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特許7471834認知機能に関する情報を取得する方法、認知機能に関する医学的介入の有効性の判定方法、認知機能の判定を補助する方法、試薬キット、判定装置及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】認知機能に関する情報を取得する方法、認知機能に関する医学的介入の有効性の判定方法、認知機能の判定を補助する方法、試薬キット、判定装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
G01N33/92 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020010410
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021117094
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】原田 周
(72)【発明者】
【氏名】村上 克洋
(72)【発明者】
【氏名】三輪 桂子
(72)【発明者】
【氏名】ナカーエイ エルナズ
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-132863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0242040(US,A1)
【文献】国際公開第2016/194825(WO,A1)
【文献】特表2009-526233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0109469(US,A1)
【文献】国際公開第2018/008763(WO,A1)
【文献】Abdelouahed KHALIL et al.,“Impairment of the ABCA1 and SR-BI-mediated cholesterol efflux pathways and HDL anti-inflammatory activity in Alzheimer's disease”,Mechanisms of Ageing and Development,2012年01月,Vol.133, No.1,pp.20-29,DOI: 10.1016/j.mad.2011.11.008
【文献】Amane HARADA et al.,“Cholesterol Uptake Capacity: A New Measure of HDL Functionality for Coronary Risk Assessment”,The Journal of Applied Laboratory Medicine,2017年09月01日,Vol.2, No.2,pp.186-200,DOI: 10.1373/jalm.2016.022913
【文献】Ryuji TOH,“Assessment of HDL Cholesterol Removal Capacity: Toward Clinical Application”,Journal of Atherosclerosis and Thrombosis,2019年02月01日,Vol.26, No.2,pp.111-120,DOI: 10.5551/jat.RV17028
【文献】Victor A. CORTES et al.,“Advances in the physiological and pathological implications of cholesterol”,Biological Reviews,2013年02月28日,Vol.88, No.4,pp.825-843,DOI: 10.1111/brv.12025
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させることにより前記標識脂質を前記リポタンパク質に取り込ませ、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する捕捉体とを接触して、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質及び前記捕捉体を含む複合体を形成し、前記複合体中の前記標識脂質を測定することを含み、取得した測定値が、認知機能異常の指標となる、被検者の認知機能に関する情報を取得する方法であって、
前記捕捉体が、ApoEタンパク質に特異的に結合する抗体であり、
前記被検者の認知機能に関する情報が、被検者の認知機能の状態を示す情報及び/又は中枢神経系疾患の有無を示す情報である、前記方法。
【請求項2】
前記測定値が所定の閾値以下である場合、前記測定値は、前記被検者の認知機能が低下していることを示唆する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定値が所定の閾値より高い場合、前記測定値は、前記被検者の認知機能が低下していないことを示唆する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定値が所定の閾値以下である場合、前記測定値は、前記被検者は中枢神経系疾患を発症していることを示唆する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記測定値が所定の閾値より高い場合、前記測定値は、前記被検者は中枢神経系疾患を発症していないことを示唆する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記中枢神経系疾患がアルツハイマー病である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記標識脂質が標識ステロールである請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記標識ステロールが、下記の式(I):
【化1】
(式中、R1は、メチル基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基であり、
X及びYは、同一又は異なって、-R2-NH-、-NH-R2-、-R2-(C=O)-NH-、-(C=O)-NH-R2-、-R2-NH-(C=O)-、-NH-(C=O)-R2-、-R2-(C=O)-、-(C=O)-R2-、-R2-(C=O)-O-、-(C=O)-O-R2-、-R2-O-(C=O)-、-O-(C=O)-R2-、-R2-(C=S)-NH-、-(C=S)-NH-R2-、-R2-NH-(C=S)-、-NH-(C=S)-R2-、-R2-O-、-O-R2-、-R2-S-、又は-S-R2-で表され、ここで、R2は、それぞれ独立して、結合手、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基であり、
Lは、-(CH2)d-[R3-(CH2)e]f-、又は-[(CH2)e-R3]f-(CH2)d-で表わされ、ここで、R3は、酸素原子、硫黄原子、-NH-、-NH-(C=O)-又は-(C=O)-NH-であり、
TAGは、タグであり、
a及びcは、同一又は異なって、0~6の整数であり、
bは、0又は1であり、
d及びeは、同一又は異なって、0~12の整数であり、
fは、0~24の整数である。)
で表されるタグ付加コレステロールである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
被検者に対して認知機能に関する医学的介入を行う前及び前記医学的介入を行った後において、前記被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させることにより前記標識脂質を前記リポタンパク質に取り込ませ、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する捕捉体とを接触して、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質及び前記捕捉体を含む複合体を形成し、前記複合体中の前記標識脂質を測定する工程と、
前記医学的介入の前の測定により得た測定値と、前記医学的介入の後の測定により得た測定値とを比較して、前記医学的介入の有効性を判定する工程と
を含み、
前記捕捉体が、ApoEタンパク質に特異的に結合する抗体である、認知機能に関する医学的介入の有効性の判定方法。
【請求項10】
前記医学的介入の後の測定により得た測定値が、前記医学的介入の前の測定により得た測定値よりも高い場合、前記医学的介入が前記被検者に対して有効であると判定する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記医学的介入の後の測定により得た測定値が、前記医学的介入の前の測定により得た測定値以下である場合、前記医学的介入が前記被検者に対して有効ではないと判定する請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させることにより前記標識脂質を前記リポタンパク質に取り込ませ、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する捕捉体とを接触して、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質及び前記捕捉体を含む複合体を形成し、前記複合体中の前記標識脂質を測定する工程と、
前記測定工程で取得した測定値が、所定の閾値以下である場合、前記被検者の認知機能が低下していると判定する工程と
を含み、前記捕捉体が、ApoEタンパク質に特異的に結合する抗体である、被検者の認知機能の判定を補助する方法。
【請求項13】
前記判定工程において、前記測定工程で取得した測定値が、所定の閾値より高い場合、前記被検者の認知機能が低下していないと判定する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させることにより前記標識脂質を前記リポタンパク質に取り込ませ、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する捕捉体とを接触して、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質及び前記捕捉体を含む複合体を形成し、前記複合体中の前記標識脂質を測定して得られた測定値の、認知機能異常の指標としての使用であって、
前記捕捉体が、ApoEタンパク質に特異的に結合する抗体であり、
前記認知機能異常が被検者の認知機能の状態及び/又は中枢神経系疾患の有無である、使用。
【請求項15】
標識脂質と、リポタンパク質に結合する捕捉体とを含む、認知機能に関する情報を取得するための試薬キットであって、
前記捕捉体が、ApoEタンパク質に特異的に結合する抗体であり、
記認知機能に関する情報が、被検者の認知機能の状態を示す情報及び/又は中枢神経系疾患の有無を示す情報である、試薬キット。
【請求項16】
プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、
前記メモリには、
被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質との接触により前記標識脂質を前記リポタンパク質に取り込ませ、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する捕捉体とを接触して、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質及び前記捕捉体を含む複合体を形成し、前記複合体中の前記標識脂質の測定値を取得するステップと、
前記測定値に基づいて、前記被検者の認知機能の状態を判定するステップと、
前記判定の結果を出力するステップと
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、
認知機能の判定装置。
【請求項17】
コンピュータに読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、下記のステップ:
被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質との接触により前記標識脂質を前記リポタンパク質に取り込ませ、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する捕捉体とを接触して、前記標識脂質を取り込んだリポタンパク質及び前記捕捉体を含む複合体を形成し、前記複合体中の前記標識脂質の測定値を取得するステップと、
前記測定値に基づいて、前記被検者の認知機能の状態を判定するステップと、
前記判定の結果を出力するステップと
を前記コンピュータに実行させる、
認知機能の判定のためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能に関する情報を取得する方法に関する。本発明は、認知機能に関する医学的介入の有効性の判定方法に関する。本発明は、認知機能の判定を補助する方法に関する。本発明は、認知機能に関する情報を取得するための試薬キットに関する。本発明は、認知機能の判定装置及び認知機能の判定のためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルツハイマー病と、脳脊髄液におけるリポタンパク質のコレステロール引き抜き能との関連が報告されている。脳脊髄液は、アポリポタンパク質の中ではApoE及びApoAIを含むリポタンパク質に富み、このリポタンパク質により脳細胞におけるコレステロールのホメオスタシスが維持される。非特許文献1には、中等度の認知機能異常の患者及びアルツハイマー病患者の脳脊髄液において、所定の膜トランスポーターを介するリポタンパク質のコレステロール引き抜き能が低下することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Yassine H. N. ら, ABCA 1-Mediated Cholesterol Efflux Capacity to Cerebrospinal Fluid Is Reduced in Patients With Mild Cognitive Impairment and Alzheimer's Disease. J Am Heart Assoc. 2016 Feb 12;5(2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脳脊髄液の採取は、被検者の負担が大きい。そこで、本発明は、被検者の血液試料を用いて、認知機能に関する情報を取得することができる新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、血液試料中のリポタンパク質が取り込んだ脂質の測定値が、認知機能異常の指標となることを新たに見出して、本発明を完成した。よって、本発明は、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定することを含み、取得した測定値が、認知機能異常の指標となる、被検者の認知機能に関する情報を取得する方法を提供する。
【0006】
本発明は、被検者に対して認知機能に関する医学的介入を行う前及び医学的介入を行った後において、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定する工程と、医学的介入の前の測定により得た測定値と、医学的介入の後の測定により得た測定値とを比較して、医学的介入の有効性を判定する工程とを含む、認知機能に関する医学的介入の有効性の判定方法を提供する。
【0007】
本発明は、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定する工程と、測定工程で取得した測定値が、所定の閾値以下である場合、被検者の認知機能が低下するリスクが高いと判定するか、且つ/又は被検者の認知機能が低下していると判定する工程とを含む、被検者の認知機能の判定を補助する方法を提供する。
【0008】
本発明は、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定して得られた測定値の、認知機能異常の指標としての使用を提供する。
【0009】
本発明は、標識脂質と、リポタンパク質に結合する捕捉体とを含む、認知機能に関する情報を取得するための試薬キットを提供する。
【0010】
本発明は、プロセッサ及びプロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、メモリには、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質との接触によりリポタンパク質に取り込まれた標識脂質の測定値を取得するステップと、測定値に基づいて、被検者の認知機能の低下リスク及び/又は認知機能の状態を判定するステップと、判定の結果を出力するステップとをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、認知機能の判定装置を提供する。
【0011】
本発明は、コンピュータに読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質との接触によりリポタンパク質に取り込まれた標識脂質の測定値を取得するステップと、測定値に基づいて、被検者の認知機能の低下リスク及び/又は認知機能の状態を判定するステップと、判定の結果を出力するステップとをコンピュータに実行させる、認知機能の判定のためのコンピュータプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、認知機能異常の新たな指標として、血液試料中のリポタンパク質が取り込んだ標識脂質の測定値を取得することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】認知機能に関する情報を取得するための試薬キットの外観の一例を示す図である。
