(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20240415BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240415BHJP
C09J 163/02 20060101ALI20240415BHJP
C09J 105/16 20060101ALN20240415BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J163/02
C09J105/16
(21)【出願番号】P 2020039867
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】田中 康裕
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-123636(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168128(WO,A1)
【文献】特開平08-269105(JP,A)
【文献】特開昭60-202115(JP,A)
【文献】特開平09-031162(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129513(WO,A1)
【文献】特開2019-041872(JP,A)
【文献】特開2019-019180(JP,A)
【文献】特表2018-521152(JP,A)
【文献】国際公開第2011/045941(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00-5/10;9/00-201/10
C07D279/00-293/12
C08B1/00-37/18
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物と、からなる包接体と、
エポキシ樹脂と、
塩基解離定数が5.0以下の三級アミンと、
を含有し、
前記シクロデキストリン誘導体は、アルコキシ基と、置換または無置換のアミノ基と、を有
するβ-シクロデキストリン誘導体またはγ-シクロデキストリン誘導体であり、前記ゲスト化合物は、
アダマンチル基を置換基として有するアミノ基を有し、
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、またはジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂であり、
前記包接体の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上2.5質量部以下であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記三級アミンの含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して0.6質量部以上1質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
シクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物と、からなる包接体と、
エポキシ樹脂と、
架橋型硬化剤と、
を含有し、
前記シクロデキストリン誘導体は、アルコキシ基と、置換または無置換のアミノ基と、を有
するβ-シクロデキストリン誘導体またはγ-シクロデキストリン誘導体であり、前記ゲスト化合物は、
アダマンチル基を置換基として有するアミノ基を有し、
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、またはジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂であり、
前記包接体の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量Mと、前記架橋型硬化剤の当量Tの和が150以上であることを特徴とする請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記架橋型硬化剤がチオール系硬化剤であることを特徴とする請求項3または4に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
粘度が15,000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、前記アルコキシ基または前記アミノ基に置換された化合物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンの水酸基の複数が、前記アルコキシ基に置換された化合物であることを特徴とする請求項7に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
前記シクロデキストリン誘導体は、β-シクロデキストリン誘導体であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
