(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/022 20170101AFI20240415BHJP
H04L 27/10 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
H04B7/022
H04L27/10 Z
(21)【出願番号】P 2020003583
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 芳人
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-166293(JP,A)
【文献】特開平07-107128(JP,A)
【文献】特開2003-324492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0101481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/022
H04L 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局と、
前記複数の基地局のそれぞれから送信される無線信号を受信する端末と、を有し、
前記複数の基地局は、それぞれ、
前記端末へと送信する通信データを構成するシンボル値の系列に基づいて周波数変調処理を行って送信周波数系列を生成する変調部と、
前記送信周波数系列に基づいて周波数を変化させた無線信号を送信する送信部と、を備え、
前記端末は、
前記無線信号を受信して前記無線信号の前記周波数を検出して受信周波数系列を生成する受信部と、
前記受信周波数系列に対して周波数復調処理を施して復調系列を生成する復調部と、
前記復調系列に対してシンボル化処理を施して復号シンボル系列を生成するシンボル化部と、を備え、
前記周波数変調処理、前記周波数復調処理、および前記シンボル化処理で用いられる、周波数値の配列、前記周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値、およびシンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応が予め定められ、
前記周波数値の配列における前記スタート位置の周波数値が、前記複数の基地局のそれぞれで相互に異なって
おり、
前記周波数値の配列が、前記複数の基地局全てにおいて共通であり、
前記シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応が、前記複数の基地局全てにおいて共通である、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記周波数変調処理および前記周波数復調処理において周波数が相互に異なる4個の搬送波が使用され、前記シンボル値の個数が4個である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに関し、特に複数の基地局からの無線信号同士の干渉を回避する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の基地局から同一の信号を同一周波数で同時に端末へと向けて送信する無線通信システムが存在する(特許文献1)。また、無線通信における変調方式の一つとして、送信信号に応じて搬送波の周波数を変化させて多値のデータを送受信する多値FSK(Frequency Shift Keying の略)方式が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の基地局から同一の信号を同一周波数で同時に端末へと向けて送信する無線通信システムでは、基地局から送信される無線信号を端末が受信できない事態を防ぐために、各基地局から送信される無線信号(電波)が届く範囲(即ち、通信エリア)の一部が相互に重なるように調整される。このため、複数の基地局それぞれから送信される電波同士が相互に干渉するエリア(「干渉エリア」と呼ぶ)が生じる。そして、干渉エリア内では、或る受信地点で、複数の無線信号が同一レベルかつ逆相(即ち、位相が相互に180°反転した状態)になって合成されると、同一波干渉(即ち、ビート干渉)により信号が消失してしまう。ビート干渉による信号消失が発生する地点は、通信エリア(具体的には、干渉エリア)の一部に縞状に分布する。この縞とは、距離軸でみたとき、複数(例えば、2つ)の基地局から送信される無線信号の合成波の節にあたる部分である。この節にあたる位置に端末があると、当該端末は時間軸でみるとずっと信号はゼロのままで、なんら情報を受取ることができなくなってしまう。一方で、2つの信号に僅かでも周波数オフセットがあると、端末においては、時間軸でみてずっと信号がゼロという事態はなくなる。例えば2つの基地局から送信される無線信号の間に周波数オフセットを与えれば信号ゼロを回避できる。しかし僅かな周波数オフセットでは、時間軸でみたときの包絡線変動周期が長く、信号パワーの落ち込み時間も長くなりバーストエラーの原因になってしまう。しかしながら、大きな周波数オフセットを与えることは電波法規上許容されない。
【0005】
