(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】穿刺針及び投与デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20240415BHJP
A61M 5/158 20060101ALI20240415BHJP
A61M 5/20 20060101ALI20240415BHJP
A61M 5/46 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
A61M5/32 520
A61M5/158 500D
A61M5/20 510
A61M5/20 550
A61M5/46
(21)【出願番号】P 2022521729
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010918
(87)【国際公開番号】W WO2022196561
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2022-04-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021042201
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503467089
【氏名又は名称】株式会社ライトニックス
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】福田 萠
(72)【発明者】
【氏名】小林 範行
【合議体】
【審判長】佐々木 一浩
【審判官】近藤 利充
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-85561(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181700(WO,A1)
【文献】特表2005-523082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺針を皮膚に穿刺し、前記穿刺針から薬液を皮膚内部の皮内に投与する投与デバイスに用いられる穿刺針であって、
内部に薬液の流路を有する筒状の本体部と、
前記本体部の先端側に設けられた刃先部と、
前記流路と連通する開口部と、
を備え、
前記穿刺針の先端は、1つの角錐状であり、
少なくとも前記刃先部は、樹脂から形成されており、
前記刃先部は、穿刺する過程において皮膚に突き刺さり皮膚内部の皮内に進入する刃先面であって、前記本体部の中心軸線に対して傾斜する刃先面を、複数有し、
複数の前記刃先
面は、前記本体部の中心軸線に対して40度以上90度以下の角度θ1で傾斜
する第1刃先面と、
前記第1刃先面よりも先端側に設けられ、前記本体部の中心軸線に対して前記角度θ1よりも小さい角度θ2で傾斜している第2刃先面と、を含み、
前記開口部は、前記刃先部における、前記第2刃先面に対して前記中心軸線の側に配置される面に設けられており、
前記開口部は、前記中心軸線に沿って前記穿刺針の先端側には開口しておらず、前記中心軸線と直交する方向のみに開口している、穿刺針。
【請求項2】
前記
第1刃先面と前記
第2刃先面は、それぞれの刃先が中心軸線側に向いている、請求項1に記載の穿刺針。
【請求項3】
前記本体部及び前記刃先部における少なくとも穿刺する過程において皮内に進入する部分は、前記穿刺針を先端側から後端側に視たときに多角形状である、請求項1
又は2に記載の穿刺針。
【請求項4】
前記
第1刃先面における少なくとも先端側の部分は、角錐状である、請求項1~
3のいずれかに記載の穿刺針。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の穿刺針と、
前記穿刺針による皮膚への穿刺及び薬液の投与を一動作により完了させるワンアクション機構と、
を備える投与デバイス。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれかに記載の穿刺針と、
前記穿刺針による皮膚への穿刺及び薬液の投与を2動作により完了させる2アクション機構と、
を備える投与デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺針及びこれを備える投与デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薬液を表皮とその下の真皮との間に投与する皮内注射は、皮下注射や筋肉内注射よりも薬液の投与量を削減しつつ、同等の活性が期待できることが知られている。しかし、皮内注射は、穿刺針を皮膚下の1~3mm程度の深さに刺す必要があるため、習熟した医療従事者が求められることが普及の上で課題となっている。そこで、習熟した医療従事者でなくとも皮内注射を可能とするための投与デバイスが開発されている。
【0003】
その一つとして、刃先(針先)側に円盤状の構造物を設け、刃先の穿刺深さを一定に保てるようにした投与デバイスが提案されている。この投与デバイスは、穿刺針を皮膚へ穿刺する操作と薬液を投与する操作を一動作で完了させることができる、いわゆるワンアクション機構を有する投与デバイスとして構成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なワンアクション機構を有する投与デバイスでは、薬液の投与(注入)時にプランジャーを強く押し込むと、その押圧力により鋭利な刃先が必要以上に深く刺さってしまい、結果的に薬液の注入深度が深くなるという課題がある。上述した特許文献1の投与デバイスにおいても、プランジャーを強く押し込むと、刃先に設けられた円盤状の構造物により皮膚下の組織が圧迫されて薄くなり、刃先が結果的に想定位置よりも深く刺さるため、薬液の注入深度が深くなる。
【0006】
上記のような課題は、ワンアクション機構を有する投与デバイスにおいて顕著であるが、穿刺の操作と薬液を投与する操作を2動作で完了させる、いわゆる2アクション機構を有する投与デバイスにおいても起こり得る。すなわち、2アクション機構を有する投与デバイスにおいても、薬液の投与時にプランジャーを押し込むことにより、刃先が想定位置よりも深く刺さり、薬液の注入深度が深くなってしまう場合がある。このように、薬液の投与時に生じる押圧力により薬液の注入深度が深くなってしまうという課題は、本出願人が見出した新規な課題である。
【0007】
本発明は、薬液の注入深度をより適切に制御できる穿刺針及び投与デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、穿刺と薬液の投与を行う投与デバイスに用いられる穿刺針であって、内部に薬液の流路を有する筒状の本体部と、前記本体部の先端側に設けられた刃先部と、前記流路と連通する開口部と、を備え、前記刃先部は、穿刺する過程において皮膚に突き刺さり皮膚内部の皮内に進入する刃先面であって、前記本体部の中心軸線に対して傾斜する刃先面を、複数有し、複数の前記刃先面の少なくとも1つは、前記本体部の中心軸線に対して40度以上90度以下の角度θ1で傾斜しており、前記角度θ1で傾斜する前記刃先面を除いた箇所に前記開口部が設けられている、穿刺針に関する。
【0009】
(2)前記刃先部は、前記角度θ1で傾斜する前記刃先面よりも先端側に、前記本体部の中心軸線に対して前記角度θ1よりも小さい角度θ2で傾斜している別の刃先面を更に有し、前記角度θ1で傾斜する前記刃先面と前記別の刃先面は、それぞれの刃先が中心軸線側に向いていてもよい。
【0010】
(3)前記別の刃先面に前記開口部が設けられていてもよい。
【0011】
(4)前記角度θ1で傾斜する前記刃先面には、前記開口部が設けられていなくてもよい。
【0012】
(5)前記本体部及び前記刃先部における少なくとも穿刺する過程において皮内に進入する部分は、前記穿刺針を先端側から後端側に視たときに多角形状であってもよい。
【0013】
(6)前記角度θ1で傾斜する前記刃先面における少なくとも先端側の部分は、角錐状であってもよい。
【0014】
(7)少なくとも前記刃先部が樹脂により形成されていてもよい。
【0015】
(8)本発明は、前記穿刺針と、前記穿刺針による皮膚への穿刺及び薬液の投与を一動作により完了させるワンアクション機構と、を備える投与デバイスに関する。
【0016】
(9)本発明は、前記穿刺針と、前記穿刺針による皮膚への穿刺及び薬液の投与を2動作により完了させる2アクション機構と、を備える投与デバイスに関する。
【0017】
(10)前記投与デバイスは、前記穿刺針から投与する薬液を皮膚内部の皮内に投与するために用いられてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、薬液の注入深度をより適切に制御できる穿刺針及び投与デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】第1実施形態に係る穿刺針2の側面図である。
【
図1B】第1実施形態に係る穿刺針2の正面図である。
【
図2】第1実施形態に係る穿刺針2を皮膚に穿刺したときの様子を示す模式的な断面図である。
【
図3A】第2実施形態に係る穿刺針2の側面図である。
【
図3B】第2実施形態に係る穿刺針2の正面図である。
【
図3C】第2実施形態に係る穿刺針2の底面図である。
【
図3D】第2実施形態に係る穿刺針2の背面図である。
【
図3E】第2実施形態に係る穿刺針2の斜視図である。
【
図4A】第3実施形態に係る穿刺針2の側面図である。
【
図4B】第3実施形態に係る穿刺針2の正面図である。
【
図4C】第3実施形態に係る穿刺針2の底面図である。
【
図4D】第3実施形態に係る穿刺針2の背面図である。
【
図4E】第3実施形態に係る穿刺針2の斜視図である。
【
図5】第3実施形態に係る穿刺針2を皮膚に穿刺したときの様子を示す模式的な断面図である(
図2対応図)。
【
図6】第4実施形態に係る投与デバイス1の外観斜視図である。
【
図9A】
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面斜視図であり、初期状態を示す。
【
図9B】
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面斜視図であり、カートリッジが針と一体となったエンゲージ状態を示す。
【
図10A】
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、初期状態を示す。
【
図10B】
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、カートリッジ3が穿刺針2と一体となったエンゲージ状態を示す。
【
図10C】
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の開始時の状態を示す。
【
図10D】
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の完了時の状態を示す。
