(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】樹脂成形品、樹脂成形品の製造方法、樹脂成形品を備えた機器、樹脂成形用の金型、および金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20240415BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2019207482
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆広
(72)【発明者】
【氏名】及川 圭
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-214696(JP,A)
【文献】特表2009-521342(JP,A)
【文献】特開2003-251634(JP,A)
【文献】特開2008-43444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/42
B29C 45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外観面に
多数の凸部が配置され
た樹脂成形品であって、
前記
多数の凸部
の各々は、
当該凸部を通る中心線を中心とする
円の円周に沿って形成された微細凹凸を有しており、
前記外観面に対する法線方向から見た場合の面積が
1mm
2
以上かつ4mm
2
以下である領域について、前記凸部毎に前記微細凹凸の表面粗さ(rms)を求めた時、標準偏差が0.01μm以上となるように、
前記領域には、前記多数の凸部のうちの前記微細凹凸の形状が互いに異なる複数
の凸部が配置されている、
ことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記領域を前記外観面に対する法線方向から見た場合に、前記複数の凸部の総面積が、前記
領域の面積の50%以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記多数の凸部の各々の前記微細凹凸は、当該凸部を通る前記中心線を中心とする半径の異なる複数の円の円周に沿って形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
前記複数の凸部は、各々の高さが15μm未満である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【請求項5】
前記外観面に対する法線方向から見た場合に、前記複数の凸部の各々の面積は、23000μm2以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂成形品を外装部品として備える、
ことを特徴とする樹脂成形品を備えた機器。
【請求項7】
成形面に
多数の凹部が配置され
た樹脂成形用の金型であって、
前記
多数の凹部
の各々は、
当該凹部を通る中心線を中心とする
半径の異なる複数の円の円周に沿って形成された微細凹凸を有しており、
前記成形面に対する法線方向から見た場合の面積が
1mm
2
以上かつ4mm
2
以下である領域について、前記凹部毎に前記微細凹凸の表面粗さ(rms)を求めた時、標準偏差が0.01μm以上となるように、
前記領域には、前記多数の凸部のうちの前記微細凹凸の形状が互いに異なる複数
の凹部が配置されている、
ことを特徴とする樹脂成形用の金型。
【請求項8】
前記領域を前記成形面に対する法線方向から見た場合に、前記複数の凹部の総面積が、
前記
領域の面積の50%以上である、
ことを特徴とする請求項7に記載の樹脂成形用の金型。
【請求項9】
前記多数の凹部の各々の前記微細凹凸は、当該凹部を通る前記中心線を中心とする半径の異なる複数の円の円周に沿って形成されている、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の樹脂成形用の金型。
【請求項10】
前記複数の凹部は、各々の深さが15μm未満である、
ことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の樹脂成形用の金型。
【請求項11】
前記成形面に対する法線方向から見た場合に、前記複数の凹部の各々の面積は、23000μm
2以下である、
ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の樹脂成形用の金型。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか1項に記載の樹脂成形用の金型に、
溶融した樹脂を射出して成形する、
ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
回転する切削工具を用いて母材の
加工位置を切削し
て、前記
加工位置に凹部を形成する凹部形成工程と、
前記
加工位置を変更する位置変更工程と、を交互に繰り返して、成形面に複数の凹部が形成された金型を製造する方法であって、
前記凹部形成工程においては
、前記凹部には
当該凹部を通る回転軸を中心とする円周に沿って切削時の前記切削工具の形状に応じた微細凹凸が形成され、
前記切削工具の形状は、複数の前記凹部を形成する間に変化し、
前記位置変更工程を繰り返し実行する際には、前記成形面を法線方向から見た場合の面積が
1mm
2
以上かつ4mm
2
以下である領域について、製造された金型の前記凹部毎に前記微細凹凸の表面粗さ(rms)を求めた時、標準偏差が0.01μm以上となるように、前記
加工位置を変更してゆく、
ことを特徴とする金型の製造方法。
【請求項14】
前記位置変更工程を繰り返し実行する際には、順に行われる前記凹部形成工程の前記
加工位置が空間的に離散して配置されるように、前記
加工位置を変更してゆく、
ことを特徴とする請求項13に記載の金型の製造方法。
【請求項15】
前記位置変更工程を繰り返し実行する際には、順に行われる前記凹部形成工程の前記
加工位置が空間的にランダムウォークするように、前記
加工位置を変更してゆく、
ことを特徴とする請求項13または14に記載の金型の製造方法。
【請求項16】
前記位置変更工程を繰り返し実行する際には、前記成形面を構成する複数の部分領域のうち、1つの部分領域内において前記凹部形成工程の前記
加工位置が空間的にランダムウォークしたのち、別の部分領域内において前記凹部形成工程の前記
加工位置が空間的にランダムウォークするように、前記
加工位置を変更してゆく、