前記アルコキシ基は、メトキシ基であることを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
前記ゲスト化合物は、1-アダマンチルアミンであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項13】
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項14】
請求項1乃至
13のいずれか1項に記載の接着剤組成物を硬化してなり、前記包接体により形成された架橋点を有することを特徴とする硬化物。
【請求項15】
厚みが0.1mmの時の破断エネルギーが200MJ/m
3以上であることを特徴とする請求項
14に記載の硬化物。
【請求項16】
筐体と、レンズとを有し、前記筐体と前記レンズの間に請求項
14または
15に記載の硬化物を有することを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエーターの一種である超音波モーターの振動子と圧電素子の接着において、接着層の厚みを薄くする(以下、「薄肉接着」と称する場合がある)ために、接着時に圧電素子側より加圧している。
しかしながら、光学レンズと鏡筒接着の場合にはレンズと鏡筒の隙間へディスペンサーにより接着剤を流し込むだけであるため、圧力がかけられない。従来、光学レンズと鏡筒を保持する接着剤としてはアクリル系の紫外線硬化型接着剤が用いられていた(特許文献1)。
ここで交換レンズの更なる小型化のため、レンズと鏡筒を薄肉接着し、隙間を従来よりも狭くする事により鏡筒の小径化を図っている。薄肉接着のためには、狭い隙間でも接着剤の流し込みが容易であることが要求されることから、接着剤の低粘度化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アクリル系の紫外線硬化型接着剤は粘度が高く、且つ接着力が低いため、薄肉接着するとレンズが鏡筒から脱離する問題があった。
そこで、レンズを鏡筒に薄肉で高強度接着するために、接着剤の粘度が低く、且つ高接着力のエポキシ系接着剤を使用したい。しかしながら、エポキシ接着剤は一般に硬く、脆いため、0.1mm以下で薄肉接着すると接着硬化収縮時の応力が緩和出来ず、クラックのため接着力が低下する課題があった。
そこで、本発明は、低粘度、かつ高強度の薄肉接着が可能な接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の接着剤組成物は、シクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物と、からなる包接体と、
エポキシ樹脂と、
塩基解離定数が5.0以下の三級アミンと、
を含有し、
前記シクロデキストリン誘導体は、アルコキシ基と、置換または無置換のアミノ基と、を有するβ-シクロデキストリン誘導体またはγ-シクロデキストリン誘導体であり、前記ゲスト化合物は、アダマンチル基を置換基として有するアミノ基を有し、
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、またはジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂であり、
前記包接体の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上2.5質量部以下であることを特徴とする。
本発明の第2の接着剤組成物は、シクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物と、からなる包接体と、
エポキシ樹脂と、
架橋型硬化剤と、
を含有し、
前記シクロデキストリン誘導体は、アルコキシ基と、置換または無置換のアミノ基と、を有するβ-シクロデキストリン誘導体またはγ-シクロデキストリン誘導体であり、前記ゲスト化合物は、アダマンチル基を置換基として有するアミノ基を有し、
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、またはジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂であり、
前記包接体の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の接着剤組成物は、低粘度、かつ高強度の薄肉接着が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の接着剤組成物を硬化させた硬化物の架橋部の一例を示す概念図である。
【
図2】本発明の硬化物が発現する高弾性率・高破断エネルギー状態を説明する概念図である。
【
図3】第2の接着剤組成物における、包接体のエポキシ樹脂との反応率を説明する概念図である。
【
図4】本発明の光学機器の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪接着剤組成物≫
<包接体>
包接体は、シクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物と、からなる超分子包接体である。
【0009】
