(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】部品を流体キャビテーション処理するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
B24C 3/00 20060101AFI20240415BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20240415BHJP
B24C 9/00 20060101ALI20240415BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20240415BHJP
B23P 17/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B24C3/00 A
B24C11/00 Z
B24C9/00 Z
B24C1/10 C
B23P17/00 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019232374
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-12-23
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】サンダーズ, ダニエル ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ソーレソン, アマンダ ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】ディープ, ハリ ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ラムジー, グレゴリー エル.
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-121786(JP,A)
【文献】特開2008-221375(JP,A)
【文献】特開2007-050492(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031517(WO,A1)
【文献】米国特許第09200341(US,B1)
【文献】特開平04-362124(JP,A)
【文献】特開2015-186830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C1/10
B24C3/00-3/34
B23P17/00
B08B3/02
C21D7/06
B24C9/00
B24C11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品(140)の内面(142)を表面処理するためのシステム(100)であって、
内部に前記部品(140)が位置付け可能なタンク(102)、
前記タンク(102)内の流体(104)であって、前記部品(140)が前記タンク(102)内に位置付けられたときに、前記部品(140)を沈めることができる流体(104)、
前記流体(104)内に沈められたノズル(120)であって、第1の方向(150)に向けられたキャビテーション流体(122)の流れを生成するように構成されたノズル(120)、及び
前記流体(104)内に沈められた偏向ツール(144)であって、前記キャビテーション流体(122)の流れを、前記第1の方向(150)から第2の方向(152)に再方向付けする偏向面(146)を備え、前記第1の方向(150)が前記部品(140)の前記内面(142)から離れ、前記第2の方向(152)が前記部品(140)の前記内面(142)に向かっている、偏向ツール(144)を備え
、
前記偏向ツール(144)が前記タンク(102)に対して移動しないように前記偏向ツール(144)は前記タンク(102)に対して固定され、前記ノズル(120)は前記偏向ツール(144)に対して移動できる、システム(100)。
【請求項2】
前記部品(140)が前記タンク(102)内に位置付けられたときに、前記ノズル(120)が、前記部品(140)の前記内面(142)との見通し線を有さず、
前記部品(140)が前記タンク(102)内に位置付けられたときに、前記偏向面(146)が、前記部品(140)の前記内面(142)との見通し線を有する、請求項1に記載のシステム(100)。
【請求項3】
前記偏向ツール(144)が、前記部品(140)の凹部分(141)内で前記部品(140)に固定され、
前記部品の前記凹部分(141)が、前記内面(142)を画定する、請求項1又は2に記載のシステム
(100)。
【請求項4】
前記偏向面(146)が、平坦、湾曲、凹状、又は凸状の何れかである、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項5】
前記偏向ツール(144)が、少なくとも2つの偏向面(146)を更に備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項6】
前記偏向面(146)が、前記部品(140)の前記内面(142)の輪郭を補足する輪郭を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項7】
前記第2の方向(152)が、前記内面(142)に対して垂直である、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項8】
前記部品(140)が、矩形状のポケットを備え、
前記内面(142)が、それぞれが隣接する側面に対して垂直な4つの側面を備え、
前記部品(140)が前記タンク(102)内に位置付けられたときに、前記偏向ツール(144)が、前記矩形状のポケット内に位置付けられ、
前記偏向ツール(144)が、それぞれが前記キャビテーション流体(122)の流れの一部分を前記内面(142)の前記4つの側面のうちの対応する1つに向けて方向付けるように構成された、4つの偏向面(146)を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項9】
前記偏向ツール(144)の前記偏向面(146)の展性が、前記部品(140)の展性より大きい、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項10】
前記キャビテーション流体(122)の流れが、前記部品(140)の前記内面(142)に接触すると、前記内面(142)において前記部品(140)に圧縮応力を与えるように構成されている、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項11】
前記タンク(102)内の前記流体(104)に混合された研磨媒体(128)を更に含み、
前記キャビテーション流体(122)の流れが、前記研磨媒体(128)を更に含み、
前記キャビテーション流体(122)の流れの前記研磨媒体(128)が、前記部品(140)の前記内面(142)に接触すると、前記部品(140)の前記内面(142)の粗さを低減させるように構成されている、請求項1から10のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項12】
部品(140)の内面(142)を表面処理する方法(200)であって、
キャビテーション流体(122)の流れを、前記部品(140)の前記内面(142)から離れ
た第1の方向(150)に、且つシステムの偏向ツール(144)の偏向面(146)と接触する
ように向けること、
前記偏向面(146)からの前記キャビテーション流体(122)の流れを、前記部品(140)の前記内面(142)に向かう第2の方向(152)に偏向させること、及び