図1B】認知機能に関する情報を取得するための試薬キットの外観の一例を示す図である。
図2】認知機能に関する情報を取得するための試薬キットの外観の一例を示す図である。
図3】認知機能を判定する装置の一例を示した概略図である。
図4】認知機能を判定する装置のハードウェア構成を示すブロックである。
図5A】認知機能を判定する装置を用いた判定のフローチャートである。
図5B】認知機能を判定する装置を用いた判定のフローチャートである。
図5C】認知機能を判定する装置を用いた判定のフローチャートである。
図6】認知機能を判定する装置を用いた判定のフローチャートである。
図7】リポタンパク質画分含有希釈液中のApoE濃度と、リポタンパク質に取り込まれたコレステロールの量の測定結果との関係を示すグラフである。
図8】リコンビナントApoEを含むリポタンパク質画分含有希釈液中のリポタンパク質に取り込まれたコレステロールの量を示すグラフである。
図9】認知機能の状態によって分類した被検者の各血清中のリポタンパク質に取り込まれたコレステロールの量を示すグラフである。
図10】認知機能の状態によって分類した被検者の各血清中のApoEリポタンパク質の捕捉量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.認知機能に関する情報を取得する方法]
本実施形態の認知機能に関する情報を取得する方法(以下、単に「方法」ともいう)では、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定する。リポタンパク質に取り込まれた標識脂質の量(以下、「取り込み量」ともいう)は、リポタンパク質の脂質を取り込む能力を表す。この能力は、取り込み能(uptake capacity)とも呼ばれる(例えばNagano et al. J Am Heart Assoc. 2019 May 7;8(9)を参照。この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。リポタンパク質に取り込まれた標識脂質の量又はリポタンパク質の脂質取り込み能は、認知機能に関する情報を取得するための指標として用いられる。
【0015】
(被検者)
被検者は、特に限定されない。被検者は、例えば健常者であってもよいし、認知機能に異常がある者又は異常の疑いがある者であってもよい。認知機能の異常の多くは、アルツハイマー病(Alzheimer's Disease)などの神経性疾患によって引き起こされる。アルツハイマー病による認知機能障害のうち、軽度の認知機能障害はMCI(Mild Cognitive Impairment)と呼ばれ、アルツハイマー病によってさらに病状の進行した認知機能障害はアルツハイマー型認知症(Alzheimer's dementia: AD)と呼ばれる(McKhann, et al. Alzheimer's & Dementia 7 (2011) 263-269を参照。この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0016】
(血液試料)
血液試料は、例えば全血又は、血漿、血清などの血液成分が挙げられる。これらの中でも、特に血清が好ましい。血液試料を、超遠心分離法、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿法などの公知の方法によって分離又は分画して、所定のリポタンパク質を含む画分を取得してもよい。本実施形態では、血液試料から調製した所定のリポタンパク質を含む画分(以下、「リポタンパク質画分」ともいう)を、標識脂質の測定に用いることができる。本明細書において「血液試料」との用語には、被検者から採取した全血及び血液成分だけでなく、全血又は血液成分から調製したリポタンパク質画分を含む試料(リポタンパク質を含む試料)も含まれる。
【0017】
リポタンパク質は、高比重リポタンパク質(HDL)、低比重リポタンパク質(LDL)、中間比重リポタンパク質(IDL)、超低比重リポタンパク質(VLDL)、及びカイロミクロン(CM)のいずれであってもよい。HDLは、1.063 g/mL以上の密度を有するリポタンパク質である。LDLは、1.019 g/mL以上1.063 g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。IDLは、1.006 g/mL以上1.019 g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。VLDLは、0.95 g/mL以上1.006 g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。CMは、0.95 g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。
【0018】
リポタンパク質は、ステロールをエステル化して取り込むことが知られている。標識脂質として、後述の標識コレステロールを用いる場合、リポタンパク質によるコレステロールのエステル化反応に必要となる脂肪酸又はそれを含む組成物(例えばリポソーム)を、血液試料に添加してもよい。
【0019】
本実施形態では、血液試料を希釈して用いてもよい。例えば、リポタンパク質濃度を調整するために、血液試料を希釈して得た液を、後述の測定に用いることができる。試料の希釈には、水性媒体又は試料希釈用試薬を用いることができる。水性媒体は、リポタンパク質による取り込み反応を阻害しない限り、特に限定されない。そのような水性媒体としては、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris-HCl、グッドバッファーなどが挙げられる。試料希釈用試薬は、取り込み量の測定に有用な物質を上記の水性媒体中に含む液をいう。測定に有用な物質としては、例えば、環状構造を有さない界面活性剤、環状オリゴ糖、測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分、ブロッキング剤などが挙げられる。
【0020】
本実施形態では、血液試料を、後述の環状構造を有さない界面活性剤の存在下で希釈してもよい。例えば、環状構造を有さない界面活性剤を上記の水性媒体に溶解した溶液で、血液試料を希釈してもよい。環状構造を有さない界面活性剤を用いることで、リポタンパク質による脂質の取り込み反応が促進される。また、環状構造を有さない界面活性剤はブロッキング剤の役割も果たす。そのため、ウシ血清アルブミン(BSA)などの、免疫学的測定でブロッキング剤として一般的に用いられる動物由来タンパク質を用いなくともよい。このようにして希釈した血液試料と、標識脂質とを混合することにより、リポタンパク質と標識脂質とが、環状構造を有さない界面活性剤の存在下で接触する。
【0021】
本実施形態では、血液試料を、後述の第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で希釈してもよい。第1の添加剤とは「少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)」であり、第2の添加剤とは「ホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物」である。例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を上記の水性媒体又は試料希釈用試薬中に含む液で、血液試料を希釈してもよい。このようにして希釈した血液試料と、標識脂質とを混合することにより、リポタンパク質と標識脂質とが、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で接触する。
【0022】
本実施形態では、血液試料を、環状オリゴ糖の存在下で希釈してもよい。例えば、環状オリゴ糖を上記の水性媒体に溶解した溶液で血液試料を希釈してもよい。環状オリゴ糖としては、例えばシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンなどが挙げられる。環状オリゴ糖は、血液試料に由来するコレステロールを包接して、ブロッキング剤として機能する。
【0023】
リポタンパク質の構成成分であるアポリポタンパク質の濃度は、血液試料中のリポタンパク質の濃度の指標となる。本実施形態では、得られたアポリポタンパク質の濃度に基づいて血液試料を希釈することにより、血液試料中のリポタンパク質濃度を調整してもよい。アポリポタンパク質の濃度は、公知の免疫学的測定法(例えば免疫比濁法)により測定できる。アポリポタンパク質の濃度としては、ApoEの濃度が特に好ましい。アポリポタンパク質の測定は、血液試料の一部を取って測定試料として用い、取り込み量の測定とは別途行うことが好ましい。
【0024】
本実施形態では、血液試料を、標識脂質の非特異的吸着を防止するためのブロッキング剤の存在下で希釈してもよい。例えば、そのようなブロッキング剤を含む試料希釈用試薬で、血液試料を希釈してもよい。ブロッキング剤の添加により、例えば、後述の固相や捕捉体への標識脂質の非特異的吸着が抑制される。標識脂質の非特異的吸着を防止するためのブロッキング剤としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系重合体が挙げられる。この重合体は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体であってもよいし、他のモノマーとの共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、疎水性基として炭素数1~20のアルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましい。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系重合体は市販されている。例えば、日油株式会社のリピジュア(商標)のシリーズが挙げられ、それらの中でもリピジュア-BL203が特に好ましい。
【0025】
(標識脂質)
標識脂質としては、例えば、標識物質を有するステロール(標識ステロール)、標識物質を有するリン脂質(標識リン脂質)などが挙げられる。以下、標識脂質が有する標識物質を「第1の標識」ともいう。本実施形態では、標識脂質としては標識ステロールが好ましい。そのようなステロールとしては、例えば、コレステロール及びその誘導体が挙げられる。コレステロール誘導体としては、例えば、胆汁酸の前駆体、ステロイドの前駆体などが挙げられる。具体的には、3β-ヒドロキシ-Δ5-コレン酸、24-アミノ-5-コレン-3β-オルなどが好ましい。標識リン脂質を用いて取り込み能を測定することに関しては、Edward B. N.らの論文に記載がある(Edward B. N. et al., Biology 2019, 8, 53; doi:10.3390/biology8030053)。
【0026】
本実施形態では、標識ステロールは、標識物質を有するコレステロール(以下、「標識コレステロール」ともいう)が好ましい。標識コレステロールにおけるコレステロール部分は、天然に存在するコレステロールの構造を有してもよいし、又は、天然に存在するコレステロールのC17位に結合しているアルキル鎖から1つ以上のメチレン基及び/又はメチル基が除かれたコレステロール(ノルコレステロールとも呼ばれる)の構造を有してもよい。
【0027】
リポタンパク質は脂質をエステル化して取り込むので、リポタンパク質によりエステル化され得る標識脂質を用いることが好ましい。一般的に、例えば標識コレステロールは、血液試料と混合した際に、該試料に含まれる血液由来のレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)によりエステル化されると考えられる。リポタンパク質による標識コレステロールのエステル化を確認する方法自体は、当該技術において公知であり、当業者がルーチンで行うことができる。
【0028】
第1の標識は、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を検出可能にする標識物質であれば、特に限定されない。第1の標識は、例えば、それ自体が検出対象となるタグであってもよいし、検出可能なシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよい。
【0029】
第1の標識としてのタグは、リポタンパク質による脂質の取り込みを阻害せず、且つ、該タグと特異的に結合できる物質が存在するか又は得られる限り、特に限定されない。以下では、第1の標識としてタグを付加された脂質を「タグ付加脂質」ともいう。同様に、第1の標識としてタグを付加されたステロールを「タグ付加ステロール」ともいう。また、第1の標識としてタグを付加されたコレステロールを「タグ付加コレステロール」ともいう。タグ付加コレステロール自体は当該技術分野において公知であり、例えばUS 2017/0315112 A1に記載されている。
【0030】
タグ付加コレステロールとしては、例えば、下記の式(I)で表されるタグ付加コレステロールが挙げられる。
【0031】
【化1】
(式中、R1は、メチル基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基であり、
X及びYは、同一又は異なって、-R2-NH-、-NH-R2-、-R2-(C=O)-NH-、-(C=O)-NH-R2-、-R2-NH-(C=O)-、-NH-(C=O)-R2-、-R2-(C=O)-、-(C=O)-R2-、-R2-(C=O)-O-、-(C=O)-O-R2-、-R2-O-(C=O)-、-O-(C=O)-R2-、-R2-(C=S)-NH-、-(C=S)-NH-R2-、-R2-NH-(C=S)-、-NH-(C=S)-R2-、-R2-O-、-O-R2-、-R2-S-、又は-S-R2-で表され、ここで、R2は、それぞれ独立して、結合手、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基であり、
Lは、-(CH2)d-[R3-(CH2)e]f-、又は-[(CH2)e-R3]f-(CH2)d-で表わされ、ここで、R3は、酸素原子、硫黄原子、-NH-、-NH-(C=O)-又は-(C=O)-NH-であり、
TAGは、タグであり、
a及びcは、同一又は異なって、0~6の整数であり、
bは、0又は1であり、
d及びeは、同一又は異なって、0~12の整数であり、
fは、0~24の整数である。)
【0032】
式(I)においてa、b及びcがいずれも0であるとき、この式で表されるタグ付加コレステロールはリンカーを有さず、タグとコレステロール部分とが直接結合している。式(I)においてa、b及びcのいずれかが0でないとき、この式で表されるタグ付加コレステロールは、タグとコレステロール部分との間にリンカー(-[X]a-[L]b-[Y]c-)を有する。リンカーにより、リポタンパク質の外表面に露出したタグと捕捉体とがより結合しやすくなると考えられる。以下に、式(I)の各置換基について説明する。
【0033】
R1は、炭素数1~6のアルキレン基を主鎖とし、いずれかの位置にメチル基を有していてもよい。R1は、天然に存在するコレステロールのC17位に結合したアルキル鎖に相当する。本実施形態では、R1は、炭素数が1~5の場合、天然に存在するコレステロールにおけるC20の位置にメチル基を有することが好ましい。R1は、炭素数が6の場合、天然に存在するコレステロールのC20位~C27位のアルキル鎖と同じ構造であることが好ましい。
【0034】
[X]aは、R1と、L、[Y]c又はタグとの連結部分に相当する。[Y]cは、R1、[X]a又はLと、タグとの連結部分に相当する。X及びYは、コレステロール部分とリンカーとを結合する反応及びリンカーとタグとを結合する反応の種類に応じて決定される。
【0035】
R2に関して、結合手とは、間に他の原子を介さずに直接結合することをいう。R2が、炭素数1~10のアルキレン基であるとき、そのようなアルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、ネオペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、2-エチルヘキシレン、ノニレン及びデシレンなどの基が挙げられる。それらの中でも、炭素数1~4のアルキレン基が好ましい。R2が、置換基を有するアルキレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0036】
R2が、アリーレン基若しくはヘテロアリーレン基であるとき、そのような基は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数6~12の芳香環であればよい。例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニリレン、フラニレン、ピローレン、チオフェニレン、トリアゾーレン、オキサジアゾーレン、ピリジレン、ピリミジレンなどの基が挙げられる。R2が、置換基を有するアリーレン基又はヘテロアリーレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0037】
