(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】ディーゼル自動車用の酸化触媒装置の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B01J 38/62 20060101AFI20240415BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240415BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B01J38/62 ZAB
B01J35/57 Z
B01D53/96 500
(21)【出願番号】P 2020033377
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-11-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220804
【氏名又は名称】東京濾器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀律
(72)【発明者】
【氏名】伊豫田 健一
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-150785(JP,A)
【文献】特開2016-020660(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016606(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150582(WO,A1)
【文献】特開2011-255270(JP,A)
【文献】特開2006-097652(JP,A)
【文献】特表2018-535346(JP,A)
【文献】特開2006-110451(JP,A)
【文献】特開2019-048278(JP,A)
【文献】特開2012-206010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
B08B 1/00-13/00
F01N 3/00-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着物としてリン成分が付着したディーゼル自動車用の酸化触媒装置を、クエン酸を含有する洗浄液に浸漬することにより、当該酸化触媒装置から当該リン成分を除去する、ディーゼル自動車用の酸化触媒装置の洗浄方法であって、
前記洗浄液の温度は、25~50℃であり、前記クエン酸の濃度は、1.0~2.0mol/Lであるディーゼル自動車用の酸化触媒装置の洗浄方法。
【請求項2】
前記付着物は更に硫黄成分を含み、
前記酸化触媒装置を、前記クエン酸を含有する洗浄液に浸漬することにより、当該酸化触媒装置から前記リン成分及び前記硫黄成分を除去することを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル自動車用の酸化触媒装置の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル自動車用の酸化触媒装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車から排出された排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)等の環境汚染物質が含まれている。これらの環境汚染物質を除去するために、各種の排ガス浄化用触媒が開発されている。このような排ガス浄化用触媒として、ディーゼル自動車用の酸化触媒装置(Disel Oxidation Catalyst。以下、「DOC」)がある。
【0003】
DOCは、ディーゼルエンジンからの排ガス中に含まれる有害成分のうち、HC及びCOを、白金(Pt)やパラジウム(Pd)を含有した触媒を用いて浄化処理することで、無害な二酸化炭素や水に変換する装置である。
【0004】
ここで、自動車から排出された排ガスには、燃料や潤滑油由来の被毒成分が含まれている。被毒成分は、リン(P)、硫黄(S)等である。被毒成分がDOCに付着すると、DOCが持っているHC等を浄化して無害化する性能(以下、「浄化性能」)が低下する。よって、浄化性能を回復するために様々な処理が行われる。
【0005】
たとえば、特許文献1には、気体及び液体を使用してDOCに堆積した粒子状物質を除去する装置が開示されている。また洗浄効果を増大させるために溶液を加熱するための加熱器を組み込むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、従来から被毒成分が付着したDOCに対して熱処理を行うことで、硫黄成分を除去できることが知られている。一方、硫黄成分を除去しただけではDOCの浄化性能が十分に回復しない例もあり問題となっていた。
【0008】
本発明の目的は、DOCの浄化性能を回復することが可能な洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための発明は、付着物としてリン成分が付着したディーゼル自動車用の酸化触媒装置を、クエン酸を含有する洗浄液に浸漬することにより、当該酸化触媒装置から当該リン成分を除去する、ディーゼル自動車用の酸化触媒装置の洗浄方法である。
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、DOCの浄化性能を回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】表1に示したリン成分及び硫黄成分の除去率と、HCの浄化性能の回復率を示したグラフである。
【
図2A】回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。