【
図10E】
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の完了後、針が下ケースに格納された状態を示す。
【
図11】第5実施形態に係る投与デバイス100の外観斜視図である。
【
図14A】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、初期状態を示す。
【
図14B】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、外ケース190の押し込み開始時の状態を示す。
【
図14C】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、カートリッジ130が穿刺針2と一体となったエンゲージ状態を示す。
【
図14D】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、固定解除機構による針ベース170の固定が解除された状態を示す。
【
図14E】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、針ベース170が穿刺針2と共に射出された状態を示す。
【
図14F】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、針ベース170の射出後、外ケース190を更に押し込んだ状態を示す。
【
図14G】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、薬液LMの投与の開始時の状態を示す。
【
図14H】
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、薬液LMの投与の完了後、外ケース190が元の位置に復帰した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る穿刺針及び投与デバイスの実施形態について説明する。なお、本明細書に添付した図面は、いずれも模式図であり、理解しやすさ等を考慮して、各部の形状、縮尺、縦横の寸法比等を、実物から変更又は誇張している。また、図面においては、部材の断面を示すハッチングを適宜に省略する。
【0021】
まず、本発明に係る穿刺針の実施形態について説明する。実施形態の穿刺針を説明する各図面において、矢印Fは前方向、矢印Bは後方向を示す。前方向Fと後方向Bとは逆向きである。前方向F及び後方向Bを含む方向を横方向DWという。横方向DWにおいて、中心軸線aに向かう側を横内側方向DW1、中心軸線aから離れる方向を横外側方向DW2という。矢印L(D1)は左方向又は第1方向、矢印R(D2)は右方向又は第2方向を示す。第1方向D1と第2方向D2とは逆向きである。第1方向D1、前方向F、第2方向D2、後方向Bの順で90度おきに配列している。矢印Uは上方向又は後端側、矢印Dは下方向又は先端側を示す。但し、図中に示す矢印L及びRの方向は、図を正面から見たときの左右方向とは異なる。本明細書では、便宜上、各部の配置等について上記各方向を用いて説明するが、穿刺針を使用する際の姿勢は、特定の姿勢に限定されない。また、本明細書では、便宜上、穿刺針の開口が正面に見える向きを基準として左右方向及び前後方向を定めているが、穿刺針の基準となる向きは、特定の向きに限定されない。
【0022】
(第1実施形態)
図1Aは、第1実施形態に係る穿刺針2の側面図である。
図1Bは、第1実施形態に係る穿刺針2の正面図である。
図2は、第1実施形態に係る穿刺針2を皮膚に穿刺したときの様子を示す模式的な断面図である。第1~第3実施形態では、第4実施形態で説明する投与デバイス1の矢印U(上方向)の側を「後端側」、矢印D(下方向)の側を「先端側」として説明する。
【0023】
図1Aに示すように、第1実施形態に係る穿刺針2は、本体部21と刃先部22を備えている。本体部21は、細長い角柱状(本例では略五角柱)に形成された部分であり、内部に薬液の流路23が設けられている。なお、第1~第3実施形態では、便宜上、針の長手方向(中心軸線aの延在する方向。上方向U及び下方向Dを含む方向)を基準として、穿刺針において刃先面が形成されていない領域を「本体部」、刃先面が形成されている領域を「刃先部」として説明する。なお、本体部と刃先部は、特定の領域で厳密に区分されるものではなく、第1~第3実施形態の例に限定されない。
【0024】
刃先部22は、本体部21の先端側(矢印D)に形成された部分であり、第1刃先面25と第2刃先面26を備えている。これらの刃先面は、穿刺する過程において皮膚SKに突き刺さり、皮膚内部の皮内に進入する。第1刃先面25は、
図1Aに示す側面視において、本体部21の中心軸線aに対して40度以上90度以下の角度θ1で傾斜している刃先面である。第1刃先面25の角度θ1は、40度以上70度以下とすることが好ましく、40度以上50度以下とすることが更に好ましい。第1実施形態における第1刃先面25における先端側(矢印D)の面は、第1方向D1の側に上底が配置され、第2方向D2の側に下底が配置される台形状を有する。
【0025】
第2刃先面26は、第1刃先面25の刃先よりも先端側(矢印D)に設けられた刃先面である。第2刃先面26の先端は、穿刺針2全体の先端でもある。第2刃先面26の立体形状は略角錐状である。第2刃先面26の少なくとも先端側(矢印D)の部分は、角錐状である。刃先面26は、
図1Aに示す側面視において、本体部21の中心軸線aに対して20度以上40度未満の角度θ2で傾斜している。また、第2刃先面26は、
図1Bに示す正面視では、本体部21の中心軸線aに対して10度以上40度未満の角度θ3で傾斜している。
【0026】
なお、以下の説明においては、本体部21の中心軸線aに対して40度以上90度以下の角度で傾斜している刃先面を「鋭利でない刃先面」、40度未満の角度で傾斜している刃先面を「鋭利な刃先面」ともいう。第1実施形態の穿刺針2において、第2刃先面26は、鋭利な刃先面となる。
【0027】
図1Bに示すように、
刃先部22における、第2刃先面26に対して中心軸線aの側に配置される面(「開口部配置面」ともいう)には、詳細には、刃先部22における、第2刃先面26に
対して第1方向D1の側の面には、先端開口部(開口部)24が設けられている
。先端開口部24は、本体部21に設けられた流路23と連通する薬液放出口である。第1実施形態に係る穿刺針2では、
前記開口部配置面に設けられる先端開口部24のみが流路23と連通している。つまり、第1刃先面25には、流路23と連通する薬液放出口である開口部は、設けられていない。先端開口部24は、中心軸線aと直交する方向のうちの一つの方向である第1方向D1に開口している。穿刺針2の本体部21と刃先部22とは、例えば、PLA(ポリ乳酸)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリアミド系繊維等の樹脂により一体に形成されている。
【0028】
前述したように、第2刃先面26は、見る方向により中心軸線aに対する角度が異なる。すなわち、第2刃先面26は、中心軸線aに対して異なる方向に異なる角度で傾斜する複数の平面を備えている。本明細書において、複数の平面を備える刃先面において、刃先面の傾斜角度とは、1つの刃先面を側面視で全方位(360度)から見たときに、中心軸線aに対する角度が最も大きくなる稜線の角度をいう。例えば、第2刃先面26において、
図1Aに示す側面視で見える稜線の角度θ2が35度、
図1Bに示す正面視で見える稜線の角度θ3が28度となる場合、角度θ2が第2刃先面26の傾斜角度となる。なお、第1刃先面25は、刃先面を側面視で全方位から見たときに、中心軸線aに対する角度が最も大きくなる稜線は、
図1Aに示す側面視で見える稜線となるため、角度θ1が傾斜角度となる。穿刺針2において、刃先部22の第1刃先面25と第2刃先面26は、
図1Aに示すように、それぞれの刃先が中心軸線a側に向くように構成されている。第1実施形態においては、第1刃先面25の先端及び第2刃先面26の先端は、中心軸線a上に配置している。
【0029】
次に、第1実施形態に係る穿刺針2を人体の皮膚に穿刺した場合の作用について、
図2を参照しながら説明する。穿刺針2は、第4又は第5実施形態に係る投与デバイス(後述)に装着して使用されるが、それぞれの投与デバイスの機構は後述するため、
図2では図示を省略する。また、
図2では、皮膚SKの下層にある表皮及び真皮を含む領域を皮内組織INとして示している。
【0030】
図2に示すように、穿刺針2の刃先を人体の皮膚SKに突き当てて押圧すると、刃先部22は、先に第2刃先面26が皮膚SKに突き刺さり、皮内組織INの下方向Dに向けて進入する。次いで、第1刃先面25が皮膚SKに突き刺さる。つまり、第2刃先面26及び第1刃先面25は、穿刺する過程において皮膚SKに突き刺さり、皮膚内部の皮内(皮内組織IN)に進入する。穿刺針2の穿刺深さは、投与デバイス1(不図示)により制御されるため、穿刺針2の
刃先部22の
前記開口部配置面に設けられる先端開口部24は、皮内組織INの目的領域に達する。穿刺針2の穿刺に続いて薬液の投与を行うと、刃先部22には、皮内組織INの下方向Dに向けて投与デバイス1からの押圧力が作用する。このとき、刃先に鋭利な刃先面のみが設けられた穿刺針では、投与デバイス1からの押圧力により、刃先がより深く皮内組織INに進入してしまう。
【0031】
これに対して、第1実施形態に係る穿刺針2は、第2刃先面26の後端側(矢印U)に、本体部21の中心軸線aに対して40度以上90度以下の角度θ1(
図1A参照)で傾斜する第1刃先面25を備えている。本構成によれば、薬液が投与される際、刃先部22が下方向Dに押圧力を受けたときに、第1刃先面25が抵抗面又はストッパー面となり、下方向Dへの押圧力が低減される。これにより、刃先がより深く皮内組織INに進入することが抑制されるため、薬液の注入深度をより適切に制御できる。
【0032】
第1実施形態に係る穿刺針2によれば、穿刺針2の刃先が皮内組織INに進入したときに、第1刃先面25以外の部分に設けられた開口部から皮内組織INに薬液LMを投与できる。例えば第1刃先面25に開口部が設けられている形態の場合、穿刺針2の刃先が皮内組織INに進入したときに、第1刃先面25の前記開口部は、皮内組織INに塞がれやすい。これに対して、第1実施形態に係る穿刺針2では、刃先部22における前記開口部配置面に先端開口部24が設けられている。本構成によれば、中心軸線aと直交する方向のみに開口している先端開口部24は、先端開口部24の開口する向き(薬液の吐出方向)が穿刺針2の進入方向と異なるため、皮内組織INにより塞がれにくい。そのため、第1刃先面25以外の部分である前記開口部配置面に配置される先端開口部24から皮内組織INに、より確実に薬液LMを投与できる。このように、第1実施形態に係る穿刺針2によれば、皮内組織INにより塞がれにくい開口部を確保しつつ、薬液の注入深度をより適切に制御できる。
【0033】