ことを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載の金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な表面構造を設けることにより外観面の光沢が調整された樹脂成形品と、その製造方法、樹脂成形品を製造するのに用いる金型、および当該金型を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタなどの電子機器をはじめ、種々の製品の筐体、外殻などに使用される樹脂部品の外観面には、高い意匠性が求められる。例えば、部品表面を平滑化することで鏡面のような光沢をもたせて艶のある美観を演出したり、逆に部品表面に視認できないレベルの微細な凹凸を設けることで艶消しの質感を演出したりすることが出来る。尚、以後の説明では、鏡面から艶消しまでの各段階の艶やかさのレベルを光沢度と記載することがあるが、例えばJIS Z 8741等に規定される計測方法は、光沢度を具体的に取り扱う際の尺度とすることができる。
【0003】
一般に、こうした樹脂部品は、金型を用いた射出成形法により製造された樹脂成形品であることが多いが、所望の光沢度を実現するためには、樹脂の成形に用いる金型の成形面の形状が重要になる。金型の成形面を製作する際には、樹脂部品の外観面に付与したい光沢度に応じて、適宜の加工法が選択される。例えば、鏡面のような高い光沢度を樹脂部品の外観面に付与したい場合には、金型の成形面を平滑にするために研磨加工が用いられる。一方、艶消しのように低い光沢度を樹脂部品の外観面に付与したい場合には、金型の成形面に微細な凹凸を設けるためにエッチング加工やブラスト加工、あるいは切削加工等が用いられる。
【0004】
所望の光沢度(所望の艶消しレベル)を樹脂部品の外観面に付与するためには、反射や散乱などの光学的な知見に基づいて外観面の微細な表面形状を設計し、設計通りの表面形状が樹脂に転写されるように金型の成形面形状を加工するのが望ましい。しかし、エッチング加工やブラスト加工は、微細なレベルでの加工制御性が必ずしも高くはないので、設計通りの微細な凹凸形状を樹脂に転写できるような成形面を制作するのが容易ではない。一方、切削加工は、微細加工の精度が比較的高く、しかも成形面の領域毎に微細な凹凸形状を異ならせるような加工をすることも可能なので、例えば外観面の部位により異なる光沢度を有する樹脂部品を製造するための金型でも比較的容易に製作し得る。
【0005】
ところで、製品の筐体や外殻に用いる部品とは異なる分野であるが、光学レンズを製造するのに用いる金型の分野においても、金型を切削加工で製作することが行われている。しかし、切削加工で金型を製作すると、平面や球面、非球面、自由曲面などの円滑なレンズ面を形成するための成形面に、周期的な切削痕が生じる問題があった。光学レンズのレンズ面に周期的な切削痕が転写されると、レンズ面において反射された光が干渉して虹面と呼ばれる干渉色を生じる場合があり、レンズの光学性能を低下させていた。
【0006】
特許文献1には、金型母材に対し切削工具により所定の切込み量を与えつつ、金型母材と切削工具とを相対的に移動及び軸回転させる際に、金型母材と切削工具とを切削方向とは交差する方向に微揺動させる切削加工方法が記載されている。切削を進める方向と交差する方向に切削工具を微揺動させることにより、金型に残る切削痕の規則性を解消し、金型を用いて成形したレンズにおいて干渉色が発生するのを抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
製品の筐体、外殻など意匠性が求められる樹脂部品を製造するための金型を切削加工で製作する際には、樹脂部品の外観面に所望の光沢度(所望の艶消しレベル)を付与するため、例えば以下の方法で金型の成形面に微細な凹部を形成していた。すなわち、光学的な知見に基づいて設計された樹脂部品の凸部形状に基づき、金型の母材表面を1か所ずつ順番に局所的に切削して多数の凹部を形成してゆき、最終的に所望形状の成形面が構成されるようにしていた。具体的には、マシニングセンタのスピンドルにエンドミル(例えばボールエンドミル)を装着し、エンドミルを回転させながら刃先を金型の母材に圧しつけて切削し、穴を削り広げながら母材に所定形状の凹部を形成してゆく。母材の所定位置に所定形状の凹部を形成すると、隣接して凹部を形成すべき所定位置にエンドミルの回転軸を相対移動させて所定形状の凹部を形成する。こうして、隣接した所定位置に次々と所定形状の凹部を切削してゆき、最終的に所望形状の成形面を構成していた。
【0009】
以下、図を参照して具体的に説明するが、説明中で位置関係や方向について記載する場合に特に但し書きがなければ、プラス方向とは図示の座標軸において矢印が指示する方向を指し、マイナス方向とは図の矢印とは反対方向を指すものとする。また、例えばX方向プラス側とは、図示のX座標軸の矢印が指示する方向と同じ側を指し、X方向マイナス側とは図示のX座標軸の矢印が指示する方向とは反対側を指すものとする。
【0010】
例えば、
図12(a)の模式的な斜視図に示すように、金型の母材300に対して、エンドミル303を回転させながら接触させて切削加工を行い、成形面となる面301に凹部を形成してゆく。図中に点線で示す円の各々は、凹部を形成する所定位置(切削加工位置)を示し、便宜的にXY座標を用いてD(1、1)~D(6、4)のように表記している。尚、図示の便宜のため24箇所の切削加工位置のみを示しているが、実際にははるかに多数の切削加工位置に凹部を形成する。各所定位置にて切削加工を行う際には、エンドミル303の回転軸が当該所定位置の中心を通るように、母材300とエンドミル303の相対位置を設定する。
【0011】
図12(b)は、切削加工後の金型310を、
図12(a)のC1-C1線に沿ってXZ面に沿って切断した断面図である。D(1、2)~D(6、2)に対応する所定位置には、切削加工により凹部であるH(1、2)~H(6、2)が形成されている。各凹部の中心線であるAx(1、2)~Ax(6、2)は、所定の加工位置であるD(1、2)~D(6、2)の中心を通っている。
【0012】
図13(a)および
図13(b)は、多数の所定位置に対して切削加工を行う順番、すなわちエンドミル303の回転軸を母材300に対して相対移動させる経路の例を示す模式図である。
図13(a)の例では、まず矢印sc1に沿って、X方向に隣り合うD(1、1)からD(6、1)までの各所定位置にて順に切削加工してゆく。次に、エンドミルを一旦X軸マイナス方向に回帰させるとともにY軸プラス方向に移動させる。そして、矢印sc2に沿って、X方向に隣り合うD(1、2)からD(6、2)までの各所定位置にて順に切削加工してゆく。以下同様に、矢印sc3に沿ってX方向に隣り合うD(1、3)からD(6、3)を、さらに矢印sc4に沿ってX方向に隣り合うD(1、4)からD(6、4)を、この順に切削加工してゆく。
【0013】
また、
図13(b)の例では、まず矢印sc1に沿って、X方向に隣り合うD(1、1)からD(6、1)までの各所定位置にて順に切削加工してゆく。次に、エンドミルをY軸プラス方向に移動させる。そして、矢印sc2に沿って、X方向マイナス側に隣り合うD(6、2)からD(1、2)までの各所定位置にて順に切削加工してゆく。以下同様に、矢印sc3に沿ってX方向プラス側に隣り合うD(1、3)からD(6、3)を、さらに矢印sc4に沿ってX方向マイナス側に隣り合うD(6、4)からD(1、4)を、この順に切削加工してゆく。
【0014】
