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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】アンテナおよび無線装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/24 20060101AFI20240415BHJP
   H01Q 1/48 20060101ALI20240415BHJP
   H01Q 21/26 20060101ALI20240415BHJP
   H01Q 9/04 20060101ALI20240415BHJP
   H01Q 1/24 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
H01Q3/24
H01Q1/48
H01Q21/26
H01Q9/04
H01Q1/24 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020011043
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021118458
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 優
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/056476(WO,A1)
【文献】特開平07-288423(JP,A)
【文献】特開2006-245868(JP,A)
【文献】特表2003-528533(JP,A)
【文献】特開2008-187485(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105500(WO,A1)
【文献】特開2016-208223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/24
H01Q 1/48
H01Q 21/26
H01Q 9/04
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナであって、
無線信号の入出力を行う入出力点と、
第一のグランドおよび第一の放射手段から構成された第一の領域と、
第二のグランドおよび第二の放射手段から構成され、前記第一のグランドが配置される平面と垂直の方向から見た場合に前記第一の領域と重なるよう配置される第二の領域と、
前記第一の領域のグランドと前記第二の領域のグランドとを接続する導体と、
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれを前記入出力点に接続するかを切り替え可能な切替手段と、
を備え、
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段の少なくともいずれかは、複数のアンテナ素子を有し、
前記入出力点と電気的に接続されない前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれかは、グランドとして機能することを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記第一の放射手段は、前記入出力点と接続された場合に、前記第一の放射手段から前記第二の領域の方向とは異なる方向にメインローブを有する電磁波を放射し、
前記第二の放射手段は、前記入出力点と接続された場合に、前記第二の放射手段から前記第一の領域の方向とは異なる方向にメインローブを有する電磁波を放射することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記第一の領域は第一の基板に配置され、前記第二の領域は第二の基板に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記複数のアンテナ素子は、前記第一のグランドおよび前記第二のグランドの少なくともいずれかの周囲を囲むように配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記複数のアンテナ素子の少なくともいずれかは、
前記第一のグランドまたは前記第二のグランドに接続される接地点と、
前記切替手段と接続される給電点と、
を有し、
前記入出力点と接続されない前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれかが有する前記複数のアンテナ素子の給電点は開放されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項6】
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段は、同じ数の複数のアンテナ素子を含み、
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のそれぞれと前記切替手段との間に配置され、前記切替手段からの無線信号を前記複数のアンテナ素子の数に分岐させる分岐手段と、
前記分岐手段と前記複数のアンテナ素子の少なくともいずれかとの間に配置された移相手段であって、前記複数のアンテナ素子の数の分岐の少なくとも1つに位相シフトを与える移相手段をさらに有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項7】
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段は、同じ数の複数のアンテナ素子を含み、
前記入出力点と前記切替手段との間に配置され、前記入出力点からの無線信号を前記複数のアンテナ素子の数に分岐させる分岐手段と、
前記分岐手段と前記入出力点との間に配置された移相手段であって、前記複数のアンテナ素子の数の分岐の少なくともいずれかに位相シフトを与える移相手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項8】