基地局からの信号同士の干渉を回避する無線通信システムとして、互いに隣接する第1基地局と第2基地局とを含む複数の基地局と、複数の基地局に接続される中央制御装置とを有し、複数の基地局のそれぞれは、中央制御装置からの通信データを4値FSK変調して移動局に送信する無線通信装置を有し、第1基地局の無線通信装置は第1マッピングに基づき4値FSK変調を行い、第2基地局の無線通信装置は第1マッピングと異なる第2マッピングに基づき4値FSK変調を行い、第1基地局及び第2基地局の無線通信装置は、それぞれ通信データを移動局へ送信するものがある(特開2018-166293号公報)。しかしながら、この無線通信システムでは、端末側で第1マッピングなのかあるいは第2マッピングなのかを判別しないと端末で復号することができない、という問題がある。
【0006】
そこで本発明は、複数の基地局から同一の信号を同時に端末へと向けて送信する際のビート干渉の発生を防止することが可能な無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の基地局と、前記複数の基地局のそれぞれから送信される無線信号を受信する端末と、を有し、前記複数の基地局は、それぞれ、前記端末へと送信する通信データを構成するシンボル値の系列に基づいて周波数変調処理を行って送信周波数系列を生成する変調部と、前記送信周波数系列に基づいて周波数を変化させた無線信号を送信する送信部と、を備え、前記端末は、前記無線信号を受信して前記無線信号の前記周波数を検出して受信周波数系列を生成する受信部と、前記受信周波数系列に対して周波数復調処理を施して復調系列を生成する復調部と、前記復調系列に対してシンボル化処理を施して復号シンボル系列を生成するシンボル化部と、を備え、前記周波数変調処理、前記周波数復調処理、およびシンボル化処理で用いられる、周波数値の配列、前記周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値、およびシンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応が予め定められ、前記周波数値の配列における前記スタート位置の周波数値が、前記複数の基地局のそれぞれで相互に異なっており、前記周波数値の配列が、前記複数の基地局全てにおいて共通であり、前記シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応が、前記複数の基地局全てにおいて共通である、ことを特徴とする無線通信システムである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信システムにおいて、前記周波数変調処理および前記周波数復調処理において周波数が相互に異なる4個の搬送波が使用され、前記シンボル値の個数が4個である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、複数の基地局のそれぞれの周波数値の配列におけるスタート位置を相互に異なる位置(言い換えると、相互に異なる周波数値)に設定した上で、シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応を用いることにより、複数の基地局から同期して複数の無線信号(電波)が送信されて端末が前記複数の無線信号を同時に受信する場合に、前記複数の無線信号の周波数値が相互に重ならないようにすることができ、複数の基地局から同一の信号を同時に端末へと向けて送信する際のビート干渉の発生を防止することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、4値FSK方式の周波数変調処理を利用して比較的容易に通信の仕組みを構築することができ、無線通信技術として汎用性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の実施の形態に係る無線通信システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1の無線通信システムの基地局の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図1の無線通信システムの端末の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】実施の形態における周波数値の配列を説明する図である。
【
図5】実施の形態におけるシンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応を説明する図である。
【
図6】実施の形態における基地局3Aにおける変調の例を説明する図である。
【
図7】実施の形態における基地局3Bにおける変調の例を説明する図である。
【
図8】実施の形態における基地局3Aから送信される無線信号と基地局3Bから送信される無線信号との合成波を示す図である。
【
図9】実施の形態における基地局3Aから送信された無線信号を受信した端末での周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量の演算の例を示す図である。
【
図10】実施の形態における基地局3Bから送信された無線信号を受信した端末での周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量の演算の例を示す図である。
【
図11】実施の形態における基地局3Aから送信された無線信号と基地局3Bから送信された無線信号とを受信した端末での周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量の演算の例を示す図である。
【
図12】実施の形態におけるシンボル化処理の例を説明する図である。