かかる加工方法で製作した金型を用いて樹脂成形品を製造すると、樹脂成形品の外観面において、反射光の干渉により意図しない色むらが視認されることがあった。このような色むらは、樹脂成形品を観察する方向によって視認のされ方が異なるが、製品の筐体、外殻について実用時に観察方向を制限することはできないため、色むらは意匠の品質を低下させるものとして問題となっていた。
【0015】
尚、上述したように、かかる加工方法では1つの所定位置にて切削している間のエンドミル303の回転軸の位置は、金型の母材300に対して相対的に固定させている。したがって、特許文献1の発明の解決課題が発生していた光学レンズ用金型の加工法、すなわち切込みを行いながら金型母材と切削工具とを相対的に移動及び軸回転させる切削方法とは異なるものである。
【0016】
仮に、特許文献1の解決手段を参考に、1つの所定位置にて切削している間にエンドミルの回転軸を揺動させるとすれば、形成される凹部の形状が拡大したり不定形になってしまい、設計された形状の成形面をそもそも製作できなくなってしまう。
【0017】
そこで、所望の光沢度(所望の艶消しレベル)を呈し、しかも色むらの視認性が抑制された外観面を備える樹脂成形品、および係る樹脂成形品を製造可能な金型、および係る金型を製造する製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様は、外観面に多数の凸部が配置された樹脂成形品であって、前記多数の凸部の各々は、当該凸部を通る中心線を中心とする円の円周に沿って形成された微細凹凸を有しており、前記外観面に対する法線方向から見た場合の面積が1mm
2
以上かつ4mm
2
以下である領域について、前記凸部毎に前記微細凹凸の表面粗さ(rms)を求めた時、標準偏差が0.01μm以上となるように、前記領域には、前記多数の凸部のうちの前記微細凹凸の形状が互いに異なる複数の凸部が配置されている、ことを特徴とする樹脂成形品である。
【0019】
また、本発明の第2の態様は、成形面に多数の凹部が配置された樹脂成形用の金型であって、前記多数の凹部の各々は、当該凹部を通る中心線を中心とする半径の異なる複数の円の円周に沿って形成された微細凹凸を有しており、前記成形面に対する法線方向から見た場合の面積が1mm
2
以上かつ4mm
2
以下である領域について、前記凹部毎に前記微細凹凸の表面粗さ(rms)を求めた時、標準偏差が0.01μm以上となるように、前記領域には、前記多数の凸部のうちの前記微細凹凸の形状が互いに異なる複数の凹部が配置されている、ことを特徴とする樹脂成形用の金型である。
【0020】
また、本発明の第3の態様は、回転する切削工具を用いて母材の加工位置を切削して、前記加工位置に凹部を形成する凹部形成工程と、前記加工位置を変更する位置変更工程と、を交互に繰り返して、成形面に複数の凹部が形成された金型を製造する方法であって、前記凹部形成工程においては、前記凹部には当該凹部を通る回転軸を中心とする円周に沿って切削時の前記切削工具の形状に応じた微細凹凸が形成され、前記切削工具の形状は、複数の前記凹部を形成する間に変化し、前記位置変更工程を繰り返し実行する際には、前記成形面を法線方向から見た場合の面積が1mm
2
以上かつ4mm
2
以下である領域について、製造された金型の前記凹部毎に前記微細凹凸の表面粗さ(rms)を求めた時、標準偏差が0.01μm以上となるように、前記加工位置を変更してゆく、ことを特徴とする金型の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、所望の光沢度(所望の艶消しレベル)を呈し、しかも色むらの視認性が抑制された外観面を備える樹脂成形品、および係る樹脂成形品を製造可能な金型、および係る金型を製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る原稿読取装置を備えたプリンタの斜視図。
【
図2】(a)実施形態に係る樹脂成形品である原稿カバーの外観面を模式的に示す平面図。(b)実施形態に係る樹脂部品の一部分を拡大した模式的な斜視図。(c)実施形態に係る樹脂部品の他の一部分を拡大した模式的な斜視図。
【
図3】本実施形態に係る樹脂成形品の製造に用いる金型の成形面の一部の構成を示すための模式的な斜視図。
【
図4】(a)実施形態に係る金型の成形面を撮影した写真。(b)電子顕微鏡を用いて実施形態に係る金型の成形面の一部を拡大撮影した写真。
【
図6】(a)金型を製造する際の第1の加工工程を示す模式図。(b)金型を製造する際の第2の加工工程を示す模式図。
【
図7】金型を製造する際の第3の加工工程を示す模式図。
【
図8】実施形態に係る金型の製造方法において、凹部を形成するための切削加工の順番を説明するための模式図。
【
図9】実施形態に係る金型の製造方法に係る分割ランダム加工処理において、凹部を形成するための切削加工の順番を説明するための模式図。
【
図10】実施形態に係る分割ランダム加工処理の手順を説明するためのフローチャート。
【
図11】(a)実施例1に係る樹脂成形品の外観面を表す模式的な平面図。(b)実施例1に係る樹脂部品の一部分を拡大した模式的な斜視図。
【
図12】(a)従来の金型の製造方法を説明するための模式的な斜視図。(b)従来の金型の形状を説明するための模式的な断面図。
【
図13】(a)従来の金型の製造における切削加工の順番の一例を説明するための模式的な平面図。(b)従来の金型の製造における切削加工の順番の他の一例を説明するための模式的な平面図。
【
図14】(a)切削工具の刃先形状を示す図。(b)切削加工により多数の凹部が形成された従来の金型の成形面を撮影した写真。(c)1つの凹部を電子顕微鏡を用いて拡大撮影した写真。
【
図15】(a)従来の樹脂部品の模式的な部分断面図。(b)微細な凹凸で反射した光が干渉して、反射光の強度が強まる場合を説明する図。(c)微細な凹凸で反射した光が干渉して、反射光の強度が弱まる場合を説明する図。
【
図16】(a)従来の樹脂部品の外観面を示す模式的な平面図。(b)従来の樹脂部品の一部分を拡大した模式的な斜視図。(c)従来の樹脂部品の他の一部分を拡大した模式的な斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
最初に、本発明の課題解決原理についての理解を容易にするため、従来の加工方法で製作した金型を用いて製造した樹脂成形品の外観面に意図しない色むらが発生していた原因について説明する。以下に記載する原因は、発明者らが鋭意努力した結果、解明するに至った知見である。
【0024】
(色むらの発生原因)
既に参照した
図12(a)に示す加工方法で切削工具を用いて微細な凹部を形成すると、金型に形成された凹部の内面は
図12(b)の模式図に示したような滑らかな曲面ではなく、微視的には切削工具の先端の刃形状に依存した溝が形成されている。
【0025】
図14(a)は、切削工具の刃先形状を示す図で、図中右側の拡大図に示すように、エンドミル303の表面には微細な凹凸304が存在する。このため、切削工具の回転軸のXY座標を所定位置(切削加工位置)に固定して切削加工を行うと、金型母材に形成される凹部の内面には、エンドミル303の微細な凹凸304により、回転軸を中心とする円に沿って切削痕が形成される。
