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特許7471896インバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240415BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020070465
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021168544
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 健志
(72)【発明者】
【氏名】角藤 清隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 拓真
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-042339(JP,A)
【文献】特開平08-035711(JP,A)
【文献】特開2008-141856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/08
H02P 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータにより駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する設定部と、
周期の異なる複数の波形要素を組み合わせて前記キャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成するキャリア波生成部と、
前記キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式により前記インバータに対するPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
を備え
前記キャリア波生成部は、所定の発生確率に応じて各前記波形要素を組み合わせて前記キャリア波を生成するインバータ制御装置。
【請求項2】
前記キャリア波生成部は、各前記波形要素に対応する周波数に基づいて確率が設定された前記発生確率を用い、各前記波形要素を組み合わせて各前記波形要素の発生時間を均等化するように構成された前記キャリア波を生成する請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記キャリア波生成部は、各前記波形要素に対応する周波数に基づいて確率が設定された前記発生確率、または、前記インバータの出力側に設けられた構造体の共振特性に基づいて設定された前記発生確率に基づき、周期の異なる前記波形要素の立ち上がりと立ち下がりとで構成された変形波形要素を用いて前記キャリア波を生成する請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記キャリア波生成部は、前記インバータの出力側に設けられた構造体の共振特性に基づいて設定された前記発生確率に応じて、各前記波形要素を組み合わせて前記キャリア波を生成する請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記回転数に応じて前記モータに流れる電流基本波成分の周期と、前記キャリア周期との比率が、整数を含む所定の数値範囲内とならないように、前記キャリア周期を設定する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記数値範囲は、前記整数に対して0.3を加減算した範囲である請求項に記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
圧縮機モータを駆動するインバータと、
請求項1からのいずれか1項に記載のインバータ制御装置と、
を備えるモータ駆動装置。
【請求項8】
インバータにより駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する工程と、
周期の異なる複数の波形要素を組み合わせて前記キャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成する工程と、
前記キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式により前記インバータに対するPWM信号を生成する工程と、
を有し、
前記キャリア波を生成する工程は、所定の発生確率に応じて各前記波形要素を組み合わせて前記キャリア波を生成する、コンピュータが実行するインバータ制御方法。
【請求項9】
インバータにより駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する処理と、
周期の異なる複数の波形要素を組み合わせて前記キャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成する処理と、
前記キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式により前記インバータに対するPWM信号を生成する処理と、を有し、
前記キャリア波を生成する処理は、所定の発生確率に応じて各前記波形要素を組み合わせて前記キャリア波を生成する、
コンピュータに実行させるためのインバータ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機に搭載される圧縮機のモータは、インバータにより制御されている。インバータは、キャリア波を用いて生成されたPWM信号により制御されている(PWM制御)。
【0003】
特許文献1では、商用電源の電圧等によってキャリア周波数を切り替えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4352883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、キャリア波を用いてPWM信号を生成する場合には、インバータから出力される電流において、キャリア波の周波数に起因した高周波リップル成分が含まれる。このため、該電流が流入するモータにおいて、電磁的または振動的な音(キャリア音)が発生する場合がある。特に、キャリア周波数は数kHz程度である場合が多く、人間が感知し易いことがわかっている。
【0006】
特許文献1では、商用電源の電圧等によりキャリア周波数を切り替えているものの、一定の動作条件(例えば商用電源の電圧が一定の場合)では一定のキャリア周波数が用いられるため、依然としてキャリア音を十分に抑制できず、ユーザーに不快感を与えかねない。
【0007】
また、インバータが駆動するモータでは、モータ回転数に応じて共振動作が生じる可能性のある周波数があり、キャリア周波数が該周波数と整数倍関係にある場合には共振による騒音であるうなり音が発生する場合がある。
