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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】連結制振構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240415BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240415BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240415BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04H9/02 341A
F16F15/02 C
F16F15/04 P
F16F15/023 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020025566
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130924
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 充
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-081464(JP,A)
【文献】特開2015-232212(JP,A)
【文献】特開2011-226096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
F16F 15/04
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造体と第2構造体とを連結する慣性質量ダンパおよびばね部材を有し、
前記慣性質量ダンパと前記ばね部材とは、第1構造体と第2構造体との間に直列に配置され、
前記ばね部材は、積層ゴムと、該積層ゴムの下側に接合された下側フランジ鋼板と、該積層ゴムの上側に接合された上側フランジ鋼板と、を有する免震装置であり、
前記第1構造体と前記第2構造体とは、それぞれの上層部どうし、中間部どうし、および下層部どうしの少なくとも1つが連結部を介して連結され、
前記慣性質量ダンパおよび前記ばね部材は、前記連結部に設けられており、
前記連結部は、前記第1構造体および前記第2構造体の一方とは剛接合され、他方とはエクスパンションジョイントを介して接合され、
前記下側フランジ鋼板は、前記連結部に接合されて前記第1構造体および前記第2構造体の一方と連結され、
前記上側フランジ鋼板は、前記慣性質量ダンパを介して前記第1構造体および前記第2構造体の他方と連結されていることを特徴とする連結制振構造。
【請求項2】
前記慣性質量ダンパおよび前記ばね部材の少なくとも一方と並列に設けられる減衰要素を有することを特徴とする請求項1に記載の連結制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
2棟の建物などの2つの構造体を粘性ダンパや鋼材ダンパ等の制振ダンパで連結する連結制振構造が知られている(例えば、特許文献1-3参照)。連結制振構造は、建物の層間に制振ダンパを設置する制振構造に比べて制振ダンパのストロークを確保することができるため、効率良く制振効果を発揮させることができる。連結制振構造を採用した実例は、数多くあり、集合住宅の居住部とコアとを制振ダンパで連結した例が多く知られている。近年は、免震構造の居住部と、耐震構造のコアと、を制振ダンパで連結し、更に効率良く制振効果を発揮させた例も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5320031号公報
【文献】特許第5382457号公報
【文献】特許第5614627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の連結制振構造では以下のような問題があった。
最適な制振効果を発揮させるには比較的多くの制振ダンパが必要となるが、2棟の建物を連結する連結通路に制振ダンパを設ける場合、制振ダンパを設置するスペースが小さく所望の数の制振ダンパを設けることができない。このため、2棟の建物を連結する連結通路に制振ダンパを設ける場合では制振効果を十分に発揮できないことがある。
構造物の下層部では棟間変形が小さくなるため、下層部を連結した場合、制振効果が小さくなることがある。
2つの構造物の固有周期が近いと、制振効果が小さくなることがある。
