・cos(α-θ)・L
で計算される。また、テザー13の中心における回転方向の空力トルクTAは、テザー13の幅をwとし、空気が垂直に作用した場合の単位面積当たりの力をFとすると、下記式;
TA=-FLwcosθcosθ・(L/2)
で計算される。
【0027】
上記のようにして計算される重力トルクTGと空力トルクTAとにおいてそれらの絶対値が等しくなった状態がテザー13の傾きθが安定状態にあると評価することができる。例えば、R=6771km、Ω=0.001rad/s、L=100m、m=0.05kg、w=0.01mと仮定し、クライマー部17の衛星本体(筐体11)からの移動距離を1m、1.5m、3mと変化させてテザー13の安定状態における傾きθを評価したところ、それぞれ、θ=60~75deg,30~45deg、0~15degと評価された。これにより、クライマー部17のテザー13上の先端に向けた移動距離が大きくなるほど傾きθが小さくなることが分かる。これは、クライマー部17をテザー13上を移動させることにより重力傾斜(重力勾配)量が変化する結果、テザー13の伸展方向の地球中心から見た方向からの傾きを変化させることができることを意味している。
【0028】
本実施形態による作用効果について説明する。
【0029】
本実施形態の人工衛星システム100に設けられたテザー収納ユニット5によれば、モータ25によってテザー13が筐体11から外部に向けて伸展されるとともに、モータ25により、テザー13に取り付けられた移動物体23をテザー13の先端に向けて移動させることが可能となる。これにより、テザー収納ユニット5が取り付けられた人工衛星システム100において、移動物体23のテザー13上での移動量を制御して重力傾斜量を変化させることにより、テザー13の伸展方向の地球Eに向かう方向からの傾きを変化させることができる(図6)。その結果、簡易な構成によってテザー13への空気抵抗力を制御することで効率的に人工衛星システムの軌道制御を行うことができる。具体的には、テザー13への空気抵抗力を増加させて地球周回速度を減少させることで、軌道高度を低くするような軌道制御を実現することができる。さらに、テザー13、モータ25等の駆動部、及び移動物体23を含む簡単なシステム構成で実現できるため、低コストでシステムの小型化および軽量化が可能となる。特に、テザー伸展のための機構とテザー上を移動する移動物体とを共通化することで、さらなるコンパクト化が実現される。
【0030】
従来の軌道制御の技術としては、化学推進(燃料噴射)、イオンエンジン、あるいは、固体ロケットを利用する技術が存在するが、これらの技術を利用した場合は、多量の燃料が必要である、姿勢制御が必要となる、電力消費量が大きい、スピンアップが必要である等のデメリットがある。従って、従来技術は、システムが大型化しコストも増大する傾向にあるため、超小型衛星への利用は現実的でない。本実施形態では、そのようなデメリットも存在しないし、超小型衛星への搭載も容易である。
【0031】
一方で、従来の軌道制御の技術としては、膜展開の技術が存在するが、この技術では、空気抵抗が少なくなる姿勢が安定状態となるため、積極的に姿勢を制御する姿勢制御が別途必要となる。これに対して、本実施形態では、テザー伸展により姿勢が受動的に安定化されるため、姿勢制御が不要になる点で有利である。
【0032】
また、本実施形態のテザー収納ユニット5は、低コストで小型化および軽量化が実現可能であるため、超小型衛星への搭載が容易に実現できる。その結果、超小型衛星の軌道制御を行うことにより、超小型衛星の編隊飛行も実現することができ、テザー収納ユニット5の利用範囲の拡大が期待できる。
【0033】
また、姿勢制御の技術としては、テザーを地球方向に伸展することで空気抵抗を変化させることも考えられる。このようにすれば、軌道上には重力の勾配があるため、地球方向に伸展することでテザーの姿勢は受動的に安定する。しかしながら、テザーを伸展させるだけでは空気抵抗を効果的に変化させることはできず、効率的な軌道制御には限界がある。これに対して、本実施形態では、クライマー部17のテザー13上の移動量を制御する機能を有するため、効率的な駆動制御が可能である。
【0034】
ここで、本実施形態におけるテザー13は、凸面が形成されたリボン状の部材によって構成されている。このような構成とすれば、テザー13を伸展させることによりテザー13にかかる空気抵抗力を効率的に大きくすることができる。その結果、テザー収納ユニット5の小型化が容易となる。加えて、テザー13を伸展させた際に直進性を持たせることができ、テザー13にかかる空気抵抗力を安定化させることができる。その結果、軌道制御が一層容易となる。
【0035】
