(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】二酸化バナジウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 31/02 20060101AFI20240415BHJP
C09K 5/02 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C01G31/02
C09K5/02
(21)【出願番号】P 2020003236
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/02
C09K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
五酸化二バナジウムと有機酸とを水溶媒中で混合し、五酸化二バナジウムが溶解した原料溶解液を得る原料溶解工程、次いで、該原料溶解液を噴霧乾燥して乾燥粉を得る乾燥工程、次いで、該乾燥粉を不活性ガス雰囲気中で300℃以上370℃未満で焼成し、冷却して平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とする第1焼成体を得る第1焼成工程、次いで該第1焼成体を不活性ガス雰囲気中で600℃以上900℃以下で焼成し、冷却して第2焼成体を得る第2焼成工程と、を含
み、前記原料溶解工程において、有機酸の混合量が五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸中の炭素原子のモル比(C/V)で2.8~4.0であり、前記有機酸がシュウ酸であることを特徴とする二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項2】
前記第1焼成工程での焼成温度が300℃以上340℃未満であり、焼成後の室温までの冷却は不活性ガス雰囲気中でおこなうことを特徴とする請求項1
に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項3】
前記第1焼成工程での焼成温度が340℃以上370℃未満であり、焼成後の室温までの冷却を、冷却途中で不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えることによりおこなうことを特徴とする請求項1
又は2のいずれか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項4】
原料溶解工程の原料溶解液は、副成分元素含有化合物を更に含むことを特徴とする請求項1
又は2のいずれか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項5】
前記副成分元素が、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項
4に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に蓄熱材として有用な二酸化バナジウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材は、物質に熱を蓄え、また、必要に応じてその熱を取り出すことができる材料である。蓄熱によって、蓄熱材自身や、蓄熱材が置かれた空間内等の温度を一定に保つことができる。
【0003】
蓄熱方式には、顕熱蓄熱、潜熱蓄熱、化学蓄熱があり、蓄熱時に使用される物理化学現象によって分類される。
【0004】
潜熱蓄熱は、物質の相変化、転移に伴う転移熱を利用したもので転移熱を熱エネルギーとして蓄え、利用するものであり、潜熱蓄熱は、顕熱蓄熱に比べて、蓄熱密度が高く、相転移温度の一定温度で熱供給が可能で、また、化学蓄熱に比べて、相転移を繰り返すだけなので耐久性に優れている。
【0005】
下記特許文献1及び下記特許文献2には、電子相転移熱を利用した新しいタイプの潜熱蓄熱材として、二酸化バナジウム系の強相関電子系遷移金属化合物を用いることが提案されている。このタイプの蓄熱材は、電子の持つ内部自由度であるスピンの自由度と、軌道の自由度とを含む複自由度の相転移を利用するものであり、固相状態で生じる相転移であるため、蓄熱材が容器から漏れる心配がない。また、無機塩水和物などの固体-液体相転移と異なり、相転移時の相分離や分解が生じる虞れがない、相転移時の体積変化が固体-液体相転移と比べて小さい、高い熱伝導率を有する等の利点もある。
【0006】
二酸化バナジウム系の強相関電子系遷移金属化合物を製造する方法として、特許文献1及び特許文献2には、各原料を所定量混合して得られる混合物を真空封入して昇温する方法が提案されているが、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0007】
また、二酸化バナジウム系の強相関電子系遷移金属化合物を製造する方法として、下記特許文献3には、可溶解性バナジウム化合物を含む溶液に、アルカリを添加して得られる沈殿物を水熱反応する方法が提案されている。また、下記特許文献4には、四価のバナジウム化合物を含む溶液と、該バナジウム化合物と錯形成する物質及びドーパント元素の溶液を反応させて得られる反応物を不活性ガス中で焼成する方法が提案されている。
【0008】
本発明者らは、先に工業的に有利な方法で蓄熱材として有用な二酸化バナジウムを製造する方法として、五酸化二バナジウムと有機酸とを含有する原料混合液を噴霧乾燥して反応前駆体を得、次いで該反応前駆体を不活性ガス雰囲気中で600~900℃で焼成する方法を提案した(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-210835号公報
【文献】特開2000-163510号公報
【文献】特表2014-505651号公報
【文献】特開2014-198645号公報
【文献】特開2017-132677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