前記移相手段は、前記複数のアンテナ素子の数をnとした場合に、前記複数のアンテナ素子のそれぞれと前記入出力点との間の位相の差が360/n度の整数倍となるよう位相シフトを与えることを特徴とする請求項6または7に記載のアンテナ。
【請求項9】
前記切替手段は、前記第一の領域に配置されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項10】
前記第一の領域と前記第二の領域との間に配置され、前記切替手段が配置される第三の基板をさらに有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項11】
前記第一の領域と前記第二の領域は、設計周波数の波長λに対してλ/8以下の距離で離間することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項12】
前記第一の領域と前記第二の領域は、多層基板の異なるレイヤに配置されることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項13】
前記入出力点と接続されない前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれかは、前記第一のグランドおよび前記第二のグランドと接続されることでグランドとして機能することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項14】
無線装置であって、
無線信号の送受信を行う送受信手段と、
第一のグランドおよび第一の放射手段から構成された第一の領域と、
第二のグランドおよび第二の放射手段から構成され、前記第一のグランドが配置される平面と垂直の方向から見た場合に前記第一の領域と重なるよう配置される第二の領域と、
前記第一の領域のグランドと前記第二の領域のグランドとを接続する導体と、
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれを前記送受信手段に接続するかを切り替え可能な切替手段と、
所定の条件に基づいて前記切替手段を制御する制御手段と、
を含み、
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段の少なくともいずれかは、複数のアンテナ素子を有し、
前記送受信手段と接続されない前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれかは、グランドとして機能することを特徴とする無線装置。
【請求項15】
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段に無線信号を入力した場合の反射電力の大きさに対応する値を検出する検出手段をさらに有し、
前記所定の条件は、前記送受信手段と接続している前記第一の放射手段と前記第二の放射手段とのいずれかに無線信号を入力した場合の前記値が閾値を超えたことを含むことを特徴とする請求項14に記載の無線装置。
【請求項16】
前記所定の条件は、前記送受信手段と接続している前記第一の放射手段と前記第二の放射手段とのいずれかに無線信号を入力した場合の前記値が閾値を超えないことをさらに含むことを特徴とする請求項15に記載の無線装置。
【請求項17】
前記所定の条件は、
前記所定の条件は、前記送受信手段と接続している前記第一の放射手段と前記第二の放射手段とのいずれかに無線信号を入力した場合に前記検出手段が検出した前記値が閾値を超えることと、
前記送受信手段と接続している前記第一の放射手段と前記第二の放射手段とのいずれかに対応する前記値より、前記送受信手段と接続している前記第一の放射手段と前記第二の放射手段とのいずれかに対応する前記値の方が小さいことと、を含むことを特徴とする請求項15または16に記載の無線装置。
【請求項18】
前記無線装置は、前記第一の放射手段または前記第二の放射手段のいずれかの近傍に位置する物体を検出するセンサをさらに有し、
前記所定の条件は、前記センサで前記物体を検出したことを含むことを特徴とする請求項14から17のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項19】
前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれに前記送受信手段を接続しているかを指し示す接続設定を記憶するメモリをさらに備え、
前記制御手段は、
前記送受信手段による送信の前に前記メモリから前記接続設定を読み出し、
前記送受信手段による送信の後に前記メモリへ前記接続設定を書き込むことを特徴とする請求項14から18のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項20】
前記制御手段は、前記第一の放射手段および前記第二の放射手段の少なくともいずれかを介して受信した制御信号に基づいて前記切替手段を制御することを特徴とする請求項14から19のいずれか1項に記載の無線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にアンテナおよび無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広いグランド面上にアンテナ素子を配置し、グランド面に対して垂直方向に指向性を持たせるアンテナ設計方法がある。グランド面の反対側へは放射せず、またグランド面で隔てられることでアンテナ素子と反対側の構造は放射特性に影響を与えないという利点がある。また、上記利点を生かし、人体への近接や、金属面などに設置しても使用可能な無線通信システムも提案されており、人体装着型のウェアラブル無線システム等、様々なユースケースが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-27416号公報
【文献】特開2016-208223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアンテナは、電力分配回路を設けた基板と、基板から離間した位置に並んで配置された複数のエレメント(アンテナ素子)から構成され、放射方向は基板からエレメントを挟んだ方向となる。特許文献1に記載のアンテナを人体に装着する場合、エレメントが人体側となるよう装着してしまう場合があり、誘電体の近接によってエレメントの放射特性が劣化するだけでなく、電磁波そのものが人体に遮蔽されるため、人体から離れる方向には放射しない。