図14(b)は、切削加工により多数の凹部が形成された金型310の成形面を撮影した写真の一部であり、
図14(c)は、1つの凹部H(4、2)を電子顕微鏡を用いて拡大撮影した写真である。
図14(c)に示すように、凹部H(4,2)には、切削時にエンドミルの回転軸が位置していた中心線Ax(4、2)を中心とする半径の異なる円に沿って多数の切削痕305(微細な凹凸)が形成されている。
図14(b)に示すように、凹部H(4、2)以外の他の凹部にもエンドミル303の微細な凹凸304を反映した切削痕が、エンドミルの回転軸が位置していた中心線を中心とする円に沿って多数形成されている。
【0026】
図15(a)は、かかる金型を用いて製造した樹脂部品の模式的な部分断面図である。便宜的に、金型の各凹部の表記に対応させて、樹脂部品に形成された各凸部を例えばCv(3、2)のようにXY座標で表記するものとする。樹脂部品400の外観面には、所望の光沢度(所望レベルの艶消し)を付与するため、平面視で直径が約100μmの大きさの凸部Cvが多数設けられている。金型の凹部の中心線Axに対応した凸部の中心線をCxとすれば、各凸部にはCxを中心とする円周に沿って、微細凹凸405が形成されている。微細凹凸405は、金型の凹部に形成された切削痕305が転写されたものである。
【0027】
凸部Cvの表面にこのような微細凹凸405が存在すると、微細凹凸405の凹部で反射した光と凸部で反射した光が干渉して、波長によって反射光の強度が強まったり弱まったりする。
図15(b)および
図15(c)は、これを説明するための模式図である。
微細凹凸405が存在すると、凹部で反射した光と凸部で反射した光には光路長差が生まれるが、光路長差が光の波長の整数倍であれば、
図15(b)に示すように凹部で反射した光と凸部で反射した光の位相が一致する。一方、光路長差が光の波長の1/2だけだとすると、凹部で反射した光と凸部で反射した光の位相が逆になるため、互いに打ち消しあって反射光の強度は弱くなる。
【0028】
一つの凸部Cvには、多数の微細凹凸405が存在するが、例えば緑色の光に対して光路差が波長の整数倍となるようなサイズの微細凹凸が存在する割合が大きいとすると、その凸部Cvの反射光は全体として緑色の色調が強くなると考えられる。艶消しのために設ける凸部Cvの1つのサイズは、平面視の直径が例えば約100μm程度と微小であり、凸部の一つ一つの形状が視認されるわけではないが、近接する複数の凸部が同色の干渉色(例えば緑色光)を呈するとすれば、その色は視認され得る。
【0029】
もし、艶消しのために樹脂部品400の外観面に形成された凸部Cvが全て同一形状であれば、艶消し部全体が例えば緑色を帯びて見えることがあるとしても、部位によって色調が異なるような色むらが発生するわけではないので、意匠品質上の問題は小さい。
しかしながら、実際の樹脂部品400の外観面では、部位により色調が異なる色むらが視認され、意匠品質が低下してしまっていた。例えば、
図16(a)に示す樹脂部品400の外観面30の全域に、所定の光沢度(艶消し)を付与するために多数の凸部Cvを設けた場合に、領域31と領域32の色調が異なるという問題が発生していた。
【0030】
発明者らが鋭意検討した結果、近接した範囲内に存する複数の凸部Cvは、同色の光を干渉で強める傾向があるのに対し、距離が離間した凸部Cvは、互いに異なる色の光を干渉で強める傾向があることが分かった。例えば、領域31は緑色を帯びるのに対し、領域32は赤色を帯びる場合があり、色調が場所により違うため色むらが視認される。さらに検討すると、樹脂成形に用いた金型310において、近接した範囲に存する複数の凹部Hは、切削痕305の形状が類似して均一性が高いが、距離が離間した位置に配された凹部では、切削痕305の形状に有意な差があることが判明した。
【0031】
図13(a)や
図13(b)に例示したように、従来は、金型の母材300に多数の凹部を形成する際に、切削工具であるエンドミル303を隣接する所定位置に順次移動させて、隣接する凹部を順に形成していた。切削工具には、
図14(a)に示したように微細な凹凸304が存在するが、切削を行うに従い摩耗等により微細な凹凸304の形状は徐々に変化してゆく。このため、切削加工を行った順番が近い凹部どうしは、エンドミル303の微細な凹凸304の形状の変化が小さいため、切削痕の形状どうしの違いも小さい。これに対して、切削加工の順番が離れた、すなわち遠い位置にある凹部どうしは、エンドミル303の微細な凹凸304の形状が大きく変化した状態で加工されるため、切削痕の形状の違いも大きいのである。
【0032】
図16(b)と
図16(c)に、このような従来の金型を用いて製造した樹脂部品400の領域31と領域32に形成された複数の凸部Cvの形状を模式的な斜視図として示す。図示のように、各々の領域内では微細凹凸405の形状の均一性が高いが、領域どうしが離間しているため、領域31と領域32では微細凹凸405の形状には差異が生じており、領域31と領域32の色調が異なって視認される。
【0033】
[実施形態]
図面を参照して、本発明の実施形態である、樹脂成形品、樹脂成形品の製造方法、樹脂成形品を備えた機器、当該樹脂成形品を製造するための金型、および金型の製造方法について説明する。
尚、以下の実施形態等の説明において参照する図面では、特に但し書きがない限り、同一の参照番号を付して示す要素は、同一の機能を有するものとする。
【0034】
実施形態の樹脂成形品(樹脂部品)は、例えば、曲面を含む板状の樹脂成形品であって、高品位な外観が要求される家電製品や電子機器製品の外観、自動車などの車両の外装品や内装品に好適に用いられる。ここでは、実施形態の一例として、原稿読取装置を備えたプリンタの外装に用いる樹脂部品を例示する。
【0035】
図1は、原稿読取装置を備えたプリンタの斜視図であり、外観面を構成する部位には、実施形態の樹脂成形品が用いられている。
図1において、1は複合型プリンタであり、原稿カバー12や本体10などを形成する筐体は、例えば黒色の樹脂で成形されている。また、11はユーザの目に触れる、高品位な外観が求められる外観面である。
【0036】
(樹脂成形品)
図2(a)は、実施形態の樹脂成形品である原稿カバー12の外観面130を模式的に示す平面図であり、外観面130の全域には、所定の光沢度(艶消しレベル)を付与するために、形状が視認されがたいほどに微細な凸部が多数設られている。
図2(b)は、
図2(a)に示す点線で囲まれた領域131の模式的な拡大斜視図、
図2(c)は点線で囲まれた領域132の模式的な拡大斜視図である。
【0037】
図2(b)および
図2(c)に示すように、外観面130には多数の凸部Cvが2次元的に配置されている。各々の凸部Cvの形状は、製造上の誤差を除けば、中心線Cxを軸とする回転対称体である。各々の凸部Cvには、中心線Cxを中心とする円に沿って微細凹凸105が形成されている。