潜熱蓄熱において、蓄熱は相転移温度付近で行われる。二酸化バナジウムは、バナジウムの一部をW、Ta、Nb、Ru、Mo、Re等の元素で置換することで、相転移温度を無置換の二酸化バナジウムに比べて低下させることができる。また、その置換量が多くなるほど相転移温度が低くなることが知られている(例えば、特開2010-163510号公報等)。また、二酸化バナジウムのバナジウムの一部をCrで置換することで、相転移温度を無置換の二酸化バナジウムに比べて高くすることができることも知られている(例えば、特開2014-210835号公報)。
【0011】
しかしながら、特許文献5の方法によれば、工業的に有利な方法で二酸化バナジウムが得られるが、二酸化バナジウムのバナジウムの一部を他の元素で置換したものを製造しようとすると、X線回折的に単相のものが得られ難いという問題があった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、二酸化バナジウムのバナジウムの一部を他の元素で置換したものに対しても、X線回折的に単相のものを工業的に有利な方法で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、水溶媒に五酸化二バナジウムを有機酸により溶解させたバナジウム源を含む原料溶解液を噴霧乾燥し、得られる乾燥粉は、分子レベルまでバナジウム源が均一分散されたものになること。また、該乾燥粉を不活性ガス雰囲気中で特定温度範囲で焼成及び冷却して生成されるナノレベルの単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とする第1焼成体は、更なる焼成により粒成長可能な粒子となること。また、第1焼成体を特定温度範囲で焼成して該第1焼成体を粒成長させることにより、特に蓄熱材として有用なX線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムになることを見出した。更に、前記原料溶解液に更に副成分元素含有化合物を含有させることにより、バナジウムの一部を他の元素で置換したX線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムが容易に得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
即ち、本発明が提供しようとする第1の発明は、五酸化二バナジウムと有機酸とを水溶媒中で混合し、五酸化二バナジウムが溶解した原料溶解液を得る原料溶解工程、次いで、該原料溶解液を噴霧乾燥して乾燥粉を得る乾燥工程、次いで、該乾燥粉を不活性ガス雰囲気中で300℃以上370℃未満で焼成し、冷却して平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とする第1焼成体を得る第1焼成工程、次いで該第1焼成体を不活性ガス雰囲気中で600℃以上900℃以下で焼成し、冷却して第2焼成体を得る第2焼成工程と、を含み、前記原料溶解工程において、有機酸の混合量が五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸中の炭素原子のモル比(C/V)で2.8~4.0であり、前記有機酸がシュウ酸であることを特徴とする二酸化バナジウムの製造方法である。
【0015】
また、本発明が提供しようする第2の発明は、前記原料溶解工程の原料溶解液は、副成分元素含有化合物を更に含むことを特徴とする二酸化バナジウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特に蓄熱材として有用なX線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウム及びバナジウムの一部を副成分元素で置換したX線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムを工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1焼成体試料1の乾燥工程から得られた乾燥粉のX線回折図。
【
図2】第1焼成体試料1の乾燥工程から得られた乾燥粉のSEM写真。
【
図5】実施例1で得られた第2焼成体試料のX線回折図。
【
図6】実施例2で得られた第2焼成体試料のX線回折図。
【
図7】実施例3で得られた第2焼成体試料のX線回折図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
<原料溶解工程>
本発明に係る原料溶解工程は、五酸化二バナジウムと有機酸とを水溶媒中で混合し、五酸化二バナジウムを水溶媒に溶解させる工程である。
【0019】
本発明ではこの原料溶解工程において、五酸化バナジウムを完全に水溶媒に溶解させることが、次工程で得られる乾燥粉が、分子レベルまでバナジウム源が均一分散されたものにする観点から重要である。
【0020】
原料溶解工程に係る有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等のジカルボン酸、カルボキシル基が3であるクエン酸等のカルボン酸が好ましい。これらのうち、カルボキシル基が2以上のカルボン酸が、五酸化二バナジウムを溶解する能力が高いという観点から特に好ましく、シュウ酸が特に好ましい。
【0021】
原料溶解工程に係る水溶媒は、水に限らず、水と親水性溶媒との混合溶媒であってもよい。
原料溶解工程において、五酸化二バナジウムの添加量は、各原料を溶解させるという観点から、水溶媒100質量部に対して10~40質量部であることが好ましく、15~30質量部であることが更に好ましい。
【0022】
また、原料溶解工程において、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸中の炭素原子のモル比(C/V)は、五酸化二バナジウムを水溶媒中に完全に溶解させる観点から2.2以上とすることが好ましく、また、このモル比が余りにも大きくなると、目的とする二酸化バナジウム中にそのまま残存する可能性があるので、高純度な二酸化バナジウムを得る観点から、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸中の炭素原子のモル比(C/V)は、2.2~4.5とすることが好ましく、2.8~4.0とすることが更に好ましい。