【0005】
特許文献2に記載のアンテナは、グランドとグランドを囲む逆F型のアンテナ素子が複数個、基板に一体で構成され、放射方向は基板を貫く垂直方向となる。特許文献2に記載のアンテナを金属製の机に天板と平行となるよう設置した場合、導電体の近接によってアンテナ素子の放射特性が劣化するため、天板と正対する方向には放射しない。
【0006】
このように、導電体または誘電体の近接によって、無線装置の通信距離が短くなる場合があり、このような場合におけるアンテナの放射性能の改善が課題であった。
【0007】
そこで本発明は、無線装置の近傍に誘電体や導電体が位置する場合であっても、放射性能が劣化しにくいアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のような課題を解決するため、本発明に係るアンテナの一態様は、アンテナであって、無線信号の入出力を行う入出力点と、第一のグランドおよび第一の放射手段から構成された第一の領域と、第二のグランドおよび第二の放射手段から構成され、前記第一のグランドが配置される平面と垂直の方向から見た場合に前記第一の領域と重なるよう配置される第二の領域と、前記第一の領域のグランドと前記第二の領域のグランドとを接続する導体と、前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれを前記入出力点に接続するかを切り替え可能な切替手段と、を備え、前記第一の放射手段および前記第二の放射手段の少なくともいずれかは、複数のアンテナ素子を有し、前記入出力点と接続されない前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれかは、グランドとして機能する。
【0009】
また、上述のような課題を解決するため、本発明に係る無線装置の一態様は、無線装置であって、無線信号の送受信を行う送受信手段と、第一のグランドおよび第一の放射手段から構成された第一の領域と、第二のグランドおよび第二の放射手段から構成され、前記第一のグランドが配置される平面と垂直の方向から見た場合に前記第一の領域と重なる第二の領域と、前記第一の領域のグランドと前記第二の領域のグランドとを接続する導体と、前記第一のアンテナおよび前記第二のアンテナのいずれを前記送受信手段に接続するかを切り替え可能な切替手段と、所定の条件に基づいて前記切替手段を制御する制御手段と、を含み、前記第一の放射手段および前記第二の放射手段の少なくともいずれかは、複数のアンテナ素子を有し、前記送受信手段と接続されない前記第一の放射手段および前記第二の放射手段のいずれかは、グランドとして機能する。

【発明の効果】
【0010】
本発明により、無線装置の近傍に誘電体や導電体が位置する場合であっても、放射性能が劣化しにくいアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1に係るアンテナの一例を示す図。
図2】実施例1に係るアンテナの機能ブロック。
図3】実施例1に係るアンテナの基板Aの上方図および下方図。
図4】実施例1に係るアンテナの基板Bの上方図および下方図。
図5】実施例1に係るアンテナの動作シーケンス図。
図6】実施例1に係るアンテナの動作例を示す図。
図7図6に示す動作例におけるアンテナの放射特性を示す図。
図8図3および図4に示す基板A及び基板Bの他の実施例を示す図。
図9図2に示す機能ブロックの他の実施例を示す図。
図10図9に示すアンテナの基板C及び基板Dの上方図および下方図。
図11】実施例2に係るアンテナの一例を示す図。
図12図11に示すアンテナの基板Eの上方図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<実施例1>
本実施例におけるアンテナとして動作する無線装置1の構成を図1に示す。以降、図中で同じ塗りつぶしパターンの部分は指示のない限り同様の機能を有しているものとする。また、図示していない機能や実装部品であっても、同様の効果が得られる全ての構成は本実施例中に含まれる。
【0014】
無線装置は基板101及び基板102を含み、基板の厚み方向であるZ軸方向に略平行に重ねて構成される。基板101及び基板102は中央部分にグランド103及びグランド104をそれぞれ有し、グランド103および104は、複数の導通部(導体)105によって同電位としている。なお、図1の例では、基板101および基板102は異なる基板であるものとして説明するが、多層基板の異なるレイヤ上に実装されてもよい。
【0015】
基板101はグランド103を囲むように配置した4つのアンテナ素子(放射部)106を有する。逆F型アンテナの接地端(接地点)はグランド103に電気的に接続され、信号を送受信する給電端(給電点)は給電部107に電気的に接続される。アンテナ素子106は+X方向、+Y方向、-X方向、-Y方向にそれぞれ延伸し、開放端の向きが90度ずつ異なるように配置される。
【0016】
同様に、基板102はグランド104を囲むように配置したアンテナ素子108を4つ備え、4つのアンテナ素子108は同形状の逆F型アンテナである。逆F型アンテナの接地端はグランド104と導通し、信号を送受信する給電端は給電部109に接続する。アンテナ素子108は+X方向、+Y方向、-X方向、-Y方向にそれぞれ延伸し、開放端の向きが90度ずつ異なるように配置する。なお、アンテナ素子106及びアンテナ素子108の延伸方向は、逆回り、すなわち図1のアンテナを左右反転させた配置であってもよい。
【0017】
なお、本実施例において、基板101と基板102とは、λ/4以下、例えばλ/8以下の距離で離間する。これによって、無線装置1のZ方向のサイズを小さくすることができる。しかしながら、別の例では、例えばλ/4以上の距離で離間してもよい。これによって、基板101のアンテナ素子と基板102のアンテナ素子とが結合することを防ぐことができ、容易にアンテナの設計を行うことができる。なお、本実施例において、アンテナ素子106および108は同形状の逆F型アンテナであるものとして説明を行うが、モノポールアンテナ、パッチアンテナ、導波管アンテナ、およびスロットアンテナの少なくともいずれかが適用されてもよい。