また、一般的なワンアクション機構を備えた投与デバイスでは、穿刺針の皮膚への穿刺する際の押し込み力と薬液を投与する際の押し込み力とがほぼ同一となるため、薬液を投与する過程において、投与デバイスの押し込み力が意図せずに増加して、刃先が皮膚のより深部へ刺さってしまい、結果的に薬液の注入深度が深くなってしまう現象が生じやすい。しかし、第1実施形態に係る穿刺針2では、角度θ1で傾斜する第1刃先面25(
図1A参照)を備えているため、上記のような押し込み力の増加により薬液の注入深度が深くなることが抑制されると共に、
刃先部22における、第2刃先面26
に対して中心軸線aの
側に配置される前記開口部配置面に設けられる先端開口部24から
、薬液LMを確実に投与することができる。特に、角度θ1の第1刃先面25は、穿刺時に皮内組織INに覆われやすいため、仮に第1刃先面25に先端開口部があったとしても、その先端開口部は皮内組織INに塞がれやすくなり、薬液が投与入されにくい状態となる。これにより、操作者は、薬液を投与するために更に押し込み力を強めるため、刃先が皮膚のより深部へ刺さってしまい、薬液の注入深度が意図しない深さになってしまうという課題がある。しかし、第1実施形態に係る穿刺針2では、上記のような作用を奏するため、ワンアクション機構を備えた投与デバイスに用いた場合において、操作者の押し込み力の増加により薬液の注入深度がより深くなることを抑制できる。
【0034】
第1実施形態に係る穿刺針2において、刃先部22の第1刃先面25と第2刃先面26は、それぞれの刃先が中心軸線a側に向くように構成されている。本構成によれば、刃先部22の先端形状が側面視で略V字形(
図1A参照)となるため、穿刺時の位置ずれを抑制しつつ、刃先部22の穿通抵抗を低減できる。
【0035】
第1実施形態に係る穿刺針2は、金属材料に比べて剛性の低い樹脂により形成されているため、投与デバイス1から押圧力を受けた場合に、刃先が皮内組織INへより深く進入することを抑制できる。また、樹脂製の穿刺針2は、射出成形等により容易に製造できるため、生産性にも優れている。
【0036】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態と比べて例えば、第1刃先面25に、流路23と連通する薬液放出口である開口部が設けられていない点については、同様である。一方、第2実施形態は、第1実施形態と比べて例えば、第1刃先面25の立体形状が略角錐状である点が、異なる。第2実施形態については、第1実施形態とは異なる点を中心に説明し、同じ点については説明を省略又は簡略化することがある。
【0037】
図3Aは、第2実施形態に係る穿刺針2の側面図である。
図3Bは、第2実施形態に係る穿刺針2の正面図である。
図3Cは、第2実施形態に係る穿刺針2の底面図である。
図3Dは、第2実施形態に係る穿刺針2の背面図である。
図3Eは、第2実施形態に係る穿刺針2の斜視図である。
【0038】
刃先部22は、本体部21の先端側(矢印D)に形成された部分であり、第1刃先面25と第2刃先面26を備えている。第1刃先面25は、
図3Aに示す側面視において、本体部21の中心軸線aに対して40度以上90度以下の角度θ1で傾斜している刃先面である。
【0039】
第1刃先面25は、見る方向により中心軸線aに対する角度が異なる。すなわち、第1刃先面25は、中心軸線aに対して異なる方向に異なる角度で傾斜する複数の平面を備えている。本明細書において、複数の平面を備える刃先面において、刃先面の傾斜角度とは、1つの刃先面を側面視で全方位(360度)から見たときに、中心軸線aに対する角度が最も大きくなる稜線の角度をいう。例えば、第1刃先面25において、
図3Aに示す側面視で見える稜線の角度θ1が最も大きくなるため、この角度θ1が第1刃先面25の傾斜角度となる。
【0040】
第2実施形態においては、第1刃先面25の立体形状は略角錐状である。第1刃先面25の少なくとも先端側(矢印D)の部分は、角錐状である。詳細には、第2実施形態においては、第1刃先面25の立体形状は、先端側から順に、横方向DWに対称形の5角錐状、6角錐状となっている。第2実施形態においては、第1刃先面25の断面の外形は、先端側から順に、横方向DWに対称形の5角形、6角形となっている。第1刃先面25の少なくとも先端側(矢印D)の部分における第1方向D1の側の面は、横方向DWに配列する4つの3角形の面からなる。各3角形の境界には、直線状の稜線がそれぞれ形成される。複数の稜線は、第1刃先面25の先端に集合する。第1刃先面25の先端は、中心軸線aに配置する。
【0041】
第2実施形態においては、第1刃先面25の少なくとも先端側(矢印D)の部分は、角錐状である。そのため、穿刺時における穿刺針2の進入性を確保しつつ、薬液が投与される際に刃先部22が下方向Dに押圧力を受けたときにおける第1刃先面25による抵抗性の大きさを適度に確保することが容易である。つまり、穿刺時における穿刺針2の進入性の確保及び薬液投与過程における適度な大きさの抵抗性の確保の両立が容易である。第1刃先面25の先端側の断面の外形は、5角形に制限されず、例えば、3角形、4角形、6角形、7角形であってもよい。4角形は、台形でもよい。
【0042】
第2刃先面26は、第1刃先面25の刃先よりも先端側(矢印D)に設けられた刃先面である。第2刃先面26は、
図3Aに示す側面視において、本体部21の中心軸線aに対して20度以上40度未満の角度θ2で傾斜している。また、第2刃先面26は、
図3Bに示す正面視では、本体部21の中心軸線aに対して10度以上40度未満の角度θ3で傾斜している。
【0043】
第2刃先面26の立体形状は略角錐状である。第2刃先面26の少なくとも先端側(矢印D)の部分は、角錐状である。詳細には、第2実施形態においては、第2刃先面26の立体形状は、先端側から順に、横方向DWに対称形の5角錐状、6角錐状となっている。第2実施形態においては、第2刃先面26の断面の外形は、先端側から順に、横方向DWに対称形の5角形、6角形となっている。第2刃先面26の少なくとも先端側(矢印D)の部分における第2方向D2の側の面は、横方向DWに配列する4つの3角形の面からなる。各3角形の境界には、直線状の稜線がそれぞれ形成される。複数の稜線は、第2刃先面26の先端に集合する。第2刃先面26の先端は、中心軸線aに配置する。
【0044】
第2実施形態に係る穿刺針2は、第1方向D1-第2方向D2において、複数体(2体)が連結(結合)されて、構成されている。複数体が連結された構成によれば、内部に薬液の流路23が設けられている穿刺針2において、1体から構成された構成と比べて、針の外形、開口部、流路23の形状等の自由度が高く、製造が容易であるという利点がある。なお、穿刺針2は、1体から構成することもできる。
【0045】
第2実施形態に係る穿刺針2の少なくとも刃先部22は、例えば、本体部21及び刃先部22は、樹脂から形成されている。樹脂から形成される構成によれば、内部に薬液の流路23が設けられている穿刺針2において、金属から形成される構成と比べて、針の外形、開口部、流路23の形状等の自由度が高く、製造が容易であるという利点がある。なお、本体部21及び刃先部22は、金属から形成することもできる。
【0046】
樹脂から形成することと複数体を連結することとを組み合わせると、自由度は更に高く、製造容易性は更に高くなる。例えば、第1刃先面25の立体形状が略角錐状であり、第1刃先面25に開口部を有さず、第1刃先面25の先端側Dに、丸みを帯びて凹む先端開口部24を有するように、流路23を設けることは、型割などの関係で、一体成形では困難である。しかし、樹脂成形から形成した複数の部材を連結すれば、前述の流路23を設けることは比較的容易である。
【0047】
第1方向D1-第2方向D2において、穿刺針2を、第1刃先面25の側である第1側SD1と、第2刃先面26の側である第2側SD2とに、仮想的に区画する場合、
図3A~
図3Eに示す第2実施形態においては、第1側SD1と第2側SD2との境界面SD0は、中心軸線aを含む面である。なお、境界面SD0は、中心軸線aを含まない面であってもよい。例えば、境界面SD0は、第1方向D1の側にズレていてもよく、第2方向D2の側にズレていてもよい。別の見方をすると、境界面SD0上に配置する軸を「穿刺針2の軸」と考える場合、穿刺針2の軸は、穿刺針2の中心軸線aに対して、第1方向D1の側又は第2方向D2の側にズレていてもよい。
【0048】
刃先部22における、第2刃先面26に対して中心軸線aの側に配置される面(「開口部配置面」ともいう)には、詳細には、刃先部22における、第2刃先面26に
対して第1方向D1の側の面には、先端開口部24が設けられている。
図3Bに示すように、第2実施形態においては、先端開口部24の開口形状は、先端側(矢印D)が半円弧状(又は略半円弧状)を有し、後端側(矢印U)が長方形状の形状(例えると、陸上トラックを半分にしたような形状)である。つまり、先端開口部24の先端側(下方向Dの側)は、尖っておらず、丸みを帯びている。そのため、先端開口部24から吐出される薬液の吐出圧は均一になりやすい。
【0049】
図3Cに示すように、本体部21及び刃先部22における少なくとも穿刺する過程において皮内に進入する部分は、穿刺針2を先端側Dから後端側Uに視たときに多角形状である。例えば、本体部21を中心軸線aに直交する面で切断した断面形状(外形)は、第1の多角形であり、且つ、刃先部22のうち中心軸線aに対して傾斜している傾斜面以外の部分を中心軸線aに直交する面で切断した断面形状(外形)は、第1の多角形と同形(大きさも同じ)の第2の多角形である。第2実施形態における当該多角形は、6角形、詳細には、境界面SD0を対称軸として線対称形状を有すると共に第1方向D1、前方向F、第2方向D2及び後方向Bを含む面を対称軸として線対称形状を有する6角形である。当該多角形は、6角形に制限されず、例えば、3角形、4角形、5角形、7角形、8角形であってもよい。4角形は、台形でもよい。なお、穿刺する過程において皮内に進入しない部分は、多角形であってもよく、多角形でなくてもよい(例えば、円形、楕円形、その他丸みを帯びた形)。
【0050】
本体部21及び刃先部22における少なくとも穿刺する過程において皮内に進入する部分が、穿刺針2を先端側Dから後端側Uに視たときに多角形状であることにより、以下の効果が奏される。例えば、穿刺する過程において皮内に進入する部分の断面の外形が円形の形態と比べて、その内側に収まる多角形の外形を有する形態では、断面視での外周長さを、立体的に視た場合の外周面積を小さくすることができる。外周面積を小さくすることで、穿刺過程における外周面積に起因する進行抵抗を低減することができる。なお、流路23を区画する壁部の厚さや断面形状を適切に設計すれば、当該壁部の強度を確保できる。
【0051】
穿刺針2のうち皮内組織INに進入する部分を底面視すると(先端側Dから後端側Uに視ると)、第1刃先面25及び第2刃先面26のみが見え、穿刺針2について、その他の刃先、傾斜面、段差面などは見えない。そのため、第1刃先面25及び第2刃先面26のみが、皮内組織INに対して直接的に抵抗(面)となる。そのため、穿刺針2の穿刺深さの制御、ひいては、薬液の注入深度の制御に大きな影響を与える要素は少ない。この観点において、薬液の注入深度をより適切に制御できる。