また、テザー13は、筐体11内で巻線を成すように収納されているので、テザー収納ユニット5の小型化が一層容易となる。
【0036】
また、本実施形態のテザー収納ユニット5は、衛星本体ユニット1と別ユニットとされている。そのため、衛星本体ユニット1にトラブルが発生した場合にもテザー収納ユニット5を稼働させることができ、人工衛星システム100がミッションに与える影響を回避でき、人工衛星システム100の信頼性を向上できる。
【0037】
さらに、本実施形態を応用することにより、強調してミッションを行う他の人工衛星システムとの編隊飛行が実現できる。また、相乗り衛星が基本となり軌道高度を選ぶことができない現状の超小型衛星において、軌道高度が要求されるミッションを、自然落下等を待たずに、能動的に軌道を変更することによって期待する時期に実施できる。また、本実施形態は、他のデブリとの衝突を回避するためにも利用できる。さらには、本実施形態は、デブリの発生抑制に利用でき、既存技術を利用して既存のデブリに取り付けることでデブリの除去に利用することもできる。
【0038】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0039】
図7は、変形例にかかるテザー収納ユニット5Aの詳細構成を示す正面図である。このテザー収納ユニット5Aの上記実施形態にかかるテザー収納ユニット5との相違点は、テザー巻線部15を回転させるモータ33が追加して内蔵されている点である。このモータ33は、テザー巻線部15をテザー13を巻き取る方向に回転駆動する。このような変形例によれば、モータ33をテザー13を巻き取るように駆動させることにより、テザー13の先端13aをクライマー部17と一緒に筐体11に向けて後退させることができる。これにより、テザー13の伸展に加えて、クライマー部17と一体となった巻き取りの制御が可能となる。その結果、テザー収納ユニット5Aを含む人工衛星システムの自在な軌道制御が実現される。なお、モータ33は、クライマー部17の電力供給部29から電力供給及び制御信号を受けてもよいし、筐体11内に収納される他の電力供給部から電力供給及び制御信号を受けてもよい。
【0040】
また、テザー収納ユニット5,5Aに備えられるテザー13としては、特開2004-98959号公報に記載されたような導電性テザーとしてもよい。このようにすれば、さらに積極的な軌道制御が可能となる。
【0041】
ここで、上記実施形態では、テザーは、リボン状の部材であってよい。このような構成とすれば、テザーを伸展させることによりテザーにかかる空気抵抗力を効率的に大きくすることができる。その結果、テザー収納ユニットの小型化が容易となる。
【0042】
また、テザーは、凸面が形成されたリボン状の部材であってもよい。こうすれば、テザーを伸展させた際に直進性を持たせることができ、テザーにかかる空気抵抗力を安定化させることができる。その結果、軌道制御が一層容易となる。
【0043】
また、駆動部は、移動物体に固定された回転軸を有するモータを含み、回転軸は、回転方向がテザーの長手方向に沿うように、テザーに圧着して設けられており、筐体は、テザーの伸展方向側に設けられ、移動物体がテザーとともに脱出可能な開口と、テザーの伸展方向の反対側に設けられ、移動物体が当接する当接面と、を有してもよい。このような構成を有すれば、モータを一方向に回転させることにより、テザーを筐体の開口から外部に向けて伸展させることができるとともに、モータを一方向に対して反対方向に回転させることにより、移動物体を筐体の開口から外部に脱出させてテザーの先端に向けて移動させることができる。これにより、簡易な構成の駆動部により軌道制御が可能となる。
【0044】
また、テザーは、筐体内で巻線を成すように収納されていてもよい。この場合には、テザー収納ユニットの小型化が一層容易となる。
【0045】
また、駆動部は、巻線を回転させるモータをさらに含んでもよい。この場合、モータの回転を制御することにより、テザーの伸展及び巻き取りの制御が可能となる。その結果、自在な軌道制御が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の一側面は、人工衛星用のテザー収納ユニット及び人工衛星システム使用用途とし、構成を複雑化させることなく効率的な軌道制御を実現することができるものである。
【符号の説明】
【0047】
1…衛星本体ユニット、5,5A…テザー収納ユニット、11…筐体、13…テザー、13a…先端、17…クライマー部、19…開口、21…当接面、23…移動物体、25…モータ(駆動部)、25a,25b…回転軸、33…モータ、100…人工衛星システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7