【0018】
続いて、本実施例に係る無線装置1の機能ブロックを図2に示す。図中において、図1で示した基板101は基板Aに、基板102は基板Bに対応する。また、実線はアンテナが電磁波を放射する周波数帯域のRF信号が通過する経路、点線は特定の機能を制御する信号や情報のやりとりを行う信号が通過する経路、破線は特定の機能や名称を示す。
【0019】
無線装置1からのRF信号の送信時に、送受信部201から送信されたRF信号は、切替部202によって経路aか経路bのいずれかに出力される。RF信号が経路aに出力される場合、RF信号は移相部203において4つに分配され、分配された4つのRF信号は位相をそれぞれ0度、90度、180度、270度回転され、アンテナ素子205である基板Aアンテナ1、2、3、4に出力される。
【0020】
同様に、RF信号が経路bに出力される場合、RF信号は移相部204において4つに分配され、分配された4つのRF信号は位相をそれぞれ0度、90度、180度、270度回転され、アンテナ素子206である基板Bアンテナ1、2、3、4に出力される。
【0021】
検出部207は、経路a及びbの特性インピーダンスをモニタリングし、モニタリングしている経路の特性インピーダンスの変化量が閾値を上回った場合に、誘電体や導電体の近接を通知する信号を制御部208へ送信する。ここで、経路aの特性インピーダンスは、経路aおよび経路aに接続されたアンテナを含む特性インピーダンスである。特性インピーダンスは、アンテナ素子205やアンテナ素子206に誘電体や導電体が近接することで増減するため、変化量は方向性結合器などを用いて反射波の電力(反射電力)を測定することで判定可能である。すなわち、検出部207は、反射電力に基づいて誘電体や導電体の近接を検出し、制御部208に通知する。
【0022】
なお、一例では、検出部207から制御部208へは、経路aの特性インピーダンスの変化量と経路bの特性インピーダンスの変化量とのいずれが小さいかを示す信号が送信されてもよい。あるいは、経路aおよび経路bの特性インピーダンスの変化量から、どちらの経路を使用するべきかを示す信号であってもよい。また、別の例では、検出部207は、経路aおよび経路bの少なくとも何れかの特性インピーダンスの値または特性インピーダンスの変化量を示す信号を制御部208に送信し、制御部208が何れの経路を使用するかを判定してもよい。
【0023】
なお、一例では、検出部207は、照度センサ、重力センサ、地磁気センサ、加速度センサ、および静電容量センサを少なくとも含むセンサを有し、センサから取得した値によって物体の近接を知らせる信号を制御部に通知してもよい。例えば、基板Aおよび基板Bに配置された照度センサから、基板A側の照度の方が低く、重力センサから、基板Aが地面側を向いていると判定した場合、検出部207は、無線装置が基板A側を下に向けて置かれたことを検知しうる。これによって、制御部208は地面側に向いていない基板Bを用いて無線信号の送受信を行うことができ、放射性能の劣化を防ぐことができる。
【0024】
制御部208は、検出部207から受け取った信号に基づいて切替部202を制御し、合わせて制御結果を記憶部209に書き込む。切替部202の制御処理については図5を参照して後述する。なお、無線装置1が電磁波を受信する場合は、RF信号が通過する経路が送信時と逆順となるだけで各ブロックにおける機能は変化しない。即ち、アンテナ素子205またはアンテナ素子206で受信したRF信号は、制御部208によって選択された経路aおよび経路bの少なくともいずれかを通じて送受信部201に入力される。
【0025】
次に、図2に記載した基板Aの実施例を図3に示す。基板Aの表層301は、グランド302及びアンテナ素子303、RF線路304を備え、アンテナ素子303の接地端はグランド302と接続され、アンテナ素子303の給電端はRF線路304と接続点(α、β、γ、δとする)と接続される。接続点α、β、γ、δは、アンテナ素子303にとってはRF信号の入出力点として機能する。RF線路304は、グランド302、並びに後述するグランド308およびビア309と併せて、マイクロストリップラインとして動作する。なお、図3では、アンテナ素子303とRF線路304との説明を容易にするために接続点を使用して説明しているが、接続点は導電体上の点であるため、実際には確認できなくてもよい。
【0026】
基板Aの裏層307は、グランド308及びRF線路304、実装部品310~312を備え、グランド308はビア309によってグランド302と接続される。RFスイッチ310はSPDT(Single-Pole Double-Throw)構造であって、Pole側にRF信号を送受信する無線IC311が接続され、Throw側の一方にRF線路313が、他方にRFコネクタ312が接続される。基板Aの表層301の接続点306(ξとする)と、基板Aの裏層307の接続点314とはビアによって接続される。RF線路313は、無線IC311と接続点314とを接続する。RFスイッチ310を検出部(非図示)及び制御部(非図示)によって切り替えることで、無線IC311をビア306とRFコネクタ312のどちらかに接続する。
【0027】
RF線路304は、各接続点(α、β、γ、δ)と接続点306(ξ)とを電気的に接続する。RF線路304の線路長は、無線装置の設計周波数におけるRF信号の波長λとξ-α間の線路長L0を用いて、L0+λ/4(ξ-β間)、L0+2λ/4(ξ-γ間)、L0+3λ/4(ξ-δ間)と表せる。設計周波数のRF信号が線路長λ/4の信号線を伝搬する場合、信号の位相は90度回転するため、無線装置の送信動作において、ξに入力したRF信号は各接続点(α、β、γ、δ)において、0度、90度、180度、270度回転して出力される。このため、4つのアンテナ素子303から放射される電磁波を合成したもの(合成波)は円偏波特性を備える。
【0028】
なお、移相部305でRF信号に与えられる位相差の順番は問わず、逆回りの場合は、接続点ξに入力されたRF信号は各接続点(α、β、γ、δ)において、0度、270度、180度、90度回転して出力される。この場合も4つのアンテナ素子303からの合成波は円偏波特性を備える。
