(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】オリゴペプチド、検出キット及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20240415BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20240415BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240415BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240415BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240415BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240415BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20240415BHJP
【FI】
C07K7/08
A61K51/08 200
A61K38/10
A61K47/64
A61K35/28
A61P19/02 ZNA
C12N5/0775
(21)【出願番号】P 2022533146
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 US2020063007
(87)【国際公開番号】W WO2021113440
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-09-02
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
【氏名又は名称原語表記】CHINA MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 91, Hsueh-Shih Road, North District Taichung, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フン シー‐チー
(72)【発明者】
【氏名】ウー ハン‐チャン
(72)【発明者】
【氏名】リン チン‐イー
(72)【発明者】
【氏名】チー イー‐シュアン
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-516889(JP,A)
【文献】国際公開第2006/062776(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合モチーフを含むアミノ酸配列を
有するオリゴペプチドであって、前記結合モチーフは、式(i)に示す配列を有し、
WX
1PX
2W (i)、
式中、Wはトリプトファンであり、Pはプロリンであり、X
1及びX
2はそれぞれアミノ酸であり、且つX
1及びX
2は互いに同一又は異なり、或いは、
前記結合モチーフは、式(ii)に示す配列を有し、
DTH (ii)、
式中、Dはアスパラギン酸であり、Tはスレオニンであり、Hはヒスチジンであ
り、
アミノ酸配列は、配列番号1、配列番号2又は配列番号4の全長アミノ酸配列の少なくとも一つと少なくとも90%の同一性を有する、オリゴペプチド。
【請求項2】
前記アミノ酸配列は、配列番号1、配列番号
2又は配列番号4の全長アミノ酸配列の少なくとも一つと同一であることを特徴とする、請求項
1に記載のオリゴペプチド。
【請求項3】
前記オリゴペプチドの結合標的は、XII型コラーゲンであり、かつ前記オリゴペプチドは、骨関節炎に罹患している軟骨組織に対して結合特異性を有することを特徴とする、請求項1に記載のオリゴペプチド。
【請求項4】
請求項1~請求項
3の何れか1項に記載のオリゴペプチドを含む検出キット。
【請求項5】
前記オリゴペプチドは、超常磁性酸化鉄(SPIO)又は画像現像剤と結合することを特徴とする、請求項
4に記載の検出キット。
【請求項6】
請求項1~請求項
3の何れか1項に記載のオリゴペプチドと、
前記オリゴペプチドと結合する治療分子又は幹細胞と、
を含む医薬組成物。
【請求項7】
前記治療分子は、骨関節炎治療剤、椎間症治療剤、眼疾患治療剤、ヒアルロン酸、軟骨成長因子又はそれらの組み合わせであることを特徴とし、かつ前記幹細胞は、間葉性幹細胞(MSC)である、請求項
6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2019年12月3日に出願された米国仮特許出願第62/942,847号の優先権を主張し、前記出願は引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
EFSによって提出した配列表は、引用により本明細書に組み込まれる。EFSによって提出された配列表ファイルは、2020年11月30日に作成されたファイル「CP-4648-PCT_SequenceListing」を含み、そのサイズが1,069バイトである。
【0003】
発明の分野
本開示の内容は、オリゴペプチド、医薬検出キット及び医薬組成物に関する。より具体的には、本開示の内容は、XII型コラーゲンに特異的なオリゴペプチド、検出キット及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
関節軟骨が自己修復能力に欠けるため、特に60歳以上の人々にとって、骨関節炎(osteoarthritis;OA)の罹患率は、持続的に増加している。抗炎症剤による治療、関節腔への潤滑用の補充剤の注射及びマイクロフラクチャー手術、骨軟骨柱移植術などの外科手術法は、従来の骨関節炎の治療方法であるが、症状を和らげるだけであり、現在、骨関節炎に使用される疾患緩和薬はない。自己軟骨細胞移植を使用する細胞に基づく治療法は、局所的な関節軟骨欠損の治療にのみ効果的である。特に、大きな病巣の場合、幹細胞又は前駆細胞の移植は、骨関節炎及び骨軟骨欠損の治療での軟骨細胞の代替となっている。
【0005】
自己再生及び多能的分化能を有する間葉性幹細胞(mesenchymal stem cells;MSCs)は、間葉組織の修復だけではなく、軟骨及び骨の組織工学にも適用可能である。間葉性幹細胞の関節内注射の長期安全性は、既に、変形性膝関節症患者41人で実証されている。なお、骨関節炎を治療するための間葉性幹細胞の移植の臨床的有効性と安全性は、11の適合試験と変形性膝関節症患者582人のメタアナリシスにより証明されている。
【0006】
変形性膝関節症を治療するために関節に間葉性幹細胞を注射することの治療効果に関する2年の追跡研究によると、低用量及び中用量治療に対する臨床と構造的結果の耐用性に潜在的な懸念があることが判明し、これは更なる研究の必要性を示している。前十字靭帯(anterior cruciate ligament;ACL)の切断による骨関節炎を治療するために、ヒアルロン酸(hyaluronic acid;HA)を担体とする間葉性幹細胞を関節腔内注射に用いることは、単独でヒアルロン酸を注射することよりも優れた効果を示している。前記研究及び他の研究によると、間葉性幹細胞と滑膜、半月板及び靭帯組織との非特異的結合が判明し、損傷した関節軟骨へ細胞を局所的に送達することを強化する方法の開発の重要性が強調される。しかしながら、前記の問題に着目した研究はほとんどない。磁気的に標識された間葉性幹細胞は、関節軟骨の修復に適用されている。磁性粒子で標識された間葉性幹細胞は、軟骨形成分化中に悪化の状況を示さないが、組織の鉄分に対する吸収については依然として懸念がある。
【0007】
現在の研究において、ヒトの骨関節炎のサンプルによってファージディスプレイペプチドライブラリーに対してバイオパニンを行って、骨関節を標的とするペプチドを同定する。骨関節炎を標的とするペプチドが診断剤、潤滑補助品及び間葉性幹細胞を関節表面に送達する適用については、更に、酵素により誘導されたラットの骨関節炎モデル及び前十字靭帯を切断したブタ骨関節炎モデルによって研究を行う。
【発明の概要】
【0008】
本開示の内容による一つの態様は、結合モチーフを含むアミノ酸配列を有するオリゴペプチドである。
【0009】
前記結合モチーフは、式(i)に示す配列を有する。
WX
1
PX
2
W (i)
式中、Wはトリプトファンであり、Pはプロリンであり、X