【0008】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、聴感改善を図ることのできるインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1態様に係るインバータ制御装置は、インバータにより駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する設定部と、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせて前記キャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成するキャリア波生成部と、前記キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式により前記インバータに対するPWM信号を生成するPWM信号生成部と、を備え、前記キャリア波生成部は、所定の発生確率に応じて各前記波形要素を組み合わせて前記キャリア波を生成する
【0010】
本開示の第2態様に係るインバータ制御方法は、インバータにより駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する工程と、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせて前記キャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成する工程と、前記キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式により前記インバータに対するPWM信号を生成する工程と、を有し、前記キャリア波を生成する工程は、所定の発生確率に応じて各前記波形要素を組み合わせて前記キャリア波を生成する、コンピュータが実行する
【0011】
本開示の第3態様に係るインバータ制御プログラムは、インバータにより駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する処理と、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせて前記キャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成する処理と、前記キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式により前記インバータに対するPWM信号を生成する処理と、を有し、前記キャリア波を生成する処理は、所定の発生確率に応じて各前記波形要素を組み合わせて前記キャリア波を生成し、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、聴感改善を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の第1実施形態に係る空気調和機におけるモータ駆動装置の概略構成を示す図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る空気調和機におけるモータ駆動装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】本開示の第1実施形態に係るインバータ制御装置が備える機能を示した機能ブロック図である。
図4】本開示の第1実施形態に係るキャリア周期の変更例を示した図である。
図5】本開示の第1実施形態に係る空気調和機におけるモータ駆動装置の概略構成を示す図である。
図6】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図7】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図8】本開示の第1実施形態に係るPWM信号の状態例を示す図である。
図9】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図10】本開示の第1実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図11】本開示の第1実施形態に係るインバータ制御装置によるPWM信号生成処理のフローチャートを示した図である。
図12】本開示の第1実施形態に係るPWM信号生成処理の効果を示した図である。
図13】本開示の第2実施形態に係る発生確率の設定例を示す図である。
図14】本開示の第2実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図15】本開示の第3実施形態に係るキャリア波の構成例を示す図である。
図16】本開示の第4実施形態に係る共振特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
以下に、本開示に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムの第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(モータ駆動装置の構成)
図1は、本開示の第1実施形態に係る空気調和機におけるモータ駆動装置1の概略構成を示す図である。なお、図1では、インバータ8により圧縮機のモータを駆動する場合について説明するが、本実施形態におけるインバータ制御装置20は、インバータ8をPWM制御して負荷を駆動する装置であれば上記に限定されず適用することが可能である。
【0016】
図1では、圧縮機モータ(圧縮機を駆動するモータ)9を駆動するモータ駆動装置1の概略構成を示している。
【0017】
モータ駆動装置1では、交流電源4から供給される電力に基づいて圧縮機のモータを駆動している。具体的には、モータ駆動装置1は、交流電源4に対してコンバータ及びインバータ8が接続されている。コンバータは、交流電源4から供給される交流電圧を整流して直流電圧へ変換する装置である。このため、コンバータは、例えば、整流回路5と、インダクタンス部6と、コンデンサ部7とを有している。
【0018】
整流回路5は、交流電源4に対して並列接続されており、交流電源4より供給された交流電圧を整流する。例えば、整流回路5は、ダイオードを用いたブリッジ整流回路等で構成され、交流電源4から供給された交流電圧を全波整流する。なお、整流方式については、半波整流等の他の整流方式としてもよい。
【0019】
インダクタンス部6は、整流回路5の出力側の正極直流電路に直列接続されている。なお、インダクタンス部6は、整流回路5の出力側の負極直流電路に直列接続されることとしてもよい。コンデンサ部7は、インダクタンス部6を介して、整流回路5に並列に接続されている。整流回路5から出力された電圧は整流されているものの、脈流している(高周波成分を含んでいる)ため、整流回路5の出力側にインダクタンス部6及びコンデンサ部7を設けることによって、脈流成分を抑制し、平滑化する。
【0020】
コンバータでは、整流回路5、インダクタンス部6、及びコンデンサ部7によって直流電圧を生成し、インバータ8へ出力する。
【0021】
