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  • 特許-誘発目地材、製造方法、誘発目地構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】誘発目地材、製造方法、誘発目地構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/62 20060101AFI20240415BHJP
   E04B 2/84 20060101ALI20240415BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240415BHJP
   E04G 9/10 20060101ALI20240415BHJP
   E04G 15/06 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
E04B1/62 C
E04B2/84 F
E04B2/56 641A
E04G9/10 104D
E04G15/06 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020035245
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139116
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 信之
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-133664(JP,A)
【文献】特開2013-238073(JP,A)
【文献】特開2008-082126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62
E04B 2/84,2/86
E04B 2/56
E04G 9/10,15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設ける誘発目地構造に用いられる誘発目地材であって、
基面部と、前記基面部の両端からL字状に屈曲して互いに対向配置される側面部とを有し、一枚の金属板をコ字状に折り曲げ加工してなるコ字状の金属板と、前記基面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部と、前記側面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部とを備えることを特徴とする誘発目地材。
【請求項2】
前記基面部は、表面に凹凸を付けた板状部をさらに備え、耐震構造物に適用可能であることを特徴とする請求項1に記載の誘発目地材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘発目地材を製造する方法であって、
一枚の金属板において幅方向に複数の領域を設定し、これらの領域の中から前記ラス部を形成する領域を設定するステップと、所定の領域に対して前記ラス部を形成するステップと、前記ラス部を形成した後、前記金属板をコ字状に折り曲げるステップとを備えることを特徴とする誘発目地材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の誘発目地材を用いた誘発目地構造。
【請求項5】
前記基面部が前記構造物の厚さ方向に沿って設けられることを特徴とする請求項に記載の誘発目地構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘発目地材、誘発目地材の製造方法、誘発目地材を用いた誘発目地構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘発目地材を用いた様々な誘発目地構造が知られている(例えば特許文献1~4を参照)。建築分野では一般的に壁厚の20%以上の誘発目地材を設けた誘発目地構造を使用している。このような誘発目地構造では、安価に収めるため、土木分野のように既製品を使用せず、鉄筋や鉄板、ビニールパイプ等を壁内に設置して形成する場合が多い。図4に、建築分野における従来の誘発目地構造の一例を示す。図4(1)は、鉄筋1を有するコンクリート壁2の目地3に対応する内部の略中央に塩化ビニル管4を立設し、その中にモルタル5を充填した例である。図4(2)は、目地3に対応する内部の壁厚方向に沿ってフラットバー6を配置した例である。
【0003】
一方、薄い鋼板に切れ目を入れ、引き伸ばして網状にすることで得られるメタルラスが知られている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-213937号公報
【文献】特開昭62-117929号公報
【文献】特開2015-021270号公報
【文献】特開2019-031780号公報
【文献】特開平3-210924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、誘発目地位置に確実にひび割れを誘発するには、30%以上の断面欠損率が必要である。しかし、従来の建築分野の誘発目地構造では、経済性、施工性、構造性能を満足しながら30%以上の断面欠損率を確保することは難しかった。このため、30%以上の断面欠損率を確保することのできる施工性、構造性能に優れた安価な構造が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地材、誘発目地材の製造方法、誘発目地材を用いた誘発目地構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る誘発目地材は、構造物に設ける誘発目地構造に用いられる誘発目地材であって、基面部と、基面部の両端からL字状に屈曲して互いに対向配置される側面部とを有するコ字状の金属板と、基面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の誘発目地材は、上述した発明において、側面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の誘発目地材は、上述した発明において、基面部は、表面に凹凸を付けた板状部をさらに備え、耐震構造物に適用可能であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る誘発目地材の製造方法は、上述した誘発目地材を製造する方法であって、一枚の金属板において幅方向に複数の領域を設定し、これらの領域の中からラス部を形成する領域を設定するステップと、所定の領域に対してラス部を形成するステップと、ラス部を形成した後、金属板をコ字状に折り曲げるステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る誘発目地構造は、上述した誘発目地材を用いた誘発目地構造である。