R2が、シクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基であるとき、そのような基は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~8の非芳香環であればよい。例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン、ピロリジニレン、ピペリジニレン、モルホリニレンなどの基が挙げられる。R2が、置換基を有するシクロアルキレン基又はヘテロシクロアルキレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0038】
R2における置換基としては、例えば、ヒドロキシル、シアノ、アルコキシ、=O、=S、-NO2、-SH、ハロゲン、ハロアルキル、ヘテロアルキル、カルボキシアルキル、アミン、アミド、及びチオエーテルなどの基が挙げられる。R2は、置換基を複数有していてもよい。ここで、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を表す。アルコキシは、-O-アルキル基を示し、このアルキル基は、炭素数1~5、好ましくは炭素数1又は2の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基である。
【0039】
好ましくは、a及びcが共に1であり、X及びYが、同一又は異なって、-(C=O)-NH-、又は-NH-(C=O)-である。
【0040】
Lは、スペーサーに相当し、リンカーに所定の長さを付与するポリマー構造を有する。
このポリマー構造部分は、リポタンパク質によるコレステロールの取り込みを阻害せず、且つ、リンカー部分がリポタンパク質に取り込まれにくい性質であることが好ましい。そのようなポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーが挙げられる。好ましい実施形態において、Lは、-(CH2)d-[O-(CH2)e]f-、又は-[(CH2)e-O]f-(CH2)d-で表わされる構造である。ここで、d及びeは、同一又は異なって、0~12の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは共に2である。fは、0~24の整数、好ましくは2~11の整数、より好ましくは4~11の整数である。
【0041】
タグは、天然由来の物質及び合成された物質のいずれであってもよく、例えば、化合物、ペプチド、タンパク質、核酸及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。化合物は、これと特異的に結合できる物質が存在するか又は得られるかぎり、当該技術において公知の標識化合物であってもよく、例えば、色素化合物などが挙げられる。
【0042】
当該技術分野において、コレステロールはエステル化されることで脂溶性が増大して、リポタンパク質による取り込みが促進することが知られている。コレステロールに付加されるタグは、脂溶性又は疎水性の物質であってもよい。
【0043】
タグと該タグに特異的に結合できる物質との組み合わせとしては、例えば、抗原と該抗原を認識する抗体、ハプテンと抗ハプテン抗体、ペプチド又はタンパク質とそれらを認識するアプタマー、リガンドとその受容体、オリゴヌクレオチドとその相補鎖を有するオリゴヌクレオチド、ビオチンとアビジン(又はストレプトアビジン)、ヒスチジンタグ(6~10残基のヒスチジンを含むペプチド)とニッケル、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)とグルタチオンなどが挙げられる。タグとしての抗原は、当該技術において公知のペプチドタグ及びプロテインタグであってもよく、例えば、FLAG(登録商標)、ヘマグルチニン(HA)、Mycタンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)などが挙げられる。タグとしてのハプテンは、例えば、2, 4-ジニトロフェノールなどが挙げられる。
【0044】
タグ付加ステロールは、タグとして、例えば、下記の式(II):
【0045】
【化2】
で表される構造、又は、下記の式(III):
【0046】
【化3】
で表される構造が付加されたステロールが挙げられる。式(II)で表される構造は、ボロンジピロメテン(BODIPY(登録商標))骨格であり、式(III)で表される構造は、ビオチンの一部分を示す。式(II)又は(III)で表される構造がタグとして付加されたステロールは、これらのタグに対する捕捉体が一般に入手可能であるので、好ましい。また、タグとして2,4-ジニトロフェニル(DNP)基が付加されたステロールも、抗DNP抗体が市販されているので、好ましい。
【0047】
リンカーを有さないタグ付加コレステロールとしては、例えば、下記の式(IV)で表される蛍光標識コレステロール(23-(ジピロメテンボロンジフルオリド)-24-ノルコレステロール、CAS No: 878557-19-8)が挙げられる。
【0048】
【化4】
【0049】
この蛍光標識コレステロールは、Avanti Polar Lipids社よりTopFluor Cholesterolとの商品名で販売されている。式(IV)で表される蛍光標識コレステロールは、タグ(BODIPY骨格構造を有する蛍光部分)がコレステロールのC23位に直接結合している。上記のBODIPY骨格構造を有する蛍光部分に特異的に結合する捕捉体として、抗BODIPY抗体(BODIPY FL Rabbit IgG Fraction、A-5770、Lifetechnologies社)が市販されている。
【0050】
タグがリンカーを介して結合しているタグ付加コレステロールとしては、下記の式(V)で表されるビオチン付加コレステロールが挙げられる。
【0051】
【化5】
(式中、nは、0~24の整数、好ましくは2~11の整数、より好ましくは4~11の整数である。)
【0052】
このタグ付加コレステロールにおいては、タグ(式(III)で表されるビオチン部分)がリンカー(ポリエチレングリコール)を介してコレステロール部分と結合している。ビオチン部分に特異的に結合する捕捉体としては、アビジン又はストレプトアビジンが適している。また、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)などの標識物質が結合したアビジン又はストレプトアビジンも市販されている。
【0053】
また、タグがリンカーを介して結合しているタグ付加コレステロールとして、下記の式(VI)で表されるDNP付加コレステロールが挙げられる。
【0054】
【化6】
【0055】
このタグ付加コレステロールにおいては、DNPがリンカー(-(C=O)-NH-CH2-CH2-NH-)を介してコレステロール部分と結合している。DNPに特異的に結合する捕捉体としては、抗DNP抗体が適している。また、HRP、ALPなどの標識物質が結合した抗DNP抗体も市販されている。
【0056】
ステロール部分とタグとの結合様式は特に限定されないが、ステロール部分とタグとを結合させてもよいし、ステロール部分とタグとをリンカーを介して結合させてもよい。結合手段は特に限定されないが、例えば、官能基を利用したクロスリンクが簡便で好ましい。官能基は特に限定されないが、アミノ基、カルボキシル基及びスルフヒドリル基は、市販のクロスリンカーを利用できるので好ましい。
【0057】
コレステロールは、C17位に結合しているアルキル鎖に官能基がないので、タグの付加においては、該アルキル鎖に官能基を有するコレステロール誘導体を用いることが好ましい。そのようなコレステロール誘導体としては、例えば、胆汁酸の前駆体、ステロイドの前駆体などが挙げられる。具体的には、3β-ヒドロキシ-Δ5-コレン酸、24-アミノ-5-コレン-3β-オルなどが好ましい。タグの官能基はタグの種類に応じて異なる。例えば、ペプチド又はタンパク質をタグに用いる場合は、アミノ基、カルボキシル基及びスルフヒドリル基(SH基)が利用でき、ビオチンをタグに用いる場合は、側鎖のカルボキシル基が利用できる。リンカーは、両端に官能基を有するポリマー化合物が好ましい。なお、ビオチンをタグとして付加する場合、市販のビオチン標識試薬を用いてもよい。この試薬は、末端にアミノ基などの官能基を有する様々な長さのスペーサーアーム(PEGなど)を結合させたビオチンが含まれている。
【0058】
第1の標識としてのシグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、発色物質、発光物質、放射性同位元素などが挙げられる。これらのうち、蛍光物質が特に好ましい。蛍光物質は、有極性構造を有する蛍光団を含むことが好ましい。当該技術分野において、有極性構造を有する蛍光団を含む蛍光物質自体は公知である。
【0059】
シグナル発生物質で標識された脂質は、該物質を公知の方法で脂質に付加することにより製造できる。なお、脂質において、シグナル発生物質が付加される位置は特に限定されず、用いるシグナル発生物質の種類に応じて適宜決定できる。脂質とシグナル発生物質との結合様式は特に限定されないが、両者が共有結合を介して直接結合していることが好ましい。
【0060】
蛍光物質を含む脂質としては、例えば、上記の式(II)で表されるBODIPY骨格構造を有する蛍光団を含む蛍光標識脂質などが挙げられる。本実施形態では、市販の蛍光標識脂質を用いてもよい。例えば、BODIPY骨格構造を有する蛍光団を含む脂質として、上記の式(IV)で表される蛍光標識コレステロールが挙げられる。式(IV)で表される蛍光標識コレステロールは、470~490 nmの励起波長により、525~550 nmの波長の蛍光シグナルを発生する。
【0061】
(標識脂質を取り込んだリポタンパク質の調製工程)
本実施形態では、血液試料中のリポタンパク質と、標識脂質との接触は、例えば、血液試料と、標識脂質を含む溶液とを混合することにより行うことができる。これらを混合した後、リポタンパク質が標識脂質を取りこみ始め、標識脂質を取り込んだリポタンパク質が得られる。この調製工程において、後述の第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で行ってもよい。混合の順序は特に限定されない。
【0062】
混合における温度及び時間の条件は、特に限定されない。例えば、血液試料と標識脂質との混合液を20~48℃、好ましくは25~42℃にて、1分間~24時間、好ましくは10分間~2時間インキュベーションしてもよい。インキュベーションの間、混合液は静置してもよいし、攪拌又は振とうしてもよい。
【0063】
標識脂質の添加量は特に限定されないが、標識脂質が枯渇しないよう、やや過剰に添加してもよい。例えば、標識脂質を終濃度0.1μM以上30μM以下、好ましくは1μM以上10μM以下となるように添加できる。
【0064】
(環状構造を有さない界面活性剤)
本実施形態では、血液試料中のリポタンパク質と、標識脂質との混合は、環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。環状構造を有さない界面活性剤とは、非環式化合物である界面活性剤をいう。例えば、標識脂質を含む溶液又は血液試料に、環状構造を有さない界面活性剤を添加してもよい。添加の順序は特に限定されない。環状構造を有さない界面活性剤の添加量は、適宜設定できる。例えば、標識脂質を取り込んだリポタンパク質の調製工程で得られる混合液中の界面活性剤の濃度は、0.001%(v/v)以上0.5%(v/v)以下であり、好ましくは0.01%(v/v)以上0.1%(v/v)以下である。環状構造を有さない界面活性剤の存在下で上記の混合を行うことにより、リポタンパク質による取り込み反応が促進する。動物由来タンパク質は、ロット間の品質が安定しない場合がある。また、動物由来タンパク質は、界面活性剤に比べて、血液試料中の成分、測定系に添加される抗体、標識脂質などと非特異的に結合する傾向がある。環状構造を有さない界面活性剤は合成品であるので、品質がほぼ一定であり、測定への影響が動物由来タンパク質に比べて軽微である。
【0065】
本実施形態では、血液試料中のリポタンパク質と、標識脂質との混合は、上記の環状オリゴ糖及び環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。また、血液試料中のリポタンパク質と、標識脂質との接触は、上記の測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分及び環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。例えば、標識脂質を含む溶液又は上記の液状試薬に、環状オリゴ糖及び/又は測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分を添加してもよい。
【0066】
環状構造を有さない界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から適宜選択できるが、好ましくは非イオン性界面活性剤である。環状構造を有さない非イオン性界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、ポリアルキレングリコールエチレンオキシド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレン分岐アルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヤシ脂肪酸グリセリル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレントリイソステアリン酸、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエタノールアミドなどが挙げられる。環状構造を有さない非イオン性界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
上記の非イオン性界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリアルキレングリコールエチレンオキシド付加物が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテルなどが挙げられる。本実施形態では、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが特に好ましい。ポリオキシエチレンラウリルエーテルは市販されており、例えば、日油株式会社のノニオンK-230及びノニオンK-220、花王株式会社のエマルゲン123P及びエマルゲン130Kなどが挙げられる。
【0068】
本実施形態では、ポリアルキレングリコールエチレンオキシド付加物としては、ブロック共重合体が好ましく、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのトリブロック共重合体がより好ましい。そのようなブロック共重合体の非イオン性界面活性剤としては、下記の式(VII)で表される化合物が特に好ましい。
【0069】
【化7】
(式中、x、y及びzが、同一又は異なって、1以上の整数であり、ポリプロピレンオキシド部分の分子量が、2750以下である)
【0070】
式(VII)で表される化合物は、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、又はプルロニック(商標)型非イオン界面活性剤とも呼ばれる。
【0071】
式(VII)において、ポリプロピレンオキシド部分(以下、「PPO」ともいう)の分子量とは、-(O-CH(CH3)-CH2)y-で表される部分の分子量であって、分子構造式から算出される分子量をいう。本実施形態では、PPOの分子量は、好ましくは900以上2750以下であり、より好ましくは950以上2750以下であり、特により好ましくは950以上2250以下である。プルロニック型非イオン界面活性剤におけるPPOは、比較的高疎水性であるため、PPOの分子量が大きいほど、界面活性剤の疎水性も大きくなる。そのため、PPOの分子量が2750より高いプルロニック型非イオン界面活性剤は、リポタンパク質に作用して、脂質の取り込みを阻害するおそれがある。
【0072】
式(VII)で表される化合物の平均分子量は、1000~13000であることが好ましい。式(VII)において、x及びzの和は2~240であることが好ましい。また、式(VII)において、yは15~47であることが好ましく、16~47であることがより好ましく、16~39であることが特により好ましい。本明細書において「平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって測定される重量平均分子量である。
【0073】
プルロニック型非イオン界面活性剤は市販されており、例えば、BASF社のプルロニックのシリーズ、日油株式会社のプロノンのシリーズ、旭電化工業株式会社のアデカプルロニックのシリーズなどが挙げられる。プルロニックのシリーズは、PPOの分子量を縦軸にとり、エチレンオキシド(EO)含有量(%)を横軸にとったプルロニックグリッド(例えばPitto-Barry A.及びBarry N.P.E., Poly. Chem., 2014, vol.5, p.3291-3297参照) により分類される。プルロニックグリッドは、学術文献だけでなく、種々の製造業者からも提供される。本実施形態では、プルロニックグリッドに基づいて、式(VII)で表される化合物を選択してもよい。
【0074】