インバータ8は、コンバータより供給された直流電圧に基づいて三相交流電圧を生成し、圧縮機モータ(負荷)9を駆動する。インバータ8は、例えば、6個のスイッチング素子により構成されるブリッジ回路であり、各スイッチング素子が後述するインバータ制御装置20から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング制御される。なお、インバータ8は、駆動する負荷に応じて、単相型としてもよいし、多相型としてもよい。
【0022】
インバータ制御装置20は、PWM信号を生成し、インバータ8を制御する。
【0023】
(インバータ制御装置のハードウェア構成図)
図2は、本実施形態に係るインバータ制御装置20のハードウェア構成の一例を示した図である。
図2に示すように、インバータ制御装置20は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU11と、CPU11が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)12と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)13と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)14と、ネットワーク等に接続するための通信部15とを備えている。これら各部は、バス18を介して接続されている。
【0024】
また、インバータ制御装置20は、キーボードやマウス等からなる入力部や、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部などを備えていてもよい。
【0025】
なお、CPU11が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM12に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0026】
後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式でハードディスクドライブ14等に記録されており、このプログラムをCPU11がRAM13等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROM12やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0027】
(インバータ制御装置の機能構成図)
図3は、インバータ制御装置20が備える機能を示した機能ブロック図である。図3に示されるように、インバータ制御装置20は、取得部21と、設定部25と、キャリア波生成部23と、PWM信号生成部22とを備えている。
【0028】
取得部21は、インバータ8における所定位置の電流を取得する。具体的には、取得部21は、電流センサ24によって検出された電流情報を取得する。図1は、電流検出方法として1シャント方式を用いた場合を例示している。すなわち、図1では、インバータ8に流れる電流(各相電流の合成電流)が電流センサ24によって検出され、取得部21に出力される。すなわち、取得部21は、各相電流の合成電流を取得する。なお、本実施形態では、インバータ8を多相型としているため、取得部21は、各相電流の合成電流を取得しているが、インバータ8が単相型である場合には、取得部21は電流センサ24によって該相の電流自体を検出する。
【0029】
取得部21は、各相電流の合成電流の検出結果から、各相の電流(Iu、Iv、Iw)を算出する。具体的には、取得部21は、取得した合成電流と、後述するPWM信号生成部22において生成されたPWM信号とに基づいて、各相電流(Iu、Iv、Iw)を算出し、PWM信号生成部22へ出力する。なお、合成電流から各相電流を算出することができれば、PWM信号に基づかなくてもよい。
【0030】
なお、電流検出方法として3シャント方式を用いる場合には、モータ駆動装置1は、図5のような構成となる。すなわち、インバータ8の出力位置における各相に対応した電流が電流センサ24によって検出され、取得部21に出力される。すなわち、取得部21では、各相電流を取得することができる。このため、取得部21は、取得した各相電流を、PWM信号生成部22へ出力する。
【0031】
なお、電流の取得方法については、各相電流を取得することができれば、上記のような1シャント方式や3シャント方式に限定されない。
【0032】
設定部25は、インバータ8により駆動される圧縮機モータ9の回転数に基づいてキャリア周期を設定する。具体的には、設定部25は、回転数に応じて圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率が、整数を含む所定の数値範囲内とならないように、キャリア周期を設定する。
【0033】
キャリア波(周波数拡散キャリア波)は、後述するように一定の波形を一定の周期で繰り返す周期波形となる。例えば、後述するように、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、8kHz(fe)の各波形要素を3回連続して構成する場合(図7)には、キャリア波の1周期は、(0.317msec×3)+(0.25msec×3)+(0.2msec×3)+(0.159msec×3)+(0.125msec×3)=3.153msecとなる。
【0034】
一方で、インバータ8により駆動される圧縮機モータ9は、回転数をN[rpm]とし、極数をP[-]とすると、圧縮機モータ9に流れる電流の基本波成分の周波数feは、fe=(N×P)/120となる。なお、周期Teは、周波数feの逆数であるため、Te=120/(N×P)となる。例えば、回転数が1600[rpm]、極数が6である場合には、周期Te=120/(1600×6)=12.5msecとなる。
【0035】
すなわち、圧縮機モータ9が、周期Te=12.5msecとなる運転状態である場合において、キャリア周期が3.153msecとなっていると、圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率が、ほぼ整数倍となる(12.5msec/3.153msec≒4)。このように、圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率が、ほぼ整数倍となる場合には、共振動作によるうなり音が発生する場合がある。
【0036】
なお、圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率とは、圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期及びキャリア周期のうち、値の小さい方に対する値の大きい方の比率である。すなわち、圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期:キャリア周期が、1:n(nは整数)となってもよいし、n:1(nは整数)となってもよい。また、周波数は周期の逆数の関係にあるため、周波数として考えた場合であっても同様である。
【0037】
圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率が整数に近い場合には、共振動作によるうなり音が発生する可能性があるため、設定部25では、うなり音が発生しないように、後述するキャリア波生成部23で生成されるキャリア波の周期であるキャリア周期を設定する。
【0038】
キャリア周期を設定するために、設定部25では、圧縮機モータ9の回転数を取得する。なお、極数については構成されている圧縮機モータ9の仕様により予め設定されている。そして、設定部25では、所定の演算式(Te=120/(N×P))を用いて圧縮機モータ9に流れる電流の基本波成分の周期を演算する。
【0039】
そして、設定部25は、回転数に応じて圧縮機モータ9に流れる電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率が、整数を含む所定の数値範囲内とならないように、キャリア周期を設定する。すなわち、電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率が整数倍(整数に近い値の倍数)とならないように、キャリア周期が設定される。所定の数値範囲は、整数を含んでおり、整数に所定の余裕度を加味して設定された数値範囲である。すなわち、数値範囲は、各整数に対して設けられており、各整数の近傍を示す範囲である。例えば、所定の余裕度は0.3と設定される。この場合には、数値範囲は、整数に対して0.3を加減算した範囲に設定される。具体的には、整数を1、2、3、4、5・・・とすると、数値範囲は、0.7以上1.3以下の範囲、1.7以上2.3以下の範囲、2.7以上3.3以下の範囲、3.7以上4.3以下の範囲、4.7以上5.3以下の範囲等と設定される。換言すると、比率の小数点部分が0.5程度となるように、キャリア周期が設定される。
【0040】
なお、数値範囲における余裕度については、0.5よりも小さい値であれば適切に設定することができ、共振特性に応じて、0.1等としてもよい。また、整数に対する数値範囲は、所定の余裕度を加減算する方法に限定されず、整数を含んで設定されればよい。
【0041】
設定部は、演算した電流の基本波成分の周期に対して、数値範囲内とならないようなキャリア周期を設定する。例えば、各波形要素の組み合わせた複数の波形パターンに対応したキャリア周期を用意しておき、複数のキャリア周期の中から、電流の基本波成分の周期に対して数値範囲とならないキャリア周期を設定する。また、設定部は、電流の基本波成分の周期に対して数値範囲とならないキャリア周期の範囲(キャリア周期範囲)を設定することとしてもよい。
【0042】
キャリア周期の設定方法については、電流の基本波成分の周期に対して数値範囲とならないキャリア周期が設定されれば、上記に限定されない。
【0043】
図4は、キャリア周期の変更例を示した図である。図4では、縦軸を周波数及び比率とし、横軸を圧縮機モータ9の回転数としている。なお、図4では、キャリア周期をキャリア周波数(キャリア周期の逆数)fhとして示している。また、電流基本波成分の周期は周波数fiとして示している。また、図4では、比率に対して整数をN1及びN2として例示している。図4のように、極数は圧縮機モータ9の仕様によって一定であるため、回転数によって電流基本波成分の周波数fiが変化する。このように電流基本波成分の周波数fiが変化すると、キャリア周波数fhが一定の場合には比率(この場合には電流基本波成分の周波数に対するキャリア周波数の比率)Rが低下し、整数(図4のN1)に近づく。そして、比率Rが所定の数値範囲に達すると、うなり音が発生する可能性があるため、キャリア周波数(キャリア周期)fhが変更される。このように適切にキャリア周期が設定されるため、比率Rを所定の数値範囲外(すなわち、ある整数に対応する数値範囲と一つ大きな値である整数に対応する数値範囲との間の領域)とすることができる。このため、うなり音の発生を抑制することができる。
【0044】
キャリア波生成部23は、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせて前記キャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波(周波数拡散キャリア波)を生成する。すなわち、キャリア波生成部23は、周期が異なる各波形要素を組み合わせることによって、長さ(期間)が、設定されたキャリア周期となるように波形を構成し、該波形を1周期分の波形として繰り返すことによって、周期波形であるキャリア波生成する。すなわち、キャリア波は、各波形要素の組み合わせ波形がキャリア周期で繰り返される波形となる。なお、各波形要素を組み合わせた波形の長さは、キャリア周期と一致することが好ましいが、比率が、整数を含む所定の数値範囲内でなければキャリア周期に近い値とすることも可能である。キャリア波は、PWM信号を生成する上で、後述する変調波と比較される信号である。本実施形態では、キャリア波として三角波を用いる場合について説明するが、のこぎり波等の他の波形のキャリア波を用いることとしてもよい。
【0045】
周期の異なる複数の波形要素とは、予め選定された複数種類の周期波形における1周期分の波形である。すなわち、波形要素は、複数の周期(周波数)に対応して設けられている。例えば、周期波形が三角波である場合には、三角形状の波形が一定の周期で繰り返されるが、該三角形状の波形(1周期分の波形)が、該周期(周波数)に対応した波形要素となる。本実施形態において、キャリア波生成部23には、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、8kHz(fe)に対応した5種類の周波数(キャリア周波数)の波形要素が設定されているものとする。なお、キャリア波の周波数に起因してキャリア音(キャリア波の周波数に起因して発生する電磁騒音)が発生する。このため、キャリア波を構成する波形要素の周期は、インバータ8の出力側に設けられた構造体(例えば、圧縮機や圧縮機モータ9)の共振特性に基づいて選定されることとしてもよい。
【0046】
キャリア波生成部23は、複数種類の周期に対応する各波形要素を組み合わせることによって、キャリア波を生成する。すなわち、キャリア波が、一定の波形形状が一定周期で繰り返される波形でなくなるため、ある特定の周波数でキャリア音が大きくなることを抑制することができる。
【0047】
特定の周波数に大きなキャリア音を発生させないためには、キャリア波は、なるべく多くの周期に対応した波形要素が分散して組み合わされることが好ましい。すなわち、隣り合う波形要素は、それぞれ周期が異なることが好ましい。しかしながら、等しい周期の波形要素を複数連続して構成する場合であっても、連続数を少なく設定することで、キャリア音の周波数分散を行うことができる。
【0048】
等しい周期の波形要素の連続数については、例えば電流値取得に影響を受ける。なお、本実施形態では、電流取得を一例として説明するが、等しい周期の波形要素の連続数に影響を与える要因であれば電流取得に限定されない。電流取得とは、具体的には、1シャント方式や3シャント方式である。図1に示す構成は、1シャント方式である。そして、図5に示す方式は、3シャント方式である。すなわち、3シャント方式は、各相電流を直接的に取得可能な方法であり、1シャント方式は、各相電流の合成電流を取得する方法である。