【0023】
なお、原料溶解工程において、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸中の炭素原子のモル比(C/V)を上記範囲とする理由は、このモル比が2.2未満になると、五酸化二バナジウムを水溶媒中に完全に溶解させることが出来なくなるからである。
【0024】
原料溶解工程における溶解温度は、特に制限されるものではないが、15~100℃、好ましくは20~60℃とすることが工業的に有利となる観点から好ましい。
【0025】
また、本発明の製造方法において、二酸化バナジウムの相転移温度を変える目的で、この原料溶解工程で、五酸化二バナジウムを溶解させる前、溶解中、又は溶解後に副成分元素含有化合物を添加して原料溶解液に副成分元素含有化合物を含有させることができる。
【0026】
副成分元素としては、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。副成分元素含有化合物は、副成分元素自体であってもよく、また、副成分元素の酸化物、モリブデン酸、タングステン酸のような金属酸、その金属塩又はアンモニウム塩、副成分元素のアルコラート或いは副成分元素の有機酸塩等が挙げられる。また、副成分元素含有化合物は、溶液、懸濁液又は粉体として添加することができ、これらのうち、いっそう各原料が分子レベルまで均一に混合された乾燥粉を得る観点から、水溶媒に溶解可能なものを用いることが好ましい。
【0027】
副成分元素含有化合物の添加量は、副成分元素含有化合物の副成分元素が後述する一般式(1)で表される二酸化バナジウムの組成に合わせて適宜調整することが好ましい。
【0028】
<乾燥工程>
乾燥工程は、原料溶解工程で調製した原料溶解液を噴霧乾燥して乾燥粉を得る工程である。
【0029】
この乾燥工程で得られる乾燥粉は、前記原料溶解工程との相乗効果で各原料が分子レベルで均一配合されたものであり、反応性に優れたものとなる。
【0030】
噴霧乾燥法においては、所定手段によって原料溶解液を霧化し、それによって生じた微細な液滴を乾燥させることで乾燥粉を得る。原料溶解液の霧化には、回転円盤を用いる方法及び圧力ノズルを用いる方法がある。本乾燥工程では、いずれの方法も用いることができる。
【0031】
噴霧乾燥法においては、霧化された原料溶解液の液滴の大きさが、安定した乾燥や、得られる乾燥粉の性状に影響を与える。この観点から、霧化された原料溶解液の液滴の大きさは、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることが更に好ましい。噴霧乾燥装置への原料溶解液の供給量は、この観点を考慮して決定することが望ましい。
【0032】
なお、噴霧乾燥装置における乾燥温度は、熱風入口温度が180~300℃、好ましくは200~250℃となるように調整し、熱風出口温度が100~200℃、好ましくは105~150℃となるように調整することが粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0033】
なお、噴霧乾燥処理により得られる乾燥粉は、非晶質の状態であっても、結晶質の状態であってもよいが、非晶質の状態であることが組成の均一性に優れ、反応性に優れた乾燥粉となる観点から好ましい。
【0034】
また、乾燥粉は、五酸化二バナジウムと有機酸との反応生成物、或いは五酸化二バナジウムと有機酸と必要により添加される副成分元素化合物との反応生成物であってもよい。
【0035】
<第1焼成工程>
第1焼成工程は、乾燥工程で得られた乾燥粉を不活性ガス雰囲気中で300℃以上370℃未満で焼成し、次いで冷却して第1焼成体を得る工程である。
【0036】
本製造方法では、第1焼成工程で得られる第1焼成体は、平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とするものを得ることが重要である。該第1焼成体で得られるものが平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とするものであることにより、後述する第2焼成工程で該第1焼成体の粒子をそのまま成長させて、X線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムを得ることができる。
【0037】
なお、本発明において第1焼成体には、単斜晶の二酸化バナジウム以外にV3O7及び/又は副成分元素を含有するV3O7の酸化バナジウム(以下、これらの酸化バナジウムを総称して「酸化バナジウム(1)ということがある)が含有されていてもよい。この酸化バナジウム(1)は、後述する第2焼成工程での焼成により単斜晶の二酸化バナジウムへ転換することができる。得られる第1焼成体において、該酸化バナジウム(1)の含有量は、線源としてCu-Kα線を用いて二酸化バナジウム試料をX線回折分析したときに、2θ=27.8°付近に現れる二酸化バナジウムのメインピーク(a)に対する2θ=24.9°に現れるV3O7及び/又は副成分元素を含有するV3O7の酸化バナジウム(1)のメインピーク(b)の高さ比((b)/(a))」で0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることが更に好ましい。
【0038】
第1焼成工程は、以下の2つの方法により、工業的に有利に第1焼成体を得ることができる。
1)乾燥粉を不活性ガス雰囲気中で300℃以上340℃未満で焼成し、次いで焼成後の室温までの冷却を不活性ガス雰囲気中でおこなう方法(以下、「第1の方法」ということがある)。
2)乾燥粉を不活性ガス雰囲気中で340℃以上370℃未満で焼成し、次いで焼成後の室温までの冷却を、冷却途中で不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えることによりおこなう方法(以下、「第2の方法」ということがある)。
【0039】
第1の方法における焼成温度は300℃以上340℃未満であることが重要である。第1の方法では、上記温度範囲で焼成することにより、単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とするものが得られ、それをそのまま冷却して第1焼成体を得る方法である。