【0052】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、第2実施形態(及び第1実施形態)と比べて例えば、第1刃先面25にも開口部27が設けられている点が異なる。第3実施形態は、開口部27以外の第1刃先面25の全体形状については、第1実施形態と同様である。第3実施形態については、第2及び第1実施形態とは異なる点を中心に説明し、同じ点については説明を省略又は簡略化することがある。
【0053】
図4Aは、第3実施形態に係る穿刺針2の側面図である。
図4Bは、第3実施形態に係る穿刺針2の正面図である。
図4Cは、第3実施形態に係る穿刺針2の底面図である。
図4Dは、第3実施形態に係る穿刺針2の背面図である。
図4Eは、第3実施形態に係る穿刺針2の斜視図である。
図5は、第3実施形態に係る穿刺針2を皮膚に穿刺したときの様子を示す模式的な断面図である(
図2対応図)。
【0054】
刃先部22は、本体部21の先端側(矢印D)に形成された部分であり、第1刃先面25と第2刃先面26を備えている。第1刃先面25は、
図4Aに示す側面視において、本体部21の中心軸線aに対して40度以上90度以下の角度θ1で傾斜している刃先面である。
【0055】
第2刃先面26は、第1刃先面25の刃先よりも先端側(矢印D)に設けられた刃先面である。第2刃先面26は、
図4Aに示す側面視において、本体部21の中心軸線aに対して20度以上40度未満の角度θ2で傾斜している。また、第2刃先面26は、
図4Bに示す正面視では、本体部21の中心軸線aに対して10度以上40度未満の角度θ3で傾斜している。
【0056】
第3実施形態においては、第1刃先面25にも、詳細には、第1刃先面25における先端側(矢印D)の面にも、本体部21に設けられた流路23と連通する薬液放出口である開口部として、開口部27が設けられている。開口部27の開口形状は、例えば台形であるが、制限されない。先端開口部24と開口部27とは、繋がっている。第1刃先面25にも開口部27が設けられていると、例えば、射出成形における型割や、切削加工が容易になり、第1側SD1における流路23の形成が容易である。
【0057】
次に、第3実施形態に係る穿刺針2を人体の皮膚に穿刺した場合の作用について、
図5を参照しながら説明する。
図2による説明が援用できる内容については、説明を省略又は簡略化する。
【0058】
図5に示すように、穿刺針2の第2刃先面26の先端開口部24が皮内組織INの目的領域に達した後、薬液の投与を行うと、薬液LMは、第1刃先面25の開口部27からも吐出されようとする。しかし、第1刃先面25の開口部27は、比較的に大きな力で押されて皮内組織INに覆われる。これに対して、第2刃先面26の先端開口部24は、皮内組織INに塞がれにくい。そのため、薬液LMの多くは、第1刃先面25の開口部27から実質的に吐出されずに、第2刃先面26の先端開口部24に向かい、先端開口部24から吐出される。
【0059】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態として、本発明に係る投与デバイスの第1の構成について説明する。第4実施形態に係る投与デバイス1は、上記実施形態の穿刺針2が装着されるワンアクション機構を有する装置である。第4実施形態の投与デバイス1では、一例として、第1実施形態の穿刺針2を使用する例について説明する。また、第4実施形態に示す各図面では、穿刺針2の先端形状を簡略化して図示している。
【0060】
ここで、以下に説明する
図7~
図10Eに付した方向を改めて記載すると、矢印Fは前方向、矢印Bは後方向を示す。矢印Lは左方向、矢印Rは右方向を示す。矢印Uは上方向、矢印Dは下方向を示す。後述する第5実施形の
図11~
図14Hについても同様である。また、本明細書では、便宜上、各部の配置等について上記各方向を用いて説明するが、投与デバイス1を使用する際の姿勢は、特定の姿勢に限定されない。すなわち、投与デバイス1は、下方向Dに向けて使用するものとして説明されるが、例えば、上方向Uに向けて使用することもできる。後述する第5実施形態の投与デバイスについても同様である。
【0061】
図6は、第4実施形態に係る投与デバイス1の外観斜視図である。
図7は、投与デバイス1の分解斜視図である。
図8は、投与デバイス1の分解断面斜視図である。
図9Aは、
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面斜視図であり、初期状態を示す。
図9Bは、
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面斜視図であり、カートリッジが針と一体となったエンゲージ状態を示す。
【0062】
図6~
図9Bに示す投与デバイス1は、表皮と真皮の間、すなわち皮内組織IN(
図10Dなど参照)に薬液LMを投与する皮内注射器である。具体的に、投与デバイス1は、穿刺針2、カートリッジ3、下ケース4、中ケース5と、スプリング6、針ベース7と、固定解除機構8、上ケース9、ヘッドカバー10、報知機構50等を備えている。
【0063】
穿刺針2は、長手方向が上方向U及び下方向D(上下方向)に沿うように配置されている。穿刺針2の上方向Uの側がカートリッジ3のシール32に突き刺さることでシール32を破った後、穿刺針2の下方向Dの側は、皮内組織IN(
図10Dなど参照)に穿刺される。これにより、穿刺針2は、カートリッジ3に収容されている薬液LMが皮内組織INに投与される際に、薬液LMの流路になる。穿刺針2は、穿刺時以外のときには、下ケース4に格納されており、初期状態において、針ベース7に支持されていることでカートリッジ3から離れた位置に固定されている。その固定が解除されることで、穿刺針2は、針ベース7と一体に下方向Dに移動可能になる。
【0064】
カートリッジ3は、穿刺針2を介して皮内組織INに投与される薬液LMが収容されているプレフィルド式のものである。カートリッジ3は、薬液LMを密閉保存して劣化を防いでいる。カートリッジ3は、カートリッジ本体31と、シール32と、ピストン33と、を有している。使用時にシール32に穿刺針2が突き刺さることで、薬液LMの使用が可能になる。カートリッジ3は、中ケース5に格納されている。カートリッジ3は、下ケース4と中ケース5との間に介在するコイル状のスプリング6によって所定の位置に維持されるように、中ケース5と一体に下ケース4に格納されている。カートリッジ3は、ヘッドカバー10の押し部材11に下方向Dへの力が付与されることで、スプリング6の反力に抗して中ケース5と一体に下方向Dに移動する。カートリッジ3は、当該力の付与が解除されることで、スプリング6の伸長に伴って(つまり、スプリング6の反力により)、中ケース5と一体に上方向Uに移動する。
【0065】
第4実施形態に係る投与デバイス1において、上述したカートリッジ3、下ケース4、中ケース5、スプリング6、針ベース7、上ケース9、ヘッドカバー10等は、穿刺針2による皮膚への穿刺及び薬液の投与を一動作により完了させるワンアクション機構を構成する。第4実施形態に係る投与デバイス1は、このワンアクション機構及びこのワンアクション機構に直接的又は間接的に関与する各機構を備えるため、穿刺針2による皮膚への穿刺及び薬液の投与という一連の動作を、ヘッドカバー10(押し部材11)を下方向Dに押し込むというワンアクションで行うことができる。
【0066】
カートリッジ本体31は、上方向U及び下方向Dの両端が開口しているシリンダーであり、特に限定されないが、透明の素材で構成されていてもよい。この「透明」は、透明又は半透明であってもよく、具体的には透明度が高いものであってもよく、プラスチック素材などのような、ガラスよりも透明度の低いもの(透明のポリプロピレンなど)であってもよい。カートリッジ本体31は、収容されている薬液LMの劣化防止のために、有色の(着色された)透明の容器(例えば、色付きバイアル瓶)でもよい。カートリッジ本体31は、薬液LMを収容している。カートリッジ本体31の下方向Dの端部はシール32で塞がれている。カートリッジ本体31の上方向Uの端部に、ピストン33が嵌め込まれている。シール32は、穿刺針2が突き刺さることで破られる。ピストン33は、シール32が破られた後に、下方向Dに所定以上の力が付与された場合に、カートリッジ本体31に対して下方向Dに移動し、これによって、穿刺針2を介して薬液LMを押し出す。すなわち、ピストン33は、シール32が破られた後に、下方向Dに力が付与されている場合であっても、スプリング6の反力に抗してカートリッジ本体31が下方向Dに移動可能であるならば、カートリッジ本体31に対して下方向Dに相対移動せずに、カートリッジ本体31と一体に下方向Dに移動する。
【0067】
下ケース4は、投与デバイス1における下方の筐体であり、左右一対の部材4A,4Bが互いに連結されることで、略筒状に構成されている。本実施形態では、左右一対の部材4A,4Bが互いに連結されて、下ケース4が構成されているが、これに制限されない。下ケース4は、一体成形などにより、一体的に構成されていてもよい。下ケース4の下端部45(第1端部)は開口している。下ケース4には、穿刺針2、カートリッジ3等が下方向D及び上方向Uに移動可能に格納されている。下方向Dへの力が付与されたカートリッジ3が穿刺針2と一体に下方向Dに移動されることで、下ケース4の下端部45から穿刺針2が進出し、穿刺針2が皮内組織INに穿刺可能となる。詳細には、カートリッジ3を保持している中ケース5と、穿刺針2とが一体化することにより、カートリッジ3と穿刺針2とが一体化する。
【0068】
下ケース4の内面には、スプリング6を支持するフランジ41が形成されている。下ケース4の内面には、フランジ41の下方向Dで且つ左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、固定解除機構8を構成する対の凹部42が形成されている。下ケース4の下端部45には、内面の側に、下方向Dに移動した針ベース7が突き当たるフランジ43が形成されている。下ケース4の外面には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、上ケース9からの脱落を防止すると共に上ケース9に対する下方向D及び上方向Uへの移動を可能にする突条部44が形成されている。突条部44は、上下方向に沿って延びており、上ケース9の溝94の内側に配置される。
【0069】
中ケース5は、略筒状に構成されている。中ケース5には、カートリッジ3が格納されていると共に、カートリッジ3と一体に下ケース4に格納されている。中ケース5の側面には、左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、カートリッジ3に収容されている薬液LMを視認するための対の窓51が形成されている。中ケース5の外面には、対の窓51の上方向Uに、スプリング6を支持するフランジ52が形成されている。中ケース5の外面には、対の窓51の下方向Dで且つ左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、固定解除機構8を構成する対の孔53が形成されている。それぞれの孔53の下方向Dの側には、凹み56がそれぞれ設けられている。孔53と凹み56とは上下方向に隣接している。