【0029】
また、本実施形態では、アンテナ303は、基板301の表層に配置されるものとして説明したが、図3の例において、アンテナ303を基板301の裏層に配置してもよい。また、基板Aを2層基板として示しているが、多層基板の異なるレイヤに実装され、移相部305を多層基板のいずれかのレイヤに設けても良い。
【0030】
次に、図2の無線装置の基板Bの実施例を図4に示す。基板Aと同様に、基板Bの表層401は、グランド402及びアンテナ素子403、RF線路404を備え、アンテナ素子403の接地端はグランド402と接続し、アンテナ素子403の給電端はRF線路404と接続する。移相部405において、アンテナ素子403と接続点406とを結ぶRF線路404は、反時計回りにλ/4ずつ線路長を長くしている。
【0031】
基板Bの裏層407は、グランド408及びRF線路404、実装部品であるRFコネクタ410を備え、グランド408はビア409によってグランド402と接続される。RF線路411は、RFコネクタ410と接続点406とを接続する。なお、基板AのRFコネクタ312と基板BのRFコネクタ410とは、同軸ケーブル(非図示)で接続される。
【0032】
無線装置1が無線信号を送信する場合、接続点406から移相部405に入力されたRF信号は、RF線路404によって0度、90度、180度、270度回転してアンテナ素子403に入力される。このため、4つのアンテナ素子403からの合成波は図3を参照して説明したものと同様に円偏波特性を備える。なお、基板Aと同様に、移相部405で与える位相差の順番は問わない。また、図3の例と同様に、図4の例においても、アンテナ403は、基板401の表層に配置されるものとして説明したが、アンテナ403を基板401の裏層に配置してもよい。また、基板Bを2層基板として示しているが、多層基板として移相部405を内層に設けても良い。
【0033】
次に、図2に示す無線装置のフローチャートを図5に示す。図5に示すフローチャートは、無線処理へ電源が投入された場合に制御部208または検出部207によって実行される。無線装置が動作を開始すると、制御部208は記憶部209から初期設定を読み込み、切替部202を制御する(S501)。初期設定は、切替部202の初期経路の設定情報、および制御部208が基板に誘電体または導電体が近接していると判定するために使用する経路の特性インピーダンスの変化量などに関する情報の少なくとも何れかを含む。続いて、送受信部201が信号の送受信を開始すると、送受信が完了するまで、以下のS502~S509の近接の検出と切り替えの制御を繰り返し実行する。
【0034】
S502では、検出部207から取得した信号に基づいて、制御部208は基板Aへの誘電体や導電体などの近接があるか否かを判定する。S502における近接検知は、制御部208が切替部202を切り替えるように制御するための所定の条件のうちの1つである。制御部208が基板Aへの誘電体や導電体などの近接がないと判定した場合(S502でN)、制御部208は処理をS505に進め、切替部202を制御してRF信号の出力先を経路aに設定する。基板Aへの誘電体や導電体などの近接があると制御部208が判定した場合(S502でY)、制御部208は処理をS504に進め、検出部207から取得した信号に基づいて、基板Bへの誘電体や導電体などの近接があるかを判定する。制御部208が誘電体や導電体などの近接がないと判定した場合(S504でN)、制御部208は処理をS507に進め、切替部202を制御してRF信号の出力先を経路bに設定する。
【0035】
制御部208が基板A及び基板Bの両方に近接があると判定した場合(S504でY)、制御部208は処理をS508に進め、基板A及び基板Bの近接度を比較する。一例では、近接度は、それぞれの経路aおよびbの特性インピーダンスの変化量であってもよい。基板Bの近接度より基板Aの近接度の方が大きくないと制御部208が判定した場合(S506でN)、制御部208は切替部202を制御してRF信号の出力先を経路aに設定する(S507)。一方、基板Bの近接度より基板Aの近接度の方が大きいと判定した場合(S506でY)、制御部208は切替部202を制御してRF信号の出力先を経路bに設定する(S508)。
【0036】
S503、S505、S507、またはS508の処理の後、制御部208は処理をS509に進め、送受信が完了したか否かを判定する。送受信が完了していないと制御部208が判定した場合(S509でN)、制御部208は処理をS502に戻す。一方、送受信が完了したと制御部208が判定した場合(S509でY)、制御部208は最後に設定した経路に関する接続設定を記憶部209に書き込み(S510)、図5の動作を終了する。
【0037】
なお、本動作シーケンスは一例であって、S502、S504、およびS506の何れかを実施するのみでも良いし、処理の順序を入れ替えても良い。
【0038】
図5のフローチャートに従って動作する図1の無線装置の動作例を図6に示す。図6(A)は-Z方向、即ち、基板102の下方に、誘電体601が近接した状態であり、この場合は図5のS503及びS507で説明したように、RF信号の出力先は基板A(+Z方向)に設定される。S503及びS507では、アンテナ素子106の給電点は給電部107に接続するものの、アンテナ素子108の給電端は開放となり、接地端によってグランド104とアンテナ素子108がほぼ同電位となる。このため、アンテナ素子106に対して、グランド103に加えて、導通部105で接続されたグランド104及びアンテナ素子108がグランドとして機能する。Z軸方向に見てアンテナ素子106と誘電体601の間にグランドが挟まることで、誘電体601によるアンテナ素子106の放射性能への影響を抑え、アンテナ素子106の指向性を+Z方向に向けながら円偏波特性を維持することが可能となる。
【0039】