式(VII)で表されるプルロニック型非イオン界面活性剤としては、例えば、プルロニックL31(PPOの分子量:950、EO含有率:10%)、プルロニックL35(PPOの分子量:950、EO含有率:50%)、プルロニックF38(PPOの分子量:950、EO含有率:80%)、プルロニックL42(PPOの分子量:1200、EO含有率:20%)、プルロニックL43(PPOの分子量:1200、EO含有率:30%)、プルロニックL44(PPOの分子量:1200、EO含有率:40%)、プルロニックL61(PPOの分子量:1750、EO含有率:10%)、プルロニックL62(PPOの分子量:1750、EO含有率:20%)、プルロニックL63(PPOの分子量:1750、EO含有率:30%)、プルロニックL64(PPOの分子量:1750、EO含有率:40%)、プルロニックP65(PPOの分子量:1750、EO含有率:50%)、プルロニックF68(PPOの分子量:1750、EO含有率:80%)、プルロニックL72(PPOの分子量:2050、EO含有率:20%)、プルロニックP75(PPOの分子量:2050、EO含有率:50%)、プルロニックF77(PPOの分子量:2050、EO含有率:70%)、プルロニックL81(PPOの分子量:2250、EO含有率:10%)、プルロニックP84(PPOの分子量:2250、EO含有率:40%)、プルロニックP85(PPOの分子量:2250、EO含有率:50%)、プルロニックF87(PPOの分子量:2250、EO含有率:70%)、プルロニックF88(PPOの分子量:2250、EO含有率:80%)、プルロニックL92(PPOの分子量:2750、EO含有率:20%)、プルロニックP94(PPOの分子量:2750、EO含有率:40%)、プルロニックF98(PPOの分子量:2750、EO含有率:80%)などが挙げられる。
【0075】
あるいは、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのトリブロック共重合体は、下記の式(VIII)で表される化合物であってもよい。この化合物は、リバースプルロニック型非イオン界面活性剤とも呼ばれる。
【0076】
【化8】
(式中、p、q及びrが、同一又は異なって、1以上の整数であり、ポリプロピレンオキシド部分の分子量が、2750以下である)
【0077】
式(VIII)において、ポリプロピレンオキシド部分の分子量とは、-(O-CH(CH3)-CH2)p-及び-(O-CH(CH3)-CH2)r-で表される部分の分子量の合計であって、分子構造式から算出される分子量をいう。本実施形態では、PPOの分子量は、好ましくは900以上2750以下であり、より好ましくは950以上2250以下である。式(VIII)で表されるプルロニック型非イオン界面活性剤は市販されており、例えば、BASF社のプルロニック10R5(PPOの分子量:950、EO含有率:50%)などが挙げられる。
【0078】
式(VIII)で表される化合物の平均分子量は、1000~13000であることが好ましい。式(VIII)において、qは2~240であることが好ましい。また、式(VIII)において、p及びrの和は15~47であることが好ましく、16~47であることがより好ましく、16~39であることが特により好ましい。
【0079】
本実施形態の方法では、取り込み量の測定は、血液試料中のリポタンパク質と、標識脂質とを接触させる際に、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物の存在下で行ってもよい。
【0080】
以下では、「少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)」を「第1の添加剤」とも呼ぶ。また、「ホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物」を「第2の添加剤」とも呼ぶ。これらの添加剤の存在下で試料中のリポタンパク質と標識脂質とを混合することにより、添加剤を用いない場合に比べて、取り込み量の測定値のばらつきが低減される。すなわち、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を用いることにより、取り込み量の測定の再現性を向上することを可能にする。
【0081】
(少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物)
第1の添加剤において、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖は、末端を有する鎖状構造の部位であり、化合物分子内で環を形成しない。少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖は、末端を有する鎖状構造である限り、鎖内に環式構造を含んでもよい。環式構造としては、例えば、炭素数3~8の非芳香環、及び炭素数6~12の芳香環が挙げられる。非芳香環としては、環式炭化水素、環状エーテル、環状エステル(ラクトン)などが挙げられる。芳香環としては、ベンゼン核、ナフタレン核などが挙げられる。環式構造は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。ただし、第1の添加剤はステロール以外の化合物である。例えば、コレステロール、及び本実施形態の方法に用いられる標識ステロールなどは、第1の添加剤から除外される。好ましい実施形態では、第1の添加剤は鎖式化合物である。
【0082】
少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖は、直鎖状でもよいし、分岐鎖状でもよい。本実施形態では、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖の主鎖の炭素数は、例えば8以上30以下であり、好ましくは10以上26以下であり、より好ましくは14以上22以下である。ここで、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖の主鎖とは、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)命名規則に従って第1の添加剤を命名するときに決定される、炭素数が最も多くなる鎖である。
【0083】
第1の添加剤において、炭化水素鎖が有する炭素-炭素不飽和結合の数は、1つでもよいし、複数でもよい。炭素-炭素不飽和結合は、二重結合でもよいし、三重結合でもよい。炭素-炭素不飽和結合が複数である場合、第1の添加剤の炭化水素鎖は、二重結合及び三重結合の両方を含んでもよい。
【0084】
第1の添加剤は、少なくとも1つの親水基を有することが好ましい。親水基の位置は特に限定されないが、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖が親水基を有することが好ましい。親水基は、該炭化水素鎖の主鎖及び側鎖のいずれに含まれていてもよい。親水基としては、例えばアミド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、チオール基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。第1の添加剤は、例えば、下記の式(IX)で表される化合物であってもよい。
【0085】
R4-CH=CH-R5 ・・・(IX)
(式中、
R4及びR5は、同一又は異なって、-R6-(C=O)-NH2、-R6-OH、-R6-NH2、-R6-(C=O)-OH、-R6-SO2-OH、-R6-SH、-R6-O-(C=O)-OH、-R6-NH-(C=O)-NH2、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換又は無置換のアルキル基、又は水素原子であり、ただし、R4がアルキル基又は水素原子であるとき、R5はアルキル基及び水素原子以外であり、
R4及びR5の主鎖の炭素数の和が6以上28以下であり、
R6は、結合手、又は主鎖の炭素数が1以上28以下の置換又は無置換のアルキレン基である)
【0086】
R4及びR5に関して、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換又は無置換のアルキル基は、分岐鎖(側鎖)を有してもよい。ここで、主鎖とは、上記のアルキル基において最も長い炭素鎖をいう。上記のアルキル基において、炭素数が1以上28以下である主鎖は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチレン、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル及びオクタコシルからなる群より選択される直鎖アルキル基として命名される部分をいう。R4及び/又はR5が、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換のアルキル基であるとき、炭素数が1以上28以下の直鎖状の炭素鎖が主鎖となるように、置換基が選択される。
【0087】
R6に関して、結合手とは、間に他の原子を介さずに直接結合することをいう。R6に関して、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換又は無置換のアルキレン基は、分岐鎖(側鎖)を有してもよい。ここで、主鎖とは、上記のアルキレン基において最も長い炭素鎖をいう。上記のアルキレン基において、炭素数が1以上28以下である主鎖は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン、トリデシレン、テトラデシレン、ペンタデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン、ノナデシレン、イコシレン、ヘンイコシレン、ドコシレン、トリコシレン、テトラコシレン、ペンタコシレン、ヘキサコシレン、ヘプタコシレン及びオクタコシレンからなる群より選択される直鎖アルキレン基として命名される部分をいう。R6が、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換のアルキレン基であるとき、炭素数が1以上28以下の直鎖状の炭素鎖が主鎖となるように、置換基が選択される。
【0088】
R4、R5及びR6における置換基としては、例えばシアノ基、アルコキシ基、=O、=S、-NO2、-SH、ハロゲン、ハロアルキル基、ヘテロアルキル基、カルボキシアルキル基、及びチオエーテル基などが挙げられる。R4、R5及びR6はそれぞれ、置換基を複数有していてもよい。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を表す。アルコキシは、-O-アルキル基を示す。置換基におけるアルキル基は、炭素数が1以上5以下、好ましくは炭素数が1又は2の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基である。
【0089】
式(IX)で表される化合物は、シス体でもよいし、トランス体でもよい。式(IX)で表される化合物としては、例えば、1つの炭素-炭素二重結合を有し、且つ炭素数が8以上30以下である直鎖状の不飽和脂肪族アミド、不飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アミンが挙げられる。具体的には、シス-4-デセン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、オレイン酸アミド、エライジン酸アミド、エルカ酸アミド、シス-4-デセン-1-オル、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、エルシルアルコール、シス-4-デセンアミン、パルミトレイルアミン、オレイルアミン、トランス-9-オクタデセンアミン、シス-13-ドコセンアミンなどが挙げられる。それらの中でも、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイルアルコール、パルミトレイルアルコール、シス-4-デセン-1-オル、エライジルアルコール及びオレイルアミンが好ましい。
【0090】
(ホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物)
第2の添加剤は、ホスホジエステル結合を有さず、且つ炭素-炭素不飽和結合を有さない脂肪族化合物である。ここで、脂肪族化合物とは、芳香族化合物以外の化合物をいう。第2の添加剤はホスホジエステル結合を有さないので、例えば、リン脂質、及びリン脂質に類似した構造を有する飽和脂肪族化合物などは、第2の添加剤から除外される。第2の添加剤は、分子内に環式構造を有さない鎖式化合物でもよいし、環式化合物でもよい。環式構造としては、例えば炭素数3~8の非芳香環が挙げられる。非芳香環としては、環式炭化水素、環状エーテル、ラクトンなどが挙げられる。環式構造は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0091】
第2の添加剤としては、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族化合物が好ましい。ここで、第2の添加剤としての飽和脂肪族化合物の主鎖とは、IUPAC命名規則に従って第2の添加剤を命名するときに決定される、炭素数が最も多くなる鎖である。そのような飽和脂肪族化合物としては、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族アミド、飽和脂肪族アルコール及び飽和脂肪族アミンが挙げられる。好ましい第2の添加剤は、炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アミド、飽和脂肪族アルコール及び和脂肪族アミンである。
【0092】
炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アミドとしては、例えば、オクタン酸アミド、ノナン酸アミド、デカン酸アミド、ウンデカン酸アミド、ドデカン酸アミド、テトラデカン酸アミド、ヘキサデカン酸アミド(パルミチン酸アミド)、オクタデカン酸アミド(ステアリン酸アミド)、イコサン酸アミド、ドコサン酸アミド、テトラコサン酸アミド、ヘキサコサン酸アミド、オクタコサン酸アミド、トリアコンタン酸アミドなどが挙げられる。炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アルコールとしては、例えば、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、n-テトラデカノール、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、n-イコサノール、n-ドコサノール、n-テトラコサノール、n-ヘキサコサノール、n-オクタコサノール、n-トリアコンタノールなどが挙げられる。炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アミンとしては、例えば、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、イコシルアミン、ドコシルアミン、テトラコシルアミン、ヘキサコシルアミン、オクタコシルアミン、トリアコンチルアミンなどが挙げられる。好ましい第2の添加剤は、ステアリン酸アミド及びパルミチン酸アミドである。
【0093】
第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の添加量は、適宜決定できる。例えば、標識脂質を取り込んだリポタンパク質の調製で得られる混合液中の第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度は、1μM以上1000μM以下であり、好ましくは13μM以上352μM以下である。ここで、上記調製で得られる混合液とは、リポタンパク質と、標識脂質と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤とを含む液である。そのような混合液は、例えば、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤とを含む液状試薬との混合液である。あるいは、混合液は、リポタンパク質を含む試料と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤及び標識脂質を含む液状試薬との混合液であってもよい。混合液において、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度が上記の範囲内であるとき、測定値のばらつきがより低減される。
【0094】
(リポタンパク質と第1の捕捉体との複合体の形成)
本実施形態の方法は、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、該リポタンパク質に結合する捕捉体(第1の捕捉体)とを接触して、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と捕捉体を含む複合体を形成する工程を含むことが好ましい。リポタンパク質と第1の捕捉体との接触により、第1の捕捉体がリポタンパク質に結合して、リポタンパク質と第1の捕捉体との複合体が形成される。
【0095】
第1の捕捉体は、リポタンパク質の表面の一部と特異的に結合できる物質であれば特に限定されない。第1の捕捉体としては、リポタンパク質に特異的に結合する抗体が好ましく、リポタンパク質の構成成分であるアポリポプロテインと特異的に結合できる抗体がより好ましい。そのような抗体としては、例えば、抗ApoA抗体(抗ApoAI抗体及び抗ApoAII抗体)、抗ApoB抗体及び抗ApoE抗体(抗ApoE2抗体、抗ApoE3抗体及び抗ApoE4抗体)などが挙げられる。それらの中でも、抗ApoE抗体が特に好ましい。市販の抗リポタンパク質抗体及び抗ApoE抗体を用いてもよい。
【0096】