図2(b)、
図2(c)では、各々の凸部Cvに形成された微細凹凸105の形状の異同を示す便宜のため、微細凹凸105の形状が類似するもの同士に同じテクスチャーを付し、類似しないものには異なるテクスチャーを付して模式的に図示している。尚、テクスチャーについては、円形の微細凹凸105の半円分だけを描くことにより、斜めから視た場合における陰影を模式的に示している。
【0038】
従来の樹脂成形品では、
図16(a)~
図16(c)を参照して説明したように、1つの領域内には微細凹凸405の形状の均一性が高い凸部が群集(密集)しており、離間した領域どうしでは微細凹凸405の形状が異なるように、凸部が配置されていた。
【0039】
これに対して、本実施形態では、外観面130において、微細凹凸105の形状の均一性が高い凸部Cvが、1つの領域内に多数個密集しないように配置されている。すなわち、
図2(b)および
図2(c)に模式的に示すように、1つの領域内に含まれる凸部Cvに形成された微細凹凸105の形状が適宜ばらつくように構成されている。微視的には各凸部にて反射される反射光は微細凹凸の形状に依存した干渉色を呈するが、微細凹凸の形状の均一性が高い凸部が領域内に群集していないため、領域全体として特定の干渉色が強く視認され易くなることがない。本実施形態では、領域131、領域132に限らず、外観面130のどの領域においても、領域内に含まれる凸部Cvに形成された微細凹凸105の形状が適宜ばらつくように構成されている。尚、領域は、1mm
2以上かつ4mm
2以下の面積に設定するとよい。色むらを抑制するためには、人間が色の違いを認識しやすい大きさ(面積)の領域を対象にすべきだからである。
【0040】
次に、凸部Cvの基本形状と、微細凹凸105の形状のばらつきについて、具体的に説明する。凸部Cvは光沢度(艶消しのレベル)を調整するために設けられるものであるため、当該樹脂部品を備えた装置を使用する際に、ユーザが個別の凸部形状を視認できない程度に微小なサイズである必要がある。また、凸部の形状精度を担保するためには、製造工程における金型からの離型性を良好にする必要がある。
【0041】
これらの必要性から、凸部Cvは、高さが15μm未満であることが好ましい。射出成形時の樹脂の収縮率、および樹脂の弾性により、アンダーカットとなっても、高さが15μm未満であれば構造の破壊なく離型することができる。例えば、100mm幅の半円柱形状の樹脂成形品を成形する場合に、離型方向と垂直な方向に対する最大段差が15μm未満であれば、ABSやHIPS(ハイインパクトポリスチレン)等の樹脂材料で離型が可能であることを確認している。尚、凸部の高さは、例えば白色干渉計を用いて測定することが可能である。例えば、ZYGO社の3次元光学プロファイラーNewView7000を用いて、10倍の対物レンズで樹脂成形品の1.0mm×1.4mmの領域を10箇所測定した値の平均値を、凸部の高さとみなしてもよい。
【0042】
また、凸部Cvは、ユーザが個別の凸部形状を視認できない程度に微小なサイズである必要性から、外観面を法線方向から見たときの凸部Cvの直径は、170μm以下であるのが望ましい。言い換えれば、外観面を法線方向から見たときの1つの凸部Cvの面積は、23000μm2以下であるのが望ましい。さらに望ましくは、直径は100μm以下とするのがよい。
【0043】
また、高品位な艶消しの質感を実現するためには、外観面を法線方向から見た場合に、複数の凸部Cvの総面積が外観面の面積の50%以上となるように複数の凸部Cvを外観面に配置するのが望ましい。
【0044】
各凸部の表面に形成された微細凹凸105の形状は、当該凸部の表面粗さ(rms)によって規定し得るが、各凸部の表面粗さ(rms)は、表面粗さ測定機を用いて計測することが可能である。例えばZygo社のNewView測定器を用いて凸部の3次元形状を計測し、3次元形状データからハイパスフィルタによって凸部の基本形状成分を除去することで、各凸部の微細凹凸105の形状に対応する表面粗さ(rms)を算出することができる。
【0045】
本実施形態では、外観面中の所定面積の領域内において、凸部毎の表面粗さ(rms)がばらつくように、所定面積の領域内の凸部毎の表面粗さ(rms)についての標準偏差が所定値以上になるように構成されている。ここで、領域を、例えば
図2(b)、
図2(c)に示すように5×5に配置された25個の凸部を含む領域とした場合に、領域内の各凸部を区別するため便宜的にCv1、Cv2、・・・、Cv25と呼ぶとする。Cv1の表面粗さ(rms)をx1、Cv2の表面粗さ(rms)をx2、・・、Cv25の表面粗さ(rms)をx25とした時、x1~x25の標準偏差が所定値以上となるように各凸部の微細凹凸の形状にばらつきを持たせている。具体的には、凸部の表面粗さ(rms)の標準偏差が、0.01μm以上であることが好ましい。従来の樹脂部品の外観面では、微細凹凸の形状の均一性が高い凸部が群集していたため、領域内の凸部の表面粗さ(rms)の標準偏差が例えば0.008μmと小さく、近接した波長で干渉が生じるためマクロ的に干渉色が視認されやすい。本実施形態は、どの領域においても凸部の表面粗さ(rms)の標準偏差を例えば0.01μm以上とすることにより、領域内の各凸部で生じる干渉光の波長がばらつくため、どの領域においても特定の干渉色が強く視認されることはないのである。
【0046】
(樹脂成形品の製造方法、および製造に用いる金型の形状)
本実施形態の樹脂成形品は、金型に形成されたキャビティにゲートから溶融樹脂を射出充填することにより成形される点では従来と同様であるが、実施形態の製造工程に用いる金型の成形面は、従来用いていた金型の成形面とは凹部の形状構成が異なる。尚、樹脂材料としては、例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネートなどの熱可塑性の材料を用いることができる。
【0047】
図3は、本実施形態の樹脂成形品の製造に用いる金型の成形面の一部の構成を示すための模式的な斜視図である。金型200の成形面には、樹脂成形品に所定の光沢度(艶消し)を付与するための凹部Hが多数形成されている。各凹部の形状は、製造誤差を除けば、金型を製造する際にエンドミルの回転軸が位置していた中心線Axを中心とする回転対称な形状である。各凹部には、中心線Axを中心とする円に沿って、切削工具の凹凸により形成された切削痕である多数の微細凹凸205が形成されている。
図3では、各々の凹部Hに形成された微細凹凸205の形状の異同を示す便宜のため、微細凹凸205の形状が類似するもの同士に同じテクスチャーを付し、類似しないものには異なるテクスチャーを付して模式的に図示している。
【0048】
本実施形態の金型200の成形面においては、切削痕である微細凹凸の形状が類似した、言い換えれば微細凹凸形状の均一性が高い凹部が、多数近接して密集しないように配置している。つまり、微細凹凸の形状が類似した凹部どうしは、空間的に適宜分散して配置されている。n×n個の凹部を一つの単位とした時、