1
及びX
2
はそれぞれアミノ酸であり、且つX
1
及びX
2
は互いに同一又は異なる。
【0010】
前記結合モチーフは、式(ii)に示す配列を有する。
DTH (ii)
式中、Dはアスパラギン酸であり、Tはスレオニンであり、Hはヒスチジンである。
アミノ酸配列は、配列番号1、配列番号2又は配列番号4の全長アミノ酸配列の少なくとも一つと少なくとも90%の同一性を有する。
【0011】
本開示の内容による別の態様は、前記態様のオリゴペプチドを含む検出キットである。
本開示の内容によるまた一つの態様は、前記態様のオリゴペプチド、及びオリゴペプチドと結合する治療分子又は幹細胞を含む医薬組成物である。
【0012】
本開示の内容は、添付の図面を参照しながら下記の実施例の詳細な説明を読めば、明確に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】生体内でイメージングしてC5-24ペプチドと骨関節炎の軟骨との結合能力を証明する結果を示す。
【
図1B】生体内でイメージングしてC5-24ペプチドと骨関節炎の軟骨との結合能力を証明する結果を示す。
【
図1C】生体内でイメージングしてC5-24ペプチドと骨関節炎の軟骨との結合能力を証明する結果を示す。
【
図2A】C5-24ペプチドの初期骨関節炎の診断での適用結果を示す。
【
図2B】C5-24ペプチドの初期骨関節炎の診断での適用結果を示す。
【
図2C】C5-24ペプチドの初期骨関節炎の診断での適用結果を示す。
【
図2D】C5-24ペプチドの初期骨関節炎の診断での適用結果を示す。
【
図3A】C5-24ペプチドの関節潤滑での適用結果を示す。
【
図3B】C5-24ペプチドの関節潤滑での適用結果を示す。
【
図3C】C5-24ペプチドの関節潤滑での適用結果を示す。
【
図4A】C5-24ペプチドの骨関節炎の再生医療での適用結果を示す。
【
図4B】C5-24ペプチドの骨関節炎の再生医療での適用結果を示す。
【
図4C】C5-24ペプチドの骨関節炎の再生医療での適用結果を示す。
【
図4D】C5-24ペプチドの骨関節炎の再生医療での適用結果を示す。
【
図5A】間葉性幹細胞を追跡するためのMRI分析及びプルシアンブルー染色の結果を示す。
【
図5B】間葉性幹細胞を追跡するためのMRI分析及びプルシアンブルー染色の結果を示す。
【
図6A】C5-24ペプチドの結合タンパク質の同定結果を示す。
【
図6B】C5-24ペプチドの結合タンパク質の同定結果を示す。
【
図6C】C5-24ペプチドの結合タンパク質の同定結果を示す。
【
図6D】C5-24ペプチドの結合タンパク質の同定結果を示す。
【
図6E】C5-24ペプチドの結合タンパク質の同定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、当業者が過度の解釈や過度の実験をせずに本発明を完全に利用及び実践できるように、下記の特定の実施形態によって本発明をより詳しく検討する。しかしながら、これらの実際の詳細は、本発明の材料や方法を如何に達成させるかを記述するためのものであり、必須のものではない。
【0015】
一、結果
【0016】
<骨関節炎を標的とするペプチドの同定>
【0017】
ファージディスプレイペプチドライブラリーを使用し、人工膝関節全置換術を受けた患者の膝関節から切除された軟骨下骨から、骨関節炎の関節軟骨を検知した。骨関節炎の軟骨標本を、組織溶解物を取得するように均質化し、又は、大きさ5mm×5mmの正方形の組織ブロックに切った。組織溶解物及び組織断片と結合するファージディスプレイペプチド(バイオパニン)による5回のスクリーニングの後で、ファージの結合力価がそれぞれ388倍と864倍へと著しく向上した。5回目のバイオパニンから集められたファージクローンに対して、更にELISAスクリーニングを行い、組織溶解物又は組織断片に対する高親和性を有するクローンが選択、配列決定及びアライメントされることになった。最後、独特な保存的モチーフを有する5群の標的ファージを確定した。ファージクローンの結合能力は、ヒト軟骨細胞株hPi-GL10に対して免疫細胞蛍光染色を行うことで検証された。M13-PE(蛍光染料にコンジュゲートしている抗体)で標識された同定済みファージクローンが全てhPi-GLに用量依存的に結合した。注意すべきなのは、C5-24及びC5-91ペプチドがhPi-GLにおいて特異的且つ有意的な結合を示すことである。骨関節炎の軟骨に特異的に結合するが、滑膜及び半月板などの他の軟組織に特異的に結合していないファージクローンを探すために、ヒトの骨関節炎の組織切片に対して、更に、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)で標識されたファージクローンによって免疫染色を行った後、沈殿した3,3-ジアミノベンジジン(3,3-diaminobenzidine;DAB)の強度(-~+++)を半定量した。具体的に、C5-24ペプチド(例えば、配列番号1のアミノ酸配列で示される)及びC5-91ペプチド(例えば、配列番号2のアミノ酸配列で示される)は、軟骨に対して優れた結合活性を示すが、半月板及び滑膜に対する結合活性はなかった。なお、C5-24ペプチドは、骨関節炎の軟骨の細胞質領域を標的とする最適な特異性を示し、更に後の研究に使用するために選択された。
【0018】
<骨関節炎を標的とする生体イメージング>
【0019】
C5-24ペプチドの骨関節炎に対する標的活性を証明するために、ローダミン標識されたC5-24ペプチド及びスクランブルペプチドをそれぞれラットの骨関節炎モデルの関節に注入して、2光子顕微鏡によって蛍光及び第2高調波発生(second harmonic generation;SHG)信号を観察した。スクランブルペプチドは、元のペプチドと同一の全てのアミノ酸を含むが、新しいシーケンスでランダムに配列された。表面レンダリングされた3D再構成画像及び軟骨の側方再結合画像によると、散在的な赤色ドットは、C5-24ペプチドが注射された対照軟骨、スクランブルペプチドが注射された対照軟骨、及びスクランブルペプチドが注射された骨関節炎の軟骨にランダムに現れた。それに対して、C5-24ペプチドが注射された骨関節炎の軟骨には多くの赤色ドットが観察された。SHGによって第II型コラーゲンを探索すると、赤色ドットは、骨関節炎の軟骨の細胞質領域に対応する、信号SHGのない領域(
図1A)に位置していた。z軸平面から、C5-24ペプチド骨関節炎の軟骨への深さは少なくとも50μmである(
図1A)ことが確認できた。また、全ての切片における合計蛍光ペプチド結合面積(
図1B)及び結合強度(
図1C)は、更に算出され、C5-24ペプチドが標的とする骨関節炎及び対照軟骨の有意差を示した。前記した一連のデータにより、C5-24ペプチドが骨関節炎の軟骨の細胞質領域を標的とすることは、優れた認識能力と特異性を有することが証明された。
【0020】
<初期骨関節炎の診断への適用>
【0021】
骨関節炎を標的とするペプチドが骨関節炎の初期診断中に診断用薬を送達する適合性を証明するために、C5-24及びスクランブルペプチドを超常磁性酸化鉄(superparamagnetic iron oxide;SPIO)とコンジュゲートさせた(
図2A)。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によると、N-H帯域/C-O延伸比が増加すると示され、SPIOのC5-24及びスクランブルペプチドに担持できたと判明し(
図2B)、前記ペプチドは酵素切断の形態で樹立されたラットの骨関節炎モデルの関節に関節内注射されたものであった。ペプチドとコンジュゲートしていないSPIOを注射した骨関節炎性膝関節の磁気共鳴イメージング(magnetic resonance imaging;MRI)と擬似対照群の膝関節とは差を示さず、これは、軟骨がひどく剥離されていない場合、MRIの骨関節炎の初期診断に対する挑戦を開示した。同様に、骨関節炎の軟骨と結合していないスクランブルペプチドコンジュゲートSPIO及びMRI信号の低下により、初期骨関節炎と擬似対照群加を区分することもできなかった。それに対して、C5-24ペプチドコンジュゲートSPIOが骨関節炎の軟骨に結合されると、骨関節炎の軟骨のMRI信号が低下するが、この状況は健康な軟骨には見られなかった(