このような問題があるため、実際に採用されている連結制振構造の事例の多くは、集合住宅の居住部とコアとを制振ダンパで連結する事例で、2棟の建物を連結したり、2棟の建物の間の連結通路に制振ダンパを設けたりする事例はほとんどない。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、設置スペースを縮小することができ、かつ十分な制振効果を得ることができる連結制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る連結制振構造は、第1構造体と第2構造体とを連結する慣性質量ダンパおよびばね部材を有し、前記慣性質量ダンパと前記ばね部材とは、第1構造体と第2構造体との間に直列に配置され、前記ばね部材は、積層ゴムと、該積層ゴムの下側に接合された下側フランジ鋼板と、該積層ゴムの上側に接合された上側フランジ鋼板と、を有する免震装置であり、前記第1構造体と前記第2構造体とは、それぞれの上層部どうし、中間部どうし、および下層部どうしの少なくとも1つが連結部を介して連結され、前記慣性質量ダンパおよび前記ばね部材は、前記連結部に設けられており、前記連結部は、前記第1構造体および前記第2構造体の一方とは剛接合され、他方とはエクスパンションジョイントを介して接合され、前記下側フランジ鋼板は、前記連結部に接合されて前記第1構造体および前記第2構造体の一方と連結され、前記上側フランジ鋼板は、前記慣性質量ダンパを介して前記第1構造体および前記第2構造体の他方と連結されていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、慣性質量ダンパおよびばね部材の直列機構が第1構造体と第2構造体との間の棟間変形を増幅させることができるため、慣性質量ダンパおよびばね部材が有する制振効果を効率よく発揮させることができる。慣性質量ダンパと直列に配置されるばね部材が免震装置であることにより、第1構造体と第2構造体との連結部分を大ストロークに対応させることができる。従来の2棟の建物を連結する連結制振構造に比べ制振部材(慣性質量ダンパやばね部材)を効率よく機能させることができるため、制振部材の量を減らすことができる。これにより、制振部材の設置スペースを縮小することができるため、制振部材を設置するスペースが小さい場合でも十分な制振効果を得ることができる。
また、第1構造体の下層部と第2構造体の下層部とを連結するように慣性質量ダンパおよびばね部材を設ける場合でも、棟間変形を増幅させて制振部材の制振効果を効率よく発揮させることができるため、十分な制振効果を得ることができる。
また、慣性質量ダンパおよびばね部材は、第1構造体および第2構造体の固有周期が近接している場合において、2棟いずれにも同調して振動する効果を発揮する。したがって、第1構造体と第2構造体との固有周期が近接していても十分な制振効果を得ることができる。
【0008】
また、制振部材が設けられる箇所が限定されている場合でも、必要となる制振部材を設置することができるため、十分な制振効果を得ることができる。
【0009】
また、本発明に係る連結制振構造では、前記慣性質量ダンパおよび前記ばね部材の少なくとも一方と並列に設けられる減衰要素を有していてもよい。
減衰要素の減衰量を調整することで、慣性質量ダンパやばね部材の変形を規定の値に調整することができる。更に、第1構造体と第2構造体との間に減衰要素を設け、この減衰要素の減衰量も併せて調整することで、慣性質量ダンパやばね部材の変形を規定の値に調整することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設置スペースを縮小することができ、かつ十分な制振効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による連結制振構造の連結建物の一例を示す模式図である。
図2】連結部を示す図である。
図3】従来の連結制振構造の連結建物の一例を示す模式図である。
図4】実施形態による連結制振構造の加速度伝達関数を示すグラフである。
図5】従来の連結制振構造の加速度伝達関数を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態による連結制振構造の連結建物の2+2質点モデルを示す模式図である。
図7】従来の連結制振構造の連結建物の2+2質点モデルを示す模式図である。
図8】入力地震動OS1(基盤波)を示すグラフである。
図9】OS1 Sd h=0.05の応答スペクトル図である。
図10】OS1 Sa h=0.05の応答スペクトル図である。
図11】実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第1建物(主構造)の変位応答の比較を示すグラフである。
図12】実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第1建物(主構造)の加速度応答の比較を示すグラフである。
図13】実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第2建物(副構造)の変位応答の比較を示すグラフである。
図14】実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第2建物(副構造)の加速度応答の比較を示すグラフである。
図15】実施形態による連結制振構造の相対変位応答を示すグラフである。
図16図15の部分拡大図である。
図17】従来の連結制振構造の相対変位応答を示すグラフである。
図18図17の部分拡大図である。
図19】実施形態の連結制振構造に更に減衰要素を追加した連結制振構造の模式図である。