図3に模式的に示すように、どの位置においても単位内に含まれる凹部Hに形成された微細凹凸205の形状が適宜ばらつくように構成されているのである。
【0049】
各々の凹部Hの表面に形成された微細凹凸205の形状は、当該凹部の表面粗さ(rms)によって規定し得るが、各凹部の表面粗さ(rms)は、表面粗さ測定機を用いて計測することが可能である。例えばZygo社のNewView測定器を用いて凹部の3次元形状を計測し、3次元形状データからハイパスフィルタによって凹部の基本形状成分を除去することで、各凹部の微細凹凸205の形状に対応する表面粗さ(rms)を算出することができる。
【0050】
本実施形態では、造形面における所定面積の領域内(あるいは所定個数の凹部を含む領域内)において、凹部毎の表面粗さ(rms)がばらつくように、領域内の全ての凹部の表面粗さ(rms)に対する標準偏差が所定値以上になるように構成されている。
【0051】
ここで、所定の大きさの領域を、例えば5×5に配置された25個の凹部を含む領域とした場合に、領域内の各凹部を区別するため便宜的にH1、H2、・・・、H25と呼ぶとする。H1の表面粗さ(rms)をhx1、H2の表面粗さ(rms)をhx2、・・、H25の表面粗さ(rms)をhx25とした時、hx1~hx25の標準偏差が所定値以上となるように各凹部の微細凹凸の形状にばらつきを持たせている。具体的には、凹部の表面粗さ(rms)の標準偏差が、0.01μm以上であることが好ましい。従来の金型の成形面では、微細凹凸の形状の均一性が高い凹部が群集していたため、凹部の表面粗さ(rms)の標準偏差が例えば0.008μmと小さく、形状が転写された樹脂成形品の外観面にて特定の干渉色が視認されやすい。本実施形態では、金型成形面の所定の大きさの領域に形成された凹部の表面粗さ(rms)の標準偏差を、0.01μm以上とすることにより、形状が転写された樹脂成形品の外観面において特定の干渉色が強く視認されることはないのである。
【0052】
図4(a)は、本実施形態の一例である金型200の成形面を撮影した写真である。成形面のうち、樹脂部品に所定の光沢度(艶消し)を付与したい領域には、多数の凹部が形成されている。また、
図4(b)は、
図4(a)に示した成形面のうち、凹部が形成された領域のうちの一部である領域R1を、電子顕微鏡を用いて拡大倍率を上げて撮影した写真である。
図4(a)から判るように、成形面には、樹脂部成形品に凸部を形成するための凹部が2次元的に多数配置されている。
図4(b)から判るように、各々の凹部Hには、中心線Axを中心とする円に沿って微細凹凸205が形成されているが、
図14(b)の従来の金型とは異なり、微細凹凸の形状の均一性が高い凹部が群集して配置されているわけではない。すなわち、表面粗さ(rms)の標準偏差が所定値以上となるように、領域内に存在する各凹部の微細凹凸の形状にばらつきを持たせていることが写真から判る。このような金型に樹脂を射出して成形することにより、干渉色の色むらが視認されにくい高品位な外観の樹脂成形品を作成することができる。
【0053】
(金型の製造方法)
次に、本実施形態における樹脂成形用の金型の製造方法について説明する。
図5は、実施形態に係わる金型を製造するマシニングセンタを示す図である。マシニングセンタ80は、加工機本体81と、制御装置82とを有する。樹脂を注入するキャビティは、金型の一部を構成する複数の駒(キャビティ駒と称する場合がある)によって形成されていてもよい。キャビティを駒によって形成すると、複雑な形状の成形品であっても、転写面を分割して加工することができるため、金型の製造コストを削減することができる。
【0054】
加工機本体81は、加工対象物である金型(キャビティ駒)の母材83に切削加工を施して、金型を製造するものである。加工機本体81は、切削工具84を支持する主軸であるスピンドル85、Xステージ86、Yステージ87及びZステージ88を有する。
切削工具84はエンドミルを使用することが好ましい。スピンドル85は、切削工具84をZ軸まわりに回転させる。Zステージ88は、スピンドル85を支持し、切削工具84を、加工対象である母材83に対してZ方向に移動させる。同様に、Xステージ86は、母材83に対して切削工具84をX方向に、Yステージ87は、母材83をY方向に移動させる。よって、加工機本体81は、切削工具84を回転させながら、切削工具84の先端を母材83に対して相対的にXYZ方向に移動させることができる。
【0055】
制御装置82は、CPU及びメモリ等を有するコンピュータで構成され、加工機本体81をNCデータ89に基づいて制御する。NCデータ89には、X方向の移動量、Y方向の移動量、Z方向の移動量、主軸の回転速度、X方向の送り速度、Y方向の送り速度、Z方向の移動速度などの切削加工で使用する各種の指令が含まれている。制御装置82の制御により、切削工具84を回転させながら加工対象である母材83に対して相対的に移動させることにより、母材83にNCデータ89に基づく三次元形状を切削加工することができる。
【0056】
図6(a)、
図6(b)、
図7は、加工機を用いて母材83を加工して金型を製造する製造工程を示している。
図6(a)は第1の加工工程、
図6(b)は第2の加工工程、
図7は第3の加工工程を示している。母材83の材料としては、ステンレス鋼が挙げられるが、加工性や射出成形の耐久性の観点から、その他の材料を用いてもよい。
【0057】
まず、
図6(a)に示す第1の加工工程では、金型の母材83の表面101を粗加工する。
図5に示すマシニングセンタに切削工具としてラジアスエンドミル102を装着し、ラジアスエンドミル102を回転させながら切り込ませ、走査して切削加工を行う。その際、表面101を第2の加工工程で平滑にするときの手間を省くため、第1の加工工程で表面凹凸を10μm以下にすることが好ましい。
【0058】
図6(b)に示す第2の加工工程では、金型の母材83の表面101を回転式研磨工具103とダイヤモンドペーストを使って鏡面加工する。第2の加工工程では、表面101の表面凹凸を5μm以下にすることが好ましい。なお、
図6(a)及び
図6(b)では母材83の加工面が平面の場合を図示しているが、曲面の場合は、CAD等で設計した所定の曲面データに従って同様の加工を行う。
【0059】
図7に示す第3の加工工程では、金型の母材83の表面101にボールエンドミル106を使って凹部を形成する加工を行う。
図7に示すように、ボールエンドミル106を回転させながら切削する凹部形成工程と、切削位置を変更する位置変更工程を交互に繰り返して、表面101に複数の凹部Hを順に形成する。この時、すでに説明したように凹部Hにはボールエンドミル106の刃形状に起因する微細な凹凸が円周(刃先の回転軌跡)に沿って形成される。微細凹凸の形状が近似した凹部Hが近接領域内に群集すると樹脂成形品において干渉光が色として視認されやすくなるため、本実施形態では、微細凹凸の形状が近似した凹部Hが近接領域内に群集しないように金型を製造する。言い換えれば、近接領域内に配置される凹部Hの微細凹凸の形状が分散するように金型を製造する。具体的には、凹部Hを金型成形面となる母材表面に2次元的に多数形成してゆく際に、切削加工の順番をランダムにすることで微細凹凸の形状の分散を実現する。上述したように、ボールエンドミル106の刃形状は、多数の凹部を形成するために加工を継続する間に摩耗によって変化する。