【0049】
図6及び図7は、電流検出方式が1シャント方式(図1)に対応した場合のキャリア波の構成例である。1シャント方式では、各相電流の合成電流を検出しているため、3シャント方式と比較して検出に時間を要する場合がある。具体的には、1シャント方式では、まず電流の読み取りタイミングを決定し(第1周期)、電流の読み取りを実行し(第2周期)、その後、例えば読み取った電流に基づき制御(PWM制御)を行う(第3周期)。図8は、各相のPWM信号の変化状態を例示した図である。図8では、縦軸を各信号の値(電圧値)とし、横軸を時間としている。図8のように、キャリア波における1周期のうちに各相のPWM信号は変化し、信号状態によって、1シャント方式で取得可能な電流は異なる。図8では、1周期のうちにu相の電流(Iu)とw相の電流(-Iw)が現れる場合(モード)を例示しており、モードはキャリア波と変調波との関係によって異なるため、各周期で変化する(図8はモードの一例)。すなわち、A及びDのタイミングで電流センサ24よりIuが取得でき、B及びCのタイミングで電流センサ24より-Iwが取得できる。このため、1シャント方式では、まず次の周期におけるモード(どのタイミングで何の相の電流が検出可能か)を決定し(第1周期)、次の周期において決定したタイミングで電流を検出する(第2周期)。そして、次の周期で、取得した電流に基づいて制御を行う(第3周期)。そして、次の周期で再度第1周期の処理が行われる。このように、1シャント方式では、電流の取得から制御まで行う場合には、第1周期、第2周期、及び第3周期(3周期分)が必要となる。このため、1シャント方式においてキャリア波を生成する場合には、等しい周期の波形要素を3回連続して構成することによって、第1周期、第2周期、及び第3周期(3周期分)を確保して処理を行うことが可能となる。また、3周期分は等しい周期を用いるため、制御の複雑化を抑制することができる。
【0050】
図6は、3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素を用いてキャリア波を構成した例である。3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の各波形要素が3つ連続して構成されている。図6では、キャリア波におけるキャリア周期はT1となっている。すなわち、キャリア周期T1に対応して3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素が組み合わされて波形が構成され、該波形の繰り返しによりキャリア波が構成される。
【0051】
図7は、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素を用いてキャリア波を構成した例である。3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の各波形要素が3つ連続して構成されている。図7では、キャリア波におけるキャリア周期はT2となっている。すなわち、キャリア周期T2に対応して3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素が組み合わされて波形が構成され、該波形の繰り返しによりキャリア波が構成される。
【0052】
なお、1シャント方式を適用する場合に、電流の取得のみで、電流に基づいて各相電流に影響を及ぼすような制御を行わない場合や、第2周期内で制御を実行することができる等の場合には、上記のような第3周期を不要とすることができる。すなわち、キャリア波について、第1周期と第2周期とを確保するために、等しい周期の波形要素を2回連続して構成することとしてもよい。また、1シャント方式を適用する場合であっても、等しい周期の波形要素を連続して構成する必要がない場合には、図9図10のように各波形要素を組み合させることとしてもよい。
【0053】
図9及び図10は、電流検出方式が3シャント方式に対応した場合のキャリア波の構成例である。3シャント方式では、各相電流を直接的に取得することができる。このため、等しい周期の波形要素を連続させることなく、周期の異なる波形要素が隣り合うように構成することが可能である。図9は、3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素を用いてキャリア波を構成した例である。隣り合う波形要素を異なる周期とすることができるため、3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素が互いに隣り合う構成となっている。図9では、キャリア波におけるキャリア周期はT3となっている。すなわち、キャリア周期T3に対応して3.15kHz(fa)及び4kHz(fb)の波形要素が組み合わされて波形が構成され、該波形の繰り返しによりキャリア波が構成される。
【0054】
図10は、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素を用いてキャリア波を構成した例である。隣り合う波形要素を異なる周期とすることができるため、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素が隣り合う構成となっている。図10では、キャリア波におけるキャリア周期はT4となっている。すなわち、キャリア周期T4に対応して3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、及び8kHz(fe)の波形要素が組み合わされて波形が構成され、該波形の繰り返しによりキャリア波が構成される。なお、3シャント方式の場合であっても、等しい周期の波形要素が連続してもよい。
【0055】
PWM信号生成部22は、キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式によりインバータ8に対するPWM信号を生成する。キャリア波は、キャリア波生成部23において生成したキャリア波である。変調波とは、キャリア波と比較される信号であって、本実施形態では、3相に対応するPWM信号を生成するため、3相電圧変調波(基準信号)となる。すなわち、1つのキャリア波と、3つの変調波(3相の各相に対応した変調波)が比較されることによって、各相に対応したPWM信号が生成される。生成されたPWM信号によってインバータ8が駆動されることによって、3相電圧信号を出力し、圧縮機モータ9を駆動する。
【0056】
具体的には、PWM信号生成部22は、指令演算部31と、変調波生成部32と、比較部33とを備えている。
【0057】
指令演算部31は、取得部21から出力された各相電流に基づいて、電圧指令を演算する。具体的には、指令演算部31は、取得部21から入力された各相電流から、各相に対応した電圧指令である3相電圧指令を生成し、変調波生成部32へ出力する。
【0058】