前記偏向面(146)からの偏向した前記キャビテーション流体(122)の流れを、前記部品(140)の前記内面(142)に衝突させることを含
み、
前記システムは、
内部に前記部品(140)が位置付けられているタンク(102)、
前記タンク(102)内の流体(104)であって、前記部品(140)を沈める流体(104)、及び
前記流体(104)内に沈められたノズル(120)であって、前記タンク(102)に対して移動でき、且つ前記第1の方向(150)に向けられた前記キャビテーション流体(122)の流れを生成するように構成されたノズル(120)を備え、
前記偏向ツール(144)が前記タンク(102)に対して移動しないように前記偏向ツール(144)は前記タンク(102)に対して固定され、前記ノズル(120)は前記偏向ツール(144)に対して移動できる、方法(200)。
【請求項13】
前記キャビテーション流体(122)の流れを前記部品(140)の前記内面(142)に衝突させることが、前記内面(142)において前記部品(140)に圧縮応力を与えることを含む、請求項12に記載の方法(200)。
【請求項14】
前記キャビテーション流体(122)の流れの中に研磨媒体(128)を導入することを更に含み、前記キャビテーション流体(122)の流れを前記部品(140)の前記内面(142)に衝突させることが、前記キャビテーション流体(122)の流れの中に導入された前記研磨媒体(128)を前記部品(140)の前記内面(142)に衝突させること、及び、前記研磨媒体(128)を用いて前記部品(140)の前記内面(142)の表面粗さを低減させることを含む、請求項12又は13に記載の方法(200)。
【請求項15】
前記偏向ツール(144)の少なくとも一部分が、前記部品(140)の凹部分(141)内に位置付けられ、
前記キャビテーション流体(122)の流れが、少なくとも部分的に、前記第1の方向(150)にある前記部品(140)の前記凹部分(141)の中に向けられる、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広くは、製造される部品の流体キャビテーション処理に関し、特に、流体キャビテーションプロセスを使用して、アクセスすることが困難な表面を有する製造される部品の表面処理を行うことに関する。
【背景技術】
【0002】
流体キャビテーション処理は、製造される部品の表面を処理するために使用される。ある技法によれば、流体キャビテーションプロセスは、製造される部品の表面をピーニング(peening)して、圧縮残留応力層を生成し、部品の機械的特性を改変するために使用される。他の技法では、製造される部品の表面粗さを仕上げ、その粗さを低減させる助けとなるために、流体キャビテーションプロセスに研磨媒体が導入される。積層造形法を使用して作製されるものなどの、幾つかの複雑な部品又は部品内の複雑な特徴にとって、キャビテーション流体が、部品の到達することが困難な表面にアクセスすることは難しい場合がある。
【発明の概要】
【0003】
本出願の主題は、当該技術分野の現状に応じて、特に、現在使用可能な技法によってまだ完全には解決されていない、製造される部品の到達することが困難な表面を処理するための、流体キャビテーション処理技法の欠点に応じて、開発されたものである。したがって、本出願の主題は、先行技術の上述された欠点のうちの少なくとも幾つかを克服する、製造される部品の到達することが困難な表面を処理するための流体キャビテーションシステム及び方法を提供するために開発されてきた。
【0004】
本明細書で開示されるのは、部品の内面を表面処理するためのシステムである。該システムは、内部に部品が位置付け可能なタンクを備える。該システムは、タンク内の流体であって、部品がタンク内に位置付けられたときに、部品を沈めることができる流体も含む。該システムは、流体内に沈められたノズルであって、第1の方向に向けられたキャビテーション流体の流れを生成するように構成されたノズルを更に備える。該システムは、流体内に沈められた偏向ツールであって、キャビテーション流体の流れを第1の方向から第2の方向に再方向付けする偏向面を備えた偏向ツールを更に備える。第1の方向は、部品の内面から離れ、第2の方向は、部品の内面に向かっている。この段落の前述の主題は、本開示の実施例1を特徴付ける。
【0005】
ノズルは、部品がタンク内に位置付けられたときに、部品の内面との見通し線(line-of-sight)を有さない。偏向面は、部品がタンク内に位置付けられたときに、部品の内面との見通し線を有する。この段落の前述の主題は、本開示の実施例2を特徴付けており、実施例2は、上述の実施例1による主題も含む。
【0006】
偏向ツールは、部品がタンク内に位置付けられたときに、部品に隣接する位置においてタンクに固定されている。この段落の前述の主題は、本開示の実施例3を特徴付けており、実施例3は、上述の実施例1又は2による主題も含む。
【0007】
偏向ツールは、部品の凹部分内で部品に固定されている。部品の凹部分は、内面を画定する。この段落の前述の主題は、本開示の実施例4を特徴付けており、実施例4は、上述の実施例1又は2による主題も含む。
【0008】
偏向面は、平坦である。この段落の前述の主題は、本開示の実施例5を特徴付けており、実施例5は、上述の実施例1から4のいずれか1つによる主題も含む。
【0009】
偏向面は、湾曲している。この段落の前述の主題は、本開示の実施例6を特徴付けており、実施例6は、上述の実施例1から5のいずれか1つによる主題も含む。
【0010】
偏向面は、凹状である。この段落の前述の主題は、本開示の実施例7を特徴付けており、実施例7は、上述の実施例6による主題も含む。
【0011】
偏向面は、凸状である。この段落の前述の主題は、本開示の実施例8を特徴付けており、実施例8は、上述の実施例6による主題も含む。
【0012】
偏向ツールは、球を備え、偏向面は、球の表面である。この段落の前述の主題は、本開示の実施例9を特徴付けており、実施例9は、上述の実施例8による主題も含む。
【0013】
偏向ツールは、少なくとも2つの偏向面を更に備える。この段落の前述の主題は、本開示の実施例10を特徴付けており、実施例10は、上述の実施例1から9のうちのいずれか1つによる主題も含む。
【0014】
偏向面は、部品の内面の輪郭を補足する輪郭を有する。この段落の前述の主題は、本開示の実施例11を特徴付けており、実施例11は、上述の実施例1から10のうちのいずれか1つによる主題も含む。
【0015】
第2の方向は、内面に対して垂直である。この段落の前述の主題は、本開示の実施例12を特徴付けており、実施例12は、上述の実施例1から11のうちのいずれか1つによる主題も含む。
【0016】
部品は、矩形状のポケットを備える。内面は、それぞれが隣接する側面に垂直な4つの側面を備える。偏向ツールは、部品がタンク内に位置付けられたときに、矩形状のポケット内に位置付けられる。偏向ツールは、4つの偏向面を備え、それぞれが、内面の4つの側面のうちの対応する1つに向けてキャビテーション流体の流れの一部分を方向付けるように構成されている。この段落の前述の主題は、本開示の実施例13を特徴付けており、実施例13は上述の実施例1、2、及び4から12のうちのいずれか1つによる主題も含む。
【0017】
偏向ツールの偏向面の展性は、部品の展性より大きい。この段落の前述の主題は、本開示の実施例14を特徴付けており、実施例14は、上述の実施例1から13のうちのいずれか1つによる主題も含む。
【0018】
キャビテーション流体の流れは、部品の内面に接触すると、内面において部品に圧縮応力を与えるように構成されている。この段落の前述の主題は、本開示の実施例15を特徴付けており、実施例15は、上述の実施例1から14のいずれか1つによる主題も含む。