【
図2B】洗浄処理した回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。
【
図3A】回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。
【
図3B】洗浄処理した回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。
【
図4】表2に示した温度の変化に伴うリン成分の除去率を示したグラフである。
【
図5】表2に示した温度の変化に伴うHCの浄化性能の回復率を示したグラフである。
【
図6】表2に示した温度の変化に伴う硫黄成分の除去率を示したグラフである。
【
図7】表3に示した洗浄液の温度、及びクエン酸の濃度の変化に伴うリン成分の除去率を示したグラフである。
【
図8】表3に示した洗浄液の温度、及びクエン酸の濃度の変化に伴う硫黄成分の除去率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
本実施形態に係る洗浄方法は、付着物としてリン成分が付着したディーゼル自動車用の酸化触媒装置を、クエン酸を含有する洗浄液に浸漬することにより、当該酸化触媒装置から当該リン成分を除去する。
【0013】
==酸化触媒装置==
酸化触媒装置は、ディーゼル自動車用の装置(DOC)である。本実施形態に係る洗浄方法が実施されるDOCは、所定時間使用された結果(すなわち、ディーゼル自動車が所定距離走行した結果)、浄化性能が基準を満たさなくなったものである。
【0014】
==付着物==
付着物は、ディーゼル自動車の走行に伴ってDOCに付着するものである。付着物が付着することにより、DOCの浄化性能が低下する。本実施形態における付着物は少なくともリン(P)成分を含む。リン成分は、たとえばP2O5(五酸化二リン)のようなリンの酸化物である。
【0015】
付着物は、硫黄(S)成分を含んでいる場合もある。硫黄成分は、たとえばSO3(三酸化硫黄)のような硫黄の酸化物である。
【0016】
==洗浄液==
洗浄液は、水にクエン酸を溶解させたものである。クエン酸の水溶液は毒性が少ないため取扱いが容易である。なお、本実施形態におけるクエン酸は、クエン酸の塩(たとえばクエン酸ナトリウム)を含む。
【0017】
洗浄液は、DOCに付着した付着物を水に可溶化させる役割を果たす。付着物を水に可溶化させることにより、DOCから付着物が除去される。具体的には、付着物がクエン酸と反応して塩や錯体を形成する。そして、その塩や錯体が水中に溶け出すことにより、DOCから除去される。
【0018】
付着物を除去するためには、洗浄液の温度は2~98℃が好ましく、クエン酸の濃度は、0.1~2.0mol/Lであることが好ましい。更に、リン成分を除去するための温度としては、25~98℃がより好ましい。
【0019】
また、洗浄方法を室温で実施する場合、クエン酸の濃度は1.0~2.0mol/Lであることが好ましい。一方、洗浄液の温度を高くすることによりクエン酸の濃度を低くする(すなわち水に添加するクエン酸の量を少なくする)ことができる。具体的には、洗浄液の温度が50℃~80℃の場合、クエン酸の濃度を0.1~1.0mol/Lとすることができる。
【0020】
なお、洗浄液には、付着物を除去する役割を損ねない範囲で、他の任意成分を添加してもよい。
【0021】
==洗浄方法==
本実施形態に係る洗浄方法は、付着物が付着したDOCを、クエン酸を含有する洗浄液に浸漬することにより、DOCからリン成分を除去する。
【0022】
DOCに付着した付着物を除去する場合、洗浄液にDOCを浸漬する。浸漬は、たとえば洗浄液で満たされた容器内にDOCを配することにより行う。洗浄液にDOCを浸漬することで、洗浄液中のクエン酸が付着物と確実に反応し、付着物を水に可溶化させることができる。
【0023】
なお、洗浄液による洗浄が完了したDOCに対して、更に水による洗浄を行うことが好ましい。水による洗浄の方法としては、高圧洗浄機からの水をDOCに直接噴霧する方法等、通常用いられている方法で行うことができる。
【0024】
<実施例1>
DOCによるHCの浄化性能を回復する際のリン成分及び硫黄成分の影響について実験を行った。
【0025】
(DOC)
DOCは、所定期間、走行済みのディーゼル自動車から回収したもの(以下、「回収品(1)」)を使用した。
【0026】
(実験手順)
1.回収品(1)に対し、HCを含む模擬ガスを用いたHCの浄化性能の測定、及び付着物の付着量の定量分析を行った。
2.回収品(1)に対して大気中、700℃×50時間の熱処理を加えた後、HCを含む模擬ガスを用いたHCの浄化性能の測定、及び付着物の付着量の定量分析を行った。
3.熱処理を行った回収品(1)に対してクエン酸を含有する洗浄液(濃度1mol/L)により洗浄処理(80℃の洗浄液に30分浸漬)を行った後、HCを含む模擬ガスを用いたHCの浄化性能の測定、及び付着物の付着量の定量分析を行った。
【0027】
なお、HCの浄化性能の測定は、模擬ガスを使用した触媒反応装置を用いて行った。この例では15%浄化温度を測定した。定量分析は、蛍光X線分析(XRF)により行った。使用した模擬ガスの構成及び条件は、表2に示すとおりである。
【0028】
【0029】
【0030】
表1に示す除去率は、処理の前後で付着物がどれだけ除去できているかを示す割合である。除去率は、以下の式を用いて算出した。除去率は、リン成分(P2O5)及び硫黄成分(SO3)それぞれについて求めた。なお、新品には付着物は無いため、付着量を「0」として計算を行った。また、回収品(1)におけるリン成分の付着量は7.2であり、硫黄成分の付着量は4.9である。
【0031】
除去率(%)=100-((新品と処理後の回収品との付着量の差/新品と回収品との付着量の差)×100)
【0032】