変調波生成部32は、3相電圧指令に基づいて、変調波を生成する。具体的には、変調波生成部32は、指令演算部31から入力された3相電圧指令から、各相に対応した変調波である3相変調波を生成し、比較部33へ出力する。
【0059】
比較部33は、キャリア波生成部23において生成されたキャリア波と、変調波生成部32において生成された各相に対応した変調波とを比較し、3相PWM信号を生成する。具体的には、比較部33では、比較方式を用いたPWM信号の生成方法(三角波比較方式)によりPWM信号を生成する。例えば、u相に対応するPWM信号は、キャリア波がu相に対応する変調波以上の値となっている間、u相に対応するPWM信号をON状態(High)として生成される。キャリア波がu相に対応する変調波未満の値となっている間には、u相に対応するPWM信号をOFF状態(Low)として生成される。他の相に対応するPWM信号についても同様に生成される。
【0060】
上記のようにPWM信号が生成され、インバータ8における各相のスイッチング素子へ入力される。インバータ8の各スイッチング素子がPWM信号によって制御されることによって、3相電圧が出力され、圧縮機モータ9を駆動する。
【0061】
(インバータ制御装置による処理の流れ)
次に、上述のインバータ制御装置20によるPWM信号生成処理の一例について図11を参照して説明する。図11は、本実施形態に係るPWM信号生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。図11に示すフローは、例えば、空気調和機が稼働している場合において所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0062】
まず、インバータ8における所定位置の電流を取得する(S101)。なお、電流取得については、1シャント方式や3シャント方式等の取得方式によって、取得位置が異なる。
【0063】
次に、各相電流を算出する(S102)。S102についは、3シャント方式の場合には省略可能である。
【0064】
次に、各相電流に基づいて、電圧指令を演算し、電圧指令に基づいて、変調波を生成する(S103)。
【0065】
次に、圧縮機モータ9の回転数を取得し、キャリア周期を設定する(S104)。
【0066】
次に、キャリア波生成部23から出力されるキャリア波と変調波とを比較し、3相PWM信号を生成し、インバータ8へ出力する(S105)。
【0067】
このように処理が行われることによって、複数種類の周期に対応する各波形要素が組み合わされたキャリア波に基づいてPWM信号が生成されるため、聴感改善を図ることが可能となる。
【0068】
(PWM信号生成処理による効果)
次に、上述のPWM信号生成処理による効果について図12を参照して説明する。図12では、縦軸をキャリア音の強度とし、横軸を周波数としている。そして、図12には、参考例におけるキャリア音特性(図12のL1)と、本実施形態におけるキャリア音特性(図12のL2)との一例を示している。参考例とは、一定の周期で同じ波形を繰り返した場合におけるキャリア波に基づいて、PWM信号を生成した場合である。
【0069】
図12に示すように、参考例(図12のL1)では、キャリア波が一定の周期で同じ波形を繰り返しているため、該周期に対応した周波数f1において、キャリア音が突出している。すなわち、特定の周波数f1のキャリア音が大きい状態となっており、聴感が低下してしまう可能性がある。
【0070】
一方で、本実施形態(図12のL2)では、複数種類の周期に対応する各波形要素が組み合わされたキャリア波を使用しているため、キャリア音の強度特性を周波数領域において拡散することができる。具体的には、図12のように、キャリア音が大きくなる凸点を、複数の周波数(f2、f3、f4、f5)に分散することができる。このため、特定の周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができ、聴感を向上させることができる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムによれば、PWM信号を生成するためのキャリア波が、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成されるため、キャリア波の周波数に起因して発生する電磁騒音であるキャリア音を周波数拡散することができる。すなわち、特定の周波数において大きなキャリア音が発生することを抑制することができる。このため、聴感を向上することが可能となる。また、インバータ8により駆動されるモータは、キャリア波のキャリア周期によっては、回転数に応じて共振動作が生ずる可能性があるが、キャリア周期をモータの回転数に基づいて設定するため、該共振動作によるうなり音の発生を抑制することができる。
【0072】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて説明する。
本実施形態では、各波形要素の発生時間を考慮してキャリア波を構成する。以下、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0073】
本実施形態において、キャリア波生成部23は、各波形要素の発生時間を均等化するように構成されたキャリア波を生成する。例えば、波形要素を、3.15kHz(fa)、4kHz(fb)、5kHz(fc)、6.3kHz(fd)、8kHz(fe)に対応して設けた場合、各波形要素の1周期分の時間は、それぞれ0.317msec、0.25msec、0.2msec、0.159msec、0.125msecとなる。このように、低周波数ほど周期が長くなるため、各波形要素の発生時間の比率は、それぞれ30.2%、23.8%、19.0%、15.1%、11.9%となる。すなわち、各波形要素の回数が等しく用いられる場合には、低周波数に対応した波形要素に起因するキャリア音の強度が、他の波形要素に起因するキャリア音に対して相対的に大きくなる可能性がある。そこで、キャリア波の生成において、各波形要素の発生時間を均等化するように構成することによって、周波数分散効果をより向上させることが可能となる。
【0074】
このため、キャリア波生成部23は、各波形要素に対応する周波数に基づいて確率が設定された発生確率を用い、各波形要素を組み合わせてキャリア波を生成する。各波形要素に対応する周波数とは、各波形要素に対応する周期の逆数である。すなわち、キャリア波生成部23は、発生確率に基づいて、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせてキャリア周期に対応する波形を構成し、前記波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成する。すなわち、キャリア波の1周期分の波形に含まれる波形要素が、発生確率に基づいて組み合わされる。換言すると、1周期分の波形において、各波形要素の発生時間が均等化されており、キャリア波全体としても、各波形要素の発生時間が均等化される。
【0075】