【0019】
該システムは、タンク内の流体と混合した研磨媒体を更に含む。キャビテーション流体の流れは、研磨媒体を更に含む。キャビテーション流体の流れの研磨媒体は、部品の内面に接触すると、部品の内面の粗さを低減させるように構成されている。この段落の前述の主題は、本開示の実施例16を特徴付けており、実施例16は、上述の実施例1から14のいずれか1つによる主題も含む。
【0020】
部品の内面を表面処理する方法が、更に本明細書で開示される。該方法は、キャビテーション流体の流れを、部品の内面から離れて偏向ツールの偏向面と接触する第1の方向に向けることを含む。該方法は、偏向面からのキャビテーション流体の流れを、部品の内面に向かう第2の方向に偏向させることも含む。該方法は、偏向面からの偏向したキャビテーション流体の流れを、部品の内面に衝突させることを更に含む。この段落の前述の主題は、本開示の実施例17を特徴付ける。
【0021】
偏向面からの偏向したキャビテーション流体の流れを、部品の内面に衝突させることは、内面において部品に圧縮応力を与えることを含む。この段落の前述の主題は、本開示の実施例18を特徴付けており、実施例18は、上述の実施例17による主題も含む。
【0022】
該方法は、キャビテーション流体の流れの中に研磨媒体を導入することを更に含む。キャビテーション流体の流れを部品の内面に衝突させることは、キャビテーション流体の流れの中に導入された研磨媒体を部品の内面に衝突させること、及び研磨媒体を用いて部品の内面の表面粗さを低減させることを含む。この段落の前述の主題は、本開示の実施例19を特徴付けており、実施例19は、上述の実施例17による主題も含む。
【0023】
偏向ツールの少なくとも一部分は、部品の凹部分内に位置付けられている。キャビテーション流体の流れは、少なくとも部分的に、第1の方向にある部品の凹部分の中に向けられる。この段落の前述の主題は、本開示の実施例20を特徴付けており、実施例20は上述の実施例17から実施例19のいずれか1つによる主題も含む。
【0024】
説明される本開示の主題の特徴、構造、利点、及び/又は特性は、任意の適切なやり方で、1以上の実施形態及び/又は実施態様に組み合わされてもよい。本開示の主題にかかる実施形態の深い理解を促すために、後述の記載において、数々の具体的な詳細が提供される。本開示の主題が、特定の実施形態又は実施態様の具体的な特徴、詳細、構成要素、材料、及び/又は方法のうちの1以上がなくても実施され得ることを、当業者は認識するであろう。他の事例では、特定の実施形態及び/又は実施態様において、全ての実施形態又は実施態様には存在しなくてもよい追加の特徴及び利点が認められる場合がある。更に、ある事例では、本開示の主題の態様を不明瞭にしないよう、周知の構造、材料、又は工程が、詳細に記載又は図示されていない。本開示の主題の特徴及び利点は、後述の記載及び添付の特許請求の範囲によって更に明らかとなる、或いは、本主題を下記に記載されるように実施することによって理解されるであろう。
【0025】
本主題の利点がより容易に理解され得るように、上記で概説した本主題のより具体的な記載が、添付図面に示す特定の実施形態を参照して提供される。これら図面は本主題の典型的な実施形態のみを示し、従ってその範囲を限定すると見なすべきではなく、本主題は、図面を使用して更なる具体性及び詳細を用いて説明されることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な側面図である。
【
図2】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な側面図である。
【
図3】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な側面図である。
【
図4】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な上面図である。
【
図5】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な側面図である。
【
図6】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な側面図である。
【
図7】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な側面図である。
【
図8】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理するためのシステムの概略的な側面図である。
【
図9】本開示の1以上の実施例による、部品の内面を表面処理する方法の概略なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書全体で言及される「一実施形態」、「ある実施形態」、又は同様の文言は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書を通じて記載されている「一実施形態では」、「ある実施形態では」、又は同様の文言は、全て同一の実施形態を意味してもよいが、必ずしもそうでなくともよい。同様に、「実施態様」という語の使用は、本開示の1つ以上の実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、又は特性を有する1つの実施態様を意味するが、別段の相互関係が明示されない限り、実施態様は1以上の実施形態に関連付けられ得る。
【0028】
図1を参照すると、ある実施例によれば、部品140の内面142を表面処理するためのシステム100が、本明細書で説明される。システム100は、内部に部品140が位置付け可能なタンク102を含む。システム100は、タンク102内の流体104も含む。流体104は、部品140がタンク102内に位置付けられたときに、部品140を沈めることができる。システム100は、流体104内に沈められたノズル120も含む。ノズル120は、第1の方向150に向けられたキャビテーション流体122の流れを生成するように構成されている。システム100は、流体104内に沈められた偏向ツール144を更に含む。偏向ツール144は、キャビテーション流体122の流れを第1の方向150から第2の方向152に再方向付けする偏向面146を含む。第1の方向150は、部品140の内面142から離れ、第2の方向152は、部品140の内面142に向かっている。
【0029】
システム100は、ノズル120の見通し線内にない部品140の表面に対する、流体キャビテーションプロセス(例えば、キャビテーションピーニング又はキャビテーション研磨表面仕上げ)を増強する助けとなる。例えば、特定の実施態様では、ノズル120は、部品140がタンク102内に位置付けられたときに、部品140の内面142との見通し線を有さない。しかし、そのような実施態様では、偏向面146は、部品140がタンク102内に位置付けられたときに、表面仕上げされる部品140の内面142との見通し線を有する。それは、キャビテーション流体122の流れが、偏向ツール144なしに実現可能でない強度で、部品140の表面に到達するための方向付けを容易にする。
【0030】
タンク102は、流体104を含むように構成されている。概して、タンク102は、底部、及び底部から上向きに延在する側部を含む。側部は、タンク102を側方に包囲するように互いに連結されている。タンク102の上部は、少なくとも部分的に開いている。それは、流体104が、タンク102の中に注がれることを可能にし、タンク102内の流体104内に位置付けられるノズル120に対するアクセスを提供する。タンク102は、部品140、偏向ツール144、及びノズル120を、流体104内に完全に沈めるのに十分な流体104で満たされる。流体104は、ある実施例では水であり、他の実施例では、水以外の流体である。