【0060】
そこで、本実施形態では、
図8に矢印を用いて例示するような順番に従って切削加工を行い、金型成形面となる表面101内に複数の凹部Hを形成する。すなわち、複数の凹部Hを切削加工で形成する際の加工順番を空間的に離散させて配置することで、実質的に同一の摩耗状態の切削工具で加工された複数の凹部Hが空間的に近接して集合しないようにする。このように離散的に配置された加工順で加工しているうちに、ボールエンドミル106の摩耗状態が変化してゆくが、
図3あるいは
図4を参照して説明したように、金型には微細凹凸の形状が類似した凹部が空間的に分散して形成されることになる。言い換えれば、空間的に近接した範囲内に形成された複数の凹部の微細凹凸の形状は、ばらついた(標準偏差が大きな)ものとなる。
【0061】
ここで、加工順を空間的に離散的に配置にするには、各々の凹部を形成するために定められた加工位置に切削加工を行う順番を割り当てるアルゴリズムに、例えばランダムウォークに関する公知のシミュレーション手法や数学的手法を応用すればよい。例えば、RAND関数を適用して加工順を決めてもよい。また、微細凹凸の空間分布の標準偏差が所定値以上になるような加工順を提供できるのであれば、ランダムや疑似ランダムの手法に限らず、他の方法で凹部の加工順が空間的に離散的に配置するようにしてもよい。
【0062】
尚、加工する順番を離散的に配置にすると、従来の隣接順に加工していた場合に比べて次の加工位置にボールエンドミル106を移動させる距離(以下、移動距離と称す)が増加するため、加工時間が大きく増大してしまう可能性がある。加工時間の増大を抑制するため、例えば、
図9に示すように、加工範囲に複数の部分領域を設定し、1つの部分領域内でランダムウォーク加工を行った後に次の部分領域に移動させて加工しても良い。このような加工手順を、便宜的に分割ランダム加工処理と呼ぶ。尚、ここで言う分割とは、金型の母材を物理的に分割して加工するという意味ではなく、加工範囲に複数の領域を仮想的に設定するという意味である。分割ランダム加工処理によれば、加工範囲の全域内をランダムウォークする処理と比較して平均移動距離を小さくすることができるため、加工時間の増大を抑制することが可能である。
【0063】
[分割ランダム加工処理]
図10は、分割ランダム加工処理を実施するためのフローチャートの一例である。
まず、ステップS201において、加工情報を取得する。加工情報とは、金型成形面となる表面101に切削加工により形成する複数の凹部Hに関する位置情報である。
次に、ステップS202において、凹部Hを加工する領域をM個の部分領域に分割する、すなわち加工範囲内にM個の部分領域を設定する。
【0064】
本実施形態では、各部分領域内のN箇所に凹部を形成するために、各部分領域内においてN回の切削加工を行うが、その加工回数を管理する変数を繰り返し加工回数jと設定している。ステップS203においては、繰り返し加工回数jを1に設定する。
ステップS204において、部分領域を表す領域番号iを1に設定する。
【0065】
ステップS205において、当該部分領域の加工情報に含まれるN箇所の中から、まだ凹部を形成していない1箇所をランダムに選択し、切削加工により凹部を形成する。
次に、ステップS206において、繰り返し加工回数jがN、すなわち当該部分領域においてN箇所の凹部の形成が完了したか否かを判定する。j=Nではなかった(S206:No)場合には、ステップS207に進み繰り返し加工回数jに1を加算してステップS205に戻り、まだ凹部を形成していない1箇所をランダムに選択し、切削加工により凹部を形成する。このループは、当該部分領域においてN箇所の凹部の形成が完了するまで繰り返し実行される。
【0066】
ステップS206において、繰り返し加工回数jがNであった(S206:Yes)場合には、当該部分領域におけるN箇所の凹部の形成が完了したとして、ステップS208に進む。
ステップS208において、領域番号iがM、すなわち全ての部分領域において凹部の形成が完了したか否かを判定する。i=Mではなかった(S208:No)場合には、ステップS209に進み、領域番号iに1を加算するとともに繰り返し加工回数jを1にリセットしてステップS205に戻る。そして、次の部分領域においてまだ凹部を形成していない1箇所をランダムに選択し、切削加工により凹部を形成する。このループは、加工範囲内に設定されたM個の部分領域の全てにおいてN箇所の凹部の形成が完了するまで繰り返し実行される。
ステップS208において、領域番号iがMであった(S208:Yes)場合には、全ての凹部の形成が完了したとして、加工を終了する。
【0067】
以上のフローに従って加工処理を行えば、
図9に例示したように平均加工距離(平均加工時間)が増大するのを抑制しながら、金型には微細凹凸の形状が類似した凹部が空間的に分散して形成されることになる。尚、
図9では分割ランダム加工処理の図示を容易にするため、M=9、N=3の例を示した。しかし、部分領域の数や各部分領域に形成する凹部の数は、この例に限られない。達成したい凹部の表面粗さ(rms)の標準偏差、樹脂成形品に付与したい光沢度(艶消し度)、許容される色むらの程度、金型の加工に要する時間、等を考慮して適宜設定することが可能である。
【0068】
以上説明したように、実施形態によれば、樹脂成形品の外観面に所定の光沢度(艶消し)を付与するために形状が視認できないほど微小な凸部を多数設ける場合に、外観面の部分毎に異なる色の干渉光が視認されるような色むらを抑制することができる。各々の凸部は干渉色を発生させ得る微細凹凸を有するが、本実施形態の樹脂成形品においては、近接した波長の干渉色を発生させる凸部が空間的に離散して配置されている。人間の視覚特性では、観察対象の面積が小さくなると色を判別しにくくなるが、通常の視距離において色を認識可能な大きさを所定面積としたとき、本実施形態では所定面積の領域内に特定の干渉色を発生させる凸部が群集しないようにする。言い換えれば、通常の使用状態における観察位置から樹脂部品を観察した時、所定面積の領域内に配置された複数の凸部については、干渉色を発生させる微細凹凸の形状のばらつきを示す標準偏差が所定値以上に大きくなるようにする。例えば、外観面の1mm×1mmの領域において、平面視で50%以上の面積を占めるように直径が100μm以下の凸部を多数配置させるとき、凸部の表面粗さ(rms)の標準偏差が0.01μm以上になるように樹脂成形品を構成する。
【0069】