図6(B)は+Z方向、即ち、基板101の上方に誘電体602が近接した状態であり、この場合は図5のS505及びS508で説明したように、RF信号の出力先は基板B(-Z方向)に設定される。S505及びS508では、アンテナ素子108の給電端は給電部109に接続するものの、アンテナ素子106の給電端は開放となり、接地端によってグランド103とアンテナ素子106がほぼ同電位となる。そのため、アンテナ素子108に対して、グランド104に加えて、導通部105で接続されたグランド103及びアンテナ素子106がグランド面として機能する。Z軸方向に見てアンテナ素子108と誘電体602の間にグランド面が挟まることで、誘電体602によるアンテナ素子108の放射性能への影響を抑え、アンテナ素子108の指向性を-Z方向に向けながら円偏波特性を維持することが可能となる。
【0040】
これによって、例えば本無線装置を人体に装着する場合であっても、誘電体の近接によらず人体から離れる方向に放射することが可能となる。また、本アンテナを金属製の机に天板と平行となるよう設置する際に、導電体の近接によらず天板から離れる方向に放射することが可能となる。ここで、誘電体601及び誘電体602は、人体を想定しているが、特性インピーダンスに影響を与える材質であれば良く、金属などの導電体に対しても同様に機能することができる。
【0041】
図6(A)及び図6(B)の920MHzにおける放射特性を図7(A)及び図7(B)に示す。ここで、基板101及び基板102は基板厚が1mm、比誘電率が4.3であり、基板101と基板102との間隔は10mmであり、誘電体601及び誘電体602は厚みが200mm、比誘電率が40であり、逆F型アンテナの素子長は約λ/4である。また、図7(A)において基板102と誘電体601との間隔は3mmであり、図7(B)において基板101と誘電体602との間隔は3mmである。
【0042】
図7(A)においては+Z方向に、図7(B)においては-Z方向に最も強い電界強度である、すなわち、図7(A)は+Z方向に、図7(B)は-Z方向にメインローブ(主ビーム)が向いていることがわかる。ここから、誘電体から離れる方向に電磁波を放射していることがわかる。また、図7(A)および図7(B)において水平偏波成分と垂直偏波成分が同程度に放射していることから、どちらの配置であっても円偏波特性を備えていることがわかる。なお、ここで示した基板の形状、材質やアンテナサイズは一例であって、アンテナ素子の周囲への高誘電体の封入、樹脂との一体成型、および基板間の支持部材と導通部の共用化など、同様の効果が得られる全ての変形例は本実施例中に含まれる。例えば、基板間の支持部材と導通部を共用化する場合は、導通部105は金属柱であり、基板間の固定部材としても機能する。また、基板101と基板102に分離せず、アンテナ素子106及びアンテナ素子108、グランド103、およびグランド104といった構成要素を多層基板中に設けても良い。この場合、導通部105は層間を接続するビアによって構成することができる。
【0043】
続いて、基板A及び基板Bの他の構成例を図8に示す。基板A及び基板Bの表層801は、グランド802及びアンテナ素子803、RF線路804を備える。
【0044】
アンテナ素子803の接地端はグランド802と接続し、グランド802は裏層(非図示)に導通するビア805を備え、アンテナ素子803の給電端はRF線路804と接続点(α、β、γ、δとする)で接続する。RF線路804はコプレナ線路またはグランド付きコプレナ線路として動作する。
【0045】
移相部806は内部を通過するRF信号にn×π/2度(nは整数)の位相差を与えることが可能な実装部品であり、ビアを介して裏層(非図示)に導通する接続点807(ξとする)と各接続点(α、β、γ、δ)にRF線路804を通じて接続する。無線装置が電磁波を放射する場合、接続点ξに入力したRF信号は各接続点(α、β、γ、δ)において、0度、90度、180度、270度回転して出力される。これによって、4つのアンテナ素子803から放射される電磁波の合成波は円偏波特性を備える。なお、移相部806で与える位相差の順番は変更されてもよい。例えば、接続点ξに入力したRF信号は各接続点(α、β、γ、δ)において、0度、270度、180度、90度回転して出力されてもよく、この場合にも4つのアンテナ素子803からの合成波は円偏波特性を備える。
【0046】
なお、本無線装置は、例えばRFID(Radio Frequency Identifier)やGPS(Global Positioning System)、Wi-FiやLTE(Long Term Evolution)などの無線通信システムにも適用可能である。
【0047】
以上説明したように、実施例1に係る無線装置は、基板の近傍に誘電体や導電体が位置する場合に、基板のどちらの面により近接しているかを判定し、判定に基づいて電磁波の送受信を行う基板を決定する。これによって、無線装置の近傍に誘電体や導電体が位置する場合であっても、放射性能の劣化を抑えることができる。
【0048】
<実施例2>
実施例1では、送受信部から出力されたRF信号を切替部でいずれかの基板に出力し、それぞれの基板ごとにRF信号に位相シフトする構成について説明した。実施例2では、送受信部から出力されたRF信号を4つに分配し、移相器で分配したRF信号のそれぞれを移相した後、移相した4つのRF信号のそれぞれに対して切替部でいずれかの基板に出力を切り替える構成について説明する。なお、実施例1と同様の構成、機能、または処理については同様の参照符号を使用し、説明を省略する。
【0049】
本実施例における無線装置の機能ブロックを図9に示す。図中において、図1で示した基板101が基板Cに、基板102が基板Dに対応するものとして説明を行う。すなわち、基板Cは、Z軸方向で基板Dの上方で、基板Dと略平行になるように配置される。無線装置からのRF信号の送信時に、送受信部901から出力されたRF信号は移相部902を経て、4つに分配されて4つの切替部903にそれぞれ入力される。移相部902では、入力されたRF信号を4つに分配した上で位相をそれぞれ0度、90度、180度、270度回転させ、4つの切替部903に出力する。
【0050】
切替部903では、入力されたRF信号を経路cか経路dのいずれに出力するかを切り替える。経路cは、移相部902からの出力信号をそれぞれアンテナ素子904である基板Cアンテナ1、基板Cアンテナ2、基板Cアンテナ3、基板Cアンテナ4に出力するためのRF線路である。一方、経路dは、移相部902からの出力信号をそれぞれアンテナ素子905である基板Dアンテナ1、基板Dアンテナ2、基板Dアンテナ3、基板Dアンテナ4に出力するためのRF線路である。
