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特許7471769素子基板、液体吐出ヘッドおよび記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】素子基板、液体吐出ヘッドおよび記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240415BHJP
   B41J 2/05 20060101ALI20240415BHJP
   B41J 2/155 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 201
B41J2/05
B41J2/155
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018124721
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2019010875
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017129196
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 洋介
(72)【発明者】
【氏名】梅田 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】山口 孝明
【合議体】
【審判長】藤本 義仁
【審判官】嵯峨根 多美
【審判官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124234(JP,A)
【文献】特開2007-98836(JP,A)
【文献】特開2006-326972(JP,A)
【文献】特開2015-54410(JP,A)
【文献】特開2008-260243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口から液体を吐出するように構成された複数の吐出素子を面に備え、
複数の電極端子が、前記面における所定の辺の近傍に、前記辺に沿って配列された電極端子列を有する素子基板であって、
前記電極端子列には、前記吐出素子へ電流を送るように構成され、複数の前記吐出素子に接続された電源端子が設けられ、
前記面を前記電極端子列の垂直二等分線によって、第1領域と第2領域とに分けた場合に、前記第1領域内の複数の前記吐出素子のうち、前記電極端子列と前記垂直二等分線との交点から最も離れた位置にある第1吐出素子までの前記交点からの距離が、前記第2領域内の複数の前記吐出素子のうち、前記交点から最も離れた位置にある第2吐出素子までの前記交点からの距離よりも長く、
前記電極端子列は、互いに隣接して配置される複数の前記電源端子から構成される電源端子群を、前記第2領域よりも前記第1領域の側に寄った位置であって、前記交点に前記電源端子群を配置した際よりも、前記電源端子群から複数の前記吐出素子までの距離のばらつきが小さくなるような位置に有することを特徴とする素子基板。
【請求項2】
吐出口から液体を吐出するように構成された複数の吐出素子を面に備え、
複数の電極端子が、前記面における所定の辺の近傍に、前記辺に沿って配列された電極端子列を有する素子基板であって、
前記電極端子列は、前記吐出素子へ電流を送るように構成され、複数の前記吐出素子に接続された電源端子を有し、
前記電源端子は、前記電源端子とは別の電極端子よりも前記辺に沿う方向の長さが長い第1の電源端子を有し、
前記面を前記電極端子列の垂直二等分線によって、第1領域と第2領域とに分けた場合に、前記第1領域内の複数の前記吐出素子のうち、前記電極端子列と前記垂直二等分線との交点から最も離れた位置にある第1吐出素子までの前記交点からの距離が、前記第2領域内の複数の前記吐出素子のうち、前記交点から最も離れた位置にある第2吐出素子までの前記交点からの距離よりも長く、
前記電極端子列は、前記第1の電源端子を、前記第2領域よりも前記第1領域の側に寄った位置であって、前記交点に前記第1の電源端子を配置した際よりも、前記第1の電源端子から複数の前記吐出素子までの距離のばらつきが小さくなるような位置に有することを特徴とする素子基板。
【請求項3】
前記面は前記垂直二等分線を軸として非対称であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の素子基板。
