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特許7471861薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/33 20060101AFI20240415BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240415BHJP
   H05K 1/16 20060101ALI20240415BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
H01G4/33 102
H01G4/30 541
H01G4/30 544
H01G4/30 547
H05K1/16 D
H05K3/46 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020031758
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021136337
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-07-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】油川 祐基
(72)【発明者】
【氏名】浪川 達男
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 晃靖
(72)【発明者】
【氏名】齊田 仁
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和弘
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-063979(JP,A)
【文献】特開2018-063990(JP,A)
【文献】特開2019-071336(JP,A)
【文献】特開2008-085291(JP,A)
【文献】特開2016-219588(JP,A)
【文献】特開2006-228907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/33
H01G 4/30
H05K 1/16
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体を貫通する貫通孔からなる空洞を有する薄膜キャパシタであって、
下部電極層と、
上部電極層と、
前記下部電極層と前記上部電極層の間に配置された誘電体層と、を備え、
前記誘電体層は、前記上部電極層側に位置する第1の上面を有しており、
前記下部電極層は、前記誘電体層側に位置する第2の上面を有しており、
前記貫通孔のうち前記誘電体層を貫通する部分の内壁面は、第1のテーパー面及び前記第1のテーパー面よりも前記貫通孔の中心側に位置する第2のテーパー面を有し、
前記第1及び第2のテーパー面は、前記上部電極層で覆われておらず、
前記第1及び第2のテーパー面は、前記第2の上面に対してそれぞれ第1及び第2のテーパー角を有し、
前記第1のテーパー角よりも前記第2のテーパー角の方が小さく、
前記第1の上面のうち、前記第1のテーパー面と前記第1の上面の境界から所定距離だけ離れた領域は、前記上部電極層で覆われておらず、
前記第2の上面のうち、前記第2のテーパー面よりも内側に位置する領域は、前記誘電体層で覆われていないことを特徴とする薄膜キャパシタ。
【請求項2】
前記第2のテーパー面は、前記第1のテーパー面より長いことを特徴とする請求項1に記載の薄膜キャパシタ。
【請求項3】
前記第1のテーパー面の長さは0.1μm以上、3μm以下であり、前記第2のテーパー面の長さは1μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の薄膜キャパシタ。
【請求項4】
前記第1のテーパー角は5°以上、75°以下であり、前記第2のテーパー角は3°以上、45°以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜キャパシタ。
【請求項5】