図2C)。臨床状態により近づくために、C5-24ペプチドコンジュゲートSPIOの初期骨関節炎の診断に用いられる実現可能性は、更に、前十字靭帯を切断した蘭嶼ミニブタから樹立された大型動物の骨関節炎モデルによって実証された。前十字靭帯を切断した2ヶ月後、擬似対照群がC5-24ペプチドコンジュゲートSPIOを受け又はC5-24ペプチドコンジュゲートSPIO処理を受けず、又は骨関節炎性膝関節がC5-24ペプチドコンジュゲートSPIO処理を受けないにもかかわらず、T1-及びT2-強調MR画像にも差異がなく(
図2D)、MRIによる初期骨関節炎の診断の難しさが判明した。しかしながら、C5-24ペプチドコンジュゲートSPIOを受けた骨関節炎性膝関節はそのT1-及びT2-強調MR画像に強化信号の減少が示され、C5-24ペプチドコンジュゲートSPIOの初期骨関節炎の診断に対する感度が証明された。以上をまとめると、前記した一連のデータによると、C5-24ペプチドとコンジュゲートすると、SPIOなどの画像現像剤は、MRイメージングシステムに合わせて初期骨関節炎の診断に用いることができることが判明した。
【0022】
<関節潤滑への適用>
【0023】
C5-24ペプチドがヒアルロン酸を骨関節炎の軟骨の中に運んで潤滑に用いられる潜在力を研究するために、C5-24ペプチド又はスクランブルペプチドは、ヒアルロン酸とコンジュゲートして、それぞれC5-24-HA及びスクランブル-HAと略称された(
図3A)。
1Hプロトン-NMR(核磁気共鳴)によって、HA-MAのメタクリル酸エステルは、含有量が約28.1%と測定され、後でC5-24ペプチド(
図3B)及びスクランブルペプチドと結合する中間体として用いられた。流動潤滑性能は、静摩擦係数(μ
s)及び動摩擦係数(μ
k)を含み、改良された先行技術におけるロータロッド試験方法によって評価し、非修飾のHA、スクランブル-HA又はC5-24-HA処理の対になるヒト骨関節炎の軟骨円盤(13の個体から集める)の間で比較した。非修飾のHA、スクランブル-HA及びC5-24-HAは、1.2秒間弛緩させる場合、総合摩擦係数として、それぞれ、μ
sが0.065、0.073及び0.044であり、μ
kが0.045、0.052及び0.034であり、且つ非修飾のHAに比べると、C5-24-HAがそれぞれ32.3%及び24.4%低下した。12秒間弛緩させる場合、μ
sがそれぞれ0.072、0.075及び0.043であり、μ
kがそれぞれ0.045、0.052及び0.033であり、且つ非修飾のHAに比べると、C5-24-HAがそれぞれ40.3%及び26.7%低下した。120秒間弛緩させる場合、μ
sがそれぞれ0.077、0.079及び0.044であり、μ
kがそれぞれ0.048、0.055及び0.034であり、且つ非修飾のHAに比べると、C5-24-HAが42.9%及び29.2%低下した。1200秒間弛緩させる場合、μ
sがそれぞれ0.094、0.102及び0.066であり、μ
kがそれぞれ0.060、0.067及び0.042であり、且つ非修飾のHAに比べると、C5-24-HAがそれぞれ29.8%及び30%低下した(
図3C)。つまり、全ての弛緩段階において、C5-24-HAは、非修飾のHA及びスクランブル-HAと比較して、統計的に有意的に優れた静的及び動的摩擦特性を有し、その潤滑効果が卓越していることが示された。そして、流動的前処理段階及びトルク計測において、C5-24-HAの潤滑性が非修飾のHA及びスクランブル-HAよりも優れていた。代表的で個人的な患者データは補足データに置かれ、前処理段階で3600秒間の弛緩時間内に軟骨円板の高さが次第に失われるのと同じ様子を示すが、次の4つの弛緩期中に一致した軟骨円板の高さまで回復したことにより、摩擦計測に影響を与える因子が減少した。前記した一連のデータをまとめると、C5-24ペプチドは新規且つ効果的な骨関節炎の関節の潤滑剤を開発するための適合性が判明した。
【0024】
<骨関節炎の再生医療への適用>
【0025】
C5-24-HAは、CD44(HAの受容体)と結合することで間葉性幹細胞の再生医療に適用することができ、CD44は間葉性幹細胞の表面で広く発現され、間葉性幹細胞を骨関節炎の軟骨表面に送達した。なお、以前の研究により、HAの軟骨形成活性により間葉性幹細胞が軟骨を形成するように誘導する可能性が高いことが実証された。これを証明するために、ラット間葉性幹細胞に、後で追跡できるようにSPIOを加えて、蛍光コンジュゲート化C5-24-HA又はスクランブル-HAと一緒にインキュベートした(
図4A)。蛍光顕微鏡で観察すると、間葉性幹細胞が緑蛍光によって密接に取り囲まれることが判明した(
図4B、モノクロ模様で示す)。なお、C5-24-HA又はスクランブル-HAと一緒にインキュベートした後で、間葉性幹細胞を直ちにラットの骨関節炎モデルの関節に注射して、移植の8週間後に関節に対して組織学的検査を行った。骨関節炎群と擬似対照群とを比較し、組織形態計測分析結果によると、骨関節炎が誘導されたことが示された(
図4C、
図4D)。なお、C5-24-HAにより送達された間葉性幹細胞を受けた膝関節は明確な軟骨再生と明確なサフラニンO染色を有するが(
図4C)、スクランブル-HAにより送達された間葉性幹細胞を受けた膝関節は相変わらず重篤な骨関節炎を発現し、且つ軟骨表面に多くの亀裂が現れ、そのサフラニンO染色も消えた。修正マンキンスコアによって骨関節炎の程度を定量化した結果によっても、前者の骨関節炎の改善は後者よりも優れる(
図4D)ことが判明した。骨関節炎の関節に移植されたSPIOの加えられた間葉性幹細胞を追跡するために、移植3日後にラットに対してMRI走査(
図5A)及びプルシアンブルー染色(
図5B)を行い、その結果はC5-24-HA補助の群に示される。間葉性幹細胞は骨関節炎の軟骨において特異性ホーミング特性を有するが、ぼかされているHA補助群に現れなかった。前記した一連のデータによると、C5-24-HAの、間葉性幹細胞の再生医療強化への適合性が判明した。
【0026】
<結合タンパク質の同定>
【0027】
ヒト骨関節炎の軟骨組織におけるC5-24ペプチドと結合する、推定される標的タンパク質を同定するために、化学架橋剤である3,3’-ジチオビススルホスクシンイミジルプロピオネート(3,3’-Dithiobis(sulfosuccinimidylpropionate);DTSSP)と結合するビオチン変性されたC5-24ペプチドを使用し、次に、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS polyacrylamide gel electrophoresis;SDS-PAGE)及び液体クロマトグラフィ-タンデム質量分析(LC-MS/MS)によって結合標的(
図6A)を認識した。銀染色によれば、幾つかの明瞭なバンドが現れ、例えば、免疫共沈降タンパク質COIP-1、COIP-3及びCOIP-5(
図6B)であり、それらをそれぞれ集めて、トリプシンで消化してLC-MS/MSによって分析した。前記断片は、アルゴリズムによって、MASCOT及びTurboSequestサーチエンジンでスイスプロテインデータベース(Swiss Protein Database)より検索して同定された。確率スコアを有するコラーゲンalpha-1(XII)及びコラーゲンalpha-3(VI)断片を含む幾つかの候補タンパク質が発見され、前記ペプチドがあるタンパク質に属する可能性はそれぞれ850及び372にも達し、ほとんどの他の同定されたペプチドよりも高いことが判明した。これらのタンパク質断片がC5-24ペプチドの標的タンパク質であることを更に確認するために、ELISAによって標的タンパク質とビオチン変性されたC5-24ペプチドとの間の相互の結合活性を検出した。まず、ペプチド結合の最も高いコラーゲン濃度(
図6C)を同定するように、特定濃度のコラーゲンによってELISAプレートに対してプリコート処理を行って、次に、3.3μg/mLのコラーゲンalpha-1(XII)によってペプチドの結合を検査した(
図6D)。ビオチン変性されたC5-24ペプチドはコラーゲンalpha-1(XII)及びコラーゲンalpha-3(VI)断片と結合するが、ビオチン変性されたスクランブルペプチドは結合しないことが発見された。しかしながら、相互的な用量依存的結合は、コラーゲンalpha-1(XII)とビオチン変性されたC5-24ペプチドとの間にしか観察されなかった(
図6C、