【0031】
ノズル120は、システム100の流れ生成サブシステム106の部分を形成する。流れ生成サブシステム106は、ノズル120が、キャビテーション流体122の流れを生成することを可能にする。特定の実施例では、流れ生成サブシステム106が、ノズル120に加えて、流体源110、ポンプ112、弁114、及び一連の導管116を含む。導管116は、流体源110、ポンプ112、弁114、及びノズル120を、共に流体連結する。ポンプ112は、流体源110から流体104を引き、その流体104を弁114に提供する。弁114は、流体104をノズル120に提供する前に、流体104の圧力を調整するように構成された圧力調整弁である。ある実施態様では、弁114が、所望且つ調整可能な圧力まで流体104を加圧する電子制御された弁である。弁114は、ノズル120に供給される流体104の流量の制御を容易にする。ノズル120に供給される流体104の圧力及び流量は、キャビテーション流体122の流れのエネルギーに、比例的に影響を与える。したがって、キャビテーション流体122の流れのエネルギー、及びしたがって表面処理のレベルは、弁114の制御を介して調整可能である。
【0032】
ノズル120は、キャビテーション流体122の高速流れ(例えば、クラウド、噴流など)を生成するやり方で、流体104の中に高圧流体を導入するように構成された様々なデバイスのうちの何れかである。キャビテーション流体122は、流体104の圧力又は流体104に作用する他の力における急速な変化によって形成される、蒸気キャビティ124又は小さい非液体気泡(liquid-free bubble)を含む流体である。低圧において蒸気又は空気を含む蒸気キャビティ124が、より高い圧力に晒されたときに、蒸気キャビティ124は、内側に破裂して、流体の衝撃波を生成する。蒸気キャビティ124の内破を引き起こすために必要な高い圧力は、蒸気キャビティ124が部品の表面に衝突した後の、蒸気キャビティ124への流体圧力の高まりによってもたらされ得る。蒸気キャビティ124の内破によって引き起こされた衝撃波は、部品の表面に向けられる。衝撃波のエネルギーに応じて、衝撃波の力が、部品内に圧縮残留応力を与え得る。そのようなプロセスは、
図1で描かれている、流体キャビテーションピーニングとして知られている。
図2を参照すると、タンク102内の流体104に研磨媒体128を追加することによって、キャビテーション流体122の流れのエネルギーを低減させ、キャビテーション流体122の中に研磨媒体128を導入することは、衝撃波を利用して研磨媒体128を部品の表面に駆動し、表面から材料を除去することによって表面を滑らかにする(すなわち、表面の粗さを低減させる)。
図3から
図8のシステム100では示されていないが、ある実施例では、これらのシステム100でも、タンク102内の流体104内に研磨媒体128を含み、研磨媒体128をキャビテーション流体122の中に導入することによって、部品の表面の粗さを低減させる助けとなる。
【0033】
したがって、ある実施例では、ノズル120が、流体104内に蒸気キャビティ124を生成し、流体104をキャビテーション流体122の流れに変換するように、ノズル120を通過する流体104の圧力の急激な変化を生成するように構成されている。
【0034】
図示されていないが、システム100は、ノズル120などの流れ生成サブシステム106の1以上の構成要素に連結された多軸ロボットを含んでよい。ロボットは、タンク102内でノズル120を移動させ、方向付けるように構成されている。このやり方では、ノズル120が、タンク102内で、様々な位置の何れかから様々な方向の何れか(例えば、
図7参照)に、キャビテーション流体122の流れを方向付けるように操作されてよい。このやり方でノズル120を移動させ方向付けることによって、キャビテーション流体122の流れの位置及び方向を操作する機能にも関わらず、内面を有するものなどの幾つかの複雑な部品では、部品によって生成される障害物により、ノズル120を十分に操作して、ノズル120から直接的にキャビテーション流体122の流れを部品の内面に向けることができない。この理由で、システム100は、偏向ツール144を含む。偏向ツール144は、最初は部品の内面に直接的に向けられていなかったキャビテーション流体122の流れが、部品の内面に直接的に向けられるように再方向付けされることを可能にする。
【0035】
システム100の偏向ツール144は、表面処理される部品140に隣接し又は連結されて、タンク102内に位置付けられる。より具体的には、偏向ツール144は、偏向ツール144の1以上の偏向面146において、ノズル120からキャビテーション流体122の流れを受け、部品140の1以上の内面142にキャビテーション流体122の流れを再方向付けするように、位置付けられ配置されている。
【0036】
部品140は、複雑な形状を有する。本明細書で使用される際に、複雑な形状は、凹部分141又は部分的に包囲された部分を有する任意の形状である。(1以上)の内面142は、部品140の凹部分141又は部分的に包囲された部分を画定する(1以上の)表面である。より具体的には、ある実施例では、部品140の(1以上の)内面142が、ノズル120との見通し線内にないこれらの表面である。
図1を参照すると、例えば、凹部分141は、部品の一側部で開いている部品140内のサイドスロットである。内面142は、サイドスロットを画定し、ノズル120が
図1で示されているものより角度が付けられた位置に移動したとしても、ノズル120の見通し線から略遮られている部分を含む。凹部分141の内面142の部分は、ノズル120から遮られているので、ノズル120によって生成されるキャビテーション流体122の流れは、全く又は遮られている部分を効果的に表面処理するための十分な強度で、内面142のこれらの遮られている部分に到達することがないだろう。より具体的には、キャビテーション流体122の流れが、蒸気キャビティ124の複数方向の流れを含み、したがって、ノズル120との見通し線内にない部品140の幾つかの表面は、蒸気キャビティ124の一部によって衝突され得るが、これらの表面に衝突する蒸気キャビティ124の量又は強度は、表面を効果的に表面処理するのに不十分であろう。
【0037】
偏向ツール144の偏向面146は、キャビテーション流体122の流れを内面142に向けて再方向付けする助けとなる。それは、内面142に衝突する蒸気キャビティ124の量又は強度を増加させ、したがって、内面142の表面処理を改善する。概して、特定の実施例では、偏向面146が、部品140の内面の142の輪郭を補足する輪郭を有する。本明細書で使用される際に、一実施例では、偏向面146から偏向したキャビテーション流体122の流れが、内面142に向けて方向付けられるように、偏向面146が、内面142の形状に応じて形作られたときに、偏向面146の輪郭が、部品140の内面142の輪郭を補足すると考えられてよい。
【0038】
キャビテーション流体122の流れは、蒸気キャビティ124の全方向流れを含むので、その流れは、流れがノズル120から離れるように移動するに従って拡大し又は広がる。しかし、ノズル120から出る際に、キャビテーション流体122の流れは、同じ初期方向に向けられ、蒸気キャビティ124の平均的な流れは、初期方向にあるので、キャビテーション流体122の流れは、方向矢印によって示されている第1の方向150に流れるように画定され得る。第1の方向150は、部品140の内面142から離れる。というのも、部品140は、キャビテーション流体122の流れの蒸気キャビティ124が、内面142に到達するのを遮っており、又は、第1の方向は、内面142からオフセットされ、内面142から離れるように広がり、若しくは内面142から離れるように向けられているからである。第1の方向150は、偏向ツール144の偏向面146に向けられている。したがって、キャビテーション流体122の流れの少なくとも部分(例えば、全て又は大部分)は、偏向面146に衝突する。