【請求項4】
長辺と短辺とを備えた平行四辺形の形状を備え、かつ点対称な形状であることを特徴とする請求項3に記載の素子基板。
【請求項5】
前記電源端子は、前記電極端子列における端部以外に位置していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項6】
前記吐出素子はヒータであり、前記吐出素子の熱で液体を発泡させる圧力室が、前記吐出素子に対応して設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項7】
前記吐出素子は、前記辺に沿って設けられ、複数の列を成して設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項8】
前記吐出素子の作用で液体を吐出するために用いられる圧力室に、液体を供給する供給口を備え、
前記吐出口は、前記圧力室と連通し、前記供給口から供給された液体を吐出することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項9】
前記電極端子は、前記電極端子の配列方向における前記素子基板の端部から所定の間隔をあけて設けられ、他の部材の電極端子と接続され、封止材によって封止されることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の素子基板。
【請求項10】
前記他の部材はフレキシブルケーブルであり、前記フレキシブルケーブル内の配線は1つの配線にまとめられていることを特徴とする請求項9に記載の素子基板。
【請求項11】
前記所定の間隔は、700μm以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の素子基板。
【請求項12】
第1の電極端子列と第2の電極端子列とを含む複数の前記電極端子列を備え、
前記第1の電極端子列は前記辺に沿って複数の前記電極端子が配列され、
前記第2の電極端子列は前記辺と対向する辺に沿って複数の前記電極端子が配列されることを特徴とする請求項4に記載の素子基板。
【請求項13】
前記電極端子列の中心に前記電源端子群を配置した場合、前記第1吐出素子における電圧降下量が、前記第2吐出素子における電圧降下量よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の素子基板。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の複数の素子基板が前記電極端子列の方向に配列されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記複数の素子基板が配列されてライン型ヘッドとして構成されている、請求項14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載の液体吐出ヘッドから液体を吐出して記録を行うことを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の吐出素子が設けられた素子基板、その素子基板を搭載した液体吐出ヘッドおよび記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の記録の高速化、高画質化に伴い、液体吐出ヘッドに実装する発熱抵抗素子(吐出素子)数が増加傾向にある。このため、発熱抵抗素子を駆動するための回路を実装する素子基板の面積増加の抑制や、素子基板の形状が平行四辺形や台形等になった場合の発熱抵抗素子の配置や配線レイアウトなどの最適化が重要となってきている。素子基板の面積が増加すれば、発熱抵抗素子に電流を供給するための電極端子から発熱抵抗素子までの距離も長くなり、電極端子から発熱抵抗素子までの配線抵抗などで起こる電圧降下の値が大きくなる。そして、発熱抵抗素子を安定して駆動するために、予め電圧降下する値を予測し、その分を上乗せして補正することが行われている。
【0003】