図20】減衰要素を追加した実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第1建物(主構造)の変位応答の比較を示すグラフである。
図21】減衰要素を追加した実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第1建物(主構造)の加速度応答の比較を示すグラフである。
図22】減衰要素を追加した実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第2建物(副構造)の変位応答の比較を示すグラフである。
図23】減衰要素を追加した実施形態による連結制振構造、従来の連結制振構造および連結無しの制振構造それぞれの第2建物(副構造)の加速度応答の比較を示すグラフである。
図24】減衰要素を追加した実施形態による連結制振構造の相対変位応答を示すグラフである。
図25図24の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による連結制振構造について、図1図26に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による連結制振構造は、それぞれ地盤に支持された2つの建物11,12が連結部13で連結された連結建物1に採用されている。
2つの建物11,12のうちの一方を第1建物11(第1構造物)とし、他方を第2建物12(第2構造物)とする。
1建物11および第2建物12は、耐震構造、制振構造あるいは免震構造で、建物減衰112,122、および建物質量113,123にて構成される。
連結部13は、第1建物11と第2建物12とを連結している。連結部13は、第1建物11と第2建物12とを連結するだけではなく、第1建物11と第2建物12とを行き来するための連結通路として設けることも想定している。
【0013】
連結制振構造は、第1建物11と第2建物12との間に直列に設けられた慣性質量ダンパ2およびばね部材3と、慣性質量ダンパ2と並列に設けられた第1減衰要素4と、ばね部材3と並列に設けられた第2減衰要素5と、を有している。第1減衰要素4および第2減衰要素5は、粘性ダンパなどで構成されている。
ばね部材3には、免震装置が用いられている。本実施形態では、ばね部材3の免震装置は、数十cmの大変形を許容可能に構成されている。
慣性質量ダンパ2、ばね部材3、第1減衰要素4および第2減衰要素5は、連結部13に設けられている。
【0014】
本実施形態では、連結部13は、第1建物11と剛接合され、第2建物12とはエクスパンションジョイント131を介して接合されている。
ばね部材3の免震装置は、積層ゴム31と、積層ゴム31の下側に接合された下側フランジ鋼板32と、積層ゴム31の上側に接合された上側フランジ鋼板33と、を有している。ばね部材3は、下側フランジ鋼板32と上側フランジ鋼板33とが積層ゴム31を介して接合され、水平方向に相対変位可能に構成されている。
下側フランジ鋼板32は、連結部13に接合されている。上側フランジ鋼板33は、第2建物12に慣性質量ダンパ2を介して接合されている。
図1図2とでは、慣性質量ダンパ2とばね部材3との配列が異なっているが、慣性質量ダンパ2とばね部材3とが直列に配置されていればよい。
第1減衰要素4および第2減衰要素5は、オイルダンパなどの粘性減衰要素や、減衰こまや、高減衰積層ゴムなどのデバイスが採用されている。第1減衰要素4および第2減衰要素5に採用されるデバイスを調整することで減衰量を調整することができる。
【0015】
本実施形態による連結制振構造の連結建物1と、従来の連結制振構造の連結建物10との伝達関数の比較を行う。
本実施形態による連結制振構造の連結建物1は、第1建物11と第2建物12との間に上述しているように慣性質量ダンパ2、ばね部材3、第1減衰要素4および第2減衰要素5が設けられているのに対し、図3に示す従来の連結制振構造の連結建物10は、第1建物11Aと第2建物12Aとの間にばね部材3Aが減衰要素5Aと並列に設けられている。
本実施形態による連結制振構造の連結建物1と従来の連結制振構造の連結建物10とは、第1建物11,11Aと第2建物12,12Aとの間に設けられている装置以外は同じ形態である。すなわち、従来の連結制振構造の連結建物10は、本実施形態による連結制振構造の連結建物1から慣性質量ダンパ2および第1減衰要素4を除いた構造と同じ構造となっている。
【0016】
本実施形態による連結制振構造の連結建物1、従来の連結制振構造の連結建物10それぞれの設計諸元は以下のとおりとする。
本実施形態による連結制振構造の連結建物1の諸元
第1建物11の質量m1=9600ton
第2建物12の質量m2=9600ton
第1建物11の1次固有周期T1=3.5sec
第2建物12の1次固有周期T2=2.5sec
構造減衰は、第1建物11および第2建物12それぞれの棟で減衰定数h=2%とする。
慣性質量z=960ton(第1建物11の質量m1の10%)
ばね要素kd=3713kN/m(第1建物11の剛性k1の12%)
第1減衰要素4の減衰定数hd1=0%
第2減衰要素5の減衰定数hd2=2%
【0017】
従来の連結制振構造の連結建物10の諸元
第1建物11Aの質量m1=9600ton