【0040】
第1の方法で焼成温度を上記範囲にする理由は、焼成温度が300℃未満では単斜晶の二酸化バナジウムが生成されず、一方、340℃以上では、V2O9、V5O9、V4O7或いは副元素成分を含有するV2O9、V5O9、V4O7の酸化バナジウム(以下、これらの酸化バナジウムを総称して「酸化バナジウム(2)ということがある)が生成するからである。なお、もっとも、酸化バナジウム(2)中、V5O9及び/又はV4O7が生成された場合には、後述する第2の方法に従って焼成後の冷却で酸化処理もおこうことにより、平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とする第1焼成体に転換することができる。
【0041】
第1の方法において、焼成時間は特に制限されるものではなく、通常は1時間以上、好ましくは2~30時間で満足のいく第1焼成体が得られる。
【0042】
第1の方法において、使用できる不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0043】
また、第1の方法において、焼成後、そのまま不活性ガス雰囲気中で室温まで冷却することにより、平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とする第1焼成体を得ることができる。冷却速度は、特に制限されるものではなく、通常は200℃/時間以下であり、通常は30~100℃/時間である。
【0044】
第2の方法における焼成温度は340℃以上370℃未満、好ましくは340℃以上365℃以下であることが重要である。第2の方法では、上記温度範囲で焼成することにより、V5O9及び/又はV4O7或いは副元素成分を含有するV5O9及び/又はV4O7を主成分とする酸化バナジウム(2)が得られ、これを酸化処理を行うことを含む冷却工程で単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とするものに転換して第1焼成体を得る。
【0045】
第2の方法で焼成温度を上記範囲にする理由は、上記温度範囲以外では、V5O9及び/又はV4O7或いは副元素成分を含有するV5O9及び/又はV4O7を主成分とする主成分とする酸化バナジウム(2)が、得られ難いからである。
【0046】
第2の方法において、焼成時間は特に制限されるものではなく、通常は1時間以上、好ましくは2~30時間で満足のいく第1焼成体が得られる。
【0047】
第2の方法において、使用できる不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0048】
第2の方法では、次いで焼成後の室温までの冷却を、冷却途中で不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えて、酸化処理を行う。
【0049】
第2の方法では、焼成により得られたV5O9及び/又はV4O7或いは副元素成分を含有するV5O9及び/又はV4O7を主成分とする酸化バナジウム(2)を主成分とするものに対し、冷却途中で不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えることによる酸化処理を施すことで、該酸化バナジウム(2)を単斜晶の二酸化バナジウムに転換することができる。
【0050】
冷却速度は、特に制限されるものではなく、通常は200℃/時間以下であり、好ましくは30~100℃/時間である。
【0051】
V5O9及び/又はV4O7或いは副元素成分を含有するV5O9及び/又はV4O7を主成分とする酸化バナジウム(2)を高効率で酸化処理するという観点から、酸素含有雰囲気における酸素濃度は10体積%以上とすることが好ましく、15~100体積%とすることが更に好ましい。
【0052】
不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替える温度は、35~180℃であることが好ましく、35~150℃であることが更に好ましい。この理由は、切り替え温度が35℃未満であると、V5O9及び/又はV4O7或いは副元素成分を含有するV5O9及び/又はV4O7を主成分とする酸化バナジウム(2)が単斜晶の二酸化バナジウムに転換することが難しくなり、一方、切り替え温度が180℃を超えると、単斜晶でないVO2を主成分とする第1焼成体となる傾向があるためである。
【0053】
不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えた後、好ましくは35~180℃、更に好ましくは35~150℃で保持する。その温度での保持は、特に制限されるものではないが、X線回折分析において、V5O9及び/又はV4O7或いは副元素成分を含有するV5O9及び/又はV4O7を主成分とする酸化バナジウム(2)の回析ピークが実質的に観察されなくなるまで行えばよい。保持時間は、通常は10分以上であり、好ましくは10分~5時間である。なお、本発明において、V5O9及び/又はV4O7或いは副元素成分を含有するV5O9及び/又はV4O7を主成分とする酸化バナジウム(2)の回析ピークが実質的に観察されなくなるとは、生成される第1焼成体の物性に影響しない範囲という意味であり、必ずしも完全に消失させるということを意味するものではない。
【0054】
また、第1の方法及び第2の方法で得られた第1焼成体は、次工程の第2焼成工程を行うに、当たって、必要により粉砕、解砕、分級等を行って粒度調製を行ってもよい。
【0055】
<第2焼成工程>
第2焼成工程は、第1焼成工程で得られた第1焼成体を不活性ガス雰囲気中で600℃以上900℃以下で焼成し、次いで冷却して第2焼成体を得る工程である。
【0056】
第1工程で得られる平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とする第1焼成体でも物質の相変化、転移に伴う転移熱が観察されるが、粒径が小さいことに起因して熱量が小さい。
【0057】