【0070】
中ケース5のフランジ52には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、報知機構50を構成する対の鳴り板54が、上方向Uに延びるように形成されている。前方向Fの側の鳴り板54には、その前方向Fの側に、報知機構50を構成する爪55が形成されている。後方向Bの側の鳴り板54には、その後方向Bの側に、報知機構50を構成する爪55が形成されている。
【0071】
スプリング6は、カートリッジ3と下ケース4との間に反力を発生させるように介在し、カートリッジ3が穿刺針2と一体に下方向Dに移動する際に、下ケース4の皮膚SK(
図10Dなど参照)への押付け力を制御する。スプリング6は、カートリッジ3に対して下方向Dに付与されていた力が解除されることで、穿刺針2と一体にカートリッジ3を上方向Uに移動させる。具体的に、スプリング6は、カートリッジ3を格納している中ケース5のフランジ52と、下ケース4のフランジ41との間に介在している。スプリング6は、カートリッジ3を格納している中ケース5が下ケース4に対して移動することに伴って、伸縮する。
【0072】
針ベース7は、下ケース4に格納されており、初期状態においてカートリッジ3から離れた位置に穿刺針2を支持している。針ベース7は、下ケース4に対する固定がなされており、固定解除機構8によって固定が解除されることで、穿刺針2と一体に下方向D及び上方向Uに移動可能になる。具体的に、針ベース7は、ベース本体71と、対のガイド片72と、対の爪73と、を有している。ベース本体71は、穿刺針2と直交する方向に延びるプレートであり、穿刺針2を貫通させていると共に支持している。対のガイド片72は、それぞれ、ベース本体71における前方向F及び後方向Bの双方の側の端縁から上方向Uに延びているプレートであり、下ケース4に対する針ベース7の移動をガイドする。
【0073】
対の爪73は、固定解除機構8を構成している。これら対の爪73は、それぞれ、ベース本体71における左方向L及び右方向Rの双方の側の端縁から互いにわずかに近付くように上方向Uに延びており、上方向Uの端部に第1爪頭73a及び第2爪頭73bを有している。対の第1爪頭73aは、それぞれ、左右方向の外側に凸となる形状を有している。対の第2爪頭73bは、それぞれ、左右方向の内側に凸となる形状を有している。
【0074】
固定解除機構8は、下方向Dに移動したカートリッジ3が穿刺針2と一体となった後に、下ケース4に対する針ベース7の固定を解除する。具体的に、固定解除機構8は、下ケース4の対の凹部42と、中ケース5の対の孔53と、針ベース7の対の爪73と、から構成されている。針ベース7の対の爪73は、それぞれ、初期状態において、対の第2爪頭73bが中ケース5の凹み56に外側に押されることで、外側に撓んでいる。また、対の第1爪頭73aの各々は、下ケース4の対の凹部42に嵌まり込んでいる。これにより、下ケース4に対する針ベース7の固定が行われている。針ベース7の対の爪73は、それぞれ、中ケース5が下方向Dに移動して中ケース5の対の孔53が対の第2爪頭73bに対向する位置に到達することで、外側への撓みが解除される。そして、対の第2爪頭73bが中ケース5の対の孔53に嵌まり込むと共に、対の第1爪頭73aは、下ケース4の対の凹部42から脱出する。これにより、下ケース4に対する針ベース7の固定が解除される。
【0075】
上ケース9は、投与デバイス1における上方の筐体であり、前後一対の部材9A,9Bが互いに連結されることで、略筒状に構成されている。なお、本実施形態では、前後一対の部材9A,9Bが互いに連結されて、上ケース9が構成されているが、これに制限されない。上ケース9は、一体成形などにより、一体的に構成されていてもよい。上ケース9の側面には、左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、カートリッジ3に収容されている薬液LMを視認するための対の窓91が形成されている。上ケース9の側面には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、報知機構50を構成する対の孔92が形成されている。
【0076】
上ケース9の上端部には、天面93が形成されている。天面93には、ヘッドカバー10の押し部材11が挿通される貫通孔93aが形成されている。上ケース9の内面には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、溝94が形成されている。溝94は、下ケース4の突条部44と連係することで、下ケース4からの脱落を防止すると共に下ケース4に対する下方向D及び上方向Uの移動を可能にする。
【0077】
ヘッドカバー10は、上ケース9の上端部を覆うカバーであり、上ケース9に固定されている。ヘッドカバー10の内側には、押し部材11が設けられている。押し部材11は、上ケース9の貫通孔93aに挿通されており、また、カートリッジ3のピストン33に到達する長さを有する棒状の部材である。押し部材11は、操作者に押されて下方向Dに移動することでカートリッジ3に下方向Dの力を付与する。
【0078】
報知機構50は、薬液LMの投与の完了時に噛み合うことで操作者に伝達される音及び力を発生させて、薬液LMの投与の完了を操作者に報知する。具体的に、報知機構50は、中ケース5の対の鳴り板54と、中ケース5の対の爪55と、上ケース9の対の孔92と、から構成されている。中ケース5の対の鳴り板54は、それぞれ、初期状態において、対の爪55が上ケース9の内面に触れることで、内側に撓んでいる。中ケース5の対の鳴り板54は、それぞれ、中ケース5が上方向Uに移動して中ケース5の対の爪55が上ケース9の対の孔92に対応する位置に到達することで、内側への撓みが解除され、外側へ一気に変形する。そして、対の爪55が上ケース9の対の孔92に入り込むと共に、鳴り板54は上ケース9の内面を叩く。これにより、操作者に伝達される音及び力が発生する。
【0079】
次に、
図9A、
図9B、
図10A~
図10Eを用いて、操作者による投与デバイス1の操作について説明する。
図10Aは、
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、初期状態を示す。
図10Bは、
図6の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、カートリッジ3が穿刺針2と一体となったエンゲージ状態を示す。
図10Cは、
図1の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の開始時の状態を示す。
図10Dは、
図1の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の完了時の状態を示す。
図10Eは、
図1の矢印S2-S2方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の完了後、穿刺針2が下ケース4に格納された状態を示す。
【0080】
まず、
図9A及び
図10Aに示すように、針ベース7の爪73の第1爪頭73aが下ケース4の凹部42に嵌まり込んでおり、下ケース4に対する針ベース7(及び穿刺針2)の固定が行われている状態において、操作者が下ケース4の下端部45を皮膚SKに突き当てる。その後、操作者がヘッドカバー10を下方向Dに押す。これにより、押し部材11を介して、カートリッジ3に下方向Dの力が付与され、延いては、中ケース5にも下方向Dの力が付与され、中ケース5が下方向Dへ移動する。その結果、中ケース5のフランジ52と下ケース4のフランジ41との間に介在しているスプリング6が収縮する(これにより、スプリング6の反力が増加する)。そのため、下ケース4は、スプリング6の反力に抗して下方向Dに移動する。下ケース4の開口した下端部45に押されて、皮膚SKは膨らむ(膨らんだ状態は、
図10Bに示される)。
【0081】
そして、
図9B及び
図10Bに示すように、穿刺針2がカートリッジ3のシール32に突き刺さる。シール32に穿刺針2が突き刺さるタイミングは、第4実施形態に係る投与デバイス1では、ヘッドカバー10の押し部材11の押し込みストローク(押し込み量、押し込み深さ)で制御されているため、操作者に依らず一定のタイミングとなる。また、固定解除機構8は、下ケース4に対する針ベース7の固定を解除する。固定解除機構8による固定解除の動作は、第4実施形態に係る投与デバイス1では、ヘッドカバー10の押し部材11の押し込みストローク(押し込み量、押し込み深さ)で制御されている。詳細には、ヘッドカバー10の押し部材11の押し込みに伴って中ケース5が下方向Dに移動し、そのため、爪73の第2爪頭73bの位置は、中ケース5の凹み56に対向する位置から、中ケース5の孔53に対向する位置に移動する。そして、第2爪頭73bは孔53に入り込む。これにより、爪73は内側に向けて変形し、爪73の第1爪頭73aは、下ケース4の凹部42から脱出する。このようにして、下ケース4に対する針ベース7の固定は解除される。そして、穿刺針2及びカートリッジ3が一体に下方向Dに移動可能になる。
【0082】
また、薬液LMの投与後に、穿刺針2、カートリッジ3、中ケース5及び上ケース9が一体に、上方向Uに移動する(後退する)ことが可能となる。なお、仮に、固定解除機構8による固定解除の動作がヘッドカバー10の押し部材11の押し込み力で制御されている場合、押し込み(操作)スピードや部材の寸法などのバラツキによって、固定解除機構8による固定解除のタイミングが変動し、結果的に皮膚SKへの押し付け力も変動してしまう可能性がある。
【0083】
図10Cに示すように、操作者がヘッドカバー10を更に下方向Dに押した時点で、穿刺針2は、下端部45の外部に(下方向Dへ)進出し、皮内組織INに穿刺されると共に、針ベース7が下ケース4のフランジ43に突き当たる。これにより、薬液LMが投与可能になる。ここで、カートリッジ3と下ケース4との摩擦力は、カートリッジ3に収容(充填)されている薬液LMに抗してピストン33を下方向Dに動かすのに必要な力よりも、小さい。そのため、穿刺針2及びカートリッジ3の一体移動中には、薬液LMは、穿刺針2の針先から漏れ出さない。その後、操作者がヘッドカバー10を更に下方向Dに押すことで、ピストン33がカートリッジ本体31に対して下方向Dに移動し、穿刺針2を介して薬液LMが押し出される。
【0084】