具体的には、キャリア波生成部23では、各波形要素に対応する周波数と確率とが正の相関関係を有するように、各波形要素に対して発生確率が設定されている。すなわち、高周波数に対応する波形要素ほど、高い発生確率が設定される。正の相関関係となるように発生確率を設定する場合には、例えば、確率を周波数に比例して設定することとしてもよいし、確率を周波数の平方根に比例して設定することとしてもよいし、確率を周波数の2乗に比例して設定することとしてもよい。すなわち、周波数の増加に伴い確率が増加するように設定されれば発生確率の設定方法は限定されない。
【0076】
図13は、周波数と確率とが正の相関関係を有するように発生確率を設定した場合の一例を示している。図13には、確率を周波数に比例して設定した場合(S1)、確率を周波数の平方根に比例して設定した場合(S2)、確率を周波数の2乗に比例して設定した場合(S3)を示している。このように、周波数の増加に伴い確率が増加するように発生確率が設定されることで、各波形要素の発生時間が均等化される。
【0077】
例えば、3.15kHz(fa)の発生確率が10%(発生比率が2)、4kHz(fb)の発生確率が15%(発生比率が3)、5kHz(fc)の発生確率が20%(発生比率が4)、6.3kHz(fd)の発生確率が25%(発生比率が5)、8kHz(fe)の発生確率が30%(発生比率が6)のように設定される。図14は、上記のように発生確率が設定された場合におけるキャリア波の構成例を示している。なお、図14は、キャリア波における1周期分の波形の構成例である。発生確率に基づいてキャリア波が構成されることによって、図14のように各波形要素の発生時間が均等化される。このため、周波数分散効果が向上する。
【0078】
このように、キャリア波生成部23は、設定された発生確率に基づいて各波形要素を組み合わせることでキャリア波を生成する。発生確率に基づいてキャリア波が生成されることで、各波形要素の発生時間が均等化され、周波数分散効果が向上する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムによれば、キャリア波が各波形要素の発生時間を均等化するように構成されるため、特定の周期(周波数)の波形要素の出現頻度が高くなり、該周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができる。すなわち、各波形要素の周波数に対応するキャリア音の大きさを均等化し、周波数拡散効果を高めることができる。このため、聴感を向上することが可能となる。
【0080】
また、キャリア波が、各波形要素に対応する周波数に基づいて確率が設定された発生確率を用い、各波形要素が組み合わされることで、特定の周期(周波数)の波形要素の出現頻度が高くなり、該周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができる。すなわち、各波形要素の周波数に対応するキャリア音の大きさを均等化し、周波数拡散効果を高めることができる。
【0081】
〔第3実施形態〕
次に、本開示の第3実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて説明する。
上述した第1実施形態では、1周期分の波形要素を組み合わせてキャリア波を構成していたが、本実施形態では、立ち上がりと立ち下がりを考慮して、キャリア波を構成する。以下、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。なお、本実施形態については、第2実施形態と組み合わせることも可能である。
【0082】
本実施形態におけるキャリア波生成部23は、周期の異なる波形要素の立ち上がりと立ち下がりとで構成された変形波形要素を用いてキャリア波を生成する。すなわち、キャリア波生成部23は、上述の各波形要素に加えて、ある周期の波形要素の立ち上がりと他の周期の波形要素の立ち下がりとを用いて構成した変形波形要素を用いることによって、キャリア波を生成する。換言すると、キャリア波は、各波形要素と、生成した変形波形要素とを組み合わせることによって構成している。例えば、変形波形要素は、3.15kHz(fa)の波形要素の立ち上がりと、8kHz(fe)の波形要素の立ち下がりとを用いて波形が構成される。
【0083】
図15は、本実施形態におけるキャリア波の構成例を示している。図15のように、キャリア波は、一定の周期をもつ波形要素と、変形波形要素とで構成される。具体的には、W1及びW2が変形波形要素であり、W3、W4、及びW5が波形要素である。W3は5kHz(fc)に対応しており、W4は6.3kHz(fd)に対応しており、W5は8kHz(fe)に対応している。そして、W1は立ち上がりが3.15kHz(fa)の波形要素の立ち上がりに対応しており、立ち下がりが8kHz(fe)の波形要素の立ち下がりに対応している。W2は立ち上がりが4kHz(fb)の波形要素の立ち上がりに対応しており、立ち下がりが8kHz(fe)の波形要素の立ち下がりに対応している。なお、キャリア波の周期はT5となっている。
【0084】
このように、立ち上がりと立ち下がりとを、異なる周期の波形要素に対応させることで、周波数分散効果を高めることができる。また、変形波形要素の立ち上がりと立ち下がりとを、第2実施形態に記載の発生確率に基づいて構成することで、各波形要素(周波数)の発生時間の均等化を行うことも可能である。また、変形波形要素の立ち上がりと立ち下がりとを、後述の第4実施形態に記載の発生確率に基づいて構成することとしてもよい。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムによれば、周期の異なる波形要素の立ち上がりと立ち下がりとで構成された変形波形要素を用いてキャリア波を生成することで、周波数拡散効果を高め、聴感を向上することが可能となる。
【0086】
〔第4実施形態〕
次に、本開示の第4実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて説明する。
本実施形態では、構造体の共振特性を考慮して発生確率を設定する。以下、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。なお、本実施形態については、第2実施形態及び/または第3実施形態と組み合わせることも可能である。
【0087】
特定の周波数においてキャリア音が発生し、該周波数が圧縮機等のインバータ8の出力側に設けられた構造体の共振点(固有周波数)に一致または近い場合には、キャリア音が突出して聞こえてしまう可能性がある。例えば、圧縮機の固有周波数が4kHz(fb)である場合には、4kHz(fb)に対応する波形要素の発生回数が少なかったとしても、4kHz(fb)のキャリア音が目立ってしまう可能性がある。
【0088】
そこで、本実施形態におけるキャリア波生成部23は、インバータ8の出力側に設けられた構造体(例えば、圧縮機)の共振特性に基づいて設定された発生確率に応じて各波形要素が組み合わされたキャリア波を生成する。すなわち、構造体の共振特性に基づいて、共振周波数と一致または近い(共振周波数を含む所定の帯域幅)に対応する波形要素については発生確率を低く設定する。