第2焼成工程では、平均一次粒子径が100nm以下の単斜晶の二酸化バナジウムを主成分とする第1焼成体を粒成長させて、特に蓄熱材として有用な目的とする単斜晶の二酸化バナジウムを得る工程であり、また、第1焼成体がV3O7及び/又は副成分元素を含有するV3O7の酸化バナジウム(1)が含有されている場合には、該酸化バナジウム(1)を単斜晶の二酸化バナジウムに転換する工程でもある。
【0058】
第2焼成工程に係る焼成温度は、600℃以上900℃以下、好ましくは800℃以上900℃以下である。この理由は焼成温度が600℃未満では蓄熱特性に優れたものが得られ難くなり、一方、焼成温度が900℃を超えると、坩堝への固着も起こり粉末状の二酸化バナジウムが得られにくいからである。
【0059】
第2焼成工程に係る焼成時間は、X線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムが生成するまで十分な時間を行えばよく、通常は1時間以上、好ましくは2~30時間である。
【0060】
第2焼成工程に係る不活性ガスは、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0061】
焼成後は、得られる単斜晶の二酸化バナジウムの酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気下にそのまま室温まで冷却することで第2焼成体となる目的とする単斜晶の二酸化バナジウムを得ることができる。冷却速度は、特に制限されるものではなく、通常は200℃/時間以下であり、通常は30~100℃/時間である。
【0062】
また、第2焼成工程に係る焼成は、所望により何度行ってもよい。或いは、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、次いで再焼成を行ってもよい。
【0063】
また、得られた第2焼成体の単斜晶の二酸化バナジウムは、必要により粉砕、解砕、分級等を行って粒度調製を行ってもよい。
【0064】
第2焼成工程後に得られる第2焼成体の二酸化バナジウムは、X線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムであるが、必要により、熱量特性を向上させることを目的として、該第2焼成体の単斜晶の二酸化バナジウムに対して、更にアニール処理を施すことができる。
【0065】
アニール処理の条件は、処理温度が高すぎると5価のバナジウムに変化し所望の二酸化バナジウムを得ることが難しくなる傾向があることから、アニール処理温度は100~550℃、特に200~400℃であることが、バナジウムの酸化を防止しながら酸素欠陥部位の補修を行うことができる観点から好ましい。
【0066】
アニール処理時間は1時間以上、特に1~10時間とすることが好ましい。アニール処理の雰囲気は、酸素、大気等の酸化性雰囲気で行う。なお、必要により、アニール処理は何度でも行うことができる。
【0067】
アニール処理後、必要により粉砕、解砕、分級等を行い製品とする。
【0068】
上述した製造方法で得られる二酸化バナジウムは、X線回析的に単相の下記一般式(1)
V1-xMxO2 (1)
(式中、Mは、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の副成分元素を示す。xは0≦x≦0.5を示す。)で表される単斜晶の二酸化バナジウムであることが好ましい。
【0069】
また、上述した製造方法で得られる二酸化バナジウムの物性は、走査型電子顕微鏡観察法により求められる一次粒子の平均粒子径が0.5~50μm、好ましくは1~30μmである。また、BET比表面積が10m2/g以下、好ましくは0.5~7m2/gである。
【0070】
本製造方法で得られる二酸化バナジウムは、温度によって透過率や反射率等の光学的特性が可逆的に変化するサーモクロミック現象を示す材料としての利用の他、特に蓄熱材としての利用が期待できる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<X線回折分析>
X線回折分析はBruker社 D8 AdvanceSを用いた。線源としてCu-Kαを用いた。測定条件は、管電圧40kV、管電流40mA、走査速度0.1°/secとした。
【0072】
<第1焼成体試料の調製>
{試料1}
(原料溶解工程)
容器に、V
2O
5300g、シュウ酸・2水塩581.3g、イオン交換水1500gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解し、原料溶解液を調製した。
なお、原料溶解工程におけるシュウ酸・2水塩の添加量は、V
2O
5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は2.8である。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をXRDで測定した結果、乾燥粉はV
2O
5の回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された(
図1参照)。また、得られた乾燥粉のSEM写真を
図2に示す。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られる乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で330°で4時間、炉で焼成を行った。
焼成後、そのまま窒素ガス雰囲気で室温(20℃)まで冷却し、次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、第1焼成体には単斜晶の二酸化バナジウム以外にV
3O
7の痕跡は確認できたが、X線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムであることを確認した。
X線回折分析の結果、2θ=27.8°に現れる二酸化バナジウムのメインピーク(a)に対する2θ=24.9°に現れるV
3O
7のメインピーク(b)の高さ比((b)/(a))は0.06であった。得られた第1焼成体試料1のX線回折図を