【
図13】実施の形態に係る無線通信システムの動作手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0013】
図1は、この発明の実施の形態に係る無線通信システム1を示す概略構成図である。この無線通信システム1は、無線通信を行うためのシステムであり、制御局2と、複数の基地局3と、これら基地局3との間で無線通信を行う端末4とを有する。なお、複数の基地局の各々を区別する必要がない場合には「基地局3」と表記し、複数の基地局の各々を区別する場合には「基地局3A」,「基地局3B」などと表記する。
【0014】
制御局2は、端末4へと送信する通信データ(具体的には、デジタルデータ信号やデジタル音声信号)を生成して各基地局3へとデジタル伝送する。
【0015】
複数の基地局3のそれぞれは、例えば光回線や無線によるエントランス回線21によって制御局2と通信可能に接続されている。この実施の形態では、基地局3Aと基地局3Bとの2つの基地局が制御局2と通信可能に接続されている。
【0016】
各基地局3は、制御局2から受信した通信データを端末4への送信用の送信データに変換して、端末4へと無線により送信する。基地局3Aから送信される無線信号(電波)が届く範囲(即ち、通信エリア)と基地局3Bから送信される無線信号(電波)が届く範囲(即ち、通信エリア)とは一部が相互に重なるように調整される。制御局2と通信可能に接続している基地局3Aと基地局3Bとは、制御局2からデジタル伝送される通信データ(フレームデータ)を、端末4に対して、制御局2から供給されるクロック信号(或いは、タイミング信号)を使用してフレーム同期して送信する。
【0017】
上記の構成のため、端末4は、複数の基地局3との位置関係により、1つの基地局3から送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、複数の基地局3から同期して送信された複数の無線信号(電波)を受信したりする。この実施の形態では、端末4が、基地局3Aから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Bから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Aと基地局3Bとから同時に送信された2つの無線信号(電波)を受信したりする。
【0018】
そして、この実施の形態に係る無線通信システム1は、複数の基地局3と、複数の基地局3のそれぞれから送信される無線信号を受信する端末4と、を有し、複数の基地局3は、それぞれ、端末4へと送信する通信データを構成するシンボル値の系列に基づいて周波数変調処理を行って送信周波数系列を生成する変調部31と、前記送信周波数系列に基づいて周波数を変化させた無線信号を送信する送信部32と、を備え(
図2参照)、端末4は、前記無線信号を受信して前記無線信号の周波数を検出して受信周波数系列を生成する受信部41と、前記受信周波数系列に対して周波数復調処理を施して復調系列を生成する復調部42と、前記復調系列に対してシンボル化処理を施して復号シンボル系列を生成するシンボル化部43と、を備え(
図3参照)、周波数変調処理、周波数復調処理、およびシンボル化処理で用いられる、周波数値の配列、周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値、およびシンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応が予め定められ、周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値が、複数の基地局3のそれぞれで相互に異なっている、ようにしている。
【0019】
各基地局3は、この発明に関係する主要な構成(機能ブロック)として、変調部31と、送信部32と、記憶部33と、これらを制御する制御部34とを備えるとともに、アンテナ35を備える(
図2参照)。なお、基地局3について、無線通信を行うための従来と同様の汎用的な構成については説明を省略する。
【0020】
基地局3の記憶部33は、プログラム、データ、および各種の情報を記憶可能な記憶装置であり、例えば、基地局3を動作させるためのプログラムの格納領域として機能したり、通信に纏わる処理を実行する際の作業領域として機能したりなどする。
【0021】
制御部34は、基地局3を構成する各部(各機能ブロック)に対して所定の制御を行うとともに基地局3全体の制御を行うものであり、例えば、CPUなどを用いたプロセッサにより構成されたり、記憶部33に記憶されたプログラムに従って各機能を実現するものとして構成されたりする。
【0022】
変調部31は、通信データを構成する要素の個数と同数のデータ(具体的には、シンボル値)の集合であるデータ系列(「送信シンボル系列」と呼ぶ)に基づいて周波数変調処理を行って前記送信シンボル系列を周波数変調したデータ系列(「送信周波数系列」と呼ぶ)を生成して、送信部32へと転送する。この実施の形態では、送信シンボル系列を構成する要素であるシンボル値として「00」、「01」、「10」、および「11」の4個のシンボル値が伝送される。
【0023】
基地局3と端末4との間では、変調方式として多値FSK(Frequency Shift Keying の略;周波数偏移変調)方式が用いられて無線通信が行われる。N値FSK方式では、無線周波数(無線周波数帯域)が相互に異なるN個の搬送波が使用され、1シンボルでnビットの伝送が行われる。なお、N=2nである(但し、N,nは自然数)。