図6D)。また、ビオチン変性されたC5-24ペプチド及びビオチン変性されたスクランブルペプチドとウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin;BSA)との結合には、差異がなかった。以上をまとめると、前記した一連のデータによると、コラーゲンalpha-1(XII)はC5-24ペプチドの標的タンパク質であることが判明した。
【0028】
タンパク質-ペプチド複合体の構造を予測するために、配列2の類似性を検索し、ヒトXII型コラーゲンをホモロジーモデリング及び標的とする幾つかの信頼できる構造モデルは、タンパク質-ペプチドのドッキングを補助した。これらの構造モデルは、後で最も潜在的で本研究で選用されて更なる実験に用いられるC5-24及びC5-91ペプチド鎖の潜在的な分子ドッキング構造の算出に適用された。タンパク質-ペプチドドッキングモデルは、主に、標的タンパク質のペプチド鎖と結合した後で、最も低いギブス自由エネルギー及び化学熱力学に該当するアルゴリズムに基づいたものであった。本発明者のデータによると、C5-24及びC5-91ペプチド鎖はそれぞれ構造125及び構造68によってXII型コラーゲンにおける領域L1385-S2285の袋点を標的とし、それぞれ構造34及び42によってC端のS2506-P2724を標的にし、最も高い構造頻度を有するC5-24とC5-91は同一のドッキング部位を有する(
図6E)ことが判明した。なお、これらの予測される構造は、重要な保存的結合モチーフであるWXPXWを共有し、WXPXWがペプチド鎖とXII型コラーゲンとの間の主なドッキングの親和性を支配する必要があった。また、ヒト、ブタ、ウサギ、ラット及びマウスのXII型コラーゲンの配列相同性として90.3%の類似性及び83.7%の同一性に達し、且つ親族関係の分析結果によると、XII型コラーゲンが前記5つの物種の間に高い遺伝的関連性を有することが判明した。C5-24ペプチドの齧歯類、ウサギ及びブタ骨関節炎モデルでの検査は非常に信頼できるものであった。なお、表1における保存的ドメインによると、同一群のペプチド配列は重要且つ同一のモチーフを共有し、例えば、第1群及び第3群ではそれぞれFVEW及びDTHを共有していた。
【0029】
【0030】
最後に、XII型コラーゲンの骨関節炎の関節軟骨での独占的な発現を証明した。XII型コラーゲンの発現は、ラット骨関節炎の軟骨のみに観察され、正常関節軟骨には観察されなかった。ほかに、XII型コラーゲンの発現は、ヒト骨関節炎の軟骨のみに観察され、ヒトの骨関節炎に罹患していない軟骨には観察されなかった。XII型コラーゲンは、主にクラスター化した軟骨細胞の細胞質領域で発現され、それはC5-24ペプチド結合の領域と一致していた(
図1A)。これらのデータは、更に、161人の骨関節炎患者及び29人の非骨関節炎患者のコホート研究の結果にサポートされた。初期分析によると、非骨関節炎の軟骨に比べると、骨関節炎股関節と骨関節炎性膝関節との軟骨複合におけるCOL12A1 mRNAレベルは著しく増加した。
【0031】
<疾患修飾性の骨関節炎用薬剤(DMOADs)への適用>
【0032】
現在、疾患修飾性の骨関節炎用薬剤として認可される薬剤はなかった。そのため、骨関節炎は、治療上の医学的ニーズに応えてその基本の病態生理学を変えずに、長期間で、臨床に関連する進展に転換する重篤な疾病である可能性がある。現在、第II相、第III相又は前臨床段階にある幾つかの薬剤があり、軟骨再生を標的とする繊維芽細胞増殖因子-18(Sprifermin)、及びコア結合因子beta(CBFβ)の解離及び核内在化を促進してカスケード軟骨の形成を刺激するKartogeninを含む。発進中の全ての疾患修飾性の骨関節炎用薬剤も、本研究で開発された骨関節炎を標的とするペプチドの協力で、骨関節炎組織への送達が促進される。また、全身性薬剤による治療とは逆に、多数の薬剤は、関節内での投薬経路に着目して、薬剤の局所生体利用率を向上させて従来の障害物を避け、オフターゲット効果を低下させることで全身毒性を最小化して安全性を向上させることができる。しかしながら、関節局所投与による明確なプラセボ効果を了解し、治療効果の評価をより困難にすることが重要である。本研究の発見したペプチドのような、治療剤を骨関節炎部位に送達する技術の精度向上により、骨関節炎に対する効果的な治療法を首尾よく開発することができる。将来、疾患修飾性の骨関節炎用薬剤の発進を増進するように、骨関節炎を標的とするペプチドを備える複雑な担体によって疾患修飾性薬を提供することに専念すべきである。
【0033】
ファージにコードされた幾つかのペプチドモチーフ(WXPXW及びDTH)が既に特定され、これらのモチーフは骨関節炎の関節を選択的に標的とするが、滑膜組織、半月板及び靭帯を含む他の関節軟組織に対して、効果的に標的とすることはなかった。なお、C5-24及びC5-91ペプチドと骨関節炎の関節における軟骨細胞の細胞質領域との特異的結合を同定した。C5-24は、SPIO及びHAと結合しており、それぞれ骨関節炎の診断及び潤滑に用いられた。C5-91ペプチドは診断剤又は潤滑剤を骨関節炎の関節の関節表面に送達できると確認されていないが、C5-91ペプチドはC5-24ペプチドと同一の大きさを有し及び同一のモチーフを共有するため、同一の機能を有すると考えられた。
【0034】
コラーゲンIIは透明軟骨の基礎であり、且つ関節軟骨における全てのタンパク質の85~90%を占めるにも関わらず、老化又は骨関節炎によりコラーゲンが損傷し、且つ前記損傷が関節表面の軟骨細胞(細胞質領域)から始まって、進展中の退化に従って軟骨全体に広がる。コラーゲンIIが骨関節炎で特異的に発現していないことに鑑みて、コラーゲンIIを標的とするペプチドは、骨関節炎の診断、治療、潤滑及び再生医療への適用に適合しない可能性がある。逆に、本研究で開示されるように、実験とコンピュータシミュレーションによると、結合モチーフであるWXPXWを共有する骨関節炎を標的とするペプチドは、細胞質領域に選択的にホーミングして、骨関節炎の軟骨のみで発現するXII型コラーゲンと結合することが証明される。抗体で行われた免疫蛍光研究によると、XII型コラーゲンは、胚組織におけるコラーゲンIを含有する、筋腱、靭帯、軟骨膜及び骨膜などの密集した結合組織構造に位置する(XII型コラーゲンが角膜、椎間板及び気管の組織にも発現する)ことが説明され、それが関節の退化及び再生で現れることが判明する。XII型コラーゲンの骨関節炎の再生での作用を述べるには、更なる研究が必要である。上記をまとめると、骨関節炎の潤滑、診断、治療及び再生医療を改良するための、XII型コラーゲンに対する新規の送達プラットフォームが開発される。
【0035】
XII型コラーゲンと結合するペプチドは、骨関節炎の診断、潤滑剤及び再生医療に用いられるように開発されたが、例えば、重篤なドライアイで発生する可能性のある角膜潰瘍及び穿孔、又は椎間板及び気管軟骨などの透明軟骨を含む他の組織に関連する傷害又は変性疾患などの他の疾病に適合されてもよい。例えば、角膜のボーマン層で発現するXII型コラーゲンが角膜潰瘍及び瘢痕形成の過程で過度発現するため、機能化されたXII型コラーゲン標的ペプチドは、潤滑剤、抗炎症剤及び幹細胞の輸送に寄与し、角膜潰瘍を治療することができる。上記をまとめると、骨関節炎の潤滑、診断、治療及び再生医療を改良するための、XII型コラーゲンに対する新規の送達プラットフォームを開発した。前記プラットフォームは、更に、眼潰瘍及び透明軟骨を含む他の組織の疾病などの他の疾病の治療に用いられてもよい。
【0036】
<材料と方法>
【0037】
本出願の上記実施例は、以下の方法及び材料によって実行され、その細部については下記のように記述される。
【0038】
<バイオパニン及びELISAスクリーニング用の軟骨標本の調製>
【0039】
患者間の個体差の干渉を避けるために、同一のファージディスプレイ実験において、ファージディスプレイ実験でバイオパニンを5回行うように、同一の骨関節炎患者からの手術した関節軟骨の標本を使用した。5回のバイオパニンに用いられる軟骨の粒度組成が確実に一致するように、下記処理を行った。重量3.2gのヒトの手術した骨関節炎標本を、2倍のリン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline;PBS)に加えて均質化した。軟骨均質化液を800×g及び4℃の条件で10分間遠心分離させ、「大粒子軟骨サンプル(C1)」として沈殿物を集めた。上澄みを新しい遠心チューブに添加して、次に1,500×g及び4℃の条件で10分間遠心分離させ、「中間粒子(C2)付きの軟骨サンプル」として沈殿物を集めた。次に、上澄みを2,000×g及び4℃の条件で再び10分間遠心分離させた後で、「小粒子軟骨サンプル(C3)」として沈殿物を集めた。この場合の上澄みをそれぞれ集めて「軟骨組織溶解物」として別に5回のバイオパニンを行い、これは「軟骨組織断片」で行われたバイオパニンと同一ではなかった。「軟骨組織溶解物」のバイオパニンでは、それぞれC1、C2及びC3を秤量して5等分した。5回のバイオパニンは、それぞれC1、C2及びC3等分の混合物によって行われた。