【0039】
偏向面146は、キャビテーション流体122の流れを、第2の方向152に再方向付けする。キャビテーション流体130の再方向付けされた流れは、蒸気キャビティ124の全方向流れを含むので、再方向付けされた流れは、流れが偏向面146から離れるように移動するに従って広がり又は拡大する。しかし、偏向面146からの偏向の際に、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れは、同じ初期方向に向けられ、蒸気キャビティ124の平均的な流れは、初期方向にあるので、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れは、方向矢印によって示されている第2の方向152に流れるように画定され得る。第2の方向152は、部品140の内面142に向かっている。というのも、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れの蒸気キャビティ124が、内面142に到達することを遮る部品140の部分はなく、又は第2の方向が内面142に向けられているからである。
【0040】
偏向ツール144は、部品140のものより小さい展性を有する材料から作製されている。したがって、キャビテーション流体122の流れは、部品140に対するよりも偏向ツール144に対して小さい影響を与える。更に、ある実施例では、キャビテーション流体122の流れが偏向ツール144に衝突する際に、流れの強度が偏向ツール144にほとんどか全く影響を与えないのに十分な低さの展性を有するという観点から、偏向ツール144の材料が選択されている。一実施例によれば、偏向ツール144は、4030合金鋼などの工具鋼から作製されている。
【0041】
偏向面146は、第1の方向150に対して角度θだけ角度が付けられている。角度θは、0度より大きいが90度未満である。第1の方向150に対する偏向面146の角度θは、第1の方向150に対する第2の方向152の角度又は水平方向に対する第2の方向152の角度を決定する。角度θに応じて、第2の方向152は、水平方向であってよく、下向きに方向付けられてよく、又は上向きに方向付けられてよい。したがって、偏向ツール144は、第2の方向152が部品140の内面142に向けられることをもたらす角度θを有するように構成されている。
【0042】
部品140は、タンク102内に位置付けられ、タンク102に固定されている。ある実施例では、部品140が、固定用プレート108又はタンク102の底部を形成する他の表面に固定されている。固定用プレート108は、部品140が表面処理されている間に、その上に部品140が固定され得るところの安定した表面を提供する。クランプ、ファスナ、ブラケット、ストラップなどの、固定用構成要素が使用されて、部品140を固定用プレート108上に固定してよい。
【0043】
偏向ツール144は、部品140に隣接し又は連結されて、タンク102内に位置付けられる。概して、偏向ツール144は、部品140に対してタンク102内に位置付けられる。それによって、偏向面146は、キャビテーション流体122の流れを受け、キャビテーション流体122の流れを部品140の内面142に向けて再方向付けする。
図1及び
図2を参照すると、凹部分141がサイドスロットなので、偏向ツール144は、部品140に隣接して位置付けられた第1の偏向ツール144Aである。第1の偏向ツール144Aの偏向面146は、凹部分141と対面している。本明細書で使用される際に、隣接は、
図1で示されているように間隔を空けられているか、又は部品140の外面に接触(例えば、当接)しているかの何れかを意味する。
【0044】
キャビテーション流体122の流れは、
図1及び
図2の部品140の凹部分141のほとんどに入ることが遮られているので、偏向ツール144Aは、部品140の外側で部品140に隣接して位置付けられている。更に、凹部分141は、部品140の一側部にあるので、偏向ツール144Aは、ただ1つの偏向面146を含む。更に、キャビテーション流体122の流れがカバーする広がり幅を維持するために、偏向ツール144Aの偏向面146は平坦であり、それによって、偏向面146に衝突するキャビテーション流体122の流れと少なくとも同じ幅をカバーする、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れがもたらされる。概して、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れが、偏向面146から離れて移動する際に、蒸気キャビティ124の全方向移動のために、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れは、拡大し又は広がる。
【0045】
図3を参照すると、部品140の凹部分141は、部品140の上部又は上向き表面内に形成された、空洞、窪み、スロット、チャネル、又は他の凹部である。
図3の部品140の凹部分141は、少なくとも部分的に上向きに開いているので、キャビテーション流体122の流れの少なくとも一部分は、凹部分141に直接的に入ることができる。しかし、部品140の直立した側壁を画定する内面などの凹部分141を画定する内面142の一部分は、キャビテーション流体122の流れとの直接的な衝突が不可能なように角度が付けられ得る。したがって、ある実施例では、部品140の(1以上の)内面142は、ノズル120によって生成されたキャビテーション流体122の流れからの直接的な衝突(例えば、第1の方向が、(1以上)の内面142に向けられている場合)を受けることができないそれらの表面である。そのような実施例では、キャビテーション流体122の流れからの直接的な衝突を受けることができない内面142の部分であっても、偏向ツール144を凹部分141内に位置付けることによって、キャビテーション流体と直接的に衝突することが実現される。偏向ツール144は、部品140上で凹部分141内に位置付けられている。特定の実施例では、偏向ツール144が、ファスナ、クリップ、ブラケット、接着剤などを介して部品140に連結されている。
【0046】
更に、キャビテーション流体122の流れを、内面142の対向する複数の部分に再方向付けする助けとなるために、偏向ツール144は、少なくとも2つの偏向面146を有する第2の偏向ツール144Bである。偏向面146のそれぞれは、キャビテーション流体122の流れの第1の方向150に対して角度θを規定する。キャビテーション流体122の流れを凹部分141、より具体的には、偏向ツール144Bの少なくとも2つの偏向面146の交差部分に向けることによって、キャビテーション流体122の流れの第1の部分は、偏向ツール144Bの偏向面146のうちの1つから内面142の第1の部分に向けて再方向付けされ、キャビテーション流体122の流れの第2の部分は、偏向ツール144Bの偏向面146のうちの別の1つから内面142の第2の部分(
図3の例示的な実施例では、内面142の第1の部分に対向する)に向けて再方向付けされる。このやり方では、キャビテーション流体130Aの第1の再方向付けされた流れが、内面142の所望の部分に直接的に衝突し、キャビテーション流体130Bの第2の再方向付けされた流れが、内面142の異なる所望の部分に直接的に衝突する。
【0047】
図4を参照すると、キャビテーション流体122の流れを、凹部分141の内面142の更に多くの対向する部分に再方向付けする助けとなるために、偏向ツール144は、少なくとも4つの偏向面146を有する第3の偏向ツール144Cである。ある実施態様では、第3の偏向ツール114Cが、ピラミッド形状である。