シクロデキストリン誘導体としては、例えば、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体等が挙げられる。シクロデキストリン誘導体としては、ゲスト化合物がアダマンチルアミンである場合、β-シクロデキストリン誘導体が好ましい。
【0010】
シクロデキストリン誘導体は、アルコキシ基と、置換または無置換のアミノ基を有する。一般に、シクロデキストリンとゲスト化合物からなる超分子包接体は、親水性ポリマー中で化学結合するため、シクロデキストリンには水酸基が修飾されており、エポキシ樹脂とは相溶性が良くない。しかし、本発明では、シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部を、アルコキシ基と、置換または無置換のアミノ基に置換することで、エポキシ樹脂との相溶性を向上させている。シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンの水酸基の複数が、アルコキシ基に置換された化合物であることが好ましい。アルコキシ基としては特に限定されないが、エポキシ樹脂との相溶性の観点から、メトキシ基が好ましい。置換または無置換のアミノ基としては特に限定されないが、エポキシ樹脂との反応性の観点から、無置換のアミノ基が好ましい。
【0011】
ゲスト化合物は、置換または無置換のアミノ基を有する。置換または無置換のアミノ基としては特に限定されないが、エポキシ樹脂との反応性の観点から、無置換のアミノ基が好ましい。ゲスト化合物としては、1-アダマンチルアミン等のアダマンチルアミンが好ましい。
【0012】
包接体の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、第1の接着剤組成物では1質量部以上2.5質量部以下、第2の接着剤組成物では0.1質量部以上5.0質量部以下である。包接体の含有量がこの範囲にあることで、低粘度化に優れ、高強度な薄肉接着可能である。一方、包接体の含有量が下限未満であると、包接体の効果が少なくなり接着面が剥離するおそれがある。また包接体の含有量が上限を超えると高粘度化というおそれがある。
【0013】
<エポキシ樹脂>
本発明の接着剤組成物は、主剤であるエポキシ樹脂(プレポリマー)を含有する。エポキシ樹脂としては、硬化剤により重合反応を起こして硬化する材料であればよく、特に限定されない。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、接着強度という観点においては、ビフェニル骨格、ビスフェノール骨格、スチルベン骨格などの剛直構造を主鎖に持つエポキシ樹脂を用いることが好ましい。特に、ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、その中でもビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。ビスフェノール(F型)エポキシ樹脂は、架橋密度が高くなるため、機械的強度が高く、耐薬品性がよく、硬化性が高く、自由体積が小さくなるため吸湿性が小さくなるという特徴があるためである。
【0014】
<硬化剤>
[第1の接着剤組成物]
第1の接着剤組成物は、塩基解離定数(pKb)が5.0以下の三級アミンを含有する。尚、本明細書において、塩基解離定数は、25℃水溶液における第一塩基解離定数(pKb1)を意味する。
【0015】
触媒型硬化剤の塩基解離定数が、包接体の塩基解離定数と大きく離れていると、包接体が混合時に凝集しやすい。包接体が凝集すると、後述する包接体による応力集中緩和効果が得られにくくなり、それを補うために包接体の添加量を増やすと、粘度が高くなる。本発明者らは、包接体が凝集しにくく、粘度の向上を抑制できる方法を検討した結果、触媒型硬化剤として、塩基解離定数が包接体の塩基解離定数に近い三級アミンを用いることで解決できることを見出した。三級アミンの塩基解離定数5.0以下であれば、包接体が均一に分散でき、包接体の添加量を減らして粘度の向上を抑制しつつ、包接体による応力集中緩和効果を十分に得ることができる。
【0016】
塩基解離定数が5.0以下の三級アミンとしては、特に限定されず、一般にエポキシ樹脂の硬化に用いられる汎用性のあるものを用いることができる。具体的には、例えばN-メチルピペリジン(pKb=3.9)、トリエチルアミン(pKb=3.3)、トリブチルアミン(pKb=4.0)、N,N-ジエチルベンジルアミン(pKb=4.7)、N,N’-ジメチルピペラジン(pKb=4.8)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(pKb=5.0)等が挙げられる。
【0017】
三級アミンの含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.6質量部以上1質量部以下であることが好ましい。三級アミンの含有量がこの範囲内であれば、低粘度、かつ高強度の薄肉接着が可能である。
【0018】
[第2の接着剤組成物]
第2の接着剤組成物は、架橋型硬化剤を含有する。架橋型硬化剤は重付加型硬化剤と言うこともできる。
【0019】