図3に示す。
【0073】
{試料2}
(原料溶解工程)
容器に、V2O5:20g、シュウ酸・2水塩13.86g、イオン交換水100gを室温下(25℃)で仕込み、次いで昇温して80℃で3時間加熱処理してV2O5が一部溶解した原料混合液のスラリーを得た。
なお、原料溶解工程におけるシュウ酸・2水塩の添加量は、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は1である。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料混合液のスラリーを供給し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をXRDで測定した結果、乾燥粉はV2O5の回折ピークが確認された。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られる乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で330℃で4時間焼成を行い、窒素雰囲気でそのまま冷却して焼成品試料を得た。
次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、V3O7の回折ピークは観察されず、第1焼成体試料はX線回折的にV2O5と単斜晶の二酸化バナジウムの混合物であることを確認した。
【0074】
{試料3}
(原料溶解工程)
容器に、V2O5 300g、シュウ酸・2水塩 581.3g、イオン交換水1500g及び(WO3換算50重量%メタタングステン酸アンモニウム溶液5gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解し、原料溶解液を調製した。
なお、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は、2.8であった。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をXRDで測定した結果、回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。
(第1焼成工程)
原料混合工程で得られる原料混合物をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で330℃で4時間、炉で焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、そのまま窒素ガス雰囲気で室温(20℃)まで冷却し、次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料(W原子として0.7質量%ドープした二酸化バナジウム)とした。X線回折分析の結果、第1焼成体試料はV3O7等の酸化バナジウム化合物の不純物の痕跡は確認できたが、X線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムであることを確認した。
X線回折分析の結果、2θ=27.8°に現れる二酸化バナジウムのメインピーク(a)に対する2θ=24.9°に現れるV3O7のメインピーク(b)の高さ比((b)/(a))は0.24であった。
【0075】
{試料4}
(原料溶解工程)
容器に、V2O5400g、シュウ酸・2水塩1108g、イオン交換水2000gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解し、原料溶解液を調製した。
なお、原料溶解工程におけるシュウ酸・2水塩の添加量は、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は4である。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をXRDで測定した結果、乾燥粉はV2O5の回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。
【0076】
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られる乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で350°で4時間、炉で焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、冷却途中で炉内を窒素雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21容量%)に45℃で切り替え、そのまま45℃で30分酸化処理を行った。
次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、V
3O
7の回折ピークは観察されず、第1焼成体試料はX線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムであることを確認した(
図4参照)。
【0077】
{試料5}
(原料溶解工程)
容器に、V2O5300g、シュウ酸・2水塩581.3g、イオン交換水1500gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解し、原料溶解液を調製した。
なお、原料溶解工程におけるシュウ酸・2水塩の添加量は、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は2.8である。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をXRDで測定した結果、乾燥粉はV2O5の回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られた乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で350°で4時間、炉で焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、冷却途中で炉内を窒素雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21容量%)に75℃で切り替え、そのまま75℃で30分酸化処理を行った。