図4の凹部分141は、それぞれが隣接する側部に垂直な4つの側部を有するポケット(例えば、矩形状のポケット)であり、部品140は、浴槽フィッティングであってよい。特定の実施例では、
図3が、
図4の断面であると考えられてよい。偏向面146のそれぞれは、キャビテーション流体122の流れの第1の方向150に対して角度θを規定する。キャビテーション流体122の流れを、凹部分141に、より具体的には、第3の偏向ツール144Cの4つの偏向面146の交差部分に向けることによって、キャビテーション流体122の流れの4つの異なる部分は、偏向ツール144Cの4つの異なる偏向面146から、内面142の4つの異なる部分に向けて再方向付けされる。このやり方では、キャビテーション流体130Aの第1の再方向付けされた流れが、内面142の第1の部分に直接的に衝突し、キャビテーション流体130Bの第2の再方向付けされた流れが、内面142の第2の部分に直接的に衝突し、キャビテーション流体130Cの第3の再方向付けされた流れが、内面142の第3の部分に直接的に衝突し、且つ、キャビテーション流体130Dの第4の再方向付けされた流れが、内面142の第4の部分に直接的に衝突する。ある実施例では、図示されているように、再方向付けされた流れの第2の方向152が、衝突されている内面の部分に対して垂直である。それは、特定の実施態様では、表面処理の効果を改善する。しかし、他の実施例では、再方向付けされた流れの第2の方向152が、衝突されている内面の部分に対して垂直ではない。
【0048】
平坦である、第1の偏向ツール144A、第2の偏向ツール144B、及び第3の偏向ツール144Cの偏向面146とは対照的に、ある実施例では、偏向ツール144の(1以上の)偏向面146は、湾曲している。偏向面146を湾曲させることは、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れのカバー範囲(coverage)を広げ又は狭くする助けとなる。一実施例として、
図5を参照すると、偏向ツール144は、凸状である偏向面146を有する第4の偏向ツール144Dである。キャビテーション流体122の流れによって衝突されたときに、偏向面146の凸状性は、キャビテーション流体122の流れを、偏向面146に衝突するキャビテーション流体122の流れよりも広いカバー範囲を有するキャビテーション流体130の再方向付けされた流れに再方向付けする。言い換えると、偏向面146の凸状性は、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れの広がりを拡大する。それは、キャビテーション流体122によって直接的に衝突される内面142の部分を増大させる助けとなり得る。ある実施例では、第4の偏向ツール144Dが、球を備え、偏向面146は、球の表面である。球は、とりわけ、
図5の部品140の場合などの、部品140が、より大きな内部空洞への狭い開口部を有する場合に、キャビテーション流体122が、内面142のうちのより広い部分に到達する助けとなる。第4の偏向ツール144Dは、円形断面形状を有する球であるが、他の実施例では、偏向ツール144が、再方向付けされた流れにわたり予測可能に変動する強度を有するキャビテーション流体130の再方向付けされた流れを生成するために、凸状偏向面及び楕円断面形状又は非円形断面形状を有する、球のようなものであってよい。
【0049】
凸状である第4の偏向ツール144Dの偏向面146とは対照的に、ある実施例では、偏向ツール144の(1以上の)偏向面が、凹状である。一実施例として、
図6を参照すると、偏向ツール144は、凹状である偏向面146を有する第5の偏向ツール144Eである。キャビテーション流体122の流れによって衝突されたときに、偏向面146の凹状性は、キャビテーション流体122の流れを、偏向面146に衝突するキャビテーション流体122の流れをよりも狭いカバー範囲を有するキャビテーション流体130Aの再方向付けされた流れに再方向付けする。言い換えると、偏向面146の凹状性は、キャビテーション流体130の再方向付けされた流れを集束させ又は集中させる。それは、内面142の焦点を絞られた部分へのキャビテーション流体122の強度を増大させる助けとなり得る。ある実施例では、図示されているように、第5の偏向ツール144Eは、それぞれが凹形状を有する少なくとも2つの偏向面146を含む。それは、内面142の2つの部分へのキャビテーション流体130の集中した衝突を促進する。
【0050】
次に
図7を参照すると、ある実施例によれば、ノズル120の配向が、キャビテーション流体122の流れの第1の方向150を調整するように調整可能である。したがって、図示されているように、キャビテーション流体122の流れの第1の方向150は、垂直線に対して(0度と90度の間の何らかの角度で)角度が付けられている。一方で、
図1のキャビテーション流体122の流れの第1の方向150は、垂直線に対して角度が付けられていない(例えば、垂直線と平行である)。
図7のシステム100は、
図1のものと類似しているが、第1の方向150の角度を補償するために、垂直線に対する第6の偏向ツール144Fの偏向面146の角度γが、
図1のものとは異なっている点を除けばの話である。ある実施例では、第6の偏向ツール144Fの偏向面146の角度γは、
図7の角度が付けられた第1の方向150に対する偏向面146の角度θが、
図1の角度が付けられていない第1の方向150に対する偏向面146の角度θと同じになるようになっている。更に、特定の実施例では、
図7の第2の方向152が、
図1の第2の方向152と同じ方向になるように、第1の方向150が角度が付けられ、第6の偏向ツール144Fが構成されている。したがって、第1の方向150が角度が付けられたシステム100は、未だ、第1の方向150が角度が付けられてないシステム100と同じ第2の方向152を生成することができる。
【0051】
図8を参照すると、システム100は、管形状の有する部品140の内面を処理するように構成されている。
図8の部品140の凹部分141は、細長く、円周が閉じられた導管である。導管にアクセスし、導管の内面142を処理するのに十分な強度を有するキャビテーション流体122の流れを導管の中に向けることは、困難であり得る。したがって、システム100の偏向ツール144は、第4の偏向ツール144Dと類似した、湾曲した凸状の偏向面146を有する第7の偏向ツール144Gである。しかし、第4の偏向ツール144Dとは異なって、偏向面146は、内側に向けられている。したがって、第7の偏向ツール144Gは、漏斗形状を有する。第7の偏向ツール144Gの狭い出口部分180は、部品140の導管の中に部分的に挿入されるようにサイズ決定されている。それによって、第7の偏向ツール144Gの広い入口部分182は、導管の外部にある。ノズル120は、第1の方向150が、広い入口部分182の中に向けられるように位置付けられ、方向付けられている。この形状では、ノズル120によって生成されるキャビテーション流体122の流れの少なくとも一部分が、第7の偏向ツール144Gの中に向けられている。第7の偏向ツール144Gに入った後で、キャビテーション流体122の流れは、偏向面146によって再方向付けされる。偏向面146の内側に面した凸状性は、キャビテーション流体122の流れを、キャビテーション流体122のより狭い再方向付けされた流れに集中させ又は縮小するように作用する。その狭い流れは、第7の偏向ツール144Gから、部品140の導管の中に導入される。それは、導管を画定する内面142を処理する。
【0052】