特許文献1には、発熱抵抗素子を駆動するための駆動配線を全ての発熱抵抗素子に共通に接続することで、発熱抵抗素子に電流を供給する電極端子の数を最小限に抑え、基板サイズの増大を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-168179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように駆動配線を全ての発熱抵抗素子に共通接続しても、発熱抵抗素子を駆動する際に生じる電圧降下は、電極端子から最も遠い位置にある発熱抵抗素子で最も大きくなり、電極端子から最も近い位置にある発熱抵抗素子では最も小さくなる。このように発熱抵抗素子の位置によって生じる電圧降下が大きく異なる場合、電極端子から最も遠い位置の発熱抵抗素子での電圧降下分を全ての発熱抵抗素子に対して補正して供給する。しかしその場合、電極端子から最も近い位置の発熱抵抗素子では供給過剰となり、発熱抵抗素子の耐久性が著しく低下する虞がある。
【0006】
よって本発明は、吐出素子の耐久性の低下を抑制することができる素子基板、液体吐出ヘッドおよび記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため本発明の素子基板は、吐出口から液体を吐出するように構成された複数の吐出素子を面に備え、複数の電極端子が、前記面における所定の辺の近傍に、前記辺に沿って配列された電極端子列を有する素子基板であって、前記電極端子列には、前記吐出素子へ電流を送るように構成され、複数の前記吐出素子に接続された電源端子が設けられ、前記面を前記電極端子列の垂直二等分線によって、第1領域と第2領域とに分けた場合に、前記第1領域内の複数の前記吐出素子のうち、前記電極端子列と前記垂直二等分線との交点から最も離れた位置にある第1吐出素子までの前記交点からの距離が、前記第2領域内の複数の前記吐出素子のうち、前記交点から最も離れた位置にある第2吐出素子までの前記交点からの距離よりも長く、前記電極端子列は、互いに隣接して配置される複数の前記電源端子から構成される電源端子群を、前記第2領域よりも前記第1領域の側に寄った位置であって、前記交点に前記電源端子群を配置した際よりも、前記電源端子群から複数の前記吐出素子までの距離のばらつきが小さくなるような位置に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出素子の耐久性の低下を抑制することができる素子基板、液体吐出ヘッドおよび記録装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】複数の素子基板を搭載した液体吐出ヘッドを示した斜視図である。
図2】素子基板における発熱抵抗素子の近傍を示した図である。
図3】素子基板における電気配線を示した図である。
図4】素子基板を示した図である。
図5】素子基板を示した図である。
図6】素子基板を示した図である。
図7】電圧降下値と発熱抵抗素子位置の関係を表したグラフである。
図8】素子基板を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態における複数の素子基板100を搭載した液体吐出ヘッド700を示した斜視図である。素子基板100には、液体を吐出可能な複数の吐出口が列を成して設けられており、その吐出口と対向するように発熱抵抗素子(吐出素子、ヒータ)が設けられている。発熱抵抗素子の作用によって吐出口から液体が吐出される。記録装置は、この液体吐出ヘッド700と、液体吐出ヘッド700から吐出された液体を受ける記録媒体を搬送する搬送手段と、を有しており、記録媒体に記録を行うことが可能に構成されている。なお、図1では、素子基板100が8個並んで配置されているがこれに限定されるわけではない。また、図1に示す液体吐出ヘッドは、長手方向の長さが記録媒体の幅以上である、いわゆるライン型ヘッドであるが、本発明はこれに限定されず、記録媒体の搬送方向に交差して走査される走査型のヘッドであってもよい。
【0012】
図2は、素子基板100における発熱抵抗素子の近傍を示した図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は図2(a)のIIb-IIbにおける断面図である。なお、図2(a)では吐出口形成部材108を省略している。素子基板100は、基板114と吐出口形成部材108とを備えており、基板114はSiにより形成される基材113と、基材113上に形成され、SiOなどの絶縁体で形成される絶縁膜104とを含んでいる。また、絶縁膜104には、発熱抵抗素子101に電流を供給するのに用いられる電気配線103が設けられており。電気配線103は、電気配線層103a、103b、103c、103dを備えている。また、基板114上には液体を吐出するための熱エネルギを発生する発熱抵抗素子101、保護膜105および耐キャビテーション膜106が設けられている。