【0024】
この実施の形態では、4値FSK方式が用いられて2ビットのシンボル値の伝送が行われる。この実施の形態では、また、無線周波数(無線周波数帯域)が相互に異なるf1、f2、f3、およびf4[Hz](但し、f1<f2<f3<f4)である4個の搬送波が使用される。
【0025】
変調部31は、シンボル値と周波数値(周波数帯域)の配列における周波数値の位置の遷移量との対応に基づいて送信周波数系列を生成する。
【0026】
この発明では、周波数値(周波数帯域)の配列が予め定められる。この実施の形態では、
図4に示すように、周波数値を《f1→f2→f3→f4》のように配列する。なお、周波数値「f4」の次は「f1」に戻り、同じ配列が繰り返される。
【0027】
この発明では、さらに、複数の基地局3から同期して送信された複数の無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合の、前記複数の基地局3のそれぞれの周波数値の配列におけるスタート位置が相互に異なる位置(言い換えると、相互に異なる周波数値)に設定される。この実施の形態では、基地局3Aと基地局3Bとから同時に送信された2つの無線信号(電波)を端末4が受信する可能性があるので、基地局3Aと基地局3Bとのそれぞれの周波数値の配列におけるスタート位置が相互に異なる位置(言い換えると、相互に異なる周波数値)に設定される。
【0028】
具体的には、
図4に示すように、基地局3Aについては周波数値の配列における周波数値「f1」がスタート位置に設定され、基地局3Bについては周波数値の配列における周波数値「f2」がスタート位置に設定される。
【0029】
なお、基地局3Aと基地局3Bとに加えて他の基地局3C(図示していない)からも同期して送信された3つの無線信号(電波)を端末4が受信する可能性がある場合には、基地局3Cについては周波数値の配列における周波数値「f3」または「f4」がスタート位置に設定される。
【0030】
この発明では、また、シンボル値と周波数値(周波数帯域)の配列における周波数値の位置の遷移量との対応が予め定められる。この実施の形態では、具体的には、シンボル値「00」と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量「0進む」とが対応し、同様に、シンボル値「01」と遷移量「1進む」、シンボル値「10」と遷移量「2進む」、およびシンボル値「11」と遷移量「3進む」とがそれぞれ対応する。
【0031】
周波数値の配列および周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値、ならびに、シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応は、基地局3各々の記憶部33に予めそれぞれ記憶される。
【0032】
変調部31は、送信シンボル系列におけるL番目のシンボル値を用いた処理に対応する、周波数値の配列における周波数値の位置を現在の周波数位置として保持しておき、この現在の周波数位置と送信シンボル系列におけるL+1番目のシンボル値とを用いて、送信シンボル系列におけるL+1番目のシンボル値を用いた処理に対応する、周波数値の配列における周波数値を特定する(但し、Lは自然数)。例えば、送信シンボル系列におけるL番目のシンボル値を用いた処理に対応する周波数値が「f1」であるとともにL+1番目のシンボル値が「00」である場合には、現在(即ち、「f1」)の周波数位置から「0進む」と周波数値は「f1」であるので(
図4参照)、変調部31は周波数値「f1」を出力する。また、送信シンボル系列におけるL番目のシンボル値を用いた処理に対応する周波数値が「f3」であるとともにL+1番目のシンボル値が「11」である場合には、現在(即ち、「f3」)の周波数位置から「3進む」と周波数値は「f2」であるので(
図4参照)、変調部31は周波数値「f2」を出力する。
【0033】
具体的には例えば、
図5に示すように、送信シンボル系列が[00,00,01,10,11,01,10]である場合には、周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量は順に[0進む,0進む,1進む,2進む,3進む,1進む,2進む]になるので、基地局3Aの変調部31は、
図6に示すように、スタート位置の周波数値「f1」から始めて送信周波数系列として[f1,f1,f2,f4,f3,f4,f2]を出力する。一方、基地局3Bの変調部31は、
図7に示すように、スタート位置の周波数値「f2」から始めて送信周波数系列として[f2,f2,f3,f1,f4,f1,f3]を出力する。
【0034】
基地局3Aと基地局3Bとから同時に送信された2つの無線信号(電波)の合成波(言い換えると、2つの周波数値の組み合わせ)は、
図8に示すようになる。
【0035】
ここで、基地局3Aと基地局3Bとは、制御局2から伝送される送信シンボル系列の内容が同一の通信データを、端末4に対して同期して送信するところ、シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量とを対応させた上で、基地局3Aについては周波数値の配列におけるスタート位置が「f1」に設定され、基地局3Bについては周波数値の配列におけるスタート位置が「f2」に設定されることにより、基地局3Aから送信される無線信号(電波)の周波数変調後の周波数と基地局3Bから送信される無線信号(電波)の周波数変調後の周波数とは必ず異なることになる。