図9を参照すると、ある実施例によれば、部品140の内面142を表面処理する方法200が、本明細書で開示される。方法200は、キャビテーション流体122の流れを、部品140の内面142から離れて偏向ツール144の偏向面146と接触する第1の方向150に向けること(ブロック202)を含む。方法200は、偏向面146からのキャビテーション流体122の流れを、部品140の内面142に向かう第2の方向152に偏向させること(ブロック204)も含む。方法200は、偏向面146からの偏向したキャビテーション流体122の流れを、部品140の内面142に衝突させること(ブロック206)を更に含む。特定の実施例では、内面142が、キャビテーション流体122の流れを生成するノズル120の見通し線の範囲内にない。
【0053】
方法200は、ある実施例では、部品140の内面142の形状及び位置を含む部品140の幾何学的な形状、又は部品140の材料のうちの少なくとも一方に応じて、偏向ツール144及び対応する偏向面146を選択することを更に含む。例えば、アクセスすることがより困難な内面142にとっては、キャビテーション流体122の流れのより徹底的な再方向付けを与える偏向面146を有する偏向ツール144が望ましい。別の一実施例として、より展性の高い材料から作製される部品140にとっては、キャビテーション流体122の流れのより徹底的でない再方向付けを与える偏向ツール144が望ましい。
【0054】
ある実施例では、方法200が、部品140の所望の表面処理を実現するために、キャビテーション流体122の流れの強度を決定することを更に含む。キャビテーション流体122の流れの強度を決定することは、部品140の展性、部品140の表面粗さ、部品140の幾何学的な形状、部品140の所望の表面粗さ、及び/又は部品140内の所望の残留応力レベルなどの、1以上の要因に基づいてよい。方法200は、部品140と選択された偏向ツール144を、タンク102の中で互いに対して位置決めし、方向付けることを更に含んでよい。方法200は、決定された強度を有するキャビテーション流体122の流れを生成すること、及び、部品140の所望の表面処理を実現するための対応する期間内に、部品140に対して所望の位置及び配向にある選択された偏向ツール144を使用して、キャビテーション流体122の流れを部品に衝突させることも含む。
【0055】
方法200の特定の実施例では、偏向面146からの偏向したキャビテーション流体122の流れを、部品140の内面142に衝突させること(ブロック206)が、
図1などで示されているように、内面142において部品140に圧縮応力を与えることを含む。更に又は代替的に、ある実施例では、方法200が、キャビテーション流体122の流れの中に研磨媒体128を導入することを更に含み、偏向面146からの偏向したキャビテーション流体122の流れを、部品140の内面142に衝突させること(ブロック206)が、
図2などで示されているように、キャビテーション流体122の流れの中に導入された研磨媒体を、部品140の内面142に衝突させること、及び、研磨媒体128を用いて部品140の内面142の表面粗さを低減させることを含む。方法200の他の実施例によれば、偏向ツール144の少なくとも一部分が、部品140の凹部分141内に位置付けられ、キャビテーション流体122の流れは、少なくとも部分的に、第1の方向150にある部品140の凹部分141の中に向けられる。
【0056】
更に、本開示は以下の条項による実施例を含む。
条項1.
部品の内面を表面処理するためのシステムであって、
内部に前記部品が位置付け可能なタンク、
前記タンク内の流体であって、前記部品が前記タンク内に位置付けられたときに、前記部品を沈めることができる流体、
前記流体内に沈められたノズルであって、第1の方向に向けられたキャビテーション流体の流れを生成するように構成されたノズル、及び
前記流体内に沈められた偏向ツールであって、前記キャビテーション流体の流れを、前記第1の方向から第2の方向に再方向付けする偏向面を備え、前記第1の方向が前記部品の前記内面から離れ、前記第2の方向が前記部品の前記内面に向かっている、偏向ツールを備える、システム。
条項2.
前記部品が前記タンク内に位置付けられたときに、前記ノズルが、前記部品の前記内面との見通し線を有さず、
前記部品が前記タンク内に位置付けられたときに、前記偏向面が、前記部品の前記内面との見通し線を有する、条項1に記載のシステム。
条項3.
前記部品が前記タンク内に位置付けられたときに、前記偏向ツールが、前記部品に隣接する位置において前記タンクに固定される、条項1又は2に記載のシステム。
条項4.
前記偏向ツールが、前記部品の凹部分内で前記部品に固定され、
前記部品の前記凹部分が、前記内面を画定する、条項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
条項5.
前記偏向面が平坦である、条項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
条項6.
前記偏向面が湾曲している、条項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
条項7.
前記偏向面が凹状である、条項6に記載のシステム。
条項8.
前記偏向面が凸状である、条項6に記載のシステム。
条項9.
前記偏向ツールが、球を備え、前記偏向面が、前記球の表面である、条項8に記載のシステム。
条項10.
前記偏向ツールが、少なくとも2つの偏向面を更に備える、条項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
条項11.
前記偏向面が、前記部品の前記内面の輪郭を補足する輪郭を有する、条項1から10のいずれか一項に記載のシステム。
条項12.
前記第2の方向が、前記内面に対して垂直である、条項1から11のいずれか一項に記載のシステム。
条項13.
前記部品が、矩形状のポケットを備え、
前記内面が、それぞれが隣接する側面に対して垂直な4つの側面を備え、
前記部品が前記タンク内に位置付けられたときに、前記偏向ツールが、前記矩形状のポケット内に位置付けられ、
前記偏向ツールが、それぞれが前記キャビテーション流体の流れの一部分を前記内面の前記4つの側面のうちの対応する1つに向けて方向付けるように構成された、4つの偏向面を備える、条項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
条項14.
前記偏向ツールの前記偏向面の展性が、前記部品の展性より大きい、条項1から13のいずれか一項に記載のシステム。
条項15.
前記キャビテーション流体の流れが、前記部品の前記内面に接触すると、前記内面において前記部品に圧縮応力を与えるように構成されている、条項1から14のいずれか一項に記載のシステム。
条項16.
前記タンク内の前記流体に混合された研磨媒体を更に含み、
前記キャビテーション流体の流れが、前記研磨媒体を更に含み、
前記キャビテーション流体の流れの前記研磨媒体が、前記部品の前記内面に接触すると、前記部品の前記内面の粗さを低減させるように構成されている、条項1から15のいずれか一項に記載のシステム。
条項17.
部品の内面を表面処理する方法であって、
キャビテーション流体の流れを、前記部品の前記内面から離れて偏向ツールの偏向面と接触する第1の方向に向けること、
前記偏向面からの前記キャビテーション流体の流れを、前記部品の前記内面に向かう第2の方向に偏向させること、及び
前記偏向面からの偏向した前記キャビテーション流体の流れを、前記部品の前記内面に衝突させることを含む、方法。
条項18.
前記キャビテーション流体の流れを前記部品の前記内面に衝突させることが、前記内面において前記部品に圧縮応力を与えることを含む、条項17に記載の方法。
条項19.