当該技術分野では、リポタンパク質のApoEの遺伝子型によって、細胞からのコレステロールの引き抜きがApoE2>ApoE3>ApoE4の順に低くなることが知られている(J Neurochem. 2000 Mar:74(3):1008-16を参照。この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。取り込み量については、ApoEの遺伝子型は取り込み量を決定する一要因であり、取り込み量は翻訳後修飾など様々な要因が関係すると考えられる。本実施形態では、実際に標識脂質が取り込まれた量を取り込み量として測定するので、先天的な遺伝子型のみの判定よりも高精度な認知機能に関する判定ができると考えられる。
【0097】
ここで、上記文献の測定系では、細胞にアポリポタンパク質を作用させて、細胞から引き抜かれるコレステロールの量を測定する。一方、本実施形態では、血液試料中のリポタンパク質に標識脂質を直接取り込ませ、取り込まれた標識脂質の量を測定している。よって、本実施形態の方法は、測定に細胞を必要とせず、無細胞系で行うことができる。無細胞系とは、取り込み量の測定に利用する目的で細胞を添加することがないことを意味する。すなわち、本実施形態の方法は、測定のために細胞を添加してその性質及び機能などを利用することなく、実施できる。なお、本実施形態では、用いる試料に被検者由来の細胞が含まれている場合であっても、その細胞自体はリポタンパク質の標識脂質の取り込みにほとんど影響しないと考え、測定は無細胞系であるとみなす。さらに、本実施形態では、各測定は実質的に無細胞系で行われる。実質的に無細胞系とは、取り込み量の測定に利用する目的で、細胞を積極的に添加することがないことを意味する。本実施形態では、抗ApoE2抗体、抗ApoE3抗体及び抗ApoE4抗体を使い分けて、取り込み量を無細胞系で測定することにより、リポタンパク質のApoEの遺伝子型の違いを評価し得る。
【0098】
抗リポタンパク質抗体及び抗ApoE抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。抗体の由来は特に限定されず、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ラクダなどのいずれの哺乳動物に由来する抗体であってもよい。また、抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgE、IgAなどのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。本実施形態では、第1の捕捉体として、抗体のフラグメント及びその誘導体を用いてもよく、例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメントなどが挙げられる。
【0099】
標識脂質を取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との接触は、例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合することにより行ってもよい。混合の順序は特に限定されない。混合は、環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。好ましい実施形態では、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質と標識脂質とを混合した後に、該リポタンパク質と第1の捕捉体との混合を行う。例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液とを混合した後、得られた混合液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合する。第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下での混合は、上記の液状試薬を用いて行うことが好ましい。これにより、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体が形成される。第1の捕捉体の添加量は特に限定されず、第1の捕捉体の種類などに応じて当業者が適宜設定できる。
【0100】
リポタンパク質と第1の捕捉体との接触における温度及び時間の条件は、特に限定されない。例えば、上記の混合液を20~48℃、好ましくは25~42℃にて、10秒間~24時間、好ましくは1分間~2時間インキュベーションしてもよい。インキュベーションの間、混合液は静置してもよいし、攪拌又は振とうしてもよい。
【0101】
(複合体の固相上への固定)
本実施形態では、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体を、固相上に固定してもよい。例えば、血液試料と、標識脂質溶液と、第1の捕捉体を含む溶液と、固相とを混合してもよい。また、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液と、第1の捕捉体を含む溶液と、固相とを混合することにより行ってもよい。あるいは、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合し、そして、得られた混合液と固相とを混合してもよい。好ましくは、まず、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液とを混合し、次いで、得られた混合液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合し、そして、得られた混合液と固相とを混合してもよい。
【0102】
本実施形態では、第1の捕捉体は、あらかじめ固相上に固定化されていてもよい。例えば、抗リポタンパク質抗体を固定化した固相を、血液試料と標識脂質溶液との混合液に添加することで、固相上に複合体が形成される。あるいは、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液と、第1の捕捉体を固定化した固相とを混合してもよい。好ましくは、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液とを混合し、そして、得られた混合液と、第1の捕捉体を固定化した固相とを混合してもよい。混合は、環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。固相を用いる場合の温度及び時間の条件は、特に限定されない。例えば、上記のリポタンパク質と第1の捕捉体との接触と同様の条件であってもよい。
【0103】
固相としては、複合体中の第1の捕捉体を捕捉可能な固相が好ましい。固相の種類は特に限定されず、例えば、抗体を物理的に吸着する材質の固相、抗体と特異的に結合する分子が固定化されている固相などが挙げられる。抗体と特異的に結合する分子としては、プロテインA又はG、抗体を特異的に認識する抗体(すなわち二次抗体)などが挙げられる。また、抗体と固相との間を介在する物質の組み合わせを用いて、両者を結合することもできる。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチンとアビジン(又はストレプトアビジン)、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。例えば、第1の捕捉体をあらかじめビオチン修飾している場合、アビジン又はストレプトアビジンが固定化された固相によって第1の捕捉体を捕捉できる。
【0104】
固相の素材は、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム、コバルト及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも、マイクロプレート及び粒子が好ましく、96ウェルマイクロプレート及び磁性粒子が特に好ましい。固相の形状が粒子である場合、固相
として、粒子の懸濁液を上記の混合に用いることができる。固相の形状がマイクロプレートなどの容器である場合、固相としての容器内で上記の混合を行うことができる。
【0106】
固相として粒子の懸濁液を用い、さらに第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を用いる場合、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液中の第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度は、1μM以上1000μM以下であり、好ましくは10μM以上271μM以下である。ここで、固相が粒子である場合、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識脂質と、第1の捕捉体及び粒子とを含む液である。第2の捕捉体を用いる場合は、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識脂質と、第1の捕捉体と、後述の第2の捕捉体及び粒子とを含む液である。固相が容器である場合、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識脂質及び第1の捕捉体を容器内に含む液である。第2の捕捉体を用いる場合は、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識脂質と、第1の捕捉体と及び第2の捕捉体を容器内に含む液である。これらの混合液は第1の添加剤及び/又は第2の添加剤が含まれていてもよい。
【0107】
複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液は、具体的には、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液とを含む液状試薬と、第1の捕捉体を含む溶液と、粒子の懸濁液との混合液である。第2の捕捉体を用いる場合は、上記の混合液は、リポタンパク質を含む試料と、標識脂質を含む溶液とを含む液状試薬と、第1の捕捉体を含む溶液と、第2の捕捉体を含む溶液と、粒子の懸濁液との混合液である。液状試薬は、標識脂質を含む試薬であってもよい。複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液において、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤が含まれていてもよい。第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度が上記の範囲内で含まれるとき、測定値のばらつきを低減することができる。
【0108】
(洗浄工程)
本実施形態では、リポタンパク質と標識脂質との接触と、後述の取り込み量の測定との間に、未反応の遊離成分を除去する洗浄工程を行ってもよい。この洗浄工程は、B/F分離及び複合体の洗浄を含む。未反応の遊離成分とは、標識脂質を取り込んだリポタンパク質を含む複合体を構成しない成分である。例えば、リポタンパク質に取り込まれなかった遊離の標識脂質、リポタンパク質と結合しなかった遊離の第1の捕捉体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、例えば、超遠心分離法などにより複合体だけを回収することで、複合体と、未反応の遊離成分とを分離できる。複合体を固相上に形成させている場合、固相が粒子であれば、遠心分離や磁気分離により粒子を回収し、上清を除去することにより、複合体と、未反応の遊離成分とを分離できる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することにより、複合体と、未反応の遊離成分とを分離できる。
【0109】
未反応の遊離成分を除去した後、回収した複合体を適切な水性媒体で洗浄できる。そのような水性媒体としては、例えば、水、生理食塩水、PBS及びTris-HCl、グッドバッファーなどが挙げられる。本実施形態では、上記の洗浄工程を、環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行うことが好ましい。例えば、環状構造を有さない界面活性剤を上記の水性媒体に溶解して洗浄液を調製し、回収した複合体を該洗浄液で洗浄してもよい。固相を用いた場合は、複合体を捕捉した固相を洗浄液で洗浄してもよい。具体的には、回収した複合体又は複合体を捕捉した固相に洗浄液を添加して、B/F分離を再度行う。
【0110】
(取り込み量の測定)
本実施形態の方法では、標識脂質を取り込んだリポタンパク質を調製した後、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質の量を測定する(以下、「取り込み量の測定工程」ともいう)。取り込み量の測定工程は、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質に由来するシグナルを検出することにより行われる。このシグナルは、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質の量を反映するので、該シグナルの検出結果は、取り込み量の指標となる。
【0111】
本明細書において、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「強」などのように複数の段階に半定量的に検出することを含む。本実施形態では、シグナル強度を定量して、測定値を取得することが好ましい。
【0112】
リポタンパク質に取り込まれた標識脂質に由来するシグナルは、標識脂質から直接発生するシグナルであってもよい。そのようなシグナルは、例えば、第1の標識としてシグナル発生物質を有する標識脂質を用いた場合に検出できる。すなわち、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質中の第1の標識から発生するシグナルを検出することにより、取り込み量を測定できる。例えば、蛍光標識脂質を用いた場合は、蛍光強度を測定すればよい。蛍光強度を測定する方法自体は、当該技術分野において公知である。例えば、分光蛍光光度計及び蛍光プレートリーダーなどの公知の測定装置を用いて、複合体から生じる蛍光強度を測定できる。励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光標識脂質の種類に応じて適宜決定できる。例えば、上記の式(IV)の蛍光標識コレステロールを用いた場合は、励起波長は470~490 nm、蛍光波長は525~550 nmの範囲から決定すればよい。
【0113】
(標識脂質と第2の捕捉体との複合体の形成)
リポタンパク質に取り込まれた標識脂質に由来するシグナルは、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を検出するときに発生するシグナルであってもよい。リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を検出するために、本実施形態では、標識脂質と、該標識脂質に結合する第2の捕捉体とを接触して、複合体を形成してもよい。この場合、標識脂質は、標識ステロールが好ましく、タグ付加ステロールがより好ましい。また、第2の捕捉体は、タグに特異的に結合する物質が好ましい。
【0114】
リポタンパク質に取り込まれたタグ付加コレステロールの検出原理は、次のとおりである。通常、コレステロールは、リポタンパク質に取り込まれると、該リポタンパク質粒子の表層から中心部へと移動すると考えられる。タグ付加コレステロールにおいて、リポタンパク質に取り込まれるのはコレステロール部分であり、タグは、リポタンパク質の外表面に露出していると考えられる。ここで、「リポタンパク質の外表面」とは、リポタンパク質粒子の外側の面をいう。「外表面に露出している」とは、リポタンパク質の外表面上に存在すること、及び、リポタンパク質の外表面から突出していることの両方を意味する。本実施形態では、この外表面に露出しているタグと、該タグに特異的に結合する第2の捕捉体とを接触させ、複合体を形成する。そして、この複合体中の第2の捕捉体を検出することにより、リポタンパク質に取り込まれたコレステロールを検出する。
【0115】
タグに特異的に結合する物質は、タグの種類に応じて適宜決定できる。例えば、上述したタグと該タグに特異的に結合できる物質との組み合わせを参照して、抗体、リガンド受容体、オリゴヌクレオチド、ビオチン、アビジン(又はストレプトアビジン)、ヒスチジンタグ又はニッケル、GST又はグルタチオンなどから選択できる。それらの中でも、タグに特異的に結合する抗体が好ましい。そのような抗体は、市販の抗体であってもよいし、当該技術において公知の方法により作製した抗体であってもよい。抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。抗体の由来及びアイソタイプは特に限定されない。また、抗体のフラグメント及びその誘導体を用いてもよく、例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメントなどが挙げられる。
【0116】
本実施形態の方法は、上記の複合体の形成工程と、取り込み量の測定工程との間に、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体と、標識脂質に結合する第2の捕捉体とを混合し、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体と第2の捕捉体とを含む複合体を形成する工程を含むことがより好ましい。特に、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体を固相上に形成した後に、固相に固定された複合体と、第2の捕捉体とを混合することが好ましい。これにより、第1の捕捉体と、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、第2の捕捉体との複合体が形成される。この複合体において、標識脂質を取り込んだリポタンパク質は、第1の捕捉体及び第2の捕捉体で挟まれた状態にある。本実施形態では、第1の捕捉体と、標識脂質を取り込んだリポタンパク質と、第2の捕捉体との複合体を「サンドイッチ複合体」ともいう。