実施形態によれば、色むらの発生が抑制された樹脂成形品を製造するための金型を提供することができる。樹脂成形品の外観面の艶消し部に形状が視認できないほど微小な凸部を成形するため、金型の成形面は多数の凹部を有するが、本実施形態の金型は、凹部を加工した際の切削痕である微細凹凸の形状が類似した凹部どうしが空間的に分散するように配置している。言い換えれば、成形面の所定面積の領域内に配置された複数の凹部については、切削痕である微細凹凸の形状のばらつきを示す標準偏差が所定値以上に大きくなるようにする。例えば、成形面の1mm×1mmの領域において、平面視で50%以上の面積を占めるように直径が100μm以下の凹部を多数配置させるとき、凹部の表面粗さ(rms)の標準偏差が0.01μm以上になるように金型を構成する。
【0070】
実施形態によれば、色むらの発生が抑制された樹脂成形品を製造するための金型を製造する方法を提供することができる。かかる金型の成形面に設けられた多数の凹部は、切削工具を用いて母材を切削加工して形成するが、凹部の加工順を空間的に離散させて配置することで、実質的に同一の摩耗状態の切削工具で加工された凹部が空間的に近接して集合しないようにする。加工順を空間的に離散的に配置するために、各々の凹部を形成するために定められた加工位置に切削加工を行う順番を割り当てるアルゴリズムに、例えばランダムウォークに関する公知のシミュレーション手法や数学的手法を応用する。
【0071】
[実施例1]
図11(a)は、実施例1に係る樹脂成形品の外観面を表す模式的な平面図である。また、
図11(b)は、
図11(a)に示す矩形で示す領域182を拡大した模式的な斜視図である。
実施例1では、厚さ1.6mm、縦および横の長さが20mmの板状の樹脂成形品180の主面全体に多数の凸部181を形成した。各々の凸部181の高さは10μmであり、隣接する凸部を隔てる間隔は90μmとなるようにし、全部で49284個の凸部を形成した。このように微細な凸部を全面に形成することで、樹脂成形品180の外観面はマットな質感を持つ低光沢(艶消し)面となり、60度光沢度は約8.0となった。
【0072】
本実施例では、樹脂成形品を射出成形するのに用いる金型の材料には、ステンレスを使用した。
図5に示すマシニングセンタにラジアスエンドミルを取り付け、
図6(a)を参照して説明した粗加工を行い、さらに、回転式研磨工具とダイヤモンドペーストを用いて
図6(b)を参照して説明した鏡面加工を施した。その後、直径が200μmのボールエンドミルを用いて、
図7及び
図8を参照して説明したように、金型の母材の凹部形成位置をランダムな順番で選択して切削加工を行い、凹部を形成した。全ての凹部を形成するための切削加工に要した時間は、約20時間であった。加工した金型の成形面を電子顕微鏡で観察すると、
図4(b)を参照して説明したように、ボールエンドミルの刃形状を反映した切削痕である微細凹凸が凹部毎に異なり、近接領域の凹部における微細凹凸の形状がばらついていることが判った。
【0073】
この金型を用いて射出成形を行い、樹脂成形品180を得た。尚、樹脂材料は黒色のHIPSを使用した。樹脂成形品180内の領域182(4mm2)に存在する全凸部の表面粗さ(rms)を計測した。位置を変えて領域182を設定し、各凸部の表面粗さの標準偏差を算出した結果、どの位置においても領域182内の表面粗さの標準偏差は0.021μmから0.049μmの範囲内であった。なお、表面粗さはZygo社製のNewView測定器を用いて計測した。
【0074】
得られた黒色の樹脂成形品の外観面について、平均的な視力の人による観察を行い、干渉色の有無について評価した。その結果、干渉色の色むらはほとんど視認できないことを確認した。従来手法により凹部を順次加工した金型を用いて製造した従来の樹脂成形品と比較すると、干渉光の視認性の違いは歴然であり、実施例の樹脂成形品では色むらは大幅に抑制されていることが確認できた。
【0075】
[実施例2]
実施例1とは異なり分割ランダム加工処理により金型を製造し、その金型を用いて
図11(a)に外観を示す板状の樹脂成形品180を成形した。
本実施例も、樹脂成形品を射出成形するのに用いる金型の材料にステンレスを使用した。
図5に示すマシニングセンタにラジアスエンドミルを取り付け、
図6(a)を参照して説明した粗加工を行い、さらに、回転式研磨工具とダイヤモンドペーストを用いて
図6(b)を参照して説明した鏡面加工を施した。その後、直径が200μmのボールエンドミルを用いて、
図9及び
図10を参照して説明したように、金型の母材の凹部形成位置をランダムな順番で選択して切削加工を行い、凹部を形成した。母材の加工領域に10×10の部分領域を設定し、各部分領域における繰り返し加工回数を20として部分領域毎に切削加工を行った。全部分領域に凹部を形成するのに要した加工時間は約5時間であり、実施例1のランダム加工の4分の1の加工時間であった。加工した金型の成形面を電子顕微鏡で観察すると、
図4(b)を参照して説明したように、ボールエンドミルの刃形状を反映した切削痕である微細凹凸が凹部毎に異なり、近接領域の凹部における微細凹凸の形状がばらついていることが判った。
この金型を用いて射出成形を行い、樹脂成形品180を得た。尚、樹脂材料は黒色のHIPSを使用した。
【0076】
得られた黒色の樹脂成形品の外観面について、平均的な視力の人による観察を行い、干渉色の有無について評価した。その結果、実施例1と同様に、干渉色の色むらはほとんど視認できないことを確認した。従来手法により凹部を順次加工した金型を用いて製造した従来の樹脂成形品と比較すると、干渉光の視認性の違いは歴然であり、本実施例の樹脂成形品では色むらは大幅に抑制されていることが確認できた。
【0077】
[他の実施形態]
なお、本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
例えば、樹脂成形品の外観面の全面にわたり表面粗さ(rms)の標準偏差が所定値以上である凸部を設けなければならないわけではない。意匠的に色むらを抑制したい所定領域にのみ表面粗さ(rms)の標準偏差が所定値以上である凸部を設けてもよい。
【0078】
凸部は、通常の使用における位置関係で人間が樹脂成形品を観察する場合に、形状が実質的に視認できないものであればよく、その限りにおいて、凸部の大きさや形状に制限はない。意匠上の要請に応じて、樹脂成形品の外観面の部分毎に、凸部の大きさ、形状、配置密度を変更することも可能である。
【0079】
例えば、艶消し度の高い背景の中に光沢度の高い部分を配置した外観面を形成する場合には、艶消し度の高い背景部分のみに表面粗さ(rms)の標準偏差が所定値以上である凸部を設けてもよい。このようにして、例えば皮シボ模様やレザートーン塗装に類似した外観面を有する樹脂部品を射出成形により形成すれば、異なる干渉色に起因する色むらが抑制された品位の高い外装部品を抵抗コストで製造することができる。
【0080】
本発明は、実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0081】
1・・・複合型プリンタ/11・・・外観面/12・・・原稿カバー/105・・・微細凹凸/106・・・ボールエンドミル/130・・・外観面/181・・・凸部/200・・・金型/205・・・微細凹凸/Ax・・・中心線/Cv・・・凸部/Cx・・・中心線/H・・・凹部