【0012】
また、本発明に係る他の誘発目地構造は、上述した発明において、基面部が構造物の厚さ方向に沿って設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る誘発目地材によれば、構造物に設ける誘発目地構造に用いられる誘発目地材であって、基面部と、基面部の両端からL字状に屈曲して互いに対向配置される側面部とを有するコ字状の金属板と、基面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部とを備えるので、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地材を提供することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の誘発目地材によれば、側面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部をさらに備えるので、側面部を構造物内の鉄筋などに結束することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の誘発目地材によれば、基面部は、表面に凹凸を付けた板状部をさらに備え、耐震構造物に適用可能であるので、断面欠損率を高めながらも耐震壁などの耐震構造物に使用することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る誘発目地材の製造方法によれば、上述した誘発目地材を製造する方法であって、一枚の金属板において幅方向に複数の領域を設定し、これらの領域の中からラス部を形成する領域を設定するステップと、所定の領域に対してラス部を形成するステップと、ラス部を形成した後、金属板をコ字状に折り曲げるステップとを備えるので、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地材を容易に製造することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る誘発目地構造によれば、上述した誘発目地材を用いた誘発目地構造であるので、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地構造を提供することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の誘発目地構造によれば、基面部が構造物の厚さ方向に沿って設けられるので、基面部のラス部によって所定の断面欠損率を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る誘発目地材の実施の形態を示す図であり、(1)は側面図、(2)は平面図である。
図2図2は、本発明に係る誘発目地材の製造方法の実施の形態を示す図である。
図3図3は、本発明に係る誘発目地構造の実施の形態を示す平断面図である。
図4図4は、従来の誘発目地構造の一例を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る誘発目地材、製造方法、誘発目地構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
(誘発目地材)
まず、本発明に係る誘発目地材の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る誘発目地材10は、鉄筋コンクリート壁(構造物)などに設ける誘発目地構造に用いられるものであって、コ字状の鋼板12(金属板)を備える。鋼板12は、例えば、一枚ものの薄い帯状の鉄板をコ字状に折り曲げ加工したもので構成することができる。
【0022】
鋼板12は、基面部14と、基面部14の両端14AからL字状に屈曲して互いに対向配置される側面部16とを有する。基面部14は、網状のラス部18と、板状部20で構成される。側面部は、網状のラス部18のみで構成される。
【0023】
板状部20は、網目を有しない部分であり、未加工の鉄板部分で構成される。この板状部20は、基面部14の両端14A側に帯状に配置される。基面部14のラス部18は、両側の板状部20の間に帯状に隣接配置される。ラス部18は、鉄板に必要な網目の大きさの切込みを一方向に多数切り欠き、切込みの方向に対して直交方向に引っ張ることによって略菱形状の網目を形成したメタルラスにより構成することができる。
【0024】
上記の構成によれば、一枚の鋼板12からなり、ラス部18を介して側面部16をコンクリート壁内の鉄筋などに結束線で結束することができるので、コンクリート打設時にずれるおそれがない。また、安定した形状であるコ字状に加工された誘発目地材10を結束線で固定する簡単な作業により、壁内の所定の位置に設置可能であることから、施工性に優れる。また、基面部14の板状部20の幅方向の長さを適宜設定することによって、30%以上の断面欠損率を容易に確保することが可能である。また、一枚の安価な薄鉄板から製造可能であるため、部材の単価が安く、コストメリットが高い。上記の誘発目地材10に対応する定尺の既製品を製造しておき、半端高さのみ必要なものを作るようにしておけば、製品コストが下がるので、コスト削減効果が得られる。工場でプレカットして搬入すれば、廃材が出ず環境にやさしい。
【0025】
したがって、本実施の形態の誘発目地材10によれば、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地材を提供することができる。
【0026】