【0040】
「軟骨組織断片」のバイオパニンにおいて、軟骨細胞の結合スクリーニングを行うように、軟骨サンプルを同様に正方形の断片(サイズ5×5mm)に切って、ウェルあたり1個の断片の数でネイルエナメルによって96ウェルのELISAプレートに接着した。
【0041】
<骨関節炎の軟骨組織溶解物と断片に対するファージクローンバイオパニン>
【0042】
「軟骨組織溶解物」のバイオパニンでは、組織溶解物の上澄みを塗工液[0.1 M NaHCO3、pH8.6]によって10倍に希釈し、次に直ちにバイオパニン用の10cmディッシュ(及びスクリーニング用の96ウェルELISAプレート)にコートし、使用前に4℃で24時間静置した。組織溶解物被覆のプレートを1%のBSAを含むPBSによって4℃の条件下で一晩ブロックして、10pfuのPh.D.-12TMファージ(New England BioLabs、Ipswich、MA、USA)ディスプレイペプチドライブラリーを加えて4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、結合されたファージを1mlのER2738の対数培養物を用いて、37℃、100rpmで20分間振盪して溶出させた。溶出されたファージライブラリーをER2738で一晩培養して増幅と滴定を行った。回收されたファージを次回のパニングに投入して、5回目のバイオパニンから合計130個のファージクローンをランダムに選択して培養を行って、ELISAスクリーニングを行った。
【0043】
「軟骨組織断片」の各バイオパニンにおいて、軟骨サンプルを1%のウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)を含むPBSによって4℃の条件下で1時間ブロックした。最初に10プラーク形成単位(pfu)を含むPh.D.-12TM(New England BioLabs、Ipswich、MA、USA)ファージディスプレイペプチドライブラリーを加え、4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、結合されたファージを、1mlの大腸菌ER2738の対数培養物(New England BioLabs)によって37℃、100rpmで30分間振盪して溶出させた。溶出されたファージライブラリーをER2738で一晩培養して増幅と滴定を行った。回収されたファージを次回のパニングに投入して、5回目のバイオパニンから合計95個のファージクローンをランダムに選択して培養を行って、ELISAスクリーニングを行った。
【0044】
<骨関節炎軟骨を標的とするアミノ酸配列モチーフの同定>
【0045】
選択されたファージクローンと軟骨組織溶解物の結合活性、及び軟骨組織断片との結合活性を、ELISAによって検出した。最も高い結合親和性を有するファージクローン(軟骨組織溶解物のA490値>0.15で、且つ軟骨組織断片のA490値>2.0である)は、選用されて配列決定された。アミノ酸配列のアライメントによって、5つの異なる保存的モチーフを有する群(表1に示される)を同定した。
【0046】
<hPi-GL軟骨細胞株で免疫蛍光標識によって骨関節炎軟骨を標的とするペプチドを検証する>
【0047】
前記した一連のファージクローンを検出するために、室温で4%のパラホルムアルデヒドを含むPBS溶液によって、ガラススライドで培養されたhPi-GL細胞を15分間固定し、次にPBSで洗浄し、室温で0.1%のTriton X-100によって30分間透過処理して、1%のBSA/PBSTとの非特異的結合をブロックした。ガラススライドで培養されたhPi-GL細胞をそれぞれ4×108pfu、8×108pfu及び109pfuの選択されたファージクローンと共に、4℃で1時間インキュベートした。結合されていないファージを洗い流した後で、細胞と一次抗体である抗M13マウスモノクローン抗体(GE Healthcare、Milwaukee、WI、USA)及び二次抗体であるR-フィコエリトリン-AffiniPure F(ab’)2断片ヤギ抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Inc.)をそれぞれ室温で1時間インキュベートした。次に、PBSTで洗浄し、室温でHoechst 33258(1μg/mL;Sigma-Aldrich)によって10分間対比染色した。細胞とファージとの結合及び位置決めについては、共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 700)によって蛍光分析を行った。
【0048】
<滑膜及び半月板ではなく骨関節炎軟骨を標的とするペプチドの選択>
【0049】
ヒト骨関節炎の軟骨標本は、関節組織と結合する標的ファージの位置決めをチェックすることに用いられる。パラフィン包埋切片のヒト骨関節炎組織、滑膜及び半月板は、中国医薬大学及び付属医院研究倫理委員により承認された臨床試験プログラム(IRB番号CMUH108-REC1-046とT-CMU-23728)のヒト骨関節炎手術の治療標本に由来する。前記試験は、既に書面によるインフォームドコンセントを取得し、全てのヒト組織サンプルに対して匿名でコードした。全ての切片の何れに対しても、標準法によって乾燥、脱パラフィン化及び再水和を行って、次にC5-87、C5-66、C5-83、C5-91、C5-24、E5-8及びC5-46ファージクローン又は対照ファージ(5×108pfu/μl)と一緒にインキュベートした。洗浄後、切片を室温で抗M13マウスモノクローン抗体(GE Healthcare)によって1時間処理した。複数回の洗浄工程の後で、ビオチンを含まない超高感度重合体-HRP検出システム(Biogenex、Fremont、CA、USA)によってその免疫反応性を検出した。前記ガラススライドをヘマトキシリンによって軽く対比染色して、Aquatex(Merck、Darmstadt、Germany)によって取り付け、後で光学顕微鏡でチェックした。ファージクローンにおいて滑膜又は半月板ではなく軟骨細胞と著しく結合されるようになったペプチド配列を選択して、後の研究のために合成を行った。
【0050】
<ラットの骨関節炎モデルの樹立>
【0051】
ラットの骨関節炎モデルを、前記と僅かに異なるように樹立した。つまり、本研究では、体重がちょうど300gである雄のSDラットを使用した。全ての動物実験も中国医薬大学実験動物照護及び使用委員会により認可された。ラットを標準的な実験室の条件下(温度24℃、明暗サイクル12時間)で飼育し、標準食及び飲用水道水を摂取させた。ラットを、各注射の前に流速70ml/minの2.5%イソフルラン(Abott、USA)によって麻酔した。ラットの関節に骨関節炎を発生させるように、各群のラットの右膝に賦活剤である0.2mlの4%パパイン溶液(Sigma-Aldrich、USA)と0.1mlの0.03Mシステイン(Sigma-Aldrich、USA)を注射した。各群のラットの左膝に同じ用量の食塩水を注射した。前記の注射をそれぞれ4日目及び7日目に繰り返して行い、最後のパパイン注射の2週間後に、ラットの膝を取って組織学分析を行って骨関節炎の形成を確認した。以下の実験では、更に、樹立されたラットの骨関節炎モデルによって関節内注射を行った。
【0052】
<ローダミン標識されたC5-24ペプチドの調製及び2光子顕微鏡観察>
【0053】