【0117】
標識脂質と第2の捕捉体との接触における温度及び時間の条件は、特に限定されない。例えば、リポタンパク質と第1の捕捉体との複合体を含む溶液と、第2の捕捉体を含む溶液との混合物を4~60℃、好ましくは25~42℃にて、1秒間~24時間、好ましくは1分間~2時間インキュベーションしてもよい。インキュベーションの間、混合物は静置してもよいし、攪拌又は振とうしてもよい。
【0118】
(第2の標識)
第2の捕捉体は、第2の標識で標識されることが好ましい。第2の捕捉体が第2の標識で標識されている場合、標識脂質と第2の捕捉体との複合体中の第2の標識に由来するシグナルを検出することにより、取り込み量を測定できる。第2の標識は、シグナル発生物質であってもよいし、他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質を用いることができる。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)、シアニン系色素などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも酵素が好ましく、アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼが特に好ましい。また、これらの酵素から比活性をとり、取り込み量の測定値としてもよい。
【0119】
本実施形態では、第2の標識による第2の捕捉体の標識は、第2の捕捉体に第2の標識を直接又は間接的に結合することにより行うことができる。例えば、市販のラベリングキットなどを用いて、第2の標識を第2の捕捉体に直接結合することができる。また、第2の捕捉体に特異的に結合できる抗体を第2の標識で標識して得た二次抗体を用いることで、第2の標識を第2の捕捉体に間接的に結合させてもよい。本実施形態では、第2の標識が結合した第2の捕捉体を用いてもよいし、第2の捕捉体と第2の標識を有する二次抗体とを用いてもよい。
【0120】
本実施形態では、シグナルの検出を行う前に、未反応の遊離成分を除去する洗浄工程を行ってもよい。未反応の遊離成分としては、例えば、タグに結合しなかった遊離の第2の捕捉体、第2の捕捉体と結合しなかった遊離の第2の標識などが挙げられる。洗浄の具体的な手法及び洗浄液については、上述の洗浄工程と同様である。
【0121】
(第2の標識に由来するシグナルの検出)
第2の標識に由来するシグナルを検出する方法自体は、当該技術分野において公知である。本実施形態では、第2の標識に由来するシグナルの種類に応じて、適切な測定方法を選択できる。例えば、第2の標識が酵素である場合、酵素と該酵素に対する基質とが反応することによって発生する光、色などのシグナルを、公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。そのような測定装置としては、分光光度計、ルミノメータなどが挙げられる。
【0122】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択することができる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質としては、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。
【0123】
第2の標識が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、第2の標識が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0124】
(固相に固定化されたリポタンパク質の量の測定)
本実施形態では、必要に応じて、固相に固定化されたリポタンパク質の量(以下、「リポタンパク質の捕捉量」ともいう)を測定してもよい。この測定は、取り込み量の測定とは別に行ってもよいし、取り込み量の測定後の固相を用いて行ってもよい。取り込み量の測定とは別に行う場合、標識脂質を取り込ませたリポタンパク質を固定化した固相を複数用意する。そして、少なくとも1つの固相をリポタンパク質の捕捉量の測定に用い、残りの固相を取り込み量の測定に用いる。
【0125】
リポタンパク質の捕捉量の測定自体は、公知のELISA法の原理に基づいて測定できる。例えば、固相に固定化されたリポタンパク質と、該リポタンパク質に結合する第3の捕捉体とを接触して複合体を形成し、該複合体を検出することによりリポタンパク質の捕捉量を測定できる。第3の捕捉体は、リポタンパク質の表面の一部と特異的に結合できる物質であれば特に限定されない。第3の捕捉体の詳細は、第1の捕捉体について述べたことと同様である。第3の捕捉体は、第1の捕捉体と同じであってもよいし、異なっていてもよい。好ましい第3の捕捉体は、抗ApoE抗体である。第1の捕捉体及び第3の捕捉体が、同じ抗原(例えばApoE)に結合する抗体である場合、互いのエピトープは異なっていることが好ましい。
【0126】
第3の捕捉体は、第3の標識で標識されることが好ましい。第3の捕捉体が第3の標識で標識されている場合、固相に固定化されたリポタンパク質と第3の捕捉体との複合体中の第3の標識に由来するシグナルを検出することにより、リポタンパク質の捕捉量を測定できる。第3の標識の詳細は、第2の標識について述べたことと同様である。第3の標識は、第2の標識と同じであってもよいし、異なっていてもよい。本実施形態では、第3の標識に由来するシグナルを検出することにより、リポタンパク質の捕捉量を測定できる。第3の標識に由来するシグナルを検出する方法については、第2の標識について述べたことと同様である。
【0127】
(血液試料における取り込み量の測定値)
本実施形態では、取り込み量の測定結果を、被検者の認知機能に関する情報として取得できる。具体的には、被検者の血液試料における取り込み量の測定値が、認知機能異常の指標となる。血液試料における取り込み量の測定値は、次のようにして取得できる。例えば、所定量の血液試料(又は所定量の血液試料から調製したリポタンパク質画分)を希釈せずに取り込み量を測定した場合、取得した測定値自体を、血液試料における取り込み量の測定値として取得できる。あるいは、取得した測定値を、測定に用いた血液試料の体積(所定量の値)で割って得た値を、血液試料の単位体積あたりの取り込み量の測定値として取得してもよい。
【0128】
血液試料中のアポリポタンパク質の濃度に基づいて該血液試料を希釈して測定に用いた場合、取得された取り込み量の測定値を、血液試料の単位体積あたりの取り込み量の測定値に換算してもよい。これは、血液試料中のリポタンパク質の濃度が希釈により調製されているからである。例えば、血液試料中のアポリポタンパク質の濃度に基づいて該血液試料を希釈して測定に用いた場合、下記の式(1)により、取得された取り込み量の測定値を、血液試料の単位体積あたりの取り込み量の測定値に換算できる。
【0129】
(血液試料の単位体積あたりの取り込み量の測定値)
= [(取り込み量の測定値)/(リポタンパク質の捕捉量の測定値)]×(脂質試料中のアポリポタンパク質の濃度の測定値) ・・・(1)
【0130】
上記の式(1)において、取り込み量の測定値をリポタンパク質の捕捉量の測定値で割ることにより、リポタンパク質あたりの取り込み量の測定値が得られる。上述のように、血液試料中のアポリポタンパク質の濃度は、血液試料中のリポタンパク質の濃度の指標となる。よって、リポタンパク質あたりの取り込み量の測定値に、血液試料中のアポリポタンパク質の濃度の測定値を掛けることで、血液試料の単位体積あたりの取り込み量の測定値が得られる。
【0131】
これら血液試料における取り込み量の測定値及び/又は血液試料の単位体積あたりの取り込み量の測定値を、本実施形態の認知機能異常の指標として用いることができる。つまりは、本実施形態では、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定して得られた測定値の、認知機能異常の指標としての使用を提供する。血液試料における取り込み量の測定値及び/又は血液試料の単位体積あたりの取り込み量の測定値は、被検者の認知機能に関する指標として有用である。
【0132】
本実施形態の認知機能に関する情報は、例えば、被検者の認知機能の低下リスクに関する情報、及び/又は被検者の認知機能の状態を示す情報であってもよい。より具体的には、本実施形態の認知機能に関する情報は、被検者の認知機能が低下するリスクが高いことを示す情報、被検者の認知機能が低下するリスクが低いことを示す情報、被検者の認知機能が低下していることを示す情報、及び被検者の認知機能が低下していないことを示唆する情報を含み得る。
【0133】
本実施形態では、上述の取り込み量の測定値が所定の閾値以下である場合、該測定値は、被検者の認知機能が低下するリスクが高いこと、及び/又は被検者の認知機能が低下していることを示唆する。また、該測定値が所定の閾値より高い場合、測定値は、被検者の認知機能が低下するリスクが低いこと、及び/又は被検者の認知機能が低下していないことを示唆する。
【0134】
別の実施形態では、複数の閾値が設定される。例えば、認知機能低下リスクを三群に分類する第1の閾値と、第1の閾値よりも高値である第2の閾値とを設定することができる。この例によると、取り込み量の測定値が第1の閾値未満である場合に、認知機能低下リスクが高く、測定値が第1の閾値以上第2の閾値未満である場合に、認知機能低下リスクが中程度であり、測定値が第2の閾値以上である場合に、認知機能低下リスクが低いことを示唆する。
【0135】
被検者の認知機能の状態を三群に分類する第1の閾値と、第1の閾値よりも高値である第2の閾値とを設定することもできる。この例によると、取り込み量の測定値が第1の閾値未満である場合に、被検者はADであり、測定値が第1の閾値以上第2の閾値未満である場合に、被検者はMCIであり、測定値が第2の閾値以上である場合に、被検者は認知機能正常であることを示唆する。
【0136】
所定の閾値は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、認知機能が正常な被検者と認知機能に異常が認められた被検者とを鑑別するための閾値を、次のようにして設定してもよい。まず、認知機能が正常と診断された複数の被検者(正常群)及び認知機能が異常と診断された複数の被検者(異常群)から血液試料を取得し、取り込み量を測定して、測定値のデータを得る。そして、正常群と異常群とを最も精度よく区別可能な値を求め、その値を所定の閾値として設定する。閾値の設定においては、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮することが好ましい。
【0137】
本実施形態の認知機能に関する情報は、例えば、中枢神経系疾患の発症リスクに関する情報、及び/又は中枢神経系疾患の有無を示す情報であってもよい。より具体的には、本実施形態の認知機能に関する情報は、被検者の中枢神経系疾患の発症リスクが高いことを示す情報、被検者の中枢神経系疾患の発症リスクが低いことを示す情報、被検者が中枢神経系疾患に罹患していることを示す情報、及び被検者に中枢神経系疾患に罹患していないことを示す情報を含み得る。本実施形態の中枢神経系疾患は、特に限定されないが、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病などが挙げられ、特にアルツハイマー病であることが好ましい。アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβは、βセクレターゼ及びγセクレターゼの作用によって生成する。βセクレターゼ及びγセクレターゼはコレステロール密度が下がると活性が低下することが知られており、取り込み量が大きいとβセクレターゼ及びγセクレターゼ活性が低下し、アミロイドβ生成が抑制すると考えられる。したがって、取り込み量が大きいほど、アルツハイマー病の発症リスクは下がると考えられる。よって、本実施形態の方法は、アルツハイマー病に関する情報を得るための手段として好適に用いることができる。
【0138】
本実施形態では、上述の取り込み量の測定値が所定の閾値以下である場合、該測定値は、被検者が中枢神経系疾患を発症するリスクが高いこと、及び/又は被検者は中枢神経系疾患を発症していることを示唆する。また、該測定値が所定の閾値より高い場合、測定値は、被検者が中枢神経系疾患を発症するリスクが低いこと、及び/又は被検者は中枢神経系疾患を発症していないことを示唆する。
【0139】
[2.認知機能に関する医学的介入の有効性の判定方法]
本実施形態の方法で得られた取り込み量の測定結果は、認知機能に関する医学的介入の有効性の判定に利用できる。本実施形態の被検者の認知機能に関する医学的介入の有効性の判定方法では、まず、被検者に対して認知機能に関する医学的介入の前及び医学的介入を行った後に被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定する。この測定は、上記の認知機能に関する情報を取得する方法について述べたことと同じである。次いで、医学的介入の前の測定により得た測定値と、医学的介入の後の測定により得た測定値とを比較して、医学的介入の有効性を判定する。ここで、医学的介入の後の測定により得た測定値が、医学的介入の前の測定により得た測定値よりも高い場合、医学的介入が被検者に対して有効であると判定できる。また、医学的介入の後の測定により得た測定値が、医学的介入の前の測定により得た測定値以下である場合、医学的介入が被検者に対して有効ではないと判定できる。
【0140】
医学的介入とは、治療薬や予防薬の投与、食事療法、運動療法、学習療法、外科手術、免疫療法、遺伝子治療などが含まれる。
【0141】
上記の判定では、医学的介入の後の測定により得た測定値が、医学的介入の前の測定により得た測定値と同じ値であった場合、医学的介入が被検者に対して有効ではないと判定したが、医学的介入が被検者に対して有効であると判定してもよい。すなわち、医学的介入の後の測定により得た測定値が、医学的介入の前の測定により得た測定値以上の場合、医学的介入が被検者に対して有効であると判定できる。また、医学的介入の後の測定により得た測定値が、医学的介入の前の測定により得た測定値よりも低い場合、医学的介入が被検者に対して有効ではないと判定できる。また、医学的介入の後の測定により得た測定値が、医学的介入の前の測定により得た測定値と同じ値であった場合、経過観察を要すると判定できる。
【0142】
本実施形態の被検者の認知機能に関する情報は、被検者を継続してモニタリングして得てもよい。モニタリングする方法(以下、モニタリング法)では、例えば、上記の本実施形態の方法を用いて、第1の介入の被検者から取得した第1の血液試料における取り込み量と、第2の介入の該被検者から取得した第2の血液試料における取り込み量を測定する。本実施形態のモニタリング法では、第1及び第2の介入の測定値を比較することで、認知機能に関する医学的介入の有効性をモニタリングできる。
【0143】
第1の介入の時点は、特に限定されず、任意の時点である。第2の介入の時点は、第1の介入とは異なる時点である限り、特に限定されない。第2の介入は、第1の介入から例えば1日~1年の範囲から選択される期間が経過した時点であってもよい。具体的には、第1の介入から第2の介入の間は、3ヶ月程度であり得る。例えば、約3ヶ月ごとに被検者から血液試料を採取し、測定を行うことができる。第1の介入と第2の介入は同じ医学的介入であっても、異なる医学的介入であってもよい。第1及び第2の血液試料の測定は、実質的に同時に行ってもよいし、逐次行ってもよい。第1及び第2の血液試料の測定を実質的に同時に行う場合は、測定までの間、第1の血液試料を適切に保存することが好ましい。必要であれば、第2の血液試料も測定までの間、適切に保存してもよい。
【0144】
第2の介入の時点の測定値が、第1の介入時点の測定値以上の場合、医学的介入が被検者に対して有効であると判定できる。また、第2の介入時点の測定値が、第1の介入の時点の測定値未満の場合、医学的介入が被検者に対して有効ではないと判定できる。また、第2の介入の時点の測定値から、医療従事者は、被検者はモニタリングを継続する必要があると判定してもよい。
【0145】
[3.被検者の認知機能の判定を補助する方法]
取り込み量の測定値は、被検者の認知機能の判定を補助するために用いることができる。本実施形態の被検者の認知機能の判定を補助する方法では、まず、被検者の血液試料中のリポタンパク質と標識脂質とを接触させ、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質を測定する。この測定は上記の認知機能に関する情報を取得する方法について述べたことと同じである。次いで、測定により取得した測定値が、所定の閾値以下である場合、被検者の認知機能が低下するリスクが高いと判定するか、且つ/又は被検者の認知機能が低下していると判定できる。測定により取得した測定値が、所定の閾値より高い場合は、被検者の認知機能が低下するリスクが低いと判定するか、且つ/又は被検者の認知機能が低下していないと判定できる。
【0146】