【0013】
発熱抵抗素子101は、TaSiNなどのTa化合物から形成されており、発熱抵抗素子101の膜厚(矢印Z方向の寸法)は0.01~0.05μm程度であり、後述する電気配線103の厚さと比べてはるかに小さい。基板114の発熱抵抗素子101が形成された面114aには吐出口形成部材108が設けられており、吐出口形成部材108は各発熱抵抗素子101に対応した吐出口109を有し、基板114とともに吐出口109毎の圧力室107を形成している。
【0014】
素子基板100には、駆動回路203が設けられており、この駆動回路203によって発熱抵抗素子101を駆動することができる。駆動回路203は、基板114の端部に設けられた後述する電極パッドに接続され、電極パッドを介して液体吐出ヘッドの外部から供給される記録信号に応じて発熱抵抗素子101の駆動電流を生成する。電気配線103は絶縁膜104に埋め込まれるように設けられており、接続部材102を介して駆動回路203と発熱抵抗素子101とを電気的に接続している。電気配線103はアルミニウムからなり、膜厚(矢印Z方向の寸法)は0.6~1.2μm程度である。電気配線103を介して供給された電流によって発熱抵抗素子101が発熱し、高温となった発熱抵抗素子101は圧力室107内のインクを加熱して気泡を発生させる。この気泡によって吐出口109の近傍のインクが吐出口109から吐出することで記録が行われる。
【0015】
発熱抵抗素子101は保護膜105で覆われており、保護膜105はSiNからなり、その膜厚は0.15~0.3μm程度である。なお、保護膜105はSiOまたはSiCで形成してもよい。保護膜105は、耐キャビテーション膜106で覆われており、耐キャビテーション膜106は、Taからなり、その膜厚は0.2~0.3μm程度である。なお、耐キャビテーション膜106はIrやRuで形成してもよく、複数の層を積層して形成してもよい。
【0016】
絶縁膜104内には、電気配線103と発熱抵抗素子101とを接続するための複数の接続部材102が設けられている。膜厚方向(矢印Z方向)に延在する複数の接続部材102は、矢印Y方向に沿って互いに間隔をおいて位置している。接続部材102は、発熱抵抗素子101の矢印X方向における両側端部の近傍で、電気配線103と発熱抵抗素子101とを接続している。従って、発熱抵抗素子101を流れる電流は矢印X方向に沿って流れる。発熱抵抗素子101は、接続部材102と接続される両端に、接続部材102が接続される接続領域110を有している。接続部材102は、電気配線103の端部付近から矢印Z方向に延びるプラグであり、本実施形態では概ね正方形の断面を有しているが、角部が丸められていてもよく、正方形に限らず長方形、円形、楕円形など他の形状をとることもできる。
【0017】
接続部材102はタングステンで形成されているが、チタン、白金、コバルト、ニッケル、モリブデン、タンタル、ケイ素のいずれか、またはこれらの化合物で形成してもよい。接続部材102は電気配線103と一体形成されてもよい。すなわち、電気配線103の一部を厚さ方向に切り欠くことで電気配線103と一体化された接続部材102を形成してもよい。
【0018】
電気配線103は絶縁膜104中に設けられており、接続部材102によって発熱抵抗素子101に接続されている。このように発熱抵抗素子101に対して裏面側から電気接続を行うため、発熱抵抗素子101の表面側を覆う電気配線が不要となる。発熱抵抗素子101の膜厚は0.01~0.05μm程度であり、保護膜105の膜厚は0.15~0.3μm程度で十分なカバレッジ性を確保することができる。このように、保護膜105の膜厚を比較的薄くすることで、インクへの熱伝達効率を向上させている。これにより、消費電力の低減と、発泡の安定化による高画質化を両立することができる。また、耐キャビテーション膜106のパターニング精度と信頼性の向上、吐出口形成部材108の基板114への密着性と加工精度の向上なども見込むことができ、高画質化だけではなく製造面でのメリットも得ることができる。
【0019】