前記下部電極層がNiからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれ一項に記載の薄膜キャパシタ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれ一項に記載の薄膜キャパシタを内蔵する回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板に関し、特に、誘電体層に貫通孔が設けられた薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板に関する。また、本発明は、このような構造を有する薄膜キャパシタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜キャパシタは、特許文献1に記載されているように、誘電体層を介して下部電極層と上部電極層が積層された構造を有している。特許文献1に記載された薄膜キャパシタは、誘電体層に設けられた貫通孔の内壁にテーパーが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-206839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、誘電体層のテーパー面上に上部電極層を形成すると、この部分において誘電体層の絶縁耐圧が不足するため、誘電体層のテーパー面上には上部電極層を配置することができない。このため、誘電体層のテーパー面が広い(つまりテーパー角が小さい)と、上部電極層の面積が減少し、その分キャパシタンスが低下するという問題があった。これを解決するためには、誘電体層のテーパー面を狭く(つまりテーパー角を大きく)すれば良いが、テーパー角が大きいと、ロールラミネータなどを用いて薄膜キャパシタを回路基板に埋め込む際に、誘電体層のエッジ部分に局所的な応力が集中することがあり、この応力によって誘電体層にクラックや剥離が生じるという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、誘電体層に貫通孔が設けられた薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板において、上部電極層の面積を十分に確保しつつ、実装時における信頼性を高めることを目的とする。また、本発明は、このような特徴を有する薄膜キャパシタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による薄膜キャパシタは、下部電極層と、上部電極層と、下部電極層と上部電極層の間に配置された誘電体層とを備え、誘電体層は貫通孔を有しており、貫通孔の内壁面は、第1のテーパー面及び第1のテーパー面よりも貫通孔の中心側に位置する第2のテーパー面を有し、第1及び第2のテーパー面は上部電極層で覆われておらず、第1及び第2のテーパー面は下部電極層の表面に対してそれぞれ第1及び第2のテーパー角を有し、第1のテーパー角よりも第2のテーパー角の方が小さいことを特徴とする。また、本発明による回路基板は、上記の薄膜キャパシタが内蔵されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、貫通孔の中心側に位置する第2のテーパー面のテーパー角が小さいことから、貫通孔のエッジ部分に局所的な応力が加わりにくくなる。このため、回路基板への実装時において、誘電体層にクラックや剥離が生じにくくなる。しかも、第1のテーパー面のテーパー角が大きいことから、耐圧不足により上部電極層を形成できない領域を抑えることが可能となる。
【0008】
本発明において、第2のテーパー面は第1のテーパー面より長くても構わない。この場合、第1のテーパー面の長さは0.1μm以上、3μm以下であり、第2のテーパー面の長さは1μm以上、10μm以下であっても構わない。これによれば、クラックや剥離の発生を効果的に防止することが可能となる。
【0009】
本発明において、第1のテーパー角は5°以上、75°以下であり、第2のテーパー角は3°以上、45°以下であっても構わない。これによれば、クラックや剥離の発生を防止しつつ、上部電極層の面積を十分に確保することが可能となる。
【0010】
本発明において、下部電極層はNiからなるものであっても構わない。Niはヤング率が高いため、誘電体層にクラックや剥離が発生しやすいが、本発明によれば、クラックや剥離の発生を防止することが可能となる。
【0011】
本発明による薄膜キャパシタの製造方法は、下部電極層の表面に誘電体層を形成する第1の工程と、誘電体層の表面に上部電極層を形成する第2の工程と、上部電極層及び誘電体層に貫通孔を形成する第3の工程とを備え、第3の工程は、誘電体層に形成される貫通孔の内壁面が、第1のテーパー面及び第1のテーパー面よりも貫通孔の中心側に位置する第2のテーパー面を有し、第1及び第2のテーパー面は、下部電極層の表面に対してそれぞれ第1及び第2のテーパー角を有し、第1のテーパー角よりも第2のテーパー角の方が小さくなるよう、ウェットエッチングによって行うことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第1のテーパー角よりも第2のテーパー角の方が小さくなるよう誘電体層をウェットエッチングしていることから、キャパシタンスと信頼性を両立させた薄膜キャパシタを作製することが可能となる。