硬化剤が触媒型硬化剤の場合、硬化反応はエポキシ樹脂の自己重合反応であるため、硬化剤が骨格に取り込まれる架橋型硬化剤の場合と比較して、反応点周辺の分子サイズが小さい。したがって、包接体のエポキシ樹脂との反応率が低くなるため、多くの量の包接体が必要となり、余剰の包接体が高粘度化の原因となる。本発明者らは、少量の包接体の混合で包接体のエポキシ樹脂との反応率を高める手法について鋭意検討した結果、硬化剤として架橋型硬化剤を用いることで低粘度化が可能となることを見出した。
【0020】
図3は、包接体のエポキシ樹脂との反応率を説明する概念図である。
図3において
、3aは包接体、4aはエポキシ樹脂、4bは架橋型硬化剤である。包接体3aを構成するβ-シクロデキストリン誘導体の分子サイズ(空洞高)は約1.0nmであり、β-シクロデキストリンの分子量は1134.99である。
図3に示すようにエポキシ樹脂4aと架橋型硬化剤4bの結合部位(反応点)に包接体3aを結合させるためには、1個あたり0.36nmの分子サイズを有するベンゼン環で考えると、ベンゼン環3個分以上が必要となる。硬化剤として架橋型硬化剤を用いる事で包接体3aがエポキシ樹脂4aと反応する確率が高まる事が鋭意検討の結果明らかとなった。
【0021】
ここで、当量を用いて反応点周辺の分子サイズを定義すると、エポキシ樹脂であるビスフェノールFジグリシジルエーテルの分子量は312であり、エポキシ基を二個有するため、エポキシ当量M(エポキシ基1つ当たりの分子量)は156となる。
【0022】
架橋型硬化剤としてチオール系、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)を用いた場合、分子量が544.76でチオール基を4個有するため、架橋型硬化剤の当量T(チオール当量)は136.19である。エポキシ当量Mと架橋型硬化剤の当量Tの和は292.19であり、包接体が入り込みやすくなることから、包接体とエポキシ樹脂の反応率は高くなる。
【0023】
またポリアミン系の架橋型硬化剤として、メタキシレンジアミンを用いた場合、架橋型硬化剤の当量T(活性水素当量)が80であり、エポキシ当量Mと架橋型硬化剤の当量Tの和は235である。また、酸無水物系の架橋型硬化剤として、3or4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸を用いた場合、架橋型硬化剤の当量T(酸無水物当量)が90であり、エポキシ当量Mと架橋型硬化剤の当量Tの和は246である。
【0024】
エポキシ樹脂のエポキシ当量Mと、架橋型硬化剤の当量Tの和が150以上であれば、包接体のエポキシ樹脂との反応率は高くなり、少ない量で効果を示すことができ、好ましい。
【0025】
架橋型硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化に用いられる汎用性のあるものを用いることができる。また、硬化剤は硬化促進剤を含んでもよい。例えば、チオール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、等が挙げられる。
【0026】
チオール系硬化剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(β-チオプロピオネート)、ジペンタエリスリトールポリ(β-チオプロピオネート)等のポリオールとメルカプト有機酸のエステル化反応によって得られるチオール化合物や、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,10-デカンジチオール等のアルキルポリチオール化合物、末端チオール基含有ポリエーテル、末端チオール基含有ポリチオエーテル、エポキシ化合物と硫化水素の反応によって得られるチオール化合物、ポリチオールとエポキシ化合物との反応によって得られる末端チオール基を有するチオール化合物等が挙げられる。
【0027】
アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシレリレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物等が挙げられる。
【0028】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の芳香族酸無水物等が挙げられる。
【0029】
フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0030】
架橋型硬化剤の含有量は、特に限定されないが、化学量論的に当量となる量であることが好ましい。架橋型硬化剤の含有量が化学量論的に当量であれば、低粘度、かつ高強度の薄肉接着が可能である。
【0031】
<粘度>
接着剤組成物の25℃での粘度は、特に限定されないが、15,000mPa・s以下であることが好ましい。粘度がこの範囲内であれば、低粘度、かつ高強度の薄肉接着が可能である。
【0032】
<接着剤組成物の製造方法>
本発明の接着剤組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の様に製造することができる。
【0033】
まず、超分子包接体は、シクロデキストリン誘導体とゲスト化合物を、水中にて、例えば1:1のモル比で攪拌し、ろ液を乾燥することで、粉体状の超分子包接体を製造することができる。