第2建物12Aの質量m2=9600ton
第1建物11Aの1次固有周期T1=3.5sec
第2建物12Aの1次固有周期T2=2.5sec
構造減衰は、第1建物11Aおよび第2建物12Aそれぞれの棟で減衰定数h=2%とする。
ばね要素kd=0kN/m(本比較においてばね要素での連結は考慮しない)
減衰要素5Aの減衰定数hd=14%
従来の連結制振構造の連結建物10では、定点理論適用時の最適な粘性ダンパ量とする。
【0018】
図4に本実施形態による連結制振構造の伝達関数を示し、図5に従来の連結制振構造の伝達関数を示す。
図4に示すように、本実施形態による連結制振構造では、中間節点の伝達関数が主構造や副構造の伝達関数に比べ大きくなっており、2棟(第1建物11および第2建物12)の棟間変形より増幅されることがわかる。また、本実施形態による連結制振構造は、粘性ダンパ量が2%の伝達関数とピークの値が、図5に示す従来の連結制振構造の粘性ダンパ量が14%の伝達関数とピークの値と同等である。従って、本実施形態による連結制振構造は、従来の連結制振構造の7倍の減衰効果があることがわかる。
【0019】
続いて、地震時最大応答の比較を行う。図6および図7に示すように、解析に用いるモデルは以下の2+2質点モデルとする。図6に本実施形態による連結制振構造の2+2質点モデルを示す。図7に従来の連結制振構造の2+2質点モデルを示す。本実施形態による連結制振構造、および従来の連結制振構造ともに建物諸元を上記と同様とする。
2質点のため、それぞれの質点の質量は、建物質量9600tonの半分の4800tonとした。
応答解析に用いる入力地震動は、長周期地震動を対象とし、南海トラフ沿いの巨大地震における大阪圏での基整促波であるOS1の基盤波とする。図8に入力地震動を示し、図9および図10にOS1応答スペクトル図を示す。
【0020】
図11図14に本実施形態による連結制振構造(hd=2%)、従来の連結制振構造(hd=14%)、連結の無い制振構造(hd=0%)の比較を主構造(第1建物)、副構造(第2建物)別に変位応答、加速度応答について示す。
本実施形態による連結制振構造は、2つの構造物を連結することで応答を大きく低減可能である。本実施形態による連結制振構造の第1建物11(主構造)については、従来の連結制振構造の第1建物11A(主構造)と比較して同程度の応答低減効果がある。
本実施形態による連結制振構造と、従来の連結制振構造の伝達関数とは、ピーク値が同程度であるが、最大応答に差が生じる要因は、ピーク値を生じる周波数帯が異なることおよび、連結部13の慣性質量ダンパ2およびばね部材3がTMDと同様、定常状態において最も効果を発揮することと考えられる。
【0021】
図15図18に上記の検討における、棟間変形(第1建物11と第2建物12との間の変形)の比較を示す。図15図16は、本実施形態による連結制振構造について示し、図17図18は、従来の連結制振構造について示している。
u1-u2は、棟間変形を示し、u1-udならびにud-u2は、それぞれ慣性質量ダンパ2のストロークおよびばね部材3のストロークを示す。
棟間変形の最大値が46cm程度であるのに対し、慣性質量ダンパ2やばね部材3のストロークは、73cm程度に増幅しており、本実施形態による連結制振構造は、2棟の棟間変形を増幅させる効果を有することがわかる。
一方で、従来の連結制振構造の場合、棟間変形の最大値は37cm程度である。粘性ダンパ量を多くすると棟間変形が減り、制振効果が小さくなることがわかる。
【0022】
上記の地震応答解析結果では、本実施形態による連結制振構造のばね部材3の最大変形が73cmと大きく、通常の免震装置の許容変形量60cmを超える恐れがある。
ばね部材3の最大変形を60cm以内に納めるため、本実施形態による連結制振構造の第1減衰要素4および第2減衰要素5の減衰定数を調整し、図19に示すように第1建物11と第2建物との間に第1減衰要素4および第2減衰要素5と並列となるように第3減衰要素6を設置する。
第1減衰要素4の減衰定数hd1=1.5%、第2減衰要素5の減衰定数hd2=2%、第3減衰要素6の減衰定数hd3=4%とする。この場合におけるダンパ量の合計(減衰定数の合計)はhd=7.5%となる。
図7に示す従来の連結制振構造では、減衰要素5Aの減衰定数hd=14%となる。このため、図19に示す第1減衰要素4、第2減衰要素5および第3減衰要素6を有する連結制振構造の上記のダンパ量の合計は、図7に示す従来の連結制振構造の約半分となる。
【0023】
図20図23に第3減衰要素を設置した本実施形態による連結制振構造(hd=7.5%)、従来の連結制振構造(hd=14%)、連結の無い制振構造(hd=0%)の比較を主構造(第1建物)、副構造(第2建物)別に変位応答、加速度応答について示す。図23図24に、上記の検討における、棟間変形(第1建物11と第2建物12との間の変形)の比較を示す。
本実施形態による連結制振構造の最大応答は、従来の連結制振構造の最大応答とほぼ同等であり、慣性質量ダンパ2やばね部材3のストロークも60cm以内に納めることができる。このように、減衰定数の調整で上記のストロークは調整ができ、許容ストローク以内でできるだけ大きくすることで本実施形態による連結制振構造の制振効果を増大させることができる。