前記キャビテーション流体の流れの中に研磨媒体を導入することを更に含み、前記キャビテーション流体の流れを前記部品の前記内面に衝突させることが、前記キャビテーション流体の流れの中に導入された前記研磨媒体を前記部品の前記内面に衝突させること、及び、前記研磨媒体を用いて前記部品の前記内面の表面粗さを低減させることを含む、条項17又は18に記載の方法。
条項20.
前記偏向ツールの少なくとも一部分が、前記部品の凹部分内に位置付けられ、
前記キャビテーション流体の流れが、少なくとも部分的に、前記第1の方向にある前記部品の前記凹部分の中に向けられる、条項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【0057】
以上の説明では、「上」、「下」、「上部」、「下部」、「水平」、「垂直」、「左」、「右」、「~の上」、「~の下」などの特定の用語が使用され得る。これらの用語は、必要に応じ、相関関係を取り扱う際に説明に何らかの明確性をもたらすために用いられている。しかしながら、これらの用語には絶対的な関係、位置、及び/又は向きを含意させる意図はない。例えば、ある対象物に関して、単純にこの対象物の上下を逆にすることで「上方の」表面が「下方の」表面となり得る。それでもなお、これは同じ対象物である。更に、「含む」、「備える」、「有する」などの用語及びこれらの変化形は、別途明示的な記載がない限り、「~を含むがそれらに限定されない」ことを意味する。列挙されたアイテムは、別途明示的な記載がない限り、それらアイテムのうちの任意のもの又はすべてが互いを排除する及び/又は互いを含むものであることを含意しない。「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」などの用語は、別途明示的な記載がない限り、「1つ又は複数の」という意味も表す。更に、「複数」という用語は、「少なくとも2つ」と定義され得る。更に、特に記載していない限り、本書で明確にしているように、複数の特定の特徴は、必ずしも、特定の特徴のセットまたはクラス全体のあらゆる特定の特徴を意味するわけではない。
【0058】
更に、本明細書において、1つの要素が他の要素に「連結される」とは、直接的な連結及び間接的な連結を含み得る。直接的結合は、1つの要素が他の要素と結合しており、また他の要素と何らかの接触があることと定義され得る。間接的連結とは、互いに直接接触しておらず、連結された要素間に1つ又は複数の追加の要素を有する、2つの要素間の連結と定義され得る。更に、1つの要素を他の要素に固定することとは、本明細書で使用される場合、直接的な固定及び間接的な固定を含み得る。更に、「隣接」とは、本明細書で使用される場合、必ずしも接触を意味しない。例えば、1つの要素が他の要素に接触することなく隣接し得る。
【0059】
本明細書で使用される際に、列挙されたアイテムと共に使用される「~のうちの少なくとも1つ」という表現は、列挙されたアイテムのうちの1以上の種々の組み合わせが使用されてもよく、また列挙された各アイテムのうちの1つだけが必要とされてもよいということを意味する。アイテムとは、特定の物体、物品、又はカテゴリであり得る。すなわち、「~のうち少なくとも1つ」とは、列挙された中から任意の組み合わせのアイテム又は幾つかのアイテムを使用してもよいが、列挙されたアイテムの全てが必要ではない場合があることを意味する。例えば、「アイテムA、アイテムB、及びアイテムCのうちの少なくとも1つ」とは、例えば、「アイテムA」、「アイテムAとアイテムB」、「アイテムB」、「アイテムAとアイテムBとアイテムC」、又は「アイテムBとアイテムC」を意味し得る。幾つかの場合には、「アイテムA、アイテムB、及びアイテムCのうちの少なくとも1つ」は、例えば、限定するものではないが、「2個のアイテムAと1個のアイテムBと10個のアイテムC」、「4個のアイテムBと7個のアイテムC」、又は他の好適な組み合わせを意味し得る。
【0060】
別途提示されない限り、「第1」、「第2」などの用語は、本明細書では単に符号として使用されており、これらの用語が表すアイテムに対して、順序的、位置的、又は序列的な要件を課すことを意図していない。更に、例えば、「第2」のアイテムが言及された場合、例えば、「第1」の若しくはより小さい数のアイテム、及び/又は、「第3」の若しくはより大きい数のアイテムが必要とされたり、除外されたりすることはない。
【0061】
本明細書において、特定の機能を実施する「ように構成/設定された(configured to)」システム、装置、構造、物品、要素、構成要素、又はハードウェアは、実際には、いかなる変更も伴わずにその特定の機能を実施することが可能であり、更なる改変の後にその特定の機能を実施する可能性があるにすぎないというものではない。換言すると、特定の機能を実施する「ように構成/設定された」システム、装置、構造、物品、要素、構成要素、又はハードウェアは、その特定の機能を実施するという目的のために、特に選択され、作り出され、実装され、利用され、プログラムされ、且つ/又は設計される。本明細書において、「ように構成/設定された(configured to)」という表現は、システム、装置、構造、物品、要素、構成要素、又はハードウェアがさらなる改変なしで特定の機能を実行することを可能にする、システム、装置、構造、物品、要素、構成要素、又はハードウェアの既存の特性を意味する。この開示において、特定の機能を実施する「ように構成/設定され」ていると説明されているシステム、装置、構造、物品、要素、構成要素、又はハードウェアは、追加的又は代替的には、その機能を実施するよう「適合している(adapted to)」、及び/又は、実施するよう「動作可能である(operative to)」とも説明され得る。
【0062】
本明細書に含まれる概略フローチャートは一般的に、論理フローチャートとして記載されている。しがって、記載の順序及び名付けられたステップは、提示される方法の一実施形態を示す。示される方法の1つ以上のステップもしくはそれらの部分の機能、論理、または効果と均等である他のステップ及び方法が、想起され得る。更に、用いられている形式及びシンボルは、本方法の論理的ステップを説明するために提供されており、本方法の範囲を限定するものではないと理解される。フローチャートにおいて様々なタイプの矢印及び線が用いられ得るが、これらに対応する方法の範囲を限定するものではないことが理解される。実際、幾つかの矢印又はその他のコネクタは、本方法の論理的フローのみを示すために用いられ得る。例えば、矢印は、記載の方法の列挙されたステップの間の、不特定の長さの待機時間又はモニタリング時間を示し得る。更に、具体的な方法が発生する順序は、図示されている対応するステップの順序に厳密に従うこともあるが、従わないこともある。
【0063】
本主題は、その精神や本質的な特性から逸脱することなく、他の具体的な形態で具現化され得る。記載された実施形態はあらゆる点で例示に過ぎず、限定的ではないと解釈されるべきである。特許請求の範囲の目的及び均等範囲内に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。