C5-24ペプチドの骨関節炎に特異的な標的活性を証明するために、骨関節炎の軟骨に結合できないDYLWQYPDITWHペプチドは、スクランブルペプチドとして用いられた。ローダミン標識されたC5-24ペプチド及びスクランブルペプチドをそれぞれ非骨関節炎(対照群)又は酵素により誘導された骨関節炎ラットの関節に注射した。C5-24ペプチド及びスクランブルペプチドを化学的に適宜に合成(ABI、USA)して、クリック反応によってHEPES緩衝溶液(pH8.0)においてビオチン-PEG2-ヨードアセチル基ブリッジ架橋分子によって修飾され、更にストレプトアビジンで標識されたローダミン(JacksonImmuno、USA)と連結して、ddH2Oにおいて分画分子量4Kによって透析して、標識されていないローダミンを除去した後で、-20℃の条件下で凍結乾燥させた。40μlのPBSにおける1μgローダミン標識ペプチドのアリコートを30G針によって関節内注射した。
【0054】
ラットの膝を注射後の1日目に取り除き、その大腿骨及び脛骨組織を完全に洗浄し、後で、PBSに浸して、2光子顕微鏡による観察のために3.5cmのディッシュに正確に取り付けた。顕微鏡システムとしてセンター波長810nm、パルス反復周波数76MHzの近赤外フェムト秒レーザー(Mira 900、Coherent、USA)によって動作させ、且つパルス幅200fsでイメージングした。レーザーパワーは、SHG及びTPEFを確かに発生させるように20mWに制御され、連続照明過程中の光損傷を防止できる。そのため、コラーゲン繊維に由来するSHGの波長は405nmであり、コラーゲン、エラスチン、FAD及びNADHに由来するTPEFの波長は約450~650nmであった。全ての画像は、レーザースキャナ(Fluoview 300、Olympus、Japan)、レーザーを収束し及び光子を集めるための2つの対物レンズ(UPlanSApo 20×/0.75、Olympus、Japan)及びSHG及びTPEFをそれぞれ検知するための2つの光電子増倍管(R3896、Hamamatsu、Japan)によって得られた。SHG及びTPEFは、バンドパスフィルタ(FF01-405/10、Semrock、USA)と着色ガラス(BG39、Schott、Germany)との組み合わせによって、強励起されたレーザーバックグラウンドから濾過された。次に、ダイクロイックミラー(FF435-Di01、Semrock、USA)で分離し、遡及的に検出した。ここで、立方体偏光ビームスプリッタ(GT10-B、Thorlabs、USA)を半波長のテストボード(AHWP05M-980、Thorlabs、USA)と1/4波長テストボード(AQWP05M-980、Thorlabs、USA)に合わせて、それぞれLP及びCPイメージングを例示した。集束対物レンズの直線偏光消光比が50:1よりも大きく且つ円偏光の楕円率(Imax/Imin)が1.1よりも小さくなる場合にのみ、後の双光子イメージングに用いられることができる。取得した画像を、主にImageJ/FiJiソフトウェア(National Institutes of Health、Bethesda、MD、USA)によって処理及び分析した。第2高調波の生成した画像で再構成されたコラーゲンIIの構造(
図1A)は、軟骨細胞(黒い領域)の周りに嵌合した多孔質コラーゲン繊維の相互接続された構造(緑)となっていた。
【0055】
<C5-24ペプチドコンジュゲート超常磁性酸化鉄(SPIO)の調製及び赤外線スペクトル>
【0056】
C5-24ペプチド及びスクランブルペプチドを化学的に合成し、同時に、直径50nmのアミノシラン改質SPIO粒子(Chemicell GmBH、Germany)をスクシンイミジル-[(N-マレイミドプロピオンアミド)-テトラエチレングリコール]エステル(Thermo Fisher Scientific、USA)と架橋して、pH8.5の炭酸水素ナトリウム緩衝溶液でアミド結合を形成する。次に、pH7.2の条件下でペプチドにおけるシステイン上のメルカプト基と相互作用によって安定したチオエーテル結合を形成し、分画分子量10KのddH2Oで透析を行って遊離型のペプチド、架橋分子、塩類及び脱離基を除去し、減圧状態で更に濃縮し、PBSで再懸濁させ、2週間を超えない期間、実験のために4℃の環境に保存した。ペプチドのSPIOへの導入を分析するために、調製されたSPIOの一部を凍結乾燥して、1:100wt./wt.の臭化カリウム(KBr)によって完全に研磨し、次に赤外分光分析(Perkin Elmer、USA)に用いるために、200pound/inch2の圧力によって圧縮してシートに形成した。赤外線スペクトルは、400~4000 1/cmの周波数で走査し、それぞれ透過モードでの赤外線スペクトルの特徴群及び指紋領域分子群を記録した。
【0057】
<ラット骨関節炎の磁気共鳴イメージング(MRI)の分析>
【0058】
結果に示すように、ラットに対して、指定の時点で吸引麻酔を実行してMRI走査を行った。MRI走査は、台湾中央研究院生物医学研究所の4.7T MR走査システム(Bruker BioSpin、Germany)を使用した。T1強調及びT2強調の矢状断面は、下記のように設定された。ファストスピンエコー系列で、繰り返し時間は2000msであり、回波時間は72msであり、切片の厚さは1mmであり、層間ギャップは1mmであり、256マトリックスであり、TEは60であり、TRは2000であり、視野は60mmであり、平均数は2であった。体積60mmの共振器及び直径2cmの表面受信コイルによって画像分解能及び質量を最大化した。MRI断層スキャナのDICOMsとして、Osirix MD(Osirix Ltd.、USA)によって分析した。
【0059】
<ミニブタ骨関節炎モデル、C5-24ペプチドコンジュゲートSPIOの関節内注射及び3T-MRI分析>
【0060】
前十字靭帯(ACL)切断術による骨関節炎の樹立に関しては、台湾蘭嶼ミニブタ(9ヶ月、体重約50~60kg)に対してStresnil(20mg/kg)及び硫酸アトロピン(0.02mg/kg)を筋肉内(i.m.)注射して麻酔し、次に15分後にZoletil(登録商標)50(4mg/kg、Virbac Animal Health、France)を筋肉内注射した。膝関節がより均質である群を取得するために、本研究は、雌ブタしか含まなかった。手術過程中に、続けて酸素(流速1.5L/min)、亜酸化窒素(流速1L/min)及び1%のイソフルランを含むガスによって動物を麻酔した。動物の右後肢を洗浄して滅菌状態で被覆した。セファゾリン(2g)を静脈内注射した後で、膝蓋骨から脛骨粗面まで約7cmの皮膚切り口を切った。その後、膝関節を内側から膝蓋骨靭帯へと開けて膝蓋骨を部分的に脱臼させた。次に、前十字靭帯をクリップで固定し、外科用刃によって遠位端で切断した。前記切断された前十字靭帯の自然治癒を避けるために、別に、電気関節固定機構によって近位に切除した。無菌の0.9%食塩水溶液でよく洗い流した後で、1-0 VICRYL(登録商標)縫合糸(Ethicon、USA)によって皮膚切り口を層状に縫合した。この後、ミニブタは正常に歩行及び活動できるようになった。MRI走査は、台湾NARLabs機械技術研究センターの3T MR走査システム(Achieva x 3.0、Philips、Germany)によって指定の時点で行われた。T1強調及びT2強調の矢状断面は、下記のように設定された。ファストスピンエコー系列で、繰り返し時間は2000msであり、回波時間は72msであり、切片厚さは3mmであり、512マトリックスであり、TEは200であり、TRは3500であり、視野は60mmであり、平均数は2であった。MRI断層スキャナのDICOMsとして、Osirix MD(Osirix Ltd.、USA)によって分析した。
【0061】
<C5-24ペプチド及びスクランブルペプチドとコンジュゲートするヒアルロン酸(HA)の調製>
【0062】
ペプチドとコンジュゲートするHAは前記のように合成したが、僅かに修正した。つまり、まずMeHAを、無水メタクリル酸(94%、M.W.154.17;Sigma)と1%(wt/vol)のHA(ヒアルロン酸ナトリウム粉末、分子量約110~150kDa、キッコーマン株式会社)からpH8の脱イオン水で反応させて合成して、透析(分画分子量6~8kDa)によって精製して凍結乾燥させた。中間体MeHAのマクロモノマーのメタクリル化の効率を1H NMRによって推定した。C5-24ペプチド及びスクランブルペプチドの何れも、C端にシステイン残基があるので、メルカプト基のMichael-Addition反応とMeHA反応を可能にした。MeHAマクロモノマー及びペプチドをトリエタノールアミン緩衝食塩水(TEOA buffer、0.2 M TEOA、0.3M total osmolarity、pH8.0)に溶解させて、ペプチドコンジュゲートを行うように37℃で一晩維持した。ペプチドにコンジュゲートしたHAをカットオフ分子量12KのddH2Oにおいて透析して、遊離型のペプチド、TEOA、塩類及びMAを除去した後で、更に凍結乾燥させて室温で保存した。HAにコンジュゲートしたペプチドを0.1Mの酸において溶解させて、1H NMRを行ってペプチドのコンジュゲート効率を推定した。