【0036】
また、周波数値の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値の次の周波数値を複数の周波数値の組み合わせの先頭の周波数値として識別することにより、複数の周波数値の組み合わせを、周波数値の順序を区別して一意に特定することができる。具体的には例えば、
図8において、要素の順序の丸1については、受信していない周波数値がf3およびf4であるので、周波数値の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値f4の次の周波数値であるf1を複数の周波数値の組み合わせの先頭の周波数値として識別する(尚、受信していない周波数値f3の次の周波数値f4も受信していないので、受信していない周波数値の次の周波数値はf1になる)。また、要素の順序の丸3については、受信していない周波数値がf1およびf4であるので、周波数値の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値f1の次の周波数値であるf2を複数の周波数値の組み合わせの先頭の周波数値として識別する(尚、受信していない周波数値f4の次の周波数値f1も受信していないので、受信していない周波数値の次の周波数値はf2になる)。なお、端末4が3つの無線信号(電波)を同時に受信する場合も、受信していない周波数値が1つあるので、受信していない周波数値の次の周波数値を複数の周波数値の組み合わせの先頭の周波数値として識別することができる。
【0037】
言い換えると、この発明では、シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量とを対応させた上で複数の基地局3のそれぞれの周波数値の配列におけるスタート位置を相互に異なる位置(言い換えると、相互に異なる周波数値)に設定することにより、複数の基地局3から同期して複数の無線信号(電波)が送信されて端末4が前記複数の無線信号を同時に受信する場合に、前記複数の無線信号の周波数値が相互に重ならないようにしている。この発明では、さらに、周波数値の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値の次の周波数値を複数の周波数値の組み合わせの先頭の周波数値として識別することにより、端末4が前記複数の無線信号を同時に受信する場合に、前記複数の無線信号の周波数値の組み合わせが周波数値の順序を区別して一意に特定されるようにしている。
【0038】
付け加えると、この発明では、シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応は、複数の基地局3および端末4の全てにおいて共通である。また、周波数値の配列も、複数の基地局3および端末4の全てにおいて共通である。一方で、周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値は、複数の基地局3のそれぞれで相互に異なる。なお、端末4は、周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値を把握している必要はない。
【0039】
なお、複数の周波数値の組み合わせにおける先頭の周波数値を識別するためには、端末4が複数の無線信号(電波)を同時に受信した際に、通信に用いる周波数値(周波数帯域)の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値が少なくとも1つあることが必要である。したがって、端末4が同時に受信する可能性がある無線信号(電波)の最大値は、周波数変調処理において使用される搬送波の個数をM個とした場合、M-1個以下になるように調整される(但し、Mは自然数)。具体的には例えば、周波数変調処理において4個の搬送波が使用される場合には、端末4が同時に受信する無線信号が3個以下になるように、例えば複数の基地局3の配置などが調整される。また、周波数変調処理において8個の搬送波が使用される場合には、端末4が同時に受信する無線信号が7個以下になるように、例えば複数の基地局3の配置などが調整される。
【0040】
送信部32は、変調部31から転送される送信周波数系列の入力を受け、送信周波数系列に対して送信処理を施して得られる無線信号を、言い換えると、送信周波数系列に従って周波数を変化させた電波を、アンテナ35から端末4へと向けて無線送信する。
【0041】
端末4は、基地局3から送信される無線信号(電波)を受信して所定の変換処理を行う。端末4は、複数の基地局3との位置関係により、1つの基地局3から送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、複数の基地局3から同期して送信された複数の無線信号(電波)を受信したりする。この実施の形態では、端末4が、基地局3Aから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Bから送信された1つの無線信号(電波)を受信したり、基地局3Aと基地局3Bとから同時に送信された2つの無線信号(電波)を受信したりする。
【0042】
端末4は、この発明に関係する主要な構成(機能ブロック)として、受信部41と、復調部42と、シンボル化部43と、記憶部44と、制御部45とを備えるとともに、アンテナ46を備える(