【0051】
検出部906は、経路c及びdの特性インピーダンスをモニタリングし、モニタリングしている経路の特性インピーダンスの変化量が閾値を上回った場合に、誘電体や導電体の近接を通知する信号を制御・記憶部907に通知する。ここで、経路cの特性インピーダンスは、経路cおよび経路cに接続されたアンテナを含む特性インピーダンスである。検出部906は、基板Cのアンテナ1からアンテナ4のうちの少なくとも1つ、及び基板Dのアンテナ1からアンテナ4のうちの少なくとも1つのアンテナの特性インピーダンスをモニタリングする。制御・記憶部907は検出部906が通知した情報を元に切替部903を制御し、その制御結果を保持する。
【0052】
次に、図10(A)に基板Cの上方図を、図10(B)に基板Dの上方図を示す。基板Cの表層1001には、グランド1002、アンテナ素子1003、およびRF線路1004が配置される。アンテナ素子1003の接地端はグランド1002と接続し、グランド1002は、裏層(非図示)に導通するビア1005を備え、アンテナ素子1003の給電端はRF線路1004と接続する。
【0053】
移相部1006は入力されたRF信号を分岐し、n×90度(nは整数)の位相差を与えることが可能な実装部品であり、図10(A)の例では入力されたRF信号を4つに分岐し、それぞれに0度、90度、180度、270度の位相シフトを与える。移相部1006からの4つの出力信号が4つのアンテナ素子1003に入力されると、合成波として円偏波特性を備える。一例では、移相部1006は可変移相器であってもよい。各RF線路1004は、移相部1006からアンテナ素子1003の間に1入力2出力の切替部1008を備え、切替部1008の入力側はRF線路1004に接続される。切替部1008の出力は、一方がアンテナ素子1003に、他方がRFコネクタ1009に接続される。
【0054】
基板Dの表層1010は、グランド1011及びアンテナ素子1012、RF線路1013を備える。アンテナ素子1012の接地端はグランド1011と接続し、グランド1011は裏層(非図示)に導通するビア1014を備え、アンテナ素子1012の給電端はRF線路1013を通じてRFコネクタ1015と接続する。本実施例において、基板CのRFコネクタ1009と基板DのRFコネクタ1015とは、同軸ケーブル(非図示)で接続されるものとして説明を行うが、RFコネクタ1009および1015が電気的に接続されれば他の構成が採用されてもよい。一例では、基板CおよびDが多層基板で実装される場合は、RFコネクタ1009および1015はビアによって接続される接続点であってもよい。
【0055】
本実施例においても、図5を参照して説明した実施例1の放射切り替えに関するフローチャートを適用可能であるため、説明を省略する。
【0056】
-Z方向である基板Dの下方に誘電体または導電体が近接して位置する場合、切替部1008はRF線路1004とアンテナ素子1003を接続し、RFコネクタ1009側を開放とする。この場合、基板D上のアンテナ素子1012は接地端によってグランド1011及びグランド1002とほぼ同電位となることで、アンテナ素子1003に対してグランド面として機能する。これによって、アンテナ素子1003の指向性を+Z方向に向けながら、-Z方向に近接して位置する誘電体または導電体の有無に関わらず円偏波特性を維持することが可能となる。
【0057】
一方、+Z方向である基板Cの上方に誘電体または導電体が近接して位置する場合、切替部1008はRF線路1004とRFコネクタ1009を接続し、アンテナ素子1003を開放とする。アンテナ素子1003は接地端によってグランド1002及びグランド1011とほぼ同電位となることで、アンテナ素子1012に対してグランド面として機能する。これによって、アンテナ素子1012の指向性を-Z方向に向けながら、+Z方向に近接して位置する誘電体または導電体の有無に関わらず円偏波特性を維持することが可能となる。
【0058】
以上説明したように、実施例2に係る無線装置は、出力するRF信号を、移相した後にいずれの基板に出力するかを切り替える。これによって、移相器を基板ごとに用意する必要がなく、移相器に係る回路規模またはコストを抑えることができる。
【0059】
<実施例3>
本実施形態では、切替部202は、経路aおよびbのいずれかを送受信部201に電気的に接続するか、開放するかを切り替えるものとして説明を行った。一例では、切替部202は、経路aおよびbのいずれか一方を送受信部201に電気的に接続し、他方をグランドに電気的に接続するよう動作してもよい。この場合、アンテナ素子205およびアンテナ素子206は、グランドとの接続点を有しなくても、切替部202でグランドに接続された場合には、グランドとして機能することができる。これによって、グランドとの接続点を有しないアンテナを使用して無線装置1を実現することができる。
【0060】
実施例3では、切替部および移相部とアンテナ素子とが異なる基板に配置される構成例について説明する。本実施例に係る無線装置の機能ブロックを図11に示す。なお、実施例1及び実施例2と同様の構成、処理、機能に関しては説明を省略する。
【0061】
無線装置は基板1101(基板E)および基板1102(基板F)、基板1103(基板G)を基板の厚み方向であるZ軸方向に重ねて、基板EとFとで基板Gを挟むように構成され、基板Gはグランド1104を中央部分に備える。
【0062】
基板EはZ軸方向から見てグランド1104を囲むように配置したアンテナ素子1105を4つ備え、4つのアンテナ素子1105は同形状の逆F型アンテナである。逆F型アンテナの接地端は導通部1106を通じてグランド1104と導通し、信号を送受信する給電端は導通部1107を通じて給電部1108に接続する。アンテナ素子1105は+X方向、+Y方向、-X方向、-Y方向にそれぞれ延伸し、開放端の向きが90度ずつ異なるように配置する。
【0063】