【0024】
次に、上記の本実施形態による連結制振構造の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による連結制振構造では、慣性質量ダンパ2およびばね部材3の直列機構が第1建物11と第2建物12との間の棟間変形を増幅させることができるため、慣性質量ダンパ2およびばね部材3が有する制振効果を効率よく発揮させることができる。慣性質量ダンパ2と直列に配置されるばね部材3が免震装置であることにより、第1構造体と第2構造体との連結部13を大ストロークに対応させることができる。従来の2棟の建物を連結する連結制振構造に比べ制振部材(慣性質量ダンパやばね部材)を効率よく機能させることができるため、制振部材の量を減らすことができる。これにより、制振部材の設置スペースを縮小することができるため、制振部材を設置するスペースが小さい場合でも十分な制振効果を得ることができる。
また、第1建物11の下層部と第2建物12の下層部とを連結するように慣性質量ダンパ2およびばね部材3を設ける場合でも、棟間変形を増幅させて制振部材の制振効果を効率よく発揮させることができるため、十分な制振効果を得ることができる。
また、慣性質量ダンパ2およびばね部材3は、第1建物11および第2建物12の固有周期が近接している場合において、2棟いずれにも同調して振動する効果を発揮する。したがって、第1建物11と第2建物12との固有周期が近接していても十分な制振効果を得ることができる。
【0025】
また、本実施形態による連結制振構造では、第1建物11と第2建物12とは、それぞれの高さ方向の中間部が連結部13を介して連結され、慣性質量ダンパ2およびばね部材3は、連結部13に設けられている。
このような構成とすることにより、制振部材が設けられる箇所が連結部13(連結通路)に限定されている場合でも、必要となる制振部材を設置することができるため、十分な制振効果を得ることができる。
【0026】
また、本実施形態による連結制振構造では、慣性質量ダンパ2と並列に設けられる第1減衰要素4、およびばね部材3と並列に設けられる第2減衰要素5を有している。
このような構成とすることにより、第1建物11と第2建物12との棟間変位を減衰させることができる。
これらのことにより、本実施形態による連結制振構造では、第1減衰要素4および第2減衰要素5の減衰量を調整することで、慣性質量ダンパ2やばね部材3の変形を規定の値に調整することができる。更に、図19に示すように、第1建物11と第2建物12との間に第3減衰要素6を設け、この第3減衰要素6の減衰量も併せて調整することで、慣性質量ダンパ2やばね部材3の変形を規定の値に調整することができる。
【0027】
以上、本発明による連結制振構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、第1建物11と第2建物12とを慣性質量ダンパ2およびばね部材3で連結する構成であるが、集合住宅の居住部とコアとを慣性質量ダンパ2およびばね部材3で連結する構成としてもよい。
【0028】
上記の実施形態では、第1建物11と第2建物12とは、連結部13を介して連結され、慣性質量ダンパ2およびばね部材3は、連結部13に設けられているが、連結部13が設けられておらず、慣性質量ダンパ2およびばね部材3が第1構造体と第2構造体とを直接連結してもよい。第1建物11と第2建物12との間に連結部13が設けられていても、連結部13には慣性質量ダンパ2およびばね部材3を設けずに、慣性質量ダンパ2およびばね部材3が第1構造体と第2構造体とを直接連結してもよい。
【0029】
第1建物11と第2建物12とを連結する連結部13は、第1建物11と第2建物12とをそれぞれの上層部どうしを連結するように設けられていてもよいし、中間部どうしを連結するように設けられていてもよいし、下層部どうしを連結するように設けられていてもよい。第1建物11と第2建物12との間に複数の連結部13が設けられていてもよい。このような場合は、慣性質量ダンパ2およびばね部材3が1つの連結部13のみに設けられていてもよいし、複数の連結部13に設けられていてもよい。
【0030】
上記の実施形態では、慣性質量ダンパ2と並列に設けられる第1減衰要素4と、ばね部材3と並列に設けられる第2減衰要素5と、が設けられているが、いずれか一方のみが設けられていてもよい。図19に示すように、第1建物11と第2建物12との間に第3減衰要素6を設けて、第3減衰要素6で第1建物11と第2建物12とを直接連結してもよい。
また、慣性質量ダンパ2およびばね部材3は、上記の実施形態のように第1減衰要素4、第2減衰要素5と並列に設けられていてもよいし、それ自体が減衰要素を持つものであってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 連結建物
2 慣性質量ダンパ
3 ばね部材
4 第1減衰要素
5 第2減衰要素
6 第3減衰要素
11 第1建物(第1構造物)
12 第2建物(第2構造物)
13 連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25