発熱抵抗素子101に対する接続部材102の接続位置は、発熱抵抗素子101のX方向の実質的な長さ(有効長L)を規定している(図2(a)参照)。発熱抵抗素子101の有効長Lは、両側の接続領域110の矢印X方向の間隔に等しくなっており、この有効長Lの寸法精度を高めることで、発泡領域111の矢印X方向の長さの寸法精度を高めることができる。本実施形態では、平坦な絶縁膜104にドライエッチングでホールを形成し、ホールに接続部材102の材料を埋め込むことで接続部材102を形成している。ドライエッチングは、ウェットエッチングよりも微細加工に優れているため、実質的に発熱抵抗素子101の両端部の接続部材102の間隔で決まる有効長Lは、ウェットエッチングを用いて形成する方法よりも寸法精度を高くすることができる。また、発熱抵抗素子101は、薄い膜をパターニングすることで形成できるため、発熱抵抗素子101の矢印Y方向幅Wについても寸法精度を高めることが可能である。
【0020】
発熱抵抗素子101の寸法精度の向上により発熱抵抗素子101間での発泡特性のばらつきが低減する。これにより液体吐出ヘッド700の高画質化が実現できるほか、ばらつきを見込んだ過剰なエネルギ投入が不要となり、消費電力の低減を実現することができる。また、接続部材102をホールに埋め込まずに、ホールから直接、電気配線103と接続する構成に対しても、本発明の構成は平坦な下地に発熱抵抗素子101の膜が製膜されるため、信頼性の高い発熱抵抗素子を形成することができる。
【0021】
より均一なインク吐出特性を得るためには、発泡ばらつきや抵抗値ばらつきを少なくすることが必要である。そのため、発熱抵抗素子101の下地(下部領域)は平坦であることが好ましい。本発明の構成では、各層の電気配線103および発熱抵抗素子101の下地部はCMP等の処理により平坦化している。それにより図2(b)に示すように、接続部材102の発熱抵抗素子101との当接面と、絶縁膜104の発熱抵抗素子101との当接面とは同一平面に設けられている。
【0022】
このように、発熱抵抗層の下地(下部領域)を平坦化することで発熱抵抗素子101の直下、すなわち中央領域122と基材113との間の絶縁膜104やその周辺に信号配線や電源配線等のパターンの電気配線103を通すことが可能となる。さらにはその領域にトランジスタを配置することも可能となるため、素子基板100の面積を小さくすることができ、液体吐出ヘッドのローコスト化、吐出口109の高密度化が可能となる。本実施形態においては図2(b)に示すようにSiにより形成される基材113の絶縁膜104との界面領域に駆動回路203およびフィールド酸化膜132が形成されている。
【0023】
このように構成することによって発熱抵抗素子101の特性への影響を抑制しつつ電気配線103を多層化することが可能となる。このように、電気配線103に複数の配線層を割り当てることで、電源配線抵抗を大幅に削減することが可能となる。図2(b)では電気配線103は発熱抵抗層からの距離が互いに異なる4層で構成されている。そして、下層側の電気配線層103a、103bを、発熱抵抗素子101を駆動するための信号配線層やロジック配線層に割り当てている。また、上層側(絶縁膜側)の電気配線層103c、103dを、発熱抵抗素子101に電流を供給するための配線層に割り当てている。
【0024】
図3は、素子基板100における電気配線103を示した図である。本実施形態においては、電気配線層103dをグランド(GNDH)配線層、電気配線層103cを電源(VH)配線層とし、電気配線層103c、103dともに図3に示すように所謂ベタ配線としている。また、電気配線層103c、103dは各々が全ての発熱抵抗素子と共通で接続されている。このように電源系の電気配線層103dおよび電気配線層103cを異なる層に形成する多層配線とし、両電気配線層を、素子基板の全面に設ける構成(ベタ配線)とすることで、素子基板100の大型化を抑制しつつ配線抵抗を非常に小さくすることができる。
【0025】
本実施形態では、絶縁膜104中に、発熱抵抗素子101に電流を流す電気配線層103c、103dと、発熱抵抗素子を駆動するための信号配線層やロジック配線層のための電気配線層103a、103bの4層の電気配線層を備えている。電気配線層103c、103dは、電気配線層103a、103bに対して発熱抵抗素子101に近い側に配されており、効率を考慮すると電気配線層103c、103dの膜厚は相対的に厚い方が好ましい。逆に電気配線層103a、103bは、電気配線層103c、103dに対して駆動回路203に近い側に配されており、電気配線層103a、103bの膜厚は相対的に薄い方が好ましい。
【0026】