図10Dに示すように、操作者がヘッドカバー10を更に下方向Dに押した時点で、薬液LMの投与が完了する。ここで、カートリッジ3に収容されている薬液LMを穿刺針2から排出して皮内組織IN内に投与する過程(薬液LMの投与が完了するまで)において、中ケース5のフランジ52と下ケース4のフランジ41との間に介在しているスプリング6が縮み切る(コイル線状部材が突き当たり、変形できなくなる)ことは無いため、スプリング6は、反力の発生を継続している。また、報知機構50が薬液LMの投与の完了を操作者に報知する。詳細には、中ケース5の爪55が上ケース9の孔92に対応する位置に到達することで、爪55が上ケース9の孔92に入り込む(穿刺針2と一体になっているカートリッジ3及び中ケース5の移動が規制された状態となり、更には、上ケース9の移動も規制された状態となる)。
【0085】
このような移動の規制により、薬液LMの投与後に、穿刺針2、カートリッジ3、中ケース5及び上ケース9が一体に、上方向Uに移動する(後退する)ことを可能としている。また、鳴り板54は上ケース9の内面を叩き、操作者に伝達される音及び力は発生する。これにより、操作者は、薬液LMの投与の完了を確認できる。その後、操作者がヘッドカバー10を押す動作を止める。
【0086】
操作者がヘッドカバー10を押す動作を止めたことで、スプリング6は、伸長し、
図10Eに示すように、下ケース4に対して相対的に、穿刺針2、カートリッジ3、中ケース5、針ベース7、上ケース9及びヘッドカバー10が一体に上方向Uに移動する(後退する)。これにより、穿刺針2が下ケース4に格納される。
【0087】
第4実施形態に係る投与デバイス1によれば、例えば以下の効果が奏される。第4実施形態に係る投与デバイス1は、生体(皮内組織IN)内に穿刺される穿刺針2と、穿刺針2を介して生体内に投与される薬液LMを収容可能なカートリッジ3と、皮膚SKに押し付けられる第1端部(下端部45)が又は開口可能であると共に、穿刺針2及びカートリッジ3が下端部45側に移動可能に格納されており、穿刺針2が第1端部側に移動されることで第1端部の外部に穿刺針2が進出可能なケース(下ケース4)と、カートリッジ3と下ケース4との間に反力を発生させるように介在し、穿刺針2が第1端部側に移動する際に、皮膚SKへの下ケース4の押付け力を制御する押付け力制御部材(スプリング6)と、を備えている。カートリッジ3に収容されている薬液LMを穿刺針2から排出して生体(皮内組織IN)内に投与する過程において、スプリング6は、前記反力の発生を継続可能である。
【0088】
そのため、第4実施形態に係る投与デバイス1によれば、押付け力制御部材であるスプリング6は、カートリッジ3と下ケース4との間に反力を発生させるように介在し、皮膚SKへの下ケース4の押付け力を制御する。しかも、カートリッジ3に収容されている薬液LMを穿刺針2から排出して生体内(皮内組織IN内)に投与する過程において、スプリング6は、反力の発生を継続可能である。そのため、皮膚SKへの下ケース4の押付け力を略一定に制御することができ、その結果、穿刺針2の穿刺深さを容易に略一定にできる。
【0089】
仮に、針を単純に皮膚SKに押し付けた場合、針が生体内(皮内組織IN内)に穿刺される前に皮膚SKが凹むので、穿刺針2の穿刺深さが浅くなる。一方、第4実施形態に係る投与デバイス1によれば、皮膚SKに押し付けられる下ケース4の下端部45が開口しているので、下ケース4が皮膚SKに押し付けられることで、皮膚SKをドーム状に盛り上げてから、穿刺針2を皮膚SKに押し付けることができる。これにより、皮膚の表面から1mm~2mm程度の深さの位置に穿刺針2を容易に穿刺できる。すなわち、投与デバイス1によれば、マントー法のような複雑な操作がないので、特別な訓練を受けていない者であっても、穿刺針2の穿刺深さを容易に略一定にできる。
【0090】
従来の投与デバイスでは、看護師などの操作者がバイアルから薬液を吸い上げてから、薬液を投与する形式のものが主流であるが、その作業は煩雑である。そこで、薬液が予め収容されているプレフィルド式のものを採用することが考えられる。しかし、プレフィルド式のものでは、薬液を密閉保存して劣化を防ぐことが重要となる。一方、第4実施形態に係る投与デバイス1によれば、薬液LMが予め収容されているプレフィルド式のカートリッジ3を採用しているので、薬液LMを酸化や汚染等から保護し、清潔状態を保つことができる。
【0091】
第4実施形態においては、薬液LMの投与後に、穿刺針2、カートリッジ3、中ケース5及び上ケース9が一体に、上方向Uに移動する(後退する)ことが可能である。スプリング6は、カートリッジ3に対して下端部45側へ付与されていた力が解除されることで、穿刺針2と一体にカートリッジ3を、下端部45とは反対側に移動させる。
【0092】
これによれば、薬液LMの投与の完了後、カートリッジ3に対して下端部45側(下方向D)へ付与されていた力が解除されることで、スプリング6が穿刺針2を下端部45側とは反対側(上方向U)に移動させ、穿刺針2が下ケース4に格納される。そのため、使用後の針刺し事故を防止できる。
【0093】
第4実施形態においては、穿刺針2と一体になっているカートリッジ3の移動が薬液LMの投与の完了後に規制された状態において、スプリング6は、下ケース4を第1端部(下端部45)側に移動させる。
【0094】
仮に、穿刺針2と一体になっているカートリッジ3の移動が薬液LMの投与の完了後に規制されないと、スプリング6が伸長しようとする力が十分に大きくないと、穿刺針2が下ケース4内へと移動せず、穿刺針2の針先は下ケース4に隠れない。第4実施形態においては、穿刺針2と一体になっているカートリッジ3の移動が薬液LMの投与の完了後に規制された状態において、スプリング6は、下ケース4を第1端部(下端部45)側に移動させる。そのため、スプリング6の伸長力が小さくても、穿刺針2は下ケース4内へ移動でき、穿刺針2の針先をより確実に下ケース4内に隠すことができる。
【0095】
第4実施形態に係る投与デバイス1は、薬液LMの投与の完了時に噛み合うことで操作者に伝達される音又は力を発生させて、薬液LMの投与の完了を操作者に報知する報知機構50を備えている。
【0096】
そのため、操作者は、目視ではなく、音又は触感によって薬液の投与の完了を確認することができ、作業性が高い。特に、ワクチンが全量投与されるかどうかは薬液の効果を十分に発揮させるために重要であり、これにより操作者が全量投与しないまま投与を中断してしまうことを抑止できる。
【0097】
第4実施形態に係る投与デバイス1は、初期状態においてカートリッジ3から離れている位置に穿刺針2を支持していると共に、下ケース4に対する固定がなされている。投与デバイス1は、前記固定が解除されることで穿刺針2と一体に下端部45側に移動可能になる針ベース7と、下端部45側に移動したカートリッジ3が穿刺針2と一体となった後に前記固定を解除する固定解除機構8と、を備えている。
【0098】
ところで、薬液が予め収容されているプレフィルド式のものとして、例えば、薬室と針を一体にしたものや、使用時に薬室に針を取り付けるものが挙げられる。薬室と針を一体にしたものでは、針先にキャップを装着しておく必要があるため、針先の劣化に伴う穿刺時の痛みの増大が問題となる。使用時に薬室に針を取り付けるものでは、針を取り付ける手間や、針の取付け作業時の操作者による失敗(ヒューマンエラー)が問題となる。一方、本実施形態に係る投与デバイス1によれば、自動的に穿刺針2とカートリッジ3とが一体となり、薬液LMの投与が可能となるので、穿刺針2を取り付ける手間は生じず、操作者による失敗は発生しない。
【0099】
第4実施形態に係る投与デバイス1は、操作者に押されて下端部45側に移動することでカートリッジ3に下端部45側への力を付与する押し部材11を備える。カートリッジ3は、薬液LMが収容されているカートリッジ本体31と、押し部材11に押されてカートリッジ本体31に対して下端部45側に移動することで、穿刺針2を介して薬液LMを押し出すピストン33と、を備えている。
【0100】
そのため、操作者は、穿刺針2とカートリッジ3との一体化、生体内(皮内組織IN内)への穿刺針2の穿刺、薬液LMの投与等の一連の動作を、押し部材11を下端部45側に押すというワンアクションで行うことが可能であり、操作が容易である。
【0101】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態として、本発明に係る投与デバイスの第2の構成について説明する。第5実施形態に係る投与デバイス100は、上記実施形態の穿刺針2が装着される2アクション機構を有する装置である。第5実施形態の投与デバイス100では、一例として、第1実施形態の穿刺針2を使用する例について説明するが、第2又は第3実施形態の穿刺針2を使用してもよい。また、第5実施形態に示す各図面では、穿刺針2の先端形状を簡略化して図示している。
【0102】
図11は、第5実施形態に係る投与デバイス100の外観斜視図である。
図12は、
図11に示す投与デバイス100の分解斜視図である。
図13Aは、
図12の矢印S4-S4方向に視た下ケース140の断面図である。
図13Bは、
図12の矢印S5-S5方向に視た外ケース190の断面図である。
【0103】
第5実施形態に係る投与デバイス100は、スプリング160の反力により穿刺針2を皮膚に向けて射出させる点が第4実施形態と相違する。第5実施形態に係る投与デバイス100において、その他の基本的な構成は、第4実施形態とほぼ同じである。そのため、第5実施形態の説明においては、主に第4実施形態との相違点について説明する。また、第4実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾(下2桁)に同一の符号を適宜に付して、重複する説明を適宜に省略する。
【0104】
図11及び
図12に示すように、投与デバイス100は、穿刺針2(後述の
図14A等参照)、カートリッジ130、下ケース140、中ケース150、スプリング160、針ベース170、プランジャー180、外ケース190等を備えている。カートリッジ130は、薬液が収容される容器である。カートリッジ130は、カートリッジ本体131、シール132、ピストン133を備えている。カートリッジ130のピストン133は、カートリッジ本体131の略中間に嵌め込まれており、上方向Uの端部が内側に窪んでいる。この窪んだ部分には、プランジャー180(後述)の押し部材182が当接する。
【0105】
下ケース140は、被投与者の皮膚に触れる部品である。下ケース140は、投与デバイス100の下方の筐体として、略筒状に構成されている。下ケース140には、カートリッジ130、中ケース150、針ベース170が格納される。上記各部は、下ケース140において、下方向D及び上方向Uに移動可能に格納される。
図12に示すように、下ケース140は、対の凹部141を備えている。対の凹部141は、針ベース170(後述)の第1爪頭173aと係合する部分であり、左右方向に開口している。対の凹部141は、固定解除機構(後述)を構成しており、下ケース140の左方向L及び右方向Rの双方の側に形成されている。また、
図13Aに示すように、下ケース140は、対のガイド爪142、穿刺孔143を備えている。対のガイド爪142は、下ケース140に対する外ケース190の移動をガイドする部分であり、下ケース140の前方向F及び後方向Bの双方の側に形成されている。穿刺孔143は、穿刺時に穿刺針2が貫通する開口である。