【0034】
続いて、超分子包接体と硬化剤を同一容器内に投入し、超分子包接体が分散するまで、遠心処理を行う。遠心処理は例えば、小型超遠心機(「CS150GX」日立工機社製)を用いることができる。遠心処理後、超分子包接体含有の硬化剤と、エポキシ樹脂を混合・脱泡し、接着剤組成物を製造することができる。混合・脱泡は、例えば、遊星回転装置(「AR-100」シンキー製)を用いることができる。
【0035】
また、超分子包接体とエポキシ樹脂と硬化剤を同一容器内に投入し、超分子包接体が分散するまで、遠心処理を行って、接着剤組成物を製造することもできる。
【0036】
≪硬化物≫
本発明の硬化物は、本発明の接着剤組成物を硬化してなり、包接体により形成された架橋点を有する。
【0037】
図1は、本発明の接着剤組成物を硬化させた硬化物の架橋部の一例を示す概念図である。
図2は、本発明の硬化物が発現する高弾性率・高破断エネルギー状態を説明する概念図である。
図1,2において、1はシクロデキストリン誘導体、2はゲスト化合物(本例では1-アダマンチルアミン)、3は非共有結合による架橋点、4は鎖状高分子、5は共有結合による架橋点である。
図1に示す様に、非共有結合による架橋点3は、シクロデキストリン誘導体1とゲスト化合物2からなる超分子包接体により形成されている。また、
図2に示す様に、本発明の硬化物では、鎖状高分子4同士を、非共有結合による架橋点3と、共有結合による架橋点5と、により架橋した三次元網目構造が形成されている。
【0038】
従来の硬化物では、機械強度等を高めるために、鎖状高分子同士を、共有結合による架橋点により架橋した三次元網目構造が形成されている。従来の硬化物に応力が加わると、応力は三次元網目の短い部分(共有結合による架橋点)に集中しやすいため、破損が生じやすい。そして、共有結合による架橋点の結合が一度切断されると元に戻らないため、破断エネルギーは低い。
【0039】
本発明の硬化物は、共有結合による架橋点5に加えて、非共有結合による架橋点3を持つため、
図2(a)に示す様に、外力を加えた際に、ホスト化合物であるシクロデキストリン誘導体1が、ゲスト化合物2から外れ、応力集中を緩和する効果がある。更に、
図2(b)に示す様に、外力を除荷すると、外れたシクロデキストリン誘導体1とゲスト化合物2は再度超分子包接体となり、非共有結合による架橋点3を形成する。このように、非共有結合による架橋点3が緩衝作用を有することにより、高弾性率及び高破断エネルギーの硬化物となっている。すなわち、従来のエポキシ接着剤と同等の弾性率を有しながらも破断エネルギーを増加させ、靭性を向上させた硬化物となる。
【0040】
硬化物は、厚みが0.1mmの時の破断エネルギーが200MJ/m3以上であることが好ましい。破断エネルギーがこの範囲内であれば、高強度の薄肉接着が可能である。
【0041】
≪光学機器≫
本発明の接着剤組成物は、光学機器用の接着剤として好適に用いることができ、例えば、レンズと鏡筒の薄肉接着等に用いることが出来る。
【0042】
本発明の光学機器は、筐体と、レンズとを有し、筐体とレンズの間に本発明の硬化物を有する。
図4は、本発明の光学機器の一例を示す概略断面図である。
図4の光学機器は、筐体である鏡筒6と、レンズである光学レンズ7を有し、鏡筒6と光学レンズ7の隙間に、本発明の接着剤組成物を充填して硬化させた接着部8を有する。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の効果を実施例と比較例により具体的に説明する。
【0044】
≪実施例1(第1の接着剤組成物)≫
実施例・比較例で用いた化合物、評価方法は以下の通りである。
【0045】
<化合物>
[エポキシ樹脂(二液加熱硬化型接着剤の主剤)]
エポキシ樹脂1A:ビスフェノールF型エポキシ樹脂
[硬化剤(二液加熱硬化型接着剤の硬化剤)]
硬化剤1A:N,N-ジエチルベンジルアミン(東京化成工業製、PKb=4.7)
硬化剤1B:2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(PKb=5.0)
【0046】
<超分子包接体の合成>
β-シクロデキストリンの水酸基のうち、20個がメトキシ基、1個がアミノ基に置換されたβ-シクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物である1-アダマンチルアミンを1:1のモル比で撹拌子の入った50mLのナスフラスコに入れ、水を添加した。湯浴を用いて加熱して撹拌した後に、得られた溶液を湯浴から外して室温に戻した後に、ろ過を行った。得られたろ液を乾燥することで、超分子包接体(pKb=3.1)を得た。
【0047】
<評価方法>
[粘度]
接着剤組成物の粘度は粘度計を用いて評価した。装置は、東機産業製のコーン/プレート型粘度計(型式:TV-25)を用いた。ローターは3°×R14を使用し、回転速度が10rpm、測定温度が25±1℃の条件で測定した。
【0048】
[充填性]
薄肉接着の評価として、
図4に示すように鏡筒6と光学レンズ7の隙間に対する接着剤組成物の充填性を評価した。具体的には、まず接着剤組成物を容量5cm