図4(a)は、素子基板100を示した図であり、図4(b)は、素子基板100の一部を拡大して示した図である。素子基板100の中央部には、長手方向に独立インク供給口300(300a、300b)が設けられ、独立インク供給口300aと300bとの間に発熱抵抗素子101がそれぞれ列状に配列されている。圧力室107は、独立インク供給口300と連通しており、独立インク供給口300から供給されるインクが圧力室107に導入される。
【0027】
図5は、素子基板100を示した図であり、図5(a)は接続部の封止材を省略して示した図であり、図5(b)は封止材が設けられた接続部を示した図である。素子基板100の長手方向に沿った一端部には、複数の電極パッド201が列(電極端子列)を成して設けられている。ここで電極パッドとは素子基板上に配置されており、導電層が積層された電極を示すものであり、主に外部(フレキシブルケーブルなど)との電気的接続のためのコネクタとして用いられる。素子基板100の接続部は、素子基板100の電極パッド201とフレキシブルケーブル651の電極パッド654とが、ワイヤーボンディング625により接続されている。そして、その接続部を絶縁撥水材料である封止材653で覆い、インク等との接触を防止することで腐食等の発生を抑制し、接続の信頼性を高めている。
【0028】
また、素子基板100の電極パッド201は、素子基板100の長手方向(電極パッドの配列方向)の左右端より所定の間隔をあけて配置するように設け(本実施形態では700μm以上)、封止材が塗布されない領域である封止禁止領域204を確保している。図1で説明したように、液体吐出ヘッド700では、素子基板100の長手方向において隣接して複数枚の素子基板100を配置している。封止禁止領域204を設けることなく、素子基板100の長手方向いっぱいに接続部を設け封止材で封止した場合、隣接する素子基板100と封止材とが干渉することがあり、素子基板100の搭載位置の信頼性が低下する虞がある。そこで、本実施形態では、素子基板100の長手方向両端部には電極パッド201を設けないことで、その両端部に封止禁止領域204を設けて、素子基板100の搭載位置信頼性を確保している。
【0029】
図6(a)から図6(d)は、本実施形態の素子基板100を示した図である。素子基板100に設けられた電極パッド201は、駆動電極パッド群600(電源端子群)を含んでいる。駆動電極パッド群600は、発熱抵抗素子101に電流を供給する電極パッド(電源端子)が、2個以上隣接して設けられ(図6(a)参照)ている。駆動電極パッド群600は、発熱抵抗素子101を駆動する電流を電気配線層を介して発熱抵抗素子101に伝えるのに用いられる。駆動電極パッド群600の夫々の電極パッドは、全ての発熱抵抗素子に共通接続されている電気配線層103cと接続されている。このように、駆動電極パッドを隣接する群として配置することで、発熱抵抗素子101を同時に駆動した際に流れるトータルの電流量が大きくても電流容量を確保することができる。また、図6(b)に示すように、発熱抵抗素子101に電流を供給する電極パッド以外(電源端子以外)の電極パッド603(電極端子)よりも駆動電極パッド602を面積の大きい形状とすることにより、同様の効果を得ることができる。なお、電極パッド603としては、発熱抵抗素子101を駆動するための信号を素子基板100に送るための電極パッドなどがあげられる。
【0030】
また、隣接する駆動電極パッド群600や面積の大きな駆動電極パッド602を設ける事で、これらに接続されるフレキシブルケーブル651内の配線を1つの幅の太い配線としてまとめることができる。または、この配線の数を駆動電極パッド群600の数よりも少なくすることができる。一方で、図6(c)のように駆動電極パッド599を分散して配置した場合は、それぞれのパッド599に接続されるようにフレキシブルケーブルの配線がそれぞれ設けられるため、隣接する配線同士のスペース分フレキシブルケーブルの幅が広くなる。したがって、このような場合と比較して、駆動電極パッド群600や駆動電極パッド602を設けることで、素子基板100と本体とを電気的に接続するフレキシブルケーブルの幅を狭くすることが可能となりコストダウンにもなる。さらに、ノイズ源にもなりうる大電流が流れる駆動電極パッドは必要最低限数の群とすることで放射ノイズを可能な限り抑制することができ、隣接している電気信号の信頼性向上にもつながる。
【0031】