【0106】
中ケース150は、カートリッジ130を保持する部品である。中ケース150は、カートリッジ130が格納された状態で、針ベース170と一体に下ケース140に格納される。カートリッジ130に格納された中ケース150が針ベース170と嵌合すると、カートリッジ130に穿刺針2の後端が突き刺さり、薬液の投与が可能となる。中ケース150は、対の窓151、対の溝152、対の凹み153を備えている。対の窓151は、カートリッジ130に収容されている薬液を視認するための左右方向に貫通する開口である。対の溝152は、針ベース170の対の凸部172a(後述)と係合する部分であり、下方向Dに向けて開口している。対の溝152は、前後方向の内側に凹む有底の溝である。対の凹み153は、針ベース170の対の第2爪頭173bと係合する部分である。なお、
図12では、対の窓151、対の溝152、対の凹み153の一方のみを図示している。
【0107】
スプリング160は、針ベース170と外ケース190との間に反力を発生させるバネ部材である。スプリング160は、針ベース170と外ケース190との間に介在している。スプリング160は、針ベース170が下ケース140に固定された状態で、外ケース190が下方向Dに押圧されることにより、収縮した状態となる。また、収縮したスプリング160は、下ケース140に対する針ベース170の固定が解除されると、スプリング160の伸長により反力を発生させて、カートリッジ130と一体化した針ベース170を下方向Dに射出する。
【0108】
針ベース170は、穿刺針2を支持する部品であり、スプリング160の反力により、穿刺針2と共に下方向Dに射出される。針ベース170は、中ケース150と共に、下ケース140に格納される。針ベース170は、穿刺前においては、下ケース140に固定されている。針ベース170は、固定解除機構(後述)により固定が解除されることで、穿刺針2と一体に下方向Dに移動可能となる。針ベース170は、ベース本体171、対のガイド片172、対の爪173を備えている。なお、針ベース170において、穿刺針2を支持する構成は、第4実施形態(
図8参照)とほぼ同じであるため、図示と説明を省略する。
【0109】
ベース本体171は、穿刺針2の長手方向と直交する方向に延在する略プレート状の部分である。ベース本体171には、穿刺針2が貫通した状態で支持されている。対のガイド片172は、それぞれベース本体171の前方向F及び後方向Bの双方の側の端縁から、上方向Uに延びた略円弧状のプレートである。対のガイド片172の上面には、スプリング160の下方向Dの端部が当接する。ガイド片172の内側には、対の凸部172aが形成されている。対の凸部172aは、前後方向の内側に突出し、中ケース150の対の溝152と係合する突起である。
【0110】
対の爪173は、固定解除機構(後述)を構成している。対の爪173は、それぞれベース本体171の左方向L及び右方向Rの双方の側の端縁から、互いにわずかに近付くように上方向Uに延びている。対の爪173は、それぞれ上方向Uの端部に、第1爪頭173a及び第2爪頭173bを備えている。対の第1爪頭173aは、それぞれ左右方向の外側に凸になる形状を有している。対の第2爪頭173bは、それぞれ左右方向の内側に凸となる形状を有している。
【0111】
第5実施形態に係る投与デバイス100において、上述したカートリッジ130、中ケース150、スプリング160、針ベース170、プランジャー180、外ケース190等は、穿刺針2による皮膚への穿刺及び薬液の投与を2動作により完了させる2アクション機構を構成する。第5実施形態に係る投与デバイス100は、この2アクション機構及びこの2アクション機構に直接的又は間接的に関与する各機構を備えるため、穿刺針2による皮膚への穿刺及び薬液の投与という一連の動作を、外ケース190を下方向Dに押した後、プランジャー180を下方向Dに押すという2アクションで行うことができる。
【0112】
固定解除機構は、下方向Dに移動した外ケース190により、中ケース150と針ベース170とが一体となった後、下ケース4に対する針ベース170の固定を解除する機構である。具体的には、固定解除機構は、下ケース140の対の凹部141と、中ケース150の対の窓151と、針ベース170の対の爪173と、から構成されている。針ベース170の対の爪173は、それぞれ、初期状態において、対の第2爪頭173bが中ケース150の凹み153に押されて、外側に撓んでいる。針ベース170の対の爪173は、中ケース150が下方向Dに移動して、中ケース150の対の窓151と対向する位置に到達すると、対の第2爪頭173bが中ケース150の対の窓151に嵌り込む。これにより、針ベース170の対の爪173の外側への撓みが解除され、対の爪173は、内側に向けて変形する。そして、対の第1爪頭173aと下ケース140の対の凹部141との係合が解除される。これにより、下ケース140に対する針ベース170の固定が解除される。
【0113】
プランジャー180は、薬剤を注入するための部材であり、側面視で略T字形に形成されている。プランジャー180は、プランジャー本体181と、押し部材182と、から構成されている。プランジャー本体181は、薬剤を注入する際に操作者が指等で押圧する部分である。押し部材182は、操作者の押圧力を、カートリッジ130のピストン133に伝達する部分であり、外ケース190(後述)の貫通孔193aに挿入される。本実施形態において、プランジャー本体181と、押し部材182とは、一体に形成されている。
【0114】
外ケース190は、穿刺時に操作者が把持する部品である。外ケース190は、投与デバイス100の上方の筐体として、略筒状に構成されている。
図12及び
図13Bに示すように、外ケース190は、対の窓191、対の溝192、天面部193等を備えている。対の窓191は、カートリッジ130に収容されている薬液を視認するための左右方向に貫通する開口である。対の溝192は、下ケース140の対のガイド爪142と係合する部分であり、外ケース190の上下方向に沿って延びるように形成されている。
【0115】
図12及び
図13Bに示すように、対の溝192は、前後方向の外側に凹む有底の溝であり、外ケース190の前方向F及び後方向Bの双方の側に形成されている。投与デバイス100の組み立て時に、カートリッジ130、中ケース150、スプリング160を格納した下ケース140に外ケース190を外挿して、下ケース140の対のガイド爪142と外ケース190の対の溝192とを係合させることにより、移動方向を上下方向に制限しつつ、下ケース140に対して外ケース190を上下方向に移動させることができる。なお、対の溝192の下方向Dの端部は閉じているため、下ケース140の対のガイド爪142と外ケース190の対の溝192とを係合させた後は、下ケース140からの外ケース190の抜けが防止される。
【0116】
天面部193は、外ケース190の上端部を覆う部分であり、中央に貫通孔193aが形成されている。貫通孔193aは、プランジャー180の押し部材182が挿入される開口である。
図13Bに示すように、天面部193の裏面側には、環状の溝部193bが形成されている。環状の溝部193bは、上方向Uに凹む有底の溝であり、スプリング160の上方向Uの端部が当接する部分である。
【0117】
上記各部により構成される投与デバイス100は、例えば、以下の手順により組み立てることができる。まず、中ケース150にカートリッジ130を挿入し、カートリッジ130の先端が中ケース150の先端と一致する位置までカートリッジ130を押し込む。次に、カートリッジ130が格納された中ケース150の先端を、針ベース170に嵌め込む。このとき、針ベース170の対の第2爪頭173bと中ケース150の対の凹み153とを係合させる。また、針ベース170の対の凸部172a(ガイド片172)と中ケース150の対の溝152を係合させる。
【0118】
次に、中ケース150と外ケース190との間にスプリング160を挿入し、下ケース140に向けて外ケース190を押し込む。下ケース140に向けて外ケース190を押し込み続けると、下ケース140の対のガイド爪142と外ケース190の対の溝192とが係合して、それに伴う係合音が発生する。この音が発生した時点で、外ケース190の押し込みを止める。以上の手順により、投与デバイス100(
図11参照)を組み立てることができる。
【0119】
次に、
図14A~
図14Hを用いて、操作者による投与デバイス100の操作について説明する。
図14Aは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、初期状態を示す。
図14Bは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、外ケース190の押し込み開始時の状態を示す。
図14Cは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、カートリッジ130が穿刺針2と一体となったエンゲージ状態を示す。
図14Dは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、固定解除機構による針ベース170の固定が解除された状態を示す。
図14Eは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、針ベース170が穿刺針2と共に射出された状態を示す。
図14Fは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、針ベース170の射出後、外ケース190を更に押し込んだ状態を示す。
図14Gは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、薬液LMの投与の開始時の状態を示す。
図14Hは、
図11の矢印S3-S3方向に視た投与デバイス100の断面図であり、薬液LMの投与の完了後、外ケース190が元の位置に復帰した状態を示す。
【0120】
まず、
図14Aに示すように、投与デバイス100の下ケース140を被投与者の皮膚SKと接触させる。次に、
図14Bに示すように、外ケース190を下方向Dに向けて押し込み、上下(U-D)方向において、中ケース150と外ケース190とを接触させる。更に外ケース190を押し込むと、
図14Cに示すように、中ケース150が外ケース190に押され、中ケース150の下端が針ベース170と接触する。この状態で、穿刺針2は、中ケース150に格納されたカートリッジ130のシール132に突き刺さるため、薬液LMの投与が可能な状態となる。また、針ベース170と外ケース190との間でスプリング160が収縮した状態となる。
【0121】
図14Cに示すように、中ケース150の下端が針ベース170と接触するまで外ケース190を押し込むと、対の爪173の対の第2爪頭173bの位置は、中ケース150の凹み153(