【0013】
本発明において、第3の工程は、誘電体層の貫通孔よりも径の小さい第1のマスクを介して誘電体層をウェットエッチングする第1のウェットエッチング工程と、第1のマスクよりも径の大きい第2のマスクを介して誘電体層をウェットエッチングすることにより、第1のマスクで覆われ、第2のマスクの開口部と重なる領域に第1のテーパー面を形成し、第1及び第2のマスクの開口部と重なる領域に第2のテーパー面を形成する第2のウェットエッチング工程とを含むものであっても構わない。これによれば、テーパー角の大きい第1のテーパー面とテーパー角の小さい第2のテーパー面を確実に形成することができる。
【0014】
或いは、第3の工程は、誘電体層の貫通孔よりも径の小さいマスクを介して誘電体層をウェットエッチングすることにより、マスクで覆われた領域に第1のテーパー面を形成し、マスクの開口部と重なる領域に第2のテーパー面を形成しても構わない。これによれば、テーパー角の大きい第1のテーパー面とテーパー角の小さい第2のテーパー面を少ない工程数で形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、誘電体層に貫通孔が設けられた薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板において、上部電極層の面積を十分に確保しつつ、実装時における信頼性を高めることが可能となる。また、本発明によれば、このような特徴を有する薄膜キャパシタの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態による薄膜キャパシタ1の構造を説明するための模式的な断面図である。
図2図2は、図1に示す領域Aを拡大して示す略断面図である。
図3図3は、本実施形態による薄膜キャパシタ1を内蔵した回路基板2の模式的な断面図である。
図4図4は、薄膜キャパシタ1を回路基板2に埋め込む工程を説明するための模式的な拡大断面図である。
図5図5は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
図6図6は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
図7図7は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
図8図8は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
図9図9は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
図10図10は、貫通孔30aの平面図である。
図11図11は、テーパー面T1とテーパー面T2を形成する第1の方法を説明するための工程図である。
図12図12は、テーパー面T1とテーパー面T2を形成する第2の方法を説明するための工程図である。
図13図13は、第1の変形例による貫通孔30aのテーパー形状を説明するための略断面図である。
図14図14は、第2の変形例による貫通孔30aのテーパー形状を説明するための略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態による薄膜キャパシタ1の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態による薄膜キャパシタ1は、下部電極層10と、上部電極層20と、下部電極層10と上部電極層20の間に配置された誘電体層30とを備えている。下部電極層10は、薄膜キャパシタ1の基材となる部分であり、例えばニッケル(Ni)からなる。下部電極層10の材料として例えばNi(ニッケル)を用いるのは、後述するように、誘電体層30を焼成する工程において下部電極層10が誘電体層30の支持体として用いられるため、高温に耐える必要があるからである。上部電極層20は例えば銅(Cu)からなり、シード層Sと電解メッキ層Pの積層膜からなる。
【0020】
誘電体層30は、例えば、ペロブスカイト系の誘電体材料によって構成される。ペロブスカイト系の誘電体材料としては、BaTiO(チタン酸バリウム)、(Ba1-XSr)TiO(チタン酸バリウムストロンチウム)、(Ba1-XCa)TiO、PbTiO、Pb(ZrTi1-X)O等のペロブスカイト構造を持った(強)誘電体材料や、Pb(Mg1/3Nb2/3)O等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料や、BiTi12、SrBiTa等に代表されるビスマス層状化合物、(Sr1-XBa)Nb、PbNb等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体材料等から構成される。ここで、ペロブスカイト構造、ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料、ビスマス層状化合物、タングステンブロンズ型強誘電体材料において、AサイトとBサイト比は、通常整数比であるが、特性向上のため、意図的に整数比からずらしてもよい。なお、誘電体層30の特性制御のため、誘電体層30に適宜、副成分として添加物質が含有されていてもよい。誘電体層30の厚さは、例えば10nm~1000nmである。