上記の判定では、測定により取得した測定値が、所定の閾値と同じ場合は、被検者の認知機能が低下するリスクが高いと判定したが、被検者の認知機能が低下するリスクが低いと判定してもよい。すなわち、測定により取得した測定値が、所定の閾値より低い場合、被検者の認知機能が低下するリスクが高いと判定するか、且つ/又は被検者の認知機能が低下していると判定できる。また、判定において、測定により取得した測定値が、所定の閾値以上の場合は、被検者の認知機能が低下するリスクが低いと判定するか、且つ/又は被検者の認知機能が低下していないと判定できる。
【0147】
上記判定を補助する方法によって得られた知見を参考にして、医師等の医療従事者によって認知機能が低下するリスクが高いと判定された被検者は、医学的介入がなければ、例えば5年以内に中枢神経系疾患を発症する可能性が高いと予測してもよい。一方、医師等の医療従事者によって認知機能が低下するリスクが低いと判定された被検者は、例えば5年以内に中枢神経系疾患の発症する可能性が低いと予測してもよい。また、医師等の医療従事者によって認知機能が低下していると判定された被検者は、医学的介入を必要とすると判断してもよい。医師等の医療従事者によって認知機能が低下していないと判定された被検者は、医学的介入を必要としないと判断してもよい。このように、本実施形態の認知機能の判定を補助する方法は、医師等の医療従事者に対して、認知機能が低下するリスク且つ/又は認知機能の判定を補助する情報の提供を可能にする。本実施形態の認知機能の判定を補助する方法によって認知機能が低下するリスクが高いと判定された被検者に対して、中枢神経疾患の発症や症状を抑える投薬などの医学的介入を積極的に行うことで、中枢神経系疾患の発症の予防や症状の緩和が可能となる。
【0148】
別の実施形態では、複数の閾値が設定される。例えば、認知機能が低下するリスクを三群に分類する第1の閾値と、第1の閾値よりも高値である第2の閾値とを設定することができる。この例によると、取り込み量の測定値が第1の閾値未満である場合に、認知機能が低下するリスクが高く、測定値が第1の閾値以上第2の閾値未満である場合に、認知機能が低下するリスクが中程度であり、測定値が第2の閾値以上である場合に、認知機能が低下するリスクが低いことを示唆する。
【0149】
被検者の認知機能の状態を三群に分類する第1の閾値と、第1の閾値よりも高値である第2の閾値とを設定することもできる。この例によると、取り込み量の測定値が第1の閾値未満である場合に、被検者の認知機能が低下していると判定し、測定値が第1の閾値以上第2の閾値未満である場合に、経過観察を要すると判定し、測定値が第2の閾値以上である場合に、認知機能が低下していないと判定する。これらの例において、第1の閾値は、第2の閾値より低い値である。
【0150】
経過観察を要すると判定された場合、認知機能が低下するリスクが低いとはいえないが、投薬などの医学的介入を要する状態ではない。すなわち、被検者は、認知機能が低下するリスクが中リスクであると分類される。よって、被検者は、継続した認知機能に関する検査を継続して行う必要があると予測できる。
【0151】
上記の判定では、血液試料における取り込み量の測定値が、第1の閾値と同じ場合、認知機能が低下するリスクが高いと判定したが、経過観察を要すると判定してもよい。また、上記の判定では、血液試料における取り込み量の測定値が、第2の閾値と同じ場合、認知機能が低下するリスクが低いと判定したが、経過観察を要すると判定してもよい。
【0152】
医師等の医療従事者は、当該測定値を、認知機能を判定するための指標としてもよいし、当該測定値と他の情報を組み合わせて認知機能の状態を判定してもよい。ここで、「他の情報」とは、例えば、ミニメンタルテスト(Mini-Mental State Examination : MMSE)、脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)又は血液試料中のアミロイドβ40又はアミロイドβ42の測定、PETによるアミロイドβの画像診断、PETによるタウタンパク質の画像診断、血液若しくはCSF中のタウタンパク質(総タウ、リン酸化タウ)の測定などによって得られた情報、その他の医学的所見を含む。
【0153】
[4.認知機能に関する情報を取得するための試薬キット]
本発明の範囲には、認知機能に関する情報を取得するための試薬キットも含まれる。すなわち、標識脂質と、リポタンパク質に結合する捕捉体とを含む、認知機能に関する情報を取得するための試薬キット(以下、「試薬キット」ともいう)が提供される。標識脂質及びリポタンパク質に結合する捕捉体の詳細は、本実施形態の方法に用いる標識脂質及び第1の捕捉体について述べたことと同じである。本実施形態の試薬キットは、1つ以上の試薬を含む。
【0154】
標識脂質がタグ付加ステロールである場合、本実施形態の試薬キットは、タグに結合する捕捉体をさらに含んでもよい。また、本実施形態の試薬キットは、この捕捉体を標識するための標識物質をさらに含んでもよい。本実施形態では、捕捉体に標識物質があらかじめ結合されていてもよい(得られる捕捉体を「標識捕捉体」ともいう)。よって、本実施形態の試薬キットは、タグに結合する標識捕捉体をさらに含んでもよい。標識物質が酵素である場合、本実施形態の試薬キットは、該酵素に対する基質をさらに含んでいてもよい。タグに結合する捕捉体、標識物質及び基質の詳細は、上記の第2の捕捉体、第2の標識及び該標識に由来するシグナルの検出について述べたことと同じである。
【0155】
本実施形態の試薬キットは、リポタンパク質の捕捉量の測定のための捕捉体を含んでもよい。そのような捕捉体は、リポタンパク質の表面の一部と特異的に結合できる物質であれば特に限定されない。この捕捉体の詳細は、上記の第3の捕捉体について述べたことと同様である。リポタンパク質の捕捉量の測定のための捕捉体は、上記のリポタンパク質に結合する捕捉体と同じであってもよいし、異なっていてもよい。これらの捕捉体が、同じ抗原(例えばApoE)に結合する抗体である場合、互いのエピトープは異なっていることが好ましい。
【0156】
本実施形態の試薬キットは、リポタンパク質の捕捉量の測定のための捕捉体を標識するための標識物質をさらに含んでもよい。あるいは、本実施形態の試薬キットは、リポタンパク質の捕捉量の測定のための標識捕捉体をさらに含んでもよい。標識物質が酵素である場合、本実施形態の試薬キットは、該酵素に対する基質をさらに含んでもよい。標識物質及び基質の詳細は、上記の第3の標識及び該標識に由来するシグナルの検出について述べたことと同じである。
【0157】
本実施形態の試薬キットは、取り込み量の測定値のばらつきを低減する安定化試薬として第1の添加剤及び/又は第2の添加剤をさらに含んでいてもよい。第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の詳細は上述の通りである。ここで、本明細書において「安定化試薬」とは、測定の再現性を向上させる試薬をいう。
【0158】
本実施形態の試薬キットは、標識脂質と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤との両方を含む試薬を含んでいてもよい。あるいは、本実施形態の測定用試薬は、標識脂質を含む第1試薬と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む第2試薬とを備える二試薬の形態であってもよい。
【0159】
本実施形態の試薬キットは、取り込み量の測定に有用な物質をさらに含んでもよい。測定に有用な物質としては、例えば、環状構造を有さない界面活性剤、環状オリゴ糖、測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分、ブロッキング剤などが挙げられる。これらの物質の詳細は上述のとおりである。
【0160】
標識脂質、各種の捕捉体、安定化試薬、標識物質及び基質は、それぞれ別の容器に保存されているか又は個別に包装されていることが好ましい。標識脂質、各種の捕捉体、安定化試薬、標識物質及び基質の形態は特に限定されず、固体(例えば、粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば、溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。液体である場合、溶媒としては、例えば水、生理食塩水、PBS、Tris-HCl、グッドバッファーなどが挙げられ、これらには取り込み量の測定に有用な物質がさらに含まれていてもよい。また、これらの溶媒を試料希釈用試薬として別途容器に保存していてもよい。
【0161】
本実施形態の試薬キットは、第1試薬を収容した容器及び第2試薬を収容した容器を箱に梱包して、ユーザに提供してもよい。箱には、試薬の使用方法などを記載した添付文書を同梱していてもよい。添付文書には、試薬キットの構成、使用方法、当該試薬キットにより測定された値と認知機能の状態との関係等について記載されていてもよい。そのような試薬キットの例を以下にいくつかの図で示す。本実施形態はこれらの例に限定されない。例えば、図1Aに本実施形態の試薬キットの別の一例を示す。図1A中、10は、試薬キットを示し、11は、標識脂質を収容した第1容器を示し、12は、リポタンパク質に結合する捕捉体を収容した第2容器を示し、13は、梱包箱を示し、14は、添付文書を示す。
【0162】
図1Bに、本実施形態の試薬キットの別の一例を示す。図1B中、20は、試薬キットを示し、21は、標識脂質を収容した第1容器を示し、22は、試料希釈用試薬を収容した第2容器を示し、23は、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液状試薬を収容した第3容器を示し、24は、第1の捕捉体を収容した第4容器を示し、25は、第2の捕捉体を収容した第5容器を示し、26は、固相としての粒子を含む懸濁液を収容した第6容器を示し、27は、梱包箱を示し、28は、添付文書を示す。
【0163】
本実施形態の試薬キットは、粒子を含む懸濁液を収容した容器に替えて、マイクロプレートを備えてもよい。また、本実施形態の試薬キットは、第1の捕捉体を予め粒子上に固定して、第1の捕捉体が固定された粒子を含む懸濁液を収容した容器を備えてもよい。第2の標識が酵素である場合、本実施形態の試薬キットは、酵素に対する基質、及び酵素反応に必要なバッファーをさらに含んでもよい。図2に、本実施形態の試薬キットの別の一例を示す。図2中、30は、試薬キットを示し、31は、標識脂質を収容した第1容器を示し、32は、リポタンパク質に結合する捕捉体を収容した第2容器を示し、33は、梱包箱を示し、34は、添付文書を示し、35は、固相である96ウェルマイクロプレートを示す。
【0164】
本実施形態の試薬キットは、上記の取り込み量の測定試薬とともに、例えばアミロイドβなどの他の認知機能に関する指標を測定するための試薬を備えていてもよい。そのような試薬が、例えばアミロイドβの測定試薬であれば、本実施形態の試薬キットは、抗アミロイドβ抗体であらかじめコーティングされた96ウェルプレート等を共に備えてもよい。この場合、例えば同一の血液試料を分割して、それぞれ取り込み量とアミロイドβ濃度を定量してもよい。
【0165】
[5.判定装置及びコンピュータプログラム]
本発明の範囲には、本実施形態の方法を実施するための装置及びコンピュータプログラムも含まれる。本実施形態の認知機能の低下リスクの判定装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態は、この例に示される形態のみに限定されない。図3に示された判定装置100は、測定装置200と、該測定装置200と接続されたコンピュータシステム300とを含む。
【0166】
測定装置は、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質に基づくシグナルの検出が可能であれば、特に限定されない。測定装置は、標識脂質の標識の種類に応じて適宜選択できる。上記の例において、測定装置200は、マイクロプレート上のリポタンパク質に取り込まれた標識脂質に基づくシグナルを検出するプレートリーダーである。該シグナルは、蛍光シグナルなどの光学的情報である。この場合、標識脂質を取り込んだリポタンパク質を含む複合体を固定化したマイクロプレートを測定装置200にセットすると、測定装置200は、標識脂質に基づく光学的情報を取得し、得られた光学的情報をコンピュータシステム300に送信する。
【0167】
必要に応じて、測定装置により、リポタンパク質の捕捉量を測定してもよい。この場合、リポタンパク質と、該リポタンパク質に結合する標識捕捉体との複合体を固定化したマイクロプレートを測定装置200にセットすると、測定装置200は、標識捕捉体に基づく光学的情報を取得し、得られた光学的情報をコンピュータシステム300に送信する。リポタンパク質の捕捉量を測定するためのマイクロプレートと、取り込み量を測定するためのマイクロプレートは同じであってもよいし、異なっていてもよい。標識捕捉体は、上記の第3の標識で標識された第3の捕捉体と同じである。
【0168】
コンピュータシステム300は、コンピュータ本体301と、入力部302と、検体情報及び判定結果などを表示する表示部303とを含む。コンピュータシステム300は、測定装置200から光学的情報を受信する。そして、コンピュータシステム300のプロセッサは、光学的情報に基づいて、認知機能の低下リスクを判定するプログラムを実行する。なお、コンピュータシステム300は、図3に示されるように、測定装置200とは別個の機器であってもよいし、測定装置200を内包する機器であってもよい。後者の場合、コンピュータシステム300は、それ自体で判定装置100となってもよい。
【0169】
図4を参照して、コンピュータ本体301は、CPU(Central Processing Unit)310と、ROM(Read Only Memory)311と、RAM(Random Access Memory)312と、ハードディスク313と、入出力インターフェイス314と、読取装置315と、通信インターフェイス316と、画像出力インターフェイス317とを備えている。CPU310、ROM311、RAM312、ハードディスク313、入出力インターフェイス314、読取装置315、通信インターフェイス316及び画像出力インターフェイス317は、バス318によってデータ通信可能に接続されている。また、測定装置200は、通信インターフェイス316により、コンピュータシステム300と通信可能に接続されている。
【0170】
CPU310は、ROM311又はハードディスク313に記憶されているプログラム及びRAM312にロードされたプログラムを実行することが可能である。CPU310は、測定装置200から取得した光学的情報に基づいて、血液試料における取り込み量の測定値を取得する。血液試料における取り込み量の測定値及びその算出の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同じである。希釈した血液試料(又はリポタンパク質画分)を用いた場合は、ROM311又はハードディスク313に記憶されている式(1)にしたがって、血液試料における取り込み量の測定値を算出する。そして、CPU310は、取得した測定値と、ROM311又はハードディスク313に記憶されている所定の閾値とに基づいて、認知機能を判定する。CPU310は、判定結果を出力して表示部303に表示させる。
【0171】
ROM311は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM311には、CPU310によって実行されるコンピュータプログラム及び該コンピュータプログラムの実行に用いるデータが記録されている。ROM311に記録されているコンピュータプログラムには、BIOS(Basic Input Output System)が含まれる。
【0172】
RAM312は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM312は、ROM311及びハードディスク313に記録されているプログラムの読み出しに用いられる。RAM312はまた、これらのプログラムを実行するときに、CPU310の作業領域として利用される。
【0173】
ハードディスク313は、CPU310に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(認知機能の判定用プログラム)などのコンピュータプログラム及び該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
【0174】
読取装置315は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブ、USBポート、SDカードリーダ、CFカードリーダ、メモリースティックリーダ、ソリッドステートドライブなどによって構成されている。読取装置315は、可搬型記録媒体400に記録されたプログラム又はデータを読み取ることができる。
【0175】
入出力インターフェイス314は、例えば、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス314には、キーボード、マウスなどの入力部301が接続されている。操作者は、該入力部302により、コンピュータ本体301に各種の指令を入力することが可能である。
【0176】
通信インターフェイス316は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどである。コンピュータ本体301は、通信インターフェイス316により、プリンタなどへの印刷データの送信も可能である。
【0177】
画像出力インターフェイス317は、LCD、CRTなどで構成される表示部302に接続されている。これにより、表示部303は、CPU310から与えられた画像データに応じた映像信号を出力できる。表示部303は、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0178】