図14B参照)に対向する位置から、中ケース150の対の窓151に対向する位置に移動する。そして、
図14Dに示すように、対の第2爪頭173bは、中ケース150の対の窓151に嵌り込む。これにより、対の第2爪頭173bは、内側に向けて変形するため、対の第1爪頭173aが下ケース140の凹部141から外れた状態となり、下ケース140に対する針ベース170の固定が解除される。
【0122】
このようにして、下ケース140に対する針ベース170の固定が解除されると、
図14Eに示すように、伸長したスプリング160の反力により、カートリッジ130と一体化した針ベース170が下方向Dに向けて射出される。これにより、針ベース170に保持された穿刺針2の先端が皮内組織INに穿刺される。
【0123】
穿刺後、外ケース190を更に押し込むと、
図14Fに示すように、上下(U-D)方向において、中ケース150と外ケース190とが再接触する。外ケース190の押し込みは、この位置までとなる。外ケース190を
図14Fに示す位置まで押し込むと、カートリッジ130が格納された中ケース150は、針ベース170と共に、下ケース140と外ケース190との間に挟まれた状態となる。
【0124】
次に、
図14Gに示すように、操作者がプランジャー180を下方向Dに押し込むと、カートリッジ130のピストン133(
図12参照)がプランジャー180の押し部材182に押され、下方向Dに移動する。これにより、穿刺針2を介して薬液が押し出される。操作者により、プランジャー180が外ケース190と接する位置まで押し込まれると、薬液の投与が完了する。
【0125】
次に、操作者が外ケース190から手を離すと、
図14Hに示すように、伸長したスプリング160の反力により、外ケース190は、プランジャー180と共に上方向Uへ移動する。この後、操作者が投与デバイス100を被投与者の皮膚から引き離すことにより、穿刺と薬液の投与が完了する。
【0126】
上述した第5実施形態に係る投与デバイス100は、針ベース170と外ケース190との間に介在させたスプリング160の反力により、針ベース170を穿刺針2と共に下方向Dに射出する機構を備えている。本構成によれば、穿刺針2をスプリング160の反力により射出できるため、穿刺針2の穿刺速度を常にほぼ一定にできる。また、本構成によれば、穿刺針2がスプリング160の反力により瞬間的に射出されるため、穿刺により皮膚が粘弾性的に変形する前に、穿刺針2を皮膚に突き刺すことができる。したがって、第5実施形態に係る投与デバイス100によれば、操作者に依存することなく、常に安定した穿刺を行うことができる。
【0127】
また、第5実施形態に係る投与デバイス100によれば、穿刺針が瞬間的に射出されるため、金属に比べて剛性の低い樹脂製の穿刺針を、より確実に皮膚に突き刺すことができる。前述した第1~第3実施形態の穿刺針は、刃先に鋭利ではない刃先面を有するため、刃先が鋭利な刃先面のみで構成される穿刺針に比べて皮膚へ突き刺さりにくい場合がある。しかし、第5実施形態に係る投与デバイス100によれば、刃先に鋭利ではない刃先面を有する穿刺針を、より確実に皮膚に突き刺すことができる。
上述のように、第5実施形態に係る投与デバイス100は、薬液の注入深度をより適切に制御するという課題とは異なり、常に安定した穿刺ができるようにするという課題を解決するために、スプリングの反力を用いて穿刺針を射出する機構を備えている。
【実施例】
【0128】
次に、実施例1及び比較例1,2を示して、本発明に係る穿刺針を更に詳細に説明する。
(実施例1)
第1実施形態に係る穿刺針2(
図1A及び
図1B参照)と同じ形状の刃先面を有する穿刺針を樹脂により作製した。実施例1の穿刺針では、第1刃先面の角度(θ1)を50度とし、第2刃先面の角度(θ2)を35度とした。また、刃先部の長さを0.7mmとした。
【0129】
(比較例1)
刃先が鋭利な刃先面を有する穿刺針を樹脂により作製した。比較例1の穿刺針では、刃先面の角度を35度、刃先部の長さを0.7mmとした。
(比較例2)
刃先が鋭利な刃先面を有する穿刺針を金属により作製した。比較例2の穿刺針では、刃先面の角度を12度、刃先部の長さを0.9mmとした。
【0130】
上記3種の穿刺針を、第5実施形態の投与デバイス100と同じ構造の投与デバイスに装着し、薬液の注入深度について試験を行った。ベースとなる試験片として、人の皮膚に見立てた豚の皮膚(全体の厚み3~4mm、真皮層の厚み約2mm)を用意し、シリコンラバー(厚み1.5mm)の上に静置して、共通の試験片を作製した。この試験片の上に、穿刺針が針ベースの下端から1~2mm突出するように保持させた投与デバイスを設置して、穿刺針の穿刺と、薬液に見立てた試験液の投与を行った。試験液としては、薬液の注入深度が視認できるように、青色に着色した溶液(0.1ml共通)を用いた。試験液の投与後、試験片の断面を観察し、試験液の注入深度を測定した。
【0131】
実施例1の各穿刺針は、いずれも薬液の注入深度が1~2mmとなり、すべて真皮内に試験液が注入されていることが確認された。比較例1,2は、いずれも薬液の注入深度が2~3mmとなり、真皮より下層にも試験液が注入されていることが確認された。
【0132】
以上の結果から、実施例1の各穿刺針は、いずれも針ベースから突出した針先の長さに対して薬液の注入深度の変化が少ないことが確認された。実施例1の各穿刺針は、本体部の中心軸線に対して40度以上90度以下の角度で傾斜する刃先面を備えているため、試験液の投与時に、投与デバイスの押圧力が低減され、薬液の注入深度の変化が抑制されたためと考えられる。
【0133】
一方、比較例1,2の各穿刺針は、針ベースから突出した針先の長さに対して薬液の注入深度の変化が大きいことが確認された。比較例1,2の各穿刺針は、刃先が鋭利な刃先面のみを有するため、試験液の投与時に、投与デバイスの押圧力により、刃先がより深く試験片に進入してしまい、薬液の注入深度の変化が抑制できなかったためと考えられる。
【0134】
なお、上述した実施例及び比較例では、スプリングの反力を用いて穿刺針を射出する機構を有する投与デバイスで試験を行ったが、実施例1の各穿刺針は、第4実施形態の投与デバイス1のほか、スプリングの反力を用いて穿刺針を射出したり、押圧したりする機構を備えていない一般的なワンアクション機構を有する投与デバイスで試験を行った場合においても、上記作用を奏すると考えられるため、同様の結果が期待できる。
【0135】
(変形形態)
本発明に係る穿刺針及び投与デバイスは、上記各実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は、すべて本発明の技術的範囲に含まれる。特に阻害事由が無い限り、各実施形態の構成を適宜に組み合わせることができる。
【0136】
第1及び第2実施形態に係る穿刺針2において、第1刃先面25にも開口部27を設けた構成としてもよい。穿刺針2において、刃先部22を、3つ以上の刃先面を備えた構成としてもよい。その場合、多くの個数の刃先面及び多くの種類の傾斜角度の刃先面という多くの要素(パラメータ)を利用して、穿刺針2の穿刺深さ、ひいては、薬液の注入深度を適切に制御できる。また、その場合、本体部21の中心軸線aに対して40度以上90度以下の角度で傾斜する刃先面を除く、少なくとも1つの刃先面に開口部が設けられていればよい。また、複数の刃先面を備えた構成において、本体部21の中心軸線aに対して40度以上90度以下の角度で傾斜する刃先面は、少なくとも1つあればよく、その他の刃先面は、上記の条件を満たしていなくてもよい。
【0137】
穿刺針2は、樹脂に限らず、例えば、金属で形成されてもよい。また、穿刺針2は、全体を樹脂で形成した1ピース構造であってもよいし、本体部21を金属、刃先部22を樹脂で形成した2ピース構造であってもよい。
【0138】
穿刺針2は、第4実施形態に係る投与デバイス1及び第5実施形態に係る投与デバイス100に限らず、他の方式のワンアクション機構又は2アクション機構を有する投与デバイスで使用することもできる。その場合であっても、穿刺針2を用いることにより、皮内組織INにより塞がれにくい開口部を確保しつつ、薬液の注入深度をより適切に抑制できるため、より安定した皮内注射を行うことができる。
【0139】
第4実施形態では、投与デバイス1が皮内注射器である場合を例に説明したが、本発明に係る投与デバイスは、これに限定されず、皮下組織又は筋肉内への投与デバイスであってもよい。皮下組織への投与デバイスの場合、針は皮下組織に穿刺され、針を介して皮下組織に薬液が投与される。筋肉内への投与デバイスの場合、針は筋肉内に穿刺され、針を介して筋肉内に薬液が投与される。薬液の投与先は、皮内、皮下組織及び筋肉以外の生体であってもよい。第5実施形態に係る投与デバイス100についても同様である。
【0140】
第4実施形態に係る投与デバイス1において、第1端部(下端部45)は、常時開口している構成であってもよく、使用時のみ開口可能な構成(不使用時には開口していない構成)であってもよい。
【0141】
第4実施形態に係る投与デバイス1は、カートリッジ3のピストン33を直接押す、押し部材11を備えているため、生体内(皮内組織IN内)への穿刺針2の穿刺、薬液LMの投与等の一連の動作を、(ヘッドカバー10を介して)押し部材11を下端部45側に押すというワンアクションで行うことが可能であるが、これに制限されない。例えば、ヘッドカバー10がカートリッジ3のカートリッジ本体31を押し、ヘッドカバー10とは一体的ではない別の押し部材(図示せず)がカートリッジ3のピストン33を押す構成を採ることができる。この構成において、前述の一連の動作は、2アクションで行われることになる。
【0142】
第4実施形態に係る投与デバイス1において、押付け力制御部材は、コイル状のスプリング6に限らず、各種弾性部材、弾性構造であってもよい。押付け力制御部材は、反力を発生するものであれば、完全な弾性体に限らず、ダンパー性を有していてもよい。第5実施形態に係る投与デバイス100のスプリング160についても同様である。
【0143】
第4実施形態では、報知機構50が操作者に伝達される音及び力の双方を発生させる例について説明したが、これに限らず、報知機構50は、操作者に伝達される音又は力の一方を発生させるものであってもよい。なお、第5実施形態に係る投与デバイス100に報知機構を設けてもよい。
【0144】
第5実施形態に係る投与デバイス100において、プランジャー180と外ケース190とを一体化した構成としてもよい。本構成とすることにより、第5実施形態に係る投与デバイス100を、穿刺針を穿刺する操作と薬液を投与する操作を一動作で完了させることができるワンアクション機構を有する投与デバイスとすることができる。
【符号の説明】
【0145】
1,100 投与デバイス
2 穿刺針
21 本体部
22 刃先部
23 流路
24 (先端)開口部
25 第1刃先面
26 第2刃先面
27 開口部
IN 皮内組織
SK 皮膚
F 前方向
B 後方向
L 左方向
R 右方向
D 下方向
U 上方向
D1 第1方向
D2 第2方向
DW 横方向