【0021】
下部電極層10は貫通孔10aを有し、上部電極層20は貫通孔20a,20bを有し、誘電体層30は貫通孔30a,30bを有している。貫通孔10a,20a,30aは互いに重なる位置に設けられており、これにより薄膜キャパシタ1の全体を貫通する貫通孔1aが形成される。
【0022】
貫通孔20b,30bは互いに重なる位置に設けられており、これにより貫通孔20b,30bから下部電極層10が露出する。上部電極層20は、薄膜キャパシタ1の一方の容量電極として機能する部分であり、誘電体層30を介して、薄膜キャパシタ1の他方の容量電極として機能する下部電極層10と対向する。
【0023】
図2は、図1に示す領域Aを拡大して示す略断面図である。
【0024】
図2に示すように、誘電体層30に設けられた貫通孔30aの内壁面は、垂直ではなく、テーパーを有している。つまり、貫通孔30aの中心側に近づくほど、誘電体層30の厚みが薄くなる形状を有している。具体的には、誘電体層30の表面が平坦な領域をA10と定義し、誘電体層30の表面がテーパー形状である領域をA20と定義し、誘電体層30が形成されていない領域をA30と定義した場合、領域A20は、誘電体層30の表面がテーパー面T1である領域A21と、誘電体層30の表面がテーパー面T2である領域A21を含む。領域A21は領域A10側に位置し、領域A22は領域A30側、つまり、貫通孔30aの中心側に位置する。そして、テーパー面T1のテーパー角をθ1とし、テーパー面T2のテーパー角をθ2とした場合、θ1>θ2を満たしている。つまり、テーパー角θ1よりもテーパー角θ2の方が小さい。換言すれば、領域A21における単位長さ当たりの誘電体層30の膜厚の変化量よりも、領域A22における単位長さ当たりの誘電体層30の膜厚の変化量の方が小さい。ここで、「テーパー角」とは、下部電極層10の表面とテーパー面が成す角度である。θ1は例えば5°以上、75°以下であり、θ2は例えば3°以上、45°以下である。
【0025】
上部電極層20は、領域A20には形成されておらず、領域A10に形成されている。これは、領域A20においては誘電体層30の膜厚が薄いため、この領域A20に上部電極層20を形成すると、誘電体層30の絶縁耐圧が不足するからである。但し、上部電極層20は、領域A10の全面に形成されているのではなく、領域A10のうち領域A20側に位置する領域A12には形成されず、領域A20との境界から離れた領域A11に形成されている。このように、上部電極層20が設けられない領域A12を設けることにより、アライメントずれが生じた場合であっても、領域A20に上部電極層20が形成されることを防止できる。
【0026】
図3は、本実施形態による薄膜キャパシタ1を内蔵した回路基板2の模式的な断面図である。
【0027】
図3に示す回路基板2は、複数の絶縁樹脂層41~43が積層されており、絶縁樹脂層42に薄膜キャパシタ1が埋め込まれた構造を有している。回路基板2の上面には半導体チップ50が搭載されている。また、回路基板2には、電源パターン62V~64V、グランドパターン62G~64G、信号パターン62S~64Sが設けられている。電源パターン64V、グランドパターン64G、信号パターン64Sは、回路基板2の下面に設けられた外部端子を構成する。半導体チップ50の種類については特に限定されないが、少なくとも、電源端子61V、グランド端子61G、信号端子61Sを有している。これらの端子61V,61G,61Sは、それぞれ電源パターン62V、グランドパターン62G、信号パターン62Sに接続されている。
【0028】
電源パターン62Vは、ビア導体65Vを介して電源パターン63Vに接続される。また、電源パターン63Vは、ビア導体66Vを介して電源パターン64Vに接続されるとともに、ビア導体67Vを介して薄膜キャパシタ1の上部電極層20に接続される。グランドパターン62Gは、ビア導体65Gを介してグランドパターン63Gに接続される。また、グランドパターン63Gは、ビア導体66Gを介してグランドパターン64Gに接続されるとともに、ビア導体67Gを介して薄膜キャパシタ1の下部電極層10に接続される。
【0029】