【0063】
<潤滑剤性能の分析>
【0064】
大腿骨から集めたヒト関節軟骨サンプルを調製して潤滑に用いる試験として、以前の刊行物の内容を僅かに修正した。中国医薬大学及び付属医院研究倫理委員会の厳格な監督の下で、人工膝関節全置換術を受けた患者からヒト骨関節炎の軟骨サンプル(IRB番号CMUH108-REC1-046とT-CMU-23728)を切り取って、解剖の過程中に関節の表面を損傷させないように気を付けた。単一の患者の骨関節炎の軟骨表層を無傷にして、打ち抜いて切断して、それぞれ直径8.0mm及び6.0mmの円盤を取得し、且つレオメーターにおいて摩擦計測を行う場合に軟骨の深層しか切断せずに、1つを取得して特別に設計された試験モジュールの金属反面に接着した。軟骨としては、新鮮なものを使用し、且つその表面潤滑性能を変えないように、凍結もせず、プロテアーゼ阻害剤も添加されなかった。サンプルをPBSにおいて激しく一晩洗浄して、軟骨表面に残されたすべての潤滑液を完全に枯渇させて、少なくとも3群に分けた。結果に示すように、軟骨円盤を1mlの最初のHA又はペプチド変性のHA(PBSにおける1%HA)で2時間プレインキュベートして、非変性のHA又はペプチド変性のHAと軟骨円盤とを結合させ、次にそれを試験モジュールにおける10mlのPBSに浸して、摩擦試験に用いられるようにレオメーター(HR-1、TA Instrument Ltd.、USA)に取り付けた。
【0065】
製造元の指示によると、レオメーターは、標準法によって初期値を「0」にセットし、次に、サンプルをレオメーターに担持した後で、電子キャリパーによって軟骨サンプルの初期高さを算出した。サンプルを平行平板構成によってシアノアクリレート接着剤を介して頂上部及び底部のレオメーター固定装置に接着した。軟骨及び金属固定装置の表面に、1層の接着剤が薄く接着された。6.0mmのサンプル表面が8.0mmの表面の頂上部に位置決めされていた。サンプル表面間の不十分な接触、荷重値の変動を避け、高さ計測の誤差を最小限にするために、0.01Nの荷重値になるまで、頂上部のサンプルを低下させて底部のサンプルに押し付けた。レオメーターの自動的に感知した対応記録高さを歪み量の算出に用いた。器具は、総軟骨厚さを記録して約14%圧縮時の高さを算出するように設定された。ヒト骨関節炎の軟骨サンプルは、全厚さが約2.5~3.5mmの範囲にあり、乾燥しないように、保護カバーの被覆されたHA/PBS溶液(10mL)による水浴において試験された。各サンプルの適切な整列及び表面不正をすべて検査し、平坦表面を有するサンプルによって実験した。サンプルを試験潤滑剤に浸して元の全高さの86%まで圧縮させ、且つ各方向において0.3mm/sの効果的な摺動速度で2回転して前処理をし、前記速度は角速度に環状の有効半径Reff=2/3[(Ro3-Ri3)/(Ro2-Ri2)]を乗算すると定義された。前記の前処理を2回以上繰り返して、後で3600秒間の応力緩和期間にして、圧縮された軟骨における液体加圧を完全に解消させた。各実験群の平衡垂直応力データに対して記録と計測を行った。潤滑試験を14の段階に分けて行われた。最初の2つの段階は、整理又は事前カット段階として、無視されてもよい。異なる緩和時間の影響を分析するために、段階3、6、9及び12を行った。サンプルが試験の間に1200、120、12及び1.2秒間緩和することを許可した。段階4~5、7~8、10~11及び13~14の期間中に潤滑データを記録した。各段階でも、異なるロータロッド方向及び一定の剪断速度で行った。毎回の試験の過程中にも、トルク(τ)及び軸力(N)を計測して、μk=τ/(Reff×N)の公式に基づいて動摩擦係数μkの瞬間的測定値を求めた。アライメント用の平均μkは、瞬間的μk値に対して、各方向での2回目の回転で平均値を取って生成された。静摩擦係数は、試験の起動期間に最大トルク値で瞬間的μs=τmax/(Reff×N)として算出された。実験後、軟骨表面の約14%の圧縮による中央の窪みを検証した。
【0066】
<ラット間葉性幹細胞の単離、及びSPIOで標識されC5-24ペプチドにコンジュゲートしたHAの伝達>
【0067】
ラット間葉性幹細胞は、前記のように単離され、増幅される。つまり、2匹の8~10週齢のSprague-Dawley雌性ラット(BioLASCO Taiwan Co Ltd、Taipei、Taiwan)から集めた大腿骨の軟組織を無菌的に単離した。骨髓における単核細胞を密度勾配遠心法によって単離して完全培地(CCM:16.6%のウシ胎児血清、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン及び2mMのL-グルタミンのα-MEMを含む)に懸濁させ、次に1×105/cm2の密度によってディッシュに播種した。24時間後、培地を洗浄及び交換することにより、非接着性細胞を除去した。細胞がサブコンフルエントとなる場合は、細胞(継代0)を集めて更に継代培養した。次に、細胞を100細胞/cm2の密度でCCMに植えて成長させて、培地を毎週2回交換した。この研究に使用された間葉性幹細胞は、3~4継代であった。
【0068】
超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPIO)で標識された間葉性幹細胞の点で、50μg/mLのSPIO(Chemicell GmbH、Gemany)と0.75μg/mLのポリ-L-リジン(Sigma Aldrich、USA)を培地で予混合させ、室温で1時間放置した。SPIOナノ粒子を内在化するために、間葉性幹細胞をウェルあたり4×104個の細胞の密度で6ウェルプレートに播種し、24時間成長させた後で、PBSで完全に洗浄した。次に、間葉性幹細胞をマイクロチューブに集めて、1×106個の細胞/200μlの濃度で37℃の条件下で無血清培地における2%のC5-24ペプチドコンジュゲートHAと一緒に30分間インキュベートした。関節腔内注射の点で、HA封入の間葉性幹細胞の体積を、25μlに1×106個の細胞を含むまで減少させて、骨関節炎ラットの膝関節の滑液包に精密に注射した。
【0069】
<組織学、免疫細胞蛍光と免疫組織化学分析及び共焦点顕微鏡観察>
【0070】
HA封入の間葉性幹細胞移植の組織学分析の点で、結果に示すように、ラットを移植後の時点で犠牲死させて膝関節全体を切除し、膝関節を4%のパラホルムアルデヒド(PFA)を含むPBSによって固定し、次に0.5MのEDTAで2週間脱灰してパラフィンに包埋して、矢状方向に沿って5μmの厚さに連続切片した。標準法によって調製された大腿骨の中央の連続切片に対して、H&E染色、プルシアンブルー染色及びサフラニンO染色を行って、位相差顕微鏡(Carl Zeiss)によって観察した。H&E染色の点で、脱パラフィンのスライドに対して連続して再水和処理を行って、Lillie Mayerヘマトキシリン(Sigma Aldrich、USA)で10分間染色し、またエオシンY(Sigma Aldrich、USA)で30秒間染色し、最後に一連の脱水、洗浄及び固定を行った。プルシアンブルー染色されたガラススライドの調製は、H&E染色に類似し、再水和されたガラススライドを5%のフェロシアン化カリウムを含む10%のHCl溶液(Sigma Aldrich、USA)で20分間染色し、またファストレッド(Fast Red)で対比染色し、最後に脱水して定型し、洗浄して樹脂によってゲル及びスライドを固定した。サフラニンO染色の点で、再水和されたスライドをまず0.05%のファストグリーン(Fast Green)溶液で3分間染色し、その後、0.1%のサフラニンO染色溶液で5分間染色し、最後に、洗浄して樹脂ゲルによって固定した。
【0071】
HA封入の間葉性幹細胞の共焦点顕微鏡観察に関しては、HAをメタクリル化させてPBSで調製された2%のAlexa-488蛍光染料とコンジュゲートさせた。間葉性幹細胞をマイクロチューブに集めて製造元の説明に基づいてDil3蛍光染料で標識(Invitrogen、USA)し、37℃のHA溶液において30分間インキュベートした。その後、それをガラススライドに滴下して、直ちに共焦点顕微鏡(Leica)によって観察し、その後、ImageJ Fiji(NIH)によって3D画像を再構成した。