上記の実施の形態において、基面部14の板状部20の表面に凹凸部を設けてもよい。このようにすれば構造耐力を向上させることができ、例えば耐震壁に適用可能である。凹凸は、例えばエンボス加工などにより形成することができる。
【0027】
(誘発目地材の製造方法)
次に、本発明に係る誘発目地材の製造方法の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係る誘発目地材の製造方法は、上述した誘発目地材10を製造する方法である。
まず、図2(1)に示すように、一枚の鋼板12を準備する。鋼板12は防錆処理し、あるいはSUSや防錆処理されたZAM材等を使用することが望ましい。続いて、鋼板12において幅方向に複数の領域を設定する。図の例では、複数の分割線22によってA~Eの領域を設定している。そして、これらの領域の中からラス部18を形成する領域を設定する。図の例では、領域A、C、Eをラス部18形成用の領域として設定している。
【0028】
次に、領域A、C、Eに対してラス部18を形成する。この場合、領域A、C、Eに対して必要な網目の大きさの切込みを一方向に多数入れる。残りの領域B、Dについては、切込みを入れず、鋼板のままとする。なお、耐震壁の誘発目地構造に適用する場合は、せん断力を効率よく伝達できるよう、領域B、Dに対しエンボス加工などによって凹凸を付けることが好ましい。
【0029】
次に、図2(2)に示すように、常温引伸切断法などでラス部18を形成する。すなわち、鋼板12を、切込みの方向に対して直交方向に引っ張ることによって領域A、C、Eにラス部18を形成する。これにより、図2(3)に示すような鋼板12が得られる。その後、この鋼板12をコ字状に折り曲げることで、図1に示したような誘発目地材10を製造することができる。
【0030】
以上より、本実施の形態によれば、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地材を容易に製造することができる。
【0031】
(誘発目地構造)
次に、本発明に係る誘発目地構造の実施の形態について説明する。
図3に示すように、本実施の形態に係る誘発目地構造100は、鉄筋コンクリート壁2(構造物)の目地部分に、上述した誘発目地材10を用いた構造である。基面部14は、目地3に対応する内部に壁厚方向に沿って設けられる。側面部16は、壁幅方向に延設する鉄筋1の内側に沿って配置され、結束線などの固定部材24で鉄筋1に結束される。
【0032】
断面欠損率は、以下の式で算定することができる。
断面欠損率=(板状部20の幅方向の長さ+目地3の深さ)/壁厚
【0033】
上記の構成によれば、一枚の鋼板12からなり、ラス部18を介して側面部16をコンクリート壁2内の鉄筋1に結束線などの固定部材24で結束することができるので、コンクリート打設時にずれるおそれがない。また、安定した形状であるコ字状に加工された誘発目地材10を結束線などで固定する簡単な作業により、壁2内の所定の位置に設置可能であることから、施工性に優れる。また、基面部14の板状部20の幅方向の長さを適宜設定することによって、30%以上の断面欠損率を容易に確保することが可能である。また、上述したように、誘発目地材10は安価に得ることができる。
【0034】
したがって、本実施の形態の誘発目地構造100によれば、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地構造を提供することができる。
【0035】
なお、コンクリート壁2に鉄板等を入れた場合、せん断力の伝達が難しくなることがある。このため、せん断力を効率よく伝達できるよう、基面部14の板状部20に対しエンボス加工などによって凹凸を付けることが好ましい。板状部20の表面に凹凸を付ければ、断面欠損率を高めながらも耐震壁に適用できるので効果的である。
【0036】
以上説明したように、本発明に係る誘発目地材によれば、構造物に設ける誘発目地構造に用いられる誘発目地材であって、基面部と、基面部の両端からL字状に屈曲して互いに対向配置される側面部とを有するコ字状の金属板と、基面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部とを備えるので、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地材を提供することができる。
【0037】
また、本発明に係る他の誘発目地材によれば、側面部の少なくとも一部に形成された網状のラス部をさらに備えるので、側面部を構造物内の鉄筋などに結束することができる。
【0038】
また、本発明に係る他の誘発目地材によれば、基面部は、表面に凹凸を付けた板状部をさらに備え、耐震構造物に適用可能であるので、断面欠損率を高めながらも耐震壁などの耐震構造物に使用することができる。
【0039】
また、本発明に係る誘発目地材の製造方法によれば、上述した誘発目地材を製造する方法であって、一枚の金属板において幅方向に複数の領域を設定し、これらの領域の中からラス部を形成する領域を設定するステップと、所定の領域に対してラス部を形成するステップと、ラス部を形成した後、金属板をコ字状に折り曲げるステップとを備えるので、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地材を容易に製造することができる。
【0040】
また、本発明に係る誘発目地構造によれば、上述した誘発目地材を用いた誘発目地構造であるので、施工性、構造性能に優れた安価な誘発目地構造を提供することができる。
【0041】
また、本発明に係る他の誘発目地構造によれば、基面部が構造物の厚さ方向に沿って設けられるので、基面部のラス部によって所定の断面欠損率を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明に係る誘発目地材、製造方法、誘発目地構造は、建築分野で多用される誘発目地構造に有用であり、特に、経済性、施工性、構造性能を満足しながら30%以上の断面欠損率を確保するのに適している。
【符号の説明】
【0043】
1 鉄筋
2 コンクリート壁(構造物)
3 目地
10 誘発目地材
12 鋼板(金属板)
14 基面部
14A 両端
16 側面部
18 ラス部
20 板状部
22 分割線
24 固定部材
100 誘発目地構造
図1
図2
図3
図4