表1に示す回復率は、処理の前後でHCの浄化性能がどれだけ回復しているかを示す割合である。回復率は以下の式を用いて算出した。
【0033】
回復率(%)=100-((新品と処理後の回収品との15%浄化温度の差/新品と回収品との15%浄化温度の差)×100)
【0034】
図1は、表1に示したリン成分及び硫黄成分の除去率と、HCの浄化性能の回復率を示したグラフである。表1及び
図1から明らかなように、熱処理を行うことにより硫黄成分を約76%取り除くことができたが、リン成分を取り除くことはできなかった。また熱処理を行っただけではDOCの浄化性能は回復しなかった。
【0035】
一方、クエン酸を含有する洗浄液による洗浄処理を行った結果、リン成分を取り除くことができ、DOCの浄化性能が大幅に回復した。この結果から、DOCの浄化性能を回復するためには、リン成分を除去することが有効であることが理解できる。
【0036】
なお、表1及び
図1から明らかなように、クエン酸を含有する洗浄液による洗浄処理を行うことにより、リン成分と併せて硫黄成分も取り除くことができる。
【0037】
図2Aは回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。白い部分がリン成分である。一方、
図2Bは洗浄処理した回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。この図からも明らかなように、洗浄液による洗浄処理を行った回収品はリン成分を確実に取り除くことができる。
【0038】
また、
図3Aは回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。白い部分が硫黄成分である。一方、
図3Bは洗浄処理した回収品(1)をSEM/EPMAで測定した写真である。この図からも明らかなように、洗浄液による洗浄処理を行った回収品は硫黄成分を確実に取り除くことができる。
【0039】
<実施例2>
洗浄液の温度について実験を行った。
【0040】
(DOC)
DOCは、所定期間、走行済みのディーゼル自動車から回収したもの(以下、「回収品(2)」)を使用した。回収品(2)は回収品(1)と異なる。
【0041】
(実験手順)
1.回収品(2)の一部をサンプリングした部分に対し、HCを含む模擬ガスを用いたHCの浄化性能の測定、及び付着物の付着量の定量分析を行った。
2.サンプリングした部分に対してクエン酸を含有する洗浄液(濃度1mol/L)により洗浄処理を行った後、HCを含む模擬ガスを用いたHCの浄化性能の測定、及び付着物の付着量の定量分析を行った。
【0042】
この例において、洗浄処理は、洗浄液の温度(2℃、10℃、25℃、50℃、80℃、98℃)を変えて行った。各温度において使用したサンプリングした部分におけるリン成分及び硫黄成分の付着量は表3に示した通りである。
【0043】
なお、HCの浄化性能の測定、及び付着量の定量分析は実施例1と同様の方法により行った。但し、この例では50%浄化温度を測定した。また、除去率及び回復率は実施例1で示した式を用いて算出した。使用した模擬ガスの構成及び条件は、表4に示すとおりである。
【0044】
【0045】
【0046】
図4は、表3に示した温度の変化に伴うリン成分の除去率を示したグラフである。
図5は、表3に示した温度の変化に伴うHCの浄化性能の回復率を示したグラフである。
図6は、表3に示した温度の変化に伴う硫黄成分の除去率を示したグラフである。
【0047】
図4及び
図5から明らかなように、洗浄液の温度が2℃~98℃の範囲において、リン成分を除去することができ、DOCの浄化性能が回復した。また、
図6から明らかなように、洗浄液の温度が2℃~98℃の範囲において、硫黄成分についても除去することができた。
【0048】
<実施例3>
洗浄液の温度と、クエン酸の濃度の関係について実験を行った。
【0049】
(DOC)
DOCは、所定期間、走行済みのディーゼル自動車から回収したもの(以下、「回収品(3)」)を使用した。回収品(3)は回収品(1)及び回収品(2)と異なる。
【0050】
(実験手順)
1.回収品(3)の一部をサンプリングした部分に対し、付着物の付着量の定量分析を行った。
2.サンプリングした部分に対してクエン酸を含有する洗浄液により洗浄処理を行った後、付着物の付着量の定量分析を行った。
【0051】
この例において、洗浄処理は、洗浄液の温度(25℃、50℃、80℃)、及びクエン酸の濃度(0.1mol/L、0.5mol/L、1.0mol/L、1.5mol/L、2.0mol/L)を変えて行った。各温度及び濃度において使用したサンプリングした部分のリン成分及び硫黄成分の付着量は表4に示した通りである。
【0052】
なお、付着量の定量分析は実施例1と同様の方法により行った。また、除去率は実施例1で示した式を用いて算出した。一方、使用した模擬ガスの構成及び条件は、実施例2と同様である。
【0053】
【0054】
図7は、表5に示した洗浄液の温度、及びクエン酸の濃度の変化に伴うリン成分の除去率を示したグラフである。
図8は、表5に示した洗浄液の温度、及びクエン酸の濃度の変化に伴う硫黄成分の除去率を示したグラフである。
【0055】
図7から明らかなように、洗浄液の温度を50℃以上にすることにより、クエン酸の濃度が低い場合であってもリン成分を除去することができた。すなわち、水に対するクエン酸の添加量を抑制できた。一方、クエン酸の濃度を1.0mol/L以上とすることにより、常温であってもリン成分を除去できることが明らかとなった。
【0056】
また
図8から明らかなように、硫黄成分については、洗浄液の温度やクエン酸の濃度の影響を受けることなく除去することができた。
【0057】
上記実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。