図5Aを参照して、判定装置100により実行される、認知機能が低下するリスクの判定の処理手順を説明する。ここでは、マイクロプレート上のリポタンパク質に取り込まれた蛍光標識脂質から生じた蛍光シグナルに基づいて、認知機能が低下するリスクの判定を行なう場合を例として挙げて説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0179】
CPU310は、ステップS101において、測定装置200から光学的情報(蛍光シグナル)を取得し、ステップS102において、取得した光学的情報から、リポタンパク質に取り込まれた標識脂質の測定値を取得する。測定値は、ハードディスク313に記憶される(なお、RAM312に記憶してもよい。ここではハードディスク313に記憶する場合について説明する)。CPU310は、ステップS103において、測定値と、ハードディスク313に記憶された所定の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値未満であるとき、処理は、ステップS104に進行し、認知機能が低下するリスクが高いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。測定値が所定の閾値以上であるとき、処理は、ステップS105に進行し、認知機能が低下するリスクが低いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する(なお、RAM312に記憶してもよい)。CPU310は、ステップS106において、判定結果を出力する。具体的には、表示部303に表示したり、プリンタで印刷したりする。これにより、認知機能が低下するリスクの判定を補助する情報を医師などに提供できる。
【0180】
図5Bを参照して、判定装置100により実行される、認知機能が低下している可能性の判定の処理手順を説明する。ここでは、マイクロプレート上のリポタンパク質に取り込まれた蛍光標識脂質から生じた蛍光シグナルに基づいて、認知機能が低下している可能性の判定を行なう場合を例として挙げて説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0181】
ステップS201、S202及びS206は、それぞれ上記のステップS101、S102及びS106について述べたことと同様である。ここでは、測定値をハードディスク313に記憶する場合について説明する。CPU310は、ステップS203において、算出した測定値と、ハードディスク313に記憶された所定の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値未満であるとき、処理は、ステップS204に進行し、認知機能が低下している可能性が高いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。測定値が所定の閾値以上であるとき、処理は、ステップS205に進行し、認知機能が低下している可能性が低いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する(RAM312に記憶してもよい)。これにより、認知機能が低下している可能性の判定を補助する情報を医師などに提供できる。
【0182】
図5Cを参照して、判定装置100により実行される、認知機能が低下するリスク及び認知機能が低下している可能性の判定の処理手順を説明する。ここでは、マイクロプレート上のリポタンパク質に取り込まれた蛍光標識脂質から生じた蛍光シグナルに基づいて、認知機能が低下するリスク及び認知機能が低下している可能性の判定を行なう場合を例として挙げて説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0183】
ステップS301、S302及びS306は、それぞれ上記のステップS101、S102及びS106について述べたことと同様である。ここでは、測定値をハードディスク313に記憶する場合について説明する。CPU310は、ステップS303において、算出した測定値と、ハードディスク313に記憶された所定の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値未満であるとき、処理は、ステップS304に進行し、認知機能が低下するリスク及び認知機能が低下している可能性が高いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。測定値が所定の閾値以上であるとき、処理は、ステップS305に進行し、認知機能が低下するリスク及び認知機能が低下している可能性が低いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する(RAM312に記憶してもよい)。これにより、認知機能が低下するリスク及び認知機能が低下している可能性の判定を補助する情報を医師などに提供できる。
【0184】
図6を参照して、2つの所定の閾値を用いる認知機能が低下するリスクの判定の処理手順を説明する。ここでは、マイクロプレート上のリポタンパク質に取り込まれた蛍光標識脂質から生じた蛍光シグナルに基づいて、認知機能が低下するリスクの判定を行なう場合を例として挙げて説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0185】
ステップS401、S402及びS408は、それぞれ上記のステップS101、S102及びS106について述べたことと同様である。ここでは、測定値をハードディスク313に記憶する場合について説明する。CPU310は、ステップS403において、算出した測定値と、ハードディスク313に記憶された第1の閾値とを比較する。測定値が第1の閾値未満であるとき、処理は、ステップS404に進行し、被検者の認知機能が低下するリスクが高いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。測定値が第1の閾値以上であるとき、処理は、ステップS405に進行する。CPU310は、ステップS405において、算出した測定値と、ハードディスク313に記憶された第2の閾値とを比較する。測定値が第2の閾値以上であるとき、処理は、ステップS406に進行し、被検者の認知機能が低下するリスクが低いことを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。測定値が第2の閾値未満であるとき、処理は、ステップS407に進行し、被検者は経過観察を要することを示す判定結果をハードディスク313に記憶する(RAM312に記憶してもよい)。
【0186】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0187】
実施例1:取り込み量の測定系の構築
標識脂質と抗ApoE抗体を用いて、取り込み量を測定するための測定系を構築した。
【0188】
(1) 抗ApoE抗体を用いた取り込み量の測定
(1.1) 測定用プレートの準備(抗ApoE抗体の固相への固定化)
抗アポリポタンパク質抗体として市販の抗ApoE抗体(Biolegend社)を用いた。固相としての96ウェルマイクロプレート(蛍光測定用黒色プレートH、住友ベークライト株式会社)の各ウェルに50 mM Tris-HCl(pH 7.5)を200μlずつ添加して洗浄した。この洗浄操作を合計2回行った。各ウェルに、50 mM Tris-HCl(pH 7.5)及び5μg/ml抗ApoE抗体溶液を100μlずつ添加し、4℃にて一晩以上静置した。抗体溶液を除去し、各ウェルにPBSを200μlずつ添加して洗浄した。この洗浄操作を合計3回行った。各ウェルにStartingBlock(登録商標)(PBS) Blocking Buffer(Thermo Scientific社)を200μlずつ添加し、25℃にて600 rpmで2時間振とうした。
【0189】
(1.2) 固相上の抗ApoE抗体とリポタンパク質との複合体の形成と測定
(i) 測定用試料の調製(リポタンパク質とタグ付加コレステロールとの接触)
血液試料として、健常者から血液を取り、血清を調製した。この血清に対してApoE測定用キット(ニットボー社)を用いてApoE濃度を測定した。なお、濃度測定の具体的な操作は、該キットに添付のマニュアルに従って行った。測定後、各検体を希釈バッファー1(1% BSAを含むPBS)で希釈して、ApoE濃度が 0.28、0.57、1.13、2.8及び5.7μg/mlとなるようにリポタンパク質含有希釈液を調製した。また、リポタンパク質画分を含まない対照検体(ApoE濃度0μg/ml)として、希釈バッファー1を用いた。なお、PBSは、Phosphate buffered saline tablet (Sigma-Aldrich社)を水に溶解して調製した。
【0190】
反応バッファー(1.1% Pluronic F68 (Thermo Scientific社), 0.11 mM メチル-β-シクロデキストリン, 0.0011% リポソーム, 0.0033% ノニオンK-230, 0.366% リピジュア(登録商標) SF-08)に、0.1 mM Biotin-PEG7付加コレステロール(Biotin-PEG7付加コレステロールの調製方法についてはUS2017/0315112の実施例2及び4を参照)を終濃度が3.3μMとなるように添加した後、さらに上記のリポタンパク質含有希釈液を全体量の1/10の量で添加した。得られた混合物を室温にて1,000 rpmで30分振とうし、測定用試料とした。なお、反応バッファーに含まれるリポソームの組成は、139 nMジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、139 nMコレステロール及び278 nM水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)である。
【0191】
(ii) コレステロールを取り込んだリポタンパク質と抗ApoE抗体との複合体の形成
抗ApoE抗体を固定化したプレートからブロッキングバッファー(Starting Block、Thermo Scientific社)を除去し、各測定用試料を100μlずつウェルに添加した。そして、プレートを室温にて600 rpmで1時間振とうして、リポタンパク質と抗ApoE抗体との複合体を形成させた。
【0192】
(iii) リポタンパク質に取り込まれたコレステロールの量の測定
上記(ii)で調製したプレートにおいて、洗浄液(HISCL Line Washing Solution (シスメックス社), 138mM NaCl, 0.1% Pluronic F68)で3回洗浄し、Streptavidin, Alkaline Phosphatase conjugated (Vector 社) /希釈バッファー2 (0.1 M TEA, 10 mg/mL BSA, 5 mg/mL カゼインナトリウム, 1 mM MgCl2, 0.1 mM MnCl2) を100μlずつ各ウェルに添加し、該プレートを室温にて600 rpmで1時間振とうした。そして、洗浄液で5回洗浄し、発光基質(HISCL R4試薬及びHISCL R5試薬(シスメックス社)の1:2混合液)を100μlずつウェルに添加し30分間振とうして、化学発光強度をプレートリーダー(Infinite(登録商標)200 Pro、TECAN社)で測定した。
【0193】
(iv) 捕捉されたリポタンパク質の量の測定
上記(ii)で調製したプレートにおいて、洗浄液で3回洗浄し、ApoE測定用キットのヤギ抗ApoE血清をブロッキングバッファー(Starting Block、Thermo Scientific社)で3,000倍に希釈し、得られた希釈液を100μlずつ各ウェルに添加した。プレートを25℃にて600 rpmで1時間振とうした後、希釈液を除去して、各ウェルを洗浄液で3回洗浄した。HRP標識ウサギ抗ヤギIgGポリクローナル抗体(P0449、Dako社)をブロッキングバッファー(Starting Block、Thermo Scientific社)で3,000 倍に希釈し、得られた希釈液を100μlずつ各ウェルに添加した。プレートを25℃にて600 rpmで1時間振とうした後、希釈液を除去して、各ウェルを洗浄液で5回洗浄した。化学発光基質溶液(Super Signal ELISA Pico、37069、Thermo Scientific社)を100μlずつ各ウェルに添加した。プレートを25℃にて600 rpmで2分間振とうした後、発光量をマイクロプレートリーダー(Infinite(登録商標)F200 Pro、TECAN社)で測定した。
【0194】
(1.3) 測定結果
上記(iv)の測定結果より、上記(i)で調製したApoE濃度に応じた量のリポタンパク質をプレート上に捕捉できたことが分かった(図示せず)。すなわち、リポタンパク質画分含有希釈液中のApoE濃度と、上記(iv)で測定したリポタンパク質の捕捉量は、直線的な相関が認められた。図7に、リポタンパク質画分含有希釈液中のApoE濃度と、上記(iii)で測定したリポタンパク質によるコレステロール取り込み量の測定結果との関係を示した。図7から分かるように、検体中のApoE濃度(抗ApoE抗体によるリポタンパク質の捕捉量)と、リポタンパク質に取り込まれたコレステロールの量との間に高い相関が認められた。
【0195】
(2) ApoE遺伝子型間の活性評価
上述のように、ApoEの遺伝子型によって細胞からのコレステロールの引き抜き能がApoE2>ApoE3>ApoE4の順に低くなることが知られている。リコンビナントApoEタンパク質及び抗ApoEを用いた取り込み量の測定により、そのような違いを評価できるか否かを検証した。
【0196】
(2.1) リコンビナントApoEの調製
3種のリコンビナントタンパク質ApoE2、ApoE3及びApoE4(いずれも富士フイルム和光純薬社より購入)を用いた。リコンビナントApoE2、ApoE3及びApoE4のそれぞれを、6 M グアニジン塩酸塩及び1 mMジチオスレイトール(DTT)により変性処理後、0.5 mM DTTを含むPBS中で透析した。リフォールディング後のApoE濃度が1μg/mlになるように調整し、各リコンビナントApoEを含む希釈液を得た。対照として、リコンビナントApoEを添加しなかった希釈液を用いた。得られた各リコンビナントApoE希釈液を、上記(1.2)と同様にして測定した。
【0197】
(2.2) 測定結果
取り込み量の測定結果を図8に示す。図中、「none」は、リコンビナントApoEを添加しなかった希釈液を示す。図8に示されるように、取り込み量は、リコンビナントApoE2を添加した場合が最も高かった。また、リコンビナントApoE3を添加した場合は、リコンビナントApoE4を添加した場合よりも取り込み量が高かった。この結果は、J Neurochem. 2000 Mar:74(3):1008-16の報告と合致する。このことから、本実施形態の抗ApoE抗体を用いたリポタンパク質の標識脂質の取り込み量の測定により、ApoEの遺伝子型の違いを評価できることが示された。ApoE遺伝子型は、認知機能に関するリスク因子であることが知られている。よって、ApoE遺伝子型と相関する本実施形態の上記測定法は、リスク因子の測定法として用いることが可能であることが示された。
【0198】
実施例2:臨床検体の評価
実施例2では、患者由来の検体を用いて認知機能に関する情報が得られるか否かを検証した。
【0199】
(1) 被検者情報
認知機能が正常な被検者(Cognitively Health:CH)8名、軽度認知機能異常を示す被検者(MCI)8名及びアルツハイマー型認知症の被検者(AD)8名から血液及びCSFを採取して、生体試料として用いた。各被検者グループの情報は、以下の表1のとおりであった。
【0200】
【表1】
【0201】
(2) ApoEリポタンパク質の機能評価
上記(1)の被検者から得た血液から血清を調製して、取り込み量と認知機能異常との相関性を検証した。
【0202】
測定結果
被検者から得た血清を上記(1.2)と同様にして測定し、得られた取り込み量の測定結果を図9に示す。図9では、CH群の取り込み量を100%として、MCI群及びAD群の取り込み量の程度を示している。図9に示されるように、CH群とMCI群の間、及びCH群とAD群との間で取り込み量に有意差が認められた。一方で、同じ被検者から得た血清を上記(1.2)(iv)と同様にして測定した際のApoEリポタンパク質の捕捉量を図10に示す(CH群の捕捉量を100%として、MCI群及びAD群の捕捉量を示している)。図10に示されるように、捕捉量では、CH群とMCI群との間、及びCH群とAD群との間で有意差が認められなかった。これらのことから、本実施形態の抗ApoE抗体を用いた取り込み量測定法によって、血液試料中の取り込み量を測定することで、認知機能(特にアルツハイマー病による認知機能)に関する情報を取得できることが示唆された。
【符号の説明】
【0203】
10、20、30: 試薬キット
11、21、31: 第1容器
12、22、32: 第2容器
23: 第3容器
24: 第4容器
25: 第5容器
26: 第6容器
13、27、33: 梱包箱
14、28、34: 添付文書
35: 固相(96ウェルマイクロプレート)
100: 判定装置
200: 測定装置
300: コンピュータシステム
301: コンピュータ本体
302: 入力部
303: 表示部
310: CPU
311: ROM
312: RAM
313: ハードディスク
314: 入出力インターフェイス
315: 読取装置
316: 通信インターフェイス
317: 画像出力インターフェイス
318: バス
400: 記録媒体
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10