【0089】
図16は、共振特性(スイープ特性)の一例を示した図である。図16では、縦軸をキャリア音の強度(音圧レベル)とし、横軸を周波数とし、共振特性(図16のC1)を示している。また、図16には、縦軸に確率をとり、共振特性に対応する発生確率(図16のP1)を示している。
【0090】
図16の例では、fc1や、fc2、fc3、fc4が共振周波数となっており、キャリア音の強度が高くなっている。このような共振特性に対応して発生確率を設定すると、図16のP1となる。すなわち、発生確率は、共振特性に応じて強度が高くなる周波数の発生確率が低くなるように設定される。
【0091】
このように、共振特性に基づいて発生確率を設定し、設定した発生確率に基づいて各波形要素を組み合わせキャリア信号を生成することによって、より効果的に特定の周波数のキャリア音が突出してしまうことを抑制することができる。すなわち、共振特性を考慮してより効率的に周波数拡散を行い、聴感をより向上させることが可能となる。
【0092】
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムによれば、共振特性により共振が発生し易い周波数の発生確率を低く設定することができ、共振により特定の周波数のキャリア音が突出することを抑制することができる。また、周波数拡散効果を高め、聴感を向上することが可能となる。
【0093】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。なお、各実施形態を組み合わせることも可能である。すなわち、上記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態については、それぞれ組み合わせることも可能である。
【0094】
例えば、各実施形態では、インバータ8を用いて圧縮機モータ9を駆動する場合について説明したが、インバータ8が駆動する対象については上記に限定されない。これに伴い、インバータ8が駆動する対象の構造体の共振特性を考慮して、適切に波形要素の設定や、発生確率の設定を行うことが可能となる。
【0095】
以上説明した各実施形態に記載のインバータ制御装置、インバータ制御方法、及びインバータ制御プログラムは例えば以下のように把握される。
本開示に係るインバータ制御装置(20)は、インバータ(8)により駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する設定部(25)と、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせてキャリア周期に対応する波形を構成し、波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成するキャリア波生成部(23)と、キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式によりインバータ(8)に対するPWM信号を生成するPWM信号生成部(22)と、を備える。波形要素の具体的な波形形状については、例えば三角波であるが、のこぎり波等とすることとしてもよく、三角波に限定されない。
【0096】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、PWM信号を生成するためのキャリア波が、周期の異なる複数の波形要素の組み合わせから構成されるため、キャリア波の周波数に起因して発生する電磁騒音であるキャリア音を周波数拡散することができる。すなわち、特定の周波数において大きなキャリア音が発生することを抑制することができる。このため、聴感を向上することが可能となる。また、インバータ(8)により駆動されるモータは、キャリア波のキャリア周期によっては、回転数に応じて共振動作が生ずる可能性があるが、キャリア周期をモータの回転数に基づいて設定するため、該共振動作によるうなり音の発生を抑制することができる。
【0097】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、設定部(25)は、回転数に応じてモータに流れる電流基本波成分の周期と、キャリア周期との比率が、整数を含む所定の数値範囲内とならないように、キャリア周期を設定する。
【0098】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、キャリア周期が、モータに流れる電流基本波成分の周期とキャリア周期との比率が整数を含む所定の数値範囲内とならないように設定されるため、電流基本波成分の周期に対するキャリア周期の比率またはキャリア周期に対する電流基本波成分の周期の比率が整数倍(または整数に近い倍数)となり、うなり音が発生することを抑制することができる。
【0099】
本開示に係るインバータ制御装置(20)において、数値範囲は、整数に対して0.3を加減算した範囲である。
【0100】
本開示に係るインバータ制御装置(20)によれば、整数に対して0.3を加減算した範囲として数値範囲を設定することで、キャリア周期をより適切に設定することが可能となる。
【0101】
本開示に係るモータ駆動装置(1)は、圧縮機モータ(9)を駆動するインバータ(8)と、上記のインバータ制御装置(20)と、を備える。
【0102】
本開示に係るインバータ制御方法は、インバータ(8)により駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する工程と、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせてキャリア周期に対応する波形を構成し、波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成する工程と、キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式によりインバータ(8)に対するPWM信号を生成する工程と、を有する。
【0103】
本開示に係るインバータ制御プログラムは、インバータ(8)により駆動されるモータの回転数に基づいてキャリア周期を設定する処理と、周期の異なる複数の波形要素を組み合わせてキャリア周期に対応する波形を構成し、波形の繰り返しにより構成されるキャリア波を生成する処理と、キャリア波及び所定の変調波を用いて、比較方式によりインバータ(8)に対するPWM信号を生成する処理と、をコンピュータに実行させる。
【符号の説明】
【0104】
1 :モータ駆動装置
4 :交流電源
5 :整流回路
6 :インダクタンス部
7 :コンデンサ部
8 :インバータ
9 :圧縮機モータ
11 :CPU
12 :ROM
13 :RAM
15 :通信部
18 :バス
20 :インバータ制御装置
21 :取得部
22 :PWM信号生成部
23 :キャリア波生成部
24 :電流センサ
25 :設定部
31 :指令演算部
32 :変調波生成部
33 :比較部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16