3のシリンジに入れ、ディスペンサー塗布装置にセットする。シリンジに取り付けるノズル径は、鏡筒6と光学レンズ7の隙間0.1mmに入るように、外径0.08mm、内径0.05mmとし、塗布量はディスペンサーのエアー圧と時間により調整した。予め接着剤組成物の充填量を計算し、充填量が計算値通りの場合を「A」とし、計算値より少なかった場合を「B」とした。
【0049】
[接着力]
薄肉接着時の接着力の評価は耐衝撃試験により行った。評価用サンプルとしては鏡筒部材として用いられるポリカーボネート板と、光学用レンズ材として用いられるガラス板を用いた。ガラス板の接着側の面には予め内面反射防止塗料(「GT-7II」、キヤノンオプトロン製)が塗膜形成されている。ポリカーボネート板とガラス板に、接着層の厚みが0.1mmになるように接着剤組成物を塗布した後、予め80℃に設定している恒温乾燥機中に投入し、接着層を硬化させた。接着層の硬化条件は80℃で30分である。恒温乾燥機から取り出した後、耐衝撃試験を行った。試験条件としては、振子式衝撃試験機を用い、400Gの衝撃を10回与えた後の接着部の剥離状態を観察した。接着部の剥離が無い場合を「A」、剥離が生じた場合を「B」とした。
【0050】
<実施例1-1>
超分子包接体1質量部(1.0g)を遠心分離機用の100mlチューブに投入し、その後、硬化剤1A0.6質量部(0.6g)を同じチューブに投入した。スパチュラを用いて軽く撹拌した後、小型超遠心機(日立工機社製「CS150GX」)にチューブをセットした。超分子包接体を均一分散させるため、13,000rpmで1時間遠心処理を行った。遠心処理後、得られた超分子包接体含有の硬化剤1Aと、主剤であるエポキシ樹脂1A100質量部(100g)を遊星回転装置(「AR-100」シンキー製)により、3分間混合・脱泡を行い、接着剤組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0051】
<実施例1-2、比較例1-1、比較例1-2>
配合を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1-1と同様にして、接着剤組成物を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
≪実施例2(第2の接着剤組成物)≫
実施例・比較例で用いた化合物、評価方法は以下の通りである。
【0054】
<化合物>
[一液加熱硬化型エポキシ接着剤]
ビスフェノールF型エポキシ樹脂とチオール系の架橋型硬化剤からなる一液加熱硬化型接着剤(「WR9152D3S」協立化学社製)
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂2A:ビスフェノールF型エポキシ樹脂
[触媒型硬化剤]
硬化剤2A:イミダゾール系硬化剤
<超分子包接体の合成>
実施例1と同様にして超分子包接体を得た。超分子包接体の分子サイズ(空洞高)は約1.0nmであった。
【0055】
<評価方法>
[粘度]
実施例1と同様にして粘度を評価した。
【0056】
[充填性]
実施例1と同様にして充填性を評価した。
【0057】
[接着力]
接着層の硬化条件を120℃で30分に変更した以外は、実施例1と同様にして評価用サンプルを作製した。400Gの衝撃を10回与えた後に接着部の剥離状態を確認し、さらに800Gの衝撃を5回与え、実施例1と同様に評価した。
【0058】
<実施例2-1>
超分子包接体0.1質量部(0.01g)を遠心分離機用の100mlチューブに投入し、その後、エポキシ樹脂100質量部相当の一液加熱硬化型エポキシ接着剤を同じチューブに投入した。スパチュラを用いて軽く撹拌したあと、実施例1と同じ小型超遠心機にチューブをセットした。超分子包接体を均一分散させるため、13,000rpmで1時間遠心処理を行い、接着剤組成物を得た。評価結果を表2に示す。
【0059】
<実施例2-2>
配合を表2に示す通りに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、接着剤組成物を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0060】
<比較例2-1>
一液加熱硬化型エポキシ接着剤に代えて、エポキシ樹脂2A100質量部(10g)と硬化剤2A5質量部(0.5g)を軽く撹拌してチューブに投入し、包接体の配合量を表2に示す通りに変更した。それ以外は、実施例2-1と同様にして、接着剤組成物を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0061】
<比較例2-2>
一液加熱硬化型エポキシ接着剤に代えて、エポキシ樹脂2A100質量部(10g)と硬化剤2A1質量部(0.1g)を軽く撹拌してチューブに投入した以外は、実施例2-1と同様にして、接着剤組成物を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0062】
【符号の説明】
【0063】
1:シクロデキストリン誘導体、2:ゲスト化合物、3:非共有結合による架橋点、3a:包接体、4:鎖状高分子、4a:エポキシ樹脂、4b:架橋型硬化剤、5:共有結合による架橋点、6:鏡筒、7:光学レンズ、8:接着部