これにより、薄膜キャパシタ1の一方の容量電極(上部電極層20)に電源電位が与えられ、他方の容量電極(下部電極層10)にグランド電位が与えられることから、半導体チップ50に対するデカップリングコンデンサとして機能する。
【0030】
信号パターン62Sは、ビア導体65Sを介して信号パターン63Sに接続される。また、信号パターン63Sは、貫通孔1aを通過するビア導体66Sを介して信号パターン64Sに接続される。このように、薄膜キャパシタ1に貫通孔1aを設ければ、薄膜キャパシタ1を大きく迂回することなく、信号用のビア導体66Sを最短距離で信号パターン64Sに接続することができる。
【0031】
薄膜キャパシタ1の回路基板2への埋め込みは、ロールラミネータを用いることができる。つまり、模式的な拡大断面図である図4に示すように、絶縁樹脂層41を形成した後、ロール3を回転させながら絶縁樹脂層41の表面に薄膜キャパシタ1をラミネートすることができる。ロールラミネータを用いて薄膜キャパシタ1を搭載する際には、ロール3の加重が加わる部分において薄膜キャパシタ1に曲げ応力が加わる。この時、符号Bで示す領域、つまり、誘電体層30に設けられた貫通孔30aのエッジ部分に強い応力が加わると、誘電体層30にクラックや剥離が生じることがある。このような現象は、下部電極層10のヤング率が大きい場合には特に顕著である。
【0032】
しかしながら、本実施形態による薄膜キャパシタ1は、誘電体層30に設けられた貫通孔30aのエッジ部分が垂直ではなく、テーパー面T1,T2を有していることから、強い応力が加わっても柔軟に変形し、局所的な応力の集中が生じない。これにより、薄膜キャパシタ1を回路基板2に埋め込む工程において、誘電体層30にクラックや剥離が生じにくくなることから、製品の信頼性が向上する。ここで、応力をより分散させるためには、貫通孔30aのエッジをテーパー角θ2の小さいテーパー面T2のみによって構成すれば良いが、この場合、領域A20の占有面積が大きくなり、キャパシタンスが減少してしまう。しかしながら、本実施形態においては、貫通孔30aのエッジ部分を全てテーパー面T2とするのではなく、領域A22と領域A10の間にテーパー角がθ1(>θ2)であるテーパー面T1を設けていることから、領域A20の占有面積が抑えられる。これにより、キャパシタンスと信頼性を両立させることが可能となる。
【0033】
ここで、誘電体層30のクラックや剥離を防止するためには、テーパー面T2がテーパー面T1より長いこと、つまり、A22>A21とすることが好ましく、テーパー面T1の長さを0.1μm以上、3μm以下とし、テーパー面T2の長さを1μm以上、10μm以下とすることが好ましい。
【0034】
次に、本実施形態による薄膜キャパシタ1の製造方法について説明する。
【0035】
図5図9は、本実施形態による薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
【0036】
まず、図5に示すように、厚さ15μm程度のNiからなる下部電極層10を用意し、その表面にチタン酸バリウムなどからなる誘電体層30を形成し、焼成する。この時、下部電極層10にも高温が加わるが、下部電極層10の材料としてNiなどの高融点金属を用いることにより、焼成温度に耐えることが可能である。
【0037】
次に、図6に示すように、誘電体層30の表面に上部電極層20を形成する。上部電極層20は、スパッタリング又は無電解メッキによって薄いシード層Sを形成した後、シード層Sを給電体とした電解メッキを行うことにより形成することができる。これにより、薄いシード層Sと厚い電解メッキ層Pの積層体からなる上部電極層20が形成される。
【0038】
次に、図7に示すように、下部電極層10を例えば10μm程度に薄くした後、図8に示すように、上部電極層20をパターニングすることにより、貫通孔20a,20bを形成する。次に、図9に示すように、誘電体層30のうち貫通孔20a,20bから露出する部分をパターニングすることによって貫通孔30a,30bを形成する。
【0039】
図10は貫通孔30aの平面図である。図10に示す例では、貫通孔30aの平面形状が円形であり、貫通孔30aの内壁面は、リング状のテーパー面T1と、テーパー面T1の内側に位置するリング状のテーパー面T2によって構成される。上述の通り、テーパー面T2のテーパー角θ2は、テーパー面T1のテーパー角θ1よりも小さい。このような特性を有するテーパー面T1,T2を形成する方法については特に限定されないが、例えば、下記の方法を用いることができる。
【0040】
まず、図11(a)に示すように、誘電体層30の表面に開口部の径がφ1であるマスクR1を形成し、マスクR1を介して誘電体層30をウェットエッチングする。ここで、マスクR1の開口部の径φ1は、最終的に形成する貫通孔30aよりも小さく設計する。エッチング液としては、フッ化アンモニウムと塩酸の混合溶液を用いることができる。この時、エッチング液の組成や温度、エッチング時間、エッチング液の供給方法などを調整することにより、サイドエッチが進行しにくい条件に設定する。これにより、貫通孔30aの内壁面はテーパー面となる。