同様に、基板FはZ軸方向から見てグランド1104を囲むように配置したアンテナ素子1109を4つ備え、4つのアンテナ素子1109は同じ形状の逆F型アンテナである。逆F型アンテナの接地端は導通部1110を通じてグランド1104と導通し、信号を送受信する給電端は導通部1111を通じて給電部1108に接続する。アンテナ素子1109は+X方向、+Y方向、-X方向、-Y方向にそれぞれ延伸し、開放端の向きが90度ずつ異なるように配置する。
【0064】
基板Gの構成例を図12に示す。図12において、基板Gの表層1201には、グランド1202及びRF線路1203を備え、グランド1202は裏面(非図示)に導通するビア1204を備える。RF線路1203は、ビア1205と4つの切替部1207とを接続し、送受信部901からのRF信号を4つに分岐し、分岐した4つのRF信号の位相をずらす移相部1206として動作する。
【0065】
移相部1206では、入力されたRF信号を4つに分岐し、分岐したRF信号にそれぞれn×90度(nは整数)の位相差を与える。図12の例では入力されたRF信号を4つに分岐し、それぞれに0度、90度、180度、270度の位相シフトを与える。位相シフトされたRF信号は、切替部1207に入力される。切替部1207は2つの出力(不図示)を有し、一方は基板Eの接続点1107に接続された同軸ケーブル(不図示)に接続され、他方は基板Fの接続点1111に接続された同軸ケーブル(不図示)に接続される。なお、4つの切替部1207は、RF信号の出力先が4つの切替部1207で同一となるように制御される。すなわち、切替部1207は、基板Eの4つのアンテナ1105にRF信号が出力されるか、基板Fの4つのアンテナ1109にRF信号が出力されるかを切り替える。これによって、アンテナ素子(非図示)からの合成波は円偏波特性を備える。なお、図11で示した導通部1110はグランド1202のどこに接続しても良く、接続方法は同軸ケーブルのような実装部品ではなく、金属柱といった基板間の支持部材を流用することができる。
【0066】
本実施例において、フローチャートの動作は実施例1及び2と同様であるため説明を省略する。すなわち、-Z方向である基板Fの下方に誘電体または導電体が近接して位置する場合、アンテナ素子1105は給電部1108と接続し、アンテナ素子1109はグランド1104と接続する。このため、アンテナ素子1105の指向性を+Z方向に向けながら、-Z方向にある誘電体の有無に関わらず円偏波特性を維持することが可能となる。一方、+Z方向である基板Eの上方に誘電体または導電体が近接して位置する場合、アンテナ素子1109は給電部1108と接続し、アンテナ素子1105はグランド1104と接続する。このため、アンテナ素子1109の指向性を-Z方向に向けながら、+Z方向にある誘電体の有無に関わらず円偏波特性を維持することが可能となる。
【0067】
以上説明したように、実施例3に係る無線装置は、切替部および移相部がアンテナとは異なる基板に配置される。これによって、切替部および移相部がアンテナに与える影響を小さくすることができ、アンテナの設計が容易になる。
【0068】
<その他の実施形態>
本実施形態に係る無線装置は、記憶部209に記憶されたプログラムと検出部207の検出結果に基づいて切替部202を制御するものとして説明を行ったが、送受信部201で受信した制御信号に基づいて切替部202を制御してもよい。すなわち、制御部208は、アンテナ素子106およびアンテナ素子108の少なくともいずれかで受信した制御信号に基づいて切替部202を制御してもよい。
【0069】
本実施形態に係る無線装置の基板は、4個のアンテナ素子を有するものとして説明を行ったが、アンテナ素子の数はこれに限定されない。例えば、基板は円状に配置されたn個(nは1以上の整数)のアンテナ素子を有し、n個のアンテナ素子は時計回りにi番目のアンテナ素子ごとに、360/n度のi倍(整数倍)の位相差で給電されてもよい。これによって、アンテナ素子の数によらず、楕円偏波の電磁波を送受信することができる。
【0070】
本実施形態に係る無線装置は、誘電体または導電体が近接して位置する場合に、誘電体または導電体から離れる方向に電磁波を放射する実施例を用いて説明された。一例では、本実施形態に係る無線装置は、誘電体または導電体が近接して位置する場合に、誘電体または導電体から離れる方向に電波を放射する実施例にも適用可能である。例えば、人体に近接して配置される無線装置であって、体内にあるカプセル型の小腸内視鏡と通信する無線装置では、人体などの誘電体に近接した場合に、人体の内部に向けて電磁波を放射する必要がある。このため、無線装置は、人体に近接して配置された場合に、無線装置に誘電体または導電体が近接していない場合と比較して、アンテナの特性インピーダンスの変化が大きい基板側に電磁波を放射することで、体内にある通信装置と通信することができる。この場合、無線装置が備えるアンテナは、人体の比誘電率に合わせて設計されてもよい。
【0071】
上述した実施形態は、以下の処理を実行することによっても実行される。すなわち、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記録媒体を、システムあるいは装置に供給する。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUまたはMPU)が記録媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。これによって、上述した目的を達成することができる。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することとなり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVDなどを用いることができる。
【0072】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0073】
101、102:基板、103、104:グランド、105:導通部、106、108:アンテナ素子、107、109:給電部、201:送受信部、202:切替部、203、204:移相部、207:検出部、208:制御部、209:記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12