次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、V3O7の回折ピークは観察されず、第1焼成体試料はX線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムであることを確認した。
【0078】
{試料6}
(原料溶解工程及び乾燥工程)
試料5と同様にして原料溶解工程及び乾燥工程を行い乾燥粉を得た。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られた乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で350°で4時間、炉で焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、冷却途中で炉内を窒素雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21容量%)に50℃で切り替え、そのまま50℃で30分酸化処理を行った。
次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、V3O7の回折ピークは観察されず、第1焼成体試料はX線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムであることを確認した。
【0079】
{試料7}
(原料溶解工程及び乾燥工程)
試料5と同様にして原料溶解工程及び乾燥工程を行い乾燥粉を得た。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られた乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で340°で4時間、炉で焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、冷却途中で炉内を窒素雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21容量%)に35℃で切り替え、そのまま35℃で30分酸化処理を行った。
次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、V3O7の回折ピークは観察されず、第1焼成体試料はX線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムであることを確認した。
【0080】
{試料8}
(原料溶解工程及び乾燥工程)
試料5と同様にして原料溶解工程及び乾燥工程を行い乾燥粉を得た。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られた乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で340°で4時間、炉で焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、冷却途中で炉内を窒素雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21容量%)に50℃で切り替え、そのまま50℃で30分酸化処理を行った。
次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、V3O7の回折ピークは観察されず、第1焼成体試料はX線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムであることを確認した。
【0081】
{試料9}
(原料溶解工程)
容器に、V2O5:20g、シュウ酸・2水塩13.86g、イオン交換水100gを室温下(25℃)で仕込み、次いで昇温して80℃で3時間加熱処理してV2O5が一部溶解した原料混合液のスラリーを得た。
なお、原料溶解工程におけるシュウ酸・2水塩の添加量は、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は1である。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料混合液のスラリーを供給し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をXRDで測定した結果、乾燥粉はV2O5の回折ピークが確認された。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られる乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で330℃で4時間、炉で焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、冷却途中で炉内を窒素雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21容量%)に50℃で切り替え、そのまま50℃で30分酸化処理を行った。
次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料とした。X線回折分析の結果、V3O7の回折ピークは観察されず、第1焼成体試料はX線回折的にV2O5と単斜晶のVO2との混合物であることを確認した。
【0082】
{試料10}
(原料溶解工程)
容器に、V2O5300g、シュウ酸・2水塩581.3g、イオン交換水1500g及びメタタングステン酸アンモニウム溶液(WO3換算50重量%)5gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解させて原料溶解液を調製した。なお、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は、2.8であった。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し噴霧乾燥して乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をX線回折分析した結果、回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。