【0041】
次に、マスクR1を除去した後、図11(b)に示すように、誘電体層30の表面に開口部の径がφ2であるマスクR2を形成し、マスクR2を介して誘電体層30を再度ウェットエッチングする。ここで、マスクR2の開口部の径φ2は、マスクR1の開口部の径φ1よりも大きく、最終的に形成する貫通孔30aとほぼ同じか、やや小さく設計する。エッチング液としては、フッ化アンモニウムと塩酸の混合溶液を用いることができる。この時、エッチング液の組成や温度、エッチング時間、エッチング液の供給方法などを調整することにより、サイドエッチが進行しやすい条件に設定する。これにより、誘電体層30の新たなエッチング面は、テーパー角が大きくなる。テーパー角が大きい部分はテーパー面T1に相当し、その内側に位置するテーパー角が小さい部分はテーパー面T2に相当する。
【0042】
このように、異なるマスクR1,R2を用いた2段階のウェットエッチングを行えば、テーパー角θ1の大きいテーパー面T1とテーパー角θ2の小さいテーパー面T2を確実に形成することが可能となる。
【0043】
或いは、図12に示すように、誘電体層30の表面に開口部の径がφ3であるマスクR3を形成し、マスクR3を介して誘電体層30をウェットエッチングする。ここで、マスクR3の開口部の径φ3は、最終的に形成する貫通孔30aよりも小さく設計する。エッチング液としては、フッ化アンモニウムと塩酸の混合溶液を用いることができる。この時、エッチング液の組成や温度、エッチング液の供給方法などを調整するとともに、エッチング時間を長く設定することにより、サイドエッチがより進行しやすい条件に設定する。これにより、マスクR3の開口部の径φ3よりも大きな貫通孔30aを形成することができる。そして、マスクR3で覆われた部分は、サイドエッチの進行によりテーパー角θ1の大きいテーパー面T1となり、マスクR3の開口部と重なる部分は、テーパー角θ2の小さいテーパー面T2となる。
【0044】
このように、誘電体層30のサイドエッチを利用すれば、より少ない工程数でテーパー角θ1の大きいテーパー面T1とテーパー角θ2の小さいテーパー面T2を形成することが可能となる。
【0045】
図11及び図12に示したいずれの方法においても、サイドエッチ量を正確に制御するには、誘電体層30を構成するチタン酸バリウムなどの結晶が柱状構造を有していることが好ましい。これによれば、厚み方向よりも平面方向におけるエッチング速度が高くなることからサイドエッチが進行しやすくなる。これにより、貫通孔30aのテーパー角を制御しやすくなる。
【0046】
そして、下部電極層10のうち貫通孔30aから露出する部分をパターニングすることによって貫通孔10aを形成すれば、図1に示した本実施形態による薄膜キャパシタ1が完成する。
【0047】
このように、本実施形態においては、誘電体層30に貫通孔30aを形成する際、テーパー角θ1の大きいテーパー面T1とテーパー角θ2の小さいテーパー面T2が形成されるような条件でウェットエッチングを行っていることから、上部電極層20の面積を十分に確保しつつ、回路基板2への実装時において懸念される誘電体層30のクラックや剥離を防止することが可能となる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0049】
例えば、上記実施形態においては、貫通孔30aの内壁面を構成するテーパー面T1とテーパー面T2に明確な境界が存在する場合を例に説明したが、図13に示すように、テーパー面T1とテーパー面T2の間に明確な境界が存在せず、テーパー角が連続的に変化する形状であっても構わない。また、図14に示す例のように、テーパー面T2よりもさらに貫通孔30aの中心側にテーパー面T2よりもテーパー角の大きい別のテーパー面T3が存在しても構わない。
【符号の説明】
【0050】
1 薄膜キャパシタ
1a,10a,20a,20b,30a,30b 貫通孔
2 回路基板
3 ロール
10 下部電極層
20 上部電極層
41~43 絶縁樹脂層
50 半導体チップ
61G グランド端子
61S 信号端子
61V 電源端子
62G~64G グランドパターン
62S~64S 信号パターン
62V~64V 電源パターン
65G~67G,65S~67S,65V~67V ビア導体
P 電解メッキ層
R1~R3 マスク
S シード層
SL スリット
T1~T3 テーパー面
θ1,θ2 テーパー角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14