以下、本実施形態の特徴的構成について説明する。本実施形態の素子基板100は、図6(a)から図6(d)に示したように長辺と短辺とを備えた、点対称の平行四辺形の形状をしている。そして、素子基板100を長辺の垂直二等分線(電極パッド列の垂直二等分線)で分けた場合、一方の領域と他方の領域とではその形状は非対称である。また素子基板100の形状は、電極パッド201が設けられている側の辺と、その辺の両端部で接続される辺とが成す角度は、図6(a)から図6(d)において、左側の角度が右側の角度よりも大きな角度となるような平行四辺形となっている。すなわち、電極パッド201が設けられている側の辺の左側端部が鈍角であり、その右側端部が鋭角となっている。このような形状の素子基板で、発熱抵抗素子列が4列(A列、B列、C列、D列)ある場合、発熱抵抗素子列は、A列からD列にかけて徐々に左側にずれて設けられる。
【0032】
本実施形態のように、素子基板が平行四辺形の場合、上記にように発熱抵抗素子列は、A列からD列にかけて徐々に左側にずれて設けられる。そのため、駆動電極パッド群600を電極パッド列の中央部に設けると、駆動電極パッド群600から最も離れた位置にある発熱抵抗素子列の左端部にある発熱抵抗素子601(第1吐出素子)では、駆動電極パッド群600からの距離が長くなる。すなわち、発熱抵抗素子601では、駆動電極パッド群600から最も離れた位置にある発熱抵抗素子列の右端部にある発熱抵抗素子604(第2吐出素子)よりも駆動電極パッド群600からの距離が長くなる。そのため、発熱抵抗素子601までの距離で生じる電圧降下は大きくなり、駆動電極パッド群600に近い発熱抵抗素子までの距離で生じる電圧降下との差が大きくなる。
【0033】
図7(a)、図7(b)は、各列で発熱抵抗素子を同時に駆動した際(グラフ中では1列64個同時駆動)の電圧降下値と発熱抵抗素子位置の関係を表したグラフである。図7(a)、図7(b)におけるデータ番号に関して、図6(a)から図6(d)の発熱抵抗素子の列における左端の発熱抵抗素子のデータ番号を0としている。図7(a)は、駆動電極パッド群600を1列に配列された電極パッド列の中心に配置した場合のグラフである。図7(a)から、駆動電極パッドから最も離れた位置にある発熱抵抗素子列(D列)の左端部にある発熱抵抗素子(図6(a)の発熱抵抗素子601)で最も大きな電圧降下が起こることが分かる。また、電圧降下が最も大きい箇所と最も小さい箇所(A列中央部)との差も大きいことが分かる。
【0034】
このような素子基板で発熱抵抗素子を安定して駆動するためには、発熱抵抗素子を同時に駆動する際に、予め電圧降下が最も大きくなる発熱抵抗素子で下がる電圧量を予測し、その電圧量を上乗せして印加することが必要になる。しかしその場合、電圧降下の少ない箇所にある発熱抵抗素子にも、電圧降下が最も大きい箇所にある発熱抵抗素子と同等電圧分が上乗せされる。そのため、電圧降下の少ない箇所にある発熱抵抗素子には、過剰な電圧が供給されることになり、発熱抵抗素子の耐久が悪くなる虞がある。
【0035】
そこで、本実施形態の素子基板100では、素子基板100の長辺に沿って設けられた電極パッド列の中心から、駆動電極パッド群600から最も離れた位置にある発熱抵抗素子の側に、駆動電極パッド群600をずらして配置している。つまり駆動電極パッド群600から最も離れており、配線抵抗による電圧降下が最も大きくなると考えられる位置に配置される発熱抵抗素子(図6(a)の発熱抵抗素子601)に駆動電極パッド群600を近づけるように、電極パッド列の中心からずらして配置する。こうすることで、最も電圧降下の影響を受けると考えられる発熱抵抗素子601に対する電圧降下を小さくすることができる。これによって、電圧降下分を補正するための電圧も小さくすることができる。
【0036】
図7(b)は、駆動電極パッド群600を1列に配列された電極パッド列の中心から左側にずらして配置した場合の電圧降下値と発熱抵抗素子位置との関係を示したグラフである。図7(a)のグラフよりも全ての列(A列からD列)の発熱抵抗素子における電圧降下量が緩和されていることが分かる。ここで特筆すべきは、最も電圧降下が大きかった発熱抵抗素子(図6(a)の発熱抵抗素子601)の値が小さくなっていること、更に、電圧降下が最も大きい箇所と最も小さい箇所との差が小さくなっていることである。これは、駆動電極パッド群600から各発熱抵抗素子までの距離のばらつきが小さくなり、その結果、配線抵抗による電圧降下のばらつきが低減していると考えられる。
【0037】