(第1焼成工程)
乾燥工程で得られた乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で360℃で4時間焼成を行って焼成体を得た。
焼成後、冷却途中の60℃で炉内を窒素ガス雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21体積%)に切り替え、そのまま60℃で30分間保持して酸化処理を行った。
次いで、焼成体をビーズ破砕装置で粉砕処理したものを第1焼成体試料(W原子として0.7質量%ドープした二酸化バナジウム)とした。
得られた第1焼成体試料をX線回折分析した結果、X線回折的に高純度な単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。
【0083】
{物性評価}
上記で得られた第1焼成体試料について、平均一次粒子径及びBET比表面積を測定した。その結果を表1に示す。また、各試料のX線回折分析の結果も表1に併記した。
なお、平均一次粒子径は、SEM像中から任意に第1焼成体試料100個の粒子を抽出し、各粒子の一次粒子径を測定し、それらを算術平均した値として求めた。
【0084】
【0085】
{実施例1}
(第2焼成工程)
前記で調製した第1焼成体試料1(10g)をアルミナ坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で800℃で2時間焼成し、窒素雰囲気でそのまま冷却して第2焼成体試料を得た。
得られた第2焼成体試料をX線回折分析した結果を
図5に示す。
図5から分かるように、X線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。
また、走査型電子顕微鏡観察(SEM)法で求めた一次粒子の平均粒子径は2.2μmで、BET比表面積は0.6m
2/gであった。
なお、一次粒子の平均粒子径は、SEM像中から任意に第1焼成体試料100個の粒子を抽出し、各粒子の一次粒子径を測定し、それらを算術平均した値として求めた。
【0086】
{実施例2}
(第2焼成工程)
前記で調製した第1焼成体試料3(10g)をアルミナ坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で800℃で2時間焼成し、窒素雰囲気でそのまま冷却して第2焼成体試料を得た。
得られた第2焼成体試料をX線回折分析した結果を
図6に示す。
図6から分かるように、X線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。
また、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡観察(SEM)法で求めた一次粒子の平均粒子径は0.9μmで、BET比表面積は1.7m
2/gであった。
【0087】
{実施例3}
(第2焼成工程)
前記で調製した第1焼成体試料3(10g)をアルミナ坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で850℃で2時間焼成し、窒素雰囲気でそのまま冷却して第2焼成体試料を得た。
得られた第2焼成体試料をX線回折分析した結果を
図7に示す。
図7から分かるように、X線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。
また、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡観察(SEM)法で求めた一次粒子の平均粒子径は15μmで、BET比表面積は0.1m
2/g以下であった。
【0088】
{比較例1}
(原料溶解工程)
容器に、V2O5300g、シュウ酸・2水塩581.3g、イオン交換水1500gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解し、原料溶解液を調製した。
なお、原料溶解工程におけるシュウ酸・2水塩の添加量は、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は2.8である。
(乾燥工程)
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をXRDで測定した結果、乾燥粉はV2O5の回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。
(焼成工程)
乾燥工程で得られる乾燥粉をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で850°で4時間、炉で焼成を行った。
焼成後、そのまま窒素ガス雰囲気で室温(20℃)まで冷却し、次いで、ビーズ破砕装置で粉砕処理したものを焼成体試料とした。X線回折分析の結果、焼成体試料は主成分がV2O3であり、単斜晶の二酸化バナジウムは確認できなかった。
【0089】
(相転移温度、熱量の測定)
各実施例において、相転移温度、熱量の測定は下記のように行った。
第2焼成体試料を示差走査熱量測定(DSC)用密閉式セル(SUSセル)に封入し、示差走査熱量測定装置(SIIエポリードサービス社製、形式DSC6200)にて昇温速度1℃/minにて100℃まで昇温し、その後20℃まで降温した。昇温過程で生じる吸熱ピーク、及び降温過程で生じる発熱ピークの開始温度、熱量を測定した。
【0090】
【0091】
{実施例4~9}
第1焼成体試料4~8及び10について、実施例1と同様にして第2焼成工程を行いそれぞれ第2焼成体試料を得た。得られた第2焼成体試料をX線回折分析を行ったところ、全ての第2焼成体試料について、X線回折的に単相の単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。