図3参照)。なお、端末4について、無線通信を行うための従来と同様の汎用的な構成については説明を省略する。
【0043】
端末4の記憶部44は、プログラム、データ、および各種の情報を記憶可能な記憶装置であり、例えば、端末4を動作させるためのプログラムの格納領域として機能したり、通信に纏わる処理を実行する際の作業領域として機能したりなどする。
【0044】
この発明では、記憶部44に、特に、シンボル値と周波数値(周波数帯域)の配列における周波数値の位置の遷移量との対応が予め記憶されるとともに、周波数値の配列が予め記憶される。すなわち、この実施の形態では、シンボル値「00」と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量「0進む」とが対応し、同様に、シンボル値「01」と遷移量「1進む」、シンボル値「10」と遷移量「2進む」、およびシンボル値「11」と遷移量「3進む」とがそれぞれ対応すること、ならびに、周波数値の配列が《f1→f2→f3→f4》であることが、記憶部44に予め記憶される。
【0045】
制御部45は、端末4を構成する各部(各機能ブロック)に対して所定の制御を行うとともに端末4全体の制御を行うものであり、例えば、CPUなどを用いたプロセッサにより構成されたり、記憶部44に記憶されたプログラムに従って各機能を実現するものとして構成されたりする。
【0046】
受信部41は、基地局3から送信される無線信号(電波)をアンテナ46を介して受信し、前記無線信号(電波)の周波数を検出しつつ前記無線信号(電波)に対して受信処理を施して得られるデータ系列(「受信周波数系列」と呼ぶ)を復調部42へと転送する。
【0047】
復調部42は、受信部41から転送される受信周波数系列の入力を受け、受信周波数系列に対して周波数復調処理を施して前記受信周波数系列を復調したデータ系列(「復調系列」と呼ぶ)を生成して、シンボル化部43へと転送する。
【0048】
復調部42は、受信周波数系列におけるP番目の周波数値に対応する、周波数値の配列における周波数値の位置を現在の周波数位置として保持しておき、この現在の周波数位置と、受信周波数系列におけるP+1番目の周波数値に対応する、周波数値の配列における周波数値の位置との差を計算する(但し、Pは自然数)。例えば、受信周波数系列におけるP番目の周波数値が「f1」であるとともにP+1番目の周波数値が「f1」である場合には、現在(即ち、「f1」)の周波数位置から「f1」の周波数値の位置へは「0進む」ので(
図4参照)、復調部42は、復調値「0」を出力する。また、受信周波数系列におけるP番目の周波数値が「f3」であるとともにP+1番目の周波数値が「f2」である場合には、現在(即ち、「f3」)の周波数位置から「f2」の周波数値の位置へは「3進む」ので(
図4参照)、復調部42は、復調値「+3」を出力する。復調値は、すなわち、周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量である。
【0049】
具体的には例えば、端末4が基地局3Aから送信された1つの無線信号(電波)を受信している一方で、基地局3Bから送信された無線信号を受信していない、または受信していても微弱である場合には、復調部42は、受信周波数系列として[f1,f1,f2,f4,f3,f4,f2]の入力を受ける。そして、復調部42は、
図9および
図12に示すように、受信周波数系列における隣り合わせの周波数値の位置同士の差を計算して、復調系列として[0,+1,+2,+3,+1,+2]を得る。
【0050】
また、端末4が基地局3Bから送信された1つの無線信号(電波)を受信している一方で、基地局3Aから送信された無線信号を受信していない、または受信していても微弱である場合には、復調部42は、受信周波数系列として[f2,f2,f3,f1,f4,f1,f3]の入力を受ける。そして、復調部42は、
図10および
図12に示すように、受信周波数系列における隣り合わせの周波数値の位置同士の差を計算して、復調系列として[0,+1,+2,+3,+1,+2]を得る。
【0051】
また、端末4が基地局3Aから送信された無線信号(電波)と基地局3Bから送信された無線信号(電波)との両方を受信している場合には、復調部42は、受信周波数系列として[f1+f2,f1+f2,f2+f3,f4+f1,f3+f4,f4+f1,f2+f3]の入力を受ける。そして、復調部42は、
図11および
図12に示すように、受信周波数系列における隣り合わせの周波数値(具体的には、周波数値の順序も区別されて識別される2つの周波数値の組み合わせ)の位置同士の差を計算して、復調系列として[0,+1,+2,+3,+1,+2]を得る。
【0052】
上記のように、基地局3側においてデータ系列(具体的には、送信シンボル系列)に対してシンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応に基づく周波数変調処理を施すことにより、端末4が、基地局3Aから送信された1つの電波を受信している場合、基地局3Bから送信された1つの電波を受信している場合、および基地局3Aから送信された電波と基地局3Bから送信された電波との両方を受信している場合のいずれの場合であっても、復調部42は、同一の処理を行って、送信シンボル系列の内容が同一の復調系列を得る。
【0053】
なお、上記において、端末4は、自身が受信している電波が基地局3Aから送信されたものであるのか基地局3Bから送信されたものであるのかを判定する必要はない。