このように本実施形態では、駆動電極パッド群600を電極パッド列の中心から図中左側にずらして配置した。つまり、素子基板100の長辺の垂直二等分線によって分けられる領域の領域内において、駆動電極パッド群600(長辺と垂直二等分線との交点)から最も離れて位置する発熱抵抗素子がある領域側に駆動電極パッド群600を配置した。すなわち、素子基板100の、電極パッド列の垂直二等分線によって分けられる領域のうちの、電極パッド列と垂直二等分線との交点から最も離れて位置する発熱抵抗素子がある領域側に駆動電極パッド群600を配置した。しかし、電極パッド列の最左端に駆動電極パッド群600を配置することは得策ではない。理由としては、使用中に封止が剥がれてくる可能性があり、最端部に駆動電極パッド群600を配置し封止した場合、剥がれた箇所からインクが侵入し、大電流が流れる駆動電極パッド群600がショートする可能性があるからである。そこで、安全性を考慮して、電極パッド列における最端部には、低電圧、低電流の電極パッドを配置し、駆動電極パッド群600は電極端子列の端部以外に配置することが望ましい。
【0038】
図6(d)は、電極パッド列に複数の駆動電極パッド群600を設けた素子基板100を示した図である。図6(d)のように、電極パッド列に複数の駆動電極パッド群600を設けてもよい。その場合、少なくとも1つ以上の駆動電極パッド群600が電極パッド列の中心部より図中左側に配置されていればよい。
【0039】
また、駆動電極パッド群600や駆動電極パッド602が、電極パッド列とその垂直二等分線との交点から最も離れて位置する発熱抵抗素子がある領域(第1領域)内だけでなく、他方の領域(第2領域)にもまたがって配置された構成であってもよい。すなわち、少なくとも一つの駆動電極パッド群600や面積の大きい駆動電極パッド602が、第2領域よりも第1領域の側に寄って設けられていればよい。
【0040】
なお、素子基板100が平行四辺形の形状の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、素子基板の形状が矩形であっても、素子基板の辺の近傍に備えられた電極パッド列が辺の中央から一方の側に寄って配置されている場合に、同様の課題が生じる。すなわち、このような素子基板において駆動電極パッド群600を電極パッド列の中央部に設けると、駆動電極パッド群600から最も離れた位置にある発熱抵抗素子の電圧降下が大きくなり、素子基板100内に設けられた複数の発熱抵抗素子の電圧降下がばらつく。この場合においても同様に、電極パッド列とこれの垂直二等分線との交点から最も離れた位置にある発熱抵抗素子が配置される素子基板100の領域の側に、電極パッド列内において駆動電極パッド群600をずらして配置すればよい。
【0041】
このように、電極パッド列の中心から、駆動電極パッド群から最も離れた発熱抵抗素子がある側に駆動電極パッド群をずらして配置する。これによって、発熱抵抗素子の耐久性の低下を抑制することができる素子基板、液体吐出ヘッドおよび記録装置を実現することができた。
【0042】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成についてのみ説明する。
【0043】
図8は、第2の実施形態における素子基板G、Hを示した図である。本実施形態では、素子基板を反転させて結合させている。その上で、素子基板Gでは、電極パッド列の中心から、駆動電極パッド群から最も離れた発熱抵抗素子がある側に駆動電極パッド群をずらして配置している。また、素子基板Hでも素子基板Gと同様に、電極パッド列の中心から、駆動電極パッド群から最も離れた発熱抵抗素子がある側に駆動電極パッド群をずらして配置している。なお、素子基板HとGとは電気的には配線接続されていない構成となっている。
【0044】
このように素子基板を結合させ、夫々の素子基板で、電極パッド列の中心から、駆動電極パッド群から最も離れた発熱抵抗素子がある側に駆動電極パッド群をずらして配置する。これによって、発熱抵抗素子の耐久性の低下を抑制することができる素子基板、液体吐出ヘッドおよび記録装置を実現することができた。
【符号の説明】
【0045】
100 素子基板
101 発熱抵抗素子
103 電気配線
109 吐出口
201 電極パッド
204 封止禁止領域
600 駆動電極パッド群
602 駆動電極パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8