【0072】
<親和性吸着、液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC-MS/MS)及びELISAによるC5-24ペプチドの標的タンパク質の同定>
【0073】
C5-24ペプチド鎖の結合先を同定するために、ヒト骨関節炎の軟骨サンプルを、親和性吸着のために均質化した。まず、PBSにおける1mg/mlのビオチン変性されたC5-24ペプチドを軟骨均質化液に添加して、4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、ペプチド-と標的タンパク質とを架橋させるように、DTSSP溶液を最終濃度が2mMになるまで加えた。前記反応混合物を室温で30分間回転しながらインキュベーションした。前記反応系を1MのTris塩基によって停止させた。第1の溶解緩衝溶液(100mMの酢酸トリスにおける1M NaCl、pH8.0)によって4℃で軟骨細胞を24時間溶解した後で溶解物を遠心分離し、次に第2の溶解緩衝溶液(50mM酢酸ナトリウムにおける4Mの塩酸グアニジン、65mM DTT、10mM EDTA、pH5.8)によって4℃で24時間再反応した。遠心分離後、残した塩酸グアニジンを確実に除去するように、グアニジニウム抽出物と100%のアルコール(体積比5:1)を-20℃で16時間混合させた。次に16,000×g及び4℃の条件下で45分間遠心分離して、標的タンパク質を分層して沈殿させてから、90%のアルコールによって沈殿物を洗浄して乾燥させ、100μg/mLのペプシンを含む100mMの酢酸によって再構成した。MyOneストレプトアビジンC1 Dynabeads(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)をタンパク質溶解物に加えて、1時間よく混合した。免疫磁気分離法によってペプチド-タンパク質複合体を抽出可能であった。最後、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(Bio-Rad)で精製されたタンパク質を単離して、SilverQuest銀染色キット(Invitrogen)によって銀染色を行った。
【0074】
染色されたタンパク質バンドを小片に切って、50%のACNを含む10mMの炭酸水素アンモニウム(ABC、Sigma、St Louis、MO)によって5分間洗浄することを3回繰り返した。ゲル断片を100%のCANによって脱水して、また1ng/μlのトリプシン(Promega、Madison、WI)を含む25mMのABC溶液(pH8.2)によって再水和してから、37℃で一晩インキュベートした。分解後、トリプシンペプチドを、1%のFAを含む50%ACN溶液によってゲルから抽出して、遠心濃縮機によって乾燥させた。ペプチド断片をLC-MS/MSによって同定した。LC-MS/MSは、イオントラップ質量分析計(HCTultra PTM discovery、Bruker、Billerica、MA)をUltimate 3000 nanoLCシステム(Dionex、Sunnyvale、CA)にオンライン接続させることで運行された。サンプルを吸着カラム(C18、5μm、1mm×5mm、Dionex、Sunnyvale、CA)に注入して、流速300nl/minで逆相カラム(Atlantis C18、3μm、75μm×150mm、Waters、Milford、MA)を通過させてオンライン分離した。ペプチドは、6分間内にH2O/ACNの勾配2%~40%で溶剤B(100%のACN、0.1%のFA)から溶出され、24分間内に40%~70%で溶剤Bから溶出された。MS及びMS/MSの走査範囲は、それぞれ400~1600m/z及び100~2500m/zであった。ELISA検証された後で、MASCOT(Matrix Science、London、UK)及びTurboSequestサーチエンジン(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)によってスイスプロテインデータベースを検索することでタンパク質候補物を同定した。
【0075】
まず、ELISAプレートを室温で塗工液(0.5MのNaHCO3)でのコラーゲンalpha-3(VI)及びコラーゲンalpha-1(XII)にて2時間コートし、4℃の条件下で5%の牛乳/TBSTによって一晩ブロックした。ビオチン変性されたペプチドをELISAプレートに加えて、室温で1時間インキュベートした。その後、PBSで洗浄し、HRPのコンジュゲートされたマウス抗M13抗体(GE Healthcare Biosciences)によってビオチン変性されたペプチドを検知した。ビオチン変性されたペプチドと公知のコラーゲンalpha-3(VI)又はコラーゲンalpha-1(XII)との結合を、HRPコンジュゲートのストレプトアビジン(Thermo Pierce Biotechnology Scientific)によって検出した。前記ウェルプレートをPBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼ基質O‐フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD;Sigma)と共にインキュベートした。前記反応を3NのHClによって停止させて、酵素免疫測定器によって490nmでの吸光度を計測した。
【0076】
<C5-24ペプチドドッキング標的のホモロジーモデリング>
【0077】
開発者の指示に応じてDassault Systems(BIOVIA、Discovery Studio Modeling Environment、Release 2019、San Diego、USA)によって分子モデル化して、選択されたファージクローンの軟骨組織での結合標的を更に確認した。つまり、Uniprotデータベースから検索されたヒト、マウス及びブタのColXII基準配列コードは、それぞれQ99715、Q60847及びF1RQI0であった。BLAST結果からのテンプレート(PDB code:1FNF、2B2X、2UUR)に基づいて、MODELERによって3つのヒトColXIIホモロジーモデルの異なる部分を樹立した。第1のヒトColXIIモデルの長さはL1385~S2285であり、テンプレート1FNFと30%の同一性を有し、これはフィブロネクチンの構造を示しており、且つ高度に保存された構造トポロジーのためモデル化は可能であった。第2及び第3のヒトColXIIモデルはそれぞれK2321~L2513及びS2506~P2724であり、それぞれテンプレート2B2X及び2UURと31%及び36%の配列同一性を有していた。全てのホモロジーモデルに対してまずPDF全エネルギー、DOPE(タンパク質エネルギーの離散最適化)、スコア検証及びRamachandran画像検査をして、合理的な主鎖及び側鎖構造を取得するように構造を最適化した。IHCで最も有望な結果のため、最も代表的なタンパク質テンプレートは、C5-24及びC5-91ペプチド鎖の結合部位及び構造の予測に用いられた。その後、可能な結合領域を検索するように、ZDOCKによってタンパク質-ペプチドドッキングを行った。Z_Dockスコア及びE_R_Dockスコアは、ペプチドと標的タンパク質テンプレートとのドッキング能力及び正確性を検証するために用いられた。
【0078】
<統計分析>
【0079】
前記した一連のデータを平均値±SDと表し、スチューデントのt検定又は単一因子独立変異データ分析(ANOVA)によって統計アライメントを行い、p値<0.05を有意とみなした。全ての計算も、中国医薬大学により承認された統計分析システム(SAS)によって行われた。示された全てのインビボのデータは、何れも独立した実験を少なくとも3回実施したことを表す。
【0080】
本発明を実施形態によって以上の通りに開示したが、他の実施形態も可能である。そのため、特許請求の範囲の精神や範囲は、含まれる実施例の記述に限定されない。
【0081】
当業者であれば、本発明の精神や範囲から逸脱せずに、各種の変更や修正を加えてもよいので、本発明の保護範囲は特許請求の範囲の定めたものを基準とする。
【配列表】