【0054】
また、端末4が複数の電波を受信している場合、復調部42は、周波数値の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値の次の周波数値を先頭の周波数値とする複数の周波数値の組み合わせを受信していると判断する。具体的には例えば、
図11において、要素の順序の丸1については、周波数値f1およびf2の電波を受信しているとともに周波数値f3およびf4の電波を受信していないので、周波数値の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値f3およびf4の次の周波数値であるf1を先頭の周波数値とする周波数値f1と周波数値f2との組み合わせを受信していると判断する。また、要素の順序の丸4については、周波数値f1およびf4の電波を受信しているとともに周波数値f2およびf3の電波を受信していないので、周波数値の配列における周波数値のうちで受信していない周波数値f2およびf3の次の周波数値であるf4を先頭の周波数値とする周波数値f4と周波数値f1との組み合わせを受信していると判断する。
【0055】
シンボル化部43は、復調部42から転送される復調系列の入力を受け、復調系列に対してシンボル化処理を施して前記復調系列を復号化したデータ系列(「復号シンボル系列」と呼ぶ)を生成する。復号シンボル系列は、受信データとして、端末4が備えている所定の変換機能および出力機能(例えば、スピーカ;図示していない)を介して端末4の利用者へと伝達される。
【0056】
シンボル化部43は、シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量(即ち、復調値)との対応に基づいて復号シンボル系列を生成する。例えば、復調系列における復調値が「0」である場合には、シンボル化部43は復号シンボル値「00」を出力する。また、復調系列における復調値が「+3」である場合には、シンボル化部43は復号シンボル値「11」を出力する。
【0057】
具体的には例えば、
図12に示すように、復調系列が[0,+1,+2,+3,+1,+2]である場合には、シンボル化部43は復号シンボル系列として[00,01,10,11,01,10]を出力する。
【0058】
次に、上記の構成の無線通信システム1の動作、作用などについて、
図13も用いて説明する。なお、下記では、この発明に関係する主な処理内容を説明し、無線通信を行うための従来周知の汎用的な処理については説明を省略する。
【0059】
基地局3の変調部31は、通信データを構成する送信シンボル系列に基づいて、記憶部33に記憶されているシンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応ならびに周波数値の配列および周波数値の配列におけるスタート位置の周波数値を参照しながら、周波数変調処理を施して送信周波数系列を生成して送信部32へと転送する(ステップS1)。送信部32は、送信周波数系列に従って周波数を変化させた無線信号を生成してアンテナ35から端末4へと向けて無線送信する(ステップS2)。この際、複数の基地局3から同期して無線信号が送信される。
【0060】
一方、端末4の受信部41は、アンテナ46を介して受信した無線信号に対して受信処理を施して受信周波数系列を生成して復調部42へと転送する(ステップS3)。復調部42は、受信周波数系列に対して、記憶部44に記憶されている周波数値の配列を参照しながら、周波数復調処理を施して復調系列を生成してシンボル化部43へと転送する(ステップS4)。シンボル化部43は、復調系列に対して、記憶部44に記憶されているシンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応を参照しながら、シンボル化処理を施して復号化して復号シンボル系列を生成する(ステップS5)。
【0061】
この実施の形態に係る無線通信システム1によれば、複数の基地局3のそれぞれの周波数値の配列におけるスタート位置を相互に異なる位置(言い換えると、相互に異なる周波数値)に設定した上で、シンボル値と周波数値の配列における周波数値の位置の遷移量との対応を用いることにより、複数の基地局3から同期して複数の無線信号(電波)が送信されて端末4が前記複数の無線信号を同時に受信する場合に、前記複数の無線信号の周波数値が相互に重ならないようにすることができ、複数の基地局3から送信シンボル系列の内容が同一の信号を同時に端末4へと向けて送信する際のビート干渉の発生を防止することが可能となる。
【0062】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では周波数変調処理において4個の搬送波が使用されるようにしているが、周波数変調処理において使用される搬送波の個数は、4個に限定されるものではなく、例えば8個であってもよい。搬送波の個数が8個の場合には、上述のとおり、端末4が同時に受信する無線信号の個数は最大7個まで増やすことが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 無線通信システム
2 制御局
21 エントランス回線
3 基地局
3A 基地局
3B 基地局
3C 基地局
31 変調部
32 送信部
33 記憶部
34 制御部
35 アンテナ
4 端末
41 受信部
42 復調部
43 シンボル化部
44 記憶